JP7427934B2 - 嵩高糸 - Google Patents

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Description

本発明は、嵩高性を有した嵩高糸に関するものである。
合成繊維の新技術は、天然素材の模倣をモチベーションのひとつとして技術革新がなされてきたといっても過言でなく、天然素材の複雑な構造形態に由来した機能を発現させるために、様々な技術的提案がなされている。
羽毛は、そのバランスに優れた特性から布団や枕などの寝装寝具や防寒具等の衣料品などといった幅広い製品に用いられており、高機能中綿としての確固たる地位を築いている。
一方、合成繊維ならではの機能性や安定供給が訴求点となる合繊中綿に関しても、多くの技術提案がある。しかしながら、嵩高性や圧縮回復性といった力学特性と、羽毛独特の柔軟な風合いを両立することの難度は高く、羽毛と見間違う程度の模倣を達成した例は数少ない。
例えば、羽毛独特の嵩高性および圧縮回復性は、素材特性や構造に起因しており、合繊中綿においては、撚糸や各種の流体加工等によって、加工糸軸方向に対して垂直方向に繊維を突出させた嵩高い形態を有した加工糸とすることで、嵩高性を付与する方法が採用されている。
これら合繊中綿を用いることにより、羽毛製品の課題であった側地からの綿抜けが抑制され、製品に使用できる側地の選択肢が広がったことに加え、家庭洗濯も容易な製品の提供が可能となり、合繊中綿製品の優れた点として訴求されるようになってきた。
しかしながら、比較的目付の大きい側地に充填した場合には、製品の厚みが薄くなることがあり、合繊中綿内の空気保持量が少なくなり、保温性が不十分となることが課題となっていた。
例えば、特許文献1では、強力を担う芯糸と、優れた風合いを目的とした鞘糸を、芯糸のフィード率3から30%、鞘糸のフィード率5から50%でタスラン加工を行い、引裂強力に優れながら、表面は非常に柔軟な風合いを有する織物を得るための強力タスラン加工糸に関する技術が開示されている。
しかしながら、特許文献1は、芯糸に対する鞘糸のフィード差は最大でも1.5倍未満であるために嵩高性は低く、中綿として用いるには嵩高性が不十分である。
また、特許文献2では、タスランノズル等の混繊交絡ノズルを使用して、芯糸に対して鞘糸を25%以上オーバーフィードして加工を行い、布帛表面の微細ループにより柔らかな肌触りを有した衣料用布帛を得るためのループヤーンに関する技術が開示されている。
特許文献2は、芯糸に対する鞘糸のフィード差の上限に関して記載はないが、鞘糸は柔軟性を担う衣料用のポリエチレンテレフタレート繊維であるため、芯糸に対する鞘糸のフィード差は最大でも3倍であり、ループは突出していても中綿として嵩高性を維持するには不十分である。
特許文献3では、供給速度を変更した2種類の糸条をノズル内で直接高圧エアーを吹き付けることより、2種類の糸条を単糸毎に開繊・撹乱して交絡処理を施し、供給速度の高い側の糸条からなるループを形成させた嵩高糸が開示されている。
特許文献3によれば、特許文献1や特許文献2のような加工糸よりも嵩高い加工糸が得られるものの、加工ノズル内で高圧エアーを受けて混繊交絡することによりループが折れ曲がったり破断したりするため、中綿として用いた場合に側地から破断繊維が抜けやすく、ニット等の組織の粗い側地を適用することは困難であった。
これらの従来技術に対し、我々は特許文献4において、3次元的な捲縮構造を有する鞘糸、および該鞘糸との交錯で鞘糸を固定している芯糸からなり、前記鞘糸が、実質的に破断しておらず、連続的にループを形成している、合成繊維からなる嵩高糸を提案している。特許文献4は、特許文献1~3に示す技術よりも大ループ形状を有することで嵩高性および圧縮回復性に優れ、嵩高性を担う鞘糸ループに破断部が無いことにより、側地からの糸端の飛び出しを抑制でき、ニット側地などの組織の粗い側地にも好適に使用することができるものである。しかしながら、ニットなどの目付の大きい側地に充填した場合には、目付の小さい羽毛製品用側地を使用した場合と比べて嵩高性が不十分となる課題のあることがわかり、高荷重下においても優れた嵩高性を発揮できることが必要であった。
特開2005-281918号公報 特開2005-146455号公報 特開2012-67430号公報 WO2017/014241
合繊中綿において、羽毛に匹敵する嵩高性を有し、かつ比較的目付の大きい側地に充填した場合でも、十分な嵩高性を発揮できる素材が求められていた。
本発明者らは、合繊中綿において、高荷重下においても優れた嵩高性を発揮できる素材とするために鋭意検討を行い、これを可能とする嵩高糸を見出したものである。
すなわち、本発明は以下の手段による。
(1)ループを形成する鞘糸と、鞘糸と交錯することで実質的に鞘糸を固定する芯糸から構成された嵩高糸であり、芯糸と鞘糸との交錯点が、嵩高糸の繊維軸方向に1.0個/mmから30.0個/mmで存在しており、鞘糸の破断点が0.2個/mm未満である連続的なループを形成しており、少なくとも鞘糸が、初期引張抵抗度が100cN/dtex以上の繊維で構成されていることを特徴とする嵩高糸。
(2)芯糸に対する鞘糸の糸長差が、1.5倍以上であることを特徴とする(1)に記載の嵩高糸。
(3少なくとも鞘糸を構成する繊維の初期引張抵抗度が150cN/dtex以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載の嵩高糸。
)少なくとも鞘糸を構成する繊維が、液晶ポリエステル繊維であることを特徴とする(1)から()のいずれかに記載の嵩高糸。
)芯糸および鞘糸が液晶ポリエステル繊維であることを特徴とする(1)から()のいずれかに記載の嵩高糸。
)(1)から()のいずれかに記載の嵩高糸を少なくとも一部に含む繊維製品。
本発明の嵩高糸は、高荷重下においても優れた嵩高性を発揮でき、また、繰り返し圧縮したり、家庭用洗濯機で繰り返し洗濯を行った後においても、嵩高性が長期的に維持可能となる。
このため、従来の課題であるニットなどの目付の大きい側地に充填した場合でも、繰り返し圧縮や洗濯による嵩高性の経時的な低下を抑制し、優れた嵩高性や圧縮回復性といった特性を長期にわたって発揮することができる保温用中綿に適した嵩高糸を提供することができる。
本発明の嵩高糸の一例の概略側面図 加工糸中心線測定方法を説明するための模擬図 本発明の嵩高糸の製造方法の一例を模式的に示す概略工程図 本発明の製造方法に用いるサクションノズルを説明するための概略側面図
以下、本発明を望ましい実施形態とともに詳述する。
本発明の嵩高糸はマルチフィラメントを加工して得られるものであり、嵩高糸および嵩高糸製造途中の材料を「加工糸」と表現することがある。
本発明の嵩高糸は合成繊維により構成されていることが好適である。
ここで言う合成繊維とは、高分子ポリマーからなる繊維であり、溶融紡糸や溶液紡糸などで製造した熱可塑性ポリマーからなる繊維を採用することができる。該繊維は、単独繊維であっても繊維断面に2成分以上ポリマーが配置された複合繊維であっても良い。
これ等の繊維を構成する熱可塑性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートあるいはその共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリ乳酸、熱可塑性ポリウレタンなどの溶融成形可能なポリマーが挙げられる。これ等の熱可塑性ポリマーの中でも、ポリエステルやポリアミドに代表される重縮合系ポリマーは、結晶性を有し、比較的高い融点を有しているため、後加工等における熱処理工程及び実使用(クリーニングなど)の際に比較的高い温度で加熱された場合でも嵩高糸が劣化やヘタリを起こすことなく好適な例として挙げられる。この耐熱性という観点では、特にポリマーの融点が165℃以上であると好ましい。
これらの熱可塑性ポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲で酸化チタン、シリカ、酸化バリウムなどの無機物質、カーボンブラック、染料や顔料などの着色剤、難燃剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、あるいは紫外線吸収剤などの各種添加剤を含んでいても良い。
本発明の嵩高糸は、少なくとも鞘糸が、初期引張抵抗度が100cN/dtex以上の繊維で構成されていることにより、高荷重下でも優れた嵩高性を発揮することができる。
この観点から、鞘糸の初期引張抵抗度は150cN/dtex以上の繊維であることがより好ましく、このような繊維としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維や液晶ポリエステル繊維等の高弾性率繊維が挙げられる。
中でも、液晶ポリエステル繊維を用いることで、鞘糸本数が少なくても大きな排除体積が得られ、かつ高荷重下でも優れた嵩高性を発揮し易くなるため特に好ましい。この液晶ポリエステル繊維は、紡糸して採取したものをそのまま用いても良いし、紡糸して得た繊維をさらに不活性雰囲気で熱処理することにより固相重合して力学特性を向上させた液晶ポリエステル繊維を用いることもできる。
本発明の嵩高糸は、後述するように、流体加工ノズル外で芯糸の周りに鞘糸を旋回させて芯糸と鞘糸を絡合させたものであり、このような加工方法を採用することにより、タスランノズルやインターレースノズルのようなノズル内で芯糸と鞘糸を混繊交絡加工する従来の流体加工方法では実現不可能であった液晶ポリエステル繊維等の高弾性率繊維の流体加工が可能となったものである。
本発明の嵩高糸においては、鞘糸に加えて芯糸も液晶ポリエステル繊維とすることができ、衣料や寝具の中綿としての使用に加え、産業資材としての断熱材等、より高温環境で使用する素材としても適用可能である。特に、断熱材として広く用いられている不織布シート材やフォーム材等の高密度素材に比べて、軽量性に優れた断熱材を提供することが可能となる。
本発明の嵩高糸は、ループを形成している鞘糸(図1の1)と、当該鞘糸と交錯することで鞘糸を固定している芯糸(図1の2)から構成される。
本発明の嵩高糸の構造を図1及び図2に示された加工糸の例示を用いて説明する。
本発明の芯糸は、鞘糸と交錯することにより鞘糸からなるループを固定する軸となるため、加工糸の中心に存在する。すなわち、図2に示した一対の糸道ガイド4の間に定長で加工糸を糸かけした場合の糸道ガイド4を結んだ直線を加工糸中心線3とした場合に、この加工糸中心線3からの距離5が0.6mmまでの範囲に存在するものである。
本発明の鞘糸は、加工糸の中心から外層に向けて放射状にループを形成して存在するものであり、芯糸と交錯することによってループが自立し、加工糸の嵩高性を担う嵩高構造部を構成するものである。鞘糸からなるループが自立して外層に突出しているほど加工糸の嵩高性が高まることは言うまでもないが、本発明においては、図2に示した加工糸中心線3から鞘糸からなるループの頂点までの距離5、すなわちループの大きさは1.0mm以上であることが好適である。
ここで言うループの大きさとは、一対の糸道ガイド4に定長で糸掛けした嵩高糸を側面から観察し、この観察した画像から測定する。無作為に選んだ1本の嵩高糸について、嵩高糸に形成されている10個以上のループが観察できるように撮影し、画像中のループ10個で加工糸中心線3からループ頂点までの距離5を測定したものである。
本発明において、ループを形成する鞘糸は実質的に破断されていない、特にループの途中で実質破断していないことが好ましく、ニット等の組織の粗い側地に適用しても側地からの繊維の飛び出しを抑制された製品を提供することができる。また、嵩高性を担うループが途中で破断していないことにより、不要な絡み合いを起こさないことで洗濯による嵩高性や風合いの低下を抑制するとともに、洗濯することで側地の目が開いた場合にも、側地からの繊維の飛び出しを抑制することが可能となる。そのため、側地から突出した繊維に引っかかる等の使用時の不快感を抑制するとともに、中綿の充填量を維持し、嵩高性保持に対しても有効に作用する。
ここで言うループの破断の判定は、鞘糸および芯糸からなる加工糸1本から無作為に選出した10箇所において、それぞれ芯糸と鞘糸の交錯点から次の交錯点まで(すなわちひとつのループ)が加工糸の長手方向に10箇所以上確認できる倍率で撮影、観察して判定する。該撮影画像10枚において、各々10個のループについて嵩高糸1ミリメートル当たりの鞘糸の破断点をカウントする。カウントされたループの破断点を平均し、小数点第2位を四捨五入することでループの破断点(個/mm)とした。ここで計100個のループの平均で、破断点が0.2個/mm未満であることが本発明の言う鞘糸が実質的に破断していない状態を指す。係る範囲であれば、糸端が自由になった鞘糸が加工糸内に存在しないため、本発明の効果を良好に発揮することができる。
本発明の嵩高糸に用いる繊維は、芯糸も鞘糸も丸、扁平、三角、Y、多葉、中空等のいずれの断面形状でも良いが、嵩高性を高めるためには、剛性が高く、かつ軽量化しやすい断面形状を採用することが好ましい。
本発明の嵩高糸は、芯糸および鞘糸が適度な剛性を有した繊維により構成されていることが好適であり、嵩高糸を構成する合成繊維の単繊維繊度は3.0dtex以上であることが好ましい。
ここで言う繊度とは、求めた繊維径、フィラメント数および密度から算出した値、または繊維の単位長さの重量を複数回測定した単純な平均値から、10000m当たりの質量を算出した値を意味する。
本発明の嵩高糸を中綿として用いた場合には、繰り返し圧縮および回復等の変形を加えられることとなるため、構成繊維の剛性が高いほど圧縮回復性にも優れることから、単繊維繊度が6.0dtex以上であることがより好ましい。また、鞘糸の単繊維繊度に関しては、本発明の嵩高糸の圧縮変形量を大きくする観点でも、鞘糸ループを大きくして圧縮される前の初期嵩高を高めることが有効であり、鞘糸に用いる繊維の単繊維繊度に関しては、9.0dtex以上とすることがさらに好ましい。
本発明の嵩高糸は、後述する流体加工において、サクションノズルに供給された芯糸と鞘糸を接触させることなく気流とともにノズル外に噴射し、ノズル外で生じた旋回気流によって芯糸の周りに鞘糸を旋回させて鞘糸ループを形成させたものであるが、本発明の嵩高糸の鞘糸は、初期引張抵抗度、すなわち剛性の高い繊維であるために、当該箇所で旋回する範囲が大きくなりやすい。そのため、鞘糸のフィラメント数は24フィラメント以下とすることが好ましい。また、鞘糸の単繊維を十分に開繊させ、かつ旋回中に鞘糸単繊維同士の不要な絡みを抑制して、鞘糸ループを芯糸軸方向にムラなく形成させるためには、12フィラメント以下であることがより好ましい。
本発明の嵩高糸の形態効果をより顕著にさせるためには、芯糸及び鞘糸の糸長差を考慮することが好適である。
ここで、鞘糸からなるループの形状は、一般的な混繊交絡により形成されるアーチ型ループよりも、クルノーダル型ループ(涙滴形状)であることが好ましい。アーチ型ループの場合には、芯糸と鞘糸の交錯点が固定されておらずループがある程度自由に移動するという特徴を有するので、この糸に圧縮変形を加えた場合には、交錯点が移動する。そのため、圧縮変形後には元の形状に戻りにくく、嵩高性の耐久性という観点で不利になる場合がある。一方、クルノーダル型ループの場合には、芯糸との交錯点において、ループがほぼ固定されている。そのため、圧縮変形後も鞘糸のループが元の形状に復帰しやすく、嵩高性を持続的に発揮するにはこの形状が好適である。
本発明の嵩高糸の鞘糸は、初期引張抵抗度、すなわち剛性の高い繊維であり、このような繊維を鞘糸に用いた場合にクルノーダル型ループを形成するためは、芯糸に対する鞘糸の糸長差を1.5倍以上とすることが好ましい。
糸長差が大きいほど、本発明の目的である嵩高性を高め、熱伝導率が低い空気を嵩高糸の内部に保持しやすくなり、中綿としての保温性が高まる傾向にあるが、安定的に本発明の嵩高糸を取り扱うことのできる範囲として、芯糸に対する鞘糸の糸長差は、実質的な上限は100倍である。
また、糸長差が大きくなると、嵩高性に寄与し難いループも生じやすくなることから、芯糸に対する鞘糸の糸長差は5~70倍であることがより好ましい。さらには、流体加工に引き続いて実施する後加工の工程通過性等の観点から、ループの大きさが揃っているほうが、工程ロール等への引っ掛かりを抑制できる。このため、芯糸に対する鞘糸の糸長差は、10~50倍とすることがさらに好ましい。
この糸長差は、デジタルマイクロスコープ等によって嵩高糸を2次元的に観察できる倍率で撮影した画像を用い、評価することができる。嵩高糸から無作為に選出した10箇所において、各々の芯糸及び鞘糸の長さをミリメートル単位で小数点第2位までを測定する。それぞれの画像において、鞘糸長さを芯糸長さで除することでそれぞれの糸長差を算出し、嵩高糸の10箇所の単純平均の小数点第2位以下を四捨五入した値を糸長差とする。なお、該糸長差は後述する製造方法において、芯糸及び鞘糸のサクションノズルへの供給速度比に相当し、この速度を調整することで所望の糸長差で嵩高構造を設計することが可能であり、簡易的にはこれを各糸長差と見なすこともできる。
本発明の嵩高糸において、鞘糸ループの耐ヘタリ性、嵩高性の維持という観点では、鞘糸ループの基点となる芯糸との交錯点は、繊維軸方向に適度な周期で存在することが好適である。このため、本発明においては、芯糸と鞘糸の交錯点は、芯糸の繊維軸方向で1.0個/mm~30.0個/mmで存在することが好ましい。係る範囲であれば、鞘糸からなるループがそれぞれ自立した構造を形成し、嵩高構造の形態安定を担保する周期でループが存在していることを意味する。この観点を推し進めると、該交錯点は5.0個/mm~15.0個/mmで存在することがより好ましい。ここで、芯糸および鞘糸の判別、交錯点や単位長さあたりのループの個数を嵩高糸の糸長手方向に連続的に評価するには、光電型の毛羽検知装置を活用することができる。例えば、光電型毛羽測定機(TORAY FRAY COUNTER)を用い、糸速度10m/分、走行糸張力0.1cN/dtexの条件で、加工糸中心線からの距離0.6mmならびに1.0mmを評価することにより可能である。
本発明の嵩高糸において、嵩高糸を合糸した際の嵩高糸間の絡み合いを抑制する観点から、繊維間静摩擦係数が0.3以下であることが好ましい。ここで言う繊維間静摩擦係数とは、レーダー式摩擦係数試験機により、JIS L1015(2010年)「化学繊維ステープル試験方法」の「摩擦係数」に記載された方法に準じて測定するものである。なお、当該JISはステープルを目的としているため、測定にあたっては開繊等の前作業を行うことを規定しているが、本発明での測定では、開繊等の処理は行わず、嵩高糸を円筒スライバーに平行に並べることで評価できる。
本発明の嵩高糸において、圧縮および回復の繰り返しによる鞘糸ループの絡み合いの発生、中綿として用いた場合の洗濯による中綿の偏り発生を抑制するという観点から、繊維間静摩擦係数は低い方が好適であり、0.2以下であることがより好ましく、0.1以下であることがさらに好ましい。
本発明の嵩高糸は、繊維巻き取りパッケージやトウ、カットファイバー、わた、ファイバーボール、コード、パイル、織編、不織布など多様な繊維構造体とし、様々な繊維製品とすることが可能である。ここで言う繊維製品は、一般衣料から、スポーツ衣料、衣料資材、カーペット、ソファー、カーテンなどのインテリア製品、カーシートなどの車輌内装品、化粧品、化粧品マスク、ワイピングクロス、健康用品などの生活用途やフィルター、有害物質除去製品などの環境・産業資材用途に使用することができる。特に本発明の嵩高糸は、高荷重下においても優れた嵩高性や圧縮回復性を兼ね備え、繰り返しの圧縮や洗濯耐久性にも優れているため、特に、一般衣料と同様に、圧縮収納や家庭洗濯する機会の多い製品の中綿として使用することが好適である。
また、中綿は側地に充填されることから、本発明の嵩高糸を数本から数十本合糸した糸束とすることや、不織布などのシート状物にすることにより、充填時のハンドリング性に優れた素材を提供することができ、嵩高糸を合糸した糸束とする場合、中綿としての全体的な柔軟性と嵩高性を調整するために、特許文献4の技術による嵩高糸と適宜合糸して中綿を構成し、使用することもできる。
以下、本発明の嵩高糸の製造方法の一例を説明する。
本発明の嵩高糸に用いられる繊維は、熱可塑性ポリマーを公知の方法により溶融紡糸して繊維化した合成繊維を用いればよい。
本発明の嵩高糸において、芯糸や鞘糸に用いる合成繊維の断面形状に関して、いずれの形状を有するものであっても良い。紡糸口金における吐出孔の形状を変更することで、一般的な丸断面、三角断面、Y型、八葉型、偏平型などや多葉型や中空型など不定形なものにすることもでき、単独のポリマーからなる単成分繊維や、2種類以上のポリマーからなる複合繊維であっても良い。
次に、紡糸して得られた繊維から嵩高糸を製造する方法の一例を説明する。
ここで例示する嵩高糸の製造方法は、大きく2つの工程からなる。第1工程が流体により芯糸と鞘糸とを交錯させ、鞘糸からなるループを形成させる嵩高加工工程である。第2工程が嵩高加工された糸条を熱処理することにより、嵩高糸の構造を固定する熱処理工程である。
本発明の嵩高糸の製造方法の一例を、図3の概略工程図および図4のサクションノズルの概略側面図に基づいて説明する。この第1工程では、原料となる合成繊維14、15はニップローラなどを有した供給ローラ13により規定量引き出され、圧空の噴射が可能なサクションノズル6によって、芯糸及び鞘糸として吸引される。
このサクションノズルでは、ノズルから噴射する圧縮空気の流量は、供給ローラからノズルに挿入する糸条が必要最低限の張力を有し、供給ローラからノズルの間及びノズル内で糸揺れ等を起こさず安定的に走行する流量を噴射することが好適である。この流量は、使用するサクションノズルの孔径により最適量が変化するが、糸張力を付与でき、後述するループの形成が円滑にできる範囲としては、ノズル内での気流速度が100m/s以上であることが目安となる。この気流速度の上限値の目安は、700m/s以下とすることであり、係る範囲であれば、過剰に噴射された圧空により、走行糸条が糸揺れ等を起こすことなく、安定的にノズル内を走行することになる。
また、このサクションノズル内での加工糸の撹乱、開繊を予防するという観点から、圧縮空気の噴射角度16は、走行糸条に対して60°未満で噴射する推進ジェット流とすることが好ましい。これは高い生産性で、鞘糸によるループ形成を均質に行うことができるからである。当然、走行糸条に対して90°に流体を噴射する垂直ジェット流による加工でも本発明の嵩高糸を製造することは不可能ではないが、垂直方向からのジェット流噴射によるノズル内での走行糸条の開繊、及び単糸同士の絡み合いを抑制するという観点から推進ジェット流による加工が好ましい。この推進ジェット流による加工は、垂直ジェット流の場合に形成しやすいアーチ型の小ループが短周期で形成することも抑制できる。
本発明の嵩高糸の繊維構成においては、垂直ジェット流で加工した場合、芯糸および鞘糸が混繊交絡することとなり、本発明の嵩高糸に近い形態を形成することは不可能ではないが、ループの糸切れや折れ曲がりを防ぐことが非常に困難である。そのため、本発明においては、推進ジェット流を用いた加工が適しており、中綿として使用した場合の製品欠陥や嵩高性不足につながる鞘糸ループの糸切れや折れ曲がりが抑制された嵩高糸を形成することが可能となるものである。
本発明の嵩高糸に必要となる鞘糸ループを安定して形成するには、サクションノズル内で撹乱や開繊を施さないことが好適である。一桁本数から二桁本数の糸からなるマルチフィラメントをノズル内では開繊させずに走行させるという観点では、圧縮空気の噴射角度が、走行糸条に対して45°以下であることがより好ましい。また、ノズル外でループを形成させる点では、ノズル直後の噴射気流の安定性及び推進力が高いことが好適であり、この観点から、噴射角度が走行糸条に対して20°以下であることが特に好ましい。
本発明の嵩高糸の製造に用いる上記サクションノズル条件は、糸条を開繊させることなくノズル内を走行させることが可能であり、導入する糸条の本数を増やした場合にもノズル内で糸条の絡まりは抑制できる。
本発明の目的を達成する嵩高糸の嵩高加工工程を多錘化し、合糸まで連続して製造するにあたり、多数存在するパラメータを緻密に制御する必要が生じる。嵩高加工工程を多錘化した場合には、錘毎に嵩高糸の嵩高性が異なるものになるという可能性があるため、後述するノズル外の気流制御を活用した手法を採用することが、品質の安定性を確保し易くなるため好適である。
次に、圧縮空気が付与された糸条をノズル外で旋回させ、鞘糸ループを形成させる工程となる。これはノズルから噴射されたある位置で供給された糸を旋回させることで、本発明の目的を達成するループを形成するというコンセプトを着想したものであり、気流速度と糸速度の比(気流速度/糸速度)が100~5000にある場合に、前記嵩高構造の形成が達成されやすくなる。
ここでの気流速度とは、サクションノズル出口から走行糸条とともに噴射された気流の速度を意味する。気流速度はノズル吐出口の断面積と圧縮空気の流量により制御可能である。また、糸速度は、サクションノズルを出た後に、糸を引き取る引取ローラ9の周回速度等により制御することが可能である。
鞘糸の旋回力は、気流速度と糸速度の速度比に依存して増減するため、芯糸との交錯点による鞘糸ループの固定を強固にする場合には、この速度比を5000に近づければよいし、交錯点を緩慢にしたい場合には逆に100に近づければよく、本発明の嵩高糸を用いる用途に合わせて適宜調整すればよい。この速度比は、例えば、圧縮空気の流量を間歇的に変化させ、あるいは引取ローラの速度を変動させることで、交錯点の周期に変化を持たせることも可能である。
この旋回力が発現するのは、随伴していた気流が走行糸条を離脱したところである。そこで糸道を変更する旋回点7を配置する。具体的には、バーガイド等で糸道を変更することで良く、糸条を規定の速度で引き取ることにより、芯糸に旋回した鞘糸が芯糸との交錯点を起点にループを形成する。この旋回を起こすためのスペースとノズルから噴射された気流の拡散を利用した鞘糸の振動によるほぐれを得るという観点から、走行糸条の旋回点は、ノズル吐出口から離れた位置にあることが好適である。ただし、本発明の嵩高糸を製造するために適したノズル-旋回点間の距離は噴出した気流速度により変化するものである。気流の拡散とのバランスで適度な周期で芯糸と鞘糸との交錯点を形成させるために、ノズル-旋回点間の距離は、噴出気流が適度な旋回力を保つことができる1.0×10-5~1.0×10-3秒間走行する間に旋回点7が存在することが好ましく、2.0×10-5~5.0×10-4秒間走行する間に旋回点7が存在することがより好ましい。
この旋回点の位置を調整することで、芯糸に対する鞘糸の旋回数や交錯点の周期を制御することもできるが、前述した通り、本発明の嵩高糸は、初期引張抵抗度、すなわち剛性の高い繊維であるために、当該箇所で鞘糸が旋回する範囲が大きくなりやすい。そのため、鞘糸のフィラメント数調整も含めて、芯糸に対する鞘糸の旋回数や交錯点の周期を制御することが好ましい。
本発明の嵩高糸は、剛性の高い繊維を鞘糸に用いていることが特徴であり、剛性の高い繊維は、引張試験による破断伸度が低く、繊維表面も硬い傾向にあるため、鞘糸をパッケージから引き出す際の繊維間における擦過や、ロールやノズル入口等への擦過で繊維表面に傷がつき易い。また、ノズル入口に接触した際の衝撃によって鞘糸が揺れ、供給ロールから外れるといった生産トラブルも発生し易くなる。そのため、加工速度を低めにすることが本発明の嵩高糸を加工するうえで重要であり、特に芯糸よりも供給速度の高い鞘糸の供給速度を低めに設定したうえで、芯糸と鞘糸の糸長差を制御することが好ましい。鞘糸の供給速度としては800m/min以下とすることが好ましく、500m/min以下であることがより好ましく、400m/min以下が更に好ましい。
鞘糸からなるループが形成された嵩高糸8は、引取ローラ9で引き取られ、形態固定や捲縮を発現させる等の目的で、一旦巻き取った後あるいは嵩高加工に引き続いて熱処理を施すことが好ましい。図3においては、嵩高加工に引き続き熱処理を行う加工工程を例示している。この熱処理は、例えばヒータ10によって行うものである。熱処理温度は、加工糸を構成する繊維に使用するポリマーのうち、結晶化温度が最も低いポリマーの結晶化温度±30℃がその目安となる。この温度範囲での処理であれば、ポリマーの融点から処理温度が離れているため、加工糸を構成する繊維間で融着して硬化した箇所はなく、異物感がなく、良好な触感を損ねることはない。この熱処理工程に用いるヒータは一般的な接触式あるいは非接触式のヒータを採用することができ、熱処理前の嵩高性や鞘糸の劣化抑制という観点では、非接触式のヒータの使用が好ましい。ここで言う非接触式のヒータとは、スリット型ヒータやチューブ型ヒータ等の空気加熱式ヒータ、高温蒸気により加熱するスチームヒータ、輻射加熱を利用したハロゲンヒータやカーボンヒータ、マイクロ波ヒータ等が該当する。
ここで加熱効率という観点から、輻射加熱を利用したヒータが好ましい。加熱時間に関しては、例えば、結晶化が進み加工糸を構成する繊維の繊維構造の固定、加工糸の形態固定及び鞘糸の捲縮発現が完了するための時間等を考慮することになり、処理温度及び時間を求められる特性に応じて調整するのがよい。熱処理工程が完了した加工糸はデリバリーローラ11を介して速度を規制し、張力制御機能を具備したワインダ12で巻き取ればよい。この巻き形状に関しては、特に限定されるものではなく、いわゆるチーズ巻きやボビン巻きとすることが可能である。また、最終的な製品への加工を考慮して、複数本を予め合糸し、トウとすることや、そのままシート化することも可能である。
本発明の嵩高糸は、熱処理工程前後でシリコーン系油剤を均一に付着させることが好ましい。ここで付着させるシリコーンは、熱処理などによって適度にシリコーンを架橋させることで、鞘糸及び芯糸にシリコーンの皮膜を形成させると良い。ここで言うシリコーン系油剤とは、ジメチルポリシロキサン、ハイドロジエンメチルポリシロキサン、アミノポリシロキサン、エポキシポリシロキサン等が例示され、これらを単独または混合して使用できる。また、嵩高糸の表面に均一に皮膜を形成するために、シリコーン付着の目的を損なわない範囲で、油剤に分散剤、粘度調整剤、架橋促進剤、酸化防止剤、防燃剤及び静電防止剤を含有させることができる。このシリコーン系油剤は無溶剤でも、溶液や水性エマルジョンの状態でも使用することもできる。油剤の均一付着という観点では、水性エマルジョンを使用することが好ましい。シリコーン系油剤は、油剤ガイド、オイリングローラまたはスプレーによる散布を利用して、質量比で嵩高糸に対して0.1~5.0%付着できるように処理することが好適である。その後任意の温度及び時間で乾燥し、架橋反応させることが好ましい。このシリコーン系油剤は、複数回に分けて付着させることも可能であり、同じ種類のシリコーンあるいは種類の異なるシリコーンを分けて付着させ、強固なシリコーン皮膜を積層させることも好適である。前述した処理により、嵩高糸にシリコーンの皮膜を形成させることで、嵩高糸の滑り性、風合いが増し、本発明の効果を更に引き立たせることができる。
以下実施例を挙げて、本発明の嵩高糸およびその効果について具体的に説明する。
実施例および比較例では、下記の評価を行った。
A.繊度
繊維の100mの質量を測定し、100倍することで繊度を算出した。これを10回繰り返し、その単純平均値の小数点第2位を四捨五入した値をその繊維の繊度(dtex)とした。
B.繊維(鞘糸)の初期引張抵抗度
嵩高糸のループを形成する部分から鞘糸を抜き出し、JIS L 1013(2010)に従い、オリエンテック社製引張試験機テンシロンUCT-100型を用い、試料長10cm、引張速度100%/分の条件で評価し、5回評価を行った平均値の小数点第1位を四捨五入した値を初期引張抵抗度(cN/dtex)とした。
C.嵩高性
電子天秤上に設置した容器で嵩高糸10gを計量し、計量した嵩高糸を内径が15cmの円筒容器に入れ、円筒内の断面積に対して0.15g/cmとなるよう重量調整した円形板を嵩高糸の上に載せ、1分間放置した後の嵩高糸の高さを測定し、小数点以下1桁目までを読み取って嵩高糸の高さL0とした。この高さから下記の式より、単位重量当たりの嵩高糸の体積(=嵩高性)を算出し、小数点以下1桁目を四捨五入して整数値とした。
嵩高性(cm/g)=円筒内の断面積×L0/嵩高糸の重量 。
D.高荷重時の嵩高性
嵩高性評価と同様にして嵩高糸を計量、円筒容器に充填し、円筒内の断面積に対して0.45g/cmとなるよう重量調整した円形板を嵩高糸の上に載せ、1分間放置した後の嵩高糸の高さを測定し、小数点以下1桁目までを読み取って高荷重時の嵩高糸の高さL0(h)とした。この高さから嵩高性の算出式により、高荷重時の嵩高性を算出し、小数点以下1桁目を四捨五入して整数値とした。
E.圧縮回復率
嵩高性評価と同様にして嵩高糸の高さL0を測定し、これを初期高さとした。次いで、3.0g/cmとなるよう円形板上に荷重を追加し、この荷重を負荷してから1分後の高さを圧縮高さL1とした。さらに、追加荷重を外して0.15g/cmの荷重に戻してから5分後の高さを圧縮回復高さL2とした。これらの測定高さは、いずれも小数点以下1桁目まで読み取り、下記式より嵩高糸の圧縮回復率を算出した。
圧縮回復率(%)=(L2-L1)/(L0-L1)×100
圧縮回復率は小数点以下1桁目を四捨五入して整数値とした。
F.芯糸と鞘糸の交錯点、ループの破断有無
試料となる加工糸にたるみが出ないように0.01cN/dtexの荷重をかけ、図2に例示されるように定長で一対の糸道ガイド4に糸掛けする。糸掛けした嵩高糸の側面を(株)キーエンス社製マイクロスコープVHX-6000にてループを10箇所以上が観察できる倍率で撮影した。この画像から無作為に選定したループ10箇所について、加工糸中心線3から1.0mm以上にループの頂点を形成する鞘糸が、加工糸中心線3から0.6mmに位置した直線と交差する点を交錯点とし、加工糸1ミリメートル当たりでカウントした。計10画像の交錯点(個/mm)を測定した平均値の小数点以下一桁目を四捨五入して整数値とした。
前記と同じ10画像において、各々10個のループについて加工糸1ミリメートル当たりでカウントした。嵩高糸1本あたり合計100個のループの破断点(個/mm)を測定し、平均値の小数点第2位を四捨五入した値をループの破断点(個/mm)とした。ここで破断点が0.2個/mm未満のものは、鞘糸が実質破断していない(各実施例、比較例の説明ならびに各表においては「無し」と記載)、0.2個/mm以上のものは、破断有り(各実施例、比較例の説明および各表においては「有り」と記載)と評価した。
実施例1
ポリエチレンテレフタレート(PET:IV=0.65dl/g、結晶化温度=150℃)を290℃で溶融後、ギアポンプで計量し、紡糸パックに流入させ、孔径φ0.30mmの吐出孔が同心円状に配置された紡糸口金から吐出した。吐出された糸条に20℃の冷却風を20m/minの流れで片側から吹き付けて冷却固化後、紡糸油剤を付与し、紡糸速度1500m/minで未延伸糸を巻き取った。引き続き、巻き取った未延伸糸を90℃と140℃に加熱したローラ間で延伸速度800m/minで延伸して得た80dtexの繊維を芯糸とした。
また、p-ヒドロキシ安息香酸単位54mol%、4,4’-ジヒドロキシビフェニル単位16mol%、イソフタル酸単位8mol%、テレフタル酸単位15mol%、ハイドロキノン単位7mol%からなる液晶ポリエステルを押出機で溶融して紡糸パックに供給し、吐出孔径φ0.13mm、孔深度0.26mm、12ホールの口金より紡糸温度340℃で吐出して、紡糸速度600m/minで巻き取った80dtexの繊維を鞘糸とした。
前記芯糸および鞘糸を図3に例示される工程にて、芯糸を供給ローラ速度20m/min、鞘糸を供給ローラ速度400m/minとして、サクションノズルに供給した。サクションノズルでは走行糸条に対して20°で気流速度400m/sとなるように圧空を噴射し、芯糸と鞘糸がノズル内で交錯しないように随伴気流とともにノズルから噴出させた。ノズルから噴射した糸条を気流と共に1.0×10-4秒間走行させ、セラミックガイドを利用して糸道を変更し、鞘糸からなるループを形成した嵩高糸を20m/minのローラで引き取った。連続して、ローラを介して該加工糸をチューブヒータに導き、150℃の加熱空気で10秒間熱処理し、嵩高糸の形態をセットした。該嵩高糸は、チューブヒータ後に設置された張力制御式巻取り機により、20m/minでドラムに巻き取った。
実施例1でドラムに巻き取った嵩高糸は、芯糸に鞘糸が旋回して巻き付いており、芯糸を軸として芯糸との交錯点を起点に鞘糸からなるループが形成された旋回加工糸であり、鞘糸からなる大ループが突出した嵩高い構造を有していた。また、該大ループが12個/mmの頻度で形成されており、ループサイズ、周期の均一性に優れるものであった。
引き続き、ドラムに巻き取った嵩高糸に、シリコーン系油剤を、最終的なシリコーンの付着量が嵩高糸の重量に対して1.0%となるようにスプレーで均一に散布し、温度160℃、処理時間5分の条件で熱処理を施して、本発明の嵩高糸を採取した。
該嵩高糸の特性は、嵩高性が624cm/g、高荷重時の嵩高性は605cm/gであり、高荷重時においても優れた嵩高性を有しており、圧縮回復率は92%で嵩高部の回復性にも優れるものであった。
また、鞘糸は、破断箇所が見られない連続したループを形成したものであり(破断箇所:0.0個/mm)、鞘糸に高剛性の繊維を用いているが、嵩高糸を束にして握った際の触感は柔軟であり、中綿素材としての使用に適したものであった。結果を表1に示す。
実施例2、3
鞘糸に用いる液晶ポリエステル繊度の品種を表1に示すように変更したこと以外は、全て実施例1に従い実施した。
実施例2は、鞘糸の品種を40T-12f、単糸繊度3.3dtexとしたものであり、実施例1と比較して軽量な嵩高糸としたものであるが、嵩高性および高荷重時の嵩高性は実施例1より少し低い程度であり、十分な圧縮回復性を有していた。また、ループの破断点もなく、鞘糸の単糸繊度が小さくなったことで、嵩高糸を束にして握った際の触感は実施例1よりも柔軟であった。結果を表1に示す。
実施例3は、鞘糸の品種を162T-12f、単糸繊度13.5dtexとしたものであり、実施例1と比較して大きなループを形成した。嵩高性および高荷重時の嵩高性は実施例1より高く、圧縮回復性も優れるものであった。また、ループの破断点もなく、鞘糸の単糸繊度が大きくなったことで、嵩高糸を束にして握った際の触感は実施例1よりも硬めであったが、柔軟性を有していた。結果を表1に示す。
実施例4
ポリエチレンテレフタレート(PET:IV=0.78dl/g)を295℃で溶融後、ギアポンプで計量し、紡糸パックに流入させ、孔径φ0.30mmの吐出孔が同心円状に配置された紡糸口金から吐出した。吐出された糸条に20℃の冷却風を20m/minの流れで片側から吹き付けて冷却固化後、紡糸油剤を付与し、紡糸速度1000m/minで未延伸糸を巻き取った。引き続き、巻き取った未延伸糸を90℃と140℃に加熱したローラ間で延伸速度600m/minで延伸して80dtexの繊維とし、これを鞘糸としたこと以外、全て実施例1に従い実施した。
実施例4は、鞘糸の初期引張抵抗度が110cN/dtexであり、高荷重時の嵩高性は実施例1よりは低いものの、通常荷重時の嵩高性との差異は比較的小さく、圧縮回復性に優れるものであった。また、ループの破断点もなく、嵩高糸を束にして握った際の触感についても柔軟性に優れるものであった。結果を表1に示す。
実施例5
2,6-ナフタレンジカルボン酸とエチレングリコールを重縮合して得たポリエチレンナフタレート(PEN:IV=0.78dl/g)を315℃で溶融後、ギアポンプで計量し、紡糸パックに流入させ、孔径φ0.45mmの吐出孔が同心円状に配置された紡糸口金から吐出し、紡糸油剤を付与した後、紡糸速度600m/minで未延伸糸を巻き取った。引き続き、巻き取った未延伸糸を90℃と150℃に加熱したローラ間で延伸速度500m/minで延伸して80dtexの繊維とし、これを鞘糸としたこと以外、全て実施例1に従い実施した。
実施例5は、鞘糸の初期引張抵抗度が160cN/dtexであり、高荷重時の嵩高性は実施例1よりは低いものの、実施例4より優れており、通常荷重時の嵩高性との差異も比較的小さく、圧縮回復性に優れるものであった。また、ループの破断点もなく、嵩高糸を束にして握った際の触感についても柔軟性に優れるものであった。結果を表1に示す。
実施例6
実施例1で鞘糸に用いた液晶ポリエステル繊維を芯糸にも用いたこと以外、全て実施例1に従い実施した。
実施例6は、芯糸も液晶ポリエステル繊維としているため、嵩高糸自体に弾力があり、嵩高性および高荷重時の嵩高性は実施例1より高く、優れた圧縮回復率を有していた。また、ループの破断点もなく、嵩高糸を束にして握った際の触感については、実施例1よりも硬めであるが、柔軟性を有したものであった。結果を表1に示す。
Figure 0007427934000001
比較例1
実施例1の芯糸に用いたポリエチレンテレフタレート繊維を鞘糸にも用いたこと以外は、全て実施例1に従い実施した。
比較例1は、嵩高く、優れた圧縮回復率を有していたが、高荷重時の嵩高性が劣るものであった。なお、ループの破断点は無く、嵩高糸を束にして握った際の触感については、実施例1より柔軟性に優れたものであった。結果を表2に示す。
比較例2
芯糸および鞘糸を比較例1と同様の構成とし、流体加工において圧空噴射角度を90°に変更したノズルを用い、セラミックガイドによる旋回点を設けないこと以外は、全て実施例1に従い実施した。但し、比較例2においては、実施例1と同様の圧空流量では、芯糸と鞘糸の絡み合いが過剰で、ノズル詰まりにより、安定した糸加工が困難であった。そのため、気流速度を実施例1の半分の200m/sに低下させたところ、糸の走行が可能となり、嵩高糸を採取して特性を評価することとした。
比較例2は、熱処理前の時点で鞘糸によるループサイズが実施例1と比較して小さく、非常に短周期で形成されていたため、嵩高性に乏しいものであり、高荷重時の嵩高性も同様に低いものであった。また、鞘糸ループのサイズに斑が見られ、破断点が比較的多く(破断有り:破断点0.3)、圧縮回復率も低くなった。結果を表2に示す。
比較例3
芯糸と鞘糸を実施例1の構成とし、比較例2と同様の流体加工ノズルを用いたこと以外は、全て実施例1に従い実施した。
比較例3は、ノズル詰まりにより安定した加工が困難であった。また、比較例2と同様に気流速度を調整していったが加工可能とはならなかった。加工検討後のノズルを確認したところ、鞘糸に用いた液晶ポリエステルが多数破断してノズル内に詰まっていることを確認した。結果を表2に示す。
比較例4
芯糸と鞘糸を実施例4の構成とし、比較例2と同様の流体加工ノズルを用いたこと以外は、全て実施例1に従い実施した。
比較例4もノズル詰まりにより安定した加工が困難であった。そのため、比較例2と同様に気流速度を調整し、気流速度を100m/sまで低下させたところ、糸の走行が可能となったため、嵩高糸を採取して特性を評価した。
比較例4は、気流速度を低くしても加工状態は不安定で、芯糸と鞘糸の交錯点が2個/mmと少なく、加工糸の形態斑が大きいものであり、通常荷重での嵩高性および高荷重時の嵩高性も低いものであった。また、鞘糸ループは、折れ曲がりや破断点が比較的多く(破断有り:破断点0.4)、圧縮後にループの形態が回復し難かったため、圧縮回復率が低くなった。結果を表2に示す。
Figure 0007427934000002
1 鞘糸
2 芯糸
3 加工糸中心線
4 糸道ガイド
5 加工糸中心線からループ頂点までの距離
6 サクションノズル
7 旋回点
8 嵩高糸
9 引取ローラ
10 ヒーター
11 デリバリーローラ
12 ワインダ
13 供給ローラ
14 芯糸
15 鞘糸
16 圧空の噴射角度

Claims (6)

  1. ループを形成する鞘糸と、鞘糸と交錯することで実質的に鞘糸を固定する芯糸から構成された嵩高糸であり、
    芯糸と鞘糸との交錯点が、嵩高糸の繊維軸方向に1.0個/mmから30.0個/mmで存在しており、
    鞘糸の破断点が0.2個/mm未満である連続的なループを形成しており、
    少なくとも鞘糸が、初期引張抵抗度が100cN/dtex以上の繊維で構成されていることを特徴とする嵩高糸。
  2. 芯糸に対する鞘糸の糸長差が、1.5倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の嵩高糸。
  3. 少なくとも鞘糸を構成する繊維の初期引張抵抗度が150cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の嵩高糸。
  4. 少なくとも鞘糸を構成する繊維が、液晶ポリエステル繊維であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の嵩高糸。
  5. 芯糸および鞘糸が液晶ポリエステル繊維であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の嵩高糸。
  6. 請求項1~請求項のいずれかに記載の嵩高糸を少なくとも一部に含む繊維製品。
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