JP2020132919A - 耐熱合金及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
であり、残部不可避的不純物及びFeからなる合金組成を有することを特徴とする冷間加工性及び過時効特性に優れた耐熱合金が開示されている。
また、特許文献2には、質量%でC:0.10%以下、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.04%以下(0%を含む)、S:0.01%以下(0%を含む)、Ni:25.0〜60.0%、Cr:10.0〜20.0%、MoとWの1種または2種がMo+W/2:0.05〜5.0%、Al:0.8%を超え3.0%以下、Ti:1.5〜4.0%、Nb:0.05〜2.5%、V:1.0%以下(0%を含む)、B:0.001〜0.015%、Mg:0.0005〜0.01%、S/Mg:1.0以下、N:0.01%以下(0%を含む)、O:0.005%以下(0%を含む)、残部Fe及び不可避的不純物からなり、オーステナイト基地中に平均円相当径で25nm以上の析出γ´相が存在しない金属組織を有することを特徴とする金属ガスケットが開示されている。
このような課題に対し、近年、高温かつ圧力の高くなる使用環境に耐える優れたガスケットが要望されている。ガスケットに用いる素材に対しては、燃焼ガス相当の高温での強度の向上だけでなく、ビードの変形を考慮した形状に加工できる(具体的な一例としてビード高さの増加が可能となる)、優れた加工性が必要である。ビード高さを増加させる場合、ガスケットに適用される耐熱合金板は、常温で優れた加工性、具体的には均一伸びを有することが必要となる。しかしながら、特許文献1、2をはじめとして、従来、優れた高温強度と常温の均一伸びとを両立した、耐熱合金については提案されていなかった。
本発明において、高温強度と常温での均一伸びとに優れるとは、750℃での0.2%耐力が500MPa以上でかつ、750℃での0.2%耐力と、常温での均一伸びとの積が900MPa・%以上であることを意味する。
本発明は上記の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
(1)質量%で、C:0.0003〜0.0200%、Si:0.02〜2.00%、Mn:0.02%〜2.00%、P:0.050%以下、S:0.0100%以下、Cr:12.00%以上、30.00%未満、Ni:35.0〜60.0%、N:0.0200%以下、Nb:1.00%超、3.50%以下、Al:2.00%超、4.00%以下、Ti:0〜0.80%、V:0〜1.00%、Mo:0〜5.00%、W:0〜5.00%、Cu:0〜1.00%、Co:0〜1.00%、B:0〜0.0100%、Zr:0〜0.0100%、Ca:0〜0.0050%、Mg:0〜0.0050%、を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、750℃での0.2%耐力が500MPa以上であり、かつ、単位MPaでの750℃における前記0.2%耐力と単位%での常温における均一伸びとの積が900MPa・%以上である耐熱合金。
(2)質量%での、AlおよびNbの元素点分析での合計含有量の最大値と最小値との比である最大値/最小値が1.5以上である(1)に記載の耐熱合金。
(3)質量%で、Ti:0.10〜0.80%、V:0.10〜1.00%、Mo:0.50〜5.00%、W:0.02〜5.00%、Cu:0.01〜1.00%、Co:0.10〜1.00%、の一種、あるいは二種以上を含有する(1)または(2)に記載の耐熱合金。
(4)質量%で、B:0.0002〜0.0100%、Zr:0.0002〜0.0100%、Ca:0.0002〜0.0050%、Mg:0.0002〜0.0050%、の一種、あるいは二種以上を含有する(1)〜(3)のいずれかに記載の耐熱合金。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の耐熱合金を製造する方法であって、合金を1050℃以上に加熱し、5秒以上保持する溶体化熱処理工程と、前記溶体化熱処理工程後の前記合金を750〜850℃の第1の温度域まで15℃/秒以上の平均冷却速度で冷却する第1冷却工程と、前記第1冷却工程後の前記合金を前記第1の温度域に10〜30秒間保持する保持工程と、前記保持工程後の前記合金を、450℃以下の第2の温度域まで15℃/秒以上の平均冷却速度で冷却する第2冷却工程と、前記第2冷却工程後の前記合金に、3〜45%の累積圧下率の圧延を行う調質圧延工程と、を含む耐熱合金の製造方法。
また、本実施形態に係る耐熱合金は、750℃での0.2%耐力が500MPa以上であり、かつ、750℃における0.2%耐力(MPa)と、常温における均一伸び(%)と、の積が900MPa・%以上である。一般的に材料の強度と伸びはトレードオフ関係を示すが、本実施形態に係る耐熱合金では高強度かつ高均一伸びが得られる。
[750℃での0.2%耐力が500MPa以上]
[750℃における0.2%耐力(単位:MPa)と、常温における均一伸び(単位:%)と、の積が900MPa・%以上]
本実施形態に係る耐熱合金は、後述するように化学組成及び製造方法が適切な範囲制御されることによって、例えば、ガスケットに加工後、エンジンの排気系部品の間に実装される等により高温で使用された際、微細かつ高密度なγ´相が析出した組織が得られる。より正確には、化学組成及び製造方法が適切な範囲制御されることによって、スピノーダル分解に基づいたγ´相の析出が制御できると考えられる、Ni、Al、Nb等のγ´相生成元素の濃化領域が、母相であるオーステナイトに周期的かつ微細に分散した組織(濃度変調構造)が形成される。あるいは、それらの一部に微細なγ´相が析出した混合組織が形成される。周期的とは、一定の間隔に複数かつ同等数が観察されることを意味する。微細とは、円相当径が100nm程度以下であることを意味する。また、濃化領域とは、γ´相生成元素が母材の平均含有量よりも高い値となる領域を示す。
一般的なγ´相は、Tiを含むNi3(Al、Nb、Ti)に代表される化合物であり、Niの原子が三個とそれ以外の元素(Al、Nb、Ti)一個とにより構成される。このγ´相は、温度上昇に対して強度が増加するという逆温度依存性を示すと考えられる。上記のγ´相や濃化領域においては、Tiの濃化があっても構わない。
γ´相生成元素であるAlやNbは母相となるオーステナイト相の固溶強化元素でもあるので、濃化領域が周囲よりも硬質の領域となる。そのため、γ´相生成元素の濃化領域が周期的かつ微細に分散している場合、固溶強化および分散強化によって強度が向上する。高温で使用された際も、高密度かつ微細なγ´相が析出し、長時間保持された際にも析出物の成長、合体を一因とする過時効での軟化が遅れると考えられ、析出強化が維持される。すなわち、過時効が抑制され、高強度が維持される。一方、濃化領域やγ´相が微細に分散していれば、均一伸びは殆ど低下しない。すなわち、優れた加工性が維持されと考えられる。均一伸びが高ければ、高いビードの成形が可能となる。
耐熱合金の圧延方向に平行な方向(L方向)からJISG0567:2012に記載されたJIS13号B引張試験片を採取し、JISG0567:2012に準拠して750℃で引張試験を行い、0.2%耐力を測定する。
また、常温における強度及び伸びの評価のため、同様に採取した引張試験片を用いて、JISZ2241:2011に準拠して、均一伸びを測定する。その際、常温での0.2%耐力も測定できる。
本実施形態に係る耐熱合金では、上記濃度変調構造において、AlおよびNbの、元素点分析での、合計含有量の最大値と最小値との比である最大値/最小値が1.5以上であることが好ましい。
AlおよびNbの合計含有量の最大値が、AlおよびNbの合計含有量の最小値の1.5倍以上となることで、測定誤差を超える明確な濃化となり、材料の高温強度が明瞭かつ著しく上昇する。上限を限定する必要はないが、Ni3Al、Ni3Nbが各々の化合物の上限とした場合、25原子%となる。すなわち、Ni3Al中のAlは約13.3質量%、Ni3Nb中のNbは約34.5質量%であり、その間のNi3(Al、Nb)はそれらの間の13.3〜34.5質量%の値となる。本実施形態に係る耐熱合金ではAl含有量とNb含有量の合計が3.0質量%超であるので、化合物が充分に形成された(後述する1nm3以上の大きさ)と仮定した場合、最大値/最小値は11.5以下程度の値となる。ただし、化合物が形成される過程において、化合物が形成過程ないし微細で1nm3未満の微細な状態である場合、母材(の他の元素)が含まれる等により、値が変化する場合が生じることがある。
C:0.0003%〜0.0200%
Cは、Ti、Nbと結びついて炭化物を形成する元素である。Ti、Nbが炭化物を形成すると、高温強度の向上に寄与する強化相であるγ´相の生成量が減少する。そのため、C含有量は低い方が望ましい。したがって、C含有量は0.0200%以下とする。
一方、C含有量を0.0003%未満にすると製造コストが著しく増加する。そのため、C含有量を0.0003%以上とする。
Siは、精錬の際に脱酸元素として有効な元素である。また、Siは、合金の耐酸化性および高温強度を改善する元素である。これらの効果を得るため、Si含有量を0.02%以上とする。好ましくは、0.030%以上である。
一方で、Si含有量が多すぎると、合金が硬質化し、加工性が劣化する。そのため、Si含有量を2.00%以下とする。好ましくは、1.50%以下、更に好ましくは、1.00%以下とする。
Mn含有量が多すぎると、熱間加工性が劣化する上、高温での耐酸化性が著しく劣化する。したがって、Mn含有量は2.00%以下とする。
一方、Mnは原料スクラップなどから混入し、Mn含有量を大きく低減させるにはスクラップの使用を減らす必要がある。スクラップの使用を減らすと、コストの増大を招く。したがって、Mn含有量は0.02%以上とする。好ましくは、0.05%以上とする。
Pは合金の原料の一つであるフェロクロムに含まれる不純物元素である。Pは熱間加工性や靱性に有害であるので、P含有量を0.050%以下に制限する。好ましくは、0.035%以下である。
P含有量は少ない方が好ましいので、下限は0%である。しかし、精錬時の脱Pは難しく、P含有量の低減のためには、原料としてP濃度が低いフェロクロムを用いることが必要となる。P濃度が低いフェロクロムは高価であるので、P含有量を必要以上に低減しようとするとコストが上昇する。したがって、P含有量を、0.005%以上としてもよい。
Sは原料のスクラップなどに含まれる不純物元素である。Sは熱間加工性や耐食性に有害であるので、S含有量は0.0100%以下に制限する。好ましくは、0.0050%以下である。
S含有量は少ない方が好ましいので、下限は0%である。しかし、必要以上にS含有量を低減しようとすると精錬時の脱硫負荷が増大し、コストが上昇する。したがって、S含有量は、0.0002%以上としてもよい。
Crは耐熱合金としての耐食性を確保する観点から必須の元素である。十分な耐食性を確保する観点から、Cr含有量は12.00%以上とする。好ましくは14.00%以上である。
一方で、Cr含有量が多すぎると、焼鈍時にσ相などの粗大な化合物が生成し、材料が脆化し、加工性も低下する。そのため、Cr含有量は30.00%未満とする。好ましくは、20.00%以下である。
Niは強力なオーステナイト安定化元素であり、ミクロ組織においてオーステナイト母相を得るために必須の元素である。また、Niは高温強度の向上に寄与する強化相であるγ´相(Ni3(Al,Nb,Ti))を得るためにも極めて重要な元素である。耐熱材料として高温での強度を確保する観点から、Ni含有量は35.0%以上とする。好ましくは、37.5%以上、更に好ましくは、40.0%以上である。
一方、Ni含有量が多すぎると、コストが上昇することに加え、熱間加工時の変形抵抗が高くなって、製造が困難になる。そのため、Ni含有量は60.0%以下とする。好ましくは、53.0%以下、更に好ましくは、50.0%以下である。
Nは、Al、Nb、Tiと結合して窒化物を形成する元素である。Al、Nb、Tiが窒化物を形成すると、強化相であるγ´相の生成量が減少する。そのため、N含有量は低い方が望ましい。したがって、N含有量は0.0200%以下に制限する。好ましくは、0.0150%以下である。
N含有量は少ない方が好ましいので、下限は0%である。しかし、必要以上にN含有量を低減しようとすると精錬時の脱N負荷が増大し、コストが上昇する。したがって、N含有量は、0.0003%以上としてもよい。
Nbは強化相であるγ´相を構成する元素であり、Nbを固溶したγ´相は高温強化能が高い。高温強度確保のため、Nb含有量は1.00%超とする。好ましくは、1.50%以上、更に好ましくは、1.70%以上である。
一方、Nbは合金の融点を下げ、高温での熱間加工を困難にする元素である。したがって、Nb含有量は3.50%以下とする。好ましくは、3.00%以下、更に好ましくは、2.80%以下である。
Alは高温強度の上昇に寄与する強化相であるγ´相を構成する元素である。その強化能は、Ti、Nbには及ばないが、Ti、Nbに比べて、長時間安定してγ´相を維持する効果がある。長時間時効後に安定して高温強度を維持する観点から、Al含有量は2.00%超とする。好ましくは、2.20%以上、更に好ましくは、2.30%以上である。
一方、Al含有量が過剰であると、合金の融点が下がり、高温での熱間加工が困難になる。したがって、Al含有量は、4.00%以下とする。好ましくは、3.70%以下、更に好ましくは、3.50%以下である。
不純物とは、鋼板の製造過程において、原料から、またはその他の製造工程から、意図せず含まれる成分をいう。
Tiは強化相であるγ´相を構成する元素であり、高温強度の向上に寄与する元素である。そのため、必要に応じて含有させてもよい。上記効果を得る場合、Ti含有量を0.10%以上とすることが好ましい。
一方、Tiを多量に含有し、γ´相中のTi含有量が高まると、γ´相が高温強度の向上に寄与しないη相に変化しやすくなる。また、合金中のC、NとTiとが粗大な炭化物、窒化物を形成し、熱間加工性や冷間加工性が著しく劣化する。また、Tiの含有により合金の融点が下がるので、Ti含有量が過剰であると高温での熱間加工が困難になる。したがって、含有させる場合でも、Ti含有量は0.80%以下とする。好ましくは、0.60%以下である。
Vは、固溶強化により高温強度の向上に寄与する元素である。この効果を得るため、含有させてもよい。上記効果を得る場合、V含有量は0.10%以上とすることが好ましい。
一方、VはC、Nと結合して炭化物、窒化物を形成する。V含有量が多すぎると、粗大な炭化物、窒化物が生成し、材料の加工性が劣化する。そのため、含有させる場合でも、V含有量は1.00%以下とする。好ましくは、0.80%以下である。
Moは母相であるオーステナイト相に固溶し、高温強度の向上に寄与する元素である。そのため、必要に応じて含有させてもよい。上記効果を得る場合、Mo含有量を0.50%以上とすることが好ましい。
一方、多量にMoを含有すると、熱間加工時の変形抵抗が増加し、所定の板厚に熱間圧延するのが困難になる。また、高温長時間時効時に粗大なLaves相の析出が促進され、高温強度が低下する。したがって、含有させる場合でも、Mo含有量は5.00%以下とする。好ましくは、4.00%以下である。
Wはオーステナイト母相に固溶し、高温強度の向上に寄与する元素である。そのため必要に応じて含有させてもよい。上記効果を得る場合、W含有量を0.02%以上とすることが好ましい。
一方、多量にWを含有すると、熱間加工時の変形抵抗が増加し、所定の板厚に熱間圧延するのが困難になる。また、高温長時間時効時に粗大なLaves相の析出が促進され、高温強度が低下する。したがって、含有させる場合でも、W含有量は5.00%以下とする。好ましくは、4.00%以下である。
Cuは、オーステナイト母相に固溶し、高温強度を上げる効果を有する元素である。そのため必要に応じて含有させてもよい。上記効果を得る場合、Cu含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
一方、Cu含有量が過剰になると、熱間圧延時の耳割れが発生する場合がある。したがって、含有させる場合でも、Cu含有量は1.00%以下とする。好ましくは、0.80%以下である。
CoはNiの代替としてγ´相に固溶する元素であり、高温強度の向上に寄与する元素である。そのため、含有させてもよい。上記効果を得る場合、Co含有量を0.10%以上とすることが好ましい。
一方で、Coを多量に含有すると、コストの増加に加えて、熱間加工時の変形抵抗が増加し、所定の板厚に熱間圧延するのが困難になる。したがって、含有させる場合でも、Co含有量は1.00%以下とする。好ましくは、0.90%以下である。
Bは結晶粒界に偏析する元素であり、結晶粒界を強化することで、粒界でのすべりを抑制し、高温強度の向上に寄与する元素である。そのため、含有させても良い。Bを含有することによる上述の効果を得るためには、B含有量は好ましくは0.0002%以上である。
一方で、Bを多量に含有すると粒界偏析が顕著になり、熱間加工性が著しく低下する。そのため、含有させる場合でも、B含有量は0.0100%以下とする。好ましくは、0.0090%以下である。
Zrは結晶粒界に偏析する元素であり、結晶粒界を強化することで、粒界でのすべりを抑制し、高温強度の向上に寄与する元素である。そのため、含有させても良い。Zrを含有することによる上述の効果を得るためには、Zr含有量は好ましくは0.0002%以上である。
一方で、Zrを多量に添加すると粒界偏析が顕著になり、熱間加工性が著しく低下する。そのため、含有させる場合でも、Zr含有量は0.0100%以下とする。好ましくは、0.0080%以下である。
Caは熱間加工性を改善する効果を有する元素である。熱間加工性が改善すると製造コストを低減できる。この効果を得るため、含有させても良い。上記効果を得る場合、Ca含有量を0.0002%以上とすることが好ましい。
一方、Ca含有量が多量になると、鋳造時に溶湯ノズルが詰まるなどのトラブルが生じ、製造が著しく困難になる。そのため、含有させる場合でも、Ca含有量は0.0050%以下とする。好ましくは、0.0040%以下である。
Mgは熱間加工性改善する効果を有する元素である。熱間加工性が改善すると製造コストを低減できる。この効果を得るため、含有させても良い。上記効果を得る場合、Mg含有量を0.0002%以上とすることが好ましい。
一方、Mg含有量が多量になると、鋳造時に溶湯ノズルが詰まるなどのトラブルが生じ、製造が著しく困難になる。そのため、含有させる場合でも、Mg含有量は0.0050%以下とする。好ましくは、0.0040%以下である。
次に、本実施形態に係る耐熱合金の好ましい製造方法について説明する。本実施形態に係る耐熱合金板は、製造方法に関わらず上記の特徴を有していればその効果が得られる。しかしながら、以下の方法によれば安定して製造できるので好ましい。
(a)合金を1050℃以上に加熱し、5秒以上保持する溶体化熱処理工程
(b)溶体化熱処理工程後の合金を750〜850℃の第1の温度域まで15℃/秒以上の平均冷却速度で冷却する第1冷却工程
(c)第1冷却工程後の合金を第1の温度域に10〜30秒間保持する保持工程
(d)保持工程後の合金を、450℃以下の第2の温度域まで15℃/秒以上の平均冷却速度で冷却する第2冷却工程
(e)第2冷却工程後の合金に、3〜45%の累積圧下率の圧延を行う調質圧延工程
本実施形態に係る耐熱合金は多くの合金元素を含み、製造過程で様々な化合物が析出する。そのため、上記のような組織を得るためには、一度析出物を母相に溶け込ませる溶体化熱処理が必要となる。そのため、温度を1050℃以上で、かつ5秒以上の溶体化熱処理を行う。
一方、溶体化熱処理温度が高すぎたり、処理時間が長すぎたりするとコストの増加を招く。したがって、溶体化熱処理温度は1200℃以下、保持時間は600秒以下とすることが好ましい。
溶体化熱処理工程に供する耐熱合金については限定されない。例えば、所定の化学組成(質量%)を有する鋼塊を溶製し、この鋼塊を熱間鍛造及び/または熱間圧延によって熱延し、焼鈍及び酸洗後、冷延により製造した中間冷延板を用いてもよい。
[保持工程]
溶体化熱処理工程後の合金を750〜850℃の温度域(第1の温度域)まで15℃/秒以上の平均冷却速度で冷却する。冷却後、合金をこの温度域内に10〜30秒間保持する。この温度域での保持によって、スピノーダル分解が生じ、所定の濃度変調構造が得られる。
第1の温度域までの平均冷却速度が15℃/秒未満であると、冷却中にγ´相が析出し、所定の濃度変調構造が得られない。平均冷却速度の上限は限定する必要はないが、設備制約等から、100℃/秒以下としてもよい。
また、保持時間が10秒未満では、スピノーダル分解が十分に進まず、所定の濃度変調構造が得られない。保持時間が30秒を超えると、γ´相が多量に析出し、均一伸びが低下する。
冷却停止温度が750℃未満であると、σ相等の有害な析出物相が生成し、高温強度が低下する。また、850℃超であるとγ´相が多量に析出し、均一伸びが低下する。
保持工程後の耐熱合金は、450℃以下(第2の温度域)まで15℃/秒以上の平均冷却速度で冷却する。
平均冷却速度が15℃/秒未満では、耐熱合金中にγ´相が析出するおそれがある。
第2冷却工程後の合金に、45%以下の累積圧下率の圧延(調質圧延)を行う。調質圧延を行うことで、高温強度を高めることができる。高温強度の向上の点では、累積圧下率を3%以上とする。好ましくは、5%以上である。
一方で、調質圧延の累積圧下率が45%を超えると、常温の均一伸びが低下し、加工が困難になる。
このような再加熱を含む工程の場合、溶体化後、再加熱の前に圧延を行うことは好ましくない。溶体化後、再加熱の前に圧延を行うと、圧延によって導入された転位から高温強度の向上に寄与しない相が析出し、その結果、γ´相の析出が抑制され、高温強度が低下する。
この中間冷延板について、表2−1に記載される条件で溶体化熱処理(熱処理時間2分間)を行い、表2−1のように冷却を行った。次いで、表2−1に示す条件で、750〜850℃で保持する時効熱処理を行い、種々の冷却速度で300℃まで冷却した。
冷却後の中間冷延板に対し、表2−2に示す累積圧下率で調質圧延(仕上冷延)を行った。
また常温における強度及び延性の評価のため、同様に採取した引張試験片を用いて、JISZ2241:2011に準拠して、0.2%耐力及び均一伸びを測定した。
また、一部の例についてはAlおよびNbの、合計含有量の最大値と最小値との比については、3次元アトムプローブ(3D−AP)を用いて3次元元素マッピングにより求めた。合金板の厚さtの1/2の位置(t/2)付近からサンプルを加工し、測定領域は0.005μm3以上とした。各測定点での元素の質量%を、周囲の一定体積(1nm3)で計測された原子数の比率として表した。AlおよびNbの、合計含有量の最大値と最小値との比に関し、表中の「−」の表記は未測定であることを示す。
表2−2に、750℃における0.2%耐力(0.2%PS750℃,MPa)、常温における0.2%耐力(0.2%PSRT,MPa))および均一伸び(u−ElRT,%)、750℃における0.2%耐力と常温における均一伸びの積(0.2%PS750℃×u−ElRT,MPa・%)を示す。
また、上述した発明例において、AlおよびNbの元素点分析での含有量の最大値/最小値を測定した例については、何れもその値が1.5以上であった。他方、後述する比較例での値は、何れも1.5未満であった。
一方、化学組成が本発明範囲組成から外れる、または、製造条件が本発明範囲から外れる比較例である製造No.21〜38では、750℃における0.2%耐力、または750℃における0.2%耐力と常温における均一伸びの積のいずれかが所定の特性を満たさなかった。これは、濃度変調構造が形成されてないかったためであると考えられる。
Claims (5)
- 質量%で、
C:0.0003〜0.0200%、
Si:0.02〜2.00%、
Mn:0.02%〜2.00%、
P:0.050%以下、
S:0.0100%以下、
Cr:12.00%以上、30.00%未満、
Ni:35.0〜60.0%、
N:0.0200%以下、
Nb:1.00%超、3.50%以下、
Al:2.00%超、4.00%以下、
Ti:0〜0.80%、
V:0〜1.00%、
Mo:0〜5.00%、
W:0〜5.00%、
Cu:0〜1.00%、
Co:0〜1.00%、
B:0〜0.0100%、
Zr:0〜0.0100%、
Ca:0〜0.0050%、
Mg:0〜0.0050%、を含有し、
残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、
750℃での0.2%耐力が500MPa以上であり、かつ、
単位MPaでの750℃における前記0.2%耐力と単位%での常温における均一伸びとの積が900MPa・%以上である
ことを特徴とする、耐熱合金。 - 質量%での、AlおよびNbの元素点分析での合計含有量の最大値と最小値との比である最大値/最小値が1.5以上である
ことを特徴とする、請求項1に記載の耐熱合金。 - 質量%で、
Ti:0.10〜0.80%、
V:0.10〜1.00%、
Mo:0.50〜5.00%、
W:0.02〜5.00%、
Cu:0.01〜1.00%、
Co:0.10〜1.00%、の一種、あるいは二種以上を含有する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の耐熱合金。 - 質量%で、
B:0.0002〜0.0100%、
Zr:0.0002〜0.0100%、
Ca:0.0002〜0.0050%、
Mg:0.0002〜0.0050%、の一種、あるいは二種以上を含有する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の耐熱合金。 - 請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐熱合金を製造する方法であって、
合金を1050℃以上に加熱し、5秒以上保持する溶体化熱処理工程と、
前記溶体化熱処理工程後の前記合金を750〜850℃の第1の温度域まで15℃/秒以上の平均冷却速度で冷却する第1冷却工程と、
前記第1冷却工程後の前記合金を前記第1の温度域に10〜30秒間保持する保持工程と、
前記保持工程後の前記合金を、450℃以下の第2の温度域まで15℃/秒以上の平均冷却速度で冷却する第2冷却工程と、
前記第2冷却工程後の前記合金に、3〜45%の累積圧下率の圧延を行う調質圧延工程と、
を含むことを特徴とする、耐熱合金の製造方法。
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