JP3766487B2 - ケラタン硫酸6−スルホトランスフェラーゼ及びそれをコードするdna - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、グリコサミノグリカンスルホトランスフェラーゼ(グリコサミノグリカン硫酸基転移酵素)のポリペプチド、及びそれをコードするDNAに関するものである。より詳しくは、ケラタン硫酸を硫酸化するが、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C、デルマタン硫酸およびCDSNS−ヘパリンを実質的に硫酸化しない、ヒト由来の6−スルホトランスフェラーゼのポリペプチド及びそれをコードするDNAに関するものである。また、本発明は、該ポリペプチドの製造方法及び6−スルホトランスフェラーゼのポリペプチドの使用方法にも関する。
【0002】
【従来の技術】
ケラタン硫酸は、ガラクトース残基(Gal)とN−アセチルグルコサミン残基(GlcNAc)の6位の一部に硫酸基の置換がある、(3Galβ1→4GlcNAcβ1→)の繰り返し構造を有する、グリコサミノグリカンの一種である。
【0003】
グリコサミノグリカンのスルホトランスフェラーゼ遺伝子がクローニングされれば、受容体の基質特異性についての情報が得られ、グリコサミノグリカンの構造-機能関係の研究に有用なアプローチを提供すると思われる。グリコサミノグリカンの合成には、さまざまなグリコサミノグリカンスルホトランスフェラーゼが関与しているようである。しかしながら、スルホトランスフェラーゼのcDNAのクローニングは困難なものであり、ラットの肝臓、ヘパリン産生細胞系(cell line)、及びマウスの肥満細胞腫からのN-スルホトランスフェラーゼ/N-デアセチラーゼのcDNAがクローニングされているのみである。
【0004】
本発明者らは、既に3'-ホスホアデノシン5'-ホスホ硫酸からコンドロイチン等のグリコサミノグリカンのN-アセチルガラクトサミン残基の6位に硫酸基を転移するコンドロイチン6−スルホトランスフェラーゼ(以下「C6ST」と略記することもある)を、無血清培地で培養したニワトリの軟骨細胞の培養上清から見かけ上均一に精製した(Habuchi, O., Matsui, Y., Kotoya, Y., Aoyama, Y., Yasuda, Y., and Noda, M. (1993) J. Biol. Chem. 268, 21968-21974)。更に、その部分アミノ酸配列よりオリゴヌクレオチドプライマーを作成し、ニワトリのcDNAをクローニングし、そのDNAから得られたポリペプチドがC6ST活性を発現することも証明した。また、該酵素が、ケラタン硫酸のガラクトース残基の6位にも硫酸基を転移する活性も有することを見い出した(Fukuta, M., Uchimura. K.,Nakashima, K., Kato, M., Kimata, K., Shinomura, T., and Habuchi, O. (1995) J. Biol. Chem. 270, 18575-18580)。
【0005】
しかし、コンドロイチンとケラタン硫酸のうちケラタン硫酸のみを硫酸化する、すなわち、ケラタン硫酸に特異的なスルホトランスフェラーゼ、特に、医薬品への応用が期待できるヒト由来のスルホトランスフェラーゼのポリペプチドをコードするDNAについては、いまだ知られていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ケラタン硫酸に特異的に硫酸基を転移する酵素は、ケラタン硫酸の機能解析の研究に重要であり、特にヒト由来の酵素は、ヒトに好ましい生理活性を有する医薬品の創造を目的としたケラタン硫酸を提供するためにも非常に重要である。さらに、ヒト由来のケラタン硫酸6−スルホトランスフェラーゼのポリペプチドやそれをコードするDNAが得られれば、ケラタン硫酸のガラクトース残基の6位低硫酸化(本明細書中で、「低硫酸化」とは硫酸化度が低いことを意味する)等に起因するヒトの疾患に対する、遺伝子治療を含む医薬あるいは診断薬としての利用が期待される。
【0007】
またケラタン硫酸に特異的に硫酸基を転移する酵素は、リンパ球のホーミング、炎症初期に起こる白血球のローリングに関与しているL-セレクチンのリガンドの一つと考えられているGlyCAM-1(highly glycosylated cell adhesion molecule-1、glycosylation-dependent cell adhesion molecule-1;抗炎症剤としての利用が期待される)や硫酸化ラクトサミンオリゴ糖の合成への利用が期待される。またこの酵素をコードするDNAは、当該酵素の大量生産への利用や、遺伝子導入による生体内でのGlyCAM-1の合成等への利用が期待される。
【0008】
すなわち本発明が解決しようとする課題は、ケラタン硫酸に特異的なグリコサミノグリカンスルホトランスフェラーゼのポリペプチド及びその部分ポリペプチド、並びに該ポリペプチドをコードするDNAを提供することである。また、該ポリペプチドの製造法及び該グリコサミノグリカンスルホトランスフェラーゼの使用方法を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ニワトリ由来のコンドロイチン6−スルホトランスフェラーゼをコードするcDNAをクローニングし、該cDNAに由来する断片を用いて、ヒトのcDNAライブラリーよりケラタン硫酸のガラクトース残基の6位を硫酸化するがコンドロイチンを実質的に硫酸化しないグリコサミノグリカン6−スルホトランスフェラーゼ(以下、「KSGal6ST」ともいう)をコードするcDNAのクローニングに成功し、ヒト由来のKSGal6STのポリペプチド及びその部分ポリペプチド(以下、まとめて「本発明ポリペプチド」ともいう)、並びにヒト由来のKSGal6STの少なくとも一部をコードするDNA(以下、「本発明DNA」ともいう)を提供するに至った。
【0010】
すなわち、本発明ポリペプチドは、下記の理化学的性質を有する、ケラタン硫酸6−スルホトランスフェラーゼのポリペプチドを含む。
▲1▼作用:
硫酸基供与体から、ケラタン硫酸のガラクトース残基の6位に硫酸基を転移する。
▲2▼基質特異性:
コンドロイチン、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C、デルマタン硫酸およびCDSNS−ヘパリンには硫酸基を実質的に転移しない。
▲3▼至適pH:
6.2〜6.5
▲4▼活性化:
Mn2+またはCa2+により活性が上昇する。
▲5▼硫酸基供与体のKm値:
約2×10-7M(3’−ホスホアデノシン5’−ホスホ硫酸)
【0011】
また、本発明ポリペプチドは、配列番号2に示すアミノ酸配列の少なくとも一部を有し、そのアミノ酸配列に、ケラタン硫酸を硫酸化する6−スルホトランスフェラーゼ活性を実質的に害さない1以上のアミノ酸の欠失、置換または付加を有していてもよい、ケラタン硫酸のガラクトース残基の6位を選択的に硫酸化する6−スルホトランスフェラーゼのポリペプチドを含む。好ましくは、配列番号2に示すアミノ酸配列の少なくとも一部を有する、ケラタン硫酸のガラクトース残基の6位を選択的に硫酸化する6−スルホトランスフェラーゼのポリペプチドである。さらに好ましくは、配列番号2においてアミノ酸番号1〜411で表されるアミノ酸配列の少なくとも一部を有するポリペプチドである。
【0012】
さらに、本発明ポリペプチドは、上記のポリペプチドの一部分を含むポリペプチドを含む。
また、本発明ポリペプチドは、他のポリペプチドと融合ポリペプチドとなっていてもよい。
【0013】
本発明DNAは、上記ポリペプチドの少なくとも一部をコードするDNAである。好ましくは、配列番号2においてアミノ酸番号1〜411で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有し、さらに好ましくは、配列番号1に示す塩基配列において塩基番号1〜1233で表される塩基配列の少なくとも一部またはすべてを有する。
【0014】
また、本発明は、本発明DNAを保持する細胞を、好適な培地で培養し、前記DNAがコードするポリペプチドを培地中に生成蓄積させ、その培養物から前記ポリペプチドを採取することを含む、本発明ポリペプチドの製造方法及び上記6−スルホトランスフェラーゼのポリペプチドをケラタン硫酸に作用させることを特徴とする硫酸化多糖の製造方法を包含する。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を、本発明ポリペプチド、本発明ポリペプチドの製造方法、本発明DNA、及び、硫酸化多糖の製造方法の順に詳細に説明する。
<1>本発明ポリペプチド
本発明ポリペプチドは、下記の理化学的性質を有する、ケラタン硫酸6−スルホトランスフェラーゼのポリペプチドを含む。
▲1▼作用:
硫酸基供与体から、ケラタン硫酸のガラクトース残基の6位に硫酸基を転移する。
▲2▼基質特異性:
コンドロイチン、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C、デルマタン硫酸およびCDSNS−ヘパリンには硫酸基を実質的に転移しない。なお、CDSNS−ヘパリンとは、完全脱硫酸化した後にN-硫酸化したヘパリン(Completely Desulfated, N-Sulfated Heparin)を意味する。
▲3▼至適pH:
6.2〜6.5
▲4▼活性化:
Mn2+またはCa2+により活性が上昇する。
▲5▼硫酸基供与体のKm値:
約2×10-7M(3’−ホスホアデノシン5’−ホスホ硫酸)
【0016】
なお、上記硫酸基供与体としては3’−ホスホアデノシン5’−ホスホ硫酸が好ましい。
また、本発明ポリペプチドは、配列番号2に示すアミノ酸配列の少なくとも一部を有し、そのアミノ酸配列に、ケラタン硫酸を硫酸化する6−スルホトランスフェラーゼ活性を実質的に害さない1以上のアミノ酸の欠失、置換または付加を有していてもよい、ケラタン硫酸のガラクトース残基の6位を選択的に硫酸化する6−スルホトランスフェラーゼのポリペプチドである。
【0017】
すなわち、下記(a)または(b)のアミノ酸配列の少なくとも一部を有する、ケラタン硫酸を硫酸化する6−スルホトランスフェラーゼのポリペプチドである。
(a)配列番号2に示すアミノ酸配列
(b)1以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された(a)のアミノ酸配列であって、その欠失、置換若しくは付加がケラタン硫酸を硫酸化する6−スルホトランスフェラーゼ活性を実質的に害さないアミノ酸配列
【0018】
このようなアミノ酸残基の置換、欠失または付加は、配列番号2に示すアミノ酸配列の少なくとも一部をコードするDNAに1つ又は2以上のアミノ酸残基の置換、欠失又は付加を起こすようなヌクレオチドの置換、欠失又は付加を導入して得られるDNAを発現させることによって得ることができる。DNA配列へのヌクレオチドの置換、欠失又は付加は、両末端に制限酵素切断末端を持ち、変異点の両側を含む配列を合成し、未変異DNA配列の相当する部分と入れ換える事により、導入することができる。また、部位特異的変異法(Kramer,W. and Frits,H.J.,Meth. in Enzymol.,154,350 (1987); Kunkel,T.A. et al.,Meth. in Enzymol.,154,367(1987))などの方法によっても、DNA配列に置換、付加又は欠失を導入することができる。ケラタン硫酸を選択的に硫酸化する活性、すなわち、硫酸基供与体から硫酸基をケラタン硫酸のガラクトース残基の6位に選択的に転移する活性は、例えば、後記の酵素活性測定法によって測定することができ、当業者は活性を実質的に害さない1つ以上のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を容易に識別することができる。
【0019】
本発明ポリペプチドは、好ましくは、アミノ酸残基の置換、欠失または付加を含まない、配列番号2に示すアミノ酸配列の少なくとも一部を有するKSGal6STのポリペプチドである。さらに好ましくは、配列番号2示すアミノ酸配列においてアミノ酸番号1〜411で表されるアミノ酸配列の少なくとも一部を有するポリペプチドである。
【0020】
本明細書において、「アミノ酸配列の少なくとも一部を有する」とは、ケラタン硫酸のみを硫酸化するスルホトランスフェラーゼ活性を有する必要かつ最小のポリペプチドのアミノ酸配列を有することを意味するものである。
【0021】
さらにまた、本発明ポリペプチドは、上記のポリペプチドの一部分を含むポリペプチドを含む。ここで、「一部分」とは、好ましくは、スルホトランスフェラーゼ活性を有する、抗原性を有する等の何らかの活性ないし機能を有する部分を意味する。このような部分を識別することは当業者であれば容易である。
【0022】
なお、本発明ポリペプチドは必ずしも単独のポリペプチドでなくてもよく、必要により、融合ポリペプチドの一部となっていてもよい。例えば、本発明ポリペプチドと、発現に必要な他のポリペプチドを含む融合ポリペプチドや、本発明ポリペプチドと、グルタチオン・S・トランスフェラーゼを含む融合ポリペプチドや、本発明ポリペプチドと、ビオチン化を受けるペプチドを含む融合ポリペプチド等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
<2>本発明ポリペプチドの製造方法
上記の本発明ポリペプチドは、後記の本発明DNAを用いて得ることができる。すなわち、本発明DNAを保持する細胞を、好適な培地で培養し、本発明DNAがコードする本発明ポリペプチドを培養物中に生成蓄積させ、その培養物から本発明ポリペプチドを採取することによって、本発明ポリペプチドを製造することができる。
【0024】
本発明DNAを保持する細胞は、公知の発現ベクターに本発明DNAの断片を挿入して組換えプラスミドを構築し、この組換えプラスミドを用いて形質転換を行うことによって得ることができる。細胞としては大腸菌等の原核細胞や、哺乳類細胞等の真核細胞が例示される。
【0025】
本製造方法においては、タンパク質の製造に通常用いられる宿主−ベクター系を使用することができ、例えば、COS−7細胞等の哺乳類細胞とpCXN2(Niwa, H., Yamamura, K. and Miyazaki, J. (1991) Gene 108, 193-200)等のほ乳類細胞用発現ベクターの組み合わせを採用することが好ましい。培地や培養条件は、用いる宿主すなわち細胞に合わせて適宜選択される。
【0026】
本発明DNAは直接発現させてもよいし、他のポリペプチドとの融合ポリペプチドとして発現させてもよい。また、本発明DNAは全長を発現させてもよいし、一部を部分ペプチドとして発現させてもよい。
【0027】
培養物からの本発明ポリペプチドの採取は、公知のポリペプチドの精製方法によって行うことができる。なお培養物には、培地および当該培地中の細胞が包含される。
【0028】
上記のようにして製造されたKSGal6STのポリペプチドもしくはその部分ポリペプチドまたはこれらと他のポリペプチドとの融合ポリペプチドを用いて、KSGal6STに結合する抗体を調製することができる。抗体の調製は、通常の抗体の調製と同様にして行えばよい。また、常法によってKSGal6STに結合するモノクローナル抗体を調製することもできる。
【0029】
<3>本発明DNA
本発明DNAは、本発明により初めて単離されたヒト由来のDNAであり、上記のケラタン硫酸6−スルホトランスフェラーゼ(KSGal6ST)のポリペプチドの少なくとも一部をコードしている。
【0030】
本発明DNAの塩基配列は、KSGal6STのポリペプチドの少なくとも一部をコードしていれば、その塩基配列は特に限定されない。
そして、本発明DNAがコードするヒト由来のKSGal6STのポリペプチドは、ケラタン硫酸のみを硫酸化する活性を実質的に害さないアミノ酸残基の置換、欠失、付加を有するものであってもよい。
【0031】
本発明のDNAとして具体的には、配列番号2においてアミノ酸番号1〜411で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAが挙げられ、かつ好ましい。また本発明DNAとしてより具体的には、配列番号1に示される塩基配列の少なくとも一部またはすべてを有するDNAが挙げられ、かつ特に好ましい。このようなDNAとして具体的には、配列番号1に示す塩基配列における1〜1233位の塩基配列を有するDNAが挙げられる。
【0032】
なお、遺伝暗号の縮重による異なった塩基配列のDNAも本発明のDNAに包含されることは、当業者であれば容易に理解されるところである。これらのDNAのいずれもが本発明DNAに包含される。
【0033】
さらに、染色体由来のKSGal6ST遺伝子は、コード領域にイントロンを含むことが予想されるが、そのようなイントロンで分断されているDNA断片であっても、KSGal6STのポリペプチドの少なくとも一部をコードする限り、本発明のDNA断片に含まれる。すなわち、本明細書において「コードする」とは、転写時にプロッセッシング等を受けて最終的に目的のポリペプチドを生じ得る塩基配列を有することも包含する。
【0034】
また、本明細書において「ポリペプチドの少なくとも一部をコードする」とは、好ましくは、KSGal6ST活性を有する、抗原性を有する等の何らかの活性ないし機能を有する部分、あるいは、その部分に相当する塩基配列がそのKSGal6STに特異的であってプライマーやプローブとして使用できる部分をコードすることを意味する。
【0035】
なお、本発明には、本発明DNAに相補的なDNAまたはRNAが包含される。さらに本発明のDNAは、KSGal6STをコードするコード鎖のみの一本鎖であってもよいし、この一本鎖及びこれと相補的な配列を有するDNA鎖またはRNA鎖とからなる二本鎖であってもよい。
【0036】
また、本発明のDNAは、KSGal6ST全体をコードするコード領域全長を有していてもよいし、KSGal6STの一部のペプチドをコードするものであってもよい。
本発明のDNAは、その塩基配列が本発明により明らかにされたので、その配列に基づいて合成し、あるいはその配列に基づいて作成したオリゴヌクレオチドプライマーを用いるPCR法(ポリメラーゼ・チェイン・リアクション法)によってヒト染色体DNAあるいはmRNAから本発明DNAを増幅することによって、取得することも可能である。なお、本発明DNAは、後記実施例に示すように、以下に示す各工程からなるcDNAクローニングによって、初めて得られたものである。
【0037】
(1)ニワトリのコンドロイチン6−スルホトランスフェラーゼ(C6ST)のポリペプチドをコードするcDNAのクローニング
▲1▼ニワトリ胚軟骨細胞から精製したC6STの部分アミノ酸配列の決定
▲2▼そのアミノ酸配列に基づいたPCR用オリゴヌクレオチドプライマーの作製
▲3▼ニワトリ胚の軟骨細胞由来のポリ(A)+RNAからのC6ST部分cDNAのPCR法による増幅
▲4▼ニワトリ胚の軟骨細胞由来のcDNAライブラリーからのC6ST完全長cDNAの選択
【0038】
(2)ヒト由来のKSGal6STのポリペプチドをコードするcDNAのクローニング
▲1▼上記(1)▲4▼で単離されたcDNAの塩基配列解析結果に基づくヒトcDNAライブラリーのスクリーニング用プローブの作製
▲2▼そのプローブを用いた、ヒト由来のKSGal6STをコードするcDNAクローンのスクリーニング
▲3▼得られたcDNAの塩基配列解析
【0039】
しかし本発明のDNAの製造方法はこれに限定されるものではなく、上記のPCR法や、他の公知のcDNAクローニングの手法によっても本発明DNAを製造することができる。
【0040】
以下に、本発明のDNAを得る方法を具体的に説明する。
(1)ニワトリのC6STのポリペプチドをコードするcDNAのクローニングニワトリのC6STのポリペプチドをコードするcDNAのクローニングは、公知の方法(Fukuta, M., Uchimura. K.,Nakashima, K., Kato, M., Kimata, K., Shinomura, T., and Habuchi, O. (1995) J. Biol. Chem. 270, 18575-18580)に従って行うことができる。
【0041】
(2)ヒト由来のKSGal6STのポリペプチドをコードするcDNAのクローニング▲1▼ハイブリダイゼーション用プローブの作成
上記のようにして得られたニワトリ由来のC6STのcDNAを用いて、ランダムプライマーラベル法により[32P]dCTPで標識した cDNAライブラリースクリーニングのための放射性プローブを作成できる。すなわち、上記のニワトリcDNAを、[α-32P]dCTP(アマシャム(Amersham)製)及びDNAランダムラベリングキット(宝酒造(株)製)を用いたランダムオリゴヌクレオチドプライムドラベリング法(random oligonucleotide-primed labeling method(Feinberg, A.P., and Vogelstein, B. (1983) Anal. Biochem. 132, 6-13)を用いて放射性標識DNAプローブを得ることができる。
【0042】
▲2▼ヒト由来cDNAライブラリーの作成
ヒト由来の組織あるいは細胞から全RNAを調製し、該全RNAからpoly(A)+RNAを調製し、該poly(A)+RNAを鋳型とした逆転写酵素反応により、ヒト由来cDNAは合成することができる。これらは全て、遺伝子工学分野で通常用いられている方法により行うことができる。
【0043】
cDNAはクローニングベクターに連結する。クローニングベクターは特に限定されないが、例えばEcoRI消化したλgt11を用いることが好ましい。なお、市販されているクローニングベクターに連結されたヒトcDNAを用いてもよい。具体的には、ラムダベクターλgt11が組み込まれたヒト胎児脳cDNAライブラリー(Clontech)が好ましい。
【0044】
▲3▼ヒト由来のKSGal6STをコードするcDNAクローンのスクリーニング
上記のようにして得られたヒト由来cDNAライブラリーから、KSGal6ST完全長cDNAを有するファージクローンを上記▲1▼で作成した[32P]dCTPで標識した放射性プローブを用いたハイブリダイゼーションにより選択することができる。ハイブリダイゼーションは遺伝子工学分野で通常用いられる手法、例えばプラークハイブリダイゼーション等により行うことができる。プローブとハイブリッドを形成したプラークは、プローブに結合した標識物質を検出することにより、陽性クローンを選択することができる。
【0045】
選択した陽性クローンから、ファージDNAを調製し、適当な制限酵素で切断することによって挿入cDNA断片を得、これを適当な発現ベクターに挿入し、組換えプラスミドを構築する。この組換えプラスミドを用いて、発現ベクターに適した宿主をトランスフェクトさせ、宿主細胞中で該cDNAを発現させる。細胞中の、コンドロイチン6−スルホトランスフェラーゼ活性、コンドロイチン4−スルホトランスフェラーゼ活性及びケラタン硫酸スルホトランスフェラーゼ活性を測定し、ケラタン硫酸スルホトランスフェラーゼ(KSST)活性のみが発現しているものを選択する。
【0046】
▲4▼cDNAの塩基配列解析
選択された陽性クローンの内、KSST活性のみが強く発現している細胞に導入されたクローンから、ファージDNAを調製し、適当な制限酵素で切断することによって、KSGal6STcDNAを切り出すことができる。得られたcDNAは、そのまま、あるいは適当なプラスミドにサブクローニングして、塩基配列を決定することができる。
【0047】
上記のようにして決定されたヒト由来KSGal6STをコードするcDNAの塩基配列のオープンリーディングフレーム部分を配列番号1に、アミノ酸配列を配列番号2に示す。単一のオープンリーディングフレームからは、411アミノ酸残基からなり、分子量約46,700のポリペプチドが予想される。
【0048】
上記のようにして得られるDNAは、このDNAによってコードされるKSGal6STのケラタン硫酸を硫酸化する活性が実質的に害されない限り、1つ又は2以上のアミノ酸残基の置換、欠失又は付加を起こすようなヌクレオチドの置換、欠失又は付加を有していてもよい。DNA配列へのヌクレオチドの置換、欠失又は付加は、両末端に制限酵素切断末端を持ち、変異点の両側を含む配列を合成し、未変異DNA配列の相当する部分と入れ換える事により、導入することができる。また、部位特異的変異法(Kramer,W. and Frits,H.J.,Meth. in Enzymol.,154,350 (1987); Kunkel,T.A. et.al.,Meth. in Enzymol.,154,367(1987))などの方法によっても、DNA配列に置換、付加又は欠失を導入することができる。ケラタン硫酸を選択的に硫酸化する活性、すなわち、硫酸基供与体から硫酸基をケラタン硫酸のガラクトース残基の6位に選択的に転移する活性は、例えば、後記の酵素活性測定法によって測定することができ、当業者は活性を実質的に害さない1つ以上のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を容易に識別することができる。
【0049】
<4>硫酸化多糖の製造方法
本発明の硫酸化多糖の製造方法は、ケラタン硫酸のみを硫酸化するKSGal6STをケラタン硫酸に作用させることを特徴とする。
【0050】
硫酸基供与体の存在下で、ケラタン硫酸に、上記KSGal6STを作用させると、ケラタン硫酸中のガラクトース残基の6位に硫酸基が転移し、硫酸化多糖が生成する。この時のpHは、当該KSGal6STの活性が保持されている限りにおいて特に限定されないが、当該KSGal6STの至適反応pH付近のpH条件下で反応を行うことが好ましく、該pH下で緩衝作用を有する緩衝液中で反応を行うことがより好ましい。当該KSGal6STを作用させる反応時の温度も、当該KSGal6STの活性が保持されている限りにおいて特に限定されないが、当該KSGal6STの至適温度付近であることが好ましい。また、当該KSGal6STの活性を増加させる物質がある場合は、その物質を添加しても良い。反応時間は用いるケラタン硫酸、硫酸基供与体及び当該KSGal6STの量、並びにその他の反応条件に応じて当業者が適宜決定できる。通常には、pH6〜7付近で、温度は37℃付近で反応させることが好ましい。また反応の際にCa2+やMn2+等を共存させても良い。
【0051】
KSGal6STを作用させる反応に用いる硫酸基供与体としては、活性硫酸(3’−ホスホアデノシン5’−ホスホ硫酸;以下、「PAPS」という)が好適に挙げられる。
【0052】
少量生産であれば、ケラタン硫酸及び硫酸基供与体の共存下に、ケラタン硫酸のみを硫酸化するKSGal6STを作用させれば良いが、大量生産する場合、適当な固相(ビーズ等)に当該KSGal6STを結合させた固定化酵素や、限外ろ過膜、透析膜等を用いる膜型のリアクター等を用いて連続的に酵素を作用させることもできる。また、硫酸基供与体を再生(合成)するバイオリアクターを組合わせて用いても良い。
【0053】
反応液から硫酸化多糖を回収するには、通常の糖鎖の分離、精製の手法を用いることができる。例えば吸着クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲルろ過法、ゲル浸透クロマトグラフィー、濾紙電気泳動法、濾紙クロマトグラフィー、有機溶媒(例えばアルコール、アセトン等が好ましい)による分画、あるいはこれらの組合わせ等の操作により行うことができるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
基質となるケラタン硫酸に特に制限はなく、種々の由来、硫酸化の程度、分子量のものを使用できる。
【0055】
【実施例】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、この実施例は本発明の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。はじめに、実施例中で共通して用いる方法に関して説明する。なお、特記しない限り「%」は重量%である。
【0056】
酵素活性測定法
スルホトランスフェラーゼ活性は次のようにして測定した。
コンドロイチンスルホトランスフェラーゼ活性及びケラタン硫酸スルホトランスフェラーゼ活性の測定における反応液組成は以下の通りとした。2.5μmolのイミダゾール−塩酸(pH6.8),1.25μg(コンドロイチンスルホトランスフェラーゼ活性測定の場合)または3.75μg(ケラタン硫酸スルホトランスフェラーゼ活性測定の場合)のプロタミン塩酸、0.1μmolのジチオスレイトール、25nmol(グルクロン酸の量として)のコンドロイチン(コンドロイチンスルホトランスフェラーゼ活性測定の場合)または25nmol(グルコサミンの量として)のケラタン硫酸(ケラタン硫酸スルホトランスフェラーゼ活性測定の場合)、25pmolの[35S]PAPS(3’−ホスホアデノシン5’−ホスホ硫酸、約2.5×105cpm)、及び、酵素を含む50μl(反応液I)。
【0057】
また、種々のグリコサミノグリカンに対する活性の測定における反応液組成は以下の通りとした。2.5μmolのイミダゾール−塩酸(pH6.4),0.5μmolのCaCl2、0.1μmolのジチオスレイトール、25nmol(グルコサミンの量として)のケラタン硫酸、25pmolの[35S]PAPS、及び酵素を含む50μl(反応液II)。
【0058】
基質としての種々のグリコサミノグリカンに対する活性は、ケラタン硫酸の代わりに、25nmol(コンドロイチン硫酸(A及びC)及びデルマタン硫酸についてはガラクトサミンの量として、ケラタン硫酸及び完全脱硫酸化後にN−硫酸化したヘパリン(CDSNS−ヘパリン(Completely Desulfated, N-Sulfated Heparin;生化学工業株式会社より入手可能))についてはグルコサミンの量として)のグリコサミノグリカンを用いて測定した。
【0059】
上記両方の場合とも、反応液を37℃で20分インキュベートした後、反応チューブを沸騰水に1分浸けることによって反応を停止させた。
上記反応停止後、0.1μmol(グルクロン酸の量として)のコンドロイチン硫酸Aをキャリアとして加え、1.3%酢酸カリウムを含むエタノールを3体積加えて、35S-標識された多糖類を沈澱させた。混合液を10,000×gで10分間遠心し、得られた沈澱を70μlの水に溶解させた。この溶液50μlを0.1M NH4HCO3で平衡化した脱塩カラムに注入し、35S-標識された多糖類を含む溶出分画を集めた。得られた分画の200μlにシンチレーションカクテル(クリアゾル(Clearsol)、ナカライテスク社製)1mlを加え、35S放射活性を測定することにより、多糖類への35Sの取り込みを測定した。1pmol硫酸基/分の転移を触媒する活性を1ユニットとした。
【0060】
コンドロイチン6−スルホトランスフェラーゼ(C6ST)活性及びコンドロイチン4−スルホトランスフェラーゼ(C4ST)活性を区別して測定する場合は、残りの溶液から400μl取り、1.3%酢酸カリウムを含むエタノール800μlを加えて混合した。混合液を30分氷上に置いた後、10,000×gで10分遠心して35S-多糖類を沈澱させた。沈澱を0.1mg/mlのBSA、0.05Mトリス−酢酸,pH7.5、10ミリユニットのコンドロイチナーゼACII(アースロバクター・アウレッセンス(Arthrobacter aurescens)由来、生化学工業(株))を含む緩衝液25μlに溶解し、37℃で2時間反応させた。反応物を、0.1μmolづつの2-アセトアミド-2-デオキシ-3-O-(β-D-グルコ-4-エノピラノシルウロン酸)-6-O-スルホ-D-ガラクトース(△Di-6S)、及び2-アセトアミド-2-デオキシ-3-O-(β-D-グルコ-4-エノピラノシルウロン酸)-4-O-スルホ-D-ガラクトース(△Di-4S)(いずれも生化学工業(株)製)とともに、ワットマン(Whatman)No.1濾紙にスポットし、1-ブタノール/酢酸/1M 水酸化アンモニウム(2:3:1(V/V/V))で20時間展開した。
【0061】
△Di-6S及び△Di-4Sの位置を紫外線ランプで調べ、それぞれの部位を濾紙から切り出し、1Lのトルエンにジフェニルオキサゾール5g、ジメチル1,4−ビス(2-(5-フェニルオキサゾール))ベンゼン0.25gを溶解させたシンチレーターに入れ、放射活性を測定した。コンドロイチナーゼACIIで消化した試料では、濾紙の原点に残った放射活性はスポットした放射活性の1%以下であった。△Di-6S及び△Di-4Sへの35Sの取り込みから、それぞれコンドロイチン6−スルホトランスフェラーゼ活性及びコンドロイチン4−トランスフェラーゼ活性を算出した。
【0062】
次に、本発明DNAの製造例を説明する。
<1>ケラタン硫酸6−スルホトランスフェラーゼcDNAのクローニング
(1)ハイブリダイゼーション用プローブの作製
公知の方法(J. Biol. Chem. 270(31), 18575-18580, 1995)により作製したニワトリ胚軟骨細胞由来のCS6TのcDNAを用いて、ランダムプライマーラベル法により[32P]dCTPで標識した cDNAライブラリースクリーニングのための放射性プローブを作成した。すなわち、上記のニワトリcDNAを、[α-32P]dCTP(アマシャム(Amersham)製)及びDNAランダムラベリングキット(宝酒造(株)製)を用いたランダムオリゴヌクレオチドプライムドラベリング法(random oligonucleotide-primed labeling method(Feinberg, A.P., and Vogelstein, B. (1983) Anal. Biochem. 132, 6-13)を用いて放射性標識することによってプローブを得た。
【0063】
(2)ヒト由来cDNAライブラリー
ヒトKSSTのコード領域全長を含むcDNAを得るために、ラムダベクターλgt11が組み込まれたヒト胎児脳cDNAライブラリー(Clontech)を用いた。
【0064】
このヒト胎児脳cDNAライブラリーを、インビトロパッケージングキット(Gigapack II packaging extract、ストラタジーン製)を用いてファージ粒子にパッケージした。このファージ粒子を、大腸菌(Escherichia coli) Y1088に感染させ、プレートに重層し、プラークを形成させた。こうして得られたファージライブラリーはさらに増幅させることなしに、cDNAスクリーニングに用いた。
【0065】
(3)KSSTcDNAクローンのスクリーニング
上記のようにして得られたλgt11cDNAライブラリーのプラークについて、スクリーニングを行った。プラークを市販のナイロン膜(Hybond N+ nylon membrane、アマシャム社製)に転写し、アルカリ固定法によりファージDNAをナイロン膜に固定した。ファージDNAを固定した膜を、50%ホルムアミド、5×SSPE(1×SSPEの組成:10mM NaH2PO4(pH7.4), 150mM NaCl, 1mM EDTA)、5×Denhardt's solution(1×Denhardt's solutionの組成:0.02%フィコール400、0.02%ポリビニルピロリドン、0.02% BSA)、0.5% SDS、0.04mg/mlの変性サケ精子DNA、0.004mg/mlの E. coli DNAを含む溶液中で、3.5時間、42℃でプレハイブリダイズした。ハイブリダイゼーションは、32P標識したプローブ(上記<1>(1)で作製したもの)を含む上記と同じ緩衝液中で16時間、42℃で行った。続いて、フィルターを1×SSPE、0.1% SDS中、次いで0.1×SSPE、0.1% SDS中で、55℃で洗浄した後、オートラジオグラフィーによりハイブリダイゼーション陽性クローンを検出した。5×105個のプラークから約90個の陽性クローンが得られた。
【0066】
(4)発現用プラスミドの調製
前記ハイブリダイゼーションで陽性を示すλgt11クローンを選択し、各々ファージDNAを調製し、ベクターDNAからcDNA挿入断片を単一断片で取り出すEcoRIで切断した。このcDNA断片を発現ベクターに挿入し、組換えプラスミドを構築した。発現ベクターとして、哺乳類細胞用発現ベクターpCXN2(東京大学の宮崎純一博士により構築され(Niwa, H., Yamamura, K., and Miyazaki, J. (1991) Gene 108, 193-200)、東京都臨床医学総合研究所の橋本康弘博士より恵与された)を用いた。pCXN2は、ストレプトマイシン耐性遺伝子及びペニシリン耐性遺伝子を有し、EcoRI部位に挿入されたDNA断片をβ−アクチン遺伝子プロモーターにより発現させることができるベクターである。pCXN2のEcoRI部位に上記の陽性クローンから得られたcDNA断片を連結させた。
【0067】
大腸菌(E. coli) JM109を、この連結反応液を用いて形質転換し、アンピシリンを含むLBプレートに塗布した。形質転換体から組換えプラスミドを回収し、3回のCsCl/エチジウムブロマイド平衡遠心により精製した。
【0068】
(5)COS−7細胞中でのcDNAのトランジェント(一過性)な発現、及びケラタン硫酸に特異的なスルホトランスフェラーゼ活性を発現するcDNAの選択
cDNAの発現の宿主にはCOS−7細胞を用いた。COS−7細胞(理研細胞バンク(筑波)から入手した)を8×105 細胞/皿の密度で直径100 mmの培養皿にまいた。培養液には、ペニシリン(100単位/ml)、ストレプトマイシン(50μg/ml)及び10%ウシ胎仔血清(ギブコBRL製)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を培養皿1枚当たり10ml用い、5vol%CO2、95vol%空気中で37℃で培養した。
【0069】
細胞密度が3×106個/ディッシュに達したとき(培養開始48時間後)、COS-7細胞をトランスフェクトした。トランスフェクションは、DEAE-デキストラン法(Aruffo, A. (1991) in Current Protocols in Molecular Biology, Suppl. 14, Unit 16.13, Greene Publishing Associates and Wiley Interscience, New York)により行った。10%のNu serum(低タンパク質濃度の血清代用品:コラボレーティブ・バイオメディカル・プロダクツ(Collaborative Biomedical Products))を含む予め加熱しておいた5mlのDMEMを、10mg/ml DEAE-デキストランと2.5mMクロロキン(Chloroquine)溶液を含む0.2mlのPBS(リン酸緩衝生理食塩水)と混合した。この溶液と15μgの組換えプラスミドを混合し、その混合液を細胞懸濁液に添加した。上記細胞を、CO2インキュベーター中で4時間インキュベートした後、培養液を5mlの10%ジメチルスルホキシド(DMSO)を含むPBS溶液で置換した。この細胞を室温で2分間放置した後、ジメチルスルホキシド溶液をアスピレートにより除去し、ペニシリン(100単位/ml)、ストレプトマイシン(50μg/ml)及び10%ウシ胎仔血清を含む25mlのDMEMを加えた。この細胞を67時間インキュベートした後、DMEMのみで洗浄した。細胞を回収し、ディッシュ1枚分の細胞当たり、1.5mlの0.25M ショ糖、10mM Tris-HCl(pH7.2)、及び0.5% Triton X-100中でダウンスホモジナイザー(Dounce homogenizer)によりホモジナイズした。得られたホモジネートを10,000×gで20分間遠心し、上清画分中のコンドロイチン6-スルホトランスフェラーゼ(C6ST)、コンドロイチン4-スルホトランスフェラーゼ(C4ST)活性及びケラタン硫酸スルホトランスフェラーゼ(KSST)活性を、反応液Iを用いる活性測定方法により測定した。反応液を37℃で20分間インキュベートし、その後、反応チューブを100℃で1分間加熱して反応を停止した。反応停止後、生じた35Sでラベルされたグリコサミノグリカンをエタノール沈殿により回収し、ファストデソルティングカラムを用いたゲルクロマトグラフィー(Habuchi et al., J. Biol. Chem., 268(29) 21968-21974,1993)により分離し、放射活性を測定した。その結果、トランスフェクトした細胞中にC6STとC4ST活性は見られないが、KSST活性が強いものが存在することが判明した。
【0070】
(6)cDNAの塩基配列の解析と予測されるポリペプチド
前記ハイブリダイゼーションで陽性を示し、上記KSST活性のみが強く発現している細胞に導入されたcDNAを含有するλgt11クローンを選択し、ファージDNAを調製し、ベクターDNAからcDNA挿入断片を単一断片で取り出すEcoRIで切断した。これらのcDNA断片をブルースクリプト(Bluescript、ストラタジーン(Stratagene)製)プラスミドにサブクローニングした。欠失クローンをDNA deletion kit(宝酒造(株)製)を用いて既知の方法(Henikoff, S.(1984) Gene 28, 351-359、Yanisch-Perron, C., Viera, J., and Messing, J. (1985) Gene 33, 103-109)により調製した。得られた欠失クローンを用いて、[α-32P]dCTP及びSequenase(U.S.バイオケミカル(U.S. Biochemical)製)を用いたジデオキシチェーンターミネーション法(Sanger, F., Nicklens, S., and Coulson, A. R. (1977) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 74, 5463-5467)により、両方の鎖のヌクレオチド配列を独立に決定した。DNA配列の編集及び解析にはジーンワークス コンピュータープログラム(Gene Works computer program、インテリジェネティクス(IntelliGenetics)製)を用いた。このようにして判明したKSSTのcDNAの塩基配列とこの配列から推定されるポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号1に示す。1つのオープンリーディングフレームは411アミノ酸残基からなり、このcDNAによりコードされるポリペプチドの分子量はそのアミノ酸構成から約46700と推定され、また等電点は約9.5と推定される。また、このポリペプチドはN-結合グリコシレーションが可能な部位を5カ所有する。このポリペプチドが膜貫通領域を有するか否か、有するとすればその位置を決定するために、推定されたアミノ酸配列からハイドロパシープロットを作成した。ハイドロパシープロットは、Kyteらの方法(Kyte, J. and Doolittle, R. F., (1982) J. Mol. Biol. 157, 105-132)により、11アミノ酸のウィンドウで計算した。プロットの解析から、アミノ末端側に、長さ12残基からなる1つの顕著な疎水領域が認められ、膜貫通領域であると推定された。
【0071】
このcDNAを上記の方法でプラスミド(pCXN2)に導入し(ベクターのプロモーターの向きとcDNAの向きが一致している組換えプラスミドをpCXNKSST、cDNAが逆向きに挿入されている組換えプラスミドをpCXNKSST2と名付けた)、このプラスミドを上記の方法によりCOS-7細胞にトランスフェクトした。トランスフェクトから67時間目にこのCOS-7細胞をホモジナイズし、遠心して、得られた上清中のC6ST活性、C4ST活性及びKSST活性を、上記の反応液Iを用いた活性測定方法に従って測定した。その結果、表1に示すように単離したKSSTのcDNAが正しい向きに導入されたベクターを導入した細胞は、対照と比較して6〜10倍のKSST活性が観察されたが、C6ST活性やC4ST活性の上昇は見られなかった。また硫酸基の受容体としてデルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、完全脱硫酸化した後にN-硫酸化したヘパリン(Completely Desulfated, N-Sulfated Heparin;CDSNS−ヘパリンともいう)を用いた場合、スルホトランスフェラーゼ活性の上昇は見られなかった。
【0072】
【表1】
【0073】
なお表1中の数値は、3回の実験の平均値±S.D.で示した。
【0074】
<2>ケラタン硫酸6−スルホトランスフェラーゼの製造
(1)ケラタン硫酸6−スルホトランスフェラーゼの分離
pCXNKSSTを導入したCOS-7細胞、及びpCXNKSSTを導入しないCOS-7細胞(対照)の粗抽出液(蛋白質量で4.8mg)を、それぞれ20% グリセロール、20mM MgCl2、2mM CaCl2、10mM 2-メルカプトエタノールを含むpH7.2の10mM Tris-HCl緩衝液(緩衝液A)で平衡化したDEAE-Sephacel(ファルマシア社製)カラム(ベッド容積1ml)にアプライした。0.05M NaClを含む緩衝液Aでカラムを洗った後、吸着画分を0.5M NaClを含む緩衝液Aで溶出し、1mlづつ分画した。pCXNKSSTを導入したCOS-7細胞の抽出物、及び対照のCOS-7細胞の抽出物の溶出画分それぞれについて、KSST活性及びコンドロイチンスルホトランスフェラーゼ(CST)活性を、反応液Iを用いた活性測定方法を用いて測定した。結果を図1に示す。
図1中、A及びCはpCXNKSSTを導入したCOS-7細胞の抽出物、B及びDは対照COS-7細胞の抽出物の溶出プロフィールである。またA及びBはKSST活性、C及びDはCST活性を示す。また図1中の矢印は、0.5M NaClを含む緩衝液Aによる溶出開始位置を示す。
【0075】
pCXNKSSTを導入したCOS-7細胞の抽出物を用いた場合、カラムへの非吸着画分に約20%のKSST活性が見られ、吸着画分(0.5M NaClを含む緩衝液Aによって溶出する画分)には約80%のKSST活性が見られた(図1のA)。またCST活性は吸着画分にのみ見られた(図1のC)。pCXNKSSTプラスミドを導入しなかったCOS-7細胞抽出物を同じカラムにアプライした場合は、非吸着画分にKSST活性は見られなかった(図1のB)。
【0076】
pCXNKSSTを導入したCOS-7細胞の抽出物において、CST活性を有さず、KSST活性を有する画分を得るために、非吸着画分からCST活性を有さないKSSTを、以下の方法に従って分離した。
【0077】
pCXNKSSTを導入したCOS-7細胞のディッシュ80枚分のホモジネート(タンパク質量で224mg)を、緩衝液Aで平衡化したDEAE-セファデックス(Sephadex)A-50カラム(ファルマシア社製;2.2×13cm)にアプライした。カラムを500mlの緩衝液Aで洗った後、吸着画分を0.5M NaClを含む緩衝液Aで溶出した。約1/3のケラタン硫酸スルホトランスフェラーゼ活性が非吸着画分に存在した。約2/3のKSST及び全てのCST活性は吸着画分(0.5M NaClを含む緩衝液Aによって溶出する画分)に見られた。
【0078】
非吸着画分をプールし、0.15MのNaClを含む緩衝液Aで平衡化したヘパリン−セファロース CL-6B(Heparin-Sepharose CL-6B;ファルマシア社製)カラム(1.2×8.0cm)にアプライした。吸着画分を0.5M NaClを含む緩衝液Aで溶出し、50mMのNaClを含む緩衝液Aに対して透析した。これをCSTを含まないKSSTとして使用した。KSST活性はヘパリン−セファロース CL-6Bカラムの後、15倍に精製された。表2は粗抽出物と部分精製したKSSTの、種々の受容体に対する酵素活性を、反応液IIを用いた活性測定法で測定して比較したデータである。なおここでの活性測定では、反応液IIを用いた活性測定方法において標準反応混合液に含まれるケラタン硫酸のかわりに、25nmol(コンドロイチン、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びデルマタン硫酸の場合はガラクトサミン量として、ケラタン硫酸及びCDSNS-ヘパリンの場合はグルコサミン量として算出)のグリコサミノグリカンを用いた。
【0079】
コンドロイチンやCDSNS-ヘパリンに硫酸基を転移するスルホトランスフェラーゼ活性が粗抽出物には見られるが、精製後はケラタン硫酸スルホトランスフェラーゼ活性の2%以下になった。
【0080】
【表2】
【0081】
(2)KSSTの性質
このように部分精製したKSSTの性質を調べた。このKSSTの至適pHは6.2〜6.5であった。また、反応液IIを用いた活性測定方法におけるCaCl2を、終濃度5mMの種々の塩に変えてKSST活性を測定した結果、表3に示すように、様々な陽イオンの中でMn2+又はCa2+がこのKSST活性を最も促進した。Ca2+の至適濃度は、約10mMであった。10mMまでの濃度のジチオスレイトールもこのKSST活性には影響を与えなかった。PAPSのKm値は2×10-7Mであった。
【0082】
【表3】
──────────────────────────────────
添加した塩 スルホトランスフェラーゼ活性 (pmol/ 分 /mg タンパク質 )
なし 2.8
塩化プロタミン 8.8
MgCl2 18.8
CaCl2 26.2
SrCl2 21.6
BaCl2 21.0
MnCl2 28.0
FeSO4 3.0
CoCl2 24.6
NiCl2 10.0
ZnCl2 1.5
CuCl2 10.0
──────────────────────────────────
【0083】
(3)KSSTによる硫酸基転移部位の特定
この部分精製されたKSSTによってケラタン硫酸から合成されたグリコサミノグリカンの構造解析を行った。35Sラベルされたグリコサミノグリカンは、前記反応液II中でケラタン硫酸、[35S]PAPSおよび部分精製したKSST(2μgタンパク質)をインキュベートすることにより調製した。4本の反応チューブから得られた35Sラベルされたグリコサミノグリカンをプールした。このグリコサミノグリカンをファストデソルティングカラムを用いて35SO4と[35S]PAPSから分離して凍結乾燥した。このサンプルを以下の方法によりケラタナーゼII(生化学工業株式会社製)で消化した。すなわち、0.005ユニットのケラタナーゼIIを含む2.5μmol 酢酸緩衝液(pH 6.5) 50μlで消化した。この反応混合物を37℃で24時間インキュベートした。ケラタナーゼII消化物は、5mMのKH2PO4で平衡化したWhatman Partisil 10-SAXカラム(ワットマン社製;4.5×25cm)を使ったHPLCで分析した。このカラムを、5mM KH2PO4で5分間展開した後、5mM〜250mMのKH2PO4の濃度勾配により20分間で溶出を行った。流速は1ml/minで行った。0.5mlずつの画分を得、35Sの放射活性を測定した(図2のA)。35Sの放射活性を有するGal(6SO4)β1-4GlcNAc(6SO4)に相当する単一ピークが得られた(図2のピーク1)。放射活性を持つピークを回収し、遠心真空エバポレーターで乾燥し、少量の水に再溶解した後、0.2M NH4HCO3 で平衡化したハイロード・スーパーデックス 30 16/60 (Hiload Superdex 30 16/60)カラム(ファルマシア社製)にインジェクトした。1ml/minの流速で1mlずつ分画し、それぞれ4mlのクリアゾル(Clearsol;ナカライテスク製)と混合し、35Sの放射活性を測定した。二糖は210nmの吸収でモニターした。これにより得られた溶出物を凍結乾燥した。
【0084】
図2のピーク1に含まれる35S放射活性物質を、NaBH4により還元後、50μlの0.1M HClにより100℃で40分間加水分解した。この加水分解産物をペーパークロマトグラフィーと濾紙電気泳動とにより精製した。すなわち、ペーパークロマトグラフィーはWhatman No.3濾紙(2.5cm×57cm)を用い、1-ブタノール/酢酸/1M NH3(3:2:1(V/V/V))で展開した。濾紙電気泳動はピリジン/酢酸 /水(1:10:400(V/V/V)、pH4)の混合液につけたWhatman No.3濾紙(2.5cm×57cm)を用いて30V/cmで40分間泳動を行った。濾紙電気泳動、ペーパークロマトグラフィーを行った後、濾紙をレーンごとに乾燥して1.25cmずつに断片化し、1Lのトルエン中に5gのジフェニルオキサゾール(diphenyloxazole)と0.25gのジメチル1,4-ビス(2-(5-フェニルオキサゾール))ベンゼン(dimethyl 1,4-bis(2-(5-phenyloxazole))benzene)を含むシンチレーション液中で放射活性を測定した。移動度が低いピークを回収し、溶出することにより、Galβ1-4GlcNAcR(6SO4)、Gal(6SO4)β1-4GlcNAcR 、Gal(6SO4)の混合物を回収した。これを0.5M NaBH4 を含むNa2CO3(pH10.2)(10μl)と混合し、氷中で2時間還元した。0.5M NaBH4 を含むNa2CO3(pH10.2)(10μl)を再度添加し、さらに氷中で2時間インキュベートした。過剰なNaBH4 を3M酢酸(10μl)を添加することにより分解し、窒素流下で乾燥させた。還元された物質を水に溶解し、Dowex 50H+ (ダウケミカル社製)カラムに通し、その溶出物を乾燥させ、メタノールと混合し、メタノールを蒸発させた。メタノールと混合し、蒸発させる操作は3回繰り返した。
【0085】
この操作によってGalβ1-4GlcNAcR(6SO4)(式中のRは、NaBH4 による還元によって生成したアルジトールを意味する)の位置に移動した35S−ラベルされた物質を、Gal(6SO4)β1-4GlcNAcRと、Galβ1-4GlcNAcR(6SO4)とに分離するため、HPLCに付した(図3のB)。すなわち、5mMのKH2PO4で平衡化したWhatman Partisil 10-SAXカラム(4.5×25cm)にサンプルをアプライし、5mMのKH2PO4で展開した。流速は1ml/minでカラム温度は40℃で行った。0.5mlずつ画分を集め、それぞれ4mlのクリアゾルと混合して放射活性を測定した。その結果、Gal(6SO4)β1-4GlcNAcRの位置に強い35Sの放射活性が検出され、弱い放射活性がGalR(6SO4)の位置に検出された。Galβ1-4GlcNAcR(6SO4)の位置には放射活性は検出されなかった。このことは、KSSTはケラタン硫酸の一硫酸化された繰り返し単位、つまりGalβ1-4GlcNAc(6SO 4 )を繰り返し単位とする構造のガラクトース残基の6位に硫酸基を転移することを示す。ケラタン硫酸の硫酸基を持たない繰り返し単位のガラクトース残基に転移が可能か否かを調べるために、硫酸基の受容体として部分的に脱硫酸化したケラタン硫酸を用い、反応液IIを用いた活性測定方法によって18時間インキュベートすることにより調製した。この脱硫酸化ケラタン硫酸から生成した、35Sでラベルされたグリコサミノグリカンを0.005ユニットのケラタナーゼIIで消化して、上記と同様に、5mMのKH2PO4 で平衡化したWhatman Partisil 10-SAXカラム(4.5×25cm)を用いたHPLCを行い、流速1ml/minで5分間展開した後、5mM〜250mMのKH2PO4の濃度勾配により20分間で溶出を行った。流速は1ml/minで行った。0.5mlずつ分画し、放射活性を持つ3つのピークを得た(図2のB)。図2のBにおけるピーク2はGalβ1-4GlcNAc(6SO4)より少し早く溶出し、ピーク4はGal(6SO4)β1-4GlcNAc(6SO4)の位置に溶出した。また、ピーク3はピーク2とピーク4の間に溶出した。
【0086】
図2のBのピーク2及びピーク4を、それぞれ上記の図2のピーク1と同様に分析した結果、Gal(6SO4)β1-4GlcNAcRの位置に単一ピークが得られた(図2のピーク2の分析結果は図3のC、図2のピーク4の分析結果は図3のDに示した)。これらの結果から、この酵素はGlcNAc(6SO4)又はGlcNAcに結合するガラクトース残基の6位に硫酸基を転移することが明らかになった。このことから、本発明酵素はケラタン硫酸ガラクトース6-スルホトランスフェラーゼ(KSGal6ST)と命名した。
【0087】
<3>ポリA+RNAのノザンハイブリダイゼーション
様々なヒト組織から抽出したポリA+RNAを50% ホルムアミド(V/V)、5% ホルムアルデヒド(V/V)を含むpH7.0の20mM MOPS緩衝液で変性し、5%のホルムアルデヒドを含む1.2% アガロースゲルで電気泳動を行った。その後、一晩Hybond N+ nylon membraneに転写した。RNAを80℃で2時間加熱して固定し、50% ホルムアミド、5×SSPE、5×Denhardt's solution、0.5% SDSと0.1mg/mlの変性させたサケ精子DNAを含む溶液中42℃で3時間プレハイブリダイゼーションした。ハイブリダイゼーションはランダムオリゴヌクレオチド-プライムラベリング法(Random oligonucleotide-primed labeling method)により32PラベルしたKSGal6ST cDNAを用いて作成したプローブを含む上記の緩衝液で42℃で14時間行った。ハイブリダイゼーション後のフィルターを65℃の2×SSPE、0.1% SDSで洗浄後、次に1×SSPE、0.1% SDSで洗浄した。このフィルターにより増感スクリーンを用いて-80℃で26時間X-線フィルムを感光させた。その結果、脳のポリA+RNAを用いた際に2.8kb付近にハイブリダイズによるバンドが生じた。
【0088】
また、角膜におけるKSGal6STの発現をクロスハイブリダイゼーションにより調べた。すなわち、上記のヒト組織から抽出したポリA+RNAに替えてニワトリ胚の角膜からのポリA+RNAを調製し、ヒトのKSGal6ST cDNAから上記の方法により作成したプローブを用いてクロスハイブリダイゼーションを行った。ニワトリ胚の心臓、脳から抽出したポリA+RNAを対照として用いた。ニワトリ胚の角膜から調製したポリA+RNAにクロスハイブリダイズによるバンドが生じた。
【0089】
【発明の効果】
本発明により、ヒト由来のケラタン硫酸のガラクトース残基の6位に硫酸基を転移するケラタン硫酸6−スルホトランスフェラーゼ(KSGal6ST)をコードするDNA、及び該DNA由来のDNA断片から発現されるポリペプチドが得られる。
【0090】
本発明により、ヒト由来のKSGal6STをコードするDNAが得られたので、ヒト由来KSGal6STを工業的に使用可能な程度まで大量生産できることが期待される。このヒト由来KSGal6STのDNA及びKSGal6ST酵素タンパク質を用いた医薬用途への利用が期待される。
【0091】
【配列表】
【0092】
【図面の簡単な説明】
【図1】 DEAE-Sephacelカラムクロマトグラフィーの結果を示す。A及びCはpCXNKSSTを導入したCOS-7細胞の抽出物、B及びDは対照COS-7細胞の抽出物の溶出プロフィールである。A及びBはKSST活性、C及びDはCST活性を示す。
【図2】ケラタナーゼIIによる分解物のHPLC(Partisil 10-SAX)カラムクロマトグラフィーの結果を示す。Aはケラタン硫酸の分解物、Bは部分的に脱硫酸化したケラタン硫酸の分解物の溶出プロフィールを示す。
【図3】ケラタナーゼIIによる加水分解物のHPLCカラムクロマトグラフィーの結果を示す。Aは、3Hで標識したGal(6SO4)β1-4GlcNAcR(ピーク1)、Galβ1-4GlcNAcR(6SO4)(ピーク2)、GlcNAcR(6SO4)(ピーク3)及びGalR(6SO4)(ピーク4)の溶出プロフィールである。Bは図2のAのピーク1、Cは図2のBのピーク2、Dは図2のBのピーク4の溶出プロフィールをそれぞれ示す。なお、○は3H放射活性、●は35S放射活性を示す。
Claims (9)
- 下記の理化学的性質を有する、ヒト由来のケラタン硫酸6−スルホトランスフェラーゼのポリペプチド。
(1)作用:
硫酸基供与体から、ケラタン硫酸のガラクトース残基の6位に硫酸基を転移する。
(2)基質特異性:
コンドロイチン、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C、デルマタン硫酸およびCDSNS−ヘパリンには硫酸基を実質的に転移しない。
(3)至適pH:
6.2〜6.5
(4)活性化:
Mn2+またはCa2+により活性が上昇する。
(5)硫酸基供与体のKm値:
約2×10-7M(3’−ホスホアデノシン5’−ホスホ硫酸)
(6) 分子量:
約46700 - 配列番号2に示すアミノ酸配列からなり、そのアミノ酸配列に、ケラタン硫酸を硫酸化する6−スルホトランスフェラーゼ活性を実質的に害さない1又は数個のアミノ酸の欠失、置換または付加を有していてもよい、ケラタン硫酸のガラクトース残基の6位を選択的に硫酸化する6−スルホトランスフェラーゼのポリペプチド。
- 配列番号2においてアミノ酸番号1〜411で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチドと、他のポリペプチドを含む融合ポリペプチド。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードするDNA。
- 配列番号2においてアミノ酸番号1〜411で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNA。
- 配列番号1において塩基番号1〜1233で表される塩基配列からなるDNA。
- 請求項5〜7のいずれか1項に記載のDNAを保持する細胞を、培地で培養し、前記DNAがコードするポリペプチドを培養物中に生成蓄積させ、その培養物
から前記ポリペプチドを採取することを含む、ポリペプチドの製造方法。 - 請求項1又は2に記載の6−スルホトランスフェラーゼのポリペプチドをケラタン硫酸に作用させることを特徴とする硫酸化多糖の製造方法。
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