JPH0787781B2 - ホスホリパーゼd及びホスホリパーゼdの製造法 - Google Patents

ホスホリパーゼd及びホスホリパーゼdの製造法

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JPH0787781B2
JPH0787781B2 JP62234880A JP23488087A JPH0787781B2 JP H0787781 B2 JPH0787781 B2 JP H0787781B2 JP 62234880 A JP62234880 A JP 62234880A JP 23488087 A JP23488087 A JP 23488087A JP H0787781 B2 JPH0787781 B2 JP H0787781B2
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Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は、新規なホスホリパーゼDの発明および発酵法
によるホスホリパーゼDの製造法に関するものである。
ホスホリパーゼD(特に後記ホルファチジル基転移触媒
能を有するもの)は、大豆や卵黄などに含まれているホ
スファチジルコリンやホスファチジルエタノールアミン
等のリン脂質と各種アルコールから食品乳化剤、農薬、
医薬、一般工業試薬および磁性粉分散剤等に有用な、リ
ン脂質誘導体を製造するのに使われる。
〔従来の技術〕
ホスホリパーゼD(EC 3.1.4.4)はリン脂質のホスファ
チジル基と塩基との間のエステル結合を加水分解してホ
スファチジン酸および塩基を遊離する酵素であるが、そ
の起源によっては、グリセロール、エタノール等のアル
コール性水酸基を有する化合物の共存下でグリセロリン
脂質のホスファチジル基と塩基との間のエステル結合を
加水分解すると同時にホスファチジル基と上記アルコー
ル性水酸基を有する化合物とより新たなエステルを生成
する反応すなわちホスファチジル基転移反応を生起させ
る。
この酵素は、キャベツ、ニンジン、ホウレンソウ、カリ
フラワー、セロリ、エンドウ豆などの植物組織中に広く
存在することが早くから知られており、この酵素を含有
する植物体から抽出する方法により製造するのが普通で
あった。しかしながら、最近では、ストレプトミセス
属、ミクロモノスポラ属、ノルカディオプシス属、アク
チノマデューラ属、ノカルディア属等の微生物を用いて
発酵法により製造する方法が提案され(特公昭52-39918
号公報、特公昭58-52633号公報、特開昭58-63388号公
報、特開昭58-67183号公報、特開昭60-164483号公報
等)、一部実施されている。
〔発明が解決しようとする問題点〕
ホスホリパーゼDを用いてリン脂質誘導体を効率よく製
造するには、連続的に、かつ反応速度を上げるためなる
べく高温で反応させるのが有利である。そのためには、
用いる酵素が水中あるいは有機溶媒中のいずれにおいて
も高い熱安定性を示すことが必要である。熱安定性に関
しては、具体的には、約50℃以上の温度にも耐える酵素
であることが望まれる。
しかしながら、上記従来の製造法により得られるホスホ
リパーゼDは、ホスファチジル基転移触媒活性を示すも
のに関する限り、その至適条件下での熱安定性が悪く、
そのため、反応を高温で連続的に行わせることができな
いという問題があった。さらに、一部の製造法で使われ
る菌株は病原性が指摘されている菌株であって、食品製
造用酵素の製造に使用するには安全性の点で問題があっ
た。
本発明は、ホスファチジル基転移活性を有する従来のホ
スホリパーゼDが上述のような欠点をもつことに鑑み、
ホスファチジル基転移活性を示し且つ熱安定性にも優れ
た新規なホスホリパーゼDを提供しようとするものであ
る。
本発明の他の目的は、病原菌となる恐れのない微生物を
用いて、ホスファチジル基転移活性を有するホスホリパ
ーゼDを従来よりも有利に製造する方法を提供すること
にある。
〔問題点を解決するための手段〕
本発明者らは、各地の土壌から単離した多くの微生物を
対象に、上記目的に合致する酵素を産生する菌株を鋭意
探索し、その結果、群馬県尾瀬ケ原地区の土壌から分離
した菌株・キタサトスポリアsp.SK-60株が、水中および
各種有機溶媒中においてホスファチジル基転移触媒活性
を示すとともに熱安定性にもすぐれたホスホリパーゼD
を培地中に産生する事実を見いだし、本発明を完成する
に至った。
すなわち、本発明は上記キタサトスポリアsP.SK-60株に
よって産生される新規ホスホリパーゼD、および、キタ
サトスポリア属微生物を培養し、培養物からホスホリパ
ーゼDを採取することによりホスホリパーゼDを製造す
る方法を提供するものである。
キタサトスポリアsp.SK-60株が生産する本発明のホスホ
リパーゼDは、次のような理化学的性質を有するもので
ある。
(イ)作用 a.リン脂質のホスファチジル基と塩基との間のエステル
結合を加水分解し、ホスファチジン酸および塩基を遊離
させる。
b.グリセロール、エタノール等のアルコール性水酸基を
有する化合物の共存下、グリセロリン脂質のホスファチ
ジル基と塩基との間のエステル結合を加水分解すると同
時にホスファチジル基と上記アルコール性水酸基を有す
る化合物とより新たなエステルを生成するホスファチジ
ル基転移反応を生じさせる。
(ロ)基質特異性 a.ホスファチジルコリンに対する加水分解活性を100し
たときの相対活性は、リゾホスファチジルコリンの場合
7.2、スフィンゴミエリンの場合0.3である。
b.ホスファチジルコリンに対するKm値は2.5mMである。
(ハ)至適pH a.加水分解反応の至適pHは5.5付近にある。
b.ホスファチジル基転位反応の至適pHは5.5付近にあ
る。
(ニ)至適温度:60℃(但しトリトンX100を含む系にお
ける至適温度。トリトンXを含まない系では75℃。) (ホ)pH安定性:pH5〜7で安定。
(ヘ)熱安定性:pH5〜6において、50℃100時間の加熱
または60℃60分間の加熱では失活しない。
(ト)各種金属イオンによる影響:濃度10mMの金属イオ
ンを存在させた場合、加水分解活性はCa2+で12%、Ni2+
で22%、Zn2+で16%、Co2+で51%、それぞれ阻害される
が、Mg2+、Ba2+、Mn2+のときは阻害されない。また、濃
度が1mMのときは、いずれの金属イオンによっても全く
阻害されない。
(チ)各種阻害剤の影響:濃度1mMのモノヨード酢酸で8
3%、シアン化カリウム18%、2−メルカプトエタノー
ルで20%、阻害されるが、ジイソプロピルフルオロホス
フェート、N−エチルマレイミド、p−クロロマーキュ
リーベンゾエート、o−フェナンスロリン、エチレンジ
アミン四酢酸二ナトリウムでは影響されない。
(リ)分子量:5.8万(SDS-PAGE法による)。なお、ホス
ホリパーゼDの酵素活性は、基質であるリン脂質に作用
してリン酸と塩基との間のエステル結合を分解したとき
に生じる塩基を定量することにより求める。この明細書
に記載した酵素活性は、ホスファチジルコリンを基質と
して用いる下記の方法により測定されたものであって、
1分間に1μモルのコリンを遊離する酵素活性を1ユニ
ットとしている。
ホスファチジルコリン分解活性測定法:ホスファチジル
コリンのイソプロパノール溶液(濃度5.0%)50μlと
0.5%のトリトンX100を含む0.1M酢酸ナトリウム緩衝液
(pH5.5)900μlとを混合し、これに酵素液50μlを加
え、50℃で10分間反応させる。反応後は直ちに100℃で
2分間煮沸し、反応を完全に停止させる。次に、コリン
測定用試薬(コリンオキシダーゼ325ユニット、パーオ
キシダーゼ500ユニット、塩化カルシウム123mg、トリト
ンX100 250mg、4−アミノアンチピリン 50mgおよび
フェノール78mgをpH8.0のトリス塩酸緩衝液250mlに溶か
したもの)1mlに上記反応液50μlを添加し、37℃で10
分間反応させた後、あらかじめ熱失活させた酵素液を用
いて同様に反応させたものを対照液にして、500nmの吸
光度を測定する。
上述のような本発明のホスホリパーゼDを生産するキタ
サトスポリアsp.SK-60株は、次のような菌学的性質を有
する。
(1)形態的特徴 気菌糸:直線状が主であり、僅かに屈曲している。
幅0.6〜0.9μm。
胞子:気菌糸上に20個以上の胞子連鎖を作る。
その形は短円筒形で、大きさは0.6〜0.9×1.2〜2.3μm
である。表面は平滑である。
基生菌糸:多少波状で、短軸分岐している。菌糸の分断
はない。
鞭毛胞子、胞子嚢、スクレロチア:形成しない。
液体培養菌糸:液体培養では栄養菌糸に深部培養胞子を
形成し、培養液中に遊離する。
諸種の培地上での生育状態:次表のとおり (但し28℃、2週間後の結果。色の表示はJIS Z8721準
拠標準色票による色の分類に従っている)。
(2)細胞の化学的分析 a.細胞壁のアミノ酸組成および糖組成 LL−ジアミノピメリン酸 + meso−ジアミノピメリン酸 + グリシン + グルタミン酸 + アラニン + アラビノース − ガラクトース + マンノース + キシロース − マジュロース − b.細胞壁のN−アシル型:アセチル型 c.全菌体のリン脂質:PII型 (3)生理的性質 a.生育温度範囲:15〜35 b.至適生育温度:25〜30℃ c.至適pH:5.5〜6.5 d.ゼラチンの液化:なし e.スターチの加水分解:あり f.脱脂牛乳の凝固、ペプトン化:なし g.メラノイド色素の産生:あり h.硝酸塩の還元:あり i.炭素源の利用性(30℃,16日培養): L−アラビノース ++ D−キシロース ++ D−グルコース ++ D−フラクトース + D−マンニトール − シュークロース ++ イノシトール − L−ラムノース − ラフィノース − (注)++:強く利用する +:利用する −:利用しない (4)同定 本SK-60株は、各種寒天培地上でよく生育し、気菌糸の
着生も良好である。発達した気菌糸に20個以上の長い連
鎖を形成する。基生菌糸は断裂せず、鞭毛胞子および胞
子嚢は形成しない。液体培養した菌体の化学分析では、
細胞壁組成としてLL−ジアミノピメリン酸、メゾ−ジア
ミノピメリン酸、グリシン、ガラクトースを有し、アラ
ビノース、キシロース、マジュロースを持たない。よっ
て、レシェバリエら(Int.J.Syst.Bacteriol.20巻,435
〜443頁,1970年)の分類法に従えば、本菌の細胞壁のタ
イプはI〜IX型のどのタイプにもあてはまらない。ま
た、細胞壁のN−アシル型はアセチル型であり、リン脂
質の型はPII型である。さらに本菌は、液体培養する
と、栄養菌糸の外に、深部培養胞子を形成して培地中に
遊離する。その胞子のジアミノピメリン酸の型は、LL型
である。また、寒天培地上の気菌糸はLL型で、基生菌糸
はメゾ型である。以上の結果から判断すると、本菌は高
橋ら(The Journal of Antibiotics,35巻,1013〜1019
頁,1982年)が報告したキタサトスポリア属(Genus Kit
asatosporia)に同定するのが分類学上もっとも妥当で
ある。
そこで本発明者らは、本菌をキタサトスポリアsp.SK-60
株(Kitasatosporia sp.SK-60株)と称することにし
た。本菌は工業技術院微生物工業技術研究所に寄託され
ており、その受託番号は、微工研菌寄第9604号である。
本発明によるホスホリパーゼDの製造法は、上述のよう
なキタサトスポリア sp.SK-60株を用いるホスホリパー
ゼDの製造に限られるわけではなく、キタサトスポリア
sp.SK-60株からの変異株その他キタサトスポリア属に
属しホスホリパーゼDを生産する菌株のいずれかによる
ホスホリパーゼD(本発明のホスホリパーゼDに限定さ
れない)の製造すべてを包含する。ホスホリパーゼDを
生産するキタサトスポリア属微生物は、SK-60株以外に
も幾つか確認されている。
本発明に従いホスホリパーゼDを製造するに当たり、キ
タサトスポリア属微生物の培養は、放線菌一般の培養に
通常採用される方法によって行うことができる。また、
培養用炭素源としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、乳
糖、糖蜜、デンプン、デキストリン、グリセリン等を単
独で、または組合せて、適宜用いることができる。その
他、使用する菌株によっては、脂肪酸その他の有機酸、
油脂、各種のレシチン、アルコール類なども用いること
ができる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、硝酸ア
ンモニウム、塩化アンモニウム、尿素、硝酸ナトリウ
ム、ペプトン、牛肉エキス、魚肉エキス、酵母エキス、
コーンスチープリカー、カザミノ酸、脱脂大豆粉、大豆
蛋白、デスティラーズソルブルなどを、単独あるいは組
み合わせて用いることができる。さらに、必要があると
きは、食塩、塩化カリウム、リン酸塩、マグネシウム
塩、カルシウム塩、カリウム塩、鉄塩、マンガン塩、各
種ビタミン、その他、菌の生育やホスホリパーゼDの生
産促進に有効な物質を適宜培地に添加することができ
る。培養方法としては深部培養法が好ましいが、固体培
養法を採用してもよい。培養は約20〜35℃で行うことが
できるが、好ましい培養温度は25〜30℃である。培地pH
は5〜8であればよいが、好ましくは5.5〜6.5とする。
必要な培養期間は温度、pH、培地等によって異なるが、
通常1〜6日程度であり、目的物であるホスホリパーゼ
Dの生産が最大に達した頃に培養を停止する。
培養終了後、培養液から菌体をろ別し、ろ液からホスホ
リパーゼDを採取する。培養ろ液からのホスホリパーゼ
Dの採取には、各種酵素の精製に通常用いられる方法を
適宜採用することができる。たとえば、限外ろ過、減圧
濃縮、塩析、有機溶媒沈殿、透析、ゲルろ過、吸着剤な
どによる吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマト
グラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、等電
点電気泳動法、凍結乾燥等の方法を、ホスホリパーゼD
の理化学的性質を考慮した条件で採用すればよい。
〔実施例〕
実施例1 1%グリセリン、1%ポリペプトン、0.3%酵母エキ
ス、0.5%牛肉エキス、0.1%リン酸一カリウム、0.2%
リン酸二カリウム、0.3%塩化ナトリウム、0.05%硫酸
マグネシウムを含む培地(pH6.5)100mlを500ml容量の
坂口フラスコに入れて蒸気滅菌後、キタサトスポリアs
p.SK-60株の胞子をスラントより1白金耳植菌し、28℃
で3日間、120spmで振とう培養して、前培養液を得た。
次に本培養培地として、3%グルコース、1%ポリペプ
トン、0.5%牛肉エキス、0.3%酵母エキス、0.1%リン
酸一カリウム、0.2%リン酸二カリウム、0.3%塩化ナト
リウム、0.05%硫酸マグネシウムからなる培地を(pH6.
5)100mlを500ml容量の坂口フラスコに入れ、121℃で15
分間蒸気滅菌後、前培養液5mlを植菌し、28℃で3日
間、120spmで振とう培養した。
培養後、菌体をろ別し、培養ろ液95ml(ホスホリパーゼ
Dの酵素活性2.6ユニット/ml)を得た。これに硫酸アン
モニウム43gを撹拌しながら徐々に加え、ホスホリパー
ゼDを沈殿させた。遠心分離によりこの沈殿を集め、pH
6.5の0.1M酢酸ナトリウム緩衝液に溶解してホスホリパ
ーゼDの活性を測定したところ、培養ろ液に対するホス
ホリパーゼDの活性回収率は70%であった。
実施例2 3%グリコース、1%ポリペプトン、0.5%コーンステ
ィープリカー、0.3%酵母エキス、0.1%リン酸一カリウ
ム、0.2%リン酸二カリウムからなる培地を(pH6.5)21
を30lのジャーファーメンターに入れ、120℃で15分間
蒸気滅菌した。この培地に、あらかじめ同じ組成の培地
で3日間培養したキタサトスポリアsp.SK-60株の前培養
液1を植菌し、28℃で40時間培養した。
培養後、遠心分離により菌体および固形物を除去し、遠
心上清20l(ホスホリパーゼDの酵素活性0.56ユニット/
ml)を得た。これを4℃に冷却後、限外ろ過膜ALL-1010
(旭化成株式会社製)を用いて濃縮した。次に冷アセト
ンを加え、アセトン濃度60〜90%の画分に相当するホス
ホリパーゼDを含む沈澱物を遠心分離により集め、50mM
トリス塩酸緩衝液(pH7.0)8l中に溶解した。次いで堀
内ら(J.Biochem.,81巻,1639頁,1977年)の方法で調製
したパルミトイルガーゼをカラムに充填し、十分に水洗
してから上記アセトン沈殿画分を通塔し、活性を吸着さ
せた。その後、0.2%のトリトンX100を含む同じ緩衝液
で活性を溶出した。得られた活性画分を集めてAIL1010
限外ろ過膜による濃縮とアセトン分画を行い、生成した
沈澱物を遠心分離により集めた。この沈澱物をCM−セフ
ァロースCL-6Bのカラムに通塔して活性を吸着させた
後、酢酸ナトリウムの濃度勾配法で活性画分を溶出分離
した。
以上により、約35%の活性回収率で精製ホスホリパーゼ
Dを得た。比活性は2000ユニット/mg蛋白質であった。
実施例2 3%可溶性澱粉、0.5%グルコース、1%脱脂大豆、0.5
%コーンスティープリカー、0.3%酵母エキス、0.1%リ
ン酸一カリウム、0.2%リン酸二カリウムからなる培地
(pH6.5)2lを20本の坂口フラスコに分注し、120℃で15
分間蒸気滅菌した。次に、あらかじめ同じ組成の培地で
3日間培養したキタサトスポリア sp.SK-60株の前培養
液を5mlずつ植菌し、28℃で4日間培養した。培養後、
遠心分離により菌体および固形物を除去し、遠心上清液
1900ml(ホスホリパーゼDの酵素活性1.5ユニット/ml)
を得た。これを4℃に冷却後、硫酸アンモニウムを加
え、30〜65%飽和で沈殿する各画分にホスホリパーゼD
を回収した。ついでこの画分をDEAE−セファロースCL-6
Bを充填したカラムに通して活性を吸着させ、食塩濃度
勾配法で活性を溶出させた。活性画分はさらにフェニル
セファロースのカラムに通して活性を吸着させ、硫酸ア
ンモニウム濃度勾配法で活性を溶出させた。得られた活
性画分を集め、限外ろ過膜で濃縮した後、セファクリル
S-200を充填したカラムに通してゲル濾過した。これに
より得られたホスホリパーゼD標品の比活性は4500ユニ
ット/mgであり、その活性回収率は22%であった。
次に、上記標品について下記のような理化学的性質の試
験を行なった。
至適pH ホスファチジルコリン分解活性:前述の酵素活性測定法
における緩衝液における緩衝液のかわりに0.5%トリト
ンX100を含む乳酸緩衝液(pH3.0〜4.5)、酢酸緩衝液
(pH4.0〜5.5)、トリスマレイン酸緩衝液(pH5.0〜8.
0)それぞれ0.1Mを用いて酵素活性を測定し、本酵素の
ホスファチジルコリン分解活性のpH依存性をしらべた。
その結果は第1図に示すとおりであって、至適pHは5.5
付近に認められた。
ホスファチジル基転移活性測定法:ホスホリパーゼDの
存在下、ホスファチジルコリンとグリセリンからホスフ
ァチジルグリセロールを生成する反応の初速度を種々の
pHで測定した。その結果は第2図のとおりであって、有
機溶媒系および水系での至適pHはいずれも5.5である。
[反応初速度測定法:有機溶媒系(酢酸エチル系)の場
合は、10%のホスファチジルコリンを含有するイソプロ
パノール溶液25μl、グリセリン50μl、緩衝液50μ
l、酢酸エチル400μl、酵素液数μlを混合し、50℃
で30分間反応させる。反応終了後、pHを希塩酸で2以下
に調整して全リン脂質を酢酸エチル層に移し、同層中の
ホスファチジルグリセロールをイアトロスキャンにて分
析して反応初速度を求める。水系の場合は、10%のホス
ファチジルコリンを含有するイソプロパノール溶液25μ
l、グリセリン50μl、緩衝液400μl、0.1M塩化カル
シウム水溶液50μl、酵素液数μlを混合し、50℃で30
分間反応させる。反応終了後、反応液のpHの希塩酸で2
以下に調整し、ヘキサン/エーテル/イソプロパノール
(1/1/0.5)混合溶媒を加えて全リン脂質を抽出した
後、有機溶媒層中のホスファチジルグリセロールをイア
トロスキャンにて分析し、反応初速度を求める。] 至適温度 前述のホスファチジルコリン分解活性測定法における酵
素反応の温度を種々変更して酵素活性を測定することに
より、本酵素の活性の温度依存性を調べた。その結果は
第3図に示すとおりであって、至適温度は60℃(トリト
ンX100を含まない系では75℃)である。
pH安定性 トリトンX100を0.5%含有する0.1M乳酸緩衝液(pH3.0〜
5.0)、酢酸緩衝液(pH5.0〜6.0)およびトリス塩酸緩
衝液(pH7.0〜9.0)のそれぞれに酵素を1ユニット/ml
になるよう溶解し、50℃で1時間、または4℃で24時
間、静置した。その後、酵素活性を測定し、試験前の酵
素活性と比較した。結果は第4図(50℃保存)および第
5図(4℃保存)のとおりであって、本酵素の特に安定
なpHは5〜7であると認められた。
熱安定性 0.5%のトリトンX100を含んだ0.1M酢酸ナトリウム緩衝
液(pH6.0)に酵素を溶解し、20〜70℃に30分間保った
後、残存する酵素活性を測定した。その結果は第6図の
とおりであって、60℃では失活せず、65℃で15%の活性
低下が認められた。別に、温度50℃、pH5または6での
保存を行なったが、100時間以上経過後も100%の残存活
性を示した。
金属イオンの影響 前述の酵素活性測定法において各種金属塩の水溶液を用
い、酵素反応系中で金属イオン濃度が1mMまたは10mMに
なるようにして酵素活性を測定した。金属イオン無添加
のときの活性を100とする相対活性を、第1表に示し
た。
阻害剤の影響 前述の酵素活性測定法において各種阻害剤(種々の酵素
に対して阻害作用があることが知られている物質)の水
溶液を用い、酵素反応系中で阻害剤濃度が1mMになるよ
うにして酵素活性を測定した。阻害剤無添加のときに測
定される活性を100とする相対活性を、第2表に示し
た。
第2表 阻害剤の種類 残存酵素活性 ジイソプロピルフルオロホスフェート 91 モノヨード酢酸 17 N−エチルマレイミド 92 シアン化カリウム 82 p−クロロマーキュリーベンゾエート 100 o−フェナンスロリン 94 2−メルカプトエタノール 80 エチレレンジアミン四酢酸二ナトリウム 99 分子量 SDS-PAGE法によって分子量を測定した。その結果から推
察される本酵素の分子量は、5.8万であった。
【図面の簡単な説明】
第1図:本発明の酵素のホスファチジルコリン分解活性
のpH依存性を示すグラフ。 第2図:本発明の酵素のホスファチジル基転移活性のpH
依存性を示すグラフ。 第3図:本発明の酵素のホスファチジルコリン分解活性
の温度依存性を示すグラフ。 第4図:本発明の酵素の安定性に及ぼすpHの影響を示す
グラフ(保存温度50℃)。 第5図:本発明の酵素の安定性に及ぼすpHの影響を示す
グラフ(保存温度4℃)。 第6図:本発明の酵素のpH6.0における熱安定性を示す
グラフ。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 工藤 聡 東京都港区東新橋1―1―19 株式会社ヤ クルト本社内 (72)発明者 渡辺 常一 東京都港区東新橋1―1―19 株式会社ヤ クルト本社内 (72)発明者 黒田 彰夫 東京都港区東新橋1―1―19 株式会社ヤ クルト本社内

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】下記の理化学的性質を有するホスホリパー
    ゼD: (イ)作用 a.リン脂質のホスファチジル基と塩基との間のエステル
    結合を加水分解し、ホスファチジン酸および塩基を遊離
    させる; b.グリセロール、エタノール等のアルコール性水酸基を
    有する化合物の共存下、グリセロリン脂質のホスファチ
    ジル基と塩基との間のエステル結合を加水分解すると同
    時にホスファチジル基と上記アルコール性水酸基を有す
    る化合物とより新たなエステルを生成するホスファチジ
    ル基転移反応を生じさせる; (ロ)基質特異性 a.ホスファチジルコリンに対する加水分解活性を100と
    したときの相対活性は、リゾホスファチジルコリンの場
    合7.2、スフィンゴミエリンの場合0.3である; b.ホスファチジルコリンに対するKm値は2.5mMである; (ハ)至適pH a.加水分解反応の至適pHは5.5付近にある; b.ホスファチジル基転位反応の至適pHは5.5付近にあ
    る; (ニ)至適温度:60℃ (ホ)pH安定性:pH5〜7で安定 (ヘ)熱安定性:pH5〜6において、50℃100時間の加熱
    または60℃60分間の加熱では失活しない; (ト)分子量:5.8万(SDS-PAGE法による)。
  2. 【請求項2】キタサトスポリア属に属し、ホスホリパー
    ゼD生産能を有する微生物を栄養培地に培養して培養物
    中にホスホリパーゼDを生成させ、これを採取すること
    を特徴とするホスホリパーゼDの製造法。
  3. 【請求項3】微生物としてキタサトスポリアsp.SK-60株
    を用いる特許請求の範囲第2項記載の製造法。
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