JP7453524B2 - 鋼部材 - Google Patents

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Description

本発明は、鋼部材に関する。
機械、自動車等の部品に使用される鋼部材の中には、高い剛性が求められるものがある。例えば、自動車の内燃機関や変速機においては、振動やノイズの低減を目的として可動部品の剛性向上が望まれている。自動車燃費向上のために鋼部材を小型・軽量化しつつ、その剛性を維持・向上させるためには、鋼よりも高い弾性率を有する材料(以下、「高弾性率材料」ともいう。)が必要となる。
そのような高弾性率材料として、例えば、切削工具等に用いられる超硬合金やサーメットが挙げられる。また、TiBやNbC等のような、鋼よりも高い弾性率を有する硬質化合物を鋼中に粒子分散させた複合材料が、数多く提案されている。しかしながら、いずれの材料も一般的な鋼と比較して非常に高価であり、塑性加工や切削加工が困難な難加工材である。そのため、鋼部材全体を前述のような高弾性率材料に置き換えることは、材料コスト及び加工コストの両面から、経済性を大きく損ねることになる。
大幅なコストの増加を伴うことなく鋼部材の剛性を向上させる方法として、部分的な材料置換が考えられる。すなわち、鋼部材全体ではなく、剛性が必要とされる部位のみを高弾性率材料に置換すれば大幅なコストの増加を伴うことなく鋼部材の剛性を向上させることができる。また、外周部を高弾性率材料に置換することで、曲げ剛性及びねじり剛性を効率的に向上させることが可能となる。
例えば、以下の特許文献1には、軸受により支承される回転体の回転軸であって、少なくとも軸受から回転体までの間の部位を超硬合金等の高弾性率材料で構成することで剛性を向上させた、回転体の回転軸を提供する技術が記載されている。
特開2005-90587号公報
しかしながら、上記特許文献1に記載された回転軸には、高温環境下での疲労強度に劣るという欠点があった。すなわち、超硬合金等の高弾性率材料は、総じて熱膨張係数が低いので、高弾性率材料が存在している部位は、温度の上昇とともに基材部から引張応力を受けるようになり、曲げ疲労強度等が低下してしまうという課題があった。
本発明は、上述の実情に鑑みてなされたものであり、高弾性率材料を有し、剛性及び高温環境下での疲労強度に優れた鋼部材を提供することを課題とする。
本発明者らは、基材部と、高弾性率材料を含む高弾性率複合材料層とを備える鋼部材において、上記の欠点を解決するため、検討を行った。その結果、以下の知見を得た。
(1)高弾性率化合物を含む高弾性率複合材料層を備えることで、剛性が向上する。一方で、高弾性率化合物の平均粒子径が大きいと、疲労強度が低下する。高弾性率複合材料層に含まれる高弾性率化合物粒子の平均粒子径を小さくすれば、疲労強度を向上させることができる。
(2)高弾性率複合材料層には、温度上昇とともに引張応力が生じるが、高弾性率複合材料層の平均厚さを所定以上とすれば、温度上昇とともに生じる引張応力を小さくすることができる。
(3)高弾性率複合材料層に圧縮残留応力を付与することで、温度上昇とともに高弾性率複合材料層に生じる引張応力を相殺することができる。
本発明は上記の知見に基づいてなされた。本発明の要旨は、以下の通りである。
[1]鋼からなる基材部と、前記基材部の少なくとも一部を覆う表層部と、を備え、前記表層部は、ホウ化物、炭化物、窒化物のうちの少なくとも1種の化合物を、面積%で表層部断面の10%以上含有し、残部がバインダーである、複合材料からなり、前記化合物は、300GPa以上の縦弾性率を有し、かつ、平均粒子径が150μm以下であり、前記表層部の平均厚さが、0.5~30.0mmであり、25℃における、前記表層部の表面の面内方向に対して平行な方向の圧縮残留応力が、200MPa以上であり、前記バインダーが、C含有量が0.1~1.0質量%であるJIS G4051:2016に記載のS55C、SUS410、またはASTMB446のUNS N06625を満足するNi基合金である、鋼部材。
[2]前記基材部は、化学組成として、質量%で、C:0.10~0.55%、Si:0.05~1.50%、Mn:0.20~2.00%、Al:0.005~0.100%、N:0.0010~0.0250%、P:0.001~0.150%、S:0.005~0.150%、を含有し、残部がFe及び不純物からなる、[1]に記載の鋼部材。
[3]前記基材部は、前記化学組成として、残部のFeの一部に換えて、質量%で、Cr:0.10~5.00%、Mo:0.05~1.00%、から選択される1種又は2種を更に含有する、[2]に記載の鋼部材。
[4]前記基材部は、前記化学組成として、残部のFeの一部に換えて、質量%で、V:0.05~0.50%、Ti:0.05~0.30%、から選択される1種又は2種を更に含有する、[2]又は[3]に記載の鋼部材。
[5]前記複合材料の前記バインダーが、C含有量が0.1~1.0質量%である前記S55Cであり、かつ、前記化合物が、NbC、TiC、VC、WC、SiC、Cr、MoC、ZrC、TiB、W、Mo、TiN、VN、NbN、ZrNのうちの1種以上である、[1]~[4]の何れか1項に記載の鋼部材。
以上説明したように、本発明によれば、高弾性率材料を有し、剛性及び高温環境下での疲労強度に優れた鋼部材を提供することが可能となる。
三点曲げ試験片の形状を説明するための説明図である。 三点曲げ試験方法を説明するための説明図である。 三点曲げ疲労試験方法を説明するための説明図である。 本実施形態に係る鋼部材の組織写真の一例を示す図である。 本実施形態に係る鋼部材の組織写真(腐食後)の一例を示す図である。
以下に、必要に応じて添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
以下に示す実施形態は、本発明を限定するものではない。また、以下に示す実施形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれうる。更に、以下に示す実施形態に含まれる各種形態は、当業者が自明の範囲内で任意に組み合わせることができる。
(鋼部材について)
本発明の一実施形態に係る鋼部材(本実施形態に係る鋼部材)は、鋼からなる基材部と、この基材部の少なくとも一部を覆う表層部とを備えた鋼部材である。表層部は、ホウ化物、炭化物、窒化物のうちの少なくとも1種の化合物を、面積%で表層部断面の10%以上含有し、残部がバインダーである複合材料からなり、その平均厚さが0.5~30.0mmである。また、表層部に含まれる化合物は、300GPa以上の縦弾性率を有し、かつ、平均粒子径が150μm以下である。
また、本実施形態に係る鋼部材では、25℃における、前記表層部の表面の面内方向に対して平行な方向の圧縮残留応力が、200MPa以上である。
かかる鋼部材は、例えば、基材部の鋼と、高弾性率化合物粒子を含む複合材料と、を一体化させた鋼素材を製造した後、得られた鋼素材に対して必要に応じて機械加工等を施して部品形状とし、更に必要に応じて、焼き入れ・焼き戻しを施すことによって製造される。また、かかる鋼部材は、基材部の化学成分を有する鋼素材に対して機械加工等を施して部品形状とし、加工後の鋼素材を、高弾性率化合物粒子を含む複合材料と一体化させた後、必要に応じて、焼き入れ・焼き戻しを施すことにより製造してもよい。
このような本実施形態に係る鋼部材は、剛性及び高温環境下での疲労強度に優れるので、例えば、コネクティングロッドやギヤシャフトといった部品に適用することができる。
以下、本実施形態に係る鋼部材について、詳細に説明する。
<基材部について>
まず、鋼部材を構成する基材部について説明する。
本実施形態に係る鋼部材における基材部は、鋼からなる。
本実施形態に係る鋼部材における基材部は、必ずしもその全面が以下で詳述する表層部に覆われるわけではなく、部分的に表面に露出していてもよい。換言すれば、本実施形態に係る鋼部材における基材部には、以下で詳述する表層部で覆われている領域と、かかる表層部に覆われていない領域と、が存在していてもよい。
例えば、本実施形態に係る鋼部材を用いたギヤシャフトにおいて、基材部の一部が露出する場合があるが、かかる露出部分に高い剛性が要求されないのであれば、本実施形態に係る鋼部材を用いたギヤシャフトにおいて基材部が露出していてもよい。
基材部の形状や外径等は限定されないが、コネクティングロッドやギヤシャフトといった部品への適用を想定した場合、例えば断面が円や矩形状の棒状であり、外径(矩形の場合には断面の長径)が10~50mmであってもよい。
≪基材部の化学組成について≫
基材部の化学組成は、求められる機械的特性に応じて決定することができるが、以下に示す化学組成とすることが好ましい。
すなわち、本実施形態に係る鋼部材の基材部(本実施形態に係る基材部と言う場合がある)は、化学組成として、質量%で、C:0.10~0.55%、Si:0.05~1.50%、Mn:0.20~2.00%、Al:0.005~0.100%、N:0.0010~0.0250%、P:0.001~0.150%、S:0.005~0.150%を含有し、残部がFe及び不純物からなることが好ましい。また、本実施形態に係る基材部は、必要に応じて、残部のFeの一部に換えて、質量%で、Cr:0.10~5.00%、Mo:0.05~1.00%の1種もしくは2種、及び/又は、V:0.05~0.50%、Ti:0.05~0.30%1種もしくは2種を、更に含有してもよい。
以下の説明では、上述した本実施形態に係る鋼部材の基材部の好ましい化学組成について、化学成分毎にその含有量の限定理由を説明する。以下に示す各元素の割合(%)は、断りのない限りは、全て質量%を意味する。
[C:0.10~0.55%]
炭素(C)は、鋼部材の強度に大きく影響する重要な元素である。C含有量が0.10%未満である場合には、十分な強度が得られない場合がある。一方、C含有量が0.55%を超える場合には、部品加工時の鍛造性及び被削性が悪化する。そのため、本実施形態に係る基材部では、C含有量を0.10~0.55%とすることが好ましい。本実施形態に係る基材部では、強度をより向上させるために、C含有量は、0.18%以上であることがより好ましく、0.35%以上であることがさらに好ましい。また、本実施形態に係る基材部において、部品加工時の鍛造性及び被削性をより確実に保持するために、C含有量は、0.50%以下であることがより好ましく、0.45%以下であることがさらに好ましい。
[Si:0.05~1.50%]
シリコン(Si)は、鋼材の強度を高めるとともに、焼き戻し軟化抵抗を向上させ、温度上昇に伴う軟化を抑制する有用な元素である。Si含有量が0.05%未満である場合には、上記効果が発揮できない。一方、Si含有量が1.50%を超える場合には、上記効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できない。そのため、本実施形態に係る基材部では、Si含有量を0.05~1.50%とすることが好ましい。本実施形態に係る基材部では、上記効果をより確実に発揮させるために、Si含有量は、0.15%以上であることがより好ましく、0.50%以上であることがさらに好ましい。また、本実施形態に係る基材部では、Si含有量は、1.20%以下であることがより好ましく、0.70%以下であることがさらに好ましい。
[Mn:0.20~2.00%]
マンガン(Mn)は、鋼材の強度及び焼き入れ性を高めると同時に、赤熱脆性を抑制し、熱間延性を向上させる元素である。Mn含有量が0.20%未満である場合には、上記効果が発揮できない。一方、Mn含有量が2.00%を超える場合には、上記作用が飽和し、含有量に見合う効果が期待できない。そのため、本実施形態に係る基材部では、Mn含有量を0.20~2.00%とすることが好ましい。本実施形態に係る基材部では、上記効果をより確実に発揮させるために、Mn含有量は、0.60%以上であることがより好ましく、1.00%以上であることがさらに好ましい。また、本実施形態に係る基材部において、Mn含有量は、1.80%以下であることがより好ましく、1.50%以下であることがさらに好ましい。
[Al:0.005~0.100%]
アルミニウム(Al)は、脱酸作用を有するとともに、熱処理の際、Nと結合してAlNを形成することによりオーステナイト粒の粗大化を防止する効果を持つ元素である。Al含有量が0.005%未満である場合には、上記効果が発揮されない。一方、Al含有量が0.100%を超える場合には、上記効果が飽和する。そのため、本実施形態に係る基材部では、Al含有量を0.005~0.100%とすることが好ましい。本実施形態に係る基材部では、上記効果をより確実に発揮させるために、Al含有量は、0.015%以上であることがより好ましく、0.030%以上であることがさらに好ましい。また、本実施形態に係る基材部では、Al含有量は、0.080%以下であることがより好ましく、0.050%以下であることがさらに好ましい。
[N:0.0010~0.0250%]
窒素(N)は、Alと結合してAlNを形成することにより熱処理時のオーステナイト粒の粗大化を防止する効果を有する元素である。N含有量が0.0010%未満である場合には、上記効果を十分に得ることができない。一方、Nの含有量が0.0250%を超える場合には、上記効果が飽和する。そのため、本実施形態に係る基材部では、N含有量を0.0010~0.0250%とすることが好ましい。本実施形態に係る基材部では、上記効果をより確実に発揮させるために、N含有量は、0.0030%以上であることがより好ましく、0.0100%以上であることがさらに好ましい。また、本実施形態に係る基材部において、N含有量は、0.0200%以下であることがより好ましく、0.0150%以下であることがさらに好ましい。
[P:0.001~0.150%]
リン(P)は、通常、不純物として含まれる元素である。Pは、粒界に偏析して粒界強度を下げるため、P含有量はなるべく低い方が良い。しかしながら、Pは、製鋼工程において低減することができるものの、P含有量を0.001%未満とするには製造コストが著しく上昇する。また、P含有量を0.001%未満としても粒界強度が顕著に向上することはない。また、破断分割式コネクティングロッド用の鋼には、その分割工程において脆性破断面を得るため、意図的に多量のPを含有させることがある。そのため、本実施形態に係る基材部では、P含有量を0.001%以上とすることが好ましい。本実施形態に係る基材部において、脆性破断面をより確実に得るために、P含有量は、0.050%以上であることがより好ましく、0.080%以上であることがさらに好ましい。
一方、P含有量が0.150%を超える場合には、上記効果が飽和する。そのため、本実施形態に係る基材部では、P含有量を0.150%以下とすることが好ましい。P含有量は、0.120%以下であることがより好ましく、0.100%以下であることがさらに好ましい。
[S:0.005~0.150%]
硫黄(S)は、鋼部材の被削性を向上させる元素である。この効果を得る場合、S含有量を0.005%以上とすることが好ましい。被削性をより確実に向上させるためには、S含有量は、0.040%以上であることがより好ましく、0.060%以上であることがさらに好ましい。
一方、S含有量が多すぎると、Mnによって固定されなかったSがFeSとして粒界に生成することで、熱間延性が低下する。そのため、本実施形態に係る基材部では、S含有量を0.150%以下とすることが好ましい。S含有量は、0.120%以下であることがより好ましく、0.100%以下であることがさらに好ましい。
上記基材部の化学組成は、上記元素を含有し残部が、鉄(Fe)及び不純物であることを基本とする。ここで、不純物とは、鋼の原料として利用される鉱石やスクラップ、又は、製造工程の環境等から混入する成分であって、鋼材に意図的に含有させた成分ではない成分を意味する。
一方で、機械的特性等の向上を目的として、以下に示すCr、Mo、V、Tiの1種以上をFeの一部に換えてさらに含有させてもよい。ただし、これらの元素を含有することは必須ではないので、含有量は0%でもよく、また、不純物として、後述する範囲以下の含有量で含まれていてもよい。
[Cr:0.10~5.00%]
クロム(Cr)は、鋼の焼き入れ性を高めると同時に、鋼部材の弾性率を向上させる有用な元素である。そのため、本実施形態に係る基材部は、残部のFeの一部に換えて、Crを所定量含有してもよい。Cr含有量が0.10%未満であると、上記効果が発揮できない可能性がある。一方、Cr含有量が5.00%を超えると、部品加工時の鍛造性及び被削性が低下する可能性がある。そのため、本実施形態に係る基材部において、Crを含有させる場合、Cr含有量は、0.10%以上5.00%以下であることが好ましい。本実施形態に係る基材部において、鋼材の焼き入れ性及び弾性率をより確実に向上させるために、Cr含有量は、0.90%以上であることがより好ましい。また、本実施形態に係る基材部において、部品加工時の鍛造性及び被削性の低下を抑制する観点からは、Cr含有量は、3.00%以下であることがより好ましい。
[Mo:0.05~1.00%]
モリブデン(Mo)は、鋼の強度及び焼き入れ性を高める有用な元素である。そのため、本実施形態に係る基材部は、残部のFeの一部に換えて、Moを所定量含有してもよい。Mo含有量が0.05%未満であると、上記効果が発揮できない可能性がある。一方、Mo含有量が1.00%を超えると、部品加工時の鍛造性及び被削性を低下させる可能性がある。そのため、本実施形態に係る基材部において、Moを含有させる場合、Mo含有量は、0.05~1.00%であることが好ましい。本実施形態に係る基材部において、鋼材の強度及び焼き入れ性をより確実に向上させるために、Mo含有量は、0.15%以上であることがより好ましい。また、本実施形態に係る基材部において、部品加工時の鍛造性及び被削性の低下を抑制する観点からは、Mo含有量は、0.60%以下であることがより好ましい。
[V:0.05~0.50%]
バナジウム(V)は、鋼中でバナジウム炭化物及び/又はバナジウム炭窒化物を形成して鋼の強度を高めるとともに、熱処理時のオーステナイト粒の粗大化を防止する効果を有する元素である。更に、鋼中にバナジウム炭化物及び/又はバナジウム炭窒化物が形成されることで、本実施形態に係る鋼部材を用いて破断分割式コネクティングロッドを製造する際に、破断分割式コネクティングロッドの分割工程において脆性破断面を得られやすくなる。そのため、本実施形態に係る基材部は、残部のFeの一部に換えて、Vを所定量含有してもよい。V含有量が0.05%未満であると、上記効果が発揮できない可能性がある。一方、V含有量が0.50%を超えると、鋼の製造コストが高くなるだけでなく、含有量に見合う効果が期待できない。そのため、本実施形態に係る基材部において、Vを含有させる場合、V含有量は、0.05~0.50%であることが好ましい。本実施形態に係る基材部において、上記効果をより確実に得るために、V含有量は、0.15%以上であることがより好ましい。また、本実施形態に係る基材部において、含有量に見合うだけの効果をコスト抑制しつつより確実に発揮させるために、V含有量は、0.35%以下であることがより好ましい。
[Ti:0.05~0.30%]
チタン(Ti)は、鋼中でチタン炭化物及び/又はチタン炭窒化物を形成して鋼の強度を高めるとともに、熱処理時のオーステナイト粒の粗大化を防止する効果を有する元素である。更に、TiをVと複合して含有させることによって、鋼中でTiとVの複合炭化物が形成されやすくなり、破断分割式コネクティングロッドの分割工程において脆性破断面を得られやすくなる。そのため、本実施形態に係る基材部は、残部のFeの一部に換えて、Tiを所定量含有してもよい。Ti含有量が0.05%未満であると、上記効果が発揮できない可能性がある。一方、Ti含有量が0.30%を超えると、鋼の製造コストが高くなるだけでなく、含有量に見合う効果が期待できない。そのため、本実施形態に係る基材部において、Tiを含有させる場合、Ti含有量は、0.05~0.30%であることが好ましい。本実施形態に係る基材部において、上記効果をより確実に得るために、Ti含有量は、0.10%以上であることがより好ましい。また、本実施形態に係る基材部において、含有量に見合うだけの効果をコスト抑制しつつより確実に発揮させるために、Ti含有量は、0.20%以下であることがより好ましい。
上述したように、上記基材部の化学組成は、C、Si、Mn、Al、N、P、Sを含有し、残部が鉄(Fe)及び不純物であるか、C、Si、Mn、Al、N、P、Sを含有し、さらにCr、Mo、V、Tiの1種以上を含有し、残部が鉄(Fe)及び不純物である。
<表層部について>
次に、本実施形態に係る鋼部材が備える表層部(本実施形態に係る表層部という場合がある)の構成について、詳細に説明する。
本実施形態の鋼部材における表層部は、基材部の少なくとも一部を覆う複合材料からなる。この複合材料は、炭化物、窒化物のうちの少なくとも1種の化合物を、表層部の断面において面積%で10%以上含有し、残部がバインダーである。前記化合物は、300GPa以上の縦弾性率(ヤング率)を有するホウ化物、300GPa以上の縦弾性率を有する炭化物、300GPa以上の縦弾性率を有する窒化物(以下、「高弾性率化合物」ともいう。)のうちの少なくとも1種であり、平均粒子径が150μm以下である。
[化合物の縦弾性率]
鋼の縦弾性率は、200GPa程度である。そのため、剛性(縦弾性率)の向上を目的として含有する化合物の縦弾性率が300GPa未満である場合には、十分な弾性率向上効果が得られない。そのため、本実施形態に係る表層部において、表層部の複合材料に含まれる化合物の縦弾性率は、300GPa以上とする。高弾性率化合物の弾性率は、好ましくは400GPa以上であり、より好ましくは500GPa以上である。一方、高弾性率化合物が有する縦弾性率は、大きければ大きいほど良く、その上限は特に規定されるものではない。ただし、本実施形態に係る鋼部材が備える表層部に引張応力が負荷された際、バインダーとなる金属部と高弾性率化合物との弾性変形量の差により、バインダー(母材)と高弾性率化合物との界面が剥離したり、高弾性率化合物の周囲に大きな応力集中が生じたりすることが懸念される。そのため、このような界面の剥離や応力集中を抑制するという観点から、高弾性率化合物の縦弾性率は、900GPa以下であることが好ましく、700GPa以下であることがより好ましい。
以上のような、300GPa以上の縦弾性率を有する高弾性率化合物として、例えば、NbC、TiC、VC、WC、SiC、Cr、MoC、ZrC、TiB、W、Mo、TiN、VN、NbN、ZrN等が挙げられる。高弾性率化合物は、比ヤング率(比重1あたりのヤング率)の点で、TiC、またはTiBであることが好ましい。
上記のような高弾性率化合物の縦弾性率は、以下のようにして測定することが可能である。すなわち、ミリメートルオーダー以上の試験片が作製可能な化合物については、JIS Z2241:2011に規定された引張試験や、JIS Z2280:1993に規定された共振法、超音波パルス法等によって、縦弾性率を測定することが可能である。また、ミリメートルオーダー以上の試験片が作製困難な化合物については、ISO14577に規定されたナノインデンテーション法によって縦弾性率を測定することが可能である。ナノインデンテーション法では、化合物の中心について、5mNの荷重で5点以上測定を行う。また、これを無作為に選んだ20個以上の化合物に対して行い、その平均値を化合物の縦弾性率とする。
[化合物の含有割合]
また、本実施形態に係る鋼部材の表層部の断面において、かかる断面の全面積に対する高弾性率化合物の割合が10面積%未満である場合には、十分な弾性率向上効果が発揮されない。そのため、本実施形態に係る鋼部材の表層部の断面において、高弾性率化合物の割合は、10面積%以上とする。表層部断面における高弾性率化合物の割合は、好ましくは30面積%以上であり、より好ましくは50面積%以上である。
一方、表層部断面における高弾性率化合物の割合は、大きければ大きいほど良く、上限は特に規定されるものではない。ただし、表層部においてバインダーである金属部の割合が少なくなると、表層部の靭性が低下する可能性がある。そのため、表層部の断面における高弾性率化合物の割合は、70面積%以下であることが好ましい。
表層部の断面における高弾性率化合物の面積率は、以下のようにして測定することが可能である。まず、表層部断面の光学顕微鏡デジタル写真を撮影する。次に、図4に示すように、光学顕微鏡デジタル写真において、表層部において、高弾性率化合物1とその他のバインダーとは明確に区別ができる場合は、かかる写真を用いて、JISG0555:2003に示される点算法を用いて、高弾性率化合物の面積率を測定する。高弾性率化合物とその他のバインダーとが明確に区別できない場合は、バインダーである金属部が黒く、高弾性率化合物が白く写るよう表層部の断面を腐食した後、光学顕微鏡デジタル写真を撮影すればよい。例えば、バインダーが鉄基合金の場合、腐食液はナイタールを用いればよい。図5はナイタールによって腐食をした後の鋼部材の組織写真の一例である。
[高弾性率化合物の平均粒子径]
表層部は、繰り返し負荷される引張や曲げの力に対して強いことも求められる。
高弾性率化合物の平均粒子径が150μm超である場合には、高弾性率化合物が亀裂発生源となり、疲労強度が低下する。そのため、本実施形態に係る鋼部材において、表層部の複合材料に含まれる高弾性率化合物の平均粒子径を150μm以下とする。高弾性率化合物の平均粒子径は、45μm以下であることが好ましい。一方、高弾性率化合物の平均粒子径の下限値は、特に規定するものではないが、高弾性率化合物の平均粒子径が小さくなると表層部の靭性が低下するので、0.1μm以上とすることが好ましい。
また、平均粒子径は、高弾性率材料を複合材料化させる方法に応じて上記の範囲で変更することが好ましい。例えば、複合材料化させる方法として高速フレーム溶射を用いた場合には、高弾性率化合物の平均粒子径を15~45μmとすることが好ましい。複合材料化させる方法として粉体プラズマ溶接を用いた場合には、高弾性率化合物の平均粒子径を75~150μmとすることが好ましい。また、複合材料化させる方法としてレーザークラッディングを用いた場合には、高弾性率化合物の平均粒子径を45~150μmとすることが好ましい。
高弾性率化合物の平均粒子径は、光学顕微鏡による表層部の断面観察から求めることができる。具体的には、粒子の長径と短径を測定し、それらの平均値を粒子径とする。これを無作為に選んだ20個以上の粒子に対して行い、その平均値を平均粒子径とする。
[複合材料におけるバインダー]
本実施形態に係る鋼部材の表層部を構成する複合材料において、以上説明したような、高弾性率化合物以外の残部はバインダーである。すなわち、高弾性率化合物が、母材となるバインダー中に存在している。
本実施形態に係る表層部のバインダーは限定されるものではないが、例えば、C含有量が0.1~1.0質量%である鉄基合金やステンレス、Ni、Ni基合金、Cr、Cr基合金、CoまたはCo基合金が挙げられる。
バインダーが鉄基合金である場合には、C含有量が0.1%未満であると、表層部の強度が十分に確保できない可能性がある。一方、鉄基合金のC含有量が1.0%を超える場合には、延性及び靭性が低下し、高弾性率化合物を含有することも相まって、表層部が脆くなる可能性が高くなる。鉄基合金のC以外の化学成分については、特に限定されるものではなく、所望の特性を実現するために有用な各種の元素を、適宜含有していればよい。
[断面における表層部の面積率]
鋼部材の剛性を向上させるため、表層部は、基材部の少なくとも一部を覆ったものでなければならない。曲げ剛性及びねじり剛性を効率的に向上させるためには、表層部は、基材部の外周を覆うことが好ましい。
また、十分な剛性向上効果を得るため、基材部の表面に表層部が形成された位置において、表層部と基材部との両方を通る断面における、表層部の面積率は、上記断面の全面積に対して10%以上であることが好ましい。上記断面における表層部の面積率は、より好ましくは20%以上である。一方、上記断面における表層部の面積率は、大きければ大きいほど良く、その上限値は、特に規定されるものではない。ただし、鋼部材の材料コスト及び加工コストを抑えるという観点から、上記断面における表層部の面積率は、50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。
[表層部の平均厚さ]
本実施形態に係る鋼部材において、表層部の平均厚さ(表面に垂直な方向)も重要である。表層部の平均厚さが0.5mmより薄い(0.5mm未満である)場合には、温度の上昇に伴って表層部に発生する引張応力が大きくなり、表層部の疲労強度が低下する。
一方、表層部の平均厚さが30.0mmを越える場合には、高価な複合材料の割合が多くなり、大幅なコストの増加を招く。
よって、表層部の平均厚さは、0.5~30.0mmとする。表層部の平均厚さは、1.0mm以上であることが好ましく、3.0mm以上であることがより好ましい。また、表層部の平均厚さは、20.0mm以下であることが好ましく、10.0mm以下であることがより好ましい。
表層部の断面における面積率及び平均厚さは、試料断面にナイタール腐食を行った後、光学顕微鏡により断面を観察し、高弾性率化合物粒子を含む部分を表層部と判断して測定すればよい。表層部の平均厚さは、例えば表層部が断面において略板状であった場合、試料断面における表層部の面積を、表層部の表面である線分の長さで除して算出すればよい。例えば表層部が断面において略環状であった場合、環の中心を起点として放射状に20本以上の半直線を引き、表層部を通過している部分の線分の長さの平均値を表層部の平均厚さとして算出すれば良い。
表層部の断面における面積率は、全体の厚みにおける表層部の平均厚さから求めることができる。
図4は断面の光学顕微鏡写真の例である。図4に示されるように、基材部3と高弾性率化合物1とは明確に区別できる。化合物(高弾性率化合物)1とその他のバインダー2とが明確に区別できない場合は、バインダーである金属部が黒く、高弾性率化合物が白く写るよう表層部4の断面を腐食した後、観察すればよい。例えば、バインダー2が鉄基合金の場合、腐食液はナイタールを用いればよい。
[表層部の圧縮残留応力]
表層部は、繰り返し負荷される引張や曲げの力に耐えるために、表層部の表面の面内方向と平行な方向の25℃における圧縮残留応力は、200MPa以上とする。鋼部材における表層部の面内方向と平行な方向の25℃における圧縮残留応力が200MPa未満である場合には、引張や曲げの応力に対して弱くなり、疲労強度、特に高温での疲労強度が低下する。表層部の面内方向と平行な方向の25℃における圧縮残留応力は、高ければ高いほどよく、その上限値は、特に規定するものではない。ただし、表層部に発生する圧縮残留応力の上限値は、表層部の降伏強度によって決まる値となる。
表層部の表面の面内方向と平行な方向の圧縮残留応力は、X線回折結果を解析することによって求めることができる。具体的には、表層部の表面にX線を種々の入射角で照射し、sinψ法によって、表層部の面内方向と平行な方向の表面の圧縮残留応力を求めることができる。
(鋼部材の製造方法について)
以下、本実施形態に係る鋼部材の製造方法について、詳細に説明する。
上述したように、本実施形態の鋼部材は、例えば、基材部の化学成分を有する鋼と、高弾性率化合物を含有する複合材料と、を一体化させた鋼素材を製造した後、鋼素材に対して必要に応じて機械加工等を施して部品形状とし、更に必要に応じて、焼き入れ・焼き戻しを行い、その後ショットピーニングまたはウェットブラストを施すことにより製造される。また、かかる鋼部材は、基材部の化学成分を有する鋼素材に対して機械加工等を施して部品形状とし、加工後の鋼素材を、高弾性率化合物粒子を含む複合材料と一体化させた後、必要に応じて、焼き入れ・焼き戻しを施し、その後ショットピーニングまたはウェットブラストを施すことにより製造される。
本実施形態に係る鋼部材の製造方法の一例を説明する。
まず、基材部となる所望の化学成分を有する鋼と、高弾性率化合物を含む複合材料とを用意し、鋼は所定の形状とする。その上で、高弾性率化合物を含む複合材料を、粉体プラズマ溶接や高速フレーム溶射、レーザークラッディングなどを用いて、基材部と一体化させる。
ついで、得られた鋼素材に対し、必要に応じて機械加工等を施して部品形状とする。また、更に部材の機械的特性を調整するため、必要に応じて、焼き入れ・焼き戻しを行い、所望の圧縮残留応力値を実現するために、ショットピーニングやウェットブラストを施す。このようにして、本実施形態に係る鋼部材を製造することができる。
製造後の鋼部材において、表層部断面における高弾性率化合物の面積率が所望の状態となるように、一体化に用いる複合材料を用意する際に、一体化に用いる手法についても考慮しつつ、含有させる高弾性率化合物の含有量(体積%)を適宜調整することが好ましい。
表層部の厚みは、鋼素材の一体化の際に調整してもよく、鋼素材を機械加工する際に鋼素材の表面を切削等することで、表層部の厚みを調整してもよい。
さらに、表層部の圧縮残留応力は、ショットピーニング、ウェットブラストにより付与することができる。ショットピーニング工程、及び、ウェットブラスト工程においては、高速で投射された鋼球やジルコニア球が衝突することで表層部が押し延ばされるが、表層部は基材部によって拘束されているので、25℃において、表層部の表面の面内方向と平行な方向に200MPa以上の圧縮残留応力が付与されることになる。
ショットピーニング、ウェットブラスト等の各工程を所定の条件に則して更に実施することで、25℃における、表層部の表面の面内方向と平行な方向での圧縮残留応力を、所望の値に制御することができる。
以上、本実施形態に係る鋼部材の製造方法の一例について説明した。なお、本実施形態に係る鋼部材を上記以外の方法によって製造してもよいことは、言うまでもない。
続いて、実施例及び比較例を示しながら、本発明の実施形態に係る鋼部材について、具体的に説明する。以下に示す実施例は、本発明の実施形態に係る鋼部材のあくまでも一例にすぎず、本発明の実施形態に係る鋼部材が下記に示す例に限定されるものではない。
表1の「基材部」に示す化学成分を有する鋼を真空溶解した後、鋳型を用いて鋳造し、鋼片を製造した。得られた鋼片を1250℃に加熱した後、外径25mmの丸棒に熱間鍛伸した。この丸棒から、幅14mm×高さ6~8mm×長さ150mmの角材を、機械加工にて作製し、No.1~11の角材(基材部)を得た。ただし、機械加工の際、実施例No.1、実施例No.4、比較例No.10については、複合材料からなる表層部の平均厚さを変化させるために、角材の高さをそれぞれ8.0mm、6.0mm、8.5mmとした。それ以外については、高さを7.0mmとした。
また、複合材料からなる表層部を持たない場合の曲げ剛性を測定するため、前記丸棒から別途後述の三点曲げ試験片を作製した。
上記機械加工で得られたNo.1~No.11の角材(基材部)に対し、下記の加工を施した。
まず、表2の「表層部」に示す化合物の粉体と、JIS S55C(機械構造用炭素鋼、C含有量:0.54質量%)またはJIS SUS410またはNi基合金(スペシャルメタルズ社製「インコネル625」)の粉体とを混ぜた混合物を作製した。ここで、用いた化合物は、市販のものを用いており、その詳細は、以下の通りである。
NbC:平均粒子径 36μm
TiC:平均粒子径 52μm、182μm
TiN:平均粒子径 69μm
TiB:平均粒子径 124μm
VB:平均粒子径 76μm
次に、上記角材の上面及び下面に対し、複合材料からなる表層部が同じ平均厚さで形成され、かつ、上記表層部を含む角材の高さが10mm程度となるように、角材の上面及び下面に対し、上記混合物を粉体プラズマ溶接した。粉体プラズマ溶接に際しては、Arガスをシールドガスとして使用し、溶接速度5mm/s、溶接電流200A、粉体供給量20g/minを基準条件として、粉体の組み合わせに応じて適宜条件を調整した。その後、粉体プラズマ溶接された角材から、試験片中心、高さ方向、及び、長手方向が変わらないように、図1に示したような幅5mm×高さ9mm×長さ120mmの三点曲げ試験片を、機械加工にて作製した。最後に、かかる三点曲げ試験片の上面及び下面に対して、条件を変えながらウェットブラストを施した。
実施例No.1~No.6、比較例No.7~No.11について、ウェットブラスト後の三点曲げ試験片の評価を下記手順で行った。
まず、表層部の表面の面内方向と平行な方向の25℃における圧縮残留応力を、X線回折結果の解析によって求めた。具体的には、図1に示したような三点曲げ試験片について、25℃環境下において、下面の試験片長手方向中央かつ試験片幅方向中央に対し、ビーム径φ0.5mmのX線を種々の入射角で照射し、sinψ法によって試験片長手方向の圧縮残留応力を求めた(使用装置:リガク株式会社製AutoMATE)。管電圧40kV、管電流40mAのCr管球を用い、走査範囲は146.50°~165.86°とした。
表層部の表面の面内方向と平行な方向の圧縮残留応力が200MPa以上の場合を、本発明の範囲内であるとして合格と判定した。一方、表層部の表面の面内方向と平行な圧縮残留応力が200MPa未満の場合を、本発明の範囲外であるとして不合格と判定した。
次に、試験片中心を通り、試験片長手方向に垂直な断面が観察面となるように上記三点曲げ試験片を切断し、樹脂埋め、研磨、ナイタール腐食を行った。光学顕微鏡(株式会社ニコン製ECLIPSE L150)により広さ45mmの断面を45視野に分けて観察した。各視野において、化合物粒子を含む部分を表層部と判断して、上面表層部の平均厚さ及び下面表層部の平均厚さを測定し、上面表層部の平均厚さと下面表層部の平均厚さの平均を更に算出して、表層部の平均厚さとした。表層部の平均厚さが0.5mm以上の場合を、本発明の範囲内であるとして合格と判定した。一方、表層部の平均厚さが0.5mm未満の場合を、本発明の範囲外であるとして不合格と判定した。
更に、光学顕微鏡(株式会社ニコン製ECLIPSE L150)により上記三点曲げ試験片の表層部の断面を200倍で観察し、広さ50000μm分の視野について、JIS G0551:2013に準じた切断法により化合物粒子の平均粒子径を求めた。化合物粒子の平均粒子径が150μm以下の場合を、本発明の範囲内であるとして合格と判定した。一方、化合物粒子の平均粒子径が150μmを超える場合を、本発明の範囲外であるとして不合格と判定した。
また、化合物縦弾性率を、ナノインデンテーション法によって測定した。具体的には、化合物の中心について、5mNの荷重で5点以上測定を行った。これを無作為に選んだ20個の化合物に対して行い、その平均値を化合物の縦弾性率とした。
最後に、光学顕微鏡(株式会社ニコン製ECLIPSE L150)により、上記三点曲げ試験片の表層部の断面を200倍で観察し、広さ50000μm分の視野について、光学顕微鏡写真において白く写った化合物粒子の面積率を、点算法により算出した。高弾性率化合物の割合が面積%で10%以上の場合を、本発明の範囲内であるとして合格と判定した。一方、化合物粒子の割合が面積%で10%未満の場合を、本発明の範囲外であるとして不合格と判定した。
次に、三点曲げ試験を行い、上記三点曲げ試験片の曲げ剛性を評価した。
図2に示すように、前記三点曲げ試験片を用いて、試験片長手方向に100mm離れた2つの下側支点と、試験片長手方向の中央に位置する1つの上側支点とを配置して、上側支点に下方向の変位を与える三点曲げ試験を行った。上側支点の下降速度は0.5mm/sとし、上側支点にかかる荷重と試験片中央のたわみ量から、上記三点曲げ試験片の曲げ剛性を算出した。更に、複合材料からなる表層部を持たない三点曲げ試験片の曲げ剛性で規格化した曲げ剛性比を算出した。曲げ剛性比が1.10以上の場合を、曲げ剛性に優れるとして合格と判定した。
続いて、高温で三点曲げ疲労試験を行い、上記三点曲げ試験片の曲げ疲労強度を評価した。
図3に示すように、上記三点曲げ試験片を用いて、試験片長手方向に100mm離れた2つの下側支点と、試験片長手方向の中央に位置する1つの上側支点とを配置して、上側支点に下方向の繰り返し荷重を負荷する三点曲げ疲労試験を行った。試験速度は10Hzとし、試験片下面の長手方向中央部に発生する最大応力はバインダーの降伏強度の0.5倍とし、応力比は0.05とし、試験温度は100℃として、疲労寿命(試験片の破断に要した繰り返し数)を調べた。ただし、繰り返し数は、100万回を上限とした。100万回(10回)の繰り返し荷重を負荷しても破断しなかった場合を、曲げ疲労強度に優れるとして合格と判定した。
以上により得られた結果を、表2にまとめて示した。
Figure 0007453524000001
Figure 0007453524000002
表2のNo.1~No.6が実施例であり、その他(No.7~No.11)は、比較例である。
比較例No.7は、表層部に含まれる化合物の縦弾性率が低いため、十分な曲げ剛性が得られなかった例である。比較例No.8は、表層部に含まれる化合物粒子の割合が低いため、十分な曲げ剛性が得られなかった例である。比較例No.9は、表層部に含まれる化合物粒子の平均粒子径が大きいため、曲げ疲労強度が低下した例である。比較例No.10は、表層部の平均厚さが薄いため試験温度への昇温により表層部の圧縮残留応力が下がり曲げ疲労強度が低下したとともに、表層部の面積率も低めであるため曲げ剛性が低めになった例である。比較例No.11は、表層部の圧縮残留応力が低いため、曲げ疲労強度が低下した例である。
一方、本発明の実施例に該当するNo.1~No.6については、十分な曲げ剛性を有し、かつ、優れた曲げ疲労強度を有していることがわかる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
本発明によれば、剛性及び疲労強度に優れた鋼部材を得ることができ、産業上の利用価値は大である。
1 化合物
2 バインダー
3 基材部
4 表層部

Claims (5)

  1. 鋼からなる基材部と、
    前記基材部の少なくとも一部を覆う表層部と、
    を備え、
    前記表層部は、ホウ化物、炭化物、窒化物のうちの少なくとも1種の化合物を、面積%で表層部断面の10%以上含有し、残部がバインダーである、複合材料からなり、
    前記化合物は、300GPa以上の縦弾性率を有し、かつ、平均粒子径が150μm以下であり、
    前記表層部の平均厚さが、0.5~30.0mmであり、
    25℃における、前記表層部の表面の面内方向に対して平行な方向の圧縮残留応力が、200MPa以上であり、
    前記バインダーが、C含有量が0.1~1.0質量%であるJIS G4051:2016に記載のS55C、SUS410、またはASTMB446のUNS N06625を満足するNi基合金である、
    鋼部材。
  2. 前記基材部は、化学組成として、質量%で、
    C:0.10~0.55%、
    Si:0.05~1.50%、
    Mn:0.20~2.00%、
    Al:0.005~0.100%、
    N:0.0010~0.0250%、
    P:0.001~0.150%、
    S:0.005~0.150%、
    を含有し、残部がFe及び不純物からなる、
    請求項1に記載の鋼部材。
  3. 前記基材部は、前記化学組成として、残部のFeの一部に換えて、質量%で、
    Cr:0.10~5.00%、
    Mo:0.05~1.00%、
    から選択される1種又は2種を更に含有する、
    請求項2に記載の鋼部材。
  4. 前記基材部は、前記化学組成として、残部のFeの一部に換えて、質量%で、
    V:0.05~0.50%、
    Ti:0.05~0.30%、
    から選択される1種又は2種を更に含有する、
    請求項2又は3に記載の鋼部材。
  5. 前記複合材料の前記バインダーが、C含有量が0.1~1.0質量%である前記S55Cであり、かつ、前記化合物が、NbC、TiC、VC、WC、SiC、Cr、MoC、ZrC、TiB、W、Mo、TiN、VN、NbN、ZrNのうちの1種以上である、請求項1~4の何れか1項に記載の鋼部材。
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