JPH10130266A - 新規抗腫瘍物質、該物質を製造するための微生物及び方法、並びに該物質を有効成分とする細胞周期阻害剤及び抗腫瘍剤 - Google Patents

新規抗腫瘍物質、該物質を製造するための微生物及び方法、並びに該物質を有効成分とする細胞周期阻害剤及び抗腫瘍剤

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JPH10130266A
JPH10130266A JP9188749A JP18874997A JPH10130266A JP H10130266 A JPH10130266 A JP H10130266A JP 9188749 A JP9188749 A JP 9188749A JP 18874997 A JP18874997 A JP 18874997A JP H10130266 A JPH10130266 A JP H10130266A
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浩 川島
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広勝 関谷
Kazunori Omizo
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Abstract

(57)【要約】 【解決手段】 分子式C20H22N4O2で表される動物細胞特
異的な高い増殖阻害活性を有する新規抗腫瘍物質NSC
L−96F037、次式(I): 【化1】 で示される化合物又はその薬学的に許容される塩、及び
それらの製造方法、前記化合物を生産する能力を有する
アスペルギルス・ウスツス(Aspergillus ustus)、並び
に前記化合物を有効成分とする細胞周期阻害剤及び抗腫
瘍剤。 【効果】 本発明の化合物は、動物細胞特異的な高い増
殖阻害活性、及び細胞周期阻害活性を有するので、細胞
周期阻害剤及び抗腫瘍剤として有用である。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、新規抗腫瘍物質、
該物質を製造するための微生物及び方法、並びに該物質
を有効成分とする細胞周期阻害剤及び抗腫瘍剤に関す
る。
【0002】
【従来の技術】従来、微生物代謝産物から単離精製され
た抗腫瘍物質としては、DNAと結合することによって
抗腫瘍活性を示すアントラサイクリン類、マイトマイシ
ン類等の抗腫瘍抗生物質が知られており、実際に抗腫瘍
剤として用いられてきた(上野芳夫、大村智編:微生物
薬品化学(改訂第二版)、南江堂(1986年))。ま
た作用機序を異にする微生物代謝産物から単離精製され
た抗腫瘍物質としては、トリコスタチンA、リゾキシ
ン、グリセオフルビン等が知られている(吉田稔、別府
輝彦:蛋白質核酸酵素、第38巻11号、1753頁
(1993年)、岩崎成夫:化学と生物、第32巻3
号、153頁(1994年))。しかし、更に高い抗腫
瘍性と、選択性の観点から、特に動物細胞特異的な増殖
阻害活性を備える微生物代謝産物由来の新規な化合物が
求められている。
【0003】一方、人体を構成する細胞は恒常性を維持
するためにその増殖と分化は厳密に制御されている。細
胞は、M期・G1期・S期・G2期という一連の過程か
らなる細胞周期を回転することにより分裂、増殖を行
う。この細胞周期の制御機構に異常が生じると癌や免疫
疾患になる。最近では、細胞周期の調節機構が分子レベ
ルで解明されつつあり、細胞周期を調節する物質には、
抗腫瘍剤、免疫抑制剤の可能性が知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、動物細胞特
異的な増殖阻害活性、及び細胞周期阻害活性を備える新
規な抗腫瘍物質、該物質を製造するための微生物及び方
法、並びに該物質を有効成分とする細胞周期阻害剤及び
抗腫瘍剤を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記目的
を達成すべく鋭意努力した結果、アスペルギルス(Asper
gillus) 属に属する微生物の培養物中に新規抗腫瘍物質
が生産され、これが動物細胞特異的な増殖阻害活性、及
び細胞周期阻害活性を有することを見い出し、この物質
をNSCL−96F037と命名した。
【0006】即ち、本発明は、下記の理化学的性質を有
する抗腫瘍物質NSCL−96F037を提供するもの
である。 (i)分子量:350 (FABMS M/Z 351 (M+H) ) (ii)分子式:C20H22N4O2 (iii)赤外線吸収スペクトル:図1のとおり (iv)1H−核磁気共鳴スペクトル(図2参照)(500MH
z、CDCl3 中で測定、内部標準としてCHCl3 の化学シフ
ト値を7.24ppm とした。):δ (ppm) 1.47(6H,s),2.94(1H,dd,J=14,10Hz),3.45(1H,dd,J=14,4
Hz),4.33(1H,brd,J=10Hz),5.10(1H,d,J=17Hz),5.14(1H,
d,J=11Hz),5.88(1H,br),6.00(1H,dd,J=17,11Hz),6.86(1
H,s),7.21-7.26(3H,m),7.31(2H,t,J=8Hz),7.53(1H,s),
9.61(1H,br),12.08(1H,br)
【0007】(v)13C−核磁気共鳴スペクトル(図3
参照)(400MHz、CDCl3 中で測定、内部標準としてCDCl
3 の化学シフト値を77.10ppmとした。):δ (pp
m) 28.07(CH),28.07(CH),37.
69(C),41.33(CH),57.24(C
H),105.67(CH),113.46(C
),123.77(CH),127.56(C
H),129.18(CH),129.18(CH),
129.62(CH),129.62(CH),13
2.29(C),132.64(C),135.55
(C),136.88(C),144.75(CH),
160.04(C),164.85(C)
【0008】(vi)15N−核磁気共鳴スペクトル(60
0MHz、CDCl3 中で測定、内部標準としてアンモニアの化
学シフト値を0ppm とした。):δ (ppm) 112,134,161,253 (vii)メタノール中での紫外スペクトルの吸収極大値
は、中性条件下で323nm で、230nm にピークを持つ(図
4参照)。
【0009】(viii)中性条件下、メタノール中で、320
〜340nm の紫外線によって励起され、395 〜400nm に極
大値を持ち、350 〜550nm の波長幅を持つ蛍光を発す
る。 (ix)酢酸エチル、クロロホルム、メタノール、ピリジ
ンに可溶、水、ベンゼン、トルエンに難溶 (x)ニンヒドリン反応陰性、亜硝酸イオンとの呈色反
応陽性(橙色) (xi)物質の色:白色 また、本発明者らは、前記理化学的性質を有する抗腫瘍
物質の構造解析を行った結果、次式(I):
【0010】
【化2】
【0011】で示される化合物であることが判明した。
従って、本発明は、更に、次式(I):
【0012】
【化3】
【0013】で示される化合物又はその薬学的に許容さ
れる塩を提供するものである。また、本発明は、抗腫瘍
物質NSCL−96F037又は前記式(I)で示され
る化合物を生産する能力を有するアスペルギルス・ウス
ツス(Aspergillus ustus) 、好ましくは、直径18mm、
長さ180mmの試験管1本あたり、生産培地(生産培
地:グルコース5g/l 、グリセリン20ml/l、綿実かす
20g/l 、酵母エキストラクト2g/l 、塩化ナトリウム
2.5g/l、炭酸カルシウム4g/l (pH6. 5))5mlを入
れて準備した試験管各々に、該菌株の分生子を滅菌水で
懸濁させて調製した菌懸濁液を50μ接種し、27℃、
往復振盪(260rpm )で5日間培養せしめ、該培養液
に試験管1本あたり10mlのアセトンを添加し、室温で
1日間抽出後、濾過によって不溶物を除去した濾液を減
圧濃縮し、アセトンを留去した残水層に酢酸エチル5ml
を3回添加、抽出し、減圧濃縮乾固したものをメタノー
ルに溶解させて調製したものについて、標準として純粋
な抗腫瘍物質NSCL−96F037又は前記式(I)
で示される化合物を用いて、高速液体クロマトグラフィ
ーにより測定した場合に、生産培地1L当たり、2mg以
上、好ましくは8mg以上の量で抗腫瘍物質NSCL−9
6F037又は前記式(I)で示される化合物を生産す
るアスペルギルス・ウスツス(Aspergillus ustus) 、並
びにアスペルギルス(Aspergillus) 属に属し、抗腫瘍物
質NSCL−96F037又は前記式(I)で示される
化合物を生産する能力を有する微生物を培地に培養し、
その培養物から該化合物を採取することを特徴とする抗
腫瘍物質NSCL−96F037又は前記式(I)で示
される化合物の製造方法を提供するものである。更に本
発明は、抗腫瘍物質NSCL−96F037又は前記式
(I)で示される化合物を有効成分として含有する細胞
周期阻害剤及び抗腫瘍剤を提供するものである。
【0014】
【発明の実施の形態】本発明の抗腫瘍物質NSCL−9
6F037又は前記式(I)で示される化合物を生産す
る微生物としては、抗腫瘍物質NSCL−96F037
又は前記式(I)で示される化合物を生産する能力を有
するアスペルギルス・ウスツス(Aspergillus ustus) で
あれば特に制限はないが、好ましい具体例としては、神
奈川県川崎市の土壌から分離されたアスペルギルス・ウ
スツス(Aspergillus ustus) NSC−F037及びアス
ペルギルス・ウスツス(Aspergillus ustus) NSC−F
038が挙げられる。また、本発明の微生物は、抗腫瘍
物質NSCL−96F037又は前記式(I)で示され
る化合物を生産する能力を有するアスペルギルス・ウス
ツス(Aspergillus ustus) を、エチルメタンスルホネー
ト、紫外線照射、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニト
ロソグアニジン等の変異原で処理した変異株も包含す
る。
【0015】アスペルギルス・ウスツス(Aspergillus u
stus) NSC−F037及びアスペルギルス・ウスツス
(Aspergillus ustus) NSC−F038は、通商産業省
工業技術院生命工学工業技術研究所に平成8年9月3日
付けで寄託され、それぞれFERM P−15829及
びFERM P−15830の受託番号が付されてい
る。
【0016】アスペルギルス・ウスツス(Aspergillus u
stus) NSC−F037及びアスペルギルス・ウスツス
(Aspergillus ustus) NSC−F038は、いずれも次
の菌学的性質を有する。 (1)各種培地における生育形態 ツァペック酵母エキス寒天培地(25℃)での生育は、
速く、7日間で45〜46mmである。ツァペック酵母エ
キス寒天培地(37℃)での生育は、それよりやや遅
く、7日間で39〜41mmである。麦芽エキス寒天培地
での集落表面の色調は灰色、裏面は灰緑色である。
【0017】(2)形態的性状 ツァペック寒天培地上での形態的性状を示す。 分生子頭:放射状 分生子柄:滑面、褐色で長さ100〜350μm 、直径
4〜7μm 頂のう:球形〜フラスコ形で、直径11〜15μm 、上
部2/3 〜1/2 よりメトレを形成 メトレ:5〜7×4〜7μm フィアライド:アンプル形で、5〜8×3〜4μm 分生子:褐色で、球形、壁面は粗面、3×5μm
【0018】以上の菌学的性質より、ザ・ジーナス・ア
スペルギルス(K.B. Raper and D.I. Fennel, "The gen
us Aspergillus", Wiliams and Wilkins (1965) )に従
い、不完全菌亜門、線菌目、アスペルギルス(Aspergill
us) 属ウスツス(ustus) 種に属することが明らかとな
り、本菌株をアスペルギルス・ウスツス(Aspergillus u
stus) NSC−F037及びアスペルギルス・ウスツス
(Aspergillus ustus) NSC−F038と命名した。
【0019】アスペルギルス・ウスツス(Aspergillus u
stus) に属する公知の菌株には、抗腫瘍物質NSCL−
96F037又は前記式(I)で示される化合物を生産
する能力を有するものはなく、アスペルギルス・ウスツ
ス(Aspergillus ustus) NSC−F037及びアスペル
ギルス・ウスツス(Aspergillus ustus) NSC−F03
8は、いずれも新菌株であると結論した。
【0020】なお、アスペルギルス・ウスツス(Aspergi
llus ustus) NSC−F038は、アスペルギルス・ウ
スツス(Aspergillus ustus) NSC−F037の約4倍
の抗腫瘍物質NSCL−96F037又は前記式(I)
で示される化合物の生産能を有する。
【0021】アスペルギルス(Aspergillus) 属に属し、
抗腫瘍物質NSCL−96F037又は前記式(I)で
示される化合物を生産する能力を有する微生物を培地に
培養し、その培養物から該化合物を採取することによ
り、本発明の抗腫瘍物質NSCL−96F037又は前
記式(I)で示される化合物を製造することができる。
前記微生物は、常法に従って培養することができ、培養
の形態は、液体培養でも固体培養でもよいが、工業的に
有利に培養するためには、前記微生物の菌懸濁液を液体
培地に接種し、通気撹拌培養を行えばよい。培地の栄養
源としては特に限定されることはないが、微生物の培養
に通常用いられる炭素源、窒素源、その他の培地成分を
含有させることができる。炭素源としては、デンプン、
グリセリン、グルコース、シュークロース、ガラクトー
ス等が、窒素源としては、ペプトン、大豆粉、肉エキ
ス、コーンスティープリカー、綿実かす、アンモニウム
塩、硝酸塩、その他有機又は無機の窒素化合物が用いら
れる。その他、無機塩、微量栄養源を適宜添加してもよ
い。培養温度、培養時間等の培養条件は、使用する菌の
発育に適し、しかもNSCL−96F037又は前記式
(I)で示される化合物の生産が最高となるような条件
を選ぶことが好ましい。例えば、培地のpHは、4〜9が
適当であり、5〜8が好ましく、培養温度は、15〜3
5℃が適当であり、23〜28℃が好ましい。培養時間
は、48〜192時間が適当であり、72〜192時間
が好ましい。しかし、これらの培地組成、培地のpH、培
養温度、培養時間等の培養条件は使用する菌株の種類
や、外部の条件等に応じて、所望の結果が得られるよう
に適宜調整されるべきことはいうまでもない。前記のよ
うな培養物から、代謝産物を採取するのに通常使用され
る手段を適宜用いてNSCL−96F037又は前記式
(I)で示される化合物を採取することができる。例え
ば、NSCL−96F037又は前記式(I)で示され
る化合物と培養物中に含まれる他の物質との有機溶媒に
対する親和性の差を利用する手段、溶解度の差を利用す
る手段、各種樹脂に対する吸着親和力の差を利用する手
段のいずれかを、それぞれ単独で、又は適宜組み合わせ
て、あるいは反復して使用することができる。具体的に
は、イオン交換クロマトグラフィー、非イオン性吸着樹
脂を用いたクロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラ
フィー、活性炭、アルミナ、シリカゲル等の吸着剤によ
るクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等
の各種の液体クロマトグラフィー、あるいは、結晶化、
減圧濃縮、凍結乾燥等の手段を、それぞれ単独で、又は
適宜組み合わせて、あるいは反復して使用することがで
きる。
【0022】前記のようにして得られたNSCL−96
F037の理化学的性質は前記のとおりであり、新規化
合物であることが明らかになった。本発明の抗腫瘍物質
NSCL−96F037及び前記式(I)で示される化
合物は、塩基性物質であり、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫
酸塩、硝酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、トルエン
スルホン酸塩、クエン酸塩等の薬学的に許容される塩と
して用いることもできる。
【0023】本発明の抗腫瘍物質NSCL−96F03
7及び前記式(I)で示される化合物は、動物細胞特異
的な高い増殖阻害活性、及び細胞周期阻害活性を有し、
細胞周期阻害剤及び抗腫瘍剤として有用である。
【0024】本発明の抗腫瘍物質NSCL−96F03
7又は前記式(I)で示される化合物を有効成分として
含有する細胞周期阻害剤及び抗腫瘍剤は、経口及び非経
口投与のいずれの投与経路でも使用可能であり、経口投
与する場合は、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、シロ
ップ剤等の剤形で投与することができ、また、非経口投
与する場合は、水溶性懸濁液、油性製剤等の皮下あるい
は静脈注射剤、点滴剤、坐薬、塗布薬、軟膏のような剤
形で投与することができる。
【0025】本発明の抗腫瘍物質NSCL−96F03
7又は前記式(I)で示される化合物を細胞周期阻害剤
又は抗腫瘍剤として製剤化するために、界面活性剤、賦
形剤、滑沢剤、佐剤及び薬学的に許容される被膜形成物
質、コーティング助剤等を適宜使用することができる。
例えば、界面活性剤としては、アルコール類、エステル
類、硫酸化脂肪族アルコール類等を挙げることができ
る。また、賦形剤としては、ショ糖、乳糖、デンプン、
結晶セルロース、マンニット、軽質無水ケイ酸、アルミ
ン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウ
ム、合成ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸水
素ナトリウム、リン酸水素カルシウム、カルボキシメチ
ルセルロースカルシウム等を挙げることができる。滑沢
剤としては、ステアリン酸マグネシウム、タルク、硬化
油等を挙げることができ、懸濁剤や潤滑剤のごとき佐剤
としては、ココナッツ油、オリーブ油、ゴマ油、落花生
油、大豆リン脂質等を挙げることができる。被膜形成物
質としては、セルロースや糖類等の炭水化物の誘導体と
して、酢酸フタル酸セルロース、また、ポリビニル誘導
体としてアクリル酸メチル・メタクリル酸共重合体が挙
げられる。コーティング助剤としては、フタル酸エステ
ル類等の可塑剤を挙げることができる。前記の成分の他
に、甘味料、香料、着色料、保存料等を添加してもよ
い。
【0026】本発明の細胞周期阻害剤及び抗腫瘍剤は、
成人の患者に対して、有効成分であるNSCL−96F
037又は前記式(I)で示される化合物として0.1
mg〜1g/日を1回又は数回に分けて経口又は非経口
投与する。この投与量は、病状、患者の年齢、体重によ
り適宜増減することができる。
【0027】また、本発明の細胞周期阻害剤を生化学試
験用試薬として使用する場合、有機溶媒又は含水有機溶
媒に溶解して各種培養細胞系へ直接適用すると、細胞周
期の進行をG2/M期で阻止する。使用可能な有機溶媒
としては、例えば、メタノールやジメチルスルホキシド
等を挙げることができる。剤形としては、例えば、粉末
もしくは顆粒等の固形剤又は有機溶媒もしくは含水有機
溶媒に溶解した液剤等を挙げることができる。通常、本
発明の細胞周期阻害剤の効果的な使用量範囲は1〜100
μg/mlであるが、適切な使用量は培養細胞系の種類や使
用目的により異なる。また、必要により前記の範囲外の
量を用いることもできる。
【0028】
【実施例】以下、実施例及び試験例により、本発明を更
に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらにより何
ら制限されるものではない。
【0029】(実施例1)NSC−F037株からのN
SCL−96F037の製造 種菌としてアスペルギルス・ウスツス(Aspergillus ust
us) NSC−F037を用いた。直径18mm、長さ18
0mmの試験管1本あたり滅菌済生産培地(生産培地:グ
ルコース5g/l 、グリセリン20ml/l、綿実かす20g/
l 、酵母エキストラクト2g/l 、塩化ナトリウム2.5g/
l、炭酸カルシウム4g/l (pH6. 5))5mlを入れて
準備した試験管1700本(生産培地計8. 5L)各々
に、該菌株の分生子を滅菌水で懸濁させて調製した菌懸
濁液を50μ接種し、27℃、往復振盪(260rpm )
で5日間培養した。該培養液に試験管1本あたり10ml
のアセトンを添加し、室温で1日間抽出した。ついで、
濾過によって不溶物を除去した濾液(20L)を減圧濃
縮し、アセトンを留去した。残った水層に酢酸エチル9
Lを添加し抽出した。酢酸エチル層を硫酸ナトリウムで
脱水、減圧濃縮乾固後、シリカゲルオープンカラムクロ
マトグラフィー(クロロホルム−メタノール系)に供
し、抗腫瘍活性画分を分取した。本画分を減圧濃縮乾固
後、少量の70%メタノールに溶解させ、センシューパ
ックODS-5251-SS 20mmφ×250mm((株)センシュ
ー科学)を用いる高速液体クロマトグラフィーにより、
70%メタノールのイソクラティック条件で精製し、抗
腫瘍活性画分を分取した。更に、本画分を減圧濃縮乾固
後、センシューパック アクアシルSS-5251(60) 20mm
φ×250mm((株)センシュー科学)を用いる高速液
体クロマトグラフィーにより、クロロホルム:メタノー
ル=95:5のイソクラティック条件で精製し、抗腫瘍
活性画分を分取した。本画分を減圧濃縮し、透明な油状
物質を得た。これを少量のベンゼンにて懸濁させ、減圧
濃縮乾固することにより、25mgのNSCL−96F0
37を白色粉末として得た。
【0030】(実施例2)NSC−F038株からのN
SCL−96F037の製造 アスペルギルス・ウスツス(Aspergillus ustus) NSC
−F037の代わりにアスペルギルス・ウスツス(Asper
gillus ustus) NSC−F038を用いる以外は、実施
例1と同様に処理した結果、アスペルギルス・ウスツス
(Aspergillus ustus) NSC−F038は、アスペルギ
ルス・ウスツス(Aspergillus ustus) NSC−F037
の約4倍の抗腫瘍物質NSCL−96F037生産能を
有することが判明した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】(実施例3)NSC−F038株からの本
発明化合物(I)の製造 グルコース0. 5%、グリセリン2%、酵母エキストラ
クト0. 2%、綿実かす2%、塩化ナトリウム0. 25
%及び寒天1. 5%(pH6. 5)からなる固形培地
(直径9cmシャーレに20mlの前記培地)にアスペ
ルギルス・ウスツス(Aspergillus ustus) NSC−F0
38を5点接種し26℃で7日間、暗所にて培養し、胞
子を形成させた。0. 05%の濃度になるようにツゥイ
ーン20を加えた滅菌水5mlにて胞子を回収し胞子懸
濁液を得た。この胞子懸濁液を前記固形培地20mlを
含むシャーレ400枚に0. 1mlずつ接種し、26℃
で8日間、暗所にて培養を行った。この培養物をミキサ
ーにて破砕し、8Lの酢酸エチルを加え、2日間放置
し、抽出した。回収した酢酸エチルを減圧濃縮し、褐色
のシロップ15gを得た。
【0033】このシロップを20mlの酢酸エチルに溶
解し、酢酸エチルで調製したシリカゲルカラム(ベッド
容積:直径8cm、長さ20cm)に浸潤させ、アセト
ン−酢酸エチル(1:5)にて溶出を行った。溶出液を
500mlずつ溶出順に従って分画した。本化合物は5
〜10番目の分画に溶出され、この溶出物を減圧濃縮す
ることにより計4. 65gの濃茶色粉末を得た。
【0034】この濃茶色粉末を10mlのクロロホルム
にて溶解し、クロロホルムで調製したシリカゲルカラム
(ベッド容積:直径4cm、長さ30cm)に浸潤さ
せ、最初にクロロホルム500mlで溶出し、次にクロ
ロホルム−メタノール(50:1)にて溶出した。
【0035】本化合物は、クロロホルム−メタノール
(50:1)溶液にて溶出され、計1. 05gの茶色粉
末を得た。この茶色粉末に酢酸エチルを加え、よく撹拌
し2日間静置することにより、本化合物を含む白色粉末
(A)628mgを析出させた。この白色粉末(A)を
加水分解し、得られたフェニルアラニンを光学活性カラ
ムを用いた高速液体クロマトグラフィーに付したとこ
ろ、R体及びS体のフェニルアラニンの存在が確認さ
れ、前記白色粉末(A)は、前記式(I)で示される化
合物のR体及びS体の両者を含むことが判明した。
【0036】前記白色粉末(A)を微量のメタノールを
含む酢酸エチルにて溶解し、7日間放置した。この結
果、淡黄色結晶性固体として前記式(I)で示される化
合物のR体、即ち、次式(I’):
【0037】
【化4】
【0038】で示される化合物の精製標品を187mg
得た。表2及び表3に精製標品の物性値等を示す。
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】(試験例1) (A)ヒト肺癌由来A−549細胞に対する抗腫瘍作用 EMEM培地(ニッスイ製薬(株))、10%牛胎児血
清の組成からなる培地に105 細胞/mlに調整したヒト肺
癌由来A−549細胞を100 μl ずつ96穴マイクロタ
イタープレートの各穴に分注した。最上段の穴に、実施
例1で得たNSCL−96F037のメタノール溶液を
添加し、半対数希釈法で検体の希釈、添加を行い、該プ
レートを炭酸ガス細胞培養器内で、37℃、48時間培
養した。これにMTT試薬(3−(4,5−ジメチル−
2−チアゾリル)−2,5−ジフェニル−2H−テトラ
ゾリウムブロミド)(1mg/ml・PBS)を10μl ずつ
加え、炭酸ガス細胞培養器内で、37℃、6時間培養
し、培地を捨てた後、細胞内に生じたホルマザンの結晶
を100 μl/穴のジメチルスルホキシドで溶解した。続い
てマイクロプレートリーダーにより、595nm の吸光度を
測定した。無処理細胞と既知濃度の検体で処理した細胞
の吸光度を比較することにより、細胞の増殖を50%阻
害する検体濃度(IC50)を算出し、IC50= 0.3μg/
mlを得た。
【0042】(B)抗菌試験 グラム陰性菌として大腸菌JM109株、グラム陽性菌
としてBacillus natto菌、カビとしてAspergillus nige
r IFO 6341 株を用いて、ろ紙ディスク寒天平板法
(検体100 μg を直径9mmのろ紙に添加、風乾。細菌は
標準寒天培地、カビはポテトデキストロース寒天培地を
使用)で抗菌試験を行ったが、抗菌活性は観察されなか
った。また、酵母Saccharomyces cerevisiae HF7C株を
用いて、液体培地希釈法で抗菌試験を行ったが、抗菌活
性は観察されなかった。以上のことより、本発明の抗腫
瘍物質NSCL−96F037は、動物細胞特異的な高
い増殖阻害活性を有することが分かる。
【0043】(試験例2)本発明化合物の細胞周期阻害
活性 ヒト肺癌由来細胞株A431細胞を用いた。A431細
胞は37℃で10%牛胎児血清、1%MEM非必須アミ
ノ酸溶液(シグマM2025)を含むEMEM培地にて
5%炭酸ガスと水蒸気を飽和させた培養器内で培養し、
対数増殖期にある細胞に実施例3で得た本発明化合物
(I’)の精製標品を添加して、フローサイトメーター
と顕微鏡観察により細胞周期の進行を解析した。結果を
表4に示す。
【0044】
【表4】
【0045】阻害効果の判定基準は、以下のとおりであ
る。 有 :50%以上の細胞が細胞周期をG2/M期で停止
した。 軽微:10%以上50%未満の細胞が細胞周期をG2/
M期で停止した。 無 :10%未満の細胞が細胞周期をG2/M期で停止
した。 表4の結果は本発明の化合物が細胞周期阻害剤として有
用であることを示している。
【0046】(試験例3)本発明化合物の細胞増殖抑制
効果 ヒト慢性骨髄性白血病細胞K−562をRPMI164
0培地(10%の牛胎児血清を含む)で培養、またヒト
外陰部扁平上皮癌細胞A−431をDMEM培地(10
%の牛胎児血清を含む)で培養した。これらに一連の希
釈系列の実施例3で得た本発明化合物(I’)の精製標
品を加え、48時間培養した後、MTT試薬を加えて生
育を計測した。結果を表5に示す。
【0047】
【表5】
【0048】表5の結果は本発明の化合物が抗腫瘍剤と
して有用であることを示している。 (製剤例1)注射・点滴剤 本発明の化合物10mgを含有するように、粉末ブドウ
糖5gを加えてバイアルに無菌的に分配し密封した上、
窒素、ヘリウム等の不活性ガスを封入して冷暗所に保存
した。使用前にエタノールに溶解し、0. 85%生理食
塩水100mlを添加して静脈内注射剤とし、1日10
〜100mlを症状に応じて静脈内注射又は点滴で投与
する。
【0049】(製剤例2)注射・点滴剤 本発明の化合物2mgを用いて、製剤例1と同様の方法
により軽症用静脈内注射剤とし、1日10〜100ml
を症状に応じて静脈内注射又は点滴で投与する。 (製剤例3)顆粒剤 本発明の化合物1g、乳糖98g及びヒドロキシプロピ
ルセルロース1gを各々とり、よく混合した後、常法に
従って粒状に成形し、これをよく乾燥して篩別してビ
ン、ヒートシール包装等に適した顆粒剤を製造した。1
日100〜1000mgを症状に応じて経口で投与す
る。
【0050】
【発明の効果】本発明により、新規抗腫瘍物質及びその
製造方法、当該物質を生産する能力を有するアスペルギ
ルス・ウスツス(Aspergillus ustus) が提供された。本
発明の化合物は、動物細胞特異的な高い増殖阻害活性、
及び細胞周期阻害活性を有するので、細胞周期阻害剤及
び抗腫瘍剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の抗腫瘍物質NSCL−96F037の
赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【図2】本発明の抗腫瘍物質NSCL−96F037の
1H−核磁気共鳴スペクトルを示す図である。
【図3】本発明の抗腫瘍物質NSCL−96F037の
13C−核磁気共鳴スペクトルを示す図である。
【図4】本発明の抗腫瘍物質NSCL−96F037の
紫外スペクトルを示す図である。
【図5】実施例3で得た本発明化合物(I’)の精製標
品のメタノール中の紫外線吸収スペクトルを示す図であ
る。
【図6】実施例3で得た本発明化合物(I’)の精製標
品の赤外線吸収スペクトル(KBr)を示す図である。
【図7】実施例3で得た本発明化合物(I’)の精製標
品の1H−核磁気共鳴スペクトル(CDCl3 )を示す
図である。
【図8】実施例3で得た本発明化合物(I’)の精製標
品の13C−核磁気共鳴スペクトル(CDCl3 )を示す
図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI C12P 1/02 C12P 1/02 Z 17/16 17/16 //(C12N 1/14 C12R 1:70) (C12P 1/02 C12R 1:70) (C12P 17/16 C12R 1:70) (72)発明者 原田 武雄 神奈川県川崎市中原区井田3−35−1 新 日本製鐵株式会社技術開発本部内 (72)発明者 河野 慎吉 神奈川県川崎市中原区井田3−35−1 新 日本製鐵株式会社技術開発本部内 (72)発明者 加納 周雄 神奈川県川崎市中原区井田3−35−1 新 日本製鐵株式会社技術開発本部内 (72)発明者 川島 浩 神奈川県川崎市中原区井田3−35−1 新 日本製鐵株式会社技術開発本部内 (72)発明者 関谷 広勝 神奈川県川崎市中原区井田3−35−1 新 日本製鐵株式会社技術開発本部内 (72)発明者 大溝 和則 神奈川県川崎市中原区井田3−35−1 新 日本製鐵株式会社技術開発本部内

Claims (7)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 次の理化学的性質を有する抗腫瘍物質N
    SCL−96F037。 (i)分子量:350 (FABMS M/Z 351 (M+H) ) (ii)分子式:C20H22N4O2 (iii)赤外線吸収スペクトル:図1のとおり (iv)1H−核磁気共鳴スペクトル(500MHz、CDCl3
    で測定、内部標準としてCHCl3 の化学シフト値を7.24pp
    m とした。):δ (ppm) 1.47(6H,s),2.94(1H,dd,J=14,10Hz),3.45(1H,dd,J=14,4
    Hz),4.33(1H,brd,J=10Hz),5.10(1H,d,J=17Hz),5.14(1H,
    d,J=11Hz),5.88(1H,br),6.00(1H,dd,J=17,11Hz),6.86(1
    H,s),7.21-7.26(3H,m),7.31(2H,t,J=8Hz),7.53(1H,s),
    9.61(1H,br),12.08(1H,br) (v)13C−核磁気共鳴スペクトル(400MHz、CDCl3
    で測定、内部標準としてCDCl3 の化学シフト値を77.10p
    pmとした。):δ (ppm) 28.07(CH3),28.07(CH3),37.69(C),41.33(CH2),57.24(C
    H),105.67(CH),113.46(CH2),123.77(CH),127.56(CH),12
    9.18(CH),129.18(CH),129.62(CH),129.62(CH),132.29
    (C),132.64(C),135.55(C),136.88(C),144.75(CH),160.0
    4(C),164.85(C) (vi)15N−核磁気共鳴スペクトル(600MHz、CDCl3
    で測定、内部標準としてアンモニアの化学シフト値を0
    ppm とした。):δ (ppm) 112,134,161,253 (vii)メタノール中での紫外スペクトルの吸収極大値
    は、中性条件下で323nm で、230nm にピークを持つ。 (viii)中性条件下、メタノール中で、320 〜340nm の紫
    外線によって励起され、395 〜400nm に極大値を持ち、
    350 〜550nm の波長幅を持つ蛍光を発する。 (ix)酢酸エチル、クロロホルム、メタノール、ピリジ
    ンに可溶、水、ベンゼン、トルエンに難溶 (x)ニンヒドリン反応陰性、亜硝酸イオンとの呈色反
    応陽性(橙色) (xi)物質の色:白色
  2. 【請求項2】 次式(I): 【化1】 で示される化合物又はその薬学的に許容される塩。
  3. 【請求項3】 請求項1又は2記載の化合物を生産する
    能力を有するアスペルギルス・ウスツス(Aspergillus u
    stus) 。
  4. 【請求項4】 直径18mm、長さ180mmの試験管1本
    あたり、生産培地(生産培地:グルコース5g/l 、グリ
    セリン20ml/l、綿実かす20g/l 、酵母エキストラク
    ト2g/l 、塩化ナトリウム2.5g/l、炭酸カルシウム4g/
    l (pH6. 5))5mlを入れて準備した試験管各々に、
    該菌株の分生子を滅菌水で懸濁させて調製した菌懸濁液
    を50μ接種し、27℃、往復振盪(260rpm )で5
    日間培養せしめ、該培養液に試験管1本あたり10mlの
    アセトンを添加し、室温で1日間抽出後、濾過によって
    不溶物を除去した濾液を減圧濃縮し、アセトンを留去し
    た残水層に酢酸エチル5mlを3回添加、抽出し、減圧濃
    縮乾固したものをメタノールに溶解させて調製したもの
    について、標準として純粋な請求項1又は2記載の化合
    物を用いて、高速液体クロマトグラフィーにより測定し
    た場合に、生産培地1L当たり、2mg以上の量で請求項
    1又は2記載の化合物を生産する請求項3記載のアスペ
    ルギルス・ウスツス(Aspergillus ustus) 。
  5. 【請求項5】 アスペルギルス(Aspergillus) 属に属
    し、請求項1又は2記載の化合物を生産する能力を有す
    る微生物を培地に培養し、その培養物から該化合物を採
    取することを特徴とする請求項1又は2記載の化合物の
    製造方法。
  6. 【請求項6】 請求項1又は2記載の化合物を有効成分
    として含有する細胞周期阻害剤。
  7. 【請求項7】 請求項1又は2記載の化合物を有効成分
    として含有する抗腫瘍剤。
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