JPH08113876A - 炭素繊維およびその製造方法 - Google Patents

炭素繊維およびその製造方法

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JPH08113876A
JPH08113876A JP6253571A JP25357194A JPH08113876A JP H08113876 A JPH08113876 A JP H08113876A JP 6253571 A JP6253571 A JP 6253571A JP 25357194 A JP25357194 A JP 25357194A JP H08113876 A JPH08113876 A JP H08113876A
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要治 松久
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Abstract

(57)【要約】 【構成】サイジング剤が付着した炭素繊維であって、該
サイジング剤の厚みの最大値および最小値が20〜20
0オングストロームの範囲にあり、かつサイジング剤の
厚みの最大値と最小値の比が1以上、2以下であること
を特徴とする炭素繊維、および実質的に撚りのない炭素
繊維を、該炭素繊維の走行方向と交差する面内において
前記炭素繊維側に凸である曲面を有する曲面体に接触さ
せながら、前記曲面体を振動せしめ、前記炭素繊維を前
記曲面体の曲面に沿って拡幅させたのち、サイジング剤
を付与することを特徴とする炭素繊維の製造方法。 【効果】樹脂との接着強度を著しく向上することができ
るだけでなく、接着強度のバラツキを小さくでき、また
接着破壊の開始点となり得る局所的な低接着強度部分が
なくなることにより、最終的に得られる複合材料の特性
が安定して良好なものとすることができる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、炭素繊維およびその製
造方法に関する。さらに詳しくはマトリックス樹脂との
接着特性のバラツキが小さく、さらにはマトリックス樹
脂との接着特性が安定して良好に得られる炭素繊維およ
びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】炭素繊維は各種マトリックス樹脂とから
なる複合材料として利用されているが、炭素繊維の特性
を複合材料に生かすには、マトリックス樹脂との接着性
が重要である。一般には炭素繊維には表面処理が施さ
れ、マトリックス樹脂に対する接着性を向上せしめるこ
とにより複合材料の剥離強度や剪断強度が向上させられ
てきた。また、炭素繊維あるいは黒鉛繊維は本質的に剛
直で脆いため、耐屈曲性や耐擦過性の不足により毛羽を
発生し易く、炭素繊維の製造工程あるいはその高次加工
工程において糸切れを発生しやすい。そこで炭素繊維に
集束性を付与し、耐屈曲性や耐擦過性を改善するため、
通常炭素繊維には各種サイジング剤が付与される。サイ
ジング剤には毛羽発生防止などの上記目的に加えて、炭
素繊維とマトリックスとの接着性を改善できる場合もあ
る。しかし、サイジング剤によって炭素繊維とマトリッ
クスとの接着性を向上させる場合において、かかる効果
を与えるサイジング剤の化学種に関しては従来検討が行
なわれてきており(例えば、特開平1−272867号
公報、特公平4−8542号公報)、それによって炭素
繊維とマトリックスとの接着特性がある程度向上するこ
とはあっても接着特性のバラツキが大きく、マトリック
ス樹脂との接着特性が安定して良好に得られない場合が
あるという問題があった。
【0003】そこで、本発明者らは、かかる現状に鑑
み、炭素繊維へのサイジング剤の付着状態を詳細に観察
し、それが炭素繊維とマトリックスとの接着性に与える
影響について鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成する
に至った。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、上記
問題点を解決すること、すなわち、サイジング剤が付着
した炭素繊維であって、接着力のバラツキが小さく、さ
らには炭素繊維とマトリックス樹脂との接着力を向上さ
せて、結果として得られる複合材料の機械的特性を安定
して良好なものとし得る炭素繊維を提供することにあ
る。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記した課題を解決する
ために、本発明の炭素繊維は以下の構成を有する。すな
わち、サイジング剤が付着した炭素繊維であって、該サ
イジング剤の厚みの最大値および最小値がいずれも20
〜200オングストロームの範囲内であり、かつ該サイ
ジング剤の厚みの最大値と最小値の比が1以上、2以下
であることを特徴とする炭素繊維である。
【0006】また、上記した課題を解決するために、本
発明の炭素繊維の製造方法は以下の構成を有する。すな
わち、実質的に撚りのない炭素繊維を、該炭素繊維の走
行方向と交差する面内において前記炭素繊維側に凸であ
る曲面を有する曲面体に接触させながら、前記曲面体を
振動せしめ、前記炭素繊維を前記曲面体の曲面に沿って
拡幅させたのち、サイジング剤を付与することを特徴と
する炭素繊維の製造方法である。
【0007】まず、本発明の炭素繊維について詳細に説
明する。
【0008】炭素繊維へのサイジング剤の付着状態を透
過型電子顕微鏡(以下、TEMと略す)を用いて詳細に
観察したところ、特定の付着状態にある時に炭素繊維と
マトリックスとの接着特性のバラツキが小さくなること
がわかった。
【0009】すなわち、炭素繊維にサイジング剤が付着
していない部分があると、その部分の接着性はサイジン
グ剤が付着した部分に比べて低いものとなる。そして、
サイジング剤の付着ムラにより単繊維ごとの、または一
本の単繊維のなかでも局所的な接着性のバラツキが生
じ、その局所的な低接着性の部分が接着破壊の開始点と
なるためか、最終的に得られる複合材料の特性として十
分に高いものが安定して得られないのである。
【0010】本発明の炭素繊維は、サイジング剤が20
〜200オングストロームの厚みで付着していることが
必要である。かかる厚みが20オングストローム未満で
あると、サイジング剤の接着力向上効果が小さく、結果
として高い樹脂接着特性が得られない。また、200オ
ングストロームを超えるとサイジング剤層がマトリック
ス樹脂と異なる特性を持つため複合材料特性に変化を及
ぼすという問題が生じる。かつ、本発明の炭素繊維は、
サイジング剤厚みの最大値と最小値の比を1以上、2以
下、好ましくは1以上、1.8以下とするものである。
サイジング剤厚みの最大値と最小値の比が2を超える
と、マトリックスとの接着特性のバラツキが大きくなっ
てしまう。
【0011】本発明において、サイジング剤の厚みは、
TEMにより、次の手順に従って測定され求められる。
繊維束から単繊維を抜き取り、染色剤を沈着させた後
(例えば、四酸化ルテニウム蒸気を沈着)、エポキシ樹
脂100部(エピコート828,油化シェルエポキシ社
(株)製)に、アミノエチルピペラジン20部を添加し
た混合樹脂液に当該単繊維を包埋し、室温で硬化させ
る。繊維横断面の薄膜試験片は、イオンエッチング法
(アルゴンガス処理時間25〜30時間)で作製し、加
速電圧300kVでTEMにて観察する。サイジング層
厚みの最大値と最小値は、20万倍の繊維横断面写真か
ら求める。なお、本発明においてTEMとして日立製作
所(株)製H−9000UHRを用いた。
【0012】本発明で用いられるサイジング剤としては
炭素繊維とマトリックス樹脂との橋渡しを有効に行な
い、高い接着特性を得るためには、複数のエポキシ基を
有する化合物からなることが望ましい。
【0013】かかる化合物の有するエポキシ基が2つ未
満であると、炭素繊維とマトリックス樹脂との橋渡しを
有効に行うことができない場合がある。一方、かかる化
合物の有するエポキシ基の数が多すぎると、サイジング
剤化合物の分子間架橋の密度が大きくなり、脆性なサイ
ジング層となって結果としてコンポジットの引張強度が
低下してしまうため、好ましくは6個以下、より好まし
くは4個以下、さらに好ましくは2個が最も良い。さら
にこの2個のエポキシ基が最長原子鎖の両末端にあるの
が一層好ましい。すなわち最長原子鎖の両末端にエポキ
シ基があることにより局所的な架橋密度が高くなること
を防ぐので、コンポジット引張強度にとって好ましい。
【0014】複数のエポキシ基を有する化合物として
は、複数のエポキシ基を有する脂肪族化合物を用いるこ
とができる。
【0015】本発明において脂肪族化合物とは、非環式
直鎖状飽和炭化水素、分岐状飽和炭化水素、非環式直鎖
状不飽和炭化水素、分岐状不飽和炭化水素、または上記
炭化水素の炭素原子(CH3 ,CH2 ,CH,C)を酸
素原子(O)、窒素原子(NH,N)、硫黄原子(SO
3 H、SH)、カルボニル原子団(CO)に置き換えた
鎖状構造の化合物をいう。
【0016】また、本発明では、複数エポキシ基を有す
る脂肪族化合物において、2個のエポキシ基間を結ぶ鎖
状構造を構成する炭素原子、複素原子(酸素原子、窒素
原子等)の総数のうち最も大きい原子鎖を最長原子鎖と
いい、最長原子鎖を構成する原子の総数を最長原子鎖の
原子数という。なお、最長原子鎖を構成する原子に結合
した水素等の原子の数は総数に含めない。
【0017】側鎖の構造については特に限定するもので
はないが、サイジング剤化合物の分子間架橋の密度が大
きくなりすぎないように抑えるために、架橋点となりに
くい構造が好ましい。
【0018】エポキシ基の構造としては反応性の高いグ
リシジル基が好ましい。
【0019】かかる脂肪族化合物の分子量は、樹脂粘度
が低すぎるあるいは、高すぎることにより集束剤として
の取り扱い性が悪化するのを防ぐ観点から、80以上3
200以下が好ましく、100以上1500以下がより
好ましく、200以上1000以下がさらに好ましい。
【0020】本発明における複数エポキシ基を有する脂
肪族化合物の具体例としては、例えば、ジグリシジルエ
ーテル化合物では、エチレングリコールジグリシジルエ
ーテル及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテ
ル類、プロピレングリコールジグリシジルエーテル及び
ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、
1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペ
ンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメ
チレングリコールジグリシジルエーテル、ポリアルキレ
ングリコールジグリシジルエーテル類等が挙げられる。
また、ポリグリシジルエーテル化合物では、グリセロー
ルポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシ
ジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテ
ル類、ソルビトールポリグリシジルエーテル類、アラビ
トールポリグリシジルエーテル類、トリメチロールプロ
パンポリグリシジルエーテル類、ペンタエリスリトール
ポリグリシジルエーテル類、脂肪族多価アルコールのポ
リグリシジルエーテル類等が挙げられる。
【0021】好ましくは、反応性の高いグリシジル基を
有する脂肪族のポリグリシジルエーテル化合物である。
更に好ましくは、ポリエチレングリコールジグリシジル
エーテル類、ポリプロピレングリコールジグリシジルエ
ーテル類、アルカンジオールジグリシジルエーテル類お
よび下記に示す構造のものが好ましい。
【0022】
【化1】
【化2】
【化3】 ここで、Gはグリシジル基、R1 は -CH2 CH2 - , -CH
2 CH2 CH2 - , -CH(CH3 ) CH2 - 、R2 は -CH2 - 、
3 ,R4 ,R5 は少なくとも2個が-Gで、他は-Hまた
は-Gであり、mは1〜25の整数,nは2〜75の整
数、かつx、y、zは0または正の整数であって、x+
y+zは0〜25であることが好ましい。また、これら
の混合物を用いてもよい。
【0023】複数エポキシ基を有する脂肪族化合物をサ
イジング剤として用いる場合には、その最長原子鎖の原
子数が20以上であることが好ましい。すなわち該原子
数が20未満ではサイジング層内の架橋密度が高くなる
ために靭性の低い構造になりやすく、結果としてコンポ
ジット引張強度が発現しにくい場合がある。それに対し
て最長原子鎖の原子数が大きいとサイジング層が柔軟で
靭性の高い構造になりやすいので結果としてコンポジッ
ト引張強度が向上しやすく、特に脆い樹脂での引張強度
が高いという特長を有するので、より好ましくは最長原
子鎖の原子数で25以上、さらに好ましくは30以上が
よい。
【0024】ただし最長原子鎖の原子数は大きいほど柔
軟な構造になるが、長すぎると折れ曲がって官能基を封
鎖してしまい、結果として炭素繊維と樹脂との接着力が
低下してしまう場合があるので好ましくは、原子数で2
00以下、より好ましくは100以下がよい。
【0025】脂肪族化合物に環状脂肪族骨格を含む場合
には、エポキシ基が環状骨格から十分離れていれば、具
体的は、エポキシ基と環状骨格との間の原子数が6以上
であることが望ましい。
【0026】本発明において、エポキシ基と芳香環の間
の原子数が6以上であるエポキシ基を複数有する芳香族
化合物をサイジング剤として用いても良い。エポキシ基
と芳香環の間の原子数とは、エポキシ基と芳香環の間を
結ぶ鎖状構造を構成する炭素原子、複素原子(酸素原
子、窒素原子等)、カルボニル原子団の総数をいう。こ
の場合の直鎖状構造としては前記した鎖状構造と同様の
ものである。
【0027】サイジング剤としてエポキシ基と芳香環と
の間の原子数が6に満たないと、炭素繊維とマトリック
ス樹脂との界面に剛直で立体的に大きな化合物を介在さ
せることになるため、炭素繊維の最表面に存在する表面
官能基との反応性が向上しない場合があり、その結果コ
ンポジットの横方向特性の向上が望めないこともある。
【0028】具体的には次式[IV]で示される化合物を
挙げることができる。
【0029】
【化4】 (ここで、式[IV]中、R1 は、
【化5】 、R2 は、炭素数2〜30のアルキレン基、R3 は、-H
あるいは -CH3 であり、m,nは2〜48の整数,m+
nは4〜50である。) この場合、炭素繊維とマトリックス樹脂の界面に剛直で
立体的に大きな化合物を介在させないように、分子鎖が
直鎖状で柔軟性を有し、かつ分子量が小さいものが望ま
しく、そのため式[IV]におけるm,nをそれぞれ2以
上、好ましくは3以上、さらに好ましくは5以上とし、
m+nを4以上、好ましくは6以上、さらに好ましくは
10以上とする。m,nがそれぞれ2未満あるいはm+
nが4未満の化合物では、本発明の目的であるマトリッ
クス樹脂と炭素繊維の接着性も低下する場合がある。一
方、m+nが50を超えるとマトリックス樹脂との相溶
性が低下し、マトリックス樹脂と炭素繊維の接着性が低
下する場合がある。また、式[IV]において、R2 は、
-CH2 CH2 - あるいは-CH(CH3 ) CH2 - であることが好
ましい。
【0030】ここで、式[IV]におけるビスフェノール
A部またはビスフェノールF部はマトリックス樹脂との
相溶性を向上させる効果と耐毛羽性を向上させる効果が
ある。
【0031】エポキシ基と芳香環の間の原子数が6以上
である複数エポキシ基を有する芳香族化合物の骨格が縮
合多環芳香族化合物であっても良い。縮合多環芳香族化
合物の骨格としては、例えばナフタレン、アントラセ
ン、フェナントレン、クリセン、ピレン、ナフタセン、
トリフェニレン、1,2−ベンズアントラセン、ベンゾ
ピレン等が挙げられる。好ましくは、骨格の小さいナフ
タレン、アントラセン、フェナントレン、ピレンが良
い。
【0032】複数エポキシ基を有する縮合多環芳香族化
合物のエポキシ当量は、接着性の向上効果を十分なもの
とする観点から、150〜350、さらには200〜3
00が好ましい。
【0033】複数エポキシ基を有する縮合多環芳香族化
合物の分子量は、樹脂粘度が高くなって集束剤としての
取り扱い性が悪化するのを防ぐ観点から、400〜80
0、さらには400〜600が好ましい。
【0034】サイジング剤にはエピコート828、エピ
コート834といった分子量の小さいビスフェノール型
エポキシ化合物、直鎖状低分子量エポキシ化合物、ポリ
エチレングリコール、ポリウレタン、ポリエステル乳化
剤あるいは界面活性剤などが粘度調整、耐擦過性向上、
耐毛羽性向上、収束性向上、高次加工性向上等を目的と
して含まれていても良い。また、ブタジエンニトリルゴ
ム等のゴム、あるいはエポキシ末端ブタジエンニトリル
ゴムのようなエラストマー性のある直鎖状エポキシ変性
化合物等を添加しても問題はない。
【0035】本発明の炭素繊維は、X線光電子分光によ
り測定される表面酸素濃度O/Cを0.20以下、好ま
しくは0.15以下、さらに好ましくは0.10以下と
し、かつ表面窒素濃度N/Cを0.02以上、好ましく
は0.03以上、さらに好ましくは0.10以上とする
のが望ましい。O/Cが0.20を超えると、樹脂の官
能基と炭素繊維最表面との化学結合は強固になるもの
の、本来炭素繊維基質自身が有する強度よりもかなり低
い酸化物層が炭素繊維表層を被うことになるため、結果
として得られるコンポジットの横方向特性は低いものと
なってしまう場合があり、N/Cが0.02未満の炭素
繊維は、前記サイジング剤との反応性を向上させること
ができないことがあり、結果としてサイジング剤による
コンポジットの横方向特性の向上効果を発現できない場
合がある。
【0036】O/Cの下限としては、0.02以上、好
ましくは0.04以上さらに好ましくは0.06以上が
望ましい。O/Cが0.02に満たないと、サイジング
剤との反応性および反応量が不足し、その結果コンポジ
ットの横方向特性の向上が望めない場合がある。また、
N/Cの上限としては、0.30以下、好ましくは0.
25以下さらに好ましくは0.20以下が望ましい。す
なわちN/Cが0.3を超えると、サイジング剤との反
応性および反応量が過剰になるだけで、接着力特性のさ
らなる向上は望めず、かつ引張強度が低下する場合があ
る。
【0037】ここで、表面酸素濃度O/Cとは、次の手
順に従ってX線光電子分光法により求めた値をいう。先
ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカ
ットしてステンレス製の試料支持台上に拡げて並べた
後、光電子脱出角度を90゜とし、X線源としてMgK
α1,2 を用い、試料チャンバー内を1×10-8Torrの真
空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、
まずC1Sの主ピークの結合エネルギー値を284.6 eVに合
わせる。C1Sピーク面積は、 282〜296 eVの範囲で直線
のベースラインを引くことにより求め、O1Sピーク面積
は、 528〜540 eVの範囲で直線のベースラインを引くこ
とにより求めた。表面酸素濃度O/Cは、上記O1Sピー
ク面積とC1Sピーク面積の比を、装置固有の感度補正値
で割ることにより算出した原子数比で表した。なお、本
発明の実施例では島津製作所(株)製ESCA−750
を用い、上記装置固有の感度補正値は2.85であっ
た。
【0038】また、表面酸素濃度N/Cとは、次の手順
に従ってX線光電子分光法により求めた値をいう。先
ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカ
ットしてステンレス製の試料支持台上に拡げて並べた
後、光電子脱出角度を90゜とし、X線源としてMgK
α1,2 を用い、試料チャンバー内を1×10-8Torrの真
空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、
まずC1Sの主ピークの結合エネルギー値を284.6 eVに合
わせる。C1Sピーク面積は、 282〜296 eVの範囲で直線
のベースラインを引くことにより求め、N1Sピーク面積
は、398 〜 410eVの範囲で直線のベースラインを引くこ
とにより求めた。表面窒素濃度N/Cは、上記N1Sピー
ク面積とC1Sピーク面積の比を、装置固有の感度補正値
で割ることにより算出した原子数比で表した。なお、本
発明の実施例では島津製作所(株)製ESCA−750
を用い、上記装置固有の感度補正値は1.7であった。
【0039】本発明の炭素繊維の機械的物性としては、
ストランド強度が350kgf/mm2 以上、より好ましくは
400kgf/mm2 以上、さらに好ましくは450kgf/mm2
以上が望ましい。また、炭素繊維の弾性率は22 tf/mm
2 以上が好ましく、24 tf/mm2 以上がより好ましく、
28 tf/mm2 以上がさらに好ましい。ストランド強度あ
るいは弾性率がそれぞれ、350kgf/mm2 未満あるいは
22 tf/mm2 未満の炭素繊維の場合には、コンポジット
としたときに、構造材として所望の特性が得られない場
合がある。
【0040】次に本発明の炭素繊維を得るための好まし
い方法について説明する。
【0041】本発明の方法に供せられる原料炭素繊維と
しては、アクリル系、ピッチ系、レーヨン系等の公知の
炭素繊維を適用できる。好ましくは高強度の炭素長繊維
が得られやすいアクリル系炭素繊維がよい。アクリル系
炭素繊維の場合を例にとって以下詳細に説明する。
【0042】紡糸方法としては湿式、乾式、乾湿式等を
採用できるが高強度糸が得られ易い湿式あるいは乾湿式
が好ましく、特に乾湿式が好ましい。紡糸原液にはポリ
アクリロニトリルのホモポリマーあるいは共重合成分の
溶液あるいは懸濁液等を用いることができるが、ろ過を
強化して不純物をポリマーから除去することが、高性能
炭素繊維を得るために重要である。
【0043】該紡糸原液を凝固、水洗、延伸、油剤付与
して前駆体原糸とし、さらに耐炎化、炭化、さらに必要
に応じて黒鉛化処理を行って炭素繊維とする。製糸、焼
成工程を通して、用役あるいは雰囲気から塵埃、異物と
いった不純物を最小限に抑え、繊維への欠陥導入を防ぐ
こと、張力をかけて配向を高くすることが高性能炭素繊
維を得るために重要である。炭化あるいは黒鉛化条件と
して、本発明炭素繊維を得るには最高熱処理温度は11
00℃以上、好ましくは1400℃以上がよい。
【0044】強度および弾性率の高い炭素繊維を得るた
めには細繊度の炭素繊維が好ましく、炭素繊維の単糸径
で7.5μm以下、好ましくは6μm以下、さらに好ま
しくは5.5μm以下がよい。得られた炭素繊維はさら
に表面処理およびサイジング処理がなされて炭素繊維と
なる。
【0045】表面処理としては、電解処理が好ましい。
電解処理に用いられる電解液としては、硫酸、硝酸、塩
酸などの酸や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水
酸化バリウム等の水酸化物、アンモニア、または、炭酸
ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩類、酢酸ナ
トリウム、安息香酸ナトリウム等の有機塩類の水溶液、
さらにこれらのカリウム塩、バリウム塩あるいは他の金
属塩、およびアンモニウム塩、またヒドラジン等の有機
化合物が挙げられる。
【0046】特に、X線光電子分光法により測定される
表面酸素濃度O/Cおよび表面窒素濃度N/Cを前記し
た特定の範囲とする炭素繊維は、アンモニウム塩水溶液
中で電解処理することにより得ることができる。
【0047】この場合の電解液としては、アンモニウム
イオンを含む水溶液であれば良く、具体的には、電解質
として、例えば硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、
過硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニ
ウム、燐酸2水素アンモニウム、燐酸水素2アンモニウ
ム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム等あるい
はそれらの混合物などを用いることができるが、なかで
も硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニ
ウム、炭酸アンモニウムおよび炭酸水素アンモニウムが
好ましく、特に炭酸アンモニウムおよび炭酸水素アンモ
ニウムは、水洗後および乾燥後の炭素繊維表面に残査が
少なく好ましい。
【0048】電解液の濃度としては、0.01〜5モル
/リットル、好ましくは0.1〜1モル/リットルがよ
い。すなわち、濃度が濃いほど電解処理電圧が下がる
が、臭気が強くなり環境が悪化するのでそれらから最適
化することが好ましい。
【0049】電解液温度としては0〜100℃、好まし
くは10〜40℃がよい。すなわち温度が高いと臭気が
強くなり環境が悪化するため低温が好ましいので、運転
コストとの兼ね合いで最適化することが好ましい。
【0050】電気量は被処理炭素繊維の炭化度に合わせ
て最適化することが好ましく、高弾性率糸はより大きな
電気量が必要である。表層の結晶性の低下を進ませ、生
産性を向上させる一方、炭素繊維基質の強度低下を防ぐ
観点から、電解処理は小さい電気量で複数回処理を繰り
返し行うのが好ましい。具体的には、電解槽1槽当たり
の通電電気量は5クーロン/g・槽(炭素繊維1g当た
りのクーロン数)以上、100クーロン/g・槽以下が
好ましく、より好ましくは10クーロン/g・槽以上、
80クーロン/g・槽以下、さらに好ましくは20クー
ロン/g・槽以上、60クーロン/g・槽以下がよい。
また、表層の結晶性の低下を適度な範囲とする観点から
は通電処理の総電気量は5〜1000クーロン/g、さ
らには10〜500クーロン/gの範囲とするのが好ま
しい。
【0051】槽数としては2以上が好ましく、4以上が
より好ましい。設備コストの面から10槽以下が好まし
く、電気量、電圧、電流密度等から最適化することが好
ましい。
【0052】電流密度としては、炭素繊維表面を有効に
酸化し、かつ安全性を損なわない観点から、電解処理液
中の炭素繊維の表面積1m2 当たり1.5アンペア/m
2 以上1000アンペア/m2 以下、好ましくは3アン
ペア/m2 以上500アンペア/m2 がよい。処理時間
は、数秒から十数分が好ましく、さらには10秒から2
分程度が好ましい。
【0053】電解電圧は安全性の観点から25V以下、
さらには0.5〜20Vが好ましい。電解処理時間は電
気量、電解質濃度により最適化すべきであるが、生産性
の面から数秒〜10分、好ましくは10秒〜2分程度が
よい。電解処理方式としてはバッチ式、連続式いずれで
もよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式
が好ましい。通電方法としては、炭素繊維を電極ローラ
に直接接触させて通電させる直接通電、あるいは炭素繊
維と電極の間に電解液等を介して通電させる間接通電の
いずれも採用することができるが、電解処理時の毛羽立
ち、電気スパーク等が抑えられる間接通電が好ましい。
【0054】また、電解処理方法は、電解槽を必要槽数
並べて1度通糸しても、1槽の電解槽に必要回数通糸し
てもよい。電解槽の陽極長は5〜100mmが好ましく、
陰極長は300〜1000mm、さらには350〜900
mmが好ましい。
【0055】電解処理を行った後、水洗および乾燥する
ことが好ましい。この場合、乾燥温度が高すぎると炭素
繊維の最表面に存在する官能基は熱分解により消失し易
いため、できる限り低い温度で乾燥することが望まし
く、具体的には乾燥温度が250℃以下、さらに好まし
くは210℃以下で乾燥することが望ましい。
【0056】このようにして得た炭素繊維にサイジング
剤を付与するのである。
【0057】本発明の炭素繊維を得るためには、サイジ
ング剤を付与するに際して、繊維束が十分に拡幅されて
いることが重要であるため、繊維束には実質的に撚りの
ないことが好ましい。最も好ましくは、繊維束の厚み方
向における単繊維の重なりがほとんどないほどに繊維束
を拡幅することである。サイジング剤を付与するに際し
て、繊維束が十分に拡幅されていないと、サイジング剤
の大部分が繊維束周りにのみ付着してしまい、単繊維一
本一本の周りに施されなくなってしまうことになる。。
【0058】繊維束を拡幅する方法としては、例えば特
開昭61−275438号公報に開示された、繊維束を
緊張下に走行させながら回転ガイドや往復ガイドで叩
き、それらのガイドによる揉みほぐし作用を利用して拡
幅する方法、特開平1−321944号公報に開示され
た、走行するストランドを曲面体に接触させながら圧空
を吹き付ける方法、また特開平1−280040号公報
に開示された、走行するストランドを曲面体に接触させ
ながら振動を付与する方法が利用できる。特に、走行す
るストランドを曲面体に接触させながら振動を付与する
方法は、繊維束の拡幅効率が高く、前記した特定のサイ
ジング剤の付着状態を得るためには好ましく用いられ
る。本方法の場合について、詳細に説明する。
【0059】繊維束の拡幅は、ただ一糸条の繊維束につ
いて行なっても良いが、通常は複数本の糸条を一方向に
互いに平行かつシート状に引き揃えて供給し、同時に拡
幅するのが良い。また、繊維束の各単繊維に平均して
0.01〜0.1gの張力を加えることが好ましい。張
力が0.01g未満であると単繊維の交絡が起こり、ま
た0.1gを超えると単繊維間の摩擦力が大きくなって
充分な拡幅が行えず、共にサイジング剤の付着ムラが生
じる場合がある。
【0060】繊維束の拡幅は、炭素繊維の走行方向と交
差する面内において前記炭素繊維側に凸である曲面を有
する曲面体に接触させながら、前記曲面体を振動せしめ
る方法を用いることが最も望ましい。本発明でいうとこ
ろの、繊維束の走行方向に対して直交するような曲面と
は、べき乗関数や双曲線関数、楕円関数で表わされるも
のを、対称軸近傍を比例拡大したり、比例圧縮したもの
である。とくに、対称軸をy軸としたときに、y=A|
x|a (A:傾き、a:定数)で表されるべき乗関数に
おいて、|x|≦1で、定数aを1.1〜4、好ましく
は1.5〜3としたような曲面であることが好ましい。
そのような曲面は、その勾配が、いわゆる原点付近では
小さく、端部にいくほど大きくなるので、繊維束の一様
で十分な拡幅を行うことができるのである。
【0061】なお、これらの曲面体は、ステンレス、
鉄、銅等の金属や、ガラスやアルミナ、ジルコニア等の
セラミックスで構成することができるが、これらの表面
にフッ素樹脂等をコーティングしておくことができる。
また、曲面体が金属製の場合は、クロムメッキ等を施し
ておくこともできる。
【0062】本発明において、上述した曲面体には振動
が与えられる。振動を与える手段としては、通常、後述
する加振器が用いられる。
【0063】曲面体の振動は、上述した繊維束の走行方
向と交差する面内で、上下方向に行われても、繊維束の
走行方向と直交する左右方向に行われても良い。
【0064】このときの振動数は、繊維束の種類、単繊
維の本数等によって変動させることになるが、通常は、
好ましくは周波数20〜100KHz、より好ましくは
20〜50KHzの超音波振動が適用される。また振幅
は1mm以下、好ましくは0.1mm以下とすることが
望ましい。
【0065】繊維束を拡幅する場合、繊維束に上述した
振動を与えると同時に、繊維束にその上方から気体を吹
き付けると、拡幅をより一層十分に行うことができる場
合がある。
【0066】サイジング剤の繊維束への含浸は、拡幅し
た状態でサイジング液に繊維束を浸漬するのが好まし
く、さらに曲面体で振動を与えた後、ローラ等を介さず
に直ちにサイジング液に浸漬するのが好ましい。また、
サイジング液に浸漬時に、振動、超音波を付与すること
もできる。さらにサイジング剤の繊維束への含浸にはサ
イジング液を繊維束に吹き付けるスプレー法などを採用
しても良い。
【0067】また、サイジング液に使用する溶媒は、
水、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、
ジメチルアセトアミド、アセトン等が挙げられ特に限定
しないが、取扱いの容易さおよび防災の観点から水が好
ましい。従って、水に不溶、若しくは難溶のエポキシ化
合物には乳化剤、界面活性剤等を添加し水分散性にして
用いるのが良い。乳化剤、界面活性剤としては、スチレ
ン−無水マレイン酸共重合物、オレフィン−無水マレイ
ン酸共重合物、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮
合物、ポリアクリル酸ソーダ等のアニオン系乳化剤、ポ
リエチレンイミン、ポリビニルイミダゾリン等のカチオ
ン系乳化剤、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加
物、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンエーテ
ルエステルのコポリマー、ソルビタンエステルエチルオ
キサイド付加物等のノニオン系乳化剤などを用いること
ができるが、エポキシ基との相互作用が小さいノニオン
系乳化剤が好ましい。
【0068】サイジング剤の付着量としては、透過型電
子顕微鏡で観察されるサイジング層の厚みを所望のもの
とするように適宜設定できる。
【0069】また、サイジング剤付与処理を行った後の
乾燥工程における乾燥温度は、150℃以上350℃以
下が好ましく、180℃以上250℃以下がより好まし
い。乾燥温度が150℃未満であるとサイジング剤の溶
媒が完全に除去できず複合材料の接着特性に悪い影響を
及ぼす場合があり、また350℃以上であるとサイジン
グ剤の硬化が進み過ぎ、炭素繊維束が固くなって繊維束
の拡がり性が悪化する場合がある。
【0070】本発明の炭素繊維は、マトリックスと組み
合わせて複合材料とした場合に炭素繊維とマトリックス
との接着特性のバラツキが小さいという特徴を有する。
【0071】対象となるマトリックスとしてはエポキ
シ、ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂、ナイロン、ポ
リエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂、セメント
等の各種マトリックスを適用できるが、サイジング剤化
合物がエポキシ基を有する化合物であるので親和性の高
い熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂が好ましく、さら
にエポキシ樹脂が好ましい。
【0072】具体的には、ビスフェノール型エポキシ
は、市販されているものが使用でき、例えば、ビスフェ
ノールA型として、エピコート828,1001,10
04,1009(油化シェルエポキシ社製)やエポトー
トYD019,YD020,YD7019,YD702
0,フェノトートYP50,YP50P(東都化成社
製)、エピクロン840,850,855,860,1
050,1010,1030(大日本インキ化学工業社
製)等がある。また、ビスフェノールF型として、エピ
クロン830,831(大日本インキ化学工業社製)等
がある。
【0073】フェノールノボラック型エポキシ樹脂に
は、エピコート152,154(油化シェルエポキシ社
製)、ダウエポキシDEN431,438,439,4
85(ダウケミカル社製)、チバガイギーEPN113
8,1139(チバ・ガイギー社製)がある。変性体の
クレゾールノボラック型エポキシとして例えば、チバガ
イギーECN1235,1273,1280,1299
(チバ・ガイギー社製)、EOCN102,103,1
04(日本化薬社製)、エピクロンN660,N66
5,N670,N673,N680,N690,N69
5(大日本インキ化学工業社製)がある。他に変性フェ
ノールノボラック型エポキシ樹脂でもよい。さらに多官
能エポキシ樹脂では、N,N,N’,N’−テトラグリ
シジルジアミノジフェニルメタンはELM434(住友
化学工業社製),MY720(チバ・ガイギー社製),
YH434(東都化成社製)がある。
【0074】これらのエポキシ樹脂を目的に応じて、組
み合わることによってエポキシ樹脂組成物を得る。添加
剤,硬化剤に関して特に限定されないが、添加剤として
ポリビニルアセタール樹脂,ポリビニルブチラール樹
脂、ポリビニルホルマール樹脂等を、硬化剤としてジア
ミノジフェニルスルホン、三フッ化ホウ素・アミン錯
体、イミダゾール化合物、ジシアンジアミド、尿素誘導
体、および複数の硬化剤を同時に用いることができる。
【0075】さらに、硬化温度についても限定されるも
のではないが、コンポジットの横方向特性向上効果を顕
著にするには、炭素繊維との反応性が低いエポキシ樹脂
組成物に好適であり、硬化温度が200℃以下、好まし
くは150℃以下が良い。具体的には、特公昭63−6
0056号公報、特開昭63−162732号公報等で
開示された180℃硬化の耐熱性を向上させたエポキシ
樹脂組成物や、特公平4−80054号公報で開示され
た130℃硬化のエポキシ樹脂組成物などが好適に用い
ることができ、特に反応性の低い130℃硬化のエポキ
シ樹脂組成物に好適である。
【0076】
【実施例】以下、実施例により本発明をさらに具体的に
説明する。樹脂との接着力の指標には、単繊維の界面剪
断強度(τ)を用い、染色剤沈着前のTEM観察サンプ
ルで評価を行った。以下に方法を示す。
【0077】(界面剪断強度測定方法)エポキシ樹脂1
00部(エピコート828,油化シェルエポキシ社
(株)製)に、アミノエチルピペラジン20部を添加
し、充分に撹拌した後、約10分間真空脱泡を行った。
これらの混合樹脂液を、一本の炭素繊維を中心に保った
型に注入し、室温で12時間加圧硬化し、更に180℃
で2時間後硬化処理を行った。その後、約12時間で室
温に冷却し、得られた試験片の端面を#1000までの
耐水研磨紙で研磨し、厚さ2mm,幅10mm,長さ1
50mmの試験片を得た。同一単繊維について試験片を
10ピース作製した。
【0078】測定は通常の引張試験治具を用いて、試験
長25mmに設定し、歪速度0.5mm/minで測定
した。炭素繊維破断がもはや起こらなくなった時の、平
均破断繊維長(l)を透過型偏光顕微鏡で引張荷重下で
測定した。
【0079】界面剪断強度(τ)は下式より求めた。
【0080】τ=(σf ・d)/(2・lc ) lc =(4/3)・l ここで、lは最終的な繊維の破断長さの平均値、σf
繊維の引張強さ、dは繊維の直径である。
【0081】σf は、炭素繊維の引張強度分布がワイブ
ル分布に従うとして次の方法により求めた。即ち、単繊
維を用い、試料長が5,25,50mmで得られた平均
引張強度から最小2乗法により、試料長と平均引張強度
との関係式を求め、試料長lc の時の平均引張強度を算
出した。
【0082】(実施例1)アクリロニトリル(AN)9
9.4モル%とメタクリル酸0.6モル%からなる共重
合体を用いて、乾湿式紡糸方法により単繊維デニール
0.7d,フィラメント数3000のアクリル系繊維を
得た。得られた繊維束を240〜280℃の空気中で、
延伸比1.05で加熱し、耐炎化繊維に転換し、ついで
窒素雰囲気中300〜900℃の温度領域での昇温速度
を200℃/分とし10%の延伸を行なった後、180
0℃まで焼成した。
【0083】濃度0.25モル/リットルの炭酸水素ア
ンモニウム水溶液を電解液として、1槽当たりの通電電
気量を20クーロン/g・槽とし、5槽繰り返すことに
より該炭素繊維を総電気量100クーロン/gで処理し
た。この電解処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、
180℃の加熱空気中で乾燥した。
【0084】続いて、図1に示した方法によって、炭素
繊維束を1.5m/分の速度で走行させ、繊維束一本当
たり150gの張力をかけた緊張状態を維持しながら、
表面にクロムメッキを施した丸棒を弓形に湾曲させてな
る曲面体の凸面に接触させるとともに、その曲面体を上
下垂直方向に、発信周波数20KHz、振幅0.01m
mで振動させた。その結果、繊維束は当初の約2.5m
m幅から約12.5mm幅に拡幅された。続いて、ポリ
エチレングリコールジグリシジルエーテル(式(I) にお
いて、R1 は -CH2 - 、m=9である)からなるサイジ
ング剤を、成分が1重量%になるように水で希釈してサ
イジング剤母液を調整し、拡幅した状態で浸漬法により
炭素繊維にサイジング剤を付与し、180℃で乾燥を行
なった。サイジング付着量は0.6%であった。 サイ
ジング剤付着前の繊維のO/Cは、0.10、N/Cは
0.03であった。
【0085】サイジング層厚みの最大値が50オングス
トローム、最小値が40オングストロームであり、最大
厚みは最小厚みの1.25倍であった。
【0086】界面剪断強度を測定すると、4.6kgf/mm
2 で変動係数は10.3%であった。得られた炭素繊維
の特性を表1に示す。
【0087】(実施例2)サイジング剤の樹脂成分をビ
スフェノールA型ジグリシジルエーテル(油化シェルエ
ポキシ社製エピコート828 )に変更した以外は、実施例
1と同様にして炭素繊維を得た。サイジング付着量は
0.7%であった。得られた炭素繊維の特性を表1に示
す。
【0088】(実施例3)電解液を濃度0.05モル/
リットルの硫酸水溶液した以外は実施例1と同様に処理
して炭素繊維を得た。得られた炭素繊維の特性を表1に
示す。
【0089】(比較例1)拡幅工程で超音波を当てなか
った以外は実施例1と同様に処理した炭素繊維を得た。
繊維束は約2.5mm幅から約5.5mm幅に拡幅され
た。サイジング剤付着前の繊維のO/Cは0.10、N
/Cは0.03であった。サイジング層厚みの最大値が
50オングストローム、最小値が20オングストローム
であり、最大厚みは最小厚みの2.5倍であった。単繊
維の界面剪断強度は、4.3kgf/mm2 で変動係数は3
1.1%であり、サイジング層の厚さムラが単繊維の界
面剪断強度のバラツキに影響を及ぼしているのが分か
る。得られた炭素繊維の特性を表1に示す。
【0090】(比較例2)サイジング剤を成分が0.2
重量%になるように水で希釈して用いた以外は実施例1
と同様に処理して炭素繊維を得た。サイジング付着量は
0.1%であった。得られた炭素繊維の特性を表1に示
す。
【0091】サイジング剤付着前の繊維のO/Cは、
0.10、N/Cは0.03であった。サイジング層厚
みの最大値は15オングストローム、最小値が10オン
グストロームであり、最大厚みは最小厚みの1.5倍で
あった。単繊維の界面剪断強度を測定すると、4.2kg
f/mm2 で変動係数は16.0%であった。サイジング層
の厚みの最大値と最小値の比が1〜2の範囲内であって
も、それがやや大きめであること、および最大値、最小
値が20オングストロームに満たないことと相まって、
単繊維の界面剪断強度のバラツキが大きくなる。また、
サイジング層が薄いために、単繊維の界面剪断強度もや
や低くなる。
【0092】(比較例3)湾曲していない丸棒に接触さ
せ振動を与えた以外は実施例1と同様に処理して炭素繊
維を得た。繊維束は約2.5mm幅から約6.5mm幅
に拡幅された。得られた炭素繊維の特性を表1に示す。
【0093】サイジング剤付着前の繊維のO/Cは、
0.10、N/Cは0.03であった。
【0094】サイジング層厚みの最大値が80オングス
トローム、最小値が30オングストロームであり、最大
厚みは最小厚みの2.67倍であった。単繊維の界面剪
断強度を測定すると、4.4kgf/mm2 で変動係数は2
8.0%であった。
【0095】(比較例4)サイジング剤を付与しない以
外は実施例1と同様に処理して炭素繊維を得た。得られ
た炭素繊維の特性を表1に示す。
【0096】繊維のO/Cは、0.10、N/Cは0.
03であった。単繊維の界面剪断強度を測定すると、
3.5kgf/mm2 で変動係数は9.8%であり、エポキシ
化合物による接着力が向上することが分かる。
【0097】
【表1】 表1中、Aはポリエチレングリコールジグリシジルエー
テル(式(I) において、R1 は -CH2 - 、m=9であ
る)を、Bはエピコート828を意味する。
【0098】
【発明の効果】本発明の炭素繊維は、反応性の高いサイ
ジング剤が均一の厚みでムラなく付着しているため、樹
脂との接着強度を著しく向上することができるだけでな
く、接着強度のバラツキを小さくでき、また接着破壊の
開始点となり得る局所的な低接着強度部分がなくなるこ
とにより、最終的に得られる複合材料の特性が安定して
良好なものとすることができる。したがって従来のマト
リックス樹脂との接着強度およびその安定性の不足によ
り使用が困難であった構造部材にも炭素繊維を使用する
ことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法の一実施態様を示す概略斜視図で
ある。
【符号の説明】
1:繊維束 1’:拡幅されたサイジング付着繊維束 2,4,8,11:ガイドロール 3:ダンサロール 5:曲面体 6:ホーン 7:振動子 9:サイジング槽 10:サイジング液

Claims (8)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】サイジング剤が付着した炭素繊維であっ
    て、該サイジング剤の厚みの最大値および最小値がいず
    れも20〜200オングストロームの範囲内であり、か
    つ該サイジング剤の厚みの最大値と最小値の比が1以
    上、2以下であることを特徴とする炭素繊維。
  2. 【請求項2】サイジング剤が、複数のエポキシ基を有す
    る化合物からなることを特徴とする請求項1に記載の炭
    素繊維。
  3. 【請求項3】サイジング剤が、複数のエポキシ基を有す
    る脂肪族化合物からなることを特徴とする請求項1に記
    載の炭素繊維。
  4. 【請求項4】サイジング剤が、グリセロールポリグリシ
    ジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテ
    ル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル類、
    ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類から
    選ばれる少なくとも一種の化合物からなることを特徴と
    する請求項1に記載の炭素繊維。
  5. 【請求項5】X線光電子分光法により測定される表面酸
    素濃度O/Cが0.20以下、かつ表面窒素濃度N/C
    が0.02以上であることを特徴とする請求項1〜4の
    いずれかに記載の炭素繊維。
  6. 【請求項6】実質的に撚りのない炭素繊維を、該炭素繊
    維の走行方向と交差する面内において前記炭素繊維側に
    凸である曲面を有する曲面体に接触させながら、前記曲
    面体を振動せしめ、前記炭素繊維を前記曲面体の曲面に
    沿って拡幅させたのち、サイジング剤を付与することを
    特徴とする炭素繊維の製造方法。
  7. 【請求項7】X線光電子分光法により測定される表面酸
    素濃度O/Cが0.20以下、かつ表面窒素濃度N/C
    が0.02以上である実質的に撚りのない炭素繊維にサ
    イジング剤を付与することを特徴とする請求項6に記載
    の炭素繊維の製造方法。
  8. 【請求項8】アンモニウム塩水溶液中で電解処理した実
    質的に撚りのない炭素繊維にサイジング剤を付与するこ
    とを特徴とする請求項6に記載の炭素繊維の製造方法。
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