JP7501003B2 - ポリエステル仮撚糸 - Google Patents

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Description

本発明は、嵩高性、ソフト性、濃色性を兼ね備え、かつドライタッチな風合いが発現できるポリエステル仮撚糸に関する。
ポリエステル繊維は、機械的特性をはじめ、数多くの優れた性質を有しており、一般衣料用途をはじめ、産業用途、機能製品まで各種分野に幅広く用いられている。特に耐久性やハンドリング容易性を有していることから、スポーツ、アウトドア衣料向けインナー用途などに好適に用いられる。近年のスポーツやアウトドア人気の高まりに伴い、上着を着用しない場面が増加し、インナー用途でもファッション性が重視されている。そのため、従来から要求されているソフト性やドライタッチな風合いに加えて、発色性や嵩高性などの機能を有するポリエステル繊維の開発が行われている。とりわけ断面形状の異形化による着心地などの風合いの変化、嵩高性の付与などの機能性の向上は過去より鋭意検討されてきた。
そして繊維断面に凹部を施すことによりドライタッチな風合いを付与する方法が提案されている(特許文献1、2参照)。この方法によれば、繊維を構成する単繊維1本1本をW字や単繊維断面に2対以上の凹部(くびれ)を有した連玉断面構造といった複数の凹部を有した特殊形状とすることにより、サラサラとしたドライタッチな風合いを付与する。
また、繊維断面を扁平形状とすることによりソフト性および濃色効果を付与する方法が提案されている(特許文献3参照)。この方法によれば、断面形状が扁平形状であり単繊維繊度の低い仮撚糸とすることによってソフト性を付与する。
また、繊維断面をC型中空形状とすることにより嵩高性を付与する方法が提案されている(特許文献4参照)。この方法によれば、鞘部の横断面がC型であり、芯部が鞘部の一側から外部に露出したC型複合繊維を溶出処理することによって嵩高性に優れた中空糸を得る。
特開2004-346461号公報 特開2005-60880号公報 特開2017-218698号公報 特表2016-513757号公報
しかしながら、特許文献1,2記載の繊維では、凹凸の起伏が大きいがために隣接する単繊維の凹凸部と噛み合ってしまい、曲げ剛性が高くなり、ソフト性や、滑らかさといった風合いが犠牲となり、ごわつき感の強い布帛となり易い。また、続く仮撚加工での加撚圧縮によって凹凸が潰れて消失し、ドライタッチな風合いは十分ではない。加えて凸部を複数有する特殊断面であるため、紡糸に際しては特殊吐出孔形状を有した口金が必要となり、このような特殊孔では丸孔に比べて孔面積が大きくなることが避けられず、紡糸ドラフトが過大となって、単繊維極細化や多フィラメント化が極めて困難となる。
特許文献3記載の繊維では、単繊維繊度が小さいためソフト性は得られるものの布帛表面が平滑化してしまいドライタッチな風合いは得ることができない。また、単繊維の曲げ剛性が低く嵩高性は不十分である。加えて、単繊維繊度が低いため配向結晶化が進みやすく、十分な濃色性を得ることができない。
また、特許文献4記載の繊維では、単繊維の横断面は丸断面形状に近く、単繊維の曲げ剛性が高いため、ソフトな布帛とはならず、またドライタッチな風合いを得ることはできない。
本発明の課題は、上記従来の問題点を解決しようとするものであり、嵩高性、ソフト性、濃色性を兼ね備え、かつドライタッチな風合いが発現できるポリエステル仮撚糸を提供するものである。
本発明は、上記課題を解決するために、下記の構成からなる。
(1)ポリエステル単一成分からなるマルチフィラメントであり、単繊維の繊維軸に垂直方向の断面形状が湾曲扁平断面形状であり、下記A~を満足するポリエステル仮撚糸。
A.断面形状の扁平度が5.0~8.0
B.断面形状の湾曲角θが70°<θ<120°
C.断面の湾曲形状の空隙部深さ(H2)が単繊維断面の幅(H1)の50~70%
D.マルチフィラメントの総繊度が20~44dtex
(2)マルチフィラメント伸縮復元率CRが15~30%であり、繊維軸に対して180°以上のねじれが5個/mm以上有する単繊維数が、全構成単繊維数の50%以上である請求項1記載のポリエステル仮撚糸。
本発明によれば、嵩高性、ソフト性、濃色性を兼ね備え、かつドライタッチな風合いが発現できるポリエステル仮撚糸を得ることができる。
本発明のポリエステル仮撚糸の単繊維断面の一例である。 扁平度の測定における短径の測定位置を示した図である。 湾曲角θの測定における湾曲角を示した図である。 単繊維断面の幅(H1)と空隙部深さ(H2)を示した図である。 本発明のポリエステル仮撚糸を得るに好適な部分配向未延伸糸の糸断面の一例である。 本発明のポリエステル仮撚糸を得るに好適な仮撚ユニットの模式図である。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明のポリエステル仮撚糸は、ポリエステル単一成分のマルチフィラメントであり、単繊維断面の形状は、図1に例示されるように、扁平形の断面が直線ではなく湾曲した湾曲扁平断面である。この湾曲扁平断面は仮撚工程にて形成され、単繊維自体に複雑な処理(例えば、単繊維表面に多数のスリットを設けた多葉形形状等)をせずとも、嵩高性、ソフト性を得ることができる。また湾曲扁平断面とすることによって、単繊維同士の噛み合いを抑制でき、より一層の嵩高性を発現できる。
本発明のポリエステル仮撚糸は、断面形状の扁平度が5.0~8.0であり、好ましくは6.5~8.0である。扁平度は、(単繊維断面の周長a/2)/短径b(図2)として算出する。短径bは、扁平断面の短径の幅が最大となる長さb1と最小となる長さb2の平均値である。ポリエステル仮撚糸の扁平度は、単繊維断面の扁平度の平均値とする。扁平度が5.0未満では、単繊維断面の包含する空隙が小さくなり、嵩高性が不十分となる。また、単繊維の曲げ剛性が増大しソフト性が低下することから好ましくない。扁平度が8.0を超える場合では、繊維断面を湾曲化するために仮撚時に高い仮撚トルクをかけるため、繊維の結晶化が促進され易く、濃色性が十分に得られない。また、高扁平化すると繊維の曲げ剛性が大きく低下し、単繊維折れが発生しやすくなることから嵩高性が十分に得られない。さらに、強度や製糸性の点からも好ましくない。また、光沢ムラやイラツキといった外観不良が起きやすくなるため布帛品位の観点からも好ましくない。
本発明のポリエステル仮撚糸は、単繊維の断面形状の湾曲角θは70°<θ<120°である。好ましくは75°~100°である。断面形状の湾曲角θは、単繊維断面の曲線部に引いた接線が重なり合う線(図3 線c)と点(図3 点d)として、前記線cから垂直な方向の最も遠い空隙部の点(図3 点e)と点dを繋いだ際になす角である。空隙部とは前記線cと単繊維断面に囲まれた空間である。断面形状の湾曲角θは、単繊維断面の湾曲角の平均値とした。空隙部が複数存在する場合は、その全ての湾曲角を計測し、その平均値を単繊維断面の湾曲角θとした。湾曲角θが70°以下の場合、単繊維断面が折りたたまれた様な形状となり、十分な嵩高性が得られない。湾曲角が120°以上の場合、単繊維断面が直線状に近づくことから、十分な嵩高性を得ることができない。また、肌との接触点が増えることからぬめり感が増し、ドライタッチな風合いが得られない。
本発明のポリエステル仮撚糸は、単繊維断面の湾曲形状の空隙部深さ(H2)が単繊維断面の幅(H1)の50~70%である。好ましくは60~70%である。
単繊維断面の幅(H1)、空隙部深さ(H2)は、図4に記載のとおり、単繊維断面の曲線部に引いた接線が重なり合う線(図4、線c)から垂直な方向の最も遠い繊維断面の外周部との距離を単繊維断面の幅(H1)、前記線cから垂直な方向の最も遠い空隙部の点eの距離を空隙部深さ(H2)とする。空隙部深さを単繊維断面の幅で除した値(H2/H1)の百分率を個々の単繊維断面について計測し、それらの平均値をポリエステル仮撚糸の空隙部深さの割合とした。単繊維に空隙部が複数存在する場合は、個々の空隙部深さを計測し、その平均値を繊維断面の空隙部深さとした。空隙部深さが50%未満の場合、単繊維断面が直線状に近づくことから、十分な嵩高性を得ることができない。また、肌との接触点が増えることからぬめり感が増し、ドライタッチな風合いが得られない。空隙部深さが70%を超える場合、嵩高性は得られるものの曲げ応力が増大するめ、ソフトな風合いが得られない。
本発明のポリエステル仮撚糸は、単繊維断面が湾曲扁平形状であるマルチフィラメントとすることにより、光の拡散効果と断面形態効果の相乗作用によって、濃色性が増加することを見いだした。濃色性が増加する原理は2つあり、まず1つ目の原理は、光の拡散効果によるものである。布帛の透け現象は、布帛に入射した光が、布帛を通り抜けて被覆物の表面で反射し、その被覆物からの反射光が再び布帛を通り抜けて人の目に届くことによって起こる現象である。単繊維が湾曲扁平断面であることにより繊維表面により光の乱反射が生じて、光の拡散・吸収が起こり被覆物への入射、反射光ともに弱めることができる。また、光拡散効果によって布帛表面でのハレーションが抑制されるため、布帛の本来の色彩を視認できるようになり、濃色効果を発現する。2つ目の原理は、単繊維断面の湾曲扁平断面に由来する形態効果である。湾曲扁平化によって単繊維の表面積は丸断面と比較して格段に増加することから、染色工程における染料吸尽量が増加し、これに伴って濃色性も増し、前述の光吸収効果にもプラスの影響を及ぼす。
本発明のポリエステル仮撚糸の好ましい態様としては、総繊度が20~44dtexである。総繊度を20~44dtexとすることで、布帛とした際の引裂強度、破裂強度、耐摩擦性等、衣料品とした際の実着用の耐久性を担保することができる。好ましくは30~44dtexである。
本発明のポリエステル仮撚糸の伸縮復元率(CR)は15~30%が好ましい。伸縮復元率(CR)をかかる範囲とすることによって、肌と繊維の接触面積を減らすことができ、ドライタッチな風合いも得られ、かつ良好な嵩高性が得られる。加えて、加工糸解舒する際の糸もつれによる糸切れを防止することができ、また光沢ムラやイラツキといった外観不良が少なく良好な品位の布帛を得ることができる。
本発明のポリエステル仮撚糸において、繊維軸に対して180°以上のねじれを5個/mm以上有する単繊維数が、全単繊維数の50%以上である。さらに好ましくは、全単繊維数の60%以上が好ましい。かかる範囲とすることによって、湾曲した扁平断面形状と相まって、光の拡散効果による布帛表面でのハレーションが抑制され、より良好な濃色性を発現する。さらには、ドライタッチ、ソフト性も向上する。
これより、本発明のポリエステル仮撚糸の製造方法について、詳述する。
本発明において用いる原料ポリマーはポリエステルであり、特に扁平形状の断面が得やすく、続く仮撚工程にて断面形状を湾曲させやすいことから、ポリエチレンテレフタレートが好適に使用できる。
これらは溶融紡糸を行うことにより、部分配向未延伸糸を得ることができる。次いで、得られた部分配向未延伸糸を仮撚加工することにより、本発明のポリエステル仮撚糸を得ることができる。
本発明において用いる部分配向未延伸糸の断面形状は、図5に例示のとおり、直線扁平形状が好ましく、長径と短径から算出する扁平度が4.0~7.0であることが好ましい。かかる範囲の扁平度とし、後述する仮撚加工することによって、湾曲した扁平形状を有する仮撚糸が得られる。
扁平度を4.0以上とすることにより、単繊維の曲げ剛性を低下させ、仮撚加工時に単繊維断面を湾曲させやすい。扁平度を7.0以下とすることにより、扁平度、湾曲角、空隙部深さが特定の範囲となる仮撚糸が得られる。
加えて、直線扁平形状とすることによって、続く仮撚加工時に単繊維同士がかみ合うことを防ぐことができ、上記の湾曲扁平形状の繊維断面が得られやすい。
部分配向未延伸糸の溶融紡糸は公知の方法により実施できる。すなわち、ポリエステルポリマーを275~300℃の温度で溶融し、紡糸口金から吐出し、冷却風を吹き付けることによって糸条を形成して、収束した後、油剤と交絡を付与し、巻取ったパッケージとすることができる。
このとき、上記の直線扁平形状の部分配向未延伸糸を得るには、スリット形状の吐出孔を有する紡糸口金よりポリマーを吐出し、吐出直後のポリマーの固化点を上げる条件(急冷条件)とすることで安定した断面形状が得られやすく、環状冷却装置を用いることが好ましい。しかしながら、高扁平度の部分配向未延伸糸は、丸断面や低扁平度の扁平断面と比較して強度は低下し、仮撚加工時の糸切れや毛羽を誘発する。そのため、強度低下を抑制することで毛羽を少なく、かつ安定して仮撚加工をするためには、口金下の雰囲気温度を高温に保つなどポリマー配向緩和を促進させ、固化点を下げる条件(徐冷条件)とすることが肝要である。このように高扁平度を得つつ強度低下抑制させるため、口金面から冷却風吹き出し面までの距離を長尺化することが好ましく、その距離を23~33mmにすると、扁平度4.0~7.0を有して高強度の部分配向未延伸糸が得られる。
また、高強度の仮撚糸を得るには、紡糸速度1500~3500m/分で紡糸すると仮撚加工工程にて高い延伸倍率が採用できるため好ましい。特に2000~3000m/分で紡糸すると仮撚加工工程にて適切な延伸倍率にて加工でき、強度を上げることができ好ましい。
次いで、好適な仮撚加工方法について述べる。仮撚機は、施撚体のタイプによってピン、ベルト、フリクションディスク等いずれの機種においても製造が可能である。本発明の好適な形態は総繊度が低いため、特に、図4に示すような仮撚ディスクを3軸に配置した仮撚ユニットとすると断面形状を変形させやすく、安定加工できるため好ましい。仮撚ディスクを用いる場合、仮撚ディスクの材質は、撚掛け力の観点からウレタンが好ましく、また糸条に捲縮、嵩高性を付与する観点から、仮撚ディスク枚数は5枚以上とすることが好ましい。また、ディスク回転軸方向における各々のディスク間隔が0.4~0.6mmであることが好ましい。
仮撚ディスクの直径は40~60mmが好ましい。ディスク直径を40mm以上として、ディスクによる摩擦損傷を抑制して断糸および毛羽の発生を防止する。また、単繊維断面の変形を防止し、強度の低下を抑制する。一方、ディスク直径を60mm以下として、ディスクによる撚掛け力を向上させ断面形状の変形を適切に、また十分な捲縮を付与できる。
仮撚数(単位:T/m)に、仮撚後繊度(単位:dtex)の平方根を積算した数値(以下、仮撚係数と称する)が、22,000~31,000の範囲となるよう加工すると、ポリエステル仮撚糸の繊維軸方向に垂直方向の断面を湾曲扁平断面としやすく、また扁平度、湾曲角、空隙部深さおよび単繊維の繊維軸方向のねじれを制御しやすく、かつ安定して加工可能となる。一般的な異形断面糸は仮撚係数が10,000~20,000程度で施撚されるが、本発明では高い仮撚係数を用いて施撚することが技術的ポイントである。これら高い仮撚係数で仮撚加工することにより、糸条には高い仮撚トルクが発生するため、直線扁平断面形状の部分配向未延伸糸が糸条中心方向に圧縮され、折れ曲がり、湾曲扁平形状の仮撚糸が得られる。
また、断面を大きく変形させるため、糸条中心部の単繊維にまでしっかり、じっくりと予熱すると良く、仮撚機の仮撚ヒーターは接触式であることが好ましい。この時のヒーター温度は、使用ポリマーの結晶化温度以上、融点以下であると好ましく、ポリエステルでは140~190℃の範囲が好ましく、仮撚ヒーター温度を高温とすると断面形状を大きく変形させることができる。また、ヒーター上の通過時間は、0.13~0.20秒、より好ましくは0.15~0.18秒とするのが適切であり、糸条の芯まで予熱することができる。
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例における各項目は以下の方法で測定した。
(1)扁平度
仮撚糸および部分配向未延伸糸のサンプルをメタクリル樹脂にて包埋し、繊維軸に垂直に切断し、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製VHX-5000)を用いて糸条を構成する全単繊維の観察像を撮影した。撮影した断面写真について、断面形状の周長a/2を平均短径長で除した値を扁平度とした。
(2)湾曲角θ
仮撚糸および部分配向未延伸糸のサンプルをメタクリル樹脂にて包埋し、繊維軸に垂直に切断し、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製VHX-5000)を用いて糸条を構成する全単繊維の観察像を撮影した。撮影した断面写真について、単繊維断面の曲線部に引いた接線が重なり合う線(図3 線c)と点(図3、点d)として、前記線cから垂直な方向の最も遠い空隙部の点(点e)を繋いだ際になす角を計測した。単繊維断面の湾曲角θは、単繊維断面の湾曲角の平均値とした。空隙部が複数存在する場合は、その全ての湾曲角を算出し、その平均値を単繊維断面の湾曲角とした。
(3)空隙部深さ(H2)、単繊維断面の幅(H1)
仮撚糸および部分配向未延伸糸のサンプルをメタクリル樹脂にて包埋し、繊維軸に垂直に切断し、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製VHX-5000)を用いて糸条を構成する全単繊維の観察像を撮影した。撮影した断面写真について、単繊維断面の曲線部に引いた接線が重なり合う線(図4 線c)から垂直な方向の最も遠い繊維断面の外周部との距離を単繊維断面の幅(H1)、前記線cから垂直な方向の最も遠い空隙部の点eの距離を空隙部深さ(H2)とし、空隙部深さを単繊維断面の幅で除した値(H2/H1)の百分率を個々の単繊維断面について計測、算出した。それらの平均値をポリエステル仮撚糸の空隙部深さの割合とした。
(4)総繊度
仮撚糸を解舒張力1/11.1(g/dtex)で枠周1.0mの検尺機で100回巻き、天秤を用いて重量を測定し、100倍することにより得られた重量を総繊度とした。
(5)伸縮復元率CR
仮撚糸を周長1.0mの検尺機にて10回巻きしてカセ取りした後、このカセに繊度×0.002×巻取回数×2/1.111gの初加重をかけて、90℃×20分間熱水処理し、脱水後12時間以上放置する。放置後のカセに初荷重と繊度×0.1×巻取回数×2/1.111gの測定加重をかけて水中に垂下し2分間放置する。放置したカセの長さを測り、Lとする。さらに、測定荷重を除き初荷重だけにした状態で3分間放置し、カセの長さを測り、L1とする。次式により、伸縮復元率CRを求めた。
伸縮復元率CR(%)={(L-L1)/L}×100 。
(6)繊維軸に対して180°以上のねじれが5個以上/mmの存在する単繊維の割合
得られた仮撚糸に銀蒸着を施し、マルチフィラメントの側面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて150倍に拡大して視察し、1mmあたり180°以上のねじれが5個以上存在する単繊維を数えた。180°以上のねじれとは、繊維横断面の重心を通る繊維軸方向の繊維断面が、繊維軸に対して垂直方向に180°以上回転するものである。糸条1mの3箇所を確認して1mmあたりに180°以上のねじれが5個以上存在する単繊維数を数えて平均値を算出し、全単繊維数に対する割合をとった。
(7)濃色性
目付150g/mの筒編み地を作製し、下記条件で染色し、熟練の検査員10名に対して丸断面糸の筒編地(比較例1)を基準とし、以下の4段階にて濃色性を評価し、最も多い得票を得たランクを評価とした。合格レベルは○と〇〇である。
○○:非常に濃い、○:濃い、△:同等、×:薄い
[染色条件]
染料:Dinanix Navy S-2G200%、0.3%o.w.f.
染色助剤1:Tetrosin PEC、10.0%o.w.f.
染色助剤2:Sun Salt、1.0%o.w.f.
浴比:1:100
染色温度×時間:98℃×20分 。
(8)ソフトな肌触り・ドライタッチ
上記(7)項で調製した筒編み地を、ソフトな肌触り・ドライタッチについて、官能評価を実施した。熟練の検査員10名に対して丸断面糸の筒編地(比較例1)を基準とし、以下の4段階にてソフトな肌触り・ドライタッチを評価し、最も多い得票を得たランクを評価とした。合格レベルは○と〇〇である。
○○:非常に良い、○:良い、△:同等、×:悪い。
(9)嵩高性
得られた仮撚糸を東レエンジニアリング社製Yarn Sampling Unit model533を用いて、張力0.10g/dtex、糸速度167m/minで紙管に巻き取り、糸の重量とパッケージの体積から巻き密度を算出し、以下の3段階で評価した。○と〇〇が合格レベルである。
○○:0.29g/cm未満
○ :0.29g/cm以上0.34g/cm未満
× :0.34g/cm以上 。
(実施例1)
12ホール、孔形状がスリットの紡糸口金を使用して、温度295℃にて溶融紡糸後、口金面から30mmの位置にて環状冷却装置を用いて冷却風を吹き付け、油剤を供給し集束させ、交絡付与を行いながら、紡糸速度2000m/分の速度で巻取り、総繊度60dtex、扁平度5.3の部分配向未延伸糸を採取した。
フリクション仮撚機にて、仮撚ヒーター温度を150℃、延伸倍率を1.78倍に設定し、直径51mmのウレタンディスク5枚を仮撚ディスクとし、ディスク間隔を0.5mmに配置した3軸仮撚ディスクを用い、仮撚係数29000にて、延伸仮撚加工を施して交絡付与を行い、外径65mmの紙管に巻き取り、33T-12フィラメントの湾曲扁平断面仮撚糸を得た。得られたポリエステル仮撚糸は、表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
(実施例2~3)
スリット孔の設計を変更し、仮撚糸の単繊維断面の湾曲扁平断面形状を変更した以外は、実施例1と同様にして、33T-12フィラメントの湾曲扁平断面仮撚糸を得た。得られたポリエステル仮撚糸は表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
(実施例4~5)
スリットの孔設計を変更と仮撚ヒーター温度を変更して単繊維断面の湾曲扁平断面形状を変更した以外は、実施例1と同様にして、33T-12フィラメントの湾曲扁平断面仮撚糸を得た。得られたポリエステル仮撚糸は表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
(実施例6~7)
仮撚数を変更し、単繊維断面の湾曲扁平断面形状を変更した以外は、実施例1と同様にして、33T-12フィラメントの湾曲扁平断面仮撚糸を得た。得られたポリエステル仮撚糸は表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
(実施例8~9)
溶融紡糸において、ポリマー吐出量、フィラメント数を変更し、単繊維断面の湾曲扁平断面形状を変更した以外は、実施例1と同様にして紡糸、仮撚加工して、総繊度の異なる仮撚糸を得た。得られたポリエステル仮撚糸は表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
Figure 0007501003000001
(比較例1)
スリット孔の設計と仮撚係数を変更し、単繊維断面の湾曲扁平断面形状を変更した以外は、実施例1と同様にして、33T-12フィラメントの湾曲扁平断面仮撚糸を得た。得られたポリエステル仮撚糸は、ドライタッチな風合いは得られるものの、嵩高性、濃色性に劣るものとなった。
(比較例2)
スリット孔の設計と仮撚係数を変更し、単繊維断面の湾曲扁平断面形状を変更した以外は、実施例1と同様にして、33T-12フィラメントの湾曲扁平断面仮撚糸を得た。得られたポリエステル仮撚糸は、濃色性は良好であるものの、嵩高性、ソフト性に劣り、ドライタッチな風合いも得られなかった。
(比較例3)
スリット孔の設計と仮撚係数・仮撚ヒーター温度を変更し、単繊維断面の湾曲扁平断面形状を変更した以外は、実施例1と同様にして、33T-12フィラメントの湾曲扁平断面仮撚糸を得た。得られたポリエステル仮撚糸は嵩高性、濃色性に劣るものとなった。
(比較例4)
スリット孔の設計と仮撚係数・仮撚ヒーター温度を変更し、単繊維断面の湾曲扁平断面形状を変更した以外は、実施例1と同様にして、33T-12フィラメントの湾曲扁平断面仮撚糸を得た。
(比較例5)
温度295℃にて溶融紡糸後、36ホールのスリット孔を有した紡糸口金から吐出、口金面から30mmの位置にて冷却風を吹き付け、油剤を供給し集束させ、交絡付与を行いながら、紡糸速度2700m/分の速度で巻取り、総繊度112dtex、扁平度5.3の部分配向未延伸糸を採取した。
フリクション仮撚機にて、仮撚ヒーター温度を150℃、延伸倍率を1.80倍に設定し、直径51mmのウレタンディスク5枚を仮撚ディスクとし、ディスク間隔を0.5mmに配置した3軸仮撚ディスクを用い仮撚係数29000にて、延伸仮撚加工を施して交絡付与を行い、紙管に巻き取り66T-36フィラメントの扁平断面仮撚糸を得た。得られたポリエステル仮撚糸は、嵩高性、濃色性、ソフト性に劣り、ドライタッチな風合いも得られなかった。
(比較例6)
温度295℃にて溶融紡糸後、12ホールの丸型吐出孔を有した紡糸口金から吐出、口金面から30mmの位置にて冷却風を吹き付け、油剤を供給し集束させ、交絡付与を行いながら、紡糸速度3000m/分の速度で巻取り、総繊度60dtexの部分配向未延伸糸を採取した。
フリクション仮撚機にて、仮撚ヒーター温度を150℃、延伸倍率を1.86倍に設定し、直径51mmのウレタンディスク5枚を仮撚ディスクとし、ディスク間隔を0.5mmに配置した3軸仮撚ディスクを用い仮撚係数29000にて、延伸仮撚加工を施して交絡付与を行い、紙管に巻き取り33T-12フィラメントの丸断面仮撚糸を得た。得られたポリエステル仮撚糸は、嵩高性、濃色性、ソフト性に劣り、ドライタッチな風合いも得られなかった。
Figure 0007501003000002
a:単繊維断面の外周
b:短径
c:曲線部に引いた接線
d:曲線部に引いた接線が重なり合う点
e:線cから垂直な方向の最も遠い空隙部の点
f:回転軸
g:ガイドディスク
h:仮撚ディスク

Claims (2)

  1. ポリエステル単一成分からなるマルチフィラメントであり、単繊維の繊維軸に垂直方向の断面形状が湾曲扁平断面形状であり、下記A~を満足するポリエステル仮撚糸。
    A.断面形状の扁平度が5.0~8.0
    B.断面形状の湾曲角θが70°<θ<120°
    C.断面の湾曲形状の空隙部深さ(H2)が単繊維断面の幅(H1)の50~70%
    D.マルチフィラメントの総繊度が20~44dtex
  2. マルチフィラメント伸縮復元率CRが15~30%であり、繊維軸に対して180°以上のねじれが5個/mm以上有する単繊維数が、全構成単繊維数の50%以上である請求項1記載のポリエステル仮撚糸。
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