JPH1010090A - 準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯の加工誘起マルテンサイト量の測定方法および装置 - Google Patents

準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯の加工誘起マルテンサイト量の測定方法および装置

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JPH1010090A
JPH1010090A JP16609496A JP16609496A JPH1010090A JP H1010090 A JPH1010090 A JP H1010090A JP 16609496 A JP16609496 A JP 16609496A JP 16609496 A JP16609496 A JP 16609496A JP H1010090 A JPH1010090 A JP H1010090A
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steel strip
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work
induced martensite
stainless steel
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JP16609496A
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English (en)
Inventor
Nobukazu Tsukuda
宣和 佃
Reiki Shiotani
礼機 塩谷
Shigeto Hayashi
茂人 林
Hisao Morishita
久生 森下
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Nippon Steel Nisshin Co Ltd
Original Assignee
Nisshin Steel Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯の加
工誘起マルテンサイト量を、オンライン中で正確にかつ
高精度で測定するための方法を提供する。 【解決手段】 所定の通板方向Dに通板中の準安定オー
ステナイト系ステンレス鋼帯1の表面HAから下端面3
aまでの間隔を1〜4mmとし、励磁コイル13に約5
0kHz〜約2MHzの高周波電流を通電して磁界を形
成し、この磁界によって鋼帯1に発生した渦電流を検出
コイル14によって検出し、この検出値に基づいて鋼帯
1の各誘起マルテンサイト量を測定する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、準安定オーステナ
イト系ステンレス鋼帯を冷間圧延、調質圧延、連続テン
ションレベラ処理加工、連続焼鈍処理および光輝焼鈍処
理などの各種の処理加工において、発生する加工誘起マ
ルテンサイト量をオンラインで正確に測定して、この測
定値に基づいて製品のばね性および加工歪みなどの機械
的性能を高精度で制御するために好適に実施することが
できる準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯の加工誘
起マルテンサイト量の測定方法および装置に関する。
【0002】
【従来の技術】SUS301などに代表される準安定オ
ーステナイト(γ)系ステンレス鋼は、冷間圧延すると
加工誘起マルテンサイト(α′)相を生成し、硬さ、耐
力、引張強さなどの強度特性が著しく向上することが知
られている。そのため、準安定オーステナイト系ステン
レス鋼は、冷間圧延したままか、あるいは冷間圧延した
後に時効処理して、各種のばね用材料、スチールベルト
および車両材料などに広く利用されている。SUS30
1の機械的性質は、加工誘起マルテンサイト量(以下、
α′量と略記する)、圧延率、成分(C,N量)、γ安
定度に依存する。特に影響力の大きいα′量、圧延率、
γ安定度などに加えて、圧延速度や1パス当たりの圧下
率、気温、油温などの各種の圧延条件のわずかな違いに
よって、そのα′量が大きく変化する。したがって圧延
後の材料特性を予測し、最終目標とする機械的性質を得
るためには、冷間圧延中のα′量を高精度で検出し得る
測定技術が求められる。
【0003】図20は、オーステナイト系ステンレス鋼
の機械的性質に影響を及ぼす影響因子を説明するための
図である。たとえば上記のSUS301の機械的性質
は、α′量、圧延率、成分(C,N量)、γ安定度に依
存する。特に影響力の大きいα′量は、圧延率、γ安定
度などに加えて圧延速度や1パス当たりの圧下率、気
温、油温などの圧延条件のわずかな違いによって、その
生成量が大きく変化する。
【0004】図21は、α′相の体積率Vα′と硬さH
Vとの関係からα′量の硬さに及ぼす影響を示す図であ
る。圧延率を60%にして0℃、20℃、50℃、70
℃および120℃の圧延温度が異なる5つの試料を冷間
圧延して、α′量の体積率Vα′に対する硬さHVの関
係をみたとき、温度が高いほどα′量が増加し、硬くな
ることが判る。
【0005】図22は、α′相生成に及ぼす圧延速度の
影響を示すグラフである。圧延速度を50m/分、10
0m/分および150m/分で圧下量を10%として冷
間圧延したときに、圧延率が増加すると、α′相の生成
量が増加し、しかも圧延速度が小さいほどα′相の生成
量が多いことが判る。
【0006】図23は、α′相の生成量に及ぼす材料温
度の影響を示すグラフである。試料AはC含有量が0.
098重量%、N含有量が0.016重量%、Ni当量
が19.4重量%であり、試料BはC含有量が0.10
7重量%、N含有量が0.030%、Ni当量が21.
1d重量%であって、上記材料温度を20℃、70℃、
120℃とそれぞれ異なる温度で冷間圧延を行ったとき
の圧延率に対するα′相の体積率とα′相の体積率
α′との関係を示す。同図から、各試料A,Bのいず
れも材料温度が低いほどα′相の生成量が多くなること
が判る。また試料Bは試料Aに比べてNi当量が多く、
準安定オースナイト系ステンレス鋼の中でもγ相が安定
しており、試料Aに比べてα′相を生成しにくいことが
判る。一般にばね材はオースナイト系ステンレス鋼の加
工硬化を利用して製造されるが、一定の機械的特性を得
るために、圧延時にコイルを加温して初期温度を一定に
保ち、圧延速度のばらつきを抑制するために圧延速度を
100〜200m/分程度に規制している。
【0007】図24に代表的な硬さ規格と実際のコイル
長手方向の硬さ分布の一例を示す。各コイル,,
の長手方向両端部において、すなわちトップエンドおよ
びボトムエンドにおいて、圧延開始時および圧延終了
時、およびレバース圧延においては通板方向を反転する
ために加減速が行われ、これによってコイル長手方向に
おける両端部の硬さが規定範囲HV1,HV2よりも高く
なるのが一般的である。このような速度の規制等を行っ
て規格はずれの部分が発生するため、コイルのトップエ
ンドおよびボトムエンド付近の50〜100m程度が屑
材として処理されており、歩留りの低下を生じている。
特に、ばね材を製造するときには、時効処理(歪み時
効)を行い、1次巻の型を付けた後、2次巻(逆巻)し
たときに塑性変形してトルクが低下してしまい、所定の
トルク特性を達成し得ない場合が生じる。このようなば
ね材は、所定のトルクまたはトルク範囲を満たさなけれ
ば欠陥品として取扱われてしまう。そのため、前記鋼帯
の機械的特性、特にα′量を高精度で測定することがで
きる技術が求められている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】したがって本発明の目
的は、α′量の測定精度を向上することができるように
した準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯の加工誘起
マルテンサイト量の測定方法および装置を提供すること
である。
【0009】
【課題を解決するための手段】請求項1記載の本発明
は、準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯の加工処理
によって発生する加工誘起マルテンサイト量を、前記加
工処理ラインのオンライン中で非破壊的かつ連続的に測
定する方法であって、前記加工処理ラインの所定位置に
励磁周波数が約50kHz〜約2MHzの励磁電流によ
って励磁されるコイルを内蔵する少なくとも1つの測定
センサを、走行する前記鋼帯の表面から1〜4mmの間
隔をあけて非接触に配置し、加工処理中の走行する鋼帯
における加工誘起マルテンサイト量を測定することを特
徴とする準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯の加工
誘起マルテンサイト量の測定方法である。本発明に従え
ば、測定センサに内蔵されるコイルを約50kHz〜約
2MHzの励磁周波数の励磁電流によって励磁し、これ
によって発生した鋼帯表面の渦電流を検出して加工誘起
マルテンサイト量を測定することができる。前記コイル
に通電される励磁電流の周波数が約50kHzであると
は、50±10kHzの範囲を言い、また約2MHzと
は2±0.4MHzの範囲を言う。このように励磁電流
の周波数の範囲を定めることによって、測定センサ自体
の感度、精度、外乱の影響を解消することができるとと
もに、通板中の鋼帯の厚み、温度、張力の影響による加
工誘起マルテンサイト量の変化に対する出力変化が大き
く、検出精度を可及的に高くすることができ、これによ
って正確な加工誘起マルテンサイト量を測定することが
可能となる。
【0010】請求項2記載の本発明は、析出硬化系ステ
ンレス鋼帯の加工処理における加工誘起マルテンサイト
量を測定することを特徴とする。本発明に従えば、前記
準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯は、たとえばア
ルミニウム、銅などの析出硬化元素を微量添加し、熱処
理によってこれらの元素の化合物などを析出させ、硬化
する性質を持たせたステンレス鋼帯の加工処理による加
工誘起マルテンサイト量を測定する。このような析出硬
化系ステンレス鋼帯は、たとえば冷間圧延したとき、圧
下による加工誘起マルテンサイト相の生成量は少なく、
したがって1パスあたりの加工誘起マルテンサイト量の
変化がわずかであるけれども、このようなわずかな加工
誘起マルテンサイト量の変化を上記の測定センサによっ
て正確に測定することができる。
【0011】請求項3記載の本発明の前記加工処理は、
冷間圧延、調質圧延、連続テンションレベラ処理加工、
連続焼鈍処理および光輝焼鈍処理のいずれかから選ばれ
る一加工処理であることを特徴とする。本発明に従え
ば、冷間圧延を行う場合には、その冷間圧延前および冷
間圧延後の加工誘起マルテンサイト量を正確に測定する
ことができ、1パス毎にマルテンサイト相の生成量を正
確に測定し、その測定結果に基づいて圧延条件、すなわ
ち圧延温度、通板速度および圧延量を高精度で制御する
ことが可能となる。また調質圧延を行う場合には、圧下
率が少量、たとえば0.8〜1.5%程度の伸びを与え
ることによって降伏伸び現象を阻止し、微小な加工誘起
マルテンサイト量を正確に測定して、鋼帯の機械的性質
を高精度で制御することができる。また焼鈍後の鋼帯を
調質圧延する場合には、上記測定センサによって加工誘
起マルテンサイト量が少量でも発生していないかどうか
のチェックのために実施することもでき、これによって
鋼帯の物理的および機械的特性の均一化を図ることがで
きる。さらに連続テンションレベラ処理加工では、熱処
理後の鋼帯の平坦度を満たすための形状矯正を行うので
あるが、このとき加工誘起マルテンサイト相が生成され
ないかどうかを確認するために上記測定センサによる測
定方法を実施して、加工誘起マルテンサイト相の生成さ
れない均一な物理的および機械的特性を高精度で達成し
得る鋼帯を製造することができる。さらに連続焼鈍処理
および光輝焼鈍処理は、そのいずれも鋼帯を適当な温度
に加熱し、その温度に保持した後除冷する操作によって
内部応力の除去、硬さの低下、被削性の向上、結晶組織
の調整、または所定の機械的および物理的性質を得るこ
となどを目的とし、マルテンサイト相を生成することを
目的としないけれども、加工誘起マルテンサイト相がわ
ずかでも発生するとその鋼帯は磁気特性を帯び、透磁率
が高くなる。このような場合に測定センサによって加工
誘起マルテンサイト量を高精度で検出し、品質管理を高
精度で行うことができる。
【0012】請求項4記載の前記加工処理された鋼帯
は、薄板ばねまたはぜんまいばねに使用されるばね用ス
テンレス鋼帯であることを特徴とする。本発明に従え
ば、ステンレス鋼帯を薄板ばねまたはぜんまいばねなど
のばね用ステンレス鋼帯として用いる場合には、加工誘
起マルテンサイト量によってトルク特性などのばね特性
が顕著に変化するため、上記の測定センサによって加工
誘起マルテンサイト量を高精度で検出し、所定の機械的
強度を達成しているか否かを判別することができ、精度
の高い品質管理を行うことができる。
【0013】請求項5記載の本発明の前記加工処理され
た鋼帯は、加工誘起マルテンサイト量を極力誘起させな
いように抑制して加工処理された鋼帯であることを特徴
とする。本発明に従えば、前記加工処理された鋼帯は、
加工誘起マルテンサイト相を極力誘起させないように抑
制して加工または処理されたものであり、たとえば焼鈍
処理したままで出荷する鋼帯であって、マルテンサイト
相が発生すると困るような場合に、上記測定センサによ
って高精度で加工誘起マルテンサイト相を検出し、品質
管理に寄与することができる。
【0014】請求項6記載の本発明は、準安定オーステ
ナイト系ステンレス鋼帯の加工処理によって発生する加
工誘起マルテンサイト量を、前記加工処理ラインのオン
ライン中で非破壊的かつ連続的に測定する準安定オース
テナイト系ステンレス鋼帯の加工誘起マルテンサイト量
の測定装置において、励磁周波数が約50kHz〜約2
MHzの励磁電流によって励磁されるコイルを内蔵した
少なくとも1つの測定センサを、前記加工処理ラインの
所定位置で走行する前記鋼帯の表面から約1〜4mmの
間隔をあけて非接触に配置し、この測定センサの非接触
の配置位置に対応して、走行する前記鋼帯の被測定位置
との位置関係を一定に保持するための保持手段を設ける
ことを特徴とする準安定オーステナイト系ステンレス鋼
帯の加工誘起マルテンサイト量の測定装置である。本発
明に従えば、コイルを励磁周波数が約50kHz〜約2
MHzの励磁電流によって励磁される測定センサを用
い、この測定センサを鋼帯の表面から1〜4mmの間隔
をあけた位置に非接触に配置されるように保持手段によ
って保持し、加工処理ラインの所定位置で走行する前記
鋼帯の加工誘起マルテンサイト量を測定する。このよう
に測定センサと鋼帯の表面との間隔を1〜4mmとし、
測定センサのコイルを励磁する励磁電流の周波数を約5
0kHz〜約2MHzに選ぶことによって、鋼帯の厚
み、通板速度、温度などの条件変化に対して測定センサ
の出力への影響を極力少なくすることができ、加工誘起
マルテンサイト量の変化に対するセンサ出力の変化を大
きくして、適確に鋼帯の加工誘起マルテンサイト量を検
出することができる。上記の励磁周波数の下限値が約5
0kHzであるとは、50±10kHzの範囲を言い、
また励磁周波数の上限が約2MHzであるとは、2±
0.4MHzの範囲を言う。このような励磁周波数の下
限値および上限値の幅は、センサの感度および精度の点
において、ある程度のばらつきがあるためである。この
ような測定センサによって走行中の鋼帯に誘起されるマ
ルテンサイト相を正確に、しかも連続して高精度で検出
することが可能となる。
【0015】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の実施の一形態の
準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯1の加工誘起マ
ルテンサイト量の測定方法が実施される冷間圧延ライン
2の一部の簡略化した側面図であり、図2は図1の左側
から見た測定センサ3の外観を示す拡大正面図であり、
図3は測定センサ3による加工誘起マルテンサイト量を
測定するための概略的構成を示すブロック図である。冷
間圧延機4の通板方向D下流側には、テンションリール
5によって巻取られる準安定オーステナイト系ステンレ
ス鋼帯(以下、鋼帯と略記する)1の通板経路に沿って
厚み計6、放射温度計7、測定センサ3がこの順序に相
互に近接して設けられ、鋼帯1が巻掛けられるデフレク
タロール8には鋼帯1の張力を測定するための張力計9
が設けられる。
【0016】測定センサ3は、センサ本体9と、センサ
本体9の通板方向Dに垂直な幅方向の両側に設けられ、
センサ本体9を、その下端面9aが鋼帯1の表面1aか
ら間隔ΔLを有する位置に支持する一対の車輪10a,
10bと、センサ本体9および各車輪10a,10bを
圧延ライン2の所定の取付位置に上下に変位自在に保持
する保持手段である保持体11とを有する。前記間隔Δ
Lは、1〜4mmに選ばれる。この間隔ΔLが1mm未
満であれば、鋼帯1の表面1aに生じた金属粉や異物に
センサ本体9の下端面9aが接触して測定が困難とな
り、また間隔ΔLが4mmを超えると、正常な測定範囲
を逸脱してしまい、正確に加工誘起マルテンサイト量を
測定することができなくなってしまう。このように間隔
ΔLを1〜4mmに選ぶことによって、高精度で加工誘
起マルテンサイト量を測定することが可能である。
【0017】センサ本体9には、強磁性材料から成る探
触子12と、探触子12の軸線方向両端部付近に装着さ
れる上下2段の励磁コイル13と、励磁コイル13の内
側に同軸上に配置される検出コイル14とを有し、これ
らのコイル13,14は差動変圧器を構成している。励
磁コイル13は、測定時に約5kHz〜約2MHzの交
流電流によって励磁され、検出コイル14の巻線中に一
定の起電力が発生する。測定しないときには、励磁コイ
ル13と検出コイル14との各巻線には電圧が等しくな
るようにバランスされるが、測定時にはこのバランスが
くずれ、検出コイル14の巻線中に異なった大きさの起
電力が誘起され、その電圧差は加工誘起マルテンサイト
相の絶対量に支配される。各車輪10a,10bは、鋼
帯1の表面1aの損傷を防止するためにたとえばゴムま
たは合成樹脂などによって実現され、センサ本体9に図
2の左右方向に伸びる各回転軸線まわりに回転自在に設
けられる。
【0018】前記測定センサ3には、励磁コイル3に励
磁電流を供給し、かつ検出コイル14によって誘起され
た検出電流を検出する検出手段16が設けられ、その出
力はX線厚み計6、放射温度計7および張力計9からの
各出力とともにA/D変換器27によってデジタル信号
に変換され、パーソナルコンピュータによって実現され
る演算処理装置28によって演算処理される。
【0019】図4は、検出手段16の具体的構成を示す
ブロック図である。センサ本体9に内蔵された励磁コイ
ル13には、発振回路17から高周波の電流を供給し、
磁束を鋼帯1に交差させる。これによって鋼帯1の表面
1aには磁束を打消すような渦電流が発生し、検出コイ
ル14のインピーダンスが変化する。発振回路17は、
周波数を安定させるために自動ゲイン調整回路19によ
ってゲインが補正され、これによって励磁コイル13か
ら一定の周波数の励磁電流による磁束を発生させること
ができる。検出コイル14は、ブリッジ回路18の一辺
を構成しており、検出コイル14のインダクタンスの変
化による不均衡電圧、すなわちブリッジ電圧は鋼帯1の
材質によって変化するため、ブリッジ電圧の差を測定す
ることによって鋼帯1中の加工誘起マルテンサイト量を
測定することができる。
【0020】ブリッジ回路18の励磁コイル13側の接
点18aから得られる出力は、検波回路20aによって
検波され、ローパスフィルタ21aによって必要な信
号、たとえば直流成分だけを取出して差動増幅回路22
の一方の入力端子に入力される。またブリッジ回路18
の検出コイル14側の接点18aからの出力は、検波回
路20bによって検波され、ローパスフィルタ21bに
よって必要な信号、たとえば直流成分だけが取出され、
前記差動増幅回路22の他方の入力端子に入力され、前
記励磁コイル13からの信号と検出コイル14からの信
号との差を増幅して電圧信号として出力する。ゼロ調整
器23によって差動増幅回路22のリニアライザによっ
て直線化された出力はスパン調整器24によってゼロ調
整することができる。
【0021】このような差動増幅回路22からの出力
は、鋼帯1の表面1aとセンサ本体9の下端面9aとの
間の間隔ΔLまたは鋼帯1の磁気特性の関数となるけれ
ども、前記間隔ΔLを一定とすることによって、磁気特
性、すなわち鋼帯1の材質を加工誘起マルテンサイト量
として測定することができる。このような測定センサ3
の加工誘起マルテンサイト量の測定については、後述す
るように、板厚、張力、および温度などの影響因子によ
る誤差を補正する必要があり、その理由について以下に
説明する。
【0022】図5は、測定センサ3の出力と加工誘起マ
ルテンサイト量との関係を示す図である。鋼帯1の加工
誘起マルテンサイト量を通板中に連続して測定するにあ
たっては、加工誘起マルテンサイト量(以下、α′量と
略記する)が既知であるサンプルをオフラインにおいて
測定する。このようなα′量が多いと、測定センサ3の
出力が大きくなることが確認できる。
【0023】図6は測定センサ3と鋼帯1との間隔ΔL
に対するα′量の関係を示す図である。上述の測定セン
サ3を用いて間隔ΔL=0mm、1.5mm、3mm、
4mmの4つの間隔について測定を行った結果、間隔Δ
Lが大きくなるほどセンサ出力は増加し、α′量も増加
することが判る。
【0024】前述の図24に示したように、ばね用ステ
ンレス鋼帯の硬さがコイル長手方向に変動していると
き、硬さの変動がα′量の変化として得られるものとし
て圧延テストを行った。試供材としてはSUS301の
中でも加工硬化の相互に異なる第1鋼帯S(SUS30
1(390S))と第2鋼帯R(SUS301(390
R))とを用いた。この鋼種は、圧延条件のばらつきが
α′量の生成に影響を及ぼしやすいことが知られている
ためである。その結果を図7および図8に示す。図7で
は、試供材として第1鋼帯Sを用い、そのコイル長手方
向でのα′量の変化を示しており、また図8には第2鋼
帯Rのコイル長手方向におけるα′の変化を示してい
る。いずれの結果も圧延速度をコイル長手方向に変化さ
せているにもかかわらず、測定センサ3の出力はほとん
ど変化していない。またテストコイルによってコイル長
手方向におけるサンプルを切出して振動試料磁力計(略
称VSM)によってα′量は測定したけれども、測定セ
ンサ3の出力と同様に変化は生じていない。このように
圧延条件の変化に対してα′量の変化がほとんど生じて
おらず、その理由として試供材の板厚が比較的薄いため
に、クーラントによって圧延中に生じた塑性加工熱が圧
延速度に関係なく短時間で冷却されるためであると考え
られる。
【0025】図7において、鋼帯1の板厚は、圧延前に
おいては0.241mmであり、圧延後においては0.
163mmである。また図8において、鋼帯1の板厚は
圧延前において0.237mmであり、圧延後では0.
181mmである。また図7では材温が68℃であり、
測定センサ3に関して通板方向上流側から下流側をみて
右側の分の引張張力が30kgf/mmであり、また図
8では、材温が50℃であり、測定センサ3に関して通
板方向上流側から下流側を見て左側の部分の張力が50
kgf/mmである。
【0026】本実施の形態では、測定対象のステンレス
鋼帯1の温度および張力のそれぞれが測定センサ3の検
出出力に及ぼす影響を予め調べておき、検出するステン
レス鋼帯1が所定の基準温度(たとえば室温20℃)お
よび基準張力(たとえば0kgf/mm2)の状態、す
なわち基準状態にあるときの測定センサ3の出力を補正
するために、検出出力と基準状態における測定センサ3
の出力との定量的な関係を求める。
【0027】図9は、測定センサ3の出力に及ぼす鋼帯
1の温度の影響を示す図である。測定センサ3の出力に
及ぼす鋼帯1の温度(検出温度の影響をα′量の種々の
異なる鋼帯1を用いて各鋼帯について基準温度における
検出出力と任意に特定した少なくとも2つの検出温度
(87℃および50℃)における検出出力との関係を図
9に示されるように求めるために、その前の準備とし
て、各検出温度毎に図10および図11に示すように、
基準温度と検出温度とにおける検出出力の関係をα′量
の異なる鋼帯について測定し、基礎データを得ておく。
【0028】このような基礎データは、たとえば図12
に示されるように、ウォーターバス31内に浸漬された
サンプル支持台32上に鋼帯1のサンプル33を載置
し、固定アーム34に設けられる測定センサ3を接触さ
せて、これらを水中に浸漬した状態として、底部のヒー
タ35によって所定の検出温度に昇温し、測定センサ3
の出力を前記検出手段16から測定結果として得ること
ができる。図10および図11のデータ処理によって、
図9の関係が得られ、この図9の関係から鋼帯温度につ
いての検出出力の補正値を、鋼帯温度および検出出力を
変数とする関数として数式化することによって、鋼帯温
度に関する補正式を得ることができる。
【0029】次に、測定センサ3に及ぼす鋼帯1の張力
の影響を、鋼帯張力と基準張力下の検出出力と張力負荷
時の検出出力との比の関係として、図13のように求め
る。そのためには、その前段階として、基準張力下の検
出出力と任意で特定した少なくとも2つの条件の鋼帯張
力における異なるα′量の鋼帯1の検出出力との関係
を、図14に示されるように、鋼帯張力毎に測定して基
礎データとして得ておく。このような基礎データは、た
とえば図15に示すように、万能試験機36の把持部3
7で鋼帯1のサンプル38を把持し、固定アーム39に
設けられる測定センサ3の先端部をサンプル38から所
定の距離範囲内に、たとえば3mmの距離に離し、この
状態で万能試験機36を作動させて所定の張力を与え、
このときの測定センサ3の検出出力を前記検出手段16
によって検出し、その出力として測定値を得ることがで
きる。図14のデータを処理することによって、前述の
図13に示される関係を得ることができる。この場合
も、図13のような鋼帯張力についての測定センサ3に
よる検出出力の補正値を鋼帯張力および鋼帯張力によっ
て減少する検出出力を変数とする関数として数式化して
おくことによって、鋼帯張力についての補正式を解くこ
とができる。
【0030】以上のようにして測定センサ3の検出出力
と基準温度との関係および検出出力と基準張力との関係
が定量的に求められたら、この関係によって実際にオン
ラインでの測定センサ3の検出出力を基準状態での検出
出力に補正する。そのためには、図9や図13に示され
る関係または鋼帯温度および鋼帯張力のそれぞれについ
ての前記各補正式によって、たとえば鋼帯温度について
補正し、その補正値をさらに鋼帯張力について補正す
る。なお、この順序は鋼帯張力について補正した後、鋼
帯温度について補正する手順であってもよく、さらに鋼
帯温度および鋼帯張力の各補正式からこれらの鋼帯温度
および鋼帯張力について同時に補正する1つの補正式を
も導いておくことが好ましい。
【0031】このようにして対象とする鋼帯1について
補正出力が求められたら、この補正出力とα′量との関
係から温度および張力に関する補正後のマルテンサイト
量を求めるのであるが、前記補正出力は板厚によって変
化するため、予めこの関係を調べて定量的な関係として
求めておく必要がある。この場合、増えた試料は最も信
頼性の高い測定装置、たとえば振動試料型磁力計(略称
VSN)によって鋼帯1のカットサンプルについて測定
しておくことが好ましい。図15はこのような関係を板
厚0.2mm〜1.5mmまで各種の板厚で鋼帯1につ
いて基準状態を求めた図である。この関係は、図17に
示されるように、鋼帯1のサンプル41をサンプル支持
台42上に載置し、固定アーム43に設けられる測定セ
ンサ3の先端をサンプル41からたとえば3mmの距離
に離して配置し、測定センサ3を合成樹脂製の板状体4
4によって外囲し、この状態で、室温20℃で測定セン
サ3の出力を測定するとともに、サンプル41を振動試
料型磁力計によってα′量を測定する。このようなα′
量の測定作業を各板厚毎のサンプルについて行って各板
厚毎のα′量を求めておく。
【0032】このような検出出力とα′量との関係に及
ぼす板厚の影響は、α′量を板厚と板厚補正出力を変数
とする関数として数式化しておくことによって、板厚に
ついての補正式を得ることができる。予め求めておいた
図16のような図または上記の補正後の板厚補正式から
α′量を求めることができる。このように測定センサ3
の検出値を非常に精度の高いものとして求められ、この
検出出力を上記のように温度および板厚によって補正す
るので、求められたα′量が格段に信頼性が高く、しか
もオンライン中にリアルタイムで測定が可能であるの
で、オンラインで所定のα′量が得られるように加工条
件を制御することが可能となる。次に鋼帯1の張力、板
厚および温度によるα′量の補正について説明する。
【0033】準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯と
して、SUS301の板厚の異なる複数の鋼帯を用い、
圧延機としては20段センジミアミルを使用し、圧下
量、圧延速度、圧延張力などの圧延条件を変えて、多パ
ス冷間圧延を行い、冷間圧延終了後に各鋼帯からカット
サンプルを採取した。これらのカットサンプルは、圧延
条件の違いから、α′量を相互に異にするものである。
【0034】まず、測定センサ3の検出出力に及ぼすス
テンレス鋼帯の温度の影響を調べるため、上記のように
して採取した多数のカットサンプルについて、図12で
説明した方法によって室温20℃での検出出力(mV)
と、2つの鋼帯温度50℃および87℃における各検出
出力とを測定して、図10および図11に示す基礎デー
タを得た。次に、この基礎データから、検出出力に及ぼ
すステンレス鋼帯の温度の影響を、鋼帯温度50℃およ
び87℃について、その鋼帯温度が室温20℃のときに
検出出力に対する上記の各鋼帯温度50℃および87℃
のときの検出出力の差を求めて図9を得た。この図9を
数式からして鋼帯温度についての補正式とし、 V1=P1(1.016−8.78×10-4T)−0.327T−8.18 …(1) を得た。
【0035】つぎに、α′量の検出出力に及ぼすステン
レス鋼帯の張力の影響を調べるため、前記複数のカット
サンプルについて図15で説明した方法によって室温2
0℃で張力20kgf/mm2および40kgf/mm2
の引張条件下でα′量を検出出力と無張力時の検出出力
とを測定し、図14に示す基礎データを得た。次に、こ
の基礎データから検出出力に及ぼすステンレス鋼帯の張
力の影響を、引張条件下の検出出力と無張力時の検出出
力との比および鋼帯張力との関係として求め、図13を
得た。この図13を数式化して鋼帯張力についの補正式
として、 V2=P2/(1−0.00465σ) …(2) を得た。
【0036】次に数1および数2から温度および張力に
ついて補正した次の補正式を得た。
【0037】 V3=[P3(1.016−8.78×10-4T)−0.327T−8.18)]/(1-0.0045σ) …(3) 次に、上記のようにして温度および張力についてともに
補正された温度を張力補正値とα′量との関係に及ぼす
ステンレス鋼帯の板厚の影響を調べるため、前記複数の
カットサンプルについて、板厚を測定するとともに図1
7で示した方法によって基準状態におけるα′量を測定
し、さらに振動試料型磁力計(VSM)によってマルテ
ンサイト量を測定した。これらのデータを0.2mm〜
1.5mmの間の6つの板厚毎に分けて、トラックし、
図16を得た。この図16を数式化して温度、張力およ
び板厚に対する次の補正式を得た。
【0038】 α′=(−5.37×10-52+2.53×10-5t−9.18×10-5)V3 +(5×10-22+9×10-2t−0.387)V3 +(108.3t2−274.95t−325) …(4) 次に、オンライでのマルテンサイト量と測定について説
明する。準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯として
SUS301に属する表1に成分を示すようなNi当量
を異にする2種のステンレス鋼帯A1,A2について種
々の板厚のものを用いて実験を行った。
【0039】
【表1】
【0040】前記は上記と同じ20段センジミアミルを
用い、その出側および入側に測定センサ3をその下端面
3aが鋼帯1の表面位置から3mmの間隔を有するよう
に設置し、図4に示した検出手段16を用いて測定セン
サ3の励磁コイル13に高周波電流を与えながら圧延率
を種々に変えて多パス冷間圧延を行い、その間に鋼帯温
度T(同比)および鋼帯張力σ(kgf/mm2)を測
定するとともに、前記補正前の検出出力P3(mV)を
検出し、各冷間圧延終了後にカットサンプルを採取し
た。各カットサンプルについては、板厚t(mm)を測
定した。このようにして得られた多数のカットサンプル
の圧延中のα′量は、数3の温度張力補正式に鋼帯温度
T、鋼帯張力σおよび検出出力P3を代入してα′量の
温度張力の補正値V3を求め、さらに温度張力補正値V
3と上記の測定温度Tとを数4の板厚についての補正式
で代入することによってα′量が得られた。このα′量
を2種の鋼帯A1,A2毎にプロットして図18が得ら
れた。
【0041】このようにして求められた温度、張力およ
び板厚について補正した加工誘起マルテンサイト量の測
定値を、振動試料型磁力計(VSM)により検証した。
この検証については、各カットサンプル毎に上記のVS
Mによってα′量を測定し、その測定値と本願発明の方
法によって得られた測定値を対比し、鋼帯A1,A2に
区別してプロットし、図19が得られた。この図19か
らも明らかなように、本発明の方法によれば、鋼帯のオ
ンライン中における加工誘起マルテンサイト量を極めて
高精度で検出し得ることが判る。
【0042】以上の実験結果をまとめると、次のとおり
である。
【0043】(イ)検出出力に及ぼす温度の影響 鋼帯1の温度は、前述の図10および図11を比較する
ことによって明らかなように、鋼帯1の温度が20℃に
比べて87℃では出力が上昇し、この出力が大きいほど
その差はわずかに大きくなっている。このような温度の
影響下における検出出力は、温度が上昇すると高くな
り、α′量が多い(出力が高い)ほど温度の上昇に伴う
出力変化量が大きくなる。これは温度の上昇とともに鋼
帯の導電率が小さくなり、磁束を打消そうとする渦電流
が発生しにくくなるため、検出する試料が小さくなると
考えられる。そこで、圧延によって温度が上昇し、変化
した出力を室温での出力に実験式で補正すると、前述の
数1は次のように一般化して整理できる。
【0044】
【数1】
【0045】(ロ)検出出力に及ぼす張力の影響 実際の圧延ラインや熱処理ラインにおいては、鋼帯1に
張力が負荷されることから、引張応力を負荷したときの
出力変化を上記のようにして調べた結果を考察すると、
張力を負荷した場合の検出出力が鋼帯1の引張応力の上
昇とともに低下し、これは鋼帯1が引張変形を受けると
透磁率が低下し、磁界に対する磁束が小さくなると考え
られる。そこで前述の張力に関する補正式数2を整理し
て一般化したものが次の数6である。
【0046】 Vσ0 = Vσ/(1−C・σ) …(6) (ハ)検出出力に及ぼす板厚の影響 前述の図16に示されるように、検出出力とα′量との
関係に及ぼす板厚の影響は、たとえば同図において板厚
が0.8mm以上では板厚の影響を受けないけれども、
0.8mm未満の板厚においては同じ出力で比較する
と、板厚が減少するとα′量は高くなる。またα′量が
増加するほど出力は板厚の影響を受けなくなる。これ
は、板厚が薄くなると、鋼帯1を透過する磁束の割合が
大きくなり、渦電流噴出が小さくなって検出出力も小さ
くなり、またγ相とα′相で導電率が異なるためである
と考えられる。そこで、検出出力とα′量が鋼帯温度2
0℃で無負荷時の検出出力の2次関数とみなして前述の
数3を整理して一般化すると次式を得ることができる。
【0047】 α′=a・(V20(σ02+b・V20(σ0)+C …(7) α′ :マルテンサイト量(vol%) V20(σ0):補正後(材料温度20℃、無負荷)の出
力 a :定数 b :定数 c :定数 (ニ)実ラインでのα′量の求め方 圧延時にα′量を求めるには、数4に関連して述べたよ
うに、圧延によるコイルの表面温度の変化、圧延時の圧
延張力および圧延による板厚の変化などの影響を補正す
る必要があり、各種の異なる条件に適応可能とするため
に、数4を整理して一般化し、次式を得た。
【0048】
【数2】
【0049】V20(σ0):補正後(材料温度20℃、
無負荷)の出力 (mV) V :圧延中のMMSの出力 (mV) σ :圧延張力 (N/mm2) A(T) :定数 B(T) :定数 C :定数 上記の数8から、圧延中あるいは熱処理ラインの前後の
α′量の検出出力を測定し、同時に材料温度T、張力
σ、板厚tをリアルタイムで測定し、これらのデータと
して取出して予め定めた各定数A(T),B(T),Cを求め
ておき、数8に各種のデータおよび異常数をそれぞれ代
入することによってオンライン中にα′量を継続的に求
めることができる。しかもこうして求めたα′量は、測
定センサ3の励磁電流を約50kHz〜約2MHzの範
囲に限定し、かつ測定センサ3の下端面3aから鋼帯表
面までの間隔を1〜4mmとすることによって、微小な
α′量を正確に検出することができる。特に被検出材料
として、析出硬化の準安定オーステナイト系ステンレス
鋼帯は、析出硬化によって常に高い硬度を有するため、
加工によって誘起されるマルテンサイト相の発生量はわ
ずかであるけれども、本発明の方法によって高精度で
α′量を検出することが可能である。このようにα′量
の検出精度が高いので、各種の加工処理ライン、たとえ
ば冷間圧延ライン、調質圧延ライン、連続テンションレ
ベラ処理加工ライン、連続焼鈍ライン、および光輝焼鈍
処理ラインなどに上記測定センサ3を加工前および加工
後のいずれか少なくとも一方で通板経路に臨んで設置
し、所定の硬度、ばね特性等の機械的特性の品質管理の
ために用いることができる。
【0050】このように本発明では、測定センサに内蔵
されるコイルに印加される電流の周波数を約50kHz
〜約2MHzに定めることによって、測定センサ自体の
感度、精度に対する外乱の影響を解消することができる
とともに、通板中の鋼帯の厚み、温度、張力の影響によ
る加工誘起マルテンサイト量の検出精度を可及的に高く
することができ、これによって正確な加工誘起マルテン
サイト量を測定することが可能となる。
【0051】また本発明では、前記準安定オーステナイ
ト系ステンレス鋼帯は、たとえばアルミニウム、銅など
の析出硬化元素を微量添加し、熱処理によってこれらの
元素の化合物などを析出させ、硬化する性質を持たせた
ステンレス鋼帯の加工処理による加工誘起マルテンサイ
ト量を測定する。このような析出硬化系ステンレス鋼帯
は、たとえば冷間圧延したとき、圧下による加工誘起マ
ルテンサイト相の生成量は少なく、したがって1パスあ
たりの加工誘起マルテンサイト量の変化がわずかである
けれども、このようなわずかな加工誘起マルテンサイト
量の変化を上記の測定センサによって正確に測定するこ
とができる。
【0052】また本発明では、冷間圧延を行う場合に
は、その冷間圧延前および冷間圧延後の加工誘起マルテ
ンサイト量を正確に測定することができ、1パス毎にマ
ルテンサイト相の生成量を正確に測定し、その測定結果
に基づいて圧延条件、すなわち圧延温度、通板速度およ
び圧延量を高精度で制御することが可能となる。
【0053】また調質圧延を行う場合には、圧下率が少
量、たとえば0.8〜1.5%程度の伸びを与えること
によって降伏伸び現象を阻止し、微小な加工誘起マルテ
ンサイト量を正確に測定して、鋼帯の機械的性質を高精
度で制御することができる。また焼鈍後の鋼帯を調質圧
延する場合には、上記測定センサによって加工誘起マル
テンサイト量が少量でも発生していないかどうかのチェ
ックのために実施することもでき、これによって鋼帯の
物理的および機械的特性の均一化を図ることができる。
さらに連続テンションレベラ処理加工では、熱処理後の
鋼帯の平坦度を満たすための形状矯正を行うのである
が、このとき加工誘起マルテンサイト相が生成されない
かどうかを確認するために上記測定センサによる測定方
法を実施して、加工誘起マルテンサイト相の生成されな
い均一な物理的および機械的特性を高精度で達成し得る
鋼帯を製造することができる。
【0054】さらに連続焼鈍処理および光輝焼鈍処理
は、そのいずれも鋼帯を適当な温度に加熱し、その温度
に保持した後除冷する操作によって内部応力の除去、硬
さの低下、被削性の向上、結晶組織の調整、または所定
の機械的および物理的性質を得ることなどを目的とし、
マルテンサイト相を生成することを目的としないけれど
も、加工誘起マルテンサイト相がわずかでも発生すると
その鋼帯は磁気特性を帯び、透磁率が高くなる。このよ
うな場合に測定センサによって加工誘起マルテンサイト
量を高精度で検出し、品質管理を高精度で行うことがで
きる。
【0055】さらに本発明では、ステンレス鋼帯を薄板
ばねまたはぜんまいばねなどのばね用ステンレス鋼帯と
して用いる場合には、加工誘起マルテンサイト量によっ
てトルク特性などのばね特性が顕著に変化するため、上
記の測定センサによって加工誘起マルテンサイト量を高
精度で検出し、所定の機械的強度を達成しているか否か
を判別することができ、精度の高い品質管理を行うこと
ができる。
【0056】さらに本発明では、前記加工処理された鋼
帯は、加工誘起マルテンサイト相を極力誘起させないよ
うに抑制して加工または処理されたものであり、たとえ
ば焼鈍処理したまま出荷する鋼帯であって、マルテンサ
イト相が発生すると困るような場合に、上記測定センサ
によって高精度で加工誘起マルテンサイト相を検出し、
品質管理に寄与することができる。
【0057】さらに本発明では、コイルを励磁周波数が
約50kHz〜約2MHzの励磁電流によって励磁され
る測定センサを用い、この測定センサを鋼帯の表面から
1〜4mmの間隔をあけた位置に非接触に配置されるよ
うに保持手段によって保持し、加工処理ラインの所定位
置で走行する前記鋼帯の加工誘起マルテンサイト量を測
定する。このように測定センサと鋼帯の表面との間隔を
1〜4mmとし、測定センサのコイルを励磁する励磁電
流の周波数を約50kHz〜約2MHzに選ぶことによ
って、鋼帯の厚み、通板速度、温度などの条件変化に対
して測定センサの出力への影響を極力少なくすることが
でき、加工誘起マルテンサイト量の変化に対するセンサ
出力の変化を大きくして、適確に鋼帯の加工誘起マルテ
ンサイト量を検出することができる。上記の励磁周波数
の下限値が約50kHzであるとは、50±10kHz
の範囲を言い、また励磁周波数の上限が約2MHzであ
るとは、2±0.4MHzの範囲を言う。このような励
磁周波数の下限値および上限値の幅は、センサの感度お
よび精度の点において、ある程度のばらつきがあるため
である。このような測定センサによって走行中の鋼帯に
誘起されるマルテンサイト相を正確に、しかも連続して
高精度で検出することが可能となる。
【0058】
【発明の効果】請求項1記載の本発明によれば、測定セ
ンサに内蔵されるコイルに印加される電流の周波数を約
50kHz〜約2MHzに定めることによって、測定セ
ンサ自体の感度、精度、外乱の影響を解消することがで
きるとともに、通板中の鋼帯の厚み、温度、張力の影響
による加工誘起マルテンサイト量の検出精度を可及的に
高くすることができ、これによって正確な加工誘起マル
テンサイト量を測定することが可能となる。
【0059】請求項2記載の本発明によれば、前記準安
定オーステナイト系ステンレス鋼帯は、たとえばアルミ
ニウム、銅などの析出硬化元素を微量添加し、熱処理に
よってこれらの元素の化合物などを析出させ、硬化する
性質を持たせたステンレス鋼帯の加工処理による加工誘
起マルテンサイト量を測定する。このような析出硬化系
ステンレス鋼帯は、たとえば冷間圧延したとき、圧下に
よる加工誘起マルテンサイト相の生成量は少なく、した
がって1パスあたりの加工誘起マルテンサイト量の変化
がわずかであるけれども、このようなわずかな加工誘起
マルテンサイト量の変化を上記の測定センサによって正
確に測定することができる。
【0060】請求項3記載の本発明によれば、冷間圧延
を行う場合には、その冷間圧延前および冷間圧延後の加
工誘起マルテンサイト量を正確に測定することができ、
1パス毎にマルテンサイト相の生成量を正確に測定し、
その測定結果に基づいて圧延条件、すなわち圧延温度、
通板速度および圧延量を高精度で制御することが可能と
なる。また調質圧延を行う場合には、圧下率が少量、た
とえば0.8〜1.5%程度の伸びを与えることによっ
て降伏伸び現象を阻止し、微小な加工誘起マルテンサイ
ト量を正確に測定して、鋼帯の機械的性質を高精度で制
御することができる。また焼鈍後の鋼帯を調質圧延する
場合には、上記測定センサによって加工誘起マルテンサ
イト量が少量でも発生していないかどうかのチェックの
ために実施することもでき、これによって鋼帯の物理的
および機械的特性の均一化を図ることができる。
【0061】さらに連続テンションレベラ処理加工で
は、熱処理後の鋼帯の平坦度を満たすための形状矯正を
行うのであるが、このとき加工誘起マルテンサイト相が
生成されないかどうかを確認するために上記測定センサ
による測定方法を実施して、加工誘起マルテンサイト相
の生成されない均一な物理的および機械的特性を高精度
で達成し得る鋼帯を製造することができる。
【0062】さらに連続焼鈍処理および光輝焼鈍処理
は、そのいずれも鋼帯を適当な温度に加熱し、その温度
に保持した後除冷する操作によって内部応力の除去、硬
さの低下、被削性の向上、結晶組織の調整、または所定
の機械的および物理的性質を得ることなどを目的とし、
マルテンサイト相を生成することを目的としないけれど
も、加工誘起マルテンサイト相がわずかでも発生すると
その鋼帯は磁気特性を帯び、透磁率が高くなる。このよ
うな場合に測定センサによって加工誘起マルテンサイト
量を高精度で検出し、品質管理を高精度で行うことがで
きる。
【0063】請求項4記載の本発明によれば、ステンレ
ス鋼帯を薄板ばねまたはぜんまいばねなどのばね用ステ
ンレス鋼帯として用いる場合には、加工誘起マルテンサ
イト量によってトルク特性などのばね特性が顕著に変化
するため、上記の測定センサによって加工誘起マルテン
サイト量を高精度で検出し、所定の機械的強度を達成し
ているか否かを判別することができ、精度の高い品質管
理を行うことができる。
【0064】請求項5記載の本発明によれば、前記加工
処理された鋼帯は、加工誘起マルテンサイト相を極力誘
起させないように抑制して加工または処理されたもので
あり、たとえば焼鈍処理したまま出荷する鋼帯であっ
て、マルテンサイト相が発生すると困るような場合に、
上記測定センサによって高精度で加工誘起マルテンサイ
ト相を検出し、品質管理に寄与することができる。
【0065】請求項6記載の本発明によれば、コイルを
励磁周波数が約50kHz〜約2MHzの励磁電流によ
って励磁される測定センサを用い、この測定センサを鋼
帯の表面から1〜4mmの間隔をあけた位置に非接触に
配置されるように保持手段によって保持し、加工処理ラ
インの所定位置で走行する前記鋼帯の加工誘起マルテン
サイト量を測定する。このように測定センサと鋼帯の表
面との間隔を1〜4mmとし、測定センサのコイルを励
磁する励磁電流の周波数を約50kHz〜約2MHzに
選ぶことによって、鋼帯の厚み、通板速度、温度などの
条件変化に対して測定センサの出力への影響を極力少な
くすることができ、加工誘起マルテンサイト量の変化に
対するセンサ出力の変化を大きくして、適確に鋼帯の加
工誘起マルテンサイト量を検出することができる。上記
の励磁周波数の下限値が約50kHzであるとは、50
±10kHzの範囲を言い、また励磁周波数の上限が約
2MHzであるとは、2±0.4MHzの範囲を言う。
このような励磁周波数の下限値および上限値の幅は、セ
ンサの感度および精度の点において、ある程度のばらつ
きがあるためである。このような測定センサによって走
行中の鋼帯に誘起されるマルテンサイト相を正確に、し
かも連続して高精度で検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の一形態の準安定オーステナイト
系ステンレス鋼帯1の加工誘起マルテンサイト量の測定
方法が実施される冷間圧延ライン2の一部の簡略化した
側面図である。
【図2】図1の左側から見た測定センサ3の外観を示す
拡大正面図である。
【図3】測定センサ3による加工誘起マルテンサイト量
を測定するための概略的構成を示すブロック図である。
【図4】検出手段16の具体的構成を示すブロック図で
ある。
【図5】測定センサ3の出力と加工誘起マルテンサイト
量との関係を示す図である。
【図6】測定センサ3と鋼帯1との間隔ΔLに対する
α′量の関係を示す図である。
【図7】鋼帯1にSUS301(390S)を用いたと
きのコイル長手方向のα′量の変化を示す図である。
【図8】鋼帯1にSUS301(390R)を用いたと
きのコイル長手方向のα′量の変化を示す図である。
【図9】測定センサ3の出力に及ぼす鋼帯1の温度の影
響を示す図である。
【図10】基礎データとして用いられるα′量の異なる
鋼帯1の室温20℃での測定センサ3による検出出力と
50℃の鋼帯1の測定センサ3による検出出力との関係
を示す図である。
【図11】基礎データとして用いられるα′量の異なる
鋼帯1の室温20℃での測定センサ3による検出出力と
87℃の鋼帯1の測定センサ3による検出出力との関係
を示す図である。
【図12】図10および図11のデータを得るための
α′量検出出力に及ぼす鋼帯温度影響度を測定するため
の方法の一例を示す図である。
【図13】鋼帯1の張力の影響を鋼帯引張状態でのα′
量の検出出力と無張力状態での検出出力との比に対する
鋼帯張力の関係を示す図である。
【図14】図13を得るための基礎データを示し、鋼帯
1の無張力時のα′量の検出出力と張力20kgf/m
2および40kgf/mm2の引張状態下の検出出力と
の関係を示す図である。
【図15】図14を得るための測定方法を示す図であ
る。
【図16】検出出力とα′量との関係に及ぼす鋼帯の板
厚の影響を、各板厚毎にα′量の異なる鋼帯の基準状態
における検出出力とα′量との関係として示す図であ
る。
【図17】図16を得るための測定方法を示す図であ
る。
【図18】Ni当量の異なる2つの鋼帯A1,A2につ
いて冷間圧延後のα′量をオンラインで測定したときの
検出出力と圧延率との関係を示す図である。
【図19】図18のα′量を振動試料型磁力計によって
検証した図である。
【図20】オーステナイト系ステンレス鋼の機械的性質
に影響を及ぼす因子を説明するための図である。
【図21】α′相の体積率Vα′と硬さHVとの関係か
らα′量の硬さに及ぼす影響を示す図である。
【図22】α′相の生成に及ぼす圧延速度の影響を示す
図である。
【図23】α′相の生成に及ぼす材料温度の影響を示す
図である。
【図24】コイル長手方向における硬さ分布を示す図で
ある。
【符号の説明】
1 鋼帯 2 冷間圧延ライン 3 測定センサ 4 冷間圧延機 5 テンションリール 6 X線厚み計 7 放射温度計 9 センサ本体 10a,10b 車輪 11 保持体 12 探触子 13 励磁コイル 14 検出コイル 16 検出手段 17 発振回路
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 森下 久生 山口県新南陽市野村南町4976番地 日新製 鋼株式会社周南製鋼所内

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯
    の加工処理によって発生する加工誘起マルテンサイト量
    を、前記加工処理ラインのオンライン中で非破壊的かつ
    連続的に測定する方法であって、前記加工処理ラインの
    所定位置に励磁周波数が約50kHz〜約2MHzの励
    磁電流によって励磁されるコイルを内蔵する少なくとも
    1つの測定センサを、走行する前記鋼帯の表面から1〜
    4mmの間隔をあけて非接触に配置し、加工処理中の走
    行する鋼帯における加工誘起マルテンサイト量を測定す
    ることを特徴とする準安定オーステナイト系ステンレス
    鋼帯の加工誘起マルテンサイト量の測定方法。
  2. 【請求項2】 析出硬化系ステンレス鋼帯の加工処理に
    おける加工誘起マルテンサイト量を測定することを特徴
    とする請求項1記載の準安定オーステナイト系ステンレ
    ス鋼帯の加工誘起マルテンサイト量の測定方法。
  3. 【請求項3】 前記加工処理は、冷間圧延、調質圧延、
    連続テンションレベラ処理加工、連続焼鈍処理および光
    輝焼鈍処理のいずれかから選ばれる一加工処理であるこ
    とを特徴とする請求項1または2記載の準安定オーステ
    ナイト系ステンレス鋼帯の加工誘起マルテンサイト量の
    測定方法。
  4. 【請求項4】 前記加工処理された鋼帯は、薄板ばねま
    たはぜんまいばねに使用されるばね用ステンレス鋼帯で
    あることを特徴とする請求項1または2記載の準安定オ
    ーステナイト系ステンレス鋼帯の加工誘起マルテンサイ
    ト量の測定方法。
  5. 【請求項5】 前記加工処理された鋼帯は、加工誘起マ
    ルテンサイト量を極力誘起させないように抑制して加工
    処理された鋼帯であることを特徴とする請求項1または
    2記載の準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯の加工
    誘起マルテンサイト量の測定方法。
  6. 【請求項6】 準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯
    の加工処理によって発生する加工誘起マルテンサイト量
    を、前記加工処理ラインのオンライン中で非破壊的かつ
    連続的に測定する準安定オーステナイト系ステンレス鋼
    帯の加工誘起マルテンサイト量の測定装置において、 励磁周波数が約50kHz〜約2MHzの励磁電流によ
    って励磁されるコイルを内蔵した少なくとも1つの測定
    センサを、前記加工処理ラインの所定位置で走行する前
    記鋼帯の表面から約1〜4mmの間隔をあけて非接触に
    配置し、この測定センサの非接触の配置位置に対応し
    て、走行する前記鋼帯の被測定位置との位置関係を一定
    に保持するための保持手段を設けることを特徴とする準
    安定オーステナイト系ステンレス鋼帯の加工誘起マルテ
    ンサイト量の測定装置。
JP16609496A 1996-06-26 1996-06-26 準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯の加工誘起マルテンサイト量の測定方法および装置 Withdrawn JPH1010090A (ja)

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Cited By (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2012255658A (ja) * 2011-06-07 2012-12-27 Nsk Ltd 焼入れ鋼のオーバーヒート検出方法

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