JP7334222B2 - 免震構造 - Google Patents

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Description

本発明は、免震構造に関する。
建物の上部構造体(例えば上部架構)と下部構造体(例えば基礎)の間の免震層に免震装置を設置して免震構造とし、地震時の振動を免震構造にて減衰もしくは吸収することにより、地震力を上部構造体に可及的に伝達させない免震建物が建設されている。免震構造は、上部構造体の例えば柱の直下に配設される免震装置により形成されるのが一般的であり、この免震装置には、積層ゴム一体型の免震装置や、球面滑り装置や平面滑り装置等の滑り免震装置などがある。上記する免震装置は、地震による建物振動の振動態様を水平方向に長周期化させ、建物に作用する地震力を低減することを目的としている。
上記する免震装置の中で球面滑り装置を適用する場合、従来は、他の免震装置を併用せずに、球面滑り装置のみを単体で用いて免震構造を形成することが一般的である。そのため、復元力特性の調整に際して、両面滑り免震装置(所謂ダブルペンデュラム方式の球面滑り装置)では、上沓及び下沓の滑り面の曲率やスライダーの上下の滑り面の曲率、さらには摩擦係数を調整することにより、剛塑性のバイリニアを調整している。さらに、トリリニアの復元力特性とする際には、上下に外側上沓及び外側下沓を配置し、これら外側上沓及び外側下沓の間に、内側上沓及び内側下沓とスライダーを配置した、所謂トリプルペンデュラム方式の球面滑り装置を適用しているが、トリプルペンデュラム方式の免震装置は構造が複雑になるといった課題を有している。
また、特定の地震波に共振しないように二次剛性の周期調整を要する場合があるが、球面滑り装置ではその固有周期が上沓及び下沓の曲率により一義的に決定されることから、自由な調整が難しいといった課題もある。
以上のことから、構造が複雑でなく、また、球面滑り装置の構成を変更することなく、二次剛性の周期を自由に調整可能な免震構造の開発が望まれている。
ここで、特許文献1には、免震設計上の自由度が高い免震構造が提案されている。具体的には、下部構造物と上部構造物との間に積層ゴム支承と球面滑り支承が配置された免震構造であり、積層ゴム支承と球面滑り支承は、下部構造物と上部構造物が横荷重を受けて相対移動する際に、いずれも水平変位するように並列に配置されている。
特開2016-138592号公報
特許文献1に記載の免震構造は、上部構造物による鉛直荷重を、積層ゴムと球面滑り支承が50%ずつ分担して支持する免震構造である。このことを前提として、地震時の横荷重を受けた際に、球面滑り支承が水平変位と同時に鉛直変位することにより、積層ゴム支承の分担鉛直荷重を球面滑り支承に徐々に移行させるようにしている。この積層ゴム支承の分担鉛直荷重の球面滑り支承への移行に伴い、球面滑り支承が単体の場合に比べて、初期のせん断力係数を低減できるとしている。
しかしながら、上部構造物による鉛直荷重を、積層ゴム支承と球面滑り支承が50%ずつ分担して支持する免震構造とすることから、このように双方の免震装置に荷重分担させるための免震層における双方の配置設計には多大な手間を要し、配置施工に際しても、双方の免震装置の位置決めを精緻に行う必要があることから多大な施工手間を要する。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、構造が複雑でなく、また、球面滑り装置の構成を変更することなく、二次剛性の周期を自由に調整可能な免震構造を提供することを目的としている。
前記目的を達成すべく、本発明による免震構造の一態様は、
上部構造体と下部構造体の間の免震層において、球面滑り装置と積層ゴム装置が並列配置されており、
前記球面滑り装置は、前記上部構造体の荷重を直接受ける位置に配設され、
前記積層ゴム装置は、前記上部構造体の荷重を直接受けない位置に配設されていることを特徴とする。
本態様によれば、免震層に球面滑り装置と積層ゴム装置が並列配置され、球面滑り装置は上部構造体の荷重を直接受ける位置に配設される一方で、積層ゴム装置は上部構造体の荷重を直接受けない位置に配設されていることにより、球面滑り装置の構成を変更することなく、球面滑り装置の二次剛性に対して積層ゴム装置の二次剛性を付加することができ、球面滑り装置と積層ゴム装置による並列免震装置の二次剛性(接線剛性、降伏後の剛性)の周期を自由に調整することが可能になる。このことにより、対象となる地震動の固有周期と、並列免震装置の固有周期とを容易に異ならせることができる。
ここで、「球面滑り装置が上部構造体の荷重を直接受ける位置に配設されている」とは、球面滑り装置が上部構造体を構成する柱や壁の直下に配設されて、上部構造体の荷重が柱等から球面滑り装置に直接作用することを意味している。一方、「積層ゴム装置が上部構造体の荷重を直接受けない位置に配設されている」とは、積層ゴム装置が上部構造体を構成する柱や壁の直下に配設されておらず、従って、上部構造体の荷重が積層ゴム装置に作用しない、もしくは僅かに作用するのみであることを意味している。積層ゴム装置が支承となる積層ゴム支承は、上部構造体を構成する柱等の直下に配設されて、上部構造体の荷重を直接受ける「支承」となるが、本態様では、従来の積層ゴム支承を構成する積層ゴム装置を適用しながらも上部構造体の荷重を直接受けない位置に配設されていることにより、支承を形成しない。従って、本態様では、支承は球面滑り装置のみが形成し、積層ゴム装置はあくまでも免震装置全体(並列免震装置)の二次剛性を調整(変更)するための装置として機能する。従って、本態様において、積層ゴム装置は、上部構造体を構成する柱等の直下以外の多様な位置に配設することができる。
また、本発明による免震構造の他の態様において、
前記積層ゴム装置は、横移動不可手段を介して、前記上部構造体と前記下部構造体の少なくとも一方に対して横移動不可に固定されており、
地震時の水平荷重を、前記球面滑り装置と前記積層ゴム装置の双方で負担することを特徴とする。
本態様によれば、積層ゴム装置が横移動不可手段を介して上部構造体と下部構造体の少なくとも一方に対して横移動不可に固定されていること、すなわち、積層ゴム装置の水平位置が固定されることにより、地震時の水平荷重の一部を積層ゴム装置に導入することができる。
また、本発明による免震構造の他の態様において、
前記積層ゴム装置は、下フランジと、上フランジと、該下フランジと該上フランジに挟まれた積層ゴム体とを有し、
前記横移動不可手段は、頭部を備えたボルトであり、
前記ボルトは、前記上部構造体もしくは下部構造体に取り付けられ、前記上フランジもしくは前記下フランジの備える貫通孔に挿通され、前記頭部が前記上フランジもしくは前記下フランジから余長を備えた状態で配設されており、
前記余長は、前記球面滑り装置が設定地震動による水平荷重を受けて可動した際の上下変位量に相当する長さに設定されていることを特徴とする。
本態様によれば、積層ゴム装置がボルトを介して上部構造体と下部構造体に対して横移動不可に固定されていることに加えて、ボルトの頭部が上フランジもしくは下フランジから余長を備えた状態で配設されていることにより、地震時に水平変位しながら上下変位する球面滑り装置の当該上下変位に対して、積層ゴム装置が水平変位しながら上下変位にも追随することが可能になる。この「上下変位に追随する」とは、本来的には、上下変位できない積層ゴム装置が、上部構造体や下部構造体に対する横移動不可な固定状態を維持できることを意味している。
また、本発明による免震構造の他の態様において、
前記積層ゴム装置は、下フランジと、上フランジと、該下フランジと該上フランジに挟まれた積層ゴム体とを有し、
前記横移動不可手段は、頭部を備えたボルトと、前記下フランジもしくは前記上フランジと該頭部の間に介在する弾性体であり、
前記ボルトは、前記上部構造体もしくは下部構造体に取り付けられ、前記上フランジもしくは前記下フランジの備える貫通孔に挿通され、前記頭部と前記上フランジもしくは前記下フランジの間に前記弾性体が配設されていることを特徴とする。
本態様によれば、積層ゴム装置がボルトを介して上部構造体と下部構造体に対して横移動不可に固定されていることに加えて、ボルトの頭部と上フランジもしくは下フランジの間に弾性体が配設されていることにより、地震時に水平変位しながら上下変位する球面滑り装置の当該上下変位に対して、弾性体が変位して追随することが可能になる。
また、本発明による免震構造の他の態様において、
前記積層ゴム装置は、下フランジと、上フランジと、該下フランジと該上フランジに挟まれた積層ゴム体とを有し、
前記横移動不可手段は、前記上部構造体もしくは前記下部構造体の少なくとも一方に設けられて、前記下フランジもしくは前記上フランジを包囲する無端状のストッパーであることを特徴とする。
本態様によれば、上部構造体もしくは下部構造体に取り付けられている無端状のストッパーに上フランジもしくは下フランジが包囲されていることにより、地震時に水平変位しながら上下変位する球面滑り装置の当該上下変位に対して、ストッパーの高さ分だけ積層ゴム装置が横移動不可な状態を維持する(ストッパーの外側へ係脱しない)ことが可能になる。
また、本発明による免震構造の他の態様において、
前記貫通孔の内面に、滑り材が取り付けられていることを特徴とする。
本態様によれば、貫通孔の内面に滑り材が取り付けられていることにより、貫通孔とボルトの間の摩擦力によって積層ゴム装置の備える二次剛性(復元力特性)が変化して、球面滑り装置と積層ゴム装置により形成される並列免震装置に期待する所望の二次剛性が得られないといった課題を抑止できる。
以上の説明から理解できるように、本発明の免震構造によれば、構造が複雑でなく、また、球面滑り装置の構成を変更することなく、二次剛性の周期を自由に調整可能な免震構造を提供することができる。
実施形態に係る免震構造を備えた免震建物の一例の側面図である。 実施形態に係る免震構造を形成する、積層ゴム装置と横移動不可手段の一例の常時における縦断面図である。 図2に示す積層ゴム装置と横移動不可手段の一例の地震時における縦断面図である。 実施形態に係る免震構造を形成する、積層ゴム装置と横移動不可手段の他の例の常時における縦断面図である。 実施形態に係る免震構造を形成する、積層ゴム装置と横移動不可手段のさらに他の例の常時における縦断面図である。 並列免震装置の復元力特性を示す変位-摩擦係数グラフの一例である。
以下、実施形態に係る免震構造について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
[実施形態に係る免震構造と、免震構造を備える免震建物]
図1乃至図6を参照して、実施形態に係る免震構造と、免震構造を形成する複数例の積層ゴム装置と横移動不可手段について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る免震構造を備えた免震建物の一例の側面図である。また、図2と図3はそれぞれ、実施形態に係る免震構造を形成する、積層ゴム装置と横移動不可手段の一例の常時と地震時における縦断面図である。また、図4と図5はそれぞれ、実施形態に係る免震構造を形成する、積層ゴム装置と横移動不可手段の他の例の常時における縦断面図である。さらに、図6は、並列免震装置の復元力特性を示す変位-摩擦係数グラフの一例である。
図示例の免震建物80は、地盤Gを掘削することにより形成される免震ピット60(下部構造体の一例)を地表面下に備え、免震ピット60と上部構造体70の間の免震層65に、球面滑り装置10と積層ゴム装置20により形成される並列免震装置50を備えている建物であり、免震層65に並列免震装置50が配設されることにより免震構造100が形成されている。
免震ピット60は、鉄筋コンクリート製のピット底盤61と、ピット底盤61に連続して周囲の地盤Gの土圧や土水圧に抗する擁壁62とを有する。ピット底盤61の上面には下方フーチング63(下部構造体の一例)が上方に突設されており、下方フーチング63の上面に球面滑り装置10と積層ゴム装置20が載置されている。擁壁62と端部の球面滑り装置10との間には、例えば大地震の際に並列免震装置50を介して上部架構75と擁壁62が衝突しない程度の隙間Sが設けられている。
免震構造100を形成する並列免震装置50は、球面滑り装置10と積層ゴム装置20が並列配置されることにより構成され、球面滑り装置10と積層ゴム装置20の上面には、上部架構75の下端に設けられている鉄筋コンクリート製の上部基礎体71が配設されている。上部基礎体71は、格子状に配設された地中梁72と、格子状の各地中梁72の格点に設けられている上方フーチング73(上部構造体の一例)とを有し、球面滑り装置10と積層ゴム装置20の上面に上部基礎体71が配設されている。ここで、上部架構75は、S造(鉄骨造)、RC造(鉄筋コンクリート造)、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)のいずれであってもよい。
上方フーチング73の直上には上部架構75を構成する柱76が立設しており、柱76を直接支持する上方フーチング73の直下に球面滑り装置10が配設されている。一方、柱76を直接支持する上方フーチング73以外の例えば地中梁72の途中位置の直下に積層ゴム装置20が配設されている。すなわち、球面滑り装置10は、上部構造体70の荷重を直接受ける位置に配設され、積層ゴム装置20は、上部構造体70の荷重を直接受けない位置に配設されている。尚、積層ゴム装置20は、地中梁72の途中位置の他にも、上部構造体70の荷重を直接受けない様々な位置に配設できる。
このように、積層ゴム装置20は、上部構造体70の荷重を直接受けない位置に配設されていることから、積層ゴム支承を形成せず、上部構造体70の荷重を全く支持しない、もしくは、上部構造体70の荷重の僅かな割合のみを支持することになる。
ここで、並列免震装置50(免震構造100)を形成する球面滑り装置10の構成について説明する。
球面滑り装置10は、上沓11と、下沓15と、上沓11及び下沓15の間で摺動するスライダー18とを有する。上沓11と下沓15はいずれも、平面視矩形(長方形もしくは正方形)の板材であり、溶接鋼材用圧延鋼材(SM490A、B、C、もしくはSN490B、C、もしくはS45C)等から形成されている。上沓11の下面と下沓15の上面にはそれぞれ、曲率を有する滑り面12、16が設けられており、この滑り面12,16には、ステンレス製の滑り板(図示せず)が固定されている。また、上沓11と下沓15には、滑り板の外周において、スライダー18の脱落を防止するためのストッパーリング(図示せず)が固定されている。
一方、スライダー18は、曲率を有する上下の滑り面19を備え、略円柱状を呈している。また、スライダー18は、溶接鋼材用圧延鋼材(SM490A、B、C、もしくはSN490B、C、もしくはS45C)等から形成され、面圧60N/mm2(60MPa)程度の耐荷強度を有している。
スライダー18の上下の滑り面19には、少なくともPTFE(polytetrafluoroethylene、ポリテトラフルオロエチレン)を素材とする摩擦材(図示せず)が取り付けられている。摩擦材は二重織物により形成され、二重織物は、PTFE繊維と、PTFE繊維よりも引張強度の高い繊維(高強度繊維)とにより形成される。ここで、「PTFE繊維よりも引張強度の高い繊維」としては、ナイロン6・6、ナイロン6、ナイロン4・6などのポリアミドやポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルやパラアラミドなどの繊維を挙げることができる。また、メタアラミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ガラス、カーボン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、LCP、ポリイミド、PEEKなどの繊維を挙げることができる。また、さらに、熱融着繊維や綿、ウールなどの繊維を適用してもよい。その中でも、耐薬品性、耐加水分解性に優れ、引張強度の極めて高いPPS繊維が望ましい。尚、少なくともPTFEを素材とする摩擦材としては、二重織物以外のPTFE繊維を含む織物でもよく、また、PTFEのみを素材とする摩擦材、PTFEと他の樹脂の複合素材からなる摩擦材、PTFEを素材とする摩擦材と他の樹脂を素材とする摩擦材との積層構造の摩擦材などであってもよい。
次に、並列免震装置50(免震構造100)を形成する積層ゴム装置20の構成について説明する。
図2に詳細に示すように、積層ゴム装置20は、上フランジ21と、下フランジ23と、上フランジ21と下フランジ23に挟まれた積層ゴム体28とを有する。
上フランジ21と下フランジ23はいずれも、溶接鋼材用圧延鋼材やステンレス鋼等により形成され、積層ゴム体28は、複数の天然ゴムの積層体や高減衰系の積層ゴム体、鉛プラグ入り積層ゴム体などにより形成される。
下方フーチング63の上面には下方ベースプレート64が固定され、地中梁72には上方ベースプレート74が固定されている。尚、地中梁72の下面に上方フーチング(図示せず)が設けられ、上方フーチングに上方ベースプレート74が固定されてもよい。
積層ゴム装置20を形成する上フランジ21には複数の貫通孔21aが開設されており、上方ベースプレート74のうち、上フランジ21の各貫通孔21aに対応する位置には、ボルト溝74aが開設されている。同様に、積層ゴム装置20を形成する下フランジ23には複数の貫通孔23aが開設されており、下方ベースプレート64のうち、下フランジ23の各貫通孔23aに対応する位置には、ボルト溝64aが開設されている。
そして、下フランジ23の各貫通孔23aには、下フランジ23を横移動不可にしながら下方ベースプレート64に固定するボルト(横移動不可手段の一例)30が挿通されている。ボルト30は、先端にネジ溝33を備えた軸部31と、軸部31の一端に設けられている頭部32とを備え、軸部31が貫通孔23aに挿通され、先端のネジ溝33がボルト溝64aに螺合することにより、下フランジ23が下方フーチング63(下部構造体60)に固定される。
一方、上フランジ21の各貫通孔21aには、上フランジ21を横移動不可にしながら上方ベースプレート74に固定するボルト(横移動不可手段の一例)30が挿通されており、ボルト30の先端のネジ溝33がボルト溝74aに螺合することにより、上フランジ21が地中梁72(上部構造体70)に固定される。
図2に示すように、ボルト30が上方ベースプレート74と下方ベースプレート64に固定された状態において、ボルト30の頭部32と上フランジ21の間、及び頭部32と下フランジ23の間にはいずれも余長t1が設けられている。
この余長t1は、図3に示すように、地震時(例えば、設計地震動である所定のレベル2地震時)の水平荷重が免震建物80に作用して、球面滑り装置10と積層ゴム装置20が水平変位(水平変位量u1)しながら、球面滑り装置10が上下変位(上下変位量u2)した際に、この上下変位量u2に追随して積層ゴム装置20の横移動不可な状態を維持できる長さに設定されている。
球面滑り装置10は、地震時の水平荷重が作用した際に、上沓11と下沓15、及びスライダー18の備える曲率により、下沓15に対して上沓11は水平方向に相対変位することに加えて上下方向(例えば鉛直方向)に相対変位する。一方、積層ゴム装置20は、地震時の水平荷重が作用した際に、積層ゴム体28の変形により、下フランジ23に対して上フランジ21は水平方向に相対変位できるものの、上下方向への相対変位はない。従って、並列免震装置50として、球面滑り装置10に関しては下沓15に対して上沓11が上下方向に相対変位する一方で、積層ゴム装置20に関しては下フランジ23に対して上フランジ21は上下方向に相対変位しないことから、積層ゴム装置20は球面滑り装置10の上下変位に追随できない。
そこで、図示例の積層ゴム装置20を、ボルト30の頭部32と上フランジ21及び下フランジ23の間に、上下変位量u2を吸収できる長さの余長t1を備えた状態で上部構造体70及び下部構造体60に固定することにより、積層ゴム装置20を球面滑り装置10の上下方向の相対変位に追随させて、下部構造体60と上部構造体70に対する横移動不可な状態を維持することができる。
ここで、図示例は、上方のボルト30と下方のボルト30の双方が余長t1を備えているが、いずれか一方が球面滑り装置10の上下変位量u2に追随できる余長を備え、他方が余長を備えない態様で対応するフランジに固定されている形態であってもよい。また、下部構造体60と上部構造体70の双方に対して積層ゴム装置20を横移動不可に固定できれば、例えば、上方のボルト30と下方のボルト30のいずれか一方のみが対応するベースプレートに固定される形態であってもよい。
このように、並列免震装置50を形成する積層ゴム装置20が、上部構造体70の荷重を直接受けない位置に配設され、下部構造体60と上部構造体70の双方に対して、地震時の球面滑り装置10の上下方向の変位に追随可能な態様で横移動不可に固定されていることにより、地震時の水平荷重の一部を積層ゴム装置20に導入する(負担させる)ことができる。このことにより、球面滑り装置10の構成を変更することなく、球面滑り装置10の有する二次剛性に積層ゴム装置20の二次剛性を付加することができ、球面滑り装置10と積層ゴム装置20による並列免震装置50の二次剛性(接線剛性、降伏後の剛性)の周期を自由に調整することが可能になる。
また、図示例の積層ゴム装置20では、貫通孔21a,23aの内面に環状の滑り材25が取り付けられており、滑り材25の内部をボルト30の軸部31が貫通している。滑り材25は、例えばPTFEにより形成できる。
この構成により、貫通孔21a,23aとボルト30の軸部31の間の摩擦力によって積層ゴム装置20の備える二次剛性が変化して、球面滑り装置10と積層ゴム装置20により形成される並列免震装置50に期待する所望の二次剛性が得られないといった課題を抑止できる。例えば、貫通孔21a,23aと軸部31の間の摩擦力が大きい場合、積層ゴム装置20の二次剛性は、直線でなく、ループを描くことになり、並列免震装置50の二次剛性は所望の二次剛性からずれる可能性が高くなる。
積層ゴム装置20を、下部構造体60と上部構造体70の双方に対して、地震時の球面滑り装置10の上下方向の変位に追随可能な態様で横移動不可に固定する横移動不可手段の他の例としては、図4に示すように、頭部32を備えたボルト30に加えて、頭部32と上フランジ21及び下フランジ23との間に介在する弾性体35を備えている、横移動不可手段30Aが挙げられる。図示例の弾性体35は皿バネであるが、皿バネ以外の様々な形態がある。
頭部32と上フランジ21及び下フランジ23との間に介在する弾性体35により、地震時の球面滑り装置10の上下方向の変位に対して弾性体35が追随できる。また、常時においても、弾性体35を介してボルト30の頭部32と上フランジ21及び下フランジ23は上下方向に相互に押圧した状態で固定することができる。
また、横移動不可手段のさらに他の例としては、図5に示すように、上方ベースプレート74の下面と下方ベースプレート64の上面において、上フランジ21と下フランジ23を包囲するように設けられている、無端状のストッパーからなる横移動不可手段30Bが挙げられる。
上フランジ21と下フランジ23を包囲する、高さt2の無端状のストッパー30Bにより、地震時に水平変位しながら上下変位する球面滑り装置10の当該上下変位に対して、ストッパー30Bの高さ分だけ積層ゴム装置20が横移動不可な状態を維持する(ストッパー30Bの外側へ係脱しない)ことが可能になる。
次に、図6を参照して、免震構造100を形成する並列免震装置50の復元力特性について説明する。
図6において、点線は球面滑り装置の復元力特性を示すグラフであり、一点鎖線は積層ゴム装置の復元力特性を示すグラフであり、実線は、双方の復元力特性が合成された並列免震装置の復元力特性を示すグラフである。
球面滑り装置10の二次剛性はG2aであり、積層ゴム装置20の二次剛性はG2bである。また、積層ゴム装置20は、上部構造体70の荷重を直接支持することなく、地震時の水平荷重の一部を負担することから、球面滑り装置10と積層ゴム装置20により形成される並列免震装置50の二次剛性は、双方の二次剛性を付加したG2cとなる。
従って、球面滑り装置10の構成を変更することなく、球面滑り装置10の有する二次剛性G2aに積層ゴム装置20の二次剛性G2bを付加することにより、並列免震装置50の二次剛性の周期を自由に調整することが可能になる。
例えば、球面滑り装置10の二次剛性の周期が6秒の場合に、並列配置された積層ゴム装置20の二次剛性が付加されることにより、球面滑り装置10と積層ゴム装置20による並列免震装置50の二次剛性の周期を5.5秒や6.5秒等に調整することができる。この調整により、対象となる地震動の固有周期と並列免震装置50の固有周期を容易に異ならせることが可能になる。
また、免震層に球面滑り装置が単体で適用される場合は、上沓及び下沓とスライダーとの間の滑り面(球面)による復元力と、摩擦力とによる釣り合いの位置以下で変位が生じた場合に、残留変形が残り易いといった課題がある。これに対して、図示例の並列免震装置40(及び免震構造100)によれば、球面滑り装置10と積層ゴム装置20とが組み合わされることにより、積層ゴム装置20を形成するゴムの復元力によって残留変形が残り難くなるといった効果が奏される。
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
10:球面滑り装置
11:上沓
12:滑り面
15:下沓
16:滑り面
17:ストッパーリング
18:スライダー
19:滑り面
20:積層ゴム装置
21:上フランジ
21a:貫通孔
23:下フランジ
23a:貫通孔
25:滑り材
28:積層ゴム体
30:横移動不可手段(ボルト)
30A:横移動不可手段(ボルト及び弾性体)
30B:横移動不可手段(ストッパー)
31:軸部
32:頭部
35:弾性体
40:並列免震装置
60:免震ピット(下部構造体)
61:ピット底盤
62:擁壁
63:下方フーチング(下部構造体)
65:免震層
64:下方ベースプレート
70:上部構造体
71:上部基礎体
72:地中梁
73:上方フーチング
74:上方ベースプレート
75:上部架構
76:柱
80:免震建物
100:免震構造
G:地盤
S:隙間

Claims (6)

  1. 上部構造体と掘削された地面に設けられた下部構造体である免震ピットとの間の免震層において、球面滑り装置と積層ゴム装置が並列配置されており、
    前記球面滑り装置は、前記上部構造体の荷重を直接受ける位置である、柱もしくは壁の直下であり、上方に突設された下方フーチングの位置に配設され、
    前記積層ゴム装置は、前記上部構造体の荷重を直接受けない位置である、柱と壁の直下ではない位置のみに配設されており、
    前記球面滑り装置は、上沓及び下沓と、該上沓と該下沓の間で摺動するスライダーとを有し、該スライダーは少なくとも上面に曲率を有する滑り面を備え、該上沓の下面にある曲率を有する滑り面に対して、該スライダーの該滑り面が摺動するようになっており、
    前記積層ゴム装置は、免震要素として、積層ゴム体のみを有する、ことを特徴とする、免震構造。
  2. 前記積層ゴム装置は、横移動不可手段を介して、前記上部構造体と前記下部構造体の少なくとも一方に対して横移動不可に固定されており、
    地震時の水平荷重を、前記球面滑り装置と前記積層ゴム装置の双方で負担することを特徴とする、請求項1に記載の免震構造。
  3. 前記積層ゴム装置は、下フランジと、上フランジと、該下フランジと該上フランジに挟まれた前記積層ゴム体とを有し、
    前記横移動不可手段は、頭部を備えたボルトであり、
    前記ボルトは、前記上部構造体もしくは下部構造体に取り付けられ、前記上フランジもしくは前記下フランジの備える貫通孔に挿通され、前記頭部が前記上フランジもしくは前記下フランジから余長を備えた状態で配設されており、
    前記余長は、前記球面滑り装置が設定地震動による水平荷重を受けて可動した際の上下変位量に相当する長さに設定されていることを特徴とする、請求項2に記載の免震構造。
  4. 前記積層ゴム装置は、下フランジと、上フランジと、該下フランジと該上フランジに挟まれた前記積層ゴム体とを有し、
    前記横移動不可手段は、頭部を備えたボルトと、前記下フランジもしくは前記上フランジと該頭部の間に介在する弾性体であり、
    前記ボルトは、前記上部構造体もしくは下部構造体に取り付けられ、前記上フランジもしくは前記下フランジの備える貫通孔に挿通され、前記頭部と前記上フランジもしくは前記下フランジの間に前記弾性体が配設されていることを特徴とする、請求項2に記載の免震構造。
  5. 前記積層ゴム装置は、下フランジと、上フランジと、該下フランジと該上フランジに挟まれた前記積層ゴム体とを有し、
    前記横移動不可手段は、前記上部構造体もしくは前記下部構造体の少なくとも一方に設けられて、前記下フランジもしくは前記上フランジを包囲する無端状のストッパーであることを特徴とする、請求項2に記載の免震構造。
  6. 前記貫通孔の内面に、滑り材が取り付けられていることを特徴とする、請求項3又は4に記載の免震構造。
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