JP7356130B2 - スケール付着防止層、スケール付着防止層を有する構造体、スケール付着防止剤 - Google Patents
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Description
このように、コーティング層によってスケールの付着を防止する方法では、スケール付着防止性だけでなく、耐酸性及び耐アルカリ性、及び部材に対する密着性を備えたコーティング層(以下、スケール付着防止層という)が望まれている。
スケール付着防止層を持たない配管等の部材では、通常、部材表面を覆うようにスケールが付着及び堆積する。一方、腐食防食学会「材料と環境」(2011)によると、樹脂から構成されるプラスチック板にスケールが付着する場合、プラスチック板表面の凹部に、スケールが粒子状に堆積することが報告されている。その要因として、金属とは異なり、樹脂はスケールとの相互作用が弱いため、粒子の物理的な引掛かりがスケール付着に影響すると推察されている。すなわち、流体との接触面が樹脂から構成されるスケール付着防止層である場合、スケール付着防止層の表面粗さがスケールの付着に大きく影響すると考えられる。そのため、スケール付着防止層の表面が粗い場合、凹凸が多く存在し、この凹凸が流体の流れに局部的な乱れを引き起こし、スケールの付着を促すことになり得る。
Ra=ΣSn/L 式(1)
フラン樹脂の特徴として、耐酸性及び耐アルカリ性に優れ、また耐熱性に優れることが挙げられる。そのため、スケール付着防止剤における塗膜形成成分としてフラン樹脂を好適に使用することができる。フラン樹脂の使用によって、耐酸性、耐アルカリ性、及び耐熱性に優れるコーティング層を容易に得ることができる。
上記架橋性官能基は、例えば、水酸基(但し、カルボキシル基に含まれる水酸基は除く)、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、及びシリル基等が挙げられる。フラン樹脂は、架橋性官能基が反応することによって硬化物を形成する。
例えば、少なくともフルフリルアルコールを用いて得られるフラン樹脂は、架橋性官能基として少なくとも水酸基を有する。フラン樹脂は、水酸基に限らず、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、及びシリル基等のその他の架橋性官能基を有するフラン化合物を用いて得られる重合体であってもよい。フラン樹脂は、1種又は2種以上の架橋性官能基を含んでよい。
変性フラン樹脂の具体例として、フルフラール又はフルフリルアルコールと、これらフラン化合物と反応可能なその他の化合物との共縮合物が挙げられる。より詳細には、変性フラン樹脂として、フルフリルアルコール-アルデヒド共縮合型、フルフラール-ケトン共縮合型、フルフラール-フェノール共縮合型、フルフリルアルコール-尿素共縮合型、及びフルフリルアルコール-フェノール共縮合型等の重合体が挙げられる。変性フラン樹脂を使用した場合、スケール付着防止剤における官能基数が増えるため、プライマー層に対して優れた密着性を容易に得ることができる。
無機粒子は、硬化性樹脂用フィラーとして公知の材料であってよい。他の物質との反応性が低い無機粒子を使用した場合、優れたスケール付着防止性を得ることが容易となる。無機粒子の具体例として、黒鉛、酸化亜鉛、珪石、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、及び炭化ケイ素等が挙げられる。特に限定するものではないが、先に例示した無機粒子のなかでも、黒鉛及び酸化チタンを好適に使用することができ、黒鉛をより好適に使用することができる。
無機粒子の添加量が1質量部以上である場合、耐熱性、及び部材に対するコーティング層(硬化膜)の密着性を向上させることが容易である。また、無機粒子の添加量が100質量部以下である場合、所望とするRaの範囲内に調製することが容易であり。表面の平滑性を備えたコーティング層を形成でき、スケールの付着を抑制することができる。加えて、フラン樹脂の硬化反応が進行し易くなる。
(黒鉛)
黒鉛は、人造黒鉛と、天然黒鉛とに分類され、汎用性の観点から天然黒鉛が好ましい。
さらに、天然黒鉛は、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、半鱗状黒鉛、土状黒鉛、球状黒鉛、膨張化黒鉛、塊状黒鉛、及び膨張黒鉛に分類される。なかでも、耐熱性の観点から、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、半鱗状黒鉛、土状黒鉛、球状黒鉛、膨張化黒鉛、及び塊状黒鉛が好ましい。
また、スケール付着防止剤(樹脂組成物)の流動抵抗の観点から、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、半鱗状黒鉛、及び膨張化黒鉛が好ましい。これらの天然黒鉛を使用した場合、流動抵抗を小さくすることが容易となる。そのため、黒鉛の添加によって樹脂組成物の粘度が上昇することを抑制することができ、取扱い性に優れた樹脂組成物を提供することが容易となる。上記各種黒鉛のいずれか1つを単独で使用しても、又は2種以上を組合せて使用してもよい。
一実施形態において、フラン樹脂100質量部と、1~100質量部の黒鉛とを含むスケール付着防止剤を使用してスケール付着防止層を構成することによって、スケール付着防止性、耐酸性及び耐アルカリ性、及び密着性といった所望とする特性を備えるコーティング層を形成でき、またコーティング層の耐熱性を容易に向上させることができる。
一実施形態において、スケール付着防止剤は、フラン樹脂及び無機粒子に加えて、さらに硬化剤を含んでもよい。硬化剤の使用によって、150℃前後の加熱温度でも十分に硬化可能なスケール付着防止剤を提供することができる。
硬化剤として、フラン樹脂を硬化可能な、いかなる化合物を使用してもよい。特に限定されないが、硬化剤として、例えば、無機酸、有機酸、アンモニウム塩、及びアミン塩からなる群から選択される少なくとも1種を使用することができる。硬化剤として、上記化合物の1種を単独で使用しても、又は2種以上を組合せて使用してもよい。より詳細には、以下のとおりである。
無機酸は、当技術分野で強酸として公知の化合物であってよく、特に限定されない。一実施形態において、無機酸は、塩酸、硝酸、リン酸、及び硫酸からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
一実施形態において、酸解離定数の観点から、硬化剤は、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、及びフェノールスルホン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む有機スルホン酸、又は少なくともシュウ酸を含むカルボン酸であることが好ましい。このような実施形態によれば、スケール付着防止性が向上し、加えてフラン樹脂の硬化反応が促進され、コーティング層の耐酸性及び耐アルカリ性の向上が容易となる。
なかでも、塩基解離定数の観点から、スケール付着防止剤は、硬化剤として、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、及び臭化アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。このような実施形態によれば、フラン樹脂の硬化反応が促進され、優れた耐酸性及び耐アルカリ性と、優れたスケール付着防止性とを得ることが容易となる。特に、汎用性の観点から、臭化アンモニウム塩が好ましい。
一実施形態において、上記スケール付着防止剤は、必要に応じて、溶剤等の非塗膜形成成分を含んでもよい。溶剤を使用した場合、塗工時に適切な粘度を得ることが容易であり、スケール付着防止層を形成する材料(ワニス)として好適に使用することができる。
一実施形態は、部材へのスケールの付着を防止するコーティング層(スケール付着防止層)を有する構造体に関する。構造体は、流路を有し、スケール対策が必要とされる部材から形成され、流体が接触する部材の少なくとも一部にスケール付着防止層を有する。
上記部材は、スケール付着防止対策が必要とされる各種部材であってよい。スケール付着防止層が形成される部材の具体例として、配管、熱交換器、蒸発器、凝縮器、及び船底等が挙げられる。一実施形態において、部材は、温泉設備で使用される配管及び熱交換器等の部材であってよい。温泉設備で使用される部材は、様々なpHを有する温泉水と接触するため、スケール付着防止性に加えて、優れた耐酸性及び耐アルカリ性と、優れた耐熱性とを有することが好ましい。これに対し、上記実施形態のスケール付着防止剤又はその硬化物は、優れた耐酸性及び耐アルカリ性を有し、かつ優れた耐熱性を有する。そのため、上記スケール付着防止剤又はその硬化物から形成されるスケール付着防止層によって、温泉設備等での使用時に性能低下、及び劣化が生じ難い部材を提供することが可能となる。
一実施形態において、上記スケール付着防止層は、上記部材の表面に、先に説明したスケール付着防止剤(樹脂組成物)を塗工し、次いで塗工膜を硬化させて塗膜(硬化膜)を形成する方法によって得ることができる。部材へのスケール付着防止剤の塗工は、当技術分野で公知の方法に従って実施することができる。また、上記スケール付着防止剤は、加熱によって硬化物を形成できる。そのため、塗工膜の硬化は、塗工膜(スケール付着防止剤の膜)を加熱することによって実施することができる。
上記耐熱温度は、200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることがさらに好ましい。上記硬化物の耐熱温度が200℃以上である場合、スケール付着防止層によって部材の耐熱性を高めることが容易となり、耐熱性が必要とされる幅広い用途での部材の使用が可能となる。
例えば、切れ込み工具としてカッター、等間隔スペーサーとしてクロスカット試験カッターガイドSuperCutter Guide No.315(太佑機材株式会社製)等を使用することができる。
次に、幅25mm当り10Nの付着強さを有する透明感圧付着テープを上記サンプルの上に貼り付け、1.5kg/cm2の荷重で押し付ける。その後、90°方向に剥離し、テープに付着した四方マスの数を調査する。なお、透明感圧付着テープは、例えばセロハンテープ等が挙げられる。
一実施形態において、上記スケール付着防止層を有する構造体は、上記スケール付着防止層と上記無機部材との間に、さらにプライマー層を有してもよい。例えば、スケール付着防止層が樹脂のみから構成される場合、プライマー層を設けることで、無機部材に対する密着性を向上させることが容易となる。プライマー層は、無機部材、及びスケール付着防止層を形成するスケール付着防止剤の硬化物の各々に対して、優れた密着性を有し、かつ耐熱性に優れる材料から構成されることが好ましい。特に限定されないが、プライマー層は、樹脂と無機粒子とを含有するプライマー層形成剤から構成されることが好ましい。但し、プライマー層形成剤は、先に説明したスケール付着防止剤と異なる組成を有することを前提とする。
上記プライマー層を形成するための材料は、少なくとも上記スケール付着防止層との密着性を高めることができればよく、特に限定されない。一実施形態において、プライマー層形成剤は、フェノール樹脂及びフラン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂と、無機粒子とを含み、上記スケール付着防止剤と併用されることが好ましい。但し、プライマー層形成剤とスケール付着防止剤の組成は互いに異なることを前提とする。一実施形態において、優れた密着性を得ることが容易であるため、樹脂としてフェノール樹脂を使用することが好ましい。
上記実施形態のプライマー層形成剤において、フェノール樹脂は、特に限定されず、当技術分野において公知のフェノール樹脂を用いることができる。例えば、フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とを出発物質とする樹脂を含んでよい。具体例として、フェノール樹脂は、合成時に使用する触媒の種類によって、レゾール型フェノール樹脂と、ノボラック型フェノール樹脂とに大別される。これらの樹脂は、単独で使用されても、又は2種以上の組合せで使用されてもよい。
ノボラック型フェノール樹脂の合成に使用できるフェノール類及びアルデヒド類の具体例は、先にレゾール型フェノール樹脂の合成に使用できるフェノール類及びアルデヒド類と同様である。
プライマー層形成剤における粒子は、硬化性樹脂用フィラーとして公知の材料であってよいが、無機粒子であることが好ましい。プライマー層が無機粒子を含むことによって、無機部材に対する密着性の向上が可能である。上記無機粒子は、特に限定されないが、具体例として、黒鉛、酸化亜鉛、アルミナ、タルク、珪石、マイカ、ガラスビーズ、カオリン、シリカ、及び炭酸カルシウム等が挙げられる。これらの1種を単独で使用しても、又は2種以上を組合せて使用してもよい。上記黒鉛は、スケール付着防止剤の構成成分として先に説明した黒鉛と同じであってよい。一実施形態において、無機粒子は、酸化亜鉛又は黒鉛であることが好ましい。黒鉛のなかでも、燐片状黒鉛がより好ましい。
より具体的には、平均粒径は、以下の手順に従って得た値である。先ず、無機粒子のSEM画像において、無作為に複数個(例えば20個)の無機粒子を選択し、選択した無機粒子についてSEMで表示される縮尺を基準として粒径を計測する。粒径の計測は、無機粒子の最長径及びその垂直二等分線について実施する。次いで、各無機粒子について、最長径及びその垂直二等分線の値の積の平方根を求める。さらに、得られた複数の値の平均値を求め、平均粒径として規定する。
上記プライマー層形成剤は、フェノール樹脂等の樹脂及び無機粒子に加えて、さらに溶剤を含んでもよい。溶剤を含むプライマー層形成剤は、プライマー層を形成するためのプライマーワニスとして好適に使用することができる。溶剤の具体例として、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系有機溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系有機溶剤、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素溶剤、及びこれらの混合物が挙げられる。
1.アリルフラン化合物の合成
先ず、下記スキーム1に沿って反応を行うことによって、式(I)で表されるアリルフラン化合物を得た。具体的には、2,5-フランジカルボン酸100質量部、及びアリルグリシジルエーテル146質量部に対し、触媒としてベンジルトリエチルアンモニウムクロリド7質量部と、混合溶媒としてクロロホルム600質量部及びジメチルホルムアミド300質量部とを加え、得られた混合物を、70℃で9時間反応させた。
反応終了後、減圧下で溶媒を留去した後、クロロホルムを添加して希釈し、イオン交換水で有機層を3回洗浄した。水層を分離後、有機層に無水硫酸マグネシウムを添加して乾燥させた。次いで、減圧下にて溶媒及び揮発成分を留去することによって、淡黄色の液状物を得た。この液状物のIRスペクトル分析により、目的とするアリルフラン化合物の生成を確認した。
次に、下記スキーム2に沿って反応を行うことによって、式(II)で表されるエステル型のエポキシ変性フラン樹脂を得た。具体的には、先に合成したアリルフラン化合物100質量部をクロロホルム3000質量部に溶解させた。得られた溶液を0℃に氷冷した後、水を約30質量%含有するメタクロロ過安息香酸(mCPBA)152質量部を、少しずつ上記溶液に添加した。添加終了後、室温(25℃)に戻して40時間反応させた。反応終了後、ヨウ素でんぷん紙の発色を確認できなくなるまで、5質量%亜硫酸ナトリウム溶液を用いて反応液を洗浄し、次いで、炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて洗浄した。洗浄後、水層を分離し、有機層に無水硫酸マグネシウムを添加して脱水した(乾燥させた)後、さらに溶媒を留去し、ほぼ無色の液状物を得た。この液状物のIRスペクトル分析により、目的とするエステル型のエポキシ変性フラン樹脂の生成を確認した。
<1-1>スケール付着防止剤(スケール付着防止ワニス)の調製
表1に示す配合に従って、スケール付着防止層を形成するためのスケール付着防止ワニス)1A~16A、及び1B~4Bを調製した。具体的には、樹脂100質量部に対し、表1に示す添加量に従ってその他の材料を加えて混合した。さらに、この混合物をポリプロピレン容器に入れ、ミックスローターバリアブルVMR-5R(株式会社アズワン製、商品名)を用いて3時間混合し、それぞれのスケール付着防止ワニスを得た。
(樹脂)
a1:ヒタフランVF-303(日立化成株式会社製の製品名。全重量を基準として、フルフリルアルコール単独縮合型のフラン樹脂を67%、フルフリルアルコールを16%、及びフルフラールを17%含む混合物である)
a2:エポキシ変性フラン樹脂(先に例示した合成法で得たエステル型のエポキシ変性樹脂)
a3:エピコート1001(物質名:エポキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社製)
a4:メチルトリメトキシシラン(物質名:シリコーン樹脂、東京化成株式会社製)
b1:X-100(物質名:鱗片状黒鉛、平均粒径:60μm、伊藤黒鉛株式会社製)
b2:Z-5F(物質名:鱗片状黒鉛、平均粒径:5μm、伊藤黒鉛株式会社製)
b3:XD100(物質名:鱗片状黒鉛、平均粒径:250μm、伊藤黒鉛株式会社製)
b4:X-10(物質名:鱗片状黒鉛、平均粒径:10μm、伊藤黒鉛株式会社製)
b5:XD150(物質名:鱗片状黒鉛、平均粒径:180μm、伊藤黒鉛株式会社製)
b6:酸化チタン(IV)ルチル型(平均粒径5μm、富士フイルム和光純薬株式会社
製)
b7:高純度アルミナボール(平均粒径:500μm、富士フイルム和光純薬株式会社製)
c1:塩酸(12mol/l、富士フイルム和光純薬株式会社製)
c2:A-3(物質名:70%パラトルエンスルホン酸溶液、溶媒:水、エチレングリコールモノブチルエーテル、日立化成株式会社製)
c3:シュウ酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)
c4:安息香酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)
c5:臭化アンモニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
c6:50%ジメチルアミン水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製)
c7:DMP-30(物質名:2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール株式会社スリーボンド製)
c8:酢酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)
c9:10%アンモニア水(富士フイルム和光純薬株式会社製)
d1:フルフリルアルコール(東京化成株式会社製)
d2:メチルエチルケトン(富士フイルム和光純薬株式会社製)
d3:脱イオン水
表2に示す配合に従って、プライマー層を形成するためのプライマーワニス1A~3Aをそれぞれ調製した。具体的には、樹脂100質量部に対し、表2に示す添加量に従ってその他の材料を加えて混合した。さらに、この混合物をポリプロピレン容器に入れ、ミックスローターバリアブルVMR-5R(株式会社アズワン製、商品名)を用いて3時間混合し、それぞれのプライマーワニスを得た。
(樹脂)
A1:液状レゾール型フェノール樹脂LR-306(リグナイト株式会社製)
A2:ヒタフランVF-303(日立化成株式会社製の製品名。全重量を基準として、フルフリルアルコール単独縮合型のフラン樹脂を67%、フルフリルアルコールを16%、及びフルフラールを17%含む混合物である)
(粒子)
B1:酸化亜鉛(平均粒径:0.02μm、富士フイルム和光純薬株式会社製)
B2:Z-5F(物質名:鱗片状黒鉛、平均粒径:5μm、伊藤黒鉛株式会社製)
(硬化剤)
C1:炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
<2>スケール付着防止剤の硬化物の作製
先に調製したスケール付着防止層を形成するためのスケール付着防止剤(スケール付着防止ワニス)を、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シート(サンプラテック株式会社製、耐熱温度260℃)を敷いた金属製の角バットに流し入れた。次いで、オーブンで加熱してスケール付着防止ワニスを硬化させた後、2cm角に切断し、上記スケール付着防止ワニスの硬化物のサンプルを得た。各サンプル(硬化物)の膜厚は表3及び表4に示したとおりである。
<3-1>スケール付着防止層を有する構造体の作製(実施例1~21、比較例1~5)
先に調製したスケール付着防止ワニスを使用して、後述のように表3及び表4に示すスケール付着防止層を形成した。
先ず、後述する基材S1~S7を2cm角及び5cm角にそれぞれ切り出した。切出した基材に、アプリケータ(ベーカーアプリケーターYBA-4、ヨシミツ精機株式会社製)を用いてスケール付着防止ワニスを塗工した。次いで、塗工膜(ワニスの膜)を加熱することによって、基材上に硬化物から形成されるスケール付着防止層を形成した。さらに、2cm角の基材については、裏面にも同様にしてスケール付着防止ワニスを塗工し、次いで、塗工膜を加熱することによって、基材の両面にスケール付着防止層を形成した。サンプル作製時の硬化条件は表3及び表4に示したとおりであり、それぞれ十分に硬化反応が進行していることを確認した。部材として使用した基材は以下のとおりである。
S1:トタン板(構成:炭素鋼上に亜鉛めっき、株式会社久宝金属製作所製)
S2:ステンレス板(株式会社岩田製作所製)
S3:焼付け鋼板(株式会社岩田製作所製)
S4:アルミ板(光株式会社製)
S5:クロム-モリブデン鋼板(中部鋼板株式会社製)
S6:銅板(光株式会社製)
S7:S10ルームミラー#350(PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、東レ株式会社製)
上記基材S2を5cm角に切り出した後、アプリケータを用いてプライマーワニスを塗工し、塗工膜を加熱することによって、プライマー層を得た。次いで、プライマー層を有する各基材について、プライマー層の上に更にスケール付着防止ワニスを塗工し、塗工膜を加熱することによってスケール付着防止層を形成した。サンプル作製時の硬化条件及び膜厚は表3及び表4に示したとおりである。
膜厚の測定は、株式会社テクロック製の定圧厚さ測定器を使用し、水平な装置の台に上記基材S2を設置し、0点補正後のプローブを定圧で基材の上に押し当てることによって実施した。次に、同様にして、プライマー層形成後に膜厚を測定し、基材の膜厚との差を算出することによって、プライマー層の膜厚を求めた。更に、同様にして、スケール付着防止層形成後に膜厚を測定し、プライマー層付きの基材の膜厚との差を算出することによって、スケール付着防止層の膜厚を求めた。測定を複数回実施し、それらの平均値を求め膜厚とした。
実施例1~21及び比較例1~5で作製した硬化物、及び実施例1~25及び比較例1~4で形成したコーティング層を有する構造体に対して、以下に示す方法に従い、各種特性を評価した。それぞれの評価結果を表3及び表4に示す。
(1-1)質量変化率
硬化物の試験片の質量を測定した後、0.05mol/Lの硫酸水溶液8mLに浸漬し、23℃に保持された恒温槽に入れた。浸漬してから1日後、3日後、7日後、14日後、30日後、60日後、及び90日後に取り出し、試験片を速やかに流水又は適当な液ですすぎ、表面に付着している液をぬぐい取った。次いで、試験片を、温度23℃、相対湿度50%の恒温槽中で48時間放置し、質量を測定した。質量変化率は以下の式により算出した。
M=(M2-M1)/M1×100
式中、Mは質量変化率(%)、M1は試験片の試験前の質量(g)、M2は試験片の試験後の質量(g)を示す。経過日数毎にM2を測定し、M2の値が一定になった時点でのMを、試験片の質量変化率とした。
浸漬前後の試験片の外観を目視にて観察し、溶解、粉末化、鱗状化、亀裂、破断、ふくれ、ねばり、変色、光沢の損失等の有無を調べた。
(2-1)質量変化率
上記(1)耐酸性試験と同様に、硬化物の試験片の質量を測定した後、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液8mLに浸漬し、23℃に保持された恒温槽に入れた。次いで、上記(1)の手順と同様にして、質量変化率を測定した。
(1-2)と同様にして、評価した。
硬化物をスパチュラで粉状にして、大気圧下、100℃で30分間乾燥した。得られた乾燥後の硬化物をデシケータ中に移し、25℃まで冷却して、サンプルとして使用した。
一方、測定装置としては、DTG-60H(株式会社島津製作所製)を用いた。
先ず、水分等を除去するため、白金製のパンを200℃で3時間にわたって、大気雰囲気で乾燥させた。
次に、測定前にサンプルの質量を測定し、上記のように空焼きした6mmΦの白金製のパンに約10mgのサンプルを詰めた。その後、窒素雰囲気下(ガス流量:150ml/分)で、昇温速度10℃/分で30℃から500℃まで昇温し、0.5秒毎に質量を測定した。5質量%減少した時点での温度を耐熱温度とした。
なお、質量減少率は以下の式によって算出される。質量減少率は、次の式によって算出し、百分率で表す。
mL=(m0―mB)/m0×100
式中、mLは質量減少率(%)、mBは終了温度の質量(mg)、m0は加熱前の質量(mg)を示す。
珪酸ナトリウム溶液(55%水溶液、富士フイルム和光純薬株式会社製)66.4g質量部、純水933.6質量部を加えて混合し、1.0mol/Lの珪酸ナトリウム水溶液1000質量部を得た。また、塩化マグネシウム六水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)21.0質量部、純水979.0質量部を加え、0.1mol/Lの塩化マグネシウム水溶液1000質量部を得た。
上述のように調製した珪酸ナトリウム水溶液100.0質量部及び塩化マグネシウム水溶液100.0質量部と、純水300.0質量部とを混合することによって、珪酸ナトリウム0.2mol/L、及び塩化マグネシウム0.02mol/Lの水溶液を得た。
この水溶液に、塩酸(1mol/L、富士フイルム和光純薬株式会社製)50.0質量部及び純水50.0質量部を加えて得た0.5mol/Lの塩酸溶液をさらに滴下し、pH紙を用いてpHを8に調整し、試験液を得た。
オートクレーブに上記試験液を80mL入れ、基材をS1にした各スケール付着防止層を上記試験液に浸漬して、100℃で、100時間加熱した。浸漬後のサンプルを取り出し、25℃で24時間乾燥させた。
次に、スケール付着防止層の表面をデジタルカメラで撮影し、その画像をカラーコピー機で紙に印刷した。先ず、印刷した画像において、スケール付着防止層(スケール付着防止ワニスの硬化膜)部分をハサミで切断し、その質量を測定した。次いで、直径5mm以上のスケール部分をハサミで切断し、その切断したスケール部分の合計質量を測定した。各測定値から以下の式に従い、スケール付着率(面積比)を算出した。
SL=S1/S0×100
式中、SLはスケール付着率(%)、S1はスケール部分の質量(g)、S0は硬化膜部分の質量(g)を示す。
基材をS2にした各スケール付着防止層を、温度23℃、相対湿度50%で16時間保管した。クロスカット試験カッターガイドSuperCutter Guide No.315を用いて、各スケール付着防止層に対し、平行に1mm幅で、10本の切れ込みを入れた。さらに、それら10本の線と90°に交わるように平行に2mm幅で、10本の切れ込みを入れた。次に、透明感圧付着テープをスケール付着防止層の上に貼り付け、1.5kg/cm2の荷重で押し付けた後、90°方向に剥離し、剥離したマス(1mm2四方マス)の数を数えた。
基材をS2にした各スケール付着防止層を、触針式表面粗さ計(Dektak、アルバック製)を用いて下記条件にて測定を行った。
測定長さ:5000μm
測定時間:50秒
触針圧:15mg
測定は3点について行い、得られた結果の平均値としてRaを算出した。
これに対し、フラン樹脂を含まない比較例1及び2では、スケール付着防止層の耐アルカリ性と耐熱性とを両立させることが困難であった。また、スケール付着防止層の表面粗さ(Ra)の値が60μmよりも大きい比較例3及び4では、スケール付着防止性に劣る結果となった。なお、比較例5に示すように、無機部材の代わりに有機部材(樹脂基材)を使用した場合は塗工自体が困難であった。このことから、本発明によれば、無機部材への塗工によってスケール付着防止層を形成することができるスケール付着防止剤を提供できることもわかる。
10:部材
20:スケール付着防止層、20a:フラン樹脂、20b:無機粒子
21:プライマー層
30:スケール
Claims (8)
- 無機部材へのスケールの付着を防止するためのスケール付着防止層であって、
フラン環と架橋性官能基とを有する重合体、前記重合体の中間生成物、及び前記重合体を構成するモノマー化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むフラン化合物の硬化物を含み、表面粗さ(Ra)が60μm以下であり、
前記スケールは、水を含む流体が接触する部材の表面に析出する固体沈殿物であり、ただし、生体由来物質を除く、スケール付着防止層。 - さらに無機粒子を含む、請求項1に記載のスケール付着防止層。
- 前記無機粒子の平均粒径が、300μm以下である、請求項2に記載のスケール付着防止層。
- 前記無機粒子の添加量が、前記フラン化合物100質量部に対して1~100質量部である、請求項2又は3に記載のスケール付着防止層。
- 前記無機粒子が黒鉛を含む、請求項2~4のいずれか1項に記載のスケール付着防止層。
- 無機部材と、請求項1~5のいずれか1項に記載のスケール付着防止層とを有する、構造体。
- 前記スケール付着防止層の膜厚が1~1,000μmである、請求項6に記載の構造体。
- 無機部材へのスケールの付着を防止するためのスケール付着防止層を形成するためのスケール付着防止剤であって、
フラン環と架橋性官能基とを有する重合体、前記重合体の中間生成物、及び前記重合体を構成するモノマー化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むフラン化合物を含み、形成されるスケール付着防止層の表面粗さ(Ra)が60μm以下であり、前記スケールは、水を含む流体が接触する部材の表面に析出する固体沈殿物であり、ただし、生体由来物質を除く、スケール付着防止剤。
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