JP7322540B2 - 導電性粉末の評価方法 - Google Patents

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本発明は、導電性粉末の評価方法に関し、特に積層セラミックコンデンサの内部電極用ペーストの材料に適しているか否かを評価する導電性粉末の評価方法に関する。
電極と誘電体とが交互に多数積み重ねられたチップタイプの形状を有する積層セラミックコンデンサ(以下、MLCC:MultiLayer Ceramic Capacitorとも称する)は、小型で大容量を実現できるので様々な電子機器に数多く搭載されている。この積層セラミックコンデンサは、一般的には、内部電極層とセラミックグリーンシートとを交互に積層した後、圧着してブロック状に一体成型し、得られた成型体を所定のチップサイズにカットして焼成することで作製される。上記の内部電極層には、樹脂中に導電性粉末を添加し、均一に分散するように混錬した内部電極用ペースト(以下、導電性ペーストとも称する)が用いられる。
近年、電子機器はますます高機能化、小型化しており、これに伴い積層セラミックコンデンサおいても、より小型化、大容量化することが求められている。そのため、内部電極層及びセラミックグリーンシートをともに薄層化して、積層数を数百層から多いものでは千層程度にまで増加させることが行われている。例えば内部電極層では、厚みを従来の数μmレベルからサブミクロンレベルに薄層化することが行われており、これに合わせて内部電極用の電極材料である導電性粉末は、既に平均粒径が0.5μm以下に微細化されており、現在は平均粒径0.3μm以下が主流となっている。
このような微細な導電性粉末の製造プロセスとしては、金属化合物を気化し、制御された圧力及び温度条件の下、反応ガスと化学反応させて金属粉末を析出させる気相法や、金属塩溶液に還元剤を添加して還元析出させる湿式法がある。前者の気相法は1000℃以上の高温プロセスで行うため、結晶性の高い導電性粉末を得ることができるが、粒度分布が広くなりやすく、微細な導電性粉末を得るためには高価な分級装置を導入することが必要になる場合がある。
一方、後者の湿式法では比較的粒度分布の狭い導電性粉末が得られるものの、その製造過程に含まれる晶析粉末の乾燥工程において、乾燥が進むにつれて粒子同士が接近したとき、製造過程における残留物がこれら粒子間に介在して固着を促し、凝集体を形成することがあった。導電性粉末に上記のような凝集体が多く含まれていると、MLCCの製造時においてそれらがセラミックグリーンシートを突き破り、内部電極層間でショートを引き起こす不具合の原因となる。
特に、上記のようなサブミクロンレベルにまで微細化した導電性粉末中においては、数μmレベルの凝集体であっても上記の内部電極層間のショートの原因となる恐れがあるため、内部電極用ペーストの材料として使用するのは好ましくない。従って、内部電極用ペーストの材料として好ましくない凝集体を含んだ導電性粉末であるか否かをなるべく簡便かつ迅速に評価できれば、コストをかけることなく導電性粉末の品質を高めることができるので、評価の結果合格と判断された導電性粉末のみ用いることで積層セラミックコンデンサの信頼性を高めることができる。
従来、導電性粉末に含まれる凝集体の評価方法は様々提案されている。例えば、特許文献1には、走査型電子顕微鏡(SEM)などを用いて、直接ニッケル粒子を観察し、粒子径を求めることで評価する方法が開示されている。しかしながら、この特許文献1の評価方法では観察視野内に存在する粒子群に限定した評価となるため、評価データに高い信頼性を持たせるには測定点数を増やす必要があり、多大な時間とそれに伴うコストが必要となる。
特許文献2には、粗大粒子を含むニッケル粉末を分散させたスラリーを、均一な孔径を有する多孔性フィルタを通して吸引ろ過することでフィルタ上に該孔径以上の粗大粒子を捕集して分離し、これによりニッケル粉末全体に対する粗大粒子の含有率を求める方法が開示されている。しかしながら、この特許文献2の方法においては、フィルタ上に精度良く粗大粒子のみを捕集するためにはスラリーを繰り返し吸引ろ過する必要があり、多大な労力とそれに伴うコストが必要となる。
特開2001-247903号公報 特開2017-191011号公報
本発明は上記した従来の導電性粉末の評価方法が抱える問題点に鑑みてなされたものであり、ますます小型化、大容量化する積層セラミックコンデンサの内部電極用ペーストの材料として適切な導電性粉末であるか否かを簡便かつ迅速に評価する方法を提供することを目的とする。
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、評価対象の導電性粉末に有機物を混合することで作製した評価用ペーストの粘度を測定することによって、凝集体の有無を簡便に評価することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の導電性粉末の評価方法は、導電性ペーストへの適用の可否を評価する導電性粉末の評価方法であって、評価対象の導電性粉末を小分けしてそれらの各々にビヒクルを同じ配合割合で添加し、更に該導電性粉末100質量部に対して0.4質量部以下の範囲で界面活性剤を無添加を含む異なる添加量で添加して自公転ミキサーのみを用いて撹拌することで複数種類の評価用ペーストを調製した後、これら複数種類の評価用ペーストの各々に対して一定のせん断速度で粘度測定を行い、前記界面活性剤を添加したものの粘度が、前記界面活性剤が無添加のものの粘度に比べて低下している場合は、該評価対象の導電性粉末は解砕容易な凝集体を含むので適用可と判断することを特徴とする。
本発明によれば、導電性粉末が導電性ペーストとして適切か否かを簡便かつ迅速に評価することができる。
実施例1で調製したニッケルペーストに対して、一定のせん断速度で粘度測定を行ったときの経時的な粘度変化を示すグラフである。 実施例2で調製したニッケルペーストに対して、一定のせん断速度で粘度測定を行ったときの経時的な粘度変化を示すグラフである。 実施例3で調製したニッケルペーストに対して、一定のせん断速度で粘度測定を行ったときの経時的な粘度変化を示すグラフである。
1.評価用ペーストの調製
本発明の実施形態の導電性粉末の評価方法においては、先ず、評価対象の導電性粉末を等量ずつ小分けしてそれらの各々にビヒクルを同じ配合割合で添加し、更に界面活性剤を無添加を含む異なる添加量で添加して混合することで、複数種類の評価用ペーストを調製する。これら複数種類の評価用ペーストの数は2種類でもよいが、3種類以上が好ましく、4種類がより好ましい。また、各評価用ペーストの調製では、軟膏容器に導電性粉末、ビヒクル及び界面活性剤をそれぞれ秤量して投入し、自公転ミキサーで混合するのが好ましい。これにより均質な評価用ペーストを作製することができる。なお、本評価方法で評価できる導電性粉末には、Ni、Pd、Pt、Au、Cu及びこれらの少なくともいずれかの合金からなる群から選ばれる1種以上を挙げることができる。
(ビヒクル)
上記の評価方法に用いるビヒクルとしては、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の樹脂を有機溶剤に溶解させたものを使用するのが好ましい。上記有機溶剤は、導電性ペーストに一般的に使用されるものであれば特に制限はなく、例えばターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピネオールアセテート等を使用することが望ましい。評価用ペーストの調製では、導電性粉末100質量部に対して上記ビヒクルを10~50質量部添加するのが好ましく、25~35質量部添加するのがより好ましい。また、上記ビヒクルは1種類のみで使用してもよいし、2種以上を混合して使用しても良い。
(界面活性剤)
上記の評価方法に用いる界面活性剤はアニオン系界面活性剤が好ましい。界面活性剤は、導電性粉末表面に吸着して分散性を付与し、導電性粉末が凝集することを防止する役割を担うため、アニオン系界面活性剤であれば導電性粉末表面への吸着力が大きく、その表面改質作用により導電性粉末などの無機物粒子の分散性が顕著に向上するからである。なお、アニオン系界面活性剤は、塗膜の平滑性や、内部電極用ペーストの膜を乾燥した際の密度(乾燥膜密度)を向上させる働きも有する。
アニオン系界面活性剤としては、カルボキシル基(COOH基)を有するカルボン酸系界面活性剤が好ましい。更にアニオン系界面活性剤は、カルボキシル基に加えて、分子構造中にヒドロキシル基、カルボニル基、アミノ基等の塩基系の官能基を有してもよいし、エーテル結合、アミド結合等の構造を備えてもよい。また、アニオン系界面活性剤は、2分子の一鎖一親水基型界面活性剤がスペーサを介して共有結合した構造のジェミニ型界面活性剤を用いてもよい。
アニオン系界面活性剤としては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、ラウリン酸、リノレン酸などの高級脂肪酸を疎水基に有するものや、グリシンとステアリン酸又はラウリン酸などの高級脂肪酸とのアミド化合物などが挙げられる。これらの中でも、炭素数が16以上22以下のアニオン系界面活性剤が好ましい。なお、アニオン系界面活性剤は、1種で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記の界面活性剤の添加量は、作製する評価用ペーストが少量であることを考慮すると、導電性粉末100質量部に対して、0.01質量部以上2質量部以下添加するのが好ましく、0.1質量部以上2質量部以下添加することがより好ましい。この添加量が0.01質量部未満では、ニッケル粉などの導電性粉末の分散性が十分でなく乾燥膜密度が低下することがある。逆に2質量部を超えると、既に十分な分散性を付与できているため、それ以上の添加量はコスト上のメリットはない。むしろ、過剰に添加した場合は積層時に層間剥離が生じる可能性があるため、界面活性剤は必要最低限量とすることが望ましい。
また、評価用ペーストは、アニオン系界面活性剤以外の界面活性剤を用いてもよい。このような界面活性剤としては特に限定はなく、導電性粉末等を有機溶剤中に微細化した状態で安定に分散できる界面活性剤であれば好適に用いることができ、例えば、カチオン系界面活性剤等を用いることができる。また、ニッケルを含む導電性粉末の表面は、酸化等により表面が汚染されていることがあり、この場合は化学的性質が一様ではないため、界面活性剤は、アニオン系界面活性剤及びカチオン系界面活性剤の両方を用いることができる。また、アニオン系界面活性剤又はカチオン系界面活性剤の各々を、2種類以上を併用して用いてもよい。
2.レオメーターによる粘度測定
上記にて調製した複数の評価用ペーストの各々に対して、回転式粘度計を用いて一定のせん断速度でローターを回転させながら所定の時間に亘り連続的に粘度測定を行う。上記回転式粘度計には、円錐形状のローターと円板状の静止板とで評価用ペーストを挟んだ状態で粘度測定を行うコーンプレート粘度計を用いるのが好ましい。この場合の粘度測定は、JIS K 5600-2-3(コーン・プレート粘度計法)の手順に準拠して行えばよい。この粘度測定では、導電性粉末に含まれる凝集体がせん断応力により徐々に解砕していった場合、該解砕の進行度合いが粘度変化(粘度低下)として表れる。
(導電性粉末の内部電極用ペーストへの適用可否判断)
せん断開始時の評価用ペーストの粘度を初期粘度値とすると、せん断応力が働くことによって評価用ペースト中の導電性粉末に凝集体が含まれる場合は解砕される。そして、解砕された粒子の表面を界面活性剤が覆うことで粒子の分散が促進され、評価用ペーストの粘度は初期粘度値から徐々に低下し、導電性粉末に含まれる凝集体がそれ以上に解砕されなくなった時点で、粘度値はほぼ一定となる。
一方、導電性粉末に強く凝集した凝集体が含まれる場合は、せん断によっても解砕されにくいので、評価用ペーストの粘度は初期粘度値のままほとんど変化しない。また、せん断によって解砕されても、評価用ペーストが界面活性剤を含んでいない場合は粒子の分散が促進されないので、この場合も評価用ペーストの粘度は初期粘度値のままほとんど変化しない。
そこで、導電性粉末が内部電極用ペーストに適用できるか否かの判断は、界面活性剤を添加した評価用ペーストの粘度が、界面活性剤が無添加の評価用ペーストの粘度に比べて低下していることを確認することができれば、容易に解砕される凝集体を含むものであるので、適用可と判断することができる。また、粘度が低下している評価用ペーストの界面活性剤の含有量から、内部電極用ペーストの調製の際の界面活性剤の好適な添加量を求めることができる。次に、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
(実施例1)
<評価用ペーストの調製>
内容積30mLの軟膏容器を4個用意し、それらの各々にニッケル粉末(ロットA)10gと、ビヒクルA(ターピネオールの質量に対して10質量%のエチルセルロースを溶解)3.5gと、ビヒクルB(ターピネオールの質量に対して10質量%のポリビニルブチラールを溶解)2.5gとを投入し、更に界面活性剤として、分子構造中にカルボキシル基を持つアニオン系界面活性剤を、表1に示すように、ニッケル粉末100質量部に対してそれぞれ異なる添加量となるように添加した。そして、各々自公転ミキサーを用いて2000rpmで30秒間撹拌し、評価用ペースト1~4を調製した。
Figure 0007322540000001
<粘度測定>
上記にて調製した評価用ペースト1~4の各々に対して、レオメーター(Anton Paar社製、MCR501)を用いて、コーンプレート(コーン半径25mm、コーン角度3°)を取り付けて、25℃のステージ温度で1000s-1のせん断速度で20分間粘度を測定した。その結果を図1に示す。この図1に示す結果から、実施例1に係るニッケル粉末(ロットA)については、界面活性剤が無添加の評価用ペースト1は粘度がほとんど低下していないのに対して、界面活性剤の添加量が0.1質量部以上である評価用ペースト2~4は粘度の顕著な低下が確認された。このことから、ニッケル粉末(ロットA)は内部電極用ペーストに適したニッケル粉末であり、ニッケル粉末100質量部に対して界面活性剤を0.1質量部程度添加することが好ましいことが分かる。
(実施例2)
ニッケル粉末をロットBとしたこと以外は上記実施例1と同様に評価用ペースト5~8を調製し、粘度測定を行った。その結果を図2に示す。この図2に示す結果から界面活性剤が無添加の評価用ペースト5及び界面活性剤の添加量0.1質量部である評価用ペースト6では粘度は初期粘度値とほとんど変化がなく、界面活性剤添加量0.2質量部以上である評価用ペースト7、8において粘度の顕著な低下が確認された。このことから、ニッケル粉末(ロットB)は、内部電極用ペーストに適したニッケル粉末であり、ニッケル粉末100質量部に対して界面活性剤量を0.2質量部程度添加することが好ましいことが分かる。
(実施例3)
ニッケル粉末をロットCとしたこと以外は実施例1と同様に評価用ペースト9~12を調製し、粘度測定を行った。その結果を図3に示す。この図3に示す結果から作製した全ての評価用ペースト9~12で初期粘度値からの粘度の低下は確認されなかった。このことから、ニッケル粉末(ロットC)はその100質量部に対して界面活性剤量を0.4質量部を超えて添加する必要が生じうることが分かる。すなわち、このニッケル粉末(ロットC)を用いた場合には、凝集を解砕させるためには過剰量の界面活性剤が必要となるか、あるいは強固な凝集により容易に解砕するのが困難であり、この場合はニッケルペーストの製造に多くのコストがかかることになるため、内部電極用ペーストとしては適さないニッケル粉末であることが分かる。
(比較例)
ニッケル粉末の内部電極用ペーストへの適用の可否についての評価を、走査型電子顕微鏡(SEM)による粒子観察で行うべく、ロットAからサンプリングしたニッケル粉末の粒子径を測定して粒度分布を求めたところ、得られた粒度分布は280nm~450nmであった。この結果から、ロットAのニッケル粉末は内部電極用ペーストに適したニッケル粉末であると判断することはできた。しかし、走査型電子顕微鏡(SEM)による粒子観察を行い、粒子径を測定することで粒度分布を求める方法で粗粒評価を行った場合は、3日間程度の時間を要した。これに対して、上記実施例の1~3の評価方法では評価時間は2時間程度であったため、極めて迅速に評価を行うことができた。

Claims (5)

  1. 導電性ペーストへの適用の可否を評価する導電性粉末の評価方法であって、評価対象の導電性粉末を小分けしてそれらの各々にビヒクルを同じ配合割合で添加し、更に該導電性粉末100質量部に対して0.4質量部以下の範囲で界面活性剤を無添加を含む異なる添加量で添加して自公転ミキサーのみを用いて撹拌することで複数種類の評価用ペーストを調製した後、これら複数種類の評価用ペーストの各々に対して一定のせん断速度で粘度測定を行い、前記界面活性剤を添加したものの粘度が、前記界面活性剤が無添加のものの粘度に比べて低下している場合は、該評価対象の導電性粉末は解砕容易な凝集体を含むので適用可と判断することを特徴とする導電性粉末の評価方法。
  2. 前記界面活性剤を添加したもの及び前記界面活性剤が無添加のもの全てにおいて粘度が初期粘度値のまま変化しない場合は、前記評価対象の導電性粉末は解砕困難な凝集体を含むので適用不可と判断することを特徴とする、請求項1に導電性粉末の評価方法。
  3. 前記複数種類の評価用ペーストの数が3種類以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の導電性粉末の評価方法。
  4. 前記界面活性剤がアニオン系界面活性剤であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の導電性粉末の評価方法。
  5. 前記評価用ペーストに対して各々1000s-1のせん断速度で粘度測定を行うことを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の導電性粉末の評価方法。
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