JPH0928374A - ヘパラン硫酸 2−o−硫酸基転移酵素 - Google Patents

ヘパラン硫酸 2−o−硫酸基転移酵素

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JPH0928374A
JPH0928374A JP7187577A JP18757795A JPH0928374A JP H0928374 A JPH0928374 A JP H0928374A JP 7187577 A JP7187577 A JP 7187577A JP 18757795 A JP18757795 A JP 18757795A JP H0928374 A JPH0928374 A JP H0928374A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 ヘパリンおよびヘパラン硫酸のイズロン酸残
基の2位に選択的に硫酸基を導入するヘパラン硫酸2−
O−硫酸基転移酵素を提供する。 【解決手段】 CHO細胞等から、下記性質を有するヘ
パラン硫酸 2−O−硫酸基転移酵素を採取する。 作用:硫酸基供与体から硫酸基を、イズロン酸残基の
2位の水酸基に選択的に転移する。 基質特異性:ヘパラン硫酸もしくはCDSNS−ヘパ
リンには硫酸基を転移するが、コンドロイチン、コンド
ロイチン硫酸、デルマタン硫酸およびケラタン硫酸には
硫酸基を転移しない。 至適反応pH:pH5〜6.5付近 至適イオン強度:50〜200mM付近(塩化ナトリ
ウムの場合) 阻害及び活性化:プロタミンにより活性化される。ア
デノシン-3',5'-ジリン酸(3',5'−ADP)により阻害
される。10mM以下のジチオスレイトール(DTT)
によってはほとんど活性に影響を受けない。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、新規な硫酸基転移
酵素(スルホトランスフェラーゼ)に関し、詳しくはヘ
パリンおよびヘパラン硫酸に含まれるイズロン酸残基の
2位の水酸基へ選択的に硫酸基を転移するヘパラン硫酸
2−O−硫酸基転移酵素に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ヘパリンおよびヘパラン硫酸は、グリコ
サミノグリカンに属する多糖である。ヘパリンとヘパラ
ン硫酸の基本的糖鎖骨格は類似しており、両者ともN−
アセチルグルコサミン(GlcNAc)とグルクロン酸(GlcA)が
1→4結合した鎖が合成された後、プロセッシングによ
って生成するが、そのプロセッシングの程度が異なる。
すなわち両者ともに陰性に強く荷電しているが、ヘパリ
ンの方がN−硫酸化グルコサミンおよび6−O−硫酸化
グルコサミン並びに2−O−硫酸化イズロン酸をより多
く含む。ヘパラン硫酸とヘパリンは、他のグリコサミノ
グリカンと同じく、糖鎖がコアタンパク質に共有結合し
たプロテオグリカンの形で組織中に存在する。
【0003】ヘパリンプロテオグリカンは、肥満細胞や
好塩基性細胞の分泌顆粒中に見いだされており、ヒスタ
ミンや塩基性プロテアーゼのパッケージングに関与して
いると考えられる。また、ヘパラン硫酸プロテオグリカ
ンは、細胞外マトリックス、細胞表面などに非常に広く
分布しており、細胞の分化、増殖、移動、血液凝固防止
など種々の機能を持つことが知られてきている。
【0004】ところで、塩基性繊維芽細胞増殖因子(b
FGF)は、血管系、結合組織系、脳神経系、免疫系な
ど極めて広範な細胞の増殖を強く促進する蛋白質であ
る。また、酸性繊維芽細胞増殖因子(aFGF)は、脳
や網膜などの神経系に多く見いだされる蛋白質である。
aFGFはbFGFと共通の細胞表面レセプターに結合
することから、両者の作用機構は本質的に同じものと考
えられている。
【0005】aFGFとbFGFは、組織の細胞外マト
リックスあるいは基底膜に組み込まれているヘパラン硫
酸プロテオグリカンの糖鎖部分と強く結合していること
が明らかにされてきた。最近、bFGFが高親和性の受
容体へ結合するにはヘパリンやヘパラン硫酸鎖が必須で
あることが示唆された(Yayon, A.ら、Cell, 64, 841-8
48 (1991); Rapraeger, A. C., Science, 252, 1705-1
708 (1991))。さらには、これらの糖鎖の高親和性受容
体自体への結合もbFGF活性に必要であることが示唆
されている(Kan, M.ら、Science, 259, 1918-1921 (19
93);Guimond,S. ら,J. Biol. Chem., 268, 23906-239
14 (1993))。本発明者らは、ヘパラン硫酸鎖上にbF
GFとの結合に関与する特異な構造ドメインが存在する
こと、またbFGFのヘパラン硫酸鎖への結合はbFG
Fの代謝に大きく影響することなどを示した(Habuchi,
H.ら (1992) Biochem. J., 285, 805-813)。bFGF
の結合には、ヘパラン硫酸鎖中のイズロン酸残基の2−
O−硫酸基とN−硫酸化グルコサミン残基の存在が必要
であることが知られている(Habuchi, H.ら、 Biochem.
J., 285, 805-813 (1992);Turnbull, J. E.ら、 J. B
iol. Chem., 267, 10337-10341 (1992))。
【0006】また、高度に組織化した基底膜形成にかか
わるヘパラン硫酸は、グルコサミン残基の6位の硫酸化
度が高いことが報告されている(Nakanishi, H.,ら、 B
iochem. J., 288, 215-224 (1992))。また、ヘパリン
のフィブロネクチンに対する親和力は、ヘパリンの分子
量と硫酸含量に伴って増加するという報告もある(Ogam
o, A.,ら、Biochim. Biophys. Acta, 841, 30-41 (198
5))。また、高転移能を持つLewis-lung-carcinoma由来
の細胞株のクローンほど、合成するヘパラン硫酸中の6
−O−硫酸含量が増加すること(Nakanishi. H., Bioch
em. J., 288, 215-224 (1992))、がん化に伴って、ヘ
パラン硫酸の硫酸化度が下がることも知られている。こ
のようなことから、ヘパリンやヘパラン硫酸の生理活性
発現には、硫酸化が重要な役割を果たしていると考えら
れる。
【0007】ヘパリンやヘパラン硫酸の生理活性発現に
おける硫酸化の重要性を考えると、ヘパリンやヘパラン
硫酸の特異的な部位を硫酸化する方法は、ヘパリンやヘ
パラン硫酸の生理活性の解析や機能改変に必須であると
考えられる。化学的にN−およびO−に選択的に硫酸基
を導入する方法はすでに報告されているが(新生化学実
験講座3 糖質II p324 東京化学同人刊)、処理操
作が煩雑で、必要な試薬の種類も多く、また時間もかか
るため、酵素的に硫酸基を導入する方法が望まれる。グ
ルコサミン(GlcN)残基のN−選択的に硫酸基を導入する
酵素としてはヘパラン硫酸(GlcN)2−N−硫酸基転移酵
素が単離精製されている(新生化学実験講座3 糖質II
p194 東京化学同人刊)。ヘパリンやヘパラン硫酸
中のイズロン酸(IdoA)残基の2位選択的に硫酸基を転移
する酵素(ヘパラン硫酸(IdoA)2−O−硫酸基転移酵
素)の単離精製も試みられてきたが、高度に精製しても
ヘパラン硫酸(GlcN)6−O−硫酸基転移酵素(ヘパリン
やヘパラン硫酸中のグルコサミン残基の6位選択的に硫
酸基を転移する酵素。以下、単に「ヘパラン硫酸 6−
スルホトランスフェラーゼ」ともいう)が混在してお
り、両者の分離は困難であったことが報告されている
(Wald, H.ら, Glycoconjugate J., 8, 200-201 (199
1))。本発明者らは最近、ヘパラン硫酸6−O−硫酸基
転移酵素の単離精製に成功した(J. Biol. Chem. 270,
4712-4719 (1995))。しかし、ヘパラン硫酸(IdoA)2−
O−硫酸基転移酵素の単離精製はなされていなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】ヘパリンやヘパラン硫
酸の生理活性発現における硫酸化の重要性を考えると、
ヘパリンやヘパラン硫酸に硫酸基を転移する方法の開発
は、ヘパリンやヘパラン硫酸の機能解析の研究のみなら
ず、ヒトに好ましい生理活性を有する医薬品の創造を目
的としたヘパリンもしくはヘパラン硫酸を提供するため
にも非常に重要である。特に、ヘパラン硫酸(GlcN)2−
N−硫酸基転移酵素およびヘパラン硫酸(GlcN)6−O−
硫酸基転移酵素が単離されている今、ヘパラン硫酸(Ido
A)2−O−硫酸基転移酵素の単離精製が待たれていた。
本発明は上記観点からなされたものであり、ヘパリンお
よびヘパラン硫酸のイズロン酸残基の2位の水酸基に選
択的に硫酸基を導入するヘパラン硫酸 2−O−硫酸基
転移酵素を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、ヘパリン
およびヘパラン硫酸に含まれるイズロン酸残基の2位の
水酸基に選択的に硫酸基を転移する酵素であるヘパラン
硫酸 2−O−硫酸基転移酵素(以下、「ヘパラン硫酸
2−O−スルホトランスフェラーゼ」、「ヘパラン硫酸
2−スルホトランスフェラーゼ」または「本発明酵
素」ということもある)を鋭意検索し、該酵素の単離精
製に成功し、該酵素が、ヘパリンおよびヘパラン硫酸の
イズロン酸残基の2位の水酸基に選択的に硫酸基を転移
することを確認し、本発明に到達した。
【0010】すなわち本願発明は、下記の理化学的性質
を有するヘパラン硫酸 2−O−スルホトランスフェラ
ーゼである。 作用:硫酸基供与体から硫酸基を、イズロン酸残基の
2位の水酸基に選択的に転移する。 基質特異性:ヘパラン硫酸もしくはCDSNS−ヘパ
リンには硫酸基を転移するが、コンドロイチン、コンド
ロイチン硫酸、デルマタン硫酸およびケラタン硫酸には
硫酸基を転移しない。 至適反応pH:pH5〜6.5付近 至適イオン強度:50〜200mM付近(塩化ナトリ
ウムの場合) 阻害及び活性化:プロタミンにより活性化される。
3',5'−ADPにより阻害される。10mM以下のジチ
オスレイトール(DTT)によってはほとんど活性に影
響を受けない。
【0011】また本願発明は、チャイニーズハムスター
卵巣組織由来の培養細胞を好適な培地で培養し、この培
養物からヘパラン硫酸 2−O−硫酸基転移酵素を採取
することを特徴とするヘパラン硫酸 2−O−硫酸基転
移酵素の製造方法を提供する。
【0012】尚、本発明酵素を便宜的にヘパラン硫酸
2−O−硫酸基転移酵素、ヘパラン硫酸 2−O−スル
ホトランスフェラーゼまたはヘパラン硫酸 2−スルホ
トランスフェラーゼと呼ぶが、これは該酵素の基質がヘ
パラン硫酸に限られることを意味するものではない。例
えば本発明酵素は、N、O−脱硫酸化したヘパリンを再
度N−硫酸化することにより得られる化学修飾ヘパリン
(N、O−脱硫酸化再N−硫酸化ヘパリン。本明細書に
おいて「CDSNS−ヘパリン」ともいう)のイズロン酸残
基の2位の水酸基にも硫酸基を転移する。また無修飾の
ヘパリンは、イズロン酸残基の2位のほとんどに硫酸基
を有しているが、わずかに水酸基を有するものがあり、
本発明酵素はこのようなヘパリンのイズロン酸残基の2
位の水酸基にも硫酸基を転移する。本明細書においては
CDSNS−ヘパリンのような修飾ヘパリンも併せて、単に
ヘパリンということがある。
【0013】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の実施の形態を説
明する。 <1>本発明のヘパラン硫酸 2−スルホトランスフェ
ラーゼ 本発明酵素は、本発明により初めて単離された酵素であ
り、以下の理化学的性質を有する。 作用 硫酸基供与体から、イズロン酸残基の2位の水酸基に選
択的に硫酸基を転移する。硫酸基供与体としては、活性
硫酸(3'-ホスホアデノシン5'-ホスホ硫酸;以下、「PA
PS」ともいう)が好適に挙げられる。グルコサミン残基
にはほとんど硫酸基を転移しない。 基質特異性 ヘパラン硫酸もしくはCDSNS-ヘパリンには硫酸基を転移
するが、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、デルマ
タン硫酸およびケラタン硫酸には硫酸基を転移しない。 至適反応pH 本発明酵素は、pH5〜6.5の範囲、特にpH5.5
付近で高い硫酸基転移活性を有する。 至適イオン強度 本発明酵素の活性はイオン強度の増加にともなって増加
し、NaClの場合、 50〜200mM、特に100mM
付近で最も高い活性を示す。この範囲を越えてNaCl濃度
が増加すると活性は徐々に低下し、500mMでは活性
は極めて低くなる。 阻害及び活性化 本発明酵素はプロタミンにより活性化される。約0.013
mg/ml以上のプロタミンにより、プロタミン非存在下に
比べて3倍程度活性が上昇する。
【0014】また本発明酵素の活性は、アデノシン-3',
5'-ジリン酸(3',5'-ADP)で阻害される。なお本発
明酵素の活性は、10mM以下のジチオスレイトール(DTT)
によってはほとんど影響を受けない。 ミカエリス定数 硫酸基の受容体としてCDSNS-ヘパリンを、硫酸基の供与
体としてPAPSを用いたときの、本発明酵素のPAPSに対す
るミカエリス定数(Km)は、約0.20μMである。 その他 CHO細胞の培養物から得られた本発明酵素の活性画分
をドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電
気泳動(SDS-PAGE)により分析した結果、44KDaと47KDa付
近に、近接した幅広い2本のバンドが認められた。これ
らの蛋白質のいずれが本発明酵素であるか、あるいは両
者ともに本発明酵素であるかは明かではない。いずれに
しても上記の本発明酵素の理化学的性質は、この44KDa
と47KDaの幅広いバンドの蛋白質を含む酵素画分を用い
て決定されたものである。尚、これらの両蛋白の電気泳
動上の易動度は、メルカプトエタノールの存在により影
響されなかった。
【0015】本発明酵素をN-グリカナーゼ(ジェンザ
イム(Genzyme)社製)で処理したものをSDS-PAGEにより
分析したところ、上記44KDaと47KDaの幅広いバンドは消
えて、新たに34KDaと38KDaのバンドが出現したことか
ら、これらの蛋白は19%以上の糖を含む糖蛋白質である
ことが示唆された。
【0016】また本発明酵素は、スーパーロース 12
(ファルマシア-LKB社製)ゲルクロマトグラフィーにお
いて、分子量約130,000付近に溶出された。本発明酵素
の硫酸基転移活性は、[35S]PAPSを硫酸基供与体とし、
ヘパリンまたはヘパラン硫酸を硫酸基受容体として、こ
れらに本発明酵素を作用させ、ヘパリンまたはヘパラン
硫酸に取り込まれた[35S]の放射活性を計測することに
より測定することができる。なお硫酸基受容体としてCD
SNS-ヘパリンを用いると、ヘパラン硫酸 O−スルホト
ランスフェラーゼ活性を測定することができる。また本
発明酵素であるヘパラン硫酸 2−スルホトランスフェ
ラーゼは10mM DTTでは阻害されず、公知の酵素であるヘ
パラン硫酸 6−スルホトランスフェラーゼは10mM DTT
で阻害される。よって[35S]PAPS、CDSNS-ヘパリン、及
びスルホトランスフェラーゼを含む酵素反応液に10mM D
TTを添加し、ヘパラン硫酸 6−スルホトランスフェラ
ーゼ活性を阻害することによって、ヘパラン硫酸 2−
スルホトランスフェラーゼ活性のみを測定することがで
きる。本発明酵素の反応を行う際、酵素反応液のpHを
5〜6.5、イオン強度を50〜200mM程度とし、
さらにプロタミンを0.025mg/ml以上添加しておくことが
好ましい。具体的には、例えば、2.5 μmolイミダゾー
ル塩酸(pH 6.8)、3.75 μgプロタミン塩酸、25 nmol CD
SNS-ヘパリン(Completely desulfated and N-resulfat
ed heparin:N,O−硫酸基を脱硫酸後、再N−硫酸化し
たヘパリン)、50 pmol[35S]PAPS(およそ5×105cpm)
及び酵素を含む50μlの酵素反応液を37℃で20分保温
後、100℃で1分加熱して反応を止める。この後、キャ
リアーとして0.1 μmolのコンドロイチン硫酸Aを加え
てから、1.3% 酢酸カリウムを含む冷たいエタノールを
反応液の3倍量加えて35S標識されたグリコサミノグリ
カンを沈澱させる。さらに[35S]PAPSとその分解物を脱
塩により除き、液体シンチレーターを加え、液体シンチ
レーションカウンタを用いて[35S]の放射活性を測定す
る。本発明においては、上記条件で、1分間に1pmol
の硫酸基を転移する活性を、1ユニット(U)の酵素量
と定義した。
【0017】<2>本発明酵素の製造法 上記性質を有する本発明酵素は、動物由来の培養細胞、
例えばチャイニーズハムスター卵巣組織由来の培養細
胞、具体的にはCHO細胞(例えば、ATCC CCL61等)等
の培養細胞を好適な培地で培養し、この培養物から採取
することにより得られる。培養に用いる培養細胞として
はCHO細胞が好ましい。また、上記した以外の培養細
胞からも本発明酵素が得られると考えられるが、増殖性
がよく、浮遊細胞による大量培養が可能なことから、上
記培養細胞が好ましい。また、培養後の培地から本発明
酵素を抽出することもできる。また本発明酵素は、他の
硫酸基転移酵素活性を含まない場合、もしくは夾雑する
他の硫酸基転移酵素活性を効果的に抑制できる場合は、
粗酵素として使用してもよい。
【0018】上記培養細胞の培養に用いる培地は特に制
限されないが、大量の細胞を効率よく得るには、スピナ
ーフラスコなどによる浮遊細胞に適したものが望まし
い。具体的にはCHO細胞の浮遊培養用として開発され
たCHO−S−SFMII培地(ギブコ製)等の市販の培
地を用いても良い。
【0019】また、微生物の生育を防ぐために、ペニシ
リンやストレプトマイシン等の抗生物質を培地に添加す
ることが好ましい。上記のような培地を用い、ローラボ
トルやディシュ等を使用して通常の培養細胞と同様にし
て培養すると、培養物中、特に培養細胞中に本発明酵素
が蓄積がされる。
【0020】培養後の培養物から細胞を遠心分離などに
よって収集し、ホモジナイズや超音波処理や浸透圧ショ
ック処理などにより細胞を破砕し、その細胞破砕液を遠
心分離することにより得られる遠心上清等を出発物質と
して、本発明酵素の精製をおこなうことができる。本発
明酵素の精製は、ヘパリン-セファロースCL-6B(ファル
マシア社製)カラム、3',5'-ADP-アガロースカラム等を
用いたアフィニティークロマトグラフィー、スーパーロ
ース 12(Superose 12)カラム(ファルマシア社製)を用
いたゲル濾過クロマトグラフィーによって行うことがで
きる。その他、必要に応じてイオン交換クロマトグラフ
ィー、ゲル濾過法、電気泳動法、疎水性クロマトグラフ
ィー、塩析など公知の酵素精製法により精製することが
できる。
【0021】また、上記培養細胞から、本発明酵素をコ
ードする遺伝子を単離し、これを他の培養細胞あるいは
微生物細胞等に導入して得られる形質転換細胞を用いて
も、本発明酵素が得られる。
【0022】
【実施例】以下に、本発明の実施例を説明する。なお、
本実施例において使用した試薬及び試料等の入手先、入
手方法を以下に示す。
【0023】[35S]H2SO4は日本アイソトープ協会から購
入した。CHO−S−SFMII培地はギブコ(Gibco)
社から購入した。PAPS、3',5'-ADP-アガロース及び
ヘパリンはシグマ(Sigma)社から購入した。Cosmedium
-001培地はコスモ・バイオ(株)から購入した。ポリエ
チレングリコール#20000はナカライテスクから購入し
た。高速脱塩カラム(Fast desalting column)、ヘパ
リン−セファロース CL-6B、スーパーロース 12 カラ
ム、スーパーディクス30pgカラムはファルマシア-LKB
(Pharmacia-LKB)社から購入した。PAMNカラム(ポリ
アミンを結合したシリカカラム)はYMC社から購入し
た。Partisil-10 SAXカラムはワットマン(Whatman)社か
ら購入した。コンドロイチナーゼABC、ヘパリチナー
ゼI、II、III、コンドロイチン硫酸A(サメ軟骨由
来、4S/6S:80/20))、CDSNS−ヘパリン(Completely
desulfated and N-resulfated heparin:N,O−硫酸基を
脱硫酸後、再N−硫酸化したヘパリン)、コンドロイチ
ン硫酸C、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸及びグリコサ
ミノグリカン由来の不飽和二糖キットは、生化学工業
(株)から購入した。[35S]PAPSは、Delfert, D. M. an
d Conrad, E. H. (1985) Anal. Biochem. 148, 303-310
に記載の方法により、コンドロイチン(イカの皮由
来)は、Habuchi, O. and Miyata, K. (1980) Biochim.
Biophys. Acta 616, 208-217に記載の方法により調製
した。p-トシル-L-リシン-クロロメチルケトンはアルド
リッチ(Aldrich)社から、フェニルメチルスルホニル
フルオライド、N-トシル-L-フェニルアラニン-クロロメ
チルケトンはシグマ社から、ペプスタチンは和光純薬工
業(株)から、それぞれ購入した。また、マウスのEHS
(Engelbreth-Holm-Swarm)腫瘍由来のヘパラン硫酸、ブ
タ大動脈由来のヘパラン硫酸、ウシ肝臓由来のヘパラン
硫酸はいずれも生化学工業(株)から入手した。
【0024】<1>スルホトランスフェラーゼ酵素活性
の測定法 (1)スルホトランスフェラーゼ活性の測定 ヘパラン硫酸 2−スルホトランスフェラーゼの精製工
程、酵素の性質の分析等において、酵素活性は以下に示
す方法によって測定した。
【0025】酵素反応液は、2.5 μmolイミダゾール塩
酸(pH 6.8)、3.75 μgプロタミン塩酸、ヘキソサミン量
として25 nmolのCDSNS-ヘパリン、50 pmol[35S]PAPS
(およそ5×105 cpm)及び酵素を含む50μlとした。こ
の反応液を、37℃で20分保温後、100℃で1分加熱して
反応を止めた。この後、グルクロン酸量として0.1 μmo
lのコンドロイチン硫酸Aをキャリアーとして加えてか
ら、1.3% 酢酸カリウムを含む冷たいエタノールを反応
液の3倍量加えて35S-グリコサミノグリカンを沈澱さ
せた。さらに[35S]PAPSとその分解物を、Habuchi, O. e
t al., (1993) J. Biol. Chem., 268, 21968-21974 に
記載された方法で高速脱塩カラム(Fast desalting col
umn)を用いて完全に分離した。これに液体シンチレー
ター(Ready Safeシンチレーター:ベックマン社製)を
混合して、液体シンチレーションカウンタにより放射能
を測定し、転移された硫酸基の量を算出した。上記条件
で、1分間に1pmol の硫酸基を転移する活性を1ユニ
ット(U)の酵素量と定義した。
【0026】このように硫酸基受容体としてCDSNS-ヘパ
リンを用いることで、ヘパラン硫酸O−スルホトランス
フェラーゼ活性を測定した。なお必要に応じて、上記酵
素反応液に10mM DTTを添加することでヘパラン硫酸 6-
スルホトランスフェラーゼ活性を阻害することによっ
て、ヘパラン硫酸 2-スルホトランスフェラーゼ活性を
測定した。
【0027】(2)グリコサミノグリカン中のガラクト
サミンとグルコサミン含量の測定 グリコサミノグリカン中のガラクトサミンとグルコサミ
ン含量は、グリコサミノグリカンを6 M HCl中で100℃で
4時間加水分解後、Elson-Morgan法で測定した。<2>
培養CHO細胞におけるヘパラン硫酸 6-スルホトラン
スフェラーゼとヘパラン硫酸 2-スルホトランスフェラ
ーゼの分布 培養CHO細胞におけるヘパラン硫酸 6-スルホトラン
スフェラーゼとヘパラン硫酸(HexA) 2-スルホトランス
フェラーゼ(ヘキスロン酸(HexA)残基の2位の水酸基に
硫酸基を転移する)の分布を調べるために、以下の実験
を行った。
【0028】CHO細胞(ATCC CCL61)をCosmedium-00
1培地中で48時間培養後、培地と細胞抽出液(0.15M
NaClを含む緩衝液A(10 mM Tris-HCl, pH7.2、10 mM M
gCl 2、2 mM CaCl2、20% グリセロール、0.1% Triton X-
100)で細胞をホモジナイズ後、Triton X-100濃度を0.5
%に上げ、1時間撹拌抽出後、10,000×gで30分間遠心
した上清)のスルホトランスフェラーゼ活性を、基質と
してCDSNS−ヘパリン、硫酸基供与体として[35S]PAPSを
用いて測定した。その結果、表1に示した通りヘパラン
硫酸(HexA) 2-スルホトランスフェラーゼの95%以上
が細胞内に存在し、わずか5%以下が培地中に存在し
た。なお表1においては、ヘパラン硫酸(HexA) 2-スル
ホトランスフェラーゼを単に「2-スルホトランスフェ
ラーゼ」と示してある。
【0029】
【表1】
【0030】一方、ヘパラン硫酸 6-スルホトランスフ
ェラーゼは、既に発明者らによって報告されているよう
に90%以上が培地中に存在した。これらの観察から、
本発明酵素であるヘパラン硫酸 2−スルホトランスフ
ェラーゼの精製は、CHO細胞の抽出液から出発すると
良いことが示された。
【0031】<3>CHO細胞が産生するヘパラン硫酸
2−スルホトランスフェラーゼの精製 (1)CHO細胞の培養と粗抽出液の調製 CHO細胞(ATCC CCL61)を2×106細胞/100mmディッ
シュの細胞密度で、50μg/ml のストレプトマイシン
と、50単位のペニシリン1mlを含む10mlのCH
O−S−SFMII培地にまき、4日間培養した。その後
3.0×105細胞/mlの細胞密度で500 mlのCHO−S−S
FMII培地に播種し、スピナーフラスコ(Techne社製)
中で4日間、90rpmで撹拌しながら、浮遊培養した。培
養液を1,000×gで5分間遠心して、細胞を集めた後、
冷たいリン酸緩衝溶液(PBS(-))で洗浄した。細胞
からスルホトランスフェラーゼを抽出するために、1×
109細胞あたり55mlの抽出緩衝液(10mM Tris-HCl,pH 7.
2、0.5% w/v Triton X-100、10mM MgCl2、2mM CaC
l2、0.15M NaCl、20% v/v グリセロール、4種類のプ
ロテアーゼインヒビター(5μM p-トシル-L-リシン-ク
ロロメチルケトン、3μM N-トシル-L-フェニルアラニン
-クロロメチルケトン、30μM フェニルメチルスルホニ
ルフルオライド、3μM ペプスタチン))を加えた。こ
の抽出緩衝液中の細胞をガラスホモジナイザーで10回ホ
モジナイズした後、4℃で1時間撹拌した。抽出液を1
0,000×gで30分間遠心し、上清を得た。これを粗抽出
液として1.8Lをプールし、精製を始めるまで−20℃で
保存した。
【0032】(2)ヘパラン硫酸 2-スルホトランスフ
ェラーゼの精製 以下の全ての操作は、4℃で行った。 第1段階:1回目のヘパリン−セファロース CL−
6Bクロマトグラフィー 上記のように調製された粗抽出液の3分の1(600 ml)
を4種のプロテアーゼインヒビター(p-トシル-L-リシ
ン-クロロメチルケトン(5μM)、N-トシル-L-フェニルア
ラニン-クロロメチルケトン(3μM)、フェニルメチルス
ルホニルフルオライド(30μM)、ペプスタチン(3μM))
および0.15 M NaClを含む緩衝液Aで平衡化したヘパリ
ン−セファロースCL-6Bのカラム(30×70 mm, 50 m
l)にかけた。流速は76 ml/時間で行った。カラムに吸
着しない画分を、4種のプロテアーゼインヒビターと0.
15 M NaClを含む緩衝液A(カラム容積の10倍量)で洗
浄後、4種類のプロテアーゼインヒビターとNaClを含む
緩衝液A中のNaCl濃度を、0.15Mから1.2Mまで上げた直
線濃度勾配(全体積1000ml)で吸着部分を溶出し、13ml
づつ集めた。各溶出画分の蛋白濃度、10mM DTT存在下で
のスルホトランスフェラーゼ活性(ヘパラン硫酸 2-ス
ルホトランスフェラーゼ活性)およびDTT非存在下での
スルホトランスフェラーゼ活性(ヘパラン硫酸 O−ス
ルホトランスフェラーゼ活性)を測定した(図1)。ス
ルホトランスフェラーゼ活性を含む画分(図1で太線で
示した部分)をプールし、透析チューブに入れ、これに
ポリエチレングリコール#20000の粉末をまぶして約100
mlまで濃縮した。Triton X-100の濃度を1%に調整後、
次の精製段階のために0.05M NaClを含む緩衝液Aに対し
て透析した。
【0033】上記操作により、ヘパラン硫酸 2-スルホ
トランスフェラーゼ活性は約1.9倍に増加した。この原
因としては、PAPSの分解酵素やヘパラン硫酸 2-スルホ
トランスフェラーゼ活性を阻害する物質が、カラムクロ
マトグラフィーによって除かれたということが考えられ
る。
【0034】第2段階:3',5'-ADP-アガロースクロマ
トグラフィー 上記第1段階で得られた透析液を、0.05 M NaClを含む
緩衝液Aで平衡化した3',5'-ADP-アガロースのカラム
(14×90 mm, 15 ml)に通した。流速は13 ml/時間で
行った。カラムに吸着しない画分を、0.05 M NaClを含
む緩衝液A(カラムの8倍量)で洗浄後、0.05 M NaCl
と0.2mM 3',5'-ADPを含む緩衝液A(カラムの5倍量)
で吸着画分を溶出した。この画分にNaClの終濃度が0.15
Mになるように1 M NaClを含む緩衝液Aを加えた。
【0035】第1段階と第2段階の組み合わせを3回繰
り返し、3回分の活性画分をプールした。プールした画
分の一部を小さなヘパリン-セファロースカラム(ベッ
ド体積(bed volume): 0.6ml)にかけ、0.15 M NaClを含
む緩衝液Aで洗浄後、1.0 MNaClを含む緩衝液Aで溶出
し、この画分の活性を測定し、この段階で精製された酵
素の総活性を求めた。
【0036】上記操作により、ヘパラン硫酸 2-スルホ
トランスフェラーゼの比活性は、一挙に44倍となり、本
酵素の精製に極めて有効な方法であることが明らかにな
った。
【0037】第3段階:2回目のヘパリン-セファロ
ース CL-6Bクロマトグラフィー 第2段階のヘパラン硫酸 2-スルホトランスフェラーゼ
活性画分を、0.15 M NaClを含む緩衝液Aで平衡化した
ヘパリン−セファロース CL-6Bカラム(16×50 mm,
10 ml)にかけた。0.15 M NaClを含む緩衝液A(カラ
ム容積の5倍量)でカラムを洗浄した後、緩衝液中のNa
Cl濃度を0.15 Mから1.0 Mまで上げた直線濃度勾配(全
体積300 ml)で吸着部分を溶出した。各溶出画分の蛋白
濃度、10mM DTT存在下でのスルホトランスフェラーゼ活
性(ヘパラン硫酸 2-スルホトランスフェラーゼ活性)
およびDTT非存在下でのスルホトランスフェラーゼ活性
(ヘパラン硫酸 O−スルホトランスフェラーゼ活性)
を測定した。結果を図2に示す。
【0038】上記のようにして得られたヘパラン硫酸
2-スルホトランスフェラーゼ活性を含む画分の中、図
2で太線で示した画分を集め、Triton X-100濃度を1%
に上げた後、1M NaClを含む緩衝液Aに対して透析し、
それから 0.05 M NaClを含む緩衝液Aに対して透析し
た。
【0039】第4段階:2回目の3',5'-ADP-アガロー
スクロマトグラフィー 3段階目の画分を、3',5'-ADP-アガロースカラムに1回
目と同様にかけて、クロマトグラフィーを行った。この
クロマトグラフィーにより精製度は11倍増加し、この段
階で比活性は26,700倍になった。0.2mM 3',5'-ADPと0.0
5M NaClを含む緩衝液Aで溶出した画分のNaCl濃度を0.1
5Mに調整した後、前記と同様にポリエチレングリコール
で8mlまで濃縮した。0.1M NaClを含む緩衝液Aに対し
て透析後、小さいヘパリン−セファロースカラム(bed
volume 0.6ml)にかけ、0.1M NaClを含む緩衝液B(Tri
ton X-100の濃度のみを0.02%にかえた緩衝液A)で洗
浄後、1M NaClを含む緩衝液B(2.5ml)で溶出した。こ
の溶出液をさらに0.5mlまで濃縮し、次の精製段階に使
用した。
【0040】第5段階:スーパーロース 12 ゲルクロ
マトグラフィー 2M NaClを含む緩衝液Aで平衡化したスーパーロース 12
カラムに4段階目の画分をかけ、0.25ml/分の流速で
クロマトグラフィーを行い、0.25mlづつ分画した。各溶
出画分の、10mM DTT存在下でのスルホトランスフェラー
ゼ活性(ヘパラン硫酸 2-スルホトランスフェラーゼ活
性)およびDTT非存在下でのスルホトランスフェラーゼ
活性(ヘパラン硫酸 O−スルホトランスフェラーゼ活
性)を測定した。スルホトランスフェラーゼの主たる活
性は、分子量130,000付近(図3中の高分子量側のピー
ク(ピークI))に溶出された。一方、分子量42,000付
近(低分子量側のピーク(ピークII))にDTTで阻害さ
れる小さな活性が溶出された。ヘパラン硫酸 2−スル
ホトランスフェラーゼはDTTにより阻害されないが、ヘ
パラン硫酸 6−スルホトランスフェラーゼはDTTにより
阻害されるので、分子量42,000付近のピークはヘパラン
硫酸 6−スルホトランスフェラーゼと思われる。ま
た、この分子量は発明者らによる既報論文のヘパラン硫
酸 6−スルホトランスフェラーゼの分子量とよく一致
する。さらにピークIIの画分によって35S標識されたCD
SNS−ヘパリンのヘパリチナーゼ消化物は、ΔDi-(N,6)d
iSが主たる成分であった。DTTで阻害されないスルホト
ランスフェラーゼ活性を含む画分(図3の太線部分)を
プールし、0.15M NaClを含む緩衝液Aに対して透析後、
−20℃で保存した。
【0041】以上、5段階の精製操作により、ヘパラン
硫酸 2-スルホトランスフェラーゼは、粗抽出液から約
51,700倍に精製され、後述するようにSDS-PAGEでほぼ均
一な2本のバンドを与えた(図4)。各段階における精
製の度合いを表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】(3)精製酵素のSDS-PAGEによる分析 上記のようにして得られたヘパラン硫酸 2-スルホトラ
ンスフェラーゼの精製酵素及び精製の各段階における試
料のSDS-PAGEを、Laemmliの方法(Laemmli, U.K. (197
0) Nature, 227, 680-685)に従って10% ゲルを用いて
行った。蛋白のバンドは、銀染色により検出した。精製
酵素のSDS-PAGEの結果を図4に、精製の各段階における
試料のSDS-PAGEの結果を図5に示す。スーパーロース 1
2 ゲルクロマトグラフィー画分には、近接した約44KDa
と約47KDaの幅広いバンドが主に認められた(図4)。
酵素活性の溶出パターンから考えると、分子量約44KDa
と47KDaの非常に近接した2つのバンドがヘパラン硫酸
2−スルホトランスフェラーゼに一致するようである。
【0044】次に、ヘパラン硫酸 2−スルホトランス
フェラーゼ蛋白質における糖鎖の有無を調べた。0.15
μgの蛋白を含むヘパラン硫酸2-スルホトランスフェラ
ーゼ溶液にTCA(トリクロロ酢酸)を終濃度10 %になる
ように加えて酵素蛋白を沈殿させ、遠心分離により沈殿
を回収した。この沈殿をアセトンで洗浄乾燥後、以下に
示す反応液中で37℃で16時間保温した。
【0045】0.5% ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含
む0.05 M Tris-HCl, pH 7.8(10 μl)/7.5%(w/v) Noni
det P-40 (5 μl)/0.25 M EDTA (1.2 μl)/フェニル
メチルスルフォニルフルオライド(0.3 μl)/0.5 ユニ
ットのN-グリカナーゼ(recombinant N-glycanase:ジ
ェンザイム(Genzyme)社製)を含む反応液。
【0046】上記反応液をSDS-PAGEで分析したところ、
近接した44KDaと47KDaの蛋白バンドが消えて、34KDaと3
8KDaの蛋白バンドが出現した(図6)。この結果から、
両バンドの蛋白が、19%以上の糖を含む糖蛋白質である
ことが示唆される。 (4)ヘパラン硫酸 2-スルホトランスフェラーゼの基
質特異性と作用 本発明のヘパラン硫酸 2-スルホトランスフェラーゼの
基質特異性を調べるために、精製酵素を用いて種々の基
質(25 nmol)を受容体とした[35S]PAPSからの 35S-硫酸
基の転移活性を測定した。結果を表3に示した。表中の
( )内の数字はCDSNS-ヘパリンを受容体としたときの
硫酸基転移活性を100としたときの、各受容体に対す
る硫酸基転移活性を表す。
【0047】
【表3】
【0048】本発明のヘパラン硫酸 2-スルホトランス
フェラーゼは、CDSNS-ヘパリンとEHS腫瘍由来のヘパラ
ン硫酸に硫酸基を転移し、ブタ大動脈由来およびウシ肝
臓由来のヘパラン硫酸により弱く硫酸基を転移したが、
コンドロイチン、コンドロイチン硫酸AおよびC、デル
マタン硫酸、ケラタン硫酸には硫酸基の転移が認められ
なかった。
【0049】CDSNS-ヘパリン及びEHS腫瘍由来のヘパラ
ン硫酸を受容体とし、[35S]-PAPSを硫酸基の供与体とし
たときに、本発明のヘパラン硫酸 2-スルホトランスフ
ェラーゼによって転移される硫酸基の位置を調べるた
め、転移反応生成物を、以下に示すヘパリチナーゼI,I
I,IIIを含む混合液(反応産物 〜25 nmol、50 mM Tris-
HCl (pH 7.2)、1 mM CaCl2、2 μg ウシ血清アルブミン
(BSA)、10 mU ヘパリチナーゼI、1 mU ヘパリチナー
ゼII、10 mU ヘパリチナーゼIIIを含む50 μl)で、3
7℃で2時間消化した。
【0050】消化物を、標準不飽和二糖と一緒にHPL
C(高速液体クロマトグラフィー、カラム:ポリアミン
を結合したシリカ カラム(PAMNカラム))を用いた既知
の方法(Habuchi, H. et al., (1992) Biochem. J., 28
5, 805-813)で分離し、0.6mlずつ分画し、3 mlの液体
シンチレーター(Ready Safeシンチレーター:ベックマ
ン社製)を混合して、液体シンチレーションカウンタに
より放射能を測定した。尚、ヘパリチナーゼは、ヘパラ
ン硫酸のα-N-アセチル/-スルホ-D-グルコサミニル
(1→4)ウロン酸結合を脱離反応的に切断し、Δ4-ヘ
キスロン酸を非還元末端に持つオリゴ糖を生成する酵素
である。
【0051】結果を、図7(A:基質としてCDSNS−ヘ
パリン、B:基質としてEHS腫瘍由来のヘパラン硫酸)
に示す。図7中、1〜5の符号を付した矢印は、以下に
示す不飽和二糖の溶出位置を表す(化1式及び表4参
照)。尚、ΔDiHSは、ヘパリンおよびヘパラン硫酸
がヘパリチナーゼにより分解されて生成する不飽和二糖
を、6、Nはグルコサミンの硫酸化の位置を、及びUは
ウロン酸の2位が硫酸化されていることを示す。
【0052】1:ΔDiHS−6S 2:ΔDiHS−NS 3:ΔDiHS−di(6,N)S 4:ΔDiHS−di(U,N)S 5:ΔDiHS−tri(U,6,N)S
【0053】
【化1】
【0054】
【表4】
【0055】その結果、CDSNS-ヘパリンを受容体とした
ときは、大部分の放射能はスタンダードのΔDiHS-di(U,
N)Sの溶出位置と一致した(図7A)。一方、EHS腫瘍由
来のヘパラン硫酸を受容体としたときも同様に、大部分
の放射能はスタンダードのΔDiHS-di(U,N)Sと一致した
(図7B)。
【0056】さらに上記の35Sで標識されたCDSNS−ヘ
パリン及びEHS腫瘍由来のヘパラン硫酸を、pH 1.5で亜
硝酸分解後 NaBH4で還元して得られた二糖画分を Parti
sil-10SAXカラムを用いてHPLCで分析した。CDSNS−ヘパ
リン由来の二糖画分の分析結果を図8A、EHS腫瘍由来
のヘパラン硫酸由来の二糖画分の分析結果を図8Bにそ
れぞれ示す。図8A・B中、1〜5の符号を付した矢印
は、以下に示す二糖の溶出位置を表す。尚、AManはアン
ヒドロマンノース(2,5-anhydro-D-mannose)を示し、R
はNaBH4により還元して得られるアルジトールを示す。
また、(2SO4)、(6SO4)は、それぞれ2位が硫酸化されて
いること、6位が硫酸化されていることを示す。
【0057】1:HexA−AManR 2:GlcA(2SO4)−AManR 3:GlcA−AManR(6SO4) 4:IdoA−AManR(6SO4) 5:IdoA(2SO4)−AManR
【0058】その結果、どちらを受容体にしても大部分
の放射能は IdoA(2SO4)-AManRの溶出位置と一致した。
これらの結果から、本発明のヘパラン硫酸 2−スルホ
トランスフェラーゼは、N-スルホグルコサミン残基に隣
接するイズロン酸残基の2位の水酸基へ硫酸基を転移す
ることが示された。また、本発明酵素によるグルコサミ
ン残基の硫酸化は認められなかった。
【0059】(6)ヘパラン硫酸 2-スルホトランスフ
ェラーゼのその他の酵素学的性質 至適pH 本発明酵素の至適pHの測定を行った。緩衝液として
は、50 mM Tris-HCl、50mM イミダゾール-HCl、50 mM M
ES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸:ナカライテスク社製)、及
び 50 mM 酢酸カリウム緩衝液を用い、種々のpHで酵素
活性を測定した。pH 6.8のイミダゾール-HCl緩衝液中に
おける酵素活性に対する各々の相対活性を図9に示し
た。その結果、本発明酵素はpH 5〜6.5付近で高い酵素
活性を示した。また、最大活性はpH 5.5付近であった。
【0060】至適イオン強度 本発明酵素の活性に対するイオン強度の影響を調べるた
めに、NaClを種々の濃度で酵素反応液に添加し、酵素活
性を調べた。結果を図10に示す。その結果、本発明酵
素は50〜200 mM NaCl 付近で高い酵素活性を示した。ま
た、最大活性は100 mM NaCl付近に見られた。この性質
はNaCl濃度依存的に活性が阻害されるN-スルホトラン
スフェラーゼとは異なる。
【0061】本発明酵素の阻害及び活性化 本発明酵素の活性に対するジチオスレイトール(DTT)
の影響を調べるために、DTTを種々の濃度で反応液に添
加し、酵素活性を測定した(図11)。DTTは、10mMま
でほとんど活性を阻害せず、この点はヘパラン硫酸 6
−スルホトランスフェラーゼと非常に異なっている。
【0062】本発明酵素の酵素活性に対するプロタミン
の影響を調べた。結果を図12に示す。ヘパラン硫酸
2−スルホトランスフェラーゼは、コンドロイチン4-
スルホトランスフェラーゼやコンドロイチン6−スルホ
トランスフェラーゼやヘパラン硫酸 6-スルホトランス
フェラーゼと同様にプロタミンによって著しく活性化さ
れた。
【0063】また、本発明酵素の酵素活性に対する3',
5'-ADPの影響を調べたところ、他のスルホトランス
フェラーゼ同様に強い阻害作用を示した。
【0064】ミカエリス定数の測定 本発明酵素に対して、硫酸基の受容体としてCDSNS-ヘパ
リンを、供与体としてPAPSを用いたときのミカエリス定
数(Km)を求めた。0.19ユニットの本発明酵素とヘキソサ
ミン量として25 nmolのCDSNS-ヘパリンを含む反応液50
μlに0.125〜5μMのPAPSを加え、37℃で20分間反応させ
て、反応初速度を測定した。Lineweaver-Burkプロット
を作成し、ミカエリス定数を算出した結果、本発明酵素
のPAPSに対するKmは2.0×10-7 Mであった。
【0065】
【発明の効果】本発明の酵素により、ヘパリンおよびヘ
パラン硫酸に含まれるイズロン酸残基の2位の水酸基に
選択的に硫酸基を導入することが酵素的に可能になっ
た。このヘパラン硫酸 2−スルホトランスフェラーゼ
は、極めて厳密にヘパリンおよびヘパラン硫酸のイズロ
ン酸残基の2位選択的に硫酸基を導入するため、ヘパリ
ンやヘパラン硫酸の機能解析などの研究に有用な試薬へ
の活用が期待される。
【0066】また本発明酵素を用いてヘパラン硫酸のイ
ズロン酸残基の2位へ選択的に硫酸基を導入することに
より、現在知られていない新たな生理活性を有するヘパ
リンやヘパラン硫酸の創出、さらに医薬品としての応用
を考えると、ヒトに好ましい生理活性を有するヘパリン
もしくはヘパラン硫酸の創出が期待できる。また、がん
化に伴ってヘパラン硫酸の硫酸化度が下がることが知ら
れているので、本発明の酵素に対する抗体を作出し、組
織中の本発明の酵素を検出することによって、該酵素量
と細胞のがん化との関連付けが可能になることも期待さ
れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明酵素の1回目のヘパリン−セファロー
ス CL-6Bクロマトグラフィーの結果を示す図。●はヘパ
ラン硫酸 O-スルホトランスフェラーゼ活性(DTT非存
在下で活性測定を行った)、○はヘパラン硫酸 2-スル
ホトランスフェラーゼ活性(10 mM DTT存在下で活性測
定を行った)、■は蛋白濃度、破線はNaCl濃度を示す。
【図2】 本発明酵素の2回目のヘパリン-セファロース
CL-6Bクロマトグラフィーの結果を示す図。図中の
●、○、■はいずれも図1と同じである。
【図3】 スーパーロース12ゲルクロマトグラフィーの
結果を示す図。図中の●、○はいずれも図1および2と
同じである。矢印は標準タンパク質の溶出位置を示す。
図中の1、2及び3はいずれも標準蛋白質の溶出位置で
ある。1はBSA(67KDa)、2はオブアルブミン(43KDa)、
3はキモトリプシノーゲン(25KDa)である。
【図4】 スーパーロース12ゲルクロマトグラフィーで
分画されたフラクションのSDS-PAGEの結果を示す図。図
上部の数字はフラクション番号を表す。Mは分子量マー
カーを示す。
【図5】 各精製段階における本発明酵素画分のSDS-PAG
Eの結果を示す図。Mは分子量マーカー、レーン1は粗
抽出液、レーン2は1回目のヘパリン−セファロース C
L-6Bにおいて図1で水平線(太線)で示した部分の画
分、レーン3は1回目の3',5'-ADP-アガロースの吸着画
分、レーン4は2回目のヘパリン−セファロース CL-6B
クロマトグラフィーにおいて図2で示した水平線(太
線)の部分の画分、レーン5は2回目の3',5'-ADP-アガ
ロースの吸着画分を、それぞれ示す。
【図6】 N-グリカナーゼ処理及び無処理の本発明酵素
のSDS-PAGEの結果を示す図。Mは分子量マーカー、レー
ン1は無処理の本発明酵素、レーン2はN−グリカナー
ゼ処理した本発明酵素、レーン3はN−グリカナーゼを
それぞれ示す。
【図7】 本発明酵素によるCDSNS-ヘパリン(A)及びE
HS腫瘍由来のヘパラン硫酸(B)への硫酸基転移反応産
物のヘパリチナーゼ消化物のHPLCクロマトグラムを示す
図。
【図8】 本発明酵素によるCDSNS-ヘパリン(A)及びE
HS腫瘍由来のヘパラン硫酸(B)への硫酸基転移反応産
物を、pH 1.5で亜硝酸分解し、NaBH4で還元することに
より生成した二糖の Partisil-10 SAXカラムによるHPLC
クロマトグラムを示す図。
【図9】 本発明酵素の至適pHを示すpH−酵素活性
曲線。○はTris-HCl緩衝液、●はイミダゾール−HCl緩
衝液、□はMES緩衝液、■は酢酸カリウム緩衝液を各々
示す。
【図10】 本発明酵素の至適NaCl濃度を示すNaCl濃度
−酵素活性曲線。
【図11】 本発明酵素に対するDTTの影響を示すDTT濃
度−酵素活性曲線。
【図12】 本発明酵素に対するプロタミンの影響を示
すプロタミン濃度−酵素活性曲線。
─────────────────────────────────────────────────────
【手続補正書】
【提出日】平成7年11月21日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】図4
【補正方法】変更
【補正内容】
【図4】 スーパーロース12ゲルクロマトグラフィーで
分画されたフラクションのSDS-PAGEの結果を示す図(電
気泳動写真)。図上部の数字はフラクション番号を表
す。Mは分子量マーカーを示す。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】図5
【補正方法】変更
【補正内容】
【図5】 各精製段階における本発明酵素画分のSDS-PAG
Eの結果を示す図(電気泳動写真)。Mは分子量マーカ
ー、レーン1は粗抽出液、レーン2は1回目のヘパリン
−セファロース CL-6Bにおいて図1で水平線(太線)で
示した部分の画分、レーン3は1回目の3',5'-ADP-アガ
ロースの吸着画分、レーン4は2回目のヘパリン−セフ
ァロース CL-6Bクロマトグラフィーにおいて図2で示し
た水平線(太線)の部分の画分、レーン5は2回目の
3',5'-ADP-アガロースの吸着画分を、それぞれ示す。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】図6
【補正方法】変更
【補正内容】
【図6】 N-グリカナーゼ処理及び無処理の本発明酵素
のSDS-PAGEの結果を示す図(電気泳動写真)。Mは分子
量マーカー、レーン1は無処理の本発明酵素、レーン2
はN−グリカナーゼ処理した本発明酵素、レーン3はN
−グリカナーゼをそれぞれ示す。

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 下記の理化学的性質を有するヘパラン硫
    酸 2−O−硫酸基転移酵素。 作用:硫酸基供与体から硫酸基を、イズロン酸残基の
    2位の水酸基に選択的に転移する。 基質特異性:ヘパラン硫酸もしくはCDSNS−ヘパ
    リンには硫酸基を転移するが、コンドロイチン、コンド
    ロイチン硫酸、デルマタン硫酸およびケラタン硫酸には
    硫酸基を転移しない。 至適反応pH:pH5〜6.5付近 至適イオン強度:50〜200mM付近(塩化ナトリ
    ウムの場合) 阻害及び活性化:プロタミンにより活性化される。ア
    デノシン-3',5'-ジリン酸(3',5'−ADP)により阻害
    される。10mM以下のジチオスレイトール(DTT)
    によってはほとんど活性に影響を受けない。
  2. 【請求項2】 前記硫酸基供与体が、3’−ホスホアデ
    ノシン5’−ホスホ硫酸である請求項1記載のヘパラン
    硫酸 2−O−硫酸基転移酵素。
  3. 【請求項3】 チャイニーズハムスター卵巣組織由来の
    培養細胞を好適な培地で培養し、この培養物からヘパラ
    ン硫酸 2−O−硫酸基転移酵素を採取することを特徴
    とするヘパラン硫酸 2−O−硫酸基転移酵素の製造方
    法。
  4. 【請求項4】 前記培養細胞が、CHO細胞(ATCC CCL6
    1)である請求項3記載のヘパラン硫酸 2−O−硫酸基
    転移酵素の製造方法。
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