JPH05287618A - 高弾性率、高圧縮強度ピッチ系炭素繊維及びその製造方法 - Google Patents

高弾性率、高圧縮強度ピッチ系炭素繊維及びその製造方法

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JPH05287618A
JPH05287618A JP10542592A JP10542592A JPH05287618A JP H05287618 A JPH05287618 A JP H05287618A JP 10542592 A JP10542592 A JP 10542592A JP 10542592 A JP10542592 A JP 10542592A JP H05287618 A JPH05287618 A JP H05287618A
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pitch
carbon fiber
fiber
fibers
liquid crystal
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JP10542592A
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Hiroshi Toshima
宏 戸島
Tsutomu Naito
勉 内藤
Takashi Hino
隆 日野
Kazuyuki Murakami
一幸 村上
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Tonen General Sekiyu KK
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Tonen Corp
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 引張弾性率を高い状態に維持したまま、圧縮
強度が従来のピッチ系炭素繊維に比して大幅に向上した
高弾性率、高圧縮強度のピッチ系炭素繊維及びその製造
方法を提供する。 【構成】 本発明の高弾性率、高圧縮強度ピッチ系炭素
繊維は、引張強度(σt)が270kg/mm2 以上、
引張弾性率(Et )が50T/mm2 以上であり、且
つ、引張弾性率(Et )、圧縮強度(σc )及び結晶サ
イズ(Lc002)の関係が、 370-130 ・Log(Lc002)<σc <540-200 ・Log
(Lc002) 5000<Et ・σc <9000 60Å<Lc002<300 Å である。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、一般にはピッチ系炭素
繊維に関するものであり、特に引張弾性率が高く、しか
も圧縮強度が従来品よりも大幅に大きいピッチ系炭素繊
維及びその製造方法に関するものである。本発明にて得
られた、高弾性率、高圧縮強度ピッチ系炭素繊維は、宇
宙・航空産業、自動車産業、建築産業又はレジャー産業
などの種々の産業分野にて使用される複合材料の強化繊
維として好適に使用し得るものである。
【0002】
【従来の技術】近年、宇宙・航空機、自動車、建築、レ
ジャー、その他種々の産業分野にて、軽量且つ高強度、
高弾性の複合材料の強化繊維として低コストの高性能炭
素繊維が強く要望されている。
【0003】従来より、例えば高引張強度、高引張弾性
率を有する炭素繊維としてはポリアクリロニトリルを原
料とするPAN系炭素繊維、或はレーヨン系炭素繊維が
多く使用されているが、原料が高価であり、又炭化収率
が悪く、経済性の点で問題を有している。又、これらP
AN系炭素繊維、或はレーヨン系炭素繊維にて、60T
/mm2 以上の引張弾性率を有した高弾性率品を製造す
るのは極めて困難である。
【0004】これに対して、原料が安価であり且つ炭化
収率がより高いという点から石油系ピッチ或は石炭系ピ
ッチを原料とした炭素繊維の研究開発が近年盛んに行な
われている。石油系ピッチ或は石炭系ピッチなどの炭素
質原料ピッチから、例えば高強度、高弾性率の炭素繊維
を得るには、光学的異方性相が95%以上の、実質的に
100%とされる液晶ピッチを得ることが必要であるこ
とが知られている。例えば、特開昭54−55625号
公報は、不活性ガスのバブリングと撹拌とを併用して、
長時間熱分解重縮合を行ない、光学的異方性相が実質的
に100%とされる液晶ピッチを得る方法を、又、特開
昭54−160427号公報は、溶剤抽出方法により光
学的異方性相が実質的に100%とされる液晶ピッチを
得る方法を開示している。又、特公昭61−38755
号公報は、原料ピッチを熱処理して光学的異方性相含有
ピッチを生成し、その後、比重差分離を行なう方法によ
って、光学的異方性相が実質的に100%とされる液晶
ピッチを得る方法を開示している。この方法によると、
軟化点が230〜320℃程度とされ、上記特開昭54
−55625号公報或は特開昭54−160427号公
報などに記載されるようなピッチ系炭素繊維用液晶ピッ
チに比較すると、極めて低い軟化点を有した光学的異方
性相が実質的に100%とされる液晶ピッチが得られ、
従って、280〜380℃の紡糸温度にて安定して紡糸
することができるという利点を有している。
【0005】このようにして得られた液晶ピッチは、例
えば280〜380℃の温度で溶融紡糸することにより
ピッチ繊維とし、これを酸化性ガス雰囲気下にて200
〜350℃で不融化し、更に不活性ガス雰囲気下にて5
00〜3000℃の温度で高温焼成することによって炭
素化或は黒鉛化し、炭素繊維が製造される。又、必要に
応じて、不融化或は高温焼成などの熱処理工程におい
て、熱処理と同時に延伸処理が施されることもある。
【0006】このようにして製造されたピッチ系炭素繊
維は、溶融紡糸によりピッチを構成する分子の繊維軸配
向性が強化され、それによって結晶の軸方向配向が高度
に達成され、又、高温焼成による液晶ピッチのメチル、
ナフテン基等の重縮合反応による黒鉛化の促進、結晶サ
イズの増大が図られ、高引張強度(σt )及び高引張弾
性率(Et )が達成される。更には、斯かるピッチ系炭
素繊維は、高熱伝導特性及び高電気伝導特性をも有して
いる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】このように、ピッチ系
炭素繊維は、高温焼成に伴う炭素繊維の結晶化度の向
上、これに伴う引張物性、特に引張弾性率(Et )の著
しい向上がある反面、結晶化度の向上に伴って圧縮強度
(σc )が非常に低くなるという大きな問題点を有して
いる。現状のピッチ系炭素繊維は、引張弾性率が50T
/mm2 程度とされた場合に、圧縮強度(σc )は66
〜83kg/mm2 とされ、又、引張弾性率が70T/
mm2 程度とされる場合には圧縮強度は58〜66kg
/mm2 と非常に低くなる。
【0008】本発明者らの研究、実験の結果、従来のピ
ッチ系炭素繊維は、その引張弾性率(Et )、圧縮強度
(σc )及び結晶サイズ(Lc002)の間に特定の関係が
あり、現在入手し得るピッチ系炭素繊維は、下記式
(1)、(2)で示される関係を満たしていることが分
かった。 σc =330-120 ・Log(Lc002) (1) Et ・σc <5000 (2) 最近、技術の進歩に伴って、宇宙・航空機、自動車、建
築分野、その他種々の産業分野にて、軽量且つ高引張強
度、高引張弾性率であると共に、圧縮強度の高い、つま
り、 370-130 ・Log(Lc002)<σc <540-200 ・Log(Lc002) (3) 5000<Et ・σc <9000 (4) とされ、しかも、低コストの高性能炭素繊維が、複合材
料の素材として希求されている。
【0009】本発明者らは、斯かる要望に合致した、特
に高引張弾性率、高圧縮強度の炭素繊維を得るべく多く
の研究実験を行なった。その結果、上記式(3)、
(4)を満足するような、引張弾性率(Et )に対する
圧縮強度(σc )が、従来品に比べて20〜120%程
度を大幅に向上した高弾性、高圧縮強度ピッチ系炭素繊
維の開発に成功した。
【0010】従来より、ピッチ系炭素繊維の圧縮強度が
低いという欠点は、高温焼成に伴う高結晶化に起因する
ものであって、一般的には、高温焼成に伴い引張弾性率
が向上し、圧縮強度が低下するので、引張弾性率を高い
状態に保持して圧縮強度を向上させるには、液晶ピッチ
の紡糸工程以降の製造条件の最適化を図り、できるだけ
低温熱処理において引張弾性率の増大を図ることが重要
であると考えられる。
【0011】本発明者らは、多くの研究実験の過程に
て、ピッチ系炭素繊維の引張弾性率は、ピッチ繊維の熱
処理温度による制御のみならず、ピッチ繊維の紡糸工程
の制御によっても向上可能であることを見出した。
【0012】つまり、圧縮強度の向上に対しては、80
0〜15000ポイズといった超高粘度下での、7〜5
0kg/cm2 、好ましくは15〜30kg/cm2
いった超高シェア(剪断)紡糸(通常、ノズル剪断応力
は0.1〜1kg/cm2 である。)、及びピッチ繊維
径を4〜10μmといった値にまで細径化することが効
果的であることを見出した。又、このような高粘度、高
シェア紡糸を可能とし、圧縮強度を上げると共に、引張
弾性率を発現せしめるには、実質的に300〜500
0、好ましくは320〜4000の範囲の分子量分布を
持つ、つまり分子量分布の狭い液晶ピッチが適している
ことを見出した。
【0013】このように、高弾性、高圧縮強度のピッチ
系炭素繊維を得るには、分子量分布の狭い液晶ピッチ
を、高粘度、高シェアにて紡糸し、しかも、繊維径の細
径化によりピッチ繊維を高速冷却することが重要である
ことが分かった。
【0014】つまり、分子量分布の狭い液晶ピッチを高
粘度、高シェア紡糸することによって、ピッチ繊維の繊
維軸方向への分子配向を向上せしめ、即ち、ピッチ繊維
の配向角(φ)の乱れを小さく維持し、しかも、高粘度
紡糸及び繊維径の細径化によるピッチ繊維の高速冷却に
てピッチ繊維の分子積層を抑制し、これにより、液晶分
子の積層厚さ(Lc002)の低減を図ることができ、更
に、その後の炭化処理により生成される炭素繊維の結晶
サイズの均一化及び微細構造の導入が実現でき、上記式
(3)、(4)を満足する特性を有した高弾性、高圧縮
強度のピッチ系炭素繊維を製造し得ることが分かった。
【0015】本発明は斯かる新規な知見に基づきなされ
たものである。
【0016】従って、本発明の目的は、引張弾性率を高
い状態に維持したまま、圧縮強度が従来のピッチ系炭素
繊維に比して大幅に向上した高弾性率、高圧縮強度のピ
ッチ系炭素繊維及びその製造方法を提供することであ
る。
【0017】
【課題を解決するための手段】上記目的は本発明に係る
高弾性率、高圧縮強度ピッチ系炭素繊維及びその製造方
法にて達成される。要約すれば、本発明は、引張強度
(σt )が270kg/mm2 以上、引張弾性率(E
t )が50T/mm2 以上であり、且つ、引張弾性率
(Et )、圧縮強度(σc )及び結晶サイズ(Lc002
の関係が、 370-130 ・Log(Lc002)<σc <540-200 ・Log
(Lc002) 5000<Et ・σc <9000 60Å<Lc002<300 Å であることを特徴とする高弾性率、高圧縮強度ピッチ系
炭素繊維である。
【0018】好ましくは、本発明の高弾性率、高圧縮強
度ピッチ系炭素繊維は、引張強度(σt )が270kg
/mm2 〜500kg/mm2 とされ、引張弾性率(E
t )は50T/mm2 〜85T/mm2 とされ、結晶サ
イズ(Lc002)は、80Å〜250Åとされる。
【0019】このように、本発明に係る高弾性率、高圧
縮強度ピッチ系炭素繊維は、上記式(1)、(2)に示
される特性を有した従来のピッチ系炭素繊維に比べ、従
来製品と同等の引張弾性率を有し、しかも、引張弾性率
に対する圧縮強度が20〜120%程度高く、PAN系
炭素繊維に比肩し得る圧縮強度を有している。
【0020】又、本発明の高弾性率、高圧縮強度ピッチ
系炭素繊維の結晶サイズ(Lc002)は、上述のように、
従来のピッチ系炭素繊維と同等の60Å〜300 Åである
為、結晶構造の成立度に大きく依存する電気抵抗特性及
び熱伝導特性は、従来のピッチ系炭素繊維と同等の値を
有している。
【0021】又、図1に示すように、従来のピッチ系炭
素繊維は、圧縮応力時の非線形性が大きく、圧縮歪みと
共に圧縮弾性率(EC )の値は大きく低下する。歪み量
0%における初期圧縮弾性率(EC-I )と、圧縮破壊時
の歪みにおける圧縮弾性率(EC-F )との比率、即ち、
圧縮弾性率の線形性(EC-L )は、従来のピッチ系炭素
繊維では35%以下であるが、本発明の高弾性率、高圧
縮強度ピッチ系炭素繊維では35〜80%にまで向上し
ており、この圧縮弾性率EC の非線形性の改善が高圧縮
強度の達成に寄与しているものと考えられる。
【0022】つまり、本発明の高弾性率、高圧縮強度ピ
ッチ系炭素繊維では、 35<EC-L =(EC-F /EC-I )・100<80 とされる。
【0023】このような高弾性率、高圧縮強度ピッチ系
炭素繊維は、光学的異方性相含有量95%以上、平均分
子量1600以下で実質的に300〜5000という狭
い分子量分布を持つ液晶ピッチを高粘度、高シェア下で
紡糸し、紡糸直後の繊維の配向角(φ)と、分子の積層
サイズ(Lc002)との関係が、 0.64<φ/Lc002<1.40 18°<φ<28° 20Å<Lc002<28Å とされるピッチ繊維を、酸化性ガス雰囲気下で不融化
し、次いで炭化することを特徴とする製造方法にて好適
に製造される。
【0024】更に、本発明の高弾性率、高圧縮強度ピッ
チ系炭素繊維の製造方法について詳しく説明する。
【0025】本発明に係る高弾性、高圧縮強度のピッチ
系炭素繊維を得るには、上述したように、分子量分布の
狭い液晶ピッチを、高粘度、高シェアにて紡糸し、しか
も、高粘度紡糸及び繊維径の細径化によりピッチ繊維を
高速冷却することが重要である。
【0026】つまり、液晶ピッチの高粘度、高シェア紡
糸によりピッチ繊維の繊維軸方向の分子配向を向上せし
め、即ち、ピッチ繊維の配向角(φ)の乱れを小さく維
持し、しかも、高粘度紡糸及び繊維径の細径化によるピ
ッチ繊維の高速冷却にてピッチ繊維の分子積層を抑制
し、これにより、積層厚さ(Lc002)の低減を図ると共
に、その後の炭化処理により生成される炭素繊維の結晶
サイズの均一化及び微細構造の導入を実現せしめること
が重要である。
【0027】従って、液晶ピッチとしては、光学的異方
性相含有量95%以上、平均分子量1600以下で、実
質的な分子量分布が300〜5000、好ましくは32
0〜4000である分子量分布の狭い液晶ピッチを使用
することが重要であり、しかも、斯かる液晶ピッチは8
00〜15000ポイズの超高粘度で紡糸される。
【0028】即ち、本発明によれば、液晶ピッチとして
は、石油系ピッチ或は石炭系ピッチ、更には芳香族炭化
水素類を原料とするピッチを使用することができ、該ピ
ッチを、従来の上記諸方法にて光学的異方性相含有量9
5%以上、実質的に300〜5000という狭い分子量
分布からなる液晶ピッチが調製される。好ましくは、液
晶ピッチは、320〜4000いう更に狭い分子量分布
を持ち、又、光学的異方性相含有量は98%以上、即
ち、実質的に100%とされのが好適である。使用する
液晶ピッチの光学的異方性含有量が95%未満である場
合、或は、分子量分布が5000を超えた場合には、高
引張強度、高引張弾性率のピッチ系炭素繊維を製造する
のが困難となり、好ましくない。
【0029】又、液晶ピッチの粘度は、好ましくは、2
000〜7000ポイズとされ、粘度が800ポイズよ
り小さいと、高シェア紡糸ができず、液晶分子の積層の
抑制が実現できず、生成炭素繊維の圧縮強度は低いもの
となる。又、粘度が15000より大きいと、紡糸時に
頻繁に糸切れを生じ、紡糸が困難となる。
【0030】上述のように、本発明は超高粘度、高シェ
ア紡糸が必須であるが、液晶ピッチが紡糸ノズル内を通
過する時に付与されるノズル剪断応力(τ)は、7〜5
0kg/cm2 、好ましくは、15〜30kg/cm2
という非常に高い値とされる。ノズル剪断応力が7kg
/cm2 未満の場合には、メソフェーズ分子の繊維軸配
向が十分に行なわれない。又、ノズル剪断応力が50k
g/cm2 を超えると、紡糸時に頻繁に糸切れを生じ、
紡糸が困難となる。又、例え得られたピッチ繊維を熱処
理して炭素繊維を得たとしても、炭素繊維にラジアルク
ラックが生じ、高性能の炭素繊維を得ることができな
い。
【0031】このようにして得られたピッチ繊維は、次
いで、酸化性ガス雰囲気下にて200〜350℃で不融
化し、更に不活性ガス雰囲気下にて500〜3000℃
の温度で高温焼成することによって炭化、即ち、炭素化
或は黒鉛化し、炭素繊維とされる。又、必要に応じて、
不融化或は高温焼成などの熱処理工程において、熱処理
と同時に延伸処理が施される。
【0032】このようにして得られた炭素繊維は、引張
強度(σt )が270kg/mm2以上、引張弾性率
(Et )が50T/mm2 以上であり、且つ、引張弾性
率(Et )、圧縮強度(σc )及び結晶サイズ
(Lc002)の関係が、 370-130 ・Log(Lc002)<σc <540-200 ・Log
(Lc002) 5000<Et ・σc <9000 60Å<Lc002<300 Å とされる。
【0033】より具体的に言えば、本発明に従って製造
されたピッチ系炭素繊維は、引張弾性率(Et )が50
T/mm2 程度とされた場合に、圧縮強度(σc )は1
00〜180kg/mm2 程度とされ、又、引張弾性率
(Et )が70T/mm2 程度とされた場合に、圧縮強
度(σc )は72〜130kg/mm2 程度とされる。
【0034】尚、本明細書で使用される「光学的異方性
相」という語句の意味は、必ずしも学界又は種々の技術
文献において統一して用いられているとは言い難いの
で、本明細書では、「光学的異方性相」とは、ピッチ構
成成分の一つであり、常温近くで固化したピッチ塊の断
面を研摩し、反射型偏光顕微鏡で直交ニコル下で観察し
たとき、試料又は直交ニコルを回転して光輝が認められ
る、即ち光学的異方性である部分を意味し、これに対
し、光輝が認められない、即ち光学的等方性である部分
は光学的等方性相と呼ぶ。
【0035】光学的異方性相は、光学的等方性相に比べ
て多環芳香族の縮合環の平面性がより発達した化学構造
の分子が主成分で、平面を積層した形で凝集、会合して
おり、溶融温度では一種の液晶状態であると考えられ
る。従ってこれを細い口金(紡糸ノズル)から押し出し
て紡糸するときは分子の平面が繊維軸の方向に平行に近
い配列をするために、この光学的異方性ピッチから作っ
た炭素繊維は高強度、高弾性を示すことになる。又、光
学的異方性相の定量は偏光顕微鏡直交ニコル下で観察、
写真撮影して光学的異方性部分の占める面積率を測定し
て行うので、これは実質的に体積%を表わす。
【0036】「分子量分布」の測定法に関して言えば、
ピッチ成分の分子量分布測定は、溶剤に可溶な部分はク
ロロホルム溶媒に溶解してGPC(Gel Permeation Chr
omatography )で測定し、不溶な部分は金属リチウムと
エチレンジアミンを用いる温和な水添反応により可溶化
後、上述のGPCで測定して求めた。
【0037】又、「ノズル剪断応力」の測定は、液晶ピ
ッチの紡糸ノズル内での流れが円管内層流であるとし、
次式により表されるハーゲン−ポアズイユ(Hagen-Pois
eulle)式を用いて計算した。 τ=32μQ/gc・π・D3 ここで、τ:剪断応力 μ:ピッチ溶融粘度 Q:ピッチ吐出量 gc:重力加速度 D:紡糸ノズル径 更に、「圧縮強度」は、炭素繊維の繊維軸方向の圧縮強
度とし、圧縮強度の測定はストランド圧縮試験法にて行
なった。即ち、図2にストランド試験装置の概略が図示
されるが、先ず、繊維と樹脂を用いて直径1mmのスト
ランド試験片1を作製し、このストランド試験片1を、
直径1mm、長さ30mmのステンレス製タブ2にエポ
キシ樹脂を用いて装着後、ステンレス製タブホルダー
4、5に装着した。このホルダー4、5は、スリーブ6
内に装着され、上部より点荷重用負荷ボール7を介して
圧縮荷重を加えて、ストランド試験片1の圧縮破断荷重
を測定し、下記式(5)を用いて求めた。 σc =(破断荷重+0.05) ・密度・1000/繊度 (5) ここで、破断荷重:kg 密 度:g/cc 繊 度:g/km 又、上記式(5)では、タブ2の上部に載せるホールダ
5及び点荷重用負荷ボール7の重量合計が50gとされ
るために、破断荷重に0.05kgが加えられている。
【0038】このストランド圧縮試験法は、従来の圧縮
強度測定に使用されているASTMD3410規格に則
って測定した圧縮強度と一致する。
【0039】更に又、本発明でいう炭素繊維及びピッチ
繊維の微細構造を示す「結晶サイズ」或は「分子積層サ
イズ」(Lc002) 、並びにピッチ繊維の配向角(φ)
は、下記の測定方法を採用して測定した。
【0040】「結晶サイズ」或は「分子積層サイズ」
(Lc002) は、広角X線回折により求められる炭素繊維
或はピッチ繊維の微細構造を表すパラメータである。
「結晶サイズ」或は「分子積層サイズ」(Lc002)は、
炭素微結晶中の(002)面の見掛けの積層の厚さを表
し、一般に、このLc002が大きいほど結晶性或は分子の
配向性が良いと見なされる。
【0041】Lc002は、繊維を乳鉢で粉末状にし、学振
法「人造黒鉛の格子定数および結晶子の大きさ測定法」
に準拠して測定・解析を行い、以下の式から求めた。 Lc002=Kλ/βcosθ ここで、K=1.0、λ=1.5418Å θ:(002)回折角2θより求める β:補正により求めた(002)回折帯の半価幅 本発明にて、配向角(φ)は、ピッチ繊維の分子の繊維
軸方向の選択的配向の程度を示すもので、この角度
(φ)が小さいほど配向が良いことを意味する。
【0042】配向角(φ)の測定は、繊維試料台を使用
し、繊維束が計数管の走査面に垂直になっている状態で
計数管を走査して、(002)回折帯の強度が最大とな
る回折角2θ(約26°)を求める。次に、計数管をこ
の位置に保持した状態で、繊維試料台を360°回転す
ることにより(002)回折帯の強度分布を測定し、強
度最大値の1/2の点における半価値を配向角(φ)と
する。
【0043】次に、本発明を実施例について更に詳しく
説明する。
【0044】
【実施例】実施例1 光学的異方性相を100%含み、芳香族性(fa)0.
88、C/H原子比1.65、軟化点285℃、数平均
分子量(Mn)1100、分子量分布330〜4000
である液晶ピッチAを用いた。
【0045】該液晶ピッチAを、直径0.15mmのキ
ャピラリーを有する紡糸ノズルAを用い、温度302℃
にて、液晶ピッチAの粘度2000ポイズ、剪断応力τ
=8.5kg/cm2 にて紡糸し、直径9μmのピッチ
繊維を得た。得られたピッチ繊維の配向角φ及び分子の
積層サイズLc002は、表1に示す通りであった。
【0046】得られたピッチ繊維束を酸化性ガス雰囲気
下で、最高温度295℃で不融化した後、不活性雰囲気
下、2000℃で炭化を行い、炭素繊維を得た。得られ
た炭素繊維の各種物性と結晶構造は表1に示す通りであ
った。
【0047】実施例2 炭化処理を2500℃にて行なった以外は、実施例1と
同じ材料及び方法にて炭素繊維を製造した。得られた炭
素繊維の各種物性と結晶構造は表1に示す通りであっ
た。
【0048】実施例3 実施例1と同じ液晶ピッチAを使用し、同じ紡糸ノズル
Aにてピッチ繊維を作製した。ただ、紡糸条件は、紡糸
温度295℃、液晶ピッチAの粘度5000ポイズ、剪
断応力τ=29.4kg/cm2 とされ、直径6.8μ
mのピッチ繊維を得た。得られたピッチ繊維の配向角φ
及び分子の積層サイズLc002は、表1に示す通りであっ
た。
【0049】得られたピッチ繊維束を、実施例1と同じ
に、酸化性ガス雰囲気下で、最高温度295℃で不融化
した後、不活性ガス雰囲気下、2000℃で炭化を行
い、炭素繊維を得た。得られた炭素繊維の各種物性及び
結晶構造は表1に示す通りであった。
【0050】
【表1】
【0051】比較例1 光学的異方性相を100%含み、芳香族性(fa)0.
89、C/H原子比1.67、軟化点282℃、数平均
分子量(Mn)1350、分子量分布300〜1000
0である液晶ピッチBを用いた。
【0052】該液晶ピッチBを、実施例1と同じ、直径
0.15mmのキャピラリーを有する紡糸ノズルAを用
い、温度300℃にて、液晶ピッチBの粘度2000ポ
イズ、剪断応力τ=8.5kg/cm2 にて紡糸し、直
径9μmのピッチ繊維を得た。得られたピッチ繊維の配
向角φ及び分子の積層サイズLc002は、表2に示す通り
であった。
【0053】得られたピッチ繊維束を酸化性ガス雰囲気
下で、最高温度295℃で不融化した後、不活性ガス雰
囲気下、2200℃で炭化を行い、炭素繊維を得た。得
られた炭素繊維の各種物性と結晶構造は表2に示す通り
であった。
【0054】比較例2 比較例1と同じ液晶ピッチBを使用し、直径0.1mm
のキャピラリーを有する紡糸ノズルBにてピッチ繊維を
作製した。ただ、紡糸条件は、紡糸温度295℃、液晶
ピッチBの粘度5000ポイズ、剪断応力τ=29.4
kg/cm2 とされ、直径7.0μmのピッチ繊維を得
た。得られたピッチ繊維の配向角φ及び分子の積層サイ
ズLc002は、表2に示す通りであった。
【0055】得られたピッチ繊維束を、酸化性ガス雰囲
気下で、最高温度295℃で不融化した後、不活性ガス
雰囲気下、2400℃で炭化を行い、炭素繊維を得た。
得られた炭素繊維の各種物性及び結晶構造は表2に示す
通りであった。
【0056】
【表2】
【0057】比較例3 実施例1と同様の液晶ピッチAを、直径0.1mmのキ
ャピラリーを持つ紡糸ノズルBを使用し、紡糸温度29
5℃、粘度5000ポイズ、剪断応力τ=5.4kg/
cm2 の条件下で、直径13μm程度のピッチ繊維を得
た。
【0058】得られたピッチ繊維束を、実施例1と同様
に酸化性ガス雰囲気下で、最高温度295℃で不融化し
た後、不活性ガス雰囲気下、2200℃で炭化を行い、
炭素繊維を得た。得られたピッチ繊維及び炭素繊維の各
種物性及び結晶構造は表2に示す通りであった。
【0059】比較例4 実施例1と同じ液晶ピッチA及び同じ紡糸ノズルAを使
用し、紡糸温度287℃、液晶ピッチAの粘度2000
0ポイズ、剪断応力τ=18.0kg/cm2としたと
ころ、連続したピッチ繊維を紡糸することができなかっ
た。
【0060】
【発明の効果】以上の如くに構成される本発明の高弾性
率、高圧縮強度ピッチ系炭素繊維は、引張弾性率を高い
状態に維持したまま、圧縮強度が従来の炭素繊維に比し
て大幅に向上したものであり、又、本発明の製造方法に
よれば、液晶ピッチの高粘度、高シェア紡糸によりピッ
チ繊維の繊維軸方向の分子配向が向上し、即ち、ピッチ
繊維の配向角(φ)の乱れを小さく維持し、しかも、高
粘度紡糸及び繊維径の細径化によるピッチ繊維の高速冷
却にてピッチ繊維の分子積層を抑制し、これにより、液
晶分子の積層厚さ(Lc002)の低減を図ることができる
と共に、その後の炭化処理により生成される炭素繊維の
結晶サイズの均一化及び微細構造の導入が実現し、高弾
性率、高圧縮強度のピッチ系炭素繊維を好適に製造し得
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る高弾性率、高圧縮強度ピッチ系炭
素繊維の圧縮弾性率の線形性EC-L を、従来例との比較
で示すグラフである。
【図2】ストランド試験装置の断面図である。
【符号の説明】
1 ストランド 2 スレンレス製円筒状タブ 4、5 ホルダー 6 スリーブ 7 点荷重用負荷ボール
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 村上 一幸 埼玉県入間郡大井町西鶴ケ岡1−3−1 東燃株式会社総合研究所内

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 引張強度(σt )が270kg/mm2
    以上、引張弾性率(Et )が50T/mm2 以上であ
    り、且つ、引張弾性率(Et )、圧縮強度(σc )及び
    結晶サイズ(Lc002)の関係が、 370-130 ・Log(Lc002)<σc <540-200 ・Log
    (Lc002) 5000<Et ・σc <9000 60Å<Lc002<300 Å であることを特徴とする高弾性率、高圧縮強度ピッチ系
    炭素繊維。
  2. 【請求項2】 光学的異方性相含有量95%以上、平均
    分子量1600以下、分子量分布300〜5000であ
    る液晶ピッチを紡糸し、紡糸直後の繊維の配向角(φ)
    と、分子の積層サイズ(Lc002)との関係が、 0.64<φ/Lc002<1.40 18°<φ<28° 20Å<Lc002<28Å とされるピッチ繊維を、酸化性ガス雰囲気下で不融化
    し、次いで炭化することを特徴とする請求項1の高弾性
    率、高圧縮強度ピッチ系炭素繊維を製造する方法。
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