JP4226693B2 - 硫酸基転移酵素及びそれをコードするdna - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、硫酸基転移酵素及びそれをコードするDNAに関するものである。より詳しくはヘパラン硫酸、CDSNS(完全脱硫酸化N再硫酸化)−ヘパリン又はDAcNS(脱アセチル化N硫酸化)−ヘパロサン等の硫酸基受容体グリコサミノグリカンに含まれるN−硫酸化グルコサミン残基の6位水酸基を選択的に硫酸化するN−硫酸化グルコサミン6−O−硫酸基転移酵素のポリペプチドをコードするDNA及びそのDNAによってコードされるポリペプチドに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ヘパリン及びヘパラン硫酸は、ヘキスロン酸(HexA)残基(D−グルクロン酸(GlcA)残基又はL−イズロン酸(IdoA)残基)とN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基の二糖の繰り返し構造(4GlcAβ1/IdoAα1→4GlcNAcα1→)を基本骨格(ヘパリン骨格)とし、基本的にはそのヘキスロン酸残基の2位の一部及びN−アセチルグルコサミン残基の2位と6位の一部に硫酸基を有するグリコサミノグリカンである。
【0003】
グリコサミノグリカンに硫酸基を転移する酵素(グリコサミノグリカン硫酸基転移酵素)の遺伝子がクローニングされることにより、硫酸基の受容体となるグリコサミノグリカン(硫酸基受容体グリコサミノグリカン)の生合成についての情報を得るのに十分な量の該酵素を容易に得ることが可能となり、グリコサミノグリカンの構造と機能の関係を研究する上で有用なアプローチが提供されると考えられる。グリコサミノグリカンの生合成、その中でもヘパリン及びヘパラン硫酸の生合成には多くの硫酸化のプロセスがあることが知られており(木幡陽、箱守仙一郎、永井克孝編、グリコテクノロジー▲5▼、57(1994)、講談社サイエンティフィク発行)、この硫酸化には様々なグリコサミノグリカン硫酸基転移酵素が関与しているものと考えられる。ヘパリン又はヘパラン硫酸に硫酸基を転移するグリコサミノグリカン硫酸基転移酵素としては、N−アセチルグルコサミン残基の脱N−アセチル化及び硫酸基転移を触媒するヘパラン硫酸N−硫酸基転移酵素(以下「HSNST」と略記することもある)、ヘキスロン酸残基の2位水酸基に硫酸基を転移するヘパラン硫酸2−O−硫酸基転移酵素(以下「HS2ST」と略記することもある)、及び、N−硫酸化グルコサミン残基の6位水酸基に硫酸基を転移するヘパラン硫酸6−O−硫酸基転移酵素(以下「HS6ST」と略記することもある)が単離されており、これらの硫酸基転移酵素にはcDNAのクローニングがなされているものもある。
【0004】
本発明者らは硫酸基供与体である3'-ホスホアデノシン5'-ホスホ硫酸から、硫酸基受容体であるヘパラン硫酸に含まれるN−硫酸化グルコサミン残基の6位水酸基に硫酸基を選択的に転移するヘパラン硫酸6−O−硫酸基転移酵素(当該公知のヘパラン硫酸6−O−硫酸基転移酵素を便宜上本明細書中においてはHS6ST1と記載する)をチャイニーズハムスター、マウス及びヒト由来の培養細胞から既に精製し(J. Biol. Chem.,270,4172-4179(1995))、該酵素のcDNAのクローニングも完了している。
【0005】
ヒト由来の上記HS6ST1(以下「hHS6ST1」とも記載する)のポリペプチド及びそれをコードするDNAのアミノ酸配列及び塩基配列をそれぞれ配列番号2及び1に示す。また、マウス由来のHS6ST1(以下「mHS6ST1」とも記載する)のポリペプチド及びそれをコードするDNAのアミノ酸配列及び塩基配列をそれぞれ配列番号8及び7に示す。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ヘパラン硫酸に含まれるN−硫酸化グルコサミン残基の6位の水酸基に選択的に硫酸基を転移する公知のHS6ST1はCDSNS(完全脱硫酸化N再硫酸化)−ヘパリンに対しても強い酵素活性を示すが、上記多糖と同様にヘパリン骨格を有するDAcNS(脱アセチル化N硫酸化)−ヘパロサンなどへの硫酸基転移活性は非常に弱いため、当該酵素を用いたヘパリン骨格構造の修飾には制限があり、多種の修飾体を効率的に得るには、基質特異性の異なる硫酸基転移酵素が必要であることが判明した。従って、本発明の目的は、ヘパリン骨格のグルコサミン残基の6位の水酸基を選択的に硫酸化する新規なグリコサミノグリカン硫酸基転移酵素を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ヘパリン骨格のグルコサミン残基の6位の水酸基を選択的に硫酸化するグリコサミノグリカン硫酸基転移酵素を、上記HS6ST1をコードするDNAをプローブとして、該DNAと類似した塩基配列を有するDNAをスクリーニングにより取得し、HS6ST1とは作用が類似しているが基質特異性が異なる硫酸基転移酵素が、該DNAにより発現されることを確認して本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、以下の性質を有する硫酸基転移酵素のポリペプチドをコードするDNAを提供する。
▲1▼作用:
硫酸基供与体から、硫酸基受容体に含まれるN−硫酸化グルコサミン残基の6位水酸基へ硫酸基を選択的に転移する。硫酸基供与体は好ましくは3'-ホスホアデノシン5'-ホスホ硫酸である。
▲2▼基質特異性:
ヘパラン硫酸、CDSNS−ヘパリン及びDAcNS−ヘパロサンのN−硫酸化グルコサミン残基の6位水酸基には硫酸基を転移するが、コンドロイチン及びケラタン硫酸には硫酸基を実質的に転移しない。
▲3▼分子量
酵素を構成するポリペプチドの分子量の計算値が54,000以上60,000以下。
▲4▼構成アミノ酸数:
酵素を構成するポリペプチドのアミノ酸の数が440以上530以下である。
【0009】
上記DNAは哺乳類、特にマウス由来であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は以下の(a)又は(b)のポリペプチドをコードするDNAを提供する。
(a)配列番号4又は6のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)(a)のポリペプチドのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは転移したアミノ酸配列からなり、かつ硫酸基供与体から硫酸基受容体に含まれるN−硫酸化グルコサミン残基の6位水酸基に硫酸基を転移する酵素活性を有する又は(a)のポリペプチドと同一の抗原性を有するポリペプチド。
【0011】
本発明のDNAとして具体的には、配列番号4のアミノ酸配列の全配列又はその部分配列をコードする塩基配列、又は配列番号6のアミノ酸配列の全配列又はその部分配列をコードする塩基配列を有するDNAが挙げられる。さらに具体的には、配列番号3又は5の塩基配列を有するDNAが挙げられる。
【0012】
さらに、本発明は、配列番号1の塩基配列に相補的な配列を有するヌクレオチド鎖に対し、37.5%ホルムアミド、5×SSPE(塩化ナトリウム/リン酸ナトリウム/EDTA(エチレンジアミン四酢酸)緩衝液)、5×デンハルト溶液(Denhardt's solution)、0.5% SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)存在下42℃の条件下において、ハイブリダイズするDNAであって、配列番号1の塩基配列との相同性が45〜60%であることを特徴とするDNAであり、更にそれがコードするポリペプチドを含む硫酸基転移酵素がヘパラン硫酸、CDSNS−ヘパリン又はDAcNS−ヘパロサンのN−硫酸化グルコサミン残基の6位水酸基を硫酸化する活性を有することを特徴とするDNAを提供する。
【0013】
本発明は、また、上記DNAによってコードされる硫酸基転移酵素及びそのポリペプチドの全部又は部分からなるポリペプチドを提供する。
【0014】
なお、本発明DNAがコードするポリペプチドを含む硫酸基転移酵素を本明細書において便宜的にヘパラン硫酸6−O硫酸基転移酵素と称することもあるが、これは当該酵素活性が、ヘパラン硫酸のみに硫酸基を転移する活性であることを意味するわけではなく、例えば本酵素は、CDSNS(完全脱硫酸化N再硫酸化)−ヘパリン中又はDAcNS(脱アセチル化脱硫酸化)−ヘパロサン中のN−硫酸化グルコサミン残基の6位の水酸基にも選択的に硫酸基を転移する。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。
<1>本発明DNA
本発明DNAの一態様は、下記の理化学的性質を有する硫酸基転移酵素をコードするDNAである。
▲1▼作用:
硫酸基供与体から、硫酸基受容体グリコサミノグリカンに含まれるN−硫酸化グルコサミン残基の6位水酸基へ硫酸基を選択的に転移する。すなわち、上記硫酸基受容体のN−硫酸化グルコサミンの6位の水酸基以外には実質的に硫酸基を転移しない。硫酸基供与体としては活性硫酸(3’ホスホアデノシン5’−ホスホ硫酸;以下「PAPS」とも記載する)が好適には挙げられる。ヘキスロン酸残基には実質的に硫酸基を転移しない。
▲2▼基質特異性:
ヘパラン硫酸、CDSNS−ヘパリン(Completely Desulfated, N-Sulfated Heparin:完全脱硫酸化後、グルコサミン残基をN−硫酸化したヘパリン)及びDAcNS−ヘパロサン(Deacetyl N-Sulfated Heparosan:グルコサミン残基をN−脱アセチル化後、N−硫酸化したヘパロサン)のN−硫酸化グルコサミン残基の6位水酸基には硫酸基を転移するが、コンドロイチン及びケラタン硫酸には硫酸基を実質的に転移しない。また、マウスEHS腫瘍由来のヘパラン硫酸に対してCDSNS−ヘパリンと同等(例えば後述の実施例記載の活性測定法による測定値で70%以上、好ましくは85%以上の活性を有する)に硫酸基を転移する。さらに一般にNDS−ヘパリン(N-Desulfated Heparin:N−脱硫酸化したヘパリン)のように、グルコサミンの2位アミノ基に硫酸基を有しないヘパリン又はヘパラン硫酸には硫酸基をほとんど転移しない。したがって、本発明酵素の硫酸基受容体としては、ヘパリン骨格又はその断片のグルコサミン残基の2位アミノ基が硫酸化されているN−硫酸化グルコサミン残基(未修飾のヘパラン硫酸に含まれるN−硫酸化グルコサミン残基を含む)が必要であると考えられる。
▲3▼分子量:
酵素を構成するポリペプチドの分子量の計算値(アミノ酸配列から算出した値を意味する)が54,000以上60,000以下である。
例えばマウスから得られる硫酸基転移酵素には、上記の性質の範囲内で類似の作用及び類似した基質特異性を有し、異なる分子量を有するアイソフォーム(アイソザイム)が存在する。以後の説明においては、アミノ酸配列から算出した分子量が58,092Daである酵素をmHS6ST2、分子量が55,070Daである酵素をmHS6ST3とも記載する。
▲4▼構成アミノ酸数:
酵素を構成するポリペプチドのアミノ酸の数が440〜530である。
上述のmHS6ST2のアミノ酸数は506、mHS6ST3のアミノ酸数は470である。
【0016】
上記の理化学的性質は、J. Biol. Chem. 270, 4172-4179(1995)に記載の方法に従って測定することができる。
【0017】
本発明DNAは、本発明により初めて単離されたDNAであり、具体的にはmHS6ST2のポリペプチドである配列番号4のアミノ酸配列の全てをコードする塩基配列又はその部分配列、及びmHS6ST3のポリペプチドである配列番号6のアミノ酸配列の全てをコードする塩基配列又はその部分配列をコードするDNAが挙げられ、かつ好ましいがこれに限定はされない。上記の「部分配列を有するDNA」とは、例えばmHS6ST2又は3のポリペプチドをコードするDNAとハイブリダイズしmHS6ST2又は3のDNAを検出するためのプローブとして使用することができる又はそれによってコードされるポリペプチドがmHS6ST2又は3活性を有する(mHS6ST2又は3活性を有するとは、mHS6ST2又は3と同じ基質特異性があることを意味する)あるいはmHS6ST2又は3と同様の抗原性を有するDNAを示す。上記ハイブリダイズの条件は、一般的にハイブリダイズで使用される条件であり、例えば42℃で3時間、50% ホルムアミド、5×SSPE、5×デンハルト溶液(Denhardt's solution)、0.5% SDS、変性サケ精子DNA100μg/ml存在下と実質的に同一の条件等が例示される。mHS6ST2又は3活性は上述の方法、抗原性は公知の免疫学的方法によって測定できる。
【0018】
本発明DNAの他の態様は、以下の(a)又は(b)のポリペプチドをコードするものであり、このポリペプチドをコードしているのであればその塩基配列は特に限定はされない。
(a)配列番号4又は6のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)(a)のポリペプチドのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは転移したアミノ酸配列からなり、かつ硫酸基供与体から硫酸基を硫酸基受容体グリコサミノグリカンに含まれるN−硫酸化グルコサミン残基の6位の水酸基に転移する酵素活性を有する又は(a)のポリペプチドと同一の抗原性を有するポリペプチド。
【0019】
すなわち、配列番号4又は6のアミノ酸配列は、硫酸基供与体から、硫酸基受容体に含まれるN−硫酸化グルコサミン残基の6位水酸基に硫酸基を選択的に転移する活性を実質的に害さない1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入又は転位を有していてもよく、そのようなアミノ酸配列の置換、欠失、挿入又は転位を有するポリペプチドをコードする、塩基配列の置換、欠失、挿入及び転位を有するDNAのいずれもが本発明DNAに包含される。本明細書における「アミノ酸の数個」とは該酵素の活性が失われない程度の変異を起こしてもよいアミノ酸の数を示し、通常には全アミノ酸数の5%以下の数である。例えば500アミノ酸残基からなるポリペプチドの場合、25程度以下の数を示す。N−硫酸化グルコサミン残基の6位に硫酸基を転移する酵素の活性の測定方法としては公知の方法(例えば、J. Biol. Chem. 270, 4172-4179(1995))を使用することが可能であり、当業者であれば、目的とする酵素活性の有無を指標として、該活性を実質的に害さない1つ以上のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入又は転位を容易に選択することができる。DNAの塩基配列の置換、欠失、挿入又は転位は、両末端に制限酵素切断末端を持ち、変異点の両側を含む配列を合成し、未変異DNAが有する塩基配列の相当する部分と入れ換えることにより、DNAに導入することができる。また、部位特異的変異法(Kramer,W. and Frits, H. J.(1987) Meth. in Enzymol., 154, 350; Kunkel,T.A. et al.(1987) Meth. in Enzymol., 154, 367)などの方法によっても、DNAに置換、欠失、挿入又は転位を導入することができる。
【0020】
本発明DNAとして具体的には、配列番号3又は配列番号5に示す全塩基配列又はその部分配列を有するDNAが挙げられ、かつ好ましい。このようなDNAとしてより具体的には、mHS6ST2ポリペプチドをコードする配列番号3における塩基番号1〜1518及びmHS6ST3ポリペプチドをコードする配列番号5における塩基番号114〜1523の塩基配列からなるDNAが挙げられる。
【0021】
配列番号3に示す塩基配列においては、cDNAのオープンリーディングフレームの5’末端部には2つのイン・フレームのATGコドンが含まれている。2番目のATGコドンの周囲の塩基配列では、Kozakの知見(Kozak, M. (1986)Cell, 44,283-292)による真核細胞の翻訳開始部位の共通配列(TCC(A又はG)CCATGG)と比較すると、5個の塩基が保存されている。また、配列番号5に示す塩基配列においては、cDNAのオープンリーディングフレームの5‘末端部に2つのイン・フレームのATGコドンが含まれている。第1番目のATGコドンの周囲の塩基配列では、上記配列の塩基が6個、第2番目のATGコドンの周囲の塩基配列でも6個保存されている。
【0022】
ところで、β−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼは、フレーム内に2つのATGコドンを含むことが知られている(Nakazawa, K. et al. (1988) J. Biochem, 104, 165-168、Shaper, N. et al. (1988) J. Biol. Chem., 263, 10420-10428)。また、Shaperらは、β−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼは、2箇所からの翻訳開始の結果、長いものと短いものとの両方の形態が合成されることを示している。さらに、Lopezらは、長い形態のものは原形質膜を優先的に標的とし、短い形態のものは主としてゴルジ体内に存在することを示唆する証拠を示している(Lopez, L. et al. (1991) J. Biol. Chem., 266, 15984-15591)。同様に、本発明のHS6STについても、複数のATGコドンが開始コドンとして機能する可能性はあるが、定かではない。しかし、いずれのATGコドンが開始コドンであっても、上記の硫酸基転移酵素のポリペプチドをコードする点では同じであり、いずれのATGコドンから始まる塩基配列を有するDNAも本発明に包含されるものである。
【0023】
配列番号3の最初のATGコドンで始まる単一のオープンリーディングフレームからは、506アミノ酸残基からなり、ポリペプチドの計算分子量が58,092Daで、N−結合グリコシレーション部位である可能性がある9カ所の部位を有するタンパク質が予測される。以後、配列番号3に示す塩基配列からなるDNAを便宜上「本発明DNA1」と示称する。このアミノ酸配列から作成したハイドロパシープロット(図1)から、N末端から8〜23番目のアミノ酸残基に渡る長さ16残基の1つの顕著な疎水性部分が認められ、トランスメンブレン(膜貫通)ドメインを有することが予想され、N末端から24〜506番目のアミノ酸残基からなるポリペプチドも酵素活性を有する可能性がある。
【0024】
また、配列番号5の最初のATGコドンで始まる単一のオープンリーディングフレームからは、470アミノ酸残基からなり、ポリペプチドの計算分子量が55,070Daで、N−結合グリコシレーション部位である可能性がある6カ所の部位を有するタンパク質が予測される。以後、配列番号5に示す塩基配列からなるDNAを便宜上「本発明DNA2」と示称する。このアミノ酸配列から作成したハイドロパシープロット(図2)から、N末端から5〜21番目のアミノ酸残基に渡る長さ17残基の1つの顕著な疎水性部分が認められ、トランスメンブレン(膜貫通)ドメインを有することが予想され、N末端から22〜470番目のアミノ酸残基からなるポリペプチドも酵素活性を有する可能性がある。
【0025】
尚、遺伝暗号の縮重による異なった塩基配列を有するDNAも本発明DNAに包含されることは、当業者であれば容易に理解されるところである。
【0026】
また、本発明DNAには、本発明DNAに相補的なDNA又はRNAも包含される。さらに本発明DNAは、本発明のHS6ST2又は3のポリペプチドをコードするコード鎖のみの一本鎖であってもよく、この一本鎖およびこれと相補的な配列を有するDNA鎖又はRNA鎖からなる二本鎖であってもよい。また、本発明DNAは、翻訳前に除かれるイントロンの配列を含んでいてもよい。
【0027】
また、本発明DNAは、HS6ST2又は3のポリペプチド全体をコードするコード領域全長(全配列)の塩基配列を有していてもよく、またHS6ST2又は3のポリペプチドの一部分(部分配列)をコードする塩基配列を有するものであってもよい。「ポリペプチドの一部分」とは、HS6ST2又は3活性を有するあるいはHS6ST2又は3と同様の抗原性を有する部分を意味する。
【0028】
本発明のさらに他の態様は、配列番号1の塩基配列に相補的な配列を有するヌクレオチド鎖に対し、37.5%ホルムアミド、5×SSPE、5×デンハルト溶液、0.5% SDS存在下42℃の条件下において、ハイブリダイズするDNAであって、配列番号1の塩基配列との相同性が45〜60%であることを特徴とするDNAであり、更にそれがコードするポリペプチドを含む硫酸基転移酵素がヘパラン硫酸、CDSNS−ヘパリン又はDAcNS−ヘパロサンのN−硫酸化グルコサミン残基の6位水酸基を硫酸化する活性を有することを特徴とするDNAである。
【0029】
本発明で具体的に開示しているDNAがコードするポリペプチドと高い相同性を有するポリペプチド及びそれをコードするDNAも本発明に包含される。上述のようにHS6ST2及び3のポリペプチドは膜貫通領域を有するが、膜内の末端にあたるN末端部から当該膜貫通領域を含む領域を欠失したHS6ST2及び3のポリペプチドの部分もまた本発明に包含される。このようなポリペプチドを具体的に例示すると、例えば配列番号4に示すアミノ酸配列におけるアミノ酸番号24〜506、又は配列番号6に示すアミノ酸配列におけるアミノ酸番号22〜470などが挙げられる。
【0030】
<2>本発明DNAの製造方法
本発明DNAを得る方法について説明する。本発明によりmHS6ST2及び3のポリペプチドのアミノ酸配列が配列番号4及び配列番号6として明らかにされたので、その配列の一部分に基づいて作成したオリゴヌクレオチドプライマーを用いるPCR法(ポリメラーゼ・チェイン・リアクション法)によって染色体DNAあるいはmRNAから本発明のDNAを増幅することによって取得することも可能であり、また、特に、以下の各工程からなるcDNAクローニングにより製造することも可能である。
(1)HS6STのcDNAからプローブを調製する。
(2)培養細胞又は生体組織由来のcDNAライブラリーを調製する。
(3)上記プローブを使用してcDNAライブラリーをスクリーニングしてcDNAを得る。
【0031】
スクリーニングによって、通常には、本発明DNAの完全長cDNAを選択する。
【0032】
しかし、本発明のDNAの製造方法はこれに限定されるものではなく、上記PCR法や、他の公知のcDNAクローニングの手法によっても本発明DNAを製造することができる。
【0033】
以下に、ヒト由来の公知のHS6STcDNA(hHS6ST1cDNA:Habuchi, H.,Kobayashi, M., Kimata, K. (1998) J. Biol. Chem., 273, 9208-9213)を利用した本発明のDNAを製造する方法の一例を具体的に説明する。
【0034】
(1)hHS6ST1cDNAプローブの作成
hHS6ST1cDNAプローブの作成は、通常の方法と同様にして行えばよいが、市販のキットなどを用いて行うことも可能である。具体的方法を示すならば例えば、上記のhHS6ST1cDNAを鋳型DNAとして、例えばファルマシア(Pharmacia)製のReady To GO DNAラベリングキットなどのキットを用い、上記cDNAを含む溶液を95℃で3分程度加熱し、その後氷冷してcDNAを変性させ、このDNAをランダムオリゴヌクレオチドプライマーと放射線或いは蛍光などの通常の標識方法に使用する物質で標識したデオキシヌクレオシドリン酸とを使用して標識を行うことが可能である。
【0035】
(2)cDNAライブラリーの調製
cDNAは、ポリ(A)+RNAを鋳型とした逆転写酵素反応により通常の方法を用いて合成することができる。合成する際は市販のcDNA合成用キットを用いるのが便利である。例えばTimeSavercDNAsynthesiskit(ファルマシアLKBバイオテクノロジー)を用いると、cDNAの合成に加えcDNAをクローニングベクターに連結することもできる。また、市販のcDNAライブラリーを用いることにより、より簡便にcDNAを得ることも可能である。本発明実施例においても市販のマウス脳cDNAλgt11ライブラリーを用いている。クローニングベクターに結合した状態のこれらの組換えDNAを宿主細菌細胞中に導入(トランスフェクション)する。
【0036】
用いる宿主細菌細胞は、用いるクローニングベクターにより選択する必要があるが、通常は大腸菌(エシェリキア・コリ:Escherichia coli(E. coli))を宿主とするクローニングベクターと大腸菌との組み合わせが頻用されているがこれに限定はされない。トランスフェクションは通常、組換えDNAと30mM塩化カルシウムの存在下で細胞膜の透過性を変化させた大腸菌とを混合することにより行われる。λgt11のようなλファージベクターの場合、組換えDNAを直接塩化カルシウム処理した大腸菌に導入もできるが、予め試験管中でファージ外殻に入れて(in vitroパッケージングという)、大腸菌に効率よく感染させる方法が一般に使用されており、市販されているパッケージング用のキット(Gigapack II packaging extract、ストラタジーン(Stratagene)製等)を用いてパッケージングを行うことも可能である。
【0037】
パッケージングした組換えDNAを大腸菌にトランスフェクションするが、用いるクローニングベクターによって用いる大腸菌株を選択する必要がある。すなわち、抗生物質耐性遺伝子を含むクローニングベクターを用いる場合は、大腸菌に抗生物質に対する耐性の性質があってはならず、また、β−ガラクトシダーゼ遺伝子(lacZ)等の遺伝子を含むクローニングベクターを用いる場合は、β−ガラクトシダーゼ活性を発現しない大腸菌を選択する必要がある。
【0038】
このことは、組換えDNAがトランスフェクションされた大腸菌をスクリーニングするために必要なことである。例えば、λgt11クローニングベクターを用いる場合、E.coliY1088等の大腸菌株を選択すればよい。組換えDNAや組換えプラスミドが導入された大腸菌は抗生物質に対する耐性の獲得や、β−ガラクトシダーゼ活性の獲得等によりスクリーニングすることが可能である。具体的には、大腸菌を寒天培地にまき、生育したコロニーを選択すればよい。生育した大腸菌(組換えDNAがトランスフェクションされた大腸菌)は、cDNAライブラリーを構成する。プラスミドにブルースクリプトを用いた場合は、指示菌とともに軟寒天培地に懸濁し、寒天培地上に重層してプラークを形成させればよい。DNA断片が挿入されたプラスミドを保持するファージプラークはβ−ガラクトシダーゼ活性を発現しないので、容易に選択することができる。
【0039】
(3)本発明HS6STcDNAクローニング
次に上記のようにして得られたcDNAライブラリーを、上記プローブを用いてハイブリダイゼーションにより選択することができる。ハイブリダイゼーションは、通常の方法に従って行えばよいが、通常の遺伝子スクリーニングでの条件下と比して緩和された条件下で行う。
【0040】
緩和された条件とは具体的には、例えば37.5%ホルムアミド、5×SSPE(塩化ナトリウム/リン酸ナトリウム/EDTA緩衝液)、5×デンハルト溶液(Denhardt's solution)、0.5% SDSと50μg/mlの変性させたサケ精子DNAを含む溶液中、42℃で3時間、フィルターをプレハイブリダイズする条件などである。32Pラベルしたプローブを上記バッファー中に加え、更に42℃で16時間ハイブリダイズすることで目的のcDNAをスクリーニングすることができる。具体的には、プラークを転写したフィルターを、50℃で1×SSC、0.1% SDS、さらに0.1×SSC、0.1% SDSにより洗浄し、オートラジオグラフィーにより陽性クローンを検出する。選択された陽性クローンからファージDNAを調製し、適当な制限酵素で切断することによりHS6STcDNAを切り出すことができる。上記スクリーニングにより、HS6ST1cDNAも同時に得られるため、当該cDNA断片は、そのまま、あるいは適当なプラスミドにサブクローニングして、塩基配列を決定する。マウス由来のcDNAライブラリーを用いた場合には、mHS6ST1cDNA(配列番号7)、mHS6ST2cDNA(配列番号3)及びmHS6ST3cDNA(配列番号5)が得られる。得られたcDNAから目的のものを決定された塩基配列に基づいて選択する。
【0041】
<3>本発明DNAの塩基配列によってコードされるグリコサミノグリカン硫酸基転移酵素のポリペプチドの全部又は部分からなるポリペプチド
本発明は、上記の本発明DNAによってコードされるグリコサミノグリカン硫酸基転移酵素のポリペプチドの全部又は部分からなるポリペプチドも提供する。本明細書において、上記のポリペプチドの「部分」とは、硫酸基転移活性を有する、抗原性を有するなどの何らかの活性ないし機能を有する部分を意味する。本ポリペプチドは単独であってもよいし、他のポリペプチドと融合していてもよい。
【0042】
本ポリペプチドは、後述のように本発明DNAを適当な宿主で発現させることにより得ることができる。例えば上記のHS6ST2cDNA又はHS6ST3cDNAを適当なベクターに組み込み、当該ベクターに適した宿主細胞に前記ベクターを導入することで、本発明DNAを発現させて、HS6ST2又はHS6ST3のポリペプチドを製造することが可能である。
【0043】
<4>本発明DNAを利用したHS6ST2及びHS6ST3の製造方法
上記本発明DNAで形質転換された細胞を、好適な培地で培養し、本発明DNAがコードするポリペプチドを培養物中に生成蓄積させ、その培養物から本発明ポリペプチドを採取することによって、本発明酵素のポリペプチドを製造することができる。
【0044】
本発明DNAで形質転換された細胞は、公知の発現ベクターに本発明DNAの断片を挿入して組換えプラスミドを構築し、この組換えプラスミドを用いて形質転換を行うことによって得ることができる。細胞としては大腸菌等の原核細胞や、酵母、昆虫細胞、哺乳類細胞等の真核細胞が例示される。
【0045】
本製造方法においては、タンパク質の製造に通常用いられる宿主−ベクター系を使用することができ、例えば、COS−7細胞等の哺乳類由来の培養細胞とpCXN2(Niwa, H., Yamanura, K. and Miyazaki, J. (1991) Gene 108, 193-200)又はpFLAG−CMV−2(イーストマン コダック(Eastman Kodak)製)等の哺乳類細胞用発現ベクターとの組み合わせを採用することができる。培地や培養条件は、用いる宿主すなわち細胞に合わせて適宜選択される。
【0046】
本発明DNAは直接発現させてもよいし、他のポリペプチドとの融合ポリペプチドとして発現させてもよい。また、本発明DNAは全長を発現させてもよいし、一部を部分ペプチドとして発現させてもよい。
【0047】
培養物からの本発明ポリペプチドの採取は、公知のポリペプチドの精製方法によって行うことができる。なお培養物には、培地および当該培地中の細胞が包含される。
【0048】
【実施例】
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
<1>マウスHS6ST2及び3cDNAクローニングと塩基配列の決定
(1)スクリーニング用プローブの調製
Habuchiらの方法に従って製造したヒト胎児脳cDNAライブラリーから得られたヒト由来のhHS6ST1cDNA(Habuchi,H. et al.(1998) J. Biol. Chem., 273, 9208-9213)を鋳型DNAとして、Ready To GO DNAラベリングキット(ファルマシア(Pharmacia)製)を使用してスクリーニング用のプローブを作成した。すなわち精製ヒトHS6ST1cDNA(50ng)溶液を95℃で3分間加熱処理し、すぐに氷冷して上記cDNAを変性した。変性したcDNAに蒸留水20μlを加えて0℃で1時間静置し、それを再構成したランダムプライマーを含む反応キットの入ったマイクロチューブへ移した。さらに、[α-32P]dCTP(3000 Ci/mmol:アマシャム(Amersham)製)50μCiを添加し、蒸留水で全量を50μlに調整して37℃で30分間インキュベートした。この溶液をNICK Spin Column(ファルマシア(Pharmacia)製)で精製し、32Pラベルしたプローブを調製した。
【0049】
(2)HS6ST2及び3のcDNAのスクリーニング
マウス脳cDNAをλgt11クローニングベクターにEcoRIサイトをアームとして組み込んだクロンテック(Clontech)製のマウス脳cDNAライブラリーを、宿主細胞E.coli Y1088に組み込んだ後、当該宿主細胞をプレート1枚当たり2〜4×104個のプラークが形成されるようにまき、約2×106個のプラークをスクリーニングした。λgt11cDNAライブラリーから生じたプラークを転写したHybond N+ナイロン膜(アマシャム(Amersham)製)をアルカリ固定法により固定し、37.5%ホルムアミド、5×SSPE(塩化ナトリウム/リン酸ナトリウム/EDTA緩衝液)、5×デンハルト溶液(Denhardt's solution)、0.1% SDSと50μg/mlの変性させたサケ精子DNAを含む溶液に浸し、42℃で3時間プレハイブリダイズした。上記(1)で調製した32Pラベルしたプローブを上記バッファー中に加え、42℃で16時間ハイブリダイズした。フィルターを、50℃で1×SSPE、0.1% SDS、さらに0.1×SSPE、0.1% SDSにより洗浄した後、オートラジオグラフィーにより19個の陽性クローンを検出した。
【0050】
(3)マウス由来のHS6ST2及び3cDNAの塩基配列の決定
19個の陽性クローンからファージDNAを調製し、EcoRIでインサート部分を切り出し、ブルースクリプトII KS(-)のEcoRIサイトに導入した。塩基配列はBigDye Terminator kit(アプライド バイオシステム(Applied Biosystems)製)を使用してキャピラリーDNAシークエンサー(ABI 310:アプライドバイオシステム(Applied Biosystems)製)により決定した。塩基配列はコンピュータソフトウェアのジェネティックス-マック(GENETYX-MAC:ソフトウェアデベロプメント社製)により編集、解析した。その結果、19個の陽性クローンは、3種のcDNA配列(2.0kbp、1.9kbp、及び1.7kbp)に分類された。塩基配列から、2.0kbpのクローンはスクリーニング用プローブとして用いたヒトHS6ST1cDNAに対応するマウスのHS6ST1のcDNAであることが判明した(配列番号7)。
【0051】
1.9kbp(HS6ST2cDNA)と1.7kbp(HS6ST3cDNA)の2つのクローンの塩基配列を決定し(HS6ST2cDNA:配列番号3、及びHS6ST3cDNA:配列番号5)、さらにこの配列からコードされたアミノ酸配列を予測した(HS6ST2:配列番号4、及びHS6ST3:配列番号6)。
【0052】
HS6ST2cDNAのアミノ末端の配列には2つのイン・フレームのATGコドンが含まれた。最初のATGコドンから開始するオープンリーディングフレームからは506アミノ酸残基の58,092Daで9カ所の糖鎖結合可能域を持つタンパク質(HS6ST2)が予想された。このアミノ酸配列から作成したハイドロパシープロットにより、HS6ST2はアミノ末端領域の8番目から23番目までの16アミノ酸残基が明確な疎水領域であるタイプIIの膜タンパク質であることが予想された(図1)。
【0053】
また、HS6ST3cDNAのアミノ末端の配列には2つのイン・フレームのATGコドンが含まれた。最初のATGコドンから開始するオープンリーディングフレームからは470アミノ酸残基の55,070Daで6カ所の糖鎖結合可能域を持つタンパク質(HS6ST3)が予想された。このアミノ酸配列のハイドロパシープロットにより、HS6ST3はアミノ末端領域の5番目から21番目までの17アミノ酸残基が明確な疎水領域であるタイプIIの膜タンパク質であることが予想された(図2)。
【0054】
HS6ST2及びHS6ST3のアミノ酸配列を、スクリーニングで同時に得られたマウス由来のHS6ST1のアミノ酸配列と比較すると、その相同性は、51%(HS6ST2)及び57%(HS6ST3)であった(図3)。
また、マウス由来のHS6ST1、2及び3のアミノ酸配列をヒト由来のHS6ST1と比較すると、その相同性は、それぞれ、96%、50%及び55%であった。
【0055】
<2>マウス由来のcDNAの発現
(1)発現プラスミドの構築
それぞれのcDNAを発現させるために、発現ベクターにcDNA断片を挿入し、組換えプラスミドを構築した。単離したマウス由来のオープンリーディングフレームを含むcDNAを哺乳動物の発現ベクターpFLAG−CMV−2(イーストマン コダック製)のHindIII/EcoRI部位に導入した組換えプラスミドであるpFLAG−CMV−2mHS6ST2及びpFLAG−CMV−2mHS6ST3を構築した。このプラスミドは酵素などの活性を有さないタグとしての配列であるFLAGとそれぞれのmHS6ST2及び3の融合タンパク質を発現するように構築されている。陽性対照としてmHS6ST2及び3cDNAのスクリーニングの際に同時に得られたmHS6ST1のcDNA(mHS6ST1cDNA)を使用して同様の発現ベクターを作成した(pFLAG−CMV−2mHS6ST1)。
【0056】
(2)COS−7細胞中でのmHS6STcDNA2及び3のトランジェント(一過性)な発現
mHS6ST2及び3cDNAの発現の宿主にはCOS−7細胞を用いた。COS−7細胞を、50unit/mlペニシリン、50μg/mlストレプトマイシン、10%(v/v)牛胎児血清を含む3mlのダルベッコの調製イーグル培地(Life Technologues製)に懸濁して、上記で製造した発現ベクターをDEAE−デキストラン法(Aruffo,A., Current Protocols in Molecular Biology, 1992, Supplement 14, Unit 16.13.1-16.13.7, Greene Publishing Associates/Wiley-Interscience, New York)によりトランスフェクトした後、37℃の条件下で培養を行った。
【0057】
細胞を67時間培養し、培養上清を回収し、細胞層をダルベッコの調製イーグル培地のみで洗浄後、剥離し、0.5%(w/v)Triton X-100、0.15M NaCl、10mM MgCl2及び20%(v/v)グリセロールを含む1mlのTris−HCl緩衝液(10mM、pH7.2)中で破砕し、10,000×gで30分間遠心処理を行い上清を回収して細胞抽出液とした。この細胞抽出液中のHS6ST2又はHS6ST3、及びHS2ST1の活性を調べた(表1)。なお、活性の測定はKobayashi, M., Habuchi, H., Habuchi, H., Yoneda, M., Habuchi, O., and Kimata, K. (1997) J. Biol. Chem. 272, 13980-13985に記載の方法に従って行った。
【0058】
対照としてcDNAを含まないpFLAG−CMV−2をトランスフェクトしたCOS−7細胞、上記で作成したHS6ST1cDNAを導入したpFLAG−CMV−2(pFLAG−CMV−2mHS6ST1)をトランスフェクトしたCOS−7細胞を用いた。
【0059】
【表1】
【0060】
表1で示したように、上記で単離されたmHS6ST2cDNA及びmHS6ST3cDNAを発現させるベクターを保持する細胞及びmHS6ST1cDNAを発現させるベクターを保持する細胞の、CDSNS−ヘパリンへの硫酸基転移活性は、対照のcDNAを保持しないプラスミドを導入した細胞の8倍以上であった。これに対してHS2ST活性の増加は起こらなかった。これらの結果から、mHS6ST2及びmHS6ST3が、CDSNS−ヘパリンへの硫酸基転移活性においてmHS6ST1と類似した活性を持つことが証明された。
【0061】
(3)基質特異性の検討
本発明で製造されたmHS6ST2及びmHS6ST3を、抗FLAG抗体を用いるアフィニティークロマトグラフィーにより、精製、単離して、その基質特異性を検討した(表2)。活性の測定方法は、前述のHabuchi, H., Habuchi, O., and Kimata, K. (1995) J. Biol. Chem. 270, 4172-4179及びKobayashi, M., Habuchi, H., Habuchi, O., Saito, M., and Kimata, K. (1996) J. Biol. Chem. 271, 7645-7653に記載の方法に従い、硫酸基受容体を変化させることによって行った。硫酸基受容体は上記文献に記載されているものを用いた。結果は、CDSNS−ヘパリンに対する活性を100としたときの相対値で示す。比較の対照として、上述の発現ベクターpFLAG−CMV−2mHS6ST1を用いて製造し、上述と同様の精製法を用いて単離したHS6ST1(マウス由来)を使用した。
【0062】
【表2】
【0063】
mHS6ST2及びmHS6ST3は、mHS6ST1と比較して、DAcNS−ヘパロサン及びマウスEHS腫瘍由来のヘパラン硫酸に対する硫酸基転移活性が強い点が特徴である。また、CDSNAc−ヘパリンに対する硫酸基転移活性が著しく低いことから、mHS6ST2及び3の硫酸基転移活性には、ヘパリン骨格中のN−硫酸基を有するグルコサミン残基が必要であることが明かとなった。
【0064】
<3>mHS6ST2及び3の各臓器における発現
マウスの各種臓器におけるHS6ST2及び3の発現をノザンブロッティングにより分析を行った。すなわち、マウスの心臓、脳、脾臓、肺臓、肝臓、骨格筋、腎臓及び精巣から抽出したポリ(A)+RNAをpH7.0の50%(V/V)ホルムアミド、6%(V/V)ホルムアルデヒド、20mM MOPSバッファーで65℃において10分間変性し、6%(V/V)ホルムアルデヒドを含む1.2%アガロースゲルで電気泳動を行った。50mMのNaOHで20分間処理した後、20×SSC(酢酸ナトリウム/塩化ナトリウム緩衝液)で45分間中和し、ゲル中のRNAをMult blotting membrane(クロンテック(Clontech)製)に一晩転写した。DNAプローブとしてmHS6ST2cDNA、mHS6ST3cDNA及びmHS6ST1cDNA(比較のため)を32Pラベルしたプローブ(1×106cpm/ml)、ハイブリダイズ用溶液としてExpressHyb Hybridization Solution(クロンテック(Clontech)製)を用い、キットに添付された手順書に従って行った。すなわち、ExpressHyb Hybridization Solutionを68℃に加熱し、Mult blotting membraneを68℃で30分間、上記ExpressHyb Hybridization Solution中で振盪してプレハイブリダイズを行った。上記プローブを95℃で2分間変性させて急冷し、その後このプローブを含むExpressHyb Hybridization Solution5ml中で上記Mult blotting membraneを68℃1時間振盪した。この膜を洗浄液で30分室温で振盪し、更に50℃で40分間洗浄液中で振盪した。このように調製した放射性プローブが結合したMult blotting membraneを用いてオートラジオグラフィーによりX線フィルムに感光させた。その結果、mHS6ST1は肝臓で3.9kbのバンドが観察されたのに対し、mHS6ST2は脳及び脾臓において4.6kbのバンドが観察され、mHS6ST3は4.0kbのバンドが心臓、肝臓、骨格筋及び腎臓、2.4kbのバンドが脾臓以外の臓器で観察された。このことは、mHS6ST1、mHS6ST2及びmHS6ST3はそれぞれ発現部位の異なることを示している。
【0065】
【発明の効果】
本発明により、ヘパリン骨格又はその部分構造を有する糖又は糖鎖に含まれる6位が硫酸化されていないN−硫酸化グルコサミン残基の6位の水酸基に硫酸基を選択的に転移し、従来から知られているHS6STとは基質特異性が異なるヘパラン硫酸6−O−硫酸基転移酵素2(HS6ST2)及びヘパラン硫酸6−O−硫酸基転移酵素3(HS6ST3)をコードする塩基配列を有するDNAが得られる。また更に該DNA由来のHS6ST2及び3、更にそのポリペプチドが得られる。
【0066】
本発明により、HS6ST2及び3をコードする塩基配列を有するDNAが得られたので、HS6ST2及び3を工業的に使用可能な程度まで大量生産できることが期待され、また、従来酵素反応で硫酸基を転移することが不可能であった基質に対しても酵素反応により硫酸基を転移することが可能となる。
【0067】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】mHS6ST2のアミノ酸配列から作成したハイドロパシープロットを示す図。
【図2】mHS6ST3のアミノ酸配列から作成したハイドロパシープロットを示す図。
【図3】mHS6ST1、mHS6ST2及びmHS6ST3の相同性を示す図。
Claims (4)
- 以下の(a)又は(b)のポリペプチドをコードするDNA。
(a)配列番号4又は6のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)(a)のポリペプチドのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは転移したアミノ酸配列からなり、かつ硫酸基供与体から硫酸基受容体グリコサミノグリカンに含まれるN−硫酸化グルコサミン残基の6位水酸基に硫酸基を転移する酵素活性を有するポリペプチド。 - 配列番号3又は5の塩基配列を有するDNA。
- 以下の(a)又は(b)のポリペプチド。
(a)配列番号4又は6のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)(a)のポリペプチドのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは転移したアミノ酸配列からなり、かつ硫酸基供与体から硫酸基受容体グリコサミノグリカンに含まれるN−硫酸化グルコサミン残基の6位水酸基に硫酸基を転移する酵素活性を有するポリペプチド。 - 脱アセチル化N硫酸化−ヘパロサンに、硫酸基供与体の存在下で請求項3に記載のポリペプチドを接触させることを特徴とする、6位が硫酸化された脱アセチル化N硫酸化−ヘパロサンの製造方法。
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