以下に、実施の形態にかかるワイヤ放電加工装置、ワイヤ放電加工方法およびウエハの製造方法を図面に基づいて詳細に説明する。
実施の形態1.
マルチワイヤ放電加工装置は、例えば、半導体製造工程において、インゴットから複数の半導体ウエハを一括して切り出すスライス加工、すなわち複数の半導体ウエハの一括切断加工に用いられる。マルチワイヤ放電加工装置において、一括切断加工される薄板は、互いに並列に離間して被加工物に対向する複数の切断ワイヤ部との間に発生させた放電によって切断加工される。このため、マルチワイヤ放電加工装置では、並列する切断ワイヤ部の互いの離間距離が、切り出される薄板の板厚に大きく影響する。
そこで、マルチワイヤ放電加工装置には、並列する複数の切断ワイヤ部の互いの離間距離が加工開始から加工終了まで変化しないように、切断ワイヤ部の位置ずれを防ぐために被加工物を挟んで被加工物の両側に配置された一対のワイヤ並列ガイドローラが設けられている。
ワイヤ並列ガイドローラの表面には、各々のワイヤ電極部の離間距離を規定する複数本のV溝状のワイヤ案内溝が加工される。そして、ワイヤ案内溝の各々に対し、1本ずつ配設されたワイヤ電極が、一対のワイヤ並列ガイドローラ間で張架され、切断ワイヤ部が構成される。
ワイヤ案内溝は、一括して切断加工される薄板を所望の板厚で切り出すために設計された間隔でワイヤ並列ガイドローラの表面に形成されている。一対のワイヤ並列ガイドローラは、放電切断加工中においては、複数のワイヤ電極の互いの間隔が保たれるように複数のワイヤ電極を拘束しながら切断ワイヤ部を並列走行させる。
マルチワイヤ放電加工装置による薄板加工では、切断ワイヤの張架方向に沿ってノズルから加工液が加工溝に向けて噴出される。円柱形状のインゴットを切断する場合、切断厚さに対応して加工液の流量が調整される。しかしながら、加工液の流量の調整は、ワイヤ電極への加振の要因およびワイヤ電極の張力変動の要因となる。また、放電切断加工を高速化するために、放電エネルギーを増大すると、放電による反発力が大きくなる。放電による反発力の増大は、同様にワイヤ電極への加振の要因およびワイヤ電極の張力変動の要因となる。あるいは、切断加工時に発生した加工屑などの異物がワイヤ並列ガイドローラにおけるワイヤ案内溝に介在することにより、局所的にワイヤ案内溝におけるワイヤ電極の架かりが浅い状態となる。
また、ワイヤ電極は、放電の衝撃力によって、インゴットの加工面の方向とは反対の方向に押し出されて撓む。インゴットの加工面の方向は、ワイヤ電極によるインゴットの加工進行方向であり、ワイヤ電極によるインゴットの切断進行方向である。インゴットの加工面の方向とは反対の方向は、反加工進行方向、または反切断進行方向といえる。すなわち、ワイヤ電極は、放電の衝撃力によって反加工進行方向に押し出されて撓む。反加工進行方向にワイヤ電極を押し出す放電の衝撃力を放電反発力と呼ぶ。
ワイヤ電極は、上述した各種の外乱によって、ワイヤ案内溝の最深部ではなく、ワイヤ案内溝におけるV溝状の片側斜面に押し付けられる状態となり、さらには、ワイヤ案内溝から外れ、隣接するワイヤ案内溝との間のワイヤ並列ガイドローラの外周面に乗り上げた状態となって走行が継続される。この結果、切断ワイヤ部による放電切断加工が進行すると、以降に加工された薄板には、板厚が急変する領域が発生し、板厚が均一な薄板を一括して切断加工することができなくなる。
半導体ウエハの場合、半導体ウエハの一部にでも割れまたは欠けが発生すると、スライス加工された半導体ウエハの研磨工程または研磨工程以降の半導体製造プロセスで歩留まり低下といった支障をきたす。このため、半導体ウエハの割れまたは欠けは、半導体ウエハの商品価値が著しく損なわれる要因となっている。
すなわち、ワイヤ電極を用いて被加工物から複数の板状部材を一括して切断する放電切断加工において、ワイヤ電極は、放電により発生した加工屑の排出と放電エネルギーにより加熱されたワイヤの冷却とを向上するために形成途中の薄板の間隙に供給される加工液の流量が増大されることで、ワイヤ電極が受ける加工液流の圧力が増大し揺さぶられる。また、ワイヤ電極は、放電エネルギーに比例した放電反発力によって揺さぶられる。また、ワイヤ電極は、ワイヤ並列ガイドローラのワイヤ案内溝内に堆積した加工屑またはワイヤ案内溝内で目詰まりした屑によって揺さぶられる。加工途中において上記のようにして揺さぶられたワイヤ電極は、ワイヤ案内溝内のV溝状の最深部の拘束位置から外れることにより、加工途中で設計値と異なる並列間隔で被加工物を切断加工する状態となる。
そして、ワイヤ電極が位置ずれを発生した位置において、被加工物に形成された加工溝は、設計された加工溝の位置から屈折し、加工溝の位置ずれが発生する。加工溝の位置ずれ発生部分は、加工溝内に供給される加工液の流入出の抵抗となり、加工溝内の加工液が入れ替わりにくくなる。この結果、ワイヤ電極が位置ずれを発生した以降の放電切断加工では、加工状態が不安定となり、放電切断加工性能が低下し、薄板の板厚が不均一になりやすく、ワイヤ断線も発生しやすい状態になる。
被加工物が、例えば、炭化珪素(SiC)の結晶からなるインゴットおよび窒化ガリウム(GaN)の結晶からなるインゴットでは、大口径化がすすみ、半導体ウエハの口径寸法が大きくなるほど、一対の並列ワイヤガイドローラの設置間距離が拡大するため、ワイヤ電極は撓みやすく、ワイヤ並列ガイドローラのワイヤ案内溝からのワイヤ電極の外れが発生しやすい状況になる。
以下では、切断加工によって切り離された薄板をウエハと呼ぶ。
図1は、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000の構成例を示す概念図である。図2は、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000のワイヤ張架状態監視部400の構成例を示す模式図である。図2では、被加工物Wと、ワイヤ並列ガイドローラ51a,51bと、ガイドローラホルダ55a,55bと、ノズル7a,7bと、制振ガイドローラ4a,4bと、給電部200との位置関係を示している。また、図2では、切断ワイヤ部1bによる放電切断加工によって、円柱状の被加工物Wに対するワイヤ放電切断加工が被加工物Wの直径の1/2程度の位置まで進行した状態を示している。また、図2では、薄板加工安定部70の図示を省略している。図3は、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000における切断ワイヤ部1bに対する並列ワイヤ張架位置計測部52aの設置例を示す斜視図である。図3では、ワイヤ放電加工装置1000が備えるワイヤ並列ガイドローラ51a,51b間で張架された切断ワイヤ部1bが、ガイドローラホルダ55aの上方を通過する状態を示している。
ワイヤ放電加工装置1000は、ワイヤ電極1を用いた放電切断加工を行う、マルチワイヤ放電加工装置である。図2および図3において、矢印101は、切断ワイヤ部1bの走行方向を示している。図2において、矢印102は、加工液の流れる方向を示している。
図1には、3軸直交座標系のx軸、y軸、z軸が示されている。y軸方向は、被加工物W上でのワイヤ電極1の走行方向、すなわちワイヤ放電加工装置1000に配置された被加工物Wに対するワイヤ電極1の走行方向に対応する。z軸方向は、ワイヤ放電加工装置1000の高さ方向に対応する。ワイヤ放電加工装置1000の高さ方向は、上下方向、すなわち鉛直方向に対応する。x軸方向は、被加工物W上でワイヤ電極1が並列される方向、すなわちワイヤ放電加工装置1000に配置された被加工物Wに対してワイヤ電極1が並列される方向に対応する。x軸方向は、ワイヤ放電加工装置1000に配置された被加工物Wの長手方向に平行な方向といえる。
ワイヤ放電加工装置1000は、ワイヤ電極1によって被加工物Wを放電切断加工する加工機構部100と、給電を実行する給電部200と、ワイヤ放電加工装置1000を制御する制御部300と、ワイヤ張架状態監視部400と、を備える。ワイヤ放電加工装置1000は、被加工物Wから一括して複数の板状部材を切り出す。被加工物Wの材料の例としては、タングステン、モリブデン、シリコンカーバイド、単結晶シリコン、単結晶シリコンカーバイド、ガリウムナイトライド、多結晶シリコン等の材料を挙げることができる。シリコンカーバイドは、炭化珪素とも呼ばれる。以下では、放電切断加工を単に切断加工と呼ぶ場合がある。
加工機構部100は、複数のガイドローラ2と、ボビン3と、制振ガイドローラ4a,4bと、ノズル7a,7bと、ボビン回転制御装置8a,8bと、トラバース制御装置9a,9bと、切断送りステージ10と、を備える。複数のガイドローラ2は、ガイドローラ2a、ガイドローラ2b、ガイドローラ2cおよびガイドローラ2dにより構成されている。ボビン3は、ボビン3aおよびボビン3bにより構成されている。
複数のガイドローラ2は、ワイヤ電極1の走行をガイドする。ガイドローラ2a,2b,2c,2dの各々は、各々の回転軸のまわりに回転可能に設置されている。ガイドローラ2a,2b,2c,2dは、互いに離間して配置されており、互いの回転軸が平行となるように配置されている。ガイドローラ2a,2b,2c,2dの各々の回転軸が互いに平行であることにより、ワイヤ電極1を高精度に走行させることができる。ガイドローラ2a,2b,2c,2dの各々の回転軸は、x軸に平行に配置されている。
1本のワイヤ電極1が、ガイドローラ2a,2b,2c,2dのまわりに、ガイドローラ2a,2b,2c,2dの各々の回転軸の方向に間隔をあけて複数回巻回されている。これらのワイヤ電極1をまとめて並列ワイヤ部1aと称する。また、並列ワイヤ部1aにおける被加工物Wに対向する部分を、切断ワイヤ部1bと称する。切断ワイヤ部1bは、並列される複数の並列ワイヤ部1aで構成される。切断ワイヤ部1bは、互いに平行に設置されることが好ましい。
ガイドローラ2a,2b,2c,2dの表面には、複数のワイヤ案内溝2eが等間隔に形成されている。複数のワイヤ案内溝2eに沿ってワイヤ電極1がガイドローラ2a,2b,2c,2dの表面に巻き掛けられることによって、ガイドローラ2a,2b,2c,2dは、ワイヤ電極1の間隔、すなわち並列ワイヤ部1aのワイヤ電極1の間隔を一定に保持する。ワイヤ放電加工装置1000は、切断ワイヤ部1bが互いに平行かつ等間隔に配置されることにより、被加工物Wから切り出される複数の板状部材の板厚を等しくし、また複数の板状部材の断面を平行とすることができる。また、複数のガイドローラ2は、必ずしも4個である必要はなく、3個以下とされてもよく、5個以上とされてもよい。
ボビン3a,3bは、ワイヤ電極1の繰り出し動作と、ワイヤ電極1の巻き取り動作と、によってワイヤ電極1を走行させる。ボビン3aは、ワイヤ電極1の繰り出し動作を行う。ボビン3bは、ワイヤ電極1の巻き取り動作を行う。ボビン回転制御装置8aおよびトラバース制御装置9aは、ボビン3aを制御する。ボビン回転制御装置8bおよびトラバース制御装置9bは、ボビン3bを制御する。
ボビン回転制御装置8aは、ボビン3aの回転を制御し、ワイヤ電極1の走行を制御する。ボビン回転制御装置8aは、例えば、ワイヤ電極1の走行方向および走行速度を制御する。ボビン回転制御装置8bは、ボビン3bの回転を制御し、ワイヤ電極1の走行を制御する。ボビン回転制御装置8bは、例えば、ワイヤ電極1の走行方向および走行速度を制御する。
トラバース制御装置9aは、ワイヤ電極1の繰り出し位置に対応してボビン3aのx軸方向の位置を制御する。トラバース制御装置9bは、ワイヤ電極1の巻き取り位置に対応してボビン3bのx軸方向の位置を制御する。トラバース制御装置9a,9bによるボビン3a,3bの位置制御をトラバース制御と称する。トラバース制御によって、ボビン3a,3bは、安定的にかつ高精度にワイヤ電極1を走行させることができる。
ボビン3aから繰り出されたワイヤ電極1は、ガイドローラ2b、ガイドローラ2a、ガイドローラ2d、およびガイドローラ2cの順に巻き掛けられて、再びガイドローラ2bからの巻き掛けが継続される。このようにして、ワイヤ電極1は、ガイドローラ2a,2b,2c,2dの間において複数回周回してから、ボビン3bへ巻き取られる。
被加工物Wは、後述する切断送りステージ10に固定された被加工物固定板42に載置される。被加工物Wが固定された被加工物固定板42は、y軸方向において、ワイヤ並列ガイドローラ51aと、ワイヤ並列ガイドローラ51bとの間に配置される。
ワイヤ並列ガイドローラ51a,51bは、y軸方向において、被加工物Wを挟むようにして、被加工物Wの両側に配置される。また、ワイヤ並列ガイドローラ51a,51bは、y軸方向において、制振ガイドローラ4aと制振ガイドローラ4bとの間に設置される。ワイヤ並列ガイドローラ51a,51bは、ワイヤ電極1のx軸方向の動きを制限する。具体的に、ワイヤ並列ガイドローラ51a,51bは、並列ワイヤ部1aおよび切断ワイヤ部1bのx軸方向の動きを制限する。
ワイヤ並列ガイドローラ51a,51bの各々は、ガイドローラ2a,2b,2c,2dと同様に回転軸を有し、各々の回転軸のまわりに回転可能に設置されている。ワイヤ並列ガイドローラ51a,51bは、y軸方向において互いに離間して配置されており、互いの回転軸が平行となるように配置されている。ワイヤ並列ガイドローラ51a,51bの各々の回転軸が互いに平行であることにより、ワイヤ電極1を高精度に走行させることができる。ワイヤ並列ガイドローラ51a,51bの各々の回転軸は、x軸に平行に配置されている。
ワイヤ並列ガイドローラ51a,51bの表面には、複数のワイヤ案内溝51cがあらかじめ設計された間隔で等間隔に形成されている。複数のワイヤ案内溝51cに沿ってワイヤ電極1がワイヤ並列ガイドローラ51a,51bの表面を走行することにより、ワイヤ並列ガイドローラ51a,51bは、ワイヤ電極1の間隔、すなわち並列ワイヤ部1aのワイヤ電極1の間隔を一定に保持する。ワイヤ放電加工装置1000は、切断ワイヤ部1bが互いに平行かつ等間隔に配置されることにより、被加工物Wから切り出される複数の板状部材の板厚を等しくし、また複数の板状部材の断面を平行とすることができる。
すなわち、ワイヤ並列ガイドローラ51a,51bは、ガイドローラ2a,2b,2c,2dの各々の回転軸の方向において等間隔に複数巻回されて互いに離間して走行するワイヤ電極1の並列ワイヤ部1aおよび切断ワイヤ部1bの走行をガイドし、被加工物Wの切断厚さの区間における、並列ワイヤ部1aの振動を抑制する。これにより、ワイヤ並列ガイドローラ51a,51bは、並列ワイヤ部1aおよび切断ワイヤ部1bの配列間隔を高精度に保持して、並列ワイヤ部1aおよび切断ワイヤ部1bを走行させることができる。
なお、図2に示すように、ワイヤ並列ガイドローラ51a,51bが各々の回転軸のまわりに回転可能となるようにワイヤ並列ガイドローラ51a,51bを支持する軸受けを備えた一対のガイドローラホルダ55a,55bによって、ワイヤ並列ガイドローラ51a,51bは支持される。
一対のガイドローラホルダ55a,55bは、y軸方向において被加工物Wを挟むようにして、ワイヤ並列ガイドローラ51a,51bの各々の回転軸がx軸方向に平行に配置されるように、被加工物Wの両側に固定される。ガイドローラホルダ55aは、図3に示すように、ワイヤ並列ガイドローラ51aの上端部分51a1が当該ガイドローラホルダ55aの上面55a1から上方に突出した状態で、ワイヤ並列ガイドローラ51aの回転軸51a2を支持して、ワイヤ並列ガイドローラ51aを支持する。同様に、ガイドローラホルダ55bは、ワイヤ並列ガイドローラ51bの不図示の上端部分が当該ガイドローラホルダ55bの不図示の上面から上方に突出した状態で、ワイヤ並列ガイドローラ51bの回転軸を支持して、ワイヤ並列ガイドローラ51bを支持する。
ノズル7aは、y軸方向において制振ガイドローラ4aと被加工物Wとの間に配置されている。ノズル7bは、y軸方向において制振ガイドローラ4bと被加工物Wとの間に配置されている。ノズル7a,7bのそれぞれは、複数の並列ワイヤ部1aをワイヤ並列ガイドローラ51a,51bとの間に挟んだ状態で、且つz軸方向において複数の並列ワイヤ部1aと離間した状態で、複数の並列ワイヤ部1aの上方の位置に配置されている。ノズル7a,7bの内部には、加工液供給管62から供給される加工液が充填されている。ノズル7a,7bは、内部に充填された加工液を薄板加工安定部70内の被加工物Wに向けて噴出する加工液噴出孔7cを有する。並列ワイヤ部1aは、ノズル7a,7bの加工液噴出孔7cの下を走行する。
なお、ノズル7a,7bには、加工液タンクおよびポンプが接続されてもよい。また、被加工物Wが固定された薄板加工安定部70を加工液が溜められた加工槽の内側に設置し、被加工物Wを加工液に浸漬した状態にして放電加工を実行してもよい。
ワイヤ放電加工装置1000においては、ワイヤ並列ガイドローラ51a,51bがワイヤ電極1のx軸方向の動きを制限し、さらに、制振ガイドローラ4a,4bがワイヤ電極1のz軸方向の動きを制限することによって、切断ワイヤ部1bにおけるワイヤ電極1の振動が抑制される。なお、並列ワイヤ部1aにおける被加工物Wに対向する部分に関しては、切断ワイヤ部1bと称すると前述したが、並列ワイヤ部1aにおける、ワイヤ並列ガイドローラ51a上とワイヤ並列ガイドローラ51b上との部分、およびワイヤ並列ガイドローラ51aとワイヤ並列ガイドローラ51bとの間の部分も、切断ワイヤ部1bと称することにする。なお、ワイヤ放電加工装置1000においては、制振ガイドローラ4aおよび制振ガイドローラ4bを省くことも可能である。
切断送りステージ10は、被加工物Wと、切断ワイヤ部1bと、の間の相対位置を変化させる。具体的に、切断送りステージ10は、被加工物Wが固定された被加工物固定板42と、切断ワイヤ部1bと、の間の相対位置を変化させる。実施の形態1では、切断ワイヤ部1bのz軸方向の位置が固定されており、切断送りステージ10がz軸方向に移動可能であるものとする。切断送りステージ10は、被加工物Wを上下方向に移動させる。ワイヤ放電加工装置1000は、切断送りステージ10の上下方向への移動によって、被加工物Wを切断ワイヤ部1bに対して相対的に接近あるいは離反させて、被加工物Wを切断する。また、被加工物Wへの放電加工によって、被加工物Wには、切断ワイヤ部1bに沿った加工溝が形成される。なお、切断送りステージ10は、x軸方向、y軸方向およびz軸方向に移動可能とされてもよい。
加工機構部100は、ワイヤ電極1の振動を抑制するガイド用プーリ、ワイヤ電極1の張力を測定するロードセル、ワイヤ電極1の張力を制御するダンサローラ等の構成部を備えてもよい。加工機構部100は、ロードセルおよびダンサローラによって、ワイヤ電極1の張力をワイヤ電極1の走行に適した範囲に維持してもよい。例えば、ダンサローラは、ワイヤ電極1の繰り出し速度および巻き取り速度を変化させることによって、ワイヤ電極1の張力を制御してもよい。
給電部200は、加工用電源5と、給電子ユニット6a,6bとを備える。加工用電源5は、ワイヤ電極1に接続する給電子ユニット6a,6bを介してワイヤ電極1に対して給電を行う。また、加工用電源5は、後述する加工液整流板71aを介して被加工物Wに対して給電を行う。給電手段である給電子ユニット6a,6bは、複数の給電子11の集合体である。各給電子11は、互いに絶縁されている。切断ワイヤ部1bの各ワイヤ電極1は、給電子11から給電されてそれぞれ加工電流が流れる。電源手段である加工用電源5は、給電側の端子が給電子ユニット6a,6bにそれぞれ電気接続されており、接地側の端子は被加工物Wに電気接続されている。したがって、加工用電源5から出力される電圧パルスは切断ワイヤ部1bのワイヤ電極1と被加工物Wとの間に印加されることとなる。加工用電源5と、複数の給電子11および被加工物Wとは、給電線12a、12bにより電気接続されている。
薄板加工安定部70は、切断加工中の各薄板への給電不良を防止する機構部である。薄板加工安定部70は、制振ガイドローラ4aと制振ガイドローラ4bとの間、且つノズル7aとノズル7bとの間に配置されている。薄板加工安定部70は、一対の加工液整流板71である加工液整流板71aおよび加工液整流板71bと、被加工物押さえ部72と、を備える。
一対の加工液整流板71である加工液整流板71aおよび加工液整流板71bは、導電性を有し、切断ワイヤ部1bの走行方向と平行に配置され、加工液の流れを整流する。加工液整流板71aおよび加工液整流板71bは、ノズル7aとノズル7bとの間に配置されている。加工液整流板71aと加工液整流板71bとは、板状あるいは直方体形状を有し、互いに対向する面が平行とされて配置されている。
加工液整流板71aは、一対の加工液整流板71のうち第1の加工液整流板であり、加工用電源5に接続されている。これにより、被加工物Wへの放電加工用電源の給電は、被加工物Wの端面に接触する加工液整流板71aから行われる。
加工液整流板71bは、一対の加工液整流板71のうち第2の加工液整流板であり、被加工物固定板42に固定された被加工物Wを加工液整流板71aとの間に挟んだ状態で、加工液整流板71aと平行に配置される。
また、加工液整流板71bは、被加工物Wに密接し、ノズル7a,7bから供給される加工液を被加工物Wへ誘導する流路を、加工液整流板71aと共に形成する。ノズル7a,7bからは、加工液整流板71aと加工液整流板71bとの間の間隙に、被加工物Wに向けて加工液が供給される。これにより、加工液が、形成途中の薄板の厚さ方向に、すなわちx軸方向に拡散することが抑制される。
ワイヤ放電加工装置1000では、ノズル7a,7bから供給される加工液が上記のように整流されるため、加工液の拡散が抑制され、形成途中の薄板が加工液によって揺さぶられて割れる可能性が低減される。
被加工物Wは、加工液整流板71aと加工液整流板71bとの間に挟まれた状態で、薄板加工安定部70の内部で被加工物固定板42に載置されて固定されている。被加工物Wは、切断送りステージ10に載置された被加工物Wを固定するための不図示の治具によって被加工物固定板42の上に固定される。
被加工物Wが半導体ウエハ用素材である場合には、切断加工された薄板が円形の薄板となるように、被加工物Wの形状が、あらかじめ円柱形状に成形されていることが多い。ここでは、円柱形状の被加工物Wの曲面をなす円柱側面を、外周側面と記載する。また、被加工物Wは、外周側面が切断ワイヤ部1bに対向するように、薄板加工安定部70の内部で被加工物固定板42に配置される。被加工物Wが切断ワイヤ部1bによって輪切りされることによって、被加工物Wから薄板であるウエハが加工される。
切断ワイヤ部1bと被加工物Wとの間の隙間である極間に或る値の電圧が印加され、極間距離が或る範囲の値になると、極間に放電が発生して切断ワイヤ部1bが発熱し、被加工物Wが溶融し、この結果、複数の板状部材が一括して切り出される。切断加工中に、加工液が被加工物Wと切断ワイヤ部1bとの間隙に供給されると、被加工物Wと切断ワイヤ部1bとの間に発生する加工屑を間隙の外へ排出させることができる。この加工屑は、被加工物Wと切断ワイヤ部1bとの間に短絡を発生させる原因となるため、加工液を供給することによって、短絡の発生頻度を低減することができる。
被加工物押さえ部72は、形成途中の複数枚の薄板を、当該複数枚の薄板における切り始め部側の外周側面側から押さえて、形成途中の複数枚の薄板を一括して固定する。被加工物押さえ部72は、形成途中の複数枚の薄板を一括して固定することにより、複数の薄板の切断面が受ける加工液流の液圧によって発生する被加工物Wの振動による、複数の薄板の揺さぶりを抑制することができる。
ワイヤ張架状態監視部400は、切断加工中に、並列ワイヤ部1aの張架状態を監視する。図4は、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000が備える制御部300とワイヤ張架状態監視部400との構成例を示すブロック図である。ワイヤ張架状態監視部400は、並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bと、ワイヤ案内溝外れ検出部53と、ワイヤ状態判定部54とを備える。並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bは、ワイヤ案内溝外れ検出部53に接続されている。ワイヤ案内溝外れ検出部53は、ワイヤ状態判定部54に接続されている。ワイヤ状態判定部54は、制御部300の加工制御装置31に接続されている。これにより、切断ワイヤ部1bのワイヤ張架状態監視部400が構成されている。
一対の並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bは、図2および図3に示すように、ガイドローラホルダ55a,55bに設置されている。一対の並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bは、ワイヤ並列ガイドローラ51a,51bのワイヤ案内溝51cに張架されて並走するワイヤ電極1に対向した状態で、ガイドローラホルダ55a,55bに設置されている。
並列ワイヤ張架位置計測部52aは、ガイドローラホルダ55aにおいて、一対のワイヤ並列ガイドローラ51a,51b間に対応する位置であって、切断ワイヤ部1bが上方を通過する位置に配置されている。すなわち、並列ワイヤ張架位置計測部52aは、ガイドローラホルダ55aにおいて、y軸方向におけるワイヤ並列ガイドローラ51aよりも被加工物W側の位置であって、切断ワイヤ部1bの下方の位置に配置されている。
並列ワイヤ張架位置計測部52bは、ガイドローラホルダ55bにおいて、一対のワイヤ並列ガイドローラ51a,51b間に対応する位置であって、切断ワイヤ部1bが上方を通過する位置に配置されている。すなわち、並列ワイヤ張架位置計測部52bは、ガイドローラホルダ55bにおいて、y軸方向におけるワイヤ並列ガイドローラ51bよりも被加工物W側の位置であって、切断ワイヤ部1bの下方の位置に配置されている。
切断ワイヤ部1bは、ガイドローラホルダ55a,55bの上方を通過する。高さ方向において、ガイドローラホルダ55a,55bの各々の上面と切断ワイヤ部1bとの距離は1mm以下に設定される。このため、ガイドローラホルダ55a,55bに設置される並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bのセンサの端面は、ガイドローラホルダ55a,55bの上面と概略同じ高さとなるように設置されている。並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bのセンサの端面は、並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bの上面である。図3に示す例では、並列ワイヤ張架位置計測部52aのセンサの端面である上面52a1は、ガイドローラホルダ55aの上面55a1と概略同じ高さとなるように設置されている。
なお、切断ワイヤ部1bに干渉しない範囲であり、かつ、並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bのセンサの検出能力範囲内であれば、高さ方向における並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bの設置位置は、ガイドローラホルダ55a,55bの各々の上面との距離が必ずしも1mm以下に設定される必要はない。
一対の並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bは、切断加工中に、当該並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bに対向する並列ワイヤ部1aまでの高さ方向における距離Lを予め決められた周期で計測し、当該距離Lの変化を監視する。並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bに対向する並列ワイヤ部1aまでの高さ方向における距離Lは、予め決められた測定基準面であるガイドローラホルダ55a,55bの上面55a1と、並列ワイヤ部1aと、の高さ方向における距離Lと、換言できる。すなわち、一対の並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bの各々は、切断加工中に、予め決められた測定基準面であるガイドローラホルダ55a,55bの上面55a1と、並列ワイヤ部1aと、の高さ方向における距離Lを計測する。
一対の並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bは、一対のワイヤ並列ガイドローラ51a,51b間で並列する切断ワイヤ部1bのワイヤ電極1を含む仮想の同一平面と概略平行なガイドローラホルダ55a,55bの上面55a1を予め決められた測定基準面とし、当該測定基準面の高さに合わせて並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bの検出部の先端部である並列ワイヤ張架位置計測部52aの上面52a1の高さ位置が設定される。並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bの検出部の先端部は、並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bのセンサの端面である。
したがって、一対の並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bは、当該一対の並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bの検出部の先端部と、並列ワイヤ部1aと、の高さ方向における距離Lを予め決められた周期で計測する。そして、一対の並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bは、複数の切断ワイヤ部1bを含む仮想面に平行に設定された測定基準面と、複数の切断ワイヤ部1bを構成するワイヤ電極1との距離Lを計測する。一対の並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bは、計測結果である距離Lの情報を、ワイヤ案内溝外れ検出部53に送信する。
一対の並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bは、センサとして、渦電流式変位センサ、静電容量式変位センサ、通電検知式センサおよび接触検知式変位センサのうち少なくとも1つを備え、当該センサにより距離Lを計測する。
ワイヤ案内溝外れ検出部53は、並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bの計測結果に基づいて、並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bで検出された距離Lの、あらかじめ決められた基準を超える変化の発生を検出する。すなわち、ワイヤ案内溝外れ検出部53は、並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bと並列ワイヤ部1aとの高さ方向における距離Lの計測結果を取得する。そして、ワイヤ案内溝外れ検出部53は、取得した距離Lの計測結果と、予め決められた基準である距離閾値とを比較することにより、距離Lが距離閾値を超える距離Lの変化の発生を検出する。すなわち、ワイヤ案内溝外れ検出部53は、距離Lがあらかじめ決められた基準を超える変化の発生を検出する。
図5は、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000におけるワイヤ並列ガイドローラ51aと並列ワイヤ部1aとガイドローラホルダ55aとの位置関係を示す図である。図5では、図3におけるV-V線に沿ったワイヤ並列ガイドローラ51aおよび並列ワイヤ部1aの縦断面と、ガイドローラホルダ55aとの位置関係を示している。すなわち、図5では、ワイヤ並列ガイドローラ51a,51b間で張架された並列ワイヤ部1aおよびワイヤ並列ガイドローラ51aを図3の矢印103の方向から見た場合のワイヤ並列ガイドローラ51aの回転軸51a2を通る縦断面と、ガイドローラホルダ55aとの位置関係を示している。また、図5では、ワイヤ並列ガイドローラ51aにおける複数のワイヤ案内溝51cに並列ワイヤ部1aが掛かり、ワイヤ並列ガイドローラ51aにおける複数のワイヤ案内溝51cに並列ワイヤ部1aがはまり込んだ状態を示している。また、図5では、上述した一対のワイヤ並列ガイドローラ51a,51b間で並列する並列ワイヤ部1aのワイヤ電極1を含む仮想の同一平面である平面43も示している。
図6は、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000が備えるワイヤ並列ガイドローラ51a,51bにおける複数のワイヤ案内溝51cに張架された状態の並列ワイヤ部1aを示す模式図である。図6は、図5の一部に対応する図である。図6では、並列ワイヤ部1aがワイヤ案内溝51cの最深部にはまり込んでいる正常な状態を示している。
図7は、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000が備えるワイヤ並列ガイドローラ51a,51bにおけるワイヤ案内溝51cから並列ワイヤ部1aが外れた状態の一例を示す第1の模式図である。図7では、一部の並列ワイヤ部1aが、上述した外乱によりワイヤ並列ガイドローラ51aのワイヤ案内溝51cから外れ、ワイヤ並列ガイドローラ51aの外周面51dに乗り上げた状態である、異常な状態を示している。
図8は、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000が備えるワイヤ並列ガイドローラ51aにおけるワイヤ案内溝51cから並列ワイヤ部1aが外れた状態の一例を示す第2の模式図である。図8では、図7に示した状態においてワイヤ案内溝51cから外れた並列ワイヤ部1aがさらに移動し、当該並列ワイヤ部1aが隣のワイヤ案内溝51cにはまり込んだ状態を示している。
図9は、図6に示す状態におけるワイヤ案内溝外れ検出部53の検出値の一例を示す図である。図10は、図7に示す状態におけるワイヤ案内溝外れ検出部53の検出値の一例を示す図である。図11は、図8に示す状態におけるワイヤ案内溝外れ検出部53の検出値の一例を示す図である。図9から図11は、並列ワイヤ部1aの張架状態に対応しており、電気信号に変換された、並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bに対向する並列ワイヤ部1aと並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bとの高さ方向における距離Lの検出値をグラフ形式で示している。図9から図11における横軸は、計測時間を示している。図9から図11における縦軸は、電気信号に変換された距離Lの検出値を示している。
並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bによって計測される、当該並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bの各々の検出部が対向する並列ワイヤ部1aとの距離Lは、高さ方向におけるワイヤ案内溝51cの位置によって決定され、放電加工が安定した状態では大きく変動しない。しかしながら、加工条件の変化に伴う加工液流の変化または放電エネルギーの増大によるワイヤ張力の変動などの外乱によって、図7および図8に示されるように、並列ワイヤ部1aの整列状態に異常が発生する場合がある。
すなわち、ワイヤ放電加工装置1000における切断加工時、並列ワイヤ部1aの張架方向に沿ってノズル7a,7bから加工液が加工溝に向けて噴出される。円柱形状の被加工物Wを切断する場合、切断厚さに対応して加工液の流量が調整される。しかしながら、加工液の流量の調整は、並列ワイヤ部1aへの加振の要因および並列ワイヤ部1aの張力変動の要因となる。また、放電加工を高速化するために、放電エネルギーを増大すると、放電による反発力が大きくなる。放電による反発力の増大は、同様に並列ワイヤ部1aへの加振の要因および並列ワイヤ部1aの張力変動の要因となる。あるいは、切断加工時に発生した加工屑などの異物がワイヤ並列ガイドローラ51a,51bにおけるワイヤ案内溝51cに介在することにより、局所的にワイヤ案内溝51cにおける並列ワイヤ部1aの架かりが浅くなる状態となる。
また、ワイヤ放電加工装置1000における切断加工時、並列ワイヤ部1aは、放電の衝撃力によって、被加工物Wの加工面の方向とは反対の方向に押し出されて撓む。被加工物Wの加工面の方向は、並列ワイヤ部1aによる被加工物Wの加工進行方向である。被加工物Wの加工面の方向とは反対の方向は、反加工進行方向といえる。すなわち、並列ワイヤ部1aは、切断加工時に放電の衝撃力によって反加工進行方向に押し出されて撓む。切断加工時に反加工進行方向に並列ワイヤ部1aを押し出す放電の衝撃力を放電反発力と呼ぶ。
ワイヤ放電加工装置1000における切断加工時、並列ワイヤ部1aは、上述した外乱によって、ワイヤ並列ガイドローラ51a,51bのワイヤ案内溝51cの最深部ではなく、ワイヤ案内溝51cにおけるV溝状の片側斜面に押し付けられる状態となり、さらには、ワイヤ案内溝51cから外れ、隣接するワイヤ案内溝51cとの間のワイヤ並列ガイドローラ51a,51bの外周面51dに乗り上げた状態となって走行が継続される。この結果、並列ワイヤ部1aによる放電加工が進行すると、以降に加工された薄板には、板厚が急変する領域が発生し、板厚が均一な薄板を一括して切断加工することができなくなる。
図9から、距離Lが距離L1で一定で推移しており、並列ワイヤ部1aがワイヤ案内溝51cの最深部にはまり込んでいる正常な状態であることが分かる。図10から、時刻T1から距離Lが距離L2に変化し始めており、並列ワイヤ部1aがワイヤ並列ガイドローラ51a,51bにおけるワイヤ案内溝51cから外れ始め、ワイヤ並列ガイドローラ51aの外周面51dに乗り上げた状態となったことが分かる。また、図11から、時刻T2から、距離L2が距離L3に変化し始めており、ワイヤ案内溝51cから外れた並列ワイヤ部1aが、さらに移動し、当該並列ワイヤ部1aが隣のワイヤ案内溝51cにはまり込んだ状態となったことが分かる。
すなわち、図6に示す並列ワイヤ部1aのワイヤ張架状態では、いずれのワイヤ電極1もワイヤ案内溝51cにはまり込んだ状態で張架されている。このため、並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bにおける距離Lの検出値は、図9に示すように一定値の距離L1が検出される。
図7では、複数のワイヤ案内溝51cのうち一部のワイヤ案内溝51cから並列ワイヤ部1aのワイヤ電極1が外れたことにより、並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bの検出値が図10に示すように距離Lが定常状態の距離L1から距離L2に変化し、並列ワイヤ部1aのワイヤ張架状態に異常が発生したことがワイヤ案内溝外れ検出部53で検出される。
図8では、ワイヤ案内溝51cから外れた並列ワイヤ部1aのワイヤ電極1が隣接するワイヤ案内溝51cにはまり込んだことによって、並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bの検出値が図11に示すように距離Lが距離L2から距離L3に変化し、並列ワイヤ部1aのワイヤ張架状態に変化が生じたことがワイヤ案内溝外れ検出部53で検出される。
上述したように、切断加工中、監視される並列ワイヤ部1aの高さ方向における張架位置を示す距離Lの変化は、並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bで検出される。そして、計測結果である距離Lの検出値の情報は、並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bからワイヤ案内溝外れ検出部53に送られる。ワイヤ案内溝外れ検出部53は、並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bの検出値を電気信号に変換し、距離Lの変化を差分ΔLとして算出する。図7の例では、距離L1から距離L2への変化が差分ΔLとして算出される。
ワイヤ案内溝外れ検出部53は、差分ΔLがあらかじめ決められた基準を超える場合に、差分ΔLの情報をワイヤ状態判定部54に送信することにより、距離Lのあらかじめ決められた基準を超える変化の発生をワイヤ状態判定部54に通知する。あらかじめ決められた基準は、ワイヤ案内溝外れ検出部53に記憶されている。
ワイヤ状態判定部54は、ワイヤ案内溝外れ検出部53における検出結果に基づいて、少なくとも1つの並列ワイヤ部1aがワイヤ案内溝51cから外れた状態であるワイヤ外れ状態であるか、あるいは全ての並列ワイヤ部1aがワイヤ案内溝51cに接触した状態であるワイヤ接触状態であるかを判定する。ワイヤ状態判定部54は、ワイヤ案内溝外れ検出部53から送信された差分ΔLをあらかじめ決められた距離Lの判定基準値と比較することにより、並列ワイヤ部1aの張架状態の変化の有無を判定する。ワイヤ状態判定部54は、差分ΔLがあらかじめ決められた距離Lの判定基準値を超えている場合に、並列ワイヤ部1aの張架状態、すなわち切断ワイヤ部1bの張架状態に変化が有ると判定する。この場合は、ワイヤ電極1の並列異常発生時である。ワイヤ状態判定部54は、差分ΔLがあらかじめ決められた距離Lの判定基準値を超えていない場合に、並列ワイヤ部1aの張架状態、すなわち切断ワイヤ部1bの張架状態に変化が無いと判定する。
ワイヤ状態判定部54は、制御部300の加工制御装置31に対して、判定結果であり状態監視情報である並列ワイヤ張架状態情報psを送信する。
制御部300は、ワイヤ放電加工装置1000の全体を制御する。制御部300は、ワイヤ張架状態監視部400のワイヤ状態判定部54から送信された状態監視情報に基づいて、ワイヤ放電加工装置1000の全体を制御する。制御部300は、加工制御装置31と、放電波形制御装置32と、切断ステージ駆動制御装置34と、ワイヤ走行制御装置35と、を備える。
加工制御装置31は、ワイヤ張架状態監視部400のワイヤ状態判定部54から取得した並列ワイヤ張架状態情報psに基づいて、放電波形制御装置32、切断ステージ駆動制御装置34およびワイヤ走行制御装置35を制御する。
放電波形制御装置32は、加工制御装置31から入力される放電波形指令wcに基づいて加工用電源5を制御し、極間に印加される電圧波形または極間に流れる電流波形を制御する。
ワイヤ走行制御装置35は、加工制御装置31から入力されるワイヤ電極走行指令rcに基づいてボビン回転制御装置8a,8bを駆動制御し、ワイヤ電極1の走行を制御する。また、ワイヤ走行制御装置35は、加工制御装置31から入力されるワイヤ電極走行指令rcに基づいてトラバース制御装置9a,9bを駆動制御し、トラバース制御を制御する。
切断ステージ駆動制御装置34は、加工制御装置31から入力されるステージ指令scに基づいて切断送りステージ10を駆動し、被加工物Wと切断ワイヤ部1bとの間の相対位置を制御する。
図12は、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000の切断加工時の動作を示すフローチャートである。
切断加工が開始されると、ステップS110において、並列ワイヤ張架位置計測工程が行われる。すなわち、並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bが、上述したように複数の切断ワイヤ部1bを含む仮想面に平行に設定された測定基準面と、複数の切断ワイヤ部1bを構成するワイヤ電極1との距離Lを計測する。並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bは、計測結果である距離Lの情報を、ワイヤ案内溝外れ検出部53に送信する。
つぎに、ステップS120において、ワイヤ案内溝外れ検出工程が行われる。すなわち、ワイヤ案内溝外れ検出部53が、上述したように並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bにおける計測結果に基づいて距離Lの変化の発生を検出する。ワイヤ案内溝外れ検出部53は、距離Lの変化を差分ΔLとして算出する。ワイヤ案内溝外れ検出部53は、差分ΔLがあらかじめ決められた基準を超える場合に、差分ΔLの情報をワイヤ状態判定部54に送信する。
つぎに、ステップS130において、ワイヤ状態判定工程が行われる。すなわち、ワイヤ状態判定部54が、ワイヤ案内溝外れ検出部53における検出結果に基づいて、少なくとも並列ワイヤ部1aの1つのワイヤ電極1がワイヤ案内溝51cから外れた状態であるワイヤ外れ状態であるか、あるいは並列ワイヤ部1aの全てのワイヤ電極1がワイヤ案内溝51cに接触した状態であるワイヤ接触状態であるかを判定する。ワイヤ状態判定部54は、並列ワイヤ部1aの張架状態に変化が有ると判定した場合に、制御部300の加工制御装置31に対して、状態監視情報である並列ワイヤ張架状態情報psを送信する。
つぎに、ステップS140において、加工制御工程が行われる。すなわち、加工制御装置31が、ワイヤ状態判定部54の判定結果である並列ワイヤ張架状態情報psに基づいて放電加工の停止または継続を制御する。加工制御装置31は、並列ワイヤ張架状態情報psが、並列ワイヤ部1aの張架状態、すなわち切断ワイヤ部1bの張架状態に変化が無い旨の情報である場合に、放電加工の継続を制御する。加工制御装置31は、並列ワイヤ張架状態情報psが、並列ワイヤ部1aの張架状態、すなわち切断ワイヤ部1bの張架状態に変化が有る旨の情報である場合に、放電加工の停止を制御する。すなわち、加工制御装置31は、ワイヤ電極1の並列異常発生と同時にワイヤ放電加工を停止する。
上述したように実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000は、並列ワイヤ部1aのワイヤ電極1がワイヤ案内溝51cから外れたことによる並列異常状態を当該並列異常状態の発生直後に検出できる。並列異常状態は、本来は1対のワイヤ並列ガイドローラ51a,51b間に平行かつ等間隔に張架される切断ワイヤ部1bの複数のワイヤ電極1が、平行かつ等間隔に張架されていない状態となった異常である。すなわち、ワイヤ放電加工装置1000は、ワイヤ電極1の位置ずれを的確に且つ早期に検知することができ、ワイヤ電極1の位置ずれに起因する不具合を的確に且つ早期に検知することができる。そして、ワイヤ放電加工装置1000は、並列ワイヤ部1aの一部のワイヤ電極1がワイヤ案内溝51cから外れたことによる並列異常状態を発生直後に検出でき、ワイヤ電極1の並列異常発生と同時にワイヤ放電加工が停止されるので、並列ワイヤ部1aのワイヤ電極1の並列間距離が切断加工途中で変化した放電加工による、板厚が途中変動した薄板が大量に加工されることを防止することができる。
また、ワイヤ放電加工装置1000は、ワイヤ電極1の並列異常発生と同時に切断加工を停止するので、切断加工中の薄板の表面に形成される異常部分を最小限に留められる。これにより、ワイヤ放電加工装置1000は、並列ワイヤ部1aの並列状態が修復処置された後に、加工不安定になることなく加工停止位置から切断加工を再開することができ、薄板の加工精度が向上し、薄板加工の歩留まりを向上することができる。このため、ワイヤ放電加工装置1000は、たとえば半導体インゴットの切断加工を行う際に、高価な半導体結晶を無駄にすることがなく、ウエハ生産コストを低減することができる。
また、ワイヤ放電加工装置1000は、並列ワイヤ部1aの並列異常状態における切断加工を早期に停止できるので、切断加工中の極間における加工液供給量の低下および加工屑排出の障害となる、被加工物Wの加工溝の蛇行部分が形成されることを防止でき、ワイヤ電極1の断線を防止することができる。
また、ワイヤ放電加工装置1000は、並列ワイヤ張架位置計測部52a,52bが、センサとして、渦電流式変位センサ、静電容量式変位センサ、通電検知式センサおよび接触検知式変位センサのうち少なくとも1つを備え、当該センサにより距離Lを計測する。これにより、ワイヤ放電加工装置1000は、並列ワイヤ部1aの一部のワイヤ電極1がワイヤ案内溝51cから外れたことによる並列異常状態を、当該並列異常状態の発生直後に的確に且つ早期に検知することができる。
したがって、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000によれば、ワイヤ電極1の位置ずれに起因する不具合を的確に検知することができるワイヤ放電加工装置1000が得られる、という効果を奏する。そして、ワイヤ放電加工装置1000によれば、被加工物Wから一括して切断加工される薄板の板厚を均一にすることが可能である、という効果を奏する。
実施の形態2.
実施の形態2では、ワイヤ放電加工装置1000の他の機能について説明する。切断ワイヤ部1bによって薄板を一括して切断加工するワイヤ放電加工装置1000は、あらかじめ決められた間隔で並列走行する並列ワイヤ部1aのワイヤ電極1の各々に対し、加工用電源5から個別に加工電源を給電する。加工電源は、並列ワイヤ部1aのワイヤ電極1の各々に対してパルス的に供給され、あらかじめ決められた電源供給時間もしくは電圧印加時間の間のみ供給される。
たとえば、パルス印加される電圧と電圧との間には、決められた時間間隔の、電圧が印加されない休止時間が設定される。また、加工用電源5では、並列ワイヤ部1aのワイヤ電極1に対して加工電源を給電するための高周波のパルス発振指令に対応するために、複数台の電源装置を組み合わせ、短時間で電源のオン動作および電源のオフ動作を可能にする方式が用いられている。このような加工用電源5では、並列ワイヤ部1aのワイヤ電極1の各々に対して加工電源が印加されていないオフの状態から並列ワイヤ部1aのワイヤ電極1の各々に対して加工電源が印加されるオンの状態へ切り換わるタイミングによっては、電源装置内において同時に電源がオンされた状態となるアーム短絡によって電源装置が破損する場合がある。
ワイヤ放電加工装置1000では、このような電源装置の破損の可能性を回避するため、並列ワイヤ部1aのワイヤ電極1に電源が印加されないオフ時間に加えて、組み合わされた全ての電源装置の電圧印加をオフ状態にするデッドタイムと呼ばれる時間も設定される。上述したような、加工用電源5から各給電子11もしくは給電子ユニット6a,6bへのパルス給電は、加工制御装置31と放電波形制御装置32とによって制御される。
ワイヤ放電加工装置1000では、切断加工中は、給電線12a,12bによって加工用電源5と接続された給電子11を介して並列ワイヤ部1aの各々のワイヤ電極1と被加工物Wとの間に電圧がパルス印加されて放電が発生する。切断ワイヤ部1bのワイヤ電極1と被加工物Wとの極間で発生する放電の放電波形は、加工電源印加時点の切断ワイヤ部1bのワイヤ電極1と被加工物Wとの極間の距離に対応して変動する。
加工電源印加時点の切断ワイヤ部1bのワイヤ電極1と被加工物Wとが相対的に離れている状態、すなわち加工電源印加時点の切断ワイヤ部1bのワイヤ電極1と被加工物Wとの極間距離が相対的に長い状態の放電波形は、ピークが相対的に低くなる。また、加工電源印加時点の切断ワイヤ部1bのワイヤ電極1と被加工物Wとが相対的に接近している状態、すなわち加工電源印加時点の切断ワイヤ部1bのワイヤ電極1と被加工物Wとの極間距離が相対的に短い状態の放電波形は、ピークが相対的に高くなる。加工電源印加時点の切断ワイヤ部1bのワイヤ電極1と被加工物Wとの極間距離が適切な極間距離にある状態では、開放状態と短絡状態との中間的なピークの放電波形となる。
ここで、「開放状態」と「短絡状態」について説明する。切断ワイヤ部1bと被加工物Wとの間に加工電源がパルス印加されると、切断ワイヤ部1bと被加工物Wとの距離に対応して、すなわち、極間距離に対応して、発生する放電パルスの大きさが変化する。切断ワイヤ部1bと被加工物Wとの間の隙間である極間の距離である極間距離が離れていると、極間で放電が発生しにくい状態となり、放電が発生しないと放電電流も流れない状態となる。このように極間に放電が発生せず放電電流が流れない状態を「開放状態」と定義している。
また、開放状態では、パルス印加時間中の放電電圧波形は、印加された電圧レベルをほぼ維持し、放電電流波形は低い値となる。ただし、加工液として用いられる脱イオン水の比抵抗、すなわち脱イオン水の被導電率と、隣接する給電子11同士の絶縁抵抗の大きさとによっては、多少の漏れ電流として放電電流が検出されることがある。
一方、切断ワイヤ部1bが被加工物Wに極度に接近し、あるいは切断ワイヤ部1bが被加工物Wに接触すると、極間ではパルス印加とほぼ同時に放電が発生し、極間の絶縁抵抗が小さいため、大きな放電電流が流れる状態となる。このような状態を、「短絡状態」と定義している。
脱イオン水中において放電加工する方式を採用するワイヤ放電加工装置1000では、極間に介在する脱イオン水の比抵抗によって極間が絶縁される。しかしながら、極間距離が狭くなると極間の比抵抗が下がるため、抵抗ロスの少ない放電電流、あるいは、加工用電源5から供給される電流が極間に流れる状態となる。この状態において、放電電圧は大きく低下し、放電電流は高いピークの波形となる。
「ワイヤ電極1bと被加工物Wが適切な極間距離にある状態」とは、極間距離が、上記の短絡状態でも開放状態でもない距離にある状態に分類される。極間距離を切断加工中に直接測定することは困難であるため、ワイヤ放電加工装置1000では、発生する放電波形の状態を常時監視する。そして、ワイヤ放電加工装置1000では、開放状態でもなく短絡状態でもない放電状態が継続発生している状態から「開放状態」あるいは「短絡状態」へ移行する傾向が放電波形において検出されると、印加電圧、加工電流、放電周波数、電圧印加パルス時間、パルス印加休止時間などの各種条件を調整する加工制御によって、安定した放電状態を継続させる。
ワイヤ放電加工装置1000は、上述のような放電波形を監視し、切断加工中の切断ワイヤ部1bのワイヤ電極1と被加工物Wとの極間の状態を推定し、切断加工が安定する放電波形が多く発生するように切断加工を制御する。
加工制御装置31は、放電波形制御装置32に対し、放電加工中の放電パルスの発振周波数、あるいは、放電パルスのオン時間とオフ時間とを指令する指令情報を送信し、加工用電源5から切断ワイヤ部1bのワイヤ電極1と被加工物Wとの極間に供給される放電エネルギーを制御する。加工制御装置31は、切断ステージ駆動制御装置34に対し、加工送り速度を指令する指令情報を送信し、極間距離を制御する。
上述のようなワイヤ放電加工装置1000による薄板加工では、例えば、半導体ウエハ用素材などの比抵抗が相対的に高い被加工物Wにおいて、切断ワイヤ部1bが被加工物Wに完全に接触した状態でも放電加工が継続される状況が稀に発生する。この状況は、切断ワイヤ部1bが被加工物Wに完全に接触した状態で切断ワイヤ部1bに流れる加工電流が、ワイヤ電極1を溶断させるに足る熱量のパルス発振条件ではなかった場合、または切断ワイヤ部1bと被加工物Wとの間における短絡が切断ワイヤ部1bの一部の領域で発生しつつも、切断ワイヤ部1bにおけるその他の部分では極間で通常の放電が発生し、放電切断加工が継続している場合などであり、短絡が継続する状況を正確に観測もしくは判別できないことに起因する。
上述したように、切断ワイヤ部1bと被加工物Wとが短絡し、且つ、切断ワイヤ部1bが断線することなく被加工物Wに接触した状態で薄板の切断加工が継続されると、被加工物Wに接触した状態の切断ワイヤ部1bのワイヤ電極1では、ワイヤ電極1が被加工物Wと短絡した位置以降では切断加工が進行しない。このような状況にもかかわらず、被加工物Wと短絡した切断ワイヤ部1bのワイヤ電極1は、被加工物Wに接触した状態で切断送りステージ10によって被加工物Wとともに引っ張り上げられながら上昇を続ける。
実施の形態2においてワイヤ放電加工装置1000は、ワイヤ接触加工状態監視部500を備える。図13は、実施の形態2におけるワイヤ放電加工装置1000のワイヤ接触加工状態監視部500の構成例を示す模式図である。図13では、切断ワイヤ部1bによる放電加工によって、円柱状の被加工物Wに対するワイヤ放電加工が被加工物Wの直径の1/2程度の位置まで進行したところでワイヤ電極1が被加工物Wに接触して短絡している状態を示している。また、図13では、薄板加工安定部70の図示を省略している。また、図13においては、ワイヤ張架状態監視部400の構成の図示を省略している。
ワイヤ接触加工状態監視部500は、切断加工中に、並列ワイヤ部1aとノズル7a,7bとの接触状態を監視する。図14は、実施の形態2におけるワイヤ放電加工装置1000が備える制御部300とワイヤ接触加工状態監視部500との構成例を示すブロック図である。ワイヤ接触加工状態監視部500は、ノズル接触検出装置75a,75bと、ワイヤ接触検出回路切換装置76と、ワイヤ接触判定装置77と、を備える。
ノズル接触検出装置75a,75bは、ワイヤ接触検出回路切換装置76およびノズル7a,7bに接続されている。ワイヤ接触検出回路切換装置76は、ノズル接触検出装置75a,75b、ワイヤ接触判定装置77および制御部300の放電波形制御装置32に接続されている。ワイヤ接触判定装置77は、ノズル接触検出装置75a,75b、加工用電源5と給電子11とを接続する給電線12a,12b、もしくは加工用電源5、および制御部300の加工制御装置31に接続されている。これにより、ワイヤ接触加工状態監視部500が構成されている。
ノズル接触検出装置75a,75bは、ノズル7a,7bと給電子11との間の電位差に関連する特性値を検出する。具体的に、ノズル接触検出装置75a,75bは、ワイヤ接触検出回路における電流、電圧、あるいは抵抗値を検出する。ノズル接触検出装置75a,75bは、検出結果であるワイヤ接触検出回路における電流、電圧、あるいは抵抗値の情報をワイヤ接触判定装置77に送信する。
ワイヤ接触検出回路は、ノズル接触検出装置75a,75bと、ノズル7a,7bと、切断ワイヤ部1bと、給電子11と、給電線12a,12bと、ワイヤ接触判定装置77とにより構成される。ワイヤ接触検出回路には、ワイヤ接触検出回路切換装置76の制御によってワイヤ接触検出用電源74から給電される。
ワイヤ接触検出回路切換装置76は、ワイヤ接触検出回路の開閉を制御する。ワイヤ接触検出回路切換装置76は、極間に加工電圧が印加されない加工電源オフ時間に、ワイヤ接触検出回路を接続、すなわちワイヤ接触検出回路を閉じる。また、ワイヤ接触検出回路切換装置76は、極間に加工電圧が印加される加工電源オン時間に、ワイヤ接触検出回路を切断、すなわちワイヤ接触検出回路を開く。
ワイヤ接触判定装置77は、ワイヤ接触検出回路における電流値、電圧値あるいは抵抗値の変化を監視する。ワイヤ接触判定装置77は、ワイヤ接触検出回路における電流値、電圧値あるいは抵抗値の変化を検知すると、並列ワイヤ部1aのワイヤ電極1とノズル7a,7bとの接触未検出による短絡加工継続状態と判定し、加工制御装置31に対して接触加工状態を示す信号ucを送信する。
本来、1対のワイヤ並列ガイドローラ51a,51b間に張架された切断ワイヤ部1bは、1対のワイヤ並列ガイドローラ51a,51bの間で被加工物Wから離間した状態で直線状の張架状態が維持される。一方、被加工物Wに接触した状態で切断送りステージ10によって引き上げられる切断ワイヤ部1bのワイヤ電極1は、やがて本来は接触するはずのないノズル7a,7bに接触する。図13では、被加工物Wに接触した状態で切断送りステージ10によって引き上げられる切断ワイヤ部1bのワイヤ電極1が、本来は接触するはずのないノズル7a,7bに接触した状態を示している。
図15は、実施の形態2におけるワイヤ放電加工装置1000の加工電圧印加とワイヤ接触検出との切り換えタイミングを示す特性図である。図15においては、加工電源印加指令パルスと、ワイヤ接触検出パルスとの波形が示されている。
加工電源印加指令パルスは、放電波形制御装置32が加工用電源5に対して加工電圧の印加タイミングを指令する指令パルスである。
ワイヤ接触検出パルスは、ワイヤ接触検出用電源74がワイヤ接触検出回路に、切断ワイヤ部1bのワイヤ電極1に被加工物Wが接触していることを検出するための検出用電源を給電するパルス電源である。ワイヤ接触検出パルスは、加工用電源5による極間への加工電圧の印加タイミングを指令する指令パルスである加工電源印加指令パルスとは逆位相で発振されるパルスである。ワイヤ接触検出パルスは、ワイヤ接触検出回路の開閉を切り替えるワイヤ接触検出回路切換指令パルスともいえる。
加工用電源5は、加工電圧の印加タイミングを指令する指令パルスである加工電源印加指令パルスを放電波形制御装置32から受け取ると、当該加工電源印加指令パルスに基づいて各々の給電子11に給電し、並列ワイヤ部1aの各々に対して個別に給電する。これにより、切断ワイヤ部1bと被加工物Wとの極間に電圧が印加される。
放電波形制御装置32からの加工電源印加指令パルスがLOWの状態では、加工電源印加指令パルスがLOWの状態の期間が、加工電源オフ時間P2となる。加工電源オフ時間P2の間は、加工用電源5から各々の給電子11に対して給電が行われない加工電源オフの状態となり、切断ワイヤ部1bと被加工物Wとの極間には加工電圧は印加されない。
加工電圧が印加されない加工電源オフ時間P2を経て加工電源印加指令パルスがHIGHの状態になると、加工電源印加指令パルスがHIGHの状態の期間が加工電源印加時間P1となる。加工電源印加時間P1の間は、加工用電源5から各々の給電子11に対して給電が行われる加工電源オンの状態となり、切断ワイヤ部1bと被加工物Wとの極間には加工電圧が印加される。加工電源印加指令パルスがHIGHの状態のときに極間に放電が発生すると、加工用電源5から給電子11へ加工電流が給電される。
上述のような極間に対する電圧印加動作が繰り返される一方で、放電波形制御装置32からワイヤ接触検出回路切換装置76へ指令パルスtcが送られる。
ワイヤ接触検出回路切換装置76は、極間に加工電圧が印加されていない加工電源オフ時間P2の場合、すなわち、放電波形制御装置32から加工用電源5に送信される加工電源印加指令パルスがLOWの状態の場合、ワイヤ接触検出回路を接続する。また、ワイヤ接触検出回路切換装置76は、放電波形制御装置32から加工用電源5に送信される加工電源印加指令パルスがHIGHの状態になり、極間に加工電圧が印加される加工電源オンの時間中、すなわち加工電源印加時間P1の時間中は、ワイヤ接触検出回路を切断する。
加工電源オフ時間P2は、ワイヤ接触検出パルスがHIGHの状態の期間に対応する。また、ワイヤ接触検出パルスがLOWの状態の期間は、ワイヤ接触検出回路に検出用電源が給電されていない検出用電源オフ時間P3となる。また、ワイヤ接触検出パルスがHIGHの状態の期間は、ワイヤ接触検出回路に検出用電源が給電され、被加工物Wと切断ワイヤ部1bとの間の短絡の有無が検出される短絡検出時間P4となる。また、時刻T11以降の期間は、切断ワイヤ部1bが完全に被加工物Wと短絡した状態で切断加工が行われている短絡加工継続時間P5である。
切断ワイヤ部1bが完全に被加工物Wと短絡した状態で切断加工が行われている短絡加工継続時間P5の波形は、ワイヤ接触検出パルスに存在する。ワイヤ接触検出パルスは、ワイヤ接触検出用電源74がワイヤ接触検出回路に、切断ワイヤ部1bのワイヤ電極1に被加工物Wが接触していることを検出するための検出用電源を給電する波形である。
被加工物Wに対する切断ワイヤ部1bの接触状態に対応した電位変化を検出するための電源をワイヤ接触検出回路に常時印加しておくことができれば、発振回路と検出処理系の構成が簡素化される。しかしながら、切断ワイヤ部1bと被加工物Wとには、検出用電源以外に加工電源が印加されるため、検出用電源と加工電源との2種類の電源が供給される。このため、切断ワイヤ部1bと被加工物Wとに、検出用電源と加工電源との2種類の電圧が同時に印加される状態を防止する必要がある。
そこで、ワイヤ放電加工装置1000では、切断ワイヤ部1bと被加工物Wとに検出用電源と加工電源との2種類の電圧が同時に印加される状態を防止するための対策として、パルス印加される加工電圧が印加されない無負荷時間に、切断ワイヤ部1bと被加工物Wとにワイヤ接触検出パルスを印加する方式を採用している。切断ワイヤ部1bが被加工物Wと接触していなければ、ワイヤ接触検出回路が閉じないことから、ワイヤ接触検出回路にはワイヤ接触検出用電源74から供給される電流が流れず、電圧降下が起こらないため、ワイヤ接触検出回路に印加された電圧は高い状態、すなわちHIGHの状態となる。
一方、切断ワイヤ部1bが被加工物Wに接触すると、導通がある被加工物Wを介してワイヤ接触検出回路が閉じた状態となる。この場合は、切断ワイヤ部1bと被加工物Wとが非接触の状態にある場合と比較して、ノズル接触検出装置75a,75bで検出される電位は低下し、すなわちLOWの状態になる。
このため、ワイヤ放電加工装置1000では、ノズル接触検出装置75a,75bで検出される電位が、例えば図15に示すような、ワイヤ接触検出回路にパルス印加された電圧がHIGHの状態であるか、あるいはLOWであるかといった電圧の状態に基づいて、切断ワイヤ部1bと被加工物Wとが接触している状態であるか、あるいは切断ワイヤ部1bと被加工物Wとが非接触の状態であるかを、判定することが可能である。
通常の放電加工状態では、切断ワイヤ部1bはノズル7a,7bと接触しないため、ワイヤ接触検出回路は開いている。一方、上述したように、切断ワイヤ部1bが被加工物Wと接触したことが検出されない状況となった場合、切断ステージ駆動制御装置34による加工送りは継続されるので、引っ張り上げられた切断ワイヤ部1bが金属製のノズル7a,7bに接触することによりワイヤ接触検出回路が閉じる。
ワイヤ接触判定装置77は、ワイヤ接触検出回路切換装置76によってワイヤ接触検出回路が接続されたときに、当該ワイヤ接触検出回路における電流値、電圧値あるいは抵抗値の変化を検出する。ワイヤ接触判定装置77は、ワイヤ接触検出回路切換装置76によってワイヤ接触検出回路が接続されたときに検出したワイヤ接触検出回路における電流値、電圧値あるいは抵抗値を、予め決められた電流値、電圧値あるいは抵抗値の判定基準値と比較することにより、ワイヤ接触検出回路の電流値、電圧値あるいは抵抗値の変化を検知する。
予め決められた電流値、電圧値あるいは抵抗値の判定基準値は、被加工物Wと接触し、引っ張り上げられた切断ワイヤ部1bが金属製のノズル7a,7bに接触した状態におけるワイヤ接触検出回路の電流値、電圧値あるいは抵抗値である。
ワイヤ接触判定装置77は、検出したワイヤ接触検出回路における電流値、電圧値あるいは抵抗値が、これらの各々に対応する判定基準値を超えている場合に、電流値、電圧値あるいは抵抗値に変化が有ると判定し、ワイヤ接触検出回路の電流値、電圧値あるいは抵抗値の変化を検知したと判定する。ワイヤ接触判定装置77は、検出したワイヤ接触検出回路における電流値、電圧値あるいは抵抗値が、これらの各々に対応する判定基準値を超えていない場合に、電流値、電圧値あるいは抵抗値に変化が無いと判定し、ワイヤ接触検出回路の電流値、電圧値あるいは抵抗値の変化を検知していないと判定する。
ワイヤ接触判定装置77は、ワイヤ接触検出回路の電流値、電圧値あるいは抵抗値の変化を検知すると、並列ワイヤ部1aのワイヤ電極1とノズル7a,7bとの接触が検知されていない接触未検出により、被加工物Wと切断ワイヤ部1bとの間の短絡状態で切断加工が行われている短絡加工継続状態と判定する。短絡加工継続状態は、被加工物Wと切断ワイヤ部1bとが接触した状態で切断加工が行われている接触加工状態と換言できる。そして、ワイヤ接触判定装置77は、加工制御装置31に対して接触加工状態を示す信号ucを送信する。
加工制御装置31は、接触加工状態を示す信号ucを受信すると、当該信号ucに基づいて、放電波形制御装置32に対する加工用電源5の発振停止と、ワイヤ走行制御装置35に対するワイヤ走行停止と、切断ステージ駆動制御装置34に対する切断送りステージ10の停止を指令する。すなわち、加工制御装置31は、信号ucに基づいて、極間への電圧の印加の停止と、ワイヤ電極1の走行の停止と、切断送りステージ10および被加工物Wの移動の停止とを制御して、切断加工を停止させる。
ワイヤ接触検出用電源74は、加工用電源5から極間に給電される加工電源と同時に印加されることがないように、検出用電源をワイヤ接触検出回路に印加する。すなわち、ワイヤ接触検出用電源74は、ワイヤ接触検出パルスでワイヤ接触検出回路にワイヤ接触用電源を給電する。
加工用電源5から極間に加工電源が印加されている状態で、ワイヤ接触検出回路がわずかな時間でも接続された状態になると、加工電源が給電子11もしくは給電線12a,12bからワイヤ接触検出回路にも接続され、ワイヤ接触検出回路を構成する装置が破損するおそれがある。あるいは、極間に加工電源が印加されている状態で、ワイヤ接触検出回路がわずかな時間でも接続された状態になると、加工電源印加指令パルスの検出用電源が極間に印加され、放電加工が不安定になるおそれがある。
このため、ワイヤ接触検出用電源74では、ワイヤ接触検出パルスが加工電源印加指令パルスに対する逆位相パルスで発振されるだけでなく、図15で示すように、加工電源印加指令パルスがHIGHからLOWへ変化した直後のΔt1の数百ナノ秒間の期間、および、LOWからHIGHへ変化する直前のΔt2の数百ナノ秒間の期間である、加工電源印加指令パルスとワイヤ接触検出パルスのいずれもオン状態にならない期間が設定される。
放電波形制御装置32から加工用電源5へ送られる加工電源印加指令パルスは、ワイヤ接触検出回路切換装置76にも送られる。ワイヤ接触検出回路切換装置76は、加工電源印加指令パルスを参照して、給電子11への加工用電源5のパルス的な電圧の印加のタイミングに基づいて、ワイヤ接触検出回路の開閉を行う。
図16は、実施の形態2におけるワイヤ放電加工装置1000のワイヤ並列ガイドローラ51aにおけるワイヤ案内溝51cから並列ワイヤ部1aが外れる状態の一例を示す模式図である。図16では、ノズル7a、ワイヤ並列ガイドローラ51a,51b間で張架された並列ワイヤ部1aおよびワイヤ並列ガイドローラ51aについての、ワイヤ並列ガイドローラ51aの回転軸51a2を通る縦断面を示している。また、図16では、並列ワイヤ部1aの一部のワイヤ電極1が被加工物Wに接触した状態で切断加工が継続されることによって、ワイヤ案内溝51cに張架された並列ワイヤ部1aが浮き上がり、やがてノズル7aに接触し、さらに切断加工が継続されることにより、ノズル7aが切断される状態を示している。図16では、ワイヤ案内溝51cからが外れる並列ワイヤ部1aを白丸で示している。
図17は、図16におけるワイヤ外れ状態に対応した検出値および検出値に対応する状態判定を示す概念図である。検出値Dは、ワイヤ接触検出回路切換装置76によってワイヤ接触検出回路が接続されたときの、ワイヤ接触検出回路における電流値、電圧値あるいは抵抗値である。図17では、ワイヤ放電加工装置1000のワイヤ接触加工状態監視部500での、図16におけるワイヤ案内溝51cから外れた並列ワイヤ部1aの挙動の監視状況を検出値によって模式的に示している。
図16において、定常状態では、並列ワイヤ部1aがワイヤ案内溝51cの最深部にはまり込んで正常な切断加工が行われている(状態A)。その後、並列ワイヤ部1aの一部のワイヤ電極1が被加工物Wの被加工面に短絡し、断線することなく被加工物Wの被加工面に接触した状態で切断加工が継続される状況が発生する。これにより、並列ワイヤ部1aの一部のワイヤ電極1が接触している被加工物Wの切断送りステージ10による加工送りに伴い、ワイヤ電極1はワイヤ案内溝51cから浮き上がり始める張架異常状態となる(状態B)。そして、張架異常状態が解消されることなく切断加工が継続されると、やがて、浮き上がったワイヤ電極1はノズル7aに接触する(状態C)。さらに切断加工が継続されると、ノズル7aに接触したワイヤ電極1は、走行することによってノズル7aを擦りながら切断し、ノズル7aに切断溝Wzが形成される。状態Cが継続された場合には、ワイヤ電極1の断線が発生する。
なお、ノズル7b、ワイヤ並列ガイドローラ51a,51b間で張架された並列ワイヤ部1aおよびワイヤ並列ガイドローラ51bについても、上記と同様の現象が生じる。
図17において、ワイヤ張架状態に異常がない定常状態である状態Aから状態Bを経て、ノズル7aにワイヤ電極1が接触する状態Cに至る。このとき、ワイヤ接触加工状態監視部500では、検出値Dが定常状態における検出値D1から検出値D2に変化したことによって、ノズル7aに対するワイヤ接触状態である状態Cの発生をワイヤ接触判定装置77が検出する。ワイヤ接触判定装置77は、ワイヤ接触検出回路切換装置76によってワイヤ接触検出回路が接続されたときに、ノズル接触検出装置75aにおける検出値に基づいて状態Cの発生を検出する。
ワイヤ接触判定装置77は、加工制御装置31に対し、接触加工状態を示す信号ucを送信する。加工制御装置31は、信号ucに基づいて、放電波形制御装置32に対する加工用電源5の発振停止と、ワイヤ走行制御装置35に対するワイヤ走行停止と、切断ステージ駆動制御装置34に対する切断送りステージ10の停止と、を指令する。あるいは、加工制御装置31は、ワイヤ接触判定装置77から接触加工状態を示す信号ucを受信すると、放電波形制御装置32に対する加工用電源5の発振を一時停止もしくは、加工用電源5の発振周波数を急激に低下させる発振周波数制御を指令し、またはワイヤ走行制御装置35に対して、切断ステージ駆動制御装置34によるワイヤ電極1の送り方向を切断進行方向から反転させ、切断送りステージ10の急速退避を指令する(図16および図17における状態D)。すなわち、加工制御装置31は、信号ucに基づいて、切断ステージ駆動制御装置34の送り方向を切断進行方向から反転させる短絡解消の退避動作を制御する。これにより、ワイヤ放電加工装置1000は、切断加工を中断することなく、張架異常となったワイヤ電極1をワイヤ案内溝51c内へ復帰させることができる。
また、加工制御装置31は、信号ucに基づいて上記の短絡解消の退避動作を行わない場合には、全ての並列ワイヤ部1aへの給電を停止し、切断加工を停止する。これにより、加工制御装置31は、ワイヤ電極1の並列異常発生と同時に切断加工を停止させることができる。
上述したように、実施の形態2によれば、並列ワイヤ部1aの一部のワイヤ電極1がワイヤ案内溝51cから外れ、ノズル7a,7bに接触したことを検出し、当該ワイヤ電極1がノズル7a,7bと接触した時点で切断加工を停止することができる。これにより、実施の形態2によれば、ワイヤ電極1の摩擦によるノズル7a,7bなどのワイヤ放電加工装置1000を構成する周辺装置の損傷を防止することができる。
また、実施の形態2によれば、ワイヤ案内溝51cから外れたワイヤ電極1がノズル7a,7bと接触した時点で、加工用電源5の発振制御によるワイヤ電極1の断線が防止される。すなわち、ワイヤ放電加工装置1000は、ワイヤ案内溝51cから外れたワイヤ電極1がノズル7a,7bと接触した時点で、加工用電源5の発振を一時停止させる制御、あるいは加工用電源5の発振周波数を急激に低下させる発振周波数制御を行うことにより、接触加工状態において切断加工が継続されることによるワイヤ電極1の断線が防止される。
また、実施の形態2によれば、ワイヤ案内溝51cから外れたワイヤ電極1がノズル7a,7bと接触した時点で、切断送りステージ10の駆動制御によりワイヤ接触状態からのワイヤ電極1の退避が行われるので、切断加工を中断することなく、張架異常となったワイヤ電極1をワイヤ案内溝51c内へ復帰させることができる。
また、実施の形態2によれば、ワイヤ放電加工装置1000は、ワイヤ電極1の並列異常発生と同時に切断加工を停止するので、ワイヤ電極1が接触した状態の加工を最小限に留めることができ、切断加工中の薄板の表面に形成される異常部分を最小限に留められる。これにより、ワイヤ放電加工装置1000は、張架異常状態のワイヤ電極1の張架状態とワイヤ電極1への給電状態とを修復した後に加工再開することができ、加工不安定になることなく加工停止位置から切断加工を再開することができ、薄板の加工精度が向上し、薄板加工の歩留まりを向上することができる。このため、ワイヤ放電加工装置1000は、たとえば半導体インゴットの切断加工を行う際に、高価な半導体結晶を無駄にすることがなく、ウエハ生産コストを低減することができる。
また、実施の形態2によれば、被加工物Wに接触したワイヤ電極1の摩擦による被加工物Wの切断加工が防止されるので、切断加工中の極間における加工液供給量の低下および加工屑排出の障害となる、被加工物Wの加工溝の蛇行部分が形成されることを防止でき、ワイヤ断線を防止できる。これにより、ワイヤ放電加工装置1000は、たとえば半導体インゴットの切断加工を行う際に、高価な半導体結晶を無駄にすることがなく、薄板加工の歩留まりを向上することができ、ウエハ生産コストを低減することができる。
したがって、実施の形態2によれば、ワイヤ電極1の位置ずれに起因する不具合を的確に検知することができるワイヤ放電加工装置1000が得られる、という効果を奏する。また、実施の形態2によれば、被加工物Wから一括して切断加工される薄板の板厚を均一にすることが可能である、という効果を奏する。そして、実施の形態2によれば、短絡状態のワイヤ電極1による、ワイヤ放電加工装置1000が備える装置の損傷を防止することが可能である、という効果を奏する。
続いて、実施の形態1,2にかかる制御部80のそれぞれのハードウェア構成について説明する。実施の形態1,2にかかる制御部80は、実施の形態1,2における制御部300およびワイヤ張架状態監視部400と、実施の形態2におけるワイヤ接触加工状態監視部500とのそれぞれに対応する。実施の形態1,2にかかる制御部80のそれぞれの機能は、処理回路により実現される。処理回路は、専用のハードウェアであってもよく、記憶装置に格納されるプログラムを実行する処理装置であってもよい。
処理回路が専用のハードウェアである場合、処理回路は、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、特定用途向け集積回路、フィールドプログラマブルゲートアレイ、またはこれらを組み合わせたものが該当する。図18は、実施の形態1,2にかかる制御部のそれぞれの機能をハードウェアで実現した構成を示す図である。処理回路81には、制御部80の機能を実現する論理回路81aが組み込まれている。
処理回路81が処理装置の場合、制御部80の機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。
図19は、実施の形態1,2にかかる制御部のそれぞれの機能をソフトウェアで実現した構成を示す図である。処理回路81は、プログラム81bを実行するプロセッサ811と、プロセッサ811がワークエリアに用いるランダムアクセスメモリ812と、プログラム81bを記憶する記憶装置813とを有する。記憶装置813に記憶されているプログラム81bをプロセッサ811がランダムアクセスメモリ812上に展開し、実行することにより、制御部80の機能が実現される。ソフトウェアまたはファームウェアは、プログラム言語で記述され、記憶装置813に格納される。プロセッサ811は、中央処理装置を例示できるがこれに限定はされない。記憶装置813は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、またはEEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)といった半導体メモリを適用できる。半導体メモリは、不揮発性メモリでもよいし揮発性メモリでもよい。また、記憶装置813は、半導体メモリ以外にも、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスクまたはDVD(Digital Versatile Disc)を適用できる。なお、プロセッサ811は、演算結果といったデータを記憶装置813に出力して記憶させてもよいし、ランダムアクセスメモリ812を介して不図示の補助記憶装置に当該データを記憶させてもよい。プロセッサ811、ランダムアクセスメモリ812および記憶装置813を1チップに集積することにより、制御部80の機能をマイクロコンピュータにより実現することができる。
処理回路81は、記憶装置813に記憶されたプログラム81bを読み出して実行することにより、制御部80の機能を実現する。プログラム81bは、制御部80の機能を実現する手順および方法をコンピュータに実行させるものであるとも言える。
なお、処理回路81は、制御部80の機能の一部を専用のハードウェアで実現し、制御部80の機能の一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。
このように、処理回路81は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせによって、上述の各機能を実現することができる。
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。