JP7200622B2 - 導電性粉末の評価方法 - Google Patents

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Description

本発明は、積層セラミックコンデンサの原材料用に適した導電性粉末の評価方法に関するものである。
携帯電話などの小型電子機器には、セラミック誘電体と内部電極とが交互に積層された多層構造の積層セラミックコンデンサ(以下、MLCC:MultiLayer Ceramic Capacitorとも称する)が用いられている。この積層セラミックコンデンサは、内部電極層とセラミックグリーンシートとを交互に重なるように積層した後、積層方向に圧着して一体成形し、これを所定の大きさに切断してチップ化してから焼成する方法で一般的に作製されている。
上記の内部電極層には、樹脂中に導電性粉末等を添加して混錬することにより作製される、導電性粉末が均一に分散された内部電極用ペーストが広く用いられている。この内部電極用ペーストの原料となる導電性粉末の製造プロセスとしては、制御された圧力及び温度条件の下で気化した金属化合物を、反応ガスと化学反応させて金属粉末を析出させる気相法や、金属塩溶液に還元剤を添加して還元析出(晶析)させる湿式法が知られている。
これらのうち、気相法では約1000℃以上の高温雰囲気で処理を行うため、結晶性の高い導電性粉末を得ることができるものの、粒度分布が広くなりやすく、粒度分布の狭い微細な導電性粉末を得るためには高価な分級装置を導入する必要がある。一方、湿式法では粒度分布の狭い導電性粉末が得られるものの、晶析後の乾燥処理において、晶析粉末の乾燥が進むにつれて粒子同士が接近したとき、製造過程における残留物が粒子間に介在した状態で固着して凝集体を形成することがある。その結果、乾燥後の導電性粉末には乾燥時に生じた上記凝集体が多く含まれることがあった。また、粒子の不均一な成長が原因となって発生する粗大粒子が含まれることがあった。これら凝集体や粗大粒子が導電性粉末に含まれていると、コンデンサ製造時においてそれらがセラミックグリーンシートを突き破り、内部電極層間でショートを引き起こす不具合の原因となる。
しかも、近年の積層セラミックコンデンサはサブミリオーダーの極めて小型のサイズで高い静電容量を達成することが求められているため、内部電極層及びセラミックグリーンシートを共に薄層化することで積層数を数百層から千層程度にまで増加することが行われている。このため、内部電極層の厚みは従来の数μmレベルからサブミクロンレベルに薄層化する必要があり、それに伴い、内部電極用の電極材料である導電性粉末の粒径も微細化が進められている。
具体的には、現在のMLCC用としては平均粒径0.5μm以下の導電性粉末が必要とされ、平均粒径0.3μm以下の導電性粉末の使用が主流となっている。平均粒径をこの程度にまで微細化した導電性粉末中に粒径数μmレベルの凝集体や粗大粒子が含まれていると、上記した内部電極層間のショートの原因となる恐れがあるため、上記したMLCCの内部電極用ペーストの導電性粉末として使用するのは好ましくない。従って、内部電極用ペーストへの導電性粉末の適用の可否、すなわち上記のような凝集体や粗大粒子が導電性粉末に含まれているか否かをなるべく簡便かつ迅速に評価できれば、コストをかけることなくMLCCの信頼性を高めることができるので望ましい。
凝集体や粗大粒子が導電性粉末に含まれているか否かを評価する方法は種々提案されており、例えば特許文献1には、走査型電子顕微鏡(SEM)などを用いて直接ニッケル粒子を観察し、粒子径を求めることで評価する方法が開示されている。また、特許文献2には、粗大粒子を含むニッケル粉末を分散させたスラリーを、一定の孔径を有する多孔性のフィルターを通して吸引ろ過することでフィルターの一次側に該孔径以上の粗大粒子を捕集してろ液から分離し、ニッケル粉末全体に対する粗大粒子の含有率を求める方法が開示されている。
特開2001-247903号公報 特開2017-191011号公報
しかしながら特許文献1の方法は、観察視野内に限定された測定となるため、評価データに信頼性を持たせるには測定点数を増やす必要があり、結果的に多大な労力と時間を要し、それに伴ってかなりのコストがかかることになる。また、特許文献2の方法は、フィルターの一次側に精度良く粗大粒子のみを捕集するためにはスラリーを繰り返し吸引ろ過することが必要になり、これは多大な時間と労力を要するうえ、かなりのコストがかかることになる。
このように、従来行われている評価方法はいずれも多大な労力や時間を要し、コストがかかるものであった。本発明は上記の実情に鑑みてなされたものであり、ますます小型化・大容量化する積層セラミックコンデンサの原料として好適な導電性粉末であるか否かを簡便かつ迅速に評価する方法を提供することを目的とする。
本発明者は上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、水との混和性が極めて少ない親油性溶媒と水との混合液中における導電性粉末の挙動を調べることで、該導電性粉末の内部電極用ペースト原料としての適用の可否を簡便かつ迅速に評価できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の導電性粉末の評価方法は、水と、水に対する溶解度が1%以下である比重0.999(20/4℃)以下の親油性溶媒とが質量基準で1:1の割合で装入されたガラス管瓶内に導電性粉末及びアニオン系界面活性剤からなる分散剤だけを添加し、振とうによる混合及び超音波の振動による解砕を行なった後に静置させて前記水と親油性溶媒とを2層に分離させたときの該導電性粉末の状態に基づいて導電性粉末の内部電極用ペーストへの適用可否を判断することを特徴としている。
本発明によれば、内部電極用ペーストの原料としての導電性粉末の適用の可否を簡便かつ迅速に判別することができ、よって信頼性の高い積層セラミックコンデンサを低コストで作製することができる。
本発明の評価方法の実施形態において、混合液を2層分離させた時の導電性粉末の状態を示す模式図であり、(a)では界面及び溶媒層に存在しており、(b)では界面及び溶媒層に加えてガラス管瓶の底部に堆積している状態が示されている。 本発明の参考例において行った、動的光散乱法によるニッケル粉末の粒度分布測定結果を示すグラフである。
以下、本発明の実施形態に係る導電性粉末の評価方法について詳細に説明する。本発明の実施形態の内部電極用ペースト用の導電性粉末の評価方法は、水と、水に対する溶解度が1%以下である比重0.999(20/4℃)以下の親油性溶媒とが質量基準で1:1の割合で装入されたガラス管瓶内に導電性粉末及び分散剤を添加し、振とうさせた後に静置させて上記水と親油性溶媒とを2層に分離させたときの該導電性粉末の状態に基づいて導電性粉末の内部電極用ペーストへの適用可否を判断するものである。
(導電性粉末)
本発明の実施形態の評価方法の対象となる導電性粉末は、内部電極用ペーストを焼成することで形成される内部電極において導体の役割を担う主原料であり、その種類には特に限定はなく、例えば、Ni、Cu、Pd、Ag、及びこれらの1種以上の合金からなる群より選ばれる粉末を挙げることができる。特に、内部電極用ペーストにはNiを主成分として含む粉末(以下、単に「ニッケル粉末」とも記載する)が好適に用いられる。
ニッケル粉末は、不可避不純物を除いてNiのみからなるNi粉末、又はNiを主成分とするNi合金粉末であり、これらはいずれも導電性及び耐食性に優れ且つ低コストであるという利点を有している。上記のNi合金粉末において、ニッケルに添加する合金元素としては、例えば、マンガン、クロム、コバルト、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、銀、金、白金及びパラジウムからなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。一般的にはNiを主成分とする合金粉末におけるNiの含有量は50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。なお、ニッケル粉末は、例えば脱バインダー工程の有機バインダーの部分的な熱分解による急激なガス発生を抑制するため、数百質量ppm程度のS(硫黄)を含んでいてもよい。
導電性粉末の粒径は、内部電極用ペースト中での分散性や、印刷工程においてグリーンシート等に塗布する際の作業性、焼成工程において焼成して内部電極としたときの導電性等を考慮して適宜定められる。例えば、近年の高積層で且つ高容量の積層セラミックコンデンサに用いる場合、導電性粉末の平均粒径は0.05μm以上0.5μm以下であるのが好ましい。なお、本明細書においては、導電性粉末の平均粒径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)写真を画像解析することで求められる値であり、粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
上記の導電性粉末の平均粒径の上限を0.5μm以下にすることで、特に積層セラミックコンデンサにおいて薄層化を図ることができる。一方、導電性粉末の平均粒径の下限を0.05μm以上にすることで、導電性粉末の表面活性が必要以上に高くなることを抑制でき、また、内部電極用ペーストの粘度が過度に高くなることを抑制できる。これにより、内部電極用ペーストとして長期保存した場合に変質等が生じることを抑制することができる。
内部電極用ペースト中の導電性粉末の含有率は、内部電極用ペーストに要求される粘度や、内部電極としたときに要求される導電性等に応じて適宜定められる。一般的には、内部電極用ペースト全量に対して導電性粉末が30質量%以上70質量%以下含有されることが好ましく、40質量%以上60質量%以下含有されることがより好ましい。上記の内部電極用ペースト中の導電性粉末の含有量の下限を30質量%以上にすることで、焼成工程における内部電極層の焼成時の電極膜形成能力を十分に確保することができ、所望のコンデンサ容量をより確実に得ることができる。一方、内部電極用ペースト中の導電性粉末の含有量の上限を70質量%以下にすることで、内部電極の電極膜を薄層化し易くすることができる。
(親油性溶媒)
本発明の実施形態の評価方法に使用する親油性溶媒としては、比重0.999(20/4℃)以下で、水に対する溶解度が1%以下であるものが好ましく、具体的にはベンゼン、トルエン、ペンタン、ヘキサンから選ばれる1種類以上から選ばれることがより好ましい。これにより、外から内容物を確認することができる透明なガラス管瓶に該親油性溶媒を水と共に装入し、更に評価対象の導電性粉末を分散剤と共に添加して混合した後、静置させることで、上記の親油性溶媒は密度が水に比べて小さく、且つ水との混和性が極めて低いため、ガラス管瓶内において上層が親油性溶媒層、下層が水層の状態で2層に分離させることができ、その際、導電性粉末の状態を目視にて容易に確認することができる。
(分散剤)
本発明の実施形態の評価方法に使用する分散剤は金属粉末の凝集を防止し、分散性を付与する役割を担っており、アニオン系界面活性剤が好適に用いられる。アニオン系界面活性剤は、導電性粉末表面への吸着力が大きく、その表面改質作用により導電性粉末などの無機物粒子の分散性向上に寄与する。なお、アニオン系界面活性剤は、導電性粉末から作製した内部電極用ペーストを塗布して得た塗膜の平滑性や、内部電極用ペーストの膜を乾燥した際の密度(乾燥膜密度)を向上させる働きも有する。
上記アニオン系界面活性剤としては、分子構造中に酸系の官能基を有するものが好ましく、カルボキシル基(COOH基)を有するカルボン酸系界面活性剤がより好ましい。カルボン酸系界面活性剤としては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、ラウリン酸、リノレン酸などの高級脂肪酸や、グリシンとステアリン酸又はラウリン酸などの高級脂肪酸とのアミド化合物などを挙げることができる。これらの中では、炭素数が16以上22以下のアニオン系界面活性剤が好ましい。なお、アニオン系界面活性剤は、1種類だけでもよいし、2種類以上を併用してもよい。
また、アニオン系界面活性剤は、ジェミニ型界面活性剤を用いてもよい。ジェミニ(双子)型界面活性剤とは、通常の一鎖一親水基型界面活性剤を連結基(スペーサー)でつなげた機能性有機材料であり、極めて低い臨界ミセル濃度を有しているにもかかわらず良好な水溶解性を有している等の優れた界面活性能を有している。カルボン酸系界面活性剤は、カルボキシル基以外に、ヒドロキシル基、カルボニル基、アシル基、アミノ基等の官能基を有していてもよく、また、エーテル結合、アミド結合等の構造を備えてもよい。
[導電性粉末の評価]
導電性粉末の内部電極用ペーストの適用性可否の評価においては、水と、水に対する溶解度が1%以下である比重0.999(20/4℃)以下の親油性溶媒とが質量基準で1:1の割合で装入されたガラス管瓶内に、評価対象である上記の導電性粉末及び上記分散剤を添加し、振とうさせた後に静置させて上記水と親油性溶媒とを2層に分離させたときの該導電性粉末の状態に基づいて導電性粉末の内部電極用ペーストへの適用可否を判断する。以下、具体的に説明する。
(希釈分散剤の調製)
上記の評価の際に用いる分散剤は、解砕された導電性粉末の凝集を防止する効果が高いものとして、分子構造中に酸の官能基を持つアニオン系界面活性剤が好ましく、常温において粉末状のものでも液体状のものでも構わない。水と親油性溶媒との混合液中への分散剤の添加量はごく微量で良いので、親油性溶媒に対して100,000倍程度に希釈した濃度の分散剤(以下、希釈分散剤とも称する)を用いるのが好ましい。
(評価試料の調製)
次に、水及び親油性溶媒を用意する。水の純度には特に制限はないが、安価で入手が容易な導電率が約1μS/cm以下の純水を用いることが好ましい。一方、親油性溶媒としては、比重0.999(20/4℃)以下で、水に対する溶解度が1%以下であるものが好ましく、具体的にはベンゼン、トルエン、ペンタン、ヘキサンから選ばれる1種類以上から選ばれることがより好ましい。これら水と親油性溶媒とを質量比で1:1の割合で秤量し、外から内容物を確認することができる透明なガラス管瓶に装入する。上記の親油性溶媒は密度が水に比べて小さく、且つ水との混和性が極めて低いため、上記の混合液は静置させるとガラス管瓶内において、上層が親油性溶媒層、下層が水層の状態で2層に分離する。
次に、上記ガラス管瓶内の混合液100質量部に対して、サンプリングした導電性粉末を0.05質量部添加し、更に上記にて調製した希釈分散剤を混合液100質量部に対して分散剤が2.5~20質量部となるように添加する。そして、蓋をした後、該ガラス管瓶を把持して1分間かけて約120~150回程度上下方向に振とうさせることで混合させ、更に超音波発振器(アズワン株式会社製 VS-100-III)を用いて混合液及びその中の導電性粉末に対して28kHzの超音波で5分間振動させる。この超音波による振動により、導電性粉末中に含まれる凝集体の解砕が進むと共に、導電性粉末表面に分散剤を十分に吸着させることができる。その後、約1時間程度静置させることでガラス管瓶内の混合液を水層と親油性溶媒層とに2層分離させる。
(導電性粉末の内部電極用ペーストへの適用可否判断)
ガラス管瓶内の導電性粉末に含まれる凝集体は、超音波により解砕された後、希釈分散剤の形態で添加した分散剤が表面に吸着されることにより再凝集防止効果が働き、分散状態が保たれるが、一部は再び凝集する。また、解砕されずに残留する凝集体や粗大粒子が含まれていると、これらのサイズによってはガラス管瓶内における導電性粉末の挙動が異なる。従って、上記した静置後に形成される水層及び親油性溶媒層における粉末の状態を目視にて調べることで導電性粉末の内部電極用ペーストへの適用可否を判断することができる。
すなわち、ほぼ全ての凝集体が微小サイズにまで解砕されており、且つ粗大粒子がほとんど含まれておらず、また、ほぼ全ての導電性粉末の表面に十分に分散剤が吸着した状態であれば、分散剤による導電性粉末の親油化により水層に当初存在していた導電性粉末は浮上して、図1(a)のようにガラス管瓶の水層と親油性溶媒層との間の境界部分に浮遊しやすくなる。一方、超音波による振動処理によっても解砕されないような強い凝集状態にある導電性粉末の凝集体や粗大粒子は、自身に働く重力の大きさのため、あるいはこれら凝集体や粗大粒子の表面を覆うのに必要な分散剤の量の不足のため浮力が足りずに沈降し、図1(b)のようにガラス管瓶の底部に堆積しやすくなる。
上記のような凝集体や粗大粒子を多く含む導電性粉末を用いて積層セラミックコンデンサ内部電極を作製した場合には、凝集体が内部電極層の厚みを超え、内部電極層間のショートの原因となる恐れがあるため、内部電極用ペーストに用いるための導電性粉末としては適さない。すなわち、図1(b)のように、ガラス管瓶の底部に堆積物が多く存在する場合は内部電極用ペーストへの適用不可と判断できる。これに対して、図1(a)のように、ガラス管瓶の底部に実質的に堆積物がなく、導電性粉末は水層と親油性溶媒層との間の境界部分及び親油性溶媒層内に浮遊している場合は内部電極用ペーストへの適用可と判断できる。
サンプリングした導電性粉末が内部電極用ペーストへの適用不可と判断された場合は、サンプリング元の導電性粉末の全ロットに対して分散剤の添加量を再検討したり、強固に結合した凝集体を解砕すべく、内部電極用ペーストの作製時の混練時間を長くしたりする等の対応が必要となる。なお、通常は導電性粉末100質量部に対して添加する分散剤は0.05質量部以上0.4質量部以下が好ましく、0.1質量部以上0.3質量部以下がより好ましい。この量が0.05質量部未満の場合、導電性粉末の粒子表面積を覆うために必要な分散剤量が不足し、有機溶剤との混練時に長時間の解砕処理が必要となる。0.4質量部を超える場合、ペーストの粘度が低下しすぎてしまう他、製造コストを悪化させる。
上記の本発明の実施形態の評価方法で適用可と判断された導電性粉末は、一般的な内部電極用ペーストの製造方法の原料として使用される。すなわち、この内部電極用ペーストの製造方法では、先ず有機バインダーと有機溶剤とを混合して調製した有機ビヒクルに、上記評価工程で適用可と判断された導電性粉末と、セラミック粉末と、分散剤と、グリコールとを添加し、更に必要に応じて公知の添加成分等を添加して分散させることで内部電極用ペーストを調合する工程とからなる。以下、内部電極用ペーストの原料として使用するこれら材料について説明する。
(有機バインダー)
上記の有機ビヒクルの構成要素のうちの一方の有機バインダーは、好適には、溶剤への溶解性・印刷性・燃焼分解性などに優れたエチルセルロース樹脂と、グリーンシートに一般的に使用されているポリビニルブチラール樹脂とからなる混合系が用いられる。内部電極用ペースト中の有機バインダーの含有量は、一般的には導電性粉末の含有量100質量部に対して、有機バインダーの含有量が1質量部以上7質量部以下であることが好ましく、1.5質量部以上6質量部以下であることがより好ましい。また、有機バインダー中のエチルセルロース樹脂とポリビニルブチラール樹脂との配合割合については、一般的には(ポリビニルブチラール樹脂の含有量)/(エチルセルロース樹脂の含有量)の質量比の下限は0.2以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましい。
(有機溶剤)
有機ビヒクルの構成要素のうちのもう一方である有機溶剤は、有機バインダーを溶解したり、ペースト粘度を調製したりする役割を担っており、例えば、ターピネオール、ジヒドロターピネオールなどのテルペン系溶剤、ジヒドロターピニルアセテート、イソボルニルアセテート、イソボルニルプロピネート、イソボルニルブチレート、イソボルニルイソブチレートなどが使用される。また、これらの有機溶剤に加えて、より沸点の低い例えば、トリデカン、ノナン、シクロヘキサンを主成分とする飽和脂肪族系炭化水素溶剤、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどが含まれていてもよい。内部電極用ペーストの調製時の有機溶剤の含有量は、一般的には導電性粉末100質量部に対して有機溶剤を60質量部以上100質量部以下含有させることが好ましく、40質量部以上90質量部以下含有させることがより好ましい。
(セラミック粉末)
セラミック粉末は焼結抑制剤の役割を担っており、例えば、ペロブスカイト型酸化物であるBaTiO等や、これに種々の添加物を添加したもの等が使用される。また、積層セラミックコンデンサのグリーンシートの主成分として使用されるセラミック粉末と同組成又は類似の組成のものが好ましく用いられる。セラミック粉末の平均粒径は、一般的には平均粒径が0.01μm以上0.2μm以下であることが好ましい。内部電極用ペースト中のセラミック粉末の含有量は、一般的には導電性粉末100質量部に対して、3質量部以上25質量部以下となるように添加することが好ましい。
(分散剤)
分散剤は金属粉末の凝集を防止し、分散性を付与する役割を担っており、アニオン系界面活性剤が好適に用いられる。アニオン系界面活性剤としては、カルボキシル基(COOH基)を有するカルボン酸系界面活性剤が好ましく、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、ラウリン酸、リノレン酸などの高級脂肪酸や、グリシンとステアリン酸又はラウリン酸などの高級脂肪酸とのアミド化合物などを挙げることができる。これらの中では、炭素数が16以上22以下のアニオン系界面活性剤が好ましい。なお、アニオン系界面活性剤は、1種類だけでもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、アニオン系界面活性剤は、ジェミニ型界面活性剤を用いてもよい。カルボン酸系界面活性剤は、カルボキシル基以外に、ヒドロキシル基、カルボニル基、アシル基、アミノ基等の官能基を有していてもよく、また、エーテル結合、アミド結合等の構造を備えてもよい。
アニオン系界面活性剤の含有量は、例えば、導電性粉末100質量部に対して、0.05質量部以上0.4質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上0.3質量部以下であることがより好ましい。この含有量が0.05質量部未満である場合、ニッケル粉の分散性が不十分となり、乾燥膜密度が低下することがある。一方、この含有量が0.4質量部以下であれば、十分な分散性を得ることができるので、それ以上添加する必要はない。
内部電極用ペーストに含有させる分散剤には、アニオン系界面活性剤以外のものを用いてもよい。このような分散剤としては特に限定はないが、導電性粉末等を有機溶剤中に微細化した状態で安定的に分散できる分散剤が好ましく、例えば、カチオン系界面活性剤等を好適に用いることができる。また、ニッケルを含む導電性粉末の表面は酸化等により表面が汚染されおり、化学的性質が一様ではないため、内部電極用ペーストに含有させる分散剤にはアニオン系界面活性剤及びカチオン系界面活性剤の両方を用いてもよい。この場合においても、アニオン系界面活性剤及びカチオン系界面活性剤の各々は、1種類だけでもよいし、2種類以上を併用してもよい。
分散剤の添加量には特に限定はなく、内部電極用ペーストに要求される保存安定性や、導電性粉末等の無機物粒子の分散性の程度、分散剤の種類等に応じて適宜定められるが、一般的には内部電極用ペーストに含まれる無機物粒子(導電性粉末及びセラミック粉末の合計)の含有量を100質量部とした場合、分散剤の添加量は0.01質量部以上10質量部以下とすることが好ましく、0.20質量部以上7質量部以下とすることがより好ましい。このように分散剤の添加量を0.01質量部以上にすることで、導電性粉末やセラミック粉末などの無機粒子を十分に分散することができるため好ましい。一方、分散剤の添加量が10質量部を超えると、乾燥工程において内部電極用ペーストの乾燥性が低下し、内部電極用ペーストの乾燥膜の密度(乾燥膜密度)が低下することがある。
(グリコール)
グリコールは、積層セラミックコンデンサを作製した場合の内部電極層と誘電体層との密着性を向上させる働きを有しており、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びテトラエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種が使用される。内部電極用ペーストに含有させるグリコールは、上記のアニオン系界面活性剤が有するカルボキシル基(COOH基)1molに対して、0.5molを超え3mol未満の範囲内で含有されるのが好ましい。また、内部電極用ペーストに含有させるグリコールは、導電性粉末、セラミック粉末、有機バインダー、及び有機溶剤の合計100質量部に対して0.5質量部以上5質量部以下が好ましい。
(MLCCの製造方法)
上記の内部電極用ペーストを原料として作製するMLCCの製造方法では、先ず印刷工程において誘電体粉末とバインダーとからなるグリーンシートに所定のパターンが形成されるように該内部電極用ペーストを塗布し、乾燥工程において該塗布した内部電極用ペーストを乾燥処理することにより有機溶剤を除去し、得られた乾燥体を圧着工程において所定の枚数積み重ねて圧着し、所定のサイズの小片に切断する。得られた小片を脱バインダー工程において熱処理してバインダーを除去した後、焼成工程において内部電極と誘電体とを還元性雰囲気で同時焼成し、これに外部電極を形成してめっきを施すことでMLCCが作製される。上記の内部電極用ペーストの製造方法の原料成分の各々について以下具体的に説明する。
(参考例)
先ず、内容積50mLのガラス管瓶を3本用意し、1本目のガラス管瓶に分散剤として、分子構造中に酸系の官能基を持つステアリン酸(関東化学株式会社製)0.01gと、ヘキサン溶液10gとを混ぜ合わせ、1,000倍希釈分散剤(以下、希釈分散剤Aとする)を調製した。次に、2本目のガラス管瓶に、上記にて調製した希釈分散剤A1gと、ヘキサン溶液10gとを混ぜ合わせ、10,000倍希釈分散剤(以下、希釈分散剤Bとする)を調製した。最後に、3本目のガラス管瓶に、上記にて調製した希釈分散剤B1gと、ヘキサン溶液10gとを混ぜ合わせ、100,000倍希釈分散剤(以下、希釈分散剤Cとする)を調製した。
次に、50mLガラス管瓶を別途10本用意し、それらの各々にターピネオールを30mL入れ、更に上記にて調製した希釈分散剤Cを表1(ニッケル粉末100質量部に対する質量部)の通り添加すると共に、湿式製法にて作製されたニッケル粉末を0.01gずつ添加した。このようにして調製した試料1~10の各々に対して、上記ニッケル粉末を添加した直後に1分間かけて手で上下方向に振とうさせることで混合し、更に超音波発振器を用いて5分間かけて振動を与えた。その後、分散剤のニッケル粉末への吸着を十分に行わせると共にガラス管瓶内の状態が定常化するように1時間放置した。
Figure 0007200622000001
そして、別途用意した10本の30mLガラスセルに、それぞれ試料1~10から規定量を採取し、濃厚系粒子径アナライザー(大塚電子製 FPAR-1000)を用いた、動的光散乱法による粒度分布測定を行った。その結果、図2のグラフに示す通り、希釈分散剤Cの添加量を増やしていくにしたがい、粒径1000nm付近の粒子が分散効果により減少した。このことから、分散剤の添加量による解砕された導電性粉末の再凝集の程度に差が生じ、結果的に粒度分布のピークに差異が生じるので導電性粉末に対する分散剤の好適な添加量を簡便に定めることができる。
(実施例1)
<評価試料の作製>
内容積50mLのガラス管瓶に、純水10gと親油性溶媒としてヘキサン溶液10gとをそれぞれ秤量して装入した。この水-ヘキサン混合液に、上記参考例で調製した希釈分散剤Cを1.2g添加し、更に湿式製法にて作製したロットAのニッケル粉末を0.01g添加した。この場合、希釈分散剤Cのニッケル粉末100質量部に対する分散剤の添加量は0.12質量部となる。上記のニッケル粉末を添加した直後に、該ガラス管瓶を手で1分間上下方向に振とうさせて混合し、続けて超音波発振器(アズワン株式会社製 VS-100-III)を用いて28kHzの超音波で5分間振動させた。その後、希釈分散剤Cをニッケル粉末に十分に吸着させると共に、ヘキサン層と水層の2層に分離させるために1時間静置した。
<内部電極ペーストへの適用可能性の評価>
上記の1時間静置後にガラス管瓶内部を目視観察したところ、図1(a)に示すように、ニッケル粉末は、ヘキサン層中には存在していることが認められるものの水層中にはほとんど存在しておらず、一部ヘキサン層と水層の境界部に浮遊していた。この結果から、ロットAのニッケル粉末は凝集の程度が弱く、且つ粗大粒子をほとんど含まないことが分かり、内部電極用ペーストに適したニッケル粉末であると判断することができた。なお、この目視観察までの一連の評価に要した時間は2時間であった。
(実施例2)
ロットAに代えてロットBのニッケル粉末を用いた以外は上記実施例1と同様にして評価試料を調製し、内部電極ペーストへの適用性の可否について評価した。その結果、ガラス管瓶内は図1(b)に示すように、一部のニッケル粉末がガラス管瓶の底部に沈降していた。そこで、ニッケル粉末100質量部に対する希釈分散剤Cの添加量を0.12質量部に代えて0.15質量部にまで増やした評価試料を別途調製して上記と同様に評価したところ、ニッケル粉末はガラス管瓶の底部にはほとんど沈降しなくなった。この結果から、ロットBのニッケル粉末は通常よりは過剰の希釈分散剤を必要とするため、凝集の程度の強い凝集体を多く含有しているが、希釈分散剤量を増やすことで粗大粒子をほとんど含まないことが分かり、内部電極用ペーストに適したニッケル粉末であると判断することができた。なお、実施例2では評価試料を再度調製したので評価に7時間を要した。
(実施例3)
ロットAに代えてロットCのニッケル粉末を用いた以外は上記実施例1と同様にして評価試料を調製し、内部電極ペーストへの適用性の可否について評価した。その結果、ガラス管瓶内は図1(b)に示すように、一部のニッケル粉末がガラス管瓶の底部に沈降していた。そこで、ニッケル粉末100質量部に対する希釈分散剤Cの添加量を0.12質量部に代えて0.5質量部にまで増やした評価試料を別途調製して上記と同様に評価したところ、ニッケル粉末はガラス管瓶の底部にはほとんど沈降しなくなった。この結果から、ロットCのニッケル粉末は通常よりは過剰の希釈分散剤を必要とするため、凝集の程度の強い凝集体を多く含有しているが、希釈分散剤量を増やすことで粗大粒子をほとんど含まないことが分かり、内部電極用ペーストに適したニッケル粉末であると判断することができた。なお、実施例2では評価試料を再度調製したので評価に7時間を要した。
(比較例)
ニッケル粉末の内部電極ペーストへの適用性の可否についての評価を、走査型電子顕微鏡(SEM)による粒子観察で行うべく、ロットCからサンプリングしたニッケル粉末の粒子径を測定して粒度分布を求めたところ、得られた粒度分布は100~300nmであった。この結果から、ロットCのニッケル粉末は内部電極用ペーストに適したニッケル粉末であると判断することはできたが、その評価結果を得るには3日間を要した。

Claims (3)

  1. 水と、水に対する溶解度が1%以下である比重0.999(20/4℃)以下の親油性溶媒とが質量基準で1:1の割合で装入されたガラス管瓶内に導電性粉末及びアニオン系界面活性剤からなる分散剤だけを添加し、振とうによる混合及び超音波の振動による解砕を行なった後に静置させて前記水と親油性溶媒とを2層に分離させたときの該導電性粉末の状態に基づいて導電性粉末の内部電極用ペーストへの適用可否を判断することを特徴とする導電性粉末の評価方法。
  2. 前記ガラス管瓶の底部に導電性粉末の沈降物が実質的に堆積していない場合は、該導電性粉末は内部電極用ペーストへの適用可であると判断することを特徴とする、請求項に記載の導電性粉末の評価方法。
  3. 前記分散剤が分子構造中に酸系の官能基を有するアニオン系界面活性剤であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の導電性粉末の評価方法。
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