以下、添付図面を参照しながら本発明の一実施形態に係る成膜装置について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
まず、図1を参照して、本発明の実施形態に係る成膜・イオン照射システムの構成について説明する。図1は、成膜・イオン照射システムの構成を示す概略平面図である。成膜・イオン照射システム100は、第1の中継装置101と、成膜ライン102と、第2の中継装置103と、イオン照射ライン104と、を備えている。第1の中継装置101は、前処理がなされた成膜対象物を成膜対象物保持部材にセットし、且つ、イオン照射ライン104を通過してきた成膜対象物からマスクを取り外し、成膜対象物保持部材から取り出す機能を有する。第2の中継装置103は、成膜ライン102を通過してきた成膜対象物にマスクを搭載する機能を有する。
成膜ライン102は、成膜対象物に対して成膜材料を付着させることで成膜を行うためのラインである。成膜ライン102は、成膜装置110を備えている。また、成膜ライン102は、成膜装置110の上流側及び下流側に複数のチャンバー111を備える。これらのチャンバー111は、ロードロックチャンバー、バッファーチャンバー、アンロードロックチャンバーなどのチャンバーである。なお、成膜装置110は、プラズマガンのプラズマによって飛散させた成膜材料を成膜対象物に付着させて成膜材料の膜を形成する装置である。成膜装置110の構成についての詳細な説明は、後述する。
イオン照射ライン104は、成膜対象物に形成された成膜材料の膜に負イオンを照射するためのラインである。イオン照射ライン104は、イオン照射装置120を備えている。また、イオン照射ライン104は、イオン照射装置120の上流側及び下流側に複数のチャンバー121を備える。これらのチャンバー121は、ロードロックチャンバー、バッファーチャンバー、アンロードロックチャンバーなどのチャンバーである。なお、イオン照射装置120は、成膜材料の膜にプラズマガンのプラズマによって生成した負イオンを照射する装置である。イオン照射装置120の構成についての詳細な説明は、後述する。
次に、図2を参照して、成膜装置110の構成について詳細に説明する。図2は、成膜装置110の構成を示す概略断面図である。図2に示すように、成膜装置110は、いわゆるイオンプレーティング法に用いられるイオンプレーティング装置である。なお、説明の便宜上、図2には、XYZ座標系を示す。Y軸方向は、後述する成膜対象物が搬送される方向である。X軸方向は、成膜対象物と後述するハース機構とが対向する位置である。Z軸方向は、Y軸方向とX軸方向とに直交する方向である。
成膜装置110は、成膜対象物11の板厚方向がX軸方向となるように、成膜対象物11を配置させた状態で、成膜対象物11が真空チャンバー10内に配置されて搬送される横型の成膜装置である。この場合には、X軸方向は鉛直方向且つ成膜対象物11の板厚方向であり、Y軸方向は水平方向であり、Z軸方向は水平方向となる。なお、本発明の一実施形態に係る成膜装置は、成膜対象物の板厚方向が略水平方向となるように成膜対象物が真空チャンバー内に配置されて搬送されるいわゆる縦型の成膜装置であってもよい。この場合には、X軸及びY軸方向は水平方向であり、Z軸方向は鉛直方向となる。以下、横型の成膜装置を例として説明する。
成膜装置110は、真空チャンバー10、搬送機構3、成膜部14を備えている。
真空チャンバー10は、成膜対象物11を収納し成膜処理を行う。真空チャンバー10は、成膜材料Maの膜が形成される成膜対象物11を搬送するための搬送室10aと、成膜材料Maを拡散させる成膜室10bと、プラズマガン7からビーム状に照射されるプラズマPを真空チャンバー10に受け入れるプラズマ口10cとを有している。搬送室10a、成膜室10b、及びプラズマ口10cは互いに連通している。搬送室10aは、所定の搬送方向(図中の矢印A)に(Y軸に)沿って設定されている。また、真空チャンバー10は、導電性の材料からなり接地電位に接続されている。
成膜室10bは、壁部10Wとして、搬送方向(矢印A)に沿った一対の側壁と、搬送方向(矢印A)と交差する方向(Z軸方向)に沿った一対の側壁10h,10iと、X軸方向と交差して配置された底面壁10jと、を有する。
搬送機構3は、成膜材料Maと対向した状態で成膜対象物11を保持する成膜対象物保持部材16を搬送方向(矢印A)に搬送する。例えば成膜対象物保持部材16は、成膜対象物11の外周縁を保持するトレイである。搬送機構3は、搬送室10a内に設置された複数の搬送ローラ15によって構成されている。搬送ローラ15は、搬送方向(矢印A)に沿って等間隔に配置され、成膜対象物保持部材16を支持しつつ搬送方向(矢印A)に搬送する。なお、成膜対象物11は、例えばガラス基板やプラスチック基板などの板状部材が用いられる。
続いて、成膜部14の構成について詳細に説明する。成膜部14は、イオンプレーティング法により成膜材料Maの粒子を成膜対象物11に付着させる。成膜部14は、プラズマガン(第1のプラズマガン)7と、ステアリングコイル5と、ハース機構2と、輪ハース6と、制御部50と、回路部34と、を有している。
プラズマガン7は、例えば圧力勾配型のプラズマガンである。プラズマガン7は、アーク放電によってプラズマを生成する。プラズマガン7の本体部分は、成膜室10bの側壁に設けられたプラズマ口10cを介して成膜室10bに接続されている。プラズマガン7は、真空チャンバー10内でプラズマPを生成する。プラズマガン7において生成されたプラズマPは、プラズマ口10cから成膜室10b内へビーム状に出射される。これにより、成膜室10b内にプラズマPが生成される。
プラズマガン7は、陰極60により一端が閉塞されている。陰極60とプラズマ口10cとの間には、第1の中間電極(グリッド)61と、第2の中間電極(グリッド)62とが同心的に配置されている。第1の中間電極61内にはプラズマPを収束するための環状永久磁石61aが内蔵されている。第2の中間電極62内にもプラズマPを収束するため電磁石コイル62aが内蔵されている。
ステアリングコイル5は、プラズマガン7が装着されたプラズマ口10cの周囲に設けられている。ステアリングコイル5は、プラズマPを成膜室10b内に導く。ステアリングコイル5は、ステアリングコイル用の電源(不図示)により励磁される。
ハース機構2は、成膜材料Maを保持する。ハース機構2は、真空チャンバー10の成膜室10b内に設けられ、搬送機構3から見てX軸方向の負方向に配置されている。ハース機構2は、プラズマガン7から出射されたプラズマPを成膜材料Maに導く主陽極又はプラズマガン7から出射されたプラズマPが導かれる主陽極である主ハース17を有している。
主ハース17は、成膜材料Maが充填されたX軸方向の正方向に延びた筒状の充填部17aと、充填部17aから突出したフランジ部17bとを有している。主ハース17は、真空チャンバー10が有する接地電位に対して正電位に保たれている。また、プラズマPは負電位である。従って、主ハース17は、プラズマPを吸引する。このプラズマPが入射する主ハース17の充填部17aには、成膜材料Maを充填するための貫通孔17cが形成されている。そして、成膜材料Maの先端部分が、この貫通孔17cの一端において成膜室10bに露出している。
成膜材料Maには、導電材料や、絶縁材料が例示される。成膜材料Maが絶縁性物質からなる場合、主ハース17にプラズマPが照射されると、プラズマPからの電流によって主ハース17が加熱され、成膜材料Maの先端部分が蒸発又は昇華し、プラズマPによりイオン化された成膜材料粒子(蒸発粒子)Mbが成膜室10b内に拡散する。また、成膜材料Maが導電性物質からなる場合、主ハース17にプラズマPが照射されると、プラズマPが成膜材料Maに直接入射し、成膜材料Maの先端部分が加熱されて蒸発又は昇華し、プラズマPによりイオン化された成膜材料粒子Mbが成膜室10b内に拡散する。成膜室10b内に拡散した成膜材料粒子Mbは、成膜室10bのX軸正方向へ移動し、搬送室10a内において成膜対象物11の表面に付着する。なお、成膜材料Maは、所定長さの円柱形状に成形された固体物であり、一度に複数の成膜材料Maがハース機構2に充填される。そして、最先端側の成膜材料Maの先端部分が主ハース17の上端との所定の位置関係を保つように、成膜材料Maの消費に応じて、成膜材料Maがハース機構2のX負方向側から順次押し出される。成膜材料Maは、用途に応じて適宜変更してよいが、例えば、ITO、ZnO、IWO、In2O3、Cuなどの導電材料や、SiON、Nb2O5、SiO2などの絶縁材料が例示される。
輪ハース6は、プラズマPを誘導するための電磁石を有する補助陽極である。輪ハース6は、成膜材料Maを保持する主ハース17の充填部17aの周囲に配置されている。輪ハース6は、環状のコイル9と環状の永久磁石部20と環状の容器12とを有し、コイル9及び永久磁石部20は容器12に収容されている。本実施形態では、搬送機構3から見てX負方向にコイル9、永久磁石部20の順に設置されているが、X負方向に永久磁石部20、コイル9の順に設置されていてもよい。輪ハース6は、コイル9に流れる電流の大きさに応じて、成膜材料Maに入射するプラズマPの向き、または、主ハース17に入射するプラズマPの向きを制御する。
制御部50は、真空チャンバー10の外部に配置されている。制御部50は、回路部34が有する切替部を切り替える切替制御部として機能する。この制御部50による切替部の切り替えについては、以下、回路部34の説明と併せて詳述する。
回路部34は、可変電源80と、第1の配線71と、第2の配線72と、抵抗器R1~R4と、短絡スイッチSW1,SW2と、を有している。
可変電源80は、接地電位にある真空チャンバー10を挟んで、負電圧をプラズマガン7の陰極60に、正電圧をハース機構2の主ハース17に印加する。これにより、可変電源80は、プラズマガン7の陰極60とハース機構2の主ハース17との間に電位差を発生させる。
第1の配線71は、プラズマガン7の陰極60を、可変電源80の負電位側と電気的に接続している。第2の配線72は、ハース機構2の主ハース17(陽極)を、可変電源80の正電位側と電気的に接続している。
抵抗器R1は、一端がプラズマガン7の第1の中間電極61と電気的に接続されていると共に、他端が第2の配線72を介して可変電源80と電気的に接続されている。すなわち、抵抗器R1は、第1の中間電極61と可変電源80との間において直列接続されている。
抵抗器R2は、一端がプラズマガン7の第2の中間電極62と電気的に接続されていると共に、他端が第2の配線72を介して可変電源80と電気的に接続されている。すなわち、抵抗器R2は、第2の中間電極62と可変電源80との間において直列接続されている。
抵抗器R3は、一端が成膜室10bの壁部10Wと電気的に接続されていると共に、他端が第2の配線72を介して可変電源80と電気的に接続されている。すなわち、抵抗器R3は、成膜室10bの壁部10Wと可変電源80との間において直列接続されている。
抵抗器R4は、一端が輪ハース6と電気的に接続されていると共に、他端が第2の配線72を介して可変電源80と電気的に接続されている。すなわち、抵抗器R4は、輪ハース6と可変電源80との間において直列接続されている。
短絡スイッチSW1,SW2は、それぞれ前述の制御部50からの指令信号を受信することにより、ON/OFF状態に切り替えられる切替部である。
短絡スイッチSW1は、抵抗器R2に並列接続されている。短絡スイッチSW1は、短絡スイッチSW1は、プラズマPを生成して成膜材料Maへ照射するときはOFF状態とされる。これにより、成膜処理モードにおいては、第2の中間電極62と可変電源80とが抵抗器R2を介して互いに電気的に接続されるので、第2の中間電極62と可変電源80との間には電流が流れにくい。その結果、プラズマガン7からのプラズマPが真空チャンバー10内に出射され、成膜材料Maに入射する(図2参照)。制御部50は、プラズマガン7からのプラズマPを真空チャンバー10内に出射することを中断する際に、短絡スイッチSW1をONとする。なお、成膜装置110では、短絡スイッチSW1は省略されてよい。また、プラズマガン7からのプラズマPを真空チャンバー10内に出射する場合、第2の中間電極62への電流を流れにくくする事に代えて、第1の中間電極61への電流を流れにくくしてもよい。この場合、短絡スイッチSW1は、第2の中間電極62側に代えて、第1の中間電極61側に接続される。
短絡スイッチSW2は、抵抗器R4に並列接続されている。短絡スイッチSW2は、例えば成膜処理モードになる前の成膜対象物11の搬送前の状態であるスタンバイモードであるか成膜処理モードであるかに応じて、制御部50によってON/OFF状態が切り替えられる。短絡スイッチSW2は、スタンバイモードではON状態とされる。これにより、輪ハース6と可変電源80との間の電気的な接続が短絡するので、主ハース17よりも輪ハース6に電流を流しやすくなり、成膜材料Maの無駄な消費を防ぐことができる。
一方、短絡スイッチSW2は、成膜処理モードではOFF状態とされる。これにより、輪ハース6と可変電源80が抵抗器R4を介して電気的に接続されるので、輪ハース6よりも主ハース17に電流を流しやすくなり、プラズマPの出射方向を好適に成膜材料Maに向けることができる。
次に、図3を参照して、イオン照射装置120の構成について詳細に説明する。図3は、イオン照射装置120の構成を示す概略断面図である。なお、説明の便宜上、図3には、図2と同趣旨のXYZ座標系を示す。イオン照射装置120は、成膜装置110と同様に、成膜対象物11の板厚方向がX軸方向となるように、成膜対象物11を配置させた状態で、成膜対象物11が真空チャンバー10内に配置されて搬送される。
イオン照射装置120は、成膜対象物11の板厚方向が鉛直方向となるように、成膜対象物11を配置させた状態で搬送されるものとする。ただし、成膜対象物11の板厚方向が水平方向となるように、成膜対象物11が搬送されてもよい。
イオン照射装置120は、真空チャンバー10、搬送機構3、負イオン照射部24、及び磁場発生コイル30を備えている。
イオン照射装置120の真空チャンバー10は、成膜装置110の真空チャンバー10と同趣旨の構成を有するため、説明を省略する。イオン照射装置120の搬送機構3は、成膜装置110の搬送機構3と同趣旨の構成を有するため、説明を省略する。なお、イオン照射装置120の搬送機構3で搬送される成膜対象物11には、成膜装置110で成膜された成膜材料Maの膜18が形成されている。また、第2の中継装置103にて、成膜対象物11に対してマスク19がセットされ(図3参照)、成膜対象物11は、当該状態にてイオン照射ライン104へ搬送される。従って、イオン照射装置120の成膜対象物保持部材16には、成膜対象物11との間にマスク19が配置されている。マスク19は、負イオンによって成膜対象物11の膜18に対してパターニングを行うための部材である。マスク19には、負イオンを照射する膜18の形状、位置、大きさに対応して貫通部が形成される。
続いて、負イオン照射部24の構成について詳細に説明する。負イオン照射部24は、プラズマガン(第2のプラズマガン)107と、電極82と、原料ガス供給部40と、制御部150と、回路部144と、を有している。負イオン照射部24は、負イオンを生成する。また、負イオン照射部24は、生成した負イオンMIを成膜対象物11の膜18に照射する(図5(b)参照)。負イオンとして、酸素の負イオンが挙げられる。その他、負イオンとして、窒化物の負イオン、炭化物の負イオン、炭素の負イオン等が挙げられる。
プラズマガン107は、前述の成膜装置110が有するプラズマガン7と同様のものが用いられる。負イオン照射部24のプラズマガン107は、成膜室10b内において間欠的にプラズマPを生成する。具体的には、プラズマガン107は、後述の制御部150によって成膜室10b内において間欠的にプラズマPを生成するように制御されている。この制御については、後述の制御部150の説明において詳述する。
電極82は、プラズマガン107と対向する位置に設けられている。すなわち、電極82は、真空チャンバー10の側壁10i側の位置であり、且つ、プラズマ口10cと対向する位置に設けられている。これにより、プラズマガン107は、電極82に向けてプラズマを出射する。電極82は、可変電源80の正側に接続されている。
原料ガス供給部40は、真空チャンバー10の外部に配置されている。原料ガス供給部40は、成膜室10bの側壁(例えば、側壁10h)に設けられた原料ガス供給口41を通し、真空チャンバー10内へ負イオンの原料ガスを供給する。原料ガスは、生成する負イオンに対応するものが適用されるが、酸素の負イオンを生成する場合は酸素ガスが適用される。その他、窒化物の負イオンを生成する場合には、NH3ガス、NH2ガス等が、炭化物又は炭素の負イオンを生成する場合には、C2H2ガス、C2H4ガス、C3H6ガス、CH4ガス等が用いられる。なお、原料ガス供給口41の位置は特に限定されない。図3では、原料ガス供給口41は、プラズマガン107よりも底面壁10j側に設けられている。
制御部150は、真空チャンバー10の外部に配置されている。制御部150は、回路部34が有する切替部を切り替える切替制御部として機能する。この制御部150による切替部の切り替えについては、以下、回路部144の説明と併せて詳述する。また、制御部150は、原料ガス供給部40を制御する原料ガス供給制御部として機能する。また、制御部150は、磁場発生コイル30による磁場の発生を制御するコイル制御部として機能する。なお、制御部150は、成膜装置110の制御部50が兼用されてもよい。
回路部144は、可変電源80と、第1の配線71と、第2の配線72と、抵抗器R1~R3と、短絡スイッチSW1と、を有している。回路部144は、主ハース17及び輪ハース6に対して設けられる配線、抵抗器R4、及び短絡スイッチSW2が省略されている点以外、成膜装置110の回路部34と同趣旨の構造を有する。
負イオン照射部24では、短絡スイッチSW1は、プラズマガン107からのプラズマPを真空チャンバー10内で間欠的に生成するため、制御部150によってON/OFF状態が所定間隔で切り替えられる。短絡スイッチSW1がON状態に切り替えられると、第2の中間電極62と可変電源80との間の電気的な接続が短絡するので、第2の中間電極62と可変電源80との間に電流が流れる。すなわち、プラズマガン107に短絡電流が流れる。その結果、プラズマガン107からのプラズマPが真空チャンバー10内に出射されなくなる。
短絡スイッチSW1がOFF状態に切り替えられると、第2の中間電極62と可変電源80とが抵抗器R2を介して互いに電気的に接続されるので、第2の中間電極62と可変電源80との間には電流が流れにくい。その結果、プラズマガン107からのプラズマPが真空チャンバー10内に出射される。そして、電極82は可変電源80の正側に接続されているため、正電位となる。また、プラズマPは負電位である。従って、プラズマPが電極82に導かれる。このように、短絡スイッチSW1のON/OFF状態が制御部150によって所定間隔で切り替えられることにより、プラズマガン107からのプラズマPが真空チャンバー10内において間欠的に生成される。すなわち、短絡スイッチSW1は、真空チャンバー10内へのプラズマPの供給と遮断とを切り替える切替部である。
なお、本実施形態では、プラズマガン107と電極82とが対向する方向は、成膜対象物11の搬送方向Aと同じ方向となっている。従って、プラズマPの照射方向は、成膜対象物11の搬送方向Aと略平行となる。ただし、プラズマPの照射方向は特に限定されず、例えば、プラズマPの照射方向が搬送方向Aと略垂直、または交差してもよい。また、プラズマガン107の本数も特に限定されず、一つのイオン照射装置120が複数本のプラズマガン107を有していてもよい。その場合、全てのプラズマガン107が同じ方向にプラズマを出射しなくともよく、一のプラズマガン107と他のプラズマガン107が側壁10hと側壁10iとの間で互い違いになるように配置されてよい。
磁場発生コイル30は、真空チャンバー10内であって、成膜室10bと搬送室10aとの間に設けられている。磁場発生コイル30は、例えばプラズマガン107と搬送機構3との間に配置されている。より具体的には、磁場発生コイル30は、成膜室10bの搬送室10a側の端部と、搬送室10aの成膜室10b側の端部とに介在するように位置している。磁場発生コイル30は、互いに対向する一対のコイル30a,30bを有している。各コイル30a,30bは、例えば成膜室10bから搬送室10aへ向かう方向(ハース機構2から搬送機構3へ向かう方向)に交差する方向で互いに対向している。
磁場発生コイル30は、負イオン照射モードにおいて磁場発生コイル30用の電源(不図示)により励磁される。磁場発生コイル30は、負イオン照射モードにおいて励磁されることにより、成膜室10bから搬送室10aへ向かう方向(ハース機構2から搬送機構3へ向かう方向)と交差する方向に伸びる磁力線を有する封止磁場Mを真空チャンバー10内に形成する(図3参照)。磁場発生コイル30は、このような封止磁場Mを発生させることにより、成膜室10b内の電子及び低電子温度のイオンが搬送室10a内へ流入するのを抑制する。封止磁場Mが有する磁力線は、例えば成膜対象物11の搬送方向(矢印A)に略平行な方向に伸びる部分を有していてもよい。なお、磁場発生コイル30用の電源のON/OFF状態の切り替えは、制御部150によって制御されてよい。
次に、図4を参照して、成膜・イオン照射システム100における処理方法について詳細に説明する。図4は、本実施形態に係る成膜・イオン照射方法を示すフローチャートである。また、ここでは、図5に示すような成膜対象物11に対して成膜、及びイオン照射を行う場合を例にして説明を行う。図5では、成膜・イオン照射システム100による製造の対象物として、バックコンタクト型太陽電池が例示されている。図4に示すフローチャートが実行される前段階において、図5に示す成膜対象物11が準備される。なお、成膜・イオン照射システム100による製造の対象物は、太陽電池に限定されない(他の例の詳細については、図6などを参照して後述する)。
図5に示すように、成膜対象物11は、n型単結晶シリコン基板である半導体基板131を有する。半導体基板131の第1の面131a(受光面)には、凹凸形状が形成されている。また、第1の面131aには、誘電体膜136が設けられている。半導体基板131の第1の面131aと反対側の第2の面131b(裏面)には、第2の面131bに接するように、第1のi型非晶質半導体膜132、及び第2のi型非晶質半導体膜134とが設けられている。なお、半導体基板131としてn型のものを例示しているが、p型のものを用いてもよい。
第1のi型非晶質半導体膜132上には、第1のi型非晶質半導体膜132に接するp型非晶質シリコン膜である第1導電型非晶質半導体膜133が設けられている。また、第2のi型非晶質半導体膜134上には、第2のi型非晶質半導体膜134に接するn型非晶質シリコン膜である第2導電型非晶質半導体膜135が設けられている。
第2のi型非晶質半導体膜134と第2導電型非晶質半導体膜135とによって、積層体138が構成される。また、第1のi型非晶質半導体膜132と第1導電型非晶質半導体膜133とによって積層体137が構成される。積層体138の端部は、積層体137の端部を覆っている。そのため、第1導電型非晶質半導体膜133と第2導電型非晶質半導体膜135との間には第2のi型非晶質半導体膜134の端部が位置している。第2のi型非晶質半導体膜134の端部は、第1導電型非晶質半導体膜133および第2導電型非晶質半導体膜135の両方と接している。これにより、第1導電型非晶質半導体膜133と第2導電型非晶質半導体膜135とは第2のi型非晶質半導体膜134によって分離されている。
本実施形態では、このような成膜対象物11に対して、積層体137,138全体を覆う膜18として、TCOの透明導電膜130が成膜される。この透明導電膜130は、後述の成膜工程において、成膜装置110にて形成される。また、透明導電膜130のうち、積層体137と積層体138とが重なる部分に負イオンMIが照射されることにより、高抵抗139のパターニング部21が形成される。このパターニング部21は、後述のイオン照射工程において、イオン照射装置120にて形成される。
次に、成膜・イオン照射の処理手順について、図4を参照して説明する。図4に示すように、まず、前述の成膜対象物11は、成膜・イオン照射システム100の成膜装置110内に搬送される。そして、成膜装置110にて、成膜対象物11に成膜材料Maの膜18、すなわち透明導電膜130(図5(b)参照)を形成する(S1:成膜工程)。このとき、成膜装置110の制御部50によって短絡スイッチSW1がOFF状態とされている。また、ステアリングコイル5が励磁されている。これにより、プラズマガン7によって成膜室10b内でプラズマPが生成され、当該プラズマPが主ハース17に照射される(図2参照)。その結果、主ハース17における成膜材料MaがプラズマPによりイオン化されて成膜材料粒子Mbとなり、成膜室10b内に拡散し、搬送室10a内の成膜対象物11の表面に付着する。このようにして、成膜対象物11に成膜材料Maの膜18が形成され、成膜工程S1が終了する。
続いて、成膜対象物11は、成膜装置110からイオン照射装置120へ搬送される。なお、このとき、第2の中継装置103にて、成膜対象物11に対してマスク19がセットされる(図3参照)。イオン照射装置120では、成膜工程S1で形成された膜18に、プラズマを用いて生成した負イオンを照射する(S2:イオン照射工程)。以下、イオン照射工程S2について具体的に説明する。まず、原料ガス供給部40によって、成膜室10b内に原料ガスが供給される(S21:原料ガス供給工程)。
続いて、イオン照射装置120の制御部150によって、プラズマガン107からのプラズマPを成膜室10b内で間欠的に生成するようにプラズマガン107が制御される(S22:プラズマ生成工程)。例えば、制御部150によって、短絡スイッチSW1のON/OFF状態が所定間隔で切り替えられることにより、プラズマガン107からのプラズマPが成膜室10b内で間欠的に生成される。
短絡スイッチSW1がON状態とされているときは、プラズマガン107からのプラズマPが成膜室10b内に出射されないので成膜室10b内におけるプラズマPの電子温度が急激に低下する。このため、前述の原料ガス供給工程S21において成膜室10b内に供給された原料ガスの粒子に、プラズマPの電子が付着し易くなる。これにより、成膜室10b内には、負イオンが効率的に生成される。
続いて、制御部150によって、真空チャンバー10内に封止磁場Mが形成される(S23:封止磁場形成工程)。例えば、磁場発生コイル30が励磁されることにより、真空チャンバー10内で成膜室10bと搬送室10aとの間に介在するように封止磁場Mが形成される(図3参照)。封止磁場Mは、成膜室10bから搬送室10aへ向かう方向(ハース機構2から搬送機構3へ向かう方向)に交差する方向に伸びる磁力線を有している。なお、封止電場形成工程S23は省略されてもよい。この場合、プラズマPの生成を止めた後、所定時間(例えば2msec)経過した後に、成膜対象物11にバイアス電圧をかけて成膜対象物11に負イオンを照射する。このようにプラズマPを止めてから所定時間が経過することで電子の多くが消失するため、電子の流入を抑制しつつ負イオンを成膜対象物11に照射することが可能となる。
前述のプラズマ生成工程S22において生成された成膜室10b内におけるプラズマPの電子は、封止磁場形成工程S23において形成された封止磁場Mの磁力線に阻害され、搬送室10aへの流入が抑制される。これにより、成膜室10b内の原料ガスの粒子に、プラズマPの電子が付着し易くなり、より効率的に負イオンを生成することができる。
そして、プラズマ生成工程S22において生成された負イオンが成膜室10bのX軸正方向へ移動し、搬送室10a内において、成膜処理によって成膜対象物11に形成された膜18の表面に付着する。このとき、成膜対象物11の膜18のうち、マスク19で覆われた部分には負イオンMIは照射されず、マスク19の貫通部19aから露出した部分のみに負イオンMIが照射される(図5(b)参照)。なお、成膜対象物11に正のバイアス電圧をかけることによって、より積極的に負イオンを成膜対象物11に形成された膜の表面に付着させてもよい。以上のようにして、イオン照射工程S2が終了すると、図4に示す成膜方法が終了する。
次に、本実施形態に係る成膜・イオン照射システム100、及び成膜・イオン照射方法の作用・効果について説明する。
成膜・イオン照射システム100は、成膜装置110の下流側にイオン照射装置120を備えている。イオン照射装置120は、成膜材料の膜18にプラズマガン107のプラズマによって生成した負イオンを照射することで、成膜材料の膜18に対してパターニングを行う。イオン照射装置120は、プラズマガン107を用いるため、低エネルギーの負イオンを生成することができる。このような低エネルギーの負イオンを成膜材料の膜18に照射することで、パターニングの際の膜18に対するダメージを低減することができる。以上より、イオン照射後の膜の品質を向上できる。
例えば、陽イオンは数十kV程度のエネルギーを有するのに比して、実施形態に係るイオン照射装置120で生成される負イオンは数十V程度の低いエネルギーを有する。よって、低いエネルギーに係る負イオンを照射することで、陽イオンを照射する場合に比して、成膜対象物に対するダメージを低減できる。
また、本実施形態に係る成膜・イオン照射システム100において、イオン照射装置120は、成膜装置110と同様にプラズマガン107を用いて負イオンを生成している。このように、イオン照射装置120は、成膜装置110が成膜を行う手段と同様の手段で負イオンを生成できるため、イオン照射装置120の装置構成は、成膜装置110の装置構成と類似したものとすることができる。従って、イオン照射装置120の装置としての信頼性は、既存のイオンプレーティング法による成膜装置110と同程度のものとして取り扱うことができる。また、導入時においても、イオン照射装置120の導入に係る負荷を低減することができる。
また、太陽電池やタッチパネルのパターニング方法の比較例として、エッチング法(ドライ又はウェット)、スクライブ法などの方法が挙げられる。エッチング法はレジスト膜形成、エッチング工程、及びレジスト除去工程など、工程が多くコストがかかる。スクライブ法は、膜を削り取る事によってパターニングを行う方法であるため、膜に対してダメージが付与される。これらに対し、本実施形態のイオン照射装置120を用いることで、容易に、且つ少ないダメージでパターニングを行うことができる。
また、成膜・イオン照射システム100において、イオン照射装置120は、プラズマガン107と対向する位置に設けられた電極82を備え、プラズマガン107は、電極82に向けてプラズマを出射している。この場合、例えばイオンプレーティング法による成膜装置110のように、プラズマを曲げる必要が無い。従って、装置の構成をシンプルにすることができ、且つ、プラズマの分布を均一にし易くなる。
本実施形態に係る成膜・イオン照射方法は、プラズマガン7のプラズマによって飛散させた成膜材料を成膜対象物11に付着させて成膜材料の膜18を形成する成膜工程と、成膜工程の後、成膜工程で形成された成膜材料の膜18に、プラズマガン107のプラズマによって生成した負イオンを照射するイオン照射工程と、を備える。イオン照射工程では、負イオンを照射して成膜材料の膜18に対してパターニングを行う。
本実施形態に係る成膜・イオン照射方法によれば、上述の成膜・イオン照射システム100と同様の作用・効果を得ることができる。
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
例えば、成膜・イオン照射システム100によって製造される対象物は、上述の実施形態における図5に示すような太陽電池に限定されない。例えば、成膜・イオン照射システム100によって製造される対象物として、図6に示すようなタッチパネルが採用されてもよい。図6に示すタッチパネルでは、成膜対象物11としての基板上に、成膜材料の膜18として導電部140Aが形成され、且つ、パターニング部21として絶縁部140Bが形成されている。導電部140Aは、矩形状の部分が、所定間隔で配列されている。絶縁部140Bは、導電部140A以外の領域に形成されている。
更に、成膜・イオン照射システム100によって製造される対象物として、LED、FET、タッチパネルなどが採用されてもよい。これらの製造の対象物に応じて、成膜材料が適宜選択される。また、製造の対象物に応じて、照射される負イオンの種類やパターニングの位置、形状、大きさ等が選択される。