JP6819503B2 - 鋼部材 - Google Patents
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Description
(1)鋼部材の耐摩耗性を確保するために、耐摩耗性を必要とする表層部においては、C濃度を高めるとともに、Mo、V等の硬質な合金炭化物生成元素を含有させる成分設計とした。
(2)焼き入れ後に耐摩耗性を必要とする表層部に圧縮残留応力が発生するよう、また、表層部以外の基材部では靭性が損なわれないよう、基材部は表層部と比較してC濃度および合金元素濃度を低減する成分設計とした。
上記した設計思想により、本発明の鋼部材は、表層部のC濃度が高く、Mo、V等の硬質な合金炭化物生成元素を含有しているため、焼き入れ後に高い耐摩耗性が得られる。また、基材部はC濃度が低く、合金元素の濃度も低減されているため、焼き入れ後においても基材部は靭性に優れている。さらに、鋼成分が一様ではなく、表層部は基材部よりもC濃度および合金元素の濃度が高いため、Ms点が低い。そのため、焼き入れ時、最初にマルテンサイト変態を起こすのは表層部直下の基材部の低C低合金領域であり、その後、表層部が変態するため、表層部には圧縮残留応力が発生し、曲げ応力に対して強くなる。
上記した本発明の要旨は、以下の通りである。
前記基材部が、質量%で、
C:0.10〜0.50%、
Si:0.05〜0.50%、
Mn:0.20〜0.90%、
Al:0.005〜0.100%、
N:0.0010〜0.0250%、
P:0.001〜0.030%、
S:0.005〜0.025%および
Cr:0.10〜1.50%
を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、
ビッカース硬さが300〜650HVであり、
前記表層部が、質量%で、
C:0.80〜1.60%、
Si:0.05〜2.00%、
Mn:0.20〜1.50%、
Al:0.005〜0.100%、
N:0.0010〜0.0250%、
P:0.001〜0.030%および
S:0.005〜0.025%
を含有し、さらに、
Cr:0.60〜4.00%、
Mo:0.20〜3.00%、
V:0.40〜2.00%および
W:0.30〜2.50%
からなる群から選択される1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、
ビッカース硬さが750HV以上であり、
前記表層部の表面の面内方向と平行な方向の圧縮残留応力が200MPa以上であり、
厚さが0.30〜2.00mmである、鋼部材。
以下、鋼部材について説明する。
本実施形態に係る基材部は、質量%で、C:0.10〜0.50%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.20〜0.90%、Al:0.005〜0.100%、N:0.0010〜0.0250%、P:0.001〜0.030%、S:0.005〜0.025%およびCr:0.10〜1.50%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる。
また、表層部は、質量%で、C:0.80〜1.60%、Si:0.05〜2.00%、Mn:0.20〜1.50%、Al:0.005〜0.100%、N:0.0010〜0.0250%、P:0.001〜0.030%およびS:0.005〜0.025%を含有し、さらに、Cr:0.60〜4.00%、Mo:0.20〜3.00%、V:0.40〜2.00%およびW:0.30〜2.50%からなる群から選択される1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不純物からなる。
C(基材部):0.10〜0.50%
炭素(C)は鋼部材の強度に大きく影響する重要な元素である。表層部は高い耐摩耗性を実現するため、硬さが750HV以上である必要がある。そのため、表層部のC含有量は0.80〜1.60%とする。表層部のC含有量が0.80%未満では、焼き入れ・焼き戻し後でも750HV以上のビッカース硬さが得られず、一方、1.60%を超えると鋳造・熱間圧延時の延性を劣化させると同時に、鋼素材の鍛造性および機械加工時の被削性を低下させる。そのため、表層部のC含有量を0.80〜1.60%とする。
鋼部材の基材部は硬さと靭性とのバランスが求められるため、硬さは300〜650HVである必要がある。そのため、基材部のC含有量は0.10〜0.50%とし、表層部よりも低くする。基材部のC含有量が0.10%未満では、焼き入れ・焼き戻し後でも300HV以上のビッカース硬さが得られず、一方、0.50%を超えると、焼き入れ・焼き戻し後にビッカース硬さが650HV超となり十分な靭性が得られない。
Si(基材部):0.05〜0.50%
シリコン(Si)は焼き戻し軟化抵抗を向上させ、温度上昇に伴う軟化を抑制する有用な元素である。表層部のSi含有量が0.05%未満では前記作用が発揮できず、一方、2.00%を超えると前記作用が飽和し始め、含有量に見合う効果が期待できない。そのため、表層部のSi含有量を0.05〜2.00%とする。
また、基材部には高い焼き戻し軟化抵抗は必要なく、鍛造性および機械加工時の被削性が優先される。そのため、基材部のSi含有量を0.05〜0.50%とする。
Mn(基材部):0.20〜0.90%
マンガン(Mn)は焼き入れ性を高めると同時に、赤熱脆性を抑制し、熱間延性を向上させる元素である。表層部のMn含有量が0.20%未満では前記作用が発揮できず、一方、1.50%を超えると含有量に見合う効果が期待できない。そのため、表層部のMn含有量を0.20〜1.50%とする。
また、基材部には高い焼き入れ性は必要なく、鋼素材の鍛造性および機械加工時の被削性が優先される。そのため、基材部のMn含有量を0.20〜0.90%とする。
アルミニウム(Al)は脱酸作用を有するとともに、熱処理の際、Nと結合してAlNを形成することによりオーステナイト粒の粗大化を防止し、靭性を高める効果を持つ。表層部および基材部のAl含有量が0.005%未満ではこれらの効果が発揮されず、一方、0.100%を超えると上記効果が飽和する。そのため、表層部および基材部のAl含有量をともに0.005〜0.100%とする。
窒素(N)はAl、Vと結合して窒化物を形成することによりオーステナイト粒の粗大化を防止し、靭性を高める効果を有する。表層部および基材部のN含有量が0.0010%未満ではその効果が小さく、一方、0.0250%を超えると上記効果が飽和する。そのため、表層部および基材部のN含有量をともに0.0010〜0.0250%とする。好ましくは、0.0030〜0.0150%とする。
リン(P)は不純物として含まれる元素である。Pは粒界に偏析して粒界強度を下げるため、P含有量はなるべく低い方が良い。そのため、表層部および基材部におけるP含有量の上限を0.030%以下とする。表層部および基材部におけるP含有量の好ましい上限は0.020%以下である。Pは製鋼工程において低減することができるものの、0.001%未満とするには製造コストがかかり、また0.001%未満としても粒界強度が顕著に向上することはないので、表層部および基材部におけるP含有量の下限を0.001%以上とする。
硫黄(S)は鋼部材の被削性を向上させるため、0.005%以上を含有させる。しかし、S含有量が多すぎると、Mnによって固定されなかったSがFeSとして粒界に生成することで、熱間延性が低下する。また、大量に生成したMnSによって、耐摩耗性が低下する。そのため、表層部および基材部におけるS含有量の上限を0.025%以下とする。したがって、表層部および基材部のS含有量をともに0.005〜0.025%とする。
基材部には高い焼き入れ性・耐摩耗性は必要なく、部品加工時の鍛造性および被削性が優先される。そのため、基材部のCr含有量を0.10〜1.50%とする。
クロム(Cr)は鋼材の焼き入れ性を高めると同時に、硬い炭化物を形成し耐摩耗性を向上させる有用な元素である。表層部のCr含有量が0.60%未満では上記作用が発揮できず、一方、4.00%を超えると部品加工時の鍛造性および被削性を低下させる。そのため、表層部のCr含有量を0.60〜4.00%とする。
モリブデン(Mo)は鋼材の焼き入れ性を高めると同時に、硬い炭化物を形成して耐摩耗性を向上させる有用な元素である。表層部のMo含有量が0.20%未満では上記作用が発揮できず、一方、3.00%を超えると部品加工時の鍛造性および被削性を低下させる。そのため、表層部のMo含有量を0.20〜3.00%とする。
バナジウム(V)は硬い炭化物を形成して耐摩耗性を向上させるとともに、結晶粒を微細化して靭性を向上させる有用な元素である。表層部のV含有量が0.40%未満では耐摩耗性向上効果が発揮できず、一方、2.00%を超えると部品加工時の鍛造性および被削性を低下させる。そのため、表層部のV含有量を0.40〜2.00%とする。
タングステン(W)は鋼材の焼き戻し軟化抵抗を高めると同時に、硬い炭化物を形成して耐摩耗性を向上させる有用な元素である。表層部のW含有量が0.30%未満では上記作用が発揮できず、一方、2.50%を超えると部品加工時の鍛造性および被削性を低下させる。そのため、表層部のW含有量を0.30〜2.50%とする。
本実施形態の鋼部材における表層部は、他の鋼部材と接触して摺動する部位となる。よって、本実施形態に係る表層部は、鋼部材の表面のうち、摺動を受ける部分を覆ったものでなければならない。表層部には高い耐摩耗性が必要となる。そのため、表層部は、前述のようにMo、V等の硬質な合金炭化物生成元素と、高濃度のCとを含有させ、ビッカース硬さを750HV以上とする。鋼部材の表層部におけるビッカース硬さが750HV未満であると、表層部の耐摩耗性を確保できなくなる。
なお、表層部のビッカース硬さは、表層部の表面から50μm深さの位置におけるビッカース硬さを測定するとよい。
なお、表層部の表面の面内方向と平行な方向の圧縮残留応力は、X線回折結果を解析することによって求めるとよい。具体的には、表層部の表面にX線を種々の入射角で照射し、回折角の変化から、表層部の面内方向と平行な方向の表面の圧縮残留応力を求めるとよい。
なお、表層部の厚さは、試料断面にナイタール腐食を行った後、光学顕微鏡観察により断面を観察し、金属組織あるいは腐食度合いが基材部と異なる部分を表層部と判断して、表層部の厚さを測定するとよい。
本実施形態の鋼部材における基材部は、必ずしもその全面が表層部に覆われた領域を指すものではなく、他の部品と接触しない表面や、高い曲げ応力が付与されない表面に基材部が露出していてもよい。例えば、本実施形態の鋼部材なるギヤ付シャフトにおける中心軸方向と垂直な断面上には基材部が露出する場合があるが、この部分には耐摩耗性が要求されないので、基材部が露出していてもよい。
基材部は、鋼部材に加えられる衝撃的な力に耐える必要がある。また、表層部に高い圧縮残留応力を付与するため、基材部は表層部よりもMs点を高くする必要がある。そのため、基材部は、前述のように表層部と比較してC量を下げるとともに、焼き入れ性を高める合金元素も表層部より低減させる。
また、基材部は、靭性を確保するために、ビッカース硬さを300〜650HVとする。なお、基材部のビッカース硬さは、表層部と基材部との境界から、基材部方向に50μm深さの位置におけるビッカース硬さを測定するとよい。
以下、本実施形態の鋼部材の製造方法を説明する。上述したように、本実施形態の鋼部材は、表層部の化学成分を有する鋼と基材部の化学成分を有する鋼とを一体化させた鋼素材を製造した後、必要に応じて機械加工することで部品形状とし、焼き入れ、焼き戻しを施して製造される。
上記表層部の化学成分を有する鋼と、上記基材部の化学成分を有する鋼とを用意する。例えば、基材部の化学成分を有する鋼を棒状に成形し、表層部の化学成分を有する鋼を中空筒状に成形する。そして、中空筒状に成形した鋼の中空部に、棒状に成形した基材部の化学成分を有する鋼を挿入して一体化させる。一体化は、中空筒状の鋼と棒状の鋼とを一体化させた状態での熱間鍛造、熱間押出や、電磁圧接などの手段により一体化する。
また、別の方法として、上記表層部の化学成分を有する鋼板と、上記基材部の化学成分を有する鋼板とを用意し、基材部となる鋼板の表面に、表層部となる鋼板を配置し、熱間圧延や電磁圧接することにより一体化する。
更にまた、別の方法として、上記表層部の化学成分を有する鋼と、上記基材部の化学成分を有する鋼とを用意し、これらの鋼を粉末とする。そして、基材部の化学成分を有する鋼の粉末を仮成形して所定の形状とし、その周囲に表層部の化学成分を有する鋼粉末を配置し、これら鋼粉末を焼結することで一体化する。
また、上記表層部の化学成分を有する鋼と、上記基材部の化学成分を有する鋼とを用意し、基材部の化学成分を有する鋼は所定の形状とし、表層部の化学成分を有する鋼を溶射や金属3Dプリンターなどで一体化してもよい。
ただし、表1および表2の比較例Kは、熱間押出後の外径を38.3mmとすることで、ローラーピッチング試験片における表層部の厚さを薄くした。また、表1および表2の比較例Lは、熱間押出後の外径を31mmとすることで、ローラーピッチング試験片における表層部の厚さを厚くした。
ただし、表1および表2の比較例Kは、面Aの表面から深さ2.23mmまでが表層部となるように試験片を作製して、ノッチ底における表層部の厚さを0.23mmとした。また、表1および表2の比較例Lは、面Aの表面から深さ4.67mmまでが表層部となるように試験片を作製して、ノッチ底における表層部の厚さを2.67mmとした。
比較例Iは、表層部のC量が低いため、表層部のビッカース硬さが低くなり、耐摩耗性が低下した例である。
比較例Jは、基材部のC量が高いため、焼き入れ前の基材部のビッカース硬さが高くなり、部品加工時の鍛造性および被削性が低下するとともに、焼き入れ・焼き戻し後の基材部のビッカース硬さが高くなり、靭性が低下した例である。
比較例Lは、表層部が厚いため、焼き入れ後、表層部に高い圧縮残留応力が発生せず、曲げ疲労強度が劣化した例である。
比較例Nは、表層部のCr量が低いため、表層部のビッカース硬さおよび耐摩耗性が低下した例である。
比較例Pは、表層部のV量が低いため表層部の耐摩耗性が低下したことに加えて、基材部のMn量が高いため焼き入れ前の基材部のビッカース硬さが高くなりVノッチシャルピー試験片作製時の被削性が低下した例である。
比較例Qは、表層部のW量が低いため表層部のビッカース硬さおよび耐摩耗性が低下したことに加えて、基材部のCr量が高いため焼き入れ前の基材部のビッカース硬さが高くなりVノッチシャルピー試験片作製時の被削性が低下した例である。
Claims (1)
- 基材部と、前記基材部の少なくとも一部を覆う表層部とを備えた鋼部材であって、
前記基材部が、質量%で、
C:0.10〜0.50%、
Si:0.05〜0.50%、
Mn:0.20〜0.90%、
Al:0.005〜0.100%、
N:0.0010〜0.0250%、
P:0.001〜0.030%、
S:0.005〜0.025%および
Cr:0.10〜1.50%
を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、
ビッカース硬さが300〜650HVであり、
前記表層部が、質量%で、
C:0.80〜1.60%、
Si:0.05〜2.00%、
Mn:0.20〜1.50%、
Al:0.005〜0.100%、
N:0.0010〜0.0250%、
P:0.001〜0.030%および
S:0.005〜0.025%
を含有し、さらに、
Cr:0.60〜4.00%、
Mo:0.20〜3.00%、
V:0.40〜2.00%および
W:0.30〜2.50%
からなる群から選択される1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、
ビッカース硬さが750HV以上であり、
前記表層部の表面の面内方向と平行な方向の圧縮残留応力が200MPa以上であり、
厚さが0.30〜2.00mmである、鋼部材。
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