JPWO2019045001A1 - 合金板及びガスケット - Google Patents
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Abstract
Description
本願は、2017年08月30日に、日本に出願された特願2017−165401号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
また、ガスケット等に使用される合金板において、γ´相の析出量を一定以下に制御する事で、高温強度を維持できる事を知見した。ただし、γ´相の同定と面積率の確認は可能であるものの、γ´相は微細でかつ母相との結晶構造とも近いので定量的な評価を行うためには、非常に時間を要する。
本発明者らが検討を行った結果、円相当径150nm以下の微細な相を「微細第二相」と定義し、この微細第二相の析出量を一定以下に制御する事で、十分な高温強度を維持できる事を知見した。この微細第二相は、主にγ´析出物であり、他の析出物(炭化物、窒化物、γ´相以外の金属間化合物)や晶出物も含まれる場合があるが、その量は多くない。微細第二相の同定と析出量の確認は簡便に行える。
また、高温強度の向上に寄与する微細第二相が存在しない状態でも、冷間圧延後に焼鈍等の熱処理を行わない(冷延まま)とすることで、高温強度が確保できることも知見した。
本発明者らがさらに検討を行った結果、自動車のエンジン排気系部材のガスケットとして使用される際に析出するγ´相のTiの組成が一定範囲内になるように、合金板を制御することによって、より優れた耐過時効後へたり性が得られることを知見した。
(1)化学組成
はじめに本実施形態に係る合金板の化学組成について説明する。
Cは、Ti、Nbおよび/またはCr等と結びついて炭化物を生成し、その炭化物は析出強化相として作用する元素である。C含有量が0.0020%未満であると、合金板の常温強度及び高温強度が低下する。また、精錬コストも増加する。したがって、C含有量は、0.0020%以上であり、好ましくは0.0040%以上である。
一方、C含有量が0.1000%を超えると、合金板の加工性が劣化する。またCr炭化物の増加により耐食性が低下する。さらに、C含有量が0.1000%を超えると、γ´相生成元素であるTi、Nb等が炭化物として析出する。その結果、本実施形態に係る合金板をガスケットに適用した際に、使用中に析出するγ´相析出量が減少する。この場合、過時効による強度低下を十分に抑制することができない。すなわち、耐過時効後へたり性が低下する。
したがって、C含有量は、0.1000%以下である。合金板に加工度が高い成形を行う場合には、加工性の点からC含有量は、好ましくは0.0300%以下であり、より好ましくは0.0200%以下、0.0150%以下、または0.0100%以下である。
Siは、精錬の際に脱酸元素として添加される元素である。また、Siは、合金板の耐酸化性および高温強度を改善する元素である。Si含有量が0.020%を下回ると、精錬コストが増加する上、合金板の耐酸化性および高温強度、時効時の硬さ増加量が低下する。したがって、Si含有量は、0.020%以上である。好ましくは0.030%以上である。
一方、Si含有量が2.000%を超えると、合金板が硬質化し、加工性が劣化する。また、強化に寄与しない析出物相が生成することで、ガスケット等に適用した場合に、使用中に析出するγ´相析出量が減少し、耐過時効後へたり性が低下する。したがって、Si含有量は、2.000%以下である。合金板に加工度の高い成形を行う場合には、好ましくは1.000%以下、0.800%以下、0.50%以下、または0.30%以下である。
Mnも、Siと同様に、精錬の際に脱酸元素として添加される元素である。Mn含有量が0.020%を下回ると、精錬コストが増加する。したがって、Mn含有量は、0.020%以上である。好ましくは0.050%以上であり、より好ましくは0.070%以上である。
一方、Mn含有量が2.000%を超えると、合金板の高温での耐酸化性が劣化し、また、材質が硬質化する。また、強化に寄与しない析出物相が生成することで、ガスケット等に適用した場合に、使用中に析出するγ´相析出量が減少し、耐過時効後へたり性が低下する。したがって、Mn含有量は、2.000%以下である。合金板の耐酸化性および製造の安定性の観点から、好ましくは1.500%以下、1.000%以下、または0.500%以下である。
Pは、合金板の原料となるフェロクロムに不可避的に含有される不純物であり、熱間加工性や靭性に対して有害な元素である。しかしながら、0.0500%以下の含有は許容される。したがって、P含有量は、0.0500%以下である。合金板の加工性改善の観点から、好ましくは0.0500%未満、0.0350%以下、または0.0200%以下である。
P含有量は少ない方が好ましいが、精錬時に脱Pを行うことは大変困難である。また、P含有量を抑制するためには原料としてP濃度が低いフェロクロムを用いることができるが、P濃度が低いフェロクロムは高価である。そのため、P含有量を、0.0050%以上、または0.0100%以上としてもよい。
Sは、原料に不可避的に含まれる不純物であり、合金板の熱間加工性や耐食性に対して有害な元素である。S含有量が低いほど熱間加工性および耐食性が向上するが、0.0100%以下の含有は許容される。したがって、S含有量は、0.0100%以下であり、好ましくは0.0100%未満、0.0050%以下、0.0030%以下、または0.0010%以下である。
S含有量は低いほど好ましいが、S含有量を0.0002%未満に低減すると、脱硫負荷が増大し、精錬コストが上昇する。したがって、S含有量は、0.0002%以上としてもよい。
Crは、合金板の耐酸化性および耐食性を向上させる元素であり、また、オーステナイト相の固溶強化に寄与する元素である。Cr含有量が12.00%未満であると、高温耐酸化性や耐食性が十分に得られない。また、オーステナイト相の固溶強化効果が十分でなく、高温での時効後に十分な強度が得られない。したがって、Cr含有量は、12.00%以上である。好ましくは14.00%以上である。
一方、Cr含有量が30.00%超であると、合金板の加工性が低下し、また、靭性が劣化する。また、母相であるオーステナイト相の安定度が低下し、耐過時効後へたり性が低下する。したがって、Cr含有量は、30.00%以下である。合金板の製造の安定性の観点から、好ましくは27.50%以下であり、より好ましくは25.00%以下、または20.00%以下である。
Niは、母相であるオーステナイト相を安定化させるとともに、析出強化相であるγ´相[Ni3(Al,Ti,Nb)]を生成する元素である。そのため、Niは、合金板の耐酸化性ならびに、耐過時効後へたり性および高温強度(以下、耐過時効後へたり性及び高温強度を合わせて、耐熱性という場合がある)を確保するために、極めて重要である。Ni含有量が30.00%以下であると、十分な耐熱性が得られない。そのため、Ni含有量は、30.00%超である。好ましくは35.00%以上、または40.00%以上である。
一方、Ni含有量が60.00%超であると、合金コストの増加に加えて、熱間加工性が低下する。したがって、Ni含有量は、60.00%以下である。好ましくは53.00%以下、または50.00%以下である。
Nは、母相であるオーステナイト相の固溶強化に寄与する元素である。しかしながら、Nは窒化物を生成して合金板の加工性を低下させる元素でもある。また、Nは、γ´相生成元素であるTi、Nb等を窒化物として析出させるので、N含有量が多くなると、本実施形態に係る合金板をガスケットに適用した際に、使用中に析出するγ´相析出量が減少し、耐熱性が低下する。したがって、N含有量は、0.0200%以下である。合金板に求められる加工度が厳しい場合には、0.0150%以下、または0.0100%以下であることが好ましい。
一方、N含有量を0.0005%未満に低減すると精錬コストが増加するだけでなく、耐食性や高温強度が低下する。また、オーステナイト相の固溶強化効果が十分でなく、高温での時効後に十分な硬さが得られない場合がある。したがって、N含有量は、0.0005%以上である。合金板の製造の安定性および十分な高温強度の確保の観点から好ましくは0.0010%以上である。
Alは、合金板の析出強化に寄与するγ´相を構成し、TiやNbに比べて熱間加工性を低下させずに合金板の耐熱性の向上に寄与する元素である。したがって、Al含有量は、2.000%超である。好ましくは2.200%以上、または2.300%以上である。
一方、Al含有量が4.000%を超えると、合金板の耐高温疲労特性を低下させるσ相の析出量が増加する。また、強化に寄与しないNiAl等の析出物相が生成することで、ガスケット等に適用した場合に、使用中に析出するγ´相析出量が減少し、耐過時効後へたり性が低下する。したがって、Al含有量は、4.000%以下である。十分な耐熱性確保の観点から、好ましくは3.700%以下、3.500%以下、または3.200%以下である。
Tiは、析出強化に寄与するγ´相を構成する元素である。Tiは、γ´相に固溶することによりγ´相自体の高温強度を高め、析出強化能を高めたり、固溶強化元素として合金板の高温強度を高める。このため、Ti含有量は、0.0010%以上である。固溶強化の観点から、好ましくは0.0050%以上、0.0100%以上、0.0500%以上、または0.1000%以上である。
一方、Tiがγ´相に過剰に固溶することによりγ´相の成長が促進されるとともに、γ´相におけるTiの組成の増加に伴って、γ´相が高温強度に寄与しない別の金属間化合物相η相(Ni3Ti)に変態し易くなる。このため、高温での長期間使用時における耐過時効後へたり性が低下する。したがって、Ti含有量は、0.7000%未満である。十分な耐過時効後へたり性の確保の観点から、好ましくは0.5500%以下であり、より好ましくは0.4500%以下である。
Moは、オーステナイト相の固溶強化元素として、熱間加工性を大きく損なわずに合金板の耐熱性を大きく向上させる元素である。合金板が700℃程度の高温での使用に耐え得る耐熱性を確保するため、Mo含有量は、0.50%以上である。好ましくは0.60%以上、0.70%以上、または0.75%以上である。
一方、Mo含有量が5.00%を越えると、熱間加工時の変形抵抗が増加し、熱間鍛造や熱間圧延工程において割れが発生する。また、強化に寄与しない析出物相が生成することで、ガスケット等に適用した場合に、使用中に析出するγ´相析出量が減少し、耐過時効後へたり性が低下する。したがって、Mo含有量は、5.00%以下であり、好ましくは4.00%以下、3.00%以下、または2.00%以下である。
Nbは、Tiとともに、析出強化に寄与するγ´相を構成する元素である。γ´相へのNbの固溶量が増加するとγ´相自体の高温強度が増加し、析出強化能が高まる。700℃での使用に耐える耐熱性を確保するため、Nb含有量は1.00%超である。好ましくは1.50%以上、1.70%以上、または2.00%以上である。
一方、Nbは、凝固時に樹状晶の粒界の近傍に偏析し易い。Nbが粒界近傍に偏析すると、粒界部における強度の局所的な増加および析出物の増加により、熱間加工性が低下する。また、強化に寄与しない析出物相が生成することで、ガスケット等に適用した場合に、使用中に析出するγ´相析出量が減少し、耐過時効後へたり性が低下する。したがって、Nb含有量は、3.00%以下である。好ましくは2.80%以下である。
Cuは、融点が低く、高濃度で存在すると熱間鍛造および熱間圧延の際に溶融脆化を発生させるので、Cu含有量が多いと熱間加工性が低下する。したがって、Cu含有量は、0.50%未満であり、好ましくは0.40%以下、0.35%以下、または0.30%以下である。
一方、Cuは不純物として含まれる場合があり、Cu含有量は0.01%以上、0.05%以上、または0.10%以上としてもよい。
Coは、オーステナイト相の固溶強化に寄与する元素である。また、Coは高温での強化に寄与するγ′相の生成量を増加させる元素である。そのため、Coを含有させてもよい。Coを含有することによる上述の効果を確実に得るために、Co含有量は、好ましくは0.100%以上、または0.200%以上である。
一方、Co含有量が1.000%を超えると合金コストの増加に加え、熱間加工時の変形抵抗が増加し、熱間鍛造や熱間圧延工程において割れが発生する。したがって、Co含有量は、1.000%以下であり、好ましくは0.950%以下、0.700%以下、または0.600%以下である。
Wは、オーステナイト相への固溶強化元素として高温強度の向上に寄与する元素である。そのため、Wを含有させてもよい。Wを含有することによる上述の効果を確実に得るためには、好ましくは、W含有量は0.02%以上である。しかしながら、W含有量が5.00%を超えると、合金コストの増加に加え、熱間加工時の変形抵抗が増加し、熱間鍛造や熱間圧延工程において割れが発生する。したがって、W含有量は、5.00%以下であり、好ましくは3.00%以下、2.50%以下、または2.00%以下である。
Bは、材料が高温に曝された際に粒界に偏析し、粒界を強化することによって、高温強度の向上に寄与する元素である。そのため、Bを含有させてもよい。Bを含有することによる上述の効果を確実に得るために、B含有量は、好ましくは0.0002%以上である。
一方、B含有量が過剰になると、粒界偏析が顕著になり熱間加工性が低下する。したがって、B含有量は、0.0100%以下である。好ましくは0.0070%以下、または0.0050%以下である。
CaおよびMgは、いずれも、熱間加工性および合金板の成形性の向上に寄与する元素である。そのため、CaまたはMgのうち、いずれかを単独で含有してもよいし、2種を複合して含有してもよい。
Ca、Mgを含有することによる上述の効果を確実に得るために、Ca含有量は好ましくは0.0002%以上であり、Mg含有量は好ましくは0.0002%以上である。
一方、Ca含有量及び/またはMg含有量が過剰であると、熱間加工性が低下する。また、鋳造割れや鋳造設備における溶湯ノズルの詰まりを引き起こすことも懸念される。したがって、Ca含有量は0.0050%以下であり、好ましくは0.0040%以下、または0.0030%以下である。Mg含有量は0.0020%以下であり、好ましくは0.0015%以下である。
上記以外の残部はFeおよび不純物である。不純物としては、鉱石やスクラップ等の原材料に含まれるものや、製造工程において混入するものがある。
不純物としては例えば、V、Ta等が挙げられる。
V、Taの含有量は以下の範囲であることが好ましい。
V:0.01%以下
Vは、0.01%以下であれば、高温強度への影響が小さい。そのため、V含有量は0.01%以下であることが好ましい。
Ta:1.00%以下
Taは、1.00%以下であれば、樹状晶の粒界への偏析による熱間加工性の低下への影響は小さい。
合金中のTiとAlとの組成の比は、高温強度及び耐過時効後へたり性に影響する。そのため、本実施形態に係る合金板では、上記の通り、各元素の含有量を限定した上で、さらに、TiとAlとの原子%での比率(Ti/Al)を制御する必要がある。
本発明者らの検討の結果、図1に示すように、Ti/Alが0.001未満の場合、700℃での0.2%耐力(高温強度)が400MPaを下回ることが分かる。そのため、Ti/Alを0.001以上とする。
一方、Ti/Alが高いと、700℃で累計1000時間時効した際の、最大硬さと、最大硬さ計測時よりも後の時間における最小硬さとの差(700℃時効時の断面硬度低下代)が120Hvを超える、すなわち、耐過時効後へたり性が低下することが分かる。また、Ti/Alが高いと、高温強度の向上に寄与するγ′相の形状が球状から直方体状に変化し、γ′相が成長した際に疲労破壊の起点となる恐れがある。このため、Ti/Alは、0.100以下とする。疲労破壊抑制の観点から好ましくは0.090以下である。
本実施形態に係る合金板は、金属組織が、母相としてのオーステナイト相と、円相当径が150nm以下の微細第二相を含み、金属組織における微細第二相の面積率が0〜8%である。
本実施形態に係る合金板において、円相当径が150nm以下の微細第二相は、析出物であるγ′相が主であるが、酸化物、炭化物、窒化物等の晶出物も含む場合がある。円相当径が150nm以下の微細第二相は、合金板が高温の状態に長時間(ガスケットとしての使用を想定すれば、例えば700℃で1000時間)さらされた場合の、耐過時効後へたり性に影響を与える。微細第二相の面積率が8%を超えると過時効時の組織劣化を抑制できず、耐過時効後へたり性が劣る。そのため、本実施形態に係る合金板では、金属組織における微細第二相の面積率を8%以下とする。好ましくは7%以下、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは4%以下、一層好ましくは2%以下である。また、好ましくは、γ′相の面積率が6%以下、または4%以下である。微細第二相は含まれなくてもよく、微細第二相が0%の場合には、金属組織はオーステナイト単相であってもよい。
700℃で1000時間以上焼鈍した後のγ´相のTiの含有量が3.5原子%未満であれば、ガスケットとして長期間使用時の耐過時効後へたり性をより確実に向上させることができる。この理由を以下で詳しく説明する。
(a)γ´相中にTiが固溶することによりγ´相の格子定数が変化し、オーステナイト相との界面エネルギーが増加すること、
(b)Tiと同様にγ´相の格子定数を変化させるNb等の合金元素と比べて、Tiはオーステナイト相中の高温での拡散速度が速いこと、
(c)準安定相であるγ´相中のTiの組成が高くなるほど、強化に寄与しない粗大な安定相であるη相(Ni3Ti)への変化が促進されること
等に起因すると推定される。
ただし、サンプル内にAl量が原子%で10%以上50%未満である領域がない場合には、γ′相が含まれていないと判断し、再度別の場所からサンプルを採取すればよい。
本実施形態に係る合金板は、本発明は、45%超、99%以下の累積圧下率の冷間圧延後、熱処理を行わずに製造される。その結果、組織が冷間圧延ままの組織となり、オーステナイト相の結晶粒の、長軸の長さL1と短軸の長さL2との比の平均値であるL1/L2が、3.0超、10.0以下である。
本実施形態に係る合金板では、冷間圧延ままの組織とすることで、L1/L2が3.0超となり、合金板において高温強度(例えば700℃での0.2%耐力)を向上させることができる。L1/L2が3.0未満の場合には、十分な高温強度が得られない。そのため、ガスケットへの適用を考慮した場合、使用初期の高温強度を確保できないことが懸念される。
一方、L1/L2が10.0超となるような冷間圧延を行うと、転位密度が高くなりすぎる。この場合、高温におけるγ´相の成長速度が大きくなり耐過時効後へたり性が低下するので好ましくない。また、加工による母相の粒の分断等が起こることから、通常の冷間圧延を行うだけではアスペクト比が10を超える事はない。
L断面(圧延方向に平行で板厚面に平行な断面)が観察面となるようにサンプルを採取し、表面研磨及びエッチングする。このサンプルを、光学顕微鏡にて、板厚をtとしたとき、板厚方向で板表面よりt/6から5t/6の領域を観察領域、観察面積が125mm2以上(25mm2以上の領域を5か所以上)となるように金属組織を観察する。観察領域にて測定される金属組織を用い、観察された各結晶粒の長軸の長さL1と短軸の長さL2とからアスペクト比(L1/L2)を求め、これらを平均して算出するものとする。測定の際、双晶界面は除くものとする。本測定は画像解析ソフトを使用してもよい。
結晶粒のL1、L2は、結晶粒を楕円とみなして、その楕円の長軸、短軸をそれぞれL1、L2と定義する。圧延材の場合、圧延方向の粒径が最も長く、板厚方向の粒径が最も短くなるので、圧延方向の結晶粒の長さをL1、板厚方向の結晶粒の長さをL2としてもよい。
本実施形態に係る合金板では、700℃における0.2%耐力が400MPa以上であることが好ましい。700℃における0.2%耐力が400MPa以上であれば、合金板を加工してガスケットとして使用する際、使用初期の高温強度を確保できる。
(4)焼鈍(時効)後の特性
本実施形態に係る合金板では、700℃で25時間の焼鈍を行い、硬さを測定する工程を、40回繰り返した際の(すなわち、700℃で累計1000時間の焼鈍を行った際の)、最大硬さが400Hv以上であり、かつ最大硬さと、最大硬さが得られた測定よりも後の測定における最小硬さとの差が、120Hv以下であることが好ましい。より好ましくは100Hv以下である。
このような焼鈍後の特性が得られるような合金板であれば、耐過時効後へたり性に優れる。
対象となる合金板に、700℃で25時間の焼鈍を行い、硬さを測定する。硬さの測定は、L断面(圧延方向に平行で板厚面に平行な断面)の板厚中央部において、ビッカース硬さ試験(JIS Z 2244準拠)を荷重500gの条件(Hv0.5)で行う。
硬さを測定した後、再度合金板を700℃で25時間の焼鈍に供し、焼鈍後に同様の方法で硬さを求める。
この焼鈍−硬さ測定を、合計で40回繰り返し、700℃で25時間の焼鈍後の硬さ〜700℃で合計1000時間(25時間刻み)の焼鈍後の硬さを測定する。
そして、硬さの測定値のうち、最も高いものを最大硬さとする。また、最大硬さと最小硬さとの差を算出する。ただし、ここで用いる最小硬さは、最大硬さを測定した測定タイミングより後に得られた最小硬さとする。すなわち、100時間の焼鈍後に最大硬さが得られた場合には、125〜1000時間における最小硬さを用い、0〜75時間焼鈍後の硬さについては採用しない。
上述した化学組成を有するスラブに、熱間で粗圧延および仕上げ圧延を行って熱延合金板とする。粗圧延と仕上げ圧延との間で被圧延材を加熱(再加熱)してもよい。
熱延合金板(熱間圧延後の合金板)に対し、所定の板厚まで冷間圧延を行って合金板を得る。
また、中間焼鈍を行っても、最終工程は冷間圧延である。最終の冷間圧延では、圧下率を45%超、99%以下とすることが好ましい。より好ましくは45%超、80%以下である。
700℃より高い温度域での冷却速度が遅いと、γ´相が多く生成する。また、この温度域で生成するγ´相は、合金中にわずかでもTiが含まれると、3.5原子%を超える高いTiを含有する組成を有する。このようなγ´相は、中間焼鈍の冷却後、最終の冷間圧延後にも、そのままの組成で残存する。そして、高温での長期間使用時に、γ´相の、粒成長と強化に寄与しないη相への変態とが促進され、過時効による強度低下代が大きくなる。
したがって、最終の冷間圧延前の中間焼鈍後における、合金板の700℃までの冷却速度を15℃/s以上とすることにより、冷却途中に700℃以上で生成するTiの組成が高いγ´相の生成を抑制することが好ましい。
700℃未満の温度域においては、冷却中におけるγ´相生成は少なく、かつγ´相が生成してもγ´相中に含まれるTi含有量が低くなる。そのため、700℃未満の温度域における冷却速度を規定する必要がないが、700℃未満の温度域でのγ´相の生成を抑制し、微細第二相の面積率をさらに小さくする場合、上記の冷却を300℃以下まで行うことが好ましい。
一方、この冷却速度が高過ぎると、合金板内の温度分布が不均一になり、冷却により合金板が収縮する際に、合金板の部位による収縮量の差により、反りや波打ちといった合金板の形状不良が発生し、製造ラインの通板時にトラブルが発生したり、ガスケットとしての使用が阻害される。
このため、冷却速度は、好ましくは40℃/s以下であり、製造ラインの通板の安定性の観点からより好ましくは35℃/s以下であり、さらに好ましくは30℃/s以下である。
本実施形態に係るガスケットは、上述した本実施形態に係る合金板を素材として、所定の形状に加工されることによって得られる。このガスケットは、エンジン排気系部材の一部(例えばターボガスケット)として取り付けられるのに好適である。
ガスケットに加工された段階では、その成分及び組織は、本実施形態に係る合金板と同じである。
一方、エンジン排気系部材の一部として取り付けられたガスケットは、このエンジンを使用することによって700℃近傍に加熱される。その結果、ガスケットが時効処理されてオーステナイト相の母相にγ´相が析出する。
エンジン排気系部材の一部として使用された後の、本実施形態に係るガスケットは、本実施形態に係る合金板と同じ化学組成を有し第二相がγ´相を含み、γ´相におけるTiの含有量は3.5原子%未満であり、好ましくはNiの含有量が原子%で60%超である。
表1、2に示す化学組成(単位は質量%であり、残部はFeおよび不純物)を有する25kgインゴットを溶製した。このインゴットを熱間鍛造により厚さ45mmに成型した。その後、熱間圧延により板厚5.0mmの熱延板とし、焼鈍および酸洗後、冷間圧延により1.0mm厚の冷延板とした。
また、過時効後の硬度低下代(耐過時効後へたり性)を評価するため、対象となる合金板に700℃で25時間の焼鈍を行い、硬さを測定した。硬さの測定は、圧延方向に平行で板表面に平行な断面の板厚中央部において、ビッカース硬さ試験(JIS Z 2244準拠)を荷重500gの条件(Hv0.5)で行った。
硬さを測定した後、再度合金板を700℃で25時間の焼鈍に供し、焼鈍後に同様の方法で硬さを求めた。この焼鈍−硬さ測定を、合計で40回繰り返し、700℃で25時間の焼鈍後の硬さ〜700℃で合計1000時間(25時間刻み)の焼鈍後の硬さを測定した。硬さの測定値のうち、最も高いものを最大硬さとした。また、最大硬さを測定した測定タイミングより後に得られた最小硬さを得て、最大硬さと最小硬さとの差を算出した。
最大の硬さが400Hv以上であり、かつ断面硬度の低下代が120Hv以下である場合に、耐過時効後へたり性が良好であると判断した。
これらの例ではいずれも焼鈍後にγ´相の析出は確認されず、代わりにγ´´相の析出が確認された。このγ´´相は、Ti含有量が3.5原子%超であった。
また、表5における鋼No.49、50を用いる比較例22、23は、特許文献4の実施例の欄に記載された鋼種に相当する。これらの例では、時効時の最大硬さまたは耐過時効後へたり性が低かった。
比較例2は、C含有量が本発明の範囲の下限を下回るため、700℃における0.2%耐力が小さくなった。
比較例4は、Si含有量が本発明の範囲の下限を下回るため、700℃で最大1000時間時効を行った時効材における最大硬さが小さくなった。
比較例9は、Ni含有量が本発明の範囲の下限を下回るため、700℃で最大1000時間時効を行った時効材における最大の硬さが小さくなった。
比較例12は、Ti含有量が本発明の上限を超えるため、最大硬さと最小硬さの差が大きくなった。
比較例15は、Al含有量が本発明の範囲の下限を下回るため、最大硬さと最小硬さの差が大きくなった。
比較例17は、Mo含有量が本発明の範囲の下限を下回るため、700℃で最大1000時間時効を行った時効材における最大の硬さが小さくなった。
比較例21は、Ti含有量が本発明の範囲の下限を下回るため、700℃における0.2%耐力が小さくなった。
Claims (6)
- 化学組成が、質量%で、
C:0.0020〜0.1000%、
Si:0.020〜2.000%、
Mn:0.020〜2.000%、
P:0.0500%以下、
S:0.0100%以下、
Cu:0.50%未満、
Cr:12.00〜30.00%、
Ni:30.00%超、60.00%以下、
N:0.0005〜0.0200%、
Ti:0.0010%以上、0.7000%未満、
Nb:1.00%超、3.00%以下、
Al:2.000%超、4.000%以下、
Mo:0.50〜5.00%、
Co:0〜1.000%、
W:0〜5.00%、
B:0〜0.0100%、
Ca:0〜0.0050%、
Mg:0〜0.0020%、
を含み、残部がFeおよび不純物からなり、
原子%でのTiとAlとの比率であるTi/Alが0.001〜0.100であり、
金属組織が、母相としてのオーステナイト相と、円相当径が150nm以下の微細第二相とを含み、
前記金属組織における前記微細第二相の面積率が0〜8%であり、
前記オーステナイト相の結晶粒の、長軸の長さをL1、短軸の長さをL2とするとき、アスペクト比であるL1/L2の平均値が、3.0超、10.0以下である、
合金板。 - 700℃で25時間の焼鈍を行い、硬さを測定する工程を、40回繰り返した際の、
最大硬さが400Hv以上であり、かつ
前記最大硬さと、前記最大硬さが得られた測定よりも後の測定における最小硬さとの差が、120Hv以下である、
請求項1に記載の合金板。 - 700℃における0.2%耐力が400MPa以上である、
請求項1に記載の合金板。 - 700℃で1000時間以上の焼鈍後に、前記金属組織がγ´相を含み、前記γ´相中のTi含有量が、3.5原子%未満である、
請求項1に記載の合金板。 - 請求項1〜4のいずれか1項に記載の合金板を素材とする、ガスケット。
- 化学組成が、質量%で、
C:0.0020〜0.1000%、
Si:0.020〜2.000%、
Mn:0.020〜2.000%、
P:0.0500%以下、
S:0.0100%以下、
Cu:0.50%未満、
Cr:12.00〜30.00%、
Ni:30.00%超、60.00%以下、
N:0.0005〜0.0200%、
Ti:0.0010%以上、0.7000%未満、
Nb:1.00%超、3.00%以下、
Al:2.000%超、4.000%以下、
Mo:0.50〜5.00%、
Co:0〜1.000%、
W:0〜5.00%、
B:0〜0.0100%、
Ca:0〜0.0050%、
Mg:0〜0.0020%、
を含み、残部がFeおよび不純物からなり、
TiとAlとの原子%での比率であるTi/Alが0.001〜0.100であり、
金属組織がγ´相を含み、前記γ´相中のTi含有量が、3.5原子%未満である、
ガスケット。
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