JP7440326B2 - 研磨剤組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、研磨剤組成物に関する。更に詳しくは、酸化物単結晶であるタンタル酸リチウム単結晶材料やニオブ酸リチウム単結晶材料を被研磨物とする精密研磨加工に用いられる研磨剤組成物に関する。
従来、テレビの中間周波数フィルタや共振器等のエレクトロニクス部品として、圧電体における圧電効果により発生する表面弾性波(SAW)を利用した表面弾性波デバイスが広く用いられている。このような表面弾性波デバイスを構成する圧電体素子の材料として、圧電体セラミックス、圧電体薄膜等の各種の圧電性物質の採用が検討されている。特に、近年においては、硬脆材料が優れた特性を有していることから、タンタル酸リチウム単結晶材料やニオブ酸リチウム単結晶材料(以下、「酸化物単結晶材料」と称す。)が広く採用されている。
種々の表面弾性波デバイスの表面には、鏡面を得るためにポリッシング加工が通常施される。ここで、酸化物単結晶材料は、硬度が高く、かつ、化学的に極めて安定な材料であり、研磨速度が遅くなることが知られている。そのため、従来の酸化物単結晶材料の研磨は、工業的には研磨液の供給及び回収を繰り返す循環供給方式が一般的に採用されている。しかしながら、所望の厚さになるまで研磨を行おうとすると、例えば、10時間近い研磨時間が必要となることもあり、製品の生産性や生産効率の点で問題となることがあった。
更に、上記の酸化物単結晶材料を被研磨物として研磨する際に、「キュッキュ」といった独特の摩擦音を発生する所謂“キャリア鳴き”と呼ばれる微細振動を起こしやすいことが知られている。このような微細振動を発生する現象は、酸化物単結晶材料の圧電材料としての特性に起因すると考えられている。そして、かかる微細振動を生じた結果、被研磨物が規定の研磨位置から移動したり、或いは割れたりする等の不具合を生じることがあった。したがって、研磨時における微細振動の抑制が重要な課題となっている。
シリコンウエハの研磨に使用されるコロイダルシリカを主成分として含む研磨剤がタンタル酸リチウム単結晶材料等の酸化物結晶材料の研磨にも採用されている。かかるコロイダルシリカ成分を含有する研磨剤は、表面及び内面に欠陥を生じることなく、研磨面の精度を高度に達成することができる優れた特徴を有する。しかしながら、その一方で、研磨条件等によって、上述したキャリア鳴きと呼ばれる被研磨物の微細振動が発生することがあった。
一方、酸化物単結晶材料の研磨速度の向上を目的として、硬脆材料用の精密研磨剤としてBET比表面積が10~60m/g、2次粒子の平均粒子径が0.5~5μmの沈降法微粒子シリカのみを固形成分として含んだ水系スラリー分散液が提案されている(例えば、特許文献1参照)。更に、同じく硬脆材料用の研磨剤として、コロイダルシリカの分散安定性の向上を目的として、グルコン酸ナトリウム等の添加剤を加えることで、研磨速度を向上させるものが既に提案されている(例えば、特許文献2参照)。
この他に、タンタル酸リチウム単結晶材料やニオブ酸リチウム単結晶材料で構成された基板のための基板用研磨剤が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
特開平5-1279号公報 特開2006-150482号公報 特開2002-184726号公報
しかしながら、上述した特許文献1及び特許文献2に示された研磨剤は、圧電材料の研磨におけるキャリア鳴きと呼ばれる微細振動の抑制については何ら開示も示唆もされていない。
一方、特許文献3に開示された硬脆材料で構成された基板用の研磨剤の場合、研磨速度が高く、かつ研磨面等の外観を良好に研磨することを主たる目的とするものである。そのため、γ-アルミナ及びシリカを成分として含み、加えて潤滑剤及び分散助剤を多く含んでいる。ここで、γ-アルミナのようなアルミナ成分及びシリカ成分を含むと沈降が生じやすくなり、上述した循環供給方式の研磨には不向きであることが知られている。
更に、潤滑剤及び分散助剤を多く含むと研磨剤自体の粘度が高くなり、種々の問題が生じやすくなる。また、特許文献3には、キャリア鳴きについても開示も示唆もなされていない。
そこで、タンタル酸リチウム単結晶材料またはニオブ酸リチウム単結晶材料の酸化物単結晶材料を被研磨物とする研磨加工において、研磨速度の向上を図るとともに、研磨速度が高くなるに連れて発生するキャリア鳴き(微細振動)を抑制し、研磨位置のずれや割れなどの不具合を生じることなく、安定した研磨を行うものが求められている。
上記実情に鑑み、本発明は、酸化物単結晶材料(基板)の研磨において、研磨時におけるキャリア鳴きを抑制するとともに、研磨後の研磨表面の平坦性の向上及び研磨速度の向上を図ることが可能な研磨剤組成物の提供を課題とする。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意検討した結果、シリカ粒子と水溶性高分子化合物と水とを含有し、水溶性高分子化合物が少なくともカルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であることを特徴とする研磨剤組成物を使用することにより、タンタル酸リチウム単結晶材料またはニオブ酸リチウム単結晶材料の酸化物単結晶基板の研磨において、被研磨物のキャリア鳴きと呼ばれる微細振動を抑制し、研磨速度を向上させ、研磨後の基板の平坦性を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明によれば、以下に示す研磨剤組成物が提供される。
[1] シリカ粒子、水溶性高分子化合物、及び水を含有し、前記水溶性高分子化合物は、少なくともカルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、前記カルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位と前記スルホン酸基を有する単量体に由来する構成単位のモル比が95:5~5:95の範囲であり、前記水溶性高分子化合物の重量平均分子量が1,000~5,000,000である、タンタル酸リチウム単結晶材料またはニオブ酸リチウム単結晶材料を研磨加工するための研磨剤組成物。
[2] 前記シリカ粒子は、平均粒子径10~60nmの小粒径シリカ粒子と、平均粒子径70~200nmの大粒径シリカ粒子とを含み、前記小粒径シリカ粒子及び前記大粒径シリカ粒子の合計質量に対する前記小粒径シリカ粒子の質量の割合が50~95質量%である前記[1]に記載の研磨剤組成物。
[3] 前記カルボン酸基を有する単量体は、
アクリル酸またはその塩、及び、メタクリル酸またはその塩から選ばれる前記[1]または[2]に記載の研磨剤組成物。
[4] 前記スルホン酸基を有する単量体は、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、及びこれらの塩から選ばれる前記[1]~[3]のいずれかに記載の研磨剤組成物。
[5] 無機酸及び/またはその塩、有機酸及び/またはその塩、及び、塩基性化合物の少なくも一種類を更に含有する前記[1]~[4]のいずれかに記載の研磨剤組成物。
[6] 前記有機酸及び/またはその塩は、キレート性化合物である前記[5]に記載の研磨剤組成物。
シリカ粒子、水溶性高分子化合物、及び水を含有し、更に水溶性高分子化合物が少なくともカルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であることを特徴とする研磨剤組成物を用い、タンタル酸リチウム単結晶材料またはニオブ酸リチウム単結晶材料の研磨を行うことにより、平坦性の向上、研磨速度の向上、及びキャリア鳴きの抑制を実現することができる。
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
1.研磨剤組成物
本発明の一実施形態の研磨剤組成物は、シリカ粒子、水溶性高分子化合物、及び水を含有し、当該水溶性高分子化合物は、少なくともカルボン酸基を有する単量体(以下、「カルボン酸基単量体」と称す。)及びスルホン酸基を有する単量体(以下、「スルホン酸基単量体」と称す。)を必須単量体とする共重合体であり、タンタル酸リチウム単結晶材料またはニオブ酸リチウム単結晶材料を研磨加工するためのものである。
1.1 シリカ粒子
本実施形態の研磨剤組成物において用いられるシリカ粒子は、コロイダルシリカ、湿式法シリカ(沈降法シリカ、ゲル法シリカ等)、ヒュームドシリカ等を例示することができ、特に、コロイダルシリカを用いることが好適である。コロイダルシリカは、ケイ酸ナトリウム等のアルカリ金属ケイ酸塩を無機酸と反応させて製造される水ガラス法、テトラエトキシシラン等のアルコキシシランを酸またはアルカリで加水分解する方法、金属ケイ素と水とをアルカリ触媒の存在下で反応させる方法等がある。このうち、製造コストの点において水ガラス法を好適に用いることができる。
シリカ粒子は、平均粒子径が10~60nmの小粒径シリカ粒子と、平均粒子径が70~200nmの大粒径シリカ粒子とを含有することが好ましく、小粒径シリカ粒子及び大粒径シリカ粒子の合計質量に対する小粒径シリカ粒子の占める割合(=小粒径シリカ粒子の質量/(小粒径シリカ粒子の質量+大粒径シリカ粒子の質量)×100)が50~95質量%の範囲であることが好ましい。かかる小粒径シリカ粒子の占める割合は、より好ましくは55~90質量%の範囲であり、更に好ましくは60~85質量%の範囲である。
更に、小粒径シリカ粒子の平均粒子径は、好ましくは15~55nmの範囲であり、一方、大粒径シリカ粒子の平均粒子径は、好ましくは75~150nmの範囲である。
更に、小粒径シリカ粒子、大粒径シリカ粒子、及びその他シリカ粒子を含む全シリカ粒子の平均粒子径は、10~150nmの範囲とすることができる。好ましくは20~120nmの範囲とすることができる。ここで、全シリカ粒子の平均粒子径を10nm以上とすることで、研磨加工時における“キャリア鳴き”の発生を抑制する効果が期待される。
更に、全シリカ粒子の平均粒子径を150nm以下とすることで、研磨加工時における“研磨速度”の向上を期待することができる。ここで、上記における各シリカ粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察結果に基づいて解析し、算出されたものである。なお、全シリカ粒子の合計質量に占める小粒径シリカ粒子及び大粒径シリカ粒子の合計質量の割合は、80質量%以上、より好ましくは90質量%以上とすることができる。
また、研磨剤組成物中における全シリカ粒子の濃度は、5~50質量%の範囲であることが好ましく、10~40質量%の範囲であることがより好ましい。全シリカ粒子の濃度を5質量%以上とすることにより、シリカ粒子による研磨効果、特に優れた面質を得ることができる。一方、50質量%以下とすることにより、経済性の面で有利となるとともに、シリカ粒子以外の研磨材やその他の配合剤を配合することによる凝集やゲル化等の問題が生じ難くなる。
1.2 水溶性高分子化合物
本実施形態の研磨剤組成物における水溶性高分子化合物は、少なくともカルボン酸基単量体及びスルホン酸基単量体を必須単量体とする共重合体である。更に、カルボン酸基単量体に由来する構成単位(以下、「カルボン酸基構成単位」と称す。)とスルホン酸基単量体に由来する構成単位(以下、「スルホン酸基構成単位」と称す。)のモル比が95:5~5:95の範囲であり、水溶性高分子化合物の重量平均分子量が1,000~5,000,000の範囲である。以下、かかる水溶性高分子化合物について詳細に説明する。
1.2.1 カルボン酸基単量体
カルボン酸基単量体の具体例としては、不飽和脂肪族カルボン酸及びその塩が好適に用いることができる。具体的に説明すると、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、及びこれらの塩を好適に用いることができる。更に、塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、アミン塩、及びアルキルアンモニウム塩等を好適に用いることができる。
1.2.2 スルホン酸基単量体
スルホン酸基単量体の具体例としては、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸及びこれらの塩等を用いることができる。更に、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びこれらの塩を好適に用いることができる。
1.2.3 その他の単量体
本発明の研磨剤組成物において使用される水溶性高分子化合物は、上記の通り、カルボン酸基単量体及びスルホン酸基単量体が必須単量体として使用されるものであるが、これら以外の単量体を使用するものであっても構わない。例えば、アミド基を有する単量体を使用することも可能である。
アミド基を有する単量体の具体例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミド等を好適に用いることができる。更に、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドの具体例としては、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-iso-プロピルアクリルアミド、N-n-ブチルアクリルアミド、N-iso-ブチルアクリルアミド、N-sec-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-iso-プロピルメタクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N-iso-ブチルメタクリルアミド、N-sec-ブチルメタクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミド等を好適に用いることができる。
1.2.4 共重合体
本実施形態の研磨剤組成物における水溶性高分子化合物は、カルボン酸基構成単位とスルホン酸基構成単位のモル比が95:5~5:95の範囲となるように設定されている。すなわち、共重合体におけるカルボン酸基構成単位の割合は、5~95mol%であり、より好ましくは8~92mol%、更に好ましくは10~90mol%の範囲とすることができる。
1.2.5 水溶性高分子化合物の製造方法
水溶性高分子化合物の製造方法は特に制限されないが、水溶液重合法が好ましい。水溶液重合法によれば、均一な溶液として水溶性高分子化合物を得ることができる。上記水溶液重合の重合溶媒としては、水性溶媒であることが好ましく、特に好ましくは水である。
更に、上記のカルボン酸基単量体及びスルホン酸基単量体のそれぞれの成分の溶媒への溶解性を向上させるために、各単量体の重合に影響を及ぼさない範囲において有機溶媒を適宜加えるものであっても構わない。有機溶媒としては、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類を例示することができる。なお、かかる有機溶媒は、1種類を単独で使用、若しくは2種類以上を組み合わせて使用するものであっても構わない。
以下に、上記の水性溶媒を用いた水溶性高分子化合物の製造方法について説明する。ここで、重合反応において、公知の重合開始剤を使用することが可能であり、特にラジカル重合開始剤を好適に用いることができる。
ラジカル重合開始剤としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、過酸化水素等の水溶性過酸化物、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類等の油溶性過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド等のアゾ化合物等を例示することができる。
更に、これらの過酸化物系のラジカル重合開始剤は、1種類を単独で使用、若しくは2種類以上を組み合わせて併用するものであっても構わない。更に、生成される水溶性高分子化合物の分子量の制御が容易となるため、上記過酸化物系のラジカル重合開始剤において、特に過硫酸塩やアゾ化合物の使用が好適であり、アゾビスイソブチロニトリルの使用が特に好適である。
上記ラジカル重合開始剤の使用量は、特に制限されないが、水溶性高分子化合物の全単量体合計質量に基づいて、0.1~15質量%、特に0.5~10質量%の割合で使用することが好適である。0.1質量%以上とすることにより、共重合率を向上させることができ、15質量%以下とすることにより、水溶性高分子化合物の安定性を向上させることができる。換言すれば、ラジカル重合開始剤の使用量が0.1質量%未満の場合、共重合率が低下するおそれがあり、一方、15質量%超の場合、水溶性高分子化合物が不安定なものとなりやすい。
更に、水溶性高分子化合物は、水溶性レドックス系重合開始剤を使用して製造するものであっても構わない。レドックス系重合開始剤としては、酸化剤(例えば上記の過酸化物)と、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、ハイドロサルファイトナトリウム等の還元剤や、鉄明礬、カリ明礬等との組み合わせを例示することができる。
更に、水溶性高分子化合物の製造において、分子量を調整するために、連鎖移動剤を重合系に適宜添加するものであっても構わない。連鎖移動剤としては、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、2-プロパンチオール、2-メルカプトエタノール、及びチオフェノール等を例示することができる。
水溶性高分子化合物を製造する際の重合温度は、特に制限されないが、例えば、重合温度を60~100℃の範囲に設定することが好適である。重合温度を60℃以上にすることで、重合反応が円滑に進行し、かつ生産性に優れるものとなり、100℃以下とすることで、着色を抑制することができる。換言すれば、重合温度が60℃未満の場合、重合反応の進行が阻害され、生産性が劣ることになり、100℃超の場合は製造される水溶性高分子化合物が着色されやすくなる。
また、水溶性高分子化合物を製造するための重合反応は、加圧下、常圧下、及び減圧下のいずれにおいても行うことができる。しかしながら、加圧下及び減圧下の反応のための設備コストが嵩むおそれがあるため、基本的には常圧下で行うことが好適である。なお、重合反応を行う重合時間は、例えば、2~20時間の範囲、特に3~10時間程度とすることが好適である。
重合反応を行った後で、必要に応じて塩基性化合物で中和を行うものであっても構わない。かかる中和に使用する塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、アンモニア水、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、及びトリエタノールアミン等の有機アミン類等を例示することができる。なお、上記の中和による処理を行った後のpH値(25℃)は、水溶性高分子化合物濃度が10質量%の水溶液の場合、2~9が好適であり、3~8が更に好適である。
水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、通常、1,000~5,000,000程度であり、好ましくは、3,000~3,000,000であり、更に好ましくは、5,000~2,000,000である。ここで、本明細書において重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて、標準ポリアクリル酸換算により測定したときの値である。
水溶性高分子化合物の重量平均分子量が1,000未満の場合は、研磨後のうねりが悪化するおそれがある。一方、重量平均分子量が5,000,000超の場合は、水溶液の粘度が高く取り扱いが困難となる可能性がある。
1.2.6 濃度
水溶性高分子化合物の研磨剤組成物中の濃度は、好ましくは固形分換算で0.0001~3.0質量%であり、より好ましくは0.001~2.0質量%であり、更に好ましくは0.005~1.0質量%である。水溶性高分子化合物の濃度が0.0001質量%未満の場合には、水溶性高分子化合物の添加による効果が十分に得られず、一方、3.0質量%超の場合は、水溶性高分子化合物の添加効果がそれ以上得られない可能性があり、経済的でない。
1.3 その他の添加剤
本実施形態の研磨剤組成物は、pH調整のために、無機酸及び/またはその塩、有機酸及び/またはその塩、及び、塩基性化合物の少なくとも一種類を更に含有することができる。また、有機酸及び/またはその塩としては、キレート性化合物の使用が好適である。
更に具体的に説明すると、無機酸としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、及びトリポリリン酸等を例示することができ、これらの塩も使用することが可能である。例えば、塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、及びアンモニウム塩等の使用が好適である。
有機酸としては、ギ酸、酢酸、及びプロピオン酸等のモノカルボン酸、リンゴ酸、マロン酸、マレイン酸、及び酒石酸等のジカルボン酸、クエン酸等のトリカルボン酸、グリシン等のアミノカルボン酸、エチレンジアミン四酢酸等のポリアミノカルボン酸系化合物等を例示することができ、これらの塩も使用することが可能である。例えば、塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、及びアンモニウム塩等の使用が好適である。
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、アンモニア水、及び有機アミン類等を例示することできる。
更に、本実施形態の研磨剤組成物中における無機酸及び/またはその塩、有機酸及び/またはその塩、及び、塩基性化合物の含有量は、0.05~4質量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.1~3質量%の範囲であり、更に好ましくは0.2~2質量%の範囲である。
有機酸及び/またはその塩としては、前述したようにキレート性化合物を使用することが好適であり、ジカルボン酸、トリカルボン酸、アミノカルボン酸、及びポリアミノカルボン酸系化合物等が例示される。更に、ポリアミノカルボン酸系化合物について具体的に示すと、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ニトリロ三酢酸等、及びこれらのアンモニウム塩、アミン塩、ナトリウム塩、及びカリウム塩等が挙げられる。
有機酸及び/またはその塩として、キレート性化合物を用いると、更に研磨速度を向上させることができ、研磨加工時におけるキャリア鳴きの発生を抑制する効果を有している。
本実施形態の研磨剤組成物において、pH値(25℃)を7~11の範囲に調整したものが好ましい。pH値(25℃)が7~11の範囲に調整されると、シリカ粒子の電荷が負に大きくなる傾向が知られている。そのため、シリカ粒子間において働く電気的な反発力が大きくなり、それぞれのシリカ粒子に効果的に作用することで研磨材粒子が均等に分散されるようになる。
これに対し、pH値(25℃)が7未満、特に5~6付近となる場合は、シリカ粒子間の電荷のバランスが崩れ、シリカ粒子の凝集やゲル化が発生しやすくなる。また、pH値(25℃)が11を超える場合、徐々にシリカ粒子の表面が溶解し、研磨剤組成物としての作用効果を発揮することができなくなるおそれがある。
2.研磨方法
本実施形態の研磨剤組成物を用いて、タンタル酸リチウム単結晶材料またはニオブ酸リチウム単結晶材料からなる基板に対して研磨加工を施す際には、従来から周知の種々の研磨手法を適宜選択することができる。例えば、所定量の研磨剤組成物を研磨機に設けられた供給容器に投入する。その後、供給容器からノズルやチューブを介して、研磨機の定盤上に貼付された研磨パッドに対して当該研磨剤組成物を滴下して供給しつつ、被研磨物(タンタル酸リチウム単結晶材料等)の研磨面を研磨パッド面に押圧し、定盤を所定の回転速度にて回転させることにより、被研磨物の表面を研磨する。
ここで、研磨パッドとしては、従来から周知の不織布、発泡ポリウレタン、多孔質樹脂、及び非多孔質樹脂等からなるものを適宜選択して使用することができる。更に、研磨パッドへの研磨剤組成物の供給を促進し、或いは研磨パッドに当該研磨剤組成物が一定量留まるようにするために、研磨パッドの表面に格子状、同心円状、または螺旋状等の溝加工が施されているものであってもよい。
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、本発明には、以下の実施例の他にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えることができる。
(研磨剤組成物の調製)
実施例1~20及び比較例1~4としてそれぞれ調製した研磨剤組成物は下記に示す表1に記載した材料を、同表1に記載の含有量または添加量で含んで構成される。なお、比較例1及び比較例3は、水溶性高分子化合物を含まない研磨剤組成物である。表1において、アクリル酸を“AA”、及び、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を“ATBS”とそれぞれ表示している。
Figure 0007440326000001
(重量平均分子量)
水溶性高分子化合物として、上記表1に示すように、アクリルポリマーA~Fの重合体を使用した。ここで、各水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、前述したように、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリアクリル酸換算で測定したものであり、以下にGPC測定条件を示す。
GPC条件
カラム:G4000PWXL(東ソー(株)製)+G2500PWXL(東ソー(株)製)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/アセトニトリル=9/1(容量比)
流速:1.0ml/min
温度:40℃
検出:210nm(UV)
サンプル:濃度5mg/ml(注入量100μl)
検量線用ポリマー:ポリアクリル酸 分子量(ピークトップ分子量 Mp)11.5万、
2.8万、4100、1250(創和化学(株)、American Polymer Standards Corp.)
コロイダルシリカの粒子径(Heywood径)は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子(株)製、透過型電子顕微鏡 JEM2000FX(200kV))を用いて倍率10万倍の視野の写真を撮影し、この写真を解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac-View Ver.4.0)を用いて解析することによりHeywood径(投射面積円相当径)として測定した。コロイダルシリカの平均粒子径は前述の方法で2000個程度のコロイダルシリカ粒子径を解析し、小粒径側からの積算粒径分布(累積体積基準)が50%となる粒径を上記解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac-View Ver.4.0)を用いて算出した平均粒子径(D50)である。
(研磨試験)
実施例1~20及び比較例1~4の研磨剤組成物を、それぞれ両面研磨機(SPEED FAM社製:6B-5P-II、ポリッシング定盤直径:422mm)に設けられた研磨剤供給容器に導入した後、この研磨機を用いて、タンタル酸リチウム単結晶材料、またはニオブ酸リチウム単結晶材料からなる基板(直径:76mm、厚み0.3mm)の表面に5時間のポリッシングを行った。
ポリッシングに際して、定盤の回転速度(回転数)は55rpmに設定され、研磨圧力は300g/cmであった。研磨剤組成物は、チューブポンプを用いて、200ml/minの供給速度にて、定盤上に貼られた研磨布上に供給されるとともに、あふれ出した研磨剤組成物が容器に戻される、いわゆる循環供給方式によって、繰り返し用いられた。
そして、上述のように基板の表面をポリッシングしつつ、研磨時間が1時間経過するごとに、マイクロメータ(ミツトヨ社製、測定精度:1μm)を用いて基板の厚みを測定し、それにより、1時間ごとの研磨速度(μm/hr)を求めた。表2には実施例1~10及び比較例1~2でのタンタル酸リチウム単結晶基板の研磨試験結果を示す。表3には実施例11~20及び比較例3~4でのニオブ酸リチウム単結晶基板の研磨試験結果を示す。
Figure 0007440326000002
Figure 0007440326000003
(キャリア鳴きの判定)
研磨開始直後より研磨終了までの間において、研磨試験機の回転する定盤やキャリア周辺から発生する音を以下に従って評価し、キャリア鳴きの発生の有無を判定した。
〇:研磨時の通常の摺動音が認められる。
△:摺動音ではないキュッキュという摩擦音が認められる。
×:ガリッガリという強い摩擦音が認められる。
(基板の平坦性評価)
基板の中心部及び円周部の4点、計5点の厚みをマイクロメータで測定し、基板の平均厚みを計算する。基板の平均厚みと各点の厚み差を以下の基準で分類し、平坦性を評価した。
〇:基板の平均厚みと各点の厚みの差が1%未満である。
△:基板の平均厚みと各点の厚みの差が1~1.5%の範囲である。
×:基板の平均厚みと各点の厚みの差が1.5%以上である。
(研磨速度の評価)
基板がタンタル酸リチウム単結晶基板の場合、水溶性高分子化合物を用いない比較例1の値を基準として、基板がニオブ酸リチウム単結晶基板の場合、水溶性高分子化合物を用いない比較例3の値を基準としてそれぞれ評価した。
○:比較例1(または比較例3)よりも研磨速度が大きい(=研磨速度の向上)。
△:比較例1(または比較例3)と研磨速度が同じ。
×:比較例1(または比較例3)よりも研磨速度が小さい(=研磨速度の低下)。
(考察)
表2の結果から、タンタル酸リチウム単結晶基板の研磨において、本発明の効果は明らかである。実施例1と比較例1、2との対比から、カルボン酸基単量体とスルホン酸基単量体を必須単量体とする共重合体を添加することにより、研磨速度が向上し、平坦性も向上し、キャリア鳴きが抑制されることがわかる。具体的には、比較例1の平坦性の評価が“△”及び比較例2の平坦性の評価が“×”であるのに対し、実施例1は“○”であり、キャリア鳴きの評価も比較例1が“×”及び比較例2が“△”であるのに対し、実施例1は“○”であった。また、比較例1の研磨速度が28.4μm/hrであるのに対し、実施例1の研磨速度は32.0μm/hrであり、研磨速度の向上が認められる。
実施例2は実施例1において、使用する酸を無機酸からキレート性の有機酸に変更した結果であるが、研磨速度が34.1μm/hrであり、実施例1よりも向上している。
実施例3~6は実施例2に対して、共重合体の組成と重量平均分子量を変更した場合の結果である。これらの場合であっても、比較例1及び比較例2に対して、研磨速度、平坦性、及びキャリア鳴きの評価のいずれに対しても向上が認められる。
実施例7~10は実施例2に対して、シリカ砥粒を小粒径シリカ粒子と大粒径シリカ粒子の組み合わせにした場合の結果であるが、研磨速度がいずれも実施例2よりも向上している。
更に、表3の結果から、ニオブ酸リチウム単結晶基板の研磨においても、本発明の効果は明らかである。実施例11と比較例3、4の対比から、カルボン酸基単量体とスルホン酸基単量体を必須単量体とする共重合体を添加することにより、研磨速度が向上し、平坦性も向上し、キャリア鳴きが抑制されることがわかる。具体的には、比較例3の平坦性の評価が“△”及び比較例4の平坦性の評価が“×”であるのに対し、実施例11は“○”であり、キャリア鳴きの評価も比較例3が“×”及び比較例4が“△”であるのに対し、実施例11は“○”であった。また、比較例3の研磨速度が58.0μm/hrであるのに対し、実施例1の研磨速度は63.2μm/hrであり、研磨速度の向上が認められる。
実施例12は実施例11において、使用する酸を無機酸からキレート性の有機酸に変更した結果であるが、研磨速度が69.8μm/hrであり、実施例11よりも向上している。
実施例13~16は実施例12に対して、共重合体の組成と重量平均分子量を変更した場合の結果である。これらの場合であっても、比較例3及び比較例4に対して、研磨速度、平坦性、及びキャリア鳴きの評価のいずれに対しても向上が認められる。
実施例17~20は実施例12に対して、シリカ砥粒を小粒径シリカ粒子と大粒径シリカ粒子の組み合わせにした場合の結果であるが、研磨速度がいずれも実施例12よりも向上している。
以上のことから、カルボン酸基単量体とスルホン酸基単量体とを必須単量体とする共重合体を含む研磨剤組成物を用いて、タンタル酸リチウム単結晶基板またはニオブ酸リチウム単結晶基板の研磨を行うことにより、研磨速度が向上し、平坦性も向上し、キャリア鳴きが抑制されることがわかる。
本発明の研磨剤組成物は、タンタル酸リチウム単結晶材料、ニオブ酸リチウム単結晶材料の研磨に用いることができる。

Claims (6)

  1. シリカ粒子、水溶性高分子化合物、及び水を含有し、
    前記水溶性高分子化合物は、
    少なくともカルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、
    前記カルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位と前記スルホン酸基を有する単量体に由来する構成単位のモル比が95:5~5:95の範囲であり、
    前記水溶性高分子化合物の重量平均分子量が1,000~5,000,000である、
    タンタル酸リチウム単結晶材料またはニオブ酸リチウム単結晶材料を研磨加工するための研磨剤組成物。
  2. 前記シリカ粒子は、
    平均粒子径10~60nmの小粒径シリカ粒子と、
    平均粒子径70~200nmの大粒径シリカ粒子と
    を含み、
    前記小粒径シリカ粒子及び前記大粒径シリカ粒子の合計質量に対する前記小粒径シリカ粒子の質量の割合が50~95質量%である請求項1に記載の研磨剤組成物。
  3. 前記カルボン酸基を有する単量体は、
    アクリル酸またはその塩、及び、メタクリル酸またはその塩から選ばれる請求項1または2に記載の研磨剤組成物。
  4. 前記スルホン酸基を有する単量体は、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、及びこれらの塩から選ばれる請求項1~3のいずれか一項に記載の研磨剤組成物。
  5. 無機酸及び/またはその塩、有機酸及び/またはその塩、及び、塩基性化合物の少なくも一種類を更に含有する請求項1~4のいずれか一項に記載の研磨剤組成物。
  6. 前記有機酸及び/またはその塩は、キレート性化合物である請求項5に記載の研磨剤組成物。
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