JP7471078B2 - 軟化抵抗、強度と伸びのバランス、耐摩耗性に優れた多元系合金 - Google Patents

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本発明は多成分系からなる合金に関するものである。
近年、合金材の一種として、ミディアムエントロピー合金(1.0R≦ΔSmix≦1.5R)やハイエントロピー合金(ΔSmix≧1.5R)と呼ばれる多成分系からなる合金が注目されている。(ΔSmixは混合のエントロピー、Rは気体定数を示す。)
例えば、Ti、V、Fe、Niを含有するとともに、Cu、Al、Mo、Zr、Co、Cr、Pdから1種類以上選ばれた多元系合金が提案されている(特許文献1参照。)。この合金は、高硬度、高耐熱性、高耐食性の合金を提案している。
また、Co、Cr、Fe、Ni、Ti、Al、Moを含んだ多元系合金が提案されている。この合金は、合金組成・微細組織の均質性に優れ、かつ形状制御性に優れた合金部材を提案している。(特許文献2参照。)
さらに、Co、Cr、Fe、Niを含んだ多元系合金また、Co、Cr、Fe、Ni、Cを含んだ多元系合金の鋳造材が提案されている。(非特許文献1参照。)この合金は、Cを添加することによる耐摩耗性に優れた合金を提案している。
特開2002-173732号公報 特開2018-145456号公報
Huang T D,et al.:Science China Technological Sciences,Vol.61(2018),117-123
特許文献1に開示された多元系合金によると、高硬度が得られるものの、脆性相が析出しうる。脆性相が存在すると、破壊の起点となる。そこで、この多元系合金の伸びは不十分である。また、耐摩耗性についても考慮されていない。
特許文献2に開示された多元系合金では、合金組成・微細組織の均質性に優れ、かつ形状制御性に優れた合金部材を提供しているが、金属間化合物であるNi3(Al,Ti)が生成する。この金属間化合物は、破壊の起点となり得る。そこで、この多元系合金から得られた成形品の伸びは、十分ではない。
非特許文献1では、C無添加の合金を提案しているが、単相固溶体が形成されることで、高温域での軟化抵抗が小さくなる。また、C添加の合金ではC無添加の合金と比較し、耐摩耗性に優れた合金を提供しているが、炭化物が網状に析出しており、強度と伸びのバランスに劣っている。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、軟化抵抗、強度と伸びのバランス、耐摩耗性が改善された優れた多元系合金を提供することである。
本発明の課題を解決するための第1の手段は、Co、Cr、Fe、Niの各元素をそれぞれ5原子%以上35原子%以下の範囲で含み、Cを0.47原子%以上8.74原子%以下の範囲で含むことで、計100原子%となる多元系合金であって(ただし不可避的不純物を含む。)、合金中の炭化物サイズが円相当径で15μm以下であり、引張強度が750MPa以上かつ、伸びが5%以上であり、混合のエントロピーが1.1R以上であることを特徴とする多元系合金である。
その第2の手段は、Co、Cr、Fe、Niの各元素をそれぞれ5原子%以上35原子%以下の範囲で含み、Cを0.47原子%以上8.74原子%以下の範囲で含み、
さらにV、Mo、Nb、W、Ti、Zr、Cu、Al、Mn、Siのいずれか1種以上をV、Mo、Nb、W、Ti、Zr、Cu、Al、Mnについては20原子%以下、Siについては10原子%以下の範囲で含むことで、計100原子%となる多元系合金であって(ただし不可避的不純物を含む。)、合金中の炭化物サイズが円相当径で15μm以下であり、引張強度が750MPa以上かつ、伸びが5%以上であり、混合のエントロピーが1.1R以上であることを特徴とする多元系合金である。
本発明の多成分系からなる合金によると、C無添加の合金に対して例えば870℃などの高温においても軟化抵抗が高く、強度と伸びのバランスが優れ、耐摩耗性に優れる合金を提供することができる。
Co、Cr、Fe、Niをそれぞれ24.06原子%、Cを3.76原子%とした組成における走査型電子顕微鏡(SEM)によって撮影された反射電子像である。
発明の実施の形態に先立って、各化学成分について規定する理由を説明する。
(Co、Cr、Fe、Niをそれぞれ5原子%以上35原子%以下の範囲で含むこと)
主要成分であるCo、Cr、Fe、Niは添加量を等原子%に近づけるほど、混合のエントロピーが増大する。混合のエントロピーが増大することにより、混合状態の安定化、複雑な微細構造による緩和拡散、構成元素の原子半径の差による格子歪からなる高硬度化などの効果がみられる。
そこで、この観点から、Co、Cr、Fe、Niの4元素をそれぞれ5原子%以上35原子%以下の範囲で含むものとする。さらに、これらの4元素を好ましくはそれぞれ10原子%以上30原子%以下の範囲で含むものとする。さらに、これらの4元素をより好ましくはそれぞれ15原子%以上25原子%以下の範囲で含むものとする。
(Cを0.47原子%以上8.74原子%以下の範囲で含むこと)
Cは、Crと結合して炭化物を形成する元素である。この炭化物は、合金の高硬度に寄与する。この観点から、Cの含有率は0.47原子%以上であることが好ましい。より好ましくは、Cは1.39原子%以上である。さらに特に好ましくは、Cは2.30原子%以上である。
他方、Cの含有率が過剰であると、合金の伸びが低下する。そこで、優れた伸びの観点からは、Cの含有率は8.74原子%以下が好ましい。より好ましくは、Cは6.67原子%以下であり、さらに特に好ましくは、Cは4.53原子%以下である。
(V、Mo、Nb、W、Ti、Zr、Cu、Al、Mn、Siのいずれか1種以上をV、Mo、Nb、W、Ti、Zr、Cu、Al、Mnについては20原子%以下、Siについては10原子%以下の範囲で含むこと)
上記のCo、Cr、Fe、Ni、Cに加えて、選択的添加成分として、さらに、V、Mo、Nb、W、Ti、Zr、Cu、Al、Mn、Siのいずれか1種以上を添加することができる。添加すると、合金中に微細析出物が生成し、高い軟化抵抗に寄与する。ただし、これらの添加元素の含有率が過剰であると、合金の伸びが低下する。
これらの観点から、V、Mo、Nb、W、Ti、Zr、Cu、Al、Mnについては20原子%以下、Siについては10原子%以下の範囲で含むものとする。
そして、V、Mo、Nb、W、Ti、Zr、Cu、Alについては、好ましくは1原子%以上16原子%以下とする。さらにより好ましくは3原子%以上9原子%以下とする。
また、Mnについては、好ましくは10原子%未満とする。より好ましくはMnは1原子%未満とする。
Siについては、好ましくはSiは0.5原子%以上8原子%以下とする。より好ましくはSiは1原子%以上5原子%以下とする。
(析出物の存在について)
ところで、本発明の多元系合金は、Co、Cr、Fe、Ni、Cに加えて、さらに、V、Mo、Nb、W、Ti、Zr、Cu、Al、Mn、Siのいずれか1種以上を添加してもよい。添加すると、合金中に微細析出物が生成し、高い軟化抵抗に寄与する。
ただしこれらの添加元素の含有率が過剰であると、脆性相が生成し、合金の伸びが低下する。
この観点から、好ましくはBCC相・FCC相・炭化物相以外で5μm以上の析出物が存在しないこととする。より好ましくはBCC相・FCC相・炭化物相以外で1μm以上の析出物が存在しないことが望ましい。
(不可避的不純物について)
本発明の多元系合金に含有されることが許容される不可避的不純物の元素について説明する。本発明の多元系合金に含有される不可避的不純物の元素としては、例えば、P、S、Sn、Sb、As、O、N等が挙げられる(不可避不純物であれば、これら元素に限られるものではない。)。
ただし、Pについては、好ましくは0.005質量%以下、より好ましくは0.002質量%以下とする。
Sについては、好ましくは0.002質量%以下、より好ましくは0.001質量%以下とする。
Snについては、好ましくは0.005質量%以下、より好ましくは0.002質量%以下とする。
Sbについては、好ましくは0.002質量%以下、より好ましくは0.001質量%以下とする。
Asについては、好ましくは0.005質量%以下、より好ましくは0.001質量%以下とする。
また、Oについては、好ましくは0.001質量%以下(10ppm以下)、より好ましくは0.0003質量%以下(3ppm以下)とする。
Nについては、好ましくは0.002質量%以下(20ppm以下)、より好ましくは0.001質量%以下(10ppm以下)とする。
(合金中の炭化物サイズが円相当径で15μm以下であること)
合金中に炭化物が存在することで、高温域での軟化抵抗の向上、耐摩耗性の向上に寄与する。もっとも、合金中の炭化物サイズが過剰に大きくなると、合金の伸びが低下する。そこで、合金中の炭化物サイズは、15μm以下とする。好ましくは、合金中の炭化物サイズは、13μm以下とする。さらにより好ましくは、合金中の炭化物サイズは、10μm以下とする。
(混合のエントロピーが1.1R以上であること)
まず、本発明の混合のエントロピーは以下の式(1)で求めることができる。
Figure 0007471078000001
ただし、式中、cはi番目成分のモル分率である。
上記の式(1)に従って計算すると、例えば、Cを1原子%添加したCoCrFeNi等原子量合金の場合の混合のエントロピーは1.43Rであり、ステンレス鋼であるSUS304(Fe-18Cr-8Ni)の場合の混合のエントロピーは0.74Rとなる。混合のエントロピーが増大することにより、混合状態の安定化、複雑な微細構造による緩和拡散、構成元素の原子半径の差による格子歪からなる高硬度化などの効果がみられる。この観点から、混合のエントロピーは1.1R以上とする。好ましくは、混合のエントロピーは1.2R以上とする。より好ましくは、混合のエントロピーは1.3R以上とする。
以下、本発明について実施例および比較例によって具体的に説明する。
表1に、本発明の実施例および比較例の各多元系合金の化学成分を原子%で示す。
Figure 0007471078000002
[バルクの製造について]
まず、実施例、比較例として、表1に示す組成のように、等モル組成のCoCrFeNiをベースとしてC量を振った原料、加えて等モル組成のCoCrFeNiに1元素添加してC量を振った原料、Co、Cr、Fe、Niの添加量がそれぞれ異なる原料について、それぞれガスアトマイズ法により所定の成分の粉末を作製し、300μm以下に分級した。
ガスアトマイズは、アルミナ製坩堝を溶解に用い、坩堝下の直径5mm のノズルから合金溶湯を出湯し、これに高圧アルゴンを噴霧することで実施した。その後、1170℃でHIP処理して固化成形し、1100℃で鍛造加工を行ったのち、空冷した。
さらに、比較例として、上記の作製法のほかに、等モル組成のCoCrFeNiをベースとしてC量を振った原料に対して、アーク溶解法によって鋳造材を作製した。
[炭化物サイズについて]
炭化物サイズは、鍛造後の試料から、縦10mm、横10mm、長さ10mmの角材を切り出し、走査型電子顕微鏡(SEM)にて4000倍の反射電子像を確認し、画像解析ソフトにより円相当径の炭化物のサイズを算出した。
なお、比較例15~18のように炭化物の形状が編み目状のものは塊状ではないのでサイズが観念できないものとして、評価外とした。
[混合のエントロピー]
各実施例、比較例の混合のエントロピー(ΔSmix)は、表1の化学成分と式(1)に基づいて算出した。
表2にロックウェル硬さ試験、引張試験、大越式摩耗試験の結果、析出物のサイズを示す。
Figure 0007471078000003
[硬さ]
硬さの評価方法として、鍛造後もしくは鋳造後の各試料についてロックウェル硬さ試験を行った。試験は鍛造後もしくは鋳造後熱処理なしの試料と、鍛造後もしくは鋳造後870℃、1時間熱処理後の試料に対して試験を行った。表2では、室温でのロックウェル硬さと870℃熱処理後のロックウェル硬さの差分の値を「室温と870℃熱処理後のロックウェル硬さの差分」として示している。
なお、各実施例におけるロックウェル硬さの値を具体的に摘示すると、例えば、実施例No.4の合金の室温でのロックウェル硬さは、100.7HRBであり、870℃熱処理後のロックウェル硬さは99.6HRBであった。
また、実施例No.10の合金の室温でのロックウェル硬さは、103.4HRBであり、870℃熱処理後のロックウェル硬さは103.1HRBであった。
実施例No.15の合金の室温でのロックウェル硬さは、104.0HRBであり、870℃熱処理後のロックウェル硬さは101.4HRBであった。
このように、実施例No.1から実施例No.18において、室温でのロックウェル硬さは、98.1HRB~105.2HRB、870℃熱処理後のロックウェル硬さは、90.2HRB~103.8HRBの範囲にあった。
そして、本発明においては、室温と870℃熱処理後のロックウェル硬さの差分(HRB)が10HRB以下であることを、軟化抵抗が高いものとする。
[引張試験]
強度と伸びの評価方法として、鍛造後もしくは鋳造後の試料において、JIS14A号 φ5試験片(φ5×GL25mm)を作製し、室温引張試験を行った。
本発明においては、引張強さが750MPa以上であって、かつ伸びが5%以上であることを、強度と伸びのバランスが優れているものとする。
[大越式摩耗試験]
耐摩耗性の評価方法として、鍛造後もしくは鋳造後の試料において、大越式摩耗試験を行った。なお、大越式摩耗試験の条件は、縦19mm、横41mm、厚さ6mmの試験片に対し、相手材リングSCM420、荷重6.3kg、摩耗距離200m、摩耗速度2.38m/s、および乾式とした。
本発明においては、比摩耗量が4.0×10-6mm2/kg以下であることを、耐摩耗性に優れているものとする。
[析出物サイズ]
析出物サイズは、鍛造後の試料から、縦10mm、横10mm、長さ10mmの角材を切り出し、走査型電子顕微鏡(SEM)にて4000倍の反射電子像を確認した。
実施例No.1から実施例No.18に係る合金は、いずれも室温と870℃熱処理後のロックウェル硬さの差分(HRB)が10HRB以下であって、引張強さが750MPa以上かつ伸びが5%以上であって、比摩耗量が4.0mm2/kg以下であった。なお、析出物サイズは、検出限界以下であった。
これらの結果から、本発明の多元系合金は、例えば870℃などの高温における軟化抵抗が高いこと、強度と伸びのバランスが優れていること、耐摩耗性に優れていることが確認された。
他方、比較例No.1、比較例No.2に係る合金は、Cが過小なので、炭化物の体積率が小さく、高い軟化抵抗、優れた耐摩耗性が得られなかった。
比較例No.3に係る合金は、Cが過剰なので炭化物の体積率が大きく、十分な伸びが得られなかった。
比較例No.4に係る合金は、混合のエントロピーが小さく、十分な強度が得られなかった。
比較例No.5~比較例No.14に係る合金は、添加元素量が過剰なので、脆性相が生成し、十分な伸びが得られなかった。
比較例No.15~比較例No.18に係る合金は、非特許文献1のCを添加したCoCrFeNi合金に相当する。析出した炭化物は事実上円形でもなく、網状に析出していたため、強度と伸びのバランスが劣った。

Claims (2)

  1. Co、Cr、Fe、Niの各元素をそれぞれ5原子%以上35原子%以下の範囲で含み、Cを0.47原子%以上8.74原子%以下の範囲で含むことで、計100原子%となる多元系合金であって(ただし不可避的不純物を含む。)、
    合金中の炭化物サイズが円相当径で1.1μm以上15μm以下であり、引張強度が750MPa以上かつ、伸びが5%以上であり、混合のエントロピーが1.1R以上であることを特徴とする多元系合金。
  2. Co、Cr、Fe、Niの各元素をそれぞれ5原子%以上35原子%以下の範囲で含み、Cを0.47原子%以上8.74原子%以下の範囲で含み、
    さらにV、Mo、Nb、W、Ti、Zr、Cu、Al、Mn、Siのいずれか1種以上をV、Mo、Nb、W、Ti、Zr、Cu、Al、Mnについては20原子%以下、Siについては10原子%以下の範囲で含むことで、計100原子%となる多元系合金であって(ただし不可避的不純物を含む。)、
    合金中の炭化物サイズが円相当径で1.1μm以上15μm以下であり、引張強度が750MPa以上かつ、伸びが5%以上であり、混合のエントロピーが1.1R以上であることを特徴とする多元系合金。
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