以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
第1実施形態について説明する。本実施形態に係る制御装置100は、動力伝達システム10を制御するための装置として構成されている。制御装置100の説明に先立ち、制御対象である動力伝達システム10の構成について先ず説明する。
図1には、動力伝達システム10の一般的な構成が模式的に示されている。本実施形態の動力伝達システム10は、力発生装置11と、減速要素12と、不感帯要素13と、捩りばね要素14と、負荷15と、を有している。
力発生装置11は、回転力を発生させる装置であって、具体的には回転電機である。力発生装置11は、制御装置100から送信される指令値に応じた回転力(つまりトルク)を発生させる。このような構成を実現するために、指令値を、力発生装置11に供給される電流に変換するためのドライバが設けられているのであるが、図1においてはその図示が省略されている。力発生装置11で生じる回転力のことを、以下では「TM」とも表記する。
力発生装置11は出力軸を有しており、当該出力軸が後述の減速要素12へと繋がっている。出力軸は、力発生装置11で発生した回転力を外部に出力するための回転軸となっている。出力軸の回転速度、具体的には出力軸の回転角周波数のことを、以下では「ωM]とも表記する。ωMは、力発生装置11の動作速度であり、本実施形態における「第1速度」に該当する。また、出力軸のイナーシャのことを以下では「JM」とも表記し、出力軸が回転する際に受ける粘性摩擦力の粘性摩擦係数のことを以下では「BM」とも表記する。
減速要素12は、力発生装置11の出力軸の回転速度を減速して、後述の捩りばね要素14へと出力するための装置である。減速要素12の減速比のことを、以下では「N」とも表記する。捩りばね要素14の回転速度は、力発生装置11の出力軸の回転速度の1/Nということになる。尚、減速要素12は必須のものではない。力発生装置11で発生した回転力が、後述の捩りばね要素14へと直接伝達される構成としてもよい。
不感帯要素13は、力発生装置11から捩りばね要素14までの力の伝達経路における、部材間の隙間を模式的に表すものである。このような「隙間」としては、例えば、ギヤのバックラッシやスプラインのガタ等が挙げられる。不感帯要素13が存在することで、負荷15の動作方向を反転させる場合等において、一時的に、力発生装置11で生じた力が負荷15に伝達されない状態となる。このように、力が負荷に伝達されない動作範囲のことを、以下では「不感帯」とも称する。力発生装置11の出力軸と、捩りばね要素14との間の相対的な回転角において、不感帯となる角度範囲の1/2の大きさのことを、以下では「θBL」とも表記する。すなわち、上記の相対的な回転角が最大でθBL×2となる範囲において、力が負荷15に伝達されないことがある。
捩りばね要素14は、力発生装置11で発生した回転力を負荷15に伝達するための要素である。捩りばね要素14は、本実施形態における「伝達部材」に該当する。力発生装置11の駆動力を負荷15に伝達する際においては、捩りばね要素14では捩れが生じる。捩りばね要素14の捩れ剛性のことを、以下では「KS」とも表記する。
負荷15は、動力伝達システム10の駆動対象となる部分である。上記のように、力発生装置11で発生した回転力は、減速要素12や捩りばね要素14を介して負荷15に伝達され、負荷15を回転させる。負荷15の動作速度、具体的には負荷15の回転角周波数のことを、以下では「ωL]とも表記する。ωLは、本実施形態における「第3速度」に該当する。また、負荷15が捩りばね要素14から受ける回転力のことを以下では「TS」とも表記し、負荷15のイナーシャのことを以下では「JL0」とも表記し、負荷15が回転する際に受ける粘性摩擦力の粘性摩擦係数のことを、以下では「BL」とも表記する。更に、負荷15が外部から受ける回転力のことを、以下では「TL」とも表記する。
本実施形態では、動力伝達システム10及び制御装置100のそれぞれが、電動車両EVに搭載される装置として構成されている。力発生装置11は、本実施形態の場合、電動車両EVを走行させるための駆動力を発生させる回転電機(モータージェネレータ)である。また、捩りばね要素14に該当する部材は、本実施形態の場合、電動車両EVが有する駆動軸である。
負荷15は、本実施形態の場合、電動車両EVの車体である。尚、車体のうち実際に回転動作するのは、電動車両EVの車輪であるから、負荷15は当該車輪ということもできる。ただし、電動車両EVの通常の走行時においては、負荷15のイナーシャであるJL0として、電動車両EVの車体全体の質量を車輪のイナーシャに換算した値が用いられる。一方、電動車両EVの車輪が地面に接触していない状態で空転する場合においては、負荷15のイナーシャであるJL0として、電動車両EVが有する車輪の実際のイナーシャが用いられる。
尚、以上のような動力伝達システム10の適用はあくまで一例である。図1に示される動力伝達システム10は、電動車両EV以外の様々な装置に適用することができる。
ここで、上記構成の動力伝達システム10に対し、従来の制御装置により行われていた制御の概要について説明する。
力発生装置11の出力軸の回転について、運動方程式は以下の式(1)となる。
式(1)の「s」は微分演算子である。以降に示す各式においても、微分演算子として「s」の表記を用いる。
負荷15の回転について、運動方程式は以下の式(2)となる。
ここで、力発生装置11の変位量と、負荷15の変位量と、の間の差のことを、以下では「θS」と表記する。θSのことを、以下では「変位差」とも称することがある。本実施形態の場合、上記の「変位量」とは回転角のことを示す。
従来の制御においては、先に述べた不感帯要素13の存在を考慮することなくシステムがモデル化されていた。この場合、θ
SとT
Sとの関係は以下の式(3)により表されることとなる。
変位差であるθ
Sは、ω
Mとω
Lとを用いて、以下の式(4)により表される。
先に述べたように、変位差は、力発生装置11の変位量と、負荷15の変位量と、の間の差として定義される。式(4)を見ると明らかなように、「力発生装置11の変位量」としては、減速要素12により減速された後の変位量が用いられる。本実施形態ように減速要素12が設けられている構成においては、力発生装置11と減速要素12とを組み合わせたものの全体を、「力発生装置」と捉えることもできる。減速要素12が設けられていない場合には、式(4)におけるNの値を1とすればよい。いずれの場合であっても、「力発生装置11の変位量」とは、力発生装置11で発生した力を伝達部材に伝達する部分の変位量を意味する。
θ
Sを微分した値、すなわち「sθ
S」の値のことを、以下では「ω
S」と表記する。ω
Sは、伝達部材である捩りばね要素14の変形速度ということができる。ω
Sは、本実施形態における「第2速度」に該当する。式(4)を変形すれば、ω
Sは以下の式(5)により表される。
尚、実際の動力伝達システム10には不感帯が存在する点に鑑みれば、式(5)で算出されるωSは、捩りばね要素14の実際の変形速度からずれてしまうことがある。ただし、現在説明している従来の制御においては、上記のようなずれは考慮されない。
以上に挙げた式(1)乃至(5)によれば、T
MとT
Sとの関係を表す以下の式(6)を導くことができる。
式(6)に示されるa
3やa
2等の係数は、以下の式(7)乃至(12)により表されるものである。
簡略化のために、粘性摩擦を表すB
M及びB
Lの項を無視すると、式(6)は以下の式(13)のように変形される。
式(13)における「ω
r」は、捩りばね要素14の振動における共振周波数であり、以下の式(14)により表されるものである。
ここで、式(13)のT
Mから所定のフィードバック項を減算し、これによりT
Sの振動を抑制することについて検討する。上記のフィードバック項として、K
FBsT
Sを用いると、式(13)は以下の式(15)となる。尚、K
FBはフィードバックのゲインに該当する。
式(15)は更に、以下の式(16)のように変形することができる。
ここで、K
FBの値を、以下の式(17)で示される値に設定する。
この場合、式(16)は更に、以下の式(18)のように変形することができる。
式(18)の右辺分母は、KFBの値を式(17)のように設定することで、TSの振動における減衰係数が1となること、すなわち、捩りばね要素14の振動が十分に抑制されるようになることを示している。
尚、式(15)においてTMから減算されるフィードバック項は、上記とは異なる形の項であってもよい。
その一例を以下に示す。式(3)の両辺を微分すると、以下の式(19)が得られる。
この場合、フィードバック項であるK
FBsT
Sを「K
FB’ω
S」と表現すると、K
FB’は以下の式(20)によって表される。
従って、式(20)で表されるKFB’に対し、ωSを乗算したものをフィードバック項として用いた場合でも、捩りばね要素14の振動を十分に抑制することが可能となる。
以上に述べたように、従来の制御においては、上記のようにωSを含むフィードバック項を用いて振動を抑制することができる。しかしながら、動力伝達システム10を表す実際のモデルには、不感帯要素13が存在するので、式(5)で算出されるωSが、捩りばね要素14の実際の変形速度からずれてしまうことがある。このため、以上に述べた従来の制御では、不感帯の存在に起因した振動を十分に抑制することは難しい。そこで、本実施形態に係る制御装置100は、不感帯の存在を表現したモデルを用いてフィードバック項を算出することで、従来よりも振動を抑制することとしている。
本実施形態に係る制御装置100の構成について、図2を参照しながら説明する。制御装置100は、CPU、ROM、RAM等を有するコンピュータシステムとして構成されている。制御装置100は、その機能を表すブロック要素として、第1速度取得部110と、第2速度推定部120と、第3速度推定部130と、変位差推定部140と、補正部150と、を備えている。
第1速度取得部110は、力発生装置11の動作速度である第1速度を取得する処理を行う部分である。先に述べたように、本実施形態ではωMが第1速度に該当する。本実施形態では、力発生装置11に、ωMを測定するための不図示のセンサが設けられている。第1速度取得部110は、当該センサから出力される信号に基づいてωMの値を取得する。
このような態様に替えて、第1速度取得部110が、他の物理量に基づいてωMの値を推定し、これにより第1速度を取得する構成としてもよい。例えば、本実施形態のように力発生装置11が回転電機である場合には、力発生装置11では出力軸の回転に伴い、誘起電圧が変動することが知られている。このため、第1速度取得部110が、力発生装置11における誘起電圧の変動周期に基づいて、ωMの値を推定し取得することとしてもよい。
第2速度推定部120は、第1速度取得部110で取得された第1速度に基づいて、伝達部材の変形速度である第2速度を推定する処理を行う部分である。先に述べたように、本実施形態ではωSが第2速度に該当する。第2速度推定部120がωSの値を推定するための具体的な方法については、後に説明する。
第3速度推定部130は、負荷15の動作速度である第3速度、を推定する処理を行う部分である。先に述べたように、本実施形態ではωLが第3速度に該当する。第3速度推定部130がωLの値を推定する具体的な方法については、後に説明する。
変位差推定部140は、力発生装置11の変位量と負荷15の変位量との差、である変位差を推定する処理を行う部分である。先に述べたように、本実施形態ではθSが変位差に該当する。変位差推定部140がθSの値を推定するための具体的な方法については、後に説明する。
補正部150は、第2速度推定部120で推定された第2速度に基づいて、力発生装置11に向けて送信される指令値への補正値を算出する処理を行う部分である。後に説明するように、補正部150により算出された補正値は、補正前の指令値から減算される。減算後の値が、力発生装置11に送信される最終的な指令値となる。力発生装置11に送信される最終的な指令値、すなわち、上記補正が行われた後の指令値のことを、以下では「TM
**」とも表記する。また、上記補正が行われる前の指令値のことを、以下では「TM
*」とも表記する。補正部150が補正値を算出するための具体的な方法については、後に説明する。
制御装置100により行われる制御の概要について説明する。本実施形態の制御では、不感帯の存在を表現したモデルが用いられる。このため、T
Sは、先に述べた式(3)ではなく、以下の式(21)により表される。
式(21)におけるθdは、捩りばね要素14の捩れ角を表している。θdは、捩りばね要素14が捻じれる方向に変形した際の、一旦側の回転角と他端側の回転角との差(つまり位相差)、ということもできる。
不感帯要素13の存在により、θSとθdとの関係は、図3(A)に示されるような関係となる。θSの値が、-θBLからθBLまでの所定範囲に収まっているときには、θSの値によることなくθdは0となる。それ以外のときには、θSの増加に伴い、θdは傾きが1の直線に沿って増加する。
θ
Sの値に応じて、図3(A)のように変化するθ
dを表現するために、本実施形態では、sat(θ
S)というパラメータを用いる。図3(B)には、θ
Sと、これに応じて変化するsat(θ
S)との関係が示されている。同図に示されるように、変位差であるθ
Sが上記所定範囲の下限値(-θ
BL)よりも小さい場合には、sat(θ
S)は、θ
Sの値によって変化しない一定値(-θ
BL)となる。θ
Sが、上記所定範囲に収まっている場合には、θ
Sの増加に伴い、sat(θ
S)は傾きが1の直線に沿って増加する。つまり、sat(θ
S)はθ
Sに比例した値となる。θ
Sが、上記所定範囲の上限値(θ
BL)よりも大きい場合には、sat(θ
S)は、θ
Sの値によって変化しない一定値(θ
BL)となる。以上のように定義されるパラメータsat(θ
S)を式によって表すと、以下の式(22)となる。
sat(θ
S)を用いると、図3(A)のように変化するθ
dは、以下の式(23)により表される。
また、式(21)と式(23)から、T
Sを以下の式(24)のように表すこともできる。
これまでに説明した式(1)、式(2)、式(4)、式(22)、式(23)、式(24)によれば、ω
Lを表す式(25)、及びθ
Sを表す式(26)を、T
L=0という条件の下で、それぞれ以下のように導くことができる。
式(25)及び式(26)に示されるa
3やa
2等の係数は、先に挙げた式(7)乃至(10)と、以下の式(27)乃至(32)とにより表されるものである。
式(25)の右辺において、ω
Mに掛かる係数の全体をA(s)と表記し、sat(θ
S)に掛かる係数の全体をB(s)と表記すると、式(25)は以下の式(33)のように表される。
同様に、式(26)の右辺において、T
Mに掛かる係数の全体をC(s)と表記し、sat(θ
S)に掛かる係数の全体をD(s)と表記すると、式(26)は以下の式(34)のように表される。
本実施形態に係る制御装置100は、式(33)及び式(34)に示される関係を用いて、ωLやθSの値を推定し、更に、TM
*から減算されるべき補正値を算出するように構成されている。
制御装置100により実行される処理の具体的な内容について説明する。図4に示されるブロック図は、制御装置100が行う制御の全体を表すものとなっている。同図のブロックB01は、上位の制御装置(不図示)から入力されるトルク指令値TM0に基づいて、フィードフォワード補償を行う部分である。ブロックB01は、TM0に基づいてTM
*を算出し出力する。尚、ブロックB01で行われるフィードフォワード補償の処理としては、公知の処理を用いることができる。
尚、フィードフォワード補償を行うブロックB01は必須ではなく、ブロックB01が存在しない態様としてもよい。この場合、上位の制御装置から、TM0が直接減算器B02へと入力されることとなる。
ブロックB01から出力されたTM
*は、減算器B02へと入力される。減算器B02では、ブロックB01から入力されたTM
*から、後述のブロックB04から入力されるTFBを減算することで、TM
**を算出する処理が行われる。TFBは、先に述べた補正部150により算出される補正値である。TM
*は補正前の指令値であり、TM
**は補正後の指令値である。つまり、減算器B02で行われる上記処理は、補正前の指令値TM
*から補正値TFBを減算することで、補正後の指令値TM
**を算出する処理である。当該処理により算出されたTM
**は、ブロックB03へと入力される。
ブロックB03は、制御対象である動力伝達システム10(つまり実プラント)を示すものである。ブロックB03は、補正後のトルク指令値であるTM
**の入力を受けて、ωMを出力するブロックとして表現されている。ブロックB03から出力されるωMの値は、不図示のセンサにより測定された実測値である。ωMはブロックB04へと入力される。
ブロックB04は、入力されたωMに基づきフィードバック補償を行う部分である。ブロックB04は、ωMに基づいて上記のTFBを算出し、これを減算器B02へと入力する。
図5では、ブロックB04で行われる処理の内容が、更に具体的なブロック図として示されている。同図に示されるように、ブロックB03からブロックB04へと入力されるωMは、ブロックB04が有するブロックB13及びブロックB14のそれぞれへと入力される。
ブロックB13では、入力されたωMを、減速要素12の減速比Nで除する処理が行われる。当該処理により得られた値は、ブロックB13から後述の減算器B16へと入力される。
ブロックB14では、入力されたωMに対し、式(33)のA(s)による演算を施す処理が行われる。当該処理により得られた値、すなわちA(s)ωMは、ブロックB14から後述の加算器B15へと入力される。
ブロックB04には、補正前のトルク指令値であるTM
*も入力される。TM
*は、ブロックB04が有するブロックB11へと入力される。ブロックB11では、入力されたTM
*に基づいて、sat(θS)の推定値を算出する処理が行われる。
図6には、ブロックB11で行われる上記処理の内容が、更に具体的なブロック図として示されている。同図に示されるように、ブロックB11へと入力されるTM
*は、ブロックB11が有するブロックB21へと入力される。
ブロックB21では、入力されたTM
*に対し、式(34)のC(s)による演算を施す処理が行われる。当該処理により得られた値、すなわちC(s)TM
*は、ブロックB21から加算器B22へと入力される。
加算器B22では、ブロックB21から入力されるC(s)TM
*に対し、後述のブロックB24から入力されるD(s)sat(θS)を加算する処理が行われる。式(34)から明らかなように、当該処理により得られる値はθSの推定値、すなわち変位差の推定値となる。以上のようにθSの値を推定する処理は、変位差推定部140によって行われる。加算器B22において算出されたθSの推定値は、ブロックB23へと入力される。
ブロックB23では、入力されたθSの推定値に基づいて、sat(θS)の推定値を算出する処理が行われる。当該処理は式(22)を用いて行われる。
ブロックB23で算出されたsat(θS)の推定値は、図5のブロックB12に入力されると共に、ブロックB24にも入力される。ブロックB24では、入力されたsat(θS)に対し、式(34)のD(s)による演算を施す処理が行われる。当該処理により得られた値、すなわちD(s)sat(θS)は、ブロックB24から加算器B22へと入力された後、先に述べたようにθSの推定値の算出に供される。
図5に戻って説明を続ける。上記のように算出されたsat(θS)の推定値は、ブロックB11からブロックB12へと入力される。ブロックB12では、入力されたsat(θS)の推定値に対し、式(33)のB(s)による演算を施す処理が行われる。当該処理により得られた値、すなわちB(s)sat(θS)は、ブロックB12から加算器B15へと入力される。
加算器B15では、ブロックB14から入力されたA(s)ωMに、ブロックB12から入力されたB(s)sat(θS)を加算する処理が行われる。式(33)から明らかなように、当該処理により得られる値はωLの推定値、すなわち第3速度の推定値となる。以上のようにωLの値を推定する処理は、第3速度推定部130によって行われる。加算器B15において算出されたωLの推定値は、減算器B16へと入力される。
減算器B16では、ブロックB13から入力されたωM/Nから、加算器B15から入力されたωLの推定値を減算する処理が行われる。式(5)から明らかなように、当該処理により得られる値はωSの推定値、すなわち第2速度の推定値となる。以上のようにωSの値を推定する処理は、第2速度推定部120によって行われる。減算器B16において算出されたωSの推定値は、ブロックB17へと入力される。
ブロックB17では、入力されたωSの推定値に対し、フィードバックゲインであるKFBを乗算する処理が行われる。当該処理により得られる値は、図4に示されるTFB、すなわち補正値である。尚、KFBの値としては、例えば、式(20)に示されるKFB’の値を用いることができるが、これに限定されることなく種々の値を用いることができる。以上のように補正値TFBを算出する処理は、補正部150によって行われる。ブロックB17で算出されたTFBは、先に述べたように図4の減算器B02へと入力され、TM
**の算出に供される。
以上のように、本実施形態に係る制御装置100では、第2速度推定部120が、力発生装置11で発生した力が負荷15に伝わらない不感帯、の存在を表現したモデルを用いて、第2速度であるωSを推定するように構成されている。「不感帯の存在を表現したモデル」は、本実施形態におけるブロックB04が該当する。ブロックB04は、上記のモデルを、変位差であるθSと、θSに応じて変化するsat(θS)と、を用いて表現されている。
「不感帯の存在を表現したモデル」とは、本実施形態の場合、図3(A)のように変化するθd、もしくは図3(B)のように変化するsat(θS)、のうちの少なくとも一方を内部で算出可能なモデル、ということもできる。ただし、不感帯の存在の具体的な表現方法は、上記とは異なるものであってもよい。
本実施形態では、不感帯の存在を表現したモデルを用いてωSが推定されるので、不感帯を通過するような動作時においても、ωSの推定値と、捩りばね要素14の実際の変形速度と、の間が大きく乖離してしまうことがない。このため、ブロックB17においては、正確なωSの値に基づいて適切なTFBを算出し、伝達部材等における振動の発生を十分に抑制することができる。
本実施形態の変位差推定部140は、補正値TFBにより補正される前の指令値、すなわちTM
*を用いて、図6のブロック図に基づき変位差θSを推定する。TM
*は制御装置100により算出されるものであるから、測定ノイズ等の影響を受けることなく安定して変位差θSを推定することができる。
図7(A)、(C)、(E)には、従来の制御が行われた場合における、各測定値の時間変化の例が示されている。このうち、図7(A)に示されるのは、力発生装置11で生じる回転力の実測値、すなわちTMの時間変化の例である。図7(C)に示されるのは、負荷15が捩りばね要素14から受ける回転力、すなわちTSの時間変化の例である。図7(E)に示されるのは、力発生装置11の動作速度、すなわちωMの時間変化の例である。
図7(A)、(C)、(E)に示される例においては、時刻t0に、それまで減速していた電動車両EVを加速へと切り換える制御が行われている。図7(C)に示される点線DL3は、上位から送信されるトルク指令値(つまりTM0)の時間変化を示している。
図7(C)に示されるように、時刻t0以降においてTSは増加し、時刻t1において一旦0となる。その後、TSは、時刻t1から時刻t2までの期間において0のままとなっており、時刻t2以降においては再び増加している。このように、時刻t1から時刻t2までの期間においてTSの値が0となるのは、動力伝達システム10が不感帯を有していることに起因している。従来の制御においては、このような不感帯の存在が考慮されていないので、図7(A)に示されるTM、図7(C)に示されるTS、及び図7(E)に示されるωMのそれぞれが、時刻t0以降において比較的大きく振動してしまっている。
図7(A)に示される点線DL1は、減速から加速への切り換えが行われた後、TMの振動が減衰し概ね一定となった状態における、TMの平均値を示している。従来の制御においては、TMの値が点線DL1を上回る程度に大きく振動してしまっている。
図7(B)、(D)、(F)には、制御装置100によりこれまで説明した制御が行われた場合における、各測定値の時間変化の例が示されている。このうち、図7(B)に示されるのは、力発生装置11で生じる回転力の実測値、すなわちTMの時間変化の例である。図7(D)に示されるのは、負荷15が捩りばね要素14から受ける回転力、すなわちTSの時間変化の例である。図7(F)に示されるのは、力発生装置11の動作速度、すなわちωMの時間変化の例である。
図7(B)、(D)、(F)に示される例においても、先の従来例と同様に、時刻t0に、それまで減速していた電動車両EVを加速へと切り換える制御が行われている。図7(D)に示される点線DL4は、上位から送信されるトルク指令値(つまりTM0)の時間変化を示している。当該時間変化は、図7(C)の点線DL3で示されるものと同じ時間変化となっている。
図7(D)の例でも、時刻t1から時刻t2までの期間において、不感帯の影響によりTSの値が0となっている。しかしながら、図7(A)と図7(B)、図7(C)と図7(D)、及び図7(E)と図7(F)をそれぞれ比較すると明らかなように、本実施形態の制御によれば、TM、TS、ωMのそれぞれで生じる振動が、従来に比べて十分に抑制されていることがわかる。
図7(B)に示される点線DL2は、減速から加速への切り換えが行われた後、TMの振動が減衰し概ね一定となった状態における、TMの平均値を示している。本実施形態の制御においては、TMの振動が充分に抑制される結果、TMの値が常に点線DL2以下に抑えられている。
第2実施形態について説明する。以下では、第1実施形態と異なる点について主に説明し、第1実施形態と共通する点については適宜説明を省略する。
図8に示されるブロック図は、本実施形態に係る制御装置100が行う制御の内容を、図5と同様の方法により描いたものである。本実施形態では、ブロックB11にTM
*が入力されず、替わりにTM
**が入力される。つまり、本実施形態のブロックB11には、補正前のトルク指令値ではなく、補正後のトルク指令値が入力される。
ブロックB11では、入力されたTM
**に基づいてsat(θS)の推定値を算出する処理が行われる。その算出方法は、図6を参照しながら説明した第1実施形態の算出方法において、TM
*をTM
**に置き換えたものに等しい。
以上のように、本実施形態の変位差推定部140は、補正値TFBにより補正された後の指令値、すなわちTM
**を用いて、図6のブロック図に基づき変位差θSを推定する。TM
**は、実プラントを示すブロックB03に入力されるトルク指令値であるから、TM
*に比べて、実際のトルクにより近い値となっている。このため、本実施形態では更に正確に変位差θSを推定することができる。
第3実施形態について説明する。以下では、第1実施形態と異なる点について主に説明し、第1実施形態と共通する点については適宜説明を省略する。
図9に示されるブロック図は、本実施形態に係る制御装置100が行う制御の内容を、図5と同様の方法により描いたものである。本実施形態では、ブロックB11にTM
*が入力されず、替わりにωMが入力される。つまり、本実施形態のブロックB11には、第1速度取得部110により取得された第1速度が入力される。
ブロックB11では、入力されたωMに基づいてsat(θS)の推定値を算出する処理が行われる。その算出方法を説明するに先立ち、sat(θS)の算出のために必要となる式の導出について先ず説明する。
先に説明した式(1)、式(2)、式(4)、式(22)、式(23)、式(24)によれば、ω
Mを表す式(35)を以下のように導くことができる。
式(35)に示されるa
3やa
2等の係数は、先に挙げた式(7)乃至(10)と、以下の式(36)乃至(41)とにより表されるものである。
式(35)の右辺において、T
Mに掛かる係数の全体をE(s)と表記し、sat(θ
S)に掛かる係数の全体をF(s)と表記すると、式(35)は以下の式(42)のように表される。
また、式(42)変形することで、T
Mを以下の式(43)のように表すこともできる。
図10を参照しながら、本実施形態におけるsat(θS)の算出方法について説明する。図10には、本実施形態のブロックB11で行われる処理の内容が、具体的なブロック図として示されている。同図に示されるように、ブロックB11へと入力されるωMは、ブロックB11が有する減算器B31へと入力される。
減算器B31では、上記のように入力されたωMから、後述のブロックB33で算出されたF(s)sat(θS)の値を減算する処理が行われる。当該処理の結果算出された値、すなわち「ωM-F(s)sat(θS)」の値は、ブロックB32へと入力される。
ブロックB32では、入力された「ωM-F(s)sat(θS)」の値に対し、式(42)のE(s)を用いて、1/E(s)による演算を施す処理が行われる。当該処理により得られた値は、ブロックB32からブロックB21へと入力される。式(43)から明らかなように、ブロックB21に入力される値はTMの推定値となる。
ブロックB21、B22、B23、B24では、図6を参照しながら説明したものと同様の演算が行われる。すなわち、加算器B22ではθSの値を推定する処理が変位差推定部140により行われ、ブロックB23ではsat(θS)の値を推定する処理が行われる。ブロックB23で算出されたsat(θS)の推定値は、第1実施形態と同様に図9のブロックB12に入力される他、ブロックB33にも入力される。ブロックB33では、入力されたsat(θS)に対し、式(42)のF(s)による演算を施す処理が行われる。当該処理により得られた値、すなわちF(s)sat(θS)は、先に述べたようにブロックB33から減算器B31へと入力される。
以上のように、本実施形態の変位差推定部140は、第1速度であるωMを用いて変位差θSを推定する。これにより、センサにより測定されたωMに基づいて、θSの値をより正確に推定することができる。
第4実施形態について説明する。以下では、第1実施形態と異なる点について主に説明し、第1実施形態と共通する点については適宜説明を省略する。
図11に示されるブロック図は、本実施形態に係る制御装置100が行う制御の内容を、図5と同様の方法により描いたものである。本実施形態では、ブロックB11にTM
*が入力されず、替わりにωLとωMが入力される。ブロックB11に入力されるωLは、加算器B15における演算の結果として算出されたωL、すなわち、第3速度推定部130により推定された負荷15の動作速度(つまり第3速度)である。また、ブロックB11に入力されるωMは、第1速度取得部110により取得された第1速度である。
ブロックB11では、入力されたωL及びωMに基づいてsat(θS)の推定値を算出する処理が行われる。
図12を参照しながら、本実施形態におけるsat(θS)の算出方法について説明する。図12には、本実施形態のブロックB11で行われる処理の内容が、具体的なブロック図として示されている。同図に示されるように、ブロックB11へと入力されるωLは、ブロックB11が有する減算器B41へと入力される。
ブロックB11へと入力されるωMは、ブロックB11が有するブロックB42へと入力される。ブロックB42では、入力されたωMを、減速要素12の減速比Nで除する処理が行われる。当該処理により得られた値は、ブロックB42から減算器B41へと入力される。
減算器B41では、ωM/NからωLを減算する処理が行われる。当該処理の結果算出された値、すなわち「ωM/N-ωL」の値は、ブロックB43へと入力される。ブロックB43では、減算器B41から入力された「ωM/N-ωL」の値を積分する処理が行われる。当該処理により得られた値は、ブロックB43からブロックB23へと入力される。式(4)から明らかなように、ブロックB23に入力される値はθSの推定値となる。ブロックB43においてθSの推定値の算出する処理は、変位差推定部140により行われる。ブロックB23では、先に説明した方法により、θSに基づいてsat(θS)の値を推定する処理が行われる。当該処理により算出されたsat(θS)の推定値は、第1実施形態と同様に図11のブロックB12に入力される。
以上のように、本実施形態の変位差推定部140は、第1速度であるωMと、第3速度であるωLと、の両方を用いて変位差θSを推定する。このような構成においては、θSやsat(θS)等の算出を、図12のブロック図に示されるような比較的シンプルな演算により算出することが可能となる。その結果、制御装置100における演算負荷が小さくなるので、演算コストを抑制することができる。
第5実施形態について説明する。以下では、第1実施形態と異なる点について主に説明し、第1実施形態と共通する点については適宜説明を省略する。
図13に示されるように、本実施形態に係る制御装置100は、その機能を表すブロック要素として、フィルタ処理部160を更に備えている。フィルタ処理部160は、第2速度であるωSに対しフィルタ処理を施す部分である。
フィルタ処理部160が行うフィルタ処理の内容について、図14を参照しながら説明する。図14に示されるブロック図は、本実施形態に係る制御装置100が行う制御の内容を、図5と同様の方法により描いたものである。本実施形態では、減算器B16で算出されたωSの推定値が、減算器B16とブロックB17との間に配置されたブロックB51へと入力される。
ブロックB51は、減算器B16から入力されたω
Sの推定値に対し、フィルタ処理部160によるフィルタ処理を施す部分である。当該処理を表す伝達関数G(s)は、以下の式(44)により表されるものである。
このような伝達関数G(s)を経ることにより、減算器B16からブロックB51に入力されたωSは、共振周波数であるωr以外の周波数からなる振動成分を減衰させた後、ブロックB51からブロックB17へと入力されることとなる。換言すれば、減算器B16から出力されたωSの推定値のうち、概ね共振周波数ωrの周波数成分のみがブロックB51を通過して、ブロックB17において補正値TFBの算出に供される。このように、フィルタ処理部160によるフィルタ処理では、概ね共振周波数ωrの周波数成分のみを通過させるようなバンドパス特性を持つフィルタが用いられる。
本実施形態の補正部150は、フィルタ処理部160による上記フィルタ処理が施された後の第2速度(ωS)に基づいて、指令値への補正値を算出することとなる。共振周波数ωrの周波数成分のみに基づく補正値TFBにより補正が行われるので、制御の応答性を向上させることができる。尚、フィルタ処理に用いられる伝達関数G(s)としては、式(44)により表されるものとは異なる関数であってもよい。
また、フィルタ処理部160、及び伝達関数G(s)を表すブロックB51は、これまでに説明した他の実施形態に適用してもよい。
第6実施形態について説明する。以下では、上記の第5実施形態と異なる点について主に説明し、第5実施形態と共通する点については適宜説明を省略する。
図15に示されるように、本実施形態に係る制御装置100は、その機能を表すブロック要素として、スリップ率取得部170を更に備えている。スリップ率取得部170は、電動車両EVにおける車輪のスリップ率を取得する部分である。スリップ率のことを、以下では「λ」とも表記する。また、車輪のうち路面に接する部分の、車輪以外の車体部分に対する相対速度のことを、以下では「VL1」と表記する。更に、電動車両EVの車速を、以下では「V」と表記する。
電動車両EVの駆動時においては、スリップ率λは以下の式(45)で表される。
一方、電動車両EVの制動時においては、スリップ率λは以下の式(46)で表される。
上記のVL1は、電動車両EVが有する複数の車輪のうち、駆動輪の回転数を不図示のセンサで検出した上で、当該回転数に基づいて算出することができる。また、上記のVは、電動車両EVが有する複数の車輪のうち、従動輪の回転数を不図示のセンサで検出した上で、当該回転数に基づいて算出することができる。スリップ率取得部170は、VL1及びVのそれぞれを上記のように取得した上で、λを所定の周期で繰り返し算出し取得する。
電動車両EVの駆動力、すなわち、車輪が路面に対して加える力を「F」と表記し、電動車両EVの全体の質量を「M」と表記すると、以下式(47)で表される運動方程式が成立する。
また、電動車両EVの車輪の半径を「r」と表記すると、上記のFは以下の式(48)で表される。
これまでに説明した式(1)、式(2)、式(4)、式(22)、式(23)、式(24)、式(45)、式(46)、式(47)、式(48)によれば、以下の式(49)を導くことができる。
式(49)におけるJ
L(λ)は、電動車両EVの車体全体の質量を車輪のイナーシャに換算した値を、λの関数として表したものである。J
L(λ)は以下の式(50)で表される。
尚、式(50)における「JL0」は、ここでは車輪の実際のイナーシャを表すものとして用いられている。
式(49)におけるB
L1(λ)は、電動車両EVの車輪が受ける粘性摩擦力の粘性摩擦係数を、λの関数として表したものである。B
L1(λ)は以下の式(51)で表される。
尚、式(51)における「BL」は、スリップ率λが0の場合における粘性摩擦係数である。
これまでに説明した式(1)、式(2)、式(4)、式(22)、式(23)、式(24)に加え、上記の式(49)を用いれば、ω
Lを表す式(52)、及びθ
Sを表す式(53)を、それぞれ以下のように導くことができる。
式(52)及び式(53)に示されるa3やa2等の係数は、先に挙げた式(7)乃至(10)、式(27)乃至(32)を用いて表されるものである。ただし、本実施形態では、各式中のJL0をJL(λ)に、BLをBL1(λ)に、それぞれ置き換えたものが用いられる。
式(52)の右辺において、ω
Mに掛かる係数の全体をA(s,λ)と表記し、sat(θ
S)に掛かる係数の全体をB(s,λ)と表記すると、式(52)は以下の式(54)のように表される。
同様に、式(53)の右辺において、T
Mに掛かる係数の全体をC(s,λ)と表記し、sat(θ
S)に掛かる係数の全体をD(s,λ)と表記すると、式(53)は以下の式(55)のように表される。
本実施形態に係る制御装置100は、式(54)及び式(55)に示される関係を用いて、ωLやθSの値を推定するように構成されている。
式(14)において、J
L0を式(50)のJ
L(λ)に置き換えると、共振周波数ω
rは以下の式(56)のように表される。
図16を参照しながら、本実施形態において実行される処理について説明する。図16に示されるブロック図は、本実施形態に係る制御装置100が行う制御の内容を、図14と同様の方法により描いたものである。
本実施形態のブロックB14では、入力されたωMに対し、式(54)のA(s,λ)による演算を施す処理が行われる。また、本実施形態のブロックB12では、入力されたsat(θS)の推定値に対し、式(54)のB(s,λ)による演算を施す処理が行われる。更に、本実施形態のブロックB51では、入力されたωSの推定値に対し、G(s,λ)によるフィルタ処理を施す処理が行われる。G(s,λ)とは、式(44)の右辺におけるωrを、全て式(56)のωr(λ)に置き換えることで、式(44)のG(s)をλの関数として表現したものである。
図17に示されるブロック図は、図16のブロックB11で行われる処理の内容を、図6と同様の方法により描いたものである。ブロックB11が有するブロックB21では、入力されたTM
*に対し、式(55)のC(s,λ)による演算を施す処理が行われる。また、ブロックB11が有するブロックB24では、入力されたsat(θS)の推定値に対し、式(55)のD(s,λ)による演算を施す処理が行われる。
以上のように、本実施形態では、ブロックB12、B14、B51、B21、B24におけるそれぞれの伝達関数が、スリップ率取得部170で取得されたλの値によって動的に変更される。それぞれの伝達関数は、TFBの算出に必要な「制御パラメータ」ということができる。
λの値により各伝達関数を変更する処理は、補正部150によってなされる。つまり、本実施形態の補正部150は、スリップ率λに応じて、補正値であるTFBの算出に必要な制御パラメータを変化させるように構成されている。このため、車輪のスリップ状態に応じた正確な補正値TFBを算出し、振動の発生を更に抑制することができる。
尚、フィルタ処理部160、スリップ率取得部170、ブロックB12、B14、B51、B21、B24は、これまでに説明した他の実施形態に適用してもよい。当該適用に当たっては、フィルタ処理部160及びスリップ率取得部170の両方を適用するのではなく、スリップ率取得部170のみを適用することとしてもよい。
以上の各実施形態においては、動力伝達システム10が、力発生装置11の回転力により、負荷15を回転運動させるものとして構成されている場合の例について説明した。しかしながら、制御対象である動力伝達システムは、力発生装置の並進力により、負荷15を並進運動させるものとして構成されているものであってもよい。
図18には、後者のような構成の動力伝達システム20の例が模式的に示されている。動力伝達システム20は、力発生装置21と、減速要素22と、不感帯要素23と、ばね要素24と、負荷25と、を有している。このような構成の動力伝達システム20は、例えば、工作機械等に用いられる。
力発生装置21は、並進力を発生させる装置であって、例えばリニアモーターである。力発生装置21は、制御装置100から送信される指令値に応じた並進力を発生させる。このような構成を実現するために、指令値を、力発生装置21に供給される電流に変換するためのドライバが設けられているのであるが、図18においてはその図示が省略されている。力発生装置21で生じる並進力のことを、以下では「FM」とも表記する。
力発生装置21は出力軸を有しており、当該出力軸が後述の減速要素22へと繋がっている。出力軸は、力発生装置21で発生した並進力を外部に出力する部分となっている。出力軸の並進速度のことを、以下では「VM]とも表記する。VMは、力発生装置21の動作速度であり、これまでのωMと同様に「第1速度」に該当する。また、出力軸の質量のことを以下では「MM」とも表記し、出力軸が並進する際に受ける粘性摩擦力の粘性摩擦係数のことを以下では「CM」とも表記する。
減速要素22は、力発生装置21の出力軸の並進速度を減速して、後述のばね要素24へと出力するための装置である。減速要素22の減速比のことを、これまでと同様に「N」とも表記する。ばね要素24の並進速度は、力発生装置21の出力軸の並進速度の1/Nということになる。尚、減速要素22は必須のものではない。力発生装置21で発生した並進力が、後述のばね要素24へと直接伝達される構成としてもよい。
不感帯要素23は、力発生装置21からばね要素24までの力の伝達経路における、部材間の隙間を模式的に表すものである。このような「隙間」としては、例えば、ギヤのバックラッシ等が挙げられる。不感帯要素23が存在することで、負荷25の動作方向を反転させる場合等において、一時的に、力発生装置21で生じた力が負荷25に伝達されない状態となる。このように、動力伝達システム20においても、動力伝達システム10と同様に不感帯が存在する。力発生装置21の出力軸と、ばね要素24との間の相対的な距離において、不感帯となる範囲の1/2の大きさのことを、以下では「xBL」とも表記する。すなわち、上記の相対的な距離が最大でxBL×2となる範囲において、力が負荷25に伝達されないことがある。
ばね要素24は、力発生装置21で発生した並進力を負荷25に伝達するための要素である。ばね要素24は、この例における「伝達部材」に該当する。力発生装置21の駆動力を負荷25に伝達する際においては、ばね要素24では並進方向に沿った変形が生じる。ばね要素24の剛性のことを、これまでと同様に「KS」とも表記する。
負荷25は、動力伝達システム20の駆動対象となる部分である。上記のように、力発生装置21で発生した並進力は、減速要素22やばね要素24を介して負荷25に伝達され、負荷25を並進運動させる。負荷25の動作速度のことを、以下では「VL]とも表記する。VLは、これまでのωLと同様に「第3速度」に該当する。また、負荷25がばね要素24から受ける並進力のことを以下では「FS」とも表記し、負荷25の質量のことを以下では「ML」とも表記し、負荷25が並進運動する際に受ける粘性摩擦力の粘性摩擦係数のことを、以下では「CL」とも表記する。更に、負荷25が外部から受ける並進力のことを、以下では「FL」とも表記する。
動力伝達システム20を制御するにあたり用いられる数式について説明する。
力発生装置21の出力軸の動作について、運動方程式は以下の式(57)となる。
負荷25の動作について、運動方程式は以下の式(58)となる。
ここで、力発生装置21の変位量と、負荷25の変位量と、の間の差のことを、以下では「x
S」と表記する。x
Sは、これまでのθ
Sのような「変位差」に該当するものである。
ばね要素24の変形量を「x
d」とすると、x
dとF
Sとの関係は、以下の式(59)により表される。
不感帯要素23の存在により、xSとxdとの関係は、図3(A)に示されるθSとθdとの関係と同様の関係となる。
当該関係を表すために、以下の式(60)で示されるsat(x
S)が用いられる。
sat(x
S)を用いると、x
Sとx
dとの関係は以下の式(61)により表される。
変位差であるx
Sは、V
MとV
Lとを用いて、以下の式(62)により表される。
このxsを微分したものが、この例における「第2速度」に該当する。
動力伝達システム20に対しても、以上に挙げた式(57)乃至(62)を用いることで、制御装置100はこれまでに説明したものと同様の制御を適用することができる。式(57)、(58)、(59)、(60)、(61)、(62)は、それぞれ、式(1)、(2)、(21)、(22)、(23)、(4)に対応するものであり、VMとωMとのような各要素の対応関係も明らかであることから、動力伝達システム20の詳細な制御については説明を省略する。
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
本開示に記載の制御装置及び制御方法は、コンピュータプログラムにより具体化された1つ又は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された1つ又は複数の専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載の制御装置及び制御方法は、1つ又は複数の専用ハードウェア論理回路を含むプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載の制御装置及び制御方法は、1つ又は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと1つ又は複数のハードウェア論理回路を含むプロセッサとの組み合わせにより構成された1つ又は複数の専用コンピュータにより、実現されてもよい。コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。専用ハードウェア論理回路及びハードウェア論理回路は、複数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路により実現されてもよい。