JP3725666B2 - 浸炭軸状部品の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、浸炭軸状部品とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
浸炭軸状部品(浸炭シャフト部品及び浸炭焼入れで製造されるねじ類も含む)は、通常、例えばJIS G 4052、JIS G 4104、JIS G 4105、JIS G 4106などに規定されている中炭素の機械構造用合金鋼を使用し、焼鈍−引き抜き−切削・転造・冷間鍛造により所定の形状に成形加工された後、浸炭焼入れを行う工程で製造されている。このように浸炭軸状部品の製造工程は長いために、焼鈍工程や引き抜き工程の省略の要求が強い。さらに、もう一つの浸炭軸状部品の大きな課題としては、熱処理歪みの低減が挙げられる。これは、熱処理歪みでシャフトが曲がればシャフトとしての機能が損なわれるためである。そのため、熱処理歪みで曲がったシャフトは矯正工程での矯正が必要であり、生産性の大きな阻害要因となっている。熱処理歪みの最大の原因は、浸炭時に発生する粗大粒であり、粗大粒を生じない鋼材が強く求められている。また、焼鈍省略は粗大粒の発生を促進するために、粗大粒発生の問題は、焼鈍省略をより困難にしているのが実状である。
【0003】
これに対して、特開昭56−75551号公報には、特定量のAl、Nを含有する鋼を1200℃以上に加熱後、熱間加工をすることにより、980℃で6時間の浸炭を行った場合でも、芯部のオーステナイト結晶粒度番号で6番以上の細粒に保持できる浸炭用鋼が示されている。しかしながら、該鋼の粗大粒抑制の能力は不安定であり、鋼材あるいは部品の製造工程によっては、浸炭時の粗大粒の発生を抑制でぎないのが現実である。
【0004】
また、特開昭61−261427号公報には、特定量のAl、Nを含有する鋼を、AlとN量に応じた温度に加熱し、仕上げ温度を950℃以下の条件で熱間圧延し、圧延後のAlNの析出量を40ppm以下、フェライトの結晶粒度番号を11〜9である浸炭用鋼の製造方法が示されている。しかしながら、該鋼もやはり、粗大粒抑制の能力は不安定であり、鋼材あるいは部品の製造工程によっては、浸炭時の粗大粒の発生を抑制できないのが現実である。
【0005】
また、特開昭58−45354号公報には、特定量のAl、Nb、Nを含有する肌焼き鋼が示されている。しかしながら、該鋼もやはり、粗大粒抑制の能力は不安定であり、粗大粒の発生を抑制できる場合もあれば、できない場合もある。また、該鋼はその実施例から明らかな通り、0.021%以上のNを含有する。そのため、結晶粒粗大化特性はかえって劣化するとともに、鋼材の製造時に割れやキズが発生しやすく、また素材の状態で硬くて冷間加工性が良くない等の欠点を有している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような開示された方法では、浸炭焼入れ工程において粗大粒の発生を安定的に抑制することができず、軸状部品の歪みや曲がりの発生を防止することはできない。さらに、上記の従来技術は引き抜き工程の省略および焼鈍工程の省略に対しても開示していない。本発明はこのような問題を解決して、引き抜き工程および焼鈍工程を省略し、熱処理歪みの小さい浸炭軸状部品を得る製造方法を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するために結晶粒の粗大化の支配因子、および焼鈍工程省略、引き抜き工程省略と粗大粒発生の相関について鋭意調査し、次の点を明らかにした。
【0008】
(1)同じ化学組成の鋼材でも、粗大粒の発生を抑制できる場合もあれば、できない場合もあり、化学組成を制限するのみでは、粗大粒を防止することはできない。化学組成以外の要因として最も重要なのは、浸炭加熱時の炭窒化物の析出状態である。また、熱間圧延後の鋼材のベイナイト組織の混入状況およびフェライト粒度も影響する。
【0009】
(2)浸炭時に結晶粒の粗大化を防止するにはピン止め粒子として微細なAlN、Nb(CN)が有効である。結晶粒粗大化特性と浸炭加熱時のAlN、Nb(CN)のサイズ及び分散状態(析出粒子数)には極めて密接な関係があり、粗大粒を防止するためには、特定量以上の数量の微細な析出粒子を分散させる必要がある。また、鋼中にTiNやAl2 03 が存在すると、粗大なNb(CN)、AlNの析出の核になり、Nb(CN)、AlNの微細析出が妨げられる。そのため、不純物としてのTiの含有量およびOの含有量を極力制限する必要がある。
(3)上記のように炭窒化物の規制を満足したとしても、熱間圧延後の鋼材にベイナイト組織が混入すると、浸炭加熱時の粗大粒発生の原因になる。
【0010】
(4)さらに、熱間圧延後の鋼材のフェライト粒が過度に微細であると、浸炭加熱時に粗大粒が発生しやすくなる。
【0011】
(5)上記の対策を講じても、焼鈍を省略して引き抜きを行うと粗大粒が発生しやすくなる。加工率が10%前後の軽加工歪みを付与した場合と50%以上の大加工歪みを付与した場合において、その後の浸炭時に粗大粒は発生しやすいが、引き抜き工程では、通常、10%前後の減面率の加工を受けるためである。したがって、引き抜き工程を前提とすると、焼鈍省略は困難である。
【0012】
(6)これに対して、熱間圧延において精密圧延を実施し、熱間圧延ままで、寸法公差が±0.1mm以下の径精度を有する棒鋼または線材を製造すれば、引き抜き工程の省略が可能になり、したがって、焼鈍工程も一気に省略が可能になる。
【0013】
本発明は以上の新規なる知見にもとづいてなされたものであり、本発明の要旨は以下の通りである。
【0015】
請求項1〜3の発明は、
(1) 重量%で、
C:0.10〜0.35%、
Si:0.02〜0.50%、
Mn:0.30〜1.80%、
S:0.005〜0.15%、
Al:0.030〜0.040%、
Nb:0.021〜0.040%
N:0.0060〜0.0176%、
Cr:0.40〜1.80%、
を含有し、さらに、
Mo:0.02〜1.0%、
Ni:0.1〜3.5%
V:0.03〜0.5%
の1種または2種以上を含有し、
P:0.025%以下、
Ti:0.01%以下、
O:0.0025%以下に制限し、
残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼を、熱間圧延に際し、加熱条件を1150℃以上の温度で保熱時間を10分以上とし、熱間圧延後の冷却条件を800〜500℃の温度範囲を1℃/秒以下の冷却速度とすることにより、熱間圧延後のNb(CN)の析出量を0.0050%以上とし、AlNの析出量を0.0050%以下に制限し、
熱間圧延ままで、寸法公差が±0.1mm以下の径精度を有する棒鋼または線材を素材とし、
焼鈍工程および引き抜き工程を省略して、直接軸状部品に成形加工した後、浸炭焼入れを行い、浸炭焼入れ後の軸状部品のマトリックス中に直径0.1μm以下のNb(CN)、AlN、またはNb(CN)とAlNの複合析出物をその合計で80個/100μm2 以上分散させて、オーステナイト粒度が8番以上の組織とすることを特徴とする浸炭軸状部品の製造方法である。
(2) さらに、
熱間圧延後のベイナイトの組織分率を30%以下に制限した棒鋼または線材を素材とすることを含む上記(1)の方法である。
(3) さらに、
熱間圧延後のフェライト結晶粒度番号が8〜11番である棒鋼または線材を素材とすることを含む上記(1)または(2)の方法である。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、成分の限定理由について説明する。
Cは鋼に必要な強度を与えるのに有効な元素であるが、0.10%未満では必要な引張強さを確保することができず、0.35%を超えると硬くなって冷間加工性が劣化するとともに、浸炭後の芯部靭性が劣化するので、0.10〜0.35%の範囲内にする必要がある。
【0017】
Siは鋼の脱酸に有効な元素であるとともに、鋼に必要な強度、焼入れ性を与え、焼戻し軟化抵抗を向上するのに有効な元素であるが、0.02%未満ではその効果は不十分である。一方、0.50%を超えると、硬さの上昇を招き冷間加工性が劣化する。以上の理由から、その含有量を0.02〜0.50%の範囲内にする必要がある。好適範囲は0.02〜0.30%である。なお、冷間加工性を重視する場合は、0.02〜0.15%の範囲にするのが望ましい。
【0018】
Mnは鋼の脱酸に有効な元素であるとともに、鋼に必要な強度、焼入れ性を与えるのに有効な元素であるが、0.30%未満では効果は不十分であり、1.80%を超えるとその効果は飽和するのみならず、硬さの上昇を招き冷間加工性が劣化するので、0.30%〜1.80%の範囲内にする必要がある。好適範囲は0.50〜1.20%である。なお、冷間加工性を重視する場合は、0.50〜0.75%の範囲にするのが望ましい。
【0019】
Sは鋼中でMnSを形成し、これによる被削性の向上を目的として添加するが、0.005%未満ではその効果は不十分である。一方、0.15%を超えるとその効果は飽和し、むしろ粒界偏析を起こし粒界脆化を招く。以上の理由から、Sの含有量を0.005〜0.15%の範囲内にする必要がある。好適範囲は0.005〜0.040%である。
【0020】
Alは、浸炭加熱の際に、鋼中のNと結び付いてAlNを形成し、結晶粒の微細化、及び結晶粒の粗大化抑制に有効な元素である。0.030%未満ではその効果は不十分である。一方、0.040%を超えると、AlNの析出物が粗大になり、結晶粒の粗大化抑制には寄与しなくなる。以上の理由から、その含有量を0.030〜0.040%の範囲内にする必要がある。好適範囲は0.030〜0.035%である。
【0021】
Nbは、浸炭加熱の際に、鋼中のC、Nと結び付いてNb(CN)を形成し、結晶粒の微細化、及び結晶粒の粗大化抑制に有効な元素である。0.021%未満ではその効果は不十分である。一方、0.040%を超えると、素材の硬さが硬くなって冷間加工性が劣化するとともに、Nb(CN)の析出物が粗大になり、結晶粒の粗大化抑制には寄与しなくなる。以上の理由から、その含有量を0.021〜0.040%の範囲内にする必要がある。好適範囲は0.021〜0.030%である。
【0022】
NはAlN、Nb(CN)の析出による浸炭時の結晶粒の微細化、及び結晶粒の粗大化抑制を目的として添加するが、0.0060%未満ではその効果は不十分である。一方、0.0176%を超えると、その効果は飽和する。過剰なNの添加は、素材の硬さを増大させ、冷間加工性を劣化させる。以上の理由から、その含有量を、0.0060〜0.0176%の範囲内にする必要がある。好適範囲は、0.009〜0.0176%である。
【0023】
Crは鋼に強度、焼入れ性を与えるのに有効な元素であるが、0.40%未満ではその効果は不十分であり、1.80%を超えて添加すると硬さの上昇を招き冷間加工性が劣化する。以上の理由から、その含有量を0.040〜1.80%の範囲内にする必要がある。好適範囲は0.70〜1.50%である。
【0024】
次に、本願発明では、Mo、Ni、Vの1種または2種以上を含有する。
Moも鋼に強度、焼入れ性を与えるのに有効な元素であるが、0.02%未満ではその効果は不十分であり、1.00%を超えて添加すると硬さの上昇を招き冷間加工性が劣化する。以上の理由から、その含有量を0.02〜1.00%の範囲内にする必要がある。好適範囲は0.02〜0.40%である。
【0025】
Niも鋼に強度、焼入れ性を与えるのに有効な元素であるが、0.10%未満ではその効果は不十分であり、3.50%を超えて添加すると硬さの上昇を招き冷間加工性が劣化する。以上の理由から、その含有量を0.10〜3.50%の範囲内にする必要がある。好適範囲は0.40〜2.00%である。
【0026】
Vも鋼に強度、焼入れ性を与えるのに有効な元素であるが、0.03%未満ではその効果は不十分であり、0.50%を超えて添加すると硬さの上昇を招き冷間加工性が劣化する。以上の理由から、その含有量を0.03〜0.50%の範囲内にする必要がある。好適範囲は0.07〜0.20%である。
【0027】
Pは冷間加工時の変形抵抗を高め、また靭性を劣化させる元素であるため、冷間加工性が劣化する。また、焼入れ、焼戻し後の部品の結晶粒界を脆化させることによって、疲労強度を劣化させるのでできるだけ低減することが望ましい。従ってその含有量を0.025%以下に制限する必要がある。好適範囲は0.015%以下である。
【0028】
本発明のような高N鋼においては、Tiは鋼中のNと結び付いてTiNを形成する。TiNの析出物は粗大であり、浸炭時の結晶粒の微細化、及び結晶粒の粗大化抑制に寄与しない。むしろ、TiNが存在すると、AlNやNb(CN)の析出サイトとなり、熱間圧延時にAlNやNb(CN)が粗大に析出し、浸炭時に結晶粒の粗大化を抑制できなくなる。そのため、Ti量はできるだけ低減することが望ましい。図1にTi量と結晶粒粗大化温度との関係を示す。圧延ままの鋼材を各温度で10時間保定して浸炭シミュレーションを行った結果である。温度を上げていった時、最大粒径の結晶粒度が8番未満となる温度を結晶粒粗大化温度とした。Ti含有量が0.010%を超えると粗大粒発生温度が950℃以下になり、実用的には粗大粒の発生が懸念される。以上の理由から、Tiの含有量を0.010%以下に制限する必要がある。好適上限は0.005%である。なお、粗大なTiNの存在は、最終部品の面疲労特性の顕著な劣化を招くが、上記の範囲でTi量を規制することにより、面疲労特性の劣化を抑制できる。
【0029】
本発明のような高Al鋼においては、Oは鋼中でAl2 03 のような酸化物系介在物を形成する。酸化物系介在物が鋼中に多量に存在すると、AlNやNb(CN)の析出サイトとなり、熱間圧延時にAlNやNb(CN)が粗大に析出し、浸炭時に結晶粒の粗大化を抑制できなくなる。そのため、O量はできるだけ低減することが望ましい。図2にO量と結晶粒粗大化温度との関係を示す。圧延ままの鋼材を各温度で10時間保定して浸炭シミュレーションを行った結果である。温度を上げていった時、最大粒径の結晶粒度が8番未満となる温度を結晶粒粗大化温度とした。O含有量が0.0025%を超えると粗大粒発生温度が950℃以下になり、実用的には粗大粒の発生が懸念される。以上の理由から、その含有量を0.0025%以下に制限する必要がある。好適上限は0.0020%である。
P、Ti、Oは、上記上限以下であればよく、全く含有していなくてもよい。
【0030】
次に本願発明では、浸炭焼入れ後の鋼部品のマトリックス中に直径0.1μm以下のNb(CN)、AlN、またはNb(CN)とAlNの複合析出物をその合計で80個/100μm2 以上分散させて、オーステナイト粒度が8番以上の組織を得るのであるが、このように限定した理由を以下に述べる。
【0031】
結晶粒の粗大化を抑制するには、浸炭時に結晶粒界をピン止めする粒子を多量、微細に分散させることが有効であり、粒子の直径が小さいほど、また量が多いほどピン止め粒子の数が増加するため好ましい。本願発明において結晶粒界のピン止め粒子として着眼したのは、Nb(CN)、AlN、またはNb(CN)とAlNの複合析出物である。圧延ままの鋼材を950℃×10時間の条件で浸炭シミュレーションを行った時の、浸炭焼入れ後のこれらの直径0.1μm以下の析出物の合計の個数とオーステナイト粒度番号の関係を図3に示す。素材の熱間圧延後のベイナイトの組織分率は0〜5%、フェライト結晶粒度は8.7番〜9.2番である。マトリックス中に直径0.1μm以下のNb(CN)、AlN、またはNb(CN)とAlNの複合析出物をその合計で80個/100μm2 以上分散させることにより、オーステナイト粒度が8番以上の微細組織を得ることができる。以上の理由から、直径0.1μm以下の炭窒化物の数を合計で80個/100μm2 以上とした。好適範囲は、200個/100μm2 以上である。
【0032】
浸炭時の析出物の分散状態は、主として素材の析出物の状態によって決まる。上記のように浸炭時に析出物を微細分散するには、詳細は後述するが、熱間圧延後のNb(CN)の析出量を0.0050%以上のように特定量以上とし、逆にAlNの析出量を0.0050%以下のように特定量以下に制限することが必要である。さらに、熱間圧延後の鋼のマトリックス中に直径0.1μm以下のNb(CN)を特定量以上分散させておくことが有効である。さらに、本条件を満足するためには、後で詳述するが、素材を高温加熱で圧延し、仕上げ圧延後、徐冷することが必要である。
【0033】
次に、本発明の請求項2では、熱間圧延後のベイナイトの組織分率を30%以下に制限するが、このように限定した理由を以下に述べる。
上記のようにAlN、Nb(CN)の規制を満足したとしても、熱間圧延後の鋼材にベイナイト組織が混入すると、浸炭加熱時の粗大粒発生の原因になる。図4にベイナイト分率と結晶粒粗大化温度との関係を示す。圧延ままの鋼材を各温度で10時間保定して浸炭シミュレーションを行った結果である。温度を上げていった時、最大粒径の結晶粒度が8番未満となる温度を結晶粒粗大化温度とした。ベイナイトの組織分率が30%を超えると粗大粒発生温度が950℃以下になり、より厳格な粗大粒の防止が求められるシャフト用鋼としては、実用上不適格である。また、ベイナイトの混入の抑制は冷間加工性改善の視点からも望ましい。以上の理由から、熱間圧延後のベイナイトの組織分率を30%以下に制限する必要がある。好適範囲は20%以下である。ベイナイト組織分率は、上記上限以下であればよく、全く存在していなくてもよい。
【0034】
次に、本願発明の請求項3では、熱間圧延後のフェライト結晶粒度番号が8〜11番とするが、このように限定した理由を以下に述べる。
熱間圧延後の鋼材のフェライト粒が過度に微細であると、浸炭加熱時に粗大粒が発生しやすくなる。図5にフェライト結晶粒度と結晶粒粗大化温度との関係を示す。圧延ままの鋼材を各温度で10時間保定して浸炭シミュレーションを行った結果である。温度を上げていった時、最大粒径の結晶粒度が8番未満となる温度を結晶粒粗大化温度とした。フェライト結晶粒度番号が11番を超えると粗大粒発生温度が950℃以下になり、シャフト用鋼としては、実用上不適格である。また、熱間圧延後の鋼材のフェライト結晶粒度番号を8番未満の粗粒にした場合、パーライト分率が増加して熱間圧延材の硬さが増加し、冷間加工性が劣化する。以上の理由から、熱間圧延後のフェライト結晶粒度番号を8〜11番の範囲内にする必要がある。なお、熱間圧延後のフェライト結晶粒度番号を8〜11番の範囲内にするには、熱間圧延の仕上げ温度を900℃以上とすることが望ましい。
【0035】
次に、本願発明では、素材の熱間圧延後のNb(CN)の析出量を0.0050%以上とし、AlNの析出量を0.0050%以下に制限するが、このように限定した理由を以下に述べる。浸炭時に結晶粒の粗大化を防止するにはピン止め粒子として微細なAlN、Nb(CN)が有効である。粗大なAlN、Nb(CN)は浸炭時の結晶粒の粗大化防止に全く役に立たないばかりでなく、むしろ粗大化防止に対して有害である。ここで、Nbは、鋼中のC、Nと結合し、NbC、NbN及び両者が複合化したNb(CN)を生成するが、本願発明で言うNb(CN)はこれら3種類の析出物の総称として用いている。
【0036】
まず、浸炭加熱時にNb(CN)のピン止め効果を安定して発揮させるには、熱間圧延後の鋼材に、一定量以上のNb(CN)をあらかじめ微細析出させておくことが必要である。これは、Nb(CN)をあらかじめ微細析出させておかないと、浸炭時の昇温過程で、オーステナイト化の初期に混粒が発生し、粗大粒の原因となるためである。また、浸炭加熱時にAlNのピン止め効果を安定して発揮させるには、熱間圧延後の鋼材の状態で、AlNの析出量を逆に極力制限する必要がある。これは、熱間圧延後の鋼材の状態で析出するAlNは粗大であり、ピン止め粒子として寄与しないばかりか、むしろ上記のNb(CN)の粗大析出の核になり、Nb(CN)の微細析出が妨げられて、結晶粒の粗大化を促進する。図6に熱間圧延後のAlNの析出量とNb(CN)の析出量と結晶粒粗大化温度との関係を示す。圧延ままの鋼材を、950℃×10時間の条件で浸炭シミュレーションを行った結果である。Nb(CN)の析出量が0.0050%未満、およびAlNの析出量が0.005%を超えると、粗大粒が生成する。以上から、熱間圧延後のNb(CN)の析出量を0.0050%以上に、また、AlNの析出量を0.005%以下に制限する必要がある。好適範囲は、熱間圧延後のNb(CN)の析出量0.010%以上、AlNの析出量0.003%以下である。なお、熱間圧延後の鋼材の状態で、AlNの析出量を本発明の範囲で極力制限すれば、浸炭時の昇温過程でAlNを鋼中に微細分散させることが可能になり、浸炭時の粗大粒を防止することが可能になる。AlNの析出量は上記上限以下であればよく、全く存在していなくてもよい。
【0037】
なお、AlNの析出量を0.005%以下に制限する方法として、熱間圧延時の加熱条件を1150℃以上の温度で保熱時間10分以上加熱の条件で加熱することが必要である。また、熱間圧延後のNb(CN)の析出量を0.0050%以上にする方法として、熱間圧延後に、保温カバーまたは熱源付き保温カバーを用いて、Nb(CN)の析出温度域である800〜500℃の温度範囲を1℃/秒以下の冷却速度で徐冷することが必要である。
【0038】
次に本願発明では、熱間圧延ままで、寸法公差が±0.1mm以下の径精度を有する棒鋼または線材を素材とするが、これは、寸法公差が±0.1mmを超えると、圧延ままでシャフト用の素材として用いるには精度が不足する。そのため、引き抜き工程を省略できず、さらにその結果、引き抜き工程が省略できないと、粗大粒防止の観点から焼鈍工程も省略できなくなる。以上の理由から、引き抜き工程・焼鈍工程省略のためには、熱間圧延において精密圧延を行い、熱間圧延ままで、寸法公差が±0.1mm以下の径精度に制限する必要がある。
【0039】
【実施例】
以下に、本発明の効果を実施例により、さらに具体的に示す。
【0040】
(実施例1)
表1に示す組成を有する転炉溶製鋼を連続鋳造し、必要に応じて分塊圧延工程を経て162mm角の圧延素材とした。続いて、熱間圧延により、直径23mmの棒鋼を製造した。熱間圧延の条件は、加熱温度1000〜1280℃、圧延後の800℃〜500℃の冷却速度は0.2〜1.5℃/秒の範囲である。
【0041】
熱間圧延後の棒鋼から、一部の圧延材についてAlNの析出量、Nb(CN)の析出量を化学分析により求めた。また、圧延後の棒鋼のビッカース硬さを測定し、冷間加工性の指標とした。また、一部の圧延材について寸法公差を測定した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
上記の工程で製造した棒鋼について、直径23mm×長さ200mmの試験片を作成し、950℃×10時間の条件で浸炭焼入れを行った。なお、比較例24については、圧延材を650℃で焼鈍し、直径22mmへ引き抜きを行った材料から、直径22mm×長さ200mmの試験片を作成した。また、比較例25については、圧延材を焼鈍しないで、そのまま直径22mmへ引き抜きを行った材料から、直径22mm×長さ200mmの試験片を作成した。
【0045】
浸炭焼入れによる曲がり量の測定は、直径23mm(一部直径22mm)×長さ200mmの棒の浸炭焼入れ後の中央部の振れ量を測定することによった。
【0046】
次に、浸炭焼入れ材の析出物の分散状態を調べるため、棒鋼のマトリックス中に存在する析出物を抽出レプリカ法によって採取し、透過型電子顕微鏡で観察した。観察方法は30000倍で20視野程度観察し、1視野中の直径0.1μm以下のAlN、Nb(CN)、AlNとNb(CN)の複合析出物の数を数え、100μm2 あたりの数に換算した。
【0047】
また、旧オーステナイト粒界現出腐食を行い、JIS G 0551に準じて旧オーステナイト粒度の測定を行った。粒度番号8番以下の粗粒が1つでも存在すれば粗大粒ありと判定した。
【0048】
これらの調査結果をまとめて、表2に示す。本発明例の950℃浸炭時のγ粒度は8.3番以上であり、細整粒である。また、曲がり量は0.26〜0.29mmと小さい。
【0049】
一方、比較例12はAlの含有量が本願規定の範囲を下回った場合であり、浸炭後の析出物の数も本願規定の範囲を下回っており、粗大粒が発生し、曲がり量は大きい。比較例13、14はAlの含有量が本願規定の範囲を上回った場合であり、やはり、浸炭後の析出物の数は本願規定の範囲を下回っており、粗大粒が発生し、曲がり量は大きい。これは、粗大なAlNが存在し、AlNとNb(CN)の微細分散が妨げられたためである。比較例15はNbの含有量が本願規定の範囲を下回った場合であり、同様に、浸炭後の析出物の数は本願規定の範囲を下回っており、粗大粒が発生し、曲がり量は大きい。比較例16、17はNbの含有量が本願規定の範囲を上回った場合であり、やはり、浸炭後の析出物の数は本願規定の範囲を下回っており、粗大粒が発生し、曲がり量は大きい。比較例18はNの含有量が本願規定の範囲を下回った場合であり、窒化物の量が不足するため、浸炭後の析出物の数は本願規定の範囲を下回っており、粗大粒が発生する。比較例19はNの含有量が本願規定の範囲を上回った場合であり、析出物が粗大になり、やはり粗大粒が発生している。比較例20、21は、Tiの含有量、Oの含有量が本願規定の範囲を上回った場合であり、いずれも粗大粒が発生している。また、比較例22は、熱間圧延後に急速冷却する工程で素材を製造したため、圧延後のNb(CN)の析出量が本願規定の範囲を下回った方法で製造した場合であり、浸炭後の析出物の数は本願規定の範囲にあるものの、混粒の発生傾向が大なるため、粗大粒が発生する。比較例23は素材製造時の熱間圧延の加熱温度が低すぎたため、圧延後のAINの析出量が本願規定の範囲を上回った方法で製造した場合であり、粗大粒が発生している。
【0050】
次に、比較例24は、圧延材を650℃で焼鈍後、引き抜き工程を経て浸炭焼入れを行った場合であり、従来工程に相当する製造方法で浸炭焼入れを行った場合であるが、粗大粒は発生していない。これに対して、比較例25は、圧延材を焼鈍工程を省略し、引き抜き工程を経て浸炭焼入れを行った場合であり、粗大粒が発生する。以上から、本願発明において、引き抜き工程を省略するために、精密圧延材を適用したことの進歩性が明らかである。
【0051】
(実施例2)
実施例1で製造した162mm角の圧延素材を用いて、熱間圧延により、直径23mmの棒鋼を製造した。熱間圧延の条件は、加熱温度1000〜1280℃、仕上げ温度は840℃〜1000℃、圧延後の800℃〜500℃の冷却速度は0.2〜1.5℃/秒の範囲である。
熱間圧延後の一部の棒鋼について組織観察を行い、ベイナイトの組織分率、フェライトの結晶粒度番号を求めた。
【0052】
上記の工程で製造した棒鋼について、直径23mm×長さ200mmの試験片を作成し、950℃×10時間の条件で浸炭焼入れを行った。
その後、実施例1と同様の方法で、浸炭後の曲がり、析出物の数、γ粒度、粗大粒の有無を求めた。これらの調査結果をまとめて、表3に示す。本発明例の950℃浸炭時のγ粒度は9.7番以上であり、細整粒である。曲がり量も0.19〜0.25mmと小さい。
【0053】
一方、比較例8は、熱間圧延後の冷却速度が早かったため、圧延後のベイナイトの組織分率が本願規定の範囲を上回った場合であり粗大粒が発生している。また、比較例19は素材製造時の熱間圧延の仕上げ圧延温度が低すぎたため、圧延後のフェライト結晶粒度番号が本願規定の範囲を上回った場合であり、粗大粒が発生している。
【0054】
【表3】
【0055】
【発明の効果】
本発明の浸炭軸状部品の製造方法を用いれば、引き抜き工程および焼鈍工程を省略して、圧延ままの鋼材を用いて、粗大粒を発生せず、曲がりない浸炭軸状部品の製造が可能になり、本発明による産業上の効果は極めて顕著なるものがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】Ti量と結晶粒粗大化温度の関係について解析した一例を示す図である。
【図2】O量と結晶粒粗大化温度の関係について解析した一例を示す図である。
【図3】浸炭焼入れ後の微細析出物の個数とオーステナイト粒度番号の関係について解析した一例を示す図である。
【図4】熱間圧延後のベイナイト分率と結晶粒粗大化温度の関係について解析した一例を示す図である。
【図5】熱間圧延後のフェライト結晶粒度番号と結晶粒粗大化温度の関係について解析した一例を示す図である。
【図6】熱間圧延後のAlNの析出量とNb(CN)の析出量と結晶粒粗大化温度の関係について解析した一例を示す図である。
Claims (3)
- 重量%で、
C:0.10〜0.35%、
Si:0.02〜0.50%、
Mn:0.30〜1.80%、
S:0.005〜0.15%、
Al:0.030〜0.040%、
Nb:0.021〜0.040%
N:0.0060〜0.0176%、
Cr:0.40〜1.80%、
を含有し、さらに、
Mo:0.02〜1.0%、
Ni:0.1〜3.5%
V:0.03〜0.5%
の1種または2種以上を含有し、
P:0.025%以下、
Ti:0.01%以下、
O:0.0025%以下に制限し、
残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼を、熱間圧延に際し、加熱条件を1150℃以上の温度で保熱時間を10分以上とし、熱間圧延後の冷却条件を800〜500℃の温度範囲を1℃/秒以下の冷却速度とすることにより、熱間圧延後のNb(CN)の析出量を0.0050%以上とし、AlNの析出量を0.0050%以下に制限し、
熱間圧延ままで、寸法公差が±0.1mm以下の径精度を有する棒鋼または線材を素材とし、
焼鈍工程および引き抜き工程を省略して、直接軸状部品に成形加工した後、浸炭焼入れを行い、浸炭焼入れ後の軸状部品のマトリックス中に直径0.1μm以下のNb(CN)、AlN、またはNb(CN)とAlNの複合析出物をその合計で80個/100μm2 以上分散させて、オーステナイト粒度が8番以上の組織とすることを特徴とする浸炭軸状部品の製造方法。 - 請求項1に加え、熱間圧延後のベイナイトの組織分率を30%以下に制限した棒鋼または線材を素材とすることを含むことを特徴とする浸炭軸状部品の製造方法。
- 請求項1または2に加え、熱間圧延後のフェライト結晶粒度番号が8〜11番である棒鋼または線材を素材とすることを含むことを特徴とする浸炭軸状部品の製造方法。
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