JPH08322379A - きのこの培養基とその培養基を使用するきのこの栽培方法 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】 今まで処理に苦慮し厄介物として取り扱われ
ていたカラマツ製材時に生じる鋸屑やカラマツ微粉末の
塊を利用して、きのこ栽培の生産効率を向上し、しか
も、カラマツ微粉末の利用はカラマツ水抽出物よりも手
間及びコストの低減を可能にすることができる。 【構成】 培養基の主成分に、カラマツ材の製材時に生
じるカラマツ材の微粉末を添加することを特徴とするき
のこの培養基と、その培養基を使用するきのこの栽培方
法である。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、ヒラタケ、シイタケ、
エノキタケ等で代表されるきのこの培養基とその培養基
を使用するきのこの栽培方法に関する。

【０００２】

【従来の技術】我が国においては食生活の向上に伴い、
食用きのこの需要が急増している。この需要に応えるた
めに食用きのこ栽培が広く行われているが、近年原木の
入手難の事情と安定生産の要請から、原木栽培に変わっ
て菌床栽培が急速に拡大しつつある。

【０００３】本出願人は上記実情を踏まえ、菌床栽培に
おける栽培日数を短縮化し、収穫量の増大を図ることを
目的として、既に特許出願を行い、その内容が特開平４
−２９３４３０号として公開されている。この出願内容
は、カラマツ水抽出物には、きのこ栽培における主要害
菌（トリコデルマ菌類）に対する生育抑制作用ときのこ
菌糸体に対する生育促進作用があることを見い出し、こ
のカラマツ水抽出物を培養基の主成分に添加するもので
ある。

【０００４】しかしながら、前記カラマツ水抽出物は、
カラマツ材の鋸屑を水で抽出し、濾過した水抽出液を減
圧濃縮し、更にこれを乾燥して粉末にしたものであるた
め、カラマツ水抽出物の製造には、少なからず労力と経
費がかかるものであった。

【０００５】一方、カラマツ製材業界では、カラマツ製
材時の鋸屑がアクが強く且つそのアク抜きが難しく、し
かも鋸屑から鋭いケバ立ちが生じていること等の理由か
ら、一般的な製材鋸屑と異なり、きのこ培地基材として
直ちに利用することができずそのためカラマツ製材の際
に多量に生じる鋸屑は、長期間の屋外堆積処理した後に
前記利用に供するか、或いはそのまま廃棄処理をしなけ
ればならず、いずれにしてもその処理について、大いに
苦慮しているのが現状であった。

【０００６】また、カラマツ製材時に生じる微粉末は、
製材機に付属している集塵装置のファン及びダクト内に
塊となってこびり付き、そのまま放置しておけば目詰ま
りの原因となって製材工程に支障をきたすため、数週間
おきにファン及びダクト内のカラマツ微粉末の塊の除去
作業を行う必要がある。そして、この集塵装置内から除
去されるカラマツ微粉末の大量の塊は、処理手段が見つ
けられておらず、廃棄する以外にない厄介物であった。

【０００７】

【発明が解決しようとする課題】本発明は前記諸事情に
基づいてなされたものであり、今までその処理に苦慮し
また厄介物として取り扱われていたカラマツ製材鋸屑や
カラマツ微粉末の塊を、きのこ栽培の生産効率の向上に
資するために巧みに利用し、しかもカラマツ製材鋸屑及
びカラマツ微粉末の塊の利用のための処理手段も頗る簡
便であるため、カラマツ水抽出物の製造に比べて手間及
びコストの低減化が可能となる、カラマツ微粉末を添加
したきのこの培養基とその培養基を使用する栽培方法を
提供することを目的とする。

【０００８】

【課題を解決するための手段】本発明者は、カラマツ水
抽出物にはきのこ栽培の主要害菌に対する生育抑制作用
ときのこ菌糸体に対する生育促進作用があるという公知
技術（特開平４−２９３４３０号公報）を踏まえ、シベ
リア産カラマツ材の製材時に生じる微粉末によって集塵
装置内で形成される塊について、その成分を分析したと
ころ、当該塊には前記カラマツ水抽出物と同様の成分が
４０％以上の極めて高い含有率で含まれていることを新
しく見い出した。一般的にシベリア産カラマツ材の水抽
出物の含有率は、辺材部では１〜３％、心材部では９〜
１１％であり、辺材部から心材部への移行材部でも１５
％前後に過ぎない。このことから、集塵装置内のカラマ
ツ微粉末の塊には、カラマツ水抽出物と同様の成分が濃
縮された状態で存在しているものと考えられる。

【０００９】そこで、集塵装置内に塊が形成される理由
及び当該塊にカラマツ水抽出物と同一成分が濃縮される
理由を次のように推察した。

【００１０】すなわち、カラマツ材の製材は鋸歯にヤニ
が付着しないように水を注ぎながら行われるが、製材の
際に生じるカラマツ微粉末がヤニを溶解した水を含んで
粘性を帯びるようになり、これが集塵装置内にこびり付
いて塊を形成したものと思われる。そして、このヤニ成
分は分析の結果、カラマツ水抽出物と同一成分であるこ
とが確認された。このことからカラマツ製材工程での鋸
歯への注水によって、微粉末を介してカラマツ水抽出物
が濃縮化されたものと思われる。

【００１１】一方、菌床栽培では、培養基を高圧または
常圧の条件で水蒸気で蒸して滅菌処理を行うが、この
際、培養基の含有水分率は約６５％であるので、培養基
に含まれている水分を介して培養基中の木質材料から樹
木抽出成分が染み出ることが充分に考えられる。そこ
で、カラマツ製材鋸屑やカラマツ微粉末の塊を微粒子化
したものを培養基中に混入しておけば、滅菌工程中に水
抽出物として培養基中に拡散されて、カラマツ水抽出物
を直接に添加したのと同様の効果が期待できるものと思
われる。

【００１２】本発明は以上の知見に基づき開発されたも
ので、培養基の主成分に、カラマツ材の製材時に生じる
カラマツの微粉末を添加してあることを技術的特徴とす
るきのこの培養基を提供するものである。また、前記培
養基を使用することを特徴とするきのこの栽培方法を提
供するものである。

【００１３】前記カラマツ微粉末は、水抽出物の含有量
の多いカラマツ微粉末の塊を粉砕機で粉砕して２００メ
ッシュ以下に微粒子化して微粉末を調整化したものであ
る。このように調整したカラマツ微粉末を各種きのこ培
養基に混合して滅菌処理を行い、害菌及びきのこ菌糸体
を接種して培養すれば、前記滅菌工程中にカラマツ微粉
末から培養基中に水抽出物が染み出して拡散し、害菌の
生育は抑制されると共に、きのこの菌糸体の生育は促進
される。更に、菌床培地に前記カラマツ微粉末を混合し
てきのこ栽培をすれば、栽培日数は短くなり、しかも子
実体収量は増加した。

【００１４】また、カラマツ製材鋸屑においても、培養
基基材としてではなく、栄養材として培養基基材に適量
を混合することによって、前述のカラマツ微粉末の塊を
微粒子化したものと同様の効果を得ることが可能であ
る。尚、カラマツ製材鋸屑の利用に際しては、鋸屑を更
に粉砕して微粉末化する処理を施すことは言うまでもな
い。

【００１５】

【実施例】前記カラマツ微粉末を、人工培養基であるポ
テト・デキストロース寒天培地に１〜２０％の濃度範囲
で添加し、それらの各培養基に害菌の一種のトリコデル
マ菌類を接種し、２４℃で４日間培養して、それぞれの
培養基の菌糸体の伸長量を測定した。その測定結果は表
１に示す通りである。

【００１６】

【表１】

【００１７】表１から、トリコデルマ菌の伸長量は、カ
ラマツ微粉末の添加量１〜５％のものは無添加のものと
比較すると３０〜５０％の減少が見られた。添加量１０
〜２０％のものでは４０〜６０％という高い割合での減
少が見られた。

【００１８】このように、培養基にカラマツ微粉末を混
入した場合、害菌に対する生長抑制効果が著しく高いこ
とが認められた。

【００１９】次いで、前回と同様に、ポテト・デキスト
ロース寒天培地にカラマツ微粉末を１〜２０％の濃度範
囲で添加し、それらの各培養基にきのこ菌糸体を接種
し、２４℃で１１日間培養して、それぞれの培養基の菌
糸体の伸長量を測定した。その測定結果は表２に示す通
りである。

【００２０】

【表２】

【００２１】表２から、シイタケにおいては、カラマツ
微粉末１〜２％の添加のものは無添加のものと比較して
５０％の、５〜２０％の添加のものでは３０％の増加が
見られ、ヒラタケにおいては、１〜１０％の添加のもの
は１０〜２０％余りの増加が見られた。

【００２２】更に、ポテト・デキストロースを主成分と
した液体培地に、カラマツ微粉末を１〜２０％の濃度範
囲で添加し、それらの各培養基にきのこ菌糸体を接種し
て、２４℃で１０日間培養した後それぞれの培養基の菌
糸体の重量を測定した。その測定結果は表３に示す通り
である。

【００２３】

【表３】

【００２４】表３から、シイタケでは、１％の添加量の
もので無添加のものの３倍の重量の菌糸体が得られ、５
％の添加量のものでは６倍の、１０％の添加量のもので
は略８倍の重量の菌糸体を得た。また、２０％の添加量
のものでも７倍を越える重量の菌糸体が得られた。

【００２５】ヒラタケでは、５％の添加量のもので無添
加のものの２．３倍、１０％の添加量のものでは３倍、
２０％の添加量のものでは３．６倍の菌糸体の重量増加
が見られた。

【００２６】これらのことから、カラマツ微粉末を添加
することで菌糸体の伸長量及び重量の増加が見られるこ
とから、培養基にカラマツ微粉末を添加することによっ
て、きのこの菌糸体の生長が促進されることが認められ
た。

【００２７】次いで、スギ鋸屑（１年間屋外堆積処理済
み）とフスマとを重量比１８：１７の割合で混合した木
粉培地に、カラマツ微粉末を木粉培地の乾燥重量の１〜
２０％の割合で添加し、含水率が６５％になるよう調整
して、それを培養ポット（径８０ｍｍ×高さ１００ｍ
ｍ）に１００ｇ詰めて、１２０℃で４５分間の条件で滅
菌処理をし、放冷後それぞれの培養基にヒラタケの菌糸
体を接種して、２２℃で１３日間培養し、培養基に菌糸
体が蔓延した後１２℃の子実体発生室に培養基を移して
子実体形成を促し、子実体を収穫した。そして、接種か
ら子実体収穫まで要した日数（栽培日数）と子実体収量
を調査した。その結果は表４に示した通りである。

【００２８】

【表４】

【００２９】子実体収量はカラマツ微粉末添加量１％の
ものでは無添加のものの１．２倍、２％のものでは子実
体収量は最も多くて１．５倍、５〜２０％でも１．３倍
から１．２倍の収量が得られた。また、栽培日数は２％
のものでは３日、５％のものでは１日短縮された。

【００３０】このことより、カラマツ微粉末を培養基に
添加することによって、子実体収量が増加すること、そ
して、栽培日数も短縮されることが認められた。

【００３１】以上の結果から、培養基にカラマツ微粉末
を適正な範囲内で添加すれば、培養基にカラマツ水抽出
物を適正な範囲内で添加した場合と同じく、害菌に対し
てはその生長を抑制するが、きのこの菌糸体に対しては
その生長を促進し、さらに、きのこ子実体収量を増加
し、きのこの栽培日数の短縮化作用があることが判明し
た。

【００３２】

【発明の効果】本発明による培養基は、きのこの菌糸体
の生長を促進させると共に、害菌の生長を抑制するカラ
マツ材の微粉末を添加してあるので、培養ムラや害菌の
混入繁殖の機会が減って、収穫量が増大するだけでな
く、栽培日数をも短縮することができる。従って、きの
この培養基の管理が容易となり、労力の軽減と共に収益
の増大を図ることができて、生産効率の向上と経営基盤
の安定に寄与するものである。

【００３３】本発明で使用するカラマツの微粉末は、カ
ラマツ水抽出物の直接の添加とほぼ同様な効果が得ら
れ、しかも、カラマツ水抽出物のように、鋸屑を水で抽
出し、濾過した水抽出液を減圧濃縮して更に乾燥・粉末
にするという、面倒で費用のかかる処理工程に比べて、
カラマツ製材時に生じる鋸屑や微粉末の塊を単に粉砕す
るだけの簡単な処理工程でできるので、カラマツ水抽出
物よりも格段に労力とコストを大幅に節減できる利点を
有している。

【００３４】本発明の材料となるカラマツ微粉末の利用
は、元来廃棄処分にしていたものを利用するので、コス
トがかからないことは勿論、資源の有効利用を図る地球
環境の保全の見地からも適合しているものである。ま
た、カラマツ製材時に集塵装置に付着する微粉末の塊を
取って使用するので、材料の収集も容易に行うことがで
きる。

Claims (2)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 培養基の主成分に、カラマツ材の製材時
   に生じるカラマツ材の微粉末を添加してあることを特徴
   とするきのこの培養基。
2. 【請求項２】 請求項１に記載の培養基を使用すること
   を特徴とするきのこの栽培方法。