JPH11156624A - スローアウェイ式ボールエンドミル - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【課題】 引き上げ加工で要求される大きな切り込み深
さを得るとともに、工具先端の回転中心近傍におけるス
ローアウェイチップの損傷を抑える。 【解決手段】 軸線Ｏ回りに回転される工具本体１１の
先端部に、略１／４円弧状をなす円弧状切刃部１５ａを
備えた切刃１５が形成された一対のスローアウェイチッ
プ１６Ａ，１６Ｂを、軸線Ｏを挟んで互いに反対側に着
脱自在に装着してなり、これら一対のスローアウェイチ
ップ１６Ａ，１６Ｂを、それぞれの円弧状切刃部１５ａ
が、その先端を工具回転中心Ｃに位置させるとともに軸
線Ｏ回りの回転軌跡を互いに一致させるように配設し、
かつ、一方のスローアウェイチップ１６Ａの切刃１５
を、その円弧状切刃部１５ａよりも後端側の後端側切刃
部１５ｂが、他方のスローアウェイチップ１６Ｂの切刃
１５の後端１５ｄ位置よりも軸線Ｏ方向後端側に延長す
るように設ける。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は、工具本体の先端部
に１／４円弧状切刃部を有する切刃が形成されたスロー
アウェイチップ（以下、チップと称する。）が装着され
たスローアウェイ式ボールエンドミル（以下、ボールエ
ンドミルと称する。）に係わり、特にこの工具本体をそ
の回転軸線回りに回転しつつ該軸線に斜交する方向に引
き上げて切削を行う、いわゆる引き上げ加工に用いて好
適なボールエンドミルに関するものである。

【０００２】

【従来の技術】この種のボールエンドミルとしては、例
えば図１０に示すようなものが提案されている。この図
１０に示すボールエンドミルは、実開平５−６３７２２
号公報に記載されたものであって、軸線Ｏ回りに回転さ
れる工具本体１の先端部に形成された一対のチップ取付
座２，２に、略１／４円弧状切刃部３ａと直線状切刃部
３ｂとを備えた切刃３を有する同形同大のチップ４，４
が、上記円弧状切刃部３ａを工具先端の回転中心側から
後端外周側に位置させるとともに、直線状切刃部３ｂを
この円弧状切刃部３ａの後端から軸線Ｏ方向後端側に延
びるように位置させ、それぞれの切刃３，３の軸線Ｏ回
りの回転軌跡が互いに一致するようにして、クランプネ
ジ５により着脱自在に装着された構成となっている。こ
こで、両チップ４，４の切刃３，３の先端、すなわち上
記円弧状切刃部３ａ，３ａの内周端は、工具回転中心近
傍におけるチップ４，４の偏摩耗を防ぐため、軸線Ｏか
ら僅かに離れた位置に配置されている。

【０００３】

【発明が解決しようとする課題】ところで、このような
ボールエンドミルでは、その工具本体１を軸線Ｏ回りに
回転させつつ該軸線Ｏに交差する方向に送り出して、上
記切刃３，３により被削材に断面半円形の底部を有する
溝を形成して行くのであるが、この際、工具本体１を軸
線Ｏに直交する方向に送り出して切削を行う一般的な切
削加工の他に、工具本体１をその後端側に軸線Ｏに斜交
する方向に引き上げながら切削を行い、被削材に底部が
傾斜した溝等を形成する、いわゆる引き上げ加工を行う
場合がある。しかるに、このような引き上げ加工を行う
場合には、被削材に形成される溝の深さが工具本体１の
送りに伴い変化するので、当該ボールエンドミルの切刃
３には最も深い溝深さに応じた切り込み深さが求められ
るが、上記従来のボールエンドミルでは、一対の同形同
大のチップ４，４がその切刃３，３の回転軌跡を一致さ
せて取り付けられているだけであるので、この切刃３の
長さ以上に切り込み深さを設定することはできない。従
って、このようなボールエンドミルにより、上述のよう
に被削材に底部が傾斜した溝を形成するには、切刃３に
応じた切り込み深さで複数回に分けて切削を行わなけれ
ばならず、加工効率が損なわれることが避けられなかっ
た。

【０００４】一方、このようなボールエンドミルにおい
ては、複数のチップを、互いの切刃の回転軌跡が工具本
体の軸線方向に連続するようにして、個々のチップの切
刃長以上の切り込み深さを得るようにしたものも提案さ
れてはいるが、そのようなボールエンドミルでは、断面
半円状の溝の底部を切削する円弧状切刃部も複数の切刃
により分割されて構成されてしまうため、工具先端の回
転中心近傍には、一つのチップしか配置することができ
なくなってしまう。ところが、この工具先端の回転中心
では、切削速度が０に近くなるため切刃には大きな切削
負荷が作用することが知られており、従ってこのような
構成のボールエンドミルでは、この工具先端の回転中心
近傍に配置されるチップにおいて、その寿命が著しく短
縮されてしまうという問題があった。

【０００５】本発明は、このような背景の下になされた
もので、特に引き上げ加工において要求される大きな切
り込み深さを得ることができるとともに、工具先端の回
転中心近傍におけるチップの損傷を抑えることが可能な
ボールエンドミルを提供することを目的としている。

【０００６】

【課題を解決するための手段】上記課題を解決して、こ
のような目的を達成するために、本発明は、軸線回りに
回転される工具本体の先端部に形成されたチップ取付座
に、略１／４円弧状をなす円弧状切刃部を備えた切刃が
形成された一対のチップが、上記円弧状切刃部を上記工
具本体先端の工具回転中心から工具後端外周側に延びる
ように位置させて、上記軸線を挟んで互いに反対側に着
脱自在に装着されてなるボールエンドミルにおいて、上
記一対のチップを、それぞれの上記円弧状切刃部が、そ
の先端を上記工具回転中心に位置させるとともに上記軸
線回りの回転軌跡を互いに一致させるように配設し、か
つ、一方のチップの上記切刃を、その上記円弧状切刃部
よりも後端側が、他方のチップの上記切刃の後端位置よ
りも上記軸線方向後端側に延長するようにしたことを特
徴とする。

【０００７】従って、このように構成されたボールエン
ドミルでは、上記一対のチップの円弧状切刃部の先端が
工具回転中心に位置しているので、工具回転中心におい
て切刃に作用する切削負荷を一対のチップで分散させる
ことができ、チップの損傷を防止することができる。そ
して、その一方で、これら一対のチップのうち、一方の
チップの切刃の円弧状切刃部よりも後端側が、他方のチ
ップの後端位置よりも工具軸線方向後端側に延長されて
いるので、例えばこの他方のチップの後端側に、上記軸
線回りの回転軌跡において、上記一方のチップの切刃の
軸線方向後端側に連続する切刃を有する補助チップを取
り付けることにより、回転軌跡におけるボールエンドミ
ルの軸線方向の切刃長を延長させることができ、これに
より、引き上げ加工において要求される切り込み深さに
も十分に対応しうる切刃長を与えることが可能となる。

【０００８】ここで、少なくとも上記一方のチップの切
刃の上記円弧状切刃部よりも後端側を、工具回転方向側
から見て上記軸線方向後端側に向かうに従い工具内周側
に向かうように形成することにより、例えばこの円弧状
切刃部よりも後端側の切刃部を上記軸線に平行に形成し
た場合などに比べ、この軸線方向の切刃長が同じならば
実際の切刃長を長くすることができ、逆に単位長さ当た
りの切刃に作用する切削負荷は低減されるので、特に上
記引き上げ加工の際などに、チップの損傷をより確実に
防止することができる。さらに、少なくともこの一方の
チップの切刃の上記円弧状切刃部よりも後端側に、正の
軸方向すくい角を与えることにより、特に引き上げ加工
の際に実際のすくい角が負角側に偏っても、切刃の切れ
味が損なわれるのを防いで切削抵抗の低減を図ることが
できる。また、上記円弧状切刃部を、工具回転方向に膨
らむ凸曲線状に形成することにより、この円弧状切刃部
の工具回転方向後方にチップ本体の肉厚を十分に確保す
ることができ、チップの損傷をさらに確実に防止するこ
とができる。

【０００９】一方、少なくとも上記一対のチップを、そ
のチップ本体の下面を上記チップ取付座の底面に密着さ
せて、上記チップ本体に形成された取付穴に挿通される
クランプネジを上記底面に形成されたネジ穴にねじ込む
ことにより上記チップ取付座に装着するようにした場合
に、上記チップ本体の下面に、一端が上記取付穴の開口
部に連通するとともに他端が該チップ本体の工具内周側
を向く側面に開口する凹溝部を形成する一方、上記チッ
プ取付座の底面には、この凹溝部に係合する突条部を形
成することにより、これら凹溝部と突条部との係合によ
ってチップがチップ取付座に正確に位置決めされるとと
もに、特に引き上げ加工の際にチップに工具先端側に向
けて作用する負荷に対しても、チップを強固に保持して
着座安定性を確保することができる。

【００１０】

【発明の実施の形態】図１ないし図９は、本発明のボー
ルエンドミルの一実施形態を示すものである。本実施形
態において工具本体１１は略円柱状をなし、その先端部
は略半球状に形成されるとともに、この先端部には工具
本体１１の回転軸線Ｏを挟んで互いに反対側に一対のチ
ップポケット１２，１２が形成されていて、これらのチ
ップポケット１２，１２の工具回転方向Ｔ側を向く壁面
には、それぞれ一対ずつのチップ取付座１３Ａ，１４Ａ
およびチップ取付座１３Ｂ，１４Ｂが工具先端側と後端
側とに間隔をおいて形成されており、このうち工具先端
側のチップ取付座１３Ａ，１３Ｂには、円弧状切刃部１
５ａを備えた切刃１５を有するチップ１６Ａ，１６Ｂ
が、また後端側のチップ取付座１４Ａ，１４Ｂには、略
正三角形平板状の補助チップ１７，１７が、それぞれク
ランプネジ１８によって着脱自在に装着されている。

【００１１】ここで、上記工具先端側のチップ取付座１
３Ａ，１３Ｂは、上記チップポケット１２から工具回転
方向Ｔの後方側に一段凹んで工具回転方向Ｔ側を向く底
面１３ａと、この底面１３ａから屹立して工具外周側を
向く壁面１３ｂおよび工具先端側を向く壁面１３ｃとか
ら構成されている。また、上記底面１３ａには、上記ク
ランプネジ１８がねじ込まれる取付ネジ穴１９が形成さ
れるとともに、この取付ネジ穴１９の開口部の周りから
上記壁面１３ｂにかけては断面方形をなす突条部２０が
形成されている。なお、この壁面１３ｂは、上記軸線Ｏ
方向後端側に向かうに従い工具外周側に向かうように傾
斜して形成されている一方、上記壁面１３ｃは、軸線Ｏ
方向後端側に向かうに従い工具内周側に向かうように傾
斜しており、上記底面１３ａに対向する方向から見て上
記突条部２０および壁面１３ｃは壁面１３ｂに直交する
方向に形成されている。さらに、これらのチップ取付座
１３Ａ，１３Ｂのうち、一方のチップ取付座（図１およ
び図２において上側のチップ取付座）１３Ａの壁面１３
ｃは、他方のチップ取付座１３Ｂの壁面１３ｃよりも軸
線Ｏ方向後端側に形成されている。

【００１２】一方、上記工具後端側のチップ取付座１４
Ａ，１４Ｂは、上記チップポケット１２から工具回転方
向Ｔの後方側に一段凹んで工具回転方向Ｔ側を向く略正
三角形状の底面と、この底面がなす上記正三角形の２辺
から屹立して工具後端外周側を向く壁面および工具先端
外周側を向く壁面とから構成されており、これら壁面は
軸線Ｏに直交する平面に対して対称に形成されている。
そして、これら工具後端側のチップ取付座１４Ａ，１４
Ｂのうち、工具先端側の上記一方のチップ取付座１３Ａ
と同じチップポケット１２に形成されるチップ取付座１
４Ａは、この一方のチップ取付座１３Ａの後方に間隔を
おいて配設され、これに対して工具先端側の上記他方の
チップ取付座１３Ｂと同じチップポケット１２に形成さ
れるチップ取付座１４Ｂは、この他方のチップ取付座１
３Ｂの直ぐ後方に隣接して配設されている。

【００１３】このように形成されたチップ取付座１３
Ａ，１３Ｂ，１４Ａ，１４Ｂのうち、工具先端側のチッ
プ取付座１３Ａ，１３Ｂに取り付けられる上記チップ１
６Ａ，１６Ｂは、そのチップ本体２１が超硬合金等の硬
質材料から形成されて図５および図６ないし図９に示す
ように概略扇形平板状をなし、すくい面とされる上面２
１ａとチップ取付座１３Ａ，１３Ｂの下面１３ａへの着
座面とされる下面２１ｂと、これら上下面２１ａ，２１
ｂの周りに配置される円錐面状の側面２１ｃおよび平滑
な側面２１ｄ〜２１ｆとを備えていて、これらの側面２
１ｃ〜２１ｆは、下面２１ｂ側に向かうに従いチップ本
体２１の内側に傾斜するように形成されている。ただ
し、図５は上記一方のチップ取付座１３Ａに装着される
一方のチップ１６Ａを示すものであり、図６ないし図９
は、他方のチップ取付座１３Ｂに装着される他方のチッ
プ１６Ｂを示すものである。そして、両チップ１６Ａ，
１６Ｂにおいて上記切刃１５は上記上面２１ａと円錐面
状の側面２１ｃとの交差稜線部に形成されており、従っ
てこの側面２１ｃは上記切刃１５の逃げ面とされるとと
もに、当該チップ１６Ａ，１６Ｂはこの逃げ面に逃げ角
が付されたポジティブチップとされている。

【００１４】さらに、この切刃１５は、上記上面２１ａ
に対向する方向から見て略１／４円弧状をなす先端側の
上記円弧状切刃部１５ａと、この円弧状切刃部１５ａの
後端側に連なり、該円弧状切刃部１５ａと等しい曲率半
径の円弧状に延びた後、この円弧の接線方向に直線状に
延びる後端側切刃部１５ｂとから構成されている。ま
た、本実施形態ではこの切刃１５は、上記側面２１ｃに
対向する方向から見た場合には、図７に示すように上記
円弧状切刃部１５ａが下面２１ｂに対して上方に膨らむ
凸円弧状に形成されるとともに、上記後端側切刃部１５
ｂは、この凸円弧状の円弧状切刃部１５ａの後端におけ
る該凸円弧の接線方向に延びて、該円弧状切刃部１５ａ
の後端から離間するに従い下面２１ｂ側に向かう直線状
に形成されている。そして、この後端側切刃部１５ｂの
長さは、上記上面２１ａに対向する方向から見て直線状
に延びる部分が、上記一方のチップ１６Ａの方が他方の
チップ１６Ｂよりも長くなるように形成されており、こ
れに伴い切刃１５の先端から側面２１ｆまでのチップ本
体２１の長さも、一方のチップ１６Ａの方が他方のチッ
プ１６Ｂよりも長く形成されることとなる。

【００１５】なお、本実施形態のチップ１６Ａ，１６Ｂ
のチップ本体２１においては、すくい面とされる上記上
面２１ａに、切刃１５に沿って凹溝状のチップブレーカ
部２２が形成されており、これにより上記円弧状切刃部
１５ａおよび後端側切刃部１５ｂには正のすくい角が与
えられている。また、上記上面２１ａのチップブレーカ
部２２よりも内側の部分は、上面２１ａに対向する方向
から見て切刃１５がなす円弧の径方向内周側に向けて、
上方に隆起した後に下面２１ｂに平行な平坦面をなすよ
うに形成されており、この平坦面から下面２１ｂにかけ
ては、上記クランプネジ１８が挿通される取付穴２３が
チップ本体２１を貫通するように形成されている。さら
に、チップ本体２１の下面２１ｂには、この取付穴２３
の開口部の周縁に一端を有するとともに他端が上記側面
２１ｄに開口する断面方形の凹溝部２４が、下面２１ｂ
に対向する方向から見て該側面２１ｄに垂直となるよう
に形成されている。

【００１６】また、上記切刃１５の先端部、すなわち上
記後端側切刃部１５ｂとは反対側の円弧状切刃部１５ａ
の端部においては、上記チップ本体２１の上面２１ａと
側面２１ｄとの交差稜線部、および側面２１ｃと側面２
１ｄとの交差稜線部に、側面２１ｄに対して鈍角に面取
りが施されており、これらの面取り面同士の交差稜線部
には、側面２１ｃ側に向かうに従い下面２１ｂ側に向か
う直線状の小切刃１５ｃが形成されている。従って、こ
の小切刃１５ｃは上記円弧状切刃部１５ａに鈍角に交差
するように形成される。さらに、チップ本体２１の上記
側面２１ｄと側面２１ｆとは、上面２１ａに対向する方
向から見て互いに直交する方向に形成され、これらの側
面２１ｄ，２１ｆの間に配置される側面２１ｅは、両側
面２１ｄ，２１ｆに鈍角に交差するように形成されてい
る。さらにまた、これらの側面２１ｄ〜２１ｆと下面２
１ｂとの交差稜線部には面取りが施されている。

【００１７】このように構成されたチップ１６Ａ，１６
Ｂは、それぞれそのチップ本体２１の下面２１ｂをチッ
プ取付座１３Ａ，１３Ｂの底面１３ａに密着させるとと
もに側面２１ｄ，２１ｆを壁面１３ｂ，１３ｃに当接さ
せ、また下面２１ｂに形成された凹溝部２４を上記底面
１３ａの突条部２０に係合させてチップ取付座１３Ａ，
１３Ｂに着座され、上記取付穴２３に挿通されたクラン
プネジ１８を上記底面１３ａの取付ネジ穴１９にねじ込
むことにより、工具本体１１に取り付けられて固定され
る。そして、この取付状態においてこれらチップ１６
Ａ，１６Ｂは、図２に示すように互いの切刃１５，１５
の先端（上記小切刃１５ｃの先端）が工具先端の上記軸
線Ｏ上、すなわち工具回転中心Ｃに一致し、かつ両切刃
１５，１５の円弧状切刃部１５ａ，１５ａ同士の軸線Ｏ
回りの回転軌跡が互いに一致して半球状をなすように配
設されている。さらに、上記一方のチップ取付座１３Ａ
に装着された一方のチップ１６Ａの後端側切刃部１５ｂ
の長さが、他方のチップ取付座１３Ｂの他方のチップ１
６Ｂの後端側切刃部１５ｂよりも長く形成されているこ
とに伴い、両切刃１５，１５の後端１５ｄの位置も、一
方のチップ１６Ａの切刃１５の後端１５ｄの方が、他方
のチップ１６Ｂの切刃１５の後端１５ｄよりも工具本体
１１の軸線Ｏ方向後端側に延長して配置されることとな
る。

【００１８】一方、上記後端側のチップ取付座１４Ａ，
１４Ｂに装着される補助チップ１７，１７は、いずれも
超硬合金等の硬質材料から上述のように略正三角形平板
状に形成されたポジティブチップであって、そのすくい
面となる正三角形状の上面の３つの辺稜部にはそれぞれ
切刃２５…が形成されている。そして、これらの補助チ
ップ１７，１７は、それぞれ一の上記切刃２５を軸線Ｏ
に平行とし、かつ軸線Ｏから互いに等しい距離で工具外
周側に突出させ、その正三角形状の下面をチップ取付座
１４Ａ，１４Ｂの上記底面に密着させるとともに、上記
一の切刃２５に連なる側面以外の２つの側面をチップ取
付座１４Ａ，１４Ｂの上記壁面に当接させて着座させら
れ、上記クランプネジ１８によって工具本体１１に取り
付けられて固定されている。なお、これらの補助チップ
１７，１７の工具外周側に突出する切刃２５，２５の軸
線Ｏからの距離は、工具先端側に装着された上記チップ
１６Ａ，１６Ｂの切刃１５の軸線Ｏからの最外径と等し
く設定されている。

【００１９】さらに、これらの補助チップ１７，１７
は、工具先端側の上記他方のチップ取付座１３Ｂの直ぐ
後方に隣接するチップ取付座１４Ｂに装着された補助チ
ップ１７の切刃２５の先端２５ａが、上記一方のチップ
取付座１３Ａに装着されたチップ１６Ａの切刃１５の後
端１５ｄよりも軸線Ｏ方向先端側に配置されるととも
に、この一方のチップ取付座１３Ａの後方に間隔をおい
て配設されるチップ取付座１４Ａに装着された補助チッ
プ１７の切刃２５の先端２５ａは、上記チップ取付座１
４Ｂに装着された補助チップ１７の切刃２５の後端２５
ｂよりも軸線Ｏ方向先端側に配置されている。従って、
これら補助チップ１７，１７の切刃２５，２５は、上記
軸線Ｏ回りの回転軌跡においては、工具先端側の上記一
方のチップ１６Ａの切刃１５から上記該軸線Ｏ方向後端
側に向けて連続することとなる。

【００２０】しかるに、このように構成されたボールエ
ンドミルにおいては、工具先端に取り付けられる一対の
チップ１６Ａ，１６Ｂが、上述のように互いの切刃１
５，１５の先端を工具先端の工具回転中心Ｃに一致さ
せ、かつ互いの円弧状切刃部１５ａ，１５ａ同士の軸線
Ｏ回りの回転軌跡が一致するように配設されているの
で、特に上記工具回転中心Ｃの近傍において作用する大
きな切削負荷を、これら一対のチップ１６Ａ，１６Ｂの
切刃１５，１５に分散させることができ、これによって
チップ１６Ａ，１６Ｂに損傷が生じるような事態を防止
しつつ、断面円弧状の底面を有する溝等を確実に形成す
ることが可能となる。また、特に本実施形態では、上記
切刃１５の先端に、円弧状切刃部１５ａに鈍角に交差す
る小切刃１５ｃが形成されているので、この切刃１５の
先端部における強度を向上させることができ、チップ１
６Ａ，１６Ｂの損傷をより確実に防止することができ
る。

【００２１】そして、その一方で上記構成のボールエン
ドミルでは、これら工具先端側のチップ１６Ａ，１６Ｂ
のうち、一方のチップ１６Ａの切刃１５が他方のチップ
１６Ｂの切刃１５よりも軸線Ｏ方向後端側に長く延長さ
れており、このため、上記他方のチップ１６Ｂの後方に
取り付けられる補助チップ１７の切刃２５を、上記一方
のチップ１６Ａの切刃１５の後端１５ｄに回転軌跡にお
いて連続させることができる。従って、本実施形態によ
れば、このようにチップ１６Ａの切刃１５と補助チップ
１７の切刃２５とが回転軌跡において軸線Ｏ方向に連続
することにより、当該ボールエンドミルに単一のチップ
では得ることのできない長い切刃長を与えることができ
るので、たとえ引き上げ加工等において切り込み深さが
変化する場合であっても、その最大の切り込み深さに応
じて一度に工具本体１１を被削材に切り込ませて切削す
ることが可能となり、従来のように複数回に分けて切削
を行う必要がなくなって、加工効率の向上を図ることが
できる。

【００２２】また、本実施形態では、工具先端側のチッ
プ１６Ａ，１６Ｂの切刃１５の上記後端側切刃部１５ｂ
が、すくい面となるチップ本体２１の上面２１ａに対向
する方向から見て、略１／４円弧状をなす上記円弧状切
刃部１５ａの後端から、該円弧状切刃部１５ａに連なる
円弧を描いた後、この円弧に接する接線方向に延びるよ
うに形成されており、従って、上記円弧状切刃部１５ａ
を、工具先端の回転中心Ｃから後端外周側に延びてその
回転軌跡が半球状となるように配置した際に、この後端
側切刃部１５ｂは工具回転方向Ｔ側から見て後端側に向
かうに従い工具内周側に向かうように配置されることと
なる。このため、例えばこの後端側切刃部１５ｂを上記
補助チップ１７の切刃２５と同じように軸線Ｏに平行に
延びるように形成した場合に比べ、軸線Ｏ方向の長さが
同じならば本実施形態では該後端側切刃部１５ｂの実際
の長さは長くすることができ、逆にこの後端側切刃部１
５ｂの単位長さ当たりに作用する切削負荷は低減される
ので、チップ１６Ａ，１６Ｂの損傷をさらに確実に防止
することが可能となる。

【００２３】なお、後端側切刃部１５ｂがこのように形
成されるのに伴い、該後端側切刃部１５ｂにより形成さ
れる被削材の溝等の壁面は、溝底部から離間するに従い
幅狭となるようにオーバーハング状に削り残されること
となるが、特に上記引き上げ加工の場合においては、そ
の引き上げ方向の角度に応じて、この削り残された部分
を円弧状切刃部１５ａ後端側の最外径部分により削り落
とすことができるので、加工面精度が損なわれるのを防
ぐことができる。また、本実施形態ではこの後端側切刃
部１５ｂは、チップ本体２１の側面２１ｃに対向する方
向から見た場合には、後端１５ｄ側に向かうに従い下面
２１ｂ側に向かって傾斜する直線状に形成されているの
で、当該後端側切刃部１５ｂの円弧状の部分の実際の形
状は、厳密な円弧よりは楕円の長軸方向に延びる弧の部
分に近くなり、これによっても上記オーバーハング状の
削り残し部分が大きくなるのを防ぐことが可能となる。

【００２４】さらに、このように後端側切刃部１５ｂが
傾斜していることにより、図３に示すようにこの後端側
切刃部１５ｂに正の軸方向すくい角を与えることができ
るので、引き上げ加工の際の引き上げ角度により、該後
端側切刃部１５ｂの実際の軸方向すくい角が負角側に偏
っても、その切れ味が損なわれるのを抑えることができ
る。さらにまた、本実施形態では、上記円弧状切刃部１
５ａは、チップ本体２１の側面２１ｃに対向する方向か
ら見て凸円弧状に形成されており、従って当該チップ１
６Ａ，１６Ｂを工具本体１１に装着した際に、この円弧
状切刃部１５ａは工具回転方向Ｔ側に膨らむ凸曲線状を
なすことになるので、該円弧状切刃部１５ａの工具回転
方向Ｔ後方側にチップ本体２１の肉厚を大きく確保する
ことが可能となり、これにより切削負荷に対する切刃強
度を向上させて、チップ１６Ａ，１６Ｂに損傷が生じる
のを一層確実に防止することができる。

【００２５】一方、本実施形態では、上記チップ１６
Ａ，１６Ｂのチップ本体２１の下面２１ｂに、クランプ
ネジ１８の取付穴２３から側面２１ｄに延びる凹溝部２
４が形成される一方、チップ取付座１３Ａ，１３Ｂの底
面１３ａには、取付ネジ穴１９から壁面１３ｂに延びる
突条部２０が形成されており、チップ１６Ａ，１６Ｂは
その凹溝部２４を突条部２０に係合させてチップ取付座
１３Ａ，１３Ｂに装着されている。従って、これら突条
部２０と凹溝部２４との係合により、本実施形態ではチ
ップ１６Ａ，１６Ｂを正確に位置決めして工具本体１１
に取り付けることが可能となるとともに、特に上記引き
上げ加工の際には、この係合によってチップ１６Ａ，１
６Ｂが工具先端側に向けても強固に保持されることにな
るので、かかる引き上げ加工においてもチップ１６Ａ，
１６Ｂにがたつきなどが生じることはなく、より高精度
の加工を促すことが可能となる。これは、本実施形態の
ようにチップ１６Ａ，１６Ｂの後端側切刃部１５ｂが後
端側に向かうに従い工具内周側に向かうように配置され
て、これにより引き上げ加工の際にチップ１６Ａ，１６
Ｂにより大きな工具先端側への負荷が生じやすい場合に
おいて、特に効果的である。

【００２６】しかも、このチップ１６Ａ，１６Ｂの凹溝
部２４は、チップ本体２１の下面２１ｂの上記取付穴２
３の開口部から側面２１ｄまでの間に形成されていて、
反対側の側面２１ｃには達してはおらず、このため、切
刃１５の工具回転方向Ｔ後方側にチップ本体２１の肉厚
を確実に確保することができるとともに、凹溝部２４か
らチップ本体２１が破損するような事態を未然に防い
で、チップ１６Ａ，１６Ｂに損傷が生じるのをさらに確
実に防止することができる。また、本実施形態では、工
具先端側に形成されるチップ取付座１３Ａ，１３Ｂの工
具外周側を向く壁面１３ｂが、軸線Ｏ方向後端側に向か
うに従い工具外周側に向かうように形成されているの
で、上述のようにチップ１６Ａ，１６Ｂの切刃１５の先
端を工具回転中心Ｃに一致させるように配置した場合で
も、軸線Ｏ方向後方側ではこの壁面１３ｂとその工具回
転方向Ｔ後方側に位置するチップポケット１２との間に
工具本体１１の肉厚を確保することができるので、工具
本体１１の先端部における剛性やチップ１６Ａ，１６Ｂ
の取付剛性をも十分に確保して、より安定した切削を行
うことができるという利点も得られる。

【００２７】なお、本実施形態では、上述のように補助
チップ１７を略正三角形平板状に形成して、その切刃２
５が工具本体１１の軸線Ｏに平行となるように配置して
いるが、例えば正方形平板状等の他の形状のチップを補
助チップとして用いることも可能ではある。しかしなが
ら、本実施形態のように、工具先端側に取り付けられる
チップ１６Ａ，１６Ｂが略扇形平板状であって、チップ
取付座１３Ａ，１３Ｂの工具先端側を向く壁面１３ｃが
軸線Ｏ方向後端側に向かうに従い工具内周側に向かうよ
うに傾斜している場合には、このような正方形平板状の
チップを補助チップとして取り付けようとすると、特に
他方のチップ取付座１３Ｂの上記壁面１３ｃと、その直
ぐ後方に隣接することになる補助チップのチップ取付座
との間に工具本体１１の肉厚を十分に確保できなくなる
おそれが生じる。従って、そのような場合には、本実施
形態のような正三角形平板状のチップや、あるいは菱形
平板状のチップなど、工具外周側に突出する切刃を軸線
Ｏと平行とした場合に、チップの工具先端側を向く側面
が後端側に向かうに従い内周側に傾斜するように配置さ
れる形状のチップを、上記補助チップ１７として用いる
のが望ましい。

【００２８】

【発明の効果】以上説明したように、本発明では、円弧
状切刃部を備えた切刃を有して工具先端側に取り付けら
れる一対のチップが、この円弧状切刃部の先端を工具先
端の回転中心に位置させるとともに、該円弧状切刃部の
工具軸線回りの回転軌跡を一致させているので、特に工
具回転中心において作用する大きな切削負荷を一対のチ
ップで分散させて、チップに総称等が生じるのを防止す
ることができる。そして、これらのチップのうち、一方
のチップは、その切刃の円弧状切刃部よりも後端側が、
他方のチップの切刃よりも軸線方向後端側に延長されて
いるので、この他方のチップの後方に、切刃の回転軌跡
が上記一方のチップの切刃に連続する補助チップを設け
ることができ、これにより、特に引き上げ加工において
要求される大きな切り込み深さに対応しうる切刃長を当
該ボールエンドミルに与えることが可能となって、かか
る引き上げ加工を１工程で行うことが可能となり、加工
効率の向上を図ることができる。

【図面の簡単な説明】

【図１】 本発明のボールエンドミルの一実施形態を示
す平面図である。

【図２】 図１に示す実施形態の先端部の拡大平面図で
ある。

【図３】 図１に示す実施形態の先端部の拡大側面図で
ある。

【図４】 図１に示す実施形態の先端部の軸線Ｏ方向先
端側からの拡大正面図である。

【図５】 図１に示す実施形態に装着されるスローアウ
ェイチップのうち一方のスローアウェイチップ１６Ａの
平面図である。

【図６】 図１に示す実施形態に装着されるスローアウ
ェイチップのうち他方のスローアウェイチップ１６Ｂの
平面図である。

【図７】 図６に示すスローアウェイチップ１６Ｂのチ
ップ本体２１の側面２１ｃに対向する方向から見た側面
図である。

【図８】 図６に示すスローアウェイチップ１６Ｂのチ
ップ本体２１の側面２１ｄに対向する方向から見た側面
図である。

【図９】 図６に示すスローアウェイチップ１６Ｂのチ
ップ本体２１の側面２１ｆに対向する方向から見た側面
図である。

【図１０】 従来のボールエンドミルを示す平面図であ
る。

【符号の説明】

１１ 工具本体 １３Ａ，１３Ｂ，１４Ａ，１４Ｂ チップ取付座 １５ 切刃 １５ａ 円弧状切刃部 １５ｂ 後端側切刃部 １６Ａ，１６Ｂ スローアウェイチップ １７ 補助チップ ２０ 突条部 ２１ チップ本体 ２４ 凹溝部 ２５ 補助チップ１７の切刃 Ｏ 工具本体１１の軸線 Ｔ 工具回転方向

フロントページの続き (72)発明者 船木 保三 茨城県結城郡石下町大字古間木1511番地 三菱マテリアル株式会社筑波製作所内

Claims (6)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 軸線回りに回転される工具本体の先端部
   に形成されたチップ取付座に、略１／４円弧状をなす円
   弧状切刃部を備えた切刃が形成された一対のスローアウ
   ェイチップが、上記円弧状切刃部を上記工具本体先端の
   工具回転中心から工具後端外周側に延びるように位置さ
   せて、上記軸線を挟んで互いに反対側に着脱自在に装着
   されてなるスローアウェイ式ボールエンドミルにおい
   て、上記一対のスローアウェイチップは、それぞれの上
   記円弧状切刃部が、その先端を上記工具回転中心に位置
   させるとともに上記軸線回りの回転軌跡を互いに一致さ
   せて配設され、かつ、一方のスローアウェイチップの上
   記切刃は、その上記円弧状切刃部よりも後端側が、他方
   のスローアウェイチップの上記切刃の後端位置よりも上
   記軸線方向後端側に延長されていることを特徴とするス
   ローアウェイ式ボールエンドミル。
2. 【請求項２】 上記他方のスローアウェイチップの後端
   側には、上記軸線回りの回転軌跡において上記一方のス
   ローアウェイチップの切刃の軸線方向後端側に連続する
   切刃を有する補助チップが取り付けられていることを特
   徴とする請求項１に記載のスローアウェイ式ボールエン
   ドミル。
3. 【請求項３】 少なくとも上記一方のスローアウェイチ
   ップの切刃の上記円弧状切刃部よりも後端側は、工具回
   転方向側から見て上記軸線方向後端側に向かうに従い工
   具内周側に向かうように形成されていることを特徴とす
   る請求項１または請求項２に記載のスローアウェイ式ボ
   ールエンドミル。
4. 【請求項４】 少なくとも上記一方のスローアウェイチ
   ップの切刃の上記円弧状切刃部よりも後端側には、正の
   軸方向すくい角が与えられていることを特徴とする請求
   項１ないし請求項３のいずれかに記載のスローアウェイ
   式ボールエンドミル。
5. 【請求項５】 上記円弧状切刃部は、工具回転方向に膨
   らむ凸曲線状に形成されていることを特徴とする請求項
   １ないし請求項４に記載のスローアウェイ式ボールエン
   ドミル。
6. 【請求項６】 上記一対のスローアウェイチップは、そ
   のチップ本体の下面を上記チップ取付座の底面に密着さ
   せて、上記チップ本体に形成された取付穴に挿通される
   クランプネジを上記底面に形成されたネジ穴にねじ込む
   ことにより上記チップ取付座に装着されており、上記チ
   ップ本体の下面には、一端が上記取付穴の開口部に連通
   するとともに他端が該チップ本体の工具内周側を向く側
   面に開口する凹溝部が形成される一方、上記チップ取付
   座の底面には、この凹溝部に係合する突条部が形成され
   ていることを特徴とする請求項１ないし請求項５のいず
   れかに記載のスローアウェイ式ボールエンドミル。