JP7339111B2 - マイクロ流路デバイス用感光性樹脂積層体 - Google Patents

マイクロ流路デバイス用感光性樹脂積層体 Download PDF

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Description

本発明は、マイクロ流路デバイス用感光性樹脂積層体に関する。
マイクロ流路デバイス(マイクロ流体デバイス、マイクロ流体チップ、μTAS(Micro Total Analysis Systems)、LOC(Lab on a Chip)、マイクロリアクター等とも称される。)は、マイクロ流体力学に基づいて微小電子機械デバイス(MEMS)技術等の微細加工技術を用いて形成された微小回路を備えるデバイスとして知られており、バイオテクノロジー研究、創薬、診断、検査、化学工学等、種々の用途で利用されつつある。特に、近年では、在宅ヘルスケア、遠隔医療、臨床現場即時検査(POCT)等におけるマイクロ流路デバイスの利用への関心が高まっている。
従来、マイクロ流路デバイスの製造方法は、射出成形、モールド成形及びガラスエッチングであったが、それらに代わり、フォトリソグラフィーにより流路用樹脂パターンを基材上に形成し、その後、蓋材(シール材)を接合する方法が提案されている(特許文献1~3)。
特許文献1には、(A)特定構造のビスフェノールA-ノボラックエポキシ樹脂と、(B)特定構造のエポキシ樹脂と、(C)1種又は複数のカチオン性光開始剤(光酸発生剤又はPAGとしても知られる)と、(D)1種又は複数の溶媒とを含む永久フォトレジスト組成物が、紫外線リソグラフィにより形成可能で、マイクロ流体部品等の製造にも有用であることが記載されている。
特許文献2には、マイクロ流体チップ・パッケージ又は組立体の製造方法において、マイクロ流体構造体を含むブロックを基板上に形成すること、該ブロックを被覆するようにカバーフィルムを貼付すること、当該カバーフィルムとしてドライフィルムレジストが好ましいことが記載されている。
特許文献3には、支持体上に特定構成の感光性樹脂組成物から樹脂層を形成する工程、該樹脂層の一部を紫外線露光及び現像する工程、現像後の樹脂層の上に蓋材を載置して積層体を得る工程、及び得られた積層体を紫外線露光する工程、を有するマイクロ流体装置の製造方法によれば、リソ後のパターン化した樹脂層が十分な強度とタックを有することで、良好な流路等を有するマイクロ流体装置を製造できることが記載されている。
特表2007-522531号公報 特表2016-529116号公報 特開2017-119340号公報
マイクロ流路デバイスは、前述のような種々の用途において微量物質の分析、化学反応等に利用され、マイクロ流路には各用途に応じた流体(液体又は気体)が導入されることになる。マイクロ流路において流体と接する部材(例えば隔壁材及びシール材)の流体に対する耐性(例えば水系流体に対しては耐水性)が乏しく部材が流体によって膨潤したり、当該部材にクラック等の欠陥が存在すると、流体のマイクロ流路内での意図した流動が確保されず、場合によっては流体がマイクロ流路外に漏れ出してしまうため、分析、化学反応等の精度を損なう。支持フィルムと感光性樹脂組成物層とを有する感光性樹脂積層体(ドライフィルムレジスト又はドライフィルムフォトレジストとも呼ばれる。)を用いる場合には、感光性樹脂組成物の組成を変えることで部材の特性(耐水性、耐有機溶媒性、機械特性等)を容易に設計できるため、流体に対する耐性、及びクラック耐性を用途に応じて適切に制御して、分析、化学反応等を高精度で行うことができる。また、感光性樹脂積層体は、パターン露光可能であるため、金型等を必須とせずに(すなわち少ない設備コストで)寸法精度に優れる部材を形成できる。
マイクロ流路デバイスを用いた分析、化学反応等では、特定の波長の光を照射し標的物質からの発光シグナルによって当該標的物質の存在を検出することが多い。このような蛍光検出には、例えば、フルオレセイン系化合物を用いて、励起波長約490nm、発光波長約515nmを検出することが多い。また、励起波長510~560nm、検出波長590nm以上の蛍光顕微鏡を用いることもある。感光性樹脂積層体を用いて形成される部材は、流体に対する耐性、クラック耐性、及び寸法精度の点で優れるが、特定の波長の光の照射で発光し、標的物質の所望の蛍光検出を妨げるという問題があった。
したがって、本発明が解決しようとする課題は、標的物質の蛍光発光による検出性に優れる、マイクロ流路デバイス用感光性樹脂積層体を提供することである。
本開示は、以下の態様を包含する。
[1] 支持フィルムと感光性樹脂組成物層とで構成されたマイクロ流路デバイス用感光性樹脂積層体であって、
前記マイクロ流路デバイス用感光性樹脂積層体が露光後に波長515nm及び600nmのいずれか一方又は両方における透過率80%以上を有し、
前記支持フィルムと前記感光性樹脂組成物層との密着強度が、3gf/inch以上、100gf/inch以下である、
マイクロ流路用感光性樹脂積層体。
[2] 直描式露光用である、上記態様1に記載のマイクロ流路用感光性樹脂積層体。
[3] 前記感光性樹脂組成物層は、無機性値(I)と有機性値(O)との比(I/O)が1.0以下である感光性樹脂組成物で構成されている、上記態様1又は2に記載のマイクロ流路用感光性樹脂積層体。
[4] 前記感光性樹脂組成物層は、露光後に弾性率2GPa以下及び破断伸度30%以上を有する、上記態様1~3のいずれかに記載のマイクロ流路用感光性樹脂積層体。
[5] 前記感光性樹脂組成物層の膜厚が、100μm以上である、上記態様1~4のいずれかに記載のマイクロ流路用感光性樹脂積層体。
[6] 前記感光性樹脂組成物層の膜厚において、30℃、1質量% Na2CO3水溶液による25μm当たりの現像時間が、15~50秒/25μmである、上記態様1~5のいずれかに記載のマイクロ流路用感光性樹脂積層体。
[7] 前記感光性樹脂組成物層は、(a)カルボキシル基を有するアルカリ可溶性高分子、(b)付加重合性モノマー、及び(c)光重合開始剤、を含み、
(b)付加重合性モノマーが、下記(式I):
C-((CH2)R1)((CH2)R2)((CH2)R3)((CH2)R4
・・・(式I)
(式中、R1~R4は各々独立に一価の有機基を指す。)
で示される構造を有しかつ分子量200~600であるモノマーを(b)付加重合性モノマー中50質量%以上含む組成物で構成されている、上記態様1~6のいずれかに記載のマイクロ流路用感光性樹脂積層体。
本発明によれば、標的物質の蛍光発光による検出性に優れるマイクロ流路デバイスを与える、マイクロ流路デバイス用感光性樹脂積層体を提供できる。
図1は、実施例で形成した流路パターンを示す図である。
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と略記する。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
[感光性樹脂積層体]
本実施形態は、支持フィルムと感光性樹脂組成物層とで構成されたマイクロ流路デバイス用感光性樹脂積層体を提供する。なお「支持フィルムと感光性樹脂組成物層とで構成された」とは、当該積層体が、実質的に支持フィルムと感光性樹脂組成物層とからなるが、本発明の効果を損なわない範囲で他の要素が存在する可能性まで排除するものではないことを意味する。本実施形態に係るマイクロ流路デバイス用感光性樹脂積層体(以下、単に「感光性樹脂積層体」ともいう。)は、フォトリソグラフィーによるマイクロ流路の形成に特に適した特性を有し、例えば、マイクロ流路の隔壁材、蓋材等として使用されることができる。
一態様において、感光性樹脂積層体は、露光後に波長515nm及び600nmのいずれか一方又は両方の透過率80%以上を有する。当該透過率は、波長515nm及び600nmの光を、露光後の感光性樹脂組成物層側から入射させて測定される値である。当該透過率は、標的物質の蛍光発光による所望の検出性を得る観点から、特に、フルオレセイン系化合物の発光を検出する観点から、80%以上であり、好ましくは82%以上、より好ましくは84%以上、更に好ましくは85%以上である。当該透過率の上限は、100%であってもよいが、感光性樹脂積層体の製造容易性の観点から、好ましくは99%以下であってよい。当該透過率を80%以上に調整する手段としては、これに限定されないが、感光性樹脂組成物層が着色物質(染料、顔料等)又は露光によって発色する染料を実質的に含まないようにすること(より具体的には、感光性樹脂組成物層の全固形分を基準として、着色物質の含有量を0質量%以上0.001質量%未満とすること)、及び支持フィルムのヘーズが値が5以下であることが挙げられる。
なお本開示で、「露光後」とは、特記がない限り、500mJ/cm2の光量を照射し、10分経過した後の状態を意味する。
本開示で、「着色物質」とは、露光前又は露光後において可視域に吸収のある(具体的には、分光光度計で測定したときの420~800nmモル吸光係数が10000L/(mol・cm)以上である)物質を意味する。
着色物質としては、例えば、フタロシアニングリーン、クリスタルバイオレット、メチルオレンジ、ナイルブルー2B、ビクトリアブルー、マラカイトグリーン、ベイシックブルー20、ダイアモンドグリーンなど、又はロイコ染料、若しくはフルオラン染料とハロゲン化合物との組み合わせなどの発色系染料が挙げられる。
ロイコ染料としては、例えば、トリス(4-ジメチルアミノ-2-メチルフェニル)メタン[ロイコクリスタルバイオレット]、トリス(4-ジメチルアミノ-2-メチルフェニル)メタン[ロイコマラカイトグリ-ン]、及びフルオラン染料が挙げられる。
一態様において、感光性樹脂積層体は、直描式露光方式用である。感光性樹脂の露光方法としては、直描式の他、マスクを用いる方式等が知られているが、複雑な形状のマイクロ流路を高寸法精度で形成できる点で直描式露光が望ましい。直描式露光に適した感光性樹脂組成物層の特性としては、感度が高い感光性樹脂層が好ましい。一般に直描式では、微小な露光領域の露光をデジタルマイクロミラーデバイスやポリゴンミラーなどを用いて繰り返し又は走査することで大面積を露光する。この際、露光タクトを短縮するため単位面積当たりの露光時間は短くなるので、感光性樹脂層は高感度であることが好ましい。高感度な感光性樹脂組成物としては、アルカリ可溶性高分子と付加重合性モノマーと光重合開始剤とを含むラジカルネガ型の感光性樹脂層を挙げることができる。このようなネガ型の感光性樹脂層は、露光時に空気中の酸素によってラジカル重合即ち硬化反応が阻害されるため、酸素透過性が低くかつ透明性の高いプラスチックフィルムで覆われている事が好ましい。このような理由から、直描式露光には感光性樹脂積層体が好適に用いられる。
好ましい態様において、感光性樹脂組成物層は、無機性値(I)と有機性値(O)との比(I/O)が1.0以下である感光性樹脂組成物で構成されている。
を含む。
無機性値(I)と有機性値(O)との比(I/O)とは、I/O値又は無機性値/有機性値とも称され、部材又は化合物の極性を有機概念的に取り扱った値であり、各官能基にパラメータを設定する官能基寄与法の一種である。
比(I/O)は、有機概念図(甲田善生著、三共出版(1984));KUMAMOTO PHARMACEUTICAL BULLETIN,第1号、第1~16項(1954年);化学の領域、第11巻、第10号、719~725項(1957年)などの文献に詳細な説明がある。比(I/O)は、部材又は化合物の性質を、共有結合性を表す有機性基と、イオン結合性を表わす無機性基とに大別し、有機軸及び無機軸と名付けた直行座標上の1点ずつに位置付けて示すものである。
無機性値(I)とは、有機化合物が有している種々の置換基又は結合等の沸点への影響力の大小を、水酸基を基準に数値化したものである。具体的には、直鎖アルコールの沸点曲線と直鎖パラフィンの沸点曲線との距離を炭素数5の付近で取れば約100℃となるので、水酸基1個の影響力を数値で100と定め、この数値に基づいて各種の置換基又は各種の結合などの沸点への影響力を数値化した値が、有機化合物が有している置換基の無機性値(I)となる。例えば、-COOH基の無機性値(I)は150であり、二重結合の無機性値(I)は2である。したがって、或る種の有機化合物の無機性値(I)とは、化合物が有している各種置換基又は結合等の無機性値(I)の総和を意味する。
有機性値(O)とは、分子内のメチレン基を単位とし、そのメチレン基を代表する炭素原子の沸点への影響力を基準にして定めたものである。すなわち、直鎖飽和炭化水素化合物の炭素数5~10付近で炭素1個が加わることによる沸点上昇の平均値は20℃であるから、これを基準に炭素原子1個の有機性値を20と定め、これを基礎として各種の置換基又は結合等の沸点への影響力を数値化した値が有機性値(O)となる。例えば、ニトロ基(-NO)の有機性値(O)は70である。
一般に、比(I/O)は、0に近いほど非極性(疎水性、有機性が大きい)の有機物であることを示し、他方、値が大きいほど極性(親水性、無機性が大きい)の有機物であることを示す。感光性樹脂組成物層の比(I/O)は、感光性樹脂積層体の、マイクロ流路を流れる流体に対する耐性(流体耐性)の観点から、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.9以下、さらに好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.7以下である。比(I/O)は、流体耐性の観点からは好ましくは0.0であるが、感光性樹脂積層体の製造容易性、現像性の観点から、0.1以上、0.2以上又は0.3以上であってもよい。なお上記比(I/O)は、感光性樹脂組成物のベース樹脂及びモノマーに基づいて(すなわち、光重合開始剤及び添加剤は除外して)算出される値である。
好ましい態様において、感光性樹脂組成物層は、露光後に弾性率2GPa以下を有する。弾性率は、良好なクラック耐性を得る観点から、好ましくは2GPa以下、より好ましくは1.5GPa以下、更に好ましくは1.0GPa以下であり、良好な機械強度を得る観点から、好ましくは0.1GPa以上、より好ましくは0.3GPa以上、更に好ましくは0.5GPa以上である。
好ましい態様において、感光性樹脂組成物層は、露光後に破断伸度30%以上を有する。破断伸度は、良好なクラック耐性を得る観点から、好ましくは30%以上、より好ましくは60%以上、更に好ましくは100%以上であり、良好な機械強度を得る観点から、好ましくは300%以下、より好ましくは200%以下、更に好ましくは180%以下である。
特に好ましい態様において、感光性樹脂組成物層は、露光後に弾性率2GPa以下及び破断伸度30%以上を有する。
本実施形態に係るマイクロ流路デバイス用感光性樹脂積層体の構成要素について以下に説明する。
<感光性樹脂組成物層>
感光性樹脂組成物層は、感光性樹脂組成物を支持フィルムに塗布及び乾燥して積層することにより形成されることができる。感光性樹脂組成物は、感光性樹脂積層体に感光性を付与できる限り、任意の高分子及び/又はモノマーを含むことができ、所望により、光重合開始剤、その他の添加剤などをさらに含んでよい。
感光性樹脂組成物は、フォトリソグラフィーによるマイクロ流路デバイス用部材の形成性、感光性樹脂積層体とマイクロ流路デバイスの基材とのラミネート性などの観点から、(a)カルボキシル基を含有するアルカリ可溶性高分子、(b)付加重合性モノマー、及び(c)光重合開始剤を含むことが好ましい。また、感光性樹脂組成物は、それを用いて感光性樹脂組成物層をフィルム化できる限り、EPON(登録商標)SU-8型樹脂、ビスフェノールAノボラックエポキシ樹脂などのエポキシ樹脂を含んでよい。
(a)カルボキシル基を含有するアルカリ可溶性高分子
(a)カルボキシル基を含有するアルカリ可溶性高分子は、α,β-不飽和カルボキシル基含有単量体を重合成分としており、アルカリ可溶性高分子の酸当量が100~600、かつ、重量平均分子量が5,000~500,000であることが好ましい。カルボキシル基を含有するアルカリ可溶性高分子中のカルボキシル基は、感光性樹脂組成物がアルカリ水溶液から成る現像液又は剥離液に対して、現像性又は剥離性を有するために必要である。酸当量とは、その中に1当量のカルボキシル基を有するアルカリ可溶性高分子の質量を言う。酸当量のより好ましい下限は250であり、またより好ましい上限は450である。(a)カルボキシル基を含有するアルカリ可溶性高分子の酸当量は、現像耐性が向上し、解像度及び感光性樹脂組成物層の硬化物(本開示で、「硬化レジスト膜」ともいう。)と他の部材との密着性が向上する点、さらに溶媒又は感光性樹脂組成物中の他の成分、特に後述する(b)付加重合性モノマーとの相溶性を確保するという観点から100以上が好ましく、現像性及び剥離性が向上する点から600以下が好ましい。酸当量の測定は、平沼産業(株)製平沼自動滴定装置(COM-555)を使用し、0.1mol/Lの水酸化ナトリウムを用いて電位差滴定法により行われる。
(a)カルボキシル基を含有するアルカリ可溶性高分子の重量平均分子量は、5,000~500,000が好ましい。重量平均分子量は、感光性樹脂積層体の流体耐性を向上させるという観点、ラミネート時にマイクロ流路への空気の混入を抑制するという観点、感光性樹脂積層体の厚みを均一にして現像液に対する耐性を得るという観点などから5,000以上が好ましく、また、現像性を維持するという観点から500,000以下が好ましい。流体耐性と現像性との両立のために、(a)カルボキシル基を含有するアルカリ可溶性高分子の重量平均分子量の下限値は、より好ましくは、20,000以上又は40,000以上であり、その上限値は、より好ましくは、250,000以下、200,000以下、150,000以下又は100,000以下である。
本明細書における重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン(昭和電工(株)製Shodex STANDARD SM-105)の検量線を用いて測定した重量平均分子量を意味する。(a)カルボキシル基を含有するアルカリ可溶性高分子の重量平均分子量は、日本分光(株)製ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを使用して、以下の条件で測定することができる:
示差屈折率計:RI-1530
ポンプ:PU-1580
デガッサー:DG-980-50
カラムオーブン:CO-1560
カラム:順にKF-8025、KF-806M×2、KF-807
溶離液:THF。
(a)カルボキシル基を含有するアルカリ可溶性高分子は、後述する第一又は第二の単量体から選択された1種以上の単量体を成分として含む(共)重合体であることが好ましい。
第一の単量体は、分子中に重合性不飽和基を1個有するカルボン酸又は酸無水物である。例えば、(メタ)アクリル酸、フマル酸、ケイ皮酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸無水物、マレイン酸半エステルが挙げられる。中でも、アルカリ現像性の観点から、(メタ)アクリル酸が好ましい。
第二の単量体は、非酸性であり、かつ分子中に重合性不飽和基を少なくとも1個有する単量体である。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル等のビニルアルコールのエステル類、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、及び重合可能なスチレン誘導体が挙げられる。中でも、マイクロ流路パターンの解像度の観点から、メチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、スチレン、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及びベンジル(メタ)アクリレートから成る群から選択される少なくとも1種が好ましく、スチレンがより好ましい。
なお本明細書における「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」、及びそれに対応する「メタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」、及びそれに対応する「メタクリレート」を意味し、そして「(メタ)アクリロイル」とは、「アクリロイル」、及びそれに対応する「メタクリロイル」を意味する。
(a)カルボキシル基を含有するアルカリ可溶性高分子は、上記の単量体を混合し、溶剤、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、又はイソプロパノールで希釈した溶液に、ラジカル重合開始剤、例えば、過酸化ベンゾイル、アゾイソブチロニトリルを適量添加し、加熱攪拌することにより合成されることができる。混合物の一部を反応液に滴下しながら合成を行う場合もある。反応終了後、さらに溶剤を反応物へ加えて、所望の濃度に調整する場合もある。合成手段としては、溶液重合以外に、塊状重合、懸濁重合、又は乳化重合を用いてもよい。
(a)カルボキシル基を含有するアルカリ可溶性高分子は、第一の単量体と第二の単量体の共重合割合について、第一の単量体が10~60質量%、第二の単量体が40~90質量%であるものが好ましく、より好ましくは第一の単量体が15~35質量%、第二の単量体が65~85質量%である。
(a)カルボキシル基を含有するアルカリ可溶性高分子のより具体的な例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸及びスチレンを共重合成分として含む重合体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸及びメタクリル酸n-ブチルを共重合成分として含む重合体、メタクリル酸、メタクリル酸ベンジル及びスチレンを共重合成分として含む重合体、メタクリル酸及びメタクリル酸ベンジルを共重合成分として含む重合体、メタクリル酸、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル及びスチレンを共重合成分として含む重合体等が挙げられる。
感光性樹脂組成物における(a)カルボキシル基を含有するアルカリ可溶性高分子の含有量は、感光性樹脂組成物の全固形分を基準として、好ましくは20~90質量%、より好ましくは40~60質量%の範囲内である。(a)カルボキシル基を含有するアルカリ可溶性高分子の含有量は、フォトリソグラフィーにおける感光性樹脂組成物の耐性を維持するという観点から20質量%以上が好ましく、硬化前の感光性樹脂組成物と硬化後のレジストパターンが柔軟性を有するという観点から90質量%以下が好ましい。
(b)付加重合性モノマー
(b)付加重合性モノマーは、分子内に少なくとも1つの重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物である。エチレン性不飽和結合は、末端エチレン性不飽和基であることが好ましい。
現像速度の観点から、(b)付加重合性モノマーが、(式I)で示される構造を有しかつ分子量200~600であるモノマーを、(b)付加重合性モノマー中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは100質量%の量で含む。
C-((CH)R)((CH)R)((CH)R)((CH)R
・・・(式I)
ここで、R~Rは一価の有機基を指す。
一価の有機基は、-C、-N、-O、-S、又は-P結合で(式I)中の-CH2-基と結合している基である。一価の有機基の、-C、-N、-O、-S、又は-P結合において(式I)中の-CH2-基と結合していない部位には、飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基、エーテル基、エステル基、アミド基、イミド基、アミノ基、ウレタン基、スルフォン基、ハロゲン、アルキレンオキシド基、(メタ)アクリロイル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基などを含む事ができる。特に、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、ブチレンオキシド基、及び、これらのいずれかを介して(式I)中の-CH2-基に(メタ)アクリロイル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基などが結合している構造が好ましい。また、一価の有機基は、ポリアルキレンオキシド鎖を有していても良い。ポリアルキレンオキシド鎖を構成するアルキレンオキシドとしては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドが挙げられる。
さらに、(式I)の構造を有するモノマーは、その分子量が、現像後のスソの観点から200以上、現像速度の観点から600以下であることが好ましい。
例として、トリメチロールプロパントリアクリレート(分子量296)、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート(例:EO3モル変性体、分子量428)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(分子量338)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(分子量352)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(分子量284)、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート(分子量408)、ペンタエリスリトールEO変性テトラメタクリレート(例:EO4モル変性体、分子量584)、ペンタエリスリトールEO変性テトラアクリレート(例:EO4モル変性体、分子量528)、などを挙げることができる。
また、マイクロ流路パターンの高解像性及び隔壁の形状の観点から、(b)付加重合性モノマーとして、ビスフェノールA系(メタ)アクリレート化合物、多官能モノマー、アルキレンオキサイドの繰り返し単位を有するモノマー、環状モノマー及び芳香族モノマーから成る群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
本明細書では、ビスフェノールA系(メタ)アクリレート化合物とは、(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイル基に由来する炭素-炭素不飽和二重結合とビスフェノールAに由来する-C-C(CH-C-基とを有する化合物をいう。具体例としては、ビスフェノールAの両端にそれぞれ平均2モル単位のエチレンオキサイドを付加したポリエチレングリコールのジメタクリレート(新中村化学工業(株)製NKエステルBPE-200)又はビスフェノールAの両端にそれぞれ平均5モル単位のエチレンオキサイドを付加したポリエチレングリコールのジメタクリレート(新中村化学工業(株)製NKエステルBPE-500)、ビスフェノールAの両端にそれぞれ平均6モル単位のエチレンオキサイドと平均2モル単位のプロピレンオキサイドを付加したポリアルキレングリコールのジメタクリレート、ビスフェノールAの両端にそれぞれ平均15モル単位のエチレンオキサイドと平均2モル単位のプロピレンオキサイドを付加したポリアルキレングリコールのジメタクリレートが挙げられる。
ビスフェノールA系(メタ)アクリレート化合物以外の(b)付加重合性モノマーとしては、例えば、4-ノニルフェニルヘプタエチレングリコールジプロピレングリコールアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールアクリレート、無水フタル酸と2-ヒドロキシプロピルアクリレートとの半エステル化合物とプロピレンオキシドとの反応物(日本触媒化学製、商品名OE-A200)、平均12モルのプロピレンオキサイドを付加したポリプロピレングリコールにエチレンオキサイドをさらに両端にそれぞれ平均3モル付加したグリコールのジメタクリレート、平均28モルのブチレンオキサイドを付加したポリブチレングリコールのジメタクリレート;
4-n-オクチルフェノキシペンタプロピレングリコールアクリレート、1,6-ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、2-ジ(p-ヒドロキシフェニル)プロパンジ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのトリ、テトラ又はペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルトリ(メタ)アクリレート;
2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-((メタ)アクリロキシペンタエトキシ)シクロヘキシル)プロパン;
ヘキサメチレンジイソシアネートとノナプロピレングリコールモノメタクリレートとのウレタン化物等のウレタン基を含有する多官能基(メタ)アクリレート、平均28モルのブチレンオキサイドを付加したポリブチレングリコールとヘキサメチレンジアミンとから合成されるポリウレタンジオールのジメタクリレート、イソシアヌル酸エステル化合物の多官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、単独で使用しても、2種類以上併用してもよく、ビスフェノールA系(メタ)アクリレート化合物と併用することもできる。
感光性樹脂組成物中の(b)付加重合性モノマーの含有量は、感光性樹脂組成物の全固形分を基準として、好ましくは5~75質量%、より好ましくは15~70質量%、さらに好ましくは20~55質量%の範囲内である。(b)付加重合性モノマーの含有量は、解像性及び硬化レジスト膜と他の部材との密着性の観点から、5質量%以上であることが好ましく、硬化レジスト膜の柔軟性の観点から75質量%以下であることが好ましい。
(c)光重合開始剤
(c)光重合開始剤としては、感光性樹脂の光重合開始剤として通常使用されるものを適宜使用できる。例えば、ヘキサアリールビスイミダゾール(以下、トリアリールイミダゾリル二量体ともいう。)を使用することができる。
トリアリールイミダゾリル二量体としては、例えば、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾリル二量体(以下、「2,2’-ビス(2-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,1’-ビスイミダゾール」ともいう。)、2,2’,5-トリス-(o-クロロフェニル)-4-(3,4-ジメトキシフェニル)-4’,5’-ジフェニルイミダゾリル二量体、2,4-ビス-(o-クロロフェニル)-5-(3,4-ジメトキシフェニル)-ジフェニルイミダゾリル二量体;
2,4,5-トリス-(o-クロロフェニル)-ジフェニルイミダゾリル二量体、2-(o-クロロフェニル)-ビス-4,5-(3,4-ジメトキシフェニル)-イミダゾリル二量体、2,2’-ビス-(2-フルオロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラキス-(3-メトキシフェニル)-イミダゾリル二量体、2,2’-ビス-(2,3-ジフルオロメチルフェニル)-4,4’,5,5’-テトラキス-(3-メトキシフェニル)-イミダゾリル二量体、2,2’-ビス-(2,4-ジフルオロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラキス-(3-メトキシフェニル)-イミダゾリル二量体;
2,2’-ビス-(2,5-ジフルオロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラキス-(3-メトキシフェニル)-イミダゾリル二量体、2,2’-ビス-(2,6-ジフルオロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラキス-(3-メトキシフェニル)-イミダゾリル二量体、2,2’-ビス-(2,3,4-トリフルオロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラキス-(3-メトキシフェニル)-イミダゾリル二量体、2,2’-ビス-(2,3,5-トリフルオロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラキス-(3-メトキシフェニル)-イミダゾリル二量体;
2,2’-ビス-(2,3,6-トリフルオロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラキス-(3-メトキシフェニル)-イミダゾリル二量体、2,2’-ビス-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラキス-(3-メトキシフェニル)-イミダゾリル二量体、2,2’-ビス-(2,4,6-トリフルオロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラキス-(3-メトキシフェニル)-イミダゾリル二量体;
2,2’-ビス-(2,3,4,5-テトラフルオロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラキス-(3-メトキシフェニル)-イミダゾリル二量体、2,2’-ビス-(2,3,4,6-テトラフルオロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラキス-(3-メトキシフェニル)-イミダゾリル二量体、及び2,2’-ビス-(2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラキス-(3-メトキシフェニル)-イミダゾリル二量体が挙げられる。
中でも、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾリル二量体は、解像性及び硬化レジスト膜の強度に対して高い効果を有するため好ましい。これらは、単独で用いてもよいし又は2種類以上組み合わせて用いてもよく、以下で説明されるアクリジン化合物、ピラゾリン化合物などと合わせて使用することもできる。
(c)光重合開始剤として、アクリジン化合物又はピラゾリン化合物を使用することもできる。アクリジン化合物としては、アクリジン、9-フェニルアクリジン、9-(4-トリル)アクリジン、9-(4-メトキシフェニル)アクリジン、9-(4-ヒドロキシフェニル)アクリジン、9-エチルアクリジン、9-クロロエチルアクリジン、9-メトキシアクリジン、9-エトキシアクリジン;
9-(4-メチルフェニル)アクリジン、9-(4-エチルフェニル)アクリジン、9-(4-n-プロピルフェニル)アクリジン、9-(4-n-ブチルフェニル)アクリジン、9-(4-tert-ブチルフェニル)アクリジン、9-(4-エトキシフェニル)アクリジン、9-(4-アセチルフェニル)アクリジン、9-(4-ジメチルアミノフェニル)アクリジン、9-(4-クロロフェニル)アクリジン;
9-(4-ブロモフェニル)アクリジン、9-(3-メチルフェニル)アクリジン、9-(3-tert-ブチルフェニル)アクリジン、9-(3-アセチルフェニル)アクリジン、9-(3-ジメチルアミノフェニル)アクリジン、9-(3-ジエチルアミノフェニル)アクリジン、9-(3-クロロフェニル)アクリジン、9-(3-ブロモフェニル)アクリジン、9-(2-ピリジル)アクリジン、9-(3-ピリジル)アクリジン、9-(4-ピリジル)アクリジンが挙げられる。中でも、9-フェニルアクリジンが望ましい。
アクリジン化合物は、感光性樹脂層の露光後の硬化性の観点からハロゲン化合物と組み合わせて用いる事が好ましい。ハロゲン化合物としては、臭化アミル、臭化イソアミル、臭化イソブチレン、臭化エチレン、臭化ジフェニルメチル、臭化ベンザル、臭化メチレン、トリブロモメチルフェニルスルホン、四臭化炭素、トリス(2,3-ジブロモプロピル)ホスフェート、トリクロロアセトアミド、ヨウ化アミル、ヨウ化イソブチル、1,1,1-トリクロロ-2,2-ビス(p-クロロフェニル)エタン、ヘキサクロロエタン、クロル化トリアジン化合物等が挙げられる。中でも硬化性の観点からトリブロモメチルフェニルスルホンが好ましい。
ピラゾリン化合物としては、1-フェニル-3-(4-tert-ブチル-スチリル)-5-(4-tert-ブチル-フェニル)-ピラゾリン、1-(4-(ベンゾオキサゾール-2-イル)フェニル)-3-(4-tert-ブチル-スチリル)-5-(4-tert-ブチル-フェニル)-ピラゾリン、1-フェニル-3-(4-ビフェニル)-5-(4-tert-ブチル-フェニル)-ピラゾリン、1-フェニル-3-(4-ビフェニル)-5-(4-tert-オクチル-フェニル)-ピラゾリンが好ましい。
その他の光重合開始剤としては、例えば、2-エチルアントラキノン、オクタエチルアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、2,3-ベンズアントラキノン、2-フェニルアントラキノン、2,3-ジフェニルアントラキノン、1-クロロアントラキノン、1,4-ナフトキノン、9,10-フェナントラキノン、2-メチル-1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルアントラキノン、及び3-クロロ-2-メチルアントラキノン等のキノン類;
ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン[4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン]、及び4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等の芳香族ケトン類、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル、メチルベンゾイン、及びエチルベンゾイン等のベンゾインエーテル類;
ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、チオキサントン類とアルキルアミノ安息香酸の組み合わせ、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-O-ベンゾインオキシム、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-エトキシカルボニル)オキシム等のオキシムエステル類が挙げられる。
マイクロ流路の無色透明性を要求する場合や蛍光発光を抑制してマイクロ流路デバイスの発光シグナルを検出し易くするという観点から、オキシム化合物が好ましい。例えば、BASFジャパン株式会社製Irgacure OXE01、Irgacure OXE02、株式会社ADEKA製アデカアークルズNCI-831などを挙げることができる。
なお、上述のチオキサントン類とアルキルアミノ安息香酸の組み合わせとしては、例えばエチルチオキサントンとジメチルアミノ安息香酸エチルとの組み合わせ、2-クロルチオキサントンとジメチルアミノ安息香酸エチルとの組み合わせ、及びイソプロピルチオキサントンとジメチルアミノ安息香酸エチルとの組み合わせが挙げられる。また、N-アリールアミノ酸を用いてもよい。N-アリールアミノ酸の例としては、N-フェニルグリシン、N-メチル-N-フェニルグリシン、N-エチル-N-フェニルグリシン等が挙げられる。中でも、N-フェニルグリシンが特に好ましい。
感光性樹脂組成物中の(c)光重合開始剤の含有量は、感光性樹脂組成物の全固形分を基準として、好ましくは0.01~30質量%の範囲内であり、より好ましい下限値は0.05質量%以上、さらに好ましい下限値は0.1質量%以上であり、より好ましい上限値は15質量%以下、さらに好ましい上限値は10質量%以下である。(c)光重合開始剤の含有量は、露光による光重合時に十分な感度を得るという観点から0.01質量%以上であることが好ましく、光重合時に感光性樹脂組成物の底面(すなわち光源から遠い部分)にまで光を充分に透過させ、良好な解像性及び硬化レジスト膜と他の部材との良好な密着性を得るという観点から、30質量%以下であることが好ましい。
(d)その他の添加剤
感光性樹脂組成物には、上記(a)~(c)の成分の他に各種の添加剤を含有させることができる。
例えば、感光性樹脂組成物の熱安定性及び保存安定性を向上させるために、ラジカル重合禁止剤、ベンゾトリアゾール類、カルボキシベンゾトリアゾール類及びヒンダードフェノール系酸化防止剤から成る群から選ばれる少なくとも1種以上の化合物を感光性樹脂組成物に含有させることが好ましい。
ラジカル重合禁止剤としては、例えば、p-メトキシフェノール、ハイドロキノン、ピロガロール、ナフチルアミン、tert-ブチルカテコール、塩化第一銅、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、ニトロソフェニルヒドロキシアミンアルミニウム塩、ジフェニルニトロソアミンが挙げられる。
ベンゾトリアゾール類としては、例えば、1,2,3-ベンゾトリアゾール、1-クロロ-1,2,3-ベンゾトリアゾール、ビス(N-2-エチルヘキシル)アミノメチレン-1,2,3-ベンゾトリアゾール、ビス(N-2-エチルヘキシル)アミノメチレン-1,2,3-トリルトリアゾール、ビス(N-2-ヒドロキシエチル)アミノメチレン-1,2,3-ベンゾトリアゾールが挙げられる。
カルボキシベンゾトリアゾール類としては、例えば、4-カルボキシ-1,2,3-ベンゾトリアゾール、5-カルボキシ-1,2,3-ベンゾトリアゾール、(N,N-ジブチルアミノ)カルボキシベンゾトリアゾール、N-(N,N-ジ-2-エチルヘキシル)アミノメチレンカルボキシベンゾトリアゾール、N-(N,N-ジ-2-ヒドロキシエチル)アミノメチレンカルボキシベンゾトリアゾール、N-(N,N-ジ-2-エチルヘキシル)アミノエチレンカルボキシベンゾトリアゾールが挙げられる。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば、BASFジャパン社のIRGANOXシリーズ、ADEKA社のアデカスタブ(AO)シリーズなどが挙げられる。
ラジカル重合禁止剤、ベンゾトリアゾール類、カルボキシベンゾトリアゾール類及び/又はヒンダードフェノール系酸化防止剤の合計添加量は、感光性樹脂組成物の全固形分を基準として、好ましくは0.001~3質量%であり、より好ましい下限値は0.05質量%以上、より好ましい上限値は1質量%以下である。この合計添加量は、感光性樹脂組成物に保存安定性を付与するという観点から0.001質量%以上が好ましく、感度を維持するという観点から3質量%以下が好ましい。
感光性樹脂組成物には、必要に応じて、可塑剤を含有させてもよい。可塑剤としては、例えば、ビスフェノールAをポリアルキレンオキシド変性した化合物を挙げることができる。その他に、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンオレエートなどのソルビタン誘導体、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類、ジエチルフタレート等のフタル酸エステル類、o-トルエンスルフォン酸アミド、p-トルエンスルフォン酸アミド、クエン酸トリブチル、クエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリ-n-プロピル、アセチルクエン酸トリ-n-ブチルなどの可塑剤を用いることができる。特にソルビタン誘導体及びポリアルキレングリコール類を用いることが好ましい。
感光性樹脂組成物中の可塑剤の含有量は、感光性樹脂組成物の全固形分を基準として、1~50質量%であることが好ましく、より好ましい下限は3質量%、より好ましい上限は30質量%である。現像時間の遅延を抑え、硬化膜に柔軟性を付与する観点から1質量%以上が好ましく、また硬化不足を抑える観点から50質量%以下が好ましい。
一態様において、感光性樹脂組成物層の厚みは、好ましくは100μm以上、より好ましくは120μm以上、さらに好ましくは240μm以上であり、好ましくは、720μm以下、より好ましくは480μm以下であってよい。
感光性樹脂組成物層の膜厚における、30℃、1質量%Na2CO3水溶液による厚み25μm当たりの現像時間は、好ましくは15~50秒/25μm、より好ましくは20~40秒/25μm、さらに好ましくは25~35秒/25μmである。上記現像時間は、以下に示す通りである。まず、本明細書実施例<感光性樹脂積層体の作製2>に記載の方法で感光性樹脂層厚み25μmの感光性樹脂積層体を作製する。次いで、板厚1.2mm、銅箔35μm、縦150mm、横250mmの銅張積層板に、常圧式のラミネーター(大成ラミネーター株式会社製VA-400III)によって、速度0.2m/min、シリンダー圧力0.2MPa、ロール温度70℃でラミネートする。支持フィルムを剥離した後、コンベア式スプレー現像機によって、30℃、1質量%炭酸ナトリウム水溶液を用いて現像し、感光性樹脂組成物層が除去される最小の時間を現像時間とする。
<支持フィルム>
支持フィルムは、フィルムの形態で感光性樹脂組成物層を支持する。支持フィルムとしては、波長510nm及び600nmの光、並びに露光光源から放射される光を透過するものが好ましい。このような支持フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、塩化ビニリデン共重合体フィルム、ポリメタクリル酸メチル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、スチレン共重合体フィルム、ポリアミドフィルム、セルロース誘導体フィルムなどが挙げられる。これらのフィルムは、必要に応じ延伸されていてよい。解像度の観点からヘーズ値が5以下のフィルムが好ましい。ヘーズ値3以下がより好ましく、ヘーズ値2.5以下がさらに好ましく、ヘーズ値1以下がよりさらに好ましい。支持フィルムの厚みは、薄い方が画像形成性及び経済性の面で有利であるが、感光性樹脂積層体の膜厚の観点又は感光性樹脂組成物層の塗工時の熱収縮の影響を低減する観点から、10~30μmのものが好ましく用いられる。例えば、帝人フィルム(株)製GR-19及びGR-16、三菱樹脂(株)製R310-16及びR340G16、東レポリエステルフィルム(株)製FB40(16μm膜厚)及びFB60(16μm膜厚)などを挙げる事ができる。
一態様において、支持フィルムと感光性樹脂組成物層との密着強度は、感光性樹脂積層体をスリットする場合及び基板へ積層した場合に、剥離なく容易に取り扱いできるという観点から、3gf/inch以上である。また、露光後に支持フィルムを剥離する際に剥離線の発生を抑制する観点から、100gf/inch以下であり、好ましくは80gf/inch以下、より好ましくは50gf/inch以下、さらに好ましくは30gf/inch以下である。例えば、感光性樹脂組成物中のアルカリ可溶性高分子の比率を高めること、アルカリ可溶性高分子の重量平均分子量を大きくすること、アルカリ可溶性樹脂中の第一の単量体の構成比率を高めること、相対的に粘度の小さい付加重合性モノマーの感光性樹脂組成物中の割合を少なくすること、などによって、密着強度を小さく設計することができる。
剥離線とは、支持フィルムと感光性樹脂組成物層との密着性が過度に高い場合に生じる、支持フィルム剥離後の感光性樹脂組成物層表面の微小な段差である。通常、剥離線は剥離方向と略垂直な方向に発生する。剥離線は感光性樹脂組成物層の膜厚不均一性の原因になり、マイクロ流路に保持される流体の体積の不均一さにつながることがあるため、剥離線の発生を抑制することが望ましい。上記密着強度は、本開示の[実施例]の項に記載する条件で測定される値(すなわちピール角度180度での値)である。
なお、一態様において、本実施形態の感光性樹脂積層体は、保護フィルムと組み合わせることが好ましい。一態様において、保護フィルムは感光性樹脂組成物層上に配置されてよい。保護フィルムは、感光性樹脂組成物層との密着力について支持フィルムよりも保護フィルムの方が小さく、剥離可能である限り、任意のフィルムでよい。例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、延伸ポリプロピレンフィルム等が保護フィルムとして使用可能である。また、例えば特開昭59-202457号公報に開示されている剥離性の優れたフィルムを用いることができる。保護フィルムは、マイクロ流路デバイスの形成時に感光性樹脂積層体から剥離されるという観点から、良好な剥離性の観点から、ポリプロピレンフィルム又は離形処理されたプラスチックフィルムであることが好ましい。
保護フィルムの膜厚は、感光性樹脂積層体と保護フィルムとの積層物の膜厚及び寸法安定性の観点から、10~100μmが好ましく、10~50μmがより好ましい。保護フィルムの具体例として、リンテック株式会社製離形処理PETフィルム25X(膜厚25μm)、タマポリ(株)製GF-18、GF-818及びGF-858などが挙げられる。
<感光性樹脂積層体の製造方法>
感光性樹脂積層体の製造方法としては、既知の方法を採用することができる。例えば、感光性樹脂組成物層を構成する感光性樹脂組成物を、溶剤と混合して感光性樹脂組成物調合液として準備しておいて、支持フィルムにバーコーター又はロールコーターを用いて塗布して乾燥させ、支持フィルム上に感光性樹脂組成物から成る感光性樹脂組成物層を積層して得ることができる。所望により、感光性樹脂組成物層上に保護フィルムをさらに積層してもよい。
感光性樹脂組成物調合液は、25℃での粘度が500~4000mPa・秒となるように溶剤を添加して調合されることが好ましい。溶剤には、メチルエチルケトン、アセトン、エタノール、メタノール、プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トルエンなどを感光性樹脂組成物調合液の粘度、乾燥性、残存溶媒量、塗工性又は発泡性の観点から適宜選択して使用することができる。
感光性樹脂積層体は、任意に保護フィルムと積層された状態で、巻芯に巻き取られて、ロールの状態で使用されることができる。また、感光性樹脂積層体は、異物の付着と保管又は輸送時の感光を抑制するという観点から、ポリエチレン製フィルムなどの遮光性シートで覆われることができる。
[マイクロ流路デバイス及びその製造方法]
本実施形態のマイクロ流路デバイス用感光性樹脂積層体は、POCT(Point of Care Testing)キット、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)用デバイス、マイクロリアクター等の種々のマイクロ流路デバイスの部材として使用できる。一態様において、マイクロ流路デバイスは、流体(液体又は気体)が通過するマイクロ流路が表面に形成されている基材と、該マイクロ流路を覆うように配置された蓋材と、流体をマイクロ流路に導入する導入部と、流体をマイクロ流路から排出する排出部とを備える。基材は、無機(例えば、シリコン、ガラス、炭素材料等)又は有機(例えば各種ポリマー)の材質であってよい。一態様において、流体はポンプ、遠心力等によってデバイスの所望の位置に送達されてよい。一態様において、マイクロ流路は、基材上に配置された隔壁材(例えば基材上にフォトリソグラフィーによって形成された硬化レジスト膜である隔壁材)によって形成されている。一態様において、マイクロ流路は、基材表面の溝状の切削によって形成されている。
典型的な態様において、本実施形態の感光性樹脂積層体は露光後に永久膜としてマイクロ流路デバイスに含まれる。一態様においては、感光性樹脂組成物層の露光後、支持フィルムが除去されて、硬化レジスト膜のみがマイクロ流路デバイス内に含まれる。別の態様においては、感光性樹脂組成物層の露光後、支持フィルムは除去されず、支持フィルムと硬化レジスト膜とがマイクロ流路デバイス内に含まれる。
マイクロ流路のサイズは、目的に応じて選択されるが、例えば、幅1~1000μm、又は1~100μm、又は10~70μm、深さ1~50μm、又は5~30μmであってよい。一態様において、マイクロ流路の底面と側面とはいずれも平面であり、かつこれらがなす角度は略直角であってよいが、マイクロ流路の形状はこれに限定されず、目的に応じて設計されてよい。
本実施形態に係る感光性樹脂積層体によれば、複雑な形状の部材を優れた寸法精度かつ良好な流体耐性及びクラック耐性にて形成できる。したがって、本実施形態に係る感光性樹脂積層体はマイクロ流路の隔壁材用として特に有用である。特に、遠心力を利用して流体を所望の位置に送達するように構成されたデバイス(例えば、前述の特許文献1(特開2017-122618号公報)も参照のこと。)においては、マイクロ流路の形状が複雑になる傾向があることから、本実施形態に係る感光性樹脂積層体はこのようなデバイスにおけるマイクロ流路の隔壁材に特に好適に適用できる。また、本実施形態に係る感光性樹脂積層体は、その良好な流体耐性及びクラック耐性によってマイクロ流路の蓋材にも有利に適用できる。いずれの用途においても、本実施形態に係る感光性樹脂積層体によって得られる、蛍光検出時の良好な検出性は、標的物質の高精度での検出に有利である。
マイクロ流路デバイスの製造方法は特に限定されず、例えば、基材上にマイクロ流路を形成する工程と、マイクロ流路上に蓋材をラミネートして当該マイクロ流路をシールする工程とを含む方法によって製造できる。例えば本実施形態の感光性樹脂積層体を隔壁材及び蓋材として用いる場合、マイクロ流路デバイスは、例えば、
基材に感光性樹脂積層体をラミネートし、感光性樹脂組成物層のパターン露光及び現像によってマイクロ流路の隔壁材としての硬化レジスト膜を形成するマイクロ流路形成工程と、
マイクロ流路を覆うように少なくとも上記隔壁材に感光性樹脂積層体をラミネートし、全面露光によってマイクロ流路の蓋材としての硬化レジスト膜を形成するマイクロ流路シール工程と、
を含む方法で製造できる。
マイクロ流路形成工程においては、感光性樹脂積層体を、感光性樹脂組成物層側を基材に対向させて当該基材上にラミネートし、隔壁材の所望の形状に応じたパターンにて露光(好適には直描式露光)し、更に支持フィルムを除去し、現像することにより、硬化レジスト膜で構成された、マイクロ流路を画定する複数の隔壁材を形成する。
次いで、マイクロ流路シール工程においては、感光性樹脂積層体を、感光性樹脂組成物層側を隔壁材に対向させて、マイクロ流路を覆うように少なくとも隔壁材上にラミネートして全面露光し、典型的には支持フィルムを除去せずに、支持フィルムと硬化レジスト膜とで構成された蓋材を形成する。
感光性樹脂積層体のラミネートは、硬化レジスト膜を寸法精度よく形成する観点から、好ましくは減圧状態で、より好ましくは真空度30~70Paで、さらに好ましくは真空度40~60Paで行う。
複層構造の硬化レジスト膜を形成する場合には、単層の感光性樹脂組成物層のラミネート、露光及び現像を複数回繰り返してもよく、予め複層の感光性樹脂組成物層をラミネートした後一括露光してもよい。一括露光は、寸法精度に優れる(すなわち層間での位置ずれが少ない)硬化レジスト膜を形成できる点で好ましい。
本実施形態に係る感光性樹脂積層体は、コンパクトディスク(CD)型のELISA用マイクロ流路デバイスの隔壁材及び/又は蓋材に特に好適に適用される。以下、CD型ELISAデバイスの構成の例を説明する。
例示の態様に係るCD型ELISAデバイスにおいては、円盤状の基板(基材として)上に、液状物を貯留する液体槽と、液状物を検出、反応、吸着、脱離又は分解する分析部と、液体槽と分析部とを繋いでこれらの間に液状物を流すためのマイクロ流路とが形成されており、かつマイクロ流路は蓋材でシールされている。例示の態様において、基板直径は約10cm程度、マイクロ流路の最小流路幅は約45μm程度、マイクロ流路の深さは約30μm程度である。基板上の分析部の数は、例えば4~20個、又は14~16個である。液状物は、基板の自転による遠心力を利用して中心から径方向外側に送液されて、液体槽からマイクロ流路を経て各分析部に供給される。
基板は、透光性材料又は非透光性材料のいずれにより構成されていてもよく、好ましくは樹脂又はガラス等の透光性材料で形成され、より好ましくは樹脂で形成される。なお「透光性」とは、有色であるか無色であるか、及び光の透過率の多寡を問わず、光を透過させることができる意味に広義に解釈される。
基板を構成する樹脂としては、マイクロ流路を形成するのに適しているという観点から、アクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
例示の態様において、CD型ELISAデバイスの製造方法は、以下の工程:
(1)基板上に複数の隔壁を形成してマイクロ流路を形成する工程;
(2)基板に貫通孔を設ける工程;
(3)基板の裏面側から貫通孔を通じて分析部を嵌め込む工程;
(4)基板の表面側から蓋材をラミネートする工程;
(5)所望により、マイクロ流路が形成された基板を部分的に切削して外形を整える工程;及び
(6)所望により、隔壁を洗浄する工程;
を含む。各工程の順序は製造工程の効率に応じて自由に前後させることができる 。
工程(1)をフォトリソグラフィーで行う場合には、感光性樹脂積層体(本実施形態の感光性樹脂積層体を隔壁材用に用いる場合にはこの感光性樹脂積層体)から保護フィルム(存在する場合)を剥離し、支持フィルムを維持して基板にラミネートして、露光・現像した後、支持フィルムを除去して、マイクロ流路を画定する複数の隔壁材を形成することができる。
また工程(4)をフォトリソグラフィーで行う場合には、感光性樹脂積層体(本実施形態の感光性樹脂積層体を蓋材用に用いる場合にはこの感光性樹脂積層体)を基板にラミネートし、露光により硬化させて、支持フィルムと硬化レジスト膜とからなる永久膜を形成することができる。具体的には、感光性樹脂積層体から保護フィルム(存在する場合)を剥離し、支持フィルムを維持して、支持フィルム、感光性樹脂組成物層、CD型ELISAデバイス基板、CD型ELISAデバイス分析部、及び必要に応じてELISA基板の表面凹凸を一平面上に揃えるような冶具の積層順序で二軸ロールにより約0.18m/分でラミネートを行うことができる。前述の冶具はラミネート時にもレジストとの接着性が低い材質、例えばテフロン(登録商標)などの材質が好ましい。
以下、本発明の実施形態の例を具体的に説明する。
最初に実施例及び比較例の評価用サンプルの作製方法を説明し、次いで、得られたサンプルについての評価方法及びその評価結果を示す。表1~3に、感光性樹脂組成物調合液中の材料成分の名称、樹脂組成物調合液中の配合量(固形分基準での質量部)、及び評価結果の一部を示す。
[評価用サンプルの作製]
実施例及び比較例における評価用サンプルは次のとおりにして作製した。
<感光性樹脂積層体の作製1>
下記表1の実施例1及び実施例6に示す組成(但し、各成分の数字は固形分としての配合量(質量部)を示す)の感光性樹脂組成物及び溶媒としてエタノールを加え十分に攪拌及び混合して感光性樹脂組成物調合液とし、支持体としての16μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製、FB40)の表面にバーコーターを用いて均一に塗布、乾燥し、感光性樹脂組成物層を形成して、感光性樹脂積層体を得た。感光性樹脂組成物層の厚みは240μmであった。感光性樹脂組成物層に残存した溶媒は1.5質量%であった。
次いで、感光性樹脂組成物層のポリエチレンテレフタレートフィルムを積層していない表面上に、保護フィルムとしてタマポリ株式会社製GF-18を貼り合わせた。
<感光性樹脂積層体の作製2>
下記表1の実施例2~5及び比較例1、2に示す組成(但し、各成分の数字は固形分としての配合量(質量部)を示す)の感光性樹脂組成物及び溶媒としてエタノールを加え十分に攪拌及び混合して感光性樹脂組成物調合液とし、支持体としての16μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製、FB40)の表面にバーコーターを用いて均一に塗布、95℃で5分間乾燥し、感光性樹脂組成物層を形成して、感光性樹脂積層体を得た。感光性樹脂組成物層の厚みは25μmであった。
次いで、感光性樹脂組成物層のポリエチレンテレフタレートフィルムを積層していない表面上に、保護フィルムとしてタマポリ株式会社製GF-818を貼り合わせた。
<感光性樹脂積層体の作製3>
下記表1の実施例1~5及び比較例1、2に示す組成(但し、各成分の数字は固形分としての配合量(質量部)を示す)の感光性樹脂組成物及び溶媒としてエタノールを加え十分に攪拌及び混合して感光性樹脂組成物調合液とし、支持体としての16μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製、FB40)の表面にバーコーターを用いて均一に塗布、95℃で5分間乾燥し、感光性樹脂組成物層を形成して、感光性樹脂積層体を得た。感光性樹脂組成物層の厚みは5μmであった。次いで、感光性樹脂組成物層のポリエチレンテレフタレートフィルムを積層していない表面上に、保護フィルムとしてタマポリ株式会社製GF-18を貼り合わせた。
[評価]
1.比(I/O)の算出
表1に示す組成に基づき、ベース樹脂(B)及びモノマー(M)の無機性値(I)及び有機性値(O)から、各例に係る感光性樹脂組成物の比(I/O)を下記のように算出した。
まず、各ベース樹脂(B)に関し、有機概念図に基づいて、無機性値(I)を算出して表1に示される配合量(質量)を乗じてB(I×配合量)値を算出し、そして有機性値(O)を算出して配合量を乗じてB(O×配合量)値を算出する。
同様に、各モノマー(M)について、有機概念図に基づいて、無機性値(I)を算出して表1に示される配合量を乗じてM(I×配合量)値を算出し、そして有機性値(O)を算出して配合量を乗じてM(O×配合量)値を算出する。
全ベース樹脂(B)のB(I×配合量)値の合計値と全モノマー(M)のM(I×配合量)値の合計値とを合算して、合算値I(B+M)を得る。
全ベース樹脂(B)のB(O×配合量)値の合計値と全モノマー(M)のM(O×配合量)値の合計値とを合算して、合算値O(B+M)を得る。
(B+M)をO(B+M)で除して、I(B+M)/O(B+M)を算出して比(I/O)とする。
2.透過率の測定
上記<感光性樹脂積層体の作製3>で得られた感光性樹脂積層体を、保護フィルムが積層された状態で、株式会社オーク製作所製露光機HMW-201KBにより500mJ/cm2露光し、10分後、保護フィルムを剥離し、株式会社日立ハイテクサイエンス製分光光度計U-3010により透過率を測定した。分析は、支持フィルムと感光性樹脂組成物層とが積層された状態で実施し、分析光が感光性樹脂組成物層側から入射するような状態で測定した。
3.弾性率の測定
上記<感光性樹脂積層体の作製2>で得られた感光性樹脂積層体を、保護フィルムが積層された状態で、株式会社オーク製作所製露光機HMW-201KBにより500mJ/cm露光し、保護フィルムを剥離したのち、最小現像時間の2倍の時間で現像し、縦5cm、横5mmの試験片を作製した。試験片は、支持フィルムから剥離された状態で、23℃、相対湿度50%の環境で1日保存した。試験片を株式会社エー・アンド・デイ製引張試験機テンシロンRTM-500を用いて、引っ張り速度100mm/min、で引張試験を実施した。得られた応力-ひずみ曲線の初期勾配から、感光性樹脂組成物層の硬化物の弾性率を求めた。試験片が破断したときの伸度をその試験片の伸度として求めた。
4.マイクロ流路発光検出性評価
上記<感光性樹脂積層体の作製3>で得られた感光性樹脂積層体から保護フィルムを剥離した。射出成型により、幅70μm、深さ30μm、長さ2.5mmの流路の片側が直径5mmの円形貫通孔に接続されたアクリル樹脂製マイクロ流路を作製した。流路は1セット9本、15セットが円形の基板上に放射状に配置された。株式会社タカトリ製真空ラミネーターを用い、真空度50Pa、70℃で、表1の感光性樹脂積層体を前記マイクロ流路に貼りつけた。貼り付け後、株式会社オーク製作所製露光機HMW-201KBにより500mJ/cm露光しシールを完了した。流路内で発光基質SuperSignalTM West Femtoを使った発光実験を行った。マイクロ流路発光検出性を以下のようにランク分けした。
◎:問題なく発光検出ができる。
〇:発光のコントラストに影響があり検出感度が下がっている。
△:発光のコントラストに大きな影響があり検出感度が下がっている。
×:発光が検出できない。
5.マイクロ流路耐水性評価
上記「4.マイクロ流路発光検出性評価」と同様にマイクロ流路をシールし、マイクロ流路を作製した。マイクロ流路にイオン交換水を導入し、1時間後に感光性樹脂組成物層の硬化物の状態を観察した。耐水性を以下のようにランク分けした。
◎:シワが見られない。
〇:円形貫通孔の周りにシワが見られる。
△:流路の一部でシワが見られる。
×:流路全体でシワが見られる。
6.マイクロ流路パターンの作製
<マイクロ流路パターンの作製1>
上記<感光性樹脂積層体の作製1>で得られた感光性樹脂積層体から保護フィルムを剥離除去し、6インチシリコンウエハー上に、常圧式のラミネーター(大成ラミネーター株式会社製VA-400III)によって、速度0.2m/min、シリンダー圧力0.2MPa、ロール温度70℃で、2回ラミネートし、6インチシリコンウエハー上に厚さ480μmの感光性樹脂組成物層と支持フィルムとを積層した。
次いで、日本オルボテック株式会社製Nuvogo fine 10を用いて、1J/cm2、i-h光線比率0-100%で感光性樹脂組成物層を露光して、流路パターンを露光し、次いで、支持フィルムを剥離した後、コンベア式スプレー現像機によって、30℃、1質量%炭酸ナトリウム水溶液を用いて最小現像時間の1.5倍の時間で現像し、水洗乾燥し、流路パターンを得た。図1は、実施例で形成した流路パターンを示す図であり、パターンの枠内は未露光部、枠外は露光部である。流路パターン1は、シリコンウエハの中心方向に注入口11、円周方向に廃液部12、及び注入口11と廃液部12との間に秤量部13がそれぞれ位置するよう、円弧状に並んでシリコンウエハ内に複数配置されている。秤量部13は、図1に示すような流路長辺(a)、流路短辺(b)、流路幅(c)及び隔壁幅(d)を有する複数の秤量用マイクロ流路で構成されている。
<マイクロ流路パターンの作製2>
さらに、表3の実施例7~12に示すような配合と膜厚で<感光性樹脂積層体の作製1>に準じた方法で感光性樹脂積層体を作製し、上記<マイクロ流路パターンの作製1>に準じた方法で、表3の実施例7~12に示すような流路深さ、並びに、流路長辺(a)、流路短辺(b)及び流路幅(c)で台形の秤量用マイクロ流路を作製した。但し、基材は円形のアクリル板を使用した。感光性樹脂積層体の感光性樹脂層の膜厚が小さい場合、96個の流路を配置するのに直径の大きなアクリル板が必要であった。また、25μm当たりの現像時間が長い場合、長時間の現像が必要であり生産性が低い傾向であった。
次いで、注入口から10μLの純水を注入し、スピンコーターで回転することによって注入口から円周状に配置された秤量部に純水を分注した。膜厚が100μmを超え、現像時間が15~50秒/25μmであって、実施例1のような配合の感光性樹脂層を有する場合に、送液制御が良好で、基材面積が少なく、生産性の高いマイクロ流路基板を得る事ができる。
7.マンドレル評価
<感光性樹脂積層体の作製2>
実施例2~5の感光性樹脂組成物組成にて作製した感光性樹脂積層体から保護フィルムを剥離除去し、ニッカン工業株式会社製フレキシブルプリント配線板用銅張積層板NIKAFLEX F-30VC1 25RC11(H)にラミネートし、株式会社オーク製作所製露光機HMW-201KBにより500mJ/cm露光し、最小現像時間の2倍の時間で現像し、幅42mm、長さ20cmの試験片を作製した。これを23℃、相対湿度50%で1日調湿し、円筒形マンドレル試験機で折り曲げ試験し、クラックが発生しなかったマンドレルの最小値をマンドレル評価値とした。以下のようにランク分けした。この値が良好なほどフレキシブル性に富んだマイクロ流路を作製できる。
◎:3mmφ以下
〇:3mmφを超え6mmφ以下
△:6mmφを超え10mmφ以下
×:10mmφを超える。
8.支持フィルム密着強度評価
<感光性樹脂積層体の作製3>
実施例1~6及び比較例1、2の感光性樹脂組成物組成にて作製した感光性樹脂積層体20cm x 20cmから保護フィルムを剥離除去し、ジェットスクラブ整面された銅張積層板20cm x 10cmに20cm x 10cm分のフィルムが余るようにラミネートした。その後、銅張積層板にラミネートされた部分とフィルムのまま余った部分とをまたぐように、幅1inchの短冊状にカッターで感光性樹脂積層体をカットした。このようにして半分だけが銅張積層板上にラミネートされた1inch幅の短冊状サンプルを得た。その後23℃、相対湿度50%の環境で1日調湿し、短冊状サンプルのラミネートされていない部分を保持し引張試験することにより、支持フィルムと感光性樹脂組成物層との密着強度を評価した。尚、引張試験において、引張試験装置は、株式会社エー・アンド・デイ製引張試験機テンシロンRTM-500、ピール角度は180度、引っ張り速度は100m/min、の条件で実施した。密着強度の極大値を密着強度の値とした。
9.支持フィルム密着性評価
「8.支持フィルム密着強度評価」で引張試験サンプルを作製する間に支持フィルムと感光性樹脂組成物層との間で不必要な剥離が発生するか観察した。また、引張試験後の感光性樹脂組成物層表面を観察し、剥離線の有無を観察した。観察結果を以下のようにランク分けした。
◎:不必要な剥離及び剥離線のいずれも確認できない。
〇:不必要な剥離又は剥離線のいずれかが確認された。
×:不必要な剥離がサンプルの半分以上の面積で確認された。又は、凹凸が明らかな剥離線が観察された。
Figure 0007339111000001
Figure 0007339111000002
Figure 0007339111000003
1 流路パターン
11 注入口
12 廃液部
13 秤量部
(a) 流路長辺
(b) 流路短辺
(c) 流路幅
(d) 隔壁幅

Claims (7)

  1. 支持フィルムと感光性樹脂組成物層とで構成されたマイクロ流路デバイス用感光性樹脂積層体であって、
    前記マイクロ流路デバイス用感光性樹脂積層体が露光後に波長515nm及び600nmのいずれか一方又は両方における透過率80%以上を有し、
    前記支持フィルムと前記感光性樹脂組成物層との密着強度が、3gf/inch以上、100gf/inch以下であ
    前記感光性樹脂組成物層が、
    (a)カルボキシル基を有するアルカリ可溶性高分子;
    (b)付加重合性モノマー;及び
    (c)光重合開始剤;
    を含み、
    前記感光性樹脂組成物層がラジカルネガ型である、
    マイクロ流路用感光性樹脂積層体。
  2. 直描式露光用である、請求項1に記載のマイクロ流路用感光性樹脂積層体。
  3. 前記感光性樹脂組成物層は、無機性値(I)と有機性値(O)との比(I/O)が1.0以下である感光性樹脂組成物で構成されている、請求項1又は2に記載のマイクロ流路用感光性樹脂積層体。
  4. 前記感光性樹脂組成物層は、露光後に弾性率2GPa以下及び破断伸度30%以上を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のマイクロ流路用感光性樹脂積層体。
  5. 前記感光性樹脂組成物層の膜厚が、100μm以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のマイクロ流路用感光性樹脂積層体。
  6. 前記感光性樹脂組成物層の膜厚において、30℃、1質量% Na2CO3水溶液による25μm当たりの現像時間が、15~50秒/25μmである、請求項1~5のいずれか一項に記載のマイクロ流路用感光性樹脂積層体。
  7. b)付加重合性モノマーが、下記(式I):
    C-((CH2)R1)((CH2)R2)((CH2)R3)((CH2)R4
    ・・・(式I)
    (式中、R1~R4は各々独立に一価の有機基を指す。)
    で示される構造を有しかつ分子量200~600であるモノマーを(b)付加重合性モノマー中50質量%以上含む組成物で構成されている、請求項1~6のいずれか一項に記載のマイクロ流路用感光性樹脂積層体。
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