図1ないし図4は、本発明の第1の実施形態のチップ1を示すものである。本実施形態のチップ1は、そのチップ本体2が超硬合金等の硬質材料により形成されて外形が概略正三角形(より具体的には偏六角形)の平板状をなし、この概略正三角形をなす一方の面がすくい面3とされるとともに他方の面がすくい面3に平行な着座面4とされ、またこれらすくい面3および着座面4の周りの側面に逃げ面5が形成されて、この逃げ面5とすくい面3との交差稜線部すなわちすくい面3の辺稜部に切刃が形成されている。なお、本実施形態のチップ1は、すくい面3と逃げ面5とが切刃を介して鋭角に交差するように形成されて逃げ面5に逃げ角が付されたポジティブチップとされており、特にすくい面3に対して着座面4が一回り小さな相似形をなすように形成されて、このすくい面3から着座面4に向かうに従い側面が全体的にチップ本体2の内側に向かうように傾斜させられている。また、これらすくい面3および着座面4の中央には、該すくい面3および着座面4に垂直にチップ本体2をその厚さ方向に貫通する取付孔6が形成されており、この取付孔6にはテーパ部6Aが形成されていて、そのすくい面3側の開口部が着座面4側の開口部に対して一段拡径するようにされている。
ここで、本実施形態のチップ1は、略正三角形平板状に形成されたそのチップ本体2が上記取付孔6の中心線Cに関して120°ずつの回転対称形となるように形成されている。そして、すくい面3がなす三角形の各角部には、このすくい面3に垂直に対向する方向から見て凸円弧状をなすコーナ刃7が形成されるとともに、このコーナ刃7の一端部(図2において中心線Cを中心とした時計回り方向側の端部)7Aに連なるすくい面3の辺稜部には主切刃8が形成されている。また、この主切刃8のコーナ刃7とは反対側の端部(同じく図2において中心線Cを中心とした時計回り方向側の端部)8Aに連なるすくい面3の辺稜部には副切刃9が形成されており、端部7A,8Aを介して連続するこれらコーナ刃7、主切刃8、および副切刃9によって1つの上記切刃が構成されている。従って、本実施形態では、上記中心線Cに関して120°ずつの回転対称に配置される3組のコーナ刃7、主切刃8、および副切刃9によって3つの切刃が1つのチップ本体2のすくい面3の辺稜部に形成されていて、1つのチップ本体2で3回の切刃の使い回しが可能とされている。
ここで、凸円弧状をなす上記コーナ刃7は、その半径rが、後述するすくい面3に内接する円の直径Dに対して0.05〜0.5×Dの大きさとされるとともに、その円弧の扇角が45〜150°程度とされ、この円弧の中心と上記中心線Cとを結ぶ直線と交差するようにされている。また、このコーナ刃7の上記一端部7Aに連なる主切刃8は、本実施形態では上記一端部7Aにおいて円弧状のコーナ刃7に滑らかに接して該一端部7Aにおけるコーナ刃7の接線方向に1直線状に延びる第1直線状部10と、この第1直線状部10におけるコーナ刃7とは反対側の端部10Aにおいて該第1直線状部10に凸V字状をなすように鈍角に交差してやはり1直線状に延びる第2直線状部11とから構成されている。なお、これら第1、第2直線状部10,11の切刃長K,Lは、第2直線状部11の切刃長Lが第1直線状部10の切刃長Kよりも長くされ、その比率K/Lは0.4〜0.9程度とされている。
さらにまた、副切刃9は、本実施形態では主切刃8の上記端部8A、すなわち第2直線状部11のコーナ刃7側とは反対側の端部において該第2直線状部11に滑らかに接する凸円弧状に形成されていて、この端部8Aにおける主切刃8の延長線(第2直線状部11の延長線)に対して該端部8Aから離間するに従い漸次後退するように形成されており、ただしその半径Rは上記内接円の直径Dの1〜100×Dの範囲とされて、コーナ刃7の半径rよりも十分大きくされている。また、この副切刃9の長さ(副切刃9がなす凸円弧の弦の長さ)Gは、上記内接円直径Dに対して0.1〜0.4×Dとされている。なお、本実施形態ではこの副切刃9は、上記すくい面3がなす略正三角形の各辺稜部の略中央に位置して該辺稜に沿って延びるように形成されており、従ってすくい面3上における上記中心線Cを中心とした円は、すくい面3の内側からその直径を徐々に大きくしてゆくと、この副切刃9において当該すくい面3に内接することとなり、この円の直径が本実施形態における上記すくい面3に内接する円の直径Dとされる。
一方、上記主切刃8側とは反対側のコーナ刃7の他端部(図2において中心線Cを中心とした反時計回り方向側の端部)7Bに連なるすくい面3の辺稜部には、この辺稜部に連なるチップ本体2の側面にすくい面3から着座面4に亙って凹所12が形成されて切り欠かれることにより、該コーナ刃7の他端部7Bに隣接して該他端部7Bにおけるコーナ刃7の接線Mに対し上記すくい面3の内側に凹む凹部13が形成されている。また、本実施形態ではこの凹部13の底13Aは直線状をなすように形成されており、従ってチップ本体2の側面に形成される上記凹所12の底面12Aは平面状に形成されることとなる。ただし、この凹所12の底面12Aも、チップ本体2側面の上記切刃(コーナ刃7、主切刃8、および副切刃9)に連なる逃げ面5と同様、すくい面3から着座面4に向かうに従いチップ本体2の内側に向かうように傾斜させられていて、該すくい面3と鋭角に交差するようにされている。
なお、この凹部13の底13Aがなす直線は、本実施形態では上記他端部7Bにおけるコーナ刃7の接線Mに平行に延びるように形成されており、またこの底13Aに連なる凹部13の両端部13B,13Cは、底13Aがなす直線に滑らかに接して該凹部13の両端側に向かうに従いチップ本体2の外側に向かう凹円弧状の曲線とされ、従ってコーナ刃7の上記他端部7B側の端部13Bにおいては、この端部13Bがなす凹円弧が凸円弧状のコーナ刃7にその上記他端部7Bにおいて交差させられることとなる。さらに、コーナ刃7の上記他端部における接線Mとこの接線Mに平行とされた凹部13の上記底13Aとの間の間隔、すなわち凹部13の深さNは、本実施形態では上記内接円の直径Dに対して0.01〜0.05×Dとされ、凹部13の接線M方向の長さAは0.2〜0.5×Dとされている。ただし、この凹部13は、上述のように副切刃9上においてすくい面3に内接することになる上記内接円よりも該すくい面3の内側にまで凹むことはない。
さらに、上述のようにチップ本体2が上記取付孔6の中心線Cに関して120°ずつの回転対称形となるように形成された本実施形態のチップ1では、そのすくい面3がなす上記略正三角形の3つの辺稜部それぞれに、この辺稜部を挟む上記略正三角形の一対の角部のうち一方の角部に形成されたコーナ刃7の一端部7Aから延びる主切刃8および副切刃9と、他方の角部に形成されたコーナ刃7の他端部7Bに連なる凹部13とが形成されることとなり、1つの辺稜部に形成される主切刃8と凹部13とは、副切刃9を該辺稜部の略中央に位置させて該副切刃9を介し互いに鈍角に交差する方向に延びるように配置され、これにより上記すくい面3は具体的には上述のように概略偏六角形状に形成されることとなる。なお、1つの辺稜部に形成される副切刃9と凹部13との間には、この凹部13が連なるコーナ刃7の他端部7Bにおける上記接線Mに沿って延びる極長さの短い直線部14が形成されていて、この直線部14は凸円弧状をなす副切刃9の上記弦と鈍角に交差するようにされており、すなわち凹部13が延びる上記接線M方向が副切刃9の延びる上記弦の方向と鈍角に交差するようにされている。従って、副切刃9を1辺としてみると、上記1つの辺稜部に形成される主切刃8と凹部13とはこの副切刃9に対してもそれぞれ鈍角に交差する方向に延びることとなり、このためすくい面3はさらに具体的には、主切刃8を1つの辺としてみると偏九角形状を呈し、また主切刃8を第1、第2直線状部10,11の2つの辺としてみると偏12角形状を呈することとなる。
次に、図5ないし図8は、このようなチップ1を取り付けた本発明の切削工具の第1の実施形態を示すものである。本実施形態の切削工具は、その切削工具本体16が軸線Oを中心とした外形略円柱状に形成されていて、この切削工具本体16の先端部外周に上記チップ1が着脱可能に取り付けられるとともに、該切削工具本体16の後端部が工作機械の主軸に取り付けられて、上記軸線O回りに図中に符号Tで示す回転方向に回転させられつつ該軸線Oに交差する方向に送り出されることにより、加工物(切削対象)に平面部や立壁部のような加工面を形成してゆく。ここで、本実施形態では、その切削工具本体16の先端部外周に、図6に示すように軸線O方向先端視においてこの切削工具本体16先端部外周をL字状に切り欠くように複数(本実施形態では4つ)のチップポケット17…が周方向にほぼ等間隔に形成されていて、各チップポケット17の切削工具回転方向T側を向く壁面17Aの先端側に形成されたチップ取付座18に、上記実施形態のチップ1がそれぞれ取り付けられており、従って1つの切削工具本体16に複数(やはり本実施形態では4つ)のチップ1…が周方向に等間隔に取り付けられることとなる。なお、チップポケット17…は周方向に不等間隔に形成されていてもよい。
上記チップ取付座18は、切削工具本体16の先端および外周に開口する凹所として形成されていて、上記壁面17Aから回転方向Tの後方に一段凹むように形成された底面18Aと、この底面18Aから上記壁面17Aに立ち上がる壁面(支持面)18B,18Cおよび凸部18Dとから構成されている。このうち底面18Aは、上記軸線Oに平行か、または切削工具本体16の後端側に向かうに従い切削工具回転方向Tの後方側に向けて傾斜する平面状とされており、その中央部には該底面18Aに垂直にネジ孔16Aが切削工具本体16に形成されている。また、壁面18Bはチップ取付座18の内周側に位置して切削工具本体16の先端面から略外周側を向きつつ後端外周側に延びるように、壁面18Cはチップ取付座18の後端外周側に位置して切削工具本体16の外周面から後端内周側に延びるようにそれぞれ形成され、その少なくとも上記壁面17A側の部分は、チップ本体2の着座面4に対する逃げ面5の傾斜とほぼ等しい角度で傾斜する平面状とされている。さらに、凸部18Dはチップ取付座18の後端内周側に位置して切削工具本体16の先端外周側に凸となるようにこれらの壁面18B,18C間に形成され、その突端面はチップ本体2の着座面4に対する上記凹所12の底面12Aの傾斜とほぼ等しい角度で傾斜する平面状とされるとともに、この突端面の幅はこの底面12Aの幅よりも僅かに小さくされている。なお、この凸部18と壁面18B,18Cとの間には半円形の逃げ部18E,18Fが形成されている。
このようなチップ取付座18に、上記チップ1は、そのチップ本体2の1の側面を切削工具本体16の先端側に向けるとともにすくい面3を切削工具回転方向Tに向けて上記着座面4を上記底面18Aに密着させることにより、この1の側面に逃げ面5を有する主切刃8および副切刃9を切削工具本体16の先端側に突出させるとともに該主切刃8に連なるコーナ刃7を切削工具本体16の先端部外周に突出させ、さらにこのコーナ刃7の他端部7Bに隣接する凹部13を切削工具本体16の外周側に向けるようにして着座させられる。このとき、この切削工具本体16の先端部外周に突出させられたコーナ刃7に対向するすくい面3の辺稜部側においては、この辺稜部に形成された主切刃8の第2直線状部11に連なる逃げ面5がチップ取付座18の上記壁面18Bに密着して当接させられるとともに、凹部13に連なる凹所12には上記凸部18Dが入り込んでその上記突端面が底面12Aに密着させられることによりチップ本体2が上記中心線C回りに係合させられ、さらにこれら主切刃8と凹部13との間の副切刃9および直線部14は壁面18Bと凸部18Dとの間の逃げ部18E内に略収容される。また、この凹部13が隣接するコーナ刃7は、切削工具本体16の後端側に向けられて凸部18Dと上記壁面18Cとの間の逃げ部18Fに略収容され、さらにこのコーナ刃7の一端部7Aから延びる主切刃8の第2直線状部11に連なる逃げ面5は、チップ取付座18の上記壁面18Cに密着して当接させられる。そして、こうしてチップ取付座18に着座させられた状態で、上記取付孔6にクランプネジ19を挿通して上記ネジ孔16Aにねじ込むことにより、チップ1は切削工具本体16に着脱可能に取り付けられる。
なお、本実施形態ではこのクランプネジ19の他に、チップ1の取付剛性をより確実に確保するためのクランプ機構20が切削工具本体16に備えられている。このクランプ機構20は、チップポケット17の上記壁面17Aのチップ取付座18の後端側にクランプネジ孔20Aとこれよりも小径の孔20Bとが形成され、クランプネジ孔20Aには、先端がチップ1のすくい面3上にまで延出させられたクランプ駒20Cの中央部に挿通されるクランプネジ20Dが取り付けられるとともに、孔20Bにはコイルスプリング20Eが収容された上で上記クランプ駒20C後端側のピン部が挿入された構成とされており、クランプネジ20Dをクランプネジ孔20Aにねじ込んで締め付けることにより、クランプ駒20Cの先端がチップ本体2のすくい面3をチップ取付座18の底面18A側に押圧してチップ1を切削工具本体16に強固に固定する一方、クランプネジ20Dを緩めたときには、上記コイルスプリング20Eによってクランプ駒20Cが押し上げられてチップ1の押圧が速やかに解かれるようにされている。
こうして切削工具本体16に取り付けられたチップ1においては、チップ取付座18の上記底面18Aが上記軸線Oに平行または切削工具本体16の後端側に向かうに従い切削工具回転方向Tの後方側に向けて傾斜する平面状とされていることにより、切削工具本体16の先端側に突出させられた上記主切刃8および副切刃9と外周側に突出したコーナ刃7とには、正または0°のアキシャルレーキ角αが与えられる。なお、図6に示すように本実施形態ではこれら主切刃8、副切刃9、およびコーナ刃7に負のラジアルレーキ角βが与えられているが、このラジアルレーキ角βについても正または0°であっても構わない。
さらに、上記主切刃8は、コーナ刃7の一端部7Aから切削工具本体16の内周側に向かうに従い先端側に傾斜するように配設されて、軸線Oに直交する平面Pに対し所定の切込み角γが与えられるようにされている。ただし、上記実施形態のチップ1では主切刃8が2つの直線状部10,11により構成されているので、主切刃8の切込み角γも、切削工具本体16外周側に配置される第1直線状部10による大きな切込み角γ10と、内周側に配置される第2直線状部11による小さな切込み角γ11とから構成されることとなる。なお、この第1直線状部10による切込み角γ10は15〜30°の範囲とされるのが望ましく、第2直線状部11による切込み角γ11は5〜20°の範囲とされるのが望ましい。ただし、これらの切込み角γ10,γ11はγ10>γ11の関係にある。また、この主切刃8の上記端部8Aに連なる凸円弧状とされた副切刃9は、この端部8Aとこれとは反対側の端部(直線部14に連なる端部)9Aとを結ぶ弦が上記平面P上に位置して、該副切刃9がこの平面Pに沿うように配設されるか、この弦が切削工具本体16の内周側に向けて0〜3°程度の極小さな角度θで後端側に傾斜するように配設される。
一方、切削工具本体16の外周側に突出させられたコーナ刃7は、その凸円弧に沿って上記主切刃8Aと連なる一端部7Aから外周後端側に向けて延びて最外周に達し、次いで僅かに後端内周側に延びて上記他端部7Bに至るように配設されており、従ってこの他端部7Bにおける上記接線Mは、切削工具本体16の軸線O方向後端側に向かうに従い内周側に傾斜するように配設されることとなる。
上記構成のチップ1では、上記凹部13とは反対側のコーナ刃7の一端部7A側に、凸円弧状をなすコーナ刃7の該一端部7Aにおける接線方向に延びる第1直線状部10と、この第1直線状部10にその端部10Aにおいて鈍角に交差する第2直線状部11とから構成された主切刃8が形成されており、このように主切刃8が直線によって形成されているため、例えばこの主切刃がコーナ刃からそのまま延長された円弧状とされている場合などに比べ、加工物Wに対する該主切刃8の接触長さを短くして上記切削負荷の変動自体を抑えることができる。また、チップ本体2側面の主切刃8に連なる逃げ面5を平面状とすることができるので、上述のようにチップ取付座18の壁面18B,18Cも平面状としてこれに上記逃げ面5を密着させることにより高いチップ取付剛性を得ることができる。
しかも、主切刃8を第1、第2の2つの直線状部10,11によって折れ線状に形成しているので、これらが交差する上記端部10Aにおいて切屑を2つに分断して生成することができて、切屑処理性の向上を図ることができる。さらに、切削工具での取付状態において外周側に位置する第1の直線状部10の切込み角γ10が内周側に位置する第2直線状部11の切込み角γ11よりも大きくなり、しかもこの第2直線状部11の切刃長Lが第1直線状部10の切刃長Kよりも長くされているので、例えば加工物Wの上記平面部Uを切削するときには専ら上記第2の直線状部11によって小さい切り込み量で送りを大きくして効率的な加工を行うことができる一方、切り込み量が大きくなる立壁部Vの切削のときには、大きな切込み角γ10の上記第1の直線状部10からコーナ刃7を用いて切削抵抗の増大を抑えることができる。
なお、この第1の実施形態では主切刃8を2つの直線状部10,11により構成しているが、この主切刃を構成する直線が3以上となると、その切刃長が長くなって加工物との接触長さも長くなり、切削負荷(抵抗)の変動が十分に抑えられなくなるとともに、隣接する直線状部同士の交差角も大きくなるため切屑分断効果も少なくなり、しかもそのような多段に折れ曲がる主切刃を精度よく形成すること自体が困難ともなるので、この主切刃8は第1の実施形態のように2つの直線によって構成される。
一方、この第1の実施形態では、コーナ刃7の他端部7Bに隣接してすくい面3の辺稜部に凹部13が形成されており、従って上述のようにチップ1が取り付けられた上記切削工具によって図9に示すように加工物Wに立壁面Vを形成する際に、このコーナ刃7の他端部7Bに連なる辺稜部が該他端部7Bにおけるコーナ刃7の接線Mに沿って形成されている場合に比べ、立壁面Vとチップ1との間の間隔(クリアランス)を大きく確保することが可能となる。このため、上記構成のチップ1および該チップ1を取り付けた上記切削工具によれば、たとえ上記軸線Oを横向きにして切削を行ったとしても、切削によって生成された切屑がこの間隙部に噛み込まれて加工面(立壁面V)が傷つけられたり、チップ1に欠損が生じてしまったりするような事態を防ぐことができ、高品位の加工面を長期に亙って安定して形成することが可能となる。
なお、この凹部13は、コーナ刃7の他端部7Bに連続して形成されていてもよく、すなわち凸円弧状をなすコーナ刃7が切削工具最外周から僅かに後端内周側に延びた位置にある上記他端部7Bから直ぐに凹部13がすくい面3の内周側すなわち切削工具内周側に凹むようにされていてもよい。この場合には、コーナ刃7によってある程度の切り込み量は確保しながらも、切削工具外周側に向けられるすくい面3の辺稜部およびチップ本体2の側面部分と上記立壁面Vとの間に上述のような大きな間隔を確実に確保することができ、その間隙部への切屑の噛み込み等を一層確実に防止することが可能となる。ただし、このようにコーナ刃7の他端部7Bに連続して凹部13を形成せずとも、例えば2mm以下程度の極短い長さであれば、上記他端部7Bと凹部13との間にこの他端部7Bにおける接線M方向に延びる直線部を形成したとしても、切屑の噛み込み等を十分に防止することができる。
また、上記構成のチップ1では、そのチップ本体2が取付孔6の中心線C回りに120°回転対称に形成されており、このため当該チップ1を切削工具本体16のチップ取付座18に取り付けた状態で、切削工具本体16の外周側に突出したコーナ刃7に対向するすくい面3の辺稜部に形成された凹部13が、切削工具本体16の後端内周側に向けられて配設されることとなる。そこで、上記切削工具のようにこの凹部13に係合可能な凸部18Dを切削工具本体16のチップ取付座18に形成しておくことにより、チップ1の切削工具本体16への取付剛性の向上を図ることが可能となるので、例えば加工物Wの平面部Uの加工と立壁部Vの加工とでチップ1に作用する切削負荷の方向が変化しても、チップ本体2がその上記中心線C回りに回転してずれが生じたりするのを防ぐことができ、より高精度の加工を可能とすることができる。しかも、本実施形態では、このチップ1が、その取付孔6に挿通されたクランプネジ19がネジ孔16Aにねじ込まれた上で、さらに上記クランプ機構20によってチップ取付座18に押圧されて固定されているので、チップ1の取付剛性の一層の向上を図ることができ、切削工具本体16に取り付けられた複数のチップ1…間で切削に使用されるコーナ刃7、主切刃8、および副切刃9の振れ精度等を確実に維持して、さらに高い加工精度を安定して得ることが可能となる。
さらに、本実施形態のチップ1では、上記凹部13の底13Aが直線状に形成されており、このためこの凹部13の底13Aに連なるチップ本体2側面の凹所12の底面12Aは平面状に形成されるのに対し、上記凸部18Dの突端面も平面状に形成されていて、上記底面12Aに密着して係合可能とされているので、特に上述のような切削負荷の変動によってチップ1をその中心線C回りに回転させるような力に対して高い取付剛性を奏することができ、より一層の加工精度の向上を図ることができる。また、本実施形態では、チップ取付座18の上記壁面18B,18Cもその少なくとも上記壁面17A側の部分が平面状とされていて、チップ本体2の側面のうち主切刃8に連なる逃げ面5の、しかも切刃長Lの長い第2直線状部11に連なる面積の大きい逃げ面5部分がこれら壁面18B,18Cに密着して当接させられるので、上記中心線C回りにチップ1を回転させる力に対してさらに高い取付剛性を確保することができる。
ただし、本実施形態のチップ1ではこのように凹部13の底13Aを直線状に形成しているが、例えばこれを図10に示す本発明の第2の実施形態のチップ21のように、凹部22の底が凹曲線状をなすように形成してもよい。なお、この第2の実施形態を初め、後述する第3〜第4の実施形態のチップ31〜51においては、上記第1の実施形態と共通する主要な部分には同一の符号を配して説明を省略する。すなわち、この第2の実施形態においては、そのチップ本体2の上記凹部22に連なる部分に形成される凹所23の底面(図示略)が、該チップ本体2の周回り方向にチップ本体2の内側に凹む凹円筒面等の凹曲面状に形成されており、これに伴いこの底面とすくい面3との交差稜線として画成される上記凹部22も、コーナ刃7の他端部7Bからその全長に亙って凹円弧等のすくい面3内側に凹む凹曲線とされている。なお、このように凹部22の底を凹曲線状に形成した場合において、その曲率半径(例えば、凹部22の底が凹円弧状の場合にはその半径)Sは、上記内接円の直径Dに対して0.5〜2.0×D程度とされるのが望ましい。
従って、このように構成された第2の実施形態のチップ21においては、上記実施形態の切削工具と同様に上記凹所23にチップ取付座18の凸部18Dを係合可能とさせることによって上記中心線C回りの力に対する取付剛性は十分に確保することができる一方、上記凹部22の深さNは、第1の実施形態の凹部13に比べて大きくすることができ、このため上記立壁面Vとの間の間隔もより大きく確保することができるので、切屑の噛み込み等を一層確実に防止することが可能となる。しかも、上述のように凹所23の底面を凹円筒面状等として凹部22をその全長に亙って凹円弧等とすれば、凹所23および凹部22をチップ本体2やすくい面3に形成するのが容易となるとともに、例えば凹部の底を直線状とするとともにその両端部も直線状として該凹部を台形状や方形状としたりした場合に比べ、該凹部22に直線同士が角度をもって交差する部分が形成されるのを避けることができ、過大な負荷が作用したときにかかる角部からチップ本体2にクラックが発生したりするのも防ぐことができる。なお、上述のように凹所23の底面を凹曲面状に形成した場合には、当該チップ21を取り付ける切削工具のチップ取付座18における凸部18Dの突端面も、この凹所23の底面に合わせて凸曲面状に形成すればよい。
一方、上記第1の実施形態では、上記主切刃8のコーナ刃7側とは反対側の端部8Aに、この端部8Aにおける主切刃8の延長線(第1の実施形態では第2直線状部11の延長線)に対して該端部8Aから離間するに従い漸次後退する副切刃9が形成されており、チップ取付状態においてこの副切刃9が、切削工具本体16の軸線Oに直交する平面Pに対して切削工具内周側に向かうに従い後端側に向けて0〜3°程度の角度でこの平面Pに略沿うように配設されている。従って、加工物Wに平面部Uを形成する場合において上述のように送りを大きくしても、1刃当たりの送りに伴いこの平面部Uに残される山部(切削工具マーク)をこの副切刃9によって削り落として仕上げ面精度の向上を図ることができる。
また、この第1の実施形態では、上述のようにチップ本体2が中心線C回りに120°回転対称とされることにより、こうして第1の実施形態のチップ1をその副切刃9が上記平面Pに沿うように先端側に突出させて取り付けた上記実施形態の切削工具では、この副切刃9の切削工具内周側に、該副切刃9やこれに連なる主切刃8が形成される辺稜部と同じ辺稜部に形成された凹部13が配設されることとなる。そして、この凹部13が延びる接線M方向は、上記副切刃9が延びる方向すなわち上記平面Pに対して鈍角に交差して、切削工具内周側に向かうに従い後端側に向かうように傾斜させられることとなり、しかも凹部13はこの接線Mに対して凹むように形成されているので、上記第1の実施形態によれば、この副切刃9の切削工具内周側においても、副切刃9により切削される平面部Uとすくい面3の辺稜部やチップ本体2の側面との間隔を大きく確保することができ、その間隙部に切屑が噛み込まれて上記平面部Uの仕上げ面精度が損なわれたりするのを防ぐことができる。さらに、この凹部13に連なるチップ本体2側面の上記凹所12の底面12Aも、先端側に突出させられた主切刃8や副切刃9に連なる逃げ面5と同様にすくい面3に対して鋭角に交差させられて逃げが与えられているので、例えばこの逃げの範囲で切削工具本体1を軸線O回りに回転させつつ該軸線O方向先端側に前進させて、平面部Uを順次彫り込みながら加工を行うような場合でも、切削工具先端側に向けられた上記底面12Aがこの平面部Uに干渉するのを抑えることができて、このような加工を円滑に行うことが可能となる。
また、この第1の実施形態では上記副切刃9が凸円弧状とされているので、上述した凹所12と凸部18Dとの係合やクランプ機構20による押圧などにも拘わらず、万一チップ1が切削中に上記中心線C回りにずれ動いたりしてその上記弦が上記平面P上に厳密に位置しなくなったとしても、副切刃9が描く凸円弧自体はチップ1がずれ動く前とオーバーラップさせることができ、従ってこの副切刃9によって仕上げられる平面部Uの仕上げ面精度が著しく劣化するのを避けることができる。なお、このような効果を確実に奏するには、この副切刃9がなす円弧の半径Rは、第1の実施形態のように上記内接円の直径Dの1〜100×Dの範囲とされるのが望ましく、半径Rがこれより小さいと送りを大きくしたときの仕上げ面精度が損なわれるおそれがあり、逆に半径Rがこれよりも大きいと副切刃9が直線状に近くなってしまうおそれがある。
ただし、特に上記第1の実施形態などでは、上述のようにすくい面3に凹部13が形成されるのに伴いチップ本体2の側面に凹所12が形成されていて、この凹所12に係合可能な凸部18Dを切削工具本体16側のチップ取付座18に形成することにより、このチップ1の取付剛性が向上されて中心線C回りの回転が確実に防止されるので、このような凹所12および凹部13が備えられていれば、例えば図11に示す第3の実施形態のチップ41のように副切刃42が直線状に延びるように形成されていて、この副切刃42が上記平面Pに対して0〜3°程度の角度θとなるようにチップ41を切削工具本体16に取り付けるようにしてもよい。また、1刃当たりの送りがそれほど大きくない場合には、図12に示す第4の実施形態のチップ51のように、副切刃52を円弧状とするにしても、その半径Bを第1の実施形態の半径Rよりも小さいものとしたり、場合によっては副切刃を設けない構成としてもよい。特にこれら第4の実施形態や副切刃を設けない構成とした場合には、すくい面3の1つの辺稜部において凹部13の占める長さを長くすることができるので、立壁部Vや平面部Uとの間の間隔もより大きく確保することができ、この間隙部への切屑の噛み込み等をさらに一層確実に防止することが可能となる。
なお、これら第1〜第4の実施形態ではチップ本体2が上述のように概略正三角形(より具体的には偏六角形、さらに具体的には主切刃8を1つの辺としてみると偏九角形、また主切刃8を第1、第2直線状部10,11の2つの辺としてみると偏12角形)の平板状をなし、そのすくい面3の3つの辺稜部にそれぞれ主切刃8および副切刃9,42,52と凹部13,22とが形成されているが、例えば概略平行四辺形等の平板状にチップ本体を形成して、その概略平行四辺形状のすくい面の鋭角をなす角部にコーナ刃を形成するとともに、この角部に交差する上記すくい面の辺稜部のうち、上記コーナ刃の一端部側に主切刃および必要に応じて副切刃を、また他方の端部側に凹部を形成するようにしてもよい。ただし、このような場合でも、加工物の平面部との間隔を確実に確保するには、上記主切刃が形成された辺稜部には該主切刃に連なるコーナ刃と反対側に、上述のような凹部を設けるのが望ましい。
次に、図13ないし図15は本発明の切削工具の第2の実施形態を示すものであって、図5ないし図8に示した第1の実施形態の切削工具と共通する要素には同一の符号を配して説明を簡略化する。本実施形態は、スローアウェイ式のエンドミルに本発明を適用したものであって、その切削工具本体61が第1の実施形態よりも外径に対して軸線O方向の長さの長い概略円柱状をなし、その後端部はこの軸線Oに沿って延びる該軸線Oを中心とした円柱軸状のシャンク部62とされている。また、このシャンク部62よりも先端側の切削工具本体61の先端部63は、その外周が、やはり軸線Oを中心として、該シャンク部62から一段縮径し、先端側に向けて小さな角度で漸次縮径した後に側面視に凹曲面状を描きつつ外周側に切れ上がり、次いで一定外径で当該切削工具本体61の先端面64に至るように形成されており、この先端部63の外周に、上記先端面64に開口して後端側に延びるチップポケット17…が形成されて、その切削工具回転方向T側を向く壁面17Aの先端側に形成されたチップ取付座18に、本実施形態では上記第1の実施形態のチップ1が、クランプネジ19およびクランプ機構20によって着脱可能に取り付けられている。
そして、上記先端面64には、当該切削工具の工具切刃径Eを少なくとも含んだ寸法情報を表す表示65が設けられている。ここで、本実施形態の切削工具では、上記第1の実施形態と同様にチップ1において切削工具本体61の先端外周に突出させられたコーナ刃7が軸線Oから最も外周側に位置することとなり、このコーナ刃7の径方向外周側の突端が軸線O回りになす回転直径が工具切刃径Eとされて、その数値がそのまま(例えば、本実施形態では41mm)上記表示65として記載されている。また、この表示65は、例えば刻印等によって設けられている。
しかるに、この種の軸状のシャンク部62を備えた切削工具では、このような工具切刃径E等の寸法情報や型番などは図13に示すようにこのシャンク部62に刻印されたりして表示されるのが一般的であるが、その一方でこの種の切削工具は、図15に示すようにこのシャンク部62がホルダ66の先端部に形成された取付孔67に挿入されて該ホルダ66に保持され、このホルダ66がその後端部のテーパシャンク68を工作機械の主軸に挿入して取り付けられたりすることにより軸線O回りに回転されて切削加工に供され、またこうしてホルダ66に保持されたまま工作機械のマガジン等に収容されて保管される。従って、図15には実線で示しているが、シャンク部62に表示された上記寸法情報等は、実際にはホルダ66によって覆い隠された状態であって、いちいちホルダ66から切削工具本体61を取り外さなければ確認することができない。特に、従来このような切削工具において上記工具切刃径Eとシャンク部62の外径とは互いに等しくされるのが一般的であり、従って上記取付孔67に取付可能なシャンク部62の外径についてのホルダ66側の表示を見れば、工具切刃径Eについても確認できたが、最近ではこのシャンク部62の外径に対して1、2mm程度僅かに大きく工具切刃径Eが設定された切削工具も使用されるようになってきており、このホルダ66側の表示や目視などによって正確な工具切刃径Eを確認することができなくなってきている。
ところが、これに対して上記第2の実施形態の切削工具では、上述のように切削工具本体61の先端面64に表示65が示されているので、シャンク部62がホルダ66に保持されることにより覆い隠されていても、この表示65を容易に確認することができる。また、当該切削工具がホルダ66ごとマガジンに収容されていても、このようなマガジンにおいては通常ホルダ66がその先端側を該マガジンの収容孔の開口部に向けて収容されるので、やはり容易に表示65を確認することができる。なお、この表示65は、少なくとも上記工具切刃径Eを示す寸法情報を含んだものであればよく、他の寸法情報や型番等がこれと合わせて表示されていてもよい。また、刻印以外の手段で表示65が表されていても勿論構わない。さらに、この第2の実施形態の切削工具本体61に取り付けられるチップは、上記第1の実施形態のチップ1を初め、第2〜第4のチップ21,41,51や、上述したような概略平行四辺形等の他の多角形平板状のチップでも構わない。