JP7379055B2 - シトラールの熱劣化抑制用組成物及び熱劣化抑制方法 - Google Patents

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Description

本発明は、シトラールの熱劣化抑制用、シトラール熱劣化物の生成抑制用、及びシトラールの劣化臭抑制用の組成物及びその方法、並びに、シトラールとこれらの組成物を含有する組成物に関する。
シトラールは、IUPAC命名法では3,7-ジメチル-2,6-オクタジエナールと表され、ゲラニアール(2位がE体)とネラール(2位がZ体)の両方を指す呼称である。シトラールは、レモン果皮やレモングラス等に存在する精油成分であり、新鮮なレモン様香気を有するためシトラス系香料の成分として重宝されている。しかしながら、シトラールは、熱や光の影響をうけて様々な劣化反応を起こすこと、特に、当該劣化反応は酸性条件下で起こりやすいことが知られている。また、熱による劣化と光による劣化(それぞれ熱劣化、光劣化と呼ぶ)では、反応経路及び生成物が異なり、その結果生じる悪影響も異なることから、両者の劣化反応は区別される。
かかるシトラールの劣化によって、シトラール特有のレモン様香気が低減し消失するが、それと同時に、シトラールの劣化によって生じる化合物(これを、本発明では「シトラール劣化物」と称する。)に起因して劣化臭(オフノート)が生じる。シトラール劣化物のなかでも、特に熱劣化によって生じるp-メチルアセトフェノン(p-methylacetophenone)やp-クレゾール(p-cresol)、p-シメン(p-cymene)は臭いの閾値が低いため、少量の生成でもシトラールを含む製品の品質を著しく低下させる原因となる。
このため、従来からシトラールの熱劣化又は光劣化反応を抑制することで、劣化臭の発生を防止するための方法が検討されている。熱劣化においては、シトラールの熱劣化によって生じるp-cymene、α,p-dimethylstyrene及びp-cymen-8-olに対してBHT、BHA、及びα-トコフェロール等の抗酸化剤は効果がないこと(非特許文献1)、一方、アスコルビン酸やイソアスコルビン酸はα,p-dimethylstyrene及びp-cymen-8-olの生成抑制に効果があること(非特許文献2)が報告されている。また最近では、シトラールの劣化臭の主な原因とされているp-メチルアセトフェノンの生成抑制に緑茶由来のカテキン類及び紅茶に含まれるポリフェノール成分であるテアフラビン類が、またp-クレゾールの生成抑制にテアフラビン類が有効であることが報告されている(非特許文献3)。
その他、シトラールの劣化臭生成抑制方法として、明日葉、アボカド、オオバコ、半発酵茶葉、エビスグサ、及びサンザシからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒抽出物;カリン、マンゴー、マンゴスチン、ミロバラン、ザクロ、又はカカオから溶媒抽出された抽出物;シソ科メンタ属ミント、キク科アルテミシア属ヨモギ、ミカン亜科シトラス属オレンジ、ミカン亜科シトラス属レモン、ミカン亜科シトラス属グレープフルーツから溶媒抽出された抽出物を、劣化臭生成抑制剤として使用する方法(特許文献1~3)、茶類抽出液成分、特にカメリアやシネンシスの抽出液成分を酸化酵素で処理して得られる生成物を劣化臭生成抑制剤として使用する方法(特許文献4)、シトラール又はシトラール含有製品に、抗酸化性成分と遷移金属イオンを含有させることでシトラールに由来する劣化臭成分の生成を抑制する方法(特許文献5)、松葉抽出物を使用する方法(特許文献6)、ルブス抽出物、オリーブ果実抽出物、ブドウ種子抽出物を用いてシトラールの劣化臭成分の生成を抑制した例(特許文献7)等が知られている。
特開2008-280539号公報 特開2002-180081号公報 特開2002-255778号公報 国際公開第2009/011271号 特開2004-123788号公報 特開2014-122187号公報 特開2017-201893号公報
K. Kimura, et al., J. Agric. Food Chem.,31, 801-804 (1983) V. E. Peacock, et al., J. Agric. Food Chem., 33, 330-335 (1985) T. Ueno, et al., J. Agric. Food Chem., 54, 3055-3061 (2006)
しかし、上記の抽出物自身の持つ風味や香味、又は色味が、使用する対象によっては調和しないという課題が見出された。
そこで本発明は、加熱又は保存時に進行するシトラールの熱劣化によって劣化臭原因物質(シトラール熱劣化物)が生成されるのを抑制し、劣化臭の発生を抑える新規な手段を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、シコウカ属、ナンヨウアブラギリ属、キバナヨウラク属、アカネ属、グネツム属、ハカマカズラ属、ツルウメモドキ属、ヤマノイモ属、チュクラシア属、及びナガバモッコク属からなる群より選ばれる1種以上の植物の抽出物が、シトラールの熱劣化を抑えること、シトラール熱劣化物の生成を抑制すること、及びシトラールの劣化臭を抑制することを新たに見出した。
即ち、本発明は以下のシトラール熱劣化等抑制用組成物を提供する。
項1.
シコウカ属(Lawsonia)、ナンヨウアブラギリ属(Jatropha)、キバナヨウラク属(Gmelina)、アカネ属(Rubia)、グネツム属(Gnetum)、ハカマカズラ属(Bauhinia)、ツルウメモドキ属(Celastrus)、ヤマノイモ属(Dioscorea)、チュクラシア属(Chukrasia)、及びナガバモッコク属(Anneslea)からなる群より選ばれる1種以上の植物の抽出物及び/又はその精製物を含有する、シトラール熱劣化抑制用、シトラール熱劣化物生成抑制用、又はシトラールの劣化臭抑制用である、組成物。
項2.
前記植物の抽出物が、植物の全草、葉部、茎部、根部、樹皮、果実、種子及び花部からなる群より選ばれる1種以上に由来する、項1に記載の組成物。
項3.
前記植物が、シコウカ(Lawsonia inermis)、ナンヨウアブラギリ(Jatropha curcas)、キダチキバナヨウラク(Gmelina arborea)、ルビア・ガレッティー(Rubia garrettii)、ヒロハグネモン(Gnetum latifolium)、バウヒニア・ラセモーサ(Bauhinia racemosa)、テリハツルウメモドキ(Celastrus paniculatus)、ミツバドコロ(Dioscorea hispida)、チュクラシア・ベルティーナ(Chukrasia velutina)、及びアネスレア・フラグランス(Anneslea fragrans)からなる群より選ばれる1種以上である、項1又は2に記載の組成物。
項4.
前記植物の抽出物が、前記植物の、水、メタノール、エタノール、アセトン及び酢酸エチルからなる群より選択される1種以上の溶媒による抽出物である、項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
項5.
前記精製物が、前記植物の抽出物が吸着剤で処理されたものである、項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
項6.
前記組成物の乾燥物を50体積%エタノールに1mg/mlとなるように溶解したときの、波長400nmでの吸光度が、0.8以下である、項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
また、本発明は以下のシトラール及び植物抽出物等を含有する組成物を提供する。
項7.
シトラールと、シコウカ属、ナンヨウアブラギリ属、キバナヨウラク属、アカネ属、グネツム属、ハカマカズラ属、ツルウメモドキ属、ヤマノイモ属、チュクラシア属、及びナガバモッコク属からなる群より選ばれる1種以上の植物の抽出物及び/又はその精製物とを含有する、組成物。
さらに、本発明は以下のシトラール熱劣化等抑制のための方法を提供する。
項8.
シコウカ属、ナンヨウアブラギリ属、キバナヨウラク属、アカネ属、グネツム属、ハカマカズラ属、ツルウメモドキ属、ヤマノイモ属、チュクラシア属、及びナガバモッコク属からなる群より選ばれる1種以上の植物の抽出物及び/又はその精製物を含有する組成物を、シトラールを含有する組成物に含有させることを含む、シトラール熱劣化抑制のための、シトラール熱劣化物生成抑制用のための、又はシトラールの劣化臭抑制のための、方法。
本発明のシトラール熱劣化等抑制用組成物をシトラール又はシトラール含有組成物に添加することで、経時的又は加熱によるシトラールの劣化(熱劣化)、シトラールの熱劣化物の生成、及びシトラールの劣化臭をそれぞれ抑制することができる。
試験例2において、種々の抽出溶媒で得られたシコウカ葉抽出物を加えたシトラール含有酸糖液のp-MAP発生率を比較したグラフである。 試験例2において、濃度の異なるエタノール水溶液を抽出溶媒として用いて得られたシコウカ葉抽出物を加えたシトラール含有酸糖液のp-MAP発生率を比較したグラフである。 試験例4において、種々の吸着剤で処理して得られたシコウカ葉抽出物の精製物の1mg/ml含有溶液について、波長400nmにおける吸光度と臭いの官能スコアを比較したグラフである。 試験例6において、種々の濃度の70体積%エタノールで抽出したシコウカ葉抽出物を加えたシトラール含有酸糖液のp-MAP発生率を比較したグラフである。 試験例7において、種々の濃度の50体積%エタノール又は70体積%エタノールで抽出したシコウカ葉抽出物を加えたレモンフレーバー飲料のp-MAP発生率を比較したグラフである。
[熱劣化等抑制用組成物]
本発明の熱劣化等抑制用組成物は、植物の抽出物及び/又はその精製物を含有し、シトラール熱劣化抑制、シトラール熱劣化物生成抑制、又はシトラール劣化臭抑制の用途に用いられる。
(植物の抽出物及びその精製物)
植物としては、シコウカ属(Lawsonia)、ナンヨウアブラギリ属(Jatropha)、キバナヨウラク属(Gmelina)、アカネ属(Rubia)、グネツム属(Gnetum)、ハカマカズラ属(Bauhinia)、ツルウメモドキ属(Celastrus)、ヤマノイモ属 (Dioscorea)、チュクラシア属(Chukrasia)、及びナガバモッコク属(Anneslea)からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
シコウカ属植物としては、ミソハギ科シコウカ属(Lawsonia)に属する植物であれば特に限定されないが、シコウカ(指甲花)(L. inermis)が好ましい。シコウカは、別名ヘナ、ヘンナ、ツマクレナイノキ、エジプトイボタノキ等とも呼ばれる低木で、南西アジア及び北アフリカを主な原産地とする植物である。
ナンヨウアブラギリ属植物としては、トウダイグサ科ナンヨウアブラギリ属 (Jatropha)に属する植物であれば特に限定されず、例えば、ナンヨウアブラギリ(タイワンアブラギリ)(J. curcas)、テイキンザクラ(J. integerrima)、ヤトロファ・ポダグリカ(トックリアブラギリ、サンゴアブラギリ)(J. podagrica)等が挙げられるが、中でもナンヨウアブラギリが好ましい。
キバナヨウラク属植物としては、クマツヅラ科キバナヨウラク属(Gmelina)に属する植物であれば特に限定されず、例えばキダチキバナヨウラク(メリナ、イエマネ、ヤマネ)(Gmelina arborea)等が挙げられるが、中でもキダチキバナヨウラクが好ましい。
アカネ属植物としては、アカネ科アカネ属(Rubia)に属する植物であれば特に限定されず、例えば、ルビア・ガレッティー(R. garrettii)、アカネ(R. argyi)、セイヨウアカネ(R. tinctorum)等が挙げられるが、中でもルビア・ガレッティーが好ましい。
グネツム属植物としては、グネツム科グネツム属(Gnetum)に属する植物であれば特に限定されず、ヒロハグネモン(G. latifolium)、グネモン(G. gnemon)、ホソバグネモン(G. tenuifolium)、ヒメグネモン(G. brunonianum)等が挙げられるが、中でもヒロハグネモンが好ましい。
ハカマカズラ属植物としては、マメ科ハカマカズラ属(Bauhinia)に属する植物であれば特に限定されず、例えば、バウヒニア・ラセモーサ(B. racemosa)、ムラサキソシンカ(B. purpurea)、ソシンカ(B. acuminata)、フイリソシンカ(B. variegata)等が挙げられるが、中でもバウヒニア・ラセモーサが好ましい。
ツルウメモドキ属植物としては、ニシキギ科ツルウメモドキ属(Celastrus)に属する植物であれば特に限定されず、例えば、テリハツルウメモドキ(C. paniculatus)、ツルウメモドキ(C. orbiculatus)、アメリカツルウメモドキ(C. scandens)、ダイブツルウメモドキ(C. hindsii)等が挙げられるが、中でもテリハツルウメモドキが好ましい。
ヤマノイモ属植物としては、ヤマノイモ科ヤマノイモ属(Dioscorea)に属する植物であれば特に限定されず、例えば、ミツバドコロ(D. hispida)、ナガイモ(D. polystachya)、ヤマノイモ(D. japonica)、トゲドコロ(D. esculenta)、ダイジョ(D. alata)等が挙げられるが、中でもミツバドコロが好ましい。
チュクラシア属植物としては、センダン科チュクラシア属(Chukrasia)に属する植物であれば特に限定されず、例えば、チュクラシア・ベルティーナ(C. velutina)、チュクラシア・タブラリス(C. tabularis)等が挙げられるが、中でもチュクラシア・ベルティーナが好ましい。
ナガバモッコク属植物としては、ツバキ科ナガバモッコク属(Anneslea)に属する植物であれば特に限定されないが、アネスレア・フラグランス(A. fragrans)が好ましい。
本発明の熱劣化等抑制用組成物に用いられる植物の抽出物は、特に限定されないが、例えば、全草、葉部、茎部、根部、樹皮、果実、種子及び花部からなる群より選択される1種以上に由来する。
シコウカの抽出物は、葉、茎及び果実からなる群より選択される1種以上に由来することが好ましく、葉に由来することがより好ましい。
ナンヨウアブラギリ、キダチキバナヨウラク、ヒロハグネモン、テリハツルウメモドキ、又はアネスレア・フラグランスの抽出物は、葉に由来することが好ましい。ルビア・ガレッティー又はミツバドコロの抽出物は、根に由来することが好ましい。バウヒニア・ラセモーサ又はチュクラシア・ベルティーナの抽出物は、樹皮に由来することが好ましい。
植物の抽出物の抽出溶媒は、特に限定されず、本発明の組成物の対象物の種類に応じて、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の炭素数1~4の低級アルコール;酢酸エチル等の低級アルキルエステル;エチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のグリコール類;その他エチルエーテル、アセトン、酢酸等の極性溶媒、又は、これらの溶媒から選択される2種以上の混合物を用いることができる。
抽出方法としては、一般に用いられる方法が採用でき、例えばエキス剤、エリキシル剤、浸剤、煎剤、流エキス剤、チンキ剤等の各種生薬製剤の調製に用いられる抽出方法を広く挙げることができる。特に限定されないが、例えば溶媒中に上記の植物(そのまま(生)若しくは粗末、細切物)、又はそれらの乾燥破砕物(粉末等)を冷浸(通常1~25℃)や温浸(通常35~45℃)等によって浸漬する方法、加温し撹拌しながら抽出を行い、ろ過して抽出液を得る方法、又はパーコレーション法(通常1~30℃程度)等を挙げることができる。
得られた抽出液は、必要に応じてろ過又は遠心分離によって固形物を除去した後、使用の態様により、そのまま用いるか、又は溶媒を留去して一部濃縮して軟エキスとして、若しくは減圧乾燥や凍結乾燥等の通常の手段により乾燥して、エキス乾燥物として使用することもできる。また濃縮ないしは乾燥後、得られる濃縮物乃至は乾燥物を非溶解性溶媒で洗浄して精製して用いても、又はこれを更に適当な溶剤に溶解若しくは懸濁して用いてもよい。
植物は、そのまま(生)若しくは破砕物として抽出操作に付してもよく、また乾燥後、必要に応じて粉砕若しくは粉体状として抽出操作に付してもよい。
本発明の熱劣化等抑制用組成物において、植物としてシコウカを用いる場合、シコウカの抽出溶媒は、水、エタノール、メタノール、アセトン及び酢酸エチルからなる群より選択される1種以上からなることが好ましく、エタノール及び/又は水からなることがより好ましく、エタノール及び水からなることが更に好ましい。さらに、抽出溶媒としてエタノール及び水を用いる場合、抽出溶媒におけるエタノールの含有量は、例えば1~99体積%が好ましく、10~90体積%がより好ましく、20~80体積%が更に好ましく、30~70体積%が特に好ましく、50体積%が最も好ましい。
シコウカ抽出物として、商業的に入手できるもの(例えば、抽出物の乾燥粉末)を使用してもよい。
シコウカ抽出物は、着色及びシコウカ特有の臭いを低減する観点から、精製することが好ましい。精製は、特に限定されず、例えば、吸着剤による処理、ろ過処理、カラムクロマトグラフィー処理等が挙げられるが、中でも吸着剤による処理が好ましい。
吸着剤としては、特に限定されないが、活性炭、シリカゲル、ゼオライト、活性白土、珪藻土、酸性白土、イオン交換樹脂、合成吸着剤等が挙げられる。これら吸着剤としては、商業的に入手可能なものを用いることができる。
吸着剤のうち、活性炭の由来としては、例えば、石炭、ヤシ殻、おがくず等が挙げられる。また、活性炭の形状としては、粒状、粉末状、繊維状等が挙げられる。
シコウカ抽出物を吸着する場合に用いられる吸着剤は、好ましくは活性炭であり、より好ましくはおがくず由来活性炭である。
シコウカ抽出物を、吸着剤として活性炭を用いて処理する場合に、用いる活性炭の量は、特に限定されず、活性炭の種類によって適宜変更し得るが、着色及びシコウカ特有の臭気を低減する観点から、シコウカ抽出物の全量に対して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、特に好ましくは2質量%以上である。
(その他成分)
本発明の熱劣化等抑制用組成物は、製剤化をしやすくする観点から、さらに乳化剤を含有することができる。乳化剤の種類は、特に限定されないが、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル(例えば、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、有機酸モノグリセリド等)、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、酵素分解レシチン、酵素処理レシチン、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウム、キラヤ抽出物、サポニン、ポリソルベート(例、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80)等が挙げられる。これらの乳化剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の熱劣化等抑制用組成物は、製剤化をしやすくする観点から、さらに賦形剤を含有することができる。賦形剤の種類は、特に限定されないが、例えば、澱粉分解物(デキストリン、粉飴等)、糖類(単糖(グルコース、フルクトース等)、二糖(例えば、ショ糖、乳糖、麦芽糖、トレハロース等)、オリゴ糖(セロオリゴ糖、マルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖等)、糖アルコール(キシリトール、ソルビトール、ラクチトール、マルチトール等)、還元糖化物等)、食物繊維(例えば、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、グァーガム酵素分解物等)等が挙げられる。これらの賦形剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
さらに、本発明の熱劣化等抑制用組成物には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、上記の植物抽出物又はその精製物、乳化剤及び賦形剤以外に、その他成分として、公知のシトラール熱劣化又は光劣化抑制成分、香料徐放剤(シクロデキストリン等)、食品、医薬品、医薬部外品、又は化粧品に用いられ得る公知の栄養成分、アルコール、酒類、塩類、呈味成分、果汁、果肉、野菜、野菜汁、ピューレ、エキス(動物、植物、微生物等由来)、香辛料、甘味料、糖アルコール、高甘味度甘味料、苦味料、酸味料、香料、着色料、その他食品添加物(食物繊維、pH調整剤、保存料、酸化防止剤、増粘剤、安定化剤等);医薬品、医薬部外品又は化粧品の有効成分又は添加剤;その他の防腐剤、防カビ剤、界面活性剤、ゲル化剤、溶剤、香料、殺菌剤、消臭成分等を1種以上配合することができる。
(形態)
本発明の熱劣化等抑制用組成物には、上記の植物の抽出物と、抽出物の精製物のいずれか単独、又はこれら両方を含有させたもの、さらにこれらの抽出物及び/又は精製物に、他の成分を加えて製剤化した製剤が包含される。
製剤化方法は、特に限定されないが、例えば水、有機溶媒(アルコール、グリセリン、プロピレングリコール)又はそれらの混合物等の所望の溶媒に溶解させて液剤とする方法;液剤にデキストリン等の賦形剤を配合してペースト状製剤にする方法;ペースト状製剤をさらに顆粒化又は打錠して顆粒剤又は錠剤にする方法;上記液剤を噴霧乾燥又は凍結乾燥することでパウダー状製剤(粉末製剤)とする方法;さらに上記液剤に乳化剤ととともに油脂類を添加し分散・乳化させることでエマルジョン製剤とする方法を挙げることができ、用途に応じて所望の剤型を適宜選択採用することができる。
本発明の熱劣化等抑制用組成物のうち、製剤の形態においては、植物抽出物及びその精製物の総含有量は、特に限定されず、製剤の形態に応じて適宜調整され得るが、製剤の全量に対して、例えば、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、8質量%以上、10質量%以上であり、
また例えば、100質量%以下、99質量%以下、95質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下である。
(用途)
本発明の熱劣化等抑制用組成物は、シトラールの熱劣化抑制、シトラールの熱劣化物生成抑制、又はシトラールの劣化臭抑制に用いられる。
本明細書において、シトラールの「熱劣化」とは、シトラールが経時的に酸触媒環化反応と酸化反応を経てp-メチルアセトフェノンや4-メチルフェノール等が生成する一連の化学的変化であり、熱及び酸が反応に関わる。この化学的変化は、「光劣化」と呼ばれる、シトラールが光を吸収することによる光感化と光酸化反応を含む化学的変化とは区別される。条件によっては両者の化学的変化が同時に進行し得る。本明細書中で「熱劣化の抑制」は、熱劣化と光劣化が同時に進行する場合に熱劣化を抑制することを包含し、熱劣化のみを抑制することに限定されない。
本明細書において「シトラールの熱劣化物」とは、シトラールが経時的又は加熱によって分解し生成する化合物であり、p-メチルアセトフェノン、p-シメン、p-クレゾール等が例示される。中でも好ましくは、匂いの閾値が水溶液で0.03ppb程度と低く、シトラールの劣化臭の原因ともなるp-メチルアセトフェノンを挙げることができる。
本明細書において、「シトラールの劣化臭」とは、シトラールが経時的に又は加熱を経て生じる、不快な臭いを指す。
本発明の熱劣化等抑制用組成物は、シトラールを含有する食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、日用品、又は香料組成物等に対して、添加又は付加され得る。これらのシトラールを含有する食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、日用品、又は香料組成物等は、レモン、シトラス又は柑橘系の香味及び/又は風味であることが好ましい。
本発明において、食品としては、特に限定されないが、例えば、清涼飲料(フレーバーウォーター、炭酸飲料、果汁飲料、乳性飲料、茶系飲料等のアルコール度数1度未満の飲料);アルコール飲料(酎ハイ、カクテル等のアルコール度数1度以上の飲料);ゼリー、プリン、ババロア、ケーキ、クッキー、マカロン等のパティスリー;アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓等の冷菓;ヨーグルト、チーズ等の乳製品;タブレット、カプセル菓子、フィルム菓子、キャンディー、チューインガム、チョコレート、焼菓子等の菓子類;団子、カステラ等の和菓子類;調理食品(カレー、パスタ、唐揚げ等)、畜肉類加工品、魚介類加工品、野菜加工品、果物加工品、海産物加工品、穀物加工品等の加工食品;ソース、ドレッシング、食用油、スパイス等の調味料;シロップ、ジャム等を挙げることができるが、中でも飲料(清涼飲料、アルコール飲料)が好ましい。
本発明において、医薬品としては、特に限定されないが、例えば、錠剤(たとえば、糖衣錠)、顆粒剤、液剤、カプセル剤、トローチ剤、及びうがい薬等の経口医薬品、ハップ剤、軟膏剤等の皮膚外用剤等が挙げられる。
本発明において、医薬部外品としては、特に限定されないが、例えば、口中清涼剤、腋臭防止剤、てんか粉、育毛剤(養毛剤)、除毛剤、染毛剤(染毛、脱色又は脱染に用いるものを含む)、パーマネント・ウェーブ用剤、衛生綿類(生理処理用ナプキン、脱脂綿、ガーゼ等)、浴用剤、薬用化粧品(シャンプー、リンス、化粧水、クリーム、乳液、ハンドクリーム、化粧用油、ひげそり用剤、日やけ止め剤、パック、薬用せっけん等)、薬用歯磨き類(洗口剤等を含む)、忌避剤、殺虫剤、殺そ剤、ソフトコンタクトレンズ用消毒剤、のど清涼剤、健胃清涼剤、ビタミン剤、カルシウム剤、ビタミン含有保健剤等が挙げられる。
本発明において、化粧品としては、特に限定されないが、例えば、香水等のフレグランス製品、基礎化粧品(洗顔クリーム、バニシングクリーム、クレンジングクリーム、コールドクリーム、マッサージクリーム、乳液、化粧水、美容液、パック、メイク落とし等)、仕上げ化粧品(ファンデーション、タルカムパウダー、口紅、リップクリーム、頬紅、アイライナー、マスカラ、アイシャドウ、眉墨、アイパック、ネイルエナメル、エナメルリムバー等)、頭髪化粧品(ポマード、ブリランチン、セットローション、ヘアーステック、ヘアーソリッド、ヘアーオイル、ヘアートリートメント、ヘアークリーム、ヘアートニック、ヘアーリキッド、ヘアースプレー、ヘアワックス、バンドリン、養毛料、染毛料等)、日焼け化粧品(サンタン製品、サンスクリーン製品等)、ハンドクリーム、オーラルケア用品(洗口液、歯磨き等)、等が挙げられる。
本発明において、日用品としては、特に限定されないが、例えば、アロマ用品(芳香剤、消臭剤、フレグランスオイル等);衣類用洗剤、台所用洗剤、トイレ用洗剤、浴室用洗剤、柔軟剤、衣類仕上げ剤等の洗剤類;ワックス類;クレンザー類;ボディケア用品(固形石鹸、ハンドソープ、ボディソープ、シャンプー、リンス、コンディショナー等);入浴剤;オーラルケア用品(歯ブラシ、歯間清掃具等);ペーパー類(ティッシュペーパー、トイレットペーパー、ウェットティッシュ、紙おむつ等);その他匂い付きグッズ、等が挙げられる。
香料組成物としては、特に限定されないが、例えば、柑橘系、特にシトラス系香料製剤等を挙げることができる。
(用量)
本発明の熱劣化等抑制用組成物は、特に限定されないが、本発明の効果を顕著に奏する観点から、該組成物中の抽出物及び精製物の固形分量が、用いる対象の全量に対して、好ましくは1ppm以上、より好ましくは2ppm以上、更に好ましくは5ppm以上、特に好ましくは10ppm以上となるように添加又は付加される。
また、本発明の熱劣化等抑制用組成物は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、着色及び植物の抽出物由来の香味を抑える観点から、該組成物中の抽出物及び精製物の固形分量が、例えば食品、医薬品及び医薬部外品に対しては全量に対して200ppm以下、化粧品に対しては全量に対して500ppm以下、日用品に対しては全量に対して500ppm以下、香料組成物に対しては全量に対して50,000ppm以下となるように添加又は付加される。
添加又は付加される本発明の熱劣化等抑制用組成物中の、植物抽出物及びその精製物の固形分の総含有量は、特に限定されないが、用いる対象に含まれるシトラール1質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、更に好ましくは5質量部以上である。
(性状)
本発明の熱劣化等抑制用組成物は、特に限定されないが、組成物を用いる対象の着色を抑える観点から、その乾燥物(固形分)を50体積%エタノールに1mg/mlとなるように溶解したときの波長400nmでの吸光度が、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.75以下、更に好ましくは0.72以下である。
また、本発明の熱劣化等抑制用組成物が、植物の抽出物の精製物を含有する場合は、組成物を用いる対象の着色を抑える観点から、その乾燥物を50体積%エタノールに1mg/mlとなるように溶解したときの波長400nmでの吸光度が、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.5以下、特に好ましくは0.3以下である。
[シトラール及び植物抽出物等を含有する組成物]
本発明のシトラール及び植物抽出物等を含有する組成物は、シトラール、並びに植物の抽出物及び/又はその精製物を含有する。
(成分)
本発明のシトラール及び植物抽出物等を含有する組成物の、シトラールの含有量は、シトラールの匂いの閾値以上、具体的には100ppt以上であればよいが、該組成物の全量に対して、好ましくは1ppb以上、より好ましくは5ppb以上の割合で、組成物の種類や目的に応じて適宜設定することができる。
本発明のシトラール及び植物抽出物等を含有する組成物の、植物の抽出物及び/又はその精製物の種類及び製法は、上記の[熱劣化等抑制用組成物]の項に記載したものと同じである。
植物の抽出物及びその精製物の固形分の総含有量は、特に限定されないが、本発明の効果を顕著に奏する観点から、シトラール及び植物抽出物等を含有する組成物の全量に対して、好ましくは1ppm以上、より好ましくは2ppm以上、更に好ましくは5ppm以上、特に好ましくは10ppm以上である。
また、植物の抽出物及びその精製物の固形分の総含有量は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、着色及び植物の抽出物由来の香味を抑える観点から、例えば食品、医薬品及び医薬部外品に対しては全量に対して200ppm以下、化粧品に対しては全量に対して500ppm以下、日用品に対しては全量に対して500ppm以下、香料組成物に対しては全量に対して50,000ppm以下とすることができる。
植物の抽出物及びその精製物の固形分の総含有量は、特に限定されないが、シトラール及び植物抽出物等を含有する組成物中のシトラール1質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、更に好ましくは5質量部以上である。
さらに、本発明のシトラール及び植物抽出物等を含有する組成物には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、上記の植物の抽出物又はその精製物及びシトラール以外に、その他成分として、公知のシトラール熱劣化又は光劣化抑制成分、香料徐放剤(シクロデキストリン等)、食品、医薬品、医薬部外品、又は化粧品に用いられ得る公知の栄養成分、アルコール、酒類、塩類、呈味成分、果汁、果肉、野菜、野菜汁、ピューレ、エキス(動物、植物、微生物等由来)、香辛料、甘味料、糖アルコール、高感度甘味料、苦味料、酸味料、香料、着色料、その他食品添加物(食物繊維、pH調整剤、保存料、酸化防止剤、増粘剤、安定化剤等);医薬品、医薬部外品又は化粧品の有効成分又は添加剤;その他の防腐剤、防カビ剤、界面活性剤、ゲル化剤、溶剤、香料、殺菌剤、消臭成分等を1種以上配合することができる。
(形態)
本発明のシトラール及び植物抽出物等を含有する組成物の具体的態様としては、特に限定されないが、例えば、食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、日用品、香料組成物等が挙げられる。これらの具体例は、上記の[熱劣化等抑制用組成物]の用途の項で記載したものが挙げられる。
本発明のシトラール及び植物抽出物等を含有する組成物の保存温度は、特に限定されないが、本発明の効果を顕著に奏する観点から、好ましくは4℃以上、より好ましくは20℃以上、更に好ましくは25℃以上、特に好ましくは30℃以上である。
[シトラール熱劣化等抑制のための方法]
本発明のシトラール熱劣化等抑制のための方法は、以下の方法である。
植物の抽出物及び/又はその精製物を含有する組成物を、シトラールを含有する組成物に含有させることを含む、シトラール熱劣化抑制のための、シトラール熱劣化物生成抑制用のための、又はシトラールの劣化臭抑制のための、方法。
植物の抽出物及び/又はその精製物を含有する組成物としては、上記の[熱劣化等抑制用組成物]の項で記載した熱劣化等抑制用組成物と同じものを使用することができる。
植物の抽出物及び/又はその精製物のその他の成分、製法、形態、性状、用量等、シトラールを含有する組成物の具体例については、いずれも上記の[熱劣化等抑制用組成物]の項に記載したとおりである。
本発明の熱劣化等抑制のための方法には、さらに公知のシトラールの熱劣化又は光劣化抑制の効果を有する組成物、消臭効果を有する組成物等を含有させる工程を含むことができる。
以下、本発明を実験例及び実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。なお、実施例中の「部」「%」は、特に記載がない限り、それぞれ「質量部」「質量%」を意味する。また、文中「*」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製であることを示し、文中「※」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを示す。
[試薬・共通方法]
(試薬)
シトラールおよびp-メチルアセトフェノンは富士フイルム和光純薬製、果糖ブトウ糖液糖は三和澱粉工業株式会社製のものを用いた。
(p-メチルアセトフェノンの測定)
0.005質量%シトラール含有酸糖液(pH3)又は各試験例に記載の飲料に、各種被験試料を添加した溶液を調製する。これを、5mLのガラス製バイアル管に4mL入れ、恒温機中にて50℃で各試験例に示す期間保存した後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定を行う。p-メチルアセトフェノン(p-MAP)の標準品から検量線を作成し、クロマトグラムのピーク面積からシトラール含有酸糖液中のp-MAPの生成量を定量する。酸糖液の処方、HPLCの条件は以下の通りである。
<シトラール含有酸糖液の処方>
果糖ぶどう糖液糖 13.3 質量%
クエン酸 0.2 質量%
クエン酸3Na 0.05 質量%
1%シトラール 0.5 質量%
水 残部
合計100 質量%
<HPLC条件>
カラム: Cadenza CD-C18,4.6×150mm (Imtakt製)
移動相: A液(0.1% リン酸水溶液)55%及びB液(アセトニトリル)45%のアイソクラティック溶出
流速: 1.0ml/min
カラム温度: 40℃
試料注入量: 20μl
検出:紫外吸光検出法(波長254nm)
各種被験試料を含まないサンプルを対照として、各種被験試料のp-MAP発生率を、以下の計算式により求める。p-MAP発生率が100%より小さいほど、被験物質によってシトラールの劣化臭の原因物質であるp-MAPの発生が抑制されており、シトラールの熱劣化が抑制されていること、及び熱劣化物の生成が抑制されていることを示す。
p-MAP発生率(%)
=(各試料のp-MAP量)/(対照のp-MAP量)×100
[試験例1.各種植物抽出物のp-MAP発生率の測定]
(被験物質の調製)
表1に示す各植物の部位を用いた70体積%エタノール抽出物を、抽出物の固形分が終濃度で0.01%含まれるようにシトラール含有酸糖液に添加した。これらを50℃で3日間保存した後で、p-MAP発生率を上記のHPLCによる測定で求めた。結果を同じ表1に示した。全ての抽出物が、シトラールの熱劣化及び熱劣化物の生成を抑制した。
Figure 0007379055000001
[試験例2.シコウカ抽出物の製造条件検討1(抽出条件検討)]
シコウカ葉粉末を10gに対して、抽出溶媒としてエタノール、メタノール、水、アセトン、ヘキサン、又は酢酸エチルを300ml加え、3時間室温にて撹拌抽出後ろ過処理を行った(1次抽出エキス)。また、残渣に対して上記抽出溶媒を300ml加え、3時間室温にて撹拌抽出後ろ過処理を行い(2次抽出エキス)、1次抽出エキスおよび2次抽出エキスを合わせたものを調製し、濃縮乾固を行った。得られた乾燥物を用いて、100mg/mlとなるよう、水以外の溶媒抽出物の場合はDMSOで、水抽出物の場合は水にて濃度調製を行った(実施例2-1~6)。これらの抽出物4μlを上記の酸糖液に加えて、50℃で3日間保存した後で、p-MAP発生率を上記方法に基づいて算出した。抽出物を加えない酸糖液を比較例2とした。結果を図1に示す。ヘキサン抽出物でややp-MAP発生率が増加した以外は、いずれもp-MAP発生率は低く、シトラールの熱劣化抑制、熱劣化物の生成抑制の効果が示された。中でもエタノール抽出物が最も良好な結果を示した。
次に、抽出溶媒として、30体積%エタノール、50体積%エタノール又は70体積%エタノールを用いた以外は、上記と同じ方法によりシコウカ葉より抽出物を得た(実施例2-7~9)。得られた抽出物について、そのp-MAP発生率を上記試験例2と同じ方法で求めた。結果を図2に示す。いずれも上記実施例2-1~6よりも低いp-MAP発生率であり、より優れたシトラールの熱劣化等抑制効果が認められた。抽出溶媒のエタノール濃度の違いがp-MAP発生率へ与える影響は軽微であった。製造に用いる抽出溶媒としては、50体積%エタノールが最も製造に適していると言える。得られた抽出物の外観は、いずれも薄い褐色で、シコウカ特有の臭いが感じられた。
[試験例3.シコウカ葉抽出物のシトラール含有飲料に対する効果の検証]
70体積%エタノール又は50体積%エタノールで抽出されたシコウカ葉抽出物を、エバポレーターで溶媒を蒸発させてから、70体積%エタノールに固形分換算で100mg/mlとなるように溶解した。これを、以下の処方のシトラールを含有するレモンフレーバー飲料に、それぞれ固形分が0.0025質量%又は0.005質量%含まれるように添加して、シトラールとシコウカ葉抽出物を含有する飲料を製造した(実施例3-1~4)、対照として、シコウカ葉抽出物を含有しない飲料を用いた。50℃で4日間保存した後で、上記の方法に基づいてp-MAP発生率を求めた。
<レモンフレーバー飲料の処方>
果糖ぶどう糖液糖 6 質量%
砂糖 2 質量%
クエン酸 0.2 質量%
クエン酸3Na 0.05 質量%
6倍濃縮レモン透明果汁 0.5 質量%
レモンフレーバー 0.05 質量%
イタリアンレモンオイル 0.05 質量%
水 残部
合計100 質量%。
結果を表2に示す。飲料をベースにした試験においても、50体積%エタノールで抽出して得られたシコウカ葉抽出物は、試験例1と同様に同濃度の70体積%エタノール抽出物に比べてよりp-MAP発生率が低く、シトラール熱劣化抑制及びシトラール熱劣化物の生成抑制効果が高いことがわかった。
Figure 0007379055000002
[試験例4.シコウカ抽出物の製造条件検討2(精製条件検討)]
上記のシコウカ葉の70体積%エタノール抽出物に対して、表3のいずれかの活性炭又は活性白土を吸着剤として抽出物の全量に対して2.0質量%となる量で加え、1時間攪拌した。その後、抽出物にろ過助剤として珪藻土(土田食品工業株式会社製)を抽出物の全量に対して1.0質量%となる量で加えて、ろ紙を用いてろ過し、シコウカ葉抽出物精製物を得た(実施例4-2~8)。また、吸着剤で処理していないシコウカ葉抽出物を対照(実施例4-1)として用意した。それぞれエバポレーターで濃縮乾固させた。
Figure 0007379055000003
得られた乾燥物について、固形分が1mg/mlとなるように50体積%エタノールを加えて溶解した。そして得られた溶液の波長400nmにおける吸光度を測定した。さらに、着色低減率を以下の式により求めた。
<着色低減率>
着色低減率(%)
=(対照の吸光度-各実施例の吸光度)/(対照の吸光度)×100
また、1mg/mlのシコウカ葉抽出物又はその精製物の臭いについては、パネラー7名により、それぞれのサンプルを以下の基準に基づいて評価した。
<シコウカ葉抽出物又はその精製物の臭いの評価基準>
0:シコウカ葉抽出物特有の臭いは感じられない
1:弱いがシコウカ葉抽出物特有の臭いが感じられる
2:やや弱いシコウカ葉抽出物特有の臭いが感じられる
3:シコウカ葉抽出物特有の臭いが感じられる
4:やや強いシコウカ葉抽出物特有の臭いが感じられる
5:強いシコウカ葉抽出物特有の臭いが感じられる
各吸着剤処理で得られたサンプルの波長400nmにおける吸光度、及び臭いの評価結果を図3に、各実施例の吸光度及び着色低減率を上記表3に示す。いずれの吸着剤を用いても、元のシコウカ葉抽出物よりも着色が低減していた。図3のように、着色(吸光度)と臭いの評価値の大小は同じ傾向であった。実施例4-2~8より、吸着剤として活性炭を用いた時に良好な結果が得られることがわかった。そして実施例4-2の活性炭、及びおがくず由来の活性炭で処理した実施例4-4及び4-5で顕著に低い吸光度と臭いの評価値が得られた。よって、活性炭の中でも、おがくず由来の活性炭で処理を行うことで、シコウカ葉抽出物が本来持つ着色及び臭気を特に低減できることがわかった。
実施例4-4の精製物と実施例4-1をそれぞれ固形分換算で0.1質量%含むように70%エタノールに溶解し、色味を比較した。吸着処理によって、実施例4-1に比べて実施例4-4の外観は褐色の着色が大幅に低減し、ほぼ透明であった。
[試験例5.シトラール熱劣化抑制に対するシコウカ抽出物及びその精製物の効果の比較]
試験例4で得られたシコウカ葉の70体積%エタノール抽出物の乾燥物(実施例4-1に対応)、又は70体積%エタノール抽出物を2%タケコール50WG-Tで吸着処理したシコウカ葉抽出物精製物の乾燥物(実施例4-4に対応)を、固形分が100mg/ml含まれるように70体積%エタノールに溶解した。それぞれの溶液を、抽出物等の固形分が0.005質量%含まれるようにシトラール含有酸糖液に加えて、実施例5-1、5-2とした。また、シトラール含有酸糖液のみのものを調製し、対照(比較例5-1)とした。また、オリーブ抽出物(オピエース(登録商標)、三菱ケミカルフーズ(株)製)を0.02質量%(いずれも固形分換算量)となるようにシトラール含有酸糖液に加えたものを調製し、比較例5-2とした。これらの飲料を50℃で4日間保存した後、p-MAP発生率を上記の方法によって求めた。また、参考例5として、抽出物等を添加しないシトラール含有酸糖液を熱劣化が起こりにくい4℃で4日間保存したものを用意した。
結果を表4に示す。シコウカ抽出物(実施例5-1)は、オリーブ抽出物(比較例5-2)に比べてp-MAP発生率が低く、より優れたシトラール劣化抑制及びシトラール劣化物生成抑制効果が認められた。実施例5-2のように、吸着処理によりシトラール劣化物生成抑制効果が若干低下するが、比較例5-2より依然として高い効果を発揮した。そして、実施例5-2では、実施例5-1と比較して顕著に着色がなく、透明に近い飲料となった。飲料の官能評価を行ったところ、オリーブ抽出物では、苦味や脂肪酸系の味を感じたため、飲料には適していないと判断した。
Figure 0007379055000004
次に、比較例5-1、実施例5-1及び2、参考例5について、シトラール本来の臭い(レモンのような爽やかな香り)と、シトラール劣化臭の強さを、パネラー16名による官能試験により以下の6段階評価で評価した。また、パネラーには実施例5-1と実施例5-2の間の香味及び色味の比較について、自由形式のコメントを記載してもらった。
<シトラール本来の臭い>
5:参考例5とシトラール本来の香りが変わらない
4:参考例5よりもシトラール本来の香りがわずかに弱い
3:参考例5よりもシトラール本来の香りがやや弱い
2:参考例5よりもシトラール本来の香りが顕著に弱いが、感じられる
1:シトラール本来の香りがわずかに感じられる
0:シトラール本来の香りが感じられない
<シトラール劣化臭>
5:比較例5-1と変わらない
4:比較例5-1より劣化臭がわずかに弱い
3:比較例5-1より劣化臭がやや弱い
2:比較例5-1よりも劣化臭が顕著に弱いが、感じられる
1:劣化臭がわずかに感じられる
0:劣化臭が感じられない
結果を表5に示す。評点の平均値から、精製前のシコウカ葉抽出物を用いた飲料(実施例5-1)、シコウカ葉抽出物の精製物を用いた飲料(実施例5-2)ともに対照(比較例5-1)と比較してシトラール劣化臭が抑制されていることがわかる。シコウカ葉抽出物の精製物を用いた飲料は、精製前のシコウカ葉抽出物を用いた飲料と比べてシトラール本来の臭いを感じやすくなる一方で、シトラール劣化臭の感じ方は特に大きな違いはなかった。さらに、パネラーのコメントから、吸着剤による精製によってシコウカ葉抽出物の特有の香りが減少していることがわかる。
以上から、シトラール抽出物及びその精製物は、シトラール劣化臭を抑制する効果が認められた。そして、吸着処理は着色の抑制だけでなく、シコウカ葉抽出物が本来持つ特有の臭いを低減する結果、シトラールの本来の臭いを損ないにくくする効果があると推察される。
Figure 0007379055000005
[試験例6.シコウカ抽出物の濃度を変化させたときの効果の検討-1]
実施例2-9と同じ方法で、70体積%エタノールを用いてシコウカ葉より抽出物を得た。得られた抽出物を、固形分換算で以下の表6に示す量となるようにシトラール含有酸糖液に添加して、50℃で3日間保存した後で、p-MAP発生率を上記のHPLCを用いた測定方法により求めた。対照には、シコウカ葉抽出物を含有しないシトラール含有酸糖液を用いた。結果を表6及び図4に示す。実施例6-1~7に示されるように、幅広いシコウカ葉抽出物の濃度で、シトラールの熱劣化及び熱劣化物の生成を抑制した。
Figure 0007379055000006
[試験例7.シコウカ抽出物の濃度を変化させたときの効果の検討-2]
実施例2-8、2-9と同じ方法で、50体積%エタノール、70体積%エタノールを抽出溶媒として用いて、シコウカ葉抽出物を得た。得られた抽出物を、終濃度が固形分換算で以下の表7に示す量となるようにレモンフレーバー飲料(試験例3の処方と同じ)に添加して、50℃で4日間保存した。得られたサンプルから、p-MAP発生率を上記のHPLCを用いた測定方法により求めた。対照には、シコウカ葉抽出物を含有しないレモンフレーバー飲料を用いた。結果を表7及び図5に示した。
シコウカ葉の50体積%エタノールを用いた実施例7-1-1~5、70体積%エタノールを用いた実施例7-2-1~5ともに、試験例6と同様に幅広い添加量でシトラールの熱劣化及び熱劣化物の生成を抑制した。また、いずれの濃度においても、50%体積%エタノールで抽出した場合のほうが、よりシトラールの熱劣化抑制及び熱劣化物の生成抑制効果が高いことが示された。
Figure 0007379055000007

Claims (5)

  1. シコウカ(Lawsonia inermis)、ナンヨウアブラギリ(Jatropha curcas)、キダチキバナヨウラク(Gmelina arborea)、ルビア・ガレッティー(Rubia garrettii)、ヒロハグネモン(Gnetum latifolium)、バウヒニア・ラセモーサ(Bauhinia racemosa)、テリハツルウメモドキ(Celastrus paniculatus)、ミツバドコロ(Dioscorea hispida)、チュクラシア・ベルティーナ(Chukrasia velutina)及びアネスレア・フラグランス(Anneslea fragrans)からなる群より選ばれる1種以上の植物の全草若しくは部分の抽出物及び/又はその精製物を含有する、シトラール熱劣化抑制用、シトラール熱劣化物生成抑制用、又はシトラールの劣化臭抑制組成物であって、
    前記部分が、前記植物がシコウカの場合は葉部、茎部及び果実からなる群より選ばれる1種以上を含み、前記植物がナンヨウアブラギリ、キダチキバナヨウラク、ヒロハグネモン、テリハツルウメモドキ又はアネスレア・フラグランスの場合は葉部を含み、前記植物がルビア・ガレッティー又はミツバドコロの場合は根部を含み、前記植物がバウヒニア・ラセモーサ又はチュクラシア・ベルティーナの場合は樹皮を含み、
    前記抽出物及び/又はその精製物の調製に使用される抽出溶媒が、前記植物がシコウカの場合は、水、エタノール、メタノール、アセトン及び酢酸エチルからなる群より選ばれる1種以上であり、前記植物がナンヨウアブラギリ、キダチキバナヨウラク、ルビア・ガレッティー、ヒロハグネモン、バウヒニア・ラセモーサ、テリハツルウメモドキ、ミツバドコロ、チュクラシア・ベルティーナ又はアネスレア・フラグランスの場合は、水及び/又はエタノールである、組成物。
  2. 前記精製物が、前記植物の抽出物が吸着剤で処理されたものである、請求項に記載の組成物。
  3. 前記組成物の乾燥物を50体積%エタノールに1mg/mlとなるように溶解したときの、波長400nmでの吸光度が、0.8以下である、請求項1又は2に記載の組成物。
  4. シトラールと、
    シコウカ(Lawsonia inermis)、ナンヨウアブラギリ(Jatropha curcas)、キダチキバナヨウラク(Gmelina arborea)、ルビア・ガレッティー(Rubia garrettii)、ヒロハグネモン(Gnetum latifolium)、バウヒニア・ラセモーサ(Bauhinia racemosa)、テリハツルウメモドキ(Celastrus paniculatus)、ミツバドコロ(Dioscorea hispida)、チュクラシア・ベルティーナ(Chukrasia velutina)及びアネスレア・フラグランス(Anneslea fragrans)からなる群より選ばれる1種以上の植物の全草若しくは部分の抽出物及び/又はその精製物とを含有する、組成物であって、
    前記部分が、前記植物がシコウカの場合は葉部、茎部及び果実からなる群より選ばれる1種以上を含み、前記植物がナンヨウアブラギリ、キダチキバナヨウラク、ヒロハグネモン、テリハツルウメモドキ又はアネスレア・フラグランスの場合は葉部を含み、前記植物がルビア・ガレッティー又はミツバドコロの場合は根部を含み、前記植物がバウヒニア・ラセモーサ又はチュクラシア・ベルティーナの場合は樹皮を含み、
    前記抽出物及び/又はその精製物の調製に使用される抽出溶媒が、前記植物がシコウカの場合は、水、エタノール、メタノール、アセトン及び酢酸エチルからなる群より選ばれる1種以上であり、前記植物がナンヨウアブラギリ、キダチキバナヨウラク、ルビア・ガレッティー、ヒロハグネモン、バウヒニア・ラセモーサ、テリハツルウメモドキ、ミツバドコロ、チュクラシア・ベルティーナ又はアネスレア・フラグランスの場合は、水及び/又はエタノールである、組成物
  5. シコウカ(Lawsonia inermis)、ナンヨウアブラギリ(Jatropha curcas)、キダチキバナヨウラク(Gmelina arborea)、ルビア・ガレッティー(Rubia garrettii)、ヒロハグネモン(Gnetum latifolium)、バウヒニア・ラセモーサ(Bauhinia racemosa)、テリハツルウメモドキ(Celastrus paniculatus)、ミツバドコロ(Dioscorea hispida)、チュクラシア・ベルティーナ(Chukrasia velutina)及びアネスレア・フラグランス(Anneslea fragrans)からなる群より選ばれる1種以上の植物の全草若しくは部分の抽出物及び/又はその精製物を含有する組成物を、シトラールを含有する組成物に含有させることを含む、シトラール熱劣化抑制のための、シトラール熱劣化物生成抑制ための、又はシトラールの劣化臭抑制のためのであって、
    前記部分が、前記植物がシコウカの場合は葉部、茎部及び果実からなる群より選ばれる1種以上を含み、前記植物がナンヨウアブラギリ、キダチキバナヨウラク、ヒロハグネモン、テリハツルウメモドキ又はアネスレア・フラグランスの場合は葉部を含み、前記植物がルビア・ガレッティー又はミツバドコロの場合は根部を含み、前記植物がバウヒニア・ラセモーサ又はチュクラシア・ベルティーナの場合は樹皮を含み、
    前記抽出物及び/又はその精製物の調製に使用される抽出溶媒が、前記植物がシコウカの場合は、水、エタノール、メタノール、アセトン及び酢酸エチルからなる群より選ばれる1種以上であり、前記植物がナンヨウアブラギリ、キダチキバナヨウラク、ルビア・ガレッティー、ヒロハグネモン、バウヒニア・ラセモーサ、テリハツルウメモドキ、ミツバドコロ、チュクラシア・ベルティーナ又はアネスレア・フラグランスの場合は、水及び/又はエタノールである、方法
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