JP4056709B2 - 浸炭用鋼 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、機械的特性に優れた浸炭用鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車や産業機械に使用される機械構造用部品は、部品の製造段階では被削性をはじめとする加工性が、完成した部品として耐摩耗性や衝撃特性や疲労特性(曲げ疲労特性、転動疲労特性)などが求められる。そのため低炭素合金鋼などに浸炭焼入焼戻し処理を行って製造している。しかし、近年の自動車部品や産業機械部品の小型軽量化の流れから個々の部品にかかる荷重は増加しており、従来から行われている通常の浸炭焼入焼戻し材では、その荷重に耐えることができなくなっている。
【0003】
そこで浸炭時に表面に意図的に炭化物を析出させる浸炭処理(いわゆる高濃度浸炭)の適用が注目されている。ここでいう高濃度浸炭とは、通常の浸炭では表面炭素濃度が0.6から0.8%であるが、この通常の表面炭素濃度よりも過剰に炭素を侵入させる浸炭処理のことで、表面炭素濃度を0.8%超とする浸炭処理をいう。例えば、特開平6−17225では中炭素合金鋼に高濃度浸炭を行い、炭化物を析出させることにより転動疲労特性に優れた軸受部品を得られることや、特公平7−101062ではクロムモリブデン鋼に高濃度浸炭を行い耐摩耗性に優れた変速機の部品が得られることが報告されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように注目されてきた高濃度浸炭であるが、高濃度浸炭に要求される機械的特性には、表面の浸炭層に析出させた炭化物の形状が大きく影響することがわかっている。例えば大型の炭化物が析出した場合にはその炭化物が切り欠きとして働くため、意図した機械的特性が得られない。
【0005】
そのため従来から行われている高濃度浸炭では、表面の浸炭層に析出させる炭化物を球状化させるために複雑な浸炭パターンが適用されている。例えば特公昭62−24499やカナダ特許No.610,554のように、加熱速度や冷却速度の精密なコントロールや、温度やカーボンポテンシャルを頻繁に変更する複雑な浸炭サイクルが必要となる。
【0006】
そのため高濃度浸炭処理は長時間に及び、熱処理コストの増大を引き起している。本発明は、安価で、高濃度浸炭処理を可能とし、その結果機械的特性に優れた鋼を提供することを課題とする。なお、ここでいう機械的特性は、曲げ疲労特性、転動疲労特性、衝撃疲労特性、耐摩耗性、静的強度、衝撃特性のことを指す。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するための本発明の手段は、請求項1の発明では、質量%で、C:0.1〜1.1%、Si:0.03〜2.0%、Mn:0.2〜2.0%、S:0.002〜0.1%、Cr:0.1〜1.35%、Al:0.005〜0.06%、N:0.002〜0.03%を含有し、さらにTi:0.11〜0.5%、Nb/2:0.32〜0.5%としてTi、Nb/2のいずれか1種または2種を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、表面炭素濃度0.8〜3.0%の高濃度浸炭することにより表面の浸炭層に炭化物が微細分散し、かつ長径が10μm以上の炭化物がなく、平均炭化物粒径が3μm以下となることを特徴とする機械的特性に優れた浸炭用鋼である。
【0008】
請求項2の発明では、質量%で、C:0.1〜1.1%、Si:0.03〜2.0%、Mn:0.2〜2.0%、S:0.002〜0.1%、Cr:0.1〜1.35%、Al:0.005〜0.06%、N:0.002〜0.03%を含有し、さらにTi:0.11〜0.5%、Nb/2:0.32〜0.5%としてTi、Nb/2のいずれか1種または2種を含有し、さらにNi:0.2〜3.0%、Mo:0.05〜2.0%のうち1種または2種を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、表面炭素濃度0.8〜3.0%の高濃度浸炭することにより表面の浸炭層に炭化物が微細分散し、かつ長径が10μm以上の炭化物がなく、平均炭化物粒径が3μm以下となることを特徴とする機械的特性に優れた浸炭用鋼である。
【0009】
請求項3の発明では、質量%で、C:0.1〜1.1%、Si:0.03〜2.0%、Mn:0.2〜2.0%、S:0.002〜0.1%、Cr:0.1〜1.35%、Al:0.005〜0.06%、N:0.002〜0.03%、B:0.0005〜0.0050%を含有し、さらにTi:0.11〜0.5%、Nb/2:0.32〜0.5%としてTi、Nb/2のいずれか1種または2種を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、表面炭素濃度0.8〜3.0%の高濃度浸炭することにより表面の浸炭層に炭化物が微細分散し、かつ長径が10μm以上の炭化物がなく、平均炭化物粒径が3μm以下となることを特徴とする機械的特性に優れた浸炭用鋼である。
【0010】
請求項4の発明では、質量%で、C:0.1〜1.1%、Si:0.03〜2.0%、Mn:0.2〜2.0%、S:0.002〜0.1%、Cr:0.1〜1.35%、Al:0.005〜0.06%、N:0.002〜0.03%、B:0.0005〜0.0050%を含有し、さらにTi:0.11〜0.5%、Nb/2:0.32〜0.5%としてTi、Nb/2のいずれか1種または2種を含有し、さらにNi:0.2〜3.0%、Mo:0.05〜2.0%のうち1種または2種を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、表面炭素濃度0.8〜3.0%の高濃度浸炭することにより表面の浸炭層に炭化物が微細分散し、かつ長径が10μm以上の炭化物がなく、平均炭化物粒径が3μm以下となることを特徴とする機械的特性に優れた浸炭用鋼である。
【0011】
本発明の浸炭用鋼を構成する合金成分の作用と組成の限定理由を説明する。以下%は質量%で示す。
【0012】
C:0.1〜1.1%
Cは、機械構造用部品に必要な心部硬さを確保するために必要な元素で、そのためには0.1%以上必要である。しかし、多量になると一次炭化物が析出し機械的特性が低下するため上限を1.1%とし、0.1〜1.1%とする。
【0013】
Si:0.03〜2.0%
Siは、脱酸や焼入性を向上させるのに必要元素であり、かつ高濃度浸炭の場合には炭化物を球状化させるのに有効な元素であり、そのためには0.03%以上必要である。しかし多量に添加すると靱性が低下するため、上限を2.0%とし、0.03〜2.0%とする。
【0014】
Mn:0.2〜2.0%
Mnは、脱酸や焼入性を向上させるのに必要元素であるが、0.2%未満ではそのような効果が得られない。しかし多量に添加するとその効果が飽和すると共に、被削性や冷温間加工性が低下するので、上限を2.0%とし、0.2〜2.0%とする。
【0015】
S:0.002〜0.1%
Sは、硫化物を形成して被削性を改善する元素であるが、0.002%未満ではそのような効果が得られず、また多量に添加するとその効果が飽和すると共に、冷温間加工性や機械的特性が低下するので、上限を0.1%とし、0.002〜0.1%とする。
【0016】
Cr:0.1〜1.35
Crは、脱酸や焼入性を向上させるのに必要な元素であると共に、浸炭性を向上させ鋼中への炭素の侵入を促進させる元素であり、かつ炭化物を球状化させるのに有効な元素である。しかしながら0.1%未満ではそのような効果が得られない。一方、多量に添加すると、そのような効果が飽和すると共に、被削性や冷温間加工性が低下するので、上限を1.35%とし、0.1〜1.35%とする。
【0017】
Al:0.005〜0.06%
Alは、脱酸に必要な元素であると共に浸炭時の結晶粒を微細化させるのに有効な元素である。しかしながら0.005%未満ではそのような効果が得られず、また多量に添加するとそのような効果が飽和すると共に鋼中に酸化物系介在物の量が増大し、鋼材の表面疵の原因となり加工性が低下するので、上限を0.06%とし、0.005〜0.06%とする。
【0018】
N:0.002〜0.03%
Nは、Al、Ti、Nbなどと結合して窒化物や炭窒化物を形成し、浸炭時の結晶粒を微細化させるのに有効な元素であるが、0.002%未満ではそのような効果が得られない。また多量に添加すると、Ti、Nbと大型で硬質の一次窒化物を形成して転動疲労特性や曲げ疲労特性を低下させると共に、本発明に必要なTi、Nbの微細分散した炭化物や炭窒化物に必要な固溶Ti、Nb量が得られなくなる。従って上限を0.03%とし、0.002〜0.03%とする。
【0019】
Ti:0.11〜0.5%
Nb/2:0.03〜0.5%
Tiを0.11〜0.5%、Nb/2を0.32〜0.5%としてTi、Nb/2のいずれか1種または2種の範囲で添加する。Ti、Nbはいずれも微細な炭化物や炭窒化物を形成する元素であり、鋼中に分散析出し浸炭時に析出してくる炭化物の核となり、浸炭層の炭化物を分散させる働きがある。しかしながらTiが0.11%未満またはNb/2が0.32%未満では必要な炭化物や炭窒化物数が得られず、また多量に添加してもそのような効果が飽和すると共に大型で硬質の一次炭化物や炭窒化物、窒化物を形成し機械的特性を低下させる。したがって上限を0.5%とし、Tiを0.11〜0.5%とし、Nb/2を0.32〜0.5%とする。NbはTiと比較して同一質量%でTiの半分の効果しかなく、Tiと同様の効果を得るには2倍の添加量が必要となるため、限定範囲としてNb/2と規定した。
【0020】
本発明の浸炭用鋼は、必要に応じてNiやMoを加えてもよい。これらの元素を添加するときの含有量は以下のとおりである。
【0021】
Ni:0.2〜3.0%
Niは、焼入性を向上させる元素であると共に靱性を改善する元素である。0.2%未満では、そのような効果が得られず、また3%を超えて添加してもそのような効果が飽和すると共に被削性や加工性が低下し、また浸炭性が低下し鋼中に炭素を侵入させるのが困難となる。そこで0.2〜3.0%とする。
【0022】
Mo:0.05〜2.0%
Moは、焼入性を向上させる元素であると共に靱性を改善する元素である。0.05%未満ではそのような効果が得られず、また2%を超えて添加してもそのような効果が飽和すると共に被削性や加工性が低下する。そこで0.2〜3.0%とする。
【0023】
B:0.0005〜0.0050%
Bは、焼入性を向上させる元素であると共に靱性を改善する元素である。0.0005%未満ではその効果がなく、0.0050%を超えるとその効果が飽和する。そこで0.0005〜0.0050%とする。
【0024】
このように成分調整した鋼を素材とし、ギア、ベアリングレース、クランクシャフト、コンロッド、等速ジョイント部品、無段変速機部品などに成形加工し、その後カーボンポテンシャルが1.0%以上である浸炭雰囲気で、浸炭処理を行うことによって表面炭素濃度が0.8〜3.0%となり、表面の浸炭層に微細な球状炭化物が分散析出し、機械的特性に優れた構造部品を得ることができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態の鋼組成を表1のNo.1〜11に示す。発明鋼No.1〜No.6はそれぞれSCM420、SUJ2、SNCM420、SCr420の鋼に対し、Ti、Nb、TiとNb、TiとBを添加した鋼である。それに対し、比較鋼No.7と8はSCM420とSUJ2の鋼であり、比較鋼No.9〜11はそれぞれSCr440、SCM420、S48Cの鋼に対し、少量のV、多量のTi、多量のNbを添加した鋼である。
【0026】
実施例を通じて実施の形態をさらに説明する。
【実施例】
表1に示す化学成分組成の供試鋼(発明鋼No.1〜6、比較鋼No.7〜11)をそれぞれ100kg真空溶解炉にて溶製し、1250℃に加熱後熱間鍛造にてφ20に鍛造した後、焼ならしとして900℃に加熱後空冷した。その鋼材からφ8の丸棒試験片と試験部がφ8の平滑回転曲げ疲労試験片を作製した。
これらの試験片をカーボンポテンシャルが1.5%の浸炭雰囲気中で950℃に5時間保持し、一度600℃まで冷却し、引き続いて850℃に30分保持後50℃の焼入れ油に焼入れし、170℃で180分焼戻した。その後、丸棒試験片から検鏡試料を作製しピクラル液で腐食した後、走査型電子顕微鏡で表面浸炭層のミクロ組織として表面から深さ30μmまで40000μm2観察し写真を撮影し、その写真を画像解析装置にて処理し、炭化物の分布状況として炭化物の長径の最大値および炭化物の平均径を算出した。機械的特性については、回転曲げ疲労試験片の試験部の表面を研磨仕上した後、小野式回転曲げ疲労試験を行い、107回の疲労強度で評価を行った。
【0027】
【表1】
Figure 0004056709
【0028】
試験結果を表2に示す。本発明鋼No.1〜6は、炭化物の長径の最大値が10μm以下で、かつ炭化物の平均径が3μm以下であるため、優れた疲労強度を示している。一方、Ti、Nbのいずれも添加されていない比較鋼No.7と8は、炭化物の長径の最大値が10μm以上であり、またVが添加されていても少量に過ぎない比較鋼No.9は、炭化物の平均径が3μm以上であるため、本発明鋼と比較すると疲労強度が劣る。また比較鋼No.10、11は炭化物の長径の最大値が10μm以下であり、かつ炭化物の長径も3μm以下であるが、疲労強度に劣る。これは破壊起点に50μm前後の大型で硬質のTiまたはNbの一次窒化物が存在したためである。
【0029】
【表2】
Figure 0004056709
【0030】
【発明の効果】
以上に説明した通り、本発明は機械的特性に優れたギア、ベアリングレース、クランクシャフト、クランクピン、ピストンピン、コンロッドなどの機械構造用部品を、高濃度浸炭処理を行うことにより安価で製造する有用な方法である。

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.1〜1.1%、Si:0.03〜2.0%、Mn:0.2〜2.0%、S:0.002〜0.1%、Cr:0.1〜1.35%、Al:0.005〜0.06%、N:0.002〜0.03%を含有し、さらにTi:0.11〜0.5%、Nb/2:0.32〜0.5%としてTi、Nb/2のいずれか1種または2種を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、表面炭素濃度0.8〜3.0%の高濃度浸炭することにより表面の浸炭層に炭化物が微細分散し、かつ長径が10μm以上の炭化物がなく、平均炭化物粒径が3μm以下となることを特徴とする機械的特性に優れた浸炭用鋼。
  2. 質量%で、C:0.1〜1.1%、Si:0.03〜2.0%、Mn:0.2〜2.0%、S:0.002〜0.1%、Cr:0.1〜1.35%、Al:0.005〜0.06%、N:0.002〜0.03%を含有し、さらにTi:0.11〜0.5%、Nb/2:0.32〜0.5%としてTi、Nb/2のいずれか1種または2種を含有し、さらにNi:0.2〜3.0%、Mo:0.05〜2.0%のうち1種または2種を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、表面炭素濃度0.8〜3.0%の高濃度浸炭することにより表面の浸炭層に炭化物が微細分散し、かつ長径が10μm以上の炭化物がなく、平均炭化物粒径が3μm以下となることを特徴とする機械的特性に優れた浸炭用鋼。
  3. 質量%で、C:0.1〜1.1%、Si:0.03〜2.0%、Mn:0.2〜2.0%、S:0.002〜0.1%、Cr:0.1〜1.35%、Al:0.005〜0.06%、N:0.002〜0.03%、B:0.0005〜0.0050%を含有し、さらにTi:0.11〜0.5%、Nb/2:0.32〜0.5%としてTi、Nb/2のいずれか1種または2種を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、表面炭素濃度0.8〜3.0%の高濃度浸炭することにより表面の浸炭層に炭化物が微細分散し、かつ長径が10μm以上の炭化物がなく、平均炭化物粒径が3μm以下となることを特徴とする機械的特性に優れた浸炭用鋼。
  4. 質量%で、C:0.1〜1.1%、Si:0.03〜2.0%、Mn:0.2〜2.0%、S:0.002〜0.1%、Cr:0.1〜1.35%、Al:0.005〜0.06%、N:0.002〜0.03%、B:0.0005〜0.0050%を含有し、さらにTi:0.11〜0.5%、Nb/2:0.32〜0.5%としてTi、Nb/2のいずれか1種または2種を含有し、さらにNi:0.2〜3.0%、Mo:0.05〜2.0%のうち1種または2種を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、表面炭素濃度0.8〜3.0%の高濃度浸炭することにより表面の浸炭層に炭化物が微細分散し、かつ長径が10μm以上の炭化物がなく、平均炭化物粒径が3μm以下となることを特徴とする機械的特性に優れた浸炭用鋼。
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