JP7483462B2 - 樹脂組成物の製造方法 - Google Patents

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本発明は、微細化したセルロース繊維を含有する樹脂組成物の製造方法に関するものである。
植物繊維を細かく解すことで得られる微細繊維状セルロースは、ミクロフィブリルセルロース及びセルロースナノファイバーを包含するものであり、約1nm~数10μm程度の繊維径の微細繊維である。微細繊維状セルロースは、軽量で、且つ、高い強度および高い弾性率を有し、低い線熱膨張係数を有することから、樹脂組成物の補強材料として好適に使用されている。
微細繊維状セルロースは、通常、水に分散している状態で得られるものであり、樹脂等と均等に混合させることが困難であった。そのため、樹脂との親和性・混和性を向上させるために、セルロース原料を化学変性する試みがなされてきた。
例えば、特許文献1では、セルロース原料と尿素とを加熱処理することにより、セルロースのヒドロキシ基の一部をカルバメート基で置換したセルロース原料を得て、これを機械的処理により微細化し、微細繊維状セルロースを得ている。この方法で得られた微細繊維状セルロースは、従来の微細繊維状セルロースと比較して親水性が低く、極性の低い樹脂等との親和性が高いため、樹脂に均一性高く分散し、高い強度を有する複合体を与える。さらに、特許文献1には前記加熱処理したセルロース原料と尿素との混合物を水等で洗浄し、未反応の残留尿素等を除去することが開示されている。
しかし、さらに引張強度および伸びに優れた樹脂成型体を得ることが可能な樹脂組成物の効率のよい製造方法が求められていた。
特開2019-1876号公報
本発明の目的は、引張強度および伸びに優れた樹脂成型体を得ることが可能な樹脂組成物の効率のよい製造方法を提供することである。
本発明は、以下を提供する。
(1) 加重平均繊維長が0.20mm~1.50mmのセルロース繊維と、相溶化樹脂と、尿素とを混練機に投入し、混練する第1混練工程と、前記第1混練工程で得られた混練物を、熱水を用いて洗浄する熱水洗浄工程とを有する樹脂組成物の製造方法。
(2) 前記熱水洗浄工程において、前記熱水の温度が50~100℃であり、洗浄時間が10分間~24時間である(1)に記載の樹脂組成物の製造方法。
(3) 前記熱水洗浄工程後の混練物と、希釈用樹脂とを混練する第2混練工程をさらに有する(1)又は(2)に記載の樹脂組成物の製造方法。
(4) 前記第1混練工程で前記混練機に投入する前記尿素の配合量は、前記セルロース繊維のうちセルロースとヘミセルロースを合わせたセルロース繊維分の量100重量%に対して10~100重量%である(1)~(3)に記載の樹脂組成物の製造方法。
(5) 前記第1混練工程で前記混練機に投入する前記セルロース繊維のうちセルロースとヘミセルロースを合わせたセルロース繊維分の配合量は、前記セルロース繊維分、前記相溶化樹脂、及び前記尿素の合計量に対して、35~85重量%である(1)~(4)に記載の樹脂組成物の製造方法。
本発明によれば、引張強度および伸びに優れた樹脂成型体を得ることが可能な樹脂組成物の効率のよい製造方法を提供することができる。
以下、本発明の樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明において「~」は端値を含む。すなわち「X~Y」はその両端の値XおよびYを含む。
本発明の樹脂組成物の製造方法は、加重平均繊維長(長さ平均繊維長)が0.20mm~1.50mmのセルロース繊維と、相溶化樹脂と、尿素とを混練機に投入し、混練する第1混練工程と、前記第1混練工程で得られた混練物を、熱水を用いて洗浄する熱水洗浄工程とを含む。
(セルロース繊維)
本発明に用いるセルロース繊維は、加重平均繊維長(長さ平均繊維長)の範囲が0.2~1.5mm、好ましくは0.3~1.0mmの範囲である。このようなセルロース繊維は、例えばセルロース原料を粉砕または叩解することにより得ることができる。
(セルロース原料)
本発明において、セルロース原料とは、セルロースを主体とした形態の材料であれば何れでもよく、リグノセルロース(NUKP)を含むものであり、パルプ(晒又は未晒木材パルプ、晒又は未晒非木材パルプ、精製リンター、ジュート、マニラ麻、ケナフ等の草本由来のパルプなど)、酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等の天然セルロース、セルロースを銅アンモニア溶液、モルホリン誘導体等の何らかの溶媒に溶解した後に再沈殿された再生セルロース、及び上記セルロース原料に加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル等の機械的処理等をすることによってセルロースを解重合した微細セルロース、各種セルロース誘導体などが例示される。
なお、リグノセルロースは、植物の細胞壁を構成する、複合炭水化物ポリマーであり、主に多糖類のセルロース、ヘミセルロースと、芳香族高分子であるリグニンから構成されている。リグニンの含有量は、原材料となるパルプ等に対して、脱リグニン、又は漂白を行うことにより、調整することができる。
本発明において、セルロース原料としてパルプを用いる場合、未叩解及び叩解のいずれでもよいが、叩解処理を行ったパルプを用いる方が好ましい。これによりパルプの比表面積が増加し尿素反応量が増加することが期待できる。叩解処理の程度としては、濾水度(C.S.F)400mL以下が好ましく、より好ましくは100mL~200mL程度となる。400mLを超える濾水度では、その効果を発揮することが出来ず、100mL未満では、セルロース繊維へのダメージによる短繊維化のため、強化樹脂にしたときに強度向上効果が阻害される。また本叩解処理を行うことで、後述する洗浄処理、乾燥処理を行った際、加重平均繊維長(長さ平均繊維長)の範囲が0.2~1.5mm、好ましくは0.3~1.0mmの範囲に入る場合、後述する粉砕工程を省略してもよい。
叩解処理の方法としては、例えば、公知の叩解機を用いてパルプ繊維を機械的(力学的)に処理することが挙げられる。叩解機としては、パルプ繊維を叩解する場合に通常使用される叩解機を使用することができ、例えば、ナイアガラビーター、PFIミル、ディスクリファイナー、コニカルリファイナー、ボールミル、石臼型ミル、サンドグラインダーミル、インパクトミル、高圧ホモジナイザー、低圧ホモジナイザー、ダイノーミル、超音波ミル、カンダグラインダ、アトライタ、振動ミル、カッターミル、ジェットミル、離解機、家庭用ジューサーミキサー、乳鉢である。中でも、ナイアガラビーターやディスクリファイナー、コニカルリファイナーが好ましく、ディスクリファイナーやコニカルリファイナーがさらに好適である。
(脱水)
叩解処理においては必要に応じて脱水を行ってもよい。脱水法としてはスクリュープレスを用いた加圧脱水法、揮発などによる減圧脱水法などで実施も可能だが、効率の点から遠心脱水法が好ましい。脱水は、溶媒中の固形分が10~60%程度になるまで行うことが好ましい。
(乾燥)
本発明に用いるセルロース繊維は、上記脱水工程の後、必要に応じて実施される粉砕工程に用いる前に乾燥処理が施される。乾燥処理は、例えば、マイクロ波乾燥機、送風乾燥機や真空乾燥機(減圧乾燥機)を用いて行うことができるが、ドラム乾燥機、パドルドライヤー、ナウターミキサー、攪拌羽根のついた回分乾燥機など、攪拌しながら乾燥することができる乾燥機が好ましい。乾燥は、セルロース繊維の含水率が0.1~10%、好ましくは1~5%程度になるまで可能な限り行うことが好ましい。
本発明においては、セルロース繊維と相溶化樹脂とともに、尿素の同時添加による混練を行う。この操作による樹脂中でのセルロース繊維による強度が向上する現象のメカニズムは現時点では未解明であるが、以下のように考察することでその一部を説明することが可能となる。すなわち、尿素は温度が135℃を超える状態でアンモニアとイソシアン酸に分解されるが、尿素をセルロース繊維と同時に混練することにより、混練によって新たにセルロース繊維内部から現れた未変性水酸基と発生したイソシアン酸とが反応しウレタン結合の生成を促すと考えられ、尿素処理を行わないセルロース繊維と比較して疎水性が高まることが推測される。さらに酸無水物を有する相溶化樹脂と同時に溶融混練することで、セルロース繊維の表面に尿素処理によって新たに導入されたアミノ基と相溶化樹脂が有するカルボン酸の相互作用を促し、より強固にセルロース繊維と相溶化樹脂との複合体を形成することが可能となっていると考えられる。
以上のようなメカニズムを達成するために必要な尿素の配合量は、セルロース繊維に含まれるセルロースとヘミセルロースを合わせたセルロース繊維分の量(以後これを「セルロース量」と呼ぶことがある)100重量%に対して10~100重量%が好ましく、20~100重量%がより好ましく、30~70重量%がさらに好ましい。
(相溶化樹脂)
本発明においては、セルロース繊維と尿素とともに、相溶化樹脂の同時添加による混練を行う。相溶化樹脂とは、疎水性の異なるセルロース繊維と希釈用樹脂との均一混合や密着性を高める働きをするものである。本発明に用いる相溶化樹脂(以下、「マスターバッチ用樹脂」ということがある)としては、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸などの酸無水物を形成することが可能な低分子量のジカルボン酸を、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン鎖上に有する高分子樹脂であり、中でもマレイン酸を付加させた無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)や無水マレイン酸変性ポリエチレン(MAPE)を主成分とする樹脂を、それぞれ希釈用樹脂と共に用いることが好ましい。
相溶化樹脂としての特徴を決める要素には、ジカルボン酸の付加量と母材となるポリオレフィン樹脂の重量平均分子量がある。ジカルボン酸の付加量が多いポリオレフィン樹脂はセルロースのような親水性高分子との相溶性を高めるが、付加の過程で樹脂としての分子量が小さくなってしまい成形物の強度が低下する。最適なバランスとしてジカルボン酸の付加量は、20~100mgKOH/gであり、さらに好ましくは45~65mgKOH/gである。付加量が少ない場合、樹脂中で尿素由来アミノ基との相互作用をする点が少なくなる。また付加量が多い場合、樹脂中のカルボキシル基同士の水素結合などによる自己凝集や、過大な付加反応による母材となるオレフィン樹脂の分子量の減少により強化樹脂としての強度が未達となる。ポリオレフィン樹脂の分子量としては35,000~250,000が好ましく、50,000~100,000がさらに好ましい。分子量がこの範囲から小さい場合は樹脂として強度が低下し、この範囲から大きい場合は溶融時の粘度上昇が大きく、混練時の作業性が低下するとともに成形不良の原因となる。
上記の特徴を有する相溶化樹脂の添加量は、セルロース量に対し10~70重量%が好ましく、20~50重量%がさらに好ましい。添加量が70重量%を超えると尿素由来のイソシアン酸のセルロース繊維への導入阻害や、相溶化剤と尿素の複合体形成が促進されると考えられ、本発明の効果が発揮されない。
また相溶化樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合樹脂として用いてもよい。また1種または2種以上のポリマーとポリオレフィンとのグラフト体として使用の場合、グラフト体を構成するポリオレフィン樹脂は特に限定されないが、グラフト体を製造しやすいという観点で、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等を使用することができる。
(第1混練工程前処理-粉砕工程)
本発明においては、後述する第1混練工程の前に粉砕工程を設けてもよい。粉砕工程で粉砕されたセルロース繊維を用いることで、混練機に投入する際に、セルロース繊維の繊維塊が適度に解れた状態となり、投入口(シュート部)におけるブリッジ(詰まり)やパルプのスクリューへの食い込み不良の発生を抑制することができる。
粉砕工程で粉砕されたセルロース繊維は、スクリーンに通して用いることが好ましく、径が1mm以上、5mm以下、好ましくは径が3mm以上、5mm以下のスクリーンを用いることが好ましい。このようにして得たセルロース繊維の加重平均繊維長(長さ平均繊維長)が0.20~1.5mm程度になるのが好ましく、さらに好ましくは0.30~1.0mmである。
粉砕工程において粉砕するセルロース繊維は、混練時の乾燥負荷軽減の観点から、乾燥させたものを用いることが好ましい。
(第1混練工程)
本発明の第1混練工程においては、必須成分として加重平均繊維長が0.20~1.50mm、好ましくは0.30~1.00mmのセルロース繊維、相溶化樹脂、及び尿素を同時に混練機に投入し、溶融混練を行う。必要に応じて酸化防止剤等の任意成分を、上記必須成分と同時に混練機に投入してもよい。セルロース繊維の加重平均繊維長(長さ平均繊維長)は、ファイバーテスター(L&W社製)などを用いて測定することができる。混練機に投入する際には、市販されている各種フィーダーやサイドフィーダーを用いることができる。相溶化樹脂、尿素、及び必要に応じて用いられる酸化防止剤等の添加剤は、あらかじめ粉末化しておいた場合は、投入前にセルロース繊維、相溶化樹脂、及び尿素、及び酸化防止剤等の添加剤を市販の混合機などにより混合して投入することができる。相溶化樹脂等が粉末化していない場合でも、例えばペレット用のフィーダーとセルロース繊維用のフィーダーのように、複数台のフィーダーを準備することで投入することができる。第1混練工程において、混練機に投入するセルロース繊維のセルロース繊維分の配合量は、セルロース繊維分、相溶化樹脂、及び尿素の合計量に対して、35~85重量%であることが好ましく、40~65重量%であることがより好ましい。
(混練機)
本発明の第1混練工程で用いる混練機としては、相溶化樹脂、及び尿素を溶融混練可能であることに加え、セルロース繊維のナノ化を促す混練力の強いものが好ましく、二軸混練機、四軸混練機等の多軸混練機を使用し、スクリューを構成するパーツにニーディングやローターなどを複数含む構成であることが望ましい。上記と同等の混練力を確保できれば、例えば、ベンチロール、バンバリーミキサー、ニーダー、プラネタリーミキサー等の混練機を使用してもよい。またセルロース繊維に付随する水分や揮発する尿素を除去するため、混練機バレル内の一部あるいは全てを減圧下で混練することが好ましい。
溶融混練の設定温度は使用する相溶化樹脂の溶融温度に合わせて調整することができる。相溶化樹脂として本発明に適した無水マレイン酸変性ポリプロピレンを使用する場合、尿素の分解を促すため135℃以上であることが好ましく、酸無水物形成能を有するジカルボン酸残基を有する相溶化樹脂が溶融しかつ一部末端が脱水による閉環している160℃以上であることがさらに好ましい。上記の温度設定により尿素からイソシアン酸が生成し、セルロース繊維上の未変性水酸基とウレタン結合を形成する。それによってセルロース繊維上にアミノ基の導入が達成され、相溶化樹脂との相互作用を促すことが可能となる。また上記温度により、その相溶化樹脂中ジカルボン酸残基が閉環し酸無水物となることで、セルロース繊維とのエステル化反応が起こり、より強固な樹脂複合物を形成することが可能となる。一方、混練温度が200℃を超えると母材となるポリプロピレン樹脂の劣化が始まり、強度が低下する。
本発明においては、第1混練工程で混練機に投入されたセルロース繊維、相溶化樹脂及び尿素は、溶融混練され、この溶融混練時に発生するせん断力により少なくとも一部のセルロース繊維が解繊され、セルロースナノファイバーを含有する樹脂組成物が調製される。
セルロースナノファイバーは、繊維径が1~1000nm程度、アスペクト比が100以上の微細繊維であることが好ましい。本発明による樹脂組成物は上記セルロースナノファイバーが過半を占めていればよく、樹脂組成物中に未解繊の繊維を含んでいてもよい。
(酸化防止剤)
本発明においては、後述する希釈用樹脂の融点が高い温度となる場合は、パルプの分解による強度低下を抑制する観点から、必須成分に加えて酸化防止剤を第1混練工程で同時に混練機に投入して溶融混練することが好ましい。例えば、希釈用樹脂としてポリアミド6(PA6)(融点:230℃程度)を用いる場合は、酸化防止剤を添加することが好ましい。酸化防止剤としては特に限定されないが、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、リン系、イオウ系等が挙げられ、ヒンダードフェノール系を用いることが好ましい。
酸化防止剤を添加する場合の添加量としては、本発明の効果が損なわれない範囲であれば特に制限されないが、過剰な添加により強度低下が起こることから、セルロース繊維分に対して、0.1~3重量%程度が好ましく、0.5~2重量%がより好ましい。
(熱水洗浄工程)
本発明の樹脂組成物の製造方法は、上記の第1混練工程で得られた混練物を、熱水を用いて洗浄する熱水洗浄工程を有する。熱水で上記の混練物を洗浄することにより、混練物中の残留尿素や混練工程で微量生成しうる尿素由来の副生成物(ビウレット、シアヌル酸、メラミンなど)をおよそ除去することができ、残留尿素やその副生成物に起因する繊維等の凝集が解消すると考えられる。そのため、洗浄後の混練物を使用して得られた樹脂成型体は、引張強度および伸びに優れる。
上記の第1混練工程で得られた混練物を、熱水を用いて洗浄する方法としては攪拌または分散できるものであれば何れでもよく、例えば、スリーワンモータによる撹拌や、アジテータ、ホモミキサー、ホモジナイザー、ミキサー等をはじめとする、既知の攪拌機または分散機が挙げられる。
洗浄に用いる熱水の温度は、残留尿素およびその副生成物の溶解性向上の観点から、50~100℃、好ましくは60~90℃、より好ましくは60~80℃である。洗浄時間は計10分間~24時間が好ましく、効率の面も考慮すると0.5時間~5時間がより好ましく、1時間~3時間がさらに好ましい。また化学平衡の観点から、熱水は洗浄時間内に0~10回、好ましくは1~5回交換する。洗浄時の第1混練工程で得られた混練物の熱水中重量%は、同じく化学平衡の観点から0.1~50重量%が好ましく、0.1~15重量%がより好ましい。さらに、残存尿素量が1%未満、とくに0.1%未満となるまで洗浄することが好ましい。残存尿素量は、尿素の熱分解開始温度が135℃であることから、例えば140℃で270分間加熱した時の重量減少から判断することができる。
本発明の樹脂組成物の製造方法では、第2混練工程における相溶化剤中変性基の閉環および開環防止、残存する水によるセルロース繊維や希釈用樹脂の分解防止、および混練時の乾燥負荷軽減の観点から、上記の熱水洗浄工程で洗浄した混練物を乾燥して用いることが好ましい。乾燥処理は、例えば、マイクロ波乾燥機、送風乾燥機や真空乾燥機を用いて行うことができるが、ドラム乾燥機、パドルドライヤー、ナウターミキサー、攪拌羽根のついた回分乾燥機など、攪拌しながら乾燥することができる乾燥機が好ましい。乾燥は、混練物の含水率が0.1~5%程度になるまで行うことが好ましい。
(第2混練工程)
本発明の樹脂組成物の製造方法は、上記の第1混練工程で得られた混練物であって、さらに熱水洗浄工程で洗浄したものと、希釈用樹脂とを混練する第2混練工程をさらに含んでいても良い。第2混練工程を含む場合、第1混練工程で得られた混練物であって、さらに熱水洗浄工程で洗浄したものをマスターバッチとして使用することが可能である。
(希釈用樹脂)
本発明で用いる希釈用樹脂としては、溶融温度が250℃以下の、以下の一般的な熱可塑性樹脂を使用することができる。
すなわち、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル、ポリ乳酸、乳酸とエステルとの共重合樹脂、ポリグリコール酸、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリフェニレンオキシド、ポリウレタン、ポリアセタール、ビニルエーテル樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース系樹脂(トリアセチル化セルロース、ジアセチル化セルロースなど)等を使用することができる。
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン(以下「PP」とも記す)、エチレン-プロピレン共重合体、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどを使用することが可能であり、相溶化樹脂との相互作用の観点から、MAPPを使用する場合はポリプロピレンを用いることが好ましく、MAPEを使用する場合はポリエチレンを用いることが好ましい。
またポリアミド樹脂(PA)は、尿素の作用を受けていないセルロースの水酸基との相互作用も期待され、好適に使用することができる。PAとしては、ポリアミド6(ナイロン6、PA6)、ポリアミド11(ナイロン11、PA11)、ポリアミド12(ナイロン12、PA12)、ポリアミド66(ナイロン66、PA66)、ポリアミド46(ナイロン46、PA46)、ポリアミド610(ナイロン610、PA610)、ポリアミド612(ナイロン612、PA612))等の脂肪族PA、フェニレンジアミン等の芳香族ジアミンと塩化テレフタロイルや塩化イソフタロイル等の芳香族ジカルボン酸又はその誘導体からなる芳香族PA等を挙げることができる。セルロース繊維、セルロースナノファイバーとの親和性が高い観点から、脂肪族PAを用いることが好ましく、PA6、PA11、PA12を用いることがより好ましく、PA6を用いることが特に好ましい。また、ポリアミド樹脂は、1種類を単独で使用してもよく、2種以上のポリアミド樹脂を混合して使用してもよい。
熱水洗浄工程で洗浄した混練物をマスターバッチとして使用する場合は、マスターバッチに希釈用樹脂を加えて溶融混練することにより、希釈用樹脂をさらに含む樹脂組成物を得ることができる。希釈用樹脂を加えて溶融混練する場合、両成分を室温下で加熱せずに混合してから溶融混練しても、加熱しながら混合して溶融混練しても良い。
希釈用樹脂を加えて溶融混練する場合における混練機としては、上記の第1混練工程で用いる混練機と同様のものを使用することができる。また、溶融混練温度は、第1混練工程で使用する相溶化樹脂に合わせて調整することができる。溶融混練時の加熱設定温度は、熱可塑性樹脂供給業者が推奨する最低加工温度±20℃程度が好ましい。希釈用樹脂としてポリプロピレンを用いる場合は、溶融混練温度を140~230℃とすることが好ましく、160~200℃とすることがより好ましい。また、希釈用樹脂としてポリアミド6を用いる場合は、溶融混練温度を140~240℃とすることが好ましく、160~220℃とすることがより好ましい。混合温度をこの温度範囲に設定することにより、セルロース繊維と樹脂を均一に混合することができる。
本発明の製造方法により製造される樹脂組成物は、更に、例えば、界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;着色剤;可塑剤;香料;顔料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤、酸化防止剤等の添加剤を配合してもよい。任意の添加剤の含有割合としては、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜含有されてもよい。
(樹脂組成物)
本発明の製造方法により得られる樹脂組成物は、第1混練工程で混練し、熱水洗浄工程で洗浄した混練物(マスターバッチ)であってもよく、第1混練工程で混練し、熱水洗浄工程で洗浄した混練物(マスターバッチ)と希釈用樹脂とを混練する第2混練工程で得られた樹脂組成物であってもよい。
本発明によれば、引張強度および伸びに優れた樹脂成型体を得ることができる樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
(引張強度、及び引張ひずみの測定)
実施例および比較例で得られた樹脂組成物をペレタイザーに投入し、ペレット状の樹脂成形体を得た。ペレット状の樹脂成型体150gを小型成形機(Xplore Instruments社製「MC15」)に投入し、加熱筒(シリンダー)の温度を希釈用樹脂がPPの場合は200℃、希釈用樹脂がPA6の場合は250℃とし、金型温度は40℃の条件で、ダンベル型試験片(タイプA12、JIS K 7139)を成形した。得られた試験片について、精密万能試験機(島津製作所(株)製「オートグラフAG-Xplus」)を用いて、試験速度1mm/分、初期標線間距離は30mmで、引張強度(降伏点強度)及び引張ひずみ(破断までのひずみ、伸び)を測定した。測定値のうち希釈用樹脂であるPP、PA6の引張強度値をそれぞれ100としたときの各サンプルの測定値の比率を補強率とし、その結果を表1に示す。セルロース繊維を使用し希釈用樹脂としてPPを用いる場合は、引張強度は112以上であると強度に優れていることを示す。また、セルロース繊維を使用し希釈用樹脂としてPA6を用いる場合は、引張強度は150以上であると強度に優れていることを示す。引張ひずみの値が大きいほど、伸びに優れていることを示す。
(マスターバッチ及び樹脂組成物の製造に使用した混練機と運転条件)
(株)テクノベル製「MFU15TW-45HG-NH」二軸混練機
スクリュー径:15mm、L/D:45、処理速度:300g/時
スクリュー回転数は、200rpmで運転した。
(マスターバッチ及び樹脂組成物の製造に使用した材料)
(a)セルロース繊維
(b)相溶化樹脂(マスターバッチ用樹脂)
・無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP):(東洋紡(株)製 トーヨータ
ックPMA-H1000P:ジカルボン酸の付加量 57mgKOH/g)
(c)尿素:(和光純薬工業製)
(d)希釈用樹脂
・ ポリプロピレン(PP):(日本ポリプロ(株)製PP MA04A)
・ポリアミド6(PA6):(宇部興産(株)製PA6 1013FB、融点:230℃程度)
(e)酸化防止剤:(BASF製 Irganox 1010)
(実施例1)
(セルロース繊維の調製)
CSFが150mLになるまで叩解処理を行った含水針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)20kg(固形分10kg)を、撹拌機(日本コークス工業(株)製「FM150L」)に投入した後、撹拌を開始し、80℃で減圧脱水した。得られたセルロース繊維の含水率を、赤外水分計で測定した。含水率は、1.7重量%であった。また、セルロース繊維の繊維長をファイバーテスター(L&W社製)で測定した加重平均繊維長は0.90mmであった。
(マスターバッチの製造)
上記の叩解処理を行ったセルロース繊維(絶対乾燥物として438g、このうちセルロースとヘミセルロースを合わせたセルロース量:400g)、粉末状の相溶化樹脂(MAPP:120g)、及び粉末状の尿素(280g:セルロース量に対し70%の配合量)を、ポリエチレン製の袋に入れ、振り交ぜて混合した。得られた混合物838gを前述の二軸混練機に付属するフィーダー((株)テクノベル製)を用いて混練機に投入し、180℃で混練し、マスターバッチを製造した。
(熱水洗浄)
上記で得られたマスターバッチ800gを、65~80℃の熱水10Lで2時間洗浄した。洗浄中に熱水交換は1回行った。撹拌はプライミクス オートミクサー40型を用いて行った。温度はウォーターバスによって維持した。洗浄後のマスターバッチは乾燥機に投入し、105℃で一晩(もしくは恒量となるまで)乾燥した。
(樹脂組成物の製造)
熱水洗浄および乾燥後に得られたマスターバッチと希釈用樹脂(PP)とを、セルロース繊維に由来するセルロース繊維分の量が、樹脂(相溶化樹脂、及び希釈用樹脂)、セルロース繊維、及び尿素の合計量の10%となる配合で混合し、前記二軸混練機にて180℃で混練して樹脂組成物を得た。
(比較例1)
実施例1と同様にマスターバッチの製造を行い、熱水洗浄およびその後の乾燥を行わず、得られたマスターバッチをそのまま用いたこと以外は、実施例1と同様に樹脂組成物 の製造を行った。
(比較例2)
マスターバッチの熱水洗浄およびその後の乾燥を繊維分が10%の樹脂組成物として製造が完了した時点で行ったこと以外は実施例1と同様に樹脂組成物の製造を行った。
(実施例2)
マスターバッチ製造時に添加する尿素量をセルロース量に対し50%の配合量(200g)に変更したこと、酸化防止剤をセルロース量に対し10%の配合量(40g)添加したこと以外は、実施例1と同様に混練し、マスターバッチの製造を行った。また得られたマスターバッチは、洗浄時のマスターバッチ重量と熱水の比を統一するためにマスターバッチは750g、熱水量は9.38Lに変更したこと以外は、実施例1と同様に熱水洗浄およびその後の乾燥を行った。
(樹脂組成物の製造)
熱水洗浄および乾燥後に得られたマスターバッチと希釈用樹脂(PA6)とを、セルロース繊維に由来するセルロース繊維分の量が、樹脂(相溶化樹脂、及び希釈用樹脂)、セルロース繊維、尿素、及び酸化防止剤の合計量の10%となる配合で混合し、前記二軸混練機にて210℃で混練して樹脂組成物を得た。
(比較例3)
実施例2と同様にマスターバッチの製造を行い、熱水洗浄およびその後の乾燥を行わず、得られたマスターバッチをそのまま用いたこと以外は、実施例2と同様に樹脂組成物 の製造を行った。
Figure 0007483462000001
表1に示すように、本発明のセルロース繊維と、相溶化樹脂と、尿素とを混練機に投入し、混練する第1混練工程と、前記第1混練工程で得られた混練物を、熱水を用いて洗浄する熱水洗浄工程とを有する樹脂組成物の製造方法によれば、樹脂単体よりも優れた引張強度を有し、熱水洗浄工程を有さない比較例1、比較例3と比べて同一の樹脂を用いても伸びが向上した優れた成形体を与える樹脂組成物を得ることができた。

Claims (5)

  1. 加重平均繊維長が0.20mm~1.50mmのセルロース繊維と、相溶化樹脂と、尿素とを混練機に投入し、135~200℃の混練温度で混練する第1混練工程と、
    前記第1混練工程で得られた混練物を、熱水を用いて洗浄する熱水洗浄工程とを有し、
    前記相溶化樹脂は、酸無水物を形成することが可能なジカルボン酸を、ポリオレフィン鎖上に有する高分子樹脂である樹脂組成物の製造方法。
  2. 前記熱水洗浄工程において、前記熱水の温度が50~100℃であり、洗浄時間が10分間~24時間である請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
  3. 前記熱水洗浄工程後の混練物と、希釈用樹脂とを混練する第2混練工程をさらに有する請求項1又は2に記載の樹脂組成物の製造方法。
  4. 前記第1混練工程で前記混練機に投入する前記尿素の配合量は、前記セルロース繊維のうちセルロースとヘミセルロースを合わせたセルロース繊維分の量100重量%に対して10~100重量%である請求項1~3の何れか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
  5. 前記第1混練工程で前記混練機に投入する前記セルロース繊維のうちセルロースとヘミセルロースを合わせたセルロース繊維分の配合量は、前記セルロース繊維分、前記相溶化樹脂、及び前記尿素の合計量に対して、35~85重量%である請求項1~4の何れか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
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