【発明の詳細な説明】
カオリン類非晶質誘導体
本発明は、カオリン類鉱物誘導体、特に、大きな表面積及び/又は大きなカチ
オン交換容量を持つカオリン類誘導体に関する。
カオリン類誘導体鉱物は、カオリナイト、ネークライト、ディッカイト及びハ
ロイサイトを含み、天然に存在する最も一般的な粘土鉱物の一つである。これら
は、1:1の層状構造、即ち各層が四面体の珪酸塩板と八面体板から成り、八面
体側の2/3がアルミニウムで占められている構造を有する。カオリナイト、ネ
ークライト及びディッカイトは、全て理論化学組成、Al2Si2O5(OH)4を有する。
これらは、1:1の層が積層される方法だけが互いに相違する。ハロイサイト
は、その完全に水和した形では理論化学組成、Al2Si2O5(OH)4・2H2Oを有し、層
間層に分子状の水を含む事で、この類の他の3つの鉱物と相違する。
カオリン類鉱物の中で、カオリナイトは最も豊富であり、その構造、性質及び
工業的応用に関して大いに注目されてきた。然しながら、前述のポリタイプのそ
の近接類似性の故に、カオリナイトの多くの性質及び用途が他のポリタイプに等
しく適用する。従って、便宜の為に、以下の記述は、カオリナイト及びハロイサ
イトに対して主として限定するが、本発明は、ネークライト及びディッカイトに
も等しく適用する事は、当業者によって容易に認識されるものであることは留意
されるべきである。
天然産のカオリンは、一般に広い範囲の粒径、粒径の結晶性、少量元素成分及
び中間層反応に対する化学反応性を有する。0.5〜2.0μmの粒径範囲に分類した
カオリンは、一般に約5m2/gの表面積と、10meq./100gm以下のイオン交換容量を
有する。これら、及びその他の性質、例えば不透明性及びレオロジーはカオリン
を紙の塗布及び充填、陶磁器、陶器類及び衛生陶器製品及び顔料及びゴムの充填
剤を含む広範囲の用途に適するものとする。
これらの性質は、カオリンを、触媒、担体、吸収剤等として容易に利用する事
を許さない。然しながら、これらの表面積を増加する事ができれば、それらの有
用性はさらに増大し、触媒、金属捕捉剤、担体、吸収剤等としての使用を含む多
くの他の応用に使用出来る。この観点から、薄片化構造が、層間の反応に利用し
うる大きな表面積を作る為のポテンシャルを有するが故に、層状化カオリン構造
を薄片化する為の方法を見出す為の少なからぬ、そして今なお進行中の興味が存
在する。今日まで、カオリナイト及びそのポリタイプの中間層に関しての相当な
研究にも拘らず、薄片化は明らかにされていない。ラハブ(N.Lahav)の最近の研
究[(1990)、Clays and Clay Minerals 38、219-222]は、水溶液中でジメチル
スルホキシド及びフッ化アンモニウムで処理した薄片化カオリナイトの安定な懸
濁液を提案している。この結果は、粒径の変化に基づくものと推定されるが、カ
オリナイト反応生成物の独立的存在を証明するものではない。
それ故、本発明の目的は、少なくとも部分的に薄片化した、従ってその帰結と
して元のカオリン類鉱物より大きな表面積を有するカオリン類鉱物の誘導体を提
供する事である。
本発明の目的の一つは、カオリン非晶質誘導体(KAD)の製造法を提供する事で
あり、この方法は、カオリン類鉱物(Al2Si2O5(OH)4に対するアルカリ金属ハライ
ド(MX)のモル比が、5〜アルカリ金属ハライドの飽和濃度までで、カオリン類鉱
物を水性アルカリハロゲン化物と反応させものである。この方法は、均一な単一
相のカオリンに限定されることなく、カオリンにあっては、アナターゼ、イルメ
ナイト、ジオタイト(geothite)、石英又はクリストバライトの様な不純物相を
含んでいてもよく、同様の方法で処理される場合は、主としてKADを含む物質と
なってもよい。カオリンは、上述の様な理想化学量論から大いに逸脱していても
よく、例えば鉄酸化物を2重量%まで含んでいてもよい。カオリン非晶質誘導体
の形成方法は、カチオンとして、例えばFe2+又はFe3+の有意量を個々の結晶の構
造又は表面上に含むカオリンにも適用できる。
カオリンに対するアルカリ金属ハライドの好ましいモル比は、15〜25の範囲で
ある。
本発明の他の観点は、カオリン非晶質誘導体それ自身に関するものである。
反応は、カオリン非晶質誘導体に転換し得るに十分な時間、昇温下に適当に行
われる。標準圧力条件は、転換反応に十分であるが、主として八面体配位アルミ
ニウム化合物の、主として四面体配位アルミニウムの非晶質誘導体への転移は、
適当な反応体に与えられる温度、圧力及び反応時間の適切な組合せによって起こ
す事ができる。例えば、KADは、カオリンを150℃までの温度でアルカリハライド
と反応させる事により形成できる事は、本発明の広範囲なクレームの範囲内であ
る。必要に応じて、カオリン及びハライドは、非晶質誘導体を形成する為に、高
圧下(1010kg/cm2(1kbar)まで)、高温(300℃まで)で、短時間反応させて
もよい。
好ましくは、カオリンを水性アルカリ金属ハライド溶液中に完全に分散し、こ
の分散体を大気圧下で70℃〜150℃の温度で1分〜100時間加熱し、完全
な転換を起こさせる。過剰のアルカリ金属ハライドは、次いで、ハライドが溶出
液から検出されなくなるまで水洗浄によって反応混合物から除去される。得られ
た固体は、KADと、相対的に不溶なハライド副生成物の混合物を含む。ハライド
副生成物は、固体混合物を水酸化アルカリで洗浄する事により除去され、実質的
に純粋なカオリン非晶質誘導体が残る。
反応条件は、個々のカオリン層の部分的変更だけが、それらの完全な分解又は
溶解なしに生起する様な条件である。幾つかのその「層」の内側表面は、未反応
カオリンに比較して比表面積で実質的に増加した化学変更の後で曝露されて残る
。
この方法で調製された乾燥カオリン非晶質誘導体は、45m2/g〜400m2/gの比表
面積、即ち出発物質の何倍にもなった比表面積を有する白色粉末である。このカ
オリン非晶質誘導体の一般的な化学組成は、走査型電子顕微鏡でのエネルギー拡
散X線分光分析、湿潤化学分析及び電子ミクロ分析の組合せによって決められた
如く、
K1.1Al1.33Si2O5.5(OH)2.0F0.1・1.9H2O
である。
カオリン非晶質誘導体の組成は、出発物質の組成、反応が完結したかどうか(
即ちどの程度のカオリン出発物質が残ったか)、及び水及び水酸化アルカリでの
洗浄によって除去された反応副生成物の範囲がどの程度かに依存する。若し我々
が上述の様な鉱物不純物は存在せず、反応生成物は徹底的に洗浄されたと推定す
れば、カオリン非晶質誘導体の組成は、通常次の様な範囲となるであろう。
M p Alq Si2Or(OH)s X t・uH2O
ここで、Mはアルカリ金属カチオンであり、Xはハライドであり、0.5≦p≦2.
0、1.0≦q≦2.2、4.5≦r≦8.0、1.0≦s≦3.0、0.0≦t≦1.0及び0.0≦u≦3.0であ
る。
カオリン非晶質誘導体の構造及び形態は、NMR(核磁気共鳴)、XRD(X線回折)、S
EM(走査型電子顕微鏡)、及びTEM(透過型電子顕微鏡)で分析された。
固相NMRは核磁気の狭い範囲での化学的環境についての情報を提供出来る。特
に、27Al NMRは、配位環境、即ち原子が4、5又は6配位なのかどうかに対して
高感度であり、一方、アルミノシリケートの骨組に対しては、29Si NMRは、近隣
の四面体側の数及び占有についての情報、例えば、Si(nAl)でn=0〜4と解析
出来る情報を与える事ができる。
KADに対する27Al MAS NMRスペクトルは、〜55ppm(FWHM〜16ppm)に中心
を持つ主要ピークを与え(Fig.1b参照)、これは四面体配位アルミニウムと理解
される。これは、〜0ppm(FWHM〜20ppm)で単一の共鳴を与えるカオリナイ
トの27Al MAS NMRスペクトルとは対照的であり、八面体配位アルミニウムに相当
する。
KADに対する29Si MASNMRスペクトルは、-86ppmに中心をもつ広い(FWHM〜13pp
m)シグナルから成る(Fig.2b)。これは、-91.5ppm(FWHM〜1.4ppm)に中心を持つ
カオリナイトで観察された非常に狭いシグナルと対照する。層状化構造の崩壊の
結果と期待されるこのピークの広がりを除いては、平均的化学環境は、カオリナ
イト出発物質におけるとほぼ同様である。
KADは、XRD非晶質であり、即ち、何ら実質的に長い範囲の構造的順序を示さな
い。KADのXRD回折像は一般的に、CuKα放射線に対して14°と40°2θの間の広
い山から成る。回折ピークは、アナターゼ或いは石英の様な不純物相に属するも
の以外は観察されず、これらはカオリン出発物質からのものであろう。KADを水
、次いで水酸化アルカリ溶液で徹底的に洗浄しないと、少量の反応副生成物を完
全に避ける事が困難である。アルカリハライドがRbX又はCsXであれば、広い回折
ピークは、XRDパターンにおいて、KRDのものである広い山の中心に生起する。
高強度走査型電子顕微鏡及び透過型電子顕微鏡は共に、KADが、凡その直径が
〈50nmの非常に小さな他形的粒子の凝集体から成る事を示す。Fig.3a及び3bは
、反応前及び反応したKAD生成物それぞれの一般的なカオリナイト粒子のTEMの顕
微鏡写真を示す。大きな、マイクロメーターサイズの五角形板のカオリナイト(F
ig.3a)から、大きな集団(〜1μmサイズ)に凝集している他形的なナノメータ
ーサイズ(〜40nm)の粒子への形態上の著しい変化が注目される。Fig.4a及び4bは
、一般的な管状のハロイサイト粒子及びこの出発物質からの反応したKAD生成物
それぞれのTEM顕微鏡写真を示す。
上述の通り、カオリン非晶質誘導体は、次の化学組成物を有する、
M p Alq Si2Or (OH)sX t・uH2O
ここで、Mはアルカリ金属カチオンであり、Xはハライドであり、0.5≦p≦2.
0、1.0≦q≦2.2、4.5≦r≦8.0、1.0≦s≦3.0、0.0≦t≦1.0及び0.0≦u≦3.0であ
る。
一つの特定の形態では、調製された様なカオリン非晶質誘導体は、M=Kの様な
カリウム元素を含む。この場合及び後の用語において、頭文字語「KAD」は、断
りなければカリウム含有カオリン非晶質誘導体を意味する。
この物質においては、少なくとも部分的に、アルカリ金属カチオンを水溶液中
で安定な任意のカチオンで交換する事が可能である。その様な交換カチオンとし
ては、その他のアルカリ金属カチオン、アルカリ土類カチオン、遷移金属カチオ
ン、ランタニド及びアクチニドカチオン、重金属カチオン及びアンモニウムが挙
げられる。交換は全てのカチオンに対して完全には進まないが、多数の遷移金属
カチオン(例えば、Mn2+、Cr3+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Ag+)、ランタニド
カチオン(例えば、La3+、Nd3+)及び重金属カチオン(例えは、Pb2+、Cd2+、Hg2+
)は完全に進む。幾つかのカチオン(例えば、Pb2+、Cu2+)では、交換は室温
で3時間後に完結するが、他のカチオン(例えば、Zn2+)は、長時間、且つ11
0℃までの温度を必要とする。交換反応を受けた非晶質誘導体のこの型に使用さ
れる用語は、交換後の主たる元素を含む(例えば、以下において例示される様に
、M-KAD、ここでM=Cu又はM=Pb)。
この様なカチオン交換は、上述の未交換KADのXRD-非晶質性を本質的に保持す
る。然しながら、交換物質の比表面積は、カオリンの比表面積の何倍もでありな
がら、交換カチオンによって増加も減少もしない。この例は表1に示される。
このカチオン交換反応が起こる割合は、当業者が使用する化学的技術の適用で
変化させる事ができる。例えば、Fig.5に示す様に、Pb2+のK+での交換速度は、
室温での交換に比べて、50℃の温度で増加する。更に、この交換反応は、交換し
たKAD(例えば、Cu-KAD)の適当な処理で元へ戻す事ができる。Cu-交換KADのそ
の様な処理の一例として、可溶性アミン錯体を発生させる為のアンモニア溶液の
使用がある。この交換で、NH4+はCu2+カチオンを置換する。この性質は、遷移金
属又はKADの溶液又はスラリーから除去された他のカチオンの回収において特殊
な用途を持つ。
実質的に増加した比表面積は、カオリン非晶質誘導体を、炭化水素の転位及び
転換、これに関する新規な応用において使用する通常の触媒の有用な代替物とす
る。
その他の応用は、還元−酸化触媒反応でのカオリン非晶質誘導体へのランタニ
ド及び/又は遷移金属の負荷である。この例としたは、メタノールの脱水素によ
るメチルホルメートの製造がある。
多くの他の応用は、当業者にとって明らかであろう。
カチオン交換及び触媒反応と同様に、天然産カオリンからのKADの合成の代表
例は次の通りである。
実施例1 カオリナイトからのKADの調製
オーストラリアのクインスランドのワイパから得たカオリナイト1.0gとフ
ッ化カリウム4.5gを水2.0mlで徹底的に混合した。混合物を、オーブン
中で、100℃、2.5時間加熱した。反応生成物を、次いで100mlの蒸留
水に分散し、遠心分離機にかけて固形分を完全に沈降させた。過剰の塩及び少量
の弱溶解性フッ化副生成物を含む溶出液を傾斜した。更なるフッ化物が、硝酸銀
溶液の添加によって溶出液中に検出されなくなるまでこの清浄工程を繰り返した
。一般的には3〜4回の洗浄である。残った固形分を空気中で110℃で乾燥し
た。
これは、XRDで示される様に、KADと相対的に不溶のフッ化副生成物の混合物を
含む(Fig.6b参照)。混合物の合わせ重量は1.19gであった。
フッ化副生成物を、固体混合物を室温で30分間、0.02Mの水酸化カリウム溶液(
pH=13)の40ml中に分散させて除去した。懸濁液を、次いで遠心分離機にかけ、固
形分を完全に沈降させた。溶解したフッ化副生成物を含むアルカリ性溶出液を傾
斜した。残った固形分を冷水で洗浄し、溶出液のpHを8まで落とした。固形分を
110℃で乾燥し、0.95gの最終収率を得た。このものは、XRDで証明され
る様な少量の不純物鉱物であるアナターゼを伴うKADを含む(Fig.6c 参照)。
Fig.6aは、KADに対して反応前のカオリナイトのXRD痕跡を示す。
110℃、4時間の前処理後のこのKADのBET表面積測定は、100(1)m2/gであっ
た。
嵩組成分析は、650℃まで加熱後の同じKAD粉末と同様に、電子顕微鏡を使用し
て、カオリンから調製したKADの粉末の適当に調製した圧縮円板から得た。結果
は表2に纏められる。この表で、括弧内の値は、通常の統計手法により計算した
酸化物の重量割合の最終の有意数に対する推定標準偏差である。
実施例2 ハロイサイトからのKADの調製
ニュージーランドのノースランド、マチャウラ湾から得たハロイサイト10.0g
とフッ化カリウム42.0gを水20.0mlで徹底的に混合した。混合物を、オー
ブン中で、95℃、1.0時間加熱した。反応生成物を、次いで1リットルの蒸
留水に分散し、固形分を2時間沈降させた。過剰の塩及び少量の弱溶解性フッ化
副生成物を含む溶出液を傾斜した。更なるフッ化物が、硝酸銀溶液の添加によっ
て溶出液中に検出されなくなるまでこの清浄工程を繰り返した。一般的には5回
の洗浄である。最後の清浄処理をした後、スラリーを遠心分離機にかけ、固形分
を完全に沈降させた。残った固形分を空気中で110℃で乾燥した。これは、XR
Dで示される様にKADと相対的に不溶のフッ化副生成物の混合物を含む
(Fig.7b参照)。混合物の合わせ重量は13.9gであった。
フッ化副生成物を、固体混合物を室温で30分間、0.02Mの水酸化カリウム溶液(
pH=13)の400ml中に分散させて除去した。懸濁液を、次いで遠心分離機にかけ、
固形分を完全に沈降させた。溶解したフッ化副生成物を含むアルカリ性溶出液を
傾斜した。残った固形分を冷水で洗浄し、溶出液のpHを8まで落とした。固形分
を110℃で乾燥し、9.7gの最終収率を得た。このものは、XRDで証明される様
な少量の不純物鉱物である石英とクリストバライトを伴うKADを含む(Fig.7c参
照)。Fig.7aは、非晶質誘導体に対して反応前のハロイサイトのXRD痕跡を示す
。
110℃、4時間の前処理後のこのKADのBET表面積測定は、167(1)m2/gであっ
た。
嵩組成分析は、650℃まで加熱後の同じKAD粉末と同様に、電子顕微鏡を使用し
て、ハロイサイトから調製したKADの粉末の適当に調製した圧縮円板から得た。
結果は表3に纏められる。この表で、括弧内の値は、通常の統計手法により計算
した酸化物の重量割合の最終の有意数に対する推定標準偏差である。
水性懸濁液で、M-KAD(M=アルカリ金属又はアンモニウムカチオン)は或る種の
他のカチオンに対して特別に親和力を有する。そのカチオンとしては、アルカリ
土類のMg2+、Ca2+及びSr2+、遷移金属のCr3+、Mn2+、Co2+、Fe2+、Ni2+、Cu2+、
Zn2+、Ag+、Cd2+及びHg2+及びPb2+、ランタニドのNd3+及びアクチニドのUO2+が
挙げられる。3価のランタニドの同じ化学的挙動により、Nd3+で示された性質は
、Y3+を含む全ての3価ランタニドに適用する。
これらのカチオンに対するKADの親和性は、目的のカチオンを低濃度(10〜100p
pm)で、且つNa+を比較的高濃度(0.1M)で含む溶液からそれらカチオンのそれぞれ
の取込み割合を測定する事により証明された。これらの実験とその結果について
の詳細は実施例10で示される。
これらカチオンに対するM-KADの選択性のレベルは、相対的に温度に依存する
が、交換速度は、温度の増加によって著しく高められる。交換速度のこの増加は
、以下の実施例で示される。
実施例3 Cu2+交換の動力学
Cu2+を100ppm含む0.1M NaNO3溶液100mlに、0.25gのKADを分散させた。このKAD
を、この実験を通して攪拌し、溶液の一部を時間の関数として除去した。
この溶液の一部を直ちに遠心分離機にかけ、懸濁したKADを除去し、溶液の残
留Cu2+を分析した。室温(20℃)及び50℃での、時間の関数としてのCu2+除去割合
は以下の表4に示される。
実施例4 Pb2+交換の動力学
Pb2+を100ppm含む0.1M NaNO3溶液100mlに、0.25gのKADを徹底的に分散させた
。この懸濁液を3時間、室温で攪拌し、次いで遠心分離機に掛けた。この溶出液
の原子吸光スペクトル分析(AAS)は、KAD処理溶液が、Pb2+を1ppmだけ含む事、
即ち、Na+リッチの溶液のPb2+濃度が99%減少した事を示した。この交換反応の
、3つの異なる溶液温度で得られたデータに対するプロットは、Fig.5で与えら
れる。
これら種々のカチオンに対するKADの選択性のレベルは、広い範囲のpH条件に
わたって本質的に保持される。特に重要なのは、上述のカチオンの大部分が最も
溶解する酸条件下にある様な低いpHでのKADの安定性及び選択性の保持である。
この性質は、それらのカチオンを工業及び鉱山廃水から分離、回収するにあた
ってのKADの応用に特に関連がある。KADは、アルカリ条件下(pH13まで)でも安定
であるが、上述の殆どのカチオンの溶解性は無視し得るものであり、従って
KADの選択性は試験できなかった。
実施例5 Pb2+交換のpH依存性
0.25gのKADを、それぞれ100ppmのPb2+を含む0.1MのNaNO3100mlと0.1MのCa(NO3
)2溶液に共に分散した。溶液のpHを、希HNO3又は希NaOH溶液で適当に調整した。
溶液を室温(20℃)で、24時間攪拌し、次いでKADを遠心分離機で除去し溶液の残
留Pb2+を分析した。この分析で、特定のpHにおいて溶液から除去されたPb2+の量
が分かる。この実験の詳細は以下の表5に示される。
実施例6 水溶液中のNa+より先にCa2+及びMg2+を分離する為の水軟化剤又は洗
剤ビルダーとしてのKADの用途
80mgのKAD粉末を、25mlの4つの異なる溶液に分散し、2時間攪拌後、KADを上
澄み液から除去した。この上澄み液のMg2+及びCa2+の濃度を分析した。4つの異
なる水溶液は、(i)18℃の蒸留水に10ppmのCa2+とMg2+を含むもの(比較例)
、(ii)18℃の0.1MのNaCl溶液に10ppmのCa2+とMg2+を含むもの、(iii)50℃の0.1M
のNaCl溶液に10ppmのCa2+とMg2+を含むもの、(iv)18℃の0.1MのNaCl溶液に100pp
mのCa2+とMg2+を含むものである。これらの実験からのデータを表6に纏めて示
す。
表6で示される様に、KADは、溶液からCa2+とMg2+を分離する能力を示し、こ
れは洗剤ビルダー或いは水軟化剤としての応用に適する。
KADが水溶液からのカチオンの選択的除去の為の分離剤として使用される幾つ
かの応用では、分散した粉体としてではない形態でKADを利用する事が必要であ
ろう。その調製時の形態でのKADは、非常に微細な粒子又は凝集サイズを有し、
容易に分散する。幾つか応用では、この性質は、処理された水溶液からの交換KA
Dの物理的分離は困難でもあるし高価となる為に、交換性能の利用を阻害する。
様々な形状での機械的に安定な一体構造体を必要とする応用では、KADは、有
機重合体と、或いはコロイダルシリカと組み合わせてKADそれ自身を結合させて
全体の凝集体サイズを著しく増加させ、処理された溶液からの交換KADの物理的
分離の問題を減少させる事が出来る。この結合した物質は、強固なペレット又は
他の凝集体に成形出来、或いは木繊維の様な基体に結合させてカチオン選択性濾
紙を作る事も出来る。有機重合体又はコロイダルシリカのいずれかを使用したペ
レットの成形方法の実施例を以下に示す。
実施例7 ポリカーボネート樹脂を使用したKADの結合方法
0.012gのポリカーボネート樹脂を20mlのトルエンに溶解し、この溶液の2.5ml
を0.2gのKADに添加した。0.075重量%の重合体の添加に相当する。得られたスラ
リーを、モルタル乳棒で徹底的に均一化し、40℃で30分間乾燥した。ペレット
プレスを使用し、約500kg/cm2の単軸圧力を掛けてこの材料からペレットを成形
した。
実施例8 コロイダルシリカを使用したKADの結合方法
0.0304gのラドックスAM(デュポン社製)を0.6mlの水に溶解し、この混合物の0.
3mlを0.25gのKADに添加した。〜2重量%のコロイダルシリの添加に相当する。次
いで追加の水0.9mlを添加し、このスラリーを、モルタル乳棒で均一化し、85℃
で18分間乾燥した。ペレットプレスを使用し、約500kg/cm2の単軸圧力を掛けて
この材料からペレットを成形した。ペレットを、最後に85℃で1.25時間加熱した
。
有機重合体又はコロイダルシリカで、一体構造ペレット又はディスクに結合さ
れたKADは、上述のカチオンに対するそのカチオン交換性能を保持する。KADのこ
の性能は、以下の実施例で示される。
実施例9 ペレットに結合した時のCu2+に対するKADの選択性
以下の実験を、結合剤としてポリカーボネート樹脂及びコロイダルシリカの両
方を使用して調製したKADについて行った。
2x0.015gのKADペレットを、100ppmのCu2+を含む0.1MのNaNO3溶液の5ml中に入
れ、この溶液を室温(20℃)で攪拌した。24時間後、一つのペレットを取り除き
、残留Cu2+の分析の為に、その溶液の2.5mlを除去した。残りの溶液を、室温で
、更に2日間攪拌した後、二番目のペレットを取り除き、残りの溶液を、再度分
析した。これらのデータは、KADのこれら結合ペレットを使用した溶液から除去
されたCu2+の量を決定するもので、その結果は表7に示される。
実施例10 種々のカチオンに対するKADの選択性の比較
実施例1(カオリナイト使用)及び実施例2(ハロイサイト使用)と同様に調
製したKADの試料を使用して一連の交換実験を行った。それぞれの場合、他のカ
チオンでの交換実験は、室温で16時間、0.1MのNaNO3溶液で行った。一般に、90m
gのKADを30mlの溶液に分散した。これらの交換実験での溶液からのカチオンの除
去割合の測定結果は表8に示される。この表で特に記述なきものは、交換溶液の
pHは、中性に近いものであった。交換前後のカチオン濃度は、紫外線/可視スペ
クトルが使用されたNd3+及びUO2 2+の場合以外は原子吸光スペクトルで決定した
。
実施例11 高圧及び高温下でのKADの合成
オーストラリアのクインスランドのワイパから得たカオリナイトの1.0g及びフ
ッ化カリウム4.0gを水3mlで徹底的に混合し、この混合物を、テフロンでシール
した圧力容器に移し150℃のオーブン中に置いた。この容器は、5分以内で80
℃に達し、更に20分後に150℃に達した。容器をこの温度で5分間維持し、
次いでオーブンから取り出して80℃以下まで冷却した。反応生成物を100m
lの蒸留水に分散し、遠心分離機にかけて固形分を完全に沈降させた。過剰の塩
及び少量の弱溶解性フッ化副生成物を含む溶出液を傾斜した。更なるフッ化物が
、硝酸銀溶液の添加によって溶出液中に検出されなくなるまでこの清浄工程を繰
り返した。一般的には3〜4回の洗浄である。残った固形分を空気中で110℃
で乾燥した。これは、KAD、出発物質のカオリナイト及び相対的に不溶のフッ化
副生成物の混合物を含み、合わせ重量は1.25gであった。Fig.8は、固体反応生
成物のXRDパターンを示す。
実施例12 試薬としてNaFを使用したKADの合成
オーストラリアのクインスランドのワイパから得たカオリナイトの0.25g及び
フッ化ナトリウム1.25gを水5mlで徹底的に混合し、この混合物を、テフロンで
シールした圧力容器に移し、200℃で20時間、オーブン中に置いた。反応生成物
を100mlの温蒸留水(36〜40℃)に分散し、遠心分離機にかけて固形分を完
全に沈降させた。過剰の塩及び少量の弱溶解性フッ化副生成物を含む溶出液を傾
斜した。更なるフッ化物が、硝酸銀溶液の添加によって溶出液中に検出されなく
なるまでこの清浄工程を、6〜8回繰り返した。残った固形分を空気中で110
℃で乾燥した。これは、Na-KAD、出発物質のカオリナイト及び不溶性フッ化副生
成物の混合物を含み、合わせ重量は0.39gであった。Fig.9は、固体反応生成物
のXRDパターンを示す。
実施例13 試薬としてRbF又はCsFを使用したKADの合成
オーストラリアのクインスランドのワイパから得たカオリナイトの0.5g及び
フッ化ルビジウム5.0g又はフッ化セシウム7.0gを水1mlで徹底的に混合し、こ
の混合物を、オーブン中、110℃、3.5時間で加熱した。次いで、反応生成
物を40mlの蒸留水に分散し、遠心分離機にかけて固形分を完全に沈降させた
。過剰の塩及び少量の弱溶解性フッ化副生成物を含む溶出液を傾斜した。更なる
フッ化物が、硝酸銀溶液の添加によって溶出液中に検出されなくなるまでこの清
浄工程を、3〜4回繰り返した。残った固形分を空気中で110℃で乾燥した。
このものは、M-KAD(M=Rb又はCs)、出発物質のカオリナイト及び相対的に不溶な
フッ化副生成物の混合物を含み、合わせ重量は、M=Rbの場合0.86gであり、M=Cs
の場合0.85gであった。Fig.10は、何れかの塩を使用した両方の反応生成物のXR
Dパターンを示す。RbFを使用して調製したKADでは、単独の広いピークが、d-間
隔の3.16Åに相当する広い山の中心近辺で観察された(Fig.10a)。CsFを使用し
て調製したKADでは、その広い山がなだらかで、ピークがd-間隔の3.25Åに相当
する、僅かにシフトしている以外は同様な回折パターンが観察された(Fig.10b)
。
容易に受入れ易い低原子価状態を持つ遷移金属又はランタニド(例えば、Cu11
-Cu1-Cu0、Ni11-Ni0、Co11-Co0)で交換されたカオリン非晶質誘導体は、水素ガ
ス流下で、400〜500℃での加熱により還元された。XRDで観察出来る少量の未混
合の金属が存在するが、還元金属の大部分は、KADと会合して残る。KADの比表面
積は、これらの条件下での還元によって僅かだけ減少する。KADのこの順次処理
は、広範囲の有機化合物の金属−触媒レドックス反応に対して理想的な環境を提
供する。この応用の実施例については以下に示す。
実施例14 触媒としてCu-KADを使用した、メタノールからメチルホルメートへ
の脱水素反応
Cu-KADを、水素ガス流下、400℃で一昼夜還元して活性化した。メタノール蒸
気を、窒素カス流中で、200〜220℃で触媒上に通した。反応生成物及び未反応メ
タノールを液体窒素で捕捉し、直ちに1H NMR分光分析法で分析した。NMR分析に
基づいて得られた全体の相のモル比は、メタノール:メチルホルメート:ジエチ
ルエーテル、74:19:7であった。
実施例15 触媒としてCu-KADを使用した、エタノールからアセトアルデヒドへ
の脱水素反応
Cu-KADを、水素ガス流下、400℃で一昼夜還元して活性化した。エタノール蒸
気を、窒素カス流中で、300℃で触媒上に通した。反応生成物及び未反応エタ
ノールを液体窒素で捕捉し、直ちに1H NMR分光分析法で分析した。NMR分析に基
づいて得られた全体の相のモル比は、エタノール:アセトアルデヒド、56:44で
あった。
以上は本発明の例示的実施例として与えられたものであるが、多くの変更及び
変化は、ここに示された本発明の広い視野と範囲から逸脱することなしに、当業
者によって付け加えられ得るものである。図面の説明 Fig.1
実施例1に関するワイパカオリナイトから調製したKADの27Alマジッ
クアングルスピニングNMRスペクトルで、(a)は水で清浄にした後、(b)はKOH
で清浄にした後のもの。スピニングサイドバンドは*で示される。Fig.2
実施例1に関するワイパカオリナイトから調製したKADの29Siマジッ
クアングルスピニングNMRスペクトルで、(a)は水で清浄にした後、(b)はKOH
で清浄にした後のもの。スピニングサイドバンドは*で示される。Fig.3
実施例1に関しての、(a)は反応前のワイパカオリナイト粒子の、
(b)は反応後のKAD粒子の透過型電子顕微鏡写真。両方共、250,000倍のもので
ある。
KADの形成の為の反応後の粒子の形態及びサイズに於ける著しい変化に注目。Fig.4
実施例2に関しての、(a)は反応前のマチャウラ湾管状ハロイサイ
ト粒子の、(b)は反応後のKAD粒子の透過型電子顕微鏡写真。両方共、250,000
倍のものである。KADの形成の為の反応後の粒子の形態及びサイズに於ける著し
い変化に注目。Fig.5
3つの異なる溶液温度に対する実施例4での方法によるKADでのPb2+
の交換割合を示すプロット。このプロットは、時間に対しての溶液中の残留Pb2+
の割合を示す。Fig.6
(a)は実施例1のワイパカオリンの、(b)は実施例1のワイパカ
オリンから調製された、水で清浄後のKADの、そして(c)はKOHで清浄後のKADのX
−線粉末回折パターンである。出発物質中の不純物であるアナターゼによる回折
ピークは+で示され、貧溶解性フッ化副生成物は*で示される。Fig.7
(a)は実施例2のマチャウラ湾ハロイサイトの、(b)は実施例2
のマチャウラ湾ハロイサイトから調製された、水で清浄後のKADの、そして(c)は
KOHで清浄後のKADのX−線粉末回折パターンである。出発物質中の不純物である
アナターゼによる回折ピークは+で示され、貧溶解性フッ化副生成物は*で示され
る。Fig.8
実施例11の試薬としてKFを使用して、高圧、150℃でワイパカオリ
ナイトから調製した、水で清浄後であってKOHでの清浄前のKADのX−線粉末回折
パターン(CuKα)。未反応カオリナイトによる回折ピークは+で示され、貧溶
解性フッ化副生成物は*で示される。Fig.9
実施例12の試薬としてNaFを使用して、ワイパカオリナイトから調製
した、水で清浄後であってKOHでの清浄前のKADのX−線粉末回折パターン(CuK
α)。未反応カオリナイトによる回折ピークは+で示され、貧溶解性フッ化副生
成物は*で示される。Fig.10
実施例13の試薬として(a)RbF及び(b)CsFを使用して、ワイパカオリ
ナイトから調製した、水で清浄後であってKOHでの清浄前のKADのX−線粉末回折
パターン(CuKα)。未反応カオリナイトによる回折ピークは+で示され、貧溶
解性フッ化副生成物は*で示される。
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ード
オーストラリア クイーンズランド 4077
エレン グローヴ レノアー クレッセ
ント 37
(72)発明者 クーン サーシャ
オーストラリア オーストラリアン キャ
ピタル テリトリー クック マッケラー
クレッセント 64
(72)発明者 ガービタス ニール
オーストラリア オーストラリアン キャ
ピタル テリトリー カムバー ヘッディ
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