JP6690499B2 - オーステナイト系ステンレス鋼板及びその製造方法 - Google Patents
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Description
C:0.002〜0.100%、
Si:0.02〜3.00%、
Mn:0.02〜2.00%、
P:0.050%未満、
S:0.0100%未満、
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Nb:0.50%超〜4.00%未満、
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B:0〜0.010%、
Ca:0〜0.002%及び
Mg:0〜0.002%
を含有し、残部が鉄及び不純物である組成を有し、<100>方向における(Ni+Ti)の濃度変調の平均波長が5.4nm以下であり、平均濃度振幅が3.2at%以上かつ30.0at%未満であり、700℃、400時間保持後の硬度が450Hv0.5超であることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼板。
(2)上記(1)に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法であって、到達温度が950〜1250℃の熱処理の後、下記工程(a)の後に下記工程(b)を順に実施することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。
・工程(a):圧延率10〜65%の冷間圧延を施す。
・工程(b):下記条件(1)〜(3)の何れか1つを満たす低温熱処理を施す。
(1)熱処理温度が630℃以上、640℃未満の時:熱処理時間が625秒〜13000秒
(2)熱処理温度が640℃以上、650℃未満の時:熱処理時間が325秒〜7000秒
(3)熱処理温度が650℃以上、660℃未満の時:熱処理時間が325秒〜5000秒
まず本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼板(以下、単に鋼板と記載する場合がある)の成分元素、合金元素の濃度変調および製造条件の限定理由を述べる。なお、組成についての%の表記は、特に断りがない限り質量%を意味する。
<C:0.002〜0.100%>
Cは、炭化物を生成し強化相としてはたらく。C量を過度に低減することは製鋼段階でのコスト増加を招くため、その下限値は0.002%以上とする。なお、安定的な製造性の観点からは0.005%以上とすることが好ましい。また、多量に含有されると加工性の劣化及びCr炭化物析出による鋭敏化(脆化)を招く。このため上限は0.100%以下とする。加工度の高い成形を行う場合には上限を0.030%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0.020%以下である。
Siは、脱酸元素として活用する場合や、耐酸化性の向上のために積極的に含有する場合があるが、過度な低減はコスト増加を招くため、その下限を0.02%以上とする。なお、脱酸の観点から、0.05%以上とすることが好ましい。また、Siの多量の含有は材質の硬質化による加工性低下を招くため、上限は3.00%以下とするのがよい。なお、加工度が厳しい場合は上限を1.00%以下とすることが好ましい。
MnもSi同様、脱酸元素として活用する場合があるが、Mnの過度な低減はコストの増加を招くためその下限を0.02%以上とする。なお、精錬コストの点からは、下限を0.05%以上とすることが好ましい。一方、Mnの多量の含有は、高温での耐酸化性の劣化および材質の硬質化による加工性低下を招くため、上限を2.00%以下とするのがよい。耐酸化性および製造の安定性の観点から1.50%以下とすることが好ましい。
Pは、不純物である。Pは原料から不純物元素として混入する場合があるが、その含有量は少ないほど良い。Pが多量に存在すると加工性の劣化を招くため、不純物ではあるが上限を0.050%未満に制限する。なお、加工性劣化の抑制の観点から、0.035%以下とすることが好ましい。一方、P量の下限は特に決める必要はないが、過度の低減は原料及び製鋼コストの増大に繋がるため、この点からは0.005%以上を下限としてもよく、さらには0.010%以上としてもよい。
Sは、不純物であり、原料から不純物元素として混入する場合がある。Sは、熱間加工性及び耐食性を劣化させる元素でありその含有量は少ないほど良いため、上限を0.0100%未満に制限する。また、Sの含有量が低いほど耐食性は良好であるため、好ましい上限は0.0030%未満であり、更に好ましくは0.0010%未満である。一方、Sの過度の低減は精錬コストの増加に繋がるため、下限を0.0002%以上としてもよい。
Crは、耐食性、耐熱性を確保する上で極めて重要な元素である。この効果を得るためには、Crを12.0%以上含有することが必要である。なお、耐食性及び耐熱性確保の観点から、14.0%以上とすることが好ましい。一方、Crの多量の含有は製造時の靭性劣化を招くため、上限は30.0%以下とする。なお、製造の安定性を考慮した場合は28.0%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは26.5%以下である。
Niは、析出強化相である金属間化合物を生成し耐食性、耐熱性を確保する上で極めて重要な元素である。加えて、後述するTi、Nbとの組み合わせで含有する際には薄板の加工性に大きな影響を及ぼす。Ni量が少ない場合には加工割れが発生するため、30.0%超の含有が必要である、そのため、Ni量の下限を30.0%超とする。なお、製造の安定性及び耐熱性確保の観点から、下限を37.5%以上とすることが好ましい。一方、Niの多量の含有は合金コストの増加を招くことに加え、薄板の加工性を低下させるため、上限を50.0%未満とする。なお、製造の安定性(熱間加工割れ防止)を考慮した場合は46.0%以下とすることが好ましい。
Nは、窒化物の生成により加工性を低下する場合があるため、その含有量は低い方が好ましい。そのため、Nの上限を0.0200%以下とする。加工度の厳しい場合は0.0100%未満とすることが望ましい。ただし、Nを過度に低減することは製鋼段階でのコスト増加を招くため、その下限値は0.0005%以上とする。なお、製造の安定性の観点からは0.0010%以上とすることが好ましい。
Alは、金属間化合物を構成する元素であり、耐熱性向上に寄与するため0.002%以上含有する。脱酸元素としても活用するため下限を0.005%以上とすることが好ましい。一方、Alの多量の含有は製造時の熱間加工性を劣化させることに加えて、強化相とならない析出物を生成するため上限を5.000%以下とする。製造の安定性の観点から、上限を3.500%未満とすることが望ましい。
Tiは強化相である金属間化合物Ni3Tiを構成する元素であり、本願発明においてはNbと組み合わせて含有することにより高い耐熱性を確保する。700℃での使用に耐えうる耐熱性を確保するためには3.00%超の含有が必要であり、これを下限とする。好ましい下限は3.50%以上である。一方、Tiの多量の含有は熱間加工性の低下及び薄板製造後の成形加工性を低下させるため、上限を7.50%未満とする。製造の安定性を考慮すると5.50%未満が好ましい。
Nbは耐熱性向上に有効な元素であるため、0.50%超含有する。本願発明においてはTiと複合添加により、耐熱性を極めて高める効果がある。特に高温環境で使用後のへたりを抑制する効果が大きい。Nbの含有量が多いほど耐熱性は向上するため、1.50%以上含有することが望ましい。一方、Nbの多量の含有は熱間圧延時及び冷間圧延時に割れを発生させ、引張破断伸びを低下させるため上限を4.00%未満とする。製造時の歩留まりを考慮すると3.00%未満が望ましい。
Moは耐熱性向上に有効にはたらく。これは、高温で母相が強化されることに加えて析出相を高強度化するためだと考えられる。Moを0.02%以上含有することにより、その効果が表れるため、これを下限とした。広い温度範囲での強化を目的とする場合には0.50%以上含有することが好ましい。また、Moの多量の含有は製造時の割れを誘発するため、上限を4.00%以下とする。好ましくは3.00%以下である。
B、Ca、Mgは熱間加工性及び薄鋼板の成形性向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有するとよい。したがって、これらの元素は含有しても含有しなくてもよく、それぞれの含有量の下限は0%以上である。しかし、これらの元素の多量の含有は、熱間加工性を逆に低下させるばかりか、鋳造割れ、鋳造設備における溶湯ノズルのノズル詰まり等を生じやすくするため、Bの上限を0.010%以下、Ca及びMgの上限をそれぞれ0.002%以下とする。
本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼板は、700℃程度の使用環境において金属間化合物Ni3Tiが析出することで耐熱性を確保している。本発明者らは、鋼中にNi3Tiが析出する前段階として、スピノーダル分解による濃度変調が発生することを明らかにした。この濃度変調は、700℃程度においては数分間で起こり、「Ni、Ti」および「Fe、Cr」の2グループに元素が分離するように起こる。また、この濃度変調の濃度振幅が増大することにより、最終的にNi3Tiの領域が形成されることも明らかにした。さらに、濃度変調の平均波長が、Ni3Ti粒子の個数密度を支配していることを見出した。つまり、濃度変調の平均波長が短い場合、Ni3Tiの個数密度が増えることを明らかにした。濃度変調の波長は温度により決定し、低温では短くなり、高温では長くなることが知られている。ある一定の温度に保持した場合は、必ずその温度に対応した波長の濃度変調に依拠した析出密度でNi3Tiが析出する。しかし、事前に高温使用時の温度よりも低温で熱処理を施し、波長の短い濃度変調を起こしておけば、その後、より高温(例えば700℃)で使用されても、はじめに形成された濃度変調の波長に依拠した析出密度でNi3Tiが析出することを見出した。従って、本発明の鋼板は、高温環境で使用する前に低温熱処理を施され、比較的短波長の濃度変調を形成しているため、使用温度が700℃であってもNi3Tiの個数密度を上昇させることができる。Ni3Tiの個数密度が上昇すると、高温使用時の強化量が上昇し、耐熱性が向上することとなる。
オーステナイト系ステンレス鋼の金属組織において、スピノーダル分解による濃度変調は<100>方向に沿って生じる。濃度変調の周期はナノメートルのスケールである。本発明でも低温熱処理によって鋼中の<100>方向に、(Ni+Ti)の濃度変調が10nm以下の周期で生じている。鋼材を700℃で保持した場合、100秒程度で波長が約6nmの(Ni+Ti)の濃度変調が起こり、これが進行することでNi3Ti粒子が析出する。鋼材が高温に曝されるより前に、高温で形成される濃度変調よりも短い波長の濃度変調を起こしておくことで、Ni3Tiが高密度に析出する。<100>方向における、(Ni+Ti)の濃度変調の平均波長(以下、単に平均波長と記載する場合がある)が5.4nm以下であれば、その後に700℃で保持してもNi3Tiの個数密度の増大が観察されるため、平均波長を5.4nm以下とする。なお、平均波長は、5.2nm以下とするのが好ましい。
<100>方向における、(Ni+Ti)の濃度変調の平均濃度振幅(以下、単に平均濃度振幅と記載する場合がある)が小さい場合は、強度および耐熱性の向上効果が不十分となる。平均濃度振幅が3.2at%以上であれば上記効果を得ることができるため、下限を3.2%以上とする。また、平均濃度振幅が5.5at%以上であればより安定して上記効果を得ることができる。平均濃度振幅が増大すると波長を制御する効果も上昇するが、濃度振幅の増大とともに局所的にNi3Tiの析出が始まる。Ni3Tiが局所的に析出すると、加工性が著しく低下し、プレス加工等の冷間加工時に割れが多発するため、平均濃度振幅の上限を30.0at%未満とする。好ましい平均濃度振幅の上限は、25.0at%以下である。
本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼板は、高温環境下で使用された後の硬度、具体的には700℃、400時間保持後の硬度は、450Hv0.5超である。700℃、400時間保持後の硬度が450Hv0.5超であれば、耐熱性に優れるので、これを700℃、400時間保持後の硬度の下限とした。なお、「Hv0.5」は、荷重500gfのビッカース硬度である。
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法は、化学成分を調整した鋼を鋳造した後、熱間圧延を行い、必要に応じて酸洗を行う。さらに、冷間圧延および焼鈍を1回以上行ってもよい。次いで、950〜1250℃での熱処理を行い、下記工程(a)の後に(b)を順に実施する。以下、950〜1250℃での熱処理、工程(a)および工程(b)について詳細に説明する。
この熱処理は、それ以前の圧延により歪が導入した組織を再結晶組織とすることに加えて、析出強化に寄与する金属間化合物の大半を一旦固溶させることが目的である。到達温度が950℃未満であると、金属間化合物が固溶せずに多量に残存し、冷間圧延時に割れが生じたり、冷間圧延後の延性(破断伸び)が低下してガスケット形状に成形加工することができなくなるため、下限を950℃以上とする。操業安定性を考慮した場合は980℃以上とすることが好ましい。一方、到達温度が高すぎると結晶粒径が粗大化し、その後の冷間圧延によっても十分な硬度が得られないため、上限を1250℃以下とする。材質安定化のためには1050℃未満が好ましい。熱処理の到達温度における保持時間に特に制限はないが、材質安定化のために保持時間を300s程度までにしても良い。
上記熱処理後、下記工程(a)の後に下記工程(b)を順に実施する。なお、各工程は1回ずつ行う。
・工程(a):圧延率10〜65%の冷間圧延を施す。
・工程(b):下記条件(1)〜(3)の何れか1つを満たす低温熱処理を施す。
(1)熱処理温度が630℃以上、640℃未満の時:熱処理時間が625秒〜13000秒
(2)熱処理温度が640℃以上、650℃未満の時:熱処理時間が325秒〜7000秒
(3)熱処理温度が650℃以上、660℃未満の時:熱処理時間が325秒〜5000秒
冷間圧延は、鋼中の転位密度を増加させて材料の高強度化の為に必要である。冷間圧延率(以下、単に圧延率と記載する場合がある)が10%未満では強度が低く、鋼板をガスケットに加工した際のシール性が劣る。また冷間圧延率が65%を超える場合、冷間圧延時に割れが発生しやすく、冷間圧延後の延性が不足する。したがって、工程(a)における冷間圧延率を10〜65%とする。好ましくは35〜60%である。
(1)熱処理温度が630℃以上、640℃未満の時:熱処理時間が625秒〜13000秒
(2)熱処理温度が640℃以上、650℃未満の時:熱処理時間が325秒〜7000秒
(3)熱処理温度が650℃以上、660℃未満の時:熱処理時間が325秒〜5000秒
上記条件(1)〜(3)のうち何れか1つを満足する熱処理行うことにより、スピノーダル分解による所望の平均波長および平均濃度振幅の濃度変調を起こす。平均波長が5.4nm以下の短い波長の濃度変調を起こすため、低温熱処理温度の上限を660℃未満とした。これは、熱処理温度が660℃以上であると、平均波長が5.4nm以下の濃度変調を起こすことができなくなってしまうためである。
また、製造コストの観点から、短時間で熱処理を完了させるため、熱処理温度の下限を630℃以上とした。短時間化が要求される場合は、640℃以上とすると望ましい。保持時間については、低温では長時間、高温では短時間となる。実験的な結果から、各温度範囲の熱処理時間を上記条件(1)〜(3)の様に限定した。上記条件(1)〜(3)のそれぞれの温度範囲において、熱処理時間がそれぞれの熱処理時間よりも短いと、濃度変調が不十分であり、平均濃度振幅を3.2at%以上とすることができず、低温熱処理による効果が十分に得られない。また、上記条件(1)〜(3)のそれぞれの温度範囲において、熱処理時間がそれぞれの熱処理時間より長いと、濃度振幅が増大し、Ni3Tiが局所的に生成するため加工性が著しく低下し、プレス加工時などの冷間加工時に割れが発生することが多くなる。濃度振幅を制御し、十分な加工性を維持するために、各処理温度に対する低温熱処理時間の上限を定めた。また、熱処理後の冷却方法は特に制限を設けないが、濃度変調の不必要な進行を抑えるため、空気、Ar等の気体やミスト、水などの吹き付けのいずれかによる冷却が施されるのが望ましい。
また、700℃、400時間保持の熱処理後において、鋼板の板厚中心部のビッカース硬度(Hv0.5)を測定し、鋼板の耐熱性を評価した。硬度については、5回測定した平均値を用いた。耐熱性については、400時間保持後の硬度が450Hv0.5を超えるものを十分な耐熱性を有すると判断した。
表2に示すように、950〜1250℃の熱処理を施した後の圧延率を変化させ、650℃、2000秒の低温熱処理を施した鋼材および低温熱処理を施していない鋼材の、平均波長および平均濃度振幅の測定結果と、700℃、400時間保持後における硬度の測定結果とを表2に示す。なお、上記低温熱処理は、工程(b)の条件(3)を満足する。なお、冷間圧延率が70%の鋼板(鋼w、x)は、冷間圧延時に割れが発生したため、製造を中止した。圧延率を65%以下にすることで安定した製造が可能であった。
圧延率が10%以上、65%以下かつ上記低温熱処理を施した本発明例の鋼板(鋼d、f、h、j、l、n、p、r、t、v)では、濃度変調の平均波長が5.4nm以下であり、平均濃度振幅が3.2at%以上かつ30.0at未満であった。さらに、本発明例の鋼板は、700℃で400時間保持後の硬度が450Hv0.5超であった。一方、従来技術である圧延率が65%かつ低温熱処理を施していない鋼板(鋼u)では、濃度変調の平均波長及び平均濃度振幅が本発明の範囲を満たさず、700℃で400時間保持後の硬度が441Hv0.5であり、本発明例の鋼板はこれを上回る優れた耐熱性を有する鋼板となった。また、低温熱処理を施していない鋼板(鋼a、c、e、g、i、k、m、o、q、s、w)では、濃度変調の平均波長及び平均濃度振幅が本発明の範囲を満たさず、700℃で400時間保持後の硬度が不十分であった。上記低温熱処理を施し、圧延率が0%であった鋼板(鋼b)は、700℃で400時間保持後の硬度が不十分であった。
波長が短い濃度変調を起こすための低温熱処理の時間と温度とを表3に示すように変化させて製造した鋼板の、平均波長、平均濃度振幅、700℃で400時間保持後の硬度を測定した結果を表3に示す。なお、表3における熱処理温度とは、低温熱処理の温度を表す。ここで、低温熱処理をする前の圧延率は60%で統一した。本発明範囲の条件で製造した鋼板(No.3〜11、14〜20、26〜31)では、平均波長が5.4nm以下、平均濃度振幅が3.2at%以上、30.0at%未満を満たしている。そのため、700℃で400時間保持後の硬度は450Hv0.5超を示している。また、平均濃度振幅が30.0at%以上の比較例(No.12、21〜24、32〜36)では、プレス加工時に冷間割れが多発した。これは、濃度振幅が大きすぎたため局所的にNi3Tiが析出し、加工性が著しく低下したためだと考えられる。また、低温熱処理の時間が短い比較例(No.1、2、13、25)は、平均濃度振幅が本発明の範囲を満たさず、700℃で400時間保持後の硬度が不十分であった。
金属間化合物を固溶させる、冷間圧延前の熱処理における到達温度を変化させて製造した鋼板の、平均波長、平均濃度振幅および700℃、400時間保持した後の硬度の測定結果を表4に示す。ここでは、冷間圧延率は60%、低温熱処理は650℃、2000秒とした。
本発明範囲の条件で製造した鋼板(No.38〜44)では、平均波長が5.4nm以下、平均濃度振幅が3.2at%以上、30.0at%未満を満たしている。そのため、700℃で400時間保持後の硬度は450Hv0.5超を示している。
到達温度が950℃未満のNo.37では、濃度変調の平均波長が6.4nmとなっており、700℃、400時間保持した後の硬度が不十分であった。これは、金属間化合物が一部固溶せずに残存しており、スピノーダル分解の駆動力が下がり平均波長が短くならなかったためだと考えられる。さらに、700℃保持の際にNi3Ti粒子の粗大化が早かったことも要因であると考えられる。また、到達温度が1300℃のNo.45においては、平均波長4.5nm、平均濃度振幅15.7nmであったが、再結晶が進行し過ぎたため700℃で400時間保持した後の硬度が不十分であった。
Claims (2)
- 質量%で、
C:0.002〜0.100%、
Si:0.02〜3.00%、
Mn:0.02〜2.00%、
P:0.050%未満、
S:0.0100%未満、
Cr:12.0〜30.0%、
Ni:30.0%超〜50.0%未満、
N:0.0005〜0.0200%、
Al:0.002〜5.000%、
Ti:3.00%超〜7.50%未満、
Nb:0.50%超〜4.00%未満、
Mo:0.02〜4.00%、
B:0〜0.010%、
Ca:0〜0.002%及び
Mg:0〜0.002%
を含有し、残部が鉄及び不純物である組成を有し、<100>方向における(Ni+Ti)の濃度変調の平均波長が5.4nm以下であり、平均濃度振幅が3.2at%以上かつ30.0at%未満であり、700℃、400時間保持後の硬度が450Hv0.5超であることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼板。 - 請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法であって、到達温度が950〜1250℃の熱処理の後、下記工程(a)の後に下記工程(b)を順に実施することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。
・工程(a):圧延率10〜65%の冷間圧延を施す。
・工程(b):下記条件(1)〜(3)の何れか1つを満たす低温熱処理を施す。
(1)熱処理温度が630℃以上、640℃未満の時:熱処理時間が625秒〜13000秒
(2)熱処理温度が640℃以上、650℃未満の時:熱処理時間が325秒〜7000秒
(3)熱処理温度が650℃以上、660℃未満の時:熱処理時間が325秒〜5000秒
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