JP4322093B2 - 減圧高温浸炭される熱間鍛造部品の製造方法 - Google Patents
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例えば、特許文献1〜3に示される鋼が提案されている。
即ち、特許文献1〜3に記載の鋼は、C、Nと結合しやすい元素であるAl、Nbを単純に添加して炭窒化物を生成させ、ピン止め効果により、異常粒成長を防止する効果があることについては記載されている。しかしながら、特許文献1〜3には、Al、Nbの添加量が記載されているにすぎず、どのような析出状態とすれば、より大きな効果が得られるかという点については全く記載されていない。
本発明者等がより詳しく調査した結果、熱間鍛造前の加熱温度を高温度化すると、確かにNb(C,N)の析出物は固溶し、その量が減少していくものの、依然としてある程度の量のNb(C,N)析出物が残存しており、減圧された雰囲気内であって、さらに1000℃以上の高温で浸炭処理するような異常粒成長が最も発生しやすい条件で浸炭処理される場合には、完全に異常粒成長を防止できない場合が生じることが判明した。
また、この特許文献6〜8に記載の発明は、減圧浸炭について全く記載されておらず、減圧下で浸炭される場合を考慮した最適な製造方法について検討がされていない。
Al:0.02〜0.06%、Nb:0.04〜0.08%、N:0.0080〜0.0250%、V:0.01%以下を含有し、残部Fe及び不純物元素からなる鋼に、以下の工程を施すことを特徴とする減圧高温浸炭される熱間鍛造部品の製造方法である。
(1)溶製し、製造した鋼塊又は鋳片を粗圧延し得られた鋼材を、1200℃以上の温度にて30分以上加熱保持した後、1100℃以上の温度で仕上圧延し、圧延後500℃までの温度範囲を25℃/分以上の速度で冷却して鍛造用母材を製造する。
(2)鍛造用母材を再度1250℃以上に加熱後、1180℃以上の温度で熱間鍛造する。
(3)熱間鍛造後500℃までの温度範囲を25℃/分以上の速度で冷却する。
(4)900〜1000℃の温度に再加熱し、30分以上保持した後、500℃までを25℃/分以下の速度で徐冷する。
その結果、従来のように最後の熱間加工である熱間鍛造前の加熱温度及び鍛造温度を高めとすることでも、勿論Nb(C,N)を固溶させ、異常粒成長を防止することができるが、依然として未固溶のNb(C,N)が少量存在していること、熱間鍛造時の加熱温度だけでなく、母材製造時の仕上圧延時の加熱温度及び仕上温度についても同時に高めに設定することで、さらに未固溶のNb(C,N)を減少させることができること、それによって、減圧下で高温浸炭処理する場合のような非常に異常粒成長が生じやすい場合でも確実に混粒の発生を防止できることを新規に見出したものである。
これは、熱間鍛造前の加熱は炉加熱ではなく、母材1個ずつを高周波で加熱されることが多いため、必然的に短時間加熱となってしまうため、加熱温度を高めに設定しても固溶しないNb(C,N)が残存してしまうためと予想される。
C:0.10〜0.30%
Cは浸炭部品に要求される必要な強度を確保するために必要な元素である。勿論表面及びその近くについては、浸炭処理によりCを多量に侵入させるため、溶製時のC含有率に関係なく必要な強度を得ることができる。しかしながら、必要な内部硬さを得るためには、Cを所定量含有させる必要があるため、下限を0.10%とした。しかし、0.30%を超えて含有させると内部の靱性が劣化し、さらには被削性を低下させるため、上限を0.30%とした。
Siは、本発明鋼を溶製する際に、脱酸のために必要不可欠となる元素であり、0.05%以上含有させる必要がある。しかしながら、Siは酸素と結合やすい元素であるため、浸炭処理時に酸素と反応して、表層に浸炭異常層と呼ばれる焼入性の低下した層が生成する原因となる元素である。この層が多量に生成すると、強度が低下して、得られた熱間鍛造部品の品質を低下させる原因となるので、上限を0.50%とした。
Mn、Crは、焼入性を向上させて、必要な内部硬さを得るために必要不可欠の元素であり、最低でも0.30%以上含有させる必要がある。しかしながら、多量に含有させると、内部の靭性が劣化するとともに、被削性が低下するので、上限をMnは1.50%、Crは2.00%とした。
Alは、酸素と結合しやすい元素であり、Siと同様に溶製時の脱酸を効率良く進めるために必要な元素である。また、Alは鋼中で窒化物であるAlNとして存在し、ピン止め効果により浸炭処理後の異常粒成長を防止する効果もある。従って、これらの効果を十分に得られるようにするために、0.02%以上含有させることとした。しかしながら、Alを多量に含有させすぎると、鋼中に硬質なAl2O3介在物が増加して、疲労強度、被削性への悪影響が大きくなるため、上限を0.06%とした。
Nbは本発明において最も重要な元素であり、熱間鍛造後熱処理することによって、Nb(C,N)となって鋼中にピン止め効果を得るのに適した大きさで、かつ多量に析出した状態となり、その後の浸炭処理による異常粒成長の発生を防止する効果のある元素である。特に本発明では、減圧浸炭であって、かつ1000℃以上で浸炭処理されるような、極めて異常粒成長が起きやすい場合でも、混粒状態が生じないことを目的としており、そのために必要な量のNb(C,N)を析出させる必要があるため、Nb含有率の下限を0.04%とした。しかしながら、多量に含有させると、仕上圧延時の加熱と熱間鍛造時の加熱を高温度下しても、Nb(C,N)が十分に固溶した状態とならず、析出処理後においても粗大なNb(C,N)の析出物が残存した状態となって、ピンニング効果が低下するので、上限を0.08%に規定した。
前記した通り、本発明では、異常粒成長を防止するために、AlNやNb(C,N)を浸炭処理前の熱処理によって、微細かつ多量に析出させることを特徴としているため、これらの窒化物が十分に生成されるために必要なNをあらかじめ添加しておく必要がある。Nは、大気中に多量(約78%)に存在しているため、特別な処理を施さなくても不可避不純物として鋼中に含有するが、本発明では、異常粒成長を防止するために必要な窒化物を十分に生成させる必要があることから、不可避に含有する量では不十分であり、その下限を0.0080%とした。しかし、AlNやNb(C,N)の析出量には適量があり、多すぎると浸炭初期粒径が細かくなって却って異常粒成長が起きやすくなってしまうため、上限を0.0250%とした。
VはNbと同様に炭窒化物を形成しやすい元素であるが、生成した炭窒化物は、Nb炭窒化物に比べ1000℃以上の高温においては、かなり固溶しやすいという特徴を有しているため、高温浸炭では、処理中に固溶してしまうため、V炭窒化物による異常粒成長防止効果はほとんど得ることができない。しかしながら、VはNbと同様にNと結合しやすい元素であり、鋼中に存在していると、鋼中Nと結合してVの炭窒化物が生成され、その分Nを消費するため、Vを含有しない場合に比べてNb(C,N)の生成量が減少する。そして、V炭窒化物が増加すると、浸炭初期粒径を微細化する作用が生じるが、1000℃以上の高温浸炭時には、V炭窒化物は固溶してしまうので、ピン止め効果が全く得られず、異常粒成長が起きやすくなる。以上の理由から、本発明では、V未添加の鋼を使用するが、添加しなくても不純物として少量含有する可能性があるため、その上限を明確にしておく必要があり、上限を0.01%とした。
本発明の製造方法で使用される鋼は、電気炉等により溶製され、適切な方法で精錬し成分調整され、連続鋳造又は造塊工程を経て鋳片、鋼塊が製造される。この鋳片、鋼塊に分塊圧延等の粗圧延が実施される。ここまでの工程については、本発明の製造方法では、特に条件は指定しない。これは、ここまでの工程については従来通りの方法で製造すれば、最終的に異常粒成長が起きにくい鋼の製造が可能であるためである。
なお、内部の温度は、実際には測定が難しいが、温度分布解析をする等の方法であらかじめどの程度の時間加熱すれば、30分以上の時間が確保できるかを推定し、炉内の加熱時間を決定することが必要である。この工程により粗圧延後の鋼材中に存在していたAlN、Nb(C,N)のうちのかなりの割合が鋼中に固溶した状態とすることができる。温度の下限を1200℃としたのは、この温度より低い温度とした場合には、たとえ後工程である熱間鍛造時の温度を高めに設定したとしても、若干量のAlN、Nb(C,N)が残存した状態となり、減圧浸炭される場合には、異常粒成長を完全に防止することができなくなるためである。また、加熱保持時間の下限を30分としたのは、温度が高くても短時間加熱では、十分にAlN、Nb(C,N)を固溶させることができないためである。
ここでの温度は、表面温度しか測定が難しいので、表面温度とする。従って、仕上圧延終了時の表面温度が1100℃以上となるように圧延するものとする。ここで、仕上圧延終了時の温度の下限を1100℃としたのは、加熱炉から抽出した鋼材が、圧延するまでに大きく温度低下してしまうと、加工誘起析出による炭窒化物の再析出が生じて、加熱温度を高温度化した効果が十分に得られなくなってしまうからである。
さらに、圧延後は、表面温度が500℃に達するまでを25℃/分以上となる速度で冷却する。この理由は、ある程度速く冷却することによって、冷却途中において、炭窒化物が再析出するのを防止するためである。以上説明した工程により、鍛造用母材が製造される。
ここで、温度の下限を900℃としたのは、900℃未満の温度では、析出する炭窒化物が細かくなりすぎ(Nb(C,N)の場合、大部分が10nm未満)、かつ数が多くなるため、浸炭初期の結晶粒径が細かくなり、粒成長の駆動力が高くなって、高温浸炭中の異常粒成長を防止できなくなる可能性が高くなるためであり、上限を1000℃としたのは、析出した炭窒化物が大きく、かつ数が少なくなってしまうため、浸炭初期から粒径が大きくなってしまい、処理後においても大きい状態のままとなってしまうからである。
Mo:0.80%以下
Moは、Mn、Crと同様に焼入性を向上する効果があるとともに、浸炭異常層の生成を抑制して強度を改善する効果を有する元素である。しかし、添加しなくても目的とする性能が得られる場合もあるので、必要に応じ少量添加して使用することができることとした。但し、Moは、多量に添加すると、残留オーステナイトが増加し、浸炭硬さが低下する原因になるとともに、内部の靭性、被削性を低下させるため、0.80%を上限とした。
次に、本発明の効果を実施例を示すことにより明らかにする。表1は準備した供試鋼の化学成分を示すものである。表1に示す供試鋼のうち、1〜4鋼は本発明の条件を満足する鋼、5〜7鋼は一部の成分が本発明の条件を満足しない比較鋼、8鋼は従来鋼であるSCM420Hである。
実験は、表1に示す成分からなる鋼を電気炉で溶解し、粗圧延を実施して鋼片を製造し、この鋼片を用いて実験を行った。本実施例は、本発明の製造方法による効果が十分に得られる化学成分の含有範囲を見極めることが目的であるため、仕上圧延から析出処理までの条件は全て一定とした。具体的には、圧延前加熱温度1225℃(加熱保持時間60分)、圧延仕上温度1150℃、鍛造前加熱温度1270℃、鍛造開始温度1190℃、圧延後と鍛造後の500℃までの冷却速度50℃/分、析出処理条件950℃×60分、析出処理後500℃までの冷却速度15℃/分で実施した。前記条件で、圧延によりφ50の丸棒を製造し、これを75mmの長さに切断して圧縮率60%の据込み鍛造を行った。鍛造前の加熱は、高周波加熱(加熱時間約1分)により行った。
次に、圧延条件、鍛造条件が変化した際に異常粒成長の発生状況がどのように変化するかについて調査するための別の実施例について説明する。
実験は、表1に示す鋼のうち、1鋼を用い、圧延及び鍛造時の条件は、表3に示す通りに変化させ、前記実施例と全く同じ条件で圧延、鍛造を行った。その後、本実施例では、圧延及び鍛造条件を変化させた場合の影響を調査することを目的としているので、鍛造後の析出処理については後述の表3に示した通り加熱温度950℃、加熱時間60分、加熱保持後500℃までの冷却速度は15℃/分という一定の条件で実施した。
しかしながら、減圧浸炭処理される場合には、鍛造時のみ温度を高めとするだけでは不十分であり、圧延時と鍛造時の両方について加熱温度を高めとしないと異常粒成長が防止できないことがわかった。この理由は明確ではないが、鍛造前の加熱は、エネルギーの効率化の面から高周波加熱によって行われることがほとんどであり、その場合の加熱時間は1分程度と極めて短時間とならざるを得ず、温度を高めに設定したとしても、AlNに比べ高温でも固溶しにくいNb(C,N)が減圧浸炭処理する場合の異常粒成長を防止できる程度にまで十分に固溶できていないためと推定される。
最後に、析出処理条件を変更した場合の影響を明確にするための実施例を示す。この実施例では、前記した表1に示す鋼のうち1、3鋼を使用し、仕上圧延から鍛造後の冷却までの条件は、後述の表4に示す通りで一定とし、析出処理条件のみを表4に示す通り変化させて、析出処理後の異常粒成長発生状況について調査した。その他、表4に記載した圧延、鍛造条件以外の圧延、鍛造方法、浸炭処理方法、異常粒発生状況の調査方法については、前記実施例と全く同様である。結果を表4に示す。
Claims (2)
- 質量%でC:0.10〜0.30%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.30〜1.50%、Cr:0.30〜2.00%、
Al:0.02〜0.06%、Nb:0.04〜0.08%、N:0.0080〜0.0250%、V:0.01%以下を含有し、残部Fe及び不純物元素からなる鋼に、以下の工程を施すことを特徴とする減圧高温浸炭される熱間鍛造部品の製造方法。
(1)溶製し、製造した鋼塊又は鋳片を粗圧延し得られた鋼材を、1200℃以上の温度にて30分以上加熱保持した後、1100℃以上の温度で仕上圧延し、圧延後500℃までの温度範囲を25℃/分以上の速度で冷却して鍛造用母材を製造する。
(2)鍛造用母材を再度1250℃以上に加熱後、1180℃以上の温度で熱間鍛造する。
(3)熱間鍛造後500℃までの温度範囲を25℃/分以上の速度で冷却する。
(4)900〜1000℃の温度に再加熱し、30分以上保持した後、500℃までを25℃/分以下の速度で徐冷する。 - 請求項1記載の鋼に加えてさらにMo:0.80%以下を含有する鋼に、請求項1記載の工程を施すことを特徴とする減圧高温浸炭される熱間鍛造部品の製造方法。
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