図1は、本発明が適用される四輪駆動車両10の概略構成を説明する図であると共に、四輪駆動車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、四輪駆動車両10は、エンジン12(図中の「ENG」参照)、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2を駆動力源として備えたハイブリッド車両である。又、四輪駆動車両10は、左右一対の前輪14L、14Rと、左右一対の後輪16L、16Rと、エンジン12等からの駆動力を前輪14L、14R及び後輪16L、16Rへそれぞれ伝達する動力伝達装置18とを備えている。後輪16L、16Rは、二輪駆動走行中及び四輪駆動走行中において共に駆動輪となる主駆動輪である。又、前輪14L、14Rは、二輪駆動走行中において従動輪となり、四輪駆動走行中において駆動輪となる副駆動輪である。四輪駆動車両10は、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)方式の車両をベースとする四輪駆動車両である。本実施例では、特に区別しない場合には、前輪14L、14Rを前輪14と称し、後輪16L、16Rを後輪16と称する。又、エンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2については、特に区別しない場合は単に駆動力源PUという。
エンジン12は、四輪駆動車両10の走行用の駆動力源であって、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置130によって、四輪駆動車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置20が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、四輪駆動車両10の走行用の駆動力源となり得る。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、四輪駆動車両10に備えられたインバータ22を介して、四輪駆動車両10に備えられたバッテリ24に接続されている。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、後述する電子制御装置130によってインバータ22が制御されることにより、第1回転機MG1の出力トルクであるMG1トルクTg及び第2回転機MG2の出力トルクであるMG2トルクTmが制御される。回転機の出力トルクは、例えば正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。バッテリ24は、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々に対して電力を授受する蓄電装置である。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース26内に設けられている。
動力伝達装置18は、ハイブリッド用のトランスミッションである自動変速機28(図中の「HV用T/M」参照)と、トランスファ30(図中の「T/F」参照)と、フロントプロペラシャフト32と、リヤプロペラシャフト34と、前輪側差動歯車装置36(図中の「Diff」参照)と、後輪側差動歯車装置38(図中の「Diff」参照)と、左右一対の前輪車軸40L、40Rと、左右一対の後輪車軸42L、42Rとを備えている。動力伝達装置18において、自動変速機28を介して伝達されたエンジン12等からの駆動力が、トランスファ30から、リヤプロペラシャフト34、後輪側差動歯車装置38、後輪車軸42L、42R等を順次介して後輪16L、16Rへ伝達される。又、動力伝達装置18において、トランスファ30に伝達されたエンジン12からの駆動力の一部が前輪14L、14R側へ配分されると、その配分された駆動力が、フロントプロペラシャフト32、前輪側差動歯車装置36、前輪車軸40L、40R等を順次介して前輪14L、14Rへ伝達される。
図2は、自動変速機28の概略構成を説明する図である。図2において、自動変速機28は、ケース26内において共通の回転軸線CL1上に直列に配設された、電気式無段変速部44及び機械式有段変速部46等を備えている。電気式無段変速部44は、直接的に或いは図示しないダンパーなどを介して間接的にエンジン12に連結されている。機械式有段変速部46は、電気式無段変速部44の出力側に連結されている。機械式有段変速部46の出力側には、トランスファ30が連結されている。自動変速機28において、エンジン12や第2回転機MG2等から出力される動力は、機械式有段変速部46へ伝達され、その機械式有段変速部46からトランスファ30へ伝達される。尚、以下、電気式無段変速部44を無段変速部44、機械式有段変速部46を有段変速部46という。又、動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。又、無段変速部44及び有段変速部46は回転軸線CL1に対して略対称的に構成されており、図2ではその回転軸線CL1に対して下半分が省略されている。回転軸線CL1は、エンジン12のクランク軸、そのクランク軸に連結された自動変速機28の入力回転部材である連結軸48、自動変速機28の出力回転部材である出力軸50などの軸心である。連結軸48は無段変速部44の入力回転部材でもあり、出力軸50は有段変速部46の出力回転部材でもある。
無段変速部44は、第1回転機MG1と、エンジン12の動力を第1回転機MG1及び無段変速部44の出力回転部材である中間伝達部材52に機械的に分割する動力分割機構としての差動機構54とを備えている。中間伝達部材52には、第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。無段変速部44は、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構54の差動状態が制御される電気式無段変速機である。無段変速部44は、変速比(ギヤ比ともいう)γ0(=エンジン回転速度Ne/MG2回転速度Nm)が変化させられる電気的な無段変速機として作動させられる。エンジン回転速度Neは、エンジン12の回転速度であり、無段変速部44の入力回転速度すなわち連結軸48の回転速度と同値である。エンジン回転速度Neは、無段変速部44と有段変速部46とを合わせた全体の自動変速機28の入力回転速度でもある。MG2回転速度Nmは、第2回転機MG2の回転速度であり、無段変速部44の出力回転速度すなわち中間伝達部材52の回転速度と同値である。第1回転機MG1は、エンジン回転速度Neを制御可能な回転機である。尚、第1回転機MG1の運転状態を制御することは、第1回転機MG1の運転制御を行うことである。
差動機構54は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS0、キャリアCA0、及びリングギヤR0を備えている。キャリアCA0には連結軸48を介してエンジン12が動力伝達可能に連結され、サンギヤS0には第1回転機MG1が動力伝達可能に連結され、リングギヤR0には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。差動機構54において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能する。
有段変速部46は、中間伝達部材52とトランスファ30との間の動力伝達経路を構成する有段変速機である。中間伝達部材52は、有段変速部46の入力回転部材としても機能する。中間伝達部材52には第2回転機MG2が一体回転するように連結されている。有段変速部46は、走行用の駆動力源PUと駆動輪(前輪14、後輪16)との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機である。有段変速部46は、例えば第1遊星歯車装置56及び第2遊星歯車装置58の複数組の遊星歯車装置と、ワンウェイクラッチF1を含む、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置とを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。以下、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、及びブレーキB2については、特に区別しない場合は単に係合装置CBという。
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、四輪駆動車両10に備えられた油圧制御回路60(図1参照)から出力される調圧された係合装置CBの各油圧により、各々、係合や解放などの状態である作動状態が切り替えられる。
有段変速部46は、第1遊星歯車装置56及び第2遊星歯車装置58の各回転要素が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的に、一部が互いに連結されたり、中間伝達部材52、ケース26、或いは出力軸50に連結されている。第1遊星歯車装置56の各回転要素は、サンギヤS1、キャリアCA1、リングギヤR1であり、第2遊星歯車装置58の各回転要素は、サンギヤS2、キャリアCA2、リングギヤR2である。
有段変速部46は、複数の係合装置のうちの何れかの係合装置である例えば所定の係合装置の係合によって、変速比γat(=AT入力回転速度Ni/出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。つまり、有段変速部46は、複数の係合装置の何れかが係合されることで、ギヤ段が切り替えられるすなわち変速が実行される。有段変速部46は、複数のギヤ段の各々が形成される、有段式の自動変速機である。本実施例では、有段変速部46にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称す。AT入力回転速度Niは、有段変速部46の入力回転部材の回転速度である有段変速部46の入力回転速度であって、中間伝達部材52の回転速度と同値であり、又、MG2回転速度Nmと同値である。AT入力回転速度Niは、MG2回転速度Nmで表すことができる。出力回転速度Noは、有段変速部46の出力回転速度である出力軸50の回転速度であって、自動変速機28の出力回転速度でもある。
有段変速部46は、例えば図3の係合作動表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(図中の「1st」)-AT4速ギヤ段(図中の「4th」)の4段の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、ハイ側のATギヤ段程、変速比γatが小さくなる。又、後進用のATギヤ段(図中の「Rev」)は、例えばクラッチC1の係合且つブレーキB2の係合によって形成される。つまり、後進走行を行う際には、例えばAT1速ギヤ段が形成される。図3の係合作動表は、各ATギヤ段と複数の係合装置の各作動状態との関係をまとめたものである。すなわち、図3の係合作動表は、各ATギヤ段と、各ATギヤ段において各々係合される係合装置である所定の係合装置との関係をまとめたものである。図3において、「○」は係合、「△」はエンジンブレーキ時や有段変速部46のコーストダウンシフト時に係合、空欄は解放をそれぞれ表している。
有段変速部46は、後述する電子制御装置130によって、ドライバー(すなわち運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて形成されるATギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のATギヤ段が選択的に形成される。例えば、有段変速部46の変速制御においては、係合装置CBの何れかの掴み替えにより変速が実行される、すなわち係合装置CBの係合と解放との切替えにより変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。
四輪駆動車両10は、更に、ワンウェイクラッチF0、機械式のオイルポンプであるMOP62、不図示の電動式のオイルポンプ等を備えている。
ワンウェイクラッチF0は、キャリアCA0を回転不能に固定することができるロック機構である。すなわち、ワンウェイクラッチF0は、エンジン12のクランク軸と連結された、キャリアCA0と一体的に回転する連結軸48を、ケース26に対して固定することができるロック機構である。ワンウェイクラッチF0は、相対回転可能な2つの部材のうちの一方の部材が連結軸48に一体的に連結され、他方の部材がケース26に一体的に連結されている。ワンウェイクラッチF0は、エンジン12の運転時の回転方向である正回転方向に対して空転する一方で、エンジン12の運転時とは逆の回転方向に対して機械的に自動係合する。従って、ワンウェイクラッチF0の空転時には、エンジン12はケース26に対して相対回転可能な状態とされる。一方で、ワンウェイクラッチF0の係合時には、エンジン12はケース26に対して相対回転不能な状態とされる。すなわち、ワンウェイクラッチF0の係合により、エンジン12はケース26に固定される。このように、ワンウェイクラッチF0は、エンジン12の運転時の回転方向となるキャリアCA0の正回転方向の回転を許容し且つキャリアCA0の負回転方向の回転を阻止する。すなわち、ワンウェイクラッチF0は、エンジン12の正回転方向の回転を許容し且つ負回転方向の回転を阻止することができるロック機構である。
MOP62は、連結軸48に連結されており、エンジン12の回転と共に回転させられて動力伝達装置18にて用いられる作動油OILを吐出する。又、不図示の電動式のオイルポンプは、例えばエンジン12の停止時すなわちMOP62の非駆動時に駆動させられる。MOP62や不図示の電動式のオイルポンプが吐出した作動油OILは、油圧制御回路60へ供給される。係合装置CBは、作動油OILを元にして油圧制御回路60により調圧された各油圧によって作動状態が切り替えられる。
図4は、無段変速部44と有段変速部46とにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。図4において、無段変速部44を構成する差動機構54の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応するサンギヤS0の回転速度を表すg軸であり、第1回転要素RE1に対応するキャリアCA0の回転速度を表すe軸であり、第3回転要素RE3に対応するリングギヤR0の回転速度(すなわち有段変速部46の入力回転速度)を表すm軸である。又、有段変速部46の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応するサンギヤS2の回転速度、第5回転要素RE5に対応する相互に連結されたリングギヤR1及びキャリアCA2の回転速度(すなわち出力軸50の回転速度)、第6回転要素RE6に対応する相互に連結されたキャリアCA1及びリングギヤR2の回転速度、第7回転要素RE7に対応するサンギヤS1の回転速度をそれぞれ表す軸である。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、差動機構54の歯車比ρ0に応じて定められている。又、縦線Y4、Y5、Y6、Y7の相互の間隔は、第1、第2遊星歯車装置56、58の各歯車比ρ1、ρ2に応じて定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリアとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリアとリングギヤとの間が遊星歯車装置の歯車比ρ(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)に対応する間隔とされる。
図4の共線図を用いて表現すれば、無段変速部44の差動機構54において、第1回転要素RE1にエンジン12(図中の「ENG」参照)が連結され、第2回転要素RE2に第1回転機MG1(図中の「MG1」参照)が連結され、中間伝達部材52と一体回転する第3回転要素RE3に第2回転機MG2(図中の「MG2」参照)が連結されて、エンジン12の回転を中間伝達部材52を介して有段変速部46へ伝達するように構成されている。無段変速部44では、縦線Y2を横切る各直線L0e、L0m、L0Rにより、サンギヤS0の回転速度とリングギヤR0の回転速度との関係が示される。
又、有段変速部46において、第4回転要素RE4はクラッチC1を介して中間伝達部材52に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸50に連結され、第6回転要素RE6はクラッチC2を介して中間伝達部材52に選択的に連結されると共にブレーキB2を介してケース26に選択的に連結され、第7回転要素RE7はブレーキB1を介してケース26に選択的に連結される。有段変速部46では、係合装置CBの係合解放制御によって縦線Y5を横切る各直線L1、L2、L3、L4、LRにより、出力軸50における「1st」、「2nd」、「3rd」、「4th」、「Rev」の各回転速度が示される。
図4中の実線で示す、直線L0e及び直線L1、L2、L3、L4は、少なくともエンジン12を駆動力源として走行するハイブリッド走行(=HV走行)が可能なHV走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。このHV走行モードでは、差動機構54において、キャリアCA0に入力される正トルクのエンジントルクTeに対して、第1回転機MG1による負トルクの反力トルクとなるMG1トルクTgがサンギヤS0に入力されると、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるエンジン直達トルクTd(=Te/(1+ρ0)=-(1/ρ0)×Tg)が現れる。そして、要求駆動力に応じて、エンジン直達トルクTdとMG2トルクTmとの合算トルクが四輪駆動車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段-AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部46を介してトランスファ30へ伝達される。第1回転機MG1は、正回転にて負トルクを発生する場合には発電機として機能する。第1回転機MG1の発電電力Wgは、バッテリ24に充電されたり、第2回転機MG2にて消費される。第2回転機MG2は、発電電力Wgの全部又は一部を用いて、或いは発電電力Wgに加えてバッテリ24からの電力を用いて、MG2トルクTmを出力する。
図4中の一点鎖線で示す直線L0m及び図4中の実線で示す直線L1、L2、L3、L4は、エンジン12の運転を停止した状態で第1回転機MG1及び第2回転機MG2のうちの少なくとも一方の回転機を駆動力源として走行するモータ走行(=EV走行)が可能なEV走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。EV走行モードでの前進走行におけるEV走行としては、例えば第2回転機MG2のみを駆動力源として走行する単駆動EV走行と、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を共に駆動力源として走行する両駆動EV走行とがある。単駆動EV走行では、キャリアCA0はゼロ回転とされ、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるMG2トルクTmが入力される。このとき、サンギヤS0に連結された第1回転機MG1は、無負荷状態とされて負回転にて空転させられる。単駆動EV走行では、ワンウェイクラッチF0が解放されており、連結軸48はケース26に対して固定されていない。
両駆動EV走行では、キャリアCA0がゼロ回転とされた状態で、サンギヤS0に負回転にて負トルクとなるMG1トルクTgが入力されると、キャリアCA0の負回転方向への回転が阻止されるようにワンウェイクラッチF0が自動係合される。ワンウェイクラッチF0の係合によってキャリアCA0が回転不能に固定された状態においては、MG1トルクTgによる反力トルクがリングギヤR0へ入力される。加えて、両駆動EV走行では、単駆動EV走行と同様に、リングギヤR0にはMG2トルクTmが入力される。キャリアCA0がゼロ回転とされた状態で、サンギヤS0に負回転にて負トルクとなるMG1トルクTgが入力された際に、MG2トルクTmが入力されなければ、MG1トルクTgによる単駆動EV走行も可能である。EV走行モードでの前進走行では、エンジン12は駆動されず、エンジン回転速度Neはゼロとされ、MG1トルクTg及びMG2トルクTmのうちの少なくとも一方のトルクが四輪駆動車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段-AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部46を介してトランスファ30へ伝達される。EV走行モードでの前進走行では、MG1トルクTgは負回転且つ負トルクの力行トルクであり、MG2トルクTmは正回転且つ正トルクの力行トルクである。
図4中の破線で示す、直線L0R及び直線LRは、EV走行モードでの後進走行における各回転要素の相対速度を示している。このEV走行モードでの後進走行では、リングギヤR0には負回転にて負トルクとなるMG2トルクTmが入力され、そのMG2トルクTmが四輪駆動車両10の後進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段が形成された有段変速部46を介してトランスファ30へ伝達される。四輪駆動車両10では、後述する電子制御装置130によって、複数のATギヤ段のうちの前進用のロー側のATギヤ段である例えばAT1速ギヤ段が形成された状態で、前進走行時における前進用のMG2トルクTmとは正負が反対となる後進用のMG2トルクTmが第2回転機MG2から出力させられることで、後進走行を行うことができる。EV走行モードでの後進走行では、MG2トルクTmは負回転且つ負トルクの力行トルクである。尚、HV走行モードにおいても、直線L0Rのように第2回転機MG2を負回転とすることが可能であるので、EV走行モードと同様に後進走行を行うことが可能である。
図5は、トランスファ30の構造を説明する骨子図である。トランスファ30は、非回転部材としてのトランスファケース64を備えている。トランスファ30は、トランスファケース64内において、後輪側出力軸66と、前輪駆動用ドライブギヤ68と、前輪駆動用クラッチ70とを共通の回転軸線CL1を中心にして備えている。又、トランスファ30は、トランスファケース64内において、前輪側出力軸72と、前輪駆動用ドリブンギヤ74とを共通の回転軸線CL2を中心にして備えている。更に、トランスファ30は、前輪駆動用アイドラギヤ76を備えている。回転軸線CL2は、フロントプロペラシャフト32、前輪側出力軸72などの軸心である。
後輪側出力軸66は、出力軸50に動力伝達可能に連結されていると共に、リヤプロペラシャフト34に動力伝達可能に連結されている。後輪側出力軸66は、駆動力源PUから自動変速機28を介して出力軸50に伝達された駆動力を後輪16へ出力する。尚、出力軸50は、トランスファ30の後輪側出力軸66に駆動力源PUからの駆動力を入力するトランスファ30の入力回転部材、つまりトランスファ30に駆動力源PUからの駆動力を伝達する駆動力伝達軸としても機能する。自動変速機28は、駆動力源PUからの駆動力を出力軸50へ伝達する自動変速機である。
前輪駆動用ドライブギヤ68は、後輪側出力軸66に対して相対回転可能に設けられている。前輪駆動用クラッチ70は、多板の湿式クラッチであり、後輪側出力軸66から前輪駆動用ドライブギヤ68へ伝達される伝達トルクを調節する。すなわち、前輪駆動用クラッチ70は、後輪側出力軸66から前輪側出力軸72へ伝達される伝達トルクを調節する。
前輪駆動用ドリブンギヤ74は、前輪側出力軸72に一体的に設けられており、前輪側出力軸72に動力伝達可能に連結されている。前輪駆動用アイドラギヤ76は、前輪駆動用ドライブギヤ68と前輪駆動用ドリブンギヤ74とにそれぞれ噛み合わされており、前輪駆動用ドライブギヤ68と前輪駆動用ドリブンギヤ74との間を動力伝達可能に連結する。
前輪側出力軸72は、前輪駆動用アイドラギヤ76及び前輪駆動用ドリブンギヤ74を介して前輪駆動用ドライブギヤ68に動力伝達可能に連結されていると共に、フロントプロペラシャフト32に動力伝達可能に連結されている。前輪側出力軸72は、前輪駆動用クラッチ70を介して前輪駆動用ドライブギヤ68に伝達された駆動力源PUからの駆動力の一部を前輪14へ出力する。
前輪駆動用クラッチ70は、クラッチハブ78と、クラッチドラム80と、摩擦係合要素82と、ピストン84とを備えている。クラッチハブ78は、後輪側出力軸66に動力伝達可能に連結されている。クラッチドラム80は、前輪駆動用ドライブギヤ68に動力伝達可能に連結されている。摩擦係合要素82は、クラッチハブ78に対して回転軸線CL1方向に相対移動可能且つクラッチハブ78に対して相対回転不能に設けられた複数枚の第1摩擦板82aと、クラッチドラム80に対して回転軸線CL1方向に相対移動可能且つクラッチドラム80に対して相対回転不能に設けられた複数枚の第2摩擦板82bとを有している。第1摩擦板82aと第2摩擦板82bとは、回転軸線CL1方向で交互に重なるようにして配置されている。ピストン84は、回転軸線CL1方向に移動可能に設けられ、摩擦係合要素82に当接して第1摩擦板82aと第2摩擦板82bとを押圧することで、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量が調節される。尚、ピストン84が摩擦係合要素82を押圧しない場合には、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量がゼロとなり、前輪駆動用クラッチ70が解放される。
トランスファ30は、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量を調節することで、自動変速機28を介して伝達された駆動力源PUの駆動力を、後輪側出力軸66及び前輪側出力軸72に配分する。トランスファ30は、前輪駆動用クラッチ70が解放されている場合には、後輪側出力軸66と前輪駆動用ドライブギヤ68との間の動力伝達経路が切断されるので、駆動力源PUから自動変速機28を介してトランスファ30に伝達された駆動力をリヤプロペラシャフト34等を介して後輪16へ伝達する。又、トランスファ30は、前輪駆動用クラッチ70がスリップ係合状態または完全係合状態である場合には、後輪側出力軸66と前輪駆動用ドライブギヤ68との間の動力伝達経路が接続されるので、駆動力源PUからトランスファ30を介して伝達された駆動力の一部を、フロントプロペラシャフト32等を介して前輪14に伝達すると共に、駆動力の残部をリヤプロペラシャフト34等を介して後輪16に伝達する。トランスファ30は、駆動力源PUからの駆動力を出力軸50から前輪14及び後輪16に伝達することができる駆動力配分装置である。
トランスファ30は、前輪駆動用クラッチ70を作動させる装置として、電動モータ86と、ウォームギヤ88と、カム機構90とを備えている。
ウォームギヤ88は、電動モータ86のモータシャフトに一体的に形成されたウォーム92と、ウォーム92と噛み合う歯が形成されたウォームホイール94とを備えた歯車対である。ウォームホイール94は、回転軸線CL1を中心にして回転可能に設けられている。ウォームホイール94は、電動モータ86が回転させられると、回転軸線CL1を中心にして回転させられる。
カム機構90は、ウォームホイール94と前輪駆動用クラッチ70のピストン84との間に設けられている。カム機構90は、ウォームホイール94に接続されている第1部材96と、ピストン84に接続されている第2部材98と、第1部材96と第2部材98との間に介挿されている複数個のボール100とを備えており、電動モータ86の回転運動を直線運動に変換する機構である。
複数個のボール100は、回転軸線CL1を中心とする回転方向において等角度間隔に配置されている。第1部材96及び第2部材98のボール100と接触する面には、それぞれカム溝が形成されている。各カム溝は、第1部材96が第2部材98に対して相対回転した場合において、第1部材96と第2部材98とが回転軸線CL1方向で互いに乖離するように形成されている。従って、第1部材96が第2部材98に対して相対回転すると、第1部材96と第2部材98とが互いに乖離して第2部材98が回転軸線CL1方向に移動させられ、第2部材98に接続されているピストン84が摩擦係合要素82を押圧する。電動モータ86によってウォームホイール94が回転させられると、ウォームホイール94の回転運動が、カム機構90を介して回転軸線CL1方向への直線運動に変換されてピストン84に伝達され、ピストン84が摩擦係合要素82を押圧する。ピストン84が摩擦係合要素82を押圧する押圧力が調節されることにより、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量が調節される。トランスファ30は、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量が調節されることで、前輪14と後輪16とに配分する駆動力源PUからの駆動力の割合を調節することができる。
前輪14と後輪16とに配分する駆動力源PUからの駆動力の割合は、例えば駆動力源PUから後輪16及び前輪14に伝達される総駆動力に対する後輪16に伝達される駆動力の割合、すなわち後輪側配分率Xrである。又は、前輪14と後輪16とに配分する駆動力源PUからの駆動力の割合は、例えば駆動力源PUから後輪16及び前輪14に伝達される総駆動力に対する前輪14に伝達される駆動力の割合、すなわち前輪側配分率Xf(=1-Xr)である。本実施例では、後輪16が主駆動輪であるので、後輪側配分率Xrは主側配分率である。
ピストン84が摩擦係合要素82を押圧しない場合には、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量がゼロになる。このとき、前輪駆動用クラッチ70が解放され、後輪側配分率Xrは1.0になる。換言すれば、前輪14と後輪16とへの駆動力の配分すなわち前後輪の駆動力配分を、総駆動力を100として「前輪14の駆動力:後輪16の駆動力」で表せば、前後輪の駆動力配分は0:100になる。一方で、ピストン84が摩擦係合要素82を押圧する場合には、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量がゼロよりも大きくなり、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量が増加する程、後輪側配分率Xrが低下する。前輪駆動用クラッチ70が完全係合されるトルク容量になると、後輪側配分率Xrは0.5になる。換言すれば、前後輪の駆動力配分は50:50で均衡した状態になる。このように、トランスファ30は、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量が調節されることによって、後輪側配分率Xrを1.0~0.5の間、すなわち前後輪の駆動力配分を0:100~50:50の間で調節できる。
図1に戻り、四輪駆動車両10は、エンジン12、無段変速部44、有段変速部46、及びトランスファ30などの制御に関連する四輪駆動車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置130を備えている。図1は、電子制御装置130の入出力系統を示す図であり、又、電子制御装置130による制御機能の要部を説明する機能ブロック図である。電子制御装置130は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより四輪駆動車両10の各種制御を実行する。電子制御装置130は、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
電子制御装置130には、四輪駆動車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ102、出力回転速度センサ104、MG1回転速度センサ106、MG2回転速度センサ108、各車輪(14L、14R、16L、16R)毎に設けられた車輪速センサ110、アクセル開度センサ112、スロットル弁開度センサ114、ブレーキペダルセンサ116、Gセンサ118、シフトポジションセンサ120、ヨーレートセンサ122、ステアリングセンサ124、バッテリセンサ126、油温センサ128など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン回転速度Ne、車速Vに対応する出力回転速度No、第1回転機MG1の回転速度であるMG1回転速度Ng、AT入力回転速度Niと同値であるMG2回転速度Nm、各車輪(14L、14R、16L、16R)の回転速度である車輪速Nr、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、四輪駆動車両10の前後加速度Gx及び左右加速度Gy、四輪駆動車両10に備えられたシフトレバーの操作ポジションPOSsh、四輪駆動車両10の鉛直軸まわりの回転角速度であるヨーレートRyaw、四輪駆動車両10に備えられたステアリングホイールの操舵角θsw及び操舵方向Dsw、バッテリ24のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、作動油OILの温度である作動油温THoilなど)が、それぞれ供給される。
操作ポジションPOSshは、例えばP、R、N、D操作ポジションを含んでいる。P操作ポジションは、自動変速機28のパーキングポジション(=Pポジション)を選択するパーキング操作ポジションである。自動変速機28のPポジションは、自動変速機28がニュートラル状態とされ且つ機械的に出力軸50の回転が阻止された、自動変速機28のシフトポジションである。自動変速機28のニュートラル状態は、例えば自動変速機28が動力伝達不能な状態である。例えば、有段変速部46が動力伝達不能な状態とされることで、自動変速機28がニュートラル状態とされる。出力軸50の回転が阻止された状態は、出力軸50が回転不能に固定されたパーキングロックの状態である。R操作ポジションは、自動変速機28の後進走行ポジション(=Rポジション)を選択する後進走行操作ポジションである。自動変速機28のRポジションは、四輪駆動車両10の後進走行を可能とする自動変速機28のシフトポジションである。N操作ポジションは、自動変速機28のニュートラルポジション(=Nポジション)すなわち中立ポジションを選択するニュートラル操作ポジションである。自動変速機28のNポジションは、自動変速機28がニュートラル状態とされた自動変速機28のシフトポジションである。D操作ポジションは、自動変速機28の前進走行ポジション(=Dポジション)を選択する前進走行操作ポジションである。自動変速機28のDポジションは、四輪駆動車両10の前進走行を可能とする自動変速機28のシフトポジションである。自動変速機28のDポジション及びRポジションは、自動変速機28が動力伝達可能な状態とされた走行ポジションである。
電子制御装置130からは、四輪駆動車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置20、インバータ22、油圧制御回路60、電動モータ86など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を各々制御する為の回転機制御指令信号Smg、係合装置CBの作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Sat、電動モータ86を制御する為の電動モータ制御指令信号Swなど)が、それぞれ出力される。油圧制御指令信号Satは、有段変速部46の変速を制御する為の油圧制御指令信号でもあり、例えば係合装置CBの各々の油圧アクチュエータへ供給される各油圧を調圧する、油圧制御回路60内の各ソレノイドバルブ等を駆動する為の指令信号である。
電子制御装置130は、四輪駆動車両10における各種制御を実現する為に、AT変速制御手段すなわちAT変速制御部132、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部134、及び四輪駆動制御手段すなわち四輪駆動制御部136を備えている。
AT変速制御部132は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である例えば図6に示すようなATギヤ段変速マップを用いて有段変速部46の変速判断を行い、必要に応じて有段変速部46の変速制御を実行する為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路60へ出力する。上記ATギヤ段変速マップは、例えば車速V及び要求駆動力Frdemを変数とする二次元座標上に、有段変速部46の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。ここでは、車速Vに替えて出力回転速度Noなどを用いても良い。又、要求駆動力Frdemに替えて要求駆動トルクTrdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。上記ATギヤ段変速マップにおける各変速線は、実線に示すようなアップシフトが判断される為のアップシフト線、及び破線に示すようなダウンシフトが判断される為のダウンシフト線である。
ハイブリッド制御部134は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部としての機能と、インバータ22を介して第1回転機MG1及び第2回転機MG2の作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部としての機能とを含んでおり、それらの制御機能によりエンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。
ハイブリッド制御部134は、予め定められた関係である例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで駆動要求量としての要求駆動力Frdemを算出する。前記駆動要求量としては、要求駆動力Frdem[N]の他に、各駆動輪(前輪14、後輪16)における要求駆動トルクTrdem[Nm]、各駆動輪における要求駆動パワーPrdem[W]、出力軸50における要求AT出力トルク等を用いることもできる。ハイブリッド制御部134は、バッテリ24の充電可能電力Winや放電可能電力Wout等を考慮して、要求駆動トルクTrdemと車速Vとに基づく要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン12を制御する指令信号であるエンジン制御指令信号Seと、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を制御する指令信号である回転機制御指令信号Smgとを出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン12のパワーであるエンジンパワーPeの指令値である。回転機制御指令信号Smgは、例えばエンジントルクTeの反力トルクとしての指令出力時のMG1回転速度NgにおけるMG1トルクTgを出力する第1回転機MG1の発電電力Wgの指令値であり、又、指令出力時のMG2回転速度NmにおけるMG2トルクTmを出力する第2回転機MG2の消費電力Wmの指令値である。
バッテリ24の充電可能電力Winは、バッテリ24の入力電力の制限を規定する入力可能電力であり、バッテリ24の放電可能電力Woutは、バッテリ24の出力電力の制限を規定する出力可能電力である。バッテリ24の充電可能電力Winや放電可能電力Woutは、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ24の充電量に相当する充電状態値SOC[%]に基づいて電子制御装置130により算出される。バッテリ24の充電状態値SOCは、バッテリ24の充電状態を示す値であり、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいて電子制御装置130により算出される。
ハイブリッド制御部134は、例えば無段変速部44を無段変速機として作動させて自動変速機28全体として無段変速機として作動させる場合、最適エンジン動作点等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するエンジンパワーPeが得られるエンジン回転速度NeやエンジントルクTeとなるように、エンジン12を制御すると共に第1回転機MG1の発電電力Wgを制御することで、無段変速部44の無段変速制御を実行して無段変速部44の変速比γ0を変化させる。この制御の結果として、無段変速機として作動させる場合の自動変速機28の変速比γt(=γ0×γat=Ne/No)が制御される。最適エンジン動作点は、例えば要求エンジンパワーPedemを実現するときに、エンジン12単体の燃費にバッテリ24における充放電効率等を考慮した四輪駆動車両10におけるトータル燃費が最も良くなるエンジン動作点として予め定められている。このエンジン動作点は、エンジン回転速度NeとエンジントルクTeとで表されるエンジン12の運転点である。
ハイブリッド制御部134は、例えば無段変速部44を有段変速機のように変速させて自動変速機28全体として有段変速機のように変速させる場合、予め定められた関係である例えば有段変速マップを用いて自動変速機28の変速判断を行い、AT変速制御部132による有段変速部46のATギヤ段の変速制御と協調して、変速比γtが異なる複数のギヤ段を選択的に成立させるように無段変速部44の変速制御を実行する。複数のギヤ段は、それぞれの変速比γtを維持できるように出力回転速度Noに応じて第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを制御することによって成立させることができる。
ハイブリッド制御部134は、走行モードとして、EV走行モード又はHV走行モードを走行状態に応じて選択的に成立させる。例えば、ハイブリッド制御部134は、要求駆動パワーPrdemが予め定められた閾値よりも小さなEV走行領域にある場合には、EV走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPrdemが予め定められた閾値以上となるHV走行領域にある場合には、HV走行モードを成立させる。図6の一点鎖線Aは、HV走行モードとEV走行モードとを切り替える為のHV走行領域とEV走行領域との境界線である。この図6の一点鎖線Aに示すような境界線を有する予め定められた関係は、車速V及び要求駆動力Frdemを変数とする二次元座標で構成された走行モード切替マップの一例である。尚、図6では、便宜上、この走行モード切替マップをATギヤ段変速マップと共に示している。
ハイブリッド制御部134は、EV走行モードを成立させたときに、第2回転機MG2のみで要求駆動パワーPrdemを実現できる場合には、第2回転機MG2による単駆動EV走行にて四輪駆動車両10を走行させる。一方で、ハイブリッド制御部134は、EV走行モードを成立させたときに、第2回転機MG2のみでは要求駆動パワーPrdemを実現できない場合には、両駆動EV走行にて四輪駆動車両10を走行させる。ハイブリッド制御部134は、第2回転機MG2のみで要求駆動パワーPrdemを実現できるときであっても、第2回転機MG2のみを用いるよりも第1回転機MG1及び第2回転機MG2を併用した方が効率が良い場合には、両駆動EV走行にて四輪駆動車両10を走行させても良い。
ハイブリッド制御部134は、要求駆動パワーPrdemがEV走行領域にあるときであっても、バッテリ24の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12の暖機が必要な場合などには、HV走行モードを成立させる。前記エンジン始動閾値は、エンジン12を強制的に始動してバッテリ24を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判断する為の予め定められた閾値である。
ハイブリッド制御部134は、エンジン12の運転停止時にHV走行モードを成立させた場合には、エンジン12を始動するエンジン始動制御を行う。ハイブリッド制御部134は、エンジン12を始動するときには、例えば第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを上昇させつつ、エンジン回転速度Neが点火可能な所定点火可能回転速度以上となったときに点火することでエンジン12を始動する。すなわち、ハイブリッド制御部134は、第1回転機MG1によりエンジン12をクランキングすることでエンジン12を始動する。
四輪駆動制御部136は、後輪側配分率Xrを制御する。四輪駆動制御部136は、出力回転速度センサ104やGセンサ118などから判断される四輪駆動車両10の走行状態に応じて、電動モータ86を制御して前輪駆動用クラッチ70のトルク容量を調節することによって、後輪側配分率Xrを適切な値に随時調節する。
四輪駆動制御部136は、例えば直進走行時には、前輪駆動用クラッチ70を解放することで、後輪側配分率Xrを1.0(すなわち、前後輪の駆動力配分を0:100)に制御する。又、四輪駆動制御部136は、旋回走行中の操舵角θswと車速V等とに基づいて目標ヨーレートRyawtgtを算出し、ヨーレートセンサ122によって随時検出されるヨーレートRyawが目標ヨーレートRyawtgtに追従するように、後輪側配分率Xrを調節する。
ところで、車両走行中に、シフトレバーが操作されて、自動変速機28のシフトポジションが、走行ポジションからNポジションへ切り替えられた後、Nポジションから走行ポジションへ戻されると、駆動力の伝達が遮断された状態から駆動力が伝達される状態へ戻される。自動変速機28のシフトポジションが走行ポジションへ戻される際に、前後輪の駆動力配分が不均衡な状態である場合には、つまり後輪側配分率Xrが0.5よりも大きい場合には、前輪14に配分される駆動力と後輪16に配分される駆動力との駆動力差に起因して車両姿勢が変化するおそれがある。本実施例では、自動変速機28のシフトポジションが走行ポジションからNポジションへ切り替えられた後に走行ポジションへ戻される場合の走行ポジションとして、Dポジションを例示する。
そこで、四輪駆動制御部136は、車両走行中に自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられた後にDポジションへ戻される際の後輪側配分率Xrを、前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御する。前後輪の駆動力配分が均衡する方向とは、前後輪の駆動力配分が50:50の均衡した状態に近づく方向である。後輪側配分率Xrは1.0~0.5の間、すなわち前後輪の駆動力配分は0:100~50:50の間で調節されるので、後輪側配分率Xrが0.5に向けて低下させられることで、前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御される。四輪駆動制御部136は、自動変速機28のシフトポジションがDポジションへ戻される際の後輪側配分率Xrを、シフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられたときの後輪側配分率Xrよりも小さくなるように制御することで、シフトポジションがDポジションへ戻される際の後輪側配分率Xrを、前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御する。
前後輪の駆動力配分が均衡した状態にあれば、前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御される必要はない。四輪駆動制御部136は、車両走行中に自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられたときの前後輪の駆動力配分が不均衡であった場合に、後輪側配分率Xrを前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御する。
電子制御装置130は、車両走行中に自動変速機28のシフトポジションが走行ポジションへ戻されたときの走行安定性を向上することができる四輪駆動車両10を実現する為に、更に、状態判定手段すなわち状態判定部138を備えている。
状態判定部138は、自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられたか否かを判定する。例えば、状態判定部138は、自動変速機28のシフトポジションを制御する為の制御信号であるシフト切替信号に基づいて、自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられたか否かを判定する。前記シフト切替信号は、例えば油圧制御指令信号Satである。又は、例えば、油圧制御回路60内において、係合装置CBへ供給される各油圧の元圧が流通する油路がシフトレバーの切替えに連動して機械的に切り替えられることで、N操作ポジションでは自動変速機28のシフトポジションがNポジションとされる場合には、状態判定部138は、操作ポジションPOSshの信号に基づいて、自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられたか否かを判定しても良い。
状態判定部138は、自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられたと判定した場合には、車速Vの信号に基づいて四輪駆動車両10の走行中であるか否かを判定する。
状態判定部138は、自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられたと判定し、且つ、四輪駆動車両10の走行中であると判定した場合には、自動変速機28のシフトポジションがNポジションからDポジションへ切り替えられたか否かを判定する。状態判定部138は、例えば油圧制御指令信号Sat又は操作ポジションPOSshの信号などに基づいて、自動変速機28のシフトポジションがNポジションからDポジションへ切り替えられたか否かを判定する。
四輪駆動制御部136は、状態判定部138により、自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられたと判定され、且つ、四輪駆動車両10の走行中であると判定された後に、自動変速機28のシフトポジションがNポジションからDポジションへ切り替えられたと判定された場合には、後輪側配分率Xrを前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御する。
四輪駆動制御部136は、シフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられたときに比べて後輪側配分率Xrが小さくなるようにトランスファ30の前輪駆動用クラッチ70のトルク容量を制御する電動モータ制御指令信号Swを電動モータ86へ出力することで、後輪側配分率Xrを前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御する。四輪駆動制御部136は、例えば後輪側配分率Xrが1.0の状態(すなわち、前後輪の駆動力配分が0:100)で走行中に、自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられた後のDポジションへ戻されたときには、後輪側配分率Xrの目標値を例えば0.5(すなわち、前後輪の駆動力配分の目標値を50:50)に設定し、後輪側配分率Xrが0.5となるようにトランスファ30の前輪駆動用クラッチ70のトルク容量を制御する。前輪駆動用クラッチ70が完全係合されることで、後輪側配分率Xrが0.5となる。
四輪駆動制御部136は、後輪側配分率Xrを前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御した後には、四輪駆動車両10の走行状態に応じた値に後輪側配分率Xrを制御する。
上述したように、四輪駆動制御部136は、自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられた後のDポジションへ戻されたときに、後輪側配分率Xrを前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御する。
走行中にDポジションとNポジションとの間での自動変速機28のシフトポジションの切替えが短時間に連続して行われた場合に、シフトポジションがDポジションへ戻される毎に後輪側配分率Xrを低下する制御を行うと、後輪側配分率Xrが頻繁に変化させられて四輪駆動車両10の走行安定性を悪化させるおそれがある。
そこで、四輪駆動制御部136は、自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられてからのNポジションの継続時間が所定時間TMaを超えているという条件が成立している場合に、シフトポジションがDポジションへ戻されたときに、後輪側配分率Xrを前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御する。見方を換えれば、四輪駆動制御部136は、自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられてからのNポジションの継続時間が所定時間TMa以内である場合には、シフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられたときの後輪側配分率Xrを維持する。所定時間TMaは、後輪側配分率Xrが頻繁に変化させられることを防止する為の予め定められた閾値である。
状態判定部138は、自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられたと判定し、且つ、四輪駆動車両10の走行中であると判定した場合には、自動変速機28のシフトポジションがNポジションからDポジションへ切り替えられ、且つ、Nポジションの継続時間が所定時間TMaを超えているか否かを判定する。
四輪駆動制御部136は、状態判定部138により、自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられたと判定され、且つ、四輪駆動車両10の走行中であると判定された後に、自動変速機28のシフトポジションがNポジションからDポジションへ切り替えられたと判定され、且つ、Nポジションの継続時間が所定時間TMaを超えていると判定された場合には、後輪側配分率Xrを前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御する。
ここで、FR方式の車両では、後輪16への駆動力の配分が多い方が旋回性が有利となる場合がある。四輪駆動制御部136は、車両旋回中は旋回性能が維持されるように、自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられたときの後輪側配分率Xrに対するシフトポジションがDポジションへ戻される際の後輪側配分率Xrの低下を、車両旋回時には車両直進時に比べて制限する。このような制御は、四輪駆動車両10のようなFR方式の車両をベースとする四輪駆動車両に有用である。
図7は、電子制御装置130の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、車両走行中に自動変速機28のシフトポジションが走行ポジションへ戻されたときの走行安定性を向上することができる四輪駆動車両10を実現する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば繰り返し実行される。図8は、図7のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
図7において、先ず、状態判定部138の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられたか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS10の判断が肯定される場合は状態判定部138の機能に対応するS20において、四輪駆動車両10の走行中であるか否かが判定される。このS20の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS20の判断が肯定される場合は状態判定部138の機能に対応するS30において、自動変速機28のシフトポジションがNポジションからDポジションへ切り替えられ、且つ、Nポジションの継続時間が所定時間TMaを超えているか否かが判定される。このS30の判断が否定される場合は上記S20に戻される。このS30の判断が肯定される場合は四輪駆動制御部136の機能に対応するS40において、後輪側配分率Xrが前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御される。
図8は、前後輪の駆動力配分が不均衡な状態での走行中に自動変速機28のシフトポジションがDポジションとNポジションとの間で切り替えられた場合の一例を示す図である。図8において、t1a時点は、前後輪の駆動力配分が20:80の状態での走行中に自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられた時点を示している。Nポジションへの切替えによって、トランスファ30へのトルクの入力が遮断される。t2a時点は、自動変速機28のシフトポジションがNポジションからDポジションへ切り替えられた時点を示している。t2a時点では、t1a時点からのNポジションの継続時間が所定時間TMaを超えているので、NポジションからDポジションへの切替タイミングに合わせて、後輪側配分率Xrが前後輪の駆動力配分が均衡する方向に変更される。図8の実施例では、前後輪の駆動力配分が50:50の均衡した状態に変更されている。t3a時点以降に示した、自動変速機28のシフトポジションのDポジションとNポジションとの間での連続した切替えでは、Nポジションの継続時間が何れも所定時間TMa以内である為、前後輪の駆動力配分が変更されない。
上述のように、本実施例によれば、車両走行中に自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられた後にDポジションへ戻される際の後輪側配分率Xrが、前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御されるので、つまりシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられたときの後輪側配分率Xrよりも小さくなるように制御されるので、シフトポジションがDポジションへ戻されたときの前輪14と後輪16との駆動力差が抑制され、その駆動力差に起因した車両姿勢の変化が抑制される。よって、車両走行中に自動変速機28のシフトポジションがDポジションへ戻されたときの四輪駆動車両10の走行安定性を向上することができる。
また、本実施例によれば、車両走行中にシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられたときの前後輪の駆動力配分が不均衡であった場合に、後輪側配分率Xrが前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御されるので、シフトポジションがDポジションへ戻されたときに、駆動力差に起因した車両姿勢の変化が適切に抑制される。
また、本実施例によれば、シフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられた後のDポジションへ戻されたときに、後輪側配分率Xrが前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御されるので、シフトポジションがDポジションへ戻されたときの前輪14と後輪16との駆動力差が抑制される。
また、本実施例によれば、シフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられてからのNポジションの継続時間が所定時間TMa以内である場合には、シフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられたときの後輪側配分率Xrが維持されるので、後輪側配分率Xrの頻繁な変化による走行安定性の悪化を抑制することができる。
また、本実施例によれば、シフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられたときの後輪側配分率Xrに対するシフトポジションがDポジションへ戻される際の後輪側配分率Xrの低下が、車両旋回時には車両直進時に比べて制限されるので、シフトポジションがDポジションへ戻されたときの四輪駆動車両10の走行安定性と、四輪駆動車両10の旋回性能との両立を図ることができる。
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
前述の実施例1では、自動変速機28のシフトポジションがNポジションからDポジションへ戻されたタイミングに合わせて、後輪側配分率Xrが前後輪の駆動力配分が均衡する方向に変更された。後輪側配分率Xrを変更する電動モータ制御指令信号Swの出力から実際に前後輪の駆動力配分の変更が完了するまでの時間を考慮すると、シフトポジションがDポジションへ戻されたときに、トランスファ30に実際に入力される駆動力の配分が確実に均衡する方向に変更させられる為には、シフトポジションがDポジションへ戻される前のNポジションにあるときに、後輪側配分率Xrが前後輪の駆動力配分が均衡する方向に変更されても良い。
四輪駆動制御部136は、自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられた後のNポジションとされているときに、後輪側配分率Xrを前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御する。
自動変速機28のシフトポジションがNポジションとされているときに、駆動力源PUからの駆動力の出力が制限される場合、シフトポジションがNポジションからDポジションへ戻されたタイミングで要求駆動力Frdemに応じた駆動力が駆動力源PUから出力される。第1回転機MG1や第2回転機MG2の駆動力の出力応答性は、エンジン12の駆動力の出力応答性よりも早い。自動変速機28のシフトポジションがNポジションとされているときに後輪側配分率Xrを前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御することは、本実施例のように駆動力源PUが第1回転機MG1や第2回転機MG2のような回転機を含んでいる場合に有用である。
自動変速機28のシフトポジションがNポジションとされているときに後輪側配分率Xrを前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御するに際して、自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられてからのNポジションの継続時間によっては、走行中にDポジションとNポジションとの間での自動変速機28のシフトポジションの切替えが短時間に連続して行われると、前述の実施例1で示したと同様に、後輪側配分率Xrが頻繁に変化させられて四輪駆動車両10の走行安定性を悪化させるおそれがある。
そこで、四輪駆動制御部136は、自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられてからのNポジションの継続時間が所定時間TMbを超えているという条件が成立している場合に、シフトポジションがNポジションとされているときに、後輪側配分率Xrを前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御する。見方を換えれば、四輪駆動制御部136は、自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられてからのNポジションの継続時間が所定時間TMb以内である場合には、シフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられたときの後輪側配分率Xrを維持する。所定時間TMbは、後輪側配分率Xrが頻繁に変化させられることを防止する為の予め定められた閾値である。所定時間TMbは、所定時間TMaと同値であっても良いし、異なる値であっても良い。
図9は、前後輪の駆動力配分が不均衡な状態での走行中に自動変速機28のシフトポジションがDポジションとNポジションとの間で切り替えられた場合のタイムチャートの一例を示す図である。図9は、前述の実施例1の図8とは別の実施例である。
図9において、t1b時点は、前後輪の駆動力配分が20:80の状態での走行中に自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられた時点を示している。t2b時点は、t1b時点からのNポジションの継続時間が所定時間TMbを超えたタイミングに合わせて、シフトポジションがNポジションとされているときに後輪側配分率Xrが前後輪の駆動力配分が均衡する方向に変更された時点を示している。これにより、自動変速機28のシフトポジションがNポジションからDポジションへ切り替えられたときには(t3b時点参照)、実際に前後輪の駆動力配分の50:50の均衡した状態への変更が完了させられている。t4b時点以降に示した、自動変速機28のシフトポジションのDポジションとNポジションとの間での連続した切替えでは、Nポジションの継続時間が何れも所定時間TMb以内である為、前後輪の駆動力配分が変更されない。
上述のように、本実施例によれば、前述の実施例1と同様に、車両走行中に自動変速機28のシフトポジションがDポジションへ戻されたときの四輪駆動車両10の走行安定性を向上することができる。
また、本実施例によれば、自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられた後のNポジションとされているときに、後輪側配分率Xrが前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御されるので、シフトポジションがDポジションへ戻されたときに、出力軸50からトランスファ30に実際に入力される駆動力の配分が確実に均衡する方向に変更させられる。つまり、シフトポジションがDポジションへ戻される際に出力軸50からトランスファ30に駆動力が入力される応答性に対して、その駆動力を配分する応答性が追い付かないことを防止できる。見方を換えれば、応答良くシフトポジションをDポジションに戻すことができる。
また、本実施例によれば、駆動力源PUが第1回転機MG1や第2回転機MG2のような回転機を含んでいる場合に、シフトポジションがNポジションとされているときに後輪側配分率Xrが前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御されるので、駆動力源PUが駆動力の出力応答性が早い回転機でも、シフトポジションがDポジションへ戻されたときに、出力軸50からトランスファ30に実際に入力される駆動力の配分が確実に均衡する方向に変更させられる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、四輪駆動車両10は、後輪側配分率Xrが1.0~0.5の間、すなわち前後輪の駆動力配分が0:100~50:50の間で調節される四輪駆動車両であったが、この態様に限らない。例えば、後輪側配分率Xrが1.0~0.4の間、すなわち前後輪の駆動力配分が0:100~60:40の間で調節されるような四輪駆動車両であっても、本発明を適用することができる。極論すれば、後輪側配分率Xrが1.0~0の間で調節されるような四輪駆動車両であっても、本発明を適用することができる。このような四輪駆動車両では、後輪側配分率Xrが例えば0.4から0.5となるように増加させることで前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御される場合もある。要は、本発明は、車両走行中に自動変速機28のシフトポジションがDポジションからNポジションへ切り替えられた後にDポジションへ戻される際の、前輪14と後輪16とに配分する駆動力源PUからの駆動力の割合が、前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御されれば良い。
また、前述の実施例では、後輪側配分率Xrの目標値を例えば0.5(すなわち、前後輪の駆動力配分の目標値を50:50)に設定し、後輪側配分率Xrが0.5となるようにトランスファ30の前輪駆動用クラッチ70のトルク容量を制御することで、後輪側配分率Xrを前後輪の駆動力配分が均衡する方向に制御したが、この態様に限らない。例えば、前後輪の駆動力配分が均衡する方向であれば良く、後輪側配分率Xrの目標値を0.5に設定する必要はない。具体的には、図8の実施例では、前後輪の駆動力配分が50:50の均衡した状態に変更されているが、後輪側配分率Xrの目標値を例えば0.6等に設定し、前後輪の駆動力配分が40:60等に変更されても良い。つまり、前後輪の駆動力配分が均衡する方向であれば、50:50のバランスに限らない。前後輪の駆動力配分が40:60に変更される場合でも、20:80の状態から見れば前後輪の駆動力配分が均衡する方向である。Dポジションへ戻された後の走行状態によっては、後輪側配分率Xrが0.5とされない方が適切である場合もある。
また、前述の実施例では、自動変速機28のシフトポジションが走行ポジションからNポジションへ切り替えられた後に走行ポジションへ戻される場合の走行ポジションとして、Dポジションを例示したが、この態様に限らない。上記走行ポジションがRポジションであっても、本発明を適用することができる。
また、前述の実施例の図7のフローチャートにおいて、S30における、Nポジションの継続時間が所定時間TMaを超えているか否かの判定は必ずしも必要ない。このようにしても、車両走行中に自動変速機28のシフトポジションがDポジションへ戻されたときの四輪駆動車両10の走行安定性を向上することができるという一定の効果は得られる。
また、前述の実施例では、四輪駆動車両10は、FR方式の車両をベースとする四輪駆動車両であり、又、走行状態に応じて二輪駆動及び四輪駆動が切り替えられるパートタイム式の四輪駆動車両であり、又、エンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2を駆動力源とするハイブリッド車両であり、又、無段変速部44と有段変速部46とを直列に有する自動変速機28を備えた四輪駆動車両であったが、この態様に限らない。例えば、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式の車両をベースとする四輪駆動車両、又は、フルタイム式の四輪駆動車両、又は、回転機のみを駆動力源とする電気自動車やエンジンのみを駆動力源とする車両であっても、本発明を適用することができる。又は、自動変速機として、公知の遊星歯車式自動変速機、公知のDCT(Dual Clutch Transmission)を含む同期噛合型平行2軸式自動変速機、公知のベルト式無段変速機、又は公知の電気式無段変速機などを備えた四輪駆動車両であっても、本発明を適用することができる。尚、FF方式の車両をベースとする四輪駆動車両の場合には、前輪が主駆動輪となり、後輪が副駆動輪となり、前輪側配分率Xfが主側配分率となる。差動制限クラッチを有する中央差動歯車装置(センターデフ)を備えたフルタイム式の四輪駆動車両の場合には、センターデフの差動を制限する差動制限クラッチの非作動時に、例えば前後輪の駆動力配分が30:70等の所定の駆動力配分とされ、差動制限クラッチが作動することで前後輪の駆動力配分が50:50に変更される。要は、駆動力源と、前記駆動力源からの駆動力を駆動力伝達軸へ伝達する自動変速機と、前記駆動力を前記駆動力伝達軸から前輪及び後輪に伝達可能であり且つ前記前輪と前記後輪とに配分する前記駆動力の割合を調節可能である駆動力配分装置と、前記駆動力の割合を制御する制御装置とを備える四輪駆動車両であれば、本発明を適用することができる。
また、前述の実施例では、トランスファ30を構成する前輪駆動用クラッチ70のピストン84は、電動モータ86が回転すると、カム機構90を介して摩擦係合要素82側に移動させられ、摩擦係合要素82を押圧するように構成されていたが、この態様に限らない。例えば、電動モータ86が回転すると、回転運動を直線運動に変換するボールねじ等を介してピストン84が摩擦係合要素82を押圧するように構成されるものであっても良い。又は、ピストン84が油圧アクチュエータによって駆動させられるものであっても良い。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。