JP7451298B2 - 回折光学素子、光学機器および撮像装置 - Google Patents

回折光学素子、光学機器および撮像装置 Download PDF

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Description

本発明は、カメラやビデオ等にレンズとして使用される回折光学素子に関する。また、その回折光学素子を用いた光学機器および撮像装置に関する。
従来から、レンズなどに用いられる回折光学素子として、光学特性が異なる2種類の樹脂を密着して積層させた回折光学素子が知られている。この種の回折光学素子は、2つのタイプに大別される。1つは特許文献1のように2つの基板の間に2つの樹脂が積層されたタイプである。もう1つは特許文献2のように基板上に2つの樹脂が積層されたタイプである。
特開2010-242033号公報 特開2005-107298号公報
特許文献1および特許文献2に開示された回折光学素子は2種類の異なる樹脂を用いるため、それぞれの樹脂の膨潤率が異なる。これらの回折光学素子は、高温高湿環境に長時間晒されると、2つの樹脂がそれぞれ膨潤し体積が変化する。その結果、2つの樹脂の屈折率差が変動し、回折光学素子の回折効率が変動してしまうという課題があった。
上記課題を解決するための第1の態様は、2つの樹脂層が積層され、平面視した際に、前記2つの樹脂層の界面の少なくとも一部に同心円状の回折格子が形成された回折光学素子であって、前記2つの樹脂層の一方が、膨潤率がα、前記回折格子の中心の屈折率がNd1c、前記回折格子の外縁を含む周縁部の屈折率がNd1eである第1樹脂層であり、前記2つの樹脂層の他方が、膨潤率がβ、前記回折格子の中心の屈折率がNd2c、前記回折格子の外縁を含む周縁部の屈折率がNd2eである第2樹脂層であり、前記αおよび前記βが、α>βの関係を満たし、前記Nd1c、前記Nd1e、前記Nd2cおよび前記Nd2eが、Nd2c/Nd2e>Nd1c/Nd1eの関係を満たし、前記αおよび前記βが、20≧α/β≧2の関係を満たし、前記Nd1cおよび前記Nd1eが、0.0005>Nd1c-Nd1e≧0の関係を満たし、前記Nd2cおよび前記Nd2eが、0.0025≧Nd2c-Nd2e≧0.0010の関係を満たすことを特徴とする回折光学素子である。
上記課題を解決するための第2の態様は、2つの樹脂層が積層され、平面視した際に、前記2つの樹脂層の界面の少なくとも一部に同心円状の回折格子が形成された回折光学素子であって、前記2つの樹脂層の一方が、膨潤率がα、前記回折格子の中心の屈折率がNd1c、前記回折格子の外縁を含む周縁部の屈折率がNd1eである第1樹脂層であり、前記2つの樹脂層の他方が、膨潤率がβ、前記回折格子の中心の屈折率がNd2c、前記回折格子の外縁を含む周縁部の屈折率がNd2eである第2樹脂層であり、前記αおよび前記βが、α>βの関係を満たし、前記Nd1c、前記Nd1e、前記Nd2cおよび前記Nd2eが、Nd2c/Nd2e>Nd1c/Nd1eの関係を満たし、前記αおよび前記βが、0.5≧α/β≧0.05の関係を満たし、前記Nd1cおよび前記Nd1eが、0.0025≧Nd1c-Nd1e≧0.0010の関係を満たし、前記Nd2cおよび前記Nd2eが、0.0005>Nd2c-Nd2e≧0の関係を満たすことを特徴とする回折光学素子である。
本発明によれば、高温高湿環境に長時間晒されても回折効率が変動しにくい回折光学素子を提供することができる。
本発明の回折光学素子の一実施態様を示す概略図である。 従来の回折光学素子の屈折率の経時変化を示す概略図である。 本発明の回折光学素子の屈折率の経時変化を示す概略図である。 本発明の回折光学素子の一実施態様を示す概略図である。 本発明の回折光学素子の製造方法の一実施態様を示す概略図である。 本発明の撮像装置の一実施態様を示す概略図である。
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら説明する。
[回折光学素子
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る回折光学素子を示した模式的平面図および模式的断面図である。図1に示すように、回折光学素子20は、第1基材11上に、第1樹脂層12と第2樹脂層13とが順に積層されている。
(第1基材)
第1基材11は、透明な樹脂や、透明なガラスを用いることができる。第1基材11は、ガラスを用いることが好ましく、例えば、珪酸ガラス、硼珪酸ガラスおよびリン酸ガラスに代表される一般的な光学ガラスや、石英ガラス、ガラスセラミックスを用いることができる。
第1基材11の形状は特に限定されず、第1樹脂層12と接する面の形状は、凹球面、凸球面、軸対称非球面、平面などから選択できる。また、第1基材11の外形は平面視した際に円形であることが好ましい。
(2つの樹脂層)
第1樹脂層12および第2樹脂層13は異なる光学特性を有する透明な樹脂であり、回折光学素子20が所望の光学特性となるように屈折率やアッベ数を設計する。広い波長帯域で高い回折効率を得るために、第1樹脂層12と第2樹脂層13の一方が低屈折率高分散であり、他方が高屈折率低分散であることが好ましい。ここで、低屈折率および高屈折率とは第1樹脂層12および第2樹脂層13の屈折率(d線の屈折率Nd)の相対的な関係を意味する。同様に、高分散および低分散とは第1樹脂層12および第2樹脂層13の分散特性(アッベ数νd)の相対的な関係を意味する。つまり、第1樹脂層12が第2樹脂層13に対して高屈折率低分散であるとは、第1樹脂層12の屈折率Nd1、アッベ数ν1、第2樹脂層13の屈折率Nd2、アッベ数ν2が、Nd1>Nd2及びν1>ν2を満たすことを意味する。
(第1樹脂層)
本実施形態では一例として、第1樹脂層12に高屈折率低分散である樹脂を適用する場合について説明する。なお、第1樹脂層12の膨潤率はαである。第1樹脂層12は、高屈折率低分散とするために、チオール化合物と、(メタ)アクリレート化合物と、を含有することが好ましい。第1樹脂層12は、チオール化合物の単量体及び/又はそのオリゴマーと、(メタ)アクリレート系の単量体及び/又はそのオリゴマーと、を含有する未硬化の第1樹脂組成物12aを硬化することによって得られる。第1樹脂組成物12aは、エネルギー硬化性樹脂である。エネルギー硬化性樹脂とは、未硬化の状態から、光エネルギーおよび/又は熱エネルギーを与えることによって硬化する樹脂のことである。
第1樹脂組成物12aに含有されるチオール化合物としては、例えば、4-メルカプトメチル-3,6-ジチア-1,8-オクタンジチオール、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン(4-メルカプトメチル-3,6-ジチア-1,8-オクタンジチオール)、4,8-ビス(メルカプトメチル)-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン(4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン)及び5,7-ビス(メルカプトメチル)-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン(5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン)が挙げられる。
第1樹脂組成物12aに含有される(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、トリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、オリゴエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。
また、第1樹脂組成物12a中におけるチオール化合物の含有割合は30質量%以上80質量%以下の範囲であることが好ましい。チオール化合物の含有割合が前記範囲であると、光学特性と成形性が良好となる。チオール化合物の含有割合が30質量%未満であると、屈折率を高くできなくなるおそれがある。一方、チオール化合物の含有割合が80質量%を超えると、第1樹脂層12を形成する際の成形性が十分でなくなるおそれがある。
第1樹脂組成物12aは、重合開始剤を含有する。重合開始剤は光重合開始剤でもよいし、熱重合開始剤であってもよく、選択する製造プロセスによって決定することができる。ただし、回折格子を製造しやすいレプリカ成形を行う場合は、光重合開始剤を含有していることが好ましい。光重合開始剤としては、例えば、例えば、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、ビス(2,4,6,-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、4-フェニルベンゾフェノン、4-フェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジフェニルベンゾフェノン、4,4’-ジフェノキシベンゾフェノンが挙げられる。第1樹脂層12の透明性が良いという観点においては、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトンが好ましい。
光重合開始剤の含有割合は、第1樹脂組成物12a全体に対して0.01質量%以上10質量%以下の範囲であることが好ましい。光重合開始剤は、オリゴマー等との反応性、光硬化させる際に照射する波長によって1種類のみで使用することもできるし、2種類以上を併用して使用することもできる。
第1基材11上に積層される2つの樹脂層(第1樹脂層12および第2樹脂層13)は、平面視した際に、その界面の少なくとも一部に同心円状の回折格子が形成されている。回折格子の形状は、素子の中心O(第1樹脂層12および第2樹脂層13の中心)から外周へ向かう径方向に緩やかに傾斜する傾斜面15Aと、所定の距離を進んだところで急激に傾斜の逆方向に変化する壁面15Bの繰り返しパターンである。繰り返しパターンの間隔は中心から外周に向かって連続的に小さくなるが、その段差(回折格子の高さ、壁面の高さ)はほぼ等しい。また、傾斜は滑らかなものでなくてもよく、可視光の波長程度以下の微細な階段状の傾斜であってもよい。回折格子の高さは、例えば、10μm以上30μm以下である。回折格子の高さがこの範囲であれば、十分な光学性能を得やすく、かつ、離型の際に格子の変形が生じにくい。また、第1樹脂層12の格子高さの基準となるベース部の厚みは、例えば、10μm以上250μm以下である。また、回折格子のピッチの間隔は、例えば、100μm以上5mm以下であり、ピッチの数は50以上100以下である。
第1樹脂層12の回折格子の中心における屈折率はNd1cである。第1樹脂層の中心とは図1に示した中心Оの部分である。また、第1樹脂層12の回折格子の外縁15Eを含む周縁部の屈折率はNd1eである。第1樹脂層12の回折格子の外縁15Eを含む周縁部とは、平面視した際の素子の中心Oから回折格子の外縁15Eまでの径方向の距離をR1としたときに、中心からの距離が0.9R以上R以下の範囲の部分を指す。屈折率Nd1eは、この部分の屈折率の平均値である。
(第2樹脂層)
第2樹脂層13は、第1樹脂層12と膨潤率および屈折率が異なるが、第1樹脂層12と同様に光学用の無色透明な樹脂であり、回折光学素子20が所望の光学特性を得られるように、屈折率やアッベ数を設計する。なお、第2樹脂層13の膨潤率はβであり、第1樹脂層12の膨潤率αとは値が異なる。
第2樹脂層13は、低屈折率高分散とするために、官能基にフルオレンを備える芳香族ジオール化合物と、(メタ)アクリレート化合物及び/又はフッ素系の(メタ)アクリレート化合物と、を含有することが好ましい。第2樹脂層13は、官能基にフルオレンを備える芳香族ジオール化合物の単量体及び/又はそのオリゴマーを含有する未硬化の第2樹脂組成物13aを硬化することによって得られる。また第2樹脂組成物13aには、(メタ)アクリレート化合物の単量体及び/又はオリゴマー、及び/又は、フッ素系の(メタ)アクリレート化合物の単量体及び/又はそのオリゴマーが含有される。第2樹脂組成物13aは、第1樹脂組成物12aと同様にエネルギー硬化性樹脂である。
第2樹脂組成物13aに含有される官能基にフルオレンを備える芳香族ジオール化合物としては、例えば、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン等が挙げられる。
第2樹脂組成物13aに含有される(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、トリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、オリゴエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。
第2樹脂組成物13aには、上述した化合物のみならずオリゴマーを含有させてもよい。オリゴマーの種類は特に限定されないが、例えば、ウレタン変性ポリエステルアクリレートが挙げられる。
第2樹脂組成物13a中における芳香族ジオール化合物の含有割合は30質量%以上であることが好ましい。第2樹脂層13のアッベ数を大きくしやすいためである。
第2樹脂組成物13aは、重合開始剤を含有する。その重合開始剤は第1樹脂組成物12aと同様に、重合開始剤は光重合開始剤でもよいし、熱重合開始剤であってもよく、選択する製造プロセスによって決定することができる。ただし、回折格子を製造しやすいレプリカ成形を行う場合は、光重合開始剤を含有していることが好ましい。光重合開始剤としては、例えば、例えば、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、ビス(2,46,-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、4-フェニルベンゾフェノン、4-フェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジフェニルベンゾフェノン、4,4’-ジフェノキシベンゾフェノンが挙げられる。第2樹脂層13の透明性が良いという観点においては、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトンが好ましい。
光重合開始剤の含有量も第1樹脂組成物12aと同様に、第2樹脂組成物13a全体に対して0.01質量%以上10質量%以下の範囲であることが好ましい。光重合開始剤は、オリゴマー等との反応性、光硬化させる際に照射する波長によって1種類のみで使用することもできるし、2種類以上を併用して使用することもできる。
また、第2樹脂層13のベース部の厚みは、例えば、10μm以上250μm以下である。所望の光学特性に応じて、第1樹脂層12のベース部の厚みおよび格子高さとともに適宜設定される。
第2樹脂層13の回折格子の中心における屈折率はNd2cである。第2樹脂層の中心とは図1に示した中心Оの部分である。また、第2樹脂層13の回折格子の外縁15Eを含む周縁部の屈折率はNd2eである。ここで、第2樹脂層13の回折格子の外縁15Eを含む周縁部とは、平面視した際の素子の中心Oから回折格子の外縁15Eまでの径方向の距離をR1としたときに、中心からの距離が0.9R以上R以下の範囲の部分を指す。屈折率Nd2eは、この部分の屈折率の平均値である。なお、本実施形態は第1樹脂層12の中心Oから外周までの距離がR1であり、第2樹脂層13の中心Oから外周までの距離がR1より長いR2である。そのため、回折格子の外縁までの距離はR1となる。なお、第2樹脂層13の中心Oから外周までの距離がR1より短いR2である場合は、回折格子の外縁までの距離はR2となる。
(樹脂層の屈折率分布)
本願発明者は、特許文献1および特許文献2に開示されたような、2つの樹脂層の膨潤率が異なる回折光学素子が、高温高湿環境に長時間晒されると回折効率が変動することを見出した。以下にそのメカニズムを説明する。
特許文献1に開示された回折光学素子は、2つの基材の間に2つの樹脂が積層されたタイプである。このタイプの回折光学素子は、高温高湿(例えば、温度60℃、湿度90%)環境に長時間晒されると、素子の外周から水分が侵入する。
図2は特許文献1に開示された回折光学素子を高温高湿環境に長時間晒した際の屈折率の経時変化を示す概略図である。なお、この回折光学素子は、第1樹脂層が高屈折率低分散であり、第2樹脂層が低屈折率高分散である。また、第1樹脂層の膨潤率は、第2樹脂層の膨潤率より大きい。
図2(a)は回折光学素子の第1樹脂層の中心の屈折率Nd1c、第2樹脂層の中心の屈折率Nd2cの経時変化を示し、図2(b)は第1樹脂層の中心の屈折率Nd1cと第2樹脂層の中心の屈折率Nd2cの差の経時変化を示している。図2(a)に示すように素子の中心においては、外周から遠く水分が侵入しにくいため、体積膨張が少なく、屈折率は経時的にほとんど変化しない。そのため、図2(b)に示すように素子の中心においては、2つの樹脂の屈折率差は経時的にほとんど変化しない。
図2(c)は回折光学素子の第1樹脂層の周縁部の屈折率Nd1e及び第2樹脂層の周縁部の屈折率Nd2eの経時変化を示し、図2(d)は第1樹脂層の周縁部の屈折率Nd1eと第2樹脂層の周縁部の屈折率Nd2eの差の経時変化を示している。図2(d)の破線は水分の影響を受けない時の屈折率差である。すなわち設計値である。図2(c)に示すように、Nd1eの方がNd2eよりも経時変化が大きくなる。これは、素子の外周から水分が侵入することにより、回折格子の周縁部が膨潤することにより体積が膨張し、屈折率が低下するためである。さらに、第1樹脂層の膨潤率が第2樹脂層の膨潤率よりも大きいため、水分による膨張で、樹脂の密度が低下し、屈折率がより低下することにも起因する。結果、図2(d)に示すように、周縁部においては2つの樹脂の屈折率が低下する速度が異なるため、屈折率差が設計値から乖離し、回折効率が低下してしまうという課題があった。
この課題は特許文献2に開示された回折光学素子にも共通する。特許文献2に開示された回折光学素子は、基材上に2つの樹脂が積層されているものであり、基材は1つである。このタイプの回折光学素子も基材に接する樹脂層は周縁部の方が中心に比べて吸水の影響を受けやすい構造をしているためである。また、このタイプの回折光学素子においては、2つの樹脂層の上にシリカやチタニア等の無機酸化膜からなる保護層を設けても同様の課題が発生する。
そこで本実施形態においては、上記課題を解決するために、2つの異なる樹脂層が積層された回折光学素子において、膨潤率が低い樹脂層の周縁部の屈折率を中心部よりも低くする構成を採用した。
図3は第1実施形態の回折光学素子を高温高湿環境に長時間晒した際の屈折率の経時変化を示す概略図である。なお、この回折光学素子は、第1樹脂層12が高屈折率低分散であり、第2樹脂層13が低屈折率高分散である。また、第1樹脂層12の膨潤率αは、第2樹脂層13の膨潤率βより大きい。
図3(a)は回折光学素子の第1樹脂層12の中心の屈折率Nd1c、第2樹脂層13の中心の屈折率Nd2cの経時変化を示し、図3(b)は第1樹脂層12の中心の屈折率Nd1cと第2樹脂層の中心の屈折率Nd2cの差の経時変化を示している。図3(a)に示すように素子の中心においては、外周から遠く水分が侵入しにくいため、体積膨張が少なく、屈折率は経時的にほとんど変化しない。そのため、図3(b)に示すように素子の中心においては、2つの樹脂の屈折率差の経時的にほとんど変化しない。
図3(c)は回折光学素子の第1樹脂層12の周縁部の屈折率Nd1e及び第2樹脂層13の周縁部の屈折率Nd2eの経時変化を示している。ここで破線は、第2樹脂層13の屈折率Nd2eをNd2cと同じ値としたときの経時変化を示している。図3(d)は第1樹脂層12の周縁部の屈折率Nd1eと第2樹脂層13の周縁部の屈折率Nd2eの差の経時変化を示している。図3(d)の破線は、図3(c)と同様に、第2樹脂層13の屈折率Nd2eをNd2cと同じ値としたときの経時変化を示している。図3(d)に示すように、膨潤率が低い第2樹脂層13の周縁部の屈折率Nd2eをNd2cに対して相対的に低くすることにより、周縁部の屈折率差は設計値からの乖離が小さくなる。ここで、第1樹脂層12の屈折率Nd1cと屈折率Nd1eは異なっていても構わない。ただし、上述した効果を得るためには下記式を満たすようにする。
Nd2c/Nd2e>Nd1c/Nd1e(式1)
式1は、第1樹脂層12の膨潤率αが第2樹脂層13の膨潤率βよりも大きい場合は、第2樹脂層13の屈折率Nd2eに対する屈折率Nd2cの比が、第1樹脂層12の屈折率Nd1eに対する屈折率Nd1cの比よりも大きいことを意味する。
ただし、第2樹脂層13の周縁部の屈折率Nd2eと、第2樹脂層13の中心の屈折率Nd2cとの差は膨潤率によって適切な範囲がある。2つの膨潤率の差によって、第2樹脂層13の周縁部の屈折率Nd2eと、第2樹脂層13の中心の屈折率Nd2cの差を制御することで、回折効率の変動を抑制しやすくなる。
具体的には、20≧α/β≧2の範囲においては2つの膨潤率の差が大きいため、屈折率の差は0.0025≧Nd2c-Nd2e≧0.0010、且つ、0.0005>Nd1c-Nd1e≧0とすることが好ましい。また、2>α/β>1の範囲においては2つの膨潤率の差が小さいため、屈折率の差は0.0010>Nd2c-Nd2e≧0.0005、且つ、0.0005>Nd1c-Nd1e≧0とすることが好ましい。
(第2実施形態)
第1実施形態として、第1樹脂層の膨潤率αと第2樹脂層の膨潤率βの関係がα>βである場合を説明したが、α<βである場合においても、上述した課題を解決することが可能である。この場合、上述した式1は下記の式2に置き換えることができる。
Nd2c/Nd2e<Nd1c/Nd1e(式2)
式2は、第1樹脂層12の膨潤率αが第2樹脂層13の膨潤率βよりも小さい場合は、第2樹脂層13の屈折率Nd2eに対する屈折率Nd2cの比が、第1樹脂層12の屈折率Nd1eに対する屈折率Nd1cの比よりも小さいことを意味する。
ただし、第2樹脂層13の周縁部の屈折率Nd2eと、第2樹脂層13の中心の屈折率Nd2cとの差は膨潤率によって適切な範囲がある。2つの膨潤率の差によって、第2樹脂層13の周縁部の屈折率Nd2eと、第2樹脂層13の中心の屈折率Nd2cの差を制御することで、回折効率の変動を抑制しやすくなる。
具体的には、0.5≧α/β≧0.05の範囲においては2つの膨潤率の差が大きいため、屈折率の差は0.0025≧Nd1c-Nd1e≧0.0010、且つ、0.0005>Nd2c-Nd2e≧0とすることが好ましい。また、1>α/β>0.5の範囲においては2つの膨潤率の差が小さいため、屈折率の差は0.0010>Nd1c-Nd1e≧0.0005、且つ、0.0005>Nd2c-Nd2e≧0とすることが好ましい。
(変形例)
本発明に適用可能な回折光学素子は図1の形態に限定されない。例えば、第1樹脂層12と第2樹脂層13は、第1基材11上に、第2樹脂層13、第1樹脂層12の順に積層されていても構わない。
また、図4(a)に示すように、第2樹脂層13の上に第2基材14を設け、2つの樹脂層を第1基材11および第2基材14との間に挟む構成でも構わない。このとき、第2基材14は第1基材11と同様に、透明な樹脂や、透明なガラスを用いることができる。第2基材14は、ガラスを用いることが好ましく、例えば、珪酸ガラスや硼珪酸ガラス、リン酸ガラスに代表される一般的な光学ガラスや、石英ガラス、ガラスセラミックスを用いることができる。第2基材14の形状は第1基材11と同様に、特に限定されず、第2樹脂層13と接する面の形状は、凹球面、凸球面、軸対称非球面、平面などから選択できる。ただし、第2基材14の第2樹脂層13と接する面の形状は、第1基材11の第1樹脂層12と接する面の形状と、略同じ形状であることが好ましい。また、平面視した際の第2基材14の外形は第1基材11と同様に円形が好ましい
また、図4(b)に示すように、第2樹脂層13の上に保護層16を設けても構わない。保護層16は第2樹脂層13の上に塵埃を付着させない目的で設けられる。保護層16は、例えば、シリカ(酸化珪素)やチタニア(酸化チタン)といった無機の酸化物を用いることができる。保護層16の厚みは特に限定されないが、2つの樹脂層の各々の厚みより薄いことが好ましい。保護層16の厚みの具体的な値は、例えば、100nm以上50μm以下である。
[回折光学素子の製造方法]
続いて、回折光学素子の製造方法を説明する。以下に紫外線硬化性樹脂を用いて、2枚のガラス基材の間に2つの樹脂層が形成される回折光学素子の製造工程の一例を説明する。回折光学素子の形状は図4(a)に示した形状である。
まず、第1基材11および第2基材14としてガラス基材を用意する。ガラス基材は、積層する樹脂層との密着性を向上させるため、樹脂層と密着する面に前処理をしておくことが好ましい。ガラス表面の前処理は、樹脂層との親和性が良いシランカップリング剤を用いてカップリング処理をすることが好ましい。具体的なカップリング剤としては、ヘキサメチルジシラザン、メチルトリメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、トリエチルクロロシラン等が挙げられる。
初めに、第1基材11上に第1樹脂層12を形成する。図5(a)に示すように金型1の上に第1樹脂層12の前駆体である第1樹脂組成物12aとして紫外線硬化樹脂を滴下する。また、第1基材11をイジェクタ4に乗せて、第1基材11を金型1に対向するよう配置する。ここで用いる金型1は、表面に所望の回折格子形状の反転形状を有し、例えば、ステンレス材や鋼材などの金属母材上にNiPメッキや無酸素銅メッキしたものを精密加工機で切削することで作製できる。
次に、図5(b)に示すように、イジェクタ4を降下させて金型1と第1基材11の間に紫外線硬化樹脂12aを充填させる。そののちに、紫外線光源5を用いて第1基材11側から紫外線を照射し、紫外線硬化樹脂12aを硬化させ第1樹脂層12を得る。
その後、図5(c)に示すように、硬化した第1樹脂層12を金型1から離型する。なお、離型の前後において、第1樹脂層12に対して、加熱アニール、紫外線の追加照射、無酸素雰囲気での加熱や紫外線照射を行っても構わない。
次いで、第2樹脂層13を形成する。図5(d)に示すように、第1樹脂層13の上に第2樹脂層13の前駆体である第2樹脂組成物13aとして未硬化の紫外線硬化樹脂を滴下する。また、第2基材14をイジェクタ9に乗せて、第2基材14と第1基材11が対向するよう配置する。なお、第2樹脂組成物13aは、第1樹脂組成物12aと光学特性(屈折率およびアッベ数)が異なる別の樹脂である。
次に、図5(e)に示すように、イジェクタ9を降下させて第1基材11および第1樹脂層12と第2基材14の間に、未硬化の紫外線硬化樹脂13aを充填させる。その後、紫外線光源5を用いて第2基材14側から紫外線を照射し、紫外線硬化樹脂13aを硬化させて第2樹脂層13を形成する。
ここで、第1樹脂層12の中心部及び周縁部の屈折率、第2樹脂層13の中心部及び周縁部の屈折率を式1の関係に制御する方法について説明する。
膨潤率αと膨潤率βがα>βの場合、第2樹脂層13のNd2eに対するNd2cの比を、第1樹脂層12のNd1eに対するNd1cの比よりも大きくするために、周縁部の紫外線の照度を中心より低くして第2樹脂組成物13aを硬化する。周縁部の照度を低くすることで、中心が最初に硬化収縮し、周縁部の樹脂の一部は中心方向に引き込まれる。その結果、第2樹脂層13中心は周縁部に対して相対的に密度が高くなり、周縁部は相対的に密度が低くなる。一方、第1樹脂層に12ついては中心部と周縁部とで、紫外線の照度を略同じにすることが望ましい。
また、膨潤率αと膨潤率βがα<βである場合は、周縁部の紫外線の照度を中心より低くして第1樹脂組成物12aを硬化すればよい。
以上の工程によって、回折光学素子20を得ることができる。なお、第2樹脂層13の形成後に第2基材14を剥離させても構わない、また、第2樹脂層13の形成後に、保護層16を形成しても良い。保護層16を形成する手段は特に限定されず、スパッタリング法やスピンコート法など公知の手法を採用することができる。
[撮像装置]
図6は、本発明の撮像装置の好適な実施形態の一例である、一眼レフデジタルカメラの構成を示している。図6において、カメラ本体602と光学機器であるレンズ鏡筒601とが結合されているが、レンズ鏡筒601はカメラ本体602対して着脱可能ないわゆる交換レンズである。
被写体からの光は、レンズ鏡筒601の筐体620内の撮影光学系の光軸上に配置された複数のレンズ603、605などからなる光学系を通過し、撮像素子610に受光される。本発明の回折光学素子は例えば、レンズ605に用いることができる。
ここで、レンズ605は筐体内の内筒604によって支持されて、フォーカシングやズーミングのためにレンズ鏡筒601の外筒に対して可動支持されている。
撮影前の観察期間では、被写体からの光は、カメラ本体の筐体621内の主ミラー607により反射され、プリズム611を透過後、ファインダレンズ612を通して撮影者に撮影画像が映し出される。主ミラー607は例えばハーフミラーとなっており、主ミラーを透過した光はサブミラー608によりAF(オートフォーカス)ユニット613の方向に反射され、例えばこの反射光は測距に使用される。また、主ミラー607は主ミラーホルダ640に接着などによって装着、支持されている。不図示の駆動機構を介して、撮影時には主ミラー607とサブミラー608を光路外に移動させ、シャッタ609を開き、撮像素子610にレンズ鏡筒601から入射した撮影光像を結像させる。また、絞り606は、開口面積を変更することにより撮影時の明るさや焦点深度を変更できるよう構成される。
以下に、実施例を用いてより詳細に本発明を説明する。まず、回折光学素子の評価方法について説明する。
(d線の屈折率測定)
実施例および比較例の回折光学素子から第1基材11および/又は第2基材14を剥がして樹脂を取り出すことで測定可能である。得られたサンプルに対し、精密屈折計(KPR-30、(株)島津製作所)を用いて、587.6nmの波長(d線)の屈折率を測定した。
(膨潤率の測定)
実施例および比較例の回折光学素子の第1樹脂層および第2樹脂層の膨潤率は、膨潤率評価用のサンプルを作成して評価した。なお、膨潤率評価用のサンプルを用いずとも、屈折率測定と同様に、回折光学素子から基材を剥がして樹脂を取り出して評価することも可能である。
膨潤率評価用のサンプルは、厚さ1mmのガラス(BK7)上に第1樹脂層もしくは第2樹脂層のいずれかを厚みが500μm、ガラス面内の大きさが5mm×20mmで設けたものである。具体的な製造方法は、まず、厚さ1mmのガラス(BK7)の上に、厚さ500μmのスペーサーと測定対象の前駆体である未硬化の樹脂組成物を配置した。その上に厚み1mmの石英ガラスを、スペーサーを介して載せ、樹脂組成物5aを押し広げた。その後、石英ガラスの上から、高圧水銀ランプ(HOYA CANDEO OPTRONICS製:UL750)を用いて、20mW/cm(=石英ガラスを通した照度)で2500秒の条件(50J)で光を照射した。
膨潤率の測定は、まず、サンプルの寸法を光学顕微鏡で測定し体積を算出した。続いて、このサンプルを純水が入ったビーカーに入れて、24時間浸漬させた。その後、再度、サンプルの寸法を光学顕微鏡で測定し、体積を算出した。そして純水に浸した後の体積を、純水に浸す前の体積で除して百分率表記したものを膨潤率とした。
また、第1樹脂層の膨潤率をα、第2樹脂層の膨潤率をβとして、第2樹脂層の膨潤率に対する第1樹脂層との膨潤率の比であるα/βを算出した。
(回折効率の評価)
回折光学素子の回折効率は、自動光学素子測定装置(分光計器社製:ASP-32)により測定した。任意のスポット光を回折光学素子に照射して、まずは透過光の光量を測定した。続いて、設計次数である1次の回折光の光量を測定し、全透過光量に対する設計次数の光量の比を百分率で表記したものを回折効率とした。
また、回折光学素子を温度60度、湿度80%に設定した恒温槽に入れ、2000時間経過した後に回折光学素子を取り出し、回折効率の変化を評価した。恒温槽から取り出した後の回折効率が94%以上のものをA、92%以上94%未満のものをB、92%未満のものをCとした。各回折光学素子とも95%の回折効率になるよう設計されたものであり、94%以上であれば変動率が1%以下であることを意味している。すなわち、92%未満のものは3%以上変動していることを意味している。
[実施例1
(回折光学素子の製造)
第1基材11には、材質がS-TIM8(オハラ社製)、直径60mm、一方の面が平面で、他方の面の曲率半径Rが190mmの凹球面形状のガラスレンズを用いた。第2基材14には、材質がS-FSL5(オハラ社製)、直径58mm、一方の面の曲率半径Rが70mmの凸球面形状、他方の面の曲率半径Rが190mmの凸球面形状のガラスレンズを用いた。金型1は、金属母材上にメッキしたNiP層を精密加工機で切削加工し、所望の格子形状および外周形状を反転した形状を形成したものを用いた。
続いて、第1樹脂組成物12aを調整した。第1樹脂組成物の成分として、4-メルカプトメチル-3,6-ジチア-1,8-オクタンジチオールを51質量部、イソシアヌル酸トリアリルを33質量部、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)を14質量部それぞれ用意した。これらに重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン2質量部を均一になるまで自転・公転ミキサーARV-310((株)シンキー社製)を用いて混合し、第1樹脂組成物12aを得た。
続いて、第2樹脂組成物13aを調整した。第2樹脂組成物の成分として、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンを45質量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート53質量部と、をそれぞれ用意した。これらに重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン2質量部を均一になるまで自転・公転ミキサーARV-310((株)シンキー社製)を用いて混合し、樹脂組成物2aを得た。
次に、金型1と第1基材11の間に、第1樹脂組成物12aを充填した。その後、波長365nm、強度20mW/cmの紫外線を200秒間、均一な照度分布で照射して樹脂組成物12aを硬化して、離型し、第1基材11上に第1樹脂層12を形成した。この状態でオーブンに入れ、真空中で温度80℃の条件で24時間加熱した。
次に、第1樹脂層12と第2基材14の間に、第2樹脂組成物13aを充填した。その後、素子の中心からΦ48mmの領域(中心部)に、波長365nm、強度10mW/cmの紫外線を照射した。また、第2樹脂層の周縁部を含むΦ48mmを囲む領域(外周部)に中心部の照度に対して70%に相当する、7mW/cmの紫外線を100秒間照射した。続けて、波長365nm、強度20mW/cmの紫外線を100秒間素子全域に照射して第2樹脂組成物13aを硬化した。最後にオーブンに入れ、真空中で温度80℃の条件で72時間加熱し、実施例1の回折光学素子20を得た。
得られた回折光学素子は、第1樹脂層の格子を除いたベース部の厚みが30μm、第2樹脂層の格子を除いたベース部の厚みが50μm、格子高さが20μmであった。第1樹脂層の膨潤率は0.40、第2樹脂層の膨潤率は0.08であった。第1樹脂層の中心部と周縁部のd線における屈折率は1.6221、アッベ数は40であった。また、第2樹脂層の中心部の屈折率は1.5881、周縁部の屈折率は1.5873、アッベ数は29であった。
(回折光学素子の評価)
得られた回折光学素子20を温度60℃、湿度80%の高温高湿環境において2000時間耐久試験を行った。耐久試験後の屈折率差と回折効率を評価した結果、第1樹脂層と第2樹脂層の外周部の屈折率差は0.0328であった。屈折率差の設計値である0.0340に対しては-0.0012の乖離が認められ、回折効率は93.6%であった。評価はBとした。
[実施例2]
実施例2は、第2樹脂層13の形成工程において、外周部に中心部の照度に対して50%に相当する、5mW/cmの紫外線を照射したこと以外は、実施例1と同様の条件で回折光学素子を製造した。
[実施例3]
実施例3は、第1樹脂層12の形成工程において、第1樹脂層の中心からΦ48mmの領域(中心部)に、波長365nm、強度10mW/cmの紫外線を照射した。第1樹脂層の中心からΦ48mmの領域を囲む領域(外周部)に中心部の照度に対して200%に相当する、20mW/cmの紫外線を100秒間照射した。続けて波長365nm、強度20mW/cmの紫外線を100秒間素子全域に照射して第1樹脂組成物12aを硬化した。
第2樹脂層13の形成工程において、波長365nm、強度20mW/cmの紫外線を200秒間、均一な照度分布で照射して第2樹脂組成物13aを硬化した。これらの点以外は、実施例1と同様の条件で回折光学素子を製造した。
[実施例4]
実施例4は、第2樹脂組成物13aの調整の工程において、ペンタエリスリトールトリアクリレート53質量部の代わりに、ペンタエリスリトールトリアクリレート46質量部、ウレタン変性ポリエステルアクリレート7質量部を使用した。その点以外は、実施例1と同様の条件で回折光学素子を製造した。なお、第2樹脂層の膨潤率は0.31であった。
[実施例5]
実施例5は、第1樹脂組成物12aの調整の工程において、4-メルカプト-3,6-ジチア-1,8-オクタンジチオールは52.5質量部を使用した。また、(メタ)アクリル化合物であるトリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート45.5質量部と、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を使用した。なお、第1樹脂層の膨潤率は0.08であった。
第2樹脂組成物13aの調整の工程において、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン45質量部を使用した。また、(メタ)アクリル化合物であるペンタエリスリトールトリアクリレート43質量部と、ウレタン変性ポリエステルアクリレート10質量部と、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を使用した。第2樹脂層の膨潤率は0.40であった。
また、第1樹脂層の成形工程において、第1樹脂層の中心部に、波長365nm、強度10mW/cmの紫外線を照射した。第1樹脂層の外周部に中心部の照度に対して70%に相当する、7mW/cmの紫外線を100秒間照射した。続けて波長365nm、強度20mW/cmの紫外線を100秒間素子全域に照射して第1樹脂組成物12aを硬化した。
第2樹脂層の成形工程において、波長365nm、強度20mW/cmの紫外線を200秒間、均一な照度分布で照射して第2樹脂組成物13aを硬化した。これらの点以外は、実施例1と同様の条件で回折光学素子を製造した。
[実施例6]
実施例6は、第1樹脂組成物12aの調整の工程において、4-メルカプト-3,6-ジチア-1,8-オクタンジチオールは52.5質量部を使用した。また、(メタ)アクリル化合物であるトリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート45.5質量部と、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を使用した。第1樹脂層の膨潤率は0.08であった。
第2樹脂組成物の調整の工程において、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン45質量部を使用した。また、(メタ)アクリル化合物であるペンタエリスリトールトリアクリレート28質量部と、ウレタン変性ポリエステルアクリレート25質量部、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を使用した。第2樹脂層の膨潤率は1.31であった。
また、第1樹脂層12の形成工程において、第1樹脂層の中心部に、波長365nm、強度10mW/cmの紫外線を照射した。第1樹脂層の外周部には紫外線を照射しなかった。続けて、波長365nm、強度20mW/cmの紫外線を100秒間素子全域に照射して第1樹脂組成物12aを硬化した。これらの点以外は、実施例1と同様の条件で回折光学素子を製造した。
[実施例7]
実施例7は、第1樹脂組成物12aの調整の工程において、4-メルカプト-3,6-ジチア-1,8-オクタンジチオールは52.5質量部を使用した。また、(メタ)アクリル化合物であるトリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート45.5質量部と、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を使用した。第1樹脂層の膨潤率は0.08であった。
第2樹脂組成物13aの調整の工程において、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン45質量部を使用した。また、(メタ)アクリル化合物であるペンタエリスリトールトリアクリレート43質量部と、ウレタン変性ポリエステルアクリレート10質量部と、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を使用した。第2樹脂層の膨潤率は0.40であった。
また、第1樹脂層12の形成工程において、第1樹脂層の中心部に、波長365nm、強度10mW/cmの紫外線を照射した。第1樹脂層の外周部に中心部の照度に対して50%に相当する、5mW/cmの紫外線を100秒間照射した。続けて波長365nm、強度20mW/cmの紫外線を100秒間素子全域に照射して第1樹脂組成物12aを硬化した。
また、第2樹脂層の成形工程において、波長365nm、強度20mW/cmの紫外線を200秒間、均一な照度分布で照射して第2樹脂組成物13aを硬化した。これらの点以外は、実施例1と同様の条件で回折光学素子を製造した。
[実施例8]
実施例8は、第1樹脂組成物12aの調整の工程において、4-メルカプト-3,6-ジチア-1,8-オクタンジチオールは52.5質量部を使用した。また、(メタ)アクリル化合物であるトリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート45.5質量部と、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を使用した。第1樹脂層の膨潤率は0.08であった。
第2樹脂組成物13aの調整の工程において、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン42質量部を使用した。また、ペンタエリスリトールトリアクリレート36質量部と、ウレタン変性ポリエステルアクリレート20質量部、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を使用した。第2樹脂層の膨潤率は1.00であった。
また、第1樹脂層12の形成工程において、第1樹脂層の中心部に、波長365nm、強度10mW/cmの紫外線を照射した。第1樹脂層の外周部に中心部の照度に対して30%に相当する、3mW/cmの紫外線を100秒間照射した。続けて波長365nm、強度20mW/cmの紫外線を100秒間素子全域に照射して第1樹脂組成物12aを硬化した。
また、第2樹脂層の成形工程において、波長365nm、強度20mW/cmの紫外線を200秒間、均一な照度分布で照射して第2樹脂組成物13aを硬化した。これらの点以外は、実施例1と同様の条件で回折光学素子を製造した。
[実施例9]
実施例9は、第1樹脂組成物12aの調整の工程において、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン52質量部を使用した。トリアリルイソシアヌレート46質量部、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を使用した。第1樹脂層の膨潤率は0.25であった。
第2樹脂組成物13aの調整の工程において、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンを45質量部使用した。また、(メタ)アクリル化合物であるペンタエリスリトールトリアクリレート43質量部と、ウレタン変性ポリエステルアクリレート10質量部と、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を使用した。第2樹脂層の膨潤率は0.40であった。
第1樹脂層の成形工程において、第1樹脂層の中心部に、波長365nm、強度10mW/cmの紫外線を照射した。第1樹脂層の外周部に中心部の照度に対して70%に相当する、7mW/cmの紫外線を100秒間照射した。続けて波長365nm、強度20mW/cmの紫外線を100秒間素子全域に照射して第1樹脂組成物12aを硬化した。
また、第2樹脂層の成形工程において、波長365nm、強度20mW/cmの紫外線を200秒間、均一な照度分布で照射して樹脂組成物13aを硬化した。これらの点以外は、実施例1と同様の条件で回折光学素子を製造した。
[比較例1]
比較例1は、第1樹脂組成物12aの調整の工程において、4-メルカプト-3,6-ジチア-1,8-オクタンジチオール52.5質量部を使用した。また、(メタ)アクリル化合物であるトリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート45.5質量部と、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を使用した。第1樹脂層の膨潤率は0.08であった。
第2樹脂組成物の調整の工程において、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン45質量部を使用した。また、(メタ)アクリル化合物であるペンタエリスリトールトリアクリレート28質量部と、ウレタン変性ポリエステルアクリレート25質量部、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を使用した。第2樹脂層の膨潤率は1.31であった。
また、第2樹脂層13の形成工程において、第2樹脂層の外周部に中心部の照度に対して95%に相当する、9.5mW/cmの紫外線を照射した。これらの点以外は、実施例1と同様の条件で回折光学素子を製造した。
[比較例2]
比較例2は、第1樹脂層12の形成工程において、第1樹脂層の中心部に、波長365nm、強度10mW/cm、第1樹脂層の外周部に中心部の照度に対して50%に相当する、5mW/cmの紫外線を100秒間照射した。続けて波長365nm、強度20mW/cmの紫外線を100秒間素子全域に照射して第1樹脂組成物12aを硬化した。
第2樹脂層13の形成工程において、波長365nm、強度20mW/cmの紫外線を200秒間、均一な照度分布で照射して第2樹脂組成物13aを硬化した点以外は、実施例1と同様の条件で回折光学素子を製造した。
Figure 0007451298000001
Figure 0007451298000002
表1および表2の実施例1、2および4~9より、膨潤率が低い樹脂層の周縁部の屈折率を中心に対して選択的に低くすることで、高温高湿環境における耐久試験を行っても、回折効率が高く維持できていることがわかる。これは、素子の外周から空気中の水分が樹脂層に侵入し、膨潤率が高い樹脂層の屈折率が大きく低下しても、膨潤率の低い樹脂層の周縁部の屈折率が小さいため、2つの樹脂層の屈折率差が設計値から大きく乖離しなかったことを意味する。また、実施例3より、膨潤率が高い樹脂層の周縁部の屈折率を選択的に高くしているが、実施例1、2および4~9と同様の効果が得られていることが分かる。
一方、比較例1は第1樹脂層および第2樹脂層ともに中心と周縁部の屈折率が等しかった。また、比較例2は膨潤率が高い樹脂層の周縁部の屈折率を選択的に低くした。比較例1および比較例2は、いずれも高温高環境における耐久試験後に回折効率が著しく低下してしまった。これらは、樹脂層の周縁部における屈折率の低下に伴って、屈折率差が設計値からの大きく乖離してしまったと考えられる。
本発明の回折光学素子は、カメラ用のレンズや液晶プロジェクター用レンズ、DVDやCDなどのピックアップレンズ等のレンズに用いることができる。
12 第1樹脂層
12a 第1樹脂組成物
13 第2樹脂層
13a 第2樹脂組成物
11 第1基材
14 第2基材
20 回折光学素子
600 撮像装置(デジタルカメラ)
601 光学機器(レンズ鏡筒)
602 カメラ本体
603 レンズ
605 レンズ

Claims (7)

  1. 2つの樹脂層が積層され、平面視した際に、前記2つの樹脂層の界面の少なくとも一部に同心円状の回折格子が形成された回折光学素子であって、
    前記2つの樹脂層の一方が、膨潤率がα、前記回折格子の中心の屈折率がNd1c、前記回折格子の外縁を含む周縁部の屈折率がNd1eである第1樹脂層であり、
    前記2つの樹脂層の他方が、膨潤率がβ、前記回折格子の中心の屈折率がNd2c、前記回折格子の外縁を含む周縁部の屈折率がNd2eである第2樹脂層であり、
    前記αおよび前記βが、α>βの関係を満たし、
    前記Nd1c、前記Nd1e、前記Nd2cおよび前記Nd2eが、Nd2c/Nd2e>Nd1c/Nd1eの関係を満たし、
    前記αおよび前記βが、20≧α/β≧2の関係を満たし、
    前記Nd1cおよび前記Nd1eが、0.0005>Nd1c-Nd1e≧0の関係を満たし、
    前記Nd2cおよび前記Nd2eが、0.0025≧Nd2c-Nd2e≧0.0010の関係を満たすことを特徴とする回折光学素子。
  2. 2つの樹脂層が積層され、平面視した際に前記2つの樹脂層の界面の少なくとも一部に同心円状の回折格子が形成された回折光学素子であって、
    前記2つの樹脂層の一方が、膨潤率がα、前記回折格子の中心の屈折率がNd1c、前記回折格子の外縁を含む周縁部の屈折率がNd1eである第1樹脂層であり、
    前記2つの樹脂層の他方が、膨潤率がβ、前記回折格子の中心の屈折率がNd2c、前記回折格子の外縁を含む周縁部の屈折率がNd2eである第2樹脂層であり、
    前記αおよび前記βが、α<βの関係を満たし、
    前記Nd1c、前記Nd1e、前記Nd2cおよび前記Nd2eが、Nd2c/Nd2e<Nd1c/Nd1eの関係を満たし、
    前記αおよび前記βが、0.5≧α/β≧0.05の関係を満たし、
    前記Nd1cおよび前記Nd1eが、0.0025≧Nd1c-Nd1e≧0.0010の関係を満たし、
    前記Nd2cおよび前記Nd2eが、0.0005>Nd2c-Nd2e≧0の関係を満たすことを特徴とする回折光学素子。
  3. 前記回折光学素子は第1基材及び第2基材を有し、
    前記第1基材、前記2つの樹脂層及び前記第2基材の順に積層されている請求項1または2に記載の回折光学素子。
  4. 前記回折光学素子は第1基材及び保護層を有し、
    前記第1基材、前記2つの樹脂層及び前記保護層の順に積層されている請求項1乃至のいずれか1項に記載の回折光学素子。
  5. 筐体と、該筐体内に複数のレンズを有する光学系を備える光学機器であって、
    前記複数のレンズの少なくとも1つが請求項1乃至のいずれか1項に記載の回折光学素子であることを特徴とする光学機器。
  6. 筐体と、該筐体内に複数のレンズを有する光学系と、該光学系を通過した光を受光する撮像素子と、を備える撮像装置であって、
    前記複数のレンズの少なくとも1つが請求項1乃至のいずれか1項に記載の回折光学素子であることを特徴とする撮像装置。
  7. 前記撮像装置がカメラである請求項に記載の撮像装置。
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