JP7374421B2 - カタクリ属植物の組織培養による増殖方法 - Google Patents

カタクリ属植物の組織培養による増殖方法 Download PDF

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Description

本発明は、カタクリ属植物の組織培養による増殖方法、当該方法により得られる不定芽原基を含む培養組織に関する。
カタクリ(Erythronium japonicum Decne.)は、種子から開花するまで7~8年という長期間を要する。カタクリの種子は休眠性が高く、一度常温(20℃~25℃)で5ヶ月ほど経過後、10℃以下の低温に遭遇しないと発芽しないという通常の植物にはない特殊性を有する。発芽したものは、その後、細い葉を伸ばし、基部に球根を形成する。球根は毎年少しずつ肥大し、葉が2枚展開できる大きさになると開花して種子を形成するが、球根は肥大するのみで自然界ではほとんど分球することはないと言われている。従って、カタクリを短期間で増殖する方法はなく、球根を採取すると群落が少しずつ減少していくため、現存するカタクリの群落のほとんどは、保護地域となっており、容易に入手できない。
一方、カタクリ属植物の葉部には、腫瘍壊死因子(TNF)α産生抑制作用(特許文献1)や一酸化窒素(NO)産生抑制作用(特許文献2)などの有用な機能が報告されており、自己免疫性疾患、神経変性疾患、皮膚疾患などの治療や予防を目的とした医薬品や化粧品への利用が期待される。そのため、機能性素材としてカタクリを利用するために、短期間に安定的に供給する方法が急務である。
これまで、カタクリの組織培養による増殖としては、球根(鱗茎)の成長点を使用する方法が知られているが(非特許文献1、2)、上記のように球根を採取すると群落が少しずつ減少するため、生態系に負荷やダメージを及ぼすことなり、また、繰り返し増殖できるという安定性に欠ける。
特開2018-135328号公報 特開2018-135294号公報
藤木俊也・雨宮圭一・関宏夫、組織培養によるカタクリの増殖、山梨県総合農業研究報告6号、49-57、1994 古谷博、組織培養によるカタクリの増殖について、園学中四国支部要旨34:49、1995
従って、本発明は、生態系への負荷やダメージがない材料を用い、組織培養によってカタクリ属植物を短期間でかつ安定的に増殖させる方法を提供することにある。
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、(i)組織培養の材料として受精後まもない早期の胚珠である超未熟種子を用いることにより低温に遭遇することなく約5ヶ月で不定胚発生が認められること、(ii) 超未熟種子より誘導した不定胚を18℃以下(5~18℃)で培養することにより分割可能な大きさの不定芽原基を含む組織が形成されること、(iii)当該不定芽原基を含む組織を分割して中温域(10~18℃)で培養することにより安定して繰り返し増殖(2~3ヶ月間)が可能であることを見出した。さらに、増殖させた不定芽原基を含む組織からは不定芽及びその基部には球根が形成されることも確認でき、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
[1] 以下の工程:
(1) カタクリ属植物の超未熟種子を不定胚誘導用培地にて培養し、不定胚組織を誘導する工程、
(2) 工程(1)で誘導した不定胚組織を不定胚増殖用培地にて18℃以下で培養し、不定芽原基を含む組織を形成する一次増殖工程、及び
(3) 工程(2)で形成された不定芽原基を含む組織を分割し、分割塊を不定胚増殖用培地にて10~18℃でさらに培養し、不定芽原基を含む組織を増殖する二次増殖工程、
を含む、カタクリ属植物の組織培養による増殖方法。
[2] 前記超未熟種子が、閉花後5~10日の子房中にある未熟胚珠である、[1]に記載の方法。
[3] 前記超未熟種子の培養を、暗所にて15~25℃で4~6ヶ月行う、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 前記不定胚誘導用培地が、植物ホルモンとしてジベレリン類単独、ジベレリン類とオーキシン類との組み合わせ、又はジベレリン類とオーキシン類とサイトカイニン類との組み合わせを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] ジベレリン類がGAであり、オーキシン類がナフタレン酢酸(NAA)であり、サイトカイニン類がベンジルアデニン(BA)である、[4]に記載の方法。
[6] 前記一次増殖工程の培養を、暗所にて4~5ヶ月行い、前記二次増殖工程の培養を、暗所にて2~3ヶ月行う、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 前記一次増殖工程で形成された分割前の不定芽原基を含む組織が、0.5g以上である、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8] 前記不定胚増殖用培地が、ジベレリン類とオーキシン類とサイトカイニン類との組み合わせを含む、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9] ジベレリン類がGAであり、オーキシン類がナフタレン酢酸(NAA)であり、サイトカイニン類がベンジルアデニン(BA)である、[8]に記載の方法。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の方法で得られる不定芽原基を含む組織の集合体。
[11] 前記二次増殖工程後、得られた不定芽原基を含む組織を発芽用培地にて培養し、不定芽と球根を形成する工程をさらに含む、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
本発明によれば、球根のように資源を枯渇する恐れがなく、生態系への負荷やダメージがない材料である超未熟種子を用いて、該種子の置床から約1年で不定芽原基を含む組織を安定に繰り返して増殖できる方法が提供される。
図1は、子房(閉花後約1週間)中の超未熟種子を示す。 図2は、超未熟種子から誘導した複数胚の形態を示す。 図3は、子房(閉花後約3週間)中の未熟種子から誘導した胚(a)及び不定胚(b)の形態を示す。 図4は、超未熟種子より誘導した不定胚を培養(20℃、3ヶ月、暗所)した組織を示す。当該培養組織は、増殖が認められず、形態が不均一である。 図5は、超未熟種子より誘導した不定胚を培養(6℃、4ヶ月、暗所)した組織を示す。当該培養組織は、増殖が認められ、分割可能な大きさの組織が混在する。 図6は、超未熟種子より誘導した不定胚の一次増殖後の分割塊を培養(14℃、3ヶ月、暗所)した組織を示す。当該組織は、不定芽原基を含み、分割可能で均一な大きさの組織である。 図7は、不定芽原基を含む培養組織から形成された不定芽組織と球根の形態を示す。
本発明のカタクリ属植物の組織培養による増殖方法は、以下の工程:
(1) カタクリ属植物の超未熟種子を不定胚誘導用培地にて培養し、不定胚組織を誘導する工程、
(2) 工程(1)で誘導した不定胚組織を不定胚増殖用培地にて18℃以下で培養し、不定芽原基を含む組織を形成する一次増殖工程、及び
(3) 工程(2)で形成された不定芽原基を含む組織を分割し、分割塊を不定胚増殖用培地にて10~18℃でさらに培養し、不定芽原基を含む組織を増殖する二次増殖工程、
を含む。以下、各工程について説明する。
工程(1):
工程(1)では、カタクリ属植物の超未熟種子を不定胚誘導用培地にて培養することにより、不定胚組織を誘導する。
本発明で用いるカタクリ(Erythronium)属植物は、ユリ科(Liliaceae)に属する多年草であり、カタクリ(Erythronium japonicum Decne.)、Erythronium americanum Ker-Gawl.、キバナカタクリ(Erythronium grandiflorum Pursh.)、Erythronium caucasicum Woronow、Erythronium oregonum Applegate、Erythronium sibiricum (Fisch. et C.A.Mey.)Krylov等が挙げられる。これらのカタクリ属植物の中でも、カタクリ(Erythronium japonicum Decne.)は、日本全国に広く分布し、その鱗茎は古くから良質なデンプン源として利用され、また、地上部は山菜として食されており、食経験の豊かな植物であるため、好ましく用いられる。
本発明において、カタクリ属植物(以下、単に「カタクリ」と記載する)の組織培養の材料として用いる「超未熟種子」とは、閉花後5~10日、好ましくは7~8日の子房内の未熟胚珠をいい、その大きさは縦長約2~4mm、横幅約1~2mmである。
カタクリの上記未熟胚珠(超未熟種子)は、通常は殺菌処理を施してから使用される。例えば、カタクリの未熟胚珠を100%アルコールで消毒した後、次亜塩素酸ナトリウム溶液などで殺菌処理し、その後、滅菌水で洗浄したものを用いる。
「不定胚」とは、受精卵と同様な形態変化の過程をとって植物の体細胞から生ずる一種の胚であって、胚様体(embryoid)とも称し、根、子葉、胚軸を備えた完全な植物体にまで発育しうる能力を有するものをいう。特に、本発明における不定胚は、カルスを経由せずに誘導されることを特徴とする。また、多数の不定胚を含む組織も形成される。
不定胚誘導用培地には、植物組織培養において通常に使用される基本培地、例えばMS培地(ムラシゲ-スクーグ培地)、LS培地(リンスマイア-スクーグ培地)、Gamborgの培地、Whiteの培地、Tuleckeの培地、Nitsch & Nitschの培地に、ショ糖、グルコース、フラクトース、マルトース等の糖類を添加したものを用いることができる。また、基本培地の培地成分の一部の類似成分への置換、ビタミン類(塩酸チアミン、塩酸ピリドキシン、ニコチン酸、パントテン酸カルシウム、ビタミンB12、ビオチン、パラアミノ安息香酸、葉酸等)、アミノ酸(グリシン、グルタミン酸、リジン等)の添加、ショ糖などの糖類の濃度の変更、などによって改変した培地などを用いることができる。本発明の不定胚誘導用培地の基本培地としては、MS培地に含まれる無機塩を半分に希釈した培地である1/2MS培地が好ましい。
上記基本培地に、不定胚誘導を促進するために、植物ホルモンとして、オーキシン類、サイトカイニン類、ジベレリン類を添加する。オーキシン類としては、例えばナフタレン酢酸(NAA)、インドール-3-酢酸(IAA)、インドール-3-酪酸(IBA)、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)、4-クロロ-2-メチルフェノキシ酢酸(MCPA)、2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸(2,4,5-T)等が挙げられるが、NAAが好ましい。サイトカイニン類としては、例えばベンジルアデニン(BA)、ゼアチン(Zeatin)、カイネチン(Kinetin)、6-(γ,γ-ジメチルアラミノ)プリン(2iP)、N-(2-クロロ-4-ピリド)-N’-フェニルウレア(CPPU)等が挙げられるが、BAが好ましい。ジベレリン類としては、例えばジベレリンA1(GA)、ジベレリンA3(GA)、ジベレリンA4(GA)、ジベレリンA7(GA)等が挙げられるが、GAが好ましい。
本発明において、不定胚誘導用培地に含有させる植物ホルモンは、1種でもよいが、2種以上を組み合わせることが好ましい。1種の場合は、ジベレリン類が好ましく、2種以上を組み合わせる場合は、ジベレリン類とオーキシン類との組み合わせ、又はジベレリン類とオーキシン類とサイトカイニン類との組み合わせが好ましい。
培地中の植物ホルモンの含有量の範囲は植物ホルモンの種類によって異なるが、不定胚の発生(誘導)率を向上させる観点から、合計で0.1~10mg/Lが好ましく、0.2~5mg/Lがより好ましい。例えば、培地中のオーキシン類の含有量としては、0.1~1.0mg/L、サイトカイニン類の含有量としては、1.0~2.0mg/L、ジベレリン類の含有量としては、0.2~1.0mg/Lが例示される。特に好ましい植物ホルモンの組み合わせは、NAAとGAの組み合わせであって、NAAの含有量が0.1mg/Lに対し、GAの含有量が0.2~1.0mg/Lが好ましい。
不定胚誘導用培地の形態は、固形培地が好ましく、培地上に上記滅菌後の超未熟種子を置床して培養する。固形培地には、培地のゲル化剤として寒天、アガロース、ゲランガム等が使用される。また、培地の固形化は、水中に溶解したゲル化剤を基本培地に注加して、オートクレーブ内で加温、加圧下に処理する等の一般的な方法によって行うことができる。ゲル化剤の添加量は培地として十分な固形化状態を得るのに十分な量であればよく、種類によって異なるが、例えば、寒天は0.8~1.2%、アガロースは0.1~1.0%、ゲランガムは0.1~0.4%が好ましい。また、不定胚誘導用培地のpHは不定胚の発生に好適な4.5~7.0の範囲であることが好ましい。
培養容器としては通常平型のプラスチックシャーレを用いるが、試験管、三角フラスコ、又は広口瓶等も使用可能である。
工程(1)における培養温度は、15~25℃が好ましく、18~23℃がより好ましく、20℃がさらに好ましい。また培養時間は、培養温度によって適宜調整できるが、4~6ヶ月が好ましく、5ヶ月がより好ましい。なお、通常は2ヶ月程度で培地交換を行うが、本法では培地交換は行わずに不定胚を誘導する。
工程(1)の培養は、暗所で行う。本明細書において「暗所」とは、通常、植物組織培養で用いられる暗所条件と同義であり、完全に暗所である必要はない。例えば、観察等において通常の光条件に一時的に曝すことがあったとしても暗所とする。また、暗所条件の設定の方法としては、特に限定はないが、培養室の明かりを点灯しない方法、培養物の入った容器を遮光性の容器に封入する方法又は容器をアルミホイル等により包む方法等が挙げられる。
工程(2):
工程(2)では、工程(1)で誘導した不定胚組織を不定胚増殖用培地にて18℃以下で培養し、不定芽原基を含む組織を形成させる(一次増殖工程)。ここで形成される不定芽原基を含む組織の重量は、その後分割して培養(二次増殖)させるため、0.5g以上であることが好ましい。
一次増殖工程において、不定胚増殖用培地に含有させる植物ホルモンとしては、上記植物ホルモンの2種以上を混合して用いることが好ましく、ジベレリン類とオーキシン類とサイトカイニン類との組み合わせが好ましい。
培地中の植物ホルモンの含有量の範囲は植物ホルモンの種類によって異なるが、不定芽原基を含む組織の形成を促進する観点から、合計で1~10mg/Lが好ましく、1~5mg/Lがより好ましく、2~4mg/Lがさらに好ましい。例えば、培地中のオーキシン類の含有量としては、0.1~1.0mg/L、サイトカイニン類の含有量としては、0.5~2.0mg/L、ジベレリン類の含有量としては、0.2~1.0mg/Lが例示される。特に好ましい植物ホルモンの組み合わせは、NAAとBAとGAの組み合わせであって、NAAの含有量が1.0mg/Lに対し、BAの含有量が0.5~2.0mg/L、GAの含有量が0.2~1.0mg/Lが好ましい。
一次増殖工程における培養温度は18℃以下であればよいが、6~16℃が好ましく、6~14℃がより好ましい。培養時間は、培養温度によって適宜調整できるが、4~5ヶ月が好ましい。
一次増殖工程のその他の培養条件(暗所での培養、基本培地の種類、培地の形態、培養容器、培地の交換時期)は、工程(1)と同じであり、前記に従えばよい。
工程(3):
工程(3)では、工程(2)で形成された不定芽原基を含む組織を分割し、分割塊を不定胚増殖用培地にて10~18℃でさらに培養し、不定芽原基を含む組織を増殖させる(二次増殖工程)。本工程により、不定芽原基を含む組織の集合体又は細胞塊を得ることができる。また、本工程で得られた不定芽原基を含む組織を再度分割し、新たな不定胚増殖用培地にて同培養を繰り返すことによって、不定芽原基を含む組織を連続的に得ることもできる。
二次増殖工程において、不定胚増殖用培地に含有させる植物ホルモンの好適な組み合わせ、培地中の含有量は一次増殖工程と同じである。
二次増殖工程における培養温度は10~18℃であればよいが、12~16℃が好ましく、14~16℃がより好ましい。また、培養時間は、培養温度によって適宜調整できるが、2~3ヶ月が好ましい。
二次増殖工程のその他の培養条件(暗所での培養、基本培地の種類、培地の形態培養容器、培地の交換時期)は、工程(1)と同じであり、前記に従えばよい。
以上より、超未熟種子の置床から約1年で増殖可能な不定芽原基を含む組織の集合体を取得することができる。
本発明においては、上記の工程(3)に続いて、二次増殖後の不定芽原基を含む組織を発芽用培地にて培養する工程を行うことにより、不定芽と基部に球根を有する組織を得ることが可能である。本工程に用いる発芽用培地は、植物ホルモンとしてサイトカイニン類、好ましくはベンジルアデニン(BA)のみを含む以外は、基本培地の種類や組成、培地の形態は前記の不定胚誘導用培地、不定胚増殖用培地と同様である。
植物ホルモンとしてベンジルアデニン(BA)を用いる場合は、発芽用培地中の含有量が0.5~1.5mg/Lが好ましい。
また、本工程の培養は、明所(例えば、100~3000ルクスで12~16時間照明)において、15~25℃で1~3ヶ月行う。このような条件下で培養を行うと、不定芽原基を含む組織から不定芽が伸長し、基部に数個の球根(鱗茎)を有する幼苗が得られる。これより採取した球根(鱗茎)を土壌に植えることにより、完全なカタクリの植物体を作出することもできる。
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明する。ただし、これらの実施例は本発明を限定するものでない。
(実施例1)各ステージの種子からの不定胚への誘導
超未熟種子、未熟種子、完熟種子の成熟ステージの異なる種子を用いて不定胚への誘導を行った。カタクリ群生地より、閉花後の子房又は果実(さく果)を採取し、それより超未熟種子、未熟種子、完熟種子を取り出して実験に供した。超未熟種子(受精後間もない早期の胚珠)として、閉花後約1週間の1.5~2cmの子房中にある大きさが縦長約3mm、横幅約1mmの胚珠(図1)を使用した。未熟種子として、閉花後約3週間の2~3cmの子房中にある大きさが縦長5mm以上、横幅2mm以下の胚珠を使用した。完熟種子は、閉花後40~50日目頃の果実が割れる前のもので、種子の大きさは縦長5mm以上、横幅3mm以上の充実したものを使用した。
採取した子房は流水で30分間洗浄後、100%エタノールで10秒間浸漬し、その後界面活性剤(Tween20)を数滴加えた次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素1%)溶液中で20分間攪拌して滅菌後、滅菌水で3回すすいだ。滅菌した子房をメスで開き、胚珠(超未熟種子、未熟種子)を取り出した。また完熟種子は果実より取り出し、ガーゼにくるみ、上記と同様にして滅菌処理を行った。
取り出した各ステージの種子を、シャーレ内の不定胚誘導用培地に1シャーレ当たり25個(完熟種子は16個)置床した。不定胚誘導用培地としては、1/2MS培地を基本とし、ショ糖30g/L、支持体としてジェランガム2g/Lを加え、超未熟種子の培養には表1に示す濃度でナフタレン酢酸(NAA)、ベンジルアデニン(BA)、ジベレリンA3(GA)を組み合わせて添加した培地(実験区1~4)、未熟種子の培養には表2に示す濃度でナフタレン酢酸(NAA)、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)、ベンジルアデニン(BA)、ジベレリンA3(GA)を添加した培地(実験区5~9)を用いた。実験区1区につき3シャーレとした。培養は暗所にて20℃で行い、随時胚(不定胚)発生の確認を行い、培養5ヶ月後に胚発生率の計測を行った。未熟種子は、その後、6℃でさらに培養を続け、4ヶ月後に再度胚発生率の計測を行った。
超未熟種子の胚発生率の計測結果を表1に、未熟種子の胚発生率の計測結果を表2にそれぞれ示す。
Figure 0007374421000001
Figure 0007374421000002
表1に示すように、超未熟種子からは置床後培養5ヶ月目で胚が発生し、その時点での胚発生率は4~10%であった(実験区1~4)。ホルモンはNAAとGAの組み合わせで胚発生率が高かった(実験区2、3)。また、同時に数個の不定胚が混在した組織も認められ(図2)、多胚発生率は1~3%であった。その後、培養を続けると漸次胚発生の継続がみられたが、10ヶ月を経過しても2倍程度であった。
一方、表2に示すように、未熟種子からは置床後培養5ヶ月目では胚発生はまったく認められないか、胚発生率が極めて低かった(実験区5~9)。その後、6℃に移して4ヶ月培養すると胚及び不定胚の発生が認められた(図3a、b)。その際、超未熟種子の場合のように複数胚の発生はほとんど出現しなかった。なお完熟種子は、雑菌の繁殖が多く、胚発生率を比較できるデータは得られなかった。
以上より、超未熟種子を用いた場合、低温に遭遇することなく、20℃、5ヶ月の培養のみで一定の発生率で胚発生が認められたことから、超未熟種子を組織培養によるカタクリの増殖の好適材料として選定した。
(実施例2)不定芽原基組織の増殖のための条件検討
超未熟種子から誘導された不定胚組織を一次増殖用培地(1/2MS培地を基本とし、ショ糖30g/L、支持体としてジェランガム2g/Lを加え、ナフタレン酢酸(NAA)NAA1.0mg/mL、BA2.0mg/mL、ジベレリンA3(GA)0.2mg/mLを添加した培地)に移して20℃で培養したが、3ヶ月で少し大きくなったものの、その後5ヶ月まで培養を継続してもほとんどが停止するような状態であった。また、不定胚組織の形態は様々であった(図4)。そこで誘導された不定胚組織を上記と同じ一次増殖用培地にて6℃の低温で培養したところ、4~5ヶ月で緩慢であったが確実に大きくなることが確認できた(図5)。よって、以下、分割が可能な大きさで、不定芽原基を含む組織(以下、「不定芽原基組織」という)の増殖(二次増殖)のための培養温度及び培地に添加する植物ホルモンの組み合わせの条件について検討を行った。
(1)中温域(14℃)での増殖試験
6℃の低温培養で大きくなってきた個体のなかで分割が可能な大きさである重量が約0.8~1gの3系統(系統名BE1、BE2、BE3)をそれぞれメスで3~4分割し、得られた分割塊をシャーレ内の二次増殖用培地に置床し、培養した。二次増殖用培地としては、1/2MS培地を基本とし、ショ糖30g/L、支持体としてジェランガム2g/Lを加え、ナフタレン酢酸(NAA)1.0mg/mL、ベンジルアデニン(BA)2.0mg/mL、ジベレリンA3(GA)0.2mg/mLを添加した培地を用いた。培養は、暗所にて14℃で行い、分割塊(不定芽原基組織)の増殖が可能かどうかを検討した。培養3ヶ月後、肉眼で2倍以上の大きさになった時点での1塊の重量を測定した。測定結果を表3に示す。
Figure 0007374421000003
表3に示されるように、系統によって程度は異なったが、14℃の中温域でも分割塊(不定芽原基組織)は、ほぼ同じで十分な大きさに増殖することが確認できた(図6)。
(2)ホルモンの組み合わせの影響
二次増殖用培地として、1/2MS培地を基本とし、ショ糖30g/L、支持体としてジェランガム2g/Lを加え、表4に示す濃度でナフタレン酢酸(NAA)、ベンジルアデニン(BA)、ジベレリンA3(GA)を添加した培地(実験区ME1~5)を用いた。シャーレ内の同増殖用培地に、分割後14℃で繰り返し増殖が認められた上記系統を含む複数の個体から得た分割塊を1シャーレ当たり3~4塊置床し、暗所にて14℃で3ヶ月培養し、分割塊(不定芽原基組織)の増殖に及ぼす二次増殖用培地中のホルモンの組み合わせの影響を調べた。
実験区ME1~5について、増殖倍率(3ヶ月後の平均重量/置床時の平均重量)を求めた結果を表4に示す。
Figure 0007374421000004
表4に示すように、実験区ME1は増殖がやや劣るものの、いずれの培地でも増殖は可能であり、大きな違いはなかったが、NAA 1.0mg/L、BA 1.0mg/L、GA0.2mg/Lを添加した実験区ME3の培地が最も良好であった。
(3)培養温度の影響
二次増殖用培地として、1/2MS培地を基本とし、ショ糖30g/L、支持体としてジェランガム2g/Lを加え、ナフタレン酢酸(NAA)1.0mg/mL、ベンジルアデニン(BA)2.0mg/mL、ジベレリンA3(GA)0.2mg/mLを添加した培地(上記実験区ME4の培地)を用いた。シャーレ内の同増殖用培地に、分割後14℃で繰り返し増殖が認められた上記系統を含む複数の個体から得た分割塊を1シャーレ当たり3~4塊置床し、表5に示す各温度で暗所にて3ヶ月培養し、分割塊(不定芽原基組織の増殖に及ぼす培養温度の影響を調べた。
各培養温度の実験区について、増殖倍率(3ヶ月後の平均重量/置床時の平均重量)を求めた結果を表5に示す。
Figure 0007374421000005
表5に示すように、培養温度6~18℃においていずれも増殖は可能だが、6℃はやや緩慢で、10~18℃が適温域であり、16℃が最も良好であった。
(実施例3)不定芽原基組織からの不定芽及び球根形成
分割塊から増殖(二次増殖)した不定芽原基組織を発芽用培地(1/2MS培地を基本とし、ショ糖30g/L、支持体としてジェランガム2g/Lを加え、ベンジルアデニン(BA)1.0mg/mLを添加した培地)において照明下(約300lx)で培養したところ、2ヶ月で不定芽が伸長し、さらには基部に1塊当たり数個の球根を形成することが確認できた(図7)。
本発明は、組織培養によって、種々の薬理効果が知られるカタクリの不定芽原基を含む組織を大量かつ効率的に得ることができる。得られた培養組織やそれより生育させた植物体又はその一部は、医薬品、化粧品、食品の製造分野において利用できる。

Claims (6)

  1. 以下の工程:
    (1) カタクリ属植物の閉花後5~10日の子房中にある未熟胚珠である超未熟種子を、ジベレリン類単独、ジベレリン類とオーキシン類との組み合わせ、又はジベレリン類とオーキシン類とサイトカイニン類との組み合わせを含む不定胚誘導用培地にて培養し、不定胚組織を誘導する工程、
    (2) 工程(1)で誘導した不定胚組織を、ジベレリン類とオーキシン類とサイトカイニン類との組み合わせを含む不定胚増殖用培地にて18℃以下で培養し、不定芽原基を含む組織を形成する一次増殖工程、及び
    (3) 工程(2)で形成された不定芽原基を含む組織を分割し、分割塊を、ジベレリン類とオーキシン類とサイトカイニン類との組み合わせを含む不定胚増殖用培地にて10~18℃でさらに培養し、不定芽原基を含む組織を増殖する二次増殖工程、
    を含む、カタクリ属植物の組織培養による増殖方法。
  2. 前記超未熟種子の培養を、暗所にて15~25℃で4~6ヶ月行う、請求項に記載の方法。
  3. ジベレリン類がGA3であり、オーキシン類がナフタレン酢酸(NAA)であり、サイトカイニン類がベンジルアデニン(BA)である、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記一次増殖工程の培養を、暗所にて4~5ヶ月行い、前記二次増殖工程の培養を、暗所にて2~3ヶ月行う、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
  5. 前記一次増殖工程で形成された分割前の不定芽原基を含む組織が、0.5g以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記二次増殖工程後、得られた不定芽原基を含む組織を発芽用培地にて培養し、不定芽と球根を形成する工程をさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
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