JP4415338B2 - 硫酸基転移酵素調製物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、硫酸基転移酵素(スルホトランスフェラーゼ)調製物及びその製造方法並びに硫酸基転移酵素調製物の利用に関する。
【0002】
【従来の技術】
コンドロイチン硫酸(CS-E)は、コンドロイチン硫酸のアイソマーの一つであり、一硫酸化二糖繰り返し単位に加えて、独自の二硫酸化二糖繰り返し単位(GlcAβ1-3GalNAc(4,6-bisSO4){GlcAはグルクロン酸残基、GalNAc(4,6-bisSO4)は4位と6位のヒドロキシル基が共に硫酸化されているN−アセチルガラクトサミン残基、β1-3はβ1-3結合を示す})を有している。CS-Eは、最初、イカ軟骨で見い出され、続いて肥満細胞、多形核顆粒球、単球及びマクロファージなど種々の細胞に分布していることが見い出された。CS-Eは、肥満細胞からヒスタミン放出、血小板第4因子の好中球への結合、前凝固活性の制御、及び、リポタンパク質リパーゼのマクロファージへの結合に関与していると考えられている。ラット糸球体及びラットメサンギウム細胞は、CS-E、及び、メクラウナギ脊索で見い出されていたIdoAα1-3GalNAc(4,6-bisSO4)単位{IdoAはイズロン酸残基}を含むグリコサミノグリカンを合成することが報告されている。GalNAc(4,6-bisSO4)は、コンドロイチン硫酸の非還元末端にも見い出されており、アグリカンの非還元末端GalNAc(4,6-bisSO4)の割合はヒト変形性関節炎において減少することが見い出されている。トロンボモジュリンの抗凝固活性は、非還元末端にGalNAc(4,6-bisSO4)を含むコンドロイチン硫酸の存在に依存すると報告されている。これらの知見は、CS-E、又は、コンドロイチン硫酸の非還元末端のGalNAc(4,6-bisSO4)が種々の細胞相互作用において重要な役割を果たしていることを示唆している。
【0003】
GalNAc(4,6-bisSO4)を生成できるスルホトランスフェラーゼについては、イカ軟骨(J. Biol. Chem., 246, 7357-7365(1971))、ウズラ卵管(J. Biol. Chem., 256, 5443-5449(1981))及びヒト血清(J. Biol. Chem., 261, 4460-4469 (1986); J. Biol. Chem., 261, 4470-4475 (1986))を酵素源として研究されている。ウズラ卵管及びヒト血清から得られたスルホトランスフェラーゼは、主に、非還元末端のN-アセチル-4-スルホガラクトサミン残基(GalNAc(4-SO4))の6位の硫酸化を触媒し、一方、イカ軟骨から部分精製されたスルホトランスフェラーゼは内部GalNAc(4-SO4)の6位の硫酸化を触媒する。しかし、これらのスルホトランスフェラーゼの厳密な基質特異性は、これらのスルホトランスフェラーゼの均一調製物が得られていないため、はっきりしていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
コンドロイチン硫酸の生理活性発現における硫酸化の重要性を考えると、従来知られていなかった硫酸化特性を有する、コンドロイチン硫酸に硫酸基を転移する酵素は、コンドロイチン硫酸の機能解析の研究のみならず、ヒトに好ましい生理活性を有する医薬品の創造を目的としたコンドロイチン硫酸を提供するためにも非常に重要である。そして、酵素をこのような目的に用いるには、その酵素は、基質特異性や硫酸化部位などの硫酸化特性が十分に確立される程度まで精製される必要がある。また、比活性も極力高める必要がある。
【0005】
したがって、本発明は、コンドロイチン硫酸等に対して、従来知られていなかった硫酸化特性を示し、その硫酸化特性が確立され、かつ比活性が極めて高い硫酸基転移酵素調製物を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、今までに部分精製しかされておらず、基質特性が明確にされていなかった、イカ軟骨由来のスルホトランスフェラーゼの精製について検討した結果、プロタミン沈殿を用いることによって、この酵素を硫酸化特性が確立され、また十分に高い比活性を有する程度にまで精製することに成功し、本発明を完成した。
【0007】
したがって、本発明は、下記理化学的性質を有し、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動において実質的に均一なバンドを示す、硫酸基転移酵素調製物(以下、「本発明調製物」ともいう)を提供する。
(1)作用:硫酸基供与体から、グリコサミノグリカンのN−アセチルガラクトサミン4−硫酸残基(以下、GalNAc(4-SO4)ともいう)の6位のヒドロキシル基に、特異的に硫酸基を転移する。
(2)基質特異性:クジラ軟骨由来のコンドロイチン硫酸A、サメ軟骨由来のコンドロイチン硫酸C、ブタ皮由来のデルマタン硫酸には硫酸基を転移する。イカ軟骨由来のコンドロイチン硫酸E、ウシ角膜由来のケラタン硫酸、ウシ腎臓由来のヘパラン硫酸、CDSNS−ヘパリンには硫酸基を実質的に転移しない。
(3)活性化:20mMのMn2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+またはCo2+の存在下で活性が増加する。0.1MのNaCl、0.1MのKClまたは0.15mg/mlのプロタミンの存在下で活性が増加する。
(4)阻害:
コンドロイチン硫酸Eによって、コンドロイチン硫酸Aへの硫酸基の転移が阻害される。
デルマタン硫酸によって、コンドロイチン硫酸Aへの硫酸基の転移が阻害される。
コンドロイチン硫酸Aによって、デルマタン硫酸への硫酸基の転移が阻害される。
【0008】
本発明調製物は、好ましくは、さらに下記理化学的性質を有する。
(5)分子量:約63kD、約54kD(SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動;非還元条件下)
(6)至適pH:6.2付近
【0009】
また、本発明調製物は、好ましくは、さらに下記の理化学的性質を有する。
(7)至適Ca2+濃度:約20mM(コンドロイチン硫酸Aが基質の場合)。約100mM(デルマタン硫酸が基質の場合)。
(8)Km値:
約5×10-7 M(3’−ホスホアデノシン5’−ホスホ硫酸)
約1.3×10-7 M(ブタ皮由来のデルマタン硫酸)
約1.1×10-6 M(クジラ軟骨由来のコンドロイチン硫酸A)
【0010】
本発明調製物は、イカ軟骨由来であることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、本発明調製物の製造方法を提供する。この製造方法は、下記の工程を少なくとも含む。
(工程1)本発明調製物に含まれる硫酸基転移酵素を含有する生物体(好ましくはイカ軟骨)から、抽出物を取得する工程。
(工程2)抽出物とプロタミンとを接触させ、沈殿物を生成させる工程。
(工程3)工程2により生成した沈殿物を除去する工程。
【0012】
上記製造方法は、前記工程3の後に実施される、ヘパリンをリガンドとするアフィニティークロマトグラフィー工程及びアデノシン3',5'-二リン酸をリガンドとするアフィニティークロマトグラフィー工程をさらに含むことが好ましい。
【0013】
さらに、本発明は、本発明調製物を用いたコンドロイチン硫酸Eの製造方法を提供する。この方法は、コンドロイチン硫酸Aに本発明調製物を作用させ、生成したコンドロイチン硫酸Eを単離することを含む。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明調製物の有する理化学的性質について、先ず、説明する。
【0015】
(1)作用:硫酸基供与体から、グリコサミノグリカンのN−アセチルガラクトサミン4−硫酸残基の6位のヒドロキシル基に、特異的に硫酸基を転移する。ここで、「特異的」とは、グリコサミノグリカンを構成する残基のヒドロキシル基及びアミノ基において、N−アセチルガラクトサミン4−硫酸残基の6位のヒドロキシル基以外の基を実質的に硫酸化しないことを意味する。すなわち、4−硫酸化N−アセチルガラクトサミンの6位のヒドロキシル基以外には実質的に硫酸基を転移せず、また、ヘキスロン酸残基には実質的に硫酸基を転移しない。
【0016】
硫酸基供与体は、好ましくは、3’−ホスホアデノシン5’−ホスホ硫酸(以下、「PAPS」とも記載する)である。
【0017】
好ましくは、グリコサミノグリカン中の非還元末端のN−アセチルガラクトサミン4−硫酸残基への転移活性と、内部のN−アセチルガラクトサミン4−硫酸残基への転移活性とは、J. Biol. Chem., 261, 4470-4475 (1986)に記載の測定方法により求めた場合、内部残基への転移活性の方が大きいことが好ましい。
【0018】
(2)基質特異性:クジラ軟骨由来のコンドロイチン硫酸A、サメ軟骨由来のコンドロイチン硫酸C、ブタ皮由来のデルマタン硫酸には硫酸基を転移する。イカ軟骨由来のコンドロイチン硫酸E、ウシ角膜由来のケラタン硫酸、ウシ腎臓由来のヘパラン硫酸、CDSNS−ヘパリンには硫酸基を実質的に転移しない。CDSNS−ヘパリン(completely desulfated, N-resulfated heparin)は、完全脱硫酸化後、グルコサミン残基をN−硫酸化したヘパリンを意味する。
【0019】
上記作用から明らかなように、コンドロイチン硫酸Cであっても、一部のN−アセチルガラクトサミン残基の4位のヒドロキシル基が硫酸化されており、同残基の6位のヒドロキシル基が硫酸化されていないものであれば、本発明調製物により硫酸基が転移される。また、イカ軟骨由来のコンドロイチン硫酸Eには硫酸基が実質的に転移されないが、コンドロイチン硫酸Eであっても、一部のN−アセチルガラクトサミン残基の4位のヒドロキシル基が硫酸化されており、同残基の6位のヒドロキシル基が硫酸化されていないものであれば、本発明調製物により硫酸基が転移される。
【0020】
(3)活性化:20mMのMn2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+またはCo2+の存在下で活性が(通常には、非存在下に比べ、2〜4倍に)増加する。0.1MのNaCl、0.1MのKClまたは0.15mg/mlのプロタミンの存在下で活性が(通常には、非存在下に比べ、2〜3倍に)増加する。
【0021】
(4)阻害:
コンドロイチン硫酸Eによって、コンドロイチン硫酸Aへの硫酸基の転移が阻害される。デルマタン硫酸によって、コンドロイチン硫酸Aへの硫酸基の転移が阻害される。コンドロイチン硫酸Aによって、デルマタン硫酸への硫酸基の転移が阻害される。
【0022】
ここで、「阻害される」とは、通常には、基質としてのグリコサミノグリカンと阻害剤としてのグリコサミノグリカンとが同量存在するときに、基質への硫酸基の転移が、阻害剤非存在下に比べて35%以下になることを意味する。
【0023】
本発明調製物は、好ましくは、さらに下記理化学的性質を有する。
(5)分子量:約63kD、約54kD(SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動;非還元条件下)
(6)至適pH:6.2付近
【0024】
また、本発明調製物は、好ましくは、さらに下記の理化学的性質を有する。
(7)至適Ca2+濃度:約20mM(コンドロイチン硫酸Aが基質の場合)。約100mM(デルマタン硫酸が基質の場合)。
(8)Km値:
約5x10-7 M(3’−ホスホアデノシン5’−ホスホ硫酸)
約1.3x10-7 M(ブタ皮由来のデルマタン硫酸)
約1.1x10-6 M(クジラ軟骨由来のコンドロイチン硫酸A)
【0025】
上記の理化学的性質は、後記実施例に示した方法により測定できる。
【0026】
本発明調製物は、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)において実質的に均一なバンドを示す。ここで、「実質的に均一な」とは、硫酸化特性が確立するのに十分な精製度になっていることが確認されるバンドを示すことを意味し、単一のバンドを示すことを意味するものではない。SDS-PAGEの条件としては、典型的には、後記実施例に示した条件が挙げられる。
【0027】
本発明調製物は、イカ軟骨由来であることが好ましい。
【0028】
また、本発明調製物は、100000 U/mg以上(より好ましくは150000 U/mg以上)の比活性を有することが好ましい。比活性は、後記実施例に示した方法にしたがって、調製物の活性及びタンパク質量を測定(活性については本発明調製物の特性評価に用いた標準反応混合物を用いる)することにより算出できる。
【0029】
本発明調製物は、以下に説明する本発明調製物の製造方法により製造することができる。
【0030】
本発明により提供される、本発明調製物の製造方法は、下記の工程を少なくとも含む。
(工程1)本発明調製物に含まれる硫酸基転移酵素を含有する生物体から、抽出物を取得する工程。
(工程2)抽出物とプロタミンとを接触させ、沈殿物を生成させる工程。
(工程3)工程2により生成した沈殿物を除去する工程。
【0031】
工程1において、本発明調製物に含まれる硫酸基転移酵素を含有する生物体は、前記硫酸基転移酵素を含有するものである限り特に制限されず、ヒト以外の生物自体、生物から分離した生体組織、生体組織から分離した細胞、遺伝子工学的に改変した細胞等を用いることができる。このような生物体は、本発明により明らかにされた本発明調製物の性質を指標として生物体をスクリーニングすることで選択することができる。好ましくは生物体はイカ軟骨である。生物体から抽出物を取得する方法としては、公知の抽出方法が使用でき、通常には、生物体を緩衝液中で破砕し、遠心分離により上清を得る方法が挙げられる。破砕方法は、生物体の性質により適宜選択される。
【0032】
工程2においては、通常、プロタミンを抽出物に添加することにより、抽出物とプロタミンとが接触させられる。これにより沈殿物が生成する。プロタミンの量は、生物体の種類等に応じて異なる、抽出物に含まれるプロテオグリカンの量に基づいて選択される。この量の選択は、後記実施例1に記載したような方法により行うことができる。
【0033】
工程3の沈殿物の除去は、遠心分離などの通常に採用される固液分離手段によりおこなうことができる。
【0034】
上記製造方法は、前記工程3の後に実施される、ヘパリンをリガンドとするアフィニティークロマトグラフィー工程及びアデノシン3',5'-二リン酸(3',5'-ADP)をリガンドとするアフィニティークロマトグラフィー工程をさらに含むことが好ましい。
【0035】
アフィニティークロマトグラフィーは、リガンドを担体に結合させ、リガンドに対して親和性をもつタンパク質を特異的にリガンドに吸着させ、夾雑物を洗浄によって除去した後、脱離させて精製する方法である。
【0036】
ヘパリン及び3',5'-ADPの担体への結合は公知の方法によって行うことができ、また、これらが担体に結合したものは市販品として得ることもできる(例えば、ヘパリンセファロースCL-6B(Amersham Pharmacia Biotechnology)、3',5'-ADP-アガロース(Sigma-Aldrich Japan))。
【0037】
吸着、洗浄及び脱離の条件は、当業者に公知の方法により選択できる。例えば、イカ軟骨由来の酵素の場合、後記実施例1に記載した条件を挙げることができる。
【0038】
ヘパリンをリガンドとするアフィニティークロマトグラフィー工程及び3',5'-ADPをリガンドとするアフィニティークロマトグラフィー工程の順序及び回数は特に限定されず、目的とする精製度が得られるように選定される。
【0039】
上記製造方法は、さらに、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー等の公知の精製工程を含んでいてもよい。
【0040】
なお、付言すれば、上記に言及した種々の公知の方法における条件は、本発明により本発明調製物の性質が明らかにされたので、これらを指標にすれば、当業者が容易に選択できる。
【0041】
さらに、本発明は、本発明調製物を用いたコンドロイチン硫酸Eの製造方法を提供する。この方法は、コンドロイチン硫酸Aに本発明調製物を作用させ、生成したコンドロイチン硫酸Eを単離することを含む。
【0042】
本発明調製物をコンドロイチン硫酸Aに作用させる条件としては、上記作用が十分に発揮される条件であれば特に制限されないが、上記に記載したような本発明調製物の活性が上昇する条件が好ましい。
【0043】
コンドロイチン硫酸Eの単離は、公知の方法にしたがって行うことができる。
【0044】
コンドロイチン硫酸Eは、免疫活性や抗感染性等の生理活性があることが知られている。
【0045】
また、本発明調製物により、医薬の素材となる新規生理活性糖鎖を創製できる可能性がある。
【0046】
【実施例】
以下に本発明を、実施例により具体的に説明する。しかしながら、これらにより本発明の技術的範囲が限定されるべきものではない。
【0047】
以下、GalNAc(4-SO4)の6位のヒドロキシル基に硫酸基を転移する活性を有する酵素を、「GalNAc4S-6ST」と略記することがある。
まず、実施例で使用した測定方法について説明する。
【0048】
(1) スルホトランスフェラーゼ活性の測定
スルホトランスフェラーゼ活性(GalNAc4S-6ST活性)は、既報(J. Biol. Chem., 246, 7357-7365 (1971); J. Biol. Chem., 268, 21968-21974 (1993))の方法にしたがって測定した。すなわち、標準反応混合物は、2.5μmol Tris-HCl, pH 8.0、1μmol CaCl2、1μmol 還元型グルタチオン、25 nmol(グルクロン酸として)コンドロイチン硫酸A(クジラ軟骨由来、4-SO4:6-SO4=74.2:22.9、生化学工業(株))、50 pmol [35S]PAPS(約5.0×105 cpm)及び酵素を最終容量50μlに含むものとした。反応混合物を25℃で20分間インキュベートし、試験管を沸騰水中に1分間浸すことにより反応を停止した。反応を停止した後、35S標識グリコサミノグリカンを、既報(J. Biol. Chem., 268, 21968-21974 (1993))の方法にしたがってエタノール沈殿及びファストデサルティングカラム(Fast Desalting Column; Amersham Pharmacia Biotechnology)によるゲルクロマトグラフィーにより単離し、放射活性を測定した。
【0049】
また、本発明調製物の特性評価においては、粗酵素に関して開発された上記の反応混合物は最適なものではないことが判明したため、2.5μmol イミダゾール-HCl, pH 6.8を2.5μmol Tris-HCl, pH 8.0の代わりに反応混合物に加えたものを標準反応混合物として用いた。
【0050】
酵素の1ユニット(U)は、1分当たり1 pmolの硫酸基の転移を触媒するのに必要な量と定義した。
【0051】
(2)ウロン酸の測定
Anal. Biochem., 4, 330-334(1962)に記載された方法により測定した。
【0052】
(3)タンパク質の測定
タンパク質はウシ血清アルブミンを標準として用いてブラッドフォード法により測定した(Anal. Biochem., 72, 248-254 (1976))。タンパク質アッセイ用試薬はBioRadのものを用いた。
【0053】
【実施例1】
GalNAc4S-6STの精製(本発明調製物の調製)
全ての操作は4℃で行った。
【0054】
(1) 粗抽出物の調製
イカ(Ommastrephes sloani pacificus)の頭を解剖して軟骨を取り出し、綿布で拭うことにより軟組織を取り除き、かみそりで薄片に切断した。480 gの薄片を、3倍量の、プロテアーゼインヒビター(5μM Nα-p-トシル-L-リジンクロロメチルケトン、3μM N-トシル-L-フェニルアラニンクロロメチルケトン、30μM フェニルメチルスルホニルフルオライド及び3μMペプスタチンA)を含む氷冷した抽出緩衝液(0.5 M NaCl、10 mM Tris-HCl, pH 7.2、20 mM MgCl2、2 mM CaCl2、10 mM 2-メルカプトエタノール、0.5% Triton X-100、及び20%グリセロール)に入れ、ポリトロンホモジナイザー(Kinematica社製)を用いスピード7の設定で30秒間5回処理することによりホモジナイズした。ホモジネートを、24時間ゆっくり攪拌した後、100,000×gで60分間遠心分離した。清澄な上清画分を粗抽出物とした。
【0055】
(2) プロタミン沈殿
粗抽出物は大量のプロテオグリカンを含んでいた。そこで、プロタミン硫酸によるプロテオグリカンの除去を試みた。上記(1)で得られた粗抽出物に、種々の量のプロタミン硫酸を加えた。生成した沈殿を10,000×g、10分間の遠心分離で除去し、上清画分のウロン酸含量(黒丸)及びスルホトランスフェラーゼ活性(白丸)を測定した(図1)。この結果、プロテオグリカンは、プロタミン硫酸との不溶性複合体として効率的に粗抽出物から除くことができることが判明した。プロタミン硫酸をウロン酸μmol当たり0.66 mgの最終濃度で粗抽出物に撹拌しながら添加した。生成した沈殿を100,000×gで30分間の遠心分離により除き、上清(清澄溶液)を得た。
【0056】
(3) ダイマトレックスゲルレッド(Dyematrex Gel Red)Aクロマトグラフィー
上記(2)で得られた清澄溶液を、0.5 M NaClを含む緩衝液A(10 mM Tris-HCl, pH 7.2、20 mM MgCl2、2 mM CaCl2、10 mM 2-メルカプトエタノール、0.1% Triton X-100、及び20%グリセロール)で平衡化したダイマトレックスゲル(Millipore Corp.)レッドAカラム(2.2×24.4 cm)にアプライした。カラムから、0.5 M NaClを含む緩衝液A 920 ml、1 M NaClを含む緩衝液A 920 ml及び2 M NaClを含む緩衝液Aにより段階的に溶出させた。スルホトランスフェラーゼ活性のほとんどは、1 M NaCl画分に溶出された。溶出液は各15 mlの画分に回収した。溶出プロフィールを図2に示す。図2中に横棒で示した、GalNAc4S-6ST活性を含む画分を集め、0.05 M NaClを含む緩衝液Aに対して透析した。
【0057】
(4) 第1のヘパリンセファロースCL-6Bクロマトグラフィー
上記(3)で得られた透析液を、0.05 M NaClを含む緩衝液Aで平衡化したヘパリンセファロースCL-6B(Amersham Pharmacia Biotechnology)カラム(2.2×26.5 cm)にアプライした。カラムを1000 mlの、0.05 M NaClを含む緩衝液Aで洗浄した。吸着物質を緩衝液A中0.05 M〜1 M NaClのリニアグラジエント(1 l)で溶出した。溶出液を各12 mlの画分に回収した。溶出プロフィールを図3に示す。図3中に横棒で示した、スルホトランスフェラーゼ活性を含む画分を集め、0.05 M NaClを含む緩衝液Aに対して透析した。
【0058】
(5) 第1の3',5'-ADP-アガロースクロマトグラフィー
上記(4)で得られた透析液を、0.05 M NaClを含む緩衝液B(10 mM Tris-HCl, pH 7.2、10 mM 2-メルカプトエタノール、0.1% Triton X-100、5%グリセロール)で平衡化した3',5'-ADP-アガロース(Sigma-Aldrich Japan)カラム(1.2×8.5 cm)にアプライした。カラムを0.05 M NaClを含む緩衝液Bで洗浄した。スルホトランスフェラーゼ活性を、緩衝液B中0.05 M〜5 M NaClのリニアグラジエント(150 ml)で溶出した。グラジエントによる溶出後、続いて5 M NaClを含む緩衝液B 150 mlで溶出した。溶出プロフィールを図4に示す。溶出液を各6 mlの画分に回収した。スルホトランスフェラーゼ活性を含む画分(図4中、横棒で示した)を集め、0.05 M NaClを含む緩衝液Bに対して透析した。
【0059】
(6) 第2の3',5'-ADP-アガロースクロマトグラフィー
上記(5)で得られた透析液を、0.05 M NaClを含む緩衝液Bで平衡化した3',5'-ADP-アガロースカラム(1.2×8.5 cm)にアプライした。溶出の条件は第1の3',5'-ADP-アガロースクロマトグラフィーと同じであった。スルホトランスフェラーゼ活性を含む画分を集め、0.05 M NaClを含む緩衝液Aに対して透析した。
【0060】
(7) 第2のヘパリンセファロースCL-6Bクロマトグラフィー
上記(6)で得られた透析液を、0.05 M NaClを含む緩衝液Aで平衡化したヘパリンセファロースCL-6Bカラム(0.9×1.4 cm)にアプライした。カラムを、0.05 M NaClを含む緩衝液A 10 mlで洗浄した。吸着したスルホトランスフェラーゼを、1.0 M NaClを含む緩衝液A 10 mlで溶出した。スルホトランスフェラーゼ活性を含む画分を集め、0.05 M NaClを含む緩衝液Aに対して透析した。このステップは酵素溶液の濃縮のために行った。精製した酵素は-20℃で保存した。
【0061】
以上のイカ軟骨からのスルホトランスフェラーゼの精製の結果を表1にまとめて示す。なお、見かけの酵素活性がプロタミン処理により著しく増加したので、各ステップの精製度は、プロタミン画分の値に対する各ステップの相対値として表した。また、第2のヘパリンセファロースCL-6B画分のタンパク質濃度は直接測定するには低すぎたので、既報(J. Biol. Chem., 268, 21968-21974 (1993))にしたがって試料を濃縮してから測定した。
【0062】
【表1】
【0063】
イカ軟骨の薄片は、ガラスホモジナイザーでホモジナイズするには硬すぎたので、ポリトロンホモジナイザーによるホモジナイゼーションが、スルホトランスフェラーゼの効率的な抽出に有効であった。抽出緩衝液に0.5 Mの塩化ナトリウムを加えることで、活性の収率は1.35倍になった。ホモジネートを100,000×gで遠心分離した後、清澄な上清溶液(粗抽出液)が得られたが、粗抽出液は大量のプロテオグリカンを含んでいた。プロテオグリカンは、不溶性のプロタミン−プロテオグリカン複合体として遠心分離により除去することができた。プロタミン沈殿の後、粗抽出液に存在したウロン酸含有物質のほとんどが除かれ、スルホトランスフェラーゼ活性が上昇した(表1、図1)。精製したGalNAc4S-6STは、後記実施例2に示されるようにイカ軟骨由来のCS-Eで強く阻害されたので、プロタミン沈殿後の活性の上昇は主にプロテオグリカンの除去によると考えられ、プロタミンの刺激効果によるものではないと考えられる。
【0064】
GalNAc4S-6STは、ダイマトレックスゲルレッドAアガロースクロマトグラフィーでは0.5 M NaClで溶出されず、1 M NaClで溶出されたので(図2)、プロタミン沈殿後の上清画分は、透析をせずにダイマトレックスゲルレッドAアガロースにアプライすることができた。グリコサミノグリカンスルホトランスフェラーゼの多くで観察されるように、GalNAc4S-6STもまたヘパリンセファロースCL-6Bに吸着され、このカラムから約0.75 M NaClで溶出された(図3)。ヘパリンセファロースCL-6Bからの溶出に必要なNaClの濃度は、同じカラムからコンドロイチン6-スルホトランスフェラーゼ(C6ST)及びコンドロイチン4-スルホトランスフェラーゼ(C4ST)が溶出される濃度に比べて高かった。図4は、3',5'-ADP-アガロースからのスルホトランスフェラーゼの溶出パターンを示す。溶出に必要な濃度は約5 Mであった。この濃度は、ヘパラン硫酸N-デアセチラーゼ/N-スルホトランスフェラーゼ(J. Biol. Chem., 270, 4172-4179 (1995))、グルコサミニル3-O-スルホトランスフェラーゼ(J. Biol. Chem., 271, 7645-7653 (1996))及びコンドロイチン4-スルホトランスフェラーゼの溶出に必要な濃度に比べて極めて高いものであった。GalNAc4S-6STの良好な精製は、3',5'-ADP-アガロースによる再クロマトグラフィーによって得られた。第2の3',5'-ADP-アガロース画分は、小さいヘパリンセファロースCL-6Bカラムを用いて濃縮され、精製GalNAc4S-6ST画分(本発明調製物)とした。
【0065】
各精製ステップの画分をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により分析した。すなわち、SDS中のポリアクリルアミドゲル電気泳動を、既報(Nature, 227, 680-685 (1970))に従い非還元条件下で10%ポリアクリルアミドゲルを用いて行った。タンパク質のバンドは銀染色により検出した。SDS-PAGE試料緩衝液からは2-メルカプトエタノールを除き、銀染色において偽結果が生じるのを避けた。結果を図5に示す。第2のヘパリンセファロース画分において63 kDa及び54 kDaの二つのオーバーラップするブロードなタンパク質バンドが主に染色された(図5、レーン6)。
【0066】
以上のように、GalNAc4S-6STは、プロタミン沈殿後の上清画分に対し比活性で約45,000倍に、見かけ上均一にまで精製された。
【0067】
【実施例2】
精製GalNAc4S-6ST(本発明調製物)の特性評価
(1)至適pH
標準反応混合物に含まれる0.05 Mイミダゾール-HClを、種々のpHの0.05 M緩衝液で置き換える他は、上述のスルホトランスフェラーゼ活性の測定法に従って活性を測定した。結果を図6のAに示す。至適pHは、約6.2であった。
【0068】
(2)種々の化合物の影響
標準反応混合物に種々の化合物を加える他は、上述のスルホトランスフェラーゼ活性の測定方法に従って活性を測定した。
【0069】
還元型グルタチオンは20 mMでGalNAc4S-6ST活性を1.3倍に刺激したが、ジチオスレイトールや2-メルカプトエタノールなどの他のスルフヒドリル化合物は同濃度ではGalNAc4S-6STに最小限の効果しか示さなかった。
【0070】
Mn2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Co2+などの種々の2価イオン(20 mM)により3〜4倍に活性が増加した。0.1 M NaCl、0.1 M KCl又は0.15 mg/mlプロタミンの存在下で約2倍の活性増加が認められた。
【0071】
(3)Kmの測定
スルホトランスフェラーゼ活性は、供与体基質として[35S]PAPS、受容体基質としてブタ皮由来のデルマタン硫酸またはクジラ軟骨由来のコンドロイチン硫酸A(4-SO4:6-SO4 = 74.2:22.9)の濃度を変える以外は、上述のスルホトランスフェラーゼ活性の測定法に従って活性を測定した。
【0072】
PAPSに対する見かけのKmは、5.0×10-7 Mであった(図6のB)。デルマタン硫酸に対するKm及びコンドロイチン硫酸Aに対するKmはそれぞれ1.3×10-7 M及び1.1×10-6 Mであった(図7)。
【0073】
(4)受容体基質特異性
精製GalNAc4S-6STを、種々の量のCaCl2の存在下で種々のグリコサミノグリカンと共にインキュベートした。グリコサミノグリカン(受容体)としては、クジラ軟骨由来コンドロイチン硫酸A(4-SO4:6-SO4 = 74.2:22.9)、サメ軟骨由来コンドロイチン硫酸C(4-SO4:6-SO4 = 26.9:55.1)、ヒト半月由来コンドロイチン硫酸C(4-SO4:6-SO4 = 13.4:81.0、愛知医科大学、羽渕 博士より恵与)、ブタ皮膚由来デルマタン硫酸、イカ皮膚由来コンドロイチン(Biochim. Biophys. Acta, 616, 208-217(1980)に記載の方法により調製)、ウシ角膜由来ケラタン硫酸、ウシ腎臓由来ヘパラン硫酸、CDSNS-ヘパリン、及び、イカ軟骨由来コンドロイチン硫酸E(J. Biol. Chem., 252, 4570-4576(1977)に記載の方法により調製(DEAE-セファデックスA-50から1.5 M NaClで溶出したもの))を使用した(入手方法を特に示さないグリコサミノグリカンは生化学工業(株)製)。すなわち、コンドロイチン硫酸Aの代わりに、25 nmol(コンドロイチン硫酸及びデルマタン硫酸についてはガラクトサミンとして、ヘパラン硫酸、CDSNS-ヘパリン及びケラタン硫酸についてはグルコサミンとして)のグリコサミノグリカンを用い、種々の量のCaCl2を加えた他は、上述のスルホトランスフェラーゼ活性の測定法に従って活性を測定した。
【0074】
結果を図8に示す。図8に示されるように、精製GalNAc4S-6STが硫酸基をコンドロイチン硫酸A(黒丸)、コンドロイチン硫酸C(白丸及び黒三角)及びデルマタン硫酸(白三角)に転移した。イカ皮膚コンドロイチン(白四角)に対しては低い活性が認められた。イカ軟骨コンドロイチン硫酸E、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸及びCDSNS-ヘパリンは受容体とならなかった。CaCl2の至適濃度は、コンドロイチン硫酸A及びコンドロイチン硫酸Cについては20 mMであったが、デルマタン硫酸については100 mMであった。
【0075】
二つのコンドロイチン硫酸を比較すると、サメ軟骨由来のもの(白丸)に対して、ヒト半月由来のもの(黒三角)に対してよりも高い活性を示した。GlcAβ1-3GalNAc(4-SO4)単位/GlcAβ1-3GalNAc(6-SO4)単位の比は、サメ軟骨由来のコンドロイチン硫酸Cが0.49、ヒト半月由来のコンドロイチン硫酸Cが0.17であった。GalNAc(4-SO4)/GalNAc(6-SO4)の比が低いほど、活性が低かった。コンドロイチン硫酸Aへの取り込みは、コンドロイチン硫酸Eにより顕著に阻害された。等量のコンドロイチン硫酸Eの存在下でコンドロイチン硫酸Aへの取り込みは、対照の35%まで低下した(図8の白菱形)。
【0076】
次に、受容体基質の拮抗について検討した。25 nmol コンドロイチン硫酸Aを、図9のグラフの下に示した種々の量のコンドロイチン硫酸A(CSA)及びデルマタン硫酸(DS)で置き換える他は、上述のスルホトランスフェラーゼ活性の測定法に従って活性を測定した。35S標識グリコサミノグリカンを、コンドロイチナーゼACIIまたはコンドロイチナーゼABC(共に生化学工業(株)製)で消化した後、1.3%酢酸カリウムを含むエタノールを3倍容加え、混合物を遠心分離した。コンドロイチナーゼ消化後にエタノールに可溶になった35S放射活性を測定した。図9のAは、CSAへの35SO4の取り込みを、コンドロイチナーゼACII消化後にエタノール可溶性画分に含まれる放射活性から算出した結果を示す。B及びCは、DSへの35SO4の取り込みを、コンドロイチナーゼABC消化後のエタノール可溶性画分に含まれる放射活性からコンドロイチナーゼACII消化後のエタノール可溶性画分に含まれる放射活性を差し引くことにより算出した結果を示す。この結果、精製GalNAc4S-6STによるコンドロイチン硫酸Aの硫酸化は、デルマタン硫酸により阻害され、逆の阻害も同様に認められた。このことは、コンドロイチン硫酸A及びデルマタン硫酸の両方の硫酸化は同一酵素すなわち少なくとも同一触媒部位により触媒されることを示唆する。
【0077】
(5)硫酸化位置の検討
コンドロイチン硫酸A(CS-A)及びデルマタン硫酸(DS)に転移される硫酸基の位置を決定するために、スルホトランスフェラーゼ反応により生成した35S標識グリコサミノグリカンをコンドロイチナーゼACII又はコンドロイチナーゼABCで消化し(必要により、さらにコンドロ-6-スルファターゼ(生化学工業(株)製)で消化し)、消化生成物をスーパーデックス30ゲル(Amersham Pharmacia Biotechnology)クロマトグラフィー及びパーチシル(Partisil)-10 SAX(Whatman) HPLCを用いて分析した。
【0078】
スルホトランスフェラーゼ反応は、DSを受容体として用いたときにCaCl2を100 mMの最終濃度に加えることを除いて、25 nmol(ガラクサミンとして)CS-A又はDSを用いて、上述のスルホトランスフェラーゼ活性の測定法にしたがって行った。
【0079】
コンドロイチナーゼACII又はコンドロイチナーゼABCによる消化は、35S標識グリコサミノグリカン、1.25μmol Tris-酢酸緩衝液, pH 7.5、2.5μg ウシ血清アルブミン、及び50 mUコンドロイチナーゼACII又はコンドロイチナーゼABCを最終容量25μlに含む反応混合物で37℃で4時間行った。コンドロイチナーゼACII又はコンドロイチナーゼABCとの反応が終了後、反応混合物を沸騰水浴中に1分間浸した。さらにコンドロ-6-スルファターゼによる消化を行う場合には、反応混合物にコンドロ-6-スルファターゼ(75 mU)を加え、37℃でのインキュベーションを、ΔDi-diSEの分解のためには30分間続けた。また、GalNAcの分解(延長分解)のためには5時間続けた。なお、HPLC分析用の試料には、35S標識グリコサミノグリカンに10 nmol ΔDi-diSE(延長分解においてはさらに30 nmol GalNAc(4,6-bisSO4))を加えてから消化を行った。
【0080】
スーパーデックス30ゲルクロマトグラフィーは以下のように行った。スーパーデックス30 16/16カラムを0.2 M NH4HCO3で平衡化した。流速は1 ml/分とした。溶出液を各1 mlの画分に回収した。パーチシル-10 SAX HPLCは、10 mM KH2PO4で平衡化したPartisil 10-SAXカラム(4.6 mm×25 cm)を用いて行った。カラムを、10 mM KH2PO4で10分間、次いで、10〜450 mM KH2PO4のリニアグラジエントで展開した。流速は1 ml/分、カラム温度は40℃であった。溶出液を各0.5 mlの画分に回収した。
【0081】
なお、ここで用いる二糖の略号は以下の通りである。ΔDi-0S:2-アセトアミド-2-デオキシ-3-O-(β-D-グルコ-4-エンピラノシルウロン酸)-D-ガラクトース、ΔDi-6S:2-アセトアミド-2-デオキシ-3-O-(β-D-グルコ-4-エンピラノシルウロン酸)-6-O-スルホ-D-ガラクトース、ΔDi-4S:2-アセトアミド-2-デオキシ-3-O-(β-D-グルコ-4-エンピラノシルウロン酸)-4-O-スルホ-D-ガラクトース、ΔDi-diSD:2-アセトアミド-2-デオキシ-3-O-(2-O-スルホ-β-D-グルコ-4-エンピラノシルウロン酸)-6-O-スルホ-D-ガラクトース、ΔDi-diSE:2-アセトアミド-2-デオキシ-3-O-(β-D-グルコ-4-エンピラノシルウロン酸)-4,6-ビス-O-スルホ-D-ガラクトース。
【0082】
コンドロイチナーゼACII又はコンドロイチナーゼABC消化物のスーパーデックス30ゲルクロマトグラフィーによる分析の結果を図10に示す。
【0083】
また、コンドロイチナーゼACII又はコンドロイチナーゼACII+コンドロ-6-スルファターゼでの消化により、35S標識CS-Aから得られた消化生成物のHPLC分離の結果を図11に示し、コンドロイチナーゼABC又はコンドロイチナーゼABC+コンドロ-6-スルファターゼでの消化により、35S標識DSから得られた消化生成物のHPLC分離の結果を図12に示す。さらに、コンドロ-6-スルファターゼによる消化の延長により、35S標識グリコサミノグリカンから得られる消化生成物のHPLC分離の結果を図13に示す。
【0084】
35S標識CS-AがコンドロイチナーゼACIIで消化された場合、主要な放射活性は、ΔDi-diSEの位置に検出された(図10のB及び図11のC)。一方、35S標識DSはコンドロイチナーゼACII消化ではほとんど分解されなかった(図10のD)。35S標識DSをコンドロイチナーゼABCで消化した場合、主要な放射活性は、コンドロイチナーゼACII消化CS-Aで観察されたのと同様に、ΔDi-diSEの位置に検出された(図10のE及び図12のC)。ΔDi-diSEの硫酸基が35S放射活性を有しているか確認するために、コンドロイチナーゼACII又はコンドロイチナーゼABC消化で得られた分解生成物をさらにコンドロ-6-スルファターゼで分解し、SAX HPLCに付した(図11のB,D及び図12のB,D)。コンドロ-6-スルファターゼでの分解後、外部付加したΔDi-diSEのUV吸収(図11のB及び図12のB)及び放射活性(図11のD及び図12のD)は消失し、UV吸収及び放射活性はそれぞれΔDi-4S及び無機硫酸の位置にシフトした。これらの結果は、35SO4が、CS-Aの内部GlcAβ1-3GalNAc(4-SO4)単位に含まれるGalNAc(4-SO4)残基又はDSの内部IdoAα1-3GalNAc(4-SO4)単位に含まれるGalNAc(4-SO4)残基の6位に転移されたことを明確に示す。35S標識CS-AがコンドロイチナーゼACIIで消化された場合及び35S標識DSがコンドロイチナーゼABCで消化された場合には、少量の放射活性がGalNAc(4,6-bisSO4)の位置に検出された(図11のC及び図12のC)。GalNAc(4,6-bisSO4)の位置に検出された放射活性は、コンドロ-6-スルファターゼ消化の後も消失しなかった(図11のD及び図12のD)。GalNAc(4,6-bisSO4)は、ΔDi-diSEが完全に分解されたときに、コンドロ-6-スルファターゼで部分的に分解されるのみであることが判明した。しかし、コンドロ-6-スルファターゼとのインキュベーションを延長すると、95%超のGalNAc(4,6-bisSO4)がGalNAc(4-SO4)に分解された(図13のB)。この条件では、GalNAc(4,6-bisSO4)の位置に認められた放射活性は消失した(図13のC及びD)。これらの結果は、精製GalNAc4S-6Sが、コンドロイチン硫酸及びDSの内部及び非還元末端のGalNAc(4-SO4)残基の両方の6位に硫酸基を転移できたことを示す。
【0085】
イカ皮膚コンドロイチンは精製GalNAc4S-6STにより弱く硫酸化された。イカ皮膚コンドロイチンはGlcAβ1-3GalNAc単位から主に成り、4-硫酸化二糖単位の含量は、全繰り返し二糖単位の0.2%以下である(データは示していない)ため、イカコンドロイチンに転移された硫酸基はGalNAc残基の6位に位置すると予測された。しかし、25 nmol(ガラクトサミンとして)イカ皮膚コンドロイチンを用いて、上述のスルホトランスフェラーゼ活性の測定法に従ってスルホトランスフェラーゼ反応を行い、得られた35S標識コンドロイチンを、コンドロイチンACIIでの消化後、SAX-HPLCに付すと、35S放射活性はGalNAc(4,6-bisSO4)及びΔDi-diSEに検出され、ΔDi-6Sには放射活性が検出されなかった(図14)。これらの結果は、GalNAc4S-6STの活性にはGalNAc(4-SO4)が絶対的に必須であることを示す。
【0086】
【発明の効果】
本発明により、硫酸基供与体から、グリコサミノグリカンのN−アセチルガラクトサミン4−硫酸残基の6位のヒドロキシル基に、特異的に硫酸基を転移する作用などの硫酸化特性が確立され、また十分に高い比活性を有する程度にまで精製された硫酸基転移酵素調製物が提供される。本硫酸基転移酵素調製物は、所望の硫酸化の態様を有する多糖の製造に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 イカ軟骨由来の粗抽出物に加えたプロタミン硫酸の量と、プロタミン硫酸を加えた粗抽出物を遠心分離して得た上清画分中のスルホトランスフェラーゼ活性(白丸)およびグルクロン酸量(黒丸)との関係を示す。
【図2】 ダイマトレックスゲルレッドAカラムクロマトグラフィーの溶出プロフィールを示す。黒丸はスルホトランスフェラーゼ活性を、白丸はタンパク質濃度を、矢印は、示した濃度のNaClを含む緩衝液による溶出の開始位置を示す。
【図3】 第1のヘパリンセファロースCL-6Bカラムクロマトグラフィーの溶出プロフィールを示す。黒丸はスルホトランスフェラーゼ活性を、白丸はタンパク質濃度を、破線はNaClの濃度を示す。
【図4】 第1の3',5'-ADP-アガロースカラムクロマトグラフィーの溶出プロフィールを示す。黒丸は、スルホトランスフェラーゼ活性を、白丸はタンパク質濃度を、破線はNaClの濃度を示す。
【図5】 SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製ステップの各画分を分析した結果(電気泳動写真)を示す。レーン1、粗抽出物。レーン2、プロタミン沈殿後の上清画分。レーン3、ダイマトレックスゲルレッドA画分。レーン4、第1のヘパリンセファロースCL-4B画分。レーン5、第1の3',5'-ADP-アガロース画分。レーン6、第2のヘパリンセファロースCL-4B画分。分子量標準は、ミオシン(205 kDa)、β−ガラクトシダーゼ(116 kDa)、ホスホリラーゼb(97.4 kDa)、ウシ血清アルブミン(66 kDa)、卵アルブミン(45 kDa)及びカルボニックアンヒドラーゼ(29 kDa)であった。
【図6】 スルホトランスフェラーゼ活性に対するpHの影響(A)及びPAPSに対するKm(B)の測定結果を示す。Aにおいて、黒四角は酢酸ナトリウム、白四角はMES-NaOH、黒丸はイミダゾール-HCl、白丸はTris-HClの緩衝液を示す。Bにおいて、両逆数プロットの縦軸の値は、1/(pmol/min/μgタンパク質)を示す。
【図7】 スルホトランスフェラーゼ活性に対するコンドロイチン硫酸A及びデルマタン硫酸の濃度の影響を示す。
【図8】 スルホトランスフェラーゼによる[35S]PAPSから種々のグリコサミノグリカンへの35SO4の取り込みを示す。受容体としては、コンドロイチン硫酸A(黒丸)、サメ軟骨由来コンドロイチン硫酸C(白丸)、ヒト半月由来コンドロイチン硫酸C(黒三角)、デルマタン硫酸(白三角)、及び、イカ皮膚由来コンドロイチン(白四角)を使用した。白菱形は、25 nmol(ガラクトサミンとして)コンドロイチン硫酸E存在下でのコンドロイチン硫酸Aへの取り込みを示す。
【図9】 デルマタン硫酸(DS)によるコンドロイチン硫酸A(CSA)の硫酸化の阻害及びCSAによるDSの硫酸化の阻害を示す。グラフの下の値は、反応混合液中のCSA及びDSの量を示す。Aは、CSAへの35SO4の取り込みを示す。B及びCは、DSへの35SO4の取り込みを示す。
【図10】 [35S]PAPS及び精製GlcNAc4S-6STとのインキュベーションによりコンドロイチン硫酸A又はデルマタン硫酸から誘導された35S標識生成物のコンドロイチナーゼACII又はコンドロイチナーゼABC消化物のスーパーデックス30カラムクロマトグラフィーの溶出プロフィールを示す。Aは、35S標識コンドロイチン硫酸Aのコンドロイチナーゼ消化前のもの、Bは、35S標識コンドロイチン硫酸AのコンドロイチナーゼACII消化生成物、Cは、35S標識デルマタン硫酸のコンドロイチナーゼ消化前のもの、Dは、35S標識デルマタン硫酸のコンドロイチナーゼACII消化生成物、Eは、コンドロイチナーゼABC消化生成物の分析結果を示す。矢印は、Vo、ブルーデキストラン、ΔDi-diSE(1)及びGalNAc(4,6-bisSO4)(2)の位置を示す。
【図11】 コンドロイチナーゼACII又はコンドロイチナーゼACII+コンドロ-6-スルファターゼでの消化により、35S標識コンドロイチン硫酸Aから得られた消化生成物のHPLC分離の結果を示す。A及びCはコンドロイチナーゼACII消化後、B及びDはコンドロイチナーゼACII+コンドロ-6-スルファターゼ消化後である。A及びBは232 nmの吸光度、C及びDは35S放射活性を示す。矢印は、1:ΔDi-0S、2: GalNAc(6-SO4)、3: GalNAc(4-SO4)、4:ΔDi-6S、5:ΔDi-4S、6: GalNAc(4,6-bisSO4)、7: SO4 2-、8:ΔDi-diSD及び9:ΔDi-diSEの溶出位置を示す。
【図12】 コンドロイチナーゼABC又はコンドロイチナーゼABC+コンドロ-6-スルファターゼでの消化により、35S標識デルマタン硫酸から得られた消化生成物のHPLC分離の結果を示す。A及びCは、コンドロイチナーゼABC消化後、B及びDは、コンドロイチナーゼABC+コンドロ-6-スルファターゼ消化後である。A及びBは232 nmの吸光度、C及びDは、35S放射活性を示す。矢印で示す標準物質の溶出位置は図11と同じである。
【図13】 コンドロ-6-スルファターゼによる消化の延長により、35S標識グリコサミノグリカンから得られる消化生成物のHPLC分離の結果を示す。A及びBは、標準ΔDi-diSE及びGalNAc(4,6-bisSO4)の、コンドロ-6-スルファターゼによる5時間の消化(コンドロ-6-スルファターゼ延長消化)の前及び後の溶出プロフィールを210 nmの吸光度でモニターしたものである。Cは、35S標識コンドロイチン硫酸AのコンドロイチナーゼACII消化物のコンドロ-6-スルファターゼ延長消化物、Dは35S標識デルマタン硫酸のコンドロイチナーゼABC消化物のコンドロ-6-スルファターゼ延長消化物の結果を示す。矢印で示す標準物質の溶出位置は図11と同じである。
【図14】 コンドロイチナーゼACIIでの消化により35S標識イカ皮膚コンドロイチンから得られた消化生成物のHPLC分離の結果を示す。矢印で示す標準物質の溶出位置は図11と同じである。
Claims (5)
- 下記理化学的性質を有し、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動において実質的に均一なバンドを示す、イカ軟骨由来の硫酸基転移酵素調製物。
(1)作用:硫酸基供与体から、グリコサミノグリカンのN−アセチルガラクトサミン4−硫酸残基の6位のヒドロキシル基に、特異的に硫酸基を転移する。
(2)基質特異性:クジラ軟骨由来のコンドロイチン硫酸A、サメ軟骨由来のコンドロイチン硫酸C、ブタ皮由来のデルマタン硫酸には硫酸基を転移する。イカ軟骨由来のコンドロイチン硫酸E、ウシ角膜由来のケラタン硫酸、ウシ腎臓由来のヘパラン硫酸、CDSNS−ヘパリンには硫酸基を実質的に転移しない。
(3)活性化:20mMのMn2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+またはCo2+の存在下で活性が増加する。0.1MのNaCl、0.1MのKClまたは0.15mg/mlのプロタミンの存在下で活性が増加する。
(4)阻害:コンドロイチン硫酸Eによって、コンドロイチン硫酸Aへの硫酸基の転移が阻害される。デルマタン硫酸によって、コンドロイチン硫酸Aへの硫酸基の転移が阻害される。コンドロイチン硫酸Aによって、デルマタン硫酸への硫酸基の転移が阻害される。(5)分子量:約63kD、約54kD(SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動;非還元条件下)
(6)至適pH:6.2 - さらに下記の理化学的性質を有する、請求項1に記載の硫酸基転移酵素調製物。
(7)至適Ca2+濃度:20mM(コンドロイチン硫酸Aが基質の場合)。100mM(デルマタン硫酸が基質の場合)。
(8)Km値:5×10-7 M(3'−ホスホアデノシン5'−ホスホ硫酸)
1.3×10-7 M(ブタ皮由来のデルマタン硫酸)
1.1×10-6 M(クジラ軟骨由来のコンドロイチン硫酸A) - 下記の工程を少なくとも含む、請求項1又は2に記載の硫酸基転移酵素調製物の製造方法。
(工程1)請求項1又は2に記載の硫酸基転移酵素調製物に含まれる硫酸基転移酵素を含有するイカ軟骨から、抽出物を取得する工程。
(工程2)抽出物とプロタミンとを接触させ、沈殿物を生成させる工程。
(工程3)工程2により生成した沈殿物を除去する工程。 - 前記工程3の後に実施される、ヘパリンをリガンドとするアフィニティークロマトグラフィー工程及びアデノシン3',5'-二リン酸をリガンドとするアフィニティークロマトグラフィー工程をさらに含む請求項3に記載の製造方法。
- コンドロイチン硫酸Aに請求項1又は2に記載の硫酸基転移酵素調製物を作用させ、生成したコンドロイチン硫酸Eを単離することを含む、コンドロイチン硫酸Eの製造方法。
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