JP7369005B2 - ニオブ酸リチウムの前駆体水溶液およびその製造方法 - Google Patents
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Description
一般に電池の電極反応は、電極活物質と電解液との界面で生起する。ここで、当該電解液に液体の電解液を用いた場合には、電極上に存在する電極活物質の表面に電解液が浸透し、電荷移動の反応界面が形成される。全固体型電池の場合、イオン伝導性を有する固体電解質が電解液の役割を果たすが、固体電解質それ自体は液体のような流動性を持たないため、二次電池を構成する前に電極活物質となる粉体と固体電解質を混合するか、電極活物質となる粉体を固体電解質により被覆して、予め複合化しておく必要がある。
ここで、当該界面抵抗の増大は、正極活物質と固体電解質とが反応して正極活物質の表面に高抵抗部位が形成されることが原因であるとされており(非特許文献1)、非特許文献1には、コバルト酸リチウムの表面がニオブ酸リチウムによって被覆された形態の正極活物質とすることにより、界面抵抗を低減させる技術が開示されている。
非特許文献1に開示されている技術は、ニオブ酸リチウムを被覆するための前駆体溶液として、無水エタノール中に金属Liと酸化ニオブを溶解した溶液を用いているが、この前駆体溶液中でLiとニオブはエトキシドとして溶解していると考えられるので、特許文献1と同様な問題点を有すると考えられる。
特許文献2には、水溶液系の前駆体溶液として、ニオブ酸のペルオキソ錯体を含む水溶液およびニオブ酸のシュウ酸錯体を含む水溶液が開示されている。これらの前駆体水溶液は、錯化剤である過酸化水素とニオブ酸を含む水溶液をアンモニア水で中和した後水酸化Li等のLi化合物を添加して得られたものであるが、前駆体水溶液の保存安定性が悪く、生成した数時間後に沈殿が生じるという問題があった。特許文献2に開示の技術では、ペルオキソ錯体を形成するため、ニオブに対して等モル以上の大量の過酸化水素を添加しており、さらにpH上昇のためにアンモニア水を添加するため、前駆体水溶液の保存安定性が悪化したものと考えられる。なお、特許文献2には明示されていないが、特許文献2に記載のシュウ酸錯体を含む前駆体水溶液は、酸性の水溶液と考えられる。
特許文献3には、錯化剤である過酸化水素とニオブ酸を含む水溶液をアンモニア水で中和した後水酸化リチウムを添加して調製された前駆体水溶液が開示されているが、当該前駆体水溶液も上記の特許文献2に記載の前駆体水溶液と同様に、保存安定性が悪いという問題がある。
非特許文献2には、含水酸化ニオブを四級アンモニウム塩である水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液に溶解してLindquvist構造のイオンを形成した後、さらにLiOHを添加してニオブ酸リチウムの前駆体水溶液を得る技術が開示されている。しかし、この手法により得られた前駆体水溶液により形成された被覆層を低温で焼成すると、特許文献1の場合と同様に、被覆層中に有機物が残存して被覆層の体積抵抗率が高くなるという問題があった。また、TMAHはそれ自体毒性が強いので、製造上の問題も存在する。
ここで、前記のニオブのポリ酸イオンの濃度が、ニオブとして0.1mol/L以上1.5mol/L以下であることが好ましい。
ここで、前記の過酸化水素の量は0.01質量%以上6.7質量%以下であることが好ましい。
また、本発明においては、ニオブ酸リチウムの前駆体水溶液の製造方法として、含水酸化ニオブと、ニオブとのモル比Li/Nbが0.9以上1.4以下の水酸化Liを溶解し、ニオブのポリ酸イオンとLiイオンを含有する水溶液を得る工程と、前記のニオブのポリ酸イオンとLiイオンを含有する水溶液に過酸化水素を添加する工程とを含む、ニオブ酸リチウムの前駆体水溶液の製造方法が提供される。
ここで、前記の溶解した含水酸化ニオブの濃度が、ニオブとして0.1mol/L以上1.5mol/L以下であることが好ましい。また、前記の添加する過酸化水素の濃度が、ニオブ1molに対して0.1mol以上2.5mol以下、好ましくは0.1mol以上1.5mol以下、であることが好ましい。
本発明のニオブ酸リチウムの前駆体水溶液で被覆される正極活物質は本発明の範囲外であるが、例として以下のものが挙げられる。正極活物質はLiと遷移金属Mの複合酸化物でからなるものであり、従来からリチウムイオン二次電池に使用されている物質、例えばリチウム酸コバルト(Li1+XCoO2、-0.1≦X≦0.3)、Li1+XNiO2、Li1+XMn2O4、Li1+XNi1/2Mn1/2O2、Li1+XNi1/3Co1/3Mn1/3O2(いずれも-0.1≦X≦0.3)、Li1+X[NiYLi1/3-2Y/3Mn2/3-Y/3]O2(0≦X≦1、0<Y<1/2)等や、これらのLiあるいは遷移金属元素の一部をAlその他の元素で置換したリチウム遷移金属酸化物や、Li1+XFePO4、Li1+XMnPO4(いずれも-0.1≦X≦0.3)などのオリビン構造を持つリン酸塩やスピネル型化合物としてマンガン酸リチウム(LiMnO4)やMnの一部をAlやTi、Cr、Fe、Zr、Y、W、Ta、Nb、Ni、Co、Fe等で置換したもの(LiAl0.1Mn0.9O4、LiNi0.5Mn1.5O4等)などが挙げられる。
無水の酸化ニオブ(Nb2O5)は水に難溶性なので、本発明の製造方法においては、Nb源として非晶質で水に可溶性の含水酸化ニオブを用いる。含水酸化ニオブは一般式Nb2O5・nH2Oで表される物質(nは0ではなく、例えば、3≦n≦16)である。
ポリ酸はオキソ酸が縮合してできた陰イオン種であり、遷移金属元素のポリ酸は金属酸化物の分子状イオン種であるとみなすことができる。なお、金属元素が一種類の場合はイソポリ酸、金属元素が複数の場合はヘテロポリ酸と呼び、非特許文献2に開示されているLindquvist構造とは錯体ではなく、溶解状態のイソポリ酸イオンの立体構造の一つである。
ニオブに関する電位-pH図は現在確立されていないが、中性領域でニオブの水酸化物が沈殿することから、当該pH領域ではNb(OH)5またはHNbO3等の固相が安定化学種であると考えられる。これらの固相が存在する水溶液にアルカリを添加して系のpHを上昇させると、過剰のOH-イオンの存在によりニオブが例えばNb(OH)6 -やNbO3 -等の形で溶解し始める。系のpHをさらに上昇すると可溶性の酸化ニオブは系のpHに応じて様々な縮合状態を取るものと考えられるが、本明細書ではアルカリ側で可溶化した酸化ニオブを一括してニオブのポリ酸イオンと呼ぶ。
本発明のニオブ酸リチウムの前駆体水溶液においては、ニオブの存在形態は可溶性のポリ酸イオンであれば良く、特にLindquvist構造を取らなくても構わない。酸化ニオブがポリ酸イオンを経由し、Liイオンと反応してニオブ酸リチウムを形成する反応経路は現時点では不明であるが、例えば以下のような反応経路が考えられる。
3Nb2O5+4OH- → Nb6O17 4-+2H2O …(1)
Nb6O17 4-+32OH- → 6NbO6 7-+13H2O+6H+ …(2)
6NbO6 7-+6Li++3H2O → 6LiNbO3+36OH- …(3)
前記のニオブのポリ酸イオンの濃度は、ニオブとして0.1mol/L以上1.5mol/L以下であることが好ましい。ポリ酸イオンの濃度が0.1mol/L未満では、生産性が悪くなるため好ましくない。また、ポリ酸イオンの濃度が1.5mol/Lを超えると、保存安定性が著しく悪化するため好ましくない。
本発明の製造方法においては、Li源として水酸化リチウム(LiOH)を使用する。LiOHは無水のものでも水和しているものでも、いずれでも構わない。水溶液に添加したLiOHはLi+とOH-に解離し、強アルカリ性を示す。特許文献2および特許文献3に記載のニオブ酸リチウムの前駆体水溶液の製造方法においては、最初にニオブ酸と過酸化水素を反応させた後アンモニア水を添加してpHを上昇させ、最後にLi塩を添加して前駆体水溶液を調整している。これに対し、本発明のニオブ酸リチウムの前駆体水溶液の製造方法においては、ニオブ酸を含む水溶液に最初にLiOHを添加してニオブ酸を溶解することが特徴である。
LiOHはそれ自体が強アルカリなので、ニオブ酸を含む水溶液にLiOHを添加すると、系のpHが上昇して酸化ニオブが溶解し、ニオブのポリ酸イオンが安定して形成される。その後ニオブのポリ酸イオンとLiイオンを含むアルカリ性の水溶液に過酸化水素を添加するが、過酸化水素の効果については後述する。
最終的にニオブ酸リチウムを形成することから、Liイオンの添加量はニオブと等モル付近である必要があり、ニオブのポリ酸イオンに含まれるニオブ1モルとのモル比Li/Nbを0.9以上1.4以下とすることが好ましい。Li/Nbが0.9未満では、LiNbO3で表されるニオブ酸リチウムに対し、リチウムが欠損することより、リチウムイオン導電性が悪化するため好ましくない。また、Li/Nbが1.4を超えると、過剰な水酸化リチウムによるpH上昇により、保存安定性が悪化するため好ましくない。
特許文献2および特許文献3に記載の技術においては、ニオブは水溶液中でペルオキソ錯体の形で存在しており、ニオブに配位しているペルオキソイオンは脱離しやすく、不安定であることが知られている。
それに対し、本発明のニオブ酸リチウムの前駆体水溶液中でのニオブは、主として比較的安定なポリ酸の形態をとっていると考えられ、さらに後述する過酸化水素の効果により保存安定性が向上したものと考えられる。さらに、本発明のニオブ酸リチウムの前駆体水溶液は非特許文献2に記載のTMAHのような有機物を含まないために、最終的に体積抵抗率の低いニオブ酸リチウム被覆層を得ることができる。
本発明のニオブ酸リチウムの前駆体水溶液は、保存安定性向上のためにさらに過酸化水素を添加する。添加する過酸化水素の濃度は、ニオブ1molに対して0.1mol以上2.5mol以下であることが好ましい。さらに好ましくは1.5mol以下である。過酸化水素の濃度がニオブ1molに対して0.1mol未満であると、生成したニオブのポリ酸が水酸化物イオンと反応して分解するため好ましくない。また、2.5molを超えると、生成したニオブのポリ酸と過酸化水素が反応し、不安定であるペルオキソ錯体を形成するため好ましくない。
前記の過酸化水素の添加は、反応性の観点から、含水酸化ニオブをLiOHとともに溶解し、安定なニオブのポリ酸イオンを形成した後に行うことが好ましい。
過酸化水素添加の効果としては、前記の(2)式の反応の進行を遅延させることでニオブのポリ酸を安定化する効果を有するものと考えられる。
ここで、添加した過酸化水素は経時的に分解するが、前駆体水溶液中にフリーの過酸化水素として0.01質量%以上6.7質量%以下含有されていることが好ましい。フリーの過酸化水素が0.01質量%未満では、前駆体水溶液の安定性を保つのが困難になる。また、フリーの過酸化水素が6.7質量%を超えると過酸化水素を添加する効果が飽和する。なお、フリーの過酸化水素は、前駆体溶液中で単独に存在する過酸化水素であり、その量は添加した過酸化水素の量とは必ずしも同じ値にはならない。
本発明のニオブ酸リチウムの前駆体水溶液のpHは、強アルカリであるLiOHの添加量と過酸化水素の添加量でほぼ自動的に決定されるので、特にpH調整を行う必要はないが、通常7.5~12.5となる。ニオブのポリ酸イオンが安定して形成されるため、より好ましくは、pHは9.0~12.0である。なお、ここでpH値は、JIS Z8802に基づき、測定するpH領域に応じた適切な緩衝液を用いて校正し、温度補償電極を備えたpH計により、ガラス電極を用いて測定した値である。
本発明のニオブ酸リチウムの前駆体水溶液の製造方法においては、前述のように、ニオブの出発物質として含水酸化ニオブを用いる。含水酸化ニオブとLiOHを水に溶解し、ニオブのポリ酸イオンとLiイオンを含有する水溶液を得た後に、当該水溶液に過酸化水素を添加してニオブ酸リチウムの前駆体水溶液を得る。その際、ニオブとリチウムのモル比Li/Nbを0.9以上1.4以下とし、含水酸化ニオブの濃度が、ニオブとして0.1mol/L以上1.5mol/L以下とし、過酸化水素濃度をニオブ1molに対して0.1mol以上2.5mol以下とすることが好ましい。
25℃に設定した恒温器内で前駆体水溶液を密閉容器で保管し、析出物の発生の有無を目視で評価した。
[前駆体水溶液の定性評価]
前駆体水溶液中の溶存化学種の定性評価には、サーモフィッシャー・サイエンティフィック社製NICOLET7600を用い、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により行った。溶媒である水の低波数側のピークを除去するため、バックグラウンド測定には水を用い、全反射測定(ATR)法により測定を行った。測定にはゲルマニウムプリズムを使用し、入射角度45°とした。
[ニオブ酸リチウムの導電性の評価]
本発明の前駆体水溶液により得られるニオブ酸リチウム被覆層の導電性は、当該前駆体水溶液により形成したバルクの粉体を用いて評価した。前駆体水溶液を100℃に設定した乾燥機中で蒸発乾固させ、得られた粉末をさらに大気中200℃で2時間焼成した。焼成後の粉体0.5gをφ20mmの金型に入れ、1kNの荷重を付与して成形した圧粉体について、三菱ケミカルアナリテック社製粉体測定システムMCP-PD51を用いて体積抵抗率を測定した。
[前駆体水溶液中の過酸化水素の定量方法]
定量操作に先立ち、予めTi-PAR溶液を調製しておく。Ti-PAR溶液は、市販のTi標準液を用いて調製したTi濃度1mmol/LのTi溶液20mLと、PAR(4-(2-ピリジルアゾ)-レソルシノール)11mgを1質量%水酸化ナトリウム水溶液に溶解し、超純水で50mLに定容したPAR溶液15mLを混合して調製する。
試薬特級硝酸0.05mLと特級メタノール20mLを予め入れておいたポリ容器に、試料として前駆体水溶液0.1mLを添加して軽く振り混ぜ、沈殿が静置した後、0.45μmのフィルターを用いてろ過する。なお、その際、前駆体溶液を添加した後ろ過を開始するまで1分間程度で行うことが好ましい。
ろ液を0.25mL分取し、それにメタノール5mL、Ti-PAR溶液1mL、1moL/Lのアンモニア水5mLと1mol/Lの塩化アンモニウム40mLを混合して調製したpH8.6の緩衝液1.2mLを順次添加し、メタノールで10mLに定容した測定溶液を40~45℃で30分間静置した後。日立ハイテクノロジーズ製の分光光度装置U-2800を用いて、波長520nmで吸光度を測定する。なお、過酸化水素濃度の定量は、標準添加法を用いて過酸化水素の標準液との吸光度の相対強度から測定した。
1Lのビーカーに純水780g、水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)44.19g、および含水酸化ニオブ(Nb2O5・nH2O、n=4.6、Nb2O5換算濃度:76.4mass%)169.59gを投入し、70℃で7h機械撹拌を行ったところ、清澄な水溶液が得られた。この場合、Li/Nbのモル比は1.08である。そのNbとLiを含む水溶液に過酸化水素の35%水溶液31.8gを添加してニオブ酸リチウムの前駆体水溶液を得た。この場合H2O2/Nbのモル比は0.34である。また、得られたニオブ酸リチウムの前駆体水溶液のpH値を、pHメーター(株式会社堀場製作所製、D-51)を用いて測定したところpH値は11.3であった。誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)を用いて、本実施例で得られたニオブ酸リチウムの前駆体水溶液のリチウムおよびニオブの濃度を測定したところ、それぞれ0.73質量%および9.17質量%であった。このときのニオブ濃度はニオブとして1.1mol/Lであった。この場合Li/Nbのモル比は1.07となり、これは添加したリチウムとニオブのモル比と同等であった。リチウムおよびニオブの分析結果の濃度が添加した濃度よりも高くなったが、これは70℃で7h処理する工程にて純水が蒸発した影響である。なお、ICP-AES測定は、試料0.1gを秤量し、それに純水と塩酸を添加して加熱後、放冷し、さらに過酸化水素水を添加して加熱後、放冷した後、液量を100mLに規正し、希釈した後にICP-AESで測定した。
本実施例により得られたニオブ酸リチウムの前駆体水溶液について、前記の保存安定性の評価を行ったところ、2カ月後においても目視で沈殿物は観察されなかった。2か月後に前駆体溶液中の過酸化水素の濃度を測定したところ、0.10質量%であった。当該前駆体溶液について、前記の導電性の評価を行ったところ、圧粉体の体積抵抗率は9.5×106Ω・cmであり、後述する比較例1および比較例2で得られた圧粉体についてのそれらの値よりも低かった。これらの測定結果を表1に示す。なお、表1には、他の実施例および比較例についての測定結果も併せて示してある。
当該前駆体溶液についてFT-IR測定を行ったところ、波数850cm-1±20cm-1付近および680cm-1±20cm-1付近に吸収ピークが観察された。図1に、本実施例において得られた前駆体水溶液のFT-IRスペクトルを示す。なお、図1には比較例1および比較例2で得られた前駆体水溶液のFT-IRスペクトルも併せて示してある。非特許文献2によると、これらの吸収ピークは、前者がNb-O、後者がNb-O-Nb結合に起因するものと考えられる。したがって、本発明のニオブ酸リチウムの前駆体水溶液においては、系内に過酸化水素が存在するため、可溶化したニオブ酸の一部がペルオキソ錯体を形成している可能性もあるが、その大部分は安定なポリ酸イオンの形で存在しているものと考えられる。
過酸化水素の35%水溶液の添加量を100gに変えた以外は実施例1と同じ条件でニオブ酸リチウムの前駆体水溶液を得た。この場合H2O2/Nbのモル比は1.06である。実施例1と同様にICP-AESにてニオブ酸リチウムの前駆体水溶液のリチウムとニオブ濃度を測定した結果、Li/Nbのモル比は添加したリチウムとニオブのモル比と同等であった。得られた前駆体水溶液は、2カ月間安定であった。また、導電性の評価を行ったところ、圧粉体の体積抵抗率は9.8×106Ω・cmであった。当該前駆体溶液についてFT-IR測定を行ったところ、実施例と同じく、波数850cm-1付近および680cm-1付近に吸収ピークが観察された。実施例1と同様に当該前駆体溶液についてpH値の測定を行ったところ、pH値は9.6であった。
過酸化水素の35%水溶液の添加量を15gに変えた以外は実施例1と同じ条件でニオブ酸リチウムの前駆体水溶液を得た。この場合H2O2/Nbのモル比は0.16である。実施例1と同様にICP-AESにてニオブ酸リチウムの前駆体水溶液のリチウムとニオブ濃度を測定した結果、Li/Nbのモル比は添加したリチウムとニオブのモル比と同等であった。得られた前駆体水溶液は、2カ月間安定であった。また、導電性の評価を行ったところ、圧粉体の体積抵抗率は9.6×106Ω・cmであった。当該前駆体溶液についてFT-IR測定を行ったところ、実施例と同じく、波数850cm-1付近および680cm-1付近に吸収ピークが観察された。実施例1と同様に当該前駆体溶液についてpH値の測定を行ったところ、pH値は11.4であった。
過酸化水素の35%水溶液の添加量を200gに変えた以外は実施例1と同じ条件でニオブ酸リチウムの前駆体水溶液を得た。この場合H2O2/Nbのモル比は2.11である。実施例1と同様にICP-AESにてニオブ酸リチウムの前駆体水溶液のリチウムとニオブ濃度を測定した結果、Li/Nbのモル比は添加したリチウムとニオブのモル比と同等であった。導電性の評価を行ったところ、圧粉体の体積抵抗率は9.9×106Ω・cmであったが、保存安定性の評価を行ったところ、4日後に沈殿の発生が認められ、実施例1~3と比較して、保存安定性が僅かに劣ることがわかった。実施例1と同様に当該前駆体溶液についてpH値の測定を行ったところ、pH値は8.0であった。
水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)の添加量を45.7gに変え、Li/Nbのモル比を1.12とした以外は実施例1と同じ条件でニオブ酸リチウムの前駆体水溶液を得た。当該前駆体溶液のpHは11.4であった。当該前駆体溶液についてFT-IR測定を行ったところ、実施例1と同じく、波数850cm-1付近および680cm-1付近に吸収ピークが観察された。実施例1と同様にICP-AESにてニオブ酸リチウムの前駆体水溶液のリチウムとニオブ濃度を測定した結果、リチウム濃度が0.77質量%、ニオブ濃度が9.26質量%であり、Li/Nbのモル比は1.11となり、Li/Nbのモル比は添加したリチウムとニオブのモル比とほぼ同等であった。また、このときのニオブ濃度はニオブとして1.1mol/Lであった。得られた前駆体水溶液は、2カ月間安定であり、2ヵ月後の前駆体水溶液中の過酸化水素濃度を測定したところ、0.11質量%であった。また、導電性の評価を行ったところ、圧粉体の体積抵抗率は9.6×106Ω・cmであった。
200mLのビーカーに純水100g、無水シュウ酸((COOH)2)80g、および含水酸化ニオブ(Nb2O5・nH2O、n=4.6、Nb2O5換算濃度:76.4mass%)30.7gを投入し、70℃で7h機械撹拌を行ったところ、清澄な水溶液が得られた。この溶液に水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)8.2gを添加した後室温まで冷却すると、ニオブの溶解に過剰であったシュウ酸が析出したため、濾過により沈殿を除去し、ニオブのシュウ酸錯体を含む清澄なニオブ酸リチウム前駆体水溶液を得た。なお、本比較例の製造方法は、日本国特許第4166334号の実施例を参照したものである。誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)により当該前駆体水溶液中のリチウムおよびニオブの濃度を測定したところ、それぞれ0.8質量%および9.4質量%であった。この場合Li/Nbのモル比は1.14となる。
ICP-AES測定は、試料0.1gを秤量し、それに純水と塩酸を添加して加熱後、放冷し、さらに過酸化水素水を添加して加熱後、放冷した後、液量を100mLに規正し、希釈した後にICP-AESで測定した。
本比較例で得られた前駆体水溶液について、保存安定性の評価を行ったところ、2カ月後においても目視で沈殿物は観察されなかったが、導電性評価における圧粉体の体積抵抗率は4.3×108Ω・cmであり、実施例1~4のそれらよりも劣っていた。本比較例において体積抵抗率が高かったのは、ニオブ酸リチウムの粉末中に、シュウ酸起因の有機物が焼成後に残留していたためと考えられる。当該前駆体溶液についてFT-IR測定を行ったところ、波数850cm-1付近および680cm-1付近に吸収ピークが確認されず、溶存化学種が実施例1~3とは異なることがわかった。
100mLのビーカーを用い、あらかじめ、純水33.5gに、濃度30質量%の過酸化水素水20.0gを添加して準備した過酸化水素水溶液に、含水酸化ニオブ(Nb2O5・nH2O、n=5.5、Nb2O5含有率72.6mass%)2.01gを添加し、液温を20℃~30℃の範囲内となるように調整した後、濃度28質量%のアンモニア水3.3gを添加し、水溶液が清澄になるまで機械撹拌した。得られた水溶液に水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)46gを添加し、ニオブのペルオキソ錯体を含む清澄なニオブ酸リチウムの前駆体水溶液を得た。
本比較例で得られた前駆体水溶液の保存安定性評価を行ったところ、12h後に前駆体水液に白濁が観察された。また、白濁する前の前駆体水溶液を用いて導電性の評価を行ったところ、圧粉体の体積抵抗率は2.9×107Ω・cmであった。当該前駆体溶液についてFT-IR測定を行ったところ、波数850cm-1付近および680cm-1付近に吸収ピークが確認されず、波数800cm-1付近にシャープな吸収ピークが観察され、溶存化学種が実施例1~3とは異なることがわかった。実施例1と同様に当該前駆体溶液についてpH値の測定を行ったところ、pH値は10.2であった。
過酸化水素水を添加しなかった以外は実施例1と同じ条件で、ニオブ酸リチウムの前駆体水溶液を得たが、当該前駆体水溶液には12h後に沈殿物の析出が観察された。なお、圧粉体の体積抵抗率は9.7×106Ω・cmであった。実施例1と同様に当該前駆体溶液についてpH値の測定を行ったところ、pH値は11.7であった。
Claims (4)
- ニオブのポリ酸イオンと、ニオブのポリ酸イオンに含まれるニオブ1モルとのモル比Li/Nbが0.9以上1.4以下のLiイオンと、過酸化水素とを含み、前記のニオブのポリ酸イオンの濃度が、ニオブとして0.1mol/L以上1.5mol/L以下であり、前記の過酸化水素の濃度が、ニオブ1molに対して0.1mol以上2.5mol以下である、ニオブ酸リチウムの前駆体水溶液。
- 前記の過酸化水素の量が0.01質量%以上6.7質量%以下である、請求項1に記載のニオブ酸リチウムの前駆体水溶液。
- 含水酸化ニオブと、ニオブとのモル比Li/Nbが0.9以上1.4以下の水酸化Liを溶解し、ニオブのポリ酸イオンとLiイオンを含有する水溶液であって、前記の溶解した含水酸化ニオブの濃度が、ニオブとして0.1mol/L以上1.5mol/L以下である水溶液を得る工程と、
前記のニオブのポリ酸イオンとLiイオンを含有する水溶液にニオブ1molに対して0.1mol以上2.5mol以下の過酸化水素を添加する工程とを含む、ニオブ酸リチウムの前駆体水溶液の製造方法。 - 前記の添加する過酸化水素の濃度が、ニオブ1molに対して0.1mol以上1.5mol以下である、請求項3記載のニオブ酸リチウムの前駆体水溶液の製造方法。
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