本発明の実施形態において、回転部材(例えば前述の、エンジン、第1回転機、第2回転機、差動機構の各回転要素、電気式変速機構の出力回転部材、自動変速機の入力回転部材など)の回転状態を表す値としては、例えば回転部材の回転速度N、その回転速度Nの変化速度dN/dtなどである。回転部材の回転速度Nは、回転部材の角速度に対応するものである。回転速度Nの変化速度dN/dtは、回転速度Nの時間変化率すなわち時間微分であって、回転部材の角加速度に対応するものである。回転速度Nの変化速度dN/dtを回転変化率dN/dtと称することもある。数式中においては回転速度Nの変化速度dN/dtをNのドットで表すこともある。
また、前記自動変速機、直列に配設された前記電気式変速機構と前記機械式変速機構とを合わせた複合変速機などの変速機における変速比は、「入力側の回転部材の回転速度/出力側の回転部材の回転速度」である。この変速比におけるハイ側は、変速比が小さくなる側である高車速側である。変速比におけるロー側は、変速比が大きくなる側である低車速側である。例えば、最ロー側変速比は、最も低車速側となる最低車速側の変速比であり、変速比が最も大きな値となる最大変速比である。
図1は、本発明が適用される車両10に備えられた車両用駆動装置12の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両用駆動装置12は、動力源として機能するエンジン14、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース16内において共通の軸心上に直列に配設された、電気式無段変速部18及び機械式有段変速部20等を備えている。電気式無段変速部18は、直接的に或いは図示しないダンパーなどを介して間接的にエンジン14に連結されている。機械式有段変速部20は、電気式無段変速部18の出力側に連結されている。又、車両用駆動装置12は、機械式有段変速部20の出力回転部材である出力軸22に連結された差動歯車装置24、差動歯車装置24に連結された一対の車軸26等を備えている。車両用駆動装置12において、エンジン14や後述する第2回転機MG2から出力される動力は、機械式有段変速部20へ伝達され、その機械式有段変速部20から差動歯車装置24等を介して車両10が備える駆動輪28へ伝達される。車両用駆動装置12は、例えば車両10において縦置きされるFR(=フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものである。尚、以下、トランスミッションケース16をケース16、電気式無段変速部18を無段変速部18、機械式有段変速部20を有段変速部20という。又、動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。又、無段変速部18や有段変速部20等は上記共通の軸心に対して略対称的に構成されており、図1ではその軸心の下半分が省略されている。上記共通の軸心は、エンジン14のクランク軸、後述する連結軸34などの軸心である。
エンジン14は、車両10の走行用の動力源であり、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。このエンジン14は、後述する電子制御装置80によって車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等のエンジン制御装置50が制御されることによりエンジン14の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。本実施例では、エンジン14は、トルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく無段変速部18に連結されている。
無段変速部18は、第1回転機MG1と、エンジン14の動力を第1回転機MG1及び無段変速部18の出力回転部材である中間伝達部材30に機械的に分割する動力分割機構としての差動機構32とを備えている。中間伝達部材30には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。無段変速部18は、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式無段変速機である。第1回転機MG1は、エンジン14の回転速度であるエンジン回転速度Neを制御可能な回転機であって、差動用回転機に相当し、又、第2回転機MG2は、動力源として機能する回転機であって、走行駆動用回転機に相当する。車両10は、走行用の動力源として、エンジン14及び第2回転機MG2を備えたハイブリッド車両である。尚、第1回転機MG1の運転状態を制御することは、第1回転機MG1の運転制御を行うことである。
第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられた蓄電装置としてのバッテリ54に接続されており、後述する電子制御装置80によってインバータ52が制御されることにより、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々の出力トルクであるMG1トルクTg及びMG2トルクTmが制御される。回転機の出力トルクは、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、又、減速側となる負トルクでは回生トルクである。バッテリ54は、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々に対して電力を授受する蓄電装置である。
差動機構32は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS0、キャリアCA0、及びリングギヤR0を備えている。キャリアCA0には連結軸34を介してエンジン14が動力伝達可能に連結され、サンギヤS0には第1回転機MG1が動力伝達可能に連結され、リングギヤR0には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。差動機構32において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能する。
有段変速部20は、中間伝達部材30と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する有段変速機としての機械式変速機構、つまり無段変速部18と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する機械式変速機構である。中間伝達部材30は、有段変速部20の入力回転部材としても機能する。中間伝達部材30には第2回転機MG2が一体回転するように連結されているので、又は、無段変速部18の入力側にはエンジン14が連結されているので、有段変速部20は、動力源(第2回転機MG2又はエンジン14)と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する変速機である。中間伝達部材30は、駆動輪28に動力源の動力を伝達する為の伝達部材である。有段変速部20は、例えば第1遊星歯車装置36及び第2遊星歯車装置38の複数組の遊星歯車装置と、ワンウェイクラッチF1を含む、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置とを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。以下、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、及びブレーキB2については、特に区別しない場合は単に係合装置CBという。
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、車両10に備えられた油圧制御回路56内のソレノイドバルブSL1-SL4等から各々出力される調圧された係合装置CBの各係合圧としての各係合油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量である係合トルクTcbが変化させられることで、各々、係合や解放などの状態である作動状態が切り替えられる。係合装置CBを滑らすことなく中間伝達部材30と出力軸22との間で、例えば有段変速部20に入力される入力トルクであるAT入力トルクTiを伝達する為には、そのAT入力トルクTiに対して係合装置CBの各々にて受け持つ必要がある伝達トルク分である係合装置CBの分担トルクが得られる係合トルクTcbが必要になる。但し、伝達トルク分が得られる係合トルクTcbにおいては、係合トルクTcbを増加させても伝達トルクは増加しない。つまり、係合トルクTcbは、係合装置CBが伝達できる最大のトルクに相当し、伝達トルクは、係合装置CBが実際に伝達するトルクに相当する。尚、係合装置CBを滑らせないことは、係合装置CBに差回転速度を生じさせないことである。又、係合トルクTcb(或いは伝達トルク)と係合油圧PRcbとは、例えば係合装置CBのパック詰めに必要な係合油圧PRcbを供給する領域を除けば、略比例関係にある。
有段変速部20は、第1遊星歯車装置36及び第2遊星歯車装置38の各回転要素が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的に、一部が互いに連結されたり、中間伝達部材30、ケース16、或いは出力軸22に連結されている。第1遊星歯車装置36の各回転要素は、サンギヤS1、キャリアCA1、リングギヤR1であり、第2遊星歯車装置38の各回転要素は、サンギヤS2、キャリアCA2、リングギヤR2である。
有段変速部20は、複数の係合装置のうちの何れかの係合装置である例えば所定の係合装置の係合によって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=AT入力回転速度Ni/出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。つまり、有段変速部20は、複数の係合装置の何れかが係合されることで、ギヤ段が切り替えられるすなわち変速が実行される。有段変速部20は、複数のギヤ段の各々が形成される、有段式の自動変速機である。本実施例では、有段変速部20にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称す。AT入力回転速度Niは、有段変速部20の入力回転部材の回転速度である有段変速部20の入力回転速度であって、中間伝達部材30の回転速度と同値であり、又、第2回転機MG2の回転速度であるMG2回転速度Nmと同値である。AT入力回転速度Niは、MG2回転速度Nmで表すことができる。出力回転速度Noは、有段変速部20の出力回転速度である出力軸22の回転速度であって、無段変速部18と有段変速部20とを合わせた全体の変速機である複合変速機40の出力回転速度でもある。複合変速機40は、エンジン14と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する変速機である。
有段変速部20は、例えば図2の係合作動表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(図中の「1st」)-AT4速ギヤ段(図中の「4th」)の4段の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、ハイ側のATギヤ段程、変速比γatが小さくなる。図2の係合作動表は、各ATギヤ段と複数の係合装置の各作動状態との関係をまとめたものである。すなわち、図2の係合作動表は、各ATギヤ段と、各ATギヤ段において各々係合される係合装置である所定の係合装置との関係をまとめたものである。図2において、「○」は係合、「△」はエンジンブレーキ時や有段変速部20のコーストダウンシフト時に係合、空欄は解放をそれぞれ表している。AT1速ギヤ段を成立させるブレーキB2には並列にワンウェイクラッチF1が設けられているので、発進時や加速時にはブレーキB2を係合させる必要は無い。有段変速部20のコーストダウンシフトは、例えばアクセル開度θaccがゼロ又は略ゼロであるアクセルオフによる減速走行中に判断されたダウンシフトである。尚、複数の係合装置が何れも解放されることにより、有段変速部20は、何れのATギヤ段も形成されないニュートラル状態すなわち動力伝達を遮断するニュートラル状態とされる。ワンウェイクラッチF1は自動的に作動状態が切り替えられるクラッチであるので、係合装置CBが何れも解放されれば有段変速部20はニュートラル状態とされる。又、ダウンシフトが判断されることは、ダウンシフトが要求されることである。
有段変速部20は、後述する電子制御装置80によって、ドライバー(すなわち運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて、変速前のATギヤ段を形成する所定の係合装置のうちの解放側係合装置の解放と変速後のATギヤ段を形成する所定の係合装置のうちの係合側係合装置の係合とが制御されることで、形成されるATギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のATギヤ段が選択的に形成される。つまり、有段変速部20の変速制御においては、例えば係合装置CBの何れかの掴み替えにより変速が実行される、すなわち係合装置CBの係合と解放との切替えにより変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。例えば、AT2速ギヤ段からAT1速ギヤ段へのダウンシフトでは、図2の係合作動表に示すように、解放側係合装置となるブレーキB1が解放されると共に、係合側係合装置となるブレーキB2が係合させられる。この際、ブレーキB1の解放過渡油圧やブレーキB2の係合過渡油圧が調圧制御される。解放側係合装置は、係合装置CBのうちの有段変速部20の変速に関与する係合装置であって、有段変速部20の変速過渡において解放に向けて制御される係合装置である。係合側係合装置は、係合装置CBのうちの有段変速部20の変速に関与する係合装置であって、有段変速部20の変速過渡において係合に向けて制御される係合装置である。尚、2→1ダウンシフトは、2→1ダウンシフトに関与する解放側係合装置としてのブレーキB1の解放によってワンウェイクラッチF1が自動的に係合されることでも実行され得る。本実施例では、例えばAT2速ギヤ段からAT1速ギヤ段へのダウンシフトを2→1ダウンシフトと表す。他のアップシフトやダウンシフトについても同様である。
図3は、無段変速部18と有段変速部20とにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。図3において、無段変速部18を構成する差動機構32の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応するサンギヤS0の回転速度を表すg軸であり、第1回転要素RE1に対応するキャリアCA0の回転速度を表すe軸であり、第3回転要素RE3に対応するリングギヤR0の回転速度(すなわち有段変速部20の入力回転速度)を表すm軸である。又、有段変速部20の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応するサンギヤS2の回転速度、第5回転要素RE5に対応する相互に連結されたリングギヤR1及びキャリアCA2の回転速度(すなわち出力軸22の回転速度)、第6回転要素RE6に対応する相互に連結されたキャリアCA1及びリングギヤR2の回転速度、第7回転要素RE7に対応するサンギヤS1の回転速度をそれぞれ表す軸である。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、差動機構32のギヤ比(歯車比ともいう)ρ0に応じて定められている。又、縦線Y4、Y5、Y6、Y7の相互の間隔は、第1、第2遊星歯車装置36,38の各歯車比ρ1,ρ2に応じて定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリアとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリアとリングギヤとの間が遊星歯車装置の歯車比ρ(=サンギヤの歯数Zs/リングギヤの歯数Zr)に対応する間隔とされる。
図3の共線図を用いて表現すれば、無段変速部18の差動機構32において、第1回転要素RE1にエンジン14(図中の「ENG」参照)が連結され、第2回転要素RE2に第1回転機MG1(図中の「MG1」参照)が連結され、中間伝達部材30と一体回転する第3回転要素RE3に第2回転機MG2(図中の「MG2」参照)が連結されて、エンジン14の回転を中間伝達部材30を介して有段変速部20へ伝達するように構成されている。無段変速部18では、縦線Y2を横切る各直線L0,L0Rにより、サンギヤS0の回転速度とリングギヤR0の回転速度との関係が示される。
又、有段変速部20において、第4回転要素RE4はクラッチC1を介して中間伝達部材30に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸22に連結され、第6回転要素RE6はクラッチC2を介して中間伝達部材30に選択的に連結されると共にブレーキB2を介してケース16に選択的に連結され、第7回転要素RE7はブレーキB1を介してケース16に選択的に連結されている。有段変速部20では、係合装置CBの係合解放制御によって縦線Y5を横切る各直線L1,L2,L3,L4,LRにより、出力軸22における「1st」,「2nd」,「3rd」,「4th」,「Rev」の各回転速度が示される。
図3中の実線で示す、直線L0及び直線L1,L2,L3,L4は、少なくともエンジン14を動力源として走行するハイブリッド走行が可能なハイブリッド走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。このハイブリッド走行モードでは、差動機構32において、キャリアCA0に入力されるエンジントルクTeに対して、第1回転機MG1による負トルクである反力トルクが正回転にてサンギヤS0に入力されると、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるエンジン直達トルクTd(=Te/(1+ρ0)=-(1/ρ0)×Tg)が現れる。そして、要求駆動力に応じて、エンジン直達トルクTdとMG2トルクTmとの合算トルクが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段-AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。このとき、第1回転機MG1は正回転にて負トルクを発生する発電機として機能する。第1回転機MG1の発電電力Wgは、バッテリ54に充電されたり、第2回転機MG2にて消費される。第2回転機MG2は、発電電力Wgの全部又は一部を用いて、或いは発電電力Wgに加えてバッテリ54からの電力を用いて、MG2トルクTmを出力する。
図3に図示はしていないが、エンジン14を停止させると共に第2回転機MG2を動力源として走行するモータ走行が可能なモータ走行モードでの共線図では、差動機構32において、キャリアCA0はゼロ回転とされ、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるMG2トルクTmが入力される。このとき、サンギヤS0に連結された第1回転機MG1は、無負荷状態とされて負回転にて空転させられる。つまり、モータ走行モードでは、エンジン14は駆動されず、エンジン回転速度Neはゼロとされ、MG2トルクTmが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段-AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。ここでのMG2トルクTmは、正回転の力行トルクである。
図3中の破線で示す、直線L0R及び直線LRは、モータ走行モードでの後進走行における各回転要素の相対速度を示している。このモータ走行モードでの後進走行では、リングギヤR0には負回転にて負トルクとなるMG2トルクTmが入力され、そのMG2トルクTmが車両10の後進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。車両10では、後述する電子制御装置80によって、複数のATギヤ段のうちの前進用のロー側のATギヤ段である例えばAT1速ギヤ段が形成された状態で、前進走行時における前進用のMG2トルクTmとは正負が反対となる後進用のMG2トルクTmが第2回転機MG2から出力させられることで、後進走行を行うことができる。ここでは、前進用のMG2トルクTmは正回転の正トルクとなる力行トルクであり、後進用のMG2トルクTmは負回転の負トルクとなる力行トルクである。このように、車両10では、前進用のATギヤ段を用いて、MG2トルクTmの正負を反転させることで後進走行を行う。前進用のATギヤ段を用いることは、前進走行を行うときと同じATギヤ段を用いることである。尚、ハイブリッド走行モードにおいても、直線L0Rのように第2回転機MG2を負回転とすることが可能であるので、モータ走行モードと同様に後進走行を行うことが可能である。
車両用駆動装置12では、エンジン14が動力伝達可能に連結された第1回転要素RE1としてのキャリアCA0と第1回転機MG1が動力伝達可能に連結された第2回転要素RE2としてのサンギヤS0と中間伝達部材30が連結された第3回転要素RE3としてのリングギヤR0との3つの回転要素を有する差動機構32を備えて、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式変速機構としての無段変速部18が構成される。中間伝達部材30が連結された第3回転要素RE3は、見方を換えれば第2回転機MG2が動力伝達可能に連結された第3回転要素RE3である。つまり、車両用駆動装置12では、エンジン14が動力伝達可能に連結された差動機構32と差動機構32に動力伝達可能に連結された第1回転機MG1とを有して、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される無段変速部18が構成される。無段変速部18は、入力回転部材となる連結軸34の回転速度と同値であるエンジン回転速度Neと、出力回転部材となる中間伝達部材30の回転速度であるMG2回転速度Nmとの比の値である変速比γ0(=Ne/Nm)が変化させられる電気的な無段変速機として作動させられる。
例えば、ハイブリッド走行モードにおいては、有段変速部20にてATギヤ段が形成されたことで駆動輪28の回転に拘束されるリングギヤR0の回転速度に対して、第1回転機MG1の回転速度を制御することによってサンギヤS0の回転速度が上昇或いは下降させられると、キャリアCA0の回転速度つまりエンジン回転速度Neが上昇或いは下降させられる。従って、ハイブリッド走行では、エンジン14を効率の良い運転点にて作動させることが可能である。つまり、ATギヤ段が形成された有段変速部20と無段変速機として作動させられる無段変速部18とで、無段変速部18と有段変速部20とが直列に配置された複合変速機40全体として無段変速機を構成することができる。
又は、無段変速部18を有段変速機のように変速させることも可能であるので、ATギヤ段が形成される有段変速部20と有段変速機のように変速させる無段変速部18とで、複合変速機40全体として有段変速機のように変速させることができる。つまり、複合変速機40において、エンジン回転速度Neの出力回転速度Noに対する比の値を表す変速比γt(=Ne/No)が異なる複数のギヤ段を選択的に成立させるように、有段変速部20と無段変速部18とを制御することが可能である。本実施例では、複合変速機40にて成立させられるギヤ段を模擬ギヤ段と称する。変速比γtは、直列に配置された、無段変速部18と有段変速部20とで形成されるトータル変速比であって、無段変速部18の変速比γ0と有段変速部20の変速比γatとを乗算した値(γt=γ0×γat)となる。
模擬ギヤ段は、例えば有段変速部20の各ATギヤ段と1又は複数種類の無段変速部18の変速比γ0との組合せによって、有段変速部20の各ATギヤ段に対してそれぞれ1又は複数種類を成立させるように割り当てられる。例えば、図4は、ギヤ段割当テーブルの一例である。図4において、AT1速ギヤ段に対して模擬1速ギヤ段-模擬3速ギヤ段が成立させられ、AT2速ギヤ段に対して模擬4速ギヤ段-模擬6速ギヤ段が成立させられ、AT3速ギヤ段に対して模擬7速ギヤ段-模擬9速ギヤ段が成立させられ、AT4速ギヤ段に対して模擬10速ギヤ段が成立させられるように予め定められている。
図5は、図3と同じ共線図上に有段変速部20のATギヤ段と複合変速機40の模擬ギヤ段とを例示した図である。図5において、実線は、有段変速部20がAT2速ギヤ段のときに、模擬4速ギヤ段-模擬6速ギヤが成立させられる場合を例示したものである。複合変速機40では、出力回転速度Noに対して所定の変速比γtを実現するエンジン回転速度Neとなるように無段変速部18が制御されることによって、あるATギヤ段において異なる模擬ギヤ段が成立させられる。又、破線は、有段変速部20がAT3速ギヤ段のときに、模擬7速ギヤ段が成立させられる場合を例示したものである。複合変速機40では、ATギヤ段の切替えに合わせて無段変速部18が制御されることによって、模擬ギヤ段が切り替えられる。
図1に戻り、車両10は、エンジン14、無段変速部18、及び有段変速部20などの制御に関連する車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置80を備えている。よって、図1は、電子制御装置80の入出力系統を示す図であり、又、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置80は、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用等に分けて構成される。
電子制御装置80には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ60、MG1回転速度センサ62、MG2回転速度センサ64、出力回転速度センサ66、アクセル開度センサ68、スロットル弁開度センサ70、ブレーキペダルセンサ72、Gセンサ74、シフトポジションセンサ76、バッテリセンサ78、油温センサ79など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン回転速度Ne、第1回転機MG1の回転速度であるMG1回転速度Ng、AT入力回転速度NiであるMG2回転速度Nm、車速Vに対応する出力回転速度No、運転者の加速操作の大きさを表す運転者の加速操作量としてのアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオンBon、車両10の前後G、車両10に備えられたシフト操作部材としてのシフトレバー58の操作ポジションPOSsh、バッテリ54のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、係合装置CBの油圧アクチュエータへ供給される作動油すなわち係合装置CBを作動させる作動油の温度である作動油温THoilなど)が、それぞれ供給される。
運転者の加速操作の大きさを表す運転者の加速操作量は、例えばアクセルペダルなどのアクセル操作部材の操作量であるアクセル操作量であって、車両10に対する運転者の出力要求量である。運転者の出力要求量としては、アクセル開度θaccの他に、スロットル弁開度θthなどを用いることもできる。
電子制御装置80からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路56など)に各種指令信号(例えばエンジン14を制御する為のエンジン制御指令信号Se、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を制御する為の回転機制御指令信号Smg、係合装置CBの作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Satなど)が、それぞれ出力される。この油圧制御指令信号Satは、有段変速部20の変速を制御する為の油圧制御指令信号でもあり、例えば係合装置CBの各々の油圧アクチュエータへ供給される各係合油圧PRcbを調圧する各ソレノイドバルブSL1-SL4等を駆動する為の指令信号である。電子制御装置80は、係合装置CBの狙いの係合トルクTcbを得る為の、各油圧アクチュエータへ供給される各係合油圧PRcbの値に対応する油圧指示値を設定し、その油圧指示値に応じた駆動電流又は駆動電圧を油圧制御回路56へ出力する。
電子制御装置80は、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいてバッテリ54の充電状態を示す値としての充電状態値SOC[%]を算出する。又、電子制御装置80は、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ54の充電状態値SOCに基づいて、バッテリ54のパワーであるバッテリパワーPbatの使用可能な範囲を規定する充放電可能電力Win,Woutを算出する。充放電可能電力Win,Woutは、バッテリ54の入力電力の制限を規定する入力可能電力としての充電可能電力Win、及びバッテリ54の出力電力の制限を規定する出力可能電力としての放電可能電力Woutである。充放電可能電力Win,Woutは、例えばバッテリ温度THbatが常用域より低い低温域ではバッテリ温度THbatが低い程小さくされ、又、バッテリ温度THbatが常用域より高い高温域ではバッテリ温度THbatが高い程小さくされる。又、充電可能電力Winは、例えば充電状態値SOCが高い領域では充電状態値SOCが高い程小さくされる。又、放電可能電力Woutは、例えば充電状態値SOCが低い領域では充電状態値SOCが低い程小さくされる。
電子制御装置80は、車両10における各種制御を実現する為に、AT変速制御手段すなわちAT変速制御部82、及びハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部84を備えている。
AT変速制御部82は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である例えばATギヤ段変速マップを用いて有段変速部20の変速判断を行い、必要に応じて有段変速部20の変速制御を実行する。AT変速制御部82は、この有段変速部20の変速制御では、有段変速部20のATギヤ段を自動的に切り替えるように、ソレノイドバルブSL1-SL4により係合装置CBの係合解放状態を切り替える為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路56へ出力する。上記ATギヤ段変速マップは、例えば出力回転速度No及びアクセル開度θaccを変数とする二次元座標上に、有段変速部20の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。ここでは、出力回転速度Noに替えて車速Vなどを用いても良いし、又、アクセル開度θaccに替えて要求駆動トルクTdemやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。上記ATギヤ段変速マップにおける各変速線は、アップシフトが判断される為のアップシフト線、及びダウンシフトが判断される為のダウンシフト線である。この各変速線は、あるアクセル開度θaccを示す線上において出力回転速度Noが線を横切ったか否か、又は、ある出力回転速度Noを示す線上においてアクセル開度θaccが線を横切ったか否か、すなわち変速線上の変速を実行すべき値である変速点を横切ったか否かを判断する為のものであり、この変速点の連なりとして予め定められている。
ハイブリッド制御部84は、エンジン14の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部としての機能と、インバータ52を介して第1回転機MG1及び第2回転機MG2の作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部としての機能を含んでおり、それら制御機能によりエンジン14、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。ハイブリッド制御部84は、予め定められた関係である例えば駆動力マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで要求駆動パワーPdemを算出する。この要求駆動パワーPdemは、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動トルクTdemである。ハイブリッド制御部84は、バッテリ54の充放電可能電力Win,Wout等を考慮して、要求駆動パワーPdemを実現するように、エンジン14を制御する指令信号であるエンジン制御指令信号Seと、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を制御する指令信号である回転機制御指令信号Smgとを出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン14のパワーであるエンジンパワーPeの指令値である。回転機制御指令信号Smgは、例えばエンジントルクTeの反力トルクとしての指令出力時のMG1回転速度NgにおけるMG1トルクTgを出力する第1回転機MG1の発電電力Wgの指令値であり、又、指令出力時のMG2回転速度NmにおけるMG2トルクTmを出力する第2回転機MG2の消費電力Wmの指令値である。
ハイブリッド制御部84は、例えば無段変速部18を無段変速機として作動させて複合変速機40全体として無段変速機として作動させる場合、エンジン最適燃費点等を考慮して、要求駆動パワーPdemを実現するエンジンパワーPeが得られるエンジン回転速度NeとエンジントルクTeとなるように、エンジン14を制御すると共に第1回転機MG1の発電電力Wgを制御することで、無段変速部18の無段変速制御を実行して無段変速部18の変速比γ0を変化させる。この制御の結果として、無段変速機として作動させる場合の複合変速機40の変速比γtが制御される。
ハイブリッド制御部84は、例えば無段変速部18を有段変速機のように変速させて複合変速機40全体として有段変速機のように変速させる場合、予め定められた関係である例えば模擬ギヤ段変速マップを用いて複合変速機40の変速判断を行い、AT変速制御部82による有段変速部20のATギヤ段の変速制御と協調して、複数の模擬ギヤ段を選択的に成立させるように無段変速部18の変速制御を実行する。複数の模擬ギヤ段は、それぞれの変速比γtを維持できるように出力回転速度Noに応じて第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを制御することによって成立させることができる。各模擬ギヤ段の変速比γtは、出力回転速度Noの全域に亘って必ずしも一定値である必要はなく、所定領域で変化させても良いし、各部の回転速度の上限や下限等によって制限が加えられても良い。このように、ハイブリッド制御部84は、エンジン回転速度Neを有段変速のように変化させる変速制御が可能である。
上記模擬ギヤ段変速マップは、ATギヤ段変速マップと同様に出力回転速度No及びアクセル開度θaccをパラメータとして予め定められている。図6は、模擬ギヤ段変速マップの一例であって、実線はアップシフト線であり、破線はダウンシフト線である。模擬ギヤ段変速マップに従って模擬ギヤ段が切り替えられることにより、無段変速部18と有段変速部20とが直列に配置された複合変速機40全体として有段変速機と同様の変速フィーリングが得られる。複合変速機40全体として有段変速機のように変速させる模擬有段変速制御は、例えば運転者によってスポーツ走行モード等の走行性能重視の走行モードが選択された場合や要求駆動トルクTdemが比較的大きい場合に、複合変速機40全体として無段変速機として作動させる無段変速制御に優先して実行するだけでも良いが、所定の実行制限時を除いて基本的に模擬有段変速制御が実行されても良い。
ハイブリッド制御部84による模擬有段変速制御と、AT変速制御部82による有段変速部20の変速制御とは、協調して実行される。本実施例では、AT1速ギヤ段-AT4速ギヤ段の4種類のATギヤ段に対して、模擬1速ギヤ段-模擬10速ギヤ段の10種類の模擬ギヤ段が割り当てられている。その為、模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングでATギヤ段の変速が行なわれるように、ATギヤ段変速マップが定められている。具体的には、図6における模擬ギヤ段の「3→4」、「6→7」、「9→10」の各アップシフト線は、ATギヤ段変速マップの「1→2」、「2→3」、「3→4」の各アップシフト線と一致している(図6中に記載した「AT1→2」等参照)。又、図6における模擬ギヤ段の「3←4」、「6←7」、「9←10」の各ダウンシフト線は、ATギヤ段変速マップの「1←2」、「2←3」、「3←4」の各ダウンシフト線と一致している(図6中に記載した「AT1←2」等参照)。又は、図6の模擬ギヤ段変速マップによる模擬ギヤ段の変速判断に基づいて、ATギヤ段の変速指令をAT変速制御部82に対して出力するようにしても良い。このように、有段変速部20のアップシフト時は、複合変速機40全体のアップシフトが行われる一方で、有段変速部20のダウンシフト時は、複合変速機40全体のダウンシフトが行われる。AT変速制御部82は、有段変速部20のATギヤ段の切替えを、模擬ギヤ段が切り替えられるときに行う。模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングでATギヤ段の変速が行なわれる為、エンジン回転速度Neの変化を伴って有段変速部20の変速が行なわれるようになり、その有段変速部20の変速に伴うショックがあっても運転者に違和感を与え難くされる。
ハイブリッド制御部84は、走行モードとして、モータ走行モード或いはハイブリッド走行モードを走行状態に応じて選択的に成立させる。例えば、ハイブリッド制御部84は、要求駆動パワーPdemが予め定められた閾値よりも小さなモータ走行領域にある場合には、モータ走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPdemが予め定められた閾値以上となるハイブリッド走行領域にある場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。又、ハイブリッド制御部84は、要求駆動パワーPdemがモータ走行領域にあるときであっても、バッテリ54の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。モータ走行モードは、エンジン14を停止した状態で第2回転機MG2により駆動トルクを発生させて走行する走行状態である。ハイブリッド走行モードは、エンジン14を運転した状態で走行する走行状態である。前記エンジン始動閾値は、エンジン14を強制的に始動してバッテリ54を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判断する為の予め定められた閾値である。
ここで、有段変速部20の変速を伴うときの複合変速機40の模擬有段変速制御について詳述する。ハイブリッド制御部84は、有段変速部20の変速を伴うときの複合変速機40の模擬有段変速制御を実現する為に、目標値設定手段すなわち目標値設定部86、フィードバック制御手段すなわちフィードバック制御部88、及び復帰制御手段すなわち復帰制御部90を備えている。
目標値設定部86は、AT変速制御部82による有段変速部20の変速時には、有段変速部20の変速過渡におけるイナーシャ相中において、AT入力回転速度Ni(=MG2回転速度Nm)の変化速度であるMG2回転変化率dNm/dtの目標値を、MG2回転速度Nmを有段変速部20の変速後の同期回転速度に向かって所定の挙動で変化させる値に逐次設定する。このMG2回転変化率dNm/dtは、有段変速部20の入力回転部材の回転状態を表す値である。又、目標値設定部86は、AT変速制御部82による有段変速部20の変速時には、有段変速部20の変速過渡におけるイナーシャ相中において、エンジン回転速度Neの変化速度であるエンジン回転変化率dNe/dtの目標値を、エンジン回転速度Neを有段変速部20の変速後の目標回転速度に向かって所定の挙動で変化させる値に逐次設定する。このエンジン回転変化率dNe/dtは、エンジン14の回転状態を表す値である。前述したように模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングでATギヤ段の変速が行なわれるので、エンジン回転速度Neにおける有段変速部20の変速後の目標回転速度は、エンジン回転速度Neにおける複合変速機40の模擬有段変速後の同期回転速度と同意である。本実施例では、MG2回転速度Nmにおける有段変速部20の変速後の同期回転速度を、変速後同期回転速度Nmsyca(=No×γata)と称する。「γata」は、有段変速部20の変速後のATギヤ段における変速比である。又、本実施例では、エンジン回転速度Neにおける有段変速部20の変速後の目標回転速度を、変速後同期回転速度Nesyca(=No×γta)と称する。「γta」は、複合変速機40の模擬有段変速後の変速比である。又、本実施例では、MG2回転変化率dNm/dtの目標値を目標MG2回転変化率dNmtgtと称し、エンジン回転変化率dNe/dtの目標値を目標エンジン回転変化率dNetgtと称する。
フィードバック制御部88は、AT変速制御部82による有段変速部20の変速時には、有段変速部20の変速過渡におけるイナーシャ相中において、MG2回転変化率dNm/dtとエンジン回転変化率dNe/dtとが目標値設定部86により設定された各々の目標値となるように、エンジントルクTeと有段変速部20が伝達する伝達トルクとに基づいて、フィードバック制御によってMG1トルクTgとMG2トルクTmとを制御する。エンジントルクTeに対するMG1トルクTgによる反力トルクにてリングギヤR0に現れるエンジン直達トルクTdと、MG2トルクTmとの合算トルクが有段変速部20へのAT入力トルクTiとなるので、MG1トルクTgとMG2トルクTmとを制御することは、そのAT入力トルクTiを制御することと同意である。
有段変速部20の変速制御においては、パワーオン状態でのアップ変速であるパワーオンアップシフト、パワーオン状態でのダウン変速であるパワーオンダウンシフト、パワーオフ状態でのアップ変速であるパワーオフアップシフト、及びパワーオフ状態でのダウン変速であるパワーオフダウンシフトといった様々な変速パターン(変速様式)がある。パワーオン状態での変速は、例えばアクセル開度θaccの増大によって判断された変速やアクセルオンが維持された状態での車速Vの上昇によって判断された変速である。パワーオフ状態での変速は、例えばアクセル開度θaccの減少によって判断された変速やアクセルオフが維持された状態での車速Vの低下によって判断された変速である。仮に変速中に解放側係合装置及び係合側係合装置の何れもが伝達トルクを発生していない状態とされると、パワーオン状態ではAT入力回転速度Ni(=MG2回転速度Nm)は成り行きで上昇させられる一方で、パワーオフ状態ではMG2回転速度Nmは成り行きで低下させられる。その為、成り行きではMG2回転速度Nmを変速後同期回転速度Nmsycaへ向けて変化させられない、パワーオンアップシフトやパワーオフダウンシフトでは、変速後のATギヤ段を形成する係合側係合装置に伝達トルクを発生させることで変速を進行させることが好ましい。一方で、成り行きでMG2回転速度Nmを変速後同期回転速度Nmsycaへ向けて変化させられる、パワーオフアップシフトやパワーオンダウンシフトでは、変速前のATギヤ段を形成する解放側係合装置の伝達トルクを低下させることで変速を進行させることが好ましい。従って、パワーオンアップシフトやパワーオフダウンシフトでは、変速進行側係合装置は係合側係合装置である。一方で、パワーオフアップシフトやパワーオンダウンシフトでは、変速進行側係合装置は解放側係合装置である。変速進行側係合装置は、有段変速部20における解放側係合装置及び係合側係合装置のうちの変速を進行させる側の係合装置すなわち変速を進行させる主体となる係合装置である。
具体的には、フィードバック制御部88は、予め定められた次式(1)を用いて、MG2回転変化率dNm/dtとエンジン回転変化率dNe/dtとの各々の目標値、エンジントルクTe、及びAT伝達トルクTatに基づいて、MG1トルクTgとMG2トルクTmとを算出する。フィードバック制御部88は、算出したMG1トルクTgとMG2トルクTmとが各々得られる為の各回転機制御指令信号Smgをインバータ52へ出力する。次式(1)は、例えば無段変速部18におけるg軸、e軸、及びm軸(図3参照)の各軸毎において成立する、慣性(=イナーシャ)、回転変化率、及び軸上のトルクで示される運動方程式と、無段変速部18が2自由度(すなわち各軸のうちの2つの軸の各回転速度が決まると残りの1つの軸の回転速度が決まるという2自由度)であることで規定される相互間の関係式とに基づいて、導き出された式である。従って、次式(1)中の2×2の各行列における各値a11、・・・、b11、・・・、c22は、各々、無段変速部18を構成する各回転部材の慣性や差動機構32の歯車比ρ0等の組み合わせで構成された値となっている。
前記式(1)中のMG2回転変化率dNm/dtとエンジン回転変化率dNe/dtとには、目標MG2回転変化率dNmtgtと目標エンジン回転変化率dNetgtとが各々適用される。目標値設定部86は、例えばイナーシャ相中のMG2回転速度Nm及びエンジン回転速度Neの各々が所望の挙動を示すように、有段変速部20の変速が様々な変速パターンのうちのどの変速パターンであるか、どのATギヤ段間での変速であるか、どの模擬ギヤ段間での変速であるか、及びエンジン14がどのような作動状態であるかなどに基づいて、目標MG2回転変化率dNmtgtと目標エンジン回転変化率dNetgtとを設定する。従って、フィードバック制御部88は、有段変速部20の変速時には、有段変速部20の変速過渡におけるイナーシャ相中において、MG2回転速度Nmが所望の挙動で変化するように、すなわちMG2回転変化率dNm/dtがMG2回転速度Nmを変速後同期回転速度Nmsycaに向かって変化させる目標MG2回転変化率dNmtgtとなるように、フィードバック制御によってAT入力トルクTiを制御するものであるとも言える。本実施例では、フィードバック制御部88によるイナーシャ相中におけるこの制御を、回転速度フィードバック制御(=回転速度FB制御)と称する。
前記式(1)中のエンジントルクTeは、例えば要求駆動パワーPdemを実現するエンジンパワーPeが得られる、そのときのエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeである。
前記式(1)中のAT伝達トルクTatは、有段変速部20の変速時に係合装置CBの各々にて受け持つ必要がある各伝達トルクを中間伝達部材30上に換算した各換算値の合算値、すなわち有段変速部20が伝達する伝達トルクを中間伝達部材30上に換算した値である。前記式(1)は有段変速部20の変速を進行させるときのモデル式であるので、本実施例では、前記式(1)中のAT伝達トルクTatを便宜上、変速を進行させる主体となる変速進行側係合装置の伝達トルクを中間伝達部材30上に換算した値とする。前記式(1)において、変速進行側係合装置の伝達トルクの値としてはフィードフォワード値が与えられる。
AT変速制御部82は、例えば有段変速部20の変速ショックや変速時間等のバランスを取るように、有段変速部20の変速パターンやどのATギヤ段間での変速であるかなどの異なる変速の種類毎に予め定められた関係を用いて、要求駆動パワーPdemに応じた目標入力トルクTitgtに基づいて変速進行側係合装置の伝達トルクを設定する。
要求駆動パワーPdemや要求駆動パワーPdemに対応する要求駆動トルクTdemは、アクセル開度θaccに基づいて算出される値であり、アクセル開度θaccの変化がそのまま反映させられる。その為、目標入力トルクTitgtは、アクセル開度θaccの変化に伴う変動を抑制するという観点で、要求駆動トルクTdemを中間伝達部材30上の値に換算した要求入力トルクTidemをなまし処理した後の値を用いることが適している。ハイブリッド制御部84は、アクセル開度θaccに基づく要求駆動トルクTdemを中間伝達部材30上の値に換算した値を要求入力トルクTidemとする。ハイブリッド制御部84は、アクセル開度θaccに基づく要求入力トルクTidemに対してなまし処理した値を目標入力トルクTitgtとする。
フィードバック制御部88は、有段変速部20の変速過渡におけるイナーシャ相中において、MG2回転速度Nmが変速後同期回転速度Nmsycaと同期した状態となった場合には、回転速度FB制御を終了する。フィードバック制御部88による回転速度FB制御では、目標MG2回転変化率dNmtgt及び目標エンジン回転変化率dNetgtとなるようにAT入力トルクTiを制御する為、回転速度FB制御の終了時点におけるAT入力トルクTiは目標入力トルクTitgtから乖離している可能性がある。その為、目標入力トルクTitgtから乖離したAT入力トルクTiは、MG2回転速度Nmの同期後にその目標入力トルクTitgtへ戻される。
復帰制御部90は、MG2回転速度Nmが変速後同期回転速度Nmsycaと同期した状態となった場合には、AT入力トルクTiを目標入力トルクTitgtに向けて所定レートRtiで徐々に変化させる復帰制御を実行することで、目標入力トルクTitgtから乖離したAT入力トルクTiを目標入力トルクTitgtに復帰させる。復帰制御部90は、AT入力トルクTiを目標入力トルクTitgtに復帰させるように、MG1トルクTgとMG2トルクTmとを制御する。復帰制御の開始時点での目標入力トルクTitgtがAT入力トルクTiよりも高いときの所定レートRtiは正値とされる一方で、復帰制御の開始時点での目標入力トルクTitgtがAT入力トルクTiよりも低いときの所定レートRtiは負値とされる。
復帰制御部90は、復帰制御における所定レートRtiとして、例えば復帰制御直前の有段変速部20の変速がどの変速パターンでの変速であるかやどのATギヤ段間での変速であるかなどに基づいて予め定められた所定レートを設定する。所定レートRtiは、例えば所定時間以内で速やかに復帰させることと速く戻しすぎることでのショックが抑制されることとを両立するような予め定められたAT入力トルクTiの変化率dTi/dtである。この所定時間は、例えばAT入力トルクTiを目標入力トルクTitgtに復帰させる為に要する時間として許容することができる予め定められた最大時間である。尚、本実施例において、所定レートRtiが大きい小さいということは、AT入力トルクTiの変化率dTi/dtの絶対値が大きい小さいということと同意である。
復帰制御部90は、AT入力トルクTiが目標入力トルクTitgtと一致した場合に、すなわちAT入力トルクTiが目標入力トルクTitgtへ戻された場合に、復帰制御を終了する。
ところで、パワーオンダウンシフトはアクセルペダルが踏み込まれた状態での変速である為、パワーオンダウンシフトの過渡中にアクセルペダルが戻し操作されると、復帰制御部90による復帰制御の開始時点において、アクセル開度θaccに基づく要求入力トルクTidemはAT入力トルクTiより低くされるが、要求入力トルクTidemがなまし処理された目標入力トルクTitgtはAT入力トルクTiより高くされる場合がある。このような現象は、パワーオンダウンシフト過渡におけるイナーシャ相中に、特にはMG2回転速度Nmがダウン変速後同期回転速度Nmsyca付近にあるときに、アクセルペダルが戻し操作された場合に発生し易い。復帰制御の開始時点での要求入力トルクTidemがAT入力トルクTiよりも低く且つ復帰制御の開始時点でのAT入力トルクTiが目標入力トルクTitgtよりも低い場合、復帰制御では、所定レートRtiが正値とされてAT入力トルクTiは目標入力トルクTitgtへ向かって上昇させられる。AT入力トルクTiが目標入力トルクTitgtへ到達した後は、すなわち復帰制御の終了後は、要求入力トルクTidemへ向かって減少する目標入力トルクTitgtに合わせてAT入力トルクTiは下降させられる。その為、上昇してから下降するというAT入力トルクTiの変動によって動力伝達経路においてガタ打ちショックが生じる可能性がある。このようなガタ打ちショックは、特にはAT入力トルクTiが低い領域にあるときに生じ易い。復帰制御を実行する場合、このようなガタ打ちショックが抑制されることが望ましい。
電子制御装置80は、有段変速部20のダウンシフト過渡中におけるMG2回転速度Nmの同期後に復帰制御を実行する場合にAT入力トルクTiの変動に伴うガタ打ちショックを抑制するという制御機能を実現する為に、更に、状態判定手段すなわち状態判定部92、及びレート変更手段すなわちレート変更部94を備えている。
状態判定部92は、油圧制御指令信号Satなどに基づいて有段変速部20のダウンシフトの実行中であるか否か、特には、有段変速部20のパワーオンダウンシフトの実行中であるか否かを判定する。又、状態判定部94は、有段変速部20のダウンシフトの実行中であると判定した場合には、MG2回転速度Nmの変化に基づいてイナーシャ相の開始後であるか否かを判定する。又、状態判定部94は、イナーシャ相の開始後であると判定した場合には、MG2回転速度Nmとダウン変速後同期回転速度Nmsycaとの差回転速度ΔNm(=Nmsyca-Nm)の絶対値が予め定められた同期判定閾値以内であるか否かに基づいて、MG2回転速度Nmがダウン変速後同期回転速度Nmsycaと同期した状態となったか否かを判定する。
目標値設定部86は、状態判定部92によりイナーシャ相の開始後であると判定され且つMG2回転速度Nmがダウン変速後同期回転速度Nmsycaと同期した状態でないと判定された場合には、目標MG2回転変化率dNmtgt及び目標エンジン回転変化率dNetgtを設定する。
フィードバック制御部88は、状態判定部92によりイナーシャ相の開始後であると判定され且つMG2回転速度Nmがダウン変速後同期回転速度Nmsycaと同期した状態でないと判定された場合には、MG2回転変化率dNm/dtとエンジン回転変化率dNe/dtとが目標値設定部86により設定された各々の目標値となるように、フィードバック制御によってMG1トルクTgとMG2トルクTmとを制御する、すなわちAT入力トルクTiを制御する。
復帰制御部90は、状態判定部92によりMG2回転速度Nmがダウン変速後同期回転速度Nmsycaと同期した状態となったと判定された場合には、AT入力トルクTiを目標入力トルクTitgtに向かって変化させる所定レートRtiを設定し、目標入力トルクTitgtから乖離したAT入力トルクTiを目標入力トルクTitgtに復帰させる為に、AT入力トルクTiを目標入力トルクTitgtに向けて所定レートRtiで徐々に変化させる復帰制御を実行する。
状態判定部92は、有段変速部20のダウンシフトの実行中であると判定した場合には、復帰制御部90による復帰制御の開始後であるか否かを判定する。状態判定部92は、復帰制御部90による復帰制御の開始後であると判定した場合には、要求入力トルクTidemとAT入力トルクTiとのトルク差ΔTi(=Ti-Tidem)を算出する。状態判定部92は、復帰制御の開始時点でのトルク差ΔTiが所定トルク差以上であるか否かを判定する。所定トルク差は、例えばMG1トルクTg及びMG2トルクTmに基づいてAT入力トルクTiを算出するときの演算誤差などを考慮して、復帰制御の開始時点での要求入力トルクTidemがAT入力トルクTiよりも確実に低い状態となっていることを判定する為の予め定められた閾値である。従って、復帰制御の開始時点でのトルク差ΔTiが所定トルク差以上であるか否かを判定することは、復帰制御の開始時点での要求入力トルクTidemがAT入力トルクTiよりも低いか否かを判定することと同意である。
レート変更部94は、状態判定部92によりトルク差ΔTiが所定トルク差以上でないと判定された場合には、復帰制御部90により設定された復帰制御における所定レートRtiを変更しない。一方で、レート変更部94は、状態判定部92によりトルク差ΔTiが所定トルク差以上であると判定された場合には、つまり状態判定部92により復帰制御の開始時点での要求入力トルクTidemがAT入力トルクTiよりも低いと判定された場合には、復帰制御部90により設定された復帰制御における所定レートRtiを小さな値に変更する。レート変更部94は、所定レートRtiをゼロ又はゼロ近傍の値に変更することで、所定レートRtiを小さな値に変更する。
有段変速部20のパワーオンダウンシフトの変速過渡におけるイナーシャ相中にアクセル開度θaccが小さくされると、復帰制御の開始時点での要求入力トルクTidemがAT入力トルクTiよりも低くされ易く且つ復帰制御の開始後に正値とされた所定レートRtiにてAT入力トルクTiが目標入力トルクTitgtに向けて上昇させられ易い。従って、所定レートRtiが小さな値に変更される復帰制御は、有段変速部20のパワーオンダウンシフトの変速過渡におけるイナーシャ相中にアクセル開度θaccが小さくされたときの復帰制御である。
つまり、レート変更部94は、復帰制御の開始時点での要求入力トルクTidemがAT入力トルクTiよりも低く且つ復帰制御の開始時点でのAT入力トルクTiが目標入力トルクTitgtよりも低い場合に、復帰制御部90により設定された復帰制御における所定レートRtiを小さな値に変更する。
図7は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわち有段変速部20のダウンシフト過渡中におけるMG2回転速度Nmの同期後に復帰制御を実行する場合にAT入力トルクTiの変動に伴うガタ打ちショックを抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば車両10の走行中に繰り返し実行される。図8は、図7のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例である。
図7において、先ず、状態判定部92の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、有段変速部20のパワーオンダウンシフトの実行中であるか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は、本ルーチンが終了させられる。このS10の判断が肯定される場合は状態判定部92の機能に対応するS20において、復帰制御の開始後であるか否かが判定される。このS20の判断が否定される場合は、本ルーチンが終了させられる。このS20の判断が肯定される場合は状態判定部92の機能に対応するS30において、要求入力トルクTidemとAT入力トルクTiとのトルク差ΔTi(=Ti-Tidem)が算出される。次いで、状態判定部92の機能に対応するS40において、トルク差ΔTiが所定トルク差以上であるか否かが判定されることで、復帰制御の開始時点での要求入力トルクTidemがAT入力トルクTiよりも低いか否かが判定される。このS40の判断が否定される場合はレート変更部94の機能に対応するS50において、上記S20が肯定されたときに設定された復帰制御における所定レートRtiが変更させられない。一方で、上記S40の判断が肯定される場合はレート変更部94の機能に対応するS60において、上記S20が肯定されたときに設定された復帰制御における所定レートRtiが小さな値に変更させられる。例えば、所定レートRtiがゼロ又はゼロ近傍の値に変更させられる。
図8は、有段変速部20のダウンシフト時における回転速度FB制御及び復帰制御の一例を示す図であって、有段変速部20のパワーオンダウンシフトの実行中にアクセルペダルが戻し操作されたときの実施態様である。図8において、t1時点は、有段変速部20のn→n-1ダウンシフトを実行する為の油圧制御指令信号Satの出力が開始された時点を示している。その後、イナーシャ相が開始させられると(t2時点参照)、イナーシャ相中は、目標MG2回転変化率dNmtgtが設定され、MG2回転速度Nmがダウン変速後同期回転速度Nmsycaに向かって所定の挙動で変化させられるように、回転速度FB制御によってAT入力トルクTiの実際値が制御される(t2時点-t3時点参照)。MG2回転速度Nmがダウン変速後同期回転速度Nmsycaと同期すると、回転速度FB制御が終了させられる(t3時点参照)。MG2回転速度Nmの同期後は、復帰制御が実行させられる(t3時点以降参照)。この実施態様では、上記イナーシャ相中においてMG2回転速度Nmの同期直前にアクセル開度θaccが小さくされている(t2時点-t3時点参照)。その為、復帰制御の開始時点では、要求入力トルクTidemはAT入力トルクTiの実際値よりも低くされているが、目標入力トルクTitgtはAT入力トルクTiの実際値よりも高くされている(t3時点参照)。破線に示す比較例では、復帰制御において正値とされた所定レートRtiが設定され、AT入力トルクTiの実際値はその所定レートRtiで目標入力トルクTitgtへ向かって上昇させられている(A部参照)。AT入力トルクTiの実際値が目標入力トルクTitgtへ戻されて復帰制御が終了させられた後、要求入力トルクTidemへ向かって減少する目標入力トルクTitgtに合わせてAT入力トルクTiの実際値は下降させられる(B部参照)。このような上昇してから下降するというAT入力トルクTiの実際値の変動によってショックが発生させられる(C部参照)。これに対して、実線に示す本実施例では、復帰制御における所定レートRtiがゼロに変更させられることによって、上記A部に示されるようなAT入力トルクTiの実際値の上昇が防止又は抑制されている(D部参照)。AT入力トルクTiの実際値が目標入力トルクTitgtへ戻されると復帰制御が終了させられ(t4時点参照)、その後、要求入力トルクTidemへ向かって減少する目標入力トルクTitgtに合わせてAT入力トルクTiの実際値は下降させられる(t4時点以降参照)。本実施例では、上記A部-B部に示されるようなAT入力トルクTiの実際値の変動が抑制されて、上記C部に示されるようなショックが抑制されている(D部参照)。このように、パワーオンダウンシフトの実行中にアクセルペダルが戻し操作されたときの復帰制御でAT入力トルクTiの実際値が上昇するような場面では、復帰制御における所定レートRtiが小さな値に変更させられて、ショックが抑制される。尚、要求入力トルクTidemがt2時点で急変しているのは、要求駆動トルクTdemを要求入力トルクTidemに換算するときに用いるATギヤ段の変速比γatをt2時点でダウンシフト後の変速比γatに切り替えるようにしている為である。
上述のように、本実施例によれば、MG2回転速度Nmがダウン変速後同期回転速度Nmsycaと同期した状態となった後にAT入力トルクTiを目標入力トルクTitgtに向けて変化させる復帰制御が実行され、復帰制御の開始時点での要求入力トルクTidemとAT入力トルクTiとのトルク差ΔTiが所定トルク差以上である場合には、つまり復帰制御の開始時点での要求入力トルクTidemがAT入力トルクTiよりも低い場合には、復帰制御における所定レートRtiが小さな値に変更されるので、復帰制御の開始後に目標入力トルクTitgtに向けて変化させられるAT入力トルクTiの上昇が抑制されて、上昇してから下降するというAT入力トルクTiの変動を抑制することができる。よって、有段変速部20のダウンシフトにおけるMG2回転速度Nmの同期後に復帰制御を実行する場合に、AT入力トルクTiの変動に伴うガタ打ちショックを抑制することができる。
また、本実施例によれば、復帰制御の開始時点での要求入力トルクTidemがAT入力トルクTiよりも低く且つ復帰制御の開始時点でのAT入力トルクTiが目標入力トルクTitgtよりも低い場合に、復帰制御における所定レートRtiが小さな値に変更されるので、目標入力トルクTitgtに向けてAT入力トルクTiが上昇させられ、その後に、AT入力トルクTiが下降するという現象が生じ易い状況下で、AT入力トルクTiの変動を抑制することができる。
また、本実施例によれば、復帰制御の開始時点での要求入力トルクTidemがAT入力トルクTiよりも低い場合には、復帰制御における所定レートRtiがゼロ又はゼロ近傍の値に変更されるので、復帰制御の開始後に目標入力トルクTitgtに向けて変化させられるAT入力トルクTiの上昇が確実に抑制されて、上昇してから下降するというAT入力トルクTiの変動を適切に抑制することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、復帰制御部90による復帰制御の開始後であると判定した場合に、復帰制御の開始時点でのトルク差ΔTiが所定トルク差以上であるか否かつまり復帰制御の開始時点での要求入力トルクTidemがAT入力トルクTiよりも低いか否かを判定したが、この態様に限らない。MG2回転速度Nmがダウン変速後同期回転速度Nmsycaと同期した状態となったと判定された場合に復帰制御が実行される。従って、復帰制御の開始後であるか否かは、MG2回転速度Nmがダウン変速後同期回転速度Nmsycaと同期した状態となったか否かと同意である。よって、MG2回転速度Nmがダウン変速後同期回転速度Nmsycaと同期した状態となったと判定した場合に、復帰制御の開始時点での要求入力トルクTidemがAT入力トルクTiよりも低いか否かを判定しても良い。この場合、図7のフローチャートにおけるS20では、MG2回転速度Nmがダウン変速後同期回転速度Nmsycaと同期した状態となったか否かが判定される。又、図7のフローチャートにおけるS40では、復帰制御の開始時点での要求入力トルクTidemがAT入力トルクTiよりも低いか否かが判定されても良い。このような場合、図7のフローチャートにおけるS30は必要ない。このように、図7のフローチャートは適宜変更され得る。
また、前述の実施例では、前記式(1)のモデル式を用いた変速制御において、有段変速部20の入力回転部材の回転状態を表す値としてMG2回転変化率dNm/dtを例示し、エンジン14の回転状態を表す値としてエンジン回転変化率dNe/dtを例示したが、この態様に限らない。例えば、回転状態を表す値は回転速度などであっても良い。この場合、前記式(1)のモデル式を用いた変速制御において、その回転速度が目標値となるので、回転速度の目標値と実際値との差分に基づいてフィードバック制御量を算出する公知のPI制御によってAT入力トルクTiを制御しても良い。
また、前述の実施例では、複合変速機40を例示して本発明を説明したが、この態様に限らない。例えば、駆動輪に動力伝達可能に連結された、エンジン及び回転機を備えたパラレル式のハイブリッド車両であって、エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機を備えた車両であっても、本発明を適用することができる。又は、エンジンと、エンジンの動力によって発電させられる発電用の回転機と、その回転機の発電電力及び/又はバッテリの電力によって駆動される駆動用の回転機とを備えたシリーズ式のハイブリッド車両であって、駆動用の回転機と駆動輪との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機を備えた車両であっても、本発明を適用することができる。又は、動力源として機能するエンジンと、エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機とを備えた車両であっても、本発明を適用することができる。又は、動力源として機能する回転機と、回転機と駆動輪との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機とを備えた車両であっても、本発明を適用することができる。要は、動力源と、前記動力源と駆動輪との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機とを備えた車両であれば、本発明を適用することができる。
また、前述の実施例では、車両10は、シングルピニオン型の遊星歯車装置である差動機構32を有して、電気式変速機構として機能する無段変速部18を備えていたが、この態様に限らない。例えば、無段変速部18は、差動機構32の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により差動作用が制限され得る変速機構であっても良い。又、差動機構32は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置であっても良い。又、差動機構32は、複数の遊星歯車装置が相互に連結されることで4つ以上の回転要素を有する差動機構であっても良い。又、差動機構32は、エンジン14によって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車に第1回転機MG1及び中間伝達部材30が各々連結された差動歯車装置であっても良い。又、差動機構32は、2以上の遊星歯車装置がそれを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、その遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、回転機、駆動輪が動力伝達可能に連結される機構であっても良い。
また、前述の実施例では、動力源と駆動輪との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機として、遊星歯車式の自動変速機である有段変速部20を例示したが、この態様に限らない。例えば、この自動変速機としては、同期噛合型平行2軸式自動変速機、その同期噛合型平行2軸式自動変速機であって入力軸を2系統備える公知のDCT(Dual Clutch Transmission)、ベルト式の無段変速機等の公知の無段変速可能な機械式の無段変速機などの自動変速機であっても良い。この自動変速機が無段変速機である場合には、有段変速機のように変速させるときのその無段変速機の変速比は、模擬ギヤ段のような擬似的に形成されるギヤ段の変速比となる。
また、前述の実施例では、4種類のATギヤ段に対して10種類の模擬ギヤ段を割り当てる実施態様を例示したが、この態様に限らない。好適には、模擬ギヤ段の段数はATギヤ段の段数以上であれば良く、ATギヤ段の段数と同じであっても良いが、ATギヤ段の段数よりも多いことが望ましく、例えば2倍以上が適当である。ATギヤ段の変速は、中間伝達部材30やその中間伝達部材30に連結される第2回転機MG2の回転速度が所定の回転速度範囲内に保持されるように行なうものであり、又、模擬ギヤ段の変速は、エンジン回転速度Neが所定の回転速度範囲内に保持されるように行なうものであり、それら各々の段数は適宜定められる。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。