JP2020173429A - 回折光学素子、光学機器および撮像装置 - Google Patents

回折光学素子、光学機器および撮像装置 Download PDF

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Abstract

【課題】 高温高湿環境(例えば温度60℃、湿度70%)に長時間晒されても回折効率が変動しにくい回折光学素子を提供することができる。【解決手段】 回折光学素子100は、第1基材10と、第1基材10上に設けられた2つの樹脂部を有する。2つの樹脂部の一方は、回折格子形状を有し、屈折率がnA、膨潤率がαである第1樹脂部1である。2つの樹脂部の他方は、回折格子形状を有し、屈折率がnB、膨潤率がβである第2樹脂部2である。このとき、nA>nB、かつ、2≦β/α≦16の関係を満たす。【選択図】 図1

Description

本発明は、カメラやビデオ等に使用される回折光学素子に関する。また、その回折光学素子を用いた光学機器および撮像装置に関する。
従来から、レンズなどに用いられる回折光学素子として、光学特性が異なる2種類の樹脂を用いた回折光学素子が知られている。この回折光学素子は、回折光学系と屈折光学系とでは色収差が逆に発生する性質を利用するものであり、光学系全体の大幅な小型化、軽量化を実現可能とするものである。また、近年のカメラやビデオ等の光学機器の高画質化に伴い、レンズには、より高いレベルの光学性能が要求されている。
例えば、特許文献1に示すように、回折光学素子を構成する2つの樹脂の屈折率やアッベ数の設計の自由度を高める目的で、樹脂中に酸化ジルコニウムや酸化チタンといったナノサイズの無機粒子を分散させることが知られている。しかし、樹脂に無機粒子を含有させることにより樹脂の粘度が高くなり、その加工プロセスは複雑になり、プロセスコストが増大するという課題があった。
そこで、比較的プロセスコストを安価にするために、樹脂に無機粒子を含有させずに回折光学素子を製造することが行われている。特許文献2には、高屈折率高分散を示すチオール化合物を用いた樹脂の硬化物を用いた回折光学素子が開示されている。
特開2009−46658号公報 国際公開2017−179476号
しかしながら、無機粒子を含有しない樹脂を用いて回折光学素子の回折効率を高くしようとすると、回折格子の格子高さを高くする必要がある。また、無機粒子を含有しない樹脂はガラス転移温度が低いものが多く、これらは吸水しやすい。そのため、特許文献2に開示された回折光学素子は、高温高湿環境に長時間晒されると、吸水による体積膨張により樹脂の屈折率や格子高さに変化が生じ、回折光学素子の回折効率が低下してしまうという課題があった。
上記課題を解決するための回折光学素子は、基材と、回折格子形状を有し、屈折率がnA、膨潤率がαである第1樹脂と、回折格子形状を有し、屈折率がnB、膨潤率がβである第2樹脂と、が順に積層された回折光学素子であって、nA>nB、かつ、2≦β/α≦16の関係を満たすことを特徴とする。
本発明によれば、高温高湿環境(例えば温度60℃、湿度70%)に長時間晒されても回折効率が変動しにくい回折光学素子を提供することができる。
本発明の回折光学素子の一実施態様を示す概略図である。 本発明の回折光学素子の製造方法の一実施態様を示す概略図である。 本発明の撮像装置の一実施態様を示す概略図である。 本発明の回折光学素子に用いた樹脂の光学特性を評価するサンプルの製造方法を示す概略図である。 実施例と比較例における膨潤率比(β/α)の位相差変動の関係を示した図である。 比較例の回折光学素子を示す概略図である。
[回折光学素子]
図1は、本発明の回折光学素子の一実施態様を示す上面図および側面図である。
回折光学素子100は、第1基材10と、第1基材10の上に、回折格子形状を有する第1樹脂部1と、回折格子形状を有する第2樹脂部2、と、第2基材11と、が順に積層されている。第1樹脂部1と第2樹脂部2とは密着している。第1樹脂部1のd線における屈折率はnAであり、第2樹脂部2のd線における屈折率はnBである。以下、第1樹脂部の屈折率nAが第2樹脂部の屈折率nBより高い場合(nA>nB)を例に挙げて本発明を説明する。
(基材)
第1基材10は、ガラスやプラスチックからなる透明部材である。ガラスとしては、例えば、ランタン系の高屈折率低分散ガラスであるS−LAH55(株式会社オハラ製)や超低分散ガラスであるS−FPL51(株式会社オハラ製)を用いることができる。図1において、第1基材10の第1樹脂部1と接する面は球面形状であるが、平板形状であっても構わない。
また、図1において第2樹脂部2の上には第2基材11が設けられているが、第2基材11を設けなくても構わない。第2基材11を用いるかどうかは、所望の光学特性に応じて決定することができる。第2基材11は、例えば、第1基材と同様にガラスやプラスチックからなる透明基材を用いることができる。
(第1樹脂部)
第1樹脂部1を構成する第1樹脂は光学用の無色透明な樹脂であり、回折光学素子100が所望の光学特性を得られるように、後述する第2樹脂部2を構成する第2樹脂とともに屈折率やアッベ数が設計される。ここで、アッベ数とは、可視光領域(波長:468.1nm乃至656.3nm)における屈折率の傾きを表す指標であり、以下の式(1)により算出される。
アッベ数ν=(nd−1)/(nf−nc)(1)
nd:d線(587.6nm)屈折率
nf:f線(486.1nm)屈折率
nc:c線(656.3nm)屈折率
第1樹脂部1を構成する第1樹脂は、d線における屈折率がnAである。第1樹脂部1の屈折率nAは第2樹脂部の屈折率nBより高く、両者の間にはnA>nBの関係が成り立っている。第1樹脂部1の屈折率nAは、例えば、1.55以上1.65以下である。
第1樹脂部1のアッベ数νAは、第2樹脂部2のアッベ数νBより大きく、両者の間にはνA>νBの関係が成り立っている。すなわち、第1樹脂部1は第2樹脂部2に対して高屈折率低分散である。換言すると、第2樹脂部2は第1樹脂部1に対して低屈折率高分散である。第1樹脂部1のアッベ数は、例えば、33以上47以下である。
第1樹脂部1の膨潤率αは、第2樹脂の膨潤率βより小さく、両者の間には2≦β/α≦16の関係が成り立っている。屈折率が高い第1樹脂部の膨潤率αと、屈折率が低い第2樹脂部の膨潤率βとの間に、2≦β/α≦16の関係が成り立つことにより、高温高湿環境(例えば温度60℃、湿度70%)に長時間晒されても回折効率が変動しにくい回折光学素子を提供することができる。ここで、膨潤率とは、材質が吸水したことによって生じる体積変化を百分率で表わしたものである。
第1樹脂部1を構成する第1樹脂は、高屈折率低分散とするために、チオール化合物と、(メタ)アクリレート化合物と、を含有している。第1樹脂部1は、チオール化合物の単量体及び/又はそのオリゴマーと、(メタ)アクリレート系の単量体及び/又はそのオリゴマーと、を含有する未硬化の第1樹脂組成物1aを硬化することによって得られる。第1樹脂組成物1aは、エネルギー硬化性樹脂である。エネルギー硬化性樹脂とは、未硬化の状態から、光エネルギーおよび/又は熱エネルギーを与えることによって硬化する樹脂のことである。
第1樹脂部1を形成するために用いる第1樹脂組成物1aに含有されるチオール化合物としては、例えば、4−メルカプトメチル−3,6−ジチア−1,8−オクタンジチオール、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン(4−メルカプトメチル−3,6−ジチア−1,8−オクタンジチオール)、4,8−ビス(メルカプトメチル)−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン(4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン)及び5,7−ビス(メルカプトメチル)−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン(5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン)が挙げられる。
第1樹脂部1を形成するために用いる第1樹脂組成物1aに含有される(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、トリス(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート、オリゴエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。
第1樹脂部1の膨潤率を小さくするという観点において、第1樹脂組成物1aは水酸基、カルボン酸基及びアミノ基といった親水基が少ないことが好ましい。そのため、上述した(メタ)アクリレート系化合物としては、トリス(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレートと、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが好ましい。
また、樹脂組成物1a中におけるチオール化合物の割合は30質量%以上80質量%以下の範囲であることが好ましい。チオール化合物の含有量が前記範囲であると、光学特性と成形性が良好となる。チオール化合物の含有割合が30質量%未満であると、屈折率を高くすることができなくなるおそれがある。一方、チオール化合物の含有割合が80質量%を超えると、第1樹脂部1を形成する際の成形性が十分でなくなるおそれがある。
第1樹脂部1を形成するために用いる第1樹脂組成物1aは、重合開始剤を含有する。重合開始剤は光重合開始剤でもよいし、熱重合性開始剤であってもよく、選択する製造プロセスによって決定することができる。ただし、回折格子形状を製造しやすいレプリカ成形を行う場合は、光重合開始剤を含有していることが好ましい。光重合開始剤としては、例えば、例えば、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−1−ブタノン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、ビス(2,46,−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、4−フェニルベンゾフェノン、4−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジフェニルベンゾフェノン、4,4’−ジフェノキシベンゾフェノンが挙げられる。第1樹脂部1の透明性が良いという観点においては、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンが好ましい。
光重合開始剤の含有量は、第1樹脂組成物1a全体に対して0.01質量%以上10質量%以下の範囲であることが好ましい。光重合開始剤は、オリゴマー等との反応性、光硬化させる際に照射する波長によって1種類のみで使用することもできるし、2種類以上を併用して使用することもできる。
第1樹脂部1のガラス転移温度(Tg)は、第2樹脂部2のガラス転移温度以上であることが好ましい。ガラス転移温度と吸水特性には相関関係があり、第1樹脂部1の吸水による体積膨張を、第2樹脂部2より小さくするためである。
第1樹脂部1は回折格子形状を有する。この回折格子形状は、積層方向から平面視した際に、光軸Oを中心に複数の円からなる同心円状のレリーフパターンからなる。レリーフパターンにおける格子ピッチは、回折光学素子の中心近傍では広く、周縁部に向かうほどが狭い。光の収斂作用や発散作用を発現させるためである。回折格子の高さは、例えば、10μm以上30μm以下である。この範囲の高さであれば、十分な光学性能を得やすく、かつ、離型の際に格子の変形が生じにくい。また、第1樹脂部1の格子高さの基準となるベース部の厚みは、例えば、10μm以上250μm以下である。また、回折格子のピッチは、例えば、100μm以上5mm以下であり、ピッチ数50以上100以下である。
第1樹脂部1および第1樹脂組成物1aは無機粒子を含有しないことが好ましい。第1樹脂組成物1aが無機粒子を含有すると、第1樹脂組成物1aの粘度が高くなり、プロセスコストが増大するおそれがあるためである。
(第2樹脂部)
第2樹脂部2を構成する第2樹脂は第1樹脂部1を構成する第1樹脂と同様に光学用の無色透明であり、回折光学素子100が所望の光学特性を得られるように、第1樹脂部1を構成する第1樹脂とともに屈折率やアッベ数が設計される。
第2樹脂部2を構成する第2樹脂は、d線における屈折率がnBである。第2樹脂部2の屈折率nBは第1樹脂部の屈折率nAより低く、例えば、1.50以上1.60以下である。
第2樹脂部2のアッベ数νBは、第1樹脂部1のアッベ数νAより大きく、例えば、19以上35以下である。
第2樹脂部2を構成する第2樹脂は、低屈折率高分散とするために、官能基にフルオレンを備える芳香族ジオール化合物と、(メタ)アクリレート化合物及び/又はフッ素系の(メタ)アクリレート化合物と、を含有する。第2樹脂部2は、官能基にフルオレンを備える芳香族ジオール化合物の単量体及び/又はそのオリゴマーを含有する未硬化の第2樹脂組成物2aを硬化することによって得られる。また第2樹脂組成物2aには、(メタ)アクリレート化合物の単量体及び/又はオリゴマー、及び/又は、フッ素系の(メタ)アクリレート化合物の単量体及び/又はそのオリゴマーが含有される。第2樹脂組成物2aは、第1樹脂組成物1aと同様にエネルギー硬化性樹脂である。
第2樹脂部2を形成するために用いる第2樹脂組成物2aに含有される官能基にフルオレンを備える芳香族ジオール化合物としては、例えば、9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン等が挙げられる。
第2樹脂部2を形成するために用いる第2樹脂組成物2aに含有される(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、トリス(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート、オリゴエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。
また、第2樹脂部2を形成するために用いる第2樹脂組成物2aには、上述した化合物のみならずオリゴマーを含有させてもよい。オリゴマーの種類は特に限定されないが、例えば、ウレタン変性ポリエステルアクリレートが挙げられる。
第2樹脂部2の膨潤率は、上述した芳香族ジオール化合物、(メタ)アクリレート化合物およびオリゴマーの種類を選択することによって、調整することが可能である。例えば、ウレタン変性ポリエステルアクリレートにおいて、親水性を有するエステル結合部が多いと吸水率が多くなる。そのため、エステル結合部とアルキル基の割合が異なるポリエステルの種類とその量を適宜選択することにより、第2樹脂部2の膨潤率を第1樹脂部1の膨潤率より大きくすることができる。また、水酸基、カルボン酸基及びアミノ基といった親水基が多い芳香族ジオール化合物、(メタ)アクリレート化合物およびオリゴマーを選択しても構わない。
樹脂組成物2a中における芳香族ジオール化合物の含有割合は30質量%以上であることが好ましい。第2樹脂部2のアッベ数を大きくすることが容易となり、回折光学素子の回折効率を高くすることができるためである。
第2樹脂部2を形成するために用いる第2樹脂組成物2aは、重合開始剤を含有する。その重合開始剤は第1樹脂組成物1aと同様に、重合開始剤は光重合開始剤でもよいし、熱重合性開始剤であってもよく、選択する製造プロセスによって決定することができる。ただし、回折格子形状を製造しやすいレプリカ成形を行う場合は、光重合開始剤を含有していることが好ましい。光重合開始剤としては、例えば、例えば、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−1−ブタノン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、ビス(2,46,−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、4−フェニルベンゾフェノン、4−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジフェニルベンゾフェノン、4,4’−ジフェノキシベンゾフェノンが挙げられる。第2樹脂部2の透明性が良いという観点においては、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンが好ましい。
光重合開始剤の含有量も第1樹脂組成物1aと同様に、第2樹脂組成物2a全体に対して0.01質量%以上10質量%以下の範囲であることが好ましい。光重合開始剤は、オリゴマー等との反応性、光硬化させる際に照射する波長によって1種類のみで使用することもできるし、2種類以上を併用して使用することもできる。
第2樹脂部2のガラス転移温度(Tg)は、第1樹脂部1のガラス転移温度より低いことが好ましい。第2樹脂部2の吸水による体積膨張を、第1樹脂部1より大きくするためである。第2樹脂部2の好ましいガラス転移温度は70℃以下であり、より好ましく60℃以下である。
また、第2樹脂部2のベース部の厚みは、例えば、10μm以上250μm以下である。所望の光学特性に応じて、第1樹脂部1のベース部の厚みおよび格子高さとともに適宜設定される。
第2樹脂部2および第2樹脂組成物2aは無機粒子を含有しないことが好ましい。第2樹脂組成物2aが無機粒子を含有すると、第2樹脂組成物2aの粘度が高くなり、プロセスコストが増大するおそれがあるためである。
(吸水による回折効率の変動メカニズム)
図6は比較例の回折光学素子を示した概略図である。
比較例の回折光学素子100Xは、第1基材10Xと、第1基材10Xの上に、回折格子形状を有する第1樹脂部1Xと、回折格子形状を有する第2樹脂部2X、と、第2基材11Xと、が順に積層されている。
第1樹脂部1Xのd線における屈折率nAXは、第2樹脂部2Xのd線における屈折率nBXより高い。比較例の回折光学素子100Xは、第1樹脂部1Xの膨潤率αXと、第2樹脂部2Xの膨潤率βXとの間にβX/αX<2の関係が成り立っているという点で、本実施形態の回折光学素子100と異なる。
一般に、2つの層が密着して積層された解説光学素子における波長ラムダの光に対する解説工率は、2つの層の屈折率差(nAX−nBX)と、回折格子の格子部の高さdとの積で決定される。
回折光学素子100Xは、高温高湿環境に長時間放置されると、第1樹脂部1Xと第2樹脂部2Xは共に吸水し、体積が膨張する。第1樹脂部1X、第2樹脂部2Xともに同程度の体積膨張が生じるため、両者の屈折率はともに下がるものの、両者の屈折率差はほとんど変わらない。しかし、体積膨張により格子高さdは大きくなるので、2つの樹脂部の屈折率差と格子高さの積が吸水前後で変化する。そのため、吸水前に高い回折効率が得られるように設計しても、吸水後に回折効率が低下してしまう。
一方、本発明の回折光学素子100は、屈折率が小さい第1樹脂部1の膨潤率αと、屈折率が高い第2樹脂部2の膨潤率βとの間に、2≦β/α≦16の関係が成り立っている。
回折光学素子100も、高温高湿環境に長時間放置されると、第1樹脂部1と第2樹脂部2は共に吸水し、体積が膨張する。第2樹脂部2の膨潤率βは第1樹脂部1の膨潤率αに対し大きな値をもつため、第2樹脂部2は第1樹脂部1よりも大きく膨張しようとする。第1樹脂部1と第2樹脂部2は密着して積層されているため、第2樹脂部2の膨張に引っ張られるように、第1樹脂部1も膨張する。このとき、第2樹脂部2は吸水しやすいため、その膨張した体積に占める水分の割合が多い。一方、第1樹脂部1は第2樹脂部2に比べて吸水しにくいため、その膨張した体積に占める水分の割合が少なく密度が下がる。密度が下がるため、第1樹脂部1は第2樹脂部2よりも屈折率の低下が大きくなる。そのため、2つの樹脂部の屈折率差は吸水前に比べて小さくなる。波長λの光に対する回折効率は、2つ樹脂部の屈折率差(nA−nB)と、回折格子の格子部の高さdとの積で決定されるため、吸水により格子高さdが大きくなっても、比較例の回折光学素子に比べて回折効率の変動を小さくすることができる。具体的には、2≦β/α≦16の関係を満たすことにより、温度60度、湿度70%の環境に2000時間載置される前と後との回折効率の変動の差を5%未満とすることができる。
一方、β/αが16より大きくなると、高温高湿環境に長時間晒されると、2つの樹脂部の屈折率差が大きくなりすぎてしまい、回折効率が低下してしまう。
(変形例)
以上、第1樹脂部の屈折率nAが第2樹脂部の屈折率nBより高い場合(nA>nB)を例に挙げて本発明を説明したが、本発明は第1樹脂部の屈折率nAが第2樹脂部の屈折率より低い場合(nA<nB)にも適用可能である。その場合は、屈折率が小さい第1樹脂部の膨潤率αと、屈折率が高い第2樹脂部の膨潤率βとの間に、2≦α/β≦16の関係が成り立つ。また、第1樹脂部のアッベ数は、第2樹脂部のアッベ数より小さくなる。
[回折光学素子の製造方法]
図2は本発明の回折光学素子の製造方法の一実施態様を示す概略である。以下に、回折光学素子100を製造する工程を、図2を参照して説明する。
まず、所望の回折格子形状を反転した形状を有する金型12と、第1基材10との間に、未硬化の第1樹脂組成物1aを適量充填する。第1樹脂組成物1aは硬化後に、第2樹脂部2に対して、高屈折率低分散になるよう設計されている。ここで、第1基材10および金型12は離型治具15に保持されている。
次に、金型12と第1基材10を動かし、未硬化の第1樹脂組成物1aを所望の厚みになるまで光学有効部の外を覆うまで押し広げる。なお、充填の際には、必要に応じて金型12および/または第1基材10に対し加圧または加熱を行ってもよい。
続いて、充填された未硬化の第1樹脂組成物1aに対して光や熱エネルギーを与えて硬化させる。図2(a)においては、紫外線光源60によって光エネルギーを与えている。このとき未硬化の第1樹脂組成物1aの硬化反応を促進するために、光のみならず熱を加えても良い。
続いて、図2(b)のように離型治具15を動かし、金型12を離型して、第1樹脂組成物1aの硬化物よりなる、回折格子形状を有する第1樹脂部1を形成する。
さらに、図2(c)のように、第1樹脂部1が形成された第1基材10を成形治具16で保持する。続いて、第1樹脂部1の回折格子形状と、第2基材11との間に未硬化の第2樹脂組成物2aを適量充填する。なお、第2樹脂部2を形成することが目的であるので、第2基材11の替わりに、金型12とは異なる金型を用いてもよい。
そして、図2(d)のように、未硬化の第2樹脂組成物2aを所望の厚みになるまで光学有効内外を覆うまで押し広げる。さらに、充填された未硬化の第2樹脂組成物2aに対して、光源60により光や熱エネルギーを与えて硬化させ、第2樹脂組成物2aの硬化物よりなる、回折格子形状を有する第2樹脂部2を形成する。
以上の工程により、回折光学素子100を製造することができる。
なお、第2樹脂部2を形成した後、第2基材11を分離してもよい。
[撮像装置]
図3は、本発明の撮像装置の好適な実施形態の一例である、一眼レフデジタルカメラの構成を示している。図3において、カメラ本体602と光学機器であるレンズ鏡筒601とが結合されているが、レンズ鏡筒601はカメラ本体602に対して着脱可能ないわゆる交換レンズである。
被写体からの光は、レンズ鏡筒601の筐体620内の撮影光学系の光軸上に配置された複数のレンズ603、605などからなる光学系を通過し、撮像素子610に受光される。本発明の回折光学素子は例えば、レンズ605に用いることができる。
ここで、レンズ605は筐体内の内筒604によって支持されて、フォーカシングやズーミングのためにレンズ鏡筒601の外筒に対して可動支持されている。
撮影前の観察期間では、被写体からの光は、カメラ本体の筐体621内の主ミラー607により反射され、プリズム611を透過後、ファインダレンズ612を通して撮影者に撮影画像が映し出される。主ミラー607は例えばハーフミラーとなっており、主ミラーを透過した光はサブミラー608によりAF(オートフォーカス)ユニット613の方向に反射され、例えばこの反射光は測距に使用される。また、主ミラー607は主ミラーホルダ640に接着などによって装着、支持されている。不図示の駆動機構を介して、撮影時には主ミラー607とサブミラー608を光路外に移動させ、シャッタ609を開き、撮像素子610にレンズ鏡筒601から入射した撮影光像を結像させる。また、絞り606は、開口面積を変更することにより撮影時の明るさや焦点深度を変更できるよう構成される。
まず、本発明の回折光学素子の評価方法について説明をする。
<d線の屈折率/アッベ数>
実施例および比較例の回折光学素子の第1樹脂部および第2樹脂部の屈折率およびアッベ数は、光学特性評価用のサンプルを作成して評価した。なお、光学特性評価用のサンプルを用いずとも、回折光学素子から基材を剥がして樹脂を取り出して評価することも可能である。まず、光学特性評価用サンプルの作成方法について説明する。
図4(a)に示すように、厚さ1mmのガラス4(BK7)の上に、厚さ500μmのスペーサー9と測定対象である樹脂の原料である未硬化の樹脂組成物5aを配置した。その上に厚み1mmの石英ガラス8を、スペーサー9を介して載せ、未硬化の樹脂組成物5aを押し広げた。
次に図4(b)に示すようにスペーサー9を外した。その後、図4(c)のように石英ガラス8の上から、光源18である高圧水銀ランプ(HOYA CANDEO OPTRONICS製:UL750)を用いて、20mW/cm(=石英ガラスを通した照度)で2500秒の条件(50J)で光を照射した。樹脂組成物5aを硬化させ、石英ガラスをはがした後に、80℃16時間でアニールしたものを光学特性評価用のサンプルとした。硬化した樹脂の形状は、厚みが500μm、ガラス面内の大きさは5mm×20mmであった。
得られたサンプルに対し、屈折計(KPR−30、(株)島津製作所)を用いて、ガラス4側から、f線(486.1nm)、d線(587.6nm)及びc線(656.3nm)の各波長の屈折率を測定した。
また、測定した各波長の屈折率からアッベ数を算出した。アッベ数νは、以下の式(1)により算出した。
アッベ数ν=(nd−1)/(nf−nc) (1)
<膨潤率の測定>
実施例および比較例の回折光学素子の第1樹脂部および第2樹脂部の膨潤率は、膨潤率評価用のサンプルを作成して評価した。なお、膨潤率評価用のサンプルを用いずとも、回折光学素子から基材を剥がして樹脂を取り出して評価することも可能である。膨潤率評価用のサンプルは光学特性評価用のサンプルと同じ手順で作成した。
まず、出来上がったサンプルの寸法を光学顕微鏡で測定し、体積を算出した。続いて、このサンプルを純水が入ったビーカーに入れて、24時間浸漬させた。その後、再度、サンプルの寸法を光学顕微鏡で測定し、体積を算出した。そして純水に浸した後の体積を、純水に浸す前の体積で除した百分率表記したものを膨潤率とした。
また、第1樹脂部の膨潤率をα、第2樹脂部の膨潤率をβとして、第1樹脂部の膨潤率に対する第2樹脂部の膨潤率の比であるβ/αを算出した。
<ガラス転移温度の測定>
実施例および比較例の回折光学素子の第1樹脂部および第2樹脂部のガラス転移温度は、ガラス転移温度評価用のサンプルを作成して評価した。なお、ガラス転移温度評価用のサンプルを用いずとも、回折光学素子から基材を剥がして樹脂を取り出して評価することも可能である。ガラス転移温度評価用のサンプルは光学特性評価用のサンプルと同じ手順で作成した。
出来上がったサンプルは、示差走査熱量計(DSC、Perkin−Elmer社製:Pyris1)を用いて、サンプルを保持し、昇温レート5℃/s、測定温度が−20℃から150℃の条件で評価を行った。吸熱反応のピークをガラス転移温度と決定した。
<回折効率の評価>
実施例および比較例の回折光学素子の回折効率は、自動光学素子測定装置(分光計器社製:ASP−32)により測定した。任意のスポット光を回折光学素子に照射して、まずは透過光の光量を測定した。続いて、設計次数である1次の回折光の光量を測定し、全透過光量に対する設計次数の光量の比を百分率で表記したものを回折効率とした。
また、実施例および比較例の回折光学素子を温度60度、湿度70%に設定した恒温槽に入れ、2000時間経過した後に回折光学素子を取り出し、回折効率の変化を評価した。また、恒温槽の投入後における投入前に対する位相差(2つの樹脂の屈折率差と、格子高さの積)の変化を評価した。
(実施例1)
<第1樹脂組成物1aの調整>
第1樹脂組成物1aが100質量部となるようにチオール化合物と(メタ)アクリル化合物等を準備した。チオール化合物である4−メルカプト−3,6−ジチア−1,8−オクタンジチオールは52.5質量部と、(メタ)アクリル化合物であるトリス(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート30質量部と、トリエチルアミン0.1質量部を瓶に入れ混合した。
混合後、23℃で72時間撹拌を行い、粘度を調整後、吸着材を通して濾過し、トリエチルアミンを取り除いた。その後、トリス(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート15.5質量部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を追加し、それぞれが均一になるよう混合し、第1樹脂組成物1aを得た。
<樹脂組成物2aの調整>
第2樹脂組成物2aが100質量部となるように、官能基にフルオレンを備える芳香族ジオール化合物と(メタ)アクリル化合物等を準備した。芳香族ジオール化合物である9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンを45質量部と、(メタ)アクリル化合物であるペンタエリスリトールトリアクリレート38質量部と、ウレタン変性ポリエステルアクリレート15質量部とを瓶に入れた。また、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を瓶に入れ、それぞれが均一になるよう混合し、第2樹脂組成物2aを得た。
<回折光学素子の作成>
図2に示した製造方法で、回折光学素子を製造した。
まず、図2(a)に示す様に、回折格子形状を有する金型12の上に未硬化の第1樹脂組成物1aを設けた。第1樹脂組成物1aの上に2mm厚のガラスからなる第1基材10を配置した。続いて、光源である高圧水銀ランプ60(HOYA CANDEO OPTRONICS社製、EXECURE250)を用いて、14.2mW/cm〜20mW/cmの強度で、600〜850秒照射した。
次に、図2(b)に示す様に金型12を離型し、大気中にて80℃72時間の条件でアニールし、回折格子形状を有する第1樹脂部1を形成した。回折格子の格子高さは19.4μm、回折格子のベース厚であるガラスから格子谷部までの距離は50μm、格子ピッチは200μmであった。
続いて、図2(c)のように、第1樹脂部1が形成された第1基材10を成形治具16で保持した。未硬化の第2樹脂組成物2aを第1樹脂部1の回折格子形状に滴下した。そして、図2(d)のように、平板ガラスである第2基材11を第2樹脂組成物2aの上にのせ、第2樹脂部2の径方向の長さが、第1樹脂部の径方向の端部から300μmとなるように、第2樹脂組成物2aを押し広げた。
最後、第2基材11側からこのサンプルに、20mW/cm(=石英ガラスを通した照度)で2500秒の条件(50J)で光源60である高圧水銀ランプ(HOYA CANDEO OPTRONICS株式会社製:UL750)を照射した。第2樹脂組成物2aを硬化させ、80℃72時間にアニールすることにより、第2樹脂部2を得て、回折光学素子100を得た。第2樹脂部2の厚みは、第1樹脂部の格子頂点から50μmであった。
<評価結果>
実施例1の回折光学素子の第1基材上に設けた第1樹脂部の屈折率とアッベ数は、それぞれ1.622,39であった。また、第1樹脂部上に設けた第2樹脂部の屈折率とアッベ数は、それぞれ1.588,30であった。
実施例1の第1樹脂部の膨潤率は0.08%であった。また、第2樹脂部の膨潤率は0.66%であった。すなわち、第1樹脂部の膨潤率に対する第2樹脂部の膨潤率の比は8.3であった。
実施例1の第1樹脂部のガラス転移温度は52℃であった。また、第2樹脂部のガラス転移温度は90℃であった。
実施例1の回折光学素子の可視光領域(波長:468.1nm乃至656.3nm)全体の回折効率は96%であった。また、温度60度、湿度70%の恒温槽に2000時間入れて取り出した後の回折効率は96%と変化していなかった。位相差の変化はマイナス4nmであった。
(実施例2)
実施例2は、第2樹脂部の組成が実施例1と異なる。実施例2の回折光学素子の作成および評価は、樹脂組成物2aの調整の手順が異なる点以外は実施例1と同様の方法で行った。
<第2樹脂組成物2aの調整>
第2樹脂組成物2aが100質量部となるように、官能基にフルオレンを備える芳香族ジオール化合物と(メタ)アクリル化合物等を準備した。芳香族ジオール化合物である9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンを45質量部と、(メタ)アクリル化合物であるペンタエリスリトールトリアクリレート43質量部と、ウレタン変性ポリエステルアクリレート10質量部とを瓶に入れた。また、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を瓶に入れ、それぞれが均一になるよう混合し、第2樹脂組成物2aを得た。
<評価結果>
実施例2の回折光学素子の第1樹脂部上に設けた第2樹脂部の屈折率とアッベ数は、それぞれ1.588,30であった。
実施例2の第2樹脂部の膨潤率は0.40%であった。すなわち、第1樹脂部の膨潤率に対する第2樹脂部の膨潤率の比は5.0であった。
実施例2の第2樹脂部のガラス転移温度は92℃であった。
実施例2の回折光学素子の可視光領域(波長:468.1nm乃至656.3nm)全体の回折効率は96%であった。また、温度60度、湿度70%の恒温槽に2000時間入れて取り出した後の回折効率は95%と、大きな変化はなかった。位相差の変化はマイナス6nmであった。
(実施例3)
実施例3は、第2樹脂部の組成が実施例1と異なる。実施例3の回折光学素子の作成および評価は、樹脂組成物2aの調整の手順が異なる点以外は実施例1と同様の方法で行った。
<第2樹脂組成物2aの調整>
樹脂組成物2aが100質量部となるように、官能基にフルオレンを備える芳香族ジオール化合物と(メタ)アクリル化合物等を準備した。芳香族ジオール化合物である9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンを45質量部と、(メタ)アクリル化合物であるペンタエリスリトールトリアクリレート46質量部と、ウレタン変性ポリエステルアクリレート7質量部とを瓶に入れた。また、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を瓶に入れ、それぞれが均一になるよう混合し、第2樹脂組成物2aを得た。
<評価結果>
実施例3の回折光学素子の第1樹脂部上に設けた第2樹脂部の屈折率とアッベ数は、それぞれ1.588,30であった。
実施例3の第2樹脂部の膨潤率は0.31%であった。すなわち、第1樹脂部の膨潤率に対する第2樹脂部の膨潤率の比は3.9であった。
実施例3の第2樹脂部のガラス転移温度は93℃であった。
実施例3の回折光学素子の可視光領域(波長:468.1nm乃至656.3nm)全体の回折効率は96%であった。また、温度60度、湿度70%の恒温槽に2000時間入れて取り出した後の回折効率は94%と、大きな変化はなかった。位相差の変化はマイナス10nmであった。
(実施例4)
実施例4は、第2樹脂部の組成が実施例1と異なる。実施例4の回折光学素子の作成および評価は、第2樹脂組成物2aの調整の手順が異なる点以外は実施例1と同様の方法で行った。
<第2樹脂組成物2aの調整>
第2樹脂組成物2aが100質量部となるように、官能基にフルオレンを備える芳香族ジオール化合物と(メタ)アクリル化合物等を準備した。芳香族ジオール化合物である9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンを45質量部と、(メタ)アクリル化合物であるペンタエリスリトールトリアクリレート33質量部と、ウレタン変性ポリエステルアクリレート20質量部とを瓶に入れた。また、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を瓶に入れ、それぞれが均一になるよう混合し、第2樹脂組成物2aを得た。
<評価結果>
実施例4の回折光学素子の第1樹脂部上に設けた第2樹脂部の屈折率とアッベ数は、それぞれ1.588,30であった。
実施例4の第2樹脂部の膨潤率は1.13%であった。すなわち、第1樹脂部の膨潤率に対する第2樹脂部の膨潤率の比は14.1であった。
実施例4の第2樹脂部のガラス転移温度は89℃であった。
実施例4の回折光学素子の可視光領域(波長:468.1nm乃至656.3nm)全体の回折効率は96%であった。また、温度60度、湿度70%の恒温槽に2000時間入れて取り出した後の回折効率は94%と、大きな変化はなかった。位相差の変化はプラス10nmであった。
(実施例5)
実施例5は、第1樹脂部の組成および第2樹脂部の組成が実施例1と異なる。実施例5の回折光学素子の作成および評価は、第1樹脂組成物1aおよび第2樹脂組成物2aの調整の手順が異なる点以外は実施例1と同様の方法で行った。
<第1樹脂組成物1aの調整>
第1樹脂組成物1aが100質量部となるようにチオール化合物と(メタ)アクリル化合物等を準備した。チオール化合物である4−メルカプト−3,6−ジチア−1,8−オクタンジチオールは53.5質量部と、(メタ)アクリル化合物であるトリス(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート30質量部と、トリエチルアミン0.1質量部を瓶に入れ混合した。
混合後、23℃で72時間撹拌を行い、粘度を調整後、吸着材を通して濾過し、トリエチルアミンを取り除いた。その後、トリス(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート14.5質量部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を追加し、それぞれが均一になるよう混合し、第1樹脂組成物1aを得た。
<第2樹脂組成物2aの調整>
第2樹脂組成物2aが100質量部となるように、官能基にフルオレンを備える芳香族ジオール化合物と(メタ)アクリル化合物等を準備した。芳香族ジオール化合物である9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンを48質量部と、(メタ)アクリル化合物であるペンタエリスリトールトリアクリレート35質量部と、ウレタン変性ポリエステルアクリレート15質量部とを瓶に入れた。また、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を瓶に入れ、それぞれが均一になるよう混合し、第2樹脂組成物2aを得た。
<評価結果>
実施例5の回折光学素子の第1基材上に設けた第1樹脂部の屈折率とアッベ数は、それぞれ1.632,39であった。また、第1樹脂部上に設けた第2樹脂部の屈折率とアッベ数は、それぞれ1.598,29であった。
実施例5の第1樹脂部の膨潤率は0.06%であった。また、第2樹脂部の膨潤率は0.48%であった。すなわち、第1樹脂部の膨潤率に対する第2樹脂部の膨潤率の比は8.0であった。
実施例5の第1樹脂部のガラス転移温度は44℃であった。また、第2樹脂部のガラス転移温度は89℃であった。
実施例5の回折光学素子の可視光領域(波長:468.1nm乃至656.3nm)全体の回折効率は96%であった。また、温度60度、湿度70%の恒温槽に2000時間入れて取り出した後の回折効率は96%と変化していなかった。位相差の変化はプラス3nmであった。
以上、実施例1〜5の評価結果を表1にまとめる。
(比較例1)
比較例1は、第2樹脂部の組成が実施例1と異なる。比較例1の回折光学素子の作成および評価は、第2樹脂組成物の調整の手順が異なる点以外は実施例1と同様の方法で行った。
<第2樹脂組成物の調整>
第2樹脂組成物が100質量部となるように、官能基にフルオレンを備える芳香族ジオール化合物と(メタ)アクリル化合物等を準備した。芳香族ジオール化合物である9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンを45質量部と、(メタ)アクリル化合物であるペンタエリスリトールトリアクリレート28質量部と、ウレタン変性ポリエステルアクリレート25質量部とを瓶に入れた。また、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を瓶に入れ、それぞれが均一になるよう混合し、第2樹脂組成物を得た。
<評価結果>
比較例1の回折光学素子の第1樹脂部上に設けた第2樹脂部の屈折率とアッベ数は、それぞれ1.588,30であった。
比較例1の第2樹脂部の膨潤率は1.31%であった。すなわち、第1樹脂部の膨潤率に対する第2樹脂部の膨潤率の比は16.4であった。
比較例1の第2樹脂部のガラス転移温度は87℃であった。
比較例1の回折光学素子の可視光領域(波長:468.1nm乃至656.3nm)全体の回折効率は96%であった。また、温度60度、湿度70%の恒温槽に2000時間入れて取り出した後の回折効率は90%と、5%以上も劣化してしまった。位相差の変化はプラス16nmであった。
(比較例2)
比較例2は、第2樹脂部の組成が実施例1と異なる。比較例2の回折光学素子の作成および評価は、第2樹脂組成物の調整の手順が異なる点以外は実施例1と同様の方法で行った。
<第2樹脂組成物の調整>
第2樹脂組成物が100質量部となるように、官能基にフルオレンを備える芳香族ジオール化合物と(メタ)アクリル化合物等を準備した。芳香族ジオール化合物である9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンを45質量部と、(メタ)アクリル化合物であるペンタエリスリトールトリアクリレート53質量部と、を瓶に入れた。また、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を瓶に入れ、それぞれが均一になるよう混合し、第2樹脂組成物を得た。
<評価結果>
比較例2の回折光学素子の第1樹脂部上に設けた第2樹脂部の屈折率とアッベ数は、それぞれ1.588,30であった。
比較例2の第2樹脂部の膨潤率は0.01%であった。すなわち、第1樹脂部の膨潤率に対する第2樹脂部の膨潤率の比は0.1であった。
比較例2の第2樹脂部のガラス転移温度は94℃であった。
比較例2の回折光学素子の可視光領域(波長:468.1nm乃至656.3nm)全体の回折効率は96%であった。また、温度60度、湿度70%の恒温槽に2000時間入れて取り出した後の回折効率は90%と、5%以上も劣化してしまった。位相差の変化はマイナス16nmであった。
(実施例6)
実施例6は、第1樹脂部の組成および第2樹脂部の組成が実施例1と異なる。実施例6の回折光学素子の作成および評価は、第1樹脂組成物1aおよび第2樹脂組成物2aの調整の手順が異なる点以外は実施例1と同様の方法で行った。
<第1樹脂組成物1aの調整>
第1樹脂組成物1aが100質量部となるようにチオール化合物と(メタ)アクリル化合物等を準備した。チオール化合物である4−メルカプト−3,6−ジチア−1,8−オクタンジチオールは52.5質量部と、(メタ)アクリル化合物であるトリス(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート30質量部と、トリエチルアミン0.1質量部を瓶に入れ混合した。
混合後、23℃で72時間撹拌を行い、粘度を調整後、吸着材を通して濾過し、トリエチルアミンを取り除いた。その後、トリス(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート15.5質量部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を追加し、それぞれが均一になるよう混合し、第1樹脂組成物1aを得た。
<第2樹脂組成物2aの調整>
第2樹脂組成物2aが100質量部となるように、官能基にフルオレンを備える芳香族ジオール化合物と(メタ)アクリル化合物等を準備した。芳香族ジオール化合物である9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンを42質量部と、(メタ)アクリル化合物であるペンタエリスリトールトリアクリレート36質量部と、ウレタン変性ポリエステルアクリレート20質量部とを瓶に入れた。また、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を瓶に入れ、それぞれが均一になるよう混合し、第2樹脂組成物2aを得た。
<評価結果>
実施例6の回折光学素子の第1基材上に設けた第1樹脂部の屈折率とアッベ数は、それぞれ1.620,39であった。また、第1樹脂部上に設けた第2樹脂部の屈折率とアッベ数は、それぞれ1.586,30であった。
実施例6の第1樹脂部の膨潤率は0.10%であった。また、第2樹脂部の膨潤率は1.00%であった。すなわち、第1樹脂部の膨潤率に対する第2樹脂部の膨潤率の比は10.0であった。
実施例6の第1樹脂部のガラス転移温度は80℃であった。また、第2樹脂部のガラス転移温度は90℃であった。
実施例6の回折光学素子の可視光領域(波長:468.1nm乃至656.3nm)全体の回折効率は96%であった。また、温度60度、湿度70%の恒温槽に2000時間入れて取り出した後の回折効率は92%と、4%変化してしまった。位相差の変化はプラス13nmであった。
以上、比較例1、2および実施例6の評価結果を表1にまとめる。また、図5に実施例1〜5と比較例1、2における膨潤率比(β/α)の位相差変動の関係をまとめた。図5において、白抜きの丸印は実施例を、黒塗りした四角印は比較例をそれぞれ示す。点線は実施例を線形近似した直線である。また、図中の四角枠は位相差の変動の絶対値が14nm以下の範囲、かつ、膨潤率比β/αが2≦β/α≦16を満たす範囲である。
第1樹脂部のガラス転移温度が60℃以下であった実施例1〜5および比較例1、2の結果に着目すると、第1樹脂部の膨潤率に対する第2樹脂部の膨潤率の比(β/α)が2以上16以下の範囲を満たすと位相差の変動が14nmと小さかったことが分かる。また位相差の変動が14nm以下であると、回折効率の変化2%以内と小さかったことが分かる。これは吸水により回折格子の格子高さが変動しても、第1樹脂部および第2樹脂部の屈折率差が小さくなったためだと考えられる。
また、実施例6は実施例4より第1樹脂部の膨潤率に対する第2樹脂の膨潤率の比(β/α)の値が小さかったにもかかわらず、回折効率の変動は実施例4よりも大きかった。これは実施例6の第1樹脂部のガラス転移温度が80℃と高かったため、第1樹脂部と第2樹脂部の屈折率差が実施例4より大きくなったためだと考えられる。しかし、実施例6は比較例1、2よりは回折効率の変動は小さく、回折光学素子としての性能は十分なものであった。
1 第1樹脂部
1a 第1樹脂組成物
2 第2樹脂部
2a 第2樹脂組成物
10 第1基材
11 第2基材
100 回折光学素子
600 撮像装置(デジタルカメラ)
601 光学機器(レンズ鏡筒)
602 カメラ本体
603 レンズ
605 レンズ

Claims (13)

  1. 第1基材と、前記第1基材上に設けられた2つの樹脂部を有する回折光学素子であって、
    前記2つの樹脂部の一方が、回折格子形状を有し、屈折率がnA、膨潤率がαである第1樹脂部であり、
    前記2つの樹脂部の他方が、回折格子形状を有し、屈折率がnB、膨潤率がβである第2樹脂部であり、
    前記前記nA、前記nB、前記αおよび前記βが、
    nA>nB、かつ、2≦β/α≦16
    の関係を満たすことを特徴とする回折光学素子。
  2. 前記第2樹脂部のガラス転移温度が、前記第1樹脂部のガラス転移温度より低い請求項1に記載の回折光学素子。
  3. 前記第2樹脂部のガラス転移温度が、60℃以下である請求項2に記載の回折光学素子。
  4. 前記第1樹脂部が、チオール化合物および(メタ)アクリレート化合物が重合された硬化物を有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の回折光学素子。
  5. 前記第2樹脂部が、芳香族ジオール化合物および(メタ)アクリレート化合物が重合された硬化物を有する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の回折光学素子。
  6. 前記第1樹脂部のアッベ数が、前記第2樹脂部のアッベ数より大きい請求項1乃至5のいずれか1項に記載の回折光学素子。
  7. 前記第1樹脂部の回折格子の格子高さが10μm以上30μm以下である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の回折光学素子。
  8. 前記第1樹脂部および前記第2樹脂部が無機粒子を含有していない請求項1乃至7のいずれか1項に記載の回折光学素子。
  9. 前記第2つの樹脂部の上に第2基材が積層された請求項1乃至8のいずれか1項に記載の回折光学素子。
  10. 第1基材と、前記第1基材上に設けられた2つの樹脂部を有する回折光学素子であって、
    前記2つの樹脂部の一方が、回折格子形状を有し、チオール化合物および(メタ)アクリレート化合物が重合された硬化物を有する第1樹脂部であり、
    前記2つの樹脂部の他方が、回折格子形状を有し、芳香族ジオール化合物および(メタ)アクリレート化合物が重合された硬化物を有する第2樹脂部であり、
    前記回折光学素子を、温度60度、湿度70%の環境に2000時間載置する前と載置した後における回折効率の変動が5%未満であることを特徴とする回折光学素子。
  11. 筐体と、該筐体内に複数のレンズからなる光学系を備える光学機器であって、
    前記レンズの少なくとも1つが請求項1乃至10のいずれか1項に記載の回折光学素子であることを特徴とする光学機器。
  12. 筐体と、該筐体内に複数のレンズからなる光学系と、該光学系を通過した光を受光する撮像素子と、を備える撮像装置であって、
    前記レンズの少なくとも1つが請求項1乃至10のいずれか1項に記載の回折光学素子であることを特徴とする撮像装置。
  13. 前記撮像装置がカメラである請求項12に記載の撮像装置。
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