以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が適用される四輪駆動車両10の概略構成を説明する図であると共に、四輪駆動車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、四輪駆動車両10は、エンジン12(図中の「ENG」参照)、第1回転機MG1、および第2回転機MG2を駆動力源として備えたハイブリッド車両である。このように、四輪駆動車両10は、少なくともエンジン12を含む駆動力源を備えた車両である。また、四輪駆動車両10は、左右一対の前輪14L、14Rと、左右一対の後輪16L、16Rと、エンジン12等からの駆動力を前輪14L、14Rおよび後輪16L、16Rへそれぞれ伝達する動力伝達装置18とを備えている。後輪16L、16Rは、二輪駆動走行中および四輪駆動走行中において共に駆動輪となる主駆動輪である。また、前輪14L、14Rは、二輪駆動走行中において従動輪となり、四輪駆動走行中において駆動輪となる副駆動輪である。四輪駆動車両10は、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)方式の車両をベースとする四輪駆動車両である。本実施例では、特に区別しない場合には、前輪14L、14Rを前輪14と称し、後輪16L、16Rを後輪16と称する。また、エンジン12、第1回転機MG1、および第2回転機MG2については、特に区別しない場合は単に駆動力源PUという。
エンジン12は、四輪駆動車両10の走行用の駆動力源であって、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置130によって、四輪駆動車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置20が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
第1回転機MG1および第2回転機MG2は、走行用電動機(モータ)としての機能および発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1および第2回転機MG2は、四輪駆動車両10の走行用の駆動力源となり得る回転機である。第1回転機MG1および第2回転機MG2は、各々、四輪駆動車両10に備えられたインバータ22を介して、四輪駆動車両10に備えられたバッテリ24に接続されている。第1回転機MG1および第2回転機MG2は、各々、後述する電子制御装置130によってインバータ22が制御されることにより、第1回転機MG1の出力トルクであるMG1トルクTgおよび第2回転機MG2の出力トルクであるMG2トルクTmが制御される。回転機の出力トルクは、例えば正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。バッテリ24は、第1回転機MG1および第2回転機MG2の各々に対して電力を授受する蓄電装置である。第1回転機MG1および第2回転機MG2は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース26内に設けられている。なお、第1回転機MG1および第2回転機MG2が、本発明の駆動力源および走行用電動機に対応している。
動力伝達装置18は、ハイブリッド用のトランスミッションである自動変速機28(図中の「HV用T/M」参照)と、トランスファ30(図中の「T/F」参照)と、フロントプロペラシャフト32と、リヤプロペラシャフト34と、前輪側差動歯車装置36(図中の「FDiff」参照)と、後輪側差動歯車装置38(図中の「RDiff」参照)と、左右一対の前輪車軸40L、40Rと、左右一対の後輪車軸42L、42Rと、を備えている。動力伝達装置18において、自動変速機28を介して伝達されたエンジン12等からの駆動力が、トランスファ30から、リヤプロペラシャフト34、後輪側差動歯車装置38、後輪車軸42L、42R等を順次介して後輪16L、16Rへ伝達される。また、動力伝達装置18において、トランスファ30に伝達されたエンジン12からの駆動力の一部が前輪14L、14R側へ分配される場合、その分配された駆動力が、フロントプロペラシャフト32、前輪側差動歯車装置36、前輪車軸40L、40R等を順次介して前輪14L、14Rへ伝達される。
図2は、自動変速機28の概略構成を説明する図である。図2において、自動変速機28は、ケース26内において共通の回転軸線CL1上に直列に配設された、電気式無段変速部44および機械式有段変速部46等を備えている。電気式無段変速部44は、直接的に或いは図示しないダンパーなどを介して間接的にエンジン12に連結されている。機械式有段変速部46は、電気式無段変速部44の出力側に連結されている。機械式有段変速部46の出力側には、トランスファ30が連結されている。自動変速機28において、エンジン12や第2回転機MG2等から出力される動力は、機械式有段変速部46へ伝達され、その機械式有段変速部46からトランスファ30へ伝達される。なお、以下において、電気式無段変速部44を無段変速部44、機械式有段変速部46を有段変速部46という。また、動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。また、無段変速部44および有段変速部46は回転軸線CL1に対して略対称的に構成されており、図2ではその回転軸線CL1に対して下半分が省略されている。回転軸線CL1は、エンジン12のクランク軸、そのクランク軸に連結された自動変速機28の入力回転部材である連結軸48、自動変速機28の出力回転部材である出力軸50などの軸心である。連結軸48は無段変速部44の入力回転部材でもあり、出力軸50は有段変速部46の出力回転部材でもある。
無段変速部44は、第1回転機MG1と、エンジン12の動力を第1回転機MG1および無段変速部44の出力回転部材である中間伝達部材52に機械的に分割する動力分割機構としての差動機構54とを備えている。中間伝達部材52には、第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。無段変速部44は、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構54の差動状態が制御される電気式無段変速機である。無段変速部44は、変速比(ギヤ比ともいう)γ0(=エンジン回転速度Ne/MG2回転速度Nm)が変化させられる電気的な無段変速機として作動させられる。エンジン回転速度Neは、エンジン12の回転速度であり、無段変速部44の入力回転速度すなわち連結軸48の回転速度と同値である。エンジン回転速度Neは、無段変速部44と有段変速部46とを合わせた全体の自動変速機28の入力回転速度でもある。MG2回転速度Nmは、第2回転機MG2の回転速度であり、無段変速部44の出力回転速度すなわち中間伝達部材52の回転速度と同値である。第1回転機MG1は、エンジン回転速度Neを制御可能な回転機である。なお、第1回転機MG1の運転状態を制御することは、第1回転機MG1の運転制御を行うことである。
差動機構54は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS0、キャリアCA0、およびリングギヤR0を備えている。キャリアCA0には連結軸48を介してエンジン12が動力伝達可能に連結され、サンギヤS0には第1回転機MG1が動力伝達可能に連結され、リングギヤR0には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。差動機構54において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能する。
有段変速部46は、中間伝達部材52とトランスファ30との間の動力伝達経路を構成する有段変速機である。中間伝達部材52は、有段変速部46の入力回転部材としても機能する。中間伝達部材52には第2回転機MG2が一体回転するように連結されている。有段変速部46は、走行用の駆動力源PUと駆動輪(前輪14、後輪16)との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機である。有段変速部46は、例えば第1遊星歯車装置56および第2遊星歯車装置58の複数組の遊星歯車装置と、ワンウェイクラッチF1を含む、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置とを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。以下、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、およびブレーキB2については、特に区別しない場合は単に係合装置CBという。
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、四輪駆動車両10に備えられた油圧制御回路60(図1参照)から出力される調圧された係合装置CBの各油圧により、各々、係合や解放などの状態である作動状態が切り替えられる。
有段変速部46は、第1遊星歯車装置56および第2遊星歯車装置58の各回転要素が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的に、一部が互いに連結されたり、中間伝達部材52、ケース26、或いは出力軸50に連結されている。第1遊星歯車装置56の各回転要素は、サンギヤS1、キャリアCA1、リングギヤR1であり、第2遊星歯車装置58の各回転要素は、サンギヤS2、キャリアCA2、リングギヤR2である。
有段変速部46は、複数の係合装置CBのうちの何れかの係合装置である例えば所定の係合装置の係合によって、変速比γat(=AT入力回転速度Ni/出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。つまり、有段変速部46は、複数の係合装置の何れかが係合されることで、ギヤ段が切り替えられるすなわち変速が実行される。有段変速部46は、複数のギヤ段の各々が形成される、有段式の自動変速機である。本実施例では、有段変速部46にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称す。AT入力回転速度Niは、有段変速部46の入力回転部材の回転速度である有段変速部46の入力回転速度であって、中間伝達部材52の回転速度と同値であり、また、MG2回転速度Nmと同値である。AT入力回転速度Niは、MG2回転速度Nmで表すことができる。出力回転速度Noは、有段変速部46の出力回転速度である出力軸50の回転速度であって、自動変速機28の出力回転速度でもある。
有段変速部46は、例えば図3の係合作動表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(図中の「1st」)-AT4速ギヤ段(図中の「4th」)の4段の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、ハイ側のATギヤ段程、変速比γatが小さくなる。また、後進用のATギヤ段(図中の「Rev」)は、例えばクラッチC1の係合且つブレーキB2の係合によって形成される。つまり、後進走行を行う際には、例えばAT1速ギヤ段が形成される。図3の係合作動表は、各ATギヤ段と複数の係合装置の各作動状態との関係をまとめたものである。すなわち、図3の係合作動表は、各ATギヤ段と、各ATギヤ段において各々係合される係合装置である所定の係合装置との関係をまとめたものである。図3において、「○」は係合、「△」はエンジンブレーキ時や有段変速部46のコーストダウンシフト時に係合、空欄は解放をそれぞれ表している。
有段変速部46は、後述する電子制御装置130によって、運転者のアクセル操作や車速Vv等に応じて形成されるATギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のATギヤ段が選択的に形成される。例えば、有段変速部46の変速制御においては、係合装置CBの何れかの掴み替えにより変速が実行される、すなわち係合装置CBの係合と解放との切替えにより変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。
四輪駆動車両10は、更に、ワンウェイクラッチF0、機械式のオイルポンプ62、不図示の電動式のオイルポンプ等を備えている。
ワンウェイクラッチF0は、キャリアCA0を回転不能に固定することができるロック機構である。すなわち、ワンウェイクラッチF0は、エンジン12のクランク軸と連結された、キャリアCA0と一体的に回転する連結軸48を、ケース26に対して固定することができるロック機構である。ワンウェイクラッチF0は、相対回転可能な2つの部材のうちの一方の部材が連結軸48に一体的に連結され、他方の部材がケース26に一体的に連結されている。ワンウェイクラッチF0は、エンジン12の運転時の回転方向である正回転方向に対して空転する一方で、エンジン12の運転時とは逆の回転方向に対して機械的に自動係合する。従って、ワンウェイクラッチF0の空転時には、エンジン12はケース26に対して相対回転可能な状態とされる。一方で、ワンウェイクラッチF0の係合時には、エンジン12はケース26に対して相対回転不能な状態とされる。すなわち、ワンウェイクラッチF0の係合により、エンジン12はケース26に固定される。このように、ワンウェイクラッチF0は、エンジン12の運転時の回転方向となるキャリアCA0の正回転方向の回転を許容し且つキャリアCA0の負回転方向の回転を阻止する。すなわち、ワンウェイクラッチF0は、エンジン12の正回転方向の回転を許容し且つ負回転方向の回転を阻止することができるロック機構である。
オイルポンプ62は、連結軸48に連結されており、エンジン12の回転と共に回転させられて動力伝達装置18にて用いられる作動油OILを吐出する。また、不図示の電動式のオイルポンプは、例えばエンジン12の停止時すなわちオイルポンプ62の非駆動時に駆動させられる。オイルポンプ62や不図示の電動式のオイルポンプが吐出した作動油OILは、油圧制御回路60へ供給される。作動油OILは、油圧制御回路60により係合装置CBの各油圧に調圧されて動力伝達装置18へ供給される(図1参照)。
図4は、無段変速部44と有段変速部46とにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。図4において、無段変速部44を構成する差動機構54の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応するサンギヤS0の回転速度を表すg軸であり、第1回転要素RE1に対応するキャリアCA0の回転速度を表すe軸であり、第3回転要素RE3に対応するリングギヤR0の回転速度(すなわち有段変速部46の入力回転速度)を表すm軸である。また、有段変速部46の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応するサンギヤS2の回転速度、第5回転要素RE5に対応する相互に連結されたリングギヤR1およびキャリアCA2の回転速度(すなわち出力軸50の回転速度)、第6回転要素RE6に対応する相互に連結されたキャリアCA1およびリングギヤR2の回転速度、第7回転要素RE7に対応するサンギヤS1の回転速度をそれぞれ表す軸である。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、差動機構54の歯車比ρ0に応じて定められている。また、縦線Y4、Y5、Y6、Y7の相互の間隔は、第1、第2遊星歯車装置56、58の各歯車比ρ1、ρ2に応じて定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリアとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリアとリングギヤとの間が遊星歯車装置の歯車比ρ(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)に対応する間隔とされる。
図4の共線図を用いて表現すれば、無段変速部44の差動機構54において、第1回転要素RE1にエンジン12(図中の「ENG」参照)が連結され、第2回転要素RE2に第1回転機MG1(図中の「MG1」参照)が連結され、中間伝達部材52と一体回転する第3回転要素RE3に第2回転機MG2(図中の「MG2」参照)が連結されて、エンジン12の回転を中間伝達部材52を介して有段変速部46へ伝達するように構成されている。無段変速部44では、縦線Y2を横切る各直線L0e、L0m、L0Rにより、サンギヤS0の回転速度とリングギヤR0の回転速度との関係が示される。
また、有段変速部46において、第4回転要素RE4はクラッチC1を介して中間伝達部材52に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸50に連結され、第6回転要素RE6はクラッチC2を介して中間伝達部材52に選択的に連結されると共にブレーキB2を介してケース26に選択的に連結され、第7回転要素RE7はブレーキB1を介してケース26に選択的に連結される。有段変速部46では、係合装置CBの係合解放制御によって縦線Y5を横切る各直線L1、L2、L3、L4、LRにより、出力軸50における「1st」、「2nd」、「3rd」、「4th」、「Rev」の各回転速度が示される。
図4中の実線で示す、直線L0eおよび直線L1、L2、L3、L4は、少なくともエンジン12を駆動力源として走行するハイブリッド走行(=HV走行)が可能なHV走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。このHV走行モードでは、差動機構54において、キャリアCA0に入力される正トルクのエンジントルクTeに対して、第1回転機MG1による負トルクの反力トルクとなるMG1トルクTgがサンギヤS0に入力されると、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるエンジン直達トルクTd(=Te/(1+ρ0)=-(1/ρ0)×Tg)が現れる。そして、要求駆動力に応じて、エンジン直達トルクTdとMG2トルクTmとの合算トルクが四輪駆動車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段-AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部46を介してトランスファ30へ伝達される。第1回転機MG1は、正回転にて負トルクを発生する場合には発電機として機能する。第1回転機MG1の発電電力Wgは、バッテリ24に充電されたり、第2回転機MG2にて消費される。第2回転機MG2は、発電電力Wgの全部または一部を用いて、或いは発電電力Wgに加えてバッテリ24からの電力を用いて、MG2トルクTmを出力する。
図4中の一点鎖線で示す直線L0mおよび図4中の実線で示す直線L1、L2、L3、L4は、エンジン12の運転を停止した状態で第1回転機MG1および第2回転機MG2のうちの少なくとも一方の回転機を駆動力源として走行するモータ走行(=EV走行)が可能なEV走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。EV走行モードでの前進走行におけるEV走行としては、例えば第2回転機MG2のみを駆動力源として走行する単駆動EV走行と、第1回転機MG1および第2回転機MG2を共に駆動力源として走行する両駆動EV走行とがある。単駆動EV走行では、キャリアCA0はゼロ回転とされ、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるMG2トルクTmが入力される。このとき、サンギヤS0に連結された第1回転機MG1は、無負荷状態とされて負回転にて空転させられる。単駆動EV走行では、ワンウェイクラッチF0が解放されており、連結軸48はケース26に対して固定されていない。
両駆動EV走行では、キャリアCA0がゼロ回転とされた状態で、サンギヤS0に負回転にて負トルクとなるMG1トルクTgが入力されると、キャリアCA0の負回転方向への回転が阻止されるようにワンウェイクラッチF0が自動係合される。ワンウェイクラッチF0の係合によってキャリアCA0が回転不能に固定された状態においては、MG1トルクTgによる反力トルクがリングギヤR0へ入力される。加えて、両駆動EV走行では、単駆動EV走行と同様に、リングギヤR0にはMG2トルクTmが入力される。キャリアCA0がゼロ回転とされた状態で、サンギヤS0に負回転にて負トルクとなるMG1トルクTgが入力された際に、MG2トルクTmが入力されなければ、MG1トルクTgによる単駆動EV走行も可能である。EV走行モードでの前進走行では、エンジン12は駆動されず、エンジン回転速度Neはゼロとされ、MG1トルクTgおよびMG2トルクTmのうちの少なくとも一方のトルクが四輪駆動車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段-AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部46を介してトランスファ30へ伝達される。EV走行モードでの前進走行では、MG1トルクTgは負回転且つ負トルクの力行トルクであり、MG2トルクTmは正回転且つ正トルクの力行トルクである。
図4中の破線で示す、直線L0Rおよび直線LRは、EV走行モードでの後進走行における各回転要素の相対速度を示している。このEV走行モードでの後進走行では、リングギヤR0には負回転にて負トルクとなるMG2トルクTmが入力され、そのMG2トルクTmが四輪駆動車両10の後進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段が形成された有段変速部46を介してトランスファ30へ伝達される。四輪駆動車両10では、後述する電子制御装置130によって、複数のATギヤ段のうちの前進用のロー側のATギヤ段である例えばAT1速ギヤ段が形成された状態で、前進走行時における前進用のMG2トルクTmとは正負が反対となる後進用のMG2トルクTmが第2回転機MG2から出力させられることで、後進走行を行うことができる。EV走行モードでの後進走行では、MG2トルクTmは負回転且つ負トルクの力行トルクである。なお、HV走行モードにおいても、直線L0Rのように第2回転機MG2を負回転とすることが可能であるので、EV走行モードと同様に後進走行を行うことが可能である。
図5は、トランスファ30の構造を説明する骨子図である。トランスファ30は、非回転部材としてのトランスファケース64を備えている。トランスファ30は、トランスファケース64内において、後輪側出力軸66と、前輪駆動用ドライブギヤ68と、前輪駆動用クラッチ70とを共通の回転軸線CL1を中心にして備えている。また、トランスファ30は、トランスファケース64内において、前輪側出力軸72と、前輪駆動用ドリブンギヤ74とを共通の回転軸線CL2を中心にして備えている。更に、トランスファ30は、前輪駆動用アイドラギヤ76を備えている。回転軸線CL2は、フロントプロペラシャフト32、前輪側出力軸72などの軸心である。
後輪側出力軸66は、出力軸50に動力伝達可能に連結されていると共に、リヤプロペラシャフト34に動力伝達可能に連結されている。後輪側出力軸66は、駆動力源PUから自動変速機28を介して出力軸50に伝達された駆動力を後輪16へ出力する。なお、出力軸50は、トランスファ30の後輪側出力軸66に駆動力源PUからの駆動力を入力するトランスファ30の入力回転部材、つまりトランスファ30に駆動力源PUからの駆動力を伝達する駆動力伝達軸としても機能する。自動変速機28は、駆動力源PUからの駆動力を出力軸50へ伝達する自動変速機である。
前輪駆動用ドライブギヤ68は、後輪側出力軸66に対して相対回転可能に設けられている。前輪駆動用クラッチ70は、多板の湿式クラッチであり、後輪側出力軸66から前輪駆動用ドライブギヤ68へ伝達される伝達トルクを調節するために設けられている。すなわち、前輪駆動用クラッチ70は、駆動力源PUからの駆動力を前輪14および後輪16に分配するために設けられている。なお、前輪駆動用クラッチ70が、本発明の駆動力分配クラッチに対応している。
前輪駆動用ドリブンギヤ74は、前輪側出力軸72に一体的に設けられており、前輪側出力軸72に動力伝達可能に連結されている。前輪駆動用アイドラギヤ76は、前輪駆動用ドライブギヤ68と前輪駆動用ドリブンギヤ74とにそれぞれ噛み合わされており、前輪駆動用ドライブギヤ68と前輪駆動用ドリブンギヤ74との間を動力伝達可能に連結する。
前輪側出力軸72は、前輪駆動用アイドラギヤ76および前輪駆動用ドリブンギヤ74を介して前輪駆動用ドライブギヤ68に動力伝達可能に連結されていると共に、フロントプロペラシャフト32に動力伝達可能に連結されている。前輪側出力軸72は、前輪駆動用クラッチ70を介して前輪駆動用ドライブギヤ68に伝達された駆動力源PUからの駆動力の一部を前輪14へ出力する。
前輪駆動用クラッチ70は、クラッチハブ78と、クラッチドラム80と、摩擦係合要素82と、ピストン84とを備えている。クラッチハブ78は、後輪側出力軸66に動力伝達可能に連結されている。クラッチドラム80は、前輪駆動用ドライブギヤ68に動力伝達可能に連結されている。摩擦係合要素82は、クラッチハブ78に対して回転軸線CL1方向に相対移動可能且つクラッチハブ78に対して相対回転不能に設けられた複数枚の第1摩擦板82aと、クラッチドラム80に対して回転軸線CL1方向に相対移動可能且つクラッチドラム80に対して相対回転不能に設けられた複数枚の第2摩擦板82bとを有している。第1摩擦板82aと第2摩擦板82bとは、回転軸線CL1方向で交互に重なるようにして配置されている。ピストン84は、回転軸線CL1方向に移動可能に設けられ、摩擦係合要素82に当接して第1摩擦板82aと第2摩擦板82bとを押圧することで、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量が調節される。なお、ピストン84が摩擦係合要素82を押圧しない場合には、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量がゼロとなり、前輪駆動用クラッチ70が解放される。
トランスファ30は、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量を調節することで、自動変速機28を介して伝達された駆動力源PUの駆動力を、前輪14および後輪16に分配する。トランスファ30は、前輪駆動用クラッチ70が解放されている場合には、後輪側出力軸66と前輪駆動用ドライブギヤ68との間の動力伝達経路が切断されるので、駆動力源PUから自動変速機28を介してトランスファ30に伝達された駆動力をリヤプロペラシャフト34等を介して後輪16へ伝達する。また、トランスファ30は、前輪駆動用クラッチ70がスリップ係合状態または完全係合状態である場合には、後輪側出力軸66と前輪駆動用ドライブギヤ68との間の動力伝達経路が接続されるので、駆動力源PUからトランスファ30を介して伝達された駆動力の一部を、フロントプロペラシャフト32等を介して前輪14に伝達すると共に、駆動力の残部をリヤプロペラシャフト34等を介して後輪16に伝達する。なお、トランスファ30が、本発明の主駆動輪および副駆動輪に分配する駆動力分配比を調整可能な駆動力分配装置に対応している。
また、トランスファ30は、電動モータ86と、電動モータ86の回転運動を前輪駆動用クラッチ70のピストン84の回転軸線CL1方向への運動に変換して前輪駆動用クラッチ70を押圧する押圧機構100と、を備えている。電動モータ86は、後述する電子制御装置130によって制御される。電動モータ86が、本発明の電動機に対応している。押圧機構100は、ウォームギヤ88と、カム機構90と、を備えている。
ウォームギヤ88は、電動モータ86のモータシャフトに一体的に形成されたウォーム92と、ウォーム92と噛み合う歯が形成されたウォームホイール94とを備えた歯車対である。ウォームホイール94は、回転軸線CL1を中心にして回転可能に設けられている。ウォームホイール94は、電動モータ86が回転すると、回転軸線CL1を中心にして回転させられる。
カム機構90は、ウォームホイール94と前輪駆動用クラッチ70のピストン84との間に設けられている。カム機構90は、ウォームホイール94に接続されている第1部材96と、ピストン84に接続されている第2部材98と、第1部材96と第2部材98との間に介挿されている複数個のボール99とを備えており、電動モータ86の回転運動を回転軸線CL1方向への直線運動に変換する機構である。
複数個のボール99は、回転軸線CL1を中心とする回転方向において等角度間隔に配置されている。第1部材96および第2部材98のボール99と接触する面には、それぞれカム溝が形成されている。各カム溝は、第1部材96が第2部材98に対して相対回転した場合において、第1部材96と第2部材98とが回転軸線CL1方向で互いに乖離するように形成されている。従って、第1部材96が第2部材98に対して相対回転すると、第1部材96と第2部材98とが互いに乖離し、第2部材98が回転軸線CL1方向で前輪駆動用クラッチ70側に向かって移動させられる。このとき、第2部材98に接続されているピストン84が摩擦係合要素82を押圧する。
このように、電動モータ86の駆動によって、ウォームホイール94が一方向に回転させられると、ウォームホイール94の回転運動が、カム機構90を介して回転軸線CL1方向への直線運動に変換されてピストン84に伝達され、ピストン84が摩擦係合要素82を押圧する。ピストン84が摩擦係合要素82を押圧する押圧力が調節されることにより、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量が調節される。これより、トランスファ30は、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量を調節することにより、前輪14および後輪16に分配する駆動力源PUからの駆動力の比(割合)である駆動力分配比Rxを調節することができる。また、電動モータ86が他方向に回転させられると、ウォームホイール94が逆方向に回転させられる。このとき、ピストン84が、回転軸線CL1方向で摩擦係合要素82から離れる側に移動させられる。
駆動力分配比Rxは、例えば駆動力源PUから後輪16および前輪14に伝達される総駆動力に対する後輪16に伝達される駆動力の割合、すなわち後輪側分配率Xrである。または、駆動力分配比Rxは、例えば駆動力源PUから後輪16および前輪14に伝達される総駆動力に対する前輪14に伝達される駆動力の割合、すなわち前輪側分配率Xf(=1-Xr)である。本実施例では、後輪16が主駆動輪であるので、駆動力分配比Rxとして主側分配率である後輪側分配率Xrを用いる。
ピストン84が摩擦係合要素82を押圧しない場合には、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量がゼロになる。このとき、前輪駆動用クラッチ70が解放され、後輪側分配率Xrは1.0になる。換言すれば、駆動力分配比Rxを、前輪14および後輪16に伝達される総駆動力を100としたときの「前輪14の駆動力:後輪16の駆動力」で表せば、駆動力分配比Rxが0:100となる。以下、駆動力分配比Rxを、総駆動力を100としたときの「前輪14の駆動力:後輪16の駆動力」で表すものとする。
一方で、ピストン84が摩擦係合要素82を押圧する場合には、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量がゼロよりも大きくなり、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量が増加する程、後輪側分配率Xrが低下する。換言すれば、駆動力分配比Rxが、均等方向に切り替わる。具体的には、駆動力分配比Rxが「50:50」側に向かって変化する。前輪駆動用クラッチ70が完全係合されるトルク容量になると、後輪側分配率Xrは0.5になる。換言すれば、駆動力分配比Rxが50:50になり、前後輪の駆動力が均等になる。このように、トランスファ30は、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量が調節されることによって、後輪側分配率Xrが1.0~0.5の間で制御され、前後輪の駆動力分配比Rxが0:100~50:50の間で調節される。つまり、トランスファ30は、駆動力源PUからの駆動力を後輪16のみに伝達する二輪駆動状態と、駆動力源PUからの駆動力を後輪16および前輪14に伝達する四輪駆動状態とに切り替えることができる。
図1に戻り、四輪駆動車両10は、駆動力源PU、自動変速機28、およびトランスファ30などを制御する四輪駆動車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置130を備えている。図1は、電子制御装置130の入出力系統を示す図であり、また、電子制御装置130による制御機能の要部を説明する機能ブロック図である。電子制御装置130は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより四輪駆動車両10の各種制御を実行する。電子制御装置130は、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
電子制御装置130には、四輪駆動車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ102、出力回転速度センサ104、MG1回転速度センサ106、MG2回転速度センサ108、各車輪14、16毎に設けられた車輪速センサ110、アクセル開度センサ112、スロットル弁開度センサ114、ブレーキペダルセンサ116、Gセンサ118、シフトポジションセンサ120、ヨーレートセンサ122、ステアリングセンサ124、バッテリセンサ126、油温センサ128など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン回転速度Ne、車速Vvに対応する出力回転速度No、第1回転機MG1の回転速度であるMG1回転速度Ng、AT入力回転速度Niと同値であるMG2回転速度Nm、各車輪14、16の回転速度である車輪速Nfl,Nfr,Nrl,Nrr、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、ブレーキ操作量Bra、四輪駆動車両10の前後加速度Gxおよび左右加速度Gy、四輪駆動車両10に備えられたシフトレバーの操作ポジションPOSsh、四輪駆動車両10の重心を通る鉛直軸まわりの車両回転角の変化速度であるヨー角速度Vyaw、四輪駆動車両10に備えられたステアリングホイールの操舵角度θswおよび操舵方向Dsw、バッテリ24のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、作動油OILの温度である作動油温THoilなど)が、それぞれ供給される。なお、車輪速Nflは左前輪14Lの車輪速に対応し、車輪速Nfrは右前輪14Rの車輪速に対応し、車輪速Nrlは左後輪16Lの車輪速に対応し、車輪速Nrrは右後輪16Rの車輪速に対応している。また、車輪速センサ110は各車輪毎に設けられた4個のセンサに対応している。
運転者のアクセル操作量は、例えばアクセルペダルなどのアクセル操作部材の操作量である加速操作量であって、四輪駆動車両10に対する運転者の出力要求量である。運転者の出力要求量としては、アクセル開度θaccの他に、スロットル弁開度θthなどを用いることもできる。
電子制御装置130からは、四輪駆動車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置20、インバータ22、油圧制御回路60、電動モータ86など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、第1回転機MG1および第2回転機MG2を各々制御する為の回転機制御指令信号Smg、係合装置CBの作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Sat、電動モータ86を制御する為の電動モータ制御指令信号Swなど)が、それぞれ出力される。
電子制御装置130は、四輪駆動車両10における各種制御を実現する為に、AT変速制御手段すなわちAT変速制御部132、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部134、および四輪駆動制御手段すなわち四輪駆動制御部136を備えている。
AT変速制御部132は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である例えば図6に示すようなATギヤ段変速マップを用いて有段変速部46の変速判断を行い、必要に応じて有段変速部46の変速制御を実行する為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路60へ出力する。上記ATギヤ段変速マップは、例えば車速Vvおよび要求駆動力Frdemを変数とする二次元座標上に、有段変速部46の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。ここでは、車速Vvに替えて出力回転速度Noなどを用いても良い。また、要求駆動力Frdemに替えて要求駆動トルクTrdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。上記ATギヤ段変速マップにおける各変速線は、実線に示すようなアップシフトが判断される為のアップシフト線、および破線に示すようなダウンシフトが判断される為のダウンシフト線である。
ハイブリッド制御部134は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部134aとしての機能と、インバータ22を介して第1回転機MG1および第2回転機MG2の作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部134bとしての機能とを含んでおり、それらの制御機能によりエンジン12、第1回転機MG1、および第2回転機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。
ハイブリッド制御部134は、予め定められた関係である例えば駆動要求量マップにアクセル開度θaccおよび車速Vvを適用することで駆動要求量としての要求駆動力Frdemを算出する。前記駆動要求量としては、要求駆動力Frdem[N]の他に、各駆動輪(前輪14、後輪16)における要求駆動トルクTrdem[Nm]、各駆動輪における要求駆動パワーPrdem[W]、出力軸50における要求AT出力トルク等を用いることもできる。ハイブリッド制御部134は、バッテリ24の充電可能電力Winや放電可能電力Wout等を考慮して、要求駆動トルクTrdemと車速Vvとに基づく要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン12を制御する指令信号であるエンジン制御指令信号Seと、第1回転機MG1および第2回転機MG2を制御する指令信号である回転機制御指令信号Smgとを出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン12のパワーであるエンジンパワーPeの指令値である。回転機制御指令信号Smgは、例えばエンジントルクTeの反力トルクとしての指令出力時のMG1回転速度NgにおけるMG1トルクTgを出力する第1回転機MG1の発電電力Wgの指令値であり、また、指令出力時のMG2回転速度NmにおけるMG2トルクTmを出力する第2回転機MG2の消費電力Wmの指令値である。
バッテリ24の充電可能電力Winは、バッテリ24の入力電力の制限を規定する入力可能な最大電力であり、バッテリ24の入力制限を示している。バッテリ24の放電可能電力Woutは、バッテリ24の出力電力の制限を規定する出力可能な最大電力であり、バッテリ24の出力制限を示している。バッテリ24の充電可能電力Winや放電可能電力Woutは、例えばバッテリ温度THbatおよびバッテリ24の充電状態値SOC[%]に基づいて電子制御装置130により算出される。バッテリ24の充電状態値SOCは、バッテリ24の充電量に相当する充電状態を示す値であり、例えばバッテリ充放電電流Ibatおよびバッテリ電圧Vbatなどに基づいて電子制御装置130により算出される。
ハイブリッド制御部134は、例えば無段変速部44を無段変速機として作動させて自動変速機28全体として無段変速機として作動させる場合、最適エンジン動作点等を考慮し、要求駆動パワーPrdemを実現するエンジンパワーPeが得られるエンジン回転速度NeやエンジントルクTeとなるように、エンジン12を制御すると共に第1回転機MG1の発電電力Wgを制御することで、無段変速部44の無段変速制御を実行して無段変速部44の変速比γ0を変化させる。この制御の結果として、無段変速機として作動させる場合の自動変速機28の変速比γt(=γ0×γat=Ne/No)が制御される。最適エンジン動作点は、例えば要求エンジンパワーPedemを実現するときに、エンジン12単体の燃費にバッテリ24における充放電効率等を考慮した四輪駆動車両10におけるトータル燃費が最も良くなるエンジン動作点として予め定められている。このエンジン動作点は、エンジン回転速度NeとエンジントルクTeとで表されるエンジン12の運転点である。最適エンジン動作点におけるエンジン回転速度Neは、四輪駆動車両10におけるエネルギー効率が最良となる最適エンジン回転速度Nebである。
ハイブリッド制御部134は、例えば無段変速部44を有段変速機のように変速させて自動変速機28全体として有段変速機のように変速させる場合、予め定められた関係である例えば有段変速マップを用いて自動変速機28の変速判断を行い、AT変速制御部132による有段変速部46のATギヤ段の変速制御と協調して、変速比γtが異なる複数のギヤ段を選択的に成立させるように無段変速部44の変速制御を実行する。複数のギヤ段は、それぞれの変速比γtを維持できるように出力回転速度Noに応じて第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを制御することによって成立させることができる。
ハイブリッド制御部134は、走行モードとして、EV走行モードまたはHV走行モードを走行状態に応じて選択的に成立させる。例えば、ハイブリッド制御部134は、要求駆動パワーPrdemが予め定められた閾値よりも小さなEV走行領域にある場合には、EV走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPrdemが予め定められた閾値以上となるHV走行領域にある場合には、HV走行モードを成立させる。図6の一点鎖線Aは、HV走行モードとEV走行モードとを切り替える為のHV走行領域とEV走行領域との境界線である。この図6の一点鎖線Aに示すような境界線を有する予め定められた関係は、車速Vvおよび要求駆動力Frdemを変数とする二次元座標で構成された走行モード切替マップの一例である。なお、図6では、便宜上、この走行モード切替マップをATギヤ段変速マップと共に示している。
ハイブリッド制御部134は、EV走行モードを成立させたときに、第2回転機MG2のみで要求駆動パワーPrdemを実現できる場合には、第2回転機MG2による単駆動EV走行にて四輪駆動車両10を走行させる。一方で、ハイブリッド制御部134は、EV走行モードを成立させたときに、第2回転機MG2のみでは要求駆動パワーPrdemを実現できない場合には、両駆動EV走行にて四輪駆動車両10を走行させる。ハイブリッド制御部134は、第2回転機MG2のみで要求駆動パワーPrdemを実現できるときであっても、第2回転機MG2のみを用いるよりも第1回転機MG1および第2回転機MG2を併用した方が効率が良い場合には、両駆動EV走行にて四輪駆動車両10を走行させても良い。
ハイブリッド制御部134は、要求駆動パワーPrdemがEV走行領域にあるときであっても、バッテリ24の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12の暖機が必要な場合などには、HV走行モードを成立させる。前記エンジン始動閾値は、エンジン12を自動的に始動してバッテリ24を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判断する為の予め定められた閾値である。
四輪駆動制御部136は、駆動力分配比Rxを調節する、すなわち後輪側分配率Xrを調節する駆動力分配制御CTxを行う。四輪駆動制御部136は、出力回転速度センサ104やGセンサ118などから判断される四輪駆動車両10の走行状態に応じた駆動力分配比Rxに対応する後輪側分配率Xrの目標値Xr*を設定し、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量を調節することにより後輪側分配率Xrが目標値Xr*になるように、電動モータ86を制御する為の電動モータ制御指令信号Swを出力する。
四輪駆動制御部136は、例えば直進走行時には、前輪駆動用クラッチ70を解放することで、後輪側分配率Xrを1.0、すなわち駆動力分配比Rxを0:100に制御する。また、四輪駆動制御部136は、旋回走行中の操舵角度θswと車速Vv等とに基づいて目標ヨー角速度Vyawtgtを算出し、ヨーレートセンサ122によって随時検出されるヨー角速度Vyawが目標ヨー角速度Vyawtgtに追従するように、後輪側分配率Xrを調節する。
上述したように、トランスファ30において、電動モータ86が駆動すると、ピストン84が押圧機構100を介して移動させられることで、前輪駆動用クラッチ70の摩擦係合要素82がピストン84によって押圧させられる。押圧機構100は、ウォームギヤ88を含んで構成されるため、例えばウォームギヤ88のギヤ噛合部においてガタが形成されている。従って、駆動力分配比Rxが、例えば不均等方向に切替中(変化中)に均等方向に切り替えられると、押圧機構100において一方側に詰められていたガタが他方側に詰められ、このときガタを形成するギヤ同士が衝突することによる音(以下、打音)が発生する。これに対して、押圧機構100に動力を伝達する電動モータ86の回転速度Nmtを低下させれば、ギヤの衝突が緩和されて打音が抑制されるが、後輪側分配率Xrが目標値Xr*となるのに時間がかかり、車両挙動に影響を及ぼす虞がある。なお、ここでいう駆動力分配比Rxの均等方向とは、後輪16および前輪14に伝達される総駆動力に対する主駆動輪である後輪16の駆動力の割合が減少する一方で、副駆動輪である前輪14の駆動力の割合が増加することで、後輪16の駆動力と前輪14の駆動力との差が減少する方向、すなわち前輪14および後輪16の駆動力が均等に向かう側への駆動力分配比Rxの変化方向である。一方、駆動力分配比Rxの不均等方向とは、総駆動力に対する後輪16の駆動力の割合が増加する一方で、前輪14の駆動力の割合が減少することで、後輪16の駆動力と前輪14の駆動力との差が増加する方向、すなわち前輪14および後輪16の駆動力が不均等に向かう側への駆動力分配比Rxの変化方向である。
例えば、車両減速走行中であって、前後輪の駆動力が比較的均等に近い後輪側分配率Xrで走行中にアクセルペダルが踏み込まれ、このアクセルペダルの踏み込みによって駆動力分配比Rxが不均等方向に制御されることが考えられる。このとき、後輪16の駆動力の増加によって後輪16がスリップすると、そのスリップを抑えるため、すなわち後輪16の駆動力を低減するために駆動力分配比Rxが均等方向に切り替えられる。このようなときに、駆動力分配比Rxが不均等方向から均等方向に切り替えられるが、切替過渡期に押圧機構100内に形成されるガタが反対方向に詰まることで、ガタを形成するギヤ同士が衝突することによる打音が発生する。
上記打音の発生を抑制するため、電子制御装置130は、暗騒音判定手段としての暗騒音判定部140、分配比切替判定手段としての分配比切替判定部142、スリップ判定手段としてのスリップ判定部144、および分配比切替完了判定手段としての分配比切替完了判定部146を、機能的に備えている。以下、上記各制御部の制御機能について説明する。
暗騒音判定部140は、車室内の暗騒音が、予め設定されている暗騒音の閾値Xよりも大きいかを判定する。暗騒音とは、対象となる音(ここでは打音)以外に存在する騒音のことをいう。例えば、車室内の暗騒音が大きいと、打音が発生した場合であっても、打音が暗騒音によってかき消される。前記暗騒音の閾値Xは、暗騒音によって打音をかき消すことができる境界値に設定されている。
暗騒音判定部140は、例えばエンジン回転速度Neおよび車速Vvから構成される、暗騒音の領域マップを記憶しており、前記領域マップに基づいて、暗騒音が閾値Xよりも大きいかを判定する。前記領域マップは、予め実験的または設計的に求められ、打音をかき消すことができない暗騒音小領域、および、打音をかき消すことができる暗騒音大領域が規定されている。例えば、前記領域マップにおいて、エンジン回転速度Neの高回転領域および高車速領域において、暗騒音大領域が設定されている。また、前記領域マップにおいて、前記暗騒音小領域と前記暗騒音大領域との境界が、暗騒音によって打音をかき消すことができる暗騒音の閾値Xに対応している
暗騒音判定部140は、車両の走行状態が前記領域マップにおいて暗騒音小領域にある場合、暗騒音が前記閾値Xよりも小さいと判定する。このとき、打音を抑制する必要があると判断され、打音を抑制する制御(以下、打音抑制制御)が実行される。また、暗騒音判定部140は、車両の走行状態が前記領域マップにおいて暗騒音大領域にある場合、暗騒音が前記閾値Xよりも大きいと判定する。このとき、打音を抑制する必要がないと判断され、打音抑制制御が実行されない。
分配比切替判定部142は、後輪側分配率Xrが増加中、すなわち駆動力分配比Rxが不均等方向に切替中であるかを判定する。分配比切替判定部142は、例えば押圧機構100を駆動させる電動モータ86が、後輪側分配率Xrが増加する回転方向、すなわち駆動力分配比Rxが不均等になる回転方向に回転中である場合、駆動力分配比Rxが不均等方向に切替中であると判定する。または、分配比切替判定部142は、後輪側分配率Xrの目標値Xr*が、現在の後輪側分配率Xrよりも大きい場合、駆動力分配比Rxが不均等方向に切替中であると判定する。
スリップ判定部144は、四輪駆動車両10にスリップが発生したかを判定する。すなわち、スリップ判定部144は、四輪駆動車両のスリップの発生を検知する。スリップ判定部144は、例えば前輪14の車輪速Nfl,Nfrの平均値Nf(=(Nfl+Nfr)/2)と後輪16の車輪速Nrl,Nrrの平均値Nr(=(Nrl+Nrr)/2)との差分で表すスリップ量Nslip(=|Nf-Nr|)が、予め設定されている所定値α1以上である場合に、四輪駆動車両10がスリップしたと判定する。所定値α1は、予め実験的または設計的に求められ、四輪駆動車両10がスリップが発生したと判断される値の閾値に設定されている。
または、スリップ判定部144は、主駆動輪である後輪16の車輪速Nrl,Nrrの変化速度ΔNrl,ΔNrrが、予め設定されている所定値α2以上である場合に、四輪駆動車両10がスリップしたと判定する。所定値α2は、予め実験的または設計的に求められ、スリップが発生したと判断される値の閾値に設定されている。また、所定値α2は、駆動力源PUの駆動力に応じて変更される。駆動力PUが大きいほど変化速度ΔNrl,ΔNrrが大きくなることを考慮し、駆動力源PUの駆動力に比例して所定値α2が高い値に設定される。
四輪駆動制御部136は、例えばアクセルペダルが踏み込まれたことで駆動力分配比Rxが不均等方向に切替中に、スリップの発生が検知されると、電動モータ86の回転方向を切り替えることで、駆動力分配比Rxを均等方向に切り替える。駆動力分配比Rxが均等方向に切り替えられると、後輪16の駆動力が減少するためスリップが抑えられる。ここで、四輪駆動制御部136は、駆動力分配比Rxが不均等方向に切り替えているときに四輪駆動車両10のスリップ検知に伴い駆動力分配比Rxを均等方向に切り替える場合に打音を抑制する必要があると、押圧機構100のガタが詰まるまで電動モータ86の回転速度Nmtを通常の回転速度Nmt(以下、区別のためNmtsと記載)よりも低下させる打音抑制制御を実行する。
上記通常の回転速度Nmtsは、駆動力分配比Rxが不均等方向から均等方向に切り替わらない場合に設定される回転速度に対応し、ガタが詰まるときに発生する打音を考慮しない回転速度である。これに対して、駆動力分配比Rxが不均等方向から均等方向に切り替えられる場合(以下、切替時)の電動モータ86の回転速度Nmtが、通常の回転速度Nmtsよりも低速に設定される。切替時における電動モータ86の回転速度Nmtは、予め実験的または設計的に求められ、駆動力分配比Rxの切替時に発生する打音が、車室内の運転者に伝わらない大きさとなる回転速度に設定されている。すなわち、切替時における電動モータ86の回転速度Nmtは、駆動力分配比Rxの切替時に発生する打音が抑制される回転速度に設定されている。
また、ハイブリッド制御部134は、打音抑制制御の実行時において、電動モータ86の回転速度Nmtを低下させることに伴う後輪16の駆動力の低減の遅れを補償するように、第2回転機MG2からの駆動力に対応するMG2トルクTmを低減する制御を実行する。第2回転機MG2のMG2トルクTmが低減されることで、後輪16に伝達される駆動力が低減されることから、後輪16で発生するスリップが抑えられる。ここで、第2回転機MG2のMG2トルクTmの応答性は、駆動力分配比Rxの応答性に比べて高いことから、後輪16の駆動力を速やかに低減することができる。従って、電動モータ86の回転速度Nmtの低下に伴う後輪16の駆動力の低減の遅れを、第2回転機MG2のMG2トルクTmで補償することが可能になり、駆動力の低減の遅れに伴う車両挙動への影響が抑制される。
ハイブリッド制御部134は、打音抑制制御の実行時における第2回転機MG2のMG2トルクTmの低減量ΔTmを、四輪駆動車両10のスリップ量Nslipに応じた値に設定する。ハイブリッド制御部134は、例えば、前輪14の各車輪速Nfl,Nfrの平均値Nfと後輪16の各車輪速Nrl,Nrrの平均値Nrとの差分であるスリップ量Nslipに基づいてMG2トルクTmの低減量ΔTmを設定し、設定された低減量ΔTmとなるように第2回転機MG2を制御する。ハイブリッド制御部134は、例えば、スリップ量Nslipに対するMG2トルクTmの低減量ΔTmの関係マップを記憶しており、算出されたスリップ量Nslipを前記関係マップに適用することで、低減量ΔTmを決定する。なお、前記関係マップは、予め実験的または設計的に求められて記憶され、スリップ量Nslipに比例して低減量ΔTmが大きくなるように設定されている。
ここで、駆動力分配比Rxが均等方向に切り替わる過渡期において、押圧機構100に形成されるガタが一方側から他方側に詰まると、打音が発生する虞がなくなる。そこで、四輪駆動制御部136は、ガタが詰まると、電動モータ86の回転速度Nmtを通常の回転速度Nmtsと同じ速度に制御する。従って、ガタが詰まると、駆動力分配比Rxが均等方向に向かって速やかに切り替えられる。なお、ガタの詰まりは、例えば、スリップの発生が検知された時点からの経過時間が、予め設定されている所定値βに到達したかに基づいて判定される。所定値βは、予め実験的または設計的に求められ、押圧機構100内に形成されるガタが一方側から他方側に詰まるのに要する時間に設定されている。このように、ガタが詰まった後は、電動モータ86の回転速度Nmtが速められることで、駆動力分配比Rxの切替の遅れが低減される。
また、ハイブリッド制御部134は、押圧機構100のガタが詰まると、第2回転機MG2のMG2トルクTmを、スリップが発生した時点のトルクに復帰させる。または、ハイブリッド制御部134は、押圧機構100のガタが詰まると、第2回転機MG2のMG2トルクTmを、後輪側分配率Xrの目標値Xr*に基づいて設定されるトルクに制御する。ハイブリッド制御部134は、押圧機構100のガタが詰まると、例えば第2回転機MG2のMG2トルクTmを所定の勾配で増加させる。前記勾配は、予め実験的または設計的に求められて記憶され、後輪側分配率Xrが目標値Xr*に到達する時点と同じタイミングまたは略同じタイミングで、MG2トルクTmがスリップの発生時のトルク、または後輪側分配率Xrの目標値Xr*に基づくトルクに復帰する値に設定されている。
または、ハイブリッド制御部134は、押圧機構100のガタが詰まると、後輪側分配率Xrとその目標値Xr*との偏差ΔXr(=|Xr*-Xr|)に基づいて、MG2トルクTmの制御量を随時算出するフィードバック制御を実行する。これより、MG2トルクTmが、後輪側分配率Xrに応じて増加し、後輪側分配率Xrが目標値Xr*に到達したタイミングまたは略同じタイミングで、MG2トルクTmが、スリップの発生時のトルク、または、後輪側分配率Xrの目標値Xr*に基づくトルクに復帰する。このように、駆動力分配比Rxが均等方向に切り替えられる間、第2回転機MG2のMG2トルクTmが低減され、電動モータ86の回転速度Nmtを低下させることに伴う後輪16の低減の遅れが補償される。
分配比切替完了判定部146は、駆動力分配比Rxの均等方向への切替が完了したかを判定する。分配比切替完了判定部146は、後輪側分配率Xrが目標値Xr*に到達すると、駆動力分配比Rxの切替が完了したと判定する。分配比切替完了判定部146は、例えば、電動モータ86の回転位置が、後輪側分配率Xrの目標値Xr*に対応する回転位置に到達したかに基づいて、駆動力分配比Rxの均等方向への切替が完了したかを判定する。四輪駆動制御部136は、駆動力分配比Rxの切替が完了したと判定されると、駆動力分配制御CTxを終了する。
図7は、電子制御装置130の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、駆動力分配比Rxが不均等方向に切替中に、スリップの発生に伴って駆動力分配比Rxが均等方向に切り替えられたときに発生する打音を抑制しつつスリップを抑える制御作動を説明するためのフローチャートである。このフローチャートは、車両走行中に繰り返し実行される。
先ず、分配比切替判定部142の制御機能に対応するステップ(以下、ステップを省略)ST1では、駆動力分配比Rxが不均等方向に切替中であるかが判定される。ST1が否定される場合、リターンされる。ST1が肯定される場合、ST2に進む。スリップ判定部144の制御機能に対応するST2では、駆動力分配比Rxの不均等方向への切替中に、四輪駆動車両10のスリップが発生したかが判定される。ST2が否定される場合、リターンされる。ST2が肯定される場合、ST3に進む。
四輪駆動制御部136の制御機能に対応するST3では、スリップの発生に伴い、後輪16の駆動力を低下させるため、駆動力分配比Rxが均等方向に切り替えられる。
暗騒音判定部140の制御機能に対応するST4では、暗騒音が、打音をかき消すことができる程度に大きいかが判定される。ST4が肯定される場合、打音を抑制する必要がないため、リターンされる。ST4が否定される場合、打音を抑制する必要があると判断されてST5に進む。
四輪駆動制御部136の制御機能に対応するST5では、打音抑制制御が実行される。すなわち、押圧機構100のガタが詰まるまで電動モータ86の回転速度Nmtを通常の回転速度Nmtsよりも低下させる。ハイブリッド制御部134の制御機能に対応するST6では、電動モータ86の回転速度Nmtを低下させることに伴う後輪16の駆動力の低減の遅れを補償することで、スリップが抑えられるように駆動力分配比Rxを均等方向に切り替えている間、第2回転機MG2のMG2トルクTmが低減制御される。ST6の実行後はリターンされる。
図8は、駆動力分配比Rxが不均等方向へ切替中に、スリップ検知に伴い駆動力分配比Rxが均等方向に切り替えられるときの制御状態を示すタイムチャートである。図8において、横軸が時間(経過時間)を示し、縦軸が、上から順番に、アクセル開度θacc[%]、後輪16の車輪速Nr(平均値Nr)[km/h]、駆動力分配比Rxに対応する後輪側分配率Xr[-]、第2回転機MG2のMG2トルクTm[Nm]を、それぞれ示している。なお、後輪側分配率Xrは、0.5~1.0の間で変化し、後輪側分配率Xrが大きくなるほど駆動力分配比Rxが不均等方向に切り替わる。
図8のt1時点以前では、アクセルペダルが踏み込まれておらず、後輪側分配率Xrが0.5~1.0の間の所定値(略中間値)で推移している。t1時点において、アクセルペダルが踏み込まれると(アクセルON)、アクセル開度θaccが増加している。これに関連して、t1時点以降において、第2回転機MG2のMG2トルクTmが上昇し、さらに、後輪側分配率Xrが増加している。すなわち、駆動力分配比Rxが不均等方向に切り替わっている。t1時点~t2時点では、後輪16の駆動力の増加に伴って後輪16に滑りが生じ、破線で示すスリップが発生しない場合の後輪16の車輪速Nrよりも車輪速Nrが上昇している。
t2時点において、スリップ量Nslipが所定値α1に到達し、スリップの発生が判定されると、後輪16の駆動力を低減してスリップの抑えるため、後輪側分配率Xrの低下が開始される。すなわち、駆動力分配比Rxが均等方向に切り替えられる。このとき、駆動力分配比Rxの切替過渡期に発生する打音が抑制されるように、電動モータ86の回転速度Nmtが通常の回転速度Nmtsよりも低下されることで、後輪側分配率Xrの低下勾配(変化勾配)が緩やかになっている。
図8において、破線で示す後輪側分配率Xrが、電動モータ86が通常の回転速度Nmtsで制御されたときの状態を示している。破線で示すように、電動モータ86が通常の回転速度Nmtsで制御された場合には、後輪側分配率Xrの低下勾配が、実線および一点鎖線で示す後輪側分配率Xrに比べて急になっている。従って、電動モータ86が通常の回転速度Nmtsで制御される場合には、後輪側分配率Xrが速やかに減少する。しかしながら、電動モータ86が通常の回転速度Nmtsで制御される場合、駆動力分配比Rxの切替時に発生する打音が大きくなり、運転者に打音が伝わる虞がある。
また、図8において、一点鎖線で示す後輪側分配率Xrが、電動モータ86の回転速度Nmtを、打音の発生が抑制される速度で制御した場合の状態を示している。このとき、打音が抑制されるものの、後輪側分配率Xrの変化勾配が緩やかになることで、後輪側分配率Xrが目標値Xr*に到達するのに時間を要し、スリップを抑えるのに時間がかかってしまう。
本実施例では、図8の実線に示すように、スリップの発生が検知されたt2時点以降において、電動モータ86の回転速度Nmtが、打音の抑制される回転速度に制御されている。また、t2時点以降において、電動モータ86の回転速度Nmtを低下させることに伴う後輪16の駆動力の低減の遅れを補償するように、第2回転機MG2のMG2トルクTmが低減されている。従って、後輪16の駆動力が、第2回転機MG2のMG2トルクTmの低減によって速やかに低減されるため、後輪16の車輪速Nrが低下してスリップが抑えられている。
また、t3時点において、押圧機構100内に形成されているガタが反対方向に詰まると、電動モータ86が通常の回転速度Nmtsと同じ速度に制御される。t3時点以降は、電動モータ86が通常の回転速度Nmtsで制御されることで、後輪側分配率Xrの変化勾配が、破線で示す後輪側分配率Xrと同じ変化勾配で推移している。従って、ガタが詰まるt3時点以降は、後輪側分配率Xrが速やかに変化し、駆動力分配比Rxが均等方向に速やかに切り替えられる。また、t3時点以降では、第2回転機MG2のMG2トルクTmが、後輪側分配率Xrの変化に応じて、スリップの発生した時点(t2時点)の値に向かって増加している。
t4時点において、後輪側分配率Xrが目標値に到達する、すなわち駆動力分配比Rxの切替が完了すると、それと同じタイミングで第2回転機MG2のMG2トルクTmがスリップの発生した時点(t2時点)の値に復帰する制御が完了する。
上述のように、本実施例によれば、駆動力分配比Rxを不均等方向に切り替えているとき、四輪駆動車両10のスリップ検知に伴い電動モータ86の回転方向が切り替わり、駆動力分配比Rxを均等方向に切り替える場合において、電動モータ86の回転速度Nmtを通常の回転速度Nmtsよりも低下させることで、押圧機構100内のガタが詰まることによる打音の発生が抑制される。また、電動モータ86の回転速度Nmtを低下させることに伴う後輪16の駆動力の低減の遅れを補償するように第2回転機MG2のMG2トルクTmが低減されることで、後輪16の駆動力の低減の遅れに伴う車両挙動への影響を抑制することができる。
また、本実施例によれば、駆動力分配比Rxを均等方向に切り替えている間、第2回転機MG2のMG2トルクTmが低減されるため、後輪16の駆動力の低減の遅れを好適に補償することができる。また、暗騒音が閾値Xよりも大きいことが判定された場合には、打音を抑制する制御を実行しないため、打音を抑制する制御が不必要に実行されるのを防止することができる。また、エンジン12に比べて応答性の高い第2回転機MG2によって駆動力が低減されるため、後輪16の駆動力の低減の遅れを好適に補償することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、後輪側分配率Xrを指令値にして駆動力分配比Rxを不均等方向または均等方向に切り替えるものであったが、前輪14および後輪16のトルクを直接指示することで、駆動力分配比Rxを切り替えるものであっても構わない。
また、前述の実施例において、第2回転機MG2のMG2トルクTmの低減量ΔTmを、スリップ量Nslipに加えて、要求駆動力Frdemまたはその関連値(アクセル開度θaccなど)を考慮して設定するものであっても構わない。例えば、要求駆動力Frdemが大きいほど、MG2トルクTmの低減量ΔTmが小さくされることで、運転者の所望する車両挙動との乖離が低減される。また、第2回転機MG2のMG2トルクTmの低減量ΔTmを、四輪駆動車両10のスリップが判定された時点における後輪側分配率Xr、および、後輪側分配率Xrとその目標値Xr*との差分を考慮して設定するものであっても構わない。
また、前述の実施例では、トランスファ30を構成する押圧機構100は、電動モータ86が駆動すると、カム機構90を介してピストン84が移動させられ、前輪駆動用クラッチ70を押圧するように構成されていたが、本発明は、必ずしも上記構成に限定されない。例えば、電動モータ86が回転すると、回転運動を直線運動に変換するボールねじ等を介して、ピストン84が前輪駆動用クラッチ70を押圧するように構成されるものであっても構わない。要は、押圧機構内にガタが形成される構成であれば、本発明を適宜適用することができる。
また、前述の実施例では、エンジン回転速度Neおよび車速Vvに基づいて、暗騒音が打音をかき消すことができない程度に小さいかが判定されていたが、エンジン回転速度Neおよび車速Vvに加えて、他の要件が考慮されるものであっても構わない。例えば、冷却ファンの音など、暗騒音に関連する音であれば適宜考慮に入れて実施することができる。
また、前述の実施例では、暗騒音が打音をかき消すことができない程度に小さいかに基づいて、打音を抑制する制御を実行するかが判定されていたが、暗騒音の大きさに拘わらず、一律に打音を抑制する制御を実行するものであっても構わない。
また、前述の実施例では、駆動力分配比Rxが均等方向に切り替えられると、後輪16の駆動力を低減するため、第2回転機MG2のMG2トルクTmを低減するものであったが、必ずしも第2回転機MG2のMG2トルクTmの低減に限定されない。例えば、内燃機関であるエンジン12のエンジントルクTeを低減するものであってもよく、第2回転機MG2のMG2トルクTmおよびエンジンのエンジントルクTeの両方を低減するものであっても構わない。また、第1回転機MG1のMG1トルクTgによって四輪駆動車両10が走行されている場合には、第1回転機MG1のMG1トルクTgを低減することで、電動モータ86の回転速度Nmtを低下させることに伴う後輪16の駆動力の低減の遅れを補償するものであっても構わない。
また、前述の実施例では、トランスファ30内に設けられている前輪駆動用クラッチ70のトルク容量を調節することにより前輪14および後輪16の駆動力分配比が変更されるものであったが、本発明は必ずしも上記構成に限定されない。例えば、差動制限付のセンターデファレンシャル装置(センタデフ装置)を備える四輪駆動車両においても、本発明を適用することができる。具体的には、電動機の動力が押圧機構を介して駆動力分配クラッチに伝達され、駆動力分配クラッチのトルク容量が調節されることにより、差動が制限される構造のセンタデフ装置であれば、本発明を適宜適用することができる。
また、前述の実施例では、駆動力分配比Rxを均等方向に切替中に、押圧機構100で形成されるガタが一方側から他方側に詰まると、電動モータ86の回転速度Nmtが通常の回転速度Nmtsに制御されるものであったが、ガタが詰まってから所定時間経過した後に、電動モータ86の回転速度Nmtが速められるものであっても構わない。ガタが詰まった直後は、押圧機構100において揺り返しが発生して打音が続く可能性があるため、その揺り返しが収まる所定時間経過後に電動モータ86の回転速度Nmtが速められることで打音が適切に抑制される。
また、前述の実施例では、スリップの発生が、前後輪のスリップ量Nslip、または、主駆動輪である後輪16の車輪速Nrl,Nrrの変化速度ΔNrl、ΔNrrに基づいて判定されるものであったが、スリップの発生の判定は必ずしもこれらに限定されない。例えば、前後加速度Gxに基づいてスリップの発生を判定するものであっても構わない。
また、前述の実施例では、四輪駆動車両は、主駆動輪が後輪16、副駆動輪が前輪14となる、FR方式をベースとする車両であったが、主駆動輪が前輪14、副駆動輪が後輪16となる、FF方式をベースとする四輪駆動車両であっても、本発明を適用することができる。
また、前述の実施例では、トランスファ30において、前輪駆動用ドライブギヤ68と前輪駆動用ドリブンギヤ74とが、前輪駆動用アイドラギヤ76を介して動力伝達可能に接続されているが、前輪駆動用ドライブギヤ68と前輪駆動用ドリブンギヤ74とが、チェーン機構を介して動力伝達可能に接続されるものであっても構わない。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。