以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が適用された四輪駆動車両10の概略構成を示すとともに、四輪駆動車両10を制御する電子制御装置120を含む制御系の概要を示している。図1に示すように、四輪駆動車両10は、主駆動力源としてのエンジン12と、左右一対の前輪14L、14Rと、左右一対の後輪16L、16Rと、エンジン12からの駆動力を前輪14L、14Rおよび後輪16L、16Rへそれぞれ伝達する動力伝達装置18等と、を備えている。後輪16L、16R(特に区別しない場合には後輪16と称す)は、二輪駆動走行中および四輪駆動走行中において共に駆動輪となる主駆動輪である。また、前輪14L、14R(特に区別しない場合には前輪14と称す)は、二輪駆動走行中において従動輪となり、四輪駆動走行中において駆動輪となる副駆動輪である。四輪駆動車両10は、前置エンジン後輪駆動(FR)をベースとする四輪駆動車である。なお、後輪16が本発明の主駆動輪に対応し、前輪14が本発明の副駆動輪に対応している。
動力伝達装置18は、後述する第1回転機MG1および第2回転機MG2を含んで構成されるハイブリッド用のトランスミッション20と、トランスファ22と、フロントプロペラシャフト24およびリヤプロペラシャフト26と、前輪側差動歯車装置28と、後輪側差動歯車装置30と、左右一対の前輪車軸32L、32Rと、左右一対の後輪車軸34L、34R等と、を備えている。動力伝達装置18において、トランスミッション20を介して伝達されたエンジン12からの駆動力(動力)が、トランスファ22から、リヤプロペラシャフト26、後輪側差動歯車装置30、後輪車軸34L、34R等を順次介して後輪16L、16Rへ伝達される。また、動力伝達装置18において、トランスファ22に伝達されたエンジン12からの駆動力の一部が前輪14L、14R側へ配分されると、その配分された駆動力が、フロントプロペラシャフト24、前輪側差動歯車装置28、前輪車軸32L、32R等を順次介して前輪14L、14Rへ伝達される。
図2は、トランスミッション20の概略構成を示す骨子図である。エンジン12は、後述する電子制御装置120によって、電子スロットル弁、燃料噴射装置、点火装置等を含むエンジン制御装置36(図1参照)が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
トランスミッション20は、第1回転機MG1および第2回転機MG2を備えている。第1回転機MG1および第2回転機MG2は、電動機(モータ)としての機能および発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1および第2回転機MG2は、四輪駆動車両10の走行用の駆動力源となり得る。第1回転機MG1および第2回転機MG2は、各々、四輪駆動車両10に備えられたインバータ38(図1参照)を介して、四輪駆動車両10に備えられたバッテリ40(図1参照)に接続されている。第1回転機MG1および第2回転機MG2は、各々、電子制御装置120によってインバータ38が制御されることにより、第1回転機MG1の出力トルクであるMG1トルクTgおよび第2回転機MG2の出力トルクであるMG2トルクTmが制御される。回転機の出力トルクは、例えば正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。バッテリ40は、第1回転機MG1および第2回転機MG2の各々に対して電力を授受する蓄電装置である。第1回転機MG1および第2回転機MG2は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース42内に設けられている。なお、第1回転機MG1および第2回転機MG2が、本発明の駆動力源およびモータに対応している。
トランスミッション20は、車体に取り付けられる非回転部材としてのケース42内において共通の回転軸線CL1上に直列に配設された、電気式無段変速機44および機械式有段変速機46等を備えている。電気式無段変速機44は、エンジン12と機械式有段変速機46との間の動力伝達経路に設けられている。電気式無段変速機44は、直接的に或いは図示しないダンパーなどを介して間接的にエンジン12に連結されている。機械式有段変速機46は、電気式無段変速機44とトランスファ22との間の動力伝達経路に設けられている。機械式有段変速機46は、電気式無段変速機44の出力側に連結されている。トランスミッション20において、エンジン12や第2回転機MG2から出力される動力は、機械式有段変速機46へ伝達され、その機械式有段変速機46からトランスファ22に伝達される。以下、電気式無段変速機44を無段変速機44、機械式有段変速機46を有段変速機46という。なお、動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。無段変速機44および有段変速機46は回転軸線CL1に対して略対称的に構成されており、図2ではその回転軸線CL1に対して下半分が省略されている。
無段変速機44は、第1回転機MG1と、エンジン12の動力を第1回転機MG1および無段変速機44の出力回転部材である中間伝達部材50に機械的に分割する動力分割機構としての差動機構52とを備えている。中間伝達部材50には、第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。第1回転機MG1は、エンジン12の動力が伝達される回転機である。無段変速機44は、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構52の差動状態が制御される電気式無段変速機である。無段変速機44は、入力回転部材となる連結軸48の回転速度と同値であるエンジン回転速度Neと、出力回転部材となる中間伝達部材50の回転速度であるMG2回転速度Nmとの比の値である変速比γ0(=Ne/Nm)が変化させられる電気的な無段変速機として作動させられる。第1回転機MG1は、エンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Neを制御可能な回転機である。なお、第1回転機MG1の運転状態を制御することは、第1回転機MG1の運転制御を行うことである。
差動機構52は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS0、キャリアCA0、及びリングギヤR0を備えている。キャリアCA0には連結軸48を介してエンジン12が動力伝達可能に連結され、サンギヤS0には第1回転機MG1が動力伝達可能に連結され、リングギヤR0には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。差動機構52において、キャリアCA0が入力要素として機能し、サンギヤS0が反力要素として機能し、リングギヤR0が出力要素として機能する。
有段変速機46は、中間伝達部材50とトランスファ22との間の動力伝達経路を構成する自動変速機であり、走行用の駆動力源であるエンジン12、第1回転機MG1、および第2回転機MG2と駆動輪(14、16)との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機である。中間伝達部材50は、有段変速機46の入力回転部材としても機能する。また、中間伝達部材50には、第2回転機MG2が一体回転するように連結されている。有段変速機46は、例えば第1遊星歯車装置54および第2遊星歯車装置56の複数組の遊星歯車装置と、ワンウェイクラッチF1を含む、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置とを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。以下、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、及びブレーキB2については、特に区別しない場合は単に係合装置CBと称す。
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、四輪駆動車両10に備えられた油圧制御回路58(図1参照)から出力される調圧された係合装置CBの各油圧により、各々、係合や解放などの状態である作動状態が切り替えられる。
有段変速機46は、第1遊星歯車装置54および第2遊星歯車装置56の各回転要素が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的に連結されたり、中間伝達部材50、ケース42、或いは出力軸60に連結されている。第1遊星歯車装置54の各回転要素は、サンギヤS1、キャリアCA1、リングギヤR1であり、第2遊星歯車装置56の各回転要素は、サンギヤS2、キャリアCA2、リングギヤR2である。
有段変速機46は、複数の係合装置のうちの何れかの係合装置である例えば所定の係合装置の係合によって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=入力回転速度Ni/出力回転速度No)が異なる複数のギヤ段(変速段ともいう)のうちの何れかの変速段が形成される有段変速機である。つまり、有段変速機46は、複数の係合装置が選択的に係合されることによって、ギヤ段が切り替えられるすなわち変速が実行される。有段変速機46は、複数のギヤ段の各々が形成される、有段式の自動変速機である。本実施例では、有段変速機46にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称す。入力回転速度Niは、有段変速機46の入力回転部材の回転速度である有段変速機46の入力回転速度であって、中間伝達部材50の回転速度と同値であり、また、第2回転機MG2の回転速度であるMG2回転速度Nmと同値である。入力回転速度Niは、MG2回転速度Nmで表すことができる。出力回転速度Noは、有段変速機46の出力回転速度である出力軸60の回転速度であって、無段変速機44と有段変速機46とを合わせた全体のトランスミッション20の出力回転速度でもある。
有段変速機46は、例えば図3の係合作動表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(図中の「1st」)-AT4速ギヤ段(図中の「4th」)の4段の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、ハイ側のATギヤ段ほど変速比γatが小さくなる。また、後進用のATギヤ段(図中の「Rev」)は、例えばクラッチC1の係合且つブレーキB2の係合によって形成される。つまり、後進走行を行う際には、例えばAT1速ギヤ段が形成される。図3の係合作動表は、各ATギヤ段と複数の係合装置の各作動状態との関係をまとめたものである。すなわち、図3の係合作動表は、各ATギヤ段と、各ATギヤ段において各々係合される係合装置である所定の係合装置との関係をまとめたものである。図3において、「○」は係合、「△」はエンジンブレーキ時や有段変速機46のコーストダウンシフト時に係合、空欄は解放をそれぞれ表している。
有段変速機46は、後述する電子制御装置120によって、ドライバー(すなわち運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて形成されるATギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のATギヤ段が選択的に形成される。例えば、有段変速機46の変速制御においては、係合装置CBの何れかの掴み替えにより変速が実行される、すなわち係合装置CBの係合と解放との切替えにより変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。
また、四輪駆動車両10は、ワンウェイクラッチF0、機械式のオイルポンプであるMOP62、図示しない電動式のオイルポンプ等を備えている。
ワンウェイクラッチF0は、キャリアCA0を回転不能に固定することができるロック機構である。すなわち、ワンウェイクラッチF0は、エンジン12のクランク軸に連結されるとともにキャリアCA0と一体的に回転する連結軸48を、ケース42に対して固定することができるロック機構である。ワンウェイクラッチF0は、相対回転可能な2つの部材のうちの一方の部材が連結軸48に一体的に連結され、他方の部材がケース42に一体的に連結されている。ワンウェイクラッチF0は、エンジン12の運転時の回転方向である正回転方向に対して空転する一方で、エンジン12の運転時とは逆の回転方向に対して機械的に自動係合する。従って、ワンウェイクラッチF0の空転時には、エンジン12はケース42に対して相対回転可能な状態とされる。一方で、ワンウェイクラッチF0の係合時には、エンジン12はケース42に対して相対回転不能な状態とされる。すなわち、ワンウェイクラッチF0の係合により、エンジン12はケース42に固定される。このように、ワンウェイクラッチF0は、エンジン12の運転時の回転方向となるキャリアCA0の正回転方向の回転を許容し且つキャリアCA0の負回転方向の回転を阻止する。すなわち、ワンウェイクラッチF0は、エンジン12の正回転方向の回転を許容し且つ負回転方向の回転を阻止することができるロック機構である。
MOP62は、連結軸48に連結されており、エンジン12の回転と共に回転させられて動力伝達装置18にて用いられる作動油oilを吐出する。また、図示しない電気式のオイルポンプは、エンジン12の停止時すなわちMOP62の非駆動時に駆動させられる。MOP62や図示しない電動式のオイルポンプが吐出した作動油oilは、油圧制御回路58へ供給される。係合装置CBは、作動油oilを元にして油圧制御回路58により調圧された各油圧によって作動状態が切り替えられる。
図4は、無段変速機44と有段変速機46とにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。図4において、無段変速機44を構成する差動機構52の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応するサンギヤS0の回転速度を表すg軸であり、第1回転要素RE1に対応するキャリアCA0の回転速度を表すe軸であり、第3回転要素RE3に対応するリングギヤR0の回転速度(すなわち有段変速機46の入力回転速度)を表すm軸である。また、有段変速機46の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応するサンギヤS2の回転速度、第5回転要素RE5に対応する相互に連結されたリングギヤR1およびキャリアCA2の回転速度(すなわち出力軸60の回転速度)、第6回転要素RE6に対応する相互に連結されたキャリアCA1およびリングギヤR2の回転速度、第7回転要素RE7に対応するサンギヤS1の回転速度をそれぞれ表す軸である。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、差動機構52の歯車比ρ0に応じて定められている。また、縦線Y4、Y5、Y6、Y7の相互の間隔は、第1、第2遊星歯車装置54,56の各歯車比ρ1,ρ2に応じて定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリアとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリアとリングギヤとの間が遊星歯車装置の歯車比ρ(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)に対応する間隔とされる。
図4の共線図を用いて表現すれば、無段変速機44の差動機構52において、第1回転要素RE1にエンジン12(図中の「ENG」参照)が連結され、第2回転要素RE2に第1回転機MG1(図中の「MG1」参照)が連結され、中間伝達部材50と一体回転する第3回転要素RE3に第2回転機MG2(図中の「MG2」参照)が連結されて、エンジン12の回転を中間伝達部材50を介して有段変速機46へ伝達するように構成されている。無段変速機44では、縦線Y2を横切る各直線L0e,L0m,L0Rにより、サンギヤS0の回転速度とリングギヤR0の回転速度との関係が示される。
また、有段変速機46において、第4回転要素RE4はクラッチC1を介して中間伝達部材50に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸60に連結され、第6回転要素RE6はクラッチC2を介して中間伝達部材50に選択的に連結されると共にブレーキB2を介してケース42に選択的に連結され、第7回転要素RE7はブレーキB1を介してケース42に選択的に連結される。有段変速機46では、係合装置CBの係合解放制御によって縦線Y5を横切る各直線L1,L2,L3,L4,LRにより、出力軸60における「1st」,「2nd」,「3rd」,「4th」,「Rev」の各回転速度が示される。
図4中の実線で示す、直線L0e、および直線L1,L2,L3,L4は、少なくともエンジン12を駆動力源として走行するハイブリッド走行が可能なハイブリッド走行(=HV走行)モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。このハイブリッド走行モードでは、差動機構52において、キャリアCA0に入力される正トルクのエンジントルクTeに対して、第1回転機MG1による負トルクの反力トルクとなるMG1トルクTgがサンギヤS0に入力されると、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるエンジン直達トルクTd(=Te/(1+ρ0)=-(1/ρ0)×Tg)が現れる。そして、要求駆動力に応じて、エンジン直達トルクTdとMG2トルクTmとの合算トルクが四輪駆動車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段-AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速機46を介してトランスファ22へ伝達される。第1回転機MG1は、正回転にて負トルクを発生する場合には発電機として機能する。第1回転機MG1の発電電力Wgは、バッテリ40に充電されたり、第2回転機MG2にて消費される。第2回転機MG2は、発電電力Wgの全部又は一部を用いて、或いは発電電力Wgに加えてバッテリ40からの電力を用いて、MG2トルクTmを出力する。
図4中の一点鎖線で示す直線L0mおよび図4中の実線で示す直線L1,L2,L3,L4は、エンジン12の運転を停止した状態で第1回転機MG1および第2回転機MG2のうちの少なくとも一方の回転機を駆動力源として走行するモータ走行が可能なモータ走行(=EV走行)モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。モータ走行モードでの前進走行におけるモータ走行としては、例えば第2回転機MG2のみを駆動力源として走行する単駆動モータ走行と、第1回転機MG1および第2回転機MG2を共に駆動力源として走行する両駆動モータ走行とがある。単駆動モータ走行では、キャリアCA0はゼロ回転とされ、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるMG2トルクTmが入力される。このとき、サンギヤS0に連結された第1回転機MG1は、無負荷状態とされて負回転にて空転させられる。単駆動モータ走行では、ワンウェイクラッチF0が解放されており、連結軸48はケース42に対して固定されていない。
両駆動モータ走行では、キャリアCA0がゼロ回転とされた状態で、サンギヤS0に負回転にて負トルクとなるMG1トルクTgが入力されると、キャリアCA0の負回転方向への回転が阻止されるようにワンウェイクラッチF0が自動係合される。ワンウェイクラッチF0の係合によってキャリアCA0が回転不能に固定された状態においては、MG1トルクTgによる反力トルクがリングギヤR0へ入力される。加えて、両駆動モータ走行では、単駆動モータ走行と同様に、リングギヤR0にはMG2トルクTmが入力される。キャリアCA0がゼロ回転とされた状態で、サンギヤS0に負回転にて負トルクとなるMG1トルクTgが入力されたとき、MG2トルクTmが入力されなければ、MG1トルクTgによる単駆動モータ走行も可能である。モータ走行モードでの前進走行では、エンジン12は駆動されず、エンジン回転速度Neはゼロとされ、MG1トルクTgおよびMG2トルクTmのうちの少なくとも一方のトルクが四輪駆動車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段-AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速機46を介して駆動輪(前輪14、後輪16)へ伝達される。モータ走行モードでの前進走行では、MG1トルクTgは負回転且つ負トルクの力行トルクであり、MG2トルクTmは正回転且つ正トルクの力行トルクである。
図4中の破線で示す、直線L0Rおよび直線LRは、モータ走行モードでの後進走行における各回転要素の相対速度を示している。このモータ走行モードでの後進走行では、リングギヤR0には負回転にて負トルクとなるMG2トルクTmが入力され、そのMG2トルクTmが四輪駆動車両10の後進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段が形成された有段変速機46を介して駆動輪(前輪14、後輪16)へ伝達される。四輪駆動車両10では、電子制御装置120によって、複数のATギヤ段のうちの前進用のロー側のATギヤ段である例えばAT1速ギヤ段が形成された状態で、前進走行時における前進用のMG2トルクTmとは正負が反対となる後進用のMG2トルクTmが第2回転機MG2から出力させられることで、後進走行を行うことができる。モータ走行モードでの後進走行では、MG2トルクTmは負回転且つ負トルクの力行トルクである。なお、ハイブリッド走行モードにおいても、直線L0Rのように第2回転機MG2を負回転とすることが可能であるので、モータ走行モードと同様に後進走行を行うことが可能である。
次に、トランスファ22について説明する。図5は、トランスファ22の構造を説明するための骨子図である。トランスファ22は、非回転部材としてのトランスファケース70を備えている。トランスファ22は、トランスファケース70内において、後輪側出力軸72と、前輪駆動用ドライブギヤ74と、前輪駆動用クラッチ76と、を共通の回転軸線CL1を中心にして備えている。後輪側出力軸72は、有段変速機46の出力軸60に動力伝達可能に連結されているとともに、リヤプロペラシャフト26に動力伝達可能に連結されている。後輪側出力軸72は、走行中の駆動力源(エンジン12、第1回転機MG1、および第2回転機MG2の少なくとも1つ)からトランスミッション20を介して出力軸60に伝達された駆動力を後輪16へ出力する。なお、トランスミッション20の出力軸60は、トランスファ22の後輪側出力軸72に駆動力源からの駆動力を入力するトランスファ22の入力回転部材としても機能する。前輪駆動用ドライブギヤ74は、後輪側出力軸72に対して相対回転可能に設けられている。前輪駆動用クラッチ76は、多板の湿式クラッチであり、後輪側出力軸72から前輪駆動用ドライブギヤ74へ伝達される伝達トルクを調整する。すなわち、前輪駆動用クラッチ76は、後輪側出力軸72から前輪駆動用ドライブギヤ74に動力伝達可能に連結された前輪側出力軸78へ伝達される伝達トルクを調整する。
また、トランスファ22は、トランスファケース70内において、前輪側出力軸78と、前輪駆動用ドリブンギヤ80と、を共通の回転軸線CL2を中心にして備えている。さらに、トランスファ22は、前輪駆動用アイドラギヤ82を備えている。前輪側出力軸78は、フロントプロペラシャフト24に動力伝達可能に連結されており、前輪駆動用クラッチ76を介して前輪駆動用ドライブギヤ74に、走行中の駆動力源(エンジン12等)からの駆動力の一部が伝達されると、その駆動力源からの駆動力の一部を前輪14へ出力する。前輪駆動用ドリブンギヤ80は、前輪側出力軸78に一体的に設けられており、前輪側出力軸78に動力伝達可能に連結されている。前輪駆動用アイドラギヤ82は、前輪駆動用ドライブギヤ74と前輪駆動用ドリブンギヤ80とにそれぞれ噛み合わされており、前輪駆動用ドライブギヤ74と前輪駆動用ドリブンギヤ80との間を動力伝達可能に連結する。
前輪駆動用クラッチ76は、クラッチハブ84と、クラッチドラム86と、摩擦係合要素88と、ピストン90と、を備えている。クラッチハブ84は、後輪側出力軸72に動力伝達可能に連結されている。クラッチドラム86は、前輪駆動用ドライブギヤ74に動力伝達可能に連結されている。摩擦係合要素88は、クラッチハブ84に対して回転軸線CL1方向に相対移動可能且つクラッチハブ84に対して相対回転不能に設けられた複数枚の第1摩擦板88aと、クラッチドラム86に対して回転軸線CL1方向に相対移動可能且つクラッチドラム86に対して相対回転不能に設けられた複数枚の第2摩擦板88bと、を有している。第1摩擦板88aと第2摩擦板88bとは、回転軸線CL1方向で交互に重なるようにして配置されている。ピストン90は、回転軸線CL1方向に移動可能に設けられ、摩擦係合要素88に当接して第1摩擦板88aと第2摩擦板88bとを押圧することで、前輪駆動用クラッチ76のトルク容量が調整される。なお、ピストン90が摩擦係合要素88を押圧しない場合には、前輪駆動用クラッチ76のトルク容量がゼロとなり、前輪駆動用クラッチ76が解放される。
トランスファ22は、前輪駆動用クラッチ76のトルク容量を調整することで、トランスミッション20を介して伝達された駆動力源の駆動力を、後輪側出力軸72および前輪側出力軸78に配分する。トランスファ22は、前輪駆動用クラッチ76が解放されている場合には、後輪側出力軸72と前輪駆動用ドライブギヤ74との間の動力伝達経路が切断されるので、走行中の駆動力源(エンジン12等)からトランスミッション20を介してトランスファ22に伝達された駆動力をリヤプロペラシャフト26等を介して後輪16へ伝達する。また、トランスファ22は、前輪駆動用クラッチ76がスリップ係合状態または完全係合状態である場合には、後輪側出力軸72と前輪駆動用ドライブギヤ74との間の動力伝達経路が接続されるので、走行中の駆動力源からトランスファ22を介して伝達された駆動力の一部を、フロントプロペラシャフト24等を介して前輪14に伝達するとともに、駆動力の残部をリヤプロペラシャフト26等を介して後輪16に伝達する。
トランスファ22は、前輪駆動用クラッチ76を作動させる装置として、電動モータ92と、電動モータ92によって回転させられるウォームホイール112と、電動モータ92の回転運動を直線運動に変換するカム機構102と、を備えている。
ウォームホイール112は、回転軸線CL1を中心にして回転可能に設けられている。ウォームホイール112と前輪駆動用クラッチ76のピストン90との間には、カム機構102が設けられている。カム機構102は、ウォームホイール112に接続されている第1部材104と、ピストン90に接続されている第2部材106と、第1部材104と第2部材106との間に介挿されている複数個のボール108と、を備えている。
複数個のボール108は、回転軸線CL1を中心とする回転方向において等角度間隔に配置されている。第1部材104および第2部材106のボール108と接触する面には、それぞれカム溝が形成されている。各カム溝は、第1部材104が第2部材106に対して相対回転した場合において、第1部材104と第2部材106とが回転軸線CL1方向で互いに乖離するように形成されている。従って、第1部材104が第2部材106に対して相対回転すると、第1部材104と第2部材106とが互いに乖離して第2部材106が回転軸線CL1方向に移動させられ、第2部材106に接続されているピストン90が摩擦係合要素88を押圧する。
ウォームギヤ100は、電動モータ92のモータシャフトに一体的に形成されたウォーム110と、ウォーム110と噛み合う歯が形成されたウォームホイール112と、を備えた歯車対である。このように構成されることで、電動モータ92が回転すると、ウォームホイール112が回転軸線CL1を中心にして回転させられる。これより、電動モータ92によってウォームホイール112が回転させられると、ウォームホイール112の回転運動が、カム機構102を介して回転軸線CL1方向への直線運動に変換されてピストン90に伝達され、ピストン90が摩擦係合要素88を押圧する。ピストン90が摩擦係合要素88を押圧する押圧力が調整されることにより、前輪駆動用クラッチ76のトルク容量が調整される。
上記のように構成されることで、トランスファ22は、走行中の駆動力源からの駆動力を主駆動輪である後輪16および副駆動輪である前輪14に伝達可能であって、且つ、前輪駆動用クラッチ76のトルク容量を調節することで、走行中の駆動力源から後輪16および前輪14に伝達される総駆動力に対する後輪16に伝達される駆動力の割合である後輪側配分率Xrを調節することができる。例えば、ピストン90が摩擦係合要素88を押圧しない場合には、前輪駆動用クラッチ76のトルク容量がゼロになる。このとき、前輪駆動用クラッチ76が解放され、走行中の駆動力源から前輪14および後輪16に伝達される総駆動力に対する後輪側配分率Xrが1.0になる。言い換えれば、前後輪の駆動力配分が0(前輪):100(後輪)になる。一方、ピストン90が摩擦係合要素88を押圧する場合には、前輪駆動用クラッチ76のトルク容量がゼロよりも大きくなり、前輪駆動用クラッチ76のトルク容量が増加するほど総駆動力に対する後輪側配分率Xrが低下する。そして、前輪駆動用クラッチ76が完全係合されるトルク容量になると、総駆動力に対する後輪側配分率Xrが0.5になる。言い換えれば、前後輪の駆動率配分が50:50になる。このように、トランスファ22は、前輪駆動用クラッチ76のトルク容量が調整されることによって、前輪14および後輪16に伝達される総駆動力に対する後輪側配分率Xrを1.0~0.5の間、すなわち四輪駆動車両10の総駆動力に対する前後輪の駆動力配分を0:100~50:50の間で調整できる。なお、トランスファ22が、本発明の駆動力配分装置に対応している。また、後輪16が主駆動輪に対応することから、後輪側配分率Xrが、本発明の主側配分率に対応している。
図1に戻り、四輪駆動車両10は、エンジン12、無段変速機44、および有段変速機46、トランスファ22などの制御に関連する四輪駆動車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置120を備えている。図1は、電子制御装置120の入出力系統を示す図であり、また、電子制御装置120による制御機能の要部を説明する機能ブロック図である。電子制御装置120は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより四輪駆動車両10の各種制御を実行する。電子制御装置120は、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用等に分けて構成される。なお、電子制御装置120が、本発明の駆動力源および駆動力配分装置を制御する制御装置に対応している。
電子制御装置120には、四輪駆動車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ122、出力回転速度センサ124、MG1回転速度センサ126、MG2回転速度センサ128、各車輪(14L、14R、16L、16R)毎に設けられた車輪速センサ129、アクセル開度センサ130、スロットル弁開度センサ132、ブレーキペダルセンサ134、Gセンサ136、バッテリセンサ138、油温センサ140、シフトポジションセンサ142、ヨーレートセンサ144、ステアリングセンサ146など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン回転速度Ne、車速Vに対応する出力回転速度No、第1回転機MG1の回転速度であるMG1回転速度Ng、入力回転速度NiであるMG2回転速度Nm、各車輪(14L、14R、16L、16R)の車輪速Nr、運転者の加速操作の大きさを表す運転者の加速操作量としてのアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルの状態を示すブレーキオン信号Bon、四輪駆動車両10の前後および左右加速度Gx、Gy、バッテリ40のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、作動油oilの温度である作動油温THoil、四輪駆動車両10に備えられたシフトレバーの操作ポジションPOSsh、四輪駆動車両10の鉛直軸まわりの回転角速度であるヨーレートRyaw、四輪駆動車両10に備えられたステアリングホイールの操舵角θswなど)が、それぞれ供給される。
電子制御装置120からは、四輪駆動車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置36、インバータ38、油圧制御回路58、電動モータ92など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、第1回転機MG1および第2回転機MG2を各々制御する為の回転機制御指令信号Smg、係合装置CBの作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Sat、電動モータ92を制御する為の電動モータ制御指令信号Swなど)が、それぞれ出力される。油圧制御指令信号Satは、有段変速機46の変速を制御する為の油圧制御指令信号でもあり、例えば係合装置CBの各々の油圧アクチュエータ(クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2)へ供給される各油圧Pc1、Pc2、Pb1、Pb2を調圧する各ソレノイドバルブ4等を駆動する為の指令信号である。電子制御装置120は、各油圧Pc1、Pc2、Pb1、Pb2の値に対応する油圧指令値を設定し、その油圧指令値に応じた駆動電流又は駆動電圧を油圧制御回路58へ出力する。
電子制御装置120は、四輪駆動車両10における各種制御を実現する為に、有段変速制御手段として機能する有段変速制御部152、ハイブリッド制御手段として機能するハイブリッド制御部154、および四輪駆動制御手段として機能する四輪駆動制御部156を、備えている。
有段変速制御部152は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である例えば図6に示すようなATギヤ段変速マップを用いて有段変速機46の変速判断を行い、必要に応じて有段変速機46の変速制御を実行する為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路58へ出力する。上記ATギヤ段変速マップは、例えば車速V及び要求駆動力Frdemを変数とする二次元座標上に、有段変速機46の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。ここでは、車速Vに替えて出力回転速度Noなどを用いても良い。また、要求駆動力Frdemに替えて要求駆動トルクTrdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。ATギヤ段変速マップにおける各変速線は、実線に示すようなアップシフトが判断される為のアップシフト線、および破線に示すようなダウンシフトが判断される為のダウンシフト線である。
ハイブリッド制御部154は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部としての機能と、インバータ38を介して第1回転機MG1および第2回転機MG2の作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部としての機能を含んでおり、それら制御機能によりエンジン12、第1回転機MG1、および第2回転機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。ハイブリッド制御部154は、予め定められた関係である例えば駆動要求量マップにアクセル開度θaccおよび車速Vを適用することで駆動要求量としての要求駆動力Frdemを算出する。前記駆動要求量としては、要求駆動力Frdem[N]の他に、各駆動輪(前輪14、後輪16)における要求駆動トルクTrdem[Nm]、各駆動輪における要求駆動パワーPrdem[W]、出力軸22における要求AT出力トルク等を用いることもできる。
ハイブリッド制御部154は、バッテリ40の充電可能電力Winや放電可能電力Wout等を考慮して、要求駆動トルクTrdemと車速Vとに基づく要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン12を制御する指令信号であるエンジン制御指令信号Seと、第1回転機MG1および第2回転機MG2を制御する指令信号である回転機制御指令信号Smgとを出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン12のパワーであるエンジンパワーPeの指令値である。回転機制御指令信号Smgは、例えばエンジントルクTeの反力トルクとしての指令出力時のMG1回転速度NgにおけるMG1トルクTgを出力する第1回転機MG1の発電電力Wgの指令値であり、また、指令出力時のMG2回転速度NmにおけるMG2トルクTmを出力する第2回転機MG2の消費電力Wmの指令値である。
バッテリ40の充電可能電力Winは、バッテリ40の入力電力の制限を規定する入力可能電力であり、バッテリ40の放電可能電力Woutは、バッテリ40の出力電力の制限を規定する出力可能電力である。バッテリ40の充電可能電力Winや放電可能電力Woutは、例えばバッテリ温度THbatおよびバッテリ40の充電量に相当する充電状態値SOC[%]に基づいて電子制御装置120により算出される。バッテリ40の充電状態値SOCは、バッテリ40の充電状態を示す値であり、例えばバッテリ充放電電流Ibatおよびバッテリ電圧Vbatなどに基づいて電子制御装置120により算出される。
ハイブリッド制御部154は、例えば無段変速機44を無段変速機として作動させて無段変速機44と有段変速機46とが直列に配置された複合変速機68全体として無段変速機として作動させる場合、エンジン最適燃費点等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するエンジンパワーPeが得られるエンジン回転速度NeとエンジントルクTeとなるように、エンジン12を制御すると共に第1回転機MG1の発電電力Wgを制御することで、無段変速機44の無段変速制御を実行して無段変速機44の変速比γ0を変化させる。この制御の結果として、無段変速機として作動させる場合の複合変速機68の変速比γt(γt=γ0×γat)が制御される。
ハイブリッド制御部154は、例えば無段変速機44を有段変速機のように変速させて複合変速機68全体として有段変速機のように変速させる場合、予め定められた関係である例えば変速マップを用いて複合変速機68の変速判断を行い、有段変速制御部152による有段変速機46のATギヤ段の変速制御と協調して、複数のギヤ段を選択的に成立させるように無段変速機44の変速制御を実行する。
ハイブリッド制御部154は、走行モードとして、モータ走行モード又はハイブリッド走行モードを走行状態に応じて選択的に成立させる。例えば、ハイブリッド制御部154は、要求駆動パワーPrdemが予め定められた閾値よりも小さなモータ走行領域にある場合には、モータ走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPrdemが予め定められた閾値以上となるハイブリッド走行領域にある場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。図6の一点鎖線Aは、四輪駆動車両10の走行用の駆動力源を、少なくともエンジン12とするか、第2回転機MG2のみとするかを切り替える為の境界線である。すなわち、図6の一点鎖線Aは、ハイブリッド走行とモータ走行とを切り替える為のハイブリッド走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図6の一点鎖線Aに示すような境界線を有する予め定められた関係は、車速V及び要求駆動力Frdemを変数とする二次元座標で構成された駆動力源切替マップの一例である。なお、図6では、便宜上、この駆動力源切替マップをATギヤ段変速マップと共に示している。
ハイブリッド制御部154は、要求駆動パワーPrdemがモータ走行領域にあるときであっても、バッテリ40の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。モータ走行モードは、エンジン12を停止した状態で第2回転機MG2により駆動トルクを発生させて走行する走行状態である。ハイブリッド走行モードは、エンジン12を運転した状態で走行する走行状態である。前記エンジン始動閾値は、エンジン12を強制的に始動してバッテリ40を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判断する為の予め定められた閾値である。
ハイブリッド制御部154は、エンジン12の運転停止時にハイブリッド走行モードを成立させた場合には、エンジン12を始動する始動制御を行う。ハイブリッド制御部154は、エンジン12を始動するときには、第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを上昇させつつ、エンジン回転速度Neが点火可能な所定回転速度以上となったときに点火することでエンジン12を始動する。すなわち、ハイブリッド制御部154は、第1回転機MG1によりエンジン12をクランキングすることでエンジン12を始動する。
四輪駆動制御部156は、走行中の駆動力源から前輪14および後輪16に伝達される総駆動力に対する後輪16に伝達される駆動力の割合である後輪側配分率Xrを調節する。四輪駆動制御部156は、出力回転速度センサ124やGセンサ136などから判断される四輪駆動車両10の走行状態に応じて、電動モータ92を制御して前輪駆動用クラッチ76のトルク容量を調節することによって、総駆動力に対する後輪側配分率Xrを適切な値に随時調整する。
四輪駆動制御部156は、例えば直進走行時には、前輪駆動用クラッチ76を解放することで、総駆動力に対する後輪側配分率Xrを1.0(すなわち、前後輪の駆動力配分が0:100)に制御する。また、四輪駆動制御部156は、旋回走行中の操舵角θswと車速V等とに基づいて目標ヨーレートRyaw*を算出し、ヨーレートセンサ144によって随時検出されるヨーレートRyawが目標ヨーレートRyaw*に追従するように、総駆動力に対する後輪側配分率Xrを調節する。
また、四輪駆動制御部156は、四輪駆動車両10が走行する走行路面が波状路である場合には、波状路であることが検出される前に比べて前後輪の駆動力の配分が均等になるように前輪駆動用クラッチ76のトルク容量を制御する。四輪駆動車両10では、前置エンジン後輪駆動(FR)をベースとしていることから後輪16が主駆動輪となり、後輪16に伝達される駆動力が前輪14に伝達される駆動力以上の大きさになる。従って、四輪駆動制御部156は、四輪駆動車両10が走行する路面が波状路であることが検出されると、波状路であることが検出される前に比べて後輪側配分率Xrが小さくなるようにトランスファ22の前輪駆動用クラッチ76のトルク容量を制御する配分率低下制御を実行する。
電子制御装置120は、四輪駆動車両10が走行する走行路面が波状路であるかを検出する波状路検出手段として機能する波状路検出部158を機能的に備えている。波状路検出部158は、主駆動輪である後輪16の車輪速Nrの変化速度である空転量ΔNr(変化率)が予め設定されている所定値α1以上になったかに基づいて、走行路面が波状路であるかを検出する。車輪速Nrの空転量ΔNrは、車輪速センサ129によって随時検出される各車輪の車輪速Nrを時間微分することで随時算出される。また、所定値α1は、予め実験的又は設計的に求められ、車輪が走行路面に接地することで車輪にかかる接地荷重が増大して空転が止められたときに車輪から動力伝達装置18に入力されるトルク(以下、衝撃トルク)が設計的に定められる許容値以下となる閾値に設定されている。
波状路検出部158が、走行路面が波状路であることを検出すると、四輪駆動制御部156は、走行路面が波状路であることが検出される前に比べて後輪側配分率Xrが小さくなるようにトランスファ22の前輪駆動用クラッチ76のトルク容量を制御する。四輪駆動制御部156は、波状路検出前の後輪側配分率Xrが例えば1.0の状態(すなわち、前後輪の駆動力配分が0:100)で走行中に、走行路面が波状路であることが検出されると、後輪側配分率Xrの目標値を例えば0.5(すなわち、前後輪の駆動力配分が50:50)に設定し、後輪側配分率Xrが0.5となるようにトランスファ22の前輪駆動用クラッチ76のトルク容量を制御する。なお、前輪駆動用クラッチ76が完全係合されることで、後輪側配分率Xrが0.5となる。このように、後輪側配分率Xrが小さくされることで、前後輪に配分される駆動力が均等方向に制御され、波状路検出前では駆動力の大きかった後輪16に伝達される駆動力が低減される。ここで、後輪16の駆動力が大きいほど後輪16の空転が止められたときに後輪16から動力伝達装置18に入力される衝撃トルクが大きくなるため、後輪16に伝達される駆動力が低減されることで、衝撃トルクが低減される。従って、例えば後輪16が走行路面から浮いて空転した後に後輪が走行路面に接地したとき、その後輪16から動力伝達装置18に入力される衝撃トルクが低減される。結果として、動力伝達装置18に入力される衝撃トルクが低減されることから、動力伝達装置18に過大なトルク(過大トルク)が入力されることが抑制され、動力伝達装置18に過大トルクが繰り返して入力されることによる耐久性低下が抑制される。
上述したように、走行路面が波状路であることが検出されると、トランスファ22の前輪駆動用クラッチ76を制御して前後輪の駆動力が均等となるように制御されるが、前輪駆動用クラッチ76の制御は応答性が低いことから、後輪16の駆動力が低減される前に後輪16に衝撃トルクが入力され、動力伝達装置18に過大トルクが入力される虞もある。これに対して、電子制御装置120は、配分率低下制御の実行過渡期、すなわち配分率低下制御による後輪側配分率Xrの遷移期間中に、走行用の駆動力を出力している駆動力源から出力される駆動力を低減する駆動力低減制御を実行する駆動力低減手段として機能する駆動力低減部160を機能的に備えている。
駆動力低減部160は、走行路面が波状路であることが検出されると、駆動力を出力している駆動力源から出力される駆動力を低減する駆動力低減制御を実行する。駆動力低減部160は、例えば、第2回転機MG2のMG2トルクTmによって四輪駆動車両10を走行させるEV走行モードで走行中において走行路面が波状路であることが検出された場合には、第2回転機MG2のMG2トルクTmを低減量βだけ低減する。また、駆動力低減部160は、例えば、エンジン12のエンジントルクTeおよび第2回転機MG2のMG2トルクTmによって四輪駆動車両10を走行させるHV走行モードで走行中において走行路面が波状路であることが検出された場合も同様に、第2回転機MG2のMG2トルクTmを低減量βだけ低減する。なお、トルクは、回転軸を回転させる回転力に対応することから、駆動力源から出力されるトルクが増減することで、駆動力源から出力される駆動力が増減される。従って、トルクの低減量を駆動力の低減量と読み替えることができる。
このように、第2回転機MG2に対して駆動力低減制御が実行されることで、前輪駆動用クラッチ76を制御することによる後輪側配分率Xrの低下に応答遅れがあったとしても、応答性の高い第2回転機MG2のMG2トルクTmが速やかに低減されることで、後輪16に伝達される駆動力が速やかに低減される。従って、後輪16の空転がとめられたときに発生する衝撃トルクが効果的に低減される。なお、第2回転機MG2のMG2トルクTmのみでは、低減量βを低減できない場合には、エンジントルクTeを低減することで、低減量の不足分を補うものであっても構わない。応答性の観点では、第2回転機MG2のMG2トルクTmを低減することで後輪16に伝達される駆動力を低減するのが好ましいものの、エンジントルクTeを低減することで後輪16に伝達される駆動力を低減する場合であっても、前輪駆動用クラッチ76の制御の応答性に比べて応答性が高いためである。
低減量βは、予め実験的または設計的に求められ、後輪側配分率Xrの低下に応答遅れがあったとしても、後輪16の空転が止められたときに動力伝達装置18の耐久性が低下するほどの衝撃トルク(すなわち過大トルク)が動力伝達装置18に入力されることが抑制される値に設定されている。また、第2回転機MG2のMG2トルクTmの低減量βは、空転状態にある後輪16の空転量ΔNrが大きいほど大きくされるように設定される。図7は、空転している後輪16の空転量ΔNrと第2回転機MG2のMG2トルクTmの低減量βとの関係を示している。図7に示すように、後輪16の空転量ΔNrが大きいほど、第2回転機MG2のMG2トルクTmの低減量βが大きくなっている。駆動輪の空転量ΔNrが大きいほど、後輪16が走行路面に接地して空転が止められたときに動力伝達装置18に入力される衝撃トルクが大きくなることから、後輪16の空転量ΔNrが大きいほどMG2トルクTmの低減量βが大きくされることで、後輪16に伝達される駆動力が小さくなり、後輪16の空転が止められたときの衝撃トルクが低減される。
また、第2回転機MG2のMG2トルクTmの低減量βは、走行に必要な駆動力を出力している駆動力源に要求される要求駆動力Frdemが大きいほど小さくされる。図8は、要求駆動力FrdemとMG2トルクTmの低減量βとの関係を示している。図8に示すように、要求駆動力Frdemが大きいほど、MG2トルクTmの低減量βが小さくなっている。要求駆動力Frdemが大きいときにMG2トルクTmの低減量βが大きいと、運転者の所望する走破性が得られなくなる。これに対して、要求駆動力Frdemが大きいほど、MG2トルクTmの低減量βが小さくされることで、四輪駆動車両10の走破性の低下が抑制される。
駆動力低減部160は、図7および図8の関係に基づいて第2回転機MG2のMG2トルクTmの低減量βを随時決定する。例えば、駆動力低減部160は、駆動輪の空転量ΔNrおよび要求駆動力Frdemから構成されるMG2トルクTmの低減量βを求める関係マップを記憶しており、その関係マップに実際の空転量ΔNrおよび要求駆動力Frdemを適用することで、低減量βを決定する。
駆動力低減部160は、第2回転機MG2のMG2トルクTmを低減量βだけ低減すると、配分率低下制御による後輪側配分率Xrの低下が完了するまでの間、MG2トルクTmが低減された状態で維持する。そして、駆動力低減部160は、配分率低下制御による後輪側配分率Xrの低下が完了すると、第2回転機MG2のMG2トルクTmを低減前の状態、或いは、その時点における要求駆動力Frdemに応じたMG2トルクTmに制御する。配分率低下制御によって後輪側配分率Xrが低下した状態では、第2回転機MG2のMG2トルクTmを低減しなくても、後輪16の空転が止められたときに動力伝達装置18に入力される衝撃トルクが低減されるためである。
または、駆動力低減部160は、配分率低下制御の開始時点で第2回転機MG2か出力されるMG2トルクTmを低減量β低減した後、配分率低下制御による後輪側配分率Xrの遷移期間中に、第2回転機MG2から出力されるMG2トルクTmの低減量βを徐々に小さくする。このようにMG2トルクTmの低減量βが徐々に小さくなる、すなわちMG2トルクTmが徐々に増加することで、MG2トルクTmが低減された状態が維持される場合に比べて、四輪駆動車両10の走破性の低下が抑制される。
ここで、第2回転機MG2のMG2トルクTmを低減量β低減した後に、MG2トルクTmを徐々に増加するときの変化速度VTmは、予め実験的又は設計的に求められ、遷移期間中の後輪側配分率Xrの値に基づいて、後輪16の空転が止められた場合において動力伝達装置18に入力される衝撃トルクが過大になることを抑制しつつ、四輪駆動車両10の走破性が確保される値に設定されている。
また、第2回転機MG2のMG2トルクTmを低減量β低減した後にMG2トルクTmを徐々に増加するときの変化速度VTm(すなわちMG2トルクTmの増加速度)は、空転量ΔNrに応じて変更される。具体的には、第2回転機MG2のMG2トルクTmを低減した後のMG2トルクTmの変化速度VTmは、後輪16の空転量ΔNrが大きいほど小さくされる。図9は、後輪16の空転量ΔNrとMG2トルクTmの変化速度VTmとの関係を示している。図9に示すように、後輪16の空転量ΔNrが大きいほど、MG2トルクTmの変化速度VTmが小さくなっている。すなわち、後輪16の空転量ΔNrが大きいほど、MG2トルクTmが緩やかに増加する。後輪16の空転量ΔNrが大きいほど、後輪16の空転が止められたときに発生する衝撃トルクが大きくなる。これに対して、後輪16の空転量ΔNrが大きいほど、MG2トルクTmの変化速度VTmが小さくされることで、空転量ΔNrが大きいほど後輪16に伝達される駆動力が小さくなるため、後輪16の空転が止められたときの衝撃トルクが低減される。
さらに、MG2トルクTmを低減した後にMG2トルクTmを徐々に増加するときの変化速度VTmが、要求駆動力Frdemに応じて変更される。具体的には、MG2トルクTmを低減した後のMG2トルクの変化速度VTmは、要求される要求駆動力Frdemが大きいほど大きくされる。図10は、要求駆動力FrdemとMG2トルクTmの変化速度VTmとの関係を示している。図10に示すように、要求駆動力Frdemが大きいほど、MG2トルクTmの変化速度VTmが大きくなっている。すなわち、要求駆動力Frdemが大きいほど、MG2トルクTmが速やかに増加する。これより、要求駆動力Frdemが大きい場合には、MG2トルクTmが速やかに増加することで、要求駆動力Frdemに応じた駆動力を速やかに得ることができ、走破性の低下が抑制される。
駆動力低減部160は、図9および図10の関係に基づいてMG2トルクTmの変化速度VTmを随時決定する。例えば、駆動力低減部160は、後輪16の空転量ΔNrおよび要求駆動力Frdemから構成されるMG2トルクTmの変化速度VTmを求める関係マップを記憶しており、その関係マップに実際の空転量ΔNrおよび要求駆動力Frdemを適用することで、MG2トルクTmの変化速度VTmを決定する。
四輪駆動制御部156は、配分率低下制御の実行中に後輪16の空転量ΔNrが所定値α2以下になったとき、配分率低下制御を終了する。所定値α2は、予め実験的または設計的に求められ、波状路であっても、後輪16が走行路面に接地して後輪16の空転が止められたときに発生する衝撃トルクが過大にならなくなる空転量ΔNrの範囲の閾値に設定されている。所定値α2は、好適には、配分率低下制御の実行を判定する所定値α1よりも小さい値に設定される。また、後輪16が空転した時点から走行路面に接地するまでの時間を随時計測し、その時間が所定値以下の場合に配分率低下制御を終了するものであっても構わない。
図11は、電子制御装置120の制御作動の要部を説明するためのフローチャートであり、波状路を走行中に動力伝達装置18に過大トルクが入力されることを抑制する制御作動を説明するためのフローチャートである。このフローチャートは四輪駆動車両10の走行中において繰り返し実行される。
まず、波状路検出部158の制御機能に対応するステップST1(以下、ステップを省略)において、走行路面が波状路であるかが判定される。ST1が否定される場合、本ルーチンは終了させられる。ST1が肯定される場合、四輪駆動制御部156および駆動力低減部160の制御機能に対応するST2において、後輪側配分率Xrが小さくなるように、すなわち各駆動輪の駆動力が均等になるようにトランスファ22の前輪駆動用クラッチ76のトルク容量を制御する配分率低下制御が実行される。また、配分率低下制御と並行して、第2回転機MG2のMG2トルクTmを低減する駆動力低下制御が実行される。四輪駆動制御部156の制御機能に対応するST3では、空転量ΔNrが所定値α2以下になったかに基づいて、配分率低下制御を終了するかが判定される。ST3が否定される場合、ST2に戻って配分率低下制御および駆動力低下制御が継続して実行される。ST3が肯定される場合、四輪駆動制御部156の制御機能に対応するST4において、配分率低下制御が終了させられる。
図12は、電子制御装置120の制御作動による制御結果を示すタイムチャートであり、四輪駆動車両10が波状路を走行したときの制御結果を示している。図12に示すように、t1時点において、後輪16の空転量ΔNrが所定値α1以上となることで、走行路面が波状路であることが検出される(波状路判定ON)と、配分率低下制御および駆動力低減制御が開始される。t1時点において前輪駆動用クラッチ76のトルク容量の増大が開始されることで、t1時点からt2時点の間において、後輪側配分率Xrが低下し、前後輪の駆動力配分が0(前輪):100(後輪)から50:50に向かって変化している。また、t1時点において、第2回転機MG2のMG2トルクTmが低減量βだけ低減され、t1時点からt2時点の間において、MG2トルクTmが低減量βだけ低減された状態で維持されている。これより、後輪16の駆動力が波状路検出前に比べて低減され、後輪16の空転が止められたときに発生する衝撃トルクが低減される。すなわち、後輪16から動力伝達装置18に過大トルクが入力されることが抑制される。
t2時点において、後輪側配分率Xrが目標値である0.5に到達する、すなわち前後輪の駆動力配分が50:50に到達すると、第2回転機MG2のMG2トルクTmが、低減前の状態又は要求駆動力Frdemに応じた値に制御される。また、t2時点からt3時点の間においても前後輪の駆動力配分が50:50の状態で維持されている。このように、t2時点からt3時点の間では、前後輪の駆動力配分が50:50とされることで、後輪16の駆動力が低下するため、後輪16の空転が止められたときに動力伝達装置18に入力される衝撃トルクが低減される。
t3時点において、後輪16の空転量ΔNrが所定値α2以下となる(波状路判定OFF)と配分率低下制御が終了し、t3時点以降の前後輪の駆動力配分が、その時点における四輪駆動車両10の走行状態に応じた値に変更される。図12にあっては、前後輪の駆動力配分が、例えば配分率低下制御前の0:100に復帰している。
図13は、電子制御装置120の制御作動による制御結果を示すタイムチャートであり、四輪駆動車両10が波状路を走行したときの制御結果の他の態様を示している。図13にあっては、第2回転機MG2のMG2トルクTmが所定値β低減した後、配分率低下制御による前後輪の駆動力配分の遷移期間中に、第2回転機MG2のMG2トルクTmの低減量を徐々に小さくする態様を示している。
図13に示すように、t1時点において、後輪16の空転量ΔNrが所定値α1以上となることで、走行路面が波状路であることが検出される(波状路判定ON)と、配分率低下制御および駆動力低減制御が開始される。また、t1時点において前輪駆動用クラッチ76のトルク容量の増大が開始されることで、t1時点からt2時点の間において、後輪側配分率Xrが低下し、前後輪の駆動力配分が0:100から50:50に向かって変化している。また、t1時点において、第2回転機MG2のMG2トルクTmが低減量βだけ低減され、MG2トルクTmが低減された後は、低減量βが徐々に小さくなっている。すなわち、MG2トルクTmが徐々に増加している。図13では、前後輪の駆動力配分が50:50に到達するt2時点において、MG2トルクTmg2が低減前の状態に戻るように、MG2トルクTmの変化速度VTmが設定されている。なお、MG2トルクTmの変化速度VTmが、後輪16の空転量ΔNrや要求駆動力Frdemに応じて変更されることで、例えば図13の破線で示すように、MG2トルクTmが速やかに低減前の状態に戻るものであっても構わない。t3時点において、後輪16の空転量ΔNrが所定値α2以下になる(波状路判定OFF)になると配分率低下制御が終了し、前後輪の駆動力配分が50:50から配分率低下制御の実行前の0:100に戻される。
上述のように、本実施例によれば、走行路面が波状路であることが検出されると、波状路であることが検出される前に比べて後輪側配分率Xrが小さくなるようにトランスファ22の前輪駆動用クラッチ76が制御されるため、後輪16を駆動する駆動力が小さくなる。従って、後輪16の空転が止められたときに発生する過大トルクを抑制することができる。一方、トランスファ22の前輪駆動用クラッチ76を制御することによる後輪側配分率Xrの変更は応答性が低く、直ちに後輪側配分率Xrが小さくなりにくいが、後輪側配分率Xrの遷移期間中に第2回転機MG2から出力される駆動力が低減されるため、前輪駆動用クラッチ76の制御に応答遅れがあっても、後輪16の駆動力が直ちに小さくなる。従って、後輪16を駆動する動力伝達装置18(駆動系)に過大トルクが発生するのを抑制することができる。
また、本実施例(他の態様)によれば、駆動力源から出力される駆動力を低減した後、配分率低下制御による後輪側配分率Xrの遷移期間中に、駆動力源から出力される駆動力の低減力が徐々に小さくなるため、過大トルクの発生を抑制しつつ、走破性の低下を抑制することができる。また、駆動力を低減した後の駆動力の変化速度VTmが要求駆動力Frdemが大きいほど大きくされため、過大トルクの発生の抑制と走破性の低下の抑制とを好適に両立させることができる。また、駆動力を低減した後の駆動力の変化速度VTmが後輪16の空転量ΔNrが大きいほど小さくされるため、過大トルクの発生の抑制と走破性の低下の抑制とを好適に両立させることができる。
また、本実施例によれば、駆動力の低減量βが駆動力源に要求される要求駆動力Frdemが大きいほど小さくされるため、過大トルクの発生の抑制と走破性の低下の抑制とを好適に両立させることができる。また、駆動力の低減量βが後輪16の空転量ΔNrが大きいほど大きくされるため、過大トルクの発生の抑制と走破性の低下の抑制とを好適に両立させることができる。また、第2回転機MG2に対して駆動力低減制御が実行されるため、駆動力低下の応答性が高くなり、後輪16の駆動力を速やかに低下させることができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、四輪駆動車両10は、エンジン12、第2回転機MG2および第1回転機MG1を駆動力源とするハイブリッド形式の車両であったが、本発明は、必ずしもハイブリッド形式の車両に限定されない。例えば、回転機のみを駆動力源とする電気自動車やエンジンのみを駆動力源とする車両であっても、本発明を適用することができる。なお、エンジンのみを駆動力源とする車両の場合には、波状路が検出されると、配分率低下制御に併せて、エンジントルクTeを低下させる駆動力低下制御が実行される。
また、前述の実施例では、四輪駆動車両10は、前置エンジン後輪駆動(FR)をベースとするものであったが、本発明は、必ずしもこれに限定されない。例えば、前置エンジン前輪駆動(FF)をベースとする四輪駆動車両であっても構わない。なお、前置エンジン前輪駆動をベースとする四輪駆動車両の場合には、前輪が主駆動輪となり、後輪が副駆動輪となる。また、四輪駆動車両10は、走行状態に応じて二輪駆動および四輪駆動が切り替えられるパートタイム式の四輪駆動車両であったが、本発明は、必ずしもパートタイム式の四輪駆動車両に限定されず、フルタイム式の四輪駆動車両であっても構わない。
例えば、差動制限クラッチを有する中央差動歯車装置(センターデフ)を備えたフルタイム式の四輪駆動車両であっても構わない。上記四輪駆動車両において、差動制限クラッチの非作動には、前後輪の駆動力が所定の配分(例えば前後輪の駆動力配分が30:70)に設定され、差動制限クラッチが作動することで前後輪の駆動力配分が50:50に変更されるように構成されている。このように構成される場合であっても、波状路が検出されると差動制限クラッチが作動させられることで、主駆動輪である後輪の駆動力が低減され、後輪の空転が止められたときの衝撃トルクが低減される。要は、駆動力源からの駆動力を主駆動輪および副駆動輪に伝達可能であり、且つ、駆動力源から主駆動輪および副駆動輪に伝達される総駆動力に対する主駆動輪に伝達される駆動力の割合である主側配分率を調節可能(低下可能)な駆動力配分装置を備える四輪駆動車両であれは、本発明を適宜適用することができる。
また、前述の実施例では、トランスファ22を構成する前輪駆動用クラッチ76のピストン90は、電動モータ92が回転すると、カム機構102を介して摩擦係合要素88側に移動させられ、摩擦係合要素88を押圧するように構成されていたが、本発明は、必ずしもこの構成に限定されない。例えば、電動モータ92が回転すると、回転運動を直線運動に変換するボールねじ等を介してピストン90が摩擦係合要素88を押圧するように構成されるものであっても構わない。また、ピストン90が油圧アクチュエータによって駆動させられるものであっても構わない。
また、前述の実施例では、駆動輪の空転量ΔNrが所定値α1以上かに基づいて走行路面が波状路であるかが判定されていたが、本発明は必ずしも波状路に限定されない。例えば凸凹が形成された走行路面であっても本発明を適応することができる。要は、走行中に駆動輪が上方に持ち上がり、駆動輪にかかる接地荷重が減少して駆動輪が空転するような悪路であれば、本発明を適宜適用することができる。
また、前述の実施例では、波状路が後輪16の空転量ΔNrが所定値α1以上かに基づいて検出されていたが、波状路の検出は上記態様に限定されない。
例えば、四輪駆動車両10の上下方向への振動を検出し、その振動の振幅が所定値以上かに基づいて波状路を検出するなど、波状路を検出可能な手段であれば適宜適用され得る。
また、前述の実施例では、走行路面が波状路と検出された場合の後輪側配分率Xrの目標値が0.5、すなわち前後輪の駆動力配分が50:50に設定されていたが、本発明は必ずしもこれに限定されない。例えば前後輪の駆動力配分が40:60であっても構わない。要は、前後輪の駆動力配分が均等化されて主駆動輪である後輪16の駆動力が低減されるような後輪側配分率Xrであれば、後輪側配分率Xrの目標値は適宜変更され得る。
また、前述の実施例では、第2回転機MG2のMG2トルクTmの低減量βが、後輪16の空転量ΔNrおよび要求駆動力Frdemに基づいて決定されるものであったが、低減量βが、後輪16の空転量ΔNrおよび要求駆動力Frdemの何れか一方に基づいて決定されるものであってもよく、後輪16の空転量ΔNrおよび要求駆動力Frdemに拘わらず決定されるものであっても構わない。
また、前述の実施例(他の態様)では、第2回転機MG2のMG2トルクTmを低減量β低減した後の変化速度VTmが、後輪16の空転量ΔNrおよび要求駆動力Frdemに基づいて決定されるものであったが、変化速度VTmが、後輪16の空転量ΔNrおよび要求駆動力Frdemの何れか一方に基づいて決定されるものであってもよく、後輪16の空転量ΔNrおよび要求駆動力Frdemに拘わらず決定されるものであっても構わない。
また、前述の実施例では、配分率低下制御の実行を判定するための所定値α1が、配分率低下制御の終了を判定するための所定値α2よりも大きい値に設定されていたが、所定値α1と所定値α2とが同じ値であっても構わない。
また、前述の実施例では、駆動力低減制御は、第2回転機MG2のMG2トルクTmを低減するものであったが、必ずしも第2回転機MG2のMG2トルクTmの低減に限定されない。すなわち、第2回転機MG2のMG2トルクTmの低減に加えて、エンジン12のエンジントルクTeを低減することによる駆動力低減制御であってもよく、エンジントルクTeのみを低減することによる駆動力低減制御が実行されるものであっても構わない。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。