以下、添付図面を参照しながら本発明の一実施形態に係る成膜装置について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
まず、図1及び図2を参照して、本発明の実施形態に係る成膜装置の構成について説明する。図1及び図2は、本実施形態に係る成膜装置の構成を示す概略断面図である。図1は、成膜処理モードにおける動作状態を示し、図2は、負イオン生成モードにおける動作状態を示している。なお、成膜処理モード及び負イオン生成モードの詳細については後述する。
図1及び図2に示すように、本実施形態の成膜装置1は、いわゆるイオンプレーティング法に用いられるイオンプレーティング装置である。なお、説明の便宜上、図1及び図2には、XYZ座標系を示す。Y軸方向は、後述する基板が搬送される方向である。Z軸方向は、基板と後述するハース機構とが対向する位置である。X軸方向は、Y軸方向とZ軸方向とに直交する方向である。
成膜装置1は、基板11の板厚方向が略鉛直方向となるように基板11が真空チャンバー10内に配置されて搬送されるいわゆる横型の成膜装置であってもよい。この場合には、X軸及びY軸方向は水平方向であり、Z軸方向は鉛直方向且つ板厚方向となる。なお、成膜装置1は、基板11の板厚方向が水平方向(図1及び図2ではZ軸方向)となるように、基板11を直立又は直立させた状態から傾斜した状態で、基板11が真空チャンバー10内に配置されて搬送される、いわゆる縦型の成膜装置であってもよい。この場合には、Z軸方向は水平方向且つ基板11の板厚方向であり、Y軸方向は水平方向であり、X軸方向は鉛直方向となる。本発明の一実施形態に係る成膜装置は、以下、横型の成膜装置を例として説明する。
成膜装置1は、真空チャンバー10、搬送機構3、成膜部14、負イオン生成部24、キャリアガス供給部40A、酸素ガス供給部40B、電圧印加部90、及び制御部50を備えている。
真空チャンバー10は、基板11を収納し成膜処理を行うための部材である。真空チャンバー10は、成膜材料Maの膜が形成される基板11を搬送するための搬送室10aと、成膜材料Maを拡散させる成膜室10bと、プラズマガン7からビーム状に照射されるプラズマPを真空チャンバー10に受け入れるプラズマ口10cとを有している。搬送室10a、成膜室10b、及びプラズマ口10cは互いに連通している。搬送室10aは、所定の搬送方向(図中の矢印A)に(Y軸に)沿って設定されている。また、真空チャンバー10は、導電性の材料からなり接地電位に接続されている。
成膜室10bは、壁部10Wとして、搬送方向(矢印A)に沿った一対の側壁と、搬送方向(矢印A)と交差する方向(Z軸方向)に沿った一対の側壁10h,10iと、X軸方向と交差して配置された底面壁10jと、を有する。
搬送機構3は、成膜材料Maと対向した状態で基板11を保持する基板保持部材16を搬送方向(矢印A)に搬送する。例えば基板保持部材16は、基板11の外周縁を保持する枠体である。搬送機構3は、搬送室10a内に設置された複数の搬送ローラ15によって構成されている。搬送ローラ15は、搬送方向(矢印A)に沿って等間隔に配置され、基板保持部材16を支持しつつ搬送方向(矢印A)に搬送する。なお、基板11は、例えばガラス基板やプラスチック基板などの板状部材が用いられる。
続いて、成膜部14の構成について詳細に説明する。成膜部14は、イオンプレーティング法により成膜材料Maの粒子を基板11に付着させる。成膜部14は、プラズマガン7と、ステアリングコイル5と、ハース機構2と、輪ハース6とを有している。
プラズマガン7は、例えば圧力勾配型のプラズマガンであり、その本体部分が成膜室10bの側壁に設けられたプラズマ口10cを介して成膜室10bに接続されている。プラズマガン7は、真空チャンバー10内でプラズマPを生成する。プラズマガン7において生成されたプラズマPは、プラズマ口10cから成膜室10b内へビーム状に出射される。これにより、成膜室10b内にプラズマPが生成される。
プラズマガン7は、陰極60により一端が閉塞されている。陰極60とプラズマ口10cとの間には、第1の中間電極(グリッド)61と、第2の中間電極(グリッド)62とが同心的に配置されている。第1の中間電極61内にはプラズマPを収束するための環状永久磁石61aが内蔵されている。第2の中間電極62内にもプラズマPを収束するため電磁石コイル62aが内蔵されている。なお、プラズマガン7は、後述する負イオン生成部24としての機能も有する。この詳細については、負イオン生成部24の説明において後述する。
ステアリングコイル5は、プラズマガンが装着されたプラズマ口10cの周囲に設けられている。ステアリングコイル5は、プラズマPを成膜室10b内に導く。ステアリングコイル5は、ステアリングコイル用の電源(不図示)により励磁される。
ハース機構2は、成膜材料Maを保持する。ハース機構2は、真空チャンバー10の成膜室10b内に設けられ、搬送機構3から見てX軸方向の負方向に配置されている。ハース機構2は、プラズマガン7から出射されたプラズマPを成膜材料Maに導く主陽極又はプラズマガン7から出射されたプラズマPが導かれる主陽極である主ハース17を有している。
主ハース17は、成膜材料Maが充填されたZ軸方向の正方向に延びた筒状の充填部17aと、充填部17aから突出したフランジ部17bとを有している。主ハース17は、真空チャンバー10が有する接地電位に対して正電位に保たれているため、主ハース17は放電における陽極となりプラズマPを吸引する。このプラズマPが入射する主ハース17の充填部17aには、成膜材料Maを充填するための貫通孔17cが形成されている。そして、成膜材料Maの先端部分が、この貫通孔17cの一端において成膜室10bに露出している。
成膜材料Maとして、ITO(酸化インジウムスズ:Indium Tin Oxide)の透明導電材料が用いられる。成膜材料Maが導電性物質からなるため、主ハース17にプラズマPが照射されると、プラズマPが成膜材料Maに直接入射し、成膜材料Maの先端部分が加熱されて蒸発又は昇華し、プラズマPによりイオン化された成膜材料粒子Mbが成膜室10b内に拡散する。成膜室10b内に拡散した成膜材料粒子Mbは、成膜室10bのZ軸正方向へ移動し、搬送室10a内において基板11の表面に付着する。なお、成膜材料Maは、所定長さの円柱形状に成形された固体物であり、一度に複数の成膜材料Maがハース機構2に充填される。そして、最先端側の成膜材料Maの先端部分が主ハース17の上端との所定の位置関係を保つように、成膜材料Maの消費に応じて、成膜材料Maがハース機構2のZ負方向側から順次押し出される。
輪ハース6は、プラズマPを誘導するための電磁石を有する補助陽極である。輪ハース6は、成膜材料Maを保持する主ハース17の充填部17aの周囲に配置されている。輪ハース6は、環状のコイル9と環状の永久磁石部20と環状の容器12とを有し、コイル9及び永久磁石部20は容器12に収容されている。本実施形態では、搬送機構3から見てZ負方向にコイル9、永久磁石部20の順に設置されているが、Z負方向に永久磁石部20、コイル9の順に設置されていてもよい。輪ハース6は、コイル9に流れる電流の大きさに応じて、成膜材料Maに入射するプラズマPの向き、または、主ハース17に入射するプラズマPの向きを制御する。
キャリアガス供給部40Aは、真空チャンバー10内にキャリアガスを供給する。キャリアガスに含まれる物質として、例えば、アルゴン、ヘリウムなどの希ガスが採用される。酸素ガス供給部40Bは、真空チャンバー10内に酸素ガスを供給する。キャリアガス供給部40A及び酸素ガス供給部40Bは、真空チャンバー10の外部に配置されており、成膜室10bの側壁(例えば、側壁10h)に設けられたガス供給口41を通し、真空チャンバー10内へ原料ガスを供給する。
続いて、負イオン生成部24の構成について詳細に説明する。負イオン生成部24は、プラズマガン7と、キャリアガス供給部40Aと、酸素ガス供給部40Bと、回路部34とを有している。また、制御部50の一部の構成要素も負イオン生成部24として機能する。なお、制御部50及び回路部34に含まれる一部の機能は、前述の成膜部14にも属する。
プラズマガン7は、前述の成膜部14が有するプラズマガン7と同様のものが用いられる。すなわち、本実施形態において、成膜部14のプラズマガン7は、負イオン生成部24のプラズマガン7と兼用されている。プラズマガン7は、成膜部14として機能すると共に、負イオン生成部24としても機能する。なお、成膜部14と負イオン生成部24とで、互いに異なる別箇のプラズマガンを有していてもよい。
プラズマガン7は、成膜室10b内において間欠的にプラズマPを生成する。具体的には、プラズマガン7は、後述の制御部50によって成膜室10b内において間欠的にプラズマPを生成するように制御されている。この制御については、後述の制御部50の説明において詳述する。
キャリアガス供給部40A及び酸素ガス供給部40Bは、前述のキャリアガス供給部40A及び酸素ガス供給部40Bと同様のものが用いられる。ガス供給口41の位置は、成膜室10bと搬送室10aとの境界付近の位置が好ましい。この場合、キャリアガス供給部40Aからのキャリアガス及び酸素ガス供給部40Bからの酸素ガスを、成膜室10bと搬送室10aとの境界付近に供給することができるので、当該境界付近において後述する負イオンの生成が行われる。よって、生成した負イオンを、搬送室10aにおける基板11に好適に付着させることができる。なお、ガス供給口41の位置は、成膜室10bと搬送室10aとの境界付近に限られない。
回路部34は、可変電源80と、第1の配線71と、第2の配線72と、抵抗器R1~R4と、短絡スイッチSW1,SW2と、を有している。
可変電源80は、接地電位にある真空チャンバー10を挟んで、負電圧をプラズマガン7の陰極60に、正電圧をハース機構2の主ハース17に印加する。これにより、可変電源80は、プラズマガン7の陰極60とハース機構2の主ハース17との間に電位差を発生させる。
第1の配線71は、プラズマガン7の陰極60を、可変電源80の負電位側と電気的に接続している。第2の配線72は、ハース機構2の主ハース17(陽極)を、可変電源80の正電位側と電気的に接続している。
抵抗器R1は、一端がプラズマガン7の第1の中間電極61と電気的に接続されていると共に、他端が第2の配線72を介して可変電源80と電気的に接続されている。すなわち、抵抗器R1は、第1の中間電極61と可変電源80との間において直列接続されている。
抵抗器R2は、一端がプラズマガン7の第2の中間電極62と電気的に接続されていると共に、他端が第2の配線72を介して可変電源80と電気的に接続されている。すなわち、抵抗器R2は、第2の中間電極62と可変電源80との間において直列接続されている。
抵抗器R3は、一端が成膜室10bの壁部10Wと電気的に接続されていると共に、他端が第2の配線72を介して可変電源80と電気的に接続されている。すなわち、抵抗器R3は、成膜室10bの壁部10Wと可変電源80との間において直列接続されている。
抵抗器R4は、一端が輪ハース6と電気的に接続されていると共に、他端が第2の配線72を介して可変電源80と電気的に接続されている。すなわち、抵抗器R4は、輪ハース6と可変電源80との間において直列接続されている。
短絡スイッチSW1,SW2は、それぞれ前述の制御部50からの指令信号を受信することにより、ON/OFF状態に切り替えられる切替部である。
短絡スイッチSW1は、抵抗器R2に並列接続されている。短絡スイッチSW1は、成膜処理モードであるか負イオンモードであるかに応じて、制御部50によってON/OFF状態が切り替えられる。ここで、成膜処理モードとは、真空チャンバー10内で基板11に対して成膜処理を行うモードである。負イオン生成モードは、真空チャンバー10内で基板11に形成された膜の表面に付着させるための負イオンの生成を行うモードである。短絡スイッチSW1は、成膜処理モードにおいてはOFF状態とされる。これにより、成膜処理モードにおいては、第2の中間電極62と可変電源80とが抵抗器R2を介して互いに電気的に接続されるので、第2の中間電極62と可変電源80との間には電流が流れにくい。その結果、プラズマガン7からのプラズマPが真空チャンバー10内に出射され、成膜材料Maに入射する(図1参照)。なお、プラズマガン7からのプラズマPを真空チャンバー10内に出射する場合、第2の中間電極62への電流を流れにくくする事に代えて、第1の中間電極61への電流を流れにくくしてもよい。この場合、短絡スイッチSW1は、第2の中間電極62側に代えて、第1の中間電極61側に接続される。
一方、短絡スイッチSW1は、負イオン生成モードにおいては、プラズマガン7からのプラズマPを真空チャンバー10内で間欠的に生成するため、制御部50によってON/OFF状態が所定間隔で切り替えられる。短絡スイッチSW1がON状態に切り替えられると、第2の中間電極62と可変電源80との間の電気的な接続が短絡するので、第2の中間電極62と可変電源80との間に電流が流れる。すなわち、プラズマガン7に短絡電流が流れる。その結果、プラズマガン7からのプラズマPが真空チャンバー10内に出射されなくなる。
短絡スイッチSW1がOFF状態に切り替えられると、第2の中間電極62と可変電源80とが抵抗器R2を介して互いに電気的に接続されるので、第2の中間電極62と可変電源80との間には電流が流れにくい。その結果、プラズマガン7からのプラズマPが真空チャンバー10内に出射される。このように、短絡スイッチSW1のON/OFF状態が制御部50によって所定間隔で切り替えられることにより、プラズマガン7からのプラズマPが真空チャンバー10内において間欠的に生成される。すなわち、短絡スイッチSW1は、真空チャンバー10内へのプラズマPの供給と遮断とを切り替える切替部である。
短絡スイッチSW2は、抵抗器R4に並列接続されている。短絡スイッチSW2は、例えば成膜処理モードになる前の基板11の搬送前の状態であるスタンバイモードであるか成膜処理モードであるかに応じて、制御部50によってON/OFF状態が切り替えられる。短絡スイッチSW2は、スタンバイモードではON状態とされる。これにより、輪ハース6と可変電源80との間の電気的な接続が短絡するので、主ハース17よりも輪ハース6に電流を流しやすくなり、成膜材料Maの無駄な消費を防ぐことができる。
一方、短絡スイッチSW2は、成膜処理モードではOFF状態とされる。これにより、輪ハース6と可変電源80が抵抗器R4を介して電気的に接続されるので、輪ハース6よりも主ハース17に電流を流しやすくなり、プラズマPの出射方向を好適に成膜材料Maに向けることができる。なお、短絡スイッチSW2は、負イオン生成モードではON状態又はOFF状態のいずれの状態とされてもよい。
電圧印加部90は、成膜後の基板(対象物)11に正の電圧を印加可能である。電圧印加部90は、バイアス回路35と、トロリ線18と、を備える。
バイアス回路35は、成膜後の基板11に正のバイアス電圧を印加するための回路である。バイアス回路35は、基板11に正のバイアス電圧(以下、単に「バイアス電圧」ともいう)を印加するバイアス電源27と、バイアス電源27とトロリ線18とを電気的に接続する第3の配線73と、第3の配線73に設けられた短絡スイッチSW3とを有している。バイアス電源27は、バイアス電圧として、周期的に増減する矩形波である電圧信号(周期的電気信号)を印加する。バイアス電源27は、印加するバイアス電圧の周波数を制御部50の制御によって変更可能に構成されている。第3の配線73は、一端がバイアス電源27の正電位側に接続されていると共に、他端がトロリ線18に接続されている。これにより、第3の配線73は、トロリ線18とバイアス電源27とを電気的に接続する。
短絡スイッチSW3は、第3の配線73によって、トロリ線18とバイアス電源27の正電位側との間において直列に接続されている。短絡スイッチSW3は、トロリ線18へのバイアス電圧の印加の有無を切り替える切替部である。短絡スイッチSW3は、制御部50によってそのON/OFF状態が切り替えられる。短絡スイッチSW3は、負イオン生成モードにおける所定のタイミングでON状態とされる。短絡スイッチSW3がON状態とされると、トロリ線18とバイアス電源27の正電位側とが互いに電気的に接続され、トロリ線18にバイアス電圧が印加される。
一方、短絡スイッチSW3は、成膜処理モードのとき、及び、負イオン生成モードにおける所定のタイミングにおいてOFF状態とされる。短絡スイッチSW3がOFF状態とされると、トロリ線18とバイアス電源27とが互いに電気的に切断され、トロリ線18にはバイアス電圧が印加されない。なお、バイアス電圧を印加するタイミングの詳細は、後述する。
トロリ線18は、基板保持部材16への給電を行う架線である。トロリ線18は、搬送室10a内に搬送方向(矢印A)に延伸して設けられている。トロリ線18は、基板保持部材16に設けられた給電ブラシ42と接触することで、給電ブラシ42を通して基板保持部材16への給電を行う。トロリ線18は、例えばステンレス製の針金等により構成されている。
制御部50は、成膜装置1全体を制御する装置であり、CPU、RAM、ROM及び入出力インターフェース等から構成されている。制御部50は、真空チャンバー10の外部に配置されている。また、制御部50は、成膜処理モードと負イオン生成モードとを切り替えるモード切替部51と、プラズマガン7によるプラズマPの生成を制御するプラズマ制御部52と、電圧印加部90による電圧の印加を制御する電圧制御部53と、を備えている。
制御部50のモード切替部51が成膜モードに設定しているとき、制御部50は、キャリアガス供給部40A及び酸素ガス供給部40Bを制御して、成膜室10b内にキャリアガス及び酸素ガスを供給する。続いて、制御部50のプラズマ制御部52は、プラズマガン7からのプラズマPを成膜室10b内で間欠的に生成するようにプラズマガン7を制御する。制御部50は、プラズマPが成膜材料Maに導かれるように短絡スイッチSW2がOFFとなるように制御する。
制御部50のモード切替部51が負イオン生成モードに設定しているとき、制御部50は、キャリアガス供給部40A及び酸素ガス供給部40Bを制御して、成膜室10b内にキャリアガス及び酸素ガスを供給する。続いて、制御部50のプラズマ制御部52は、プラズマガン7からのプラズマPを成膜室10b内で間欠的に生成するようにプラズマガン7を制御する。例えば、制御部50によって、短絡スイッチSW1のON/OFF状態が所定間隔で切り替えられることにより、プラズマガン7からのプラズマPが成膜室10b内で間欠的に生成される。
短絡スイッチSW1がON状態とされているときは、プラズマガン7からのプラズマPが成膜室10b内に出射されないので成膜室10b内におけるプラズマPの電子温度が急激に低下する。このため、成膜室10b内に供給された酸素ガスの粒子に、プラズマPの電子が付着し易くなる。これにより、成膜室10b内には、負イオンが効率的に生成される。
制御部50は、プラズマガン7のプラズマPの生成を停止した後、電圧印加部90による電圧の印加を制御する。制御部50は、所定のタイミングにて、電圧印加部90による電圧の印加を開始する。なお、電圧印加部90による電圧の印加を開始するタイミングは、制御部50にて予め設定される。
次に、図3に示すフロー図、及び図4に示す膜構造体の製造手順を示す概略構成図を参照して、ITO膜(酸化インジウム膜)を有する膜構造体の製造方法について説明する。また、図3に示す製造方法を実行する膜構造体の製造装置200を図13に示す。なお、当該製造方法は図3に限定されるものではない。
図13に示すように、膜構造体の製造装置200は、成膜部201と、負イオン照射部202と、アニール処理部203と、を備える。成膜部201は、基板11上にITO膜を成膜する。負イオン照射部202は、ITO膜へ酸素負イオンを照射する。アニール処理部203は、酸素負イオンを照射した後の基板11をアニール処理する。成膜部201及び負イオン照射部202は、前述の成膜装置1によって構成されてよい。アニール処理部203は、膜構造体100全体を収容して加熱する炉などによって構成される。
まず、基板11上にITO膜を成膜する成膜工程S10が実行される。成膜工程S10では、図4(a)に示すように、基板11にITOの成膜材料粒子Mbを付着させる。これにより、図4(b)に示すように、基板11上にITO膜101が形成されることで、膜構造体100が製造される。成膜工程S10では、制御部50のモード切替部51が、成膜装置1を成膜モードに切り替えることで、前述のような成膜を行う。このとき、制御部50は、キャリアガスの流量及び酸素ガスの流量の合計に対する酸素ガスの流量比が所定の条件となるように、キャリアガス供給部40A及び酸素ガス供給部40Bを制御する。詳細な条件については後述する。なお、ITO膜101は、非晶質の膜であってよく、この場合、加熱を行うことなく、室温にて成膜を行う。あるいは、ITO膜101は多結晶の膜であってよく、この場合、高温条件で成膜を行う。例えば、基板11をあらかじめヒータなどで加熱(例えば200℃)しておいた状態で、成膜を行う。
次に、ITO膜101へ酸素負イオン102を照射する負イオン照射工程S20が実行される。負イオン照射工程S20では、図4(b)に示すように、基板11上のITO膜101に対して酸素負イオン102を照射する。負イオン照射工程S20では、制御部50のモード切替部51が、成膜装置1を負イオン照射モードに切り替えることで、前述のような負イオン照射を行う。
次に、酸素負イオン102を照射した後の膜構造体100をアニール処理するアニール処理工程S30が実行される。アニール処理工程S30では、膜構造体100全体をアニール処理部203の炉などに入れることにより、加熱することでアニール処理を行う。なお、アニール処理工程S30は省略されてもよい。
次に、図5~図12を参照して、膜構造体100の製造方法における各種製造条件について説明する。なお、以降で説明する条件は、全て同時に満たしている必要はなく、いずれかの条件を満たしていればよいものである。
非晶質のITO膜の成膜時は、制御部50は、キャリアガスの流量及び酸素ガスの流量の合計に対する酸素ガスの流量比が0.15以上となるように、キャリアガス供給部40A及び酸素ガス供給部40Bを制御することが好ましい。流量比は、「酸素ガスの流量/(酸素ガスの流量+キャリアガスの流量)」で示される。これにより、ITO膜の移動度を高めることができる。移動度とは、固体の物質中での電子の移動のしやすさを示す値である。なお、ここでのキャリアガスの流量とは、キャリアの物質(例えばアルゴン)が100%のガスの流量であり、酸素ガスとは、酸素が100%のガスの流量である。酸素ガスの流量は、キャリアガスの流量それに合わせて、所望の流量比となるように設定される。
例えば、プラズマガン7に流すアルゴンは最低流量を30sccmとされる。このとき,真空チャンバー10に入れるアルゴンはプラズマガン7からでもガス供給口41から供給してもよい。例えば、アルゴンの総流量が100sccmの場合、プラズマガン7から40sccm、ガス供給口41から60sccm流し、あるいは、プラズマガン7から100sccm流してもよい。装置のポンプ毎に流量は変わるが、例えば、真空チャンバー10内の圧力が0.2~0.4Paとなるように、プラズマガン7及びガス供給口41から入れるアルゴンとガス供給口41から入れる酸素の量を導入する。例えば、総流量が100sccmで圧力が0.2~0.4Paとなる場合(排気量依存)、酸素流量比が0.15以上となるには酸素が15sccm~60sccm、アルゴンが85sccm~40sccmとなってよい。また、総流量が200sccmで圧力が0.2~0.4Paとなる場合(排気量依存)、酸素が30~160sccm、アルゴンが170~40sccmとなってよい。
当該条件の効果について図5を参照して説明する。図5は、酸素ガスの流量比とITO膜の各種電気特性との関係を示すグラフである。図5の横軸は酸素ガスの流量比を示す。最上段のグラフの縦軸はITO膜の抵抗率を示す。中段のグラフの縦軸はITO膜のキャリア密度を示す。最下段のグラフの縦軸はITO膜の移動度を示す。このときの製造条件は、以下の通りである。なお、「流量比=0」のときのキャリアガスの流量は、例えばプラズマガン7から40sccm、ガス供給口41から25sccmの合計65sccmに設定されており、圧力は0.2~0.4Paである。なお、以降の実験においても、特に言及のない条件であって、図4に示す実験と同趣旨ものについては、図4の実験と同様に設定される。
・ITO膜:非晶質
・ITO膜の膜厚:50nm
・基板の材料:無アルカリガラス
・プラズマの条件:主ハース電流150A,圧力0.2~0.4Pa
・酸素負イオン照射:なし
・アニール処理(成膜後の大気アニール):なし
図5に示すように、酸素ガスの流量比が0.13以上で移動度が20を超えることが確認できる。従って、少なくとも酸素ガスの流量比が0.15以上であれば、十分な移動度を得ることができることが理解される。
非晶質の膜か多結晶の膜であるかに関わらず、制御部50は、ITO膜を成膜した後、酸素負イオンを照射するように制御を行うことが好ましい。これにより、ITO膜の移動度を高めることができる。
図6~図8を参照して、非晶質のITO膜に酸素負イオンを照射したときの効果について説明する。図6は、酸素ガスの流量比を0.24として非晶質のITO膜の成膜を行った場合の、バイアス電圧とITO膜の各種電気特性との関係を示すグラフである。図6の横軸はバイアス電圧を示す。なお、バイアス電圧0Vの場合は、負イオンの照射がなされていないことを示す。また、バイアス電圧が増加するに従って、ITO膜に照射される負イオンは増加する。最上段のグラフの縦軸はITO膜の抵抗率を示す。中段のグラフの縦軸はITO膜のキャリア密度を示す。最下段のグラフの縦軸はITO膜の移動度を示す。また、実線は、負イオン照射後のアニール処理がなされていない状態のデータを示す。破線は、負イオン照射後にアニール処理を行った後のデータを示す。
図6に示す実験の酸素負イオン照射の条件(バイアス電圧以外の条件)を以下に示す。アニール処理が行われる場合、大気中で200℃の温度にて、乾燥炉を用いた加熱方法によって膜構造体を加熱することによって行われる。酸素雰囲気の真空アニール炉でも同様な効果が得られる。なお、以降の実験においても、特に言及のない限り、負イオン照射及びアニール処理の条件は、図6の実験と同様の条件が設定される。
・アルゴンガス及び酸素ガスの総流量:180sccm、圧力0.2~0.4Paになる流量
・酸素ガスの流量比:60~80%程度;プラズマガンからのアルゴンを40sccm以上とし、酸素比は多いほどよい。
・プラズマON/OFFの間欠周期:60Hz
・プラズマの条件:放電電流としてカソードで12~35A程度であり、20~35Aでもよい。
図6に示すように、アニール処理の前では、バイアス電圧によらず、抵抗率、キャリア密度、及び移動度は概ね一定となる。アニール処理後は、抵抗率及び移動度は全体的に下がり、キャリア密度は全体的に上がる。ここで、負イオン照射を行わない場合(バイアス電圧=0V)に比して、負イオン照射を行った場合は、アニール処理による移動度の低下量が少なくなっている。すなわち、負イオン照射を行うことで、アニール処理後の移動度は、負イオン照射なしの場合に比して高くなることが確認される。このことより、制御部50は、負イオン照射を行うように制御することで、非晶質のITO膜の移動度のアニール処理の低下を抑制することができる。なお、バイアス電圧が高すぎるとITO膜にダメージが与えられる可能性があるため、バイアス電圧は70V以下とすることが好ましい。
図7は、非晶質のITO膜に対する負イオン照射時のバイアス電圧を変更した場合の、各波長と吸収係数との関係を示すグラフである。図7(a)は成膜時の酸素ガスの流量比を0.13とした場合のグラフである。図7(b)は成膜時の酸素ガスの流量比を0.24とした場合のグラフである。図7(a),(b)では、負イオン照射なし、バイアス電圧45Vでの負イオン照射、バイアス電圧100Vでの負イオン照射、及びバイアス電圧150Vでの負イオン照射の四つのパターンについて、アニール処理ありの場合と、アニール処理なしの場合のグラフが示されている。
図7(a),(b)より、ITO膜によって差異は生じるものの、負イオン照射の有無、及び負イオン照射のバイアス電圧によって、各波長での吸収係数が変化する点が確認できる。従って、制御部50は、ITO膜を所望の光学特性とするために、負イオン照射の有無、及びバイアス電圧を制御することが可能である。アニール処理を行った場合、総じて吸収係数が低下すること、すなわち透明度が増加することが確認できる。図6の結果より、アニール処理によりキャリア密度が増加したことが確認できるため、赤外透過率も変化したと考えられる。
図7(a)より、「アニール処理なし」であって、「バイアス電圧45V」での負イオン照射の条件では、「負イオン照射なし」の条件に比べて、吸収係数が低下、すなわち透明度が増加していることが確認できる。また、「アニール処理あり」の場合、負イオン照射を行うことで、「負イオン照射なし」の条件よりも、吸収係数が低下、すなわち透明度が増加していることが確認できる。
図7(b)より、「アニール処理あり」の場合、負イオン照射を行うことで、「負イオン照射なし」の条件よりも、吸収係数が低下、すなわち透明度が増加していることが確認できる。
図8は、非晶質のITO膜に対する負イオン照射時のバイアス電圧を変更した場合の、各波長と透過率との関係を示すグラフである。図8(a)は成膜時の酸素ガスの流量比を0.13とした場合のグラフである。図8(b)は成膜時の酸素ガスの流量比を0.24とした場合のグラフである。図8(a),(b)では、負イオン照射なし、バイアス電圧45Vでの負イオン照射、バイアス電圧100Vでの負イオン照射、及びバイアス電圧150Vでの負イオン照射の四つのパターンについて、アニール処理ありの場合と、アニール処理なしの場合のグラフが示されている。
図8(a),(b)より、ITO膜によって差異は生じるものの、負イオン照射の有無、及び負イオン照射のバイアス電圧によって、各波長での吸収係数が変化する点が確認できる。従って、制御部50は、ITO膜を所望の光学特性とするために、負イオン照射の有無、及びバイアス電圧を制御することが可能である。アニール処理を行った場合、総じて透過率が増加することが確認できる。
図8(a)より、「アニール処理なし」であって、「バイアス電圧45V」での負イオン照射の条件では、「負イオン照射なし」の条件に比べて、透過率が増加することが確認できる。
図8(b)より、「アニール処理あり」の場合、「バイアス電圧45V」及び「バイアス電圧100V」での負イオン照射の条件では、「負イオン照射なし」の条件よりも、透過率が増加することが確認できる。
図7及び図8の結果から理解されるように、制御部50は、非晶質のITO膜の成膜時の条件(酸素ガスの流量比)、及び負イオン照射の有無、及び負イオンのバイアス電圧などを制御することによって、ITO膜の光学特性を制御することができる。特に、制御部50は、バイアス電圧を45V付近に設定することで、透過率が増加するように制御することができる。バイアス電圧が高すぎると、条件によっては透過率が「負イオン照射なし」の場合よりも透過率が低下することもある。また、バイアス電圧が高すぎるとITO膜にダメージが与えられる可能性もある。従って、制御部50は、バイアス電圧を70V以下として負イオン照射を行うように制御することが好ましい。
図9及び図10を参照して、多結晶のITO膜に酸素負イオンを照射したときの効果について説明する。図9は、酸素ガスの流量比を0.16として多結晶のITO膜の成膜を行った場合の、バイアス電圧とITO膜の各種電気特性との関係を示すグラフである。図9の横軸はバイアス電圧を示す。なお、バイアス電圧0Vの場合は、負イオンの照射がなされていないことを示す。また、バイアス電圧が増加するに従って、ITO膜に照射される負イオンは増加する。最上段のグラフの縦軸はITO膜の抵抗率を示す。中段のグラフの縦軸はITO膜のキャリア密度を示す。最下段のグラフの縦軸はITO膜の移動度を示す。また、実線は、負イオン照射後のアニール処理がなされていない状態のデータを示す。破線は、負イオン照射後にアニール処理を行った後のデータを示す。なお、多結晶のITO膜を成膜する時は、シースヒーターによる加熱という方法にて基板11を200℃にした上で成膜を行った。
図9に示すように、アニール処理の前後の両方において、負イオン照射を行うことで、移動度を高くすることができることが確認される。抵抗率及びキャリア密度はアニール処理の前後でほぼ変化がない。これに対し、アニール処理後は、移動度を更に高くできることが確認される。このように、アニール処理を行うことで、各バイアス電圧において、キャリア密度及び抵抗率にほとんど変化を与えることなく、移動度だけを高くできることが理解される。なお、負イオン照射を行った場合、負イオン照射なしの場合よりもキャリア密度が低下することが確認される。
図10は、多結晶のITO膜に対する負イオン照射時のバイアス電圧を変更した場合の、各波長と吸収係数との関係を示すグラフである。図10(a)は成膜時の酸素ガスの流量比を0.16とした場合であってアニール処理を行わない場合のグラフである。図10(b)は成膜時の酸素ガスの流量比を0.16とした場合であってアニール処理を行う場合のグラフである。図10(a),(b)では、負イオン照射なし、バイアス電圧45Vでの負イオン照射、バイアス電圧100Vでの負イオン照射、及びバイアス電圧150Vでの負イオン照射の四つのパターンのグラフが示されている。
図10(a),(b)より、負イオン照射の有無、及び負イオン照射のバイアス電圧によって、各周波数での吸収係数が変化する点が確認できる。図9の結果より、負イオンを照射することで移動度が増加することが確認できるが、図10(a),(b)より、負イオン照射を行う事により、吸収係数が増加すること、すなわち透明度が低下することが確認できる。図9の結果より、負イオン照射によってキャリア密度も低下するため、赤外透過率にも変動があると考えられる。負イオン照射により、移動度が増加し、キャリア密度が低下する関係で、抵抗率がほとんど変わらない(図9参照)。従って、負イオン照射の有無、及びバイアス電圧を調整することで、抵抗率を変化させることなく、光学特性のみを変化させることが可能であることが理解できる。
図9及び図10の結果から理解できるように、制御部50は、負イオン照射を行うように制御することで、多結晶のITO膜の移動度を増加することができる。アニール処理を行うことでも移動度を高めることができるが、制御部50は、負イオン照射を行うように制御することによって、更に移動度を高めることができる。制御部50は、多結晶のITO膜の成膜時の条件(酸素ガスの流量比)、及び負イオン照射の有無、及び負イオンのバイアス電圧などを制御することによって、ITO膜の光学特性を制御することができる。特に、制御部50は、負イオン照射の有無、及び負イオンのバイアス電圧を制御することで、抵抗率を変えることなく、光学特性のみを制御することができる。
次に、図11及び図12を参照して、酸素負イオン生成条件について説明する。図11(a)は、酸素ガスの流量比と、負イオンの量及びポテンシャル低下時間との関係を示すグラフである。図11(b)は、プラズマ停止のタイミングと、各イオンの被照射物への飛来状況を示すグラフである。
ここでは、アルゴンガスと酸素ガスの総流量を180sccmで固定しているが、図11(a)に示すように、酸素ガスの流量比が変わることにより、酸素負イオンの量が変動することが確認される。酸素負イオンを生成する際、真空チャンバー10に供給するアルゴンガスと酸素ガスの総流量に対して、酸素ガスの流量比が高いほど、酸素負イオンの量を増やすことができる。ここで、図11(b)において「ON」「OFF」と示されている部分は、プラズマのON/OFF状況を示している。図11(b)に示すように、プラズマをOFFとして若干の待ち時間の後、酸素負イオンの量が立ち上がり、照射される。これに対し、図11(a)に示すように、酸素ガスの流量比が高いほど、プラズマをOFFとした後、負イオンを照射できるまでの待ち時間(t0)が短くなる。このことより、制御部50は、酸素ガスの流量比を高くなるように制御することで、照射効率良く負イオンを照射できる。なお、プラズマガン7のアルゴンガスの流量は40sccmで固定されるため(すなわち総流量180sccmのうち、40sccmはアルゴンガスで固定される)、装置によっては流量比に上限が存在する。
図12は、成膜装置に対する投入電力と、負イオンの量及びポテンシャル低下時間との関係を示すグラフである。このときの酸素ガスの流量比は、0.67である。酸素負イオンを生成する際、酸素負イオン生成のための投入電力として、最適値が存在しており、投入電力は1000~2500W付近、特に1000~2000W付近が好ましい。イオンプレーティング式の装置では、「(電力)=(陽極とG2電圧の差) × (陽極電流))と定義でき、真空チャンバー10内に入っている投入電力を考える。t0は負イオンが壁や被照射物にあたり始める時間であり、正イオンと負イオンと電子がバランスするところである。t0が小さくても電子が多いこともあり得る。図12を参照するに、負イオンの量を多くすることができ、且つt0をある程度短くできる範囲として、陽極電流は例えば20~50A(1000~2500W)の範囲、または20~35A(1000~2000W)の範囲が良いと考えられる。負イオン生成量と電子の影響が少ない効率的な負イオン照射を行うことを考えると、20~30A(1000~1500W)あたりの範囲がより好ましいと考えられる。なお、「G2電圧」とは、図1,2に示す第2の中間電極62の電圧であり、「中間電極62に流れる電流×R2」で決定され、真空チャンバー10内の電位分布に対応する。
次に、本実施形態に係る成膜装置1、及び膜構造体100の製造装置の作用・効果について説明する。
ここで、発明者らは、鋭意研究の結果、プラズマガン7を用いて真空チャンバー10内でプラズマPを生成して非晶質のITO膜の成膜を行う場合、成膜時における、キャリアガスの流量及び酸素ガスの流量の合計に対する酸素ガスの流量比を調整することによって、高い移動度のITO膜を得られることを見出すに至った。そして、発明者らは、更なる研究の結果、移動度を高められる流量比を見出すに至った。
そこで、本実施形態に係る成膜装置1は、プラズマガン7を用いて基板11上に非晶質のITO膜の成膜を行う成膜装置1であって、内部で成膜が行われる真空チャンバー10と、キャリアガスを真空チャンバー10内へ供給するキャリアガス供給部40Aと、酸素ガスを真空チャンバー10内へ供給する酸素ガス供給部40Bと、成膜装置1の制御を行う制御部50と、を備え、制御部50は、成膜時における、キャリアガスの流量及び酸素ガスの流量の合計に対する酸素ガスの流量比が0.15以上となるように、キャリアガス供給部40A及び酸素ガス供給部40Bを制御する。
本実施形態に係る成膜装置1では、制御部50は、成膜時における、キャリアガスの流量及び酸素ガスの流量の合計に対する酸素ガスの流量比が0.15以上となるように、キャリアガス供給部40A及び酸素ガス供給部40Bを制御する。このように、制御部50が酸素ガスの流量比を適切な範囲となるようにキャリアガス供給部40A及び酸素ガス供給部40Bを制御することにより、基板11上に成膜されるITO膜の移動度を高めることができる。これにより、移動度の高いITO膜を得ることができる。
また、発明者らは、鋭意研究の結果、基板11上に成膜されたITO膜に対して酸素負イオンを照射することにより、高い移動度のITO膜を得られることを見出すに至った。
そこで、本実施形態に係る膜構造体100の製造装置200は、ITO膜を有する膜構造体の製造装置200であって、基板11上にITO膜を成膜する成膜部201と、ITO膜へ酸素負イオンを照射する負イオン照射部202と、を備える。
本実施形態に係る膜構造体100の製造装置200は、基板11上にITO膜を成膜したら、当該ITO膜へ酸素負イオンを照射する負イオン照射部202、を備えている。このように、ITO膜へ酸素負イオンを照射することで、移動度の高いITO膜を得ることができる。
ITO膜は非晶質の膜であってよい。非晶質のITO膜に酸素負イオンを照射した場合、後にアニール処理を行ったときに、酸素負イオンを照射しないITO膜に比して、移動度の低下を小さく抑えることができる。これにより、高い移動度のITO膜を得ることができる。
ITO膜は多結晶の膜であってよい。多結晶のITO膜に酸素負イオンを照射した場合、酸素負イオンを照射しないITO膜に比して、移動度が高くなったITO膜を得ることができる。
膜構造体100の製造装置200は、酸素負イオンを照射した後の基板11をアニール処理するアニール処理部203を更に備えてよい。非晶質のITO膜においては、基板11をアニール処理した場合に、移動度の低下を小さく抑えることができるため、非晶質のITO膜に酸素負イオンを照射することの効果が顕著となる。多結晶のITO膜においては、基板11をアニール処理することで、更に移動度を高めることができる。
以上、本実施形態の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
上記実施形態では、イオンプレーティング型の成膜装置が、負イオン生成装置を兼ね備えた構成であった。これに代えて、成膜装置と負イオン照射を行うための装置が別装置として構成されていてもよい。負イオン照射装置では、プラズマPは、主ハースに導かれなくともよく、例えばプラズマガンと対向する壁部の電極などに導かれてよい。
例えば、上記実施形態では、プラズマガン7を圧力勾配型のプラズマガンとしたが、プラズマガン7は、真空チャンバー10内にプラズマを生成できればよく、圧力勾配型のものには限られない。
また、上記実施形態では、プラズマガン7とハース機構2の組が真空チャンバー10内に一組だけ設けられていたが、複数組設けてもよい。また、一の材料に対して複数のプラズマガン7からプラズマPを供給してもよい。上記実施形態では、輪ハース6が設けられていたが、プラズマガン7の向きとハース機構2における材料の位置や向きを工夫することで、輪ハース6を省略してもよい。
上記実施形態では、酸化インジウム膜としてITO膜を例示したが、他の酸化インジウムの膜であってもよい。