本発明の嵩高糸はマルチフィラメントを加工して得られるものなので、嵩高糸および嵩高糸製造への途中の材料を「加工糸」と表現することがある。
本発明の嵩高糸は合成繊維により構成されていることが好適である。
ここで言う合成繊維とは、高分子ポリマーからなる繊維であり、溶融紡糸や溶液紡糸などで製造した熱可塑性ポリマーからなる繊維を採用することができる。該繊維は、単独繊維であっても繊維断面に2成分以上ポリマーが配置された複合繊維であっても良く、単独繊維を2成分以上束ねた混繊糸であっても良い。
これ等の繊維を構成する熱可塑性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートあるいはその共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリ乳酸、熱可塑性ポリウレタンなどの溶融成形可能なポリマーが挙げられる。これ等の熱可塑性ポリマーの中でも、ポリエステルやポリアミドに代表される重縮合系ポリマーは、結晶性を有し、比較的高い融点を有しているため、後加工等における熱処理工程及び実使用(クリーニングなど)の際に比較的高い温度で加熱された場合でも嵩高糸が劣化やヘタリを起こすことなく好適な例として挙げられる。この耐熱性という観点では、特にポリマーの融点が165℃以上であると好ましい。
これらの熱可塑性ポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲で酸化チタン、シリカ、酸化バリウムなどの無機質、カーボンブラック、染料や顔料などの着色剤、難燃剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、あるいは紫外線吸収剤などの各種添加剤を含んでいても良い。
本発明の嵩高糸は、ループを形成する鞘糸と、該鞘糸と交錯することで実質的に鞘糸を固定する芯糸とからなることを基本構成としており、芯糸に対してサイズの大きなループを形成する鞘糸が芯糸1あるいは芯糸2との少なくとも一方との交錯で固定されていることが必要となる。この3種類の繊維から構成される特異な糸形態が本発明の要件であり、図1及び図2に示された加工糸の例示を用いて説明する。
本発明の嵩高糸は、ループを形成している鞘糸(図1の1)と、当該鞘糸と交錯することで鞘糸を固定している芯糸1(図1の2)と、芯糸1の周囲に糸長差を持って存在し、かつ鞘糸と交錯している芯糸2(図1の3)から構成される。
本発明の芯糸1は、本発明の特異な糸形態を維持するのに重要な役割を担っており、芯糸2と鞘糸を交錯により固定する軸であるため、加工糸の中心に存在することが好適である。すなわち、図2に示した一対の糸道ガイド5の間に定長で加工糸を糸かけした場合の糸道ガイド5を結んだ直線を加工糸中心線4とした場合に、この加工糸中心線4からの距離6が0.6mmまでの範囲に存在するものである。
本発明の芯糸2は、鞘糸からなるループを下支えする役割を担っている。
ここで言う芯糸2は、加工糸において、芯糸1と鞘糸が形成するループの頂点の間に存在するものであり、具体的には、芯糸2は芯糸1とは糸長差を持っているため、図2に示す加工糸中心線4から0.6mmを超えて、芯糸2の頂点が存在するものである。
芯糸2は芯糸1の周囲に糸束状で存在している。このため、加工糸の嵩高構造部分においては、芯糸2と鞘糸が混在した状態にあるが、加工糸を側面から観察し、開繊状態を確認することで、糸束状の芯糸2は鞘糸とは簡易に峻別することができる。
芯糸2を配置した技術思想からすると、芯糸2は、芯糸1を軸として緩やかに旋回しながら巻き付くように存在することが好適であり、更に芯糸2に鞘糸が巻き付くことで複数層のループ構造を有することが好ましい。このような複数のループが重なった嵩高構造部を形成し、ループ頂点位置が異なるループ同士が3次元的に支えあうことで、嵩高構造部の厚みが大きくなり、嵩高糸1本としての排除体積が飛躍的に拡大する。また、複数のループが支えあうことで、圧縮方向の変形を分散し、個々のループの変形量を小さく抑えることができるため、圧縮後のループの回復に要する時間を短くすることもできるという効果も発現する。このため、圧縮変形量の大きさによる優れた柔軟性とともに、適度な反発感、更には形態回復性を発揮することができる。
本発明の鞘糸は、加工糸の中心から外層に向けて放射状にループを形成して存在するものであり、芯糸1あるいは芯糸2と交錯することによって、加工糸の嵩高構造を構成するものである。言うまでもないが、鞘糸からなるループが自立して外層に突出しているほど加工糸の嵩高性は高まるものであり、本発明においては、図2に示した加工糸中心線4から鞘糸からなるループの頂点までの距離6、すなわちループの大きさは1.0mm以上であることが好適である。
ここで言うループの大きさとは、一対の糸道ガイド5に定長で糸掛けした嵩高糸を側面から観察し、この観察した画像から測定する。無作為に選んだ1本の嵩高糸について、嵩高糸に形成されている10個以上のループが観察できるように撮影し、画像中のループ10個で加工糸中心線4からループ頂点までの距離6を測定する。この作業を嵩高糸1本について画像撮影を計10箇所行い、嵩高糸1本あたり合計100個のループの大きさを、ミリメートル単位で小数点第2位までを測定する。この数値の平均値を算出し、小数点第2位以下を四捨五入した値を嵩高糸におけるループの大きさとした。
本発明の嵩高糸は、従来加工糸では達成されなかったループ倒れを抑制したことを特徴としており、この本発明の目的をより優れたものとするためには、ループの大きさが1.0mm以上150.0mm以下の範囲が好ましい。本発明の嵩高糸を中綿として使用する場合には、柔軟な風合いを訴求でき、同等以上の保温性を確保するのに必要となる充填量を従来の中綿と比べて削減することができるため、非常に軽量性に優れたものとなる。一方、布団や衣料など詰め物体として使用する場合には、繰返しの圧縮回復、特に嵩高回復の速度が高いことが訴求点となるが、このような特性を発現する仕様として、該ループ大きさは10.0mm以上100.0mm以下であることがより好ましい。
本発明において、ループを形成する鞘糸は実質的に破断されていない、特にループの途中で実質破断していないことが好ましい。これは、嵩高性を担うループが途中で破断せずに、不要な絡み合いを起こさないことで、本発明のループが特長である嵩高性を良好に発揮し、中綿として使用した場合にも異物感として感じることなく、非常に柔軟でありながらも圧縮時の回復速度が速い優れた特長を奏でる。
ここで言うループの破断の判定は、鞘糸および芯糸からなる加工糸1本から無作為に選出した10箇所において、それぞれ芯糸と鞘糸の交錯点から次の交錯点まで(すなわちひとつのループ)が加工糸の長手方向に10箇所以上確認できる倍率で撮影、観察して判定する。該撮影画像10枚において、各々10個のループについて嵩高糸1ミリメートル当たりの鞘糸の破断点をカウントする。カウントされたループの破断点を平均し、小数点第2位を四捨五入することでループの破断点(個/mm)とした。ここで計100個のループの平均で、破断点が0.2個/mm以下であることが本発明の言う鞘糸が実質的に破断していない状態を指す。係る範囲であれば、糸端が自由になった鞘糸が加工糸内に存在しないため、本発明の効果を良好に発揮する加工糸となる。
本発明において、鞘糸からなるループは嵩高糸の中心に位置する芯糸1及び芯糸1の周辺に旋回して存在する芯糸2の少なくとも一方に巻きつくことにより交錯し、様々な大きさのループがネットワークを構成して、連結した構造を形成する。このため、本発明の嵩高糸は芯糸1を軸にして独特の複数層のループからなる嵩高構造が構成され、優れた嵩高性と柔軟性を発現し、かつ圧縮時の回復性を高度に保つことができるのである。
また、ループを有した加工糸では課題になる場合があったループのたるみによる鞘糸同士の絡みつきや後工程等で設置されているガイドへの巻き付きによる工程通過性の低下は、ループの中に芯糸2による支点を存在させることでループのたるみを防止して抑制するとともに、中綿として用いる場合でも、充填工程等でのハンドリング性を高く維持することができる。
以上の効果をより顕著化させるためには、本発明の嵩高糸を芯糸1、芯糸2及び鞘糸のそれぞれの糸長差のバランスを考慮することが好適であり、芯糸1に対する芯糸2の糸長差が、1.2〜10.0倍、芯糸1に対する鞘糸の糸長差が11.0〜100倍であることが好ましい範囲として挙げることができる。
ここで言う糸長差は、デジタルマイクロスコープ等によって嵩高糸を2次元的に観察できる倍率で撮影した画像を用いる。嵩高糸から無作為に選出した10箇所において、各々の芯糸1、芯糸2及び鞘糸の長さをミリメートル単位で小数点第2位までを測定する。それぞれの画像において、芯糸2長さ及び鞘糸長さを芯糸1長さで除することでそれぞれの糸長差を算出する。嵩高糸の10箇所の単純平均の小数点第2位以下を四捨五入した値を糸長差とした。なお、芯糸1及び芯糸2に関しては、加工糸内に糸束状で存在するため、1画像あたり1本の糸束について測定し、鞘糸に関しては、1画像あたり10本以上の鞘糸を選定して測定した。また、該糸長差は後述する製造方法において、芯糸1、芯糸2及び鞘糸のサクションノズルへの供給速度比に相当し、この速度を調整することで所望の糸長差を設計することが可能であり、簡易的にはこれを各糸長差と見なすこともできる。
嵩高性は、一般的に単位質量あたりの糸束体積にて判定されるため、嵩高糸の質量の小さいほうが有利となる。本発明の嵩高糸においては、ループを形成する鞘糸が嵩高糸としての質量の大半を占める。このため、鞘糸の質量を小さくしながらも嵩高構造を維持できることが好ましい態様であり、芯糸1に対する鞘糸の糸長差は12〜70倍であることがより好ましい。また、後述する後加工等での工程通過性の観点からは、最外周に突出したループの大きさが揃っているほうが、嵩高糸としての表面凹凸が少なく、ロール等への引っ掛かりが抑制できる。このため、芯糸1に対する鞘糸の糸長差は、20〜50倍とすることがさらに好ましい。
また、上記の芯糸1に対する鞘糸の糸長差に設計した場合には、複数層のループからなる嵩高構造の形態安定性(一体性)を向上させる点で、芯糸1の糸長に対する芯糸2の糸長差は、1.5〜6.0倍の範囲であることがより好ましく、係る範囲であれば、鞘糸からなるループのたるみもほとんどなく、嵩高糸としての排除体積を大きく保ったまま、熱処理等の後加工において、ロールやガイドへの巻き付きや引っ掛かりが抑制され工程安定性改善につながる。また、中綿として用いる場合、製品の成型工程におけるハンドリング性改善も可能となる。
本発明の嵩高糸は、嵩高性を訴求するものであり、適度な剛性を有した繊維により構成されていることが好適であり、嵩高糸を構成する合成繊維の単糸繊度は3.0dtex以上であることが好ましい。
ここで言う繊度とは、求めた繊維径、フィラメント数および密度から算出した値、または繊維の単位長さの重量を複数回測定した単純な平均値から、10000m当たりの質量を算出した値を意味する。
本発明の嵩高糸を詰め物とした場合には、繰り返し圧縮回復等の変形を加えられることとなるため、構成するフィラメントは適度な剛性を有することがよく、単糸繊度が6.0dtex以上であることがより好ましい。鞘糸の単糸繊度に関しては、本発明特有の快適な反発感を担保する役割を担っており、上記の観点を推し進めると、鞘糸に用いる原糸の単糸繊度に関しては、9.0dtex以上とすることが特に好ましい。
また、耐ヘタリ性といった嵩高性の維持という観点では、鞘糸が芯糸1あるいは芯糸2と交錯することで固定されループを形成する本発明の嵩高糸において、この基点となる交錯点は、繊維軸方向に適度な周期で存在した方が好適である。このため、本発明においては、芯糸1あるいは芯糸2と鞘糸の交錯点は、芯糸1の繊維軸方向1mmあたり1.0個/mmから30.0個/mmで存在することが好ましい。係る範囲であれば、芯糸1、芯糸2および鞘糸からなるループがそれぞれ連結された構造を形成し、嵩高構造の形態安定を担保する周期でループが存在していることを意味する。この観点を推し進めると、該交錯点は5.0個/mmから15.0個/mmで存在することがより好ましい。 ここで、芯糸1、芯糸2および鞘糸の判別や、交錯点や単位長さあたりのループの個数を嵩高糸の糸長手方向に連続的に評価するには、光電型の毛羽検知装置を活用することができる。例えば、光電型毛羽測定機(TORAY FRAY COUNTER)を用い、糸速度10m/分、走行糸張力0.1cN/dtexの条件で、加工糸中心線からの距離0.6mmならびに1.0mmを評価することにより可能である。
本発明の嵩高糸は、中空率10%以上の中空断面繊維を含むことが好ましい。
軽量性という観点から、本発明の芯糸1、芯糸2及び鞘糸が該中空断面繊維により構成されていることが好適であることは言うまでもないが、特に鞘糸に対しては、ループの突出という観点からも中空断面繊維が好適なのである。
本発明の嵩高糸では、鞘糸からなるループは芯糸1あるいは芯糸2との交錯点を起点とし、鞘糸の剛性により突出を可能としている。鞘糸ループのヘタリ防止を考えると、鞘糸自身の質量も小さいことが好適であり、中空率10%以上の中空断面繊維であることが好ましい。
ここで言う中空率とは、繊維中に材料が存在していない部分の体積率であり、以下の方法で測定することができる。すなわち、鞘糸または芯糸の横断面が観察できるように切削した後、その繊維断面を電子顕微鏡(SEM)にて10本以上の中空断面繊維の断面が観察できる倍率で撮影する。撮影した画像から無作為に選定した10本の中空断面繊維を抽出し、画像処理ソフトを用いて繊維及び中空部分の円相当径を測定し、そこから中空部の面積比率を算出して求める。ここで、鞘糸または芯糸に含まれる中空断面繊維が10本未満の場合は、観察される中空断面繊維の全数を抽出し、中空部の面積比率を算出して求める。以上の操作を撮影した10画像について行い、10画像の平均値を本発明の中空断面繊維の中空率とする。
円形中空断面繊維の場合には、簡便な中空率の評価方法として以下のものがある。
中空断面繊維の側面を顕微鏡等の拡大手段で観察し、その画像から丸断面換算の繊維径を測定する。この繊維径と繊維の素材の密度から、中空でない繊維としたときの繊度に対する実測した繊度との比率を中空率として算出することも可能である。
中空率は、本発明の目的である軽量・保温性という観点では、本発明の嵩高糸がより空気を含んでいることが好適であり、中空率が20%以上であることがより好ましい。係る範囲であれば、嵩高糸を束で持った際により良好な軽量性を実感することもできる。また、熱伝導率が低い空気を内部により多く有していることを意味するため、更に保温性を高めることができる。このような観点から、この中空率の値はより高いほど好適であるといえるが、製糸工程や後述する流体加工工程において、中空部が潰れることなく安定的に製造できる範囲として、中空率は50%以下が好ましい。
また、中空率20%以上を有した中空断面繊維の場合には、付加的に熱処理後に3次元的な捲縮構造を発現する繊維となる場合がある。特に鞘糸に適用した場合には、ループを形成する糸同士の絡み合い抑制や本発明の複数層のループ構造の補強効果に、糸自体がばねに類似したこのような構造を有することによる圧縮回復特性が加わり、本発明の効果を飛躍的に向上させることが可能になる。
この3次元的な捲縮構造とは、図3に例示されるようにフィラメントの単糸がスパイラルな構造を有していることである。
3次元的な捲縮の評価は、嵩高糸から無作為に選出した10箇所において、各々10本以上の鞘糸を選定し、それぞれの糸をデジタルマイクロスコープ等で捲縮形態が確認できる倍率で観察することで評価する。この画像において、観察される糸がらせん状に旋回した形態を有している場合には、3次元的な捲縮構造を有していると判定し、そうでない場合には捲縮構造を有していないと判定する。
本発明の嵩高糸に3次元的な捲縮構造を有した繊維を用いる場合、らせん状に旋回しているスパイラル構造の曲率半径が2.0〜30.0mmの範囲にあることが好ましい。ここで言うスパイラル構造の曲率半径とは、前述した3次元的な捲縮の有無を判定するのと同じ方法で、デジタルマイクロスコープ等によって観察される画像を用いる。図3に示すように、スパイラル構造を有した繊維が形成する湾曲7の半径を曲率半径とする。嵩高糸から無作為に選出した10箇所において、各々10本以上の鞘糸を採取し、それぞれの鞘糸をデジタルマイクロスコープ等で捲縮形態が確認できる倍率で観察することで計100本の鞘糸をミリメートル単位で小数点第2位までを測定する。これらの測定値の単純平均を算出し、小数点第2位以下を四捨五入した値である。
本発明の嵩高糸において、嵩高糸を合糸した際の嵩高糸間の絡み合いを抑制する観点から、繊維間静摩擦係数が0.3以下であることが好ましい。ここで言う繊維間静摩擦係数とは、レーダー式摩擦係数試験機により、JIS L1015(2010年)「化学繊維ステープル試験方法」の「摩擦係数」に記載された方法に準じて測定するものである。なお、当該JISはステープルを目的としているため、測定にあたっては開繊等の前作業を行うことを規定しているが、本発明での測定では、開繊等の処理は行わず、嵩高糸を円筒スライバーに平行に並べることで評価できる。
また、本発明の嵩高糸において、圧縮および回復の繰り返しによる鞘糸ループの絡み合いの発生、中綿として用いた場合の洗濯による中綿の偏り発生を抑制するという観点から、繊維間静摩擦係数は低い方が好適であり、0.2以下であることがより好ましく、0.1以下であることが特に好ましい。
本発明の嵩高糸は、繊維巻き取りパッケージやトウ、カットファイバー、わた、ファイバーボール、コード、パイル、織編、不織布など多様な繊維構造体とし、様々な繊維製品とすることが可能である。ここで言う繊維製品は、一般衣料から、スポーツ衣料、衣料資材、カーペット、ソファー、カーテンなどのインテリア製品、カーシートなどの車輌内装品、化粧品、化粧品マスク、ワイピングクロス、健康用品などの生活用途やフィルター、有害物質除去製品などの環境・産業資材用途に使用することができる。特に本発明の嵩高糸は、その嵩高性と絡み合いが抑制されるなどの効果から、中綿として活用することが好適である。この場合、中綿は側地に充填することから、数本から数十本の糸束としたり不織布などのシート状物にするとよい。特に、本発明の嵩高糸は、1本で十分な嵩高性を有するため、数本の糸束とする場合の合糸本数を少なくすることができ、クリール等の設備省略および作業の簡略化が可能となる。また、シート化した際には、側地への充填が簡易であり、充填量を用途に応じて調整しやすい。このため、薄地の軽量・保温素材になり、更には側地から抜け出る心配もなく、不必要に縫製を施す必要がないため、繊維製品の形態に制約がなく、複雑なデザイン等も可能となる。
以下、本発明の嵩高糸の製造方法の一例を説明する。
本発明の嵩高糸に用いられる繊維は、熱可塑性ポリマーを公知の方法により溶融紡糸して繊維化した合成繊維を用いればよい。
本発明の嵩高糸に用いる合成繊維の断面形状に関しては、特に限定されることなく、紡糸口金における吐出孔の形状を変更することで、一般的な丸断面、三角断面、Y型、八葉型、偏平型などや多葉型や中空型など不定形なものにすることができる。また、単独のポリマーからなる単成分繊維や、2種類以上のポリマーからなる複合繊維であっても良い。
また、嵩高性を高めるという観点からは、用いる繊維は、単成分のポリマーからなる中空断面繊維とすることが好ましい例として挙げられる。
次に、紡糸して得られた繊維から嵩高糸を製造する方法の一例を説明する。
ここで例示する嵩高糸の製造方法は、大きく2つの工程からなる。第1工程が流体により芯糸1あるいは芯糸2と鞘糸とを交錯させ、鞘糸からなるループを形成させる嵩高加工工程である。第2工程が嵩高加工された糸条を熱処理することにより、嵩高糸の構造を固定する熱処理工程である。
本発明の嵩高糸の製造方法の一例を、図4の概略工程図および図5のサクションノズルの概略側面図に基づいて説明する。この第1工程では、原料となる合成繊維はニップローラなどを有した供給ローラ15により規定量引き出され、圧空の噴射が可能なサクションノズル8によって、芯糸及び鞘糸として吸引される。
このサクションノズルにおいて、ノズルから噴射する圧縮空気の流量は、供給ローラからノズルに挿入する糸条が必要最低限の張力を有して供給ローラからノズルの間及びノズル内で糸揺れ等を起こさず安定的に走行する流量を噴射することが好適である。この流量は、使用するサクションノズルの孔径により最適量が変化するが、糸張力を付与でき、後述するループの形成が円滑にできる範囲としては、ノズル内での気流速度が100m/s以上であることが目安となる。この気流速度の上限値の目安は、700m/s以下とすることであり、係る範囲であれば、過剰に噴射された圧空により、走行糸条が糸揺れ等を起こすことなく、安定的にノズル内を走行することになる。
また、このサクションノズル内での加工糸の撹乱、開繊を予防するという観点から、圧縮空気の噴射角度19は、走行糸条に対して60°未満で噴射する推進ジェット流とすることが好ましい。これは高い生産性で、鞘糸によるループ形成を均質に行うことができるからである。当然、走行糸条に対して90°に流体を噴射する垂直ジェット流による加工でも本発明の嵩高糸を製造することは不可能ではないが、垂直方向からのジェット流噴射によるノズル内での走行糸条の開繊、及び単糸同士の絡み合いを抑制するという観点から推進ジェット流による加工が好ましい。この推進ジェット流による加工は、垂直ジェット流の場合に形成しやすいアーチ型の小ループが短周期で形成することも抑制できる。
本発明の嵩高糸の繊維構成においては、垂直ジェット流で加工した場合、芯糸2および鞘糸がともに芯糸1に混繊交絡することとなり、本発明の特徴である芯糸1と糸長差を持った芯糸2が鞘糸ループを下支えする特異な糸形態を形成することは不可能ではないが、非常に困難である。そのため、本発明の嵩高糸に対しては、推進ジェット流を用いた加工が適しており、芯糸1と糸長差を持った芯糸2が鞘糸ループを下支えすることで、鞘糸からなるループの嵩高構造の形成が可能となるものである。
本発明の嵩高糸に必要となる芯糸2の旋回および鞘糸からなるループの形成には、サクションノズル内で撹乱や開繊を施さないことが好適である。一桁本数から二桁本数の糸からなるマルチフィラメントをノズル内では開繊させずに走行させるという観点では、圧縮空気の噴射角度が、走行糸条に対して45°以下であることがより好ましい。更に、ノズル外でループを形成させる点では、ノズル直後の噴射気流の安定性及び推進力が高いことが好適であり、この観点から、噴射角度が走行糸条に対して20°以下であることが特に好ましい。
本発明の嵩高糸を製造する一例として、このサクションノズルに導く糸条を3フィードで供給することが、工程安定化し易くする一手段として挙げられる。ここで言う3フィードとは、芯糸1、芯糸2および鞘糸を別々の供給ローラなどで供給速度に差をつけて、サクションノズルに供給する手法を意味する。後述する気流による旋回力を利用することで、最も過剰に供給された側の糸が鞘糸となりループを形成することになる。
この3フィードを活用する場合には、ノズル内で走行糸条に撹乱、開繊及び交絡の効果を付与するインターレース加工ノズルやタスラン加工ノズルを使用することも考えられるが、これら加工ノズルにおいては、ループが短周期で形成され、そのサイズも小さくなる傾向にある。また、ノズル内で混繊交絡するため、鞘糸を大フィードで供給するほどノズル内で走行糸条が詰まる場合があり、慎重な条件調整が必要となる。
本発明の嵩高糸の製造に用いる上記サクションノズル条件は、糸条を開繊させることなくノズル内を走行させることが可能であり、導入する糸条の本数を増やした場合にノズル内で糸条同士は接触することはあるが、絡まりの発生は抑制できる。そのため、本発明の嵩高糸の製造方法の一例として挙げられる3フィードの加工に好適である上、さらにフィード糸条本数を増やした場合の加工にも適用が可能である。
本発明の目的を達成する嵩高糸の嵩高加工工程を多錘化し、合糸まで連続して製造するにあたり、多数存在するパラメータを緻密に制御する必要が生じる。嵩高加工工程を多錘化した場合には、錘毎に嵩高糸の嵩高性が異なるものになるという可能性があるため、後述するノズル外の気流制御を活用した手法を採用することが、品質の安定性を確保し易くなるため好適である。
次に、圧縮空気が付与された糸条をノズル外で旋回させ、芯糸1への芯糸2の旋回、及び鞘糸ループを形成させる工程となる。これはノズルから噴射されたある位置で供給された3本の糸を旋回させることで、本発明の目的を達成するループを形成するというコンセプトを着想したものである。気流速度と糸速度の比(気流速度/糸速度)が100〜5000にある場合に、ノズル外で芯糸2の旋回、および鞘糸が開繊しながら旋回するという特異的な現象が見出された。
ここでの気流速度とは、サクションノズル出口から走行糸条とともに噴射された気流の速度を意味する。気流速度はノズルの吐出径と圧縮空気の流量により制御可能である。また、糸速度は、サクションノズルを出た後に、糸を引き取るローラの周回速度等により制御することが可能である。
芯糸2や鞘糸の旋回力は、気流速度と糸速度の速度比に依存して増減するため、目的とする嵩高糸の交錯点を強固にする場合には、この速度比を5000に近づければよいし、交錯点を緩慢にしたい場合には逆に100に近づければよい。この速度比は、例えば、圧縮空気の流量を間歇的に変化させ、あるいは引取ローラの速度を変動させることで、交錯点の周期に変化を持たせることも可能である。一方、本発明の嵩高糸を詰め物など圧縮回復の変形が繰り返し付与される用途に使用する場合には、気流速度/糸速度を200〜3000にすることが好ましい。特に、高頻度で変形が加わるジャケット等の衣料用に用いる嵩高糸を製造する場合には、適度な拘束と柔軟性を付与するという観点から、気流速度/糸速度が400〜2000とすることが特に好ましい。
この旋回力が発現するのは、随伴していた気流が走行糸条を離脱したところである。そこで糸道を変更する旋回点9を配置する。具体的には、バーガイド等で糸道を変更することで良い。そして糸条を規定の速度で引き取ることにより芯糸1の周りを芯糸2および鞘糸が旋回し、芯糸1あるいは芯糸2に交錯して鞘糸がループを形成する。この旋回を起こすためのスペースとノズルから噴射された気流の拡散を利用した鞘糸の振動によるほぐれを得るという観点から、走行糸条の旋回点は、ノズル吐出口から離れた位置にあることが好適である。ただし、本発明の嵩高糸を製造するために適したノズル−旋回点間の距離は噴出した気流速度により変化するものである。気流の拡散とのバランスで適度な周期で芯糸1あるいは芯糸2と鞘糸との交錯点を形成させるために、ノズル−旋回点間の距離は、噴出気流が適度な旋回力を保つことができる1.0×10−5〜1.0×10−3秒間走行する間に旋回点9が存在することが好ましく、2.0×10−5〜5.0×10−4秒間走行する間に旋回点9が存在することがより好ましい。
この旋回点の位置を調整することで、本発明の嵩高糸における芯糸1に対する芯糸2の旋回数、及び芯糸1あるいは芯糸2と鞘糸の交錯点の周期を制御することもできる。
本発明の嵩高糸において、芯糸1に対する芯糸2の旋回数については、0.1個/cmから10.0個/cmで旋回するように調整することが好ましい。係る範囲であれば、芯糸1あるいは芯糸2との交錯により形成した鞘糸ループ同士が適度な間隔を持って存在することができ、本発明の効果を十分に発現させることができる。この観点を推し進めると、該芯糸2の旋回数は0.5個/cmから5.0個/cmで存在するように旋回点を調整することがより好ましい。
ここで言う旋回数は、デジタルマイクロスコープ等によって嵩高糸の交錯点を観察できる倍率で撮影した画像を用いる。嵩高糸から無作為に選出した10箇所において、それぞれの画像で芯糸1に対する芯糸2の交錯点をカウントし、当該交錯点を2で除することで芯糸2の旋回数を算出する。嵩高糸の10箇所の単純平均の小数点第2位以下を四捨五入した値である。
鞘糸からなるループが形成された嵩高糸10は、形態固定や3次元的な捲縮を発現させる等の目的で、一旦巻き取った後あるいは嵩高加工に引き続いて熱処理を施すことが好ましい。図4においては、嵩高加工に引き続き熱処理を行う加工工程を例示している。この熱処理は、例えばヒータ12によって行うものである。熱処理温度は、加工糸を構成する繊維に使用するポリマーのうち、結晶化温度が最も低いポリマーの結晶化温度±30℃がその目安となる。この温度範囲での処理であれば、ポリマーの融点から処理温度が離れているため、加工糸を構成する繊維間で融着して硬化した箇所はなく、異物感がなく、良好な触感を損ねることはない。この熱処理工程に用いるヒータは一般的な接触式あるいは非接触式のヒータを採用することができ、熱処理前の嵩高性や鞘糸の劣化抑制という観点では、非接触式のヒータの使用が好ましい。ここで言う非接触式のヒータとは、スリット型ヒータやチューブ型ヒータ等の空気加熱式ヒータ、高温蒸気により加熱するスチームヒータ、輻射加熱を利用したハロゲンヒータやカーボンヒータ、マイクロ波ヒータ等が該当する。
ここで加熱効率という観点から、輻射加熱を利用したヒータが好ましい。加熱時間に関しては、例えば、結晶化が進み加工糸を構成する繊維の繊維構造の固定、加工糸の形態固定及び鞘糸の捲縮発現が完了するための時間等を考慮することになり、処理温度及び時間を求められる特性に応じて調整するのがよい。熱処理工程が完了した加工糸はデリバリーローラ13を介して速度を規制し、張力制御機能を具備したワインダ14で巻き取ればよい。この巻き形状に関しては、特に限定されるものではなく、いわゆるチーズ巻きやボビン巻きとすることが可能である。また、最終的な製品への加工を考慮して、複数本を予め合糸し、トウとすることやそのままシート化することも可能である。
本発明の嵩高糸は、熱処理工程前後でシリコーン系油剤を均一に付着させることが好ましい。ここで付着させるシリコーンは、熱処理などによって適度にシリコーンを架橋させることで、鞘糸及び芯糸にシリコーンの皮膜を形成させると良い。ここで言うシリコーン系油剤とは、ジメチルポリシロキサン、ハイドロジエンメチルポリシロキサン、アミノポリシロキサン、エポキシポリシロキサン等が例示され、これらを単独または混合して使用できる。また、嵩高糸の表面に均一に皮膜を形成するために、シリコーン付着の目的を損なわない範囲で、油剤に分散剤、粘度調整剤、架橋促進剤、酸化防止剤、防燃剤及び静電防止剤を含有させることができる。このシリコーン系油剤は無溶剤でも、溶液や水性エマルジョンの状態でも使用することもできる。油剤の均一付着という観点では、水性エマルジョンを使用することが好ましい。シリコーン系油剤は、油剤ガイド、オイリングローラまたはスプレーによる散布を利用して、質量比で嵩高糸に対して0.1〜5.0%付着できるように処理することが好適である。その後任意の温度及び時間で乾燥し、架橋反応させることが好ましい。このシリコーン系油剤は、複数回に分けて付着させることも可能であり、同じ種類のシリコーンあるいは種類の異なるシリコーンを分けて付着さて、強固なシリコーン皮膜を積層させることも好適である。前述した処理により、嵩高糸にシリコーンの皮膜を形成させることで、嵩高糸の滑り性、触感が増し、本発明の効果を更に引き立たせることができる。
以下実施例を挙げて、本発明の嵩高糸およびその効果について具体的に説明する。
実施例および比較例では、下記の評価を行った。
A.繊度
繊維の100mの質量を測定し、100倍することで繊度を算出した。これを10回繰り返し、その単純平均値の小数点第2位を四捨五入した値をその繊維の繊度(dtex)とした。単糸繊度とは、繊度をその繊維を構成するフィラメント数で除することにより、算出した。この場合も、小数点第2位を四捨五入した値を単糸繊度とした。
B.ループ評価(ループ大きさ、ループ交錯点、ループ破断点)
試料となる糸にたるみが出ないように0.01cN/dtexの荷重をかけ、図2に例示されるように定長で一対の糸道ガイド5に糸掛けする。糸掛けした嵩高糸の側面を(株)キーエンス社製マイクロスコープVHX−2000にて糸束の全幅を観察できる倍率で撮影した。この画像について、画像処理ソフト(WINROOF)を用いて、加工糸中心線からのループ頂点までの距離6を測定した。この作業を加工糸1本について画像を計10箇所撮影し、ミリメートル単位で小数点第2位までを測定する。この数値の平均値を算出し、小数点第2位を四捨五入した値を嵩高糸におけるループの大きさとした。
前記と同じ10画像において、加工糸1ミリメートル当たりのループの交錯点及び破断点をカウントし、平均値の小数点第2位を四捨五入した値をループの交錯点及び破断点とした。ここで破断点が0.2個/mm未満のものは、鞘糸が実質破断していない(各実施例、比較例の説明ならびに各表においては「無し」と記載)、0.2個/mm以上のものは、破断有り(各実施例、比較例の説明および各表においては「有り」と記載)と評価した。
C.解舒性
加工糸を500m以上巻き付けたドラムをクリールに仕掛け、ドラムの断面方向に30m/min速度で5分間解除し、糸の踊りや引っ掛かり等を目視により確認し、下記の4段階で評価した。
◎:糸の踊りが見られず、良好に解舒できる。
○:わずかに糸の踊りが見られるが、問題なく解舒できる。
△:糸の踊り及びわずかに引っ掛かりが見られるが解舒はできる。
×:糸の踊り及び引っ掛かりが起こり解舒できない。
D.触感
加工糸を500m以上巻き付けたドラムをクリールに仕掛け、ドラムの断面方向に検尺機を用いて、糸を解舒して巻き形態とすることで10mの糸カセとした。糸カセの一箇所を固定して風合い評価用サンプルを作成した。このサンプルを握った場合の触感を下記の4段階で評価した。
◎:嵩高性及び柔軟性に優れ、異物感を感じない優れた風合い。
○:嵩高性及び柔軟性を有した良好な風合い。
△:嵩高性を有し、かつ異物感を感じない程度の良好な風合い。
×:嵩高性がなく、異物感を感じる不良な風合い。
実施例1
ポリエチレンテレフタレート(PET:IV=0.65dl/g、結晶化温度=150℃)を290℃で溶融後、ギアポンプで計量し、紡糸パックに流入させ、図6に例示されるような3つのスリット(幅0.1mm)が同心円状に配置された中空断面用吐出孔から中空率30%となるように吐出した。吐出された糸条に20℃の冷却風を30m/minの流れで片側から吹き付けて冷却固化後、紡糸油剤を付与して紡糸速度1500m/minで未延伸糸を巻き取った。引き続き、巻き取った未延伸糸を90℃と140℃に加熱したローラ間で延伸速度800m/minで延伸した単糸繊度7.0dtexの繊維を芯糸1、芯糸2および鞘糸とした。
芯糸1、芯糸2および鞘糸を図4に例示される工程にて、芯糸1を供給ローラ速度30m/min、芯糸2を供給ローラ速度60m/min、鞘糸を供給ローラ速度900m/minとして、サクションノズルに供給した。サクションノズルでは走行糸条に対して20°で気流速度400m/sとなるように圧空を噴射し、芯糸1、芯糸2および鞘糸がノズル内で交錯しないように随伴気流とともにノズルから噴出させた。ノズルから噴射した糸条を気流と共に1.0×10−4秒間走行させ、セラミックガイドを利用して糸道を変更し、鞘糸からなるループを形成した嵩高糸を30m/minのローラで引き取った。連続して、ローラを介して該加工糸をチューブヒータに導き、150℃の加熱空気で10秒間熱処理し、嵩高糸の形態をセットするとともに、芯糸1、芯糸2及び鞘糸に捲縮を発現させた。該嵩高糸は、チューブヒータ後に設置された張力制御式巻取り機により、30m/minでドラムに巻き取った。
実施例1では鞘糸からなるループが外周方向に平均で38mm突出しており、該ループが10.8個/mmの頻度で交錯点が形成された嵩高糸となっていた。最外周に突出したループは、芯糸2および最外周ループの内層側に頂点を有したループで支えられた構造を形成していた。また、鞘糸は破断箇所が見られない連続したループを形成したものであった。(破断箇所:0.0個)
引き続き、嵩高糸にポリシロキサンが濃度8wt%で含まれたシリコーン系油剤を最終的なポリシロキサン付着量が嵩高糸に対して1wt%になるようにスプレーで均一に散布し、140℃の温度で20分間熱処理して本発明の嵩高糸を採取した。
該嵩高糸は、鞘糸が連続的なループを形成しており、巻き取ったドラムからスムーズに解舒することができた(解舒性:◎)。また、握った際の触感は非常に柔らかく、異物感を感じない優れた風合いを有したものであった(風合い:◎)。結果を表1に示す。
実施例2
紡糸時吐出量を調整することにより、単糸繊度を3.0dtexにしたこと以外は、全て実施例1に従い実施した。
実施例2においては、用いる繊維の単糸繊度を減少させたことにより、ループの頻度が増加したものであり、実施例1と比較して糸が細くなったことで、より柔軟な風合いを有した素材であった。結果を表1に示す。
実施例3
ポリエチレンテレフタレート(PET:IV=0.65dl/g、結晶化温度=150℃)を290℃で溶融後、ギアポンプで計量し、紡糸パックに流入させ、孔径φ0.30mmの吐出孔が同心円状に配置された紡糸口金から吐出した。吐出された糸条に20℃の冷却風を20m/minの流れで片側から吹き付けて冷却固化後、紡糸油剤付与し、紡糸速度1500m/minで未延伸糸を巻き取った。引き続き、巻き取った未延伸糸を90℃と140℃に加熱したローラ間で延伸速度800m/minで延伸した単糸繊度7.0dtexの繊維を芯糸1、芯糸2および鞘糸として用いたこと以外は、実施例1に従い実施した。
実施例3は、実施例1と同様にループの突出は大きく、嵩高性に優れたものであった。また、鞘糸は連続的なループを形成しており、巻き取ったドラムからスムーズに解舒することができた(解舒性:◎)。さらに、握った際の触感は非常に柔らかく、異物感を感じない優れた風合いを有したものであった(風合い:◎)。結果を表1に示す。
実施例4
実施例3で用いた繊維を芯糸1および芯糸2に用いたこと以外、実施例1に従い実施した。
実施例4は、鞘糸のみ中空糸を用いたものであり、ループの大きさは実施例1とほぼ同等であった。また、適度な柔軟性を有しており、良好な風合いを有する素材であった。結果を表1に示す。
比較例1
繊維の構成を芯糸1と鞘糸の2成分としたこと以外は、実施例1に従い実施した。
比較例1は、2成分からなる嵩高糸であり、鞘糸ループ自体は大きいものの、倒れているところが見られた。このため、ドラムから引き出す際、解舒は可能であったが、ループの引っ掛かりが発生し、糸切れする部分があった。なお、触感については、握ったときの異物感はなく、柔軟な素材であった。結果を表2に示す。
比較例2
芯糸1の糸長に対する芯糸2の糸長差を1.0としたこと以外、実施例1と同様に実施した。
比較例2は、芯糸1と芯糸2の糸長が同じであるため、芯糸1と芯糸2はともに嵩高糸の軸を形成しており、比較例1のような2成分系と同様の形態であった。嵩高糸の軸としての単糸数が増加したことで、ループの頻度が増加した一方、ループの大きさは小さくなった。
また、芯糸2による支え効果がなく、ループの倒れているところが見られた。このため、ドラムから引き出す際、解舒は可能であったが、ループの引っ掛かりが発生した。なお、触感については、芯糸として太くなった分、異物感を感じるものであった。結果を表2に示す。
実施例5、6
各成分の供給速度を調整し、芯糸1の糸長に対する芯糸2の糸長差を表3に示すように変更したこと以外、実施例1に従い実施した。
実施例5は、芯糸1の糸長に対する芯糸2の糸長差を1.2としたものであり、芯糸2は鞘糸ループを支えるように存在していた。このため、ループの突出が大きく、嵩高性に優れるものであった。また、最外周に突出したループと、その内層に頂点を有するループが存在し、ループ同士の支え効果からも嵩高構造部の形態は安定しており、スムーズに巻き取ったドラムから解舒することができた。触感は、異物感を感じない優れた風合いを有したものであった。
実施例6は、芯糸1の糸長に対する芯糸2の糸長差を10.0としたものであり、芯糸2の旋回幅が大きく、かつ鞘糸ループも大きく形成されており、嵩高性に優れるものであった。芯糸2の突出が大きいため、芯糸1に対する芯糸2の交錯は少なくなったが、ドラムから引き出した際に引っ掛かりが発生したものの解舒は可能であった。また、異物感を感じない優れた風合いを有したものであった。結果を表3に示す。
実施例7、8
芯糸1の糸長に対する鞘糸の糸長差を表3に示すように変更し、実施例8のみ旋回点を調整したこと以外、実施例1に従い実施した。
実施例7は、芯糸1の糸長に対する鞘糸の糸長差を11.0としたものであり、個々のループは小さくなったが、芯糸2は、芯糸1の周囲に旋回しており、鞘糸からなるループを支えていた。また、ドラムから引き出した際には、引っ掛かりなくスムーズに解舒が可能であった。触感は、個々のループが小さいことで、硬い部分もあったが、良好な風合いを有する素材であった。
実施例8は、芯糸1の糸長に対する鞘糸の糸長差を100.0としたものであり、旋回点を調整することで非常に大きなループを形成したものであった。また、芯糸2は鞘糸ループを支えるように存在しており、加えて頂点の異なるループ同士の支え効果によってループの倒れが抑制されていた。ループが非常に大きく、ドラムからの引き出し時には引っ掛かる部分も見られたが、解舒は可能であった。また、圧縮変形量が大きいことで柔らかい風合いを有する素材であった。結果を表3に示す。
実施例9、10
芯糸2の糸長に対する鞘糸の糸長差を表3に示すように変更し、実施例10のみ旋回点を調整したこと以外、実施例1に従い実施した。
実施例9は、芯糸2の糸長に対する鞘糸の糸長差を2.0としたものであり、芯糸2の突出が大きく、個々の鞘糸ループは小さかったが、嵩高性に優れるものであった。また、芯糸2の突出が大きいため、芯糸1に対する芯糸2の交錯は少なくなったが、ドラムから引き出した際に引っ掛かりが発生したものの解舒は可能であった。触感は、個々のループが小さいことで、硬い部分もあったが、良好な風合いを有する素材であった。
実施例10は、芯糸2の糸長に対する鞘糸の糸長差を50.0としたものであり、非常に大きなループを形成したものであった。芯糸2は鞘糸ループを支えるように存在しており、加えて頂点の異なるループ同士の支え効果によってループの倒れが抑制されていた。ループが非常に大きく、ドラムからの引き出し時には引っ掛かる部分も見られたが、解舒は可能であった。また、圧縮変形量が大きいことで柔らかい風合いを有する素材であった。結果を表3に示す。