JP4688735B2 - 高温浸炭時の結晶粒粗大化防止特性に優れた熱間圧延材 - Google Patents
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(1)析出物の平均粒径(nm)/析出物の面積率<5.0×104(nm)、
(2)析出物の平均粒径:6nm以上、
(3)析出物の密度:20個/μm2以上、
(4)(析出物中のNb量及び/又はTi量)/(鋼中のNb量及び/又はTi量)
の比率:95%以上
<5.0×10 4 (nm)
Q値は、オーステナイト結晶粒の微細化作用に寄与するパラメータとして本発明者が新たに設けたパラメータの一つであり、析出物の面積率(観察面積に対する析出物の面積の総和の比、詳細は実施例の欄で詳述する。)に対する平均粒径の比で表される。
析出物の平均粒径も、オーステナイト結晶粒の微細化作用に寄与する因子であり、本発明では、特に、析出物の平均粒径の下限を6nmに定めている。前述したように、Q値は小さい方が好ましく、そのためには、析出物の平均粒径を出来るだけ小さくした方が良いが、析出物が微細になり過ぎると、異常粒の成長が発生してしまうためである。すなわち、浸炭前の熱間圧延時に存在する析出物の平均粒径が6nm未満の場合、浸炭時における析出物の粗大化により析出物の数(密度)の減少速度が大きくなり、その結果、浸炭後に析出物の局所的なバラツキが生じて結晶粒の成長が部分的に促進され、異常粒の成長が発生するようになる(後記する実施例を参照)。
析出物の密度も、オーステナイト結晶粒の微細化作用に寄与する因子であり、本発明では、特に、析出物の密度の下限を20個/μm2に定めている。析出物の密度は、好ましい順に、40個以上/μm2以上、50個以上/μm2以上、70個以上/μm2以上である。なお、その上限は、主に、前述したQ値や析出物の平均粒径とのバランスによって定められ、一義的に定めることは困難であるが、おおむね、1000個/μm2であることが好ましく、600個/μm2であることがより好ましい。
R値=(析出物中のNb量及び/又はTi量)/(鋼中のNb量及び/又はTi量)
×100
R値は、オーステナイト結晶粒の微細化作用に寄与するパラメータとして本発明者が新たに設けたパラメータの一つである。
次に、鋼の化学成分を説明する。
Cは、機械部品に必要な芯部硬さの確保に重要な元素である。C量が0.10%未満の場合、硬さ不足により、機械部品としての静的強度が不足するため、下限を0.10%とする。ただし、C量が過剰になると、芯部硬さが過度に高くなって脆化し、機械部品の衝撃特性が劣化するため、上限を0.30%とする。C量は、0.15%以上0.25%以下であることが好ましく、0.17%以上0.23%以下であることがより好ましい。
Siは固溶強化元素であり、また、浸炭後の焼戻し処理時の硬さ低下を抑制し、芯部硬さを確保する元素である。このような作用を有効に発揮させるため、Si量の下限を0.01%とする。ただし、Si量が過剰になると、素材の硬さが高くなりすぎて機械部品の衝撃特性が劣化するため、上限を1.0%とする。Si量は、0.02%以上0.8%以下であることが好ましく、0.05%以上0.6%以下であることがより好ましい。
Mnは、焼入性を高め、浸炭焼入れ−焼戻し後の芯部硬さの確保に寄与する元素である。このような作用を有効に発揮させるため、Mn量の下限を0.2%とする。ただし、Mn量が過剰になると、偏析が顕著になって衝撃特性が低下するため、Mn量の上限を2.0%とする。Mn量は、0.20%以上1.5%以下であることが好ましく、0.30%以上1.0%以下であることがより好ましい。
Pは、結晶粒界に偏析して機械部品の衝撃特性を低下させるため、P量の上限を0.03%とする。P量は極力低減することが良く、例えば、0.015%以下に抑制することが好ましく、0.010%以下であることがより好ましい。
Sは、被削性改善に寄与する一方、過剰に添加すると、MnまたはTiと結合してMnS系介在物やTiS系介在物等を生成し、機械部品の衝撃強度低下を招く元素である。従って、S量は、目的に応じて適切な範囲に定められる。本発明では、S量の上限を0.2%としているが、被削性を考慮しない場合、S量は極力低減することが良く、例えば、0.05%以下であることが好ましい。一方、被削性の改善を目的とする場合には、S量は、0.05%超であることが好ましく、これにより、Sによる被削性改善作用が有効に発揮される。被削性とのバランスを考慮すれば、S量は、0.01%以上0.07%以下であることが好ましい。
Alは、鋼中のNと結合してAlNを生成し、浸炭時のオーステナイト結晶粒粗大化防止作用に寄与する元素である。このような作用を有効に発揮させるため、Al量の下限を0.01%とする。ただし、過剰に添加すると、Al2O3の介在物が多量に形成され、機械部品の衝撃特性が劣化するため、上限を0.10%とする。Al量は、0.015%以上0.090%以下であることが好ましく、0.020%以上0.070%以下であることがより好ましい。
Nは、TiやNbと結合して析出物を形成し、浸炭時の加熱工程でオーステナイト粒の微細化および異常粒成長の抑制に寄与する元素である。Nは、通常、製造過程などで鋼中に不可避的に含まれるが、所望とする析出物形成のため、下限を0.003%とする。ただし、Nを過剰に添加すると熱間加工性が低下し、鋳造時、熱間圧延時、または熱間鍛造時に割れが発生するため、上限を0.030%とする。N量は、0.005%以上0.028%であることが好ましく、0.008%以上0.025%以下であることがより好ましい。
NbおよびTiは、鋼中のN及び/又はCと結合して炭化物や炭窒化物を生成し、浸炭時のオーステナイト粒の微細化および異常粒成長の抑制に寄与する元素である。NbおよびTiは、単独で用いても良いし、併用しても良い。上記作用を有効に発揮させるため、上記元素の合計量(単独で用いる場合は単独の量)の下限を0.010%とする。ただし、過剰に添加しても上記作用が飽和するため、上限を0.20%とする。上記元素の下限は、0.02%以上0.18%以下であることが好ましく、0.03%以上0.15%以下であることがより好ましい。
これらの元素は、焼入れ性を高めて浸炭焼入れ−焼戻し後の芯部硬さ向上に寄与する元素である。上記の元素は単独で用いても良いし、2種以上を併用しても構わない。このような作用を有効に発揮させるため、Crを0.1%以上、Moを0.01%以上、Niを0.01%以上、Cuを0.01%以上、Bを0.0005%以上含有することが好ましい。但し、過剰に添加しても上記作用が飽和してしまうため、上限をそれぞれ、Cr:2.0%、Mo:1.0%、Ni:3.0%、Cu:1.0%、B:0.010%とすることが好ましく、Cr:1.5%、Mo:0.7%、Ni:1.0%、Cu:0.5%、B:0.003%とすることがより好ましい。
Pb及びBiは被削性改善元素であり、単独で使用しても良いし、併用しても良い。このような作用を有効に発揮させるため、Pbを0.01%以上、Biを0.01%以上含有することが好ましい。ただし、過剰に添加すると機械部品の衝撃特性が劣化するため、上限をそれぞれ、Pb:0.1%、Bi:0.1%とすることが好ましく、Pb:0.05%、Bi:0.05%とすることがより好ましい。
Mg、Ca,Teは、酸化物系介在物を微細化して機械部品の衝撃特性向上に寄与する元素であり、単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。このような作用を有効に発揮させるため、Mgを0.0001%以上、Caを0.0001%以上、Teを0.0001%以上とすることが好ましい。ただし、過剰に添加しても上記作用は飽和するため、上限をそれぞれ、Mg:0.02%、Ca:0.02%、Teを0.02%とすることが好ましく、Mg:0.01%、Ca:0.01%、Te:0.01%とすることがより好ましい。
Zr、Hf、Vは、Nb及び/又はTiを含有する析出物と結合して複合析出物を形成し、結晶粒粗大化防止作用の促進に寄与する元素である。これらの元素は、単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。このような作用を有効に発揮させるため、Zrを0.01%以上、Hfを0.01%以上、Vを0.01%以上とすることが好ましい。ただし、過剰に添加しても上記作用は飽和するため、上限をそれぞれ、Zr:0.1%、Hf:0.1%、Vを0.1%とすることが好ましく、Zr:0.08%、Hf:0.08%、V:0.08%とすることがより好ましい。
加熱工程1は、1200℃以上の温度(図1中、T1)に加熱した後、室温まで冷却する工程を包含する。1200℃以上の温度で加熱するのは、溶製時の冷却過程で形成される50nm超の粗大な析出物を一旦溶解するためであり、これにより、次の加熱工程2で再析出する析出物の分布状態が適切に制御される。加熱温度T1が1200℃を下回ると、後記する実施例に示すように、その後の加熱工程2を適切に制御したとしても粗大な析出物が固溶せず、前述したQ値が上昇するため、浸炭後の結晶粒が粗大化してしまう。加熱温度T1は1230℃以上であることが好ましく、1250℃以上であることがより好ましい。なお、加熱温度T1の上限は特に限定されないが、設備などとの関係で、約1350℃以下に制御することが好ましい。また、加熱時間(図1中、t1)は加熱温度T1との関係で適切に制御すれば良いが、おおむね、30分間〜30時間の範囲内であることが好ましい。
加熱工程2は、本発明の製造工程を最も特徴付ける部分であり、以下に詳述するように、熱間圧延時、または熱間圧延前・後にそれぞれ施される加熱処理時の加熱温度および加熱時間を適切に制御することにより、前述した要件(1)〜(4)をすべて満足する熱間圧延材が得られる(後記する実施例を参照)。
Ac3点(℃)=910−203√C+44Si−30Mn−11Cr−31.5Mo−20Cu−15Ni
図1の条件Aは、熱間圧延のみを行なう方法である。ここでは、熱間圧延時の加熱温度T2をAc3点以上1000℃以下の範囲内に制御し、且つ、当該加熱温度での加熱時間t2を2時間以上24時間以下の範囲内に制御する。熱間圧延後の冷却速度は特に限定されず、例えば、0.1〜10℃/sの範囲内に制御すれば良い。
図1の条件Bは、熱間圧延の前に加熱処理を1回行なう方法である。ここでは、熱間圧延前の加熱処理時の加熱温度T2aおよび熱間圧延時の加熱温度T2を、いずれも、Ac3点以上1000℃以下の範囲内に制御し、且つ、当該加熱温度T2aでの加熱時間t2aと当該加熱温度T2での加熱時間t2の合計を2時間以上24時間以下の範囲内に制御する。
図1の条件Cは、熱間圧延の後に加熱処理を1回行なう方法である。ここでは、熱間圧延時の加熱温度T2および熱間圧延後の加熱処理時の加熱温度T2bを、いずれも、Ac3点以上1000℃以下の範囲内に制御し、且つ、当該加熱温度T2での加熱時間t2と当該加熱温度T2bでの加熱時間t2bとの合計を2時間以上24時間以下の範囲内に制御する。
小型真空溶製炉を用いて表1に示す組成の鋼(残部:鉄および不可避不純物)を溶製した後、表2に示す加熱工程1(表2に記載の加熱温度T1で2時間保持)を行ない、縦155mm、横155mmの角柱に熱間鍛造した後、室温まで空冷した。
(条件A)
図1のT2:表2に示すように、920〜1100℃の範囲内で変更
図1のt2:表2に示すように、0.5〜50時間の範囲内で変更
上記のように種々の加熱温度および加熱時間で熱間圧延を行なった後、φ30mmの棒鋼に鍛造し、空冷した。
図1のT2a=900℃(注:Ac3点以上)、t2a=0.5時間
図1のT2=900℃(注:Ac3点以上)、t2=4.5時間
まず、900℃の温度に加熱して0.5時間加熱した後、室温まで空冷した。次に、熱間圧延(900℃の温度で4.5時間加熱)を行った後、φ30mmの棒鋼に鍛造し、空冷した。表2には、加熱工程2での加熱時間の合計(t2a+t2)を記載している。
図1のT2=900℃(注:Ac3点以上)、t2=0.5時間
図1のT2a=900℃(注:Ac3点以上)、t2a=4.5時間
まず、熱間圧延(900℃の温度で0.5時間加熱)を行なった後、φ30mmの棒鋼に鍛造し、空冷した。次に、900℃の温度で4.5時間加熱した後、空冷した。表2には、加熱工程2での加熱時間の合計(t2+t2a)を記載している。
表2のNo.1〜No.34、No.36〜No.43の試料について、富士電波工機製「THERMECMASTER−Z」を用いて1000℃の温度で10分加熱した後、950℃で加工率70%の圧縮加工を行い、1℃/sの冷却速度で200℃以下まで冷却した。
表2のNo.35の試料について、プレス機を用い、室温にて加工率70%の圧縮加工を行った。
次に、鍛造後の試料を用い、以下に示すように、浸炭を模擬した実験を行なった。
具体的には、1075℃、1100℃、または1110℃の温度に加熱した後、3時間保持し、その後、水冷した。
熱間圧延後の試料(表2のNo.1〜No.42)を用い、D/4(Dは直径)位置から抽出レプリカを作製し、これを日立製作所製の透過型電子顕微鏡(商品名「H−800」、TEM)を用いて、高角散乱暗視野法(HAADF)にて倍率100,000倍で5視野(約1μm2/視野)を写真撮影し、HAADF像を得た。
次に、画像解析ソフト(Micromedia社製Image Pro)を用いて、上記のようにして得られたHAADF像(観察面積約5μm2)を解析し、個々の析出物の面積および個数を測定した。ただし、円相当径が100nm超の非常の粗大な析出物性は除外した。この結果に基づいて下記(a)〜(c)を算出し、Q値を算出した。
下式に基づき、円相当径に換算したものを析出物の平均粒径とした。
=(観察面積中に測定される析出物の面積の総和)/(観察面積)
(c)析出物の密度=(析出物の個数)/(観察面積)
浸炭後の試料を用い、光学顕微鏡(倍率100倍)で10視野(約0.5mm2/視野)観察し、JIS G 0551に規定のオーステナイト結晶粒度番号5番(結晶粒サイズ約50μm)より大きいものを粗大化している領域(粗粒域)とし、粗粒域が視野面積(10視野の合計面積)に占める比率(粗粒率)を算出した。
○:粗粒化率0%
△:粗粒化率1%以上4%以下
×:粗粒化率5%以上
表3の「結晶粒粗大化状況」の欄には、各浸炭条件の温度ごとに粗粒率の結果(○、△、×)を記載している。
1100℃の温度で浸炭を行なった後の粗粒化率が○または△の場合、「結晶粒粗大化防止特性に優れている。」と判定した。
1075℃の温度で浸炭を行なった後の粗粒化率が○または△の場合、「結晶粒粗大化防止特性に優れている。」と判定した。
Claims (6)
- 鋼中成分は、
C :0.10〜0.30%(質量%の意味、以下同じ。)、
Si:0.01〜1.0%、
Mn:0.2〜2.0%、
P :0.03%以下、
S :0.2%以下、
Al:0.01〜0.10%、
N :0.003〜0.030%、
Nbおよび/またはTi:0.010〜0.20%、
残部:Feおよび不可避不純物であり、
フェライト中に下記(1)〜(4)の要件を満足する、Nb及び/又はTi含有析出物を含有し、前記Nb及び/又はTi含有析出物は、Nb炭化物、Nb炭窒化物、Ti炭化物、Nb−Ti複合炭化物、及びNb−Ti複合炭窒化物よりなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする高温浸炭時の結晶粒粗大化防止特性に優れた熱間圧延材。
(1)析出物の平均粒径(nm)/析出物の面積率<5.0×104(nm)、
(2)析出物の平均粒径:6nm以上、
(3)析出物の密度:20個/μm2以上、
(4)(析出物中のNb量及び/又はTi量)/(鋼中のNb量及び/又はTi量)
の比率:95%以上 - 更に、Cr:2.0%以下、Mo:1.0%以下、Ni:3.0%以下、Cu:1.0%以下、およびB:0.010%以下よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する請求項1に記載の熱間圧延材。
- 更に、Pb:0.1%以下および/またはBi:0.1%以下を含有する請求項1または2に記載の熱間圧延材。
- 更に、Mg:0.02%以下、Ca:0.02%以下、およびTe:0.02%以下よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の熱間圧延材。
- 更に、Zr:0.1%以下、Hf:0.1%以下、およびV:0.1%以下よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の熱間圧延材。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の熱間圧延材を用いて得られる機械部品。
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