JP2022109749A - 多元系合金からなる粉末 - Google Patents

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Ryohei HOSOMI
俊之 澤田
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Abstract

【課題】混合のエントロピーΔSmixが高く、耐食性に優れ、かつ熱間加工性にも優れた粉末冶金成形体の提供。【解決手段】成形体は、粉末から得られる。この粉末の材質は、多元系合金である。この多元系合金は、Co:5原子%以上35原子%以下、Cr:5原子%以上35原子%以下、Fe:5原子%以上35原子%以下、Ni:5原子%以上35原子%以下、Cu:0.10原子%以上7.00原子%以下及び不可避的不純物を含有する。この多元系合金の混合のエントロピーΔSmixは、1.30R以上である。【選択図】なし

Description

本発明は、その混合のエントロピーΔSmixが大きい多元系合金からなる、粉末に関する。
混合のエントロピーΔSmixが高い合金が、着目されている。このような合金として、ミディアムエントロピー合金及びハイエントロピー合金が、知られている。ミディアムエントロピー合金のエントロピーΔSmixは、気体定数Rの1.0倍以上である。ハイエントロピー合金のエントロピーΔSmixは、気体定数Rの1.5倍以上である。これらの合金は、特徴的な力学特性を示す。一方、これらの合金の耐食性には、改善の余地がある。
特開2002-173732公報には、Ti、V、Fe、Ni及びZrを含有し、さらにCuを含有するハイエントロピー合金が開示されている。Cuは、この合金の耐食性に寄与しうる。
特表2020-510139公報には、Co、Ni、Fe、Mn、Cr及びMoを含有し、さらに多量のCuを含有するハイエントロピー合金が開示されている。Cuは、この合金の耐食性に寄与しうる。
特開2002-173732公報 特表2020-510139公報
特開2002-173732公報に記載された合金は、電気アーク溶融法によって得られている。この合金では、Cuがリッチな相が生じている。この相に起因して、この合金から得られた部材の熱間加工時に、この部材に割れが生じる。この合金の熱間加工性は、不十分である。
特表2020-510139公報に記載された合金は、多量のCuを含む。この合金では、Cuがリッチな相が生じている。この相に起因して、この合金から得られた成形体の熱間加工時に、この成形体に割れが生じる。この合金の熱間加工性は、不十分である。
本発明の目的は、混合のエントロピーΔSmixが高く、耐食性に優れ、かつ熱間加工性にも優れた粉末冶金成形体の提供にある。
本発明に係る粉末の材質は、多元系合金である。この多元系合金は、
Co:5原子%以上35原子%以下、
Cr:5原子%以上35原子%以下、
Fe:5原子%以上35原子%以下、
Ni:5原子%以上35原子%以下、
Cu:0.10原子%以上7.00原子%以下
及び
不可避的不純物
を含有する。この多元系合金の混合のエントロピーΔSmixは、1.30R以上である。
この多元系合金が、
V、Mo、Nb、W、Ti、Zr、Al及びMnからなる群から選択された1又は2以上の元素:20原子%以下
をさらに含有してもよい。
この多元系合金が、
Si:10原子%以下
をさらに含有してもよい。
他の観点によれば、本発明に係る粉末冶金成形体の材質は、多元系合金である。この多元系合金は、
Co:5原子%以上35原子%以下、
Cr:5原子%以上35原子%以下、
Fe:5原子%以上35原子%以下、
Ni:5原子%以上35原子%以下、
Cu:0.10原子%以上7.00原子%以下
及び
不可避的不純物
を含有する。この多元系合金の混合のエントロピーΔSmixは、1.30R以上である。
本発明に係る粉末から得られた成形体の、混合のエントロピーΔSmixは、大きい。しかもこの成形体は、耐食性及び熱間加工性に優れる。
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
本発明に係る粉末は、多数の粒子の集合である。これらの粒子の材質は、多元系合金である。この多元系合金は、
Co:5原子%以上35原子%以下、
Cr:5原子%以上35原子%以下、
Fe:5原子%以上35原子%以下、
Ni:5原子%以上35原子%以下、
及び
Cu:0.10原子%以上7.00原子%以下
を含有する。好ましくは、残部は不可避的不純物である。
この多元系合金は、複数の元素をベースとして含有する。本実施形態では、Co、Cr、Fe及びNiが、ベース元素である。それぞれのベース元素の原子含有率(at%)は、十分に大きい。従ってこの多元系合金の金属組織は、単一の元素のみがベースである合金の金属組織とは、明確に異なる。この合金の混合のエントロピーΔSmixは、十分に大きい。
混合のエントロピーΔSmixは、下記の数式によって算出されうる。
Figure 2022109749000001

この数式においてCiは、各元素のモル分率である。
この合金におけるCo、Cr、Fe及びNiの原子含有率が等量に近いほど、この合金の混合のエントロピーΔSmixが大きい。このエントロピーΔSmixが大きい合金では、混合状態が安定である。このエントロピーΔSmixが大きい合金では、複雑かつ微細な金属組織が得られうる。この金属組織は、緩和拡散に優れる。このエントロピーΔSmixが大きい合金では、原子半径差に起因する格子歪みが大きい。大きな格子歪みによって変形抵抗が増大されるので、この合金は高硬度である。これらの観点から、混合のエントロピーΔSmixは1.30R以上が好ましく、1.40R以上がより好ましく、1.50R以上が特に好ましい。ここでRは、気体定数を表す。気体定数の具体的な値は、8.314J・K-1・mol-1である。
Co、Cr、Fe及びNiのそれぞれの含有率は、大きなエントロピーΔSmixが得られるよう、5原子%以上35原子%以下の範囲で調整される。この含有率は8原子%以上がより好ましく、10原子%以上が特に好ましい。この含有率は30原子%以下がより好ましく、25原子%以下が特に好ましい。
Co、Cr、Fe及びNiのうち、原子含有率が最大である元素の原子含有率Cmaxと、原子含有率が最小である元素の原子含有率Cminとの差(Cmax-Cmin)は、15原子%以下が好ましく、10原子%以下がより好ましく、5原子%以下が特に好ましい。
Cuは、本発明に係る多元系合金においてきわめて重要な元素である。本発明者が得た知見によれば、Cuはマトリックスに分散し、又はマトリックスに固溶する。分散したCuにより、高い軟化抵抗が達成される。この原理は詳細には不明であるが、微細なCuが結晶粒をピン止めするからであると推測される。さらに、固溶したCuは、多元系合金の耐食性に寄与しうる。軟化抵抗及び耐食性の観点から、Cuの含有率は0.10原子%以上が好ましく、2.00原子%以上がより好ましく、4.00原子%以上が特に好ましい。過剰のCuは、Cuがリッチな介在物を形成する。この介在物は、熱間加工時の成形体の割れを助長する。熱間加工性の観点から、Cuの含有率は7.00原子%以下が好ましく、6.00原子%以下がより好ましく、5.00原子%以下が特に好ましい。
不可避的不純物として、P、S、Sn、O及びNが例示される。Pの含有率は、0.05質量%以下が好ましく、0.02質量%以下が特に好ましい。Sの含有率は、0.010質量%以下が好ましく、0.002質量%以下が特に好ましい。Snの含有率は、0.05質量%以下が好ましく、0.02質量%以下が特に好ましい。Oの含有率は、0.10質量%以下が好ましく、0.05質量%以下が特に好ましい。Nの含有率は、0.10質量%以下が好ましく、0.01質量%以下が特に好ましい。
好ましい他の実施形態によれば、多元系合金は、V、Mo、Nb、W、Ti、Zr、Al及びMnからなる群から選択された1又は2以上の元素を含む。V、Mo、Nb、W、Ti、Zr、Al及びMnの合計含有率は、20原子%以下である。すなわち、この多元系合金は、
Co:5原子%以上35原子%以下、
Cr:5原子%以上35原子%以下、
Fe:5原子%以上35原子%以下、
Ni:5原子%以上35原子%以下、
Cu:0.10原子%以上7.00原子%以下
及び
V、Mo、Nb、W、Ti、Zr、Al及びMnからなる群から選択された1又は2以上の元素:20原子%以下
を含有する。好ましくは、残部は不可避的不純物である。
V、Mo、Nb、W、Ti、Zr、Al又はMnを含む多元系合金では、マトリックス中にこれらの元素のいずれかを含む微細化合物が析出する。この微細化合物が結晶粒をピン止めするので、この多元系合金は軟化抵抗に優れる。軟化抵抗の観点から、V、Mo、Nb、W、Ti、Zr、Al及びMnの原子含有率が大きいことが好ましい。脆性相の生成が抑制されて優れた熱間加工性が達成されるとの観点から、この原子含有率が小さいことが好ましい。
軟化抵抗及び熱間加工性の観点から、V、Mo、Nb、W、Ti、Zr及びAlの合計含有率は1原子%以上16原子%以下がより好ましく、3原子%以上9原子%以下が特に好ましい。Mnの含有率は10原子%以下がより好ましく、1.00原子%以下が特に好ましい。
好ましいさらに他の実施形態によれば、多元系合金は、Siを含有する。Siの含有率は、10原子%以下である。すなわち、この多元系合金は、
Co:5原子%以上35原子%以下、
Cr:5原子%以上35原子%以下、
Fe:5原子%以上35原子%以下、
Ni:5原子%以上35原子%以下、
Cu:0.10原子%以上7.00原子%以下
及び
Si:10原子%以下
を含有する。好ましくは、残部は不可避的不純物である。
Siを含む多元系合金では、マトリックス中にSiを含む微細化合物が析出する。この微細化合物が結晶粒をピン止めするので、この多元系合金は軟化抵抗に優れる。軟化抵抗の観点から、Siの原子含有率が大きいことが好ましい。脆性相の生成が抑制されて優れた熱間加工性が達成されるとの観点から、この原子含有率が小さいことが好ましい。
軟化抵抗及び熱間加工性の観点から、Siの含有率は0.5原子%以上8原子%以下がより好ましく、1.0原子%以上5原子%以下が特に好ましい。
多元系合金が、V、Mo、Nb、W、Ti、Zr、Al及びMnからなる群から選択された1又は2以上の元素を含み、さらにSiを含んでもよい。すなわち、この多元系合金は、
Co:5原子%以上35原子%以下、
Cr:5原子%以上35原子%以下、
Fe:5原子%以上35原子%以下、
Ni:5原子%以上35原子%以下、
Cu:0.10原子%以上7.00原子%以下
V、Mo、Nb、W、Ti、Zr、Al及びMnからなる群から選択された1又は2以上の元素:20原子%以下
及び
Si:10原子%以下
を含有する。好ましくは、残部は不可避的不純物である。Si、V、Mo、Nb、W、Ti、Zr、Al及びMnの合計含有率は、20原子%以下が好ましい。
本発明に係る成形体は、粉末冶金法によって製造されうる。粉末冶金法に供される粉末は、好ましくは、アトマイズ法によって得られる。ガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法、水アトマイズ法、単ロール急冷法、双ロール急冷法及び遠心アトマイズ法が、採用される。好ましいアトマイズは、ガスアトマイズ法及びディスクアトマイズ法である。アトマイズによって得られた粉末に、メカニカルミリング等が施されてもよい。
この粉末から成形体を得る典型的な方法は、焼結である。この焼結では、粉末が加圧処理に供される。典型的な加圧処理は、熱間静水圧加圧処理である。
多元系合金粉末はCuを含んでいるが、粉末冶金成形体にはCuがリッチでかつ過大な相が析出しない。この成形体の熱間加工では、割れが抑制される。
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
[実施例1]
表1に示された組成の金属を溶解し、溶湯を得た。この溶湯を、不活性ガス雰囲気中で溶解し、窒素ガスアトマイズに供し、粉末を得た。この粉末を分級に供し、粒子径を300μm以下に調整した。この粉末をカプセルに充填し、このカプセルを密封した。この粉末を1170℃の熱間静水圧プレス処理(HIP)に供し、実施例1の粉末冶金成形体を得た。
[実施例2-15及び比較例1-12]
組成を下記の表1及び2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2-15及び比較例1-12の粉末冶金成形体を得た。
[比較例13及び14]
アーク溶解法によって成形体を得た。
[軟化抵抗]
成形体を、1100℃の温度下で鍛造に供した。この鍛造後の成形体のロックウェル硬さを、測定した。この成形体を、870℃の熱処理に供した。この成形体のロックウェル硬さを、測定した。熱処理前後のロックウェル硬さの差を、算出した。この結果が、下記の表1及び2に示されている。硬さの差は、10以下が好ましい。例えば、実施例2の成形体では、鍛造後のロックウェル硬さは99.2HRBであり、熱処理後のロックウェル硬さは96.6HRBであった。従って、表1に示される通り、硬度差は2.6であった。実施例7の成形体では、鍛造後のロックウェル硬さは105.4HRBであり、熱処理後のロックウェル硬さは102.1HRBであった。従って、表1に示される通り、硬度差は3.3であった。実施例11の成形体では、鍛造後のロックウェル硬さは100.3HRBであり、熱処理後のロックウェル硬さは96.7HRBであった。従って、表1に示される通り、硬度差は3.6であった。
[熱間加工性]
鍛造後の成形体を目視で観察し、割れの有無を評価した。割れがない場合を「good」とし、割れがあるものを「bad」とした。この結果が、下記の表1及び2に示されている。
[耐食性]
成形体から、試験片を切り出した。この試験片のサイズは、10mm×10mm×14mmであった。この試験片に、1170℃の熱処理を15分間施した。この試験片を、下記の条件にて、耐食性試験に供した。
溶液:10%塩酸水溶液
温度:40℃
時間:10時間
この試験によって得られた試験片の減量(質量)を、試験前の試験片の表面積及び試験時間で除して、腐食度を算出した。この結果が、下記の表1及び2に示されている。この腐食度が1.4g/m/h以下である多元系合金が、好ましい。
Figure 2022109749000002
Figure 2022109749000003
比較例1に係る粉末におけるCuの含有率は、過小である。従って、この粉末からは、高い軟化抵抗と優れた耐食性とを有する成形体は、得られなかった。比較例2に係る末におけるCuの含有率は、過大である。従って、この粉末から得られた成形体の鍛造では、割れが発生した。比較例3に係る粉末の合金では、混合のエントロピーが小さい。従って、この粉末からは、優れた耐食性を有する成形体は、得られなかった。比較例4-12に係る粉末における添加元素量の含有率は、過大である。この粉末から得られた成形体には、脆性相が生成した。従って、この成形体の鍛造では、割れが発生した。比較例13に係る成形体におけるCuの含有率は、過小である。従って、この成形体は、軟化抵抗に劣る。比較例14に係る成形体には、Cu相が生成した。従って、この成形体の鍛造では、割れが発生した。
実施例1-15に係る粉末から得られた各成形体では、いずれもロックウェル硬さの差が10HRB以下であり、鍛造時の割れがなく、かつ腐食度が1.4g/m/h以下であった。
これらの評価結果から、本発明の優位性は明かである。
以上説明された多元系合金は、耐食性及び熱間加工性が要求される種々の用途に適している。

Claims (6)

  1. その材質が多元系合金であり、
    上記多元系合金が、
    Co:5原子%以上35原子%以下、
    Cr:5原子%以上35原子%以下、
    Fe:5原子%以上35原子%以下、
    Ni:5原子%以上35原子%以下、
    Cu:0.10原子%以上7.00原子%以下
    及び
    不可避的不純物
    を含有しており、
    その混合のエントロピーΔSmixが、1.30R以上である粉末。
  2. 上記多元系合金が、
    V、Mo、Nb、W、Ti、Zr、Al及びMnからなる群から選択された1又は2以上の元素:20原子%以下
    をさらに含有する請求項1に記載の粉末。
  3. 上記多元系合金が、
    Si:10原子%以下
    をさらに含有する請求項1又は2に記載の粉末。
  4. その材質が多元系合金であり、
    上記多元系合金が、
    Co:5原子%以上35原子%以下、
    Cr:5原子%以上35原子%以下、
    Fe:5原子%以上35原子%以下、
    Ni:5原子%以上35原子%以下、
    Cu:0.10原子%以上7.00原子%以下
    及び
    不可避的不純物
    を含有しており、
    その混合のエントロピーΔSmixが、1.30R以上である粉末冶金成形体。
  5. 上記多元系合金が、
    V、Mo、Nb、W、Ti、Zr、Al及びMnからなる群から選択された1又は2以上の元素:20原子%以下
    をさらに含有する請求項4に記載の粉末冶金成形体。
  6. 上記多元系合金が、
    Si:10原子%以下
    をさらに含有する請求項4又は5に記載の粉末冶金成形体。
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