JPH1180896A - 軸受要素部品及びその製造方法 - Google Patents

軸受要素部品及びその製造方法

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JPH1180896A
JPH1180896A JP23663297A JP23663297A JPH1180896A JP H1180896 A JPH1180896 A JP H1180896A JP 23663297 A JP23663297 A JP 23663297A JP 23663297 A JP23663297 A JP 23663297A JP H1180896 A JPH1180896 A JP H1180896A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】所望形状への成形が容易で、且つ、寸法変化が
小さく、転動疲労寿命の長い軸受要素部品とその製造方
法を提供する。 【解決手段】母材が、重量%で、C:0.7〜1.2%、Mn:
1.15超〜2.0%、Cr:0.3〜1.6%、Mo+0.5W:0.05〜1.2
5%、Nb:0〜0.1%、V:0〜0.2%、Si<0.4%、P≦0.02
%、S≦0.02%で、P+S:0.01超〜0.04%、O: 0.0005
超〜0.0020%、残部Fe及び不純物の鋼で、焼入れ、焼戻
し後の組織が、マルテンサイト、球状炭化物及び残留オ
ーステナイトからなり、残留オーステナイトの面積比が
5〜15%の軸受要素部品。その製造方法は、上記組成の
鋼を球状化焼鈍後に部品に成形し、750〜820℃に加熱し
て焼入れし、更に100〜200℃の温度で焼戻しする。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、軸受要素部品及び
その製造方法に関し、より詳しくは、各種の産業機械や
自動車などに使用される玉軸受やコロ軸受といった転が
り軸受、特に高面圧環境下で使用される転がり軸受の要
素部品及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】各種の産業機械や自動車などに使用され
る玉軸受やコロ軸受といった転がり軸受には、高い面圧
が繰り返し作用する。そのため、軸受要素部品である
「外輪」、「内輪」及びこの両者の間で転がり接触する
「玉(ボール)」や「コロ」には、長い転動疲労寿命が
必要である。
【0003】最近では、エンジンの高出力化や周辺部品
の小型化により、転がり軸受の使用環境はますます高面
圧化、高温化して過酷なものとなっており、転がり軸受
の要素部品には転動疲労に対する一層の長寿命化が要求
されている。
【0004】上記した軸受要素部品は、従来、JIS G 48
05に規格化された高炭素クロム軸受鋼鋼材であるSUJ
1〜5、なかでもSUJ2を母材(以下、「素材鋼」と
もいう)として、熱間圧延などの手段で熱間加工した後
に球状化焼鈍し、次いで所望の形状に冷間鍛造で粗成形
し、その後焼入れと低温での焼戻しを行い、更に、仕上
げ加工としての研削や研磨を施して製造されてきた。し
かし、上記のJIS規格鋼を母材とした場合には、前記
した過酷な軸受使用環境下では、転動疲労による早期破
損を生じてしまう。
【0005】そのため、JIS規格鋼に代わる新しい軸
受鋼が、例えば、特開平2−30733号公報、特開平
6−264186号公報、特開昭61−272349号
公報や特開平1−306542号公報などに提案されて
いる。
【0006】特開平2−30733号公報には、重量%
で、1.0〜2.0%のNi、1.0〜2.0%のSi
を含有させ、更に、不純物元素であるPとSを重量%
で、0.015〜0.040%に制御して、転動疲労寿
命を向上させた「高炭素クロム系軸受鋼」が開示されて
いる。
【0007】しかしながら、前記公報で提案された軸受
鋼には、SiとNiが重量%で、それぞれ1.0〜2.
0%も含有されており、特に、Siのこうした多量の添
加は冷間鍛造性の著しい劣化を招く。又、1.0〜2.
0%ものNiの含有は母材コストを大幅に上昇させてし
まい、軸受を低コストで製造したいとする産業界の要請
に応えることができない。更に、本発明者らが実験した
ところ、この公報に記載された鋼を母材として軸受要素
部品を製造しても、必ずしも長い転動疲労寿命を有する
軸受が得られるというものでもなかった。
【0008】特開平6−264186号公報には、Mn
を重量%で、2.0超〜5.0%含有させた「繰り返し
応力負荷によるミクロ組織変化の遅延特性に優れた軸受
鋼」が開示されている。しかし、Mnを多量に添加した
前記公報の提案になる鋼を母材として用いると、焼入れ
・焼戻し後に多量のオーステナイトが残留するので、軸
受使用時の経時的な寸法変化が大きくなってしまう。更
に、軸受要素部品の製造工程である、研削や研磨の仕上
げ加工性が劣化するという問題もある。
【0009】特開昭61−272349号公報には、重
量%で、C:0.8〜1.2%、S+P:0.010%
以下である高炭素クロム系の「軸受鋼」が提案されてい
る。しかしながら、S+P量の極端な低減は、軸受要素
部品の製造工程である研削や研磨の仕上げ加工性が劣化
するという問題を有する。
【0010】特開平1−306542号公報には、重量
%で、O:0.0005%以下、Ti:0.002%以
下に規制し、鋼中の「介在物組成を制御した軸受用鋼」
が開示されている。しかしながら、介在物組成を制御す
る目的で、特に鋼中のO(酸素)を低減するためには、
高価な溶製設備の設置や従来設備の大幅な改造、更には
特殊な技術が必要であり、母材コストが嵩んでしまう。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、所望形状へ
の成形が容易で、且つ、使用中の寸法変化が小さく、転
動疲労による破損に対して優れた耐久性を有する軸受要
素部品とその製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨は、下記
(1)に示す軸受要素部品及び(2)に示すその製造方
法にある。
【0013】(1)母材が、重量%で、C:0.7〜
1.2%、Mn:1.15%を超え2.0%以下、C
r:0.3〜1.6%、Mo+0.5W:0.05〜
1.25%、Nb:0〜0.1%、V:0〜0.2%、
Si:0.4%未満、P:0.02%以下、S:0.0
2%以下で、且つP+S:0.01%を超え0.04%
以下、O:0.0005%を超え0.0020%以下、
残部Fe及び不可避不純物の化学組成の鋼で、焼入れ、
焼戻し後の組織が、マルテンサイト、球状炭化物及び残
留オーステナイトからなり、且つ、前記残留オーステナ
イトの面積比が5〜15%であることを特徴とする軸受
要素部品。
【0014】(2)上記(1)に記載の化学組成の鋼を
球状化焼鈍してから部品に成形し、次いで、750〜8
20℃に加熱して焼入れし、更に、100〜200℃の
温度で焼戻して、焼入れ・焼戻し後の組織をマルテンサ
イト、球状炭化物及び残留オーステナイトで、且つ、前
記残留オーステナイトの面積比を5〜15%とすること
を特徴とする上記(1)に記載の軸受要素部品の製造方
法。
【0015】ここで、「残留オーステナイト」とは焼入
れ時に変態せず、しかも焼戻し時に分解しなかったオー
ステナイトのことを指す。
【0016】
【発明の実施の形態】既に述べたように、軸受要素部品
には、主として、焼入れ後に低温で焼戻し処理したJI
S規格のSUJ2が使用されてきた。その組織は、焼入
れの加熱時に残留した球状炭化物(球状セメンタイト)
及びマルテンサイト、並びに前記した残留オーステナイ
トで構成されている。これらの組織のうち、残留オース
テナイトは、転動疲労寿命に大きな影響を及ぼし、その
量のある程度までの増加は転動疲労寿命を向上させるこ
とが知られている。一方、熱処理17巻4号(1977
年)の231〜235ページには、残留オーステナイト
の量が増加すると、軸受の使用時の寸法変化が大きくな
って円滑な回転運動ができなくなるなど、使用上での問
題点が生じることも報告されている。
【0017】本発明者らは、既に述べた目的を達成する
ために、上記した既知の基礎的な知見をベースに、軸受
要素部品の母材となる鋼材の化学組成、並びに軸受要素
部品の組織及び熱処理方法について研究を行った結果、
下記の知見を得た。
【0018】特定の成分系の母材からなる軸受要素部
品においては、焼入れ、焼戻し後の組織をマルテンサイ
ト、球状炭化物及び残留オーステナイトからなるものと
し、且つ、前記残留オーステナイトの面積比を5〜15
%とした場合に限って、寸法安定性を劣化させることな
く、換言すれば、大きな寸法変化をもたらすことなく、
転動疲労に対する抵抗性を高めることができる。
【0019】受要素部品の母材が適正量のMo及び/
又はWを含んでおれば転動疲労に対する抵抗性が高ま
る。
【0020】残留オーステナイトの面積比がの範囲
にある時、成分元素のうちでも特にMnの含有量を厳密
に調整すれば、不純物元素であるP、S及びOの含有量
を特別に低減せずとも、転動疲労に対する抵抗性を大き
く向上させることができる。
【0021】Mnは、CやNiと同様に、焼入れ、焼戻
し後の残留オーステナイトの量(面積比)を増加させる
元素であるが、転動疲労寿命の向上は、この残留オース
テナイト量の上昇に基づくばかりでなく、Mnそれ自体
による効果が大きい。
【0022】本発明者らは、重量%で、C:1.0%、
Si:0.2%、Cr:1.0%、Mo+0.5W:
0.07%をベース成分とする鋼を用いて、熱処理条件
とMn含有量を種々変化させて、組織がマルテンサイ
ト、球状炭化物及び残留オーステナイトで、且つ、残留
オーステナイトの量(面積比)がほぼ等しくなるように
調整して、後の実施例で詳述する条件で転動疲労試験を
実施した。その結果、Mn含有量が重量%で、1.15
%を超えて2.0%までの鋼は、Mn含有量がこの範囲
から外れた鋼よりも転動疲労寿命が優れていることが明
らかになった。
【0023】Mn含有量が1.15超〜2.0重量%
の鋼において、前記の残留オーステナイト量(面積
比)とするには、焼入れのための加熱温度域及び焼戻し
の温度域を制御すれば良い。
【0024】本発明は上記の知見に基づいて完成された
ものである。
【0025】以下に本発明の各要件について詳しく説明
する。なお、成分含有量の「%」は「重量%」を意味す
る。
【0026】(A)母材(素材鋼)の化学組成 C:0.7〜1.2% Cは、マルテンサイト、球状炭化物及び残留オーステナ
イトの混合組織におけるマルテンサイトの硬度を上昇さ
せるとともに、残留オーステナイトの量を適正化して、
転動疲労寿命を向上させる作用がある。しかし、Cの含
有量が0.7%未満では、添加効果に乏しい。一方、
1.2%を超えると、鋼塊鋳造時の冷却中、更には、熱
間圧延や熱間鍛造など熱間加工後の鋼片の冷却中に(以
下、「鋼塊」、「鋼片」を併せて単に「鋼材」とい
う)、網目状の炭化物(主としてセメンタイト)がオー
ステナイト粒界に生成してしまう。この網目状炭化物
は、鋼材を均熱(ソーキング)したり、焼準したりして
も容易に除去できず、最終製品(軸受)の転動疲労寿命
を劣化させてしまう。加えて、C含有量が1.2%を超
えると、後述の球状化焼鈍における炭化物の球状化が困
難となって、製品の転動疲労寿命が劣化してしまう。し
たがって、Cの含有量を0.7〜1.2%とした。な
お、Cの含有量は0.9〜1.1%とすることが好まし
い。
【0027】Mn:1.15%を超え2.0%以下 Mnは、本発明において極めて重要な元素である。すな
わち、Mnは適正量を含有させると、転動疲労に対する
抵抗性を高める作用がある。この適正量とは、既に述べ
た1.15超〜2.0%で、これ以下の含有量でも、逆
に上回る含有量でも、充分な転動疲労抵抗性が確保でき
ない。更に、Mnの含有量が2.0%を超えると、特
に、C含有量が1.1%を超えるような高炭素の鋼の場
合、残留オーステナイト量が顕著に多くなり、製品寸法
の経時変化が大きくなる。更に、軸受要素部品の製造工
程である、研削や研磨の仕上げ加工性が劣化する。この
ため、Mn含有量を1.15%を超え2.0%以下とし
た。なお、Mnの好ましい含有量は、1.2〜1.9%
である。
【0028】Cr:0.3〜1.6% Crは、鋼の焼入れ性を高めて所望の組織となすのに有
効な元素である。しかし、その含有量が0.3%未満で
は添加効果に乏しい。一方、1.6%を超えて含有させ
てもその効果は飽和してコストが嵩む。更に、炭化物を
安定化させてしまうので、均熱処理(ソーキング)を行
っても網目状に析出した炭化物を除去できず、このため
に転動疲労特性の劣化をもたらす場合さえある。したが
って、Crの含有量を0.3〜1.6%とした。なお、
Cr含有量は0.5〜1.5%とすることが好ましい。
【0029】Nb:0〜0.1% Nbは添加しなくても良い。添加すれば炭窒化物を形成
して焼入れ加熱時のオーステナイト結晶粒の成長を抑制
し、焼入れ後の組織を微細化して転動疲労寿命を向上さ
せる作用を有する。この効果を確実に得るには、Nbは
0.01%以上の含有量とすることが好ましい。しか
し、その含有量が0.1%を超えると、炭窒化物の形成
量が多くなりすぎて基地の固溶C量が低下するので、残
留オーステナイト量が減少して所望の量を確保できなく
なり、却って転動疲労特性の低下を招く。したがって、
Nbの含有量を0〜0.1%とした。
【0030】V:0〜0.2% Vは添加しなくても良い。添加すれば上記のNbと同様
に、炭窒化物を形成して焼入れ加熱時のオーステナイト
結晶粒の成長を抑制し、焼入れ後の組織を微細化して転
動疲労寿命を向上させる作用を有する。この効果を確実
に得るには、Vは0.05%以上の含有量とすることが
好ましい。しかし、その含有量が0.2%を超えると、
炭窒化物の形成量が多くなりすぎて基地の固溶C量が低
下するので、残留オーステナイト量が減少して所望の量
を確保できなくなり、却って転動疲労特性の低下を招
く。したがって、Vの含有量を0〜0.2%とした。
【0031】Si:0.4%未満 Si、は基地に固溶して硬度を上昇させ、軸受要素部品
の製造工程である冷間鍛造時の変形抵抗を大きくして、
冷間鍛造性を低下させてしまう。特に、0.4%以上含
有させると、冷間鍛造性の大きな低下をきたして、金型
の寿命低下が著しくなる。したがって、Siの含有量を
0.4%未満とした。なお、Siの好ましい含有量は、
0.3%以下である。
【0032】P:0.02%以下 Pは、鋼の靭性を低下させ、加えて転動疲労寿命を縮め
てしまう。特に、その含有量が0.02%を超えると、
靭性及び転動疲労特性の劣化が著しい。したがって、P
含有量の上限を0.02%とした。なお、Pの含有量は
0.015%以下とすることが好ましい。但し、微少量
のPには、鋼の研削や研磨による仕上げ加工を容易にす
るという好ましい作用もある。
【0033】S:0.02%以下 Sも鋼の靭性を低下させ、更に転動疲労寿命を縮めてし
まう。特に、その含有量が0.02%を超えると、靭性
及び転動疲労特性の劣化が著しい。したがって、S含有
量の上限を0.02%とした。なお、Sの含有量は0.
015%以下とすることが好ましい。但し、微少量のS
には、鋼の研削や研磨による仕上げ加工を容易にすると
いう好ましい作用もある。
【0034】P+S:0.01%を超え0.04%以下 不純物元素としてのPとSの含有量の和であるP+S量
は、鋼の靭性や転動疲労寿命に影響を及ぼすばかりでな
く、軸受要素部品の製造工程である研削や研磨の仕上げ
加工性に影響する。すなわち、この値が0.01%以下
になると、研削や研磨の仕上げ加工性が大きく劣化して
しまう。一方、0.04%を超えると、靭性及び転動疲
労特性の劣化が著しい。したがって、P+Sの量を0.
01%を超え0.04%までとした。なお、P+S量は
0.01%を超え0.03%までとすることが好まし
い。
【0035】O:0.0005%を超え0.0020%
以下 Oは、アルミナ系の介在物を形成し、転動疲労特性を低
下させてしまう。特に、その含有量が0.0020%を
超えると、転動疲労寿命の低下が著しい。一方、O含有
量を極めて低くするためには、高価な溶製設備の設置や
従来設備の大幅な改造、更には特殊な技術が必要であ
り、母材コストが嵩んでしまう。通常の技術と設備で低
減可能なO含有量は0.0005%を超えるものであ
る。したがって、O含有量を0.0005%を超え0.
0020%までとした。なお、O含有量の上限は0.0
015%に制限することが好ましい。
【0036】上記の化学組成を有する母材(素材鋼)
は、例えば、均熱処理、熱間での圧延又は鍛造を受けた
後、球状化焼鈍され、冷間鍛造によって所望の形状に粗
成形され、次いで、焼入れと焼戻しを施され、更に、研
削や研磨など機械加工されて所望の精密な要素部品形状
に仕上げられる。
【0037】(B)焼入れ、焼戻し後の組織 転がり軸受に長い転動疲労寿命を付与するには、軸受要
素部品の素材鋼の化学組成の調整だけでなく、組織を高
い接触面圧による塑性変形に耐え得るものとする必要が
ある。更に、転がり軸受は精密機械部品であるため、寸
法安定性に優れた組織とする必要がある。一方、精密な
仕上げ加工のためには、焼入れ及び低温での焼戻し後に
行う機械加工に際して、被削性の高い組織とすることも
必要である。
【0038】すなわち、素材鋼の化学組成を厳密に調整
し、軸受要素部品の組織を規定することで、精密機械部
品である転がり軸受に長い転動疲労寿命を付与できる。
【0039】したがって、本発明では、上記(A)の母
材の化学組成に加えて、焼入れ、焼戻し後の組織を、マ
ルテンサイト、球状炭化物及び残留オーステナイトの混
合組織と規定する。これは、前記(A)に記載した化学
組成の母材からなる軸受要素部品においては、焼入れ、
焼戻し後の組織をマルテンサイト、球状炭化物及び残留
オーステナイトからなるものとし、且つ、前記残留オー
ステナイトの面積比を5〜15%とした場合に限って、
寸法安定性を劣化させることなしに、換言すれば、大き
な寸法変化をもたらすことなしに、転動疲労に対する抵
抗性を高めることができ、更に良好な被削性が得られる
からである。
【0040】上記の混合組織中、特に、残留オーステナ
イトの量(面積比)のみ厳密に規定したのは、残留オー
ステナイトの面積比が5%を下回ると転動疲労寿命の低
下が著しく、一方、15%を超えると大きな経時的寸法
変化を生じ、JIS規格の寸法公差を超えてしまうから
である。
【0041】なお、マルテンサイトと球状炭化物の量
(面積比)に関しては、特に制限する必要はない。
【0042】(C)熱処理 球状化焼鈍は、軸受要素部品の製造工程である冷間鍛造
における冷間鍛造性や、精密仕上げのための機械加工時
の被削性を確保するのに不可欠の処理である。この球状
化焼鈍には特に制限はなく、通常の方法によるもので良
い。
【0043】焼入れの加熱温度は、750〜820℃と
する必要がある。焼入れ加熱温度が750℃を下回る
と、焼入れ前組織(球状化焼鈍後の組織)中のフェライ
トが基地に残留するため、(B)項で述べた所望の組織
とならず、転動疲労寿命が著しく低下する。一方、焼入
れ加熱温度が820℃を超えると、焼入れ前組織中の球
状炭化物の基地への固溶が多くなりすぎ、固溶C量が増
えすぎるため、残留オーステナイトの面積比が(B)で
規定した量を大きく上回ってしまう。
【0044】焼戻しは100〜200℃の所謂「低温焼
戻し」とする必要がある。焼戻し温度が100℃未満で
は、マルテンサイトの靭性の回復が不十分で衝撃的な強
度が低くなってしまう。一方、200℃を超えると、残
留オーステナイトの分解が進み、加えて硬度が低下して
しまう。このため、転動疲労寿命が著しく低下してしま
う。
【0045】
【実施例】表1及び表2に示す化学組成の鋼を通常の方
法によって150kg真空溶製した。表1における鋼A1
〜A12 は、本発明対象鋼(以下、本発明鋼という)であ
る。一方、表2における鋼B1〜C2は成分のいずれかが本
発明で規定する範囲から外れた比較鋼である。比較鋼の
うち鋼C1はJIS規格のSUJ2に相当するもので、鋼
C2は転動疲労寿命が長いといわれている高Si−高Ni
の従来鋼である。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】次いで、これらの鋼の鋼材を1250℃で
均熱処理した後、通常の方法によって1250〜100
0℃の温度域で熱間鍛造し、直径が65mmと20mm
の丸棒とした。
【0049】更に、通常の方法によって球状化焼鈍を行
い、直径が65mmの丸棒からは直径60mmで厚さが
6mmの、又、直径が20mmの丸棒からは直径11m
mで長さが110mmの素形材を切り出した。
【0050】(実施例1)本発明鋼である鋼A3〜A5を母
材とする前記の直径が60mmと11mmの素形材を、
740〜860℃に加熱してから油焼入れし、その後1
80℃で2時間の焼戻しを行った。
【0051】上記の熱処理を施した直径60mmの素形
材から直径が60mmで厚さが5mmの転動疲労試験片
を、又、直径11mmの素形材からは図1に示した寸法
変化測定用試験片を作製して、それぞれ転動疲労試験と
寸法変化試験に供した。
【0052】転動疲労試験は、スラスト型の転動疲労試
験機を用いて、最大接触面圧560kgf/mm2 、回
転数1200rpmの負荷条件で行った。
【0053】表3に転動疲労試験の詳細条件を示す。な
お、転動疲労試験結果は、ワイブル分布確率紙上にプロ
ットし、50%累積破損確率を示すL50寿命を「転動疲
労寿命」とした。
【0054】
【表3】
【0055】一方、寸法変化試験は、前記試験片を15
0℃の炉中に2500時間保持し、万能測長機で処理前
後の長さを測定して、変化率を求めた。
【0056】又、転動疲労試験片を用いて、通常のX線
回折法によってその表面残留オーステナイト量(面積
比)を測定した。又、光学顕微鏡観察による組織調査も
実施した。
【0057】表4に試験結果を示す。なお、表4の組織
に関し、残留オーステナイト以外の部分(面積比)はマ
ルテンサイトと球状炭化物であることを意味する。
【0058】
【表4】
【0059】表4から、鋼A3〜A5の本発明鋼を母材とす
る場合であっても、焼入れの加熱温度が本発明の規定か
ら外れたものでは特性が劣っている。すなわち、焼入れ
加熱温度が740℃と低い場合には、残留オーステナイ
ト量が面積比で1〜4%しかなく、したがって、転動疲
労寿命が短い。一方、焼入れ加熱温度が860℃と高い
場合には、転動疲労寿命は向上しているが、残留オース
テナイト量が19〜22%と高いために、寸法変化が大
きくなっている。
【0060】これに対して、焼入れの加熱温度が本発明
で規定した範囲にある780℃と820℃で処理した場
合には、転動疲労寿命は5.6×107 以上と長く、寸
法変化は0.008%以下と小さい。
【0061】(実施例2)本発明鋼である鋼A1〜A12
と、比較鋼である鋼B1〜C2を母材とする前記の直径が6
0mmと11mmの素形材を、820℃に加熱してから
油焼入れし、その後180℃で2時間の焼戻しを行っ
た。
【0062】この後、前記寸法の転動疲労試験片と図1
に示した寸法変化測定用試験片を作製して、上記の実施
例1と同じ条件で転動疲労試験と寸法変化試験を行っ
た。X線回折法による残留オーステナイト量(面積比)
の測定と、光学顕微鏡観察による組織調査も併せて実施
した。
【0063】表5に結果を示す。なお、表5の組織に関
し、残留オーステナイト以外の部分(面積比)は鋼B2を
除いて、マルテンサイトと球状炭化物であった。一方、
鋼B2には球状化していない炭化物も認められた。又、L
50寿命を「転動疲労寿命」として記載した。
【0064】
【表5】
【0065】本発明鋼を母材とする場合には、いずれも
本発明で規定する残留オーステナイト量であり、転動疲
労寿命は6.8×107 以上で、従来鋼である鋼C1や鋼
C2を母材とするものよりも長い。Nb及び/又はVを添
加した本発明鋼にあっては、転動疲労寿命が向上する傾
向も認められる。更に、本発明鋼を母材とする場合には
寸法変化も0.009%以下の小さい値である。
【0066】これに対して、比較鋼である鋼B1〜 B10を
母材とする場合には、本発明鋼を母材とする場合に比べ
て、転動疲労寿命と寸法安定性のいずれか、あるいは双
方が劣る。
【0067】鋼B1は、C含有量が本発明で規定する値よ
りも低いため、これを母材とした場合には転動疲労寿命
が短い。
【0068】鋼B2は、C含有量が本発明で規定する値よ
りも高く、球状化していない炭化物が存在し、これを母
材とした場合には転動疲労寿命が短い。
【0069】鋼B3は、本発明で規定する値よりもMn含
有量が高く、Cr含有量が低い。しかも残留オーステナ
イト量が22%と大きい。このため、これを母材とした
場合には寸法安定性に欠けるとともに転動疲労寿命も短
い。
【0070】鋼B4では、逆に本発明で規定する値よりも
Mn含有量が低く、Cr含有量が高い。このため、これ
を母材とした場合には転動疲労寿命が短い。
【0071】鋼B5は、本発明で規定する値よりもP、
S、P+S及びO含有量が高めである。したがって、こ
れを母材とした場合には転動疲労寿命が短い。
【0072】鋼B6は、本発明で規定する値よりもVとN
bの含有量が高い。このため残留オーステナイト量が本
発明で規定する値に達せず、これを母材とした場合には
転動疲労寿命が短い。
【0073】鋼B7とB8はそれぞれ、本発明で規定する値
よりもNbとVの含有量が高く、残留オーステナイト量
が本発明で規定する値に達していない。このため、これ
らの鋼を母材とした場合には転動疲労寿命が短い。
【0074】鋼B9と B10はそれぞれ、本発明で規定する
値よりもPとSの含有量が高い。このため、これらの鋼
を母材とした場合には転動疲労寿命が短い。
【0075】
【発明の効果】本発明の軸受要素部品は、所望形状に容
易に成形され、且つ、使用中の寸法変化が小さく、転動
疲労寿命が長いことから、各種の産業機械や自動車など
に使用される玉軸受やコロ軸受といった転がり軸受の要
素部品として利用することができる。この軸受要素部品
は、前述の本発明法によって比較的容易に製造すること
ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で使用した寸法変化測定用試験片を示す
図である。

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】母材が、重量%で、C:0.7〜1.2
    %、Mn:1.15%を超え2.0%以下、Cr:0.
    3〜1.6%、Mo+0.5W:0.05〜1.25
    %、Nb:0〜0.1%、V:0〜0.2%、Si:
    0.4%未満、P:0.02%以下、S:0.02%以
    下で、且つP+S:0.01%を超え0.04%以下、
    O:0.0005%を超え0.0020%以下、残部F
    e及び不可避不純物の化学組成の鋼で、焼入れ、焼戻し
    後の組織が、マルテンサイト、球状炭化物及び残留オー
    ステナイトからなり、且つ、前記残留オーステナイトの
    面積比が5〜15%であることを特徴とする軸受要素部
    品。
  2. 【請求項2】請求項1に記載の化学組成の鋼を球状化焼
    鈍してから部品に成形し、次いで、750〜820℃に
    加熱して焼入れし、更に、100〜200℃の温度で焼
    戻して、焼入れ・焼戻し後の組織をマルテンサイト、球
    状炭化物及び残留オーステナイトで、且つ、前記残留オ
    ーステナイトの面積比を5〜15%とすることを特徴と
    する請求項1に記載の軸受要素部品の製造方法。
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