JPH1038883A - 抗原活性の安定化方法 - Google Patents

抗原活性の安定化方法

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JPH1038883A
JPH1038883A JP21436796A JP21436796A JPH1038883A JP H1038883 A JPH1038883 A JP H1038883A JP 21436796 A JP21436796 A JP 21436796A JP 21436796 A JP21436796 A JP 21436796A JP H1038883 A JPH1038883 A JP H1038883A
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antigen
stabilizing
amino acid
tpo
antigen activity
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JP21436796A
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Yoshihide Narizuka
喜英 成塚
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Eiken Chemical Co Ltd
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Eiken Chemical Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】本発明の課題は、抗原活性を安定化する技術の
提供である。 【解決手段】本発明は、糖類、アミノ酸、およびグリセ
リンからなる群から選択した安定化剤を共存させること
による抗原活性の安定化方法である。 【効果】本発明は、抗原活性の維持が大切な液状の免疫
分析試薬においても抗原活性の維持に貢献する。本発明
は、これまでに有効な安定化技術が知られていない甲状
腺ペルオキシダーゼ(TPO)の抗原活性の安定化効果
に優れる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、抗原の抗原活性を安定
化するための技術に関するものである。抗原は、抗体を
測定するための試薬成分として臨床検査分野では重要で
ある。抗体の測定結果は、種々の感染症や自己免疫疾患
の診断において重要な情報を与える。
【0002】自己免疫疾患は、自身の組織や体液成分に
対する抗体−すなわち自己抗体−を生じてしまうことに
よって様々な症状を呈する疾患の総称である。代表的な
自己免疫疾患には、抗核抗体が原因となる全身性エリテ
マトーデス(以下SLEと省略する)、甲状腺組織に対
する抗体がもたらす甲状腺機能障害、あるいはランゲル
ハンス島組織に対する抗体によるインスリン依存性糖尿
病(以下IDDMと省略する)等を示すことができる。
SLEでは、DNAに対する抗体の存在が重要な診断マ
ーカーである。IDDMでは、ランゲルハンス島抗原で
あるグルタミン酸デカルボキシラーゼ(以下GADと省
略する)に対する抗体を保有しているかどうかが問題と
なる。
【0003】甲状腺機能障害の原因となる自己抗体に
は、多くの種類が知られている。そのひとつが甲状腺ペ
ルオキシダーゼ(以下TPOと省略する)に対する自己
抗体である。抗TPO自己抗体は、橋本病の診断におい
て有用な指標である。この他にもサイロトロピン受容体
に結合してそれを刺激し、甲状腺機能を亢進させる原因
となる自己抗体、あるいは同じくサイロトロピン受容体
に結合するが刺激活性はなくサイロトロピンと拮抗する
ことによって甲状腺機能を阻害する方向に働く自己抗体
の存在などが知られている。前者は甲状腺の代表的な疾
患であるバセドウ病の原因として疑われている。
【0004】ところで先に具体例として紹介した自己免
疫抗原のなかで、TPOに対する自己抗体の検出は橋本
病やバセドウ氏病の診断において有用な情報となること
が報告され[ 1]注目されている。TPOに対する自己抗
体の検出法には、固相化したTPO抗原を血清試料と反
応させ、結合した抗体をヒト抗体に対する抗体で免疫学
的に検出する方法が公知である[ 2][ 3]。また固相にT
POに対する抗体を用い、これにTPOとそれに対する
標識抗体を組み合わせて自己抗体を競合法の原理により
検出する方法が知られている[ 4][ 5]。更にプロテイン
Aのような抗体を捕捉しうるバインダー成分をTPO抗
原と標識抗体と組み合わせた測定系[ 6]も報告された。
この他に、標識したTPOに自己抗体を結合させて検出
する方法が公知である。標識には、放射性同位元素(以
下RIと省略する)[ 7]が用いられた。
【0005】一方感染症の診断においては、病原体を構
成する抗原を認識する抗体が感染経験を示すマーカーと
なる。一般に感染性病原体そのものが血液のような生体
試料中に検出可能なレベルで出現する期間は短い。その
点、病原体を認識する抗体は、長い期間にわたって検出
可能なレベルで分泌され続けるのでマーカーとして信頼
性が高いとされている。HIVやHCVといったウイル
ス性の病原体では、ウイルス粒子を構成するエンベロー
プ抗原、あるいはゲノムの合成に必要なウイルスの核酸
合成酵素に対する抗体が感染の指標となる。結核菌や溶
血性レンサ球菌のような細菌性の病原体では、細胞表面
等に発現する抗原決定基、あるいは菌体外へ産生する酵
素や毒素に対する抗体が診断の指標として有用である。
【0006】
【従来技術の問題点】抗体の測定に用いる試薬成分とし
ての抗原は、一定の抗原活性を維持していることが望ま
れる。経時的に抗原活性が低下したり、保存状態によっ
て抗原活性が変化したのでは正確な結果は期待できな
い。なおこの明細書において、抗原活性とは対応する抗
体との結合活性を意味する。したがって、たとえば抗原
自身がもともと持っている酵素活性や感染能力等とは区
別される活性である。一般に不安定な生体材料を保存す
る時には凍結乾燥が利用されるが、乾燥させた試薬は使
用時に溶解しなければならず、可能ならば液状で流通さ
せることができる安定性を備えていることが望ましい。
あるいは使用時に溶解するとしても、溶解後に十分な安
定性を保証することができれば有利である。凍結乾燥の
他に抗原成分を安定化する技術としては、抗原を保護す
る安定化剤の利用が考えられる。
【0007】抗原の安定化剤としては、動物血清や糖類
を利用した報告が多いが、これらは主に凍結乾燥時の保
護剤として利用されているものである。したがって、溶
解状態で、あるいは凍結乾燥物の溶解後の安定性を期待
できるものではなかった。また抗原成分は、幅広い生物
材料に由来するため多様な構造を持っており、その保存
安定性もまちまちである。つまり、あるものは細菌、あ
るものはウイルス、そしてあるものは動物組織と、多く
の材料に由来する物質である。このような多様な成分の
それぞれについて安定化の必要がある時、あるもので安
定化が実現できたとしても他の抗原で同じように安定化
を期待できるとは限らない。したがって、幅広い抗原に
対してその抗原活性の安定化を期待できる新たな安定化
剤が必要である。
【0008】更に抗原がRI標識されている場合には、
RIの放射活性に起因する特有の問題が存在する。抗体
を測定する技術の一つに、RI標識を利用したラジオイ
ムノアッセイ法が知られている。この方法に用いられる
抗原はRIで標識されていることがある。RIで標識し
た抗原は常に放射線に晒されるために、保存の点では不
利な条件下に置かれることになる。RI標識抗原の安定
化を実現するための報告もいくつか知られている[ 8][
9][10][11]。しかしこのケースでも抗原が様々な構造を
持っていることに違いはなく、より幅広い抗原の安定化
を期待できる新たな安定化剤の提案が望まれる。
【0009】たとえばTPOに対する自己抗体の測定に
TPOが利用されることは先に述べた。試薬として利用
するTPOは、抗原活性を安定に維持していなければな
らない。ところがこれまでに報告されたTPO自己抗体
の測定においては、甲状腺組織から抽出したTPOをそ
のまま利用するか、あるいは培養細胞や大腸菌等を利用
して遺伝子組み換えによって得たTPOの組み換え体[1
2][13]がそのまま利用されており、抗原活性を安定に維
持するための特別な配慮はされていなかった。実験室レ
ベルでは、凍結などのTPOに適した保存状態を維持す
ることは容易である。しかしTPO自己抗体測定に必要
なTPO抗原を商業的に流通させるには、流通工程で抗
原活性が劣化することのないようにしなければならな
い。流通工程においては、一定の保存条件を厳密に要求
することは現実的でなく、保存条件にかかわらず抗原活
性を維持できるような状態で流通させる必要がある。
【0010】ところが本発明者らは、RI標識したTP
Oを室温に置いた場合に抗原活性の変化を無視できなく
なる場合が有ることを確認した。たとえばRI標識した
TPOを適当な緩衝液に溶解して37℃で3日程度保存
した時、この標識抗原によって得られる測定値(B/T
%)の変化は低濃度試料で200%以上の上昇、あるいは
高濃度試料では55%にも及ぶ低下として現れ、抗原活
性の低下を無視できないことが明らかである。このよう
な標識抗原を実際の測定に利用したとすると、結果とし
て低濃度域では感度の低下が起こり、高濃度域では測定
レンジが確保できなくなってしまう。低温で保存すれば
安定性は改善できるが、保存温度を厳しく管理するのは
商業的な流通形態としては好ましくない。TPOは、生
体内では甲状腺の細胞膜に結合した状態で存在するグリ
コシル化ヘム蛋白で、その抗原活性などについても既に
明らかにされている[14]。他方同じくヘム蛋白であるホ
ースラディッシュ由来のペルオキシダーゼ(以下HRP
と省略する)は、古くからさまざまな分野で利用されて
いる酵素である。そのためHRPについては、糖類や血
清蛋白[15][16]、ポリアルキレングリコール[17]、フェ
ノール類[18][19]、あるいは被酸化性指示薬等[20]の多
くの安定剤が公知である。しかしHRPでは酵素活性の
維持が最大の目的であり、抗原活性の維持に関しては十
分な情報がない。
【0011】TPOが蛋白性の物質であることから、プ
ロテアーゼ阻害剤の添加が有効と思われたが、プロテア
ーゼ阻害剤ではTPOを安定化できないことは実施例に
示すとおりである。また、ヘム蛋白であることを考慮し
て、メルカプトエタノールのような還元剤の利用も試み
たが、むしろ抗原性を低下させる作用が有る。更に酵素
基質は酵素活性の安定化に有効とされているので、TP
Oの基質であるヨウ化ナトリウムの添加を試みたが、や
はり抗原活性の安定化効果は確認できなかった。このよ
うに、公知の安定化剤ではTPOのような抗原活性の維
持が必要な化合物の安定化を期待できない。
【0012】この他に麻しんウイルスの感染力が、ラク
トース等の糖類とアミノ酸であるグルタミン酸で安定化
されることが知られている[21]。麻しんウイルスははし
かの病原体で、パラミクソウイルス属に分類される。構
造的にはDNAの周囲に蛋白性のエンベローブを持つ。
このように病原性のウイルスや細菌のワクチンを保護す
る技術は知られているが、一般には感染力を指標に安定
性を確認するために抗原活性の安定化効果は不明であ
る。まして自己免疫抗原のような由来も構造的にも全く
異なる物質の抗原活性の維持に対して、どのような効果
があるのかは全く未知である。加えてウイルス粒子が自
然界の様々な環境のもとで生き延びている生物体そのも
のであるのに対して、一般に自己免疫抗原のように生体
組織から単離精製されたものでは精製度を高めるにした
がって構造や生理活性の維持が困難になる。したがっ
て、抗原活性の維持についても両者の間には異なったア
プローチが求められる。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、抗原活性の
安定化方法の提供を課題とする。本発明において安定化
の対象となる抗原は、自己免疫疾患や感染症の診断に用
いられる試薬成分として重要なものである。また本発明
は、新しい安定化剤を含む抗体測定用の抗原試薬組成物
を提供するものでもある。本発明において安定化すべき
抗原の代表的なものはTPOである。特にTPO自己抗
体を検出するための試薬成分に利用する場合に、その抗
原活性を免疫学的な反応に影響を与えることなく安定化
するための技術の提供が本発明の主な課題である。試薬
としてのTPOは、RIで標識される場合があること、
液状で流通させた方が好ましいこと、といった保存条件
としては不利ともいえる状況に晒されることを考慮しな
ければならない。本発明は、このような厳しい条件のも
とであっても抗原活性を安定に維持することができる新
しい技術を提供するものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明の課題は、糖類、
アミノ酸、および多価アルコールからなる群から選択し
た安定化剤を抗原と共存させることによる抗原活性の安
定化方法、ならびにこの安定化方法を利用して抗原活性
が安定化された抗原物質組成物によって解決される。
【0015】
【発明の実施の形態】本発明で安定化剤として用いる成
分について説明する。まず本発明における糖類には、グ
ルコース、ガラクトース、フルクトース、サッカロー
ス、ラクトース、マルトース、トレハロース、マンニト
ール、およびソルビトール等を示すことができる。また
本発明の安定化剤であるアミノ酸としては、グリシン、
アラニン、バリン、ロイシン、セリン、プロリン、リシ
ン、およびグルタミン酸等を利用することができる。こ
れらの糖類やアミノ酸類は、単独で用いても良いし複数
種を混合することもできる。また安定化剤の使用量は、
抗原が液状なのか乾燥しているのか、液状の場合にはど
の程度の濃度で存在しているのか、抗原以外にどのよう
な成分が共存しているのか、などといった諸条件を考慮
して安定化効果が得られる濃度を設定する。具体的に
は、たとえばTPOをリン酸緩衝液に溶解した状態で保
存する時、サッカロースを2.5−50%W/V、好ましく
は5−10%W/V程度の濃度で用いれば実用的な安定化効
果を期待できる。またアミノ酸であるグリシンは、同じ
条件でTPOの安定化剤に用いる時、2.5−20%W/
V、好ましくは5−10%W/V程度の濃度で用いると良
い。抗原を乾燥状態で保存する時であっても、使用時に
このような濃度範囲を与えるように安定化剤を加えてお
けば溶解後の抗原活性の変化を防止することができる。
溶解後の安定化を期待するのであれば使用時の溶解液に
安定化剤を加えても効果を期待できる。ただ乾燥状態で
保存するにしても、保存中に吸湿することが考えられる
ので安定化剤と共に乾燥させておくことが望ましい。
【0016】本発明は、これらの安定化剤に加えて多価
アルコールによる抗原活性の安定化方法を提供する。多
価アルコールは単独で用いても良いが、糖類やアミノ酸
に組み合わせることによってより高度な安定化作用を期
待することができる。本発明において安定化剤として利
用できる多価アルコールとしては、グリセリン、エチレ
ングリコール、およびプロピレングリコール等を示すこ
とができる。中でもグリセリンは優れた安定か作用を持
つ。グリセリンは、同じくTPOの安定化剤として用い
る時、溶液中で2.5−50%W/V、好ましくは5−20
%W/V程度の濃度で用いると良い。なおグリセリンは液体
なので乾燥状態での保存には利用できないが、溶解液に
添加しておくことによって溶解後の安定化効果を期待で
きる。
【0017】本発明の安定化剤は、単独で用いるよりも
互いに組み合わせることによってより大きな安定化効果
をもたらす。中でも糖類とアミノ酸は、両者を併用する
ときに特に大きな安定化効果を期待できる。本発明にお
いて特に安定化効果の大きい組み合わせは、サッカロー
スとグリシンである。そして溶液状態で保存する場合に
は、更にグリセリンを組み合わせることによってより確
実な抗原活性の安定化効果を得られる。ところで免疫学
的な分析試薬用の抗原に対して本発明の安定化技術を応
用する場合、最終的な溶液の粘度を考慮するのが望まし
い。本発明の安定化剤の中でも、糖類やグリセリンは多
量に用いると溶液の粘度を大きくする。極端に粘度が高
ければ、微量の液体を取り扱う時に分注精度の低下につ
ながるおそれが有る。高い分注精度を維持できる範囲
で、しかも十分な抗原の安定化効果をもたらすために
も、前記濃度範囲は好ましい態様であると言える。
【0018】本発明において、安定化の対象となる抗原
は保護の必要な抗原活性を備えたものであれば特に限定
されない。具体的には、自己免疫抗原、あるいはウイル
スや細菌のような病原性微生物に由来する抗原等を示す
ことができる。これらの抗原は、糖鎖、脂質、あるいは
ペプチド等の幅広い物質によって構成されており、生体
組織や培養細胞から公知の方法によって抽出精製され
る。あるいは、細胞や組織そのものであってもよい。ペ
プチドの場合には、その構造遺伝子を発現させた遺伝子
組み換え体を用いることもできる。更に本発明の抗原
は、抗原決定基部分のアミノ酸配列を合成によって再現
した合成ペプチドであっても良い。これらの蛋白質、あ
るいはペプチドのアミノ酸配列は、抗原として用いるも
のであるから、抗原構造を維持する範囲内でそのアミノ
酸配列の置換、欠失、あるいは挿入を許す。生体、特に
ほ乳動物組織に由来する抗原は、精製状態では抗原活性
を失いやすいので本発明の安定化方法が有用である。
【0019】本発明による抗原活性の安定化方法は、特
に免疫分析用抗原の保護に有効である。免疫分析用の抗
原は、自己免疫の原因や感染の指標となる抗体の検出の
ために利用される。本発明の安定化方法を適用すること
ができる免疫分析用抗原には、自己免疫抗原として知ら
れるTPO、サイロトロピン受容体、GAD等を示すこ
とができる。これらの物質の抗原活性の維持については
有効な安定化技術が知られておらず、本発明によって大
きな安定化効果を期待することができる。中でもヘム蛋
白であるTPOは、本発明によって抗原活性の安定化を
期待できる代表的な抗原である。
【0020】免疫分析用抗原は、標識されたものであっ
てもよい。たとえばTPOの場合、RIA用のものはR
Iで標識される場合が有る。TPOのRI標識は、クロ
ラミンT法、ラクトペルオキシダーゼ法、およびヨード
ゲン法等の公知の方法で行うことができる。ELISA
であれば、HRP、アルカリフォスファターゼ、あるい
はルシフェラーゼ等の酵素で標識される。これらの酵素
は、マレイミド誘導体のような2官能性試薬によって導
入した官能基を介してTPOと結合することができる。
標識はTPOに対して必ずしも直接的に導入される必要
はなく、たとえばアビジン−ビオチンのような結合ペア
を応用した間接標識技術も公知である。TPOは、標識
されたものばかりではなく固相に物理吸着や化学的な結
合によって固定された状態にあってもよい。固相にはポ
リスチレン製の反応容器内壁、ビーズ状担体、粒子状担
体等が利用される。これらの担体は、物理的な分離を容
易にするために磁性担体を利用することもできる。更
に、TPO自己抗体をラテックス凝集反応によって検出
するのであれば、TPOはラテックス粒子に固定された
状態で利用される。このような態様であっても本発明に
よる安定化方法はその効果を発揮する。
【0021】上記の標識された状態にある抗原のうち、
RI標識抗原においては本発明による安定化方法が重要
である。RIを試薬中に含むために抗原活性が変化しや
すいので安定化剤の必要性が高いのである。
【0022】更に本発明は、前記のような安定化剤を抗
原とともに含んでなる抗原活性が安定化された抗原物質
組成物を提供する。本発明の抗原物質組成物には、免疫
分析に必要な抗原を含有させることができる。この抗原
は、先に述べたような標識抗原であってもよい。また本
発明の抗原物質組成物には、抗原と安定化剤の他に更に
緩衝剤、可溶化剤、あるいは防腐剤のような付加的な成
分を加えることができる。緩衝剤には目的とする抗原の
抗原活性の維持に有効なものを選ぶ。具体的には、抗原
活性に対する影響の小さいpHを与え、しかも緩衝剤自
身の抗原活性に与える影響が小さいものを選択する。た
とえばTPOのような蛋白質性の抗原であれば、リン酸
緩衝液のような一般的な緩衝剤や以下のようなグッドバ
ッファーと呼ばれる一群の緩衝剤が抗原活性の維持の点
で有利である。
【0023】2−モルホリノエタンスルホン酸(2-(N-M
orpholino)ethanesulfonic acid、MESと省略する) ピペラジン−ビス(2−エタンスルホン酸)(Piperazi
ne-N,N'-bis(2-ethanesulfonic acid)、PIPESと省
略する) (2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸
(N-(2-Acetamido)-2-aminoethanesulfonic acid、AC
ESと省略する) ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスル
ホン酸(N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoehtanesulfo
nic acid、BESと省略する) ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキ
シメチル)メタン(Bis(2-hydroxyethyl)iminotris(hyd
roxymethyl)methane、Bis−Trisと省略する) 3−[ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]−2−ヒ
ドロキシプロパンスルホン酸(3-[N,N-Bis(2-hydroxyet
hyl)amino]-2-hydroxypropanesulfonic acid、DIPS
Oと省略する) 2−ヒドロキシエチルピペラジン−3−プロパンスルホ
ン酸(N-2-Hydroxyethylpiperazine-N'-3-propanesulfo
nic acid、EPPSと省略する) ヒドロキシエチルピペラジン−2−エタンスルホン酸
(N-2-Hydroxyethylpiperazine-N'-2-ethanesulfonic a
cid 、HEPESと省略する) 2−ヒドロキシエチルピペラジン−2−ヒドロキシプロ
パン−3−スルホン酸(N-2-Hydroxyethylpiperazine-
N'-2-hydroxypropane-3-sulfonic acid、HEPPSO
と省略する) 3−(モルホリノ)プロパンスルホン酸(3-(N-Morphol
ino)propanesulfonic acid、MOPSと省略する) 3−(モルホリノ)−2−ヒドロキシプロパンスルホン
酸(3-(N-Morpholino)-2-hydroxypropanesulfonic acid
、MOPSOと省略する) ピペラジン−ビス(2−ヒドロキシプロパンスルホン
酸)(Pioerazine-N,N'-bis(2-hydroxypropanesulfonic
acid)、POPSOと省略する) N-Tris(hydroxymethyl)methyl-3-aminopropanesulfonic
acid 、TAPSと省略する) トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−ヒドロキシ−
3−アミノプロパンスルホン酸(N-Tris(hydroxymethy
l)methyl-2-hydroxy-3-aminopropanesulfonic acid、T
APSOと省略する) トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノメタン
スルホン酸(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoeth
anesulfonic acid、TESと省略する) その他の緩衝剤 2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1、3−プロパン
ジオール(2-Amino-2-hydroxymethyl-1,3-propanedio
l) トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris(hydro
xymethyl)aminomethane)とも呼ばれる
【0024】また可溶化剤は、抗原が溶解し難いもので
ある時に利用すると良い。このような用途には、トゥイ
ーン、ブリジ、あるいはポリドカノールのような非イオ
ン系の界面活性剤がよく利用される。本発明においては
安定化剤として糖類やアミノ酸のような微生物の栄養素
となる成分を利用するので、防腐剤の添加が好ましい。
防腐剤には、アジ化物のような無機化合物、あるいは各
種抗生物質が利用される。抗生物質の中には抗原活性に
影響を与えるものも有るので、必要な抗菌性を備えたも
のの中から免疫学的な反応性を指標に抗原活性に対する
影響の小さいものを選択すると良い。このような望まし
い特徴を持つ抗生物質として、ニューキノロン系の抗生
物質を示すことができる。
【0025】
【発明の効果】本発明は、免疫分析等に用いるための抗
原の抗原活性を安定化する。免疫分析における抗原は、
抗体の測定値に大きな影響を与える重要な試薬成分であ
る。抗体の測定値によって疾患を診断する以上、製造時
に保証された抗原活性を長期にわたって維持することが
できなければ信頼性の高い試薬とはいえない。特にこれ
までに抗原活性を安定化するための技術が知られていな
いTPOについて、溶液状態という保存上は好ましくな
い条件のもとで高度な安定化を実現する本発明の有用性
は明らかである。溶液状態の試薬は、利用者にとっては
溶解操作無しですぐに利用できるため望ましい剤系であ
る。
【0026】また本発明で安定化剤として利用する成分
は、免疫学的な、あるいは酵素学的な反応系に対して影
響を与えない。そのため、RIAやELISAといった
幅広い反応形態の試薬に応用することができる。また分
注精度に影響をおよぼすおそれの有る粘度についても、
望ましい範囲に設定することが可能である。ワクチン製
剤では、微量の液体を計量する必要はないし、投与量に
応じた剤系を用意すれば計量さえ不要となる。しかし分
析試薬用の抗原では、きわめて微量の液体を計量しなけ
ればならないので、液体の粘度を分注精度に影響しない
ように設定できることの意味は大きい。以下、実施例に
より本発明を更に詳細に説明する。実施例では抗原活性
を保護すべき抗原性物質としてTPOを用い、通常の保
存条件での抗原活性の変化と、各種安定剤の安定化効果
を確認するためにいくつかの実験を行った。
【0027】
【実施例】
1.125I標識TPO Na125Iをガラスチューブに20MBq取り、20μlの
0.5Mリン酸緩衝液(pH7.5)、および80μl
(1mg/ml)のTPOを加えた。更にクロラミンTを2
0μl(1mg/ml)加え、室温で1分間反応させた。メタ
重亜硫酸ナトリウム(2.5mg/ml)を50μl添加して
反応を終了させ、2%NaIを10μl添加後にSephadex
G-50Fの10mlカラムで分離した。放射活性を持つ分画
をプールして0.5Mリン酸緩衝液で濃度を30000
0cpm/mlに調整し125I標識TPOとした。
【0028】2.TPO自己抗体の測定 20μlのTPO自己抗体標準品(0IU/mlまたは30IU
/ml、WHOの標準で検定したもの)に、200μlの
125I標識TPOを加え、室温で1時間反応させた。反
応後に1mlの沈殿試薬(抗ヒトIgGヤギ抗体を含むリ
ン酸緩衝液)を加え、室温で30分間反応させた。この
反応液に1mlの精製水を加え、2000gで30分間遠
心分離して上清を吸引除去し沈殿中の放射活性をガンマ
カウンターで測定した。試薬として加えた125I標識T
POのトータルカウントに対する沈殿に残った放射活性
の割合をB/T%として算出し、抗原活性の指標とし
た。抗原活性が安定に維持されていれば、この数値も安
定に推移するはずである。
【0029】3.pHがTPOの抗原活性に与える影響 2の方法によって、pH5−9に保存した125I標識T
POの抗原活性を比較した。保存温度は、4℃、25
℃、および37℃の3つの条件を用意した。結果の一部
(pH6、pH7、pH8、37℃)を図1にまとめ
た。なお図の縦軸は、保存開始時のB/T%を100と
したときの各測定時におけるB/T%の比である。その
結果、pH7で4℃という条件では3日間の保存期間中
に大きな抗原活性の変化が見られなかった。しかし同じ
pH条件であっても37℃では、0IU/mlで数値の上昇
が、また30IU/mlでは数値の低下が観察され、無視で
きない抗原活性の変化を起こすことが確認された。また
pH7以外の場合、4℃や25℃においても抗原活性の
変化が観察された。この結果により、TPOの抗原活性
の維持に適したpHを7と決定し、以下の実験はpH7
で行うこととした。またたとえpH7という条件を与え
たとしても、37℃というような過酷な条件の元では十
分な保存安定性を保証できないことが確認された。
【0030】4.各種安定剤の比較 TPOの抗原活性をより安定に維持することを目的とし
て、各種安定化剤を添加してその効果を比較した。安定
化剤としては、以下の化合物を用いた。安定化剤の濃度
は、125I標識TPO溶液中における濃度である。保存
条件は4℃、25℃、および37℃とした。 −単独での添加− NaI 10mM クエン酸Na 50mM アプロチニン 500U//ml 2−メルカプトエタノール 10mM グリシン 5% サッカロース 10% −複数種の安定化剤の組み合わせ− ●グリシン 5% + サッカロース 10% ●グリシン 5% + グリセリン 10% ●サッカロース 10% + グリセリン 10% ●グリシン 5% + サッカロース 10% + グリセリン 10% ●グリシン 10% + サッカロース 10% + グリセリン 20%
【0031】2−メルカプトエタノールを除けば、いず
れの化合物を添加した場合であっても4℃では3日間で
目立った抗原性の変化は観察されなかった。しかし25
℃、あるいは37℃で保存した場合には、グリシン添加
とサッカロース添加で安定化効果が確認され、他の化合
物では顕著な安定化作用は観察できなかった。具体的に
は0IU/mlでグリシン添加やサッカロース添加によって
B/T%の上昇を150−200%(0IU/ml)に抑制で
きるのに対して、その他の化合物を添加した場合には2
30%程度まで上昇してしまう。2−メルカプトエタノ
ールは添加直後にB/T%が低くなる現象が観察され、
安定化剤としては好ましくない。
【0032】複数の安定化剤を組み合わせたものについ
ては、結果を図2−図6に示した。本発明で提案した安
定化剤を複数組み合わせることにより、更に大きな安定
化効果を得られることが明らかである。たとえば、5%
グリシン+10%サッカロース+10%グリセリンという
組み合わせ(図5)では、37℃で3日保存した後に、
30IU/mlで80%近い値を保持している。更に、10%
グリシン+10%サッカロース+20%グリセリンという
組み合わせ(図6)では、37℃で4日保存後であって
も0IU/mlで110%、30IU/ml90%以上という抗原活
性の安定化効果を実現している。このような高い安定性
は他の化合物では実現できていない。
【0033】引用文献 [ 1] 医学と薬学 34(3), p577-581, 1995.9 [ 2] J.Clin.Endoclinol.Metabolism.71(3), p661-669,
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大学出版会発行、1972)
【図面の簡単な説明】
【図1】保存時のpHがTPOの抗原活性に与える影響
を示す。縦軸は実験開始時のB/T%を100としたと
きの測定時のB/T%の割合(%)を、横軸は保存日数を
示す。
【図2】本発明の安定化剤として5%グリシン+10%サ
ッカロースを用いた時のTPO抗原活性の安定化効果を
示す。縦軸は実験開始時のB/T%を100としたとき
の測定時のB/T%の割合(%)を、横軸は保存日数を示
す。
【図3】本発明の安定化剤として10%サッカロース+
10%グリセリンを用いた時のTPO抗原活性の安定化
効果を示す。縦軸は実験開始時のB/T%を100とし
たときの測定時のB/T%の割合(%)を、横軸は保存日
数を示す。
【図4】本発明の安定化剤として5%グリシン+10%グ
リセリンを用いた時のTPO抗原活性の安定化効果を示
す。縦軸は実験開始時のB/T%を100としたときの
測定時のB/T%の割合(%)を、横軸は保存日数を示
す。
【図5】本発明の安定化剤として5%グリシン+10%サ
ッカロース+10%グリセリンを用いた時のTPO抗原
活性の安定化効果を示す。縦軸は実験開始時のB/T%
を100としたときの測定時のB/T%の割合(%)を、
横軸は保存日数を示す。
【図6】本発明の安定化剤として10%グリシン+10%
サッカロース+20%グリセリンを用いた時のTPO抗
原活性の安定化効果を示す。縦軸は実験開始時のB/T
%を100としたときの測定時のB/T%の割合(%)
を、横軸は保存日数を示す。

Claims (15)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】糖類、アミノ酸、および多価アルコールか
    らなる群から選択した安定化剤を抗原と共存させること
    による抗原活性の安定化方法
  2. 【請求項2】抗原が、自己抗体免疫分析用抗原である請
    求項1の抗原活性の安定化方法
  3. 【請求項3】抗原がペプチド抗原である請求項1または
    2の抗原活性の安定化方法
  4. 【請求項4】抗原がヘム蛋白質である請求項3の抗原活
    性の安定化方法
  5. 【請求項5】抗原が、甲状腺ペルオキシダーゼ、サイロ
    トロピン受容体、およびグルタミン酸デカルボキシラー
    ゼから選択したものである請求項2の抗原活性の安定化
    方法
  6. 【請求項6】抗原が、ほ乳動物の組織に由来する蛋白
    質、この蛋白質と同じアミノ酸配列をコードする遺伝子
    を発現させることによって得た組み換え体、この蛋白質
    のエピトープを構成するアミノ酸配列を持つ合成ペプチ
    ド、およびこれらの蛋白質の抗原活性を維持しつつアミ
    ノ酸配列を置換・欠失・挿入した変異体からなる群から
    選択される請求項3、4、および5のいずれかの抗原活
    性の安定化方法
  7. 【請求項7】抗原が放射性同位元素で標識されたもので
    ある請求項1の抗原活性の安定化方法
  8. 【請求項8】糖類が、グルコース、ガラクトース、フル
    クトース、サッカロース、ラクトース、マルトース、ト
    レハロース、マンニトール、およびソルビトールからな
    る群から選択したものである請求項1の抗原活性の安定
    化方法
  9. 【請求項9】アミノ酸が、グリシン、アラニン、バリ
    ン、ロイシン、セリン、プロリン、リシン、およびグル
    タミン酸からなる群から選択したものである請求項1の
    抗原活性の安定化方法
  10. 【請求項10】多価アルコールが、グリセリン、エチレ
    ングリコール、およびプロピレングリコールからなる群
    から選択したものである請求項1の抗原活性の安定化方
  11. 【請求項11】安定化剤が、糖類およびアミノ酸である
    請求項1の抗原活性の安定化方法
  12. 【請求項12】糖類がサッカロースであり、アミノ酸が
    グリシンである請求項11の抗原活性の安定化方法
  13. 【請求項13】抗原が液体状態で保存されるものである
    請求項1の抗原活性の安定化方法
  14. 【請求項14】糖類、アミノ酸、および多価アルコール
    からなる群から選択した安定化剤を含む自己免疫抗体検
    出用の抗原物質組成物
  15. 【請求項15】抗原が甲状腺ペルオキシダーゼである請
    求項14の自己免疫抗体検出用の抗原物質組成物
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