JP4681160B2 - 高温浸炭用鋼の製造方法及びその方法により製造された高温浸炭用鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、1000℃以上の高温浸炭処理での粗粒化及び混粒化を抑制するための高温浸炭用鋼の製造方法及びその方法により製造された高温浸炭用鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車、建設車両、建設機器等に使用される歯車やシャフト等の動力伝達に使用される鋼部品には、浸炭処理により表面に硬化層を形成する肌焼鋼が多用される。これは、前記部品には優れた耐摩耗性と高靭性を同時に要求されるため、表面は浸炭処理により硬い組織として耐摩耗性を確保し、内部は低Cのままとして高い靭性をもたせるためである。
【0003】
最近、これらの部品の高強度化と共に大幅な製造コスト低減が大きな課題になっている。部品の製造コストは、材料自体のコストと浸炭等の熱処理コストに大きく分けることができるが、前者については、特に高価な成分元素が多量に添加されていない肌焼鋼の場合、大きなコスト低減は困難であり、後者の熱処理コストの削減方法の研究が盛んに検討されている。
【0004】
その中でも、最近検討が進められている方法は高温浸炭処理である。現在肌焼鋼の浸炭処理は、その大部分がガス浸炭処理法により行われており、所定の硬化深さを得るために、4〜10時間程度もの長時間の処理が実施されている。その結果、生産性の面でも問題になるとともに、多大なエネルギーを消費するため、改善が強く要望されていた。高温浸炭処理は、浸炭温度を高く設定して反応を促進させることにより、短時間でより多くの炭素原子を侵入及び拡散させて処理時間の短縮を図る方法で、時間短縮に最も効果的な方法として古くから知られている。
【0005】
しかしながら、高い浸炭温度での処理は、処理時間の短縮には効果的な方法であるが、一方で大きな問題が生じる。すなわち、浸炭処理後にオーステナイト粒が粗大化したり混粒が生じることである。浸炭処理後においてこのようなオーステナイト粒の粗大化や混粒が生じると、強度が低下したり、熱処理歪のバラツキが生じる。通常、浸炭処理後は研磨等の必要最小限の機械加工を施すだけであるのが普通であり、このような歪のバラツキは製品寸法不良の原因となり、問題となる。そのため、実際には処理時間の短縮が期待通りに進めることができていないのが現状である。
【0006】
このような浸炭処理時におきる結晶粒粗大化と混粒化現象はかなり以前から知られており、様々な対策が検討され、新しい技術が提案されており、多数の特許出願がされている。
【0007】
その中でも最も良く知られている方法は、AlNを微細分散させてピン止め効果により粗大化を防止する方法であり、例えば、特開昭56−75551号、特開昭59−123714号に示される提案がされている。
【0008】
また、AlNのピン止め効果よりもより高温での結晶粒の安定化を図るため、Nbを添加して粗大化防止を図るという提案もされている。例えば特開昭49−125220号、特開昭62−99416号等がある。
【0009】
さらに、高温浸炭でのオーステナイト粒の粗粒化や混粒化を抑制するために、例えば特開平4−176816号、特開平5−125437号、特開平10−152754号、特開平10−121128号公報等の発明が提案されている。
【0010】
このうち、特開平4−176816号には、Nb、Ti、Ta、Zr、Hf、V等の炭窒化物形成元素の添加によるピンニング効果と、所定の条件での熱間加工を組み合わせることによる結晶粒粗大化防止技術について記載されている。
【0011】
また、特開平5−125437号、特開平10−152754号には、熱間加工条件とその後の冷却条件の最適化によって結晶粒粗大化を防止する技術について記載されている。
【0012】
さらに、特開平10−121128号には、浸炭焼入処理前に600〜700℃の温度に30分以上保持するという熱処理により、Nb炭窒化物を凝集させることによって、結晶粒の粗大化と混粒を防止する技術について記載されている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記した今までに提案された方法には、次の問題がある。
即ち、AlNによるピン止め効果は980℃未満の浸炭処理ではある程度の効果を得ることができるものの980℃以上の浸炭温度になると微細分散させたAlNのかなりの割合が固溶してしまいピン止め効果による結晶粒粗大化防止効果が十分に得られなくなる。従って、本発明で狙いとしている1000℃程度の高温での浸炭処理においては、その効果は非常に小さいものとなり、粗大化を完全に防止することができない。
【0014】
また、AlNに比べ高温での結晶粒安定化効果を期待してNbを添加したことを特徴とする特開昭49−125220号の発明は、単にNbを添加したにすぎず、どのように析出させた場合に大きな粗大化防止効果が得られるかについての検討が不十分であり、特開昭62−99416号の発明は、Nbを微細析出させるための熱処理法について記載されているが、本発明者等が検討した結果によると、冷間加工材を浸炭処理する場合、析出物を微細にしすぎると、かえって部分的に異常成長しやすく混粒化しやすいことが判明した。
【0015】
また、特開平4−176816号で提案された技術は、Nb、Ti、Ta、Zr、Hf、V等の微細な炭窒化物の析出により確かに従来鋼に比べ優れたピンニング効果を得ることができるが、本発明では大幅なコスト低減を達成するため、より高い温度での浸炭処理を可能にすることを目的としており、特に1000℃を超える浸炭温度で、1時間以上の処理が施された場合には、結晶粒粗大化防止効果が十分に得られないことがわかった。
【0016】
また、特開平5−125437号、特開平10−152754号に記載の発明は、本発明者等が調査した結果、1000℃以下の温度で熱間加工後に制御冷却した場合、Nb(C、N)が不均一に析出しやすく、1000℃以上の浸炭処理温度の場合では、期待した程の、結晶粒粗大化防止効果が得られないことがわかった。
【0017】
さらに、特開平10−121128号公報に記載の発明は、熱間加工後に600〜700℃という低目の温度で処理するため、本発明者等が調査した結果、明細書には炭窒化物を凝集させると記載されてはいるものの、依然としてNb炭窒化物の大きさが適当な大きさに比べ小さく、冷間加工した材料を高温浸炭処理した場合には結晶粒の異常成長が起きやすいことが判明した。
【0018】
本発明は、以上記載した問題点を解決するために成されたものであり、浸炭処理して使用される部品の中でも特に結晶粒異常成長が発生しやすい冷鍛等の冷間加工を施した後に高温で浸炭処理される場合でも、結晶粒粗大化及び混粒化を防止することができる高温浸炭用鋼の製造方法を新規に提案することを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、重量比でC:0.10〜0.30%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.30〜1.50%、Cr:0.30〜2.00%、 Al:0.020〜0.060%、Nb:0.04〜0.10%、N:0.0080〜0.0250%、V:0.01%以下を含有し、残部Fe及び不純物元素からなる鋼を1150℃以上に加熱後、1000℃以上で熱間加工し、500℃までを25℃/分以上の速度で冷却した後、900〜1000℃の温度に再加熱し、30分以上加熱保持後500℃までを25℃/分以下の速度で冷却することを特徴とする高温浸炭用鋼の製造方法にある。
【0020】
本発明において注目すべきことは、上記特定組成の肌焼鋼を用いて熱間加工後浸炭処理する際において、従来の結晶粒粗大化防止鋼のように、AlNやNbの炭窒化物を単純に微細析出させるのではなく、熱間加工時において高温で加熱して析出物を十分鋼中に固溶させた後、900〜1000℃に加熱処理することによって、その後の浸炭処理において、最も結晶粒の異常成長が起きにくい大きさ、数となるよう均一に分散させたことにある。
【0021】
従来のように、炭窒化物を微細分散させた場合、特に異常粒成長の生じ易い冷間加工材においては、980℃以上の高温浸炭処理をした場合、異常粒成長が起きる確率が高くなることが判明した。その理由について詳しく分析してみると、Nb等の炭窒化物を微細分散させた場合、浸炭時の初期においては、析出物のピン止め効果が寄与して、細かい粒径が得られるが、逆に細かいために結晶粒成長の駆動力が極めて大きくなり、比較的温度の低い浸炭処理では問題が生じないが、高温浸炭処理の場合温度が高く粒成長エネルギーが大きくなるため、浸炭処理中にピン止め効果が粒成長エネルギーを抑制することができず、異常粒成長が起きてしまうことがわかった。
【0022】
そこで、本発明者等は、結晶粒異常成長が起きにくいNb炭窒化物の分散状態(大きさ、個数)について検討を繰返した結果、浸炭温度に非常に近い温度域である900〜1000℃に30分以上あらかじめ加熱処理しておくことによって、従来の微細分散状態に比べかなり大きく個数は少なくなるが、AlN、Nb炭窒化物を適度の大きさで均一に分散析出処理させた場合において、浸炭処理時の異常粒成長を防止できることを見出したものである。
【0023】
但し、この処理をする前において熱間加工時の高温加熱を利用して析出物を十分に固溶させておく必要がある。析出物を固溶させた状態でこの加熱処理を施すことにより、適度の大きさのNb炭窒化物を均一に分散させることができ、その後の浸炭処理時における大きな異常粒成長防止効果を得ることができる。
【0024】
この処理は、冷間加工により鋼中に塑性歪が導入された後に浸炭処理する際に大きな効果を発揮する。前記したように、塑性歪が導入された材料を浸炭処理すると、浸炭時の初期粒径が小さくなって結晶粒成長の駆動力が大きくなり、異常成長を起こしやすくなるためである。なお、浸炭処理時の加熱を短時間に実施すると、冷間加工材であっても浸炭時の初期粒径を大きくできるので、異常粒成長を起きにくくすることができる。具体的には、700〜850℃の間を4℃/分以上の速度で温度を上げると、初期粒径の微細化を抑えられるので、より好ましい。
【0025】
次に、請求項1の製造方法で用いられる肌焼鋼の化学成分の限定理由について説明する。
C:0.10〜0.30%
浸炭処理を行った部品に要求される強度、内部硬さを確保するためには、0.10%以上のCを含有する必要がある。しかし、0.30%を超えて含有させると内部の靱性が劣化し、さらには被削性の低下や冷間鍛造性を悪化させるため、上限を0.30%とした。
【0026】
Si:0.05〜0.50%
Siは鋼の製造時において脱酸のために必要な元素であり、最低でも0.05%以上の含有が必要である。しかしながら、Siは浸炭処理時、浸炭雰囲気中の酸素と反応して酸化物を形成する。このため被処理品の表層付近は焼入性が低下し、いわゆる浸炭異常層を形成する。従って、多量に含有させると浸炭異常層の生成による悪影響が大きくなって強度が低下するとともに、被削性が低下するので、上限を0.50%とした。
【0027】
Mn:0.30〜1.50%
Mnは、必要な焼入性を確保して内部まで強度を確保するのに必要な硬さ(Hv200〜500)を保証するためには、0.30%以上のMnを含有する必要がある。しかしながら、多量に含有させると、残留オーステナイトが増加して、硬さ低下、内部の靭性が劣化するとともに、被削性が低下するので、上限を1.50%とした。
【0028】
P:0.035%以下
Pは製造時に混入が避けられない不純物である。本発明では特に必須の条件としては限定していないが、粒界の強度を低下させ、疲労特性を悪化させる原因となる元素であるので、その上限を0.035%以下とすることが好ましい。
【0029】
S:0.030%以下
SはPと同様に製造時に少量の混入が避けられない不純物であり、例えばMnS等のような硫化物系介在物となって存在している。しかし、この介在物は、疲労破壊の起点となったり、耐ピッチング性を低下させたり、鋼材の異方性が大きくなる原因となる元素である。従って、本発明では、必須では限定していないが、理想的には極力低減することが好ましく、上限を0.030%とした方がより好ましい。
【0030】
Cr:0.30〜2.00%
Crは、焼入性を向上させ、必要な強度を確保し、本発明により製造した鋼の性能を向上させるために必要な元素であり、0.30%以上の含有が必要である。しかしながら、多量に含有させると靭性が劣化するとともに被削性が低下するため、上限を2.00%とした。
【0031】
Al:0.020〜0.060%、
Alは、Siと同様に脱酸に必要な元素であるとともに、AlNとして存在し、ピン止め効果により浸炭処理後の異常粒成長防止に効果のある元素である。従って、この効果を得るために必要なAlN量を確保するためには、0.020%以上のAlを含有させる必要がある。しかし、0.060%を超えて含有させると、鋼中に生成されるAl2O3介在物が増加しすぎて、強度や被削性への悪影響が無視できなくなるため、上限を0.060%とした。
【0032】
N:0.0080〜0.0250%
Nは上述の通り、AlやNbと化合し、AlNやNb(C、N)となって鋼中に存在し、浸炭処理後の異常粒成長を防止するために効果のある元素である。この効果を十分に得るためには、0.0080%以上のNを含有させる必要がある。しかしながら、AlNやNb(C、N)の析出量には適量があり、多すぎると浸炭初期粒径が細かくなって却って異常粒成長が起きやすくなってしまうため、上限を0.0250%とした。
【0033】
Nb:0.04〜0.10%
Nbは本発明において最も重要な元素であり、炭窒化物となって鋼中に存在し、特にAlに比べ高温度での浸炭処理における結晶粒異常成長を防止する効果のある元素である。Nb添加量が少ない場合、特に1050℃以上の浸炭では浸炭処理前に析出していた炭窒化物の一部が固溶し、ピン止め効果に寄与するNb炭窒化物の量が不足して粗粒化抑制作用が十分に得られなくなるので、下限を0.04%とした。一方、多量に含有させると、熱間加工時の加熱によってNb(C、N)が十分に固溶せず、その後の900〜1000℃加熱による熱処理後において均一にNb炭窒化物を分布させることが困難となるため、上限を0.10%に規定した。
【0034】
V:0.01%以下
VはNbと同様に炭窒化物を形成し、ピン止め効果により結晶粒成長の防止に寄与する元素であるが、Vの炭窒化物はNbの炭窒化物に比べ高温で固溶しやすく、1000℃以上の高温浸炭の場合、浸炭加熱によって固溶して浸炭中にピン止め効果が消失し、結晶粒成長抑制効果が得られなくなるので、高温浸炭される場合には、Vよりも高温浸炭処理温度において固溶しにくい炭窒化物を形成する元素に、鋼中のC、Nを優先的に結合させておく必要がある。Vが含有していると、鋼中のC、Nの一部がVと結合し、浸炭初期粒径を細かくする作用が生じ、かつ1000℃以上の浸炭中にそれらが固溶して、ピン止め効果を消失させるので、異常粒成長を助長する。従って、高温浸炭時にはVが存在すると逆に異常粒成長が起きやすくなる。Vは積極添加しなくても鋼の製造時に使用するスクラップ等から少量混入する可能性のある元素であるため、不純物として含有するV量を少なく抑える必要があり、上限を0.01%に規制した。
【0035】
次に、請求項1の発明の製造条件の限定理由について、以下に説明する。
熱間加工時の加熱温度の下限を1150℃、熱間加工温度を1000℃以上、その後の冷却速度を25℃/分以上としたのは、後の900〜1000℃の加熱処理でAlN、Nb(C、N)を鋼中に均一に析出させるためには、AlN、Nb(C、N)を十分に固溶させた状態が必要であるからである。加熱温度が1150℃未満になるとこれらの析出物が十分に固溶しない場合があり、また、熱間加工温度が1000℃未満で冷却速度が遅くなると、一度固溶しても部分的に加工誘起により再析出したりして、熱間加工後において析出物が残存した状態となり、後の900〜1000℃の加熱処理後において析出物を均一分散させた状態とすることが困難になり、異常粒成長を防止することが難しくなる。故に、加熱温度、加工温度、冷却速度の下限はそれぞれ1150℃、1000℃、25℃/分に限定する必要がある。
【0036】
なお、本発明で限定した温度は表面の温度であり、加熱温度は、加熱炉から出た直後の温度、加工温度は加工を開始する温度を言う。加工中は被加工物に比べて温度の低い型に熱を奪われるが、加工により発生する熱があるため、温度低下が大きくないが、熱間加工中の加工誘起による再析出を完全に防止するためには、加工開始から終了までを含めて1000℃以上を保つことがより望ましい。
【0037】
熱間加工後の冷却時においては、その速度が遅くなると、析出物が再析出する時間的余裕が生じてしまうので、25℃/分以上で冷却することにより、再析出しないうちに500℃以下まで冷却するものとする。制御冷却の温度範囲の下限を500℃に設定したのは、500℃未満の温度では、AlNやNb(C、N)等の炭窒化物の析出反応が生じることがないからである。
【0038】
上記の条件で加熱、熱間加工、冷却を行うことにより、AlN、Nb(C、N)の析出物が鋼中に固溶した状態で、冷却される。次に、この鋼材を900〜1000℃の温度範囲で30分以上加熱する。前の加熱、熱間加工、冷却の処理によって、AlN、Nb(C、N)は、鋼中に固溶した状態となっているので、この温度域に加熱することにより、容易に鋼中に均一に析出させることが可能となる。なお、30分以上加熱するのは、素材中心部まで十分に加熱して、中心部においても鋼中に均一に析出させた状態とするために必要な加熱時間であるからである。
【0039】
また、加熱温度の範囲を900〜1000℃としたのは、低い温度で析出させる程、析出物が微細になって数が多くなり、温度を高くする程、析出物が大きく数が少なくなるが、900〜1000℃で加熱した場合に生成される析出物の大きさ、数が、高温浸炭処理した場合の異常粒成長防止のために適しているからである。温度が低すぎると析出物が微細(大部分が大きさ10nm未満)かつ数が多くなって、浸炭初期の結晶粒径が細かくなりすぎ、高温浸炭中に異常成長しやすくなって異常粒成長を防止することが困難になり、温度が高すぎると、析出物が大きく、数が少なくなりすぎて、ピン止め効果がほとんどなくなり、浸炭初期から粒径が大きくなりすぎ、処理後の粒径も大きい状態のままとなってしまうからである。
【0040】
また、本熱処理温度は浸炭温度にかなり近い温度領域で実施されるため、浸炭処理中において析出物の変化が少なく極めて安定しており、安定したピン止め効果を得ることができる。
【0041】
900〜1000℃に加熱した後、500℃までを25分/℃以下で冷却するのは、冷間加工性、切削性の優れた鋼とするためである。冷却が速すぎると、素材硬度が上昇して加工性が低下する。なお、冷却途中に温度を保持してより加工性を向上させる熱処理を施すこともできる。例えば、660℃で40分以上保持する熱処理をすることにより、加工性の優れた鋼を得ることができる。この熱処理を施した場合でも、優れた異常粒抑制効果が得られることは言うまでもない。
【0042】
次に、請求項2の発明のように、請求項1の製造方法で使用される鋼にさらにMoを0.80%以下含有させた鋼を用いることもできる。以下、その限定理由を記載する。
【0043】
Mo:0.80%以下
Moは、焼入性およひ靱性を向上させるとともに、浸炭異常層を抑制して強度を向上させる効果を有する元素であり、必要に応じ少量添加して使用することができる元素である。しかしながら、多量に添加すると、残留オーステナイトが増加し、浸炭硬さの低下の原因になるとともに、内部の靭性、被削性を低下させるため、0.80%を上限とした。
【0044】
また、請求項3の発明のように、請求項1または2の製造方法により製造された、AlN、Nb(C、N)の単独析出物、複合析出物が、素地中に3〜20個/μm2析出している高温浸炭用鋼がある。
【0045】
従来の結晶粒粗大化防止鋼のように、炭窒化物を微細かつ均一に析出させた場合(10nm未満の微細析出物が多数)、浸炭初期の結晶粒径は小さくなるが、逆に浸炭処理中においては結晶粒が異常成長しやすくなってしまう。特に高温浸炭の場合それが顕著となる。請求項3の発明では、AlN、Nb(C、N)を従来のように微細分散させるのではなく、適当な大きさ、個数となるよう調節してやることによって、浸炭初期における粒径は若干大きくなるが、その後の浸炭処理中の異常粒成長が起きにくくなる条件を見出したものである。具体的には、AlN、Nb(C、N)の単独析出物、複合析出物が素地中に3〜20個/μm2存在した状態とする。なお、炭窒化物の個数は、TEM、FESEMを用いることにより容易に測定することができる。なお、使用する測定機器の精度によって同じ試験片を測定した場合の測定結果の誤差を防止するため、ここで対象とする炭窒化物は、大きさ(最も長い部分の長さ)が10nm以上のものに限定する。存在する炭窒化物のうち10nm以上の大きさの個数が素地中に3〜20個/μm2とする。
【0046】
なお、10nmの析出物を確認するには、少なくとも5万倍、好ましくは10万倍程度に拡大して観察する(10nmの析出物が10万倍で1mmとなる。)ことが必要である。低倍率で観察すると、小さい析出物を見落とす可能性があるので、個数測定時は注意が必要である。
【0047】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の効果を実施例を示すことにより明らかにする。表1は準備した供試鋼の化学成分を示すものである。表1に示す供試鋼のうち、1〜4鋼は本発明の条件を満足する鋼、5〜8鋼は一部の成分が本発明の条件を満足しない比較鋼、9鋼は従来鋼であるSCM420Hである。
【0048】
【表1】
【0049】
各供試鋼は、電気炉で溶解し、圧延してφ50の丸棒を製造し、1200℃で加熱後、1100℃で熱間鍛造を施し、その後500℃以下となるまで空冷(75℃/分)した。さらに、950℃の温度に再加熱し、1時間保持後500℃までの平均冷却速度15℃/分の条件で冷却するという熱処理を施した。この熱間鍛造された供試材の一部を切出してφ20×高さ30mmの円筒型試験片を作製し、この試験片に据込み率70%の圧縮加工を行った。そして、実際の浸炭処理で異常粒成長が起きるかどうかをシミュレートするために、900〜1050℃の各温度で2時間加熱保持する熱処理を施した。
【0050】
各試験片の結晶粒異常成長の判定は、光学顕微鏡(倍率は100倍)でランダムに10視野観察することにより評価した。そして、10視野観察した範囲内において3以上異なった粒度の視野が20%以上存在する場合に「混粒」と判断し、異常粒成長が生じたとみなすこととした。また、結晶粒度6未満の場合に結晶粒粗大化したと判断した。なお、結晶粒度の測定は全てJISG0551の基準に準拠した方法で行った。そして、この基準で評価した結果、混粒又は結晶粒粗大化が認められた試験片を×、異常が認められなかった試験片を○で示した。
【0051】
また、950℃×2時間保持の熱処理を施した直後の試験片の全てについて、TEMを用いてAlN及びNb(C、N)の析出物の個数を測定した。
結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
表2から明らかなように、本発明の条件を満足する1〜4鋼は、全て、1050℃の高い温度まで、異常粒成長をすることがなかった。それに対し、一部の成分が本発明の条件を満足しない比較鋼は従来鋼SCM420Hに比べれば優れた結果が得られたが、本発明鋼に比べ劣るものであった。このうち、5、8鋼は、ピン止め効果を得るために必要な元素であるNb、Al含有率が低いためピン止め効果が十分に得られず1000℃以上の温度で異常粒成長が生じたものであり、6鋼はNb含有率が高いため、熱間加工時に十分に炭窒化物を固溶させることができず、不均一な析出状態となって1050℃での異常粒成長が防止できなかったものである。また、従来鋼SCM420Hである9鋼は、著しく劣り、950℃以上の温度で異常粒成長が発生した。
【0054】
なお、V含有率が高いNo.7鋼は析出物数が本発明の範囲内であるにもかかわらず1050℃の加熱で異常粒が発生したが、これは組織内に析出していたV炭窒化物が1050℃の加熱により固溶してしまい、組織の一部において炭窒化物の少ない領域が生じ異常粒成長が起きたものと推定される。
【0055】
次に、前記実施例で行った条件を基本に前記供試鋼のうち、本発明の成分範囲の条件を満足する1、2鋼を使用して、熱間加工条件、熱処理条件を種々変化させた場合の別の実施例を示す。実験した熱間加工条件は表3に示す通りである。評価した項目及び評価方法は前記実施例と同様である。なお、前記実施例の評価に加え、冷間加工性の評価として、据込み率75%の加工を行った際の割れの有無を測定した。そして、割れが認められなかったものを○、割れが認められたものを×で示した。
【0056】
【表3】
【0057】
表3から明らかなように、本発明で規定した成分範囲内の鋼であっても、加熱温度、熱間加工温度、熱処理温度等のいずれかの条件が本発明で規定した条件の範囲外である、試験No.9〜12は、優れた結果が得られないことが分かった。このうち、試験No.9は、熱間加工時の加熱温度、加工温度が低く、かつ冷却速度が遅いため、熱間加工時の炭窒化物の固溶が不十分となったものであり、No.10、11は熱処理時の加熱温度が低く、析出物の個数、大きさが異常粒防止にとって適切な状態にならなかったものであり、No.12は熱処理時の冷却速度が速く、ベイナイトが生成して冷間加工性が低下したものである。また、試験No.13は、熱間鍛造後に本発明で規定する熱処理を施さなかった場合の実施例であるが、析出させるための熱処理を施していないため、析出物の大部分が固溶した状態となり、狙いとするピン止め効果が得られず、異常粒成長が防止できなかったものである。
【0058】
これに対し、本発明の条件を満足する実施例である試験No.1〜8はすべて050℃で加熱した場合でも異常粒成長を生じないことが確認できた。
【0059】
また、この実施例では、熱処理時間が30分未満の場合について示していないが、これは本実施例では非常に小さな据込み試験片を使用したため、極めて短時間に内部まで十分に加熱されるため、30分未満の時間(例えば20分)でも十分な熱処理効果が得られてしまうからである。しかし、実際の部品はより大きな部品が多く、30分以上の加熱保持を行って十分に析出させることが必要である。
【0060】
【発明の効果】
本発明による高温浸炭用鋼の製造方法は、Nbを少量添加した鋼を用い、高温で熱間加工して、析出物を鋼中に十分に固溶させた後、浸炭処理前に900〜1000℃という浸炭温度に近い温度に加熱保持することによって、析出物を均一かつ適当な大きさに分散させることによって、冷間加工材を高温浸炭した場合でも、確実に異常粒成長を防止することができる。従って、浸炭温度を高め、浸炭処理時間を大幅に短縮することが可能となり、自動車等の部品のうち浸炭処理される部品の製造コストの中の、熱処理コストを大幅に低減することが可能になるとともに品質を向上させることができる。
Claims (3)
- 重量比でC:0.10〜0.30%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.30〜1.50%、Cr:0.30〜2.00%、Al:0.020〜0.060%、Nb:0.04〜0.10%、N:0.0080〜0.0250%、V:0.01%以下を含有し、残部Fe及び不純物元素からなる鋼を1150℃以上に加熱後、1000℃以上で熱間加工し、500℃までを25℃/分以上の速度で冷却した後、900〜1000℃の温度に再加熱し、30分以上加熱保持後500℃までを25℃/分以下の速度で冷却することを特徴とする高温浸炭用鋼の製造方法。
- 請求項1において使用される鋼にさらにMo:0.80%以下を含有する鋼に対し、請求項1記載の製造方法を施すことを特徴とする高温浸炭用鋼の製造方法。
- 請求項1または2に記載の製造方法により製造され、AlN、Nb(C、N)の単独析出物、複合析出物が、素地中に3〜20個/μm2析出していることを特徴とする高温浸炭用鋼。
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